クモ「ちっ、ガかよ」ガ「ひいぃっ!!」(104)

クモ「おい、あんま暴れると喰うぞ。まぁ、どっちにしろ喰うんだが」

ガ「いやあああああああああ」

クモ「しっかし、うるせぇメスだな…」

ガ「たっ、たすっ、助けて!!誰かぁっ…!」

クモ「久しぶりに獲物が掛かったと思ったらこのザマか…うるさくてかなわねぇ」

ガ「助けてええええええええええ」

クモ「誰も助けになんて来ねーよ。こんなクモの巣に飛び込んで来る無謀虫がいたら一辺お目にかかりてーわ」

ガ「いやあぁっ…!!」

クモ「言っとくが、ボーと飛んでるお前が悪りぃんだぜ?」

ガ「うぅっ……ぐすっ」

クモ「世の中弱肉強食なんだからよ。生まれ変わったら、精々警戒心を強めな」

ガ「誰かあああああああああああ」

クモ「だから、来ねぇって」

ガ「うわああぁぁぁん!!」

クモ「ちっ、容姿も醜けりゃ死に際も醜い奴だな。良い加減大人しくしてろ」

ガ「ふえええぇぇぇぇんっ…!」

クモ「泣き叫んでいる獲物を気持ち良く喰える程俺は腐ってねぇんだよ、オラ」

ガ「うっ……ひくっ」

ガ「…こっ、今度から気を付けるのでっ…かっ、かいっ、解放してくくくくくださっぁ……!!」

クモ「無理だっつってんだろ。俺だって腹が減って仕方ねぇからな」

ガ「いやあああああああああああああ」

クモ「あー、分かった分かった。助けてやる、助けてやるから泣き止め。なっ?」

ガ「え…?」

クモ「痛くないように一回で飲み干してやるから、大人しくしとけよ。な?」

ガ「いやあああああああああああああ」

クモ「はぁ……」

クモ「…おい、聞け。メス」

ガ「っ、………なっ、なん、何で、すかっ……!」

クモ「俺は掛かった獲物を無心で喰う訳じゃねぇ」

ガ「ど、どういう…」

クモ「愛を込めて喰うんだよ。だから、お前を愛してやる」

ガ「……ふぇっ」

クモ「感謝しろ。お前みたいな汚ねぇ格好をした奴でもこの俺が愛してやるっつってんだからよ」

クモ(ちっ、自分でもこんなくっせぇ台詞いいたかねぇけどやむを得ねぇ…)

クモ(どうせなら、チョウかハチが良かったぜ。おっとベッコウバチは勘弁な)

ガ「……ほ、本当ですか…?」

クモ「あ?」

ガ「あ、あああああ愛してくれる、って……ほ、ほん、本当ですか…?」

クモ(堕ちたか)

クモ「ああ。一生で一番の幸せだぜ?大人しくしときな」

ガ「……」

クモ(こんなハエ、ダニ、ゴキブリと変わんねぇ奴もこの手の技には弱いんだよな。いや、こんな奴らだからこそか。笑えるぜ、たく)

ガ「だ…だめ、ですよ……」

クモ「……あ?」

ガ「そ、そんな簡単にあ、愛してやるとか、その……言っちゃ…」

クモ(くそ、よっぽど腹が減ってるらしい。頭が回んねぇせいで判断ミスしちまったぜ)

ガ「……」

クモ(つかこいつ、喰われたいのか喰われたくないのか分かんねぇ奴だな。めんどくせぇ)

ガ「……」

クモ(ガの癖にこのネタはNGと、なると軽率な言葉は控えるべきだな)

クモ(まぁ、メスなだけやり易い)

ガ「…あ、あのぉ」

クモ「…何だよ」

ガ「…お、お話、しませんか」

クモ「……………は?」

クモ(おいおい…どういうこった、これは。さっきまでピーピー泣いてたのによ。血迷ったか?)

ガ「……」

クモ(油断させて、逃げようとでも思ってんのか?普通なら有り得んがこのメス、バカそうだからな。可能性はある)

クモ「…大人しくなったなら喰ってやっても良いんだがな」

ガ「っ!?そそそれはやめて下さい!!お願いします!!まだ生きたいんです!!殺さないで!!食べないで!!」

クモ「いや、喰う。もうお前、めんどくせぇし」ジリ

ガ「やっ、やめっ、やめてっ……やめてっ」

クモ「暴れても無駄だ。お前の力じゃ体に張り付いた糸さえも取れねぇよ」ジリ

ガ「ひいいいいぃぃぃっ…!!」

クモ「良い加減覚悟決めやがれ。見苦しい」ジリ

ガ「そんなっ、いやっ、嫌だっ…!」

クモ「…」ジリ

ガ「」ガクブルガクブル

クモ「…近くで見ると、益々醜いな。ガって奴は」

ガ「いやぁ……」ガクブル

クモ(まずは、毒注入すっか。ちと遅過ぎたが)

ガ「か、噛んで毒注入するんですか…!?」

クモ「ああ」

ガ「ひぃっ!噛まないでええええええ」

クモ「大人しくしろ」

ガ「むごいいいいいいいいいいいい」

ガサッ

クモ「」ピクッ

クモ(しまった!鳥か!?)サッ

ガ「……?」

ガサッ ガサッ

ガ「…!!」

クモ(いや、違う……!隠れねぇと!!)カサササッ

ガ「じっ、自分だけ逃げるなんて酷いですよぉっ!!」

クモ「静かにしてろ!!バカメス!!」

ガ「ひゃっ」ビクッ

ガサッ ガササッ

クモ「良いか、静かにしとけ。じゃないと、お前も俺も確実に死ぬ」ヒソヒソ

ガ「静かにしてたら、私を解放してくれますか?」ヒソヒソ

クモ「しない」ヒソヒソ

ガ「じゃあ、どっちにしろ私死ぬじゃないですかっ…!」ヒソヒソ

ガサッ

クモ(来た…!)

カリウドバチA「…ここら辺なんだけど」

カリウドバチB「それっぽい物ありますー?」

クモ(くそっ!やっぱり奴らだったか…!!)

ガ「……」

クモ(冗談抜きでやべぇよ、こりゃ…)

クモ(焦りのあまり、思わず液出ちまった…みっともねぇぜ)

クモ(見付からない事を祈るしかねぇな…)

カリウドバチB「ねぇ、姉貴。何にも無いようですし、もう帰りましょうよー。腹減ったっす」

カリウドバチA「…ちょっと待って」

カリウドバチB「何すかー」

カリウドバチA「……」

カリウドバチB「一体何なんすかー。帰りましょうよー、ねぇー」

クモ(そうだ!!帰れ帰れ!!ここは俺の縄張りだぞ!!)

ガ「……」

カリウドバチB「つーか、何で俺らがクモとかいう外道極まり無い虫を狩らなきゃならないんすかー。俺嫌っすよ
ー、あいつらの姿を見る度ヘドが出る」

クモ(俺だってお前らの姿見るたびこうしてみっともなくビクビクしなきゃなんねーんだよ。とっとと失せろや)イライラ

カリウドバチA「仕方ないでしょ。あたし達がカリウドバチとして生まれた限り、それが宿命よ」

カリウドバチB「へーへー」

ガ「……」ゴクッ

カリウドバチB「しっかし、おかしいっすねー。ここらに目撃情報が多数出てるって言うのに」キョロキョロ

カリウドバチA「……」

カリウドバチB「それっぽい物が何一つ…………」ピタッ

ガ「…ぁ」ビクッ

クモ(!!)

カリウドバチB「……ほう」

カリウドバチB「…ねぇ、姉貴やっぱり帰りましょうよ。見付からなかったって嘘吐いとけば」

カリウドバチA「黙って」

カリウドバチB「…仕事熱心っすねー、相変わらず」

クモ(くっ!!巣までは隠し切れなかったか!!)

カリウドバチB「気付いてたんすか?」

カリウドバチA「ええ」

カリウドバチB「でも、肝心の主の姿が見当たりませんねー」

カリウドバチA「巣と獲物がいる限り、さっきまでここにいたのは確か。隠れてる可能性が高いわ」

カリウドバチB「ふむ」

ブーン

ガ(とっ、飛んで来た!)

カリウドバチB「ねぇ、君」

ガ「はははははは、はいっ!」

クモ(あのバカメスを使う気か…くそやろうっ)

カリウドバチB「クモに捕まったんだよね?」

ガ「そ、そうです…よ…?」

カリウドバチB「曖昧な答えは要らないんだ。はっきり言ってくれ。じゃないと、俺は今機嫌が悪いから君を殺してしまうかもしれない」

カリウドバチA「…ちょっと」

ガ「ひいぃぃっ!!そうです!そうです!クモの巣に引っ掛かっちゃいました!!ドジりました!!」

クモ(久しぶりの俺の獲物を殺したら許さねぇぞ。血も涙も無い奴らが)ギリッ

クモ(っと、あいつの心配よりも俺の心配をしろってんだ…むしろバカメスが恐怖心から余計な事を口走る可能性は充分にある。さっさと殺しておくべきだったんだろうが、どっちにしろ時間が無かった)

クモ(もっと、早く奴らの足音に気付くべきだったぜ。しくじった)

カリウドバチA「貴方に聞きたい事があるの」

ガ「なななななななんでしょうっ…?」

カリウドバチA「巣の主様はどこにいったのか、貴方知ってるでしょ?」

ガ「そ、それは……」

カリウドバチA「……」

ガ「……」

カリウドバチB「知らないなら、役に立ちませんし殺しちゃいましょうよ。どっちにろ、この子クモに喰われる身ですし。それなら俺らの手でぽっくり逝かせてあげる方が楽っすよ」

ガ「いやあぁぁっ」ブルブル

カリウドバチB「その有り様を見たら、クモも当分ここには来ないだろうし」

カリウドバチA「止めなさい。勘違いは良く無いわ。あたし達の仕事はクモを追っ払う事じゃない、殺す事。それに罪の無い虫まで巻き込むのは許されないわ」

カリウドバチB「うっわ、真面目」

クモ(あのメスバチの方はまだまともらしいな…)

クモ(俺の天敵に変わりは無いが)

カリウドバチB「で、どうするんすか」

カリウドバチA「…そうね」

カリウドバチA「…ねぇガさん、あたし達と取引しないかしら?」

クモ(んだと…?)

ガ「と、とりひき……?」

カリウドバチA「そう、簡単な取引よ」

ガ「そ、その取引とは…?」

カリウドバチA「貴方があたし達にクモの居場所を提供する。それと同時にあたし達は貴方をここから解放する」

ガ「…!」

カリウドバチA「貴方もあたし達も得する、良い話だと思うのだけど」

カリウドバチA「いえ、貴方に取ったら得ってレベルじゃないでしょうけど」

ガ「……」

クモ(前言撤回)

クモ(まともなんかじゃねぇよ。そんなに俺を殺したいのか。良い顔してる割に言ってる事きついぜ)

クモ(だが生憎、俺は美虫に殺されて喰われるよりも美虫を殺して喰う方が好きなんだよ)

クモ(とか、何とか心の中でそう強がってはみるが、正直……)

クモ(終わったな)

クモ(いや、もう常識的に考えて不利以前に俺の一生は儚く散った)

クモ(この取引、俺があのバカメスだったら即OKしてるぜ。なんたって自分の命が一番大切だからな)

クモ(俺、終了のお知らせ。本当にありがとうございました)

カリウドバチA「どうかしら?受けてくれるわよね?」

ガ「…あ、ご、ごめんなさい…」

クモ(俺に謝ってんのかぁ)

クモ(たくっ、同情とかやめてくれよ。安心しやがれ。俺は死ぬ時、お前みたいにみっともなく足掻いたりしねぇからよ)

クモ(寿命で死ぬ予定が、腹くくるしかねぇな…)

クモ(一つ、心残りがあるとすれば自分の巣で安らかに眠りたかったが、こりゃ無理そうだ)

クモ(カリウドバチの巣に連れて行かれ、激しくバリバリムシャムシャと腹部をえぐられえぐられあっという間に喰われるんだろうよ)

クモ(ざまぁねぇな、たく)

カリウドバチA「?どうして謝るの?これから、殺されるクモになら謝らなくても良いわよ。貴方が居場所を言った所で貴方は何も悪くないもの」

クモ(やっぱりこいつ性格悪いわ、死ね)

カリウドバチA「悪いのは全部クモよ、貴方は被害者だから気にしなくて良いの」

クモ(俺だって、生きるために捕食してんだよ。お前らだってすんだろが!つかこいつ…メスバチカリウドの宗教臭凄いんだが。クモに何か恨みでも抱えてそうだな。それもやっすいプライドと。あー…どうせ死ぬなら、ここまで心の中で思った事全部ぶちまけてやるかぁ…?)

カリウドバチA「……」

ガ「あっ、あのっ…!わっ、わたっ、私っ…知らなくてっ!ク、クモさんのっ、居場所!知らなくてっ…だから、あのっ…」

クモ(…………………は?)

カリウドバチA「え…?」

ガ「だかっ、だから…取引は、そのっ…う、ううけれませんっ…!ごめんなさい!」

カリウドバチB「…へぇ、知らないんだ」

ガ「はっ、はい!」

カリウドバチA「………」

カリウドバチB「何で知らないの?」

ガ「すっ、少し前にっ、…わ、わたしを置いて、どこかに行っちゃってっ…!」

カリウドバチB「ふぅん」

カリウドバチB「まぁ、嘘の確率は低いっすよ、姉貴。この取引受けなかったら、この子、クモに殺されますもん。受けたら、生きられる中で自分を犠牲にしてまでクモを庇う事は有り得ないっすよ」

カリウドバチB「しかし、知らないなら受けようが無いんですし。場所の事で嘘を吐いても、すぐバレちゃって殺されるぐらいなら最初っから正直に言うでしょう」

カリウドバチA「……」

ガ「……」

クモ(……)

カリウドバチA「…分かったわ」

ガ「!」

クモ(……)

カリウドバチA「…それにしても、間抜けなクモね。獲物に毒も注入せずにほったらかしたまま出掛けるなんて。これじゃ、もしも逃げられたり他の虫に横取りされても文句言えないわ」

カリウドバチB「そうっすねー」

カリウドバチA「……行きましょ。ここの偵察はまた今度」

カリウドバチB「へい!」

ブーン

ガ「……」

クモ「……」

ガ「……行きましたよ」

クモ「…知ってる」

クモ「……」ガサッ

ガ「…?どうしたんですか?」

クモ「……」

ガ「……??」

クモ「…お前」

ガ「……」

クモ「何で……俺の居場所、知ってた癖に……」

ガ「…!」

クモ「わざわざ、嘘ついた…?」

ガ「そっ、それはですねっ…」

クモ「……言っとくが」

クモ「俺はお前に恩を返すつもりはないぞ…」

クモ「お前はその気かもしれんが、俺はお前を捕食対象としか見ていない」

ガ「…分かっていますよ」

クモ「……じゃあ、何で」

ガ「私のせいで誰かが死ぬぐらいなら私が死にます」

クモ「!!」

ガ「そう思っていますから」

クモ「で、でも…あのメスバチカリウドも言ってたじゃねぇか。お前が俺の居場所を言ったとしてもそれはお前のせいじゃないって」

ガ「私自身、そうは思ってないです」

ガ「それにクモさんも死にたくないでしょ?」

クモ「言ったじゃねぇか…世の中、弱肉強食なんだよ。死にたくないとか死にたいとか言ってたら、一生は終わっちまう」

ガ「……」

クモ「強い奴は残る。弱いもんは喰われる。奴らに対抗出来ねぇ俺が悪いんだ。仕方ねぇんだよ…」

ガ「……なら」

ガ「クモさんは私より強いので、やっぱり私より生き残るべきです」

クモ「…!」

ガ「でも、私も死ぬのは怖いので精一杯その時は足掻きますよぉ」

クモ(やべぇ……)

ガ「…あれ?クモさん?」

グモ(くそっ、何でこんな時にっ……)

ガ「?」

クモ(…泣きそう、だ)

ガ「っ!?」ハッ

クモ「ッ……」

ガ「クククククモさん…っ!?な、ななななんで泣いてっ…!?」

クモ「なっ、泣いてねぇよ!!バカやろうっ…!」

ガ「えっ、ででも…っ涙が!」

クモ「うるせぇ!!ちょっと黙ってろバカメス!!」

ガ「なっ、酷いです!!」

クモ(何で、何でだ……)

クモ(悲しいのか?こいつの考えを哀れんで?)

クモ「くっそぅ……」

クモ(悔しいのか?こいつなんかに救われて?)

クモ「……っぅ」

クモ(いや、違う)

クモ(嬉しいんだ。生きれた事がこんなにも嬉しい、なんて……)

クモ(馬鹿げてるじゃねぇか…くそっ)

クモ「とまんねぇ………」

ポツ ポツ ポツ ポツ

ザアァァァァァァァァァァ

ガ「あっ、雨です!」

クモ「何てタイミングだよ…」

ガ「たっ、たすっ、けて下さい!雨痛い!痛い!強い!雨!」

>>1は他にも虫SS書いてる?

ザアアァァァーーーーー……

クモ「……雨宿りしねぇとな」

ガ「雨が体に当たってるんですってば!羽千切れる!死んじゃう!たっ、助けてえぇっ」ジタバタ

クモ「ちっ、相変わらずうるせぇメスだな。黙って待ってろ」ササッ

ガ「はっ、はやっくぅぅうう」

クモ「……」シュルルルルルル

ガ「!?」

ガ「えっ!ちょっ!ななななにやってるんですか!」

クモ「見りゃ分かるだろ。お前に糸巻き付けてんだよ」シュルルルルルル

ガ「更に束縛する気ですか!?自由求むー!!」

クモ「たりめーだ。解放なんてしたらお前、逃げるだろうが」

ガ「そんな事ありません!」

クモ「ある。俺には羽なんて付いてねぇから、一度空中に逃げられたら追いかける事なんて出来ねぇんだよ」

ガ「逃げませんよっ」

クモ「こっちの方が持ち運びもしやすいしな。向こうの葉の下に移動すんぞ」

>>27
いえ、虫SSこれが初めてです

じょうじ?

クモ「よいしょっと」ヒョイッ

ガ「ぎゃぅっ」

クモ「…汚ねぇ悲鳴だな」

ガ「うぅっ……儚き乙女の体を糸でグルグル巻きにした挙げ句、この乱暴な扱い……」

ガ「もうちょっと丁寧に運んで下さいよぅ!私、女の子なんですよ!」

ガ「…まだサナギの頃の方が良かったぐらいです…」

クモ「ごちゃごちゃうるせぇ。あまり文句言うと、喰うぞ」

ガ「ひいぃぃぃっ!!!お助けをぉ!!」

ザアアァァァァーーー…

クモ「ここまで来れば、雨粒も入って来ないだろ」

ガ「…」ホッ

クモ「…それにしても、酷い雨だな」

ガ「やみませんねぇ…」

>>31
はい

クモ「あー…最悪だぜ。あいつらが現れたせいでまた引っ越ししなきゃなんねぇ…」

ガ「?ここ、捨てるんですか?」

クモ「ああ。奴らがここをウロウロしてるって知った以上、他に巣を作るしかねぇよ」

ガ「……大変なんですね」

クモ「そうだな、すげー大変だわ。あの狂気バチは相手がクモなら容赦無く襲って来やがる」

ガ「……」

クモ「そのお陰で、俺達クモは小さい頃から音一つでカリウドバチが来たのかとビクビクしてすごしてんだよ」

クモ「俺の家族も…奴らの巣に連れて行かれ、あのぶっとい針で顎を幾度なく刺され、無様に翅をむしりとられ喰われて行ったのさ……くそっ」

ガ「!」

ガ「そんな……」

クモ「って言うのは嘘だが」

ガ「怒りますよ」

クモ「まっ、つまんねぇ愚痴聞かせちまったな。忘れてくれ」

ガ「……本当はそんな事全然思ってないでしょう?」

クモ「お、当たり」

ガ「……」

ザアアアァァァァーーー…

ガ「…あの」

クモ「……」

ガ「クモさんって、大きい方ですよね?」

クモ「俺か?まぁ、俺は大型のクモだけどよ」

ガ「なっ、なら!カリウドバチさんとも対等に闘えるんじゃ……!」

クモ「バカメス」

ガ「うぐっ…」

クモ「…ちっ、これだから花の蜜を吸ってのうのうと生きて来た奴は」

あのTFのss書いてたじょうじ?

ガ「問題は、大きさじゃねぇんだよ。適性だ」

ガ「奴らは俺達を狩るのが専門だ。俺達よりも能力は上に決まってんだろうが」

クモ「カリウドバチはクモの行動をちゃんと理解して把握してる。だから、勝負の仕方も狩り方も奴らが俺達より劣る事は無い。有り得ない」

ガ「そっ、そうですよね……えへへ」

クモ「ほんと、呆れる程バカだなお前……脳みそ欠けてんのか?」

ガ「そこまで言わなくてもっ」

クモ「はぁ……」

クモ「…一対一でまともに戦って勝てる相手じゃねぇよ。だから逃げるしか無い。逃げなかったら死ぬ」

クモ「お前もかしこく生きろ」

ガ「はぁい」

>>36
いえ、違います

ザアアアァァァァーー…

ガ「…暗くなって来ましたね」

クモ「そうだな」

ガ「……」

クモ「……」

ガ「……て言うか」

クモ「あ?」

ガ「いつまでこうしてグルグル巻きにされないとならないんですか!」

ガ「良い加減解放して下さい!クモさんが変な体勢で抱えてるのであちこち痛むんです!」

クモ「我慢しろ」

ガ「鬼ー!鬼畜虫ー!ろくでなしー!」

クモ「そんなに喰われたいのか?」

ガ「ごめんなさい」

クモ「もう夜も近い。明日に備えて寝とけ」

ガ「……食べないんですか?」

クモ「お前はパーティー用だ。取って置く。何かの記念日に喰っちまうかもな」

ガ「ひぃっ」

クモ「良いから寝ろ。お前がいるとうるさくてかなわねぇ」

ガ「寝込みを襲ったり、しませんよね……?」

クモ「どうだろうな」

ガ「そっ、そんなぁ……眠れないじゃないですかぁ!」

クモ「……」

ガ「……うぅ」モゾモゾ

クモ「……」

ガ「……」モゾモゾ

クモ「……」

ガ「……せ、せめて体勢を変えてくれたりしませんか…?寝辛いです…」モゾモゾモゾモゾ

クモ「モゾモゾうぜぇからやめろ」

ガ「………」

クモ「………」

ガ「………」

クモ「………」

ガ「………」

クモ(寝たか…)

ガ「………寝れません」

クモ「寝ろ」

ガ「別に起きてても良いじゃ無いですか」

クモ「好きにしろ。ただし、後で後悔するのはお前だぞ」

ガ「?どういう事ですか?」

クモ「明日は早いからな」

ガ「どこかに行くんですか?」

クモ「ああ」

ガ「でも、クモさんが運んでくれるんですよね?」

クモ「…………は?」

ガ「えっ?」

クモ「……」

ガ「え…えぇ…?だ、だってその為に私を糸でグルグルに縛って運びやすいように……」

クモ「ゆとってんじゃねぇよ」

ガ「理不尽です」

ガ「こっちの方が運びやすいからってクモさんが言ったんですよっ」

クモ「さっきは、急に雨が降って来たからな。あのままだとお前死んでたから仕方無く、だ」

クモ「それに糸を巻いたのはお前を束縛する為でしか無い」

ガ「じゃあ、私にこの格好で歩いて走れって言ってるんですか!?」

クモ「そうだ」

ガ「飛んで移動する虫に無茶言わんで下さい!」

ガ「只でさえ、バランスを取る事も難しいのに……ましてや歩くだなんて……」

クモ「ん?少しは翅の有り難さを思い知ったか?」

ガ「……もう良いです。寝ます」

クモ「おー、寝ろ寝ろ」

クモ「睡眠が足りないせいで、判断力が衰えて鈍くなられても足手まといになるだけだからなー」

ガ「……」

ガ(じゃあ、さっさと食べちゃえば良いのに……クモさんのバカ)

ガ(いや、食べられるのは勿論嫌なんですけどね!)

ザアアアアァァァァーー…

クモ「……」

ガ「……」

ガ「……クモさん?寝ました…?」

クモ「……」

ガ「……」

ガ「……」モゾ

ガ「……」モゾモゾ

ガ「……」モゾモゾモゾ

ガ「……」モゾモゾモゾモゾ

クモ「相当眠くないらしいな」

ガ「…」ピクッ

ガ「あぅ……わ、私は夜型なので…」

クモ「で、どこに行こうとした?」

ガ「あっ、いえ!決して逃げようとかそんな事は考えていなくてですね…」

クモ「質問に答えろ」

ガ「……」

クモ「……」

クモ「…答えられねぇのか」

ガ「あっ、そ、そのっ……!」

クモ「……」

ガ「……!」ギュクルルルル

クモ「……」

ガ「……」カアァァ

クモ「…腹減ってたのか」

ガ「……うぅ、お恥ずかしながら」

クモ「…ちょっと待っとけ」カサッ

ガ「は、はいっ」

クモ「………」スッ

ガ(おぉっ、軽やかに向こう側の葉へ。糸って便利ですねぇ)

クモ「………」ヒョイッヒョイッヒョイッ

ガ(?何かを取って集めてますね)

クモ「……」スッ

ガ「…?」

クモ「ほらよ」ドサッ

ガ「こっ、これはっ…!!」

ガ「…………はて、何でしょう?」

クモ「見りゃ分かるだろうが!!果実!!」

ガ「」ハッ

ガ「かっ、果実でしたか!いやぁ、何しろ私大きな果実しか見た事が無かったので……えへへ」

クモ「」イラッ

クモ「小さい果実で悪かったな」

ガ「!?あっ、いえっ、ちちちちがくてっ!そういう意味じゃなくてっ!」

クモ(つーか、小さい果実を見た事無いって……そこら辺に沢山転がってるんだが。盲目かよ)

ガ「そっ、それに私達の体型じゃ大きい物は運べないので仕方が無いって言うか………あっ!別にバカにしてる訳じゃなくてっ…!」

クモ「ちっ、バカメスが…」

ガ「まっ、またそれ!やめて下さい!レディに言う台詞じゃないですよっ」

クモ「レディはレディでも美虫じゃねぇとな」

クモ「良いから、とっとと蜜を吸って食事を済ませろ」

ガ「言われなくても!」チューチュー

クモ「んで、寝ろ」

ガ「分かってます!」チューチュー

クモ「……」

ガ「……」チュウウゥゥゥ

ガ「………美味しいです」チュー

クモ「そりゃ、良かった」

ザアアアァァァーー…

ガ「ご馳走さまでしたっ」

クモ「…」

ガ「自分で食べ物を調達しようと思っていたので助かりました!ありがとうございます!」

クモ「…自由に動けないその状態でか?」

ガ「はい!」

クモ「アホだろ」

ガ「尊敬して下さい!」

クモ「自分から死にに行くな。今のお前は俺の所有物だ。かしこく生きろつってんだろ」

ガ「クモさんこそ、わざわざ獲物に餌を与えるなんて」

クモ「お前は特別だから、太らせて置いて喰うんだよ」

ガ「だっ、騙されません!」

クモ「現実逃避は良くないぜ」

ガ「……」

ザアアアァァァーー…

ガ「……ふぅ、お腹いっぱい…これでやっと睡眠を取る事が出来ます…」

クモ「そうか」

ガ「はいぃ………」ウトウト

クモ「……」

ガ「……うぅん」ウトウト

ガ「…あ、クモさんもお腹減ってますよね?残りの果実ならここに…」

クモ「いらねぇ。俺の口にはそんなぬるい食事は合わねぇよ」

ガ「そうですか…美味しいのに」

クモ「虫の肉限定だ」

ガ「……」

クモ「……」

ガ「……寝ないんですか?」

クモ「俺はお前と違って毎日睡眠取らなくても機能が働くんだよ」

ガ「……そ…う…です、か……」コテン

クモ「……」

ガ「……」Zzz

クモ(やっと寝たか…)

ガ「ふんがぁ~……」Zzz

クモ(こいつ、悲鳴もいびきも汚ねぇな…)

ガ「……」Zzz

クモ「……」

ガ「……」Zzz

クモ「……」グウゥ

クモ(…くそ。腹が減って仕方がねぇ…明日までの辛抱だっつうのに)

ガ「……」Zzz

クモ「………」

クモ(これからこのめんどくせぇメスを連れて歩くのか…)

クモ「……」

ガ『……食べないんですか?』

クモ「……あー…」

クモ(…喰っちまうか?いっそ)

クモ「……」

ガ『私のせいで誰かが死ぬぐらいなら私が死にます』

ガ『そう思っていますから』

クモ(………こいつは)

ガ「……」Zzz

クモ(…自分より他の奴を優先する)

ガ『……なら』

ガ『クモさんは私より強いので、やっぱり私より生き残るべきです』

ガ『でも、私も死ぬのは怖いので精一杯その時は足掻きますよぉ』

クモ(…その癖、死ぬ覚悟は持ち合わせてない)

クモ(……まるで俺とは、正反対だ)

クモ「……ちっ」

クモ(どこまでも、醜い女)

クモ(イライラするぜ、たく)

ガ「………クモさぁん」ムニャムニャ

クモ「…何だよ」

クモ(…ははっ、獲物の寝言に返事なんて等々気が狂ったかぁ?)

クモ「………クモさんのぉ」Zzz

クモ(腹が減って今にも倒れそうな状況なのによ)

クモ(食事の気分じゃないなんてほんとどうかしちまったようだ、俺は)

ガ「……クモさんのぉ」Zzz

クモ「だから、何だよ」

ガ「やん、エッチぃ……」ムニャムニャ

クモ「………」

ガ「あっ、そこはダメですぅ……」Zzz

ガ「そこもらめええええええええ」Zzz

ガ「もう……そんなの入らないですよぉ……」Zzz

クモ(………何の拷問だよ)

ガ「やぁん……でちゃいますぅ…」Zzz

ガ「あ、そこっ…そこっ…」Zzz

ガ「らめええええええええええええええ」ムニャムニャ

クモ(起きてるんじゃないだろうな…)

ガ「………うぅん」Zzz

クモ「………」

クモ「幸せな顔、しやがって」

クモ(……ムカツくんだよ)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー

チュンチュン

ガ「おはようございますっ」ニコニコ

クモ「おう………」ゲンナリ

ガ「?」

ガ「どうかしましたか?随分疲れてるようですけど……」

クモ「いや、何でもねぇよ……」

ガ「!」ハッ

ガ「もしかして昨日カリウドバチさん達の襲撃があったとかっ…!?」

クモ「違う」

クモ(お前の寝言が朝まで続いて精神的に削られたんだよ、くそが)

ガ「ち、違いますか…」

サァーーーーーーー…

サワ… サワ…

ガ「今日は風が強いですね」

クモ「そうだな、丁度良い。今日は運がついてるぜ」

ガ「?」

ガ(どういう事でしょう?)

クモ「よし」

クモ「準備は整ったな」

ガ「あ、はい!」

クモ「余り時間がねぇ。奴らがまた見回りに来る前にとっととここを離れるぞ」カササッ

ガ「ちょっ、まっ、待って下さいよ!」

クモ「あ?何か問題でもあんのか」

ガ「………分かりませんか?」

クモ「特に」

ガ「………」

クモ「………」

ガ「………」

クモ「さぁ、行くぞ」

ガ「だっ、だから待って下さいってば!」

クモ「…ちっ、何だよ。めんどくせぇ奴だな…」

ガ「クモさん、ほんと鬼畜男ですね…今のご時世優しい男じゃないとモテませんよっ」プンスカ

クモ「お前は何が言いたい」

ガ「この糸です!格好です!」

クモ「あ?」

ガ「……」

クモ「特に問題ねぇじゃねぇか」

ガ「素でそう思ってるなら病気ですよ」

クモ「さっきからお前…言いたい放題言ってくれるじゃねぇか…」ワナワナ

ガ「ひっ!あ、あああっ、いや!そのですねっ…」

ガ「わっ、私はただ自由に移動したいだけで……こ、この糸をほどいてくれたり……」

クモ「無理だ。その状態で歩け」

ガ「…………どんだけ束縛心強いんですか」

クモ「お前だけは逃がしたくない」

ガ「そっ、そんな……恥ずかしいです……私ってそんな逃がしたくない程魅力的な女だったんですね……初めては優しくして下さい……///」モジモジ

クモ「ああ、痛くないように毒で感覚を麻痺させた後に一気に飲み干してやるから安心しろ。あの世で俺を恨むのだけは勘弁して欲しいからな」

ガ「………」

クモ「アドバイスを一つ。今の台詞を言うなら鏡で自分の姿を確認してから言え。火傷すんぞ?」

ガ「ひどいっ」

クモ「ま、ごちゃごちゃ言ってないで、精々俺の後を付いてくるのに集中しやがれ。バランスを崩したら、最後だとでも思ってろ」

ガ「…その時は助けてくれるんですよね…?」

クモ「おいおい、心外だぜ。いくら何でもそこまで俺は鬼じゃねぇよ」

ガ「………」

クモ「……何だよ、その目は」

ガ「いえ」

クモ「たく、無駄話はほどほどにしてとっとと出発すんぞ」

ガ「ふぅんっ……ふぅんっ」ピョンッピョンッ

クモ「おっ、歩けるじゃねぇか!あんよが上手~」

ガ「……」グスン

クモ「悪かった」

サァーーーーーー…

サワ… サワ…

ガ「…大体、これは歩いてるとは言いません。飛んでるんです!」

クモ「一々、細けぇんだよ」

ガ「ふっ……クモさん、にはっ……ふんっ……」ピョンッピョンッ

ガ「はぁ……はぁ……」

ガ「分からないと…思い、ますがっん…ふぅんっ……」ピョンッピョンッ

ガ「はぁっ……くぅ…」

ガ「ふぅんっ……一歩一歩にっ……かなり、ふぅっ……ん」ピョンピョンッ

ガ「はあぁっ……ふうぅ……ろ、労働力を使う、んです…よ……はぁっ」

ガ「お、おまけに今日はっぁ……ふんっ…か、風がつよ、強くてっ……進みにくい、ですっ……ふぅんっ」ピョンッピョンッ

クモ「あっそ。飛ばされないように気を付けろよ」カササッ

ガ「慈悲の欠片もありませんね」

サァーーーーーー…

サワ… サワ…

クモ「このツタ降りんぞ」

ガ「えっ、まさかの無茶振りですか!?」

クモ「……背中に乗れ」

ガ「へっ?」

クモ「……早くしろ」

ガ「えっ、あっ、はいっ」ススッ

クモ「……」

スル… スル… スル…

ガ(そこは優しいんですね)

ガ「…ふふっ」

クモ「…何笑ってやがる」

ガ「別にぃ」

スル… スル… スル…

ガ(クモさん、流石の身のこなしだなぁ…やっぱり何だかんだ言って過酷な世界を生きて来ただけあるんですね…)

ガ(…大切な人が、殺されてしまう所も見た事あるのでしょうか……)

ガ(彼のように)

『約束だ。そっちのメスは逃がしてやろう』

ガ「……っはぁ」

ガ(しまったっ…これ思い出したらいけないのにっ…!)

ガ「はぁっ……はっ…」

クモ「おい、呼吸がおかしいぞ。どうした?」

ガ「い、いえ」

ガ(落ち着け、私。深呼吸、深呼吸)

ガ「すぅ……はぁ……」

スル… スル… スル…

ガ「……」

ガ(何とか、治まった……)ホッ

スル… スル… スル…

ガ「あの、クモさん」

クモ「何だ」

ガ「ずっと気になってたんですけど、その背中に乗せてる包みの中身って一体何ですか?」

クモ「後で分かる」

ガ「今教えて下さいよ」

クモ「しつこい」

ガ「ぶぅ」

スル… スル… スル…

クモ「よっこらせっと」ストンッ

ガ「着地です!」ピョンッ

ガ「」ベチャンッ

クモ「さてと、ここからもう少し歩けば…」

ガ「着くんですか!?着くんですね!?」ムクッ

クモ「いや」

ガ「…」ガクッ

クモ「でも、俺達は歩かないで済む」

ガ「?」

クモ「良いから着いて来い」カササッ

ガ「ふっ…ふっ…」ピョンッピョンッ

クモ「おっと、言い忘れてたが」ピタッ

ガ「ひゃっ!いきなり止まらないで下さいよぉ、顔ぶつける所でした」

クモ「…文句の多い奴だな」

クモ「言い忘れてたが鳥、蛙、蛇、他肉食性の生物を見掛けても挑発するな、物音を立てるな。まずは素早く俺に知らせろ。いいな?」

ガ「了解です!」

クモ「……………」

ガ「…不安気ですね」ムッ

サァーーーーーー…

サワ… サワ…

ガ「く、っもさん…っふぅんっ、まっ、まだです、かっぁん…うぅんっ」ピョンッピョンッ

ガ「はああぁっ……!ふぅっ……も、う…だめ……はぁっ……はぁっ」

クモ「もうすぐだ」ガサガサ

ガ「さっ、さっきから、それ…ばっか……はぁっ、……んぅ」ピョンッピョンッ

クモ「おら、見えて来たぞ」ガサガサ

ガ「っぁ、え?」

ガ(あれ…?何か涼しい……)

ガ「…んっ…もしかして」ピョンッピョンッ

サーーーーーーー…

ポチャン ポチャン

ガ「か、川だぁ……」

クモ「」ゴクゴク

クモ「かぁーっ、やっぱうめぇな、この水」

ガ「こんな所に川なんてあったんですね……凄く綺麗…」

クモ「まぁな。お前のその汗だくで汚ねぇ体も綺麗さっぱり洗い流してやるよ。こっち来い」

ガ「えへへ」ワクワク

クモ「行くぞー」

ガ「はい!」ワクワク

ジャバーーーーッ

ガ「………」ポタ…ポタ…

ガ(洗い流すって、そういう……?)

ガ「………華の乙女にこの仕打ちはあんまりじゃないですか」ビショビショ

クモ「うるせぇ、急いでんだよ。文句なら全ての元凶に言え」

クモ「それより、あいつどこ行ったんだよ…またどっかで居眠りこいてんじゃねぇだろうな…」

ガ「?」

クモ「……急いでる時に姿を見せねぇなんて、めんどい野郎だぜ」

クモ「…」キョロキョロ

ガ「…誰か、探してるんですか?」

クモ「見りゃ分かんだろうが。脳みそ空っぽ女め」

ガ「…」ムッ

ガ「…」プイッ

クモ「……ちっ」

クモ「……」キョロキョロ

カメムシ「あっ、いたいた~!旦那~っ」タタタッ

クモ「おせぇんだよ!!クソムシ野郎!!」

カメムシ「そ、そんな罵らなくても……」

クモ「てめぇ、喧嘩売ってんのか?あ?てめぇみたいな虫けら、俺はいつでも生け捕りに出来る、って分かっての事か?何なら今すぐにでも…」

カメムシ「ちょっ……!それ脅迫……っ…」

クモ「あー、そうかそうか。どうやらよっぽどあの世送りにされたいみてぇだな……天国か地獄か選べや」

カメムシ「まっ、まままって下さいよぉっ!こっ、今回は無料でいいですから、落ち着いて下さい……っ」

クモ「無料…っ……!?無料だとぉ!?」

カメムシ「ひっ」

クモ「てんめぇ………無料にするなら、最初っから無料って知らせるぐらいしやがれ!!」

ガ「あ、あのっ……」ハラハラ

ガ(…クモさん、今日は一段と怖い…って言うかイライラしてる…?)

クモ「折角、持って来た荷物を全部捨てるなんて俺は許さねぇぞ…!」ギロッ

カメムシ「りっ、理不尽だよ……だんなぁ……っ」

クモ「理不尽でも外道でも構やしねぇ。俺は今、早く来なかったお前に説教してんだからよ」

クモ「ったく、急いでるって言うのに……相変わらず、気がきかねぇ野郎なこった」

カメムシ「………」

ガ(と、友達なのでしょうか……?)

クモ「呆れて、溜め息すら出てこ」

カメムシ「……それは心外だぜ、旦那」

クモ「……ほう?」

カメムシ「何を苛々してるのかは、知らねぇがよ…俺はあくまであんたの事を気遣っての行動をしたまでだぜ」

カメムシ「あんたと………」チラッ

ガ「っ……!」ピクッ

カメムシ「その子の、お楽しみの時間を他人が奪う訳にはいかないんでな」

クモ「………」

ガ「…………っ!?」カァッ

ガ(そっ、そんなぁ……!お似合いのカップル、だなんて……っ、私とクモさんはそんな関係じゃあ……!なんて、えへへ///)

カメムシ「てか、旦那、余りに特殊なプレイ過ぎません?縛りプレイとか流石の俺でも引きますよ…」

ガ「………………え?」

クモ「………………は?」

カメムシ「しかもその子、旦那の好みから外れてますよね?もしかして、何かに目覚めちゃったりしちゃいました?」

クモ「……………」

ガ「……………///」

カメムシ「?」

ガ「……あ、ぁ……ぅ、ぇっと……!し、しばりぷれい、では…その、なくてですね…っ……///」ガクガク

クモ「………すまんが、心当たりがない」

カメムシ「なーに二人揃って知らばっくれちゃってんですかぁ」

カメムシ「そんな格好、させちゃってんのも旦那でしょうに。やれやれ」

ガ「こ、これはちがっ……!///」

カメムシ「こっちの方まで恥ずかしくなるくらい声、聞こえてたんですよ。真昼にナニやってんだか」

クモ「…………」

ガ「こ、こえ……っ…?…///」ガクガク

カメ「いやぁ、でも昼間中にあんなでっかい声でヤッちゃ駄目ですよ!」

ガ「!?………///」

クモ「………お前、勘違いしてるぞ」

カメムシ「嘘は良いですってば」

クモ「いや、嘘じゃねぇよ」

カメムシ「それより旦那、無料を拒んだんなら木の実」

クモ「……」ドサッ

ガ「…!」

ガ(クモさんが背負ってた包みの中身って木の実だったんですか)

カメムシ「よし!じゃ、有り難く頂戴するぜ。準備するからちょっと待ってな」

ガ(そっ、それより…)

ガ「あの、クモさん……そのぉ…ご、誤解、解かなくていいんですか…っ?」ヒソヒソ

クモ「言っとくが、その誤解はお前が招いたものだと分かってんだろうな…」ヒソヒソ

ガ「ぁぅ………///」

ガ『く、っもさん…っふぅんっ、まっ、まだです、かっぁん…うぅんっ』

クモ「…あの会話が原因なんだぞ、バカメス」ヒソヒソ

ガ「以後、き、気を付けます…///」ヒソヒソ

カメムシ「それにしても、吃驚しましたよ。何しろ、川辺で昼寝してたら旦那と女の子の最中の声が聞こえてきたもんで」ブツブツ

カメムシ「それで、俺は空気を読んでその場を離れたんですから」ブツブツ

カメムシ「その上、偶然を装ってまで駆け寄ったのに旦那に罵られるわ、無料って言ったら理不尽に怒鳴られるわ」ブツブツ

カメムシ「もう散々ですよ、全く!これからは俺の事、………えっと、けぃわぁい、でしたっけ…?まぁ、取り合えず言わないで下さいよね、旦那!けぃわぁいって!」

クモ「…こいつは、こういう奴だ。めんどくせぇし、もうスルーだスルー」

ガ「で、でも……」

クモ「誤解は誤解のままにしておく。こうなりゃ、もう呆れて物も言いたくねぇよ…」

サァーーーーーー…

サワ… サワ…

クモ「……」

カメムシ「……」

カメムシ「…旦那、今日はラッキーですぜ」

クモ「ああ」

ガ「風、ですか…?」

カメムシ「おうよ!」

カメムシ「準備も出来たし、乗ってくれ!」

ガ「!!」

ガ「こっ、これって…!」

クモ「舟だ、早く乗れ」

ガ「は、はい」

ガ「……」

ギシッ ギィ ギィ

ガ「……」

ガ「す、すごい……私、初めてです。こんな立派な……」

カメムシ「あー、よしてくれよしてくれ。舟なんて大層なもんじゃないよ。唯、木や葉っぱを集めて造っただけの紛いもんだ」

カメムシ「よく壊れるし、安定もしてない。溺れる事はないようにしてるけど、木の質もよくないし…それに」

ガ「そんな事ありません!!」

カメムシ「」ビクッ

ガ「こんなに素敵な舟なのに自信を持たず、何を持つんですか!!とっても素晴らしいのに!!」

カメムシ「……!」

ガ「………あっ」

ガ「………ぁああ、ぇと、い、いえっ…!なっ、なんて言うかっ…す、すみません、えらそうに…っ…」

カメムシ「……いや」

クモ「……」

カメムシ「どこまで行きます?…って、言うまででもないですね」

クモ「おう」

カメムシ「今日は、風の向きや強さが丁度良いんですぐ着きやすぜ。適当に寛いで下さい」

ガ「は、はい…!」

ギィ ギィ

スーーーーーーッ……

ガ(うっ、動いたっ…!)

カメムシ「…」チラッ

ガ「…」ワクワク

カメムシ「…あんたは…ガ、だよな?」

ガ「!はっ、はい!ガです!」

カメムシ「しかし、旦那が珍しいね。女を連れ回るなんて。何か理由でも?」

ガ「あっ、えっと…!」

クモ「…巣を移動する時の為の餌だ。余計な模索はよしてくれねぇか、お前らしくないぞ」

カメムシ「こりゃ、すみません」

カメムシ「……」ギィ ギィ

クモ「……」

クモ(…こいつは空気の読めない虫だが仕事中に、ましてや客の事情にズケズケと入り込む奴じゃねぇんだがな)

カメムシ「……」ギィ ギィ

クモ(…どうしたものか)

ガ「…あ、あのぉ…クモさん」

クモ「…何だ」

ガ「風がどうたら、ってこの事だったんですね」

ガ『今日は風が強いですね』

クモ『そうだな、丁度良い。今日は運がついてるぜ』

ガ『?』

クモ「ああ、その通りだ。舟が進みやすいからな。川の流れも今日は穏やかだし、揺れる事もねぇだろ」

ガ「風がもうちょっと強かったら危ない所でした…こんな格好なのに」

クモ「数秒で溺死か?くくっ」

ガ「…笑い事じゃないですよ」

ガ「この格好!ほんっとうにキツいんですからねっ…!油断したら今にもバランスが崩れてっ…」

カメムシ「……」

クモ「おいコラ、クソムシ。てめぇ、何臭わせてんだよ」

カメムシ「あ、バレちゃいました?」

クモ「バレちゃいました、じゃねぇ…この野郎……」

カメムシ「イチャイチャも大概にして下さい、って意味ですぜ」ギィ ギィ

ガ「っ、…!?」

クモ「唯でさえ、てめぇくせぇのに更に臭くしてんじゃねぇよ。ちぃっとは、客らしく扱いやがれ」

カメムシ「へいへい」ギィ ギィ

クモ「…ったく」

ガ「……」

カメムシ「……」ギィ ギィ

クモ「…そうやって黙って漕いでりゃいいんだよ、てめぇは」

ガ「クモさんっ…!幾ら何でも言い過ぎですよ…っ」

クモ「うるせぇ」

ガ「………もう」

カメムシ「……」ギィ ギィ

クモ「……」

ガ「あの、彼…カメムシ、さんですよね?」

クモ「…ああ、さっきのくせぇ臭いで分かんだろ。鈍い奴だな」

ガ「…一応聞いてみただけです!」プイッ

ガ「……友達、なんですか?」

クモ「はぁ!?んな訳ねぇだろ!!」

ガ「ちっ、違いましたかっ…すみません…」

クモ「……悪い、ちょっと大袈裟過ぎた」

ガ「いや…」

クモ「……」

ガ「……」

クモ「…あいつと俺は、唯の運転士と客の関係だ。特別なもんじゃねぇ」

ガ「へ、へぇ…」

クモ「…あいつは、親の顔を一度も見た事がねぇんだよ」

ガ「!」

クモ「…幼い頃から、自分でこの舟を作って、運転士として働いて生活を賄ってる。今じゃ、こいつの舟はここらで有名だ。木の実が船賃代わりだなんてやっすい商売は変わってるからな」

ガ「……」

クモ「つい、クソムシなんて罵ってしまうが、仕事に忠実で偉い、賢い男だ」

クモ「空気さえ読めれば、モテるんだがな……」

ガ「……」

ガ「……」チラッ

カメムシ「いやー、それにしても今日はほんっとに舟の進み具合が良くて……」ブツブツ

ガ「そう、だったんですか……」

ガ(…あんなに明るい方にも、色々と事情があるんですね……)

クモ「……俺は、あいつの事は嫌いじゃねぇが」

クモ「どうにも苦手でな…あいつの前だと何故だか知らねぇけど口が悪くなる」

ガ(だ、だから、いつもの倍、瞳孔開いてたんですね…)

クモ「……」

ガ「……」

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