穂乃果父(今日は穂乃果の誕生日か……) (34)

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書き溜めなし

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今日は娘、高坂穂乃果の誕生日だ。
今年はスクールアイドルなるものを始めて、毎日慌ただしく動いているらしい。

幼馴染の園田さんとこのお子さんと南さんとこのお子さん。
それから、何やら学校の後輩や先輩を巻き込んで活動している、らしい。

そしてこの間、音ノ木坂学院の廃校を回避させた……らしい。

……全て妻と娘の雪穂から聞いた話だ。

高校生に上がってからロクに穂乃果と話した覚えがない。
あの穂乃果が一丁前に色気付いたのだろうか。
成長しているのは親として嬉しいことだが、
それと同時に会話がなくなっていくのはさみしいものだ。

思えば、小学校低学年の頃から言葉を交わすことは少なくなって居たかもしれない。

店のあまりものの饅頭やらたい焼きやらをいつも食わせて居たからか、
常に「あんこ飽きた~」と口にしていたことを覚えている。

もっと洋菓子を食わせてやればよかったかもしれない。
常に和菓子ばかり食っていれば飽きてしまうのも当然だ。

それとも、単に俺の腕が足りなかっただけなのだろうか。
穂乃果が何を好きでも構わないが、俺だって和菓子職人としての誇りがある。
自分が作ったものをまずそうに食われるのは流石に落ち込む。
やはりまだまだ修行が足りないのだろうか……。

この間なんて穂乃果が雪穂の机に羊羹を押し込むこともあった。
その時ばかりはしっかりと叱ったが、あまり反省はして居ないようだった。

しかし、そんな穂乃果……いや、穂乃果たちは音ノ木坂の廃校を救った。
この報せを聞いた時、俺は耳を疑った。
それまではただの部活動程度にしか捉えて居なかったが、
穂乃果たちの活動が地域活性化に繋がって居ることを知り、
地域住民として、何より親として嬉しかった。

……褒めてやりたかったなぁ。
しかし、ロクに口もきかなくなってしまった今じゃ……そうだ。

せっかくの誕生日だ。
いつも通りいちご饅頭を作ってやるつもりだったが、ケーキを作ってやろう。
和菓子しか作ってこなかったが、ケーキくらいなんとかなるだろう。









「あれ?あなたどこへ行くの?」

「ちょっと買い出しだ。店番を頼むぞ」

イチゴをたっぷり乗せたホールケーキ。
穂乃果は喜んでくれるだろうか。

「ただいま」

「おかえりなさーい!」

材料を買って家に戻ると、ドタドタと階段を駆け下りて穂乃果が出迎えた。
しまった、この材料を見られるわけにはいかない。

咄嗟にビニール袋を後ろ手に隠した。

「ねぇねぇお父さん!」

「な、なんだ?」

目を輝かせながら穂乃果がこっちを見る。
待て、この袋にはプレゼントなんて入ってないぞ。

「えっへっへっ……」

意味ありげな笑いを浮かべる。
いつからそんなことができるようになったんだ。お父さん悲しいぞ。

「どうしたにやにやして……何か良い事でもあったのか?」

俺がそう言うと、少しむすっとした表情を浮かべた。俺が見慣れたいつもの穂乃果だ。

「む……お父さん!穂乃果に何か言うことないのー?」

「言うこと……?」

ああ、そうか。肝心なことを忘れていた。

「ああ、誕生日おめでとう穂乃果」

「ふふふっ、ありがと!お父さん!」

穂乃果はそう言って笑うと、ドタドタと階段を駆け上って行った。
そういえば、穂乃果の笑顔を真正面から見るのも久しぶりだ。
去年は大口の注文が入ったせいで、いちご饅頭をくれてやることしかできなかった。

元々豊かだった表情に幅が出てきた気がする。
スクールアイドルは、穂乃果を確実に成長させているのかもしれない。

さてと。さっそく作業に取り掛かろう。
ホールケーキを作るなんて生まれて初めてだが、レシピも買ってきたし失敗はないだろう。











「あっ」

いかん、あんこを混ぜてしまった。
作り直そう。

まぁ、終わってみればあっけないもので。
普通の家庭でもよく作られるだけあって、結構簡単に出来てしまった。

「……」

しかし、これではあまりにも無難すぎる……。
誕生日ケーキというより普通のホールケーキだ。
誕生日おめでとうプレートくらいつけておくべきだったか?
特筆すべき点といえば、やたらめったらイチゴが乗っていること位ではないか。
簡素な見た目のまま完成にするのは、職人の性分が許さなかった。








しかし俺にできることはイチゴを綺麗にカットすることくらいだった。
生クリームを使った飾り付けというのは専門外だ。今度調べておこう。

ケーキを冷蔵庫に入れ、一息つくために俺はリビングへ向かった。

その時

「いってきまーす!」

玄関から穂乃果の声が聞こえた。

今は午後五時。夕飯前だというのにどこへ行ったのだろう。

「なぁ、穂乃果はどこへ行ったんだ?」

「あら?聞いてなかったの?
なんでも、海未ちゃんたちがお誕生日パーティを開いてくれるから、それに行くって」

「!……そ、そうか。わかった」







迂闊だった。
穂乃果も高校二年生、誕生日パーティを開いてもらうなんて当たり前のことだろう。
穂乃果のスクールアイドルグループは9人と聞く。
8人もいれば、料理やケーキだって用意出来てしまうだろう。

作ったケーキは、明日に持ち越しだな……明日までなら持つとは思うが。
別に今日張り切って作らなくても、もう少し調べてからでもよかったな。

などと若干の後悔をしながらも、
穂乃果の誕生日を祝ってくれる人がそんなに居ることを嬉しくも思っていた。
穂乃果ももう、親離れしているのかもしれないな……。

夜九時過ぎ。
夕食や風呂も済ませ、うとうとしながら穂乃果の帰りを待っていたが、
いよいよ眠気の限界が来てしまったため寝ることにした。

そういえば、ここ2、3年はプレゼントすら買ってやれていない。
特にこれといって物を欲しがるような子ではないからつい忘れてしまう。
あまり構ってやれない分、小遣いだけは
多めにあげていたからか。
店の手伝いもしているし、勉強ができないことを除けば将来は安心だな。

「ただいまー!」

しっかりと補導時間前に帰ってきている。
安心だな。

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