【俺ガイル】6.5巻が出る前に9巻直後の話書く【八結】 (72)

6.5巻の発売が地域によって22日~24日らしいので、
この週末の暇つぶしに読んでもらえたら嬉しいです。

八幡と結衣が仲良くする話。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405686011

 間延びしたチャイムの音と、それを合図にさざ波だつざわめき。
 それぞれ椅子を鳴らして立ち上がり「あー疲れたー」とか、「今日どうするー?」だとか、
 ノートを片付けながらお喋りに花を咲かせていく。花か、いや違うな。
 その実内容ペラペラのくっちゃべりなんだから、僕たち高校生してますよっていう
 胞子みたいなのを撒き散らしていると言っていい。
 そいつが教室中を漂って隙間を埋めていく。うっかり顔を上げたら息ができないレベル。
 マスクをしなければ5分で肺が腐ってしまう死の空間。
 誰か、早く窓開けて。暖房の熱気で超曇ってるから。

 なんてことのない、いつもの風景。ただいくつか普段と違っている点がある。
 今日は12月26日。終業式はとっくに終えて、花の冬休みに入っているはずだった。

「これで前半の2日間が終わるわけだが、後半の冬期講習は年明け6日から3日間だ。
 休みの間に予習をしておくように」

 黒板消し片手に教壇の上から声が投げかけられる。
 それを受けて、今度はうんざりしたような小さなため息が室内に充満した。

「冬休みを計5日間も奪うとかなんなの……学生共は死なぬように生きぬようにって、
 徳川家康なの?」

 絶望のあまり、つい心の声が口に出てしまった。
 あ、今、周りの「マジかよー勘弁ー」って空気と結構馴染んでない?
 ぼくちゃんと高校生できてるよ!
 所詮俺の独り言だから誰も聞いてくれてないし、よって相槌とかまったくされないけど。

 学校生活は封建社会に似ている。
 我が総武高校は県下指折りの県立進学校であるので、冬期休業中にも登校日が
 定められているのであった。
 基本的には任意の参加だが、冬期講習の名の下に普通に来学期の範囲を先行する教科も
 あったりするので、その実強制参加と言っていい。いちいち出欠も取ってるし。
 この制度、先生も授業準備大変なんじゃないの?
 妻も子供もいる先生は家の大掃除とかしなくていいの?
 夫も子供もいない平塚先生は、職員室の机の下にゲッサンが平積みになってるから、
 資源回収の最終日に間に合うよう断捨離したほうがいいと思う。講習の時間使って。
 そして俺のことを休ませてくれればいい。

 これで半ドンじゃなかったらストライキを起こしていたところだ。
 一人でやったらストじゃなくてサボタージュって言うんだっけ。
 登校拒否とも言えるかもしれない。
 結果、未学習範囲が広がって、自学自習が追いつかず不登校になるまである。
 だからやっぱり、来たくなくても来なければならない。
 もう、ぼくら学生のうちから社畜調教されてるよね……。七日間も戦争なんてできないし。
 だからいつか学生の身分を脱したら、養われる道を選び取りたいと思います。

 はーっと深くため息をついて、遅い帰り支度を開始する。
 既に半数の生徒が教室を出、室内は比較的風通しが良くなっていた。
 俺みたいなぼっちがいち早く片付けを済ませて駆けていくなんてことをすると、
 まるで逃げ出したみたいで却って目立っちゃうのである。
 背中から聞こえてくるクスクス笑いとか寒風突き刺さってマジ辛い。
 突出は避け、こうしてパーソナルスペースを広く取れる時間帯になるまで
 息を潜めているに限る。

「はー、マージ冬休み中に授業とかないわー。超疲れたしハラへりんぐだわー」

 教室の後ろから割れ気味のでかい声が響いた。これはあれだな、戸部だな。
 振り向かなくても分かる。

「しかもこれから俺ら部活だぜー? はやとくーん、やっぱ部活休みにしね? ね?」
「うーん……グラウンド空けてもらっちゃったしそういう訳にもいかないだろ」
「あー、そっかー……だーよねー……」

 しゅんとしたような戸部の声を受けてか、サッカー部部長の葉山隼人が明るく告げる。

「まあ、休み中だし、みんな家の用事とかもあるだろうから、
 4時には切り上げるようにするか」
「マジかー! 隼人くんさすが部長だわー、俺らの気持ち分かってるわー」

 戸部が、おー心の友よ! とでも歌い上げそうなテンションではしゃぐ。
 三浦や大岡、大和の笑い声がそこに混じり、
 なんなら海老名さんがぐ腐腐と漏らしたようだった。
 何だ、肩でも組んだのか。海老名さんに対する大サービスだな、やるじゃんとべっち。

 鞄から取り出したイヤホンを弄びながら、つい耳を澄ましてしまう。

「じゃーさじゃーさ、昼飯どうする? 部活前にみんなでマック行っちゃう?
 ランチコンビ頼んじゃう? それともハッピーなほう?」
「あーしこれからバイトあるしパス」
「えー、優美子そーなん? え、海老名さんはどお?」
「んー?」

 なんてことのない、いつもの風景。ただいくつか普段と違っている点があった。
 片耳だけ、できるだけゆっくりとイヤホンを押しこむ。

「お昼ねー。わたし、結衣のとこにノート届けるから無理かな。みんなではまた今度ね」

 なんてことのない、いつもの輪の中に、由比ヶ浜結衣がいなかった。
 振り向かなくても分かる。今日はずっとあいつの声が聞こえてこなかった。
 明るい茶髪のお団子頭。子犬みたいな彼女。

「あー、ユイあれっしょ? 風邪でしょ?
 戸部ぇ、あんたユイが寒いってゆってたのにサーティワンでアイス食わせっから」
「えぇ!? お、俺のせいなん? 食わせるつーか、結衣、超はしゃいでレギュラー食って
 ブルブルしてたけども……えー俺のせいー?」

 何だと。戸部のせいなの許しがたい。
 ていうか、あいつはクリスマスイベントでしこたまクッキー食って、
 その後ケーキも食って、ピザ食って、ケーキ食って、で、昨日アイス食ったの……
 やだちょっと怖い。

 女の子はお砂糖とスパイスと何か素敵なモノでできてるとかいうファジーな迷信があるけど、
 糖分取り過ぎで太らないんだろうか。
 いっそ栄養は全部メロンにいっちゃうから無問題なんだろうか。

 あと、あいつ頭がポッピングシャワーなのになぜゆえ風邪ひいちゃったんだろう……。
 残念な子!

「そういうことなら、姫菜、結衣のことは頼むな。
 マックには男子だけで行くってことで、決まりかな」
「隼人行くなら行きたかったなー。
 あ、戸部。あんたさー、ユイにお詫び代わりにプリンでも買ってやれし」
「へ?!」

 さすが三浦。自分では金出さないで戸部の財布から差し入れさせるなんて女王様すぎる。
 怖いが、お土産のチョイスがプリンなのは可愛い。由比ヶ浜も喜びそうなセンスである。

 小銭をじゃらじゃらさせる音がした。戸部は女王様のお言いつけに観念したみたいだ。

「じゃあ、百五十円……海老名さんよろしく」
「はいはい~了解」

 そんな会話を、知らず、顔を向けて聞いていたようで、
 差し入れ代を受け取った海老名さんと目が合った。
 その瞬間、眼鏡の奥の目がふっと細められたような気がした。

 人が減って、室温が下がったのが肌で感じられる。

 いい加減両耳にイヤホンを突っこんで立ち上がった。そろそろ帰ろう。
 一部の運動部と違って、屋内の文化部はみんな活動休止だし。
 帰ったら何すっかな……。あれか、俺も部屋の片付けか。
 洗濯に出し忘れた服とか面倒くせぇなぁ。今から洗濯しても乾かないだろうし。

 そんなことを考えつつ、机の上に残った筆箱をしまおうとしたら、
 蓋を閉めそこねていたようで中身をぶちまけてしまった。
 ざらりと音を立ててシャーペンやマーカーが机の上を転がる。

「あーあ」

 何やってんだ、まったく。舌打ちして、ひとつふたつ拾い上げていく。
 床に落ちた消しゴムをつまみ上げる。
 さっきまで賑々しくしていた葉山・三浦グループの面々は、
 靴底をこする音をさせながら教室を出て行ったようだった。
 廊下の笑い声が遠くなっていく。

 周囲は、しん、と静かになった。

「……はあ、帰ろ」

 いつの間にか蛍光灯も消されていた。
 ねえ、電気って最後の人が消す約束じゃなかったっけ。俺まだ残ってたんだけど。
 いや日中で真っ暗ではないからそこまで悲しくないけど。
 最終下校者だし、窓の鍵くらい確認するかと横を向いたら、そこに人が居たので驚いた。

「はろはろ~。帰っちゃうの? ヒキタニくん」

 赤いフレームの眼鏡をくいと持ち上げて、海老名さんが微笑んでいた。


とりあえず今回の投下分はここまでで。
改行というか、1行あけってどうやったら読みやすくなるのかなぁ…


これくらいで区切ってあれば普通に見やすいと思うで

 特別棟の4階。
 奉仕部の部室では雪ノ下雪乃が平素と変わらぬ態で窓際の席に座り、弁当箱を広げていた。

 窓から見える景色は寒々としているが、室内は由比ヶ浜が平塚先生にねだりまくって
 入れてもらった古い石油ストーブが稼働しており、空気を乾燥させつつも暖めている。

 ほんと古い型だなこれ。上にヤカンかけてお湯を沸かしたり、スルメとか焼けちゃうやつだ。
 石油の匂いが冬を感じさせて、案外とこういうのは好きだったりする。
 今度お湯沸かしてカップラーメン食おう。

「……なんで居るんだよ」
「それはこっちの台詞ね、何の用かしら。
 あなたの顔を見ていると箸が進まなくなるからごく手短に説明願いたいわ」

 部活動休止期間中にも関わらず、雪ノ下部長まさかの在室でした!
 俺の予想は大当たりだったが、だからといって特に嬉しくもない。
 無駄足にならなくてやれやれといった感じだ。

 ていうか、雪ノ下がいるってことは、俺が知らないだけで奉仕部は冬休み中も活動するって
 ことなんだろうか。なんか夏休みも課外活動したしな。ちょっと不安になってきた。
 なので率直に訊いてみる。

「冬期講習中は部活ないって話じゃなかったか?」
「ええそうよ。校内に残る生徒もいないことだし、活動届も出していないわ」

 雪ノ下は事も無げに答えて、箸を置く。
 こいつ、部室で昼食を食べるためにわざわざ弁当をこしらえてきたのか。
 だとすれば、いつもお相伴している由比ヶ浜がいないのは、
 表には出さないだけでガッカリなんだろう。
 さっき俺が戸を開けたときもあからさまに落胆した顔してたし、
 何なら小さく舌打ちも聞こえた。ひどくない? 俺も部員だよ?

 雪ノ下はきらりと目を光らせて俺を流し見た。
 この距離から見ていても睫毛が長いのが分かるんだから相当だ。
 埃も寄せつけない美少女オーラを放っている。
 黙っていればビスクドール、立てば芍薬、座れば牡丹、
 されど舌鋒鋭きリーサルウェポンである。本人には絶対に言えない。
 口に出したら消し炭にされてしまう。

「由比ヶ浜さんは欠席?」

 ああ、と俺が短く答えると雪ノ下は自分の携帯電話を取り出して、
 白くほっそりした指で画面を繰っていく。メール画面でも表示しているんだろう。

「連絡あったか?」
「朝のうちに『ゴメン、今日お昼一緒に食べられない』と、これだけ来たわ。
 顔文字も何もないから、体調が悪いんだとは思っていたのよ」
「なんか返信したのか」
「『了解。冬期講習最終日には部室のワックスがけをするからそのつもりで』と
 返しておいたわ」
「取り急ぎ要件のみすぎるだろ……」

 学期内に大掃除の日を指定されないからいいのかと思っていたら、
 新年早々するのかよ、ワックスがけ……。
 この部室の奥の大量の机と椅子は誰が運び出すのかなー。俺かなー。
 雪ノ下さんは体力ないし、由比ヶ浜さんは小さいから……まあ俺ですね。
 なにこれ始める前から詰んでる。うず高く。

「直接、休むとは聞いていなかったから……風邪か何かなの?」

 雪ノ下は少し眉根を寄せ、小首を傾げて訊いてくる。

 言外に、お馬鹿は風邪をひかないはずだから別の病気ではないの?
 とでも言いたげなニュアンスである。それには俺も同感だ。
 だってガハマさん、ポッピングシャワーとマスクメロンのダブルだもん。
 ひいていいのは夏風邪と知恵熱くらいのもんだ。

「俺も又聞きで疑わしいんだが、風邪だそうだ。完全にダウンしてるらしい」
「おかしいわね……彼女は天然かつ真性だと思っていたのだけれど」
「おい、病人にそれ以上言うな。俺も言いたいが言わないから」
「又聞き、とはどういうことなの? あなた自身に連絡は来なかったということ?
 それとも由比ヶ浜さん、比企谷くんの連絡先を意図的に削除していたのかしら、
 そうでしょうね可哀想に。
 それと拒否谷くんは友達でもないクラスメイトの会話に聞き耳を立てすぎではないかしら。
 だいぶ気持ち悪いと思われているわよ」
「俺にもそれ以上言うな!」

 ショックでちょっと視界がぼやけました。

「聞き耳っつーか、クラスの奴が言って来たんだよ。それで、その……
 あーっと……なんだ、その、これから、み……み見舞いに行ってくゆ」

 つっかえつっかえ言った上に最後は噛んでしまった。
 雪ノ下にひどく言われたショックが尾を引いている。

「不明瞭でよく聞こえなかったのだけれど?」

 雪ノ下に、今の日本語? みたいな顔をされている。うるせ、聞こえてたくせに。
 思わず頭をがしがし掻いて、下っ腹に力を入れた。


「ゆい、由比ヶ浜んとこ、見舞いに行ってくる。
 クラスの奴と、今日の範囲分のノート届けに」

 オーケー、話頭を若干どもったが後はぶつ切れになる程度で言い切れた。
 アンディ、フランク、頑張った。
 うちのクラスの奴と一緒にということになれば、
 雪ノ下が自分も行くとか言い出す必要もなくなるだろう。

 ちらと目をやると、端正な顔立ちの眉間に一本皺が寄っていた。

「病床であなたの顔を見て、余計に寝込まないといいけれど」
「どういう意味だ」

 言い返すと、雪ノ下はひとつため息をついてそっと携帯電話を置いた。

「まあ、いいわ。あなたたちはそうやって私のところにも来てくれたのだし……
 今回は許可するわ。ただし、おかしなことはしないように」

 そう言ってふっと微笑んできた。
 さようですか……あれ、由比ヶ浜の家に行くために雪ノ下に許可を申請する形に
 なってるのはどうしてかな? 雪ノ下さん、保護者でしたっけ。

 雪ノ下の微笑みと俺の視線は交わらない。何だか少し、微妙なズレを感じる。

 ごく最初の頃は二人だけの部活だったはずだ。向かい合わないようにして、本を読んでいた。
 お互いに下を向いて過ごしていた。その沈黙を明るい声が破り、
 せせこましく話題を振りまいて仲立ちをしてくれた。その主が居ないだけで、
 俺は雪ノ下との距離まで測りかねているのかと錯覚しそうだった。勘弁してほしい。

 嘘はつかないくせに、何でも直截に言うくせに、肝心なことは言わない上、
 言葉の奥に何かをはらんでいる。綺麗な微笑みの意図さえ探りたくなってしまう。
 なんだろうか、この感じ。こんなことは今まであまりなかったように思う。

 変わっていくのだろうか。俺と彼女の何かさえも。
 世界を変えると宣言した雪ノ下は、少しずつ終わりに向かっていくこの時間の中で、
 どう在ろうとしているのだろうか。

 澪標のように。あるいは、流れる花のように。

 雪ノ下は俺を後目にまた箸を取った。それが、もうおしまいと告げているようだった。

「由比ヶ浜さんによろしくね」
「ああ、了解。あと……よいお年を」

 一人きりの昼食を再開する雪ノ下を後目に、カラカラと戸を閉めた。
 昼日中なのに冷えきった廊下で、俺は一つくしゃみをした。


続きはまた明日

>>10 ありがとう

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