のび太(ドラえもんか……何が目的なんだろう?) (94)

僕は野比のび太。小学生だ。勉強はできないし、運動も苦手だ。

ただし、頭はいいと思っている。学校の成績が冴えないのは怠け癖によるものだ。

もっとも頭が良いといっても難事件を解決できるような頭脳は持ち合わせていない。

平均的小学生よりも若干回転が速いという程度の話だ。

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そんな僕の友人や、主なクラスメイトを紹介しよう。


源静香。見た目がよく誰に対しても明るく接する少女だ。

もちろん地味な僕に対しても同様だ。

僕にもその態度によって彼女が僕の事が好きであると勘違いしない程度の分別はある。

良い家庭環境、良い友人に恵まれ、見た目の良さもあって周りから愛されて育ったと容易に想像が出来る。

自分がされてきたのと同様に周りに接している。将来にわたって大事にされるだろう。

剛田武。通称ジャイアン。腕白である。

座学では大人しいが、体育やフィールドワークになると一気に元気になる。

腕っぷしが強く、強引で、声が大きく、明るい。要するにリーダーシップのある少年だ。

怠け者の僕には少々疎ましく感じる。

もっとも、彼が強引に遊びに連れ出すおかげで、僕がクラスで孤立してないのだと思う。

骨川スネ夫。都の区内なのに豪邸に住んでいる。普通はあのような家には住めないので、親は元農家か自営業者と思われる。

おそらく後者で、それも中小企業の経営と言った感じだろう。

大企業の経営者なら、渋谷とは行かなくてももう少し都心部に住んでいるはずだ。

さらに言えば、親のスネ夫への接し方からも推察できる。

勉強ができない訳ではないが、親の勉強への力の入れ方がそれほどでもない。

これの意味するところは、学生時代の成績から淘汰が始まる勤め人として立身出世を果たした人物ではないと言うことだ。


スネ夫の紹介からズレてしまっていたが、彼の紹介には上記のことが必須なのである。

彼のアイデンティティーは親の資産である。故に新たに高価な物を入手すると自慢してくる。

僕としてはお零れに預かれるので自慢に目を瞑れば問題がない。

将来に渡って豪遊できる資産はないだろうから、銀座などで豪遊して身を崩す御曹司の典型だろう。

少々彼の将来が心配ではあるが、僕も人の将来を心配できる立場ではない。彼の問題は自分自身で何とかするだろう。

出木杉英才。いわゆる完璧超人である。勉強良し、運動良し、人格良し、おまけに見た目も良い。

嘘くさいほどによく出来た人物である。

人間には欲望がある。よく七つの大罪などというが、差し詰め僕の場合は『怠惰』の虜と言ったところだろう。

この出木杉という少年は、一般に子供は欲望に流されやすいにも関わらず、それらとかけ離れた生活態度である。

源静香を好んでいる節はあるが、『色欲』に流されている訳ではない。

スネ夫の時の様に家庭環境を推測するに、勤め人、それもかなりの高学歴で出世コースにあるのが親と推定される。

もしそうでないなら、常識外のナショナルボーン天才って奴だ。数々の難事件でも解決してくれ。

アメリカでは、政治家を志す連中は学生時代から、品行方正、ボランティア活動にも勤しむらしい。

出木杉も或はその類なのかも知れない。

もっとも日本の政治家は家業・自営業者の側面が強く、小選挙区制と相まって能力よりもコネの方が重要なはずだ。

出木杉が知らないとは思えず、やはり謎である。(コネ作りも能力と考えれば、その能力はありそうだが……)

そんな僕が何時もの様に自室で惰眠を貪っていると、アイツがあらわれた。『ドラえもん』だ。

ドラえもんは未来からきたと言っている。

机の引き出しを異次元としてそこから現れた時点で、『未来』からきたにしても『異常』だ。

容易に異次元を作り未来人がこれるのならば、そこらじゅうが異次元となっており、街は未来人で溢れているだろう。

なにせ、時間軸に対して、同時に並行的に存在が出来るということは、過去への延べ渡航者数がそのまま未来人の数になるのだ。

未来人がそんなにありふれたものであるのなら、一度や二度遭遇しているはずである。

ところが、実際には、遭遇どころか、その様な者に会ったという噂すら寡聞にして聞かない。


ドラえもんが言うには、未来の子孫が怠惰な僕を見かねて矯正用にドラえもんを送ったらしい。

ドラえもんは一枚の写真を見せた。僕とジャイアン----剛田武----の妹が結婚している写真だった。

僕でも結婚できたんだと感心しているのも束の間、ドラえもんは続けた。


『このままだとジャイ子----剛田武の妹-----と結婚することになるが、頑張れば源静香とも結婚できる』

明らかにおかしい。その子孫にとって僕は先祖だとしても、ジャイ子も同様に先祖なはずだ。

一方を貶めて、一方を発奮させる?自らの存在を危険を晒してまでそんな事をするだろうか?いや、しないであろう。

或は、未来が分岐して、自分の存亡に関係になかったとしたならばどうであろうか?


答えは否!未来人の存在を聞いたことがない時点でイレギュラーである。


未来人がきていた場合、おそらく関係者を皆殺しにするか記憶を改変して存在を隠している。

その様に道徳的な問題があり、手間もかかる。故に、法的な規制があるか、少なくとも膨大なコストはかかるはずだ。

それを情けない先祖が居るというだけでやるはずがない。

僕をこんな単純な事すらわからない馬鹿と思ったのだろうか?

単純に通知表等の成績から僕が選ばれた可能性が高い。

杜撰さから、極めて大きな組織の予算消化の為の実験の可能性がある。


……そうなると、未来の政府か類似の機関によるものか?いずれにせよ、一小学生に対抗する手段はない。


未来人が隠匿されてたことから、下手をすれば、僕だけでなく、両親や知り合いに害が及ぶ。

彼らの望むようなボンクラ小学生を演じながら、真の目的を探る事にした。

目的を探る事にはリスクが伴うが僕にも意地がある。他人のおもちゃとして翻弄されてたまるか!

ドラえもんがきてから僕の周りが変だ。


例えば、源静香。

いつの間にか僕のことを「野比さん」ではなく「のび太さん」と呼ぶようになっていた。

僕のファーストネームを知っていたことですら意外だったのに、それで呼ばれるなど夢にも思っていなかった。

僕の方は「ドラえもん」に疑われない様に、流れに乗って「源さん」から「しずかちゃん」と呼ぶようにした。


また、人間関係においても彼女が中心だった女子グループを離れて、男子、特に僕への接触を積極的にはかる様になった。


加えて言えば、ドラえもんに促されるままに『道具』を使うと彼女の入浴シーンに度々遭遇する。

普通であれば、いきなり自宅の浴室に同級生があらわれれば良くて絶交。最悪警察沙汰である。

それが彼女の場合は、その場で適度に恥ずかしがるだけで、何の問題も発生しないのである。


ドラえもんが頑張れば彼女と結婚が出来ると発破をかけてたのと合わせると、露骨な誘導の様に感じる。

例えば、剛田武。よくも悪くも子供たちのリーダーだったが、最近は悪い方向の方への行動が目立つ。

粗野さや暴力衝動、欲望への忠実度が跳ね上がっているのである。


例えば、スネ夫が何かを自慢するとそれを取り上げて自分の物にしてしまう。時として、暴力を振ってでもだ。

また、『ジャイアンリサイタル』と称するカラオケ大会を主催し、強制参加の上で料金も徴収し始めた。


また、気に入らないことがあると理不尽に暴力を振う。

それも尋常な暴力ではなく、時としてバットを使ったりもする。


それについて周りの大人たちも黙認している様子だ。おかしい。

例えば、骨川スネ夫。自慢は相変わらずだが、ドラえもんがきてから、あえて僕を外す様な自慢をし始めた。


例えば、「ドライブに行くけど、座席が足りないからのび太はダメ」、

「三人用のビデオだから見せられない」等と言った感じだ。


スネ夫は自慢癖があったが、それは自分を大きく見せる為であり、

僕を除外してケチ臭さを露呈することはしなかったはずだ。


さらに、金持ち喧嘩せずで鷹揚と構えていたのに、今では僕に対して些細な事で怒るようになった。

このスネ夫とジャイアンの行動によって僕は『ドラえもん』に泣きつかざる得ない事案が度々発生している。

正確には、他の手段もあるのだが、明らかな誘導であり、僕がそれに乗ってる。

……不審に思われることこそを恐れないといけない。

ドラえもんはというと、泣きつかれるとそれに対応した、その場しのぎの道具を提供してくる。

スネ夫におもちゃを自慢されたら、それよりも立派なもの。

スネ夫から仲間外れにされたらそれを上回る娯楽。

ジャイアンに暴力を振われたらそれに報復するための道具。

その他欲に餓えればそれを満たす道具。…そう言った塩梅だ。


なるほど、僕が愚図であったのなら、大喜びしたであろう。


ただ、僕には解る。ドラえもんが提供してるのはその場限りでの解決であり、何の為にもならない一時の娯楽だ。

これを受け入れてしまっては、努力も何もせず、容易に目的が達せられる為に、簡単に堕落してしまうだろう。

それだけではない。自分の欲求が満たされなければ、何の工夫もせずに、すぐに周りの所為にする人間として育ってしまう。

矢張り、ドラえもんの自己紹介は嘘と見做した方がいいだろう。目的はなんなのか。未だに皆目見当がつかない。

ドラえもんとそれなりの時間を過ごし、得られた情報をまとめてみた。

①未来からきた(事実かどうかわからない)

②不思議な現象を起こす道具を有する(少なくとも僕はそう思っている)

③食べるが排泄はしない(と、本人は言ってる)

④どら焼きが好物(少なくともそう振る舞っている)

⑤ネズミが苦手(同上)

⑥しっぽを引っ張ると機能を停止する(出会ったころは透明になる機能だったので極めて怪しい)

⑦ドラえもんを送ってきたのは『セワシ』という玄孫(野比家は代々『のび』を付けるので外孫か、さもなくば嘘)

⑧ドラえもんは有するポケットから道具を出す(たまに既に出ている場合がある)

⑨タイムパトロールというものが存在する(ドラえもんの存在は黙認か?活動目的自体が不明)

ここから考えられるのは、事実としては、

a.正体が不明

b.常識外の不思議な力を持っている

c.嘘をついてるとまでは断定できないが、極めて不審

d.何らかの組織が存在するが、ドラえもんらの活動に対しては少なくとも干渉はしていない

これらと僕の環境等を加味した上で推測するに、

A実際に未来からきたと想定した場合

・目的
1何らかの実験(観察を含む)

2このまま僕が成長すると困る
(怠惰故に大成するとは思えず、大きな犯罪を犯すとも考えられないので可能性は低い)

3ジャイ子と結婚されると困る
(リスクやコストを考えると明らかに見合わない。子孫等で危険人物が居れば本人を排除すればいいだけ)

4源静香が誰かと結婚されると困るから当て馬とされている。
(源さんの行動の変化から直接干渉をすればよく、僕を起点とする意味がない。可能性は薄い)

5僕に源静香と結婚されないと困る
(源さんと同様、僕の意思に干渉すればいいだけ。遺伝的な話ならもっと楽。こんな遠回し方法にする意味が無い)


B未来からきている訳じゃない場合

・現代技術の常識を超えているので、常識的な組織はあり得ない。
→宇宙人等か?何故僕なのかを含めて、情報量が少なすぎて不明。


……いずれにせよ、もう少し様子を見ないといけない。





※本当は「石ころ帽子」や「悪魔のパスポート」のみ出してトゥルーマンショーなオチにしようかと思ったのですが、
期待を裏切ることになるようなのでノープランながら方向転換です。
考えながらになるので亀になりますがよろしくお願いします。

ノープラン故に考察、ストーリー予測、ストーリーへの願望等何でも歓迎します。

アウトラインはできましたが……


・厨二な流れになります。

・後味がとっても苦くなります。

・あれっ?これドラえもんじゃなくね?ってなります。


そういうのはチョット……という方は読み進めない方がいいです。

七月に入った。あと一ヶ月で僕の誕生日だ。

この頃からドラえもんが僕に対して直接欲求を促してくるようになった。


『のび太くんのあや取りは凄いね。それが重要で魅力的となる世界にしないかい?』

『スネ夫の持ってるおもちゃよりも立派なのが欲しいよね?』

『スネ夫みたいなお金持ちが羨ましくないかい?しずかちゃんの様な明るい家庭は?出木杉君の才能や人格はどう?』

『ジャイアンに理不尽な暴力を振われて頭にくるよね?復讐したいよね?』

『焼肉とか刺身みたいな御馳走を毎日お腹一杯食べたいよね?』

『しずかちゃんと付き合いたくない?なんならアイドルでもいいよ?熟女がいいならジャイアンのお母さんだって……』

『のび太くんはそのまま何もしなくてもいいんだよ。全部道具で解決できるからね』


万事このような感じである。

これで解った。ドラえもんは僕に対しては、他の人達にしたように性格や行動に直接の干渉を及ぼせない。

もしくは、出来たとしても、そうしてしまっては意味が無いようだ。

だから、ドラえもんは僕の欲望を叶える形をとろうとしてる。

また、ドラえもんは僕の欲望を喚起させるか、僕を堕落させること自体が目的なのも明らかだ。

なぜなら、愚図に絶対的な力を与えたらどうなるか等の観察ならば、これは明らかに干渉しすぎてる。

これでは、有用な観察結果はとれないだろう。

或は、強引な方法でデータを集めようとしているのならば、早々に終わらせてこちらを処分する気に違いない。

できるだけ取らせない。時間稼ぎに過ぎないかもしれないが、それが周りを守る最善の方法だと結論付けた。


したがって、僕はドラえもんの申し出を全て誤魔化した。

魅力的なのもあったが、実際のところ、僕は惰眠を貪るのが一番好きなので、そこまで未練はなかった。

僕の誕生日が近づくにつれてドラえもん自身の言動やその影響下にあるであろう人達の言動が露骨になってきた。

ある時は伊藤翼というアイドルを道具で呼び出した。そして僕にこう囁く


『きみが望めばなんでも叶えるよ』



またある時は、ジャイアンとスネ夫をして源さんに対してわいせつまがいのことをさせる。そしてまた囁く


『きみが好きな女の子があんな目にあってるのに悔しくないの?それとも参加したい?きみさえ望むなら…』


これに付いては、復讐という形ではなく、制止という方向で道具を使おうと思った。

具体的には『安全カバー』で保護することを考えた。しかし、止めた。

非常に心苦しいが、これを弱点と見做されると似たような、かつ、エスカレートした行動に出るだろう。

あくまで、他人の痛みすらわからない愚鈍な人間で、自分への痛みも感じない人間を演じなければならない。


それらの囁きをのらりくらりとかわし続けた。

ドラえもんの目的は二つの内のどちらかだ。僕を欲望のままに動く人間にしたいか、僕の欲望を叶えたいのだ。

理由は解らない。一小学生の欲望を叶えてどうしようというのだろうか想像もつかない。


ただ言えることは、僕は惰眠を貪れればいい。僕は僕のペースで生きるんだ。

たとえ相手が誰であろうと躍らされてたまるものか!


そして僕の誕生日前日となった。その日は朝からおかしかった。

>>5
ナショナルボーン天才(笑)
松下製かよ

八月なので暑いのは当然だったが、その日は特に蒸し暑く、僕の眠りは湿気によって妨げられた。

それもその筈、源さんとアイドルの伊藤翼が僕の布団に寝ていたのだ。

のび太「うわぁ!!」

流石の僕も驚いて飛び起きた。

しずか「あら?のび太さん起きたの?」

訳が解らず、無意識に部屋から飛び出ようとした僕だった。

しかし、これまた僕が好きなアイドル----丸井マリと星野スミレ----に阻まれた。

星野スミレ「あら?女の子に恥をかかすの?」

後ろから伊藤翼が僕に腕を絡ませて、耳を軽く噛みながら囁く、

『のび太さんが望むなら全部好きにしていいのよ?』

精通もまだだし、ついこの間まで女の子と碌に話したこともない。

ましてや「女と遊んでる~!」と冷やかす年頃の僕には刺激が強すぎてなにがなんだかわからない。


その時突然ふすまが開いた。

『野比くん!無事か!』

出木杉君だった。





>>49 小学生だから!! ミスとかじゃないよ!うん、ミスだけど……

彼女たちは突如出木杉君に襲い掛かった。

と、思うやバタバタと倒れた。

出木杉君が何かをしたようだが僕にはわからなかった。

僕は源さんをみた。人ではない醜悪な顔になっていた!

のび太「え!あれ!?」

出木杉「話は後だ!囲まれる前にここを脱出するよ!」

僕は出木杉君に手を引かれて裏山まで逃げてきた。

途中、何人かに襲われたが出木杉君が撃退した。

遠回りしたりしながらきたためにもう日は暮れていた。

のび太「ハァ…ハァ…なんなんだい?あれは」

出木杉「正真正銘しずかくんだよ」

のび太「…ハァ…ハァ…でも、あれはどう見ても化け物だったよ?」

出木杉「きみがドラえもんと呼んでいる……彼…いや彼らの仕業だよ」

のび太「ドラえもんが異常なのは気が付いてたけど、何の為……いや、彼はなんなのさ」

出木杉「ドラえもんは、別の呼び方をすると『バアル』」

のび太「バール?あの鉄の棒みたいな?」

出木杉「カエル、猫、人間の姿を同時に併せ持ち、しわがれた声で喋る。東方を支配する強力な魔王さ」

のび太「魔王!?」

出木杉「……世界は生まれ変わろうとしているんだ」

のび太「?」

出木杉「その新世界の基準が野比君。キミなんだ。キミが十歳の誕生日を迎えると世界が変わる」

SFかと思っていたらファンタジーだった。僕の困惑を他所に出木杉君が続ける。

出木杉「だから、『ドラえもん』はキミを欲望に忠実な人間にして、自らの望む世界にしようとしてるんだよ」

のび太「そんなの初耳だよ!」

出木杉「言えない事になってたからね。『ドラえもん』も同様さ」

のび太「今になって何で言うの?」

出木杉「ドラえもんが手下にしていた彼女達が僕を攻撃したからね。これによって一部の制限が解除されたんだ」

のび太「制限?ルールでもあるの?」

出木杉「ああ……例えば僕は『ドラえもん』よりも先に君に接触できるけど、距離をおかないといけない」

のび太「そんなの無視しちゃえばいいじゃん!」

出木杉「監視されてるのさ。監視者達は『ドラえもん』寄りだけど、一応中立さ。それに制限は僕に有利なんだ」

監視者とは例のタイムパトロールだろうか?

出木杉「ドラえもんは僕よりも強力な上に仲間もいる。もっとも、僕らにとっては約束は絶対なんだけどね」

出木杉「ところで、野比くん。この世界は何回目だと思う?」

のび太「え?」

出木杉「僕が知っている限りでも108回目なんだ」

のび太「?」

出木杉「ここまでの107回は全部『ドラえもん』の圧勝だったんだ。それでも新しい世界は生まれなかった。」

僕の理解を越えているが、出木杉君は続ける。

出木杉「毎回、友人たちと過ごした日々や『ドラえもん』を信じる気持ち----良心----が完全な変化を拒んだ」

出木杉「……欲望に流される気持ちと良心がぶつかり矛盾を産み、世界が生成されずに繰り返しになったんだ」

出木杉君はこちらのことなどお構いなしで、どこか興奮した面持ちで続ける。

出木杉「今回の様に『ドラえもん』が劣勢なのは初めてなんだ!だから、ドラえもんは何時もより強硬な手にも出てる」

出木杉君はそう言うと僕の両肩を掴んで、目を見て話しかけてきた。

出木杉「キミは一見『怠惰』に流されているようだが、それは違う。
僕は知ってるんだ!鋼鉄の意思で皆を守ろうとしてたのを!
野比くんはならば、必ずや世界を維持し『ドラえもん』の野望を打ち破れる!!」

のび太「はぁ……それで僕は何をすればいいのさ」

出木杉「野比くんはその気高い精神を維持したまま明日を迎えればいいのさ」

気高いと言われると何だか違和感を感じるが出木杉君から見るとそうなのだろう。

出木杉「だが、圧倒的劣勢は『ドラえもん』も理解している。おそらく、道中同様野比くんを殺しにくるだろう」

のび太「ええ!?僕殺されるの!?」

出木杉「……できるだけ守るが、さっきも言ったように『ドラえもん』達の方が強力だ」

そう言いながら、出木杉君は本と、1本の紐を寄越してきた。

出木杉「これは特殊な紐だ。これを使ってキミの得意なあやとりで本にある印を結べば簡単な結界を作れる」

のび太「あの……それって自分で守れってことなの!?」

出木杉「それだって気休めだよ。最終的にはキミの意思にかかっている。キミは心が折れない限り死なない」

のび太「死なないのに殺しにくるの?」

出木杉「ああ。心が折れればキミを殺せる。そしたらまたやり直しさ。何があっても負けない心を持ってほしい」

なんだかとんでもない事に巻き込まれてしまった。

出木杉「裏山に張った結界もそろそろ崩壊する。そうすれば、一気に敵が押し寄せる。残り三時間だ。頑張ろう」


その後は、裏山に多数の人----顔や体つきはもはや化け物であった----が押し寄せてきた。

出木杉君が言うには、結界の残滓が残っているので、こちらの明確な場所はわからないらしい。

事前に仕掛けておいたという罠によって何人かの人が犠牲になった。それについて出木杉君は、

『世界が再構成する時に、ドラえもんのやったことはなくなるから問題ない』と答えた。

続けて、出木杉君は、『キミは射撃が得意だったよね』と言って小口径の拳銃を渡してきた。

出木杉君の言葉を思い出し、その人達を撃とうとしたが、引き金は引けなかった。

出木杉君はそれを見て、満足げな顔で、『それでいいんだ』と言っていた。

時たま僕に攻撃してくる人がいたが、例のあやとりで特定の形を作ることで攻撃を弾くことができた。

日付が変わるまで残り30分を切った。僕らは何時もみんなで遊んでいた空き地にきていた。

『山からここまで隠匿用の結界があるんだ。山に潜伏してるように見せてるのもフェイクさ』

出木杉君は勝ちを確信したかのような口ぶりで僕に言ってきた。


ドラえもん「やっぱりここだったね」

ドラえもんは多数の町の人----だった----を引き連れて僕の前にあらわれた。

出木杉「馬鹿な!!」

ドラえもん「純粋な結界なら入れないけど、隠匿用の結界じゃあ、発見されたら意味ないよねぇ~」

出木杉君はドラえもんに挑むも一瞬で敗北----源さんが出木杉くんに負けたように----した。

ドラえもんは僕の方を見ながら心底不思議そうな顔をして聞いてきた。

ドラえもん「のび太くんはなんで僕を拒絶したの?キミに不利益なことはなかったはずだよ?」

のび太「………他人の掌で踊るのは嫌だったから…」

ドラえもん「ふ~ん。のび太くんにしては頑固なほど芯が強く、洞察力もあったということだね」

のび太「……」

ドラえもん「……半端な洞察力ではなく、もう少し優れた洞察力が合ったら僕らは幸せだったのに」

そう言いながら、町の人達は出木杉君を拷問にかけ始めた。

出木杉君は悲鳴をあげない様に我慢しながら僕に言ってきた。

『野比くん……見ちゃだめだ!これはキミの心を折るためのものなんだ』

そうは言っても見ちゃったものは仕方がない。僕は完全に恐怖に陥った。

ドラえもん「のび太くん……キミは本当に馬鹿だったなぁ」

ドラえもんは心底飽きれたような口調だ。

ドラえもん「全てが手に入ったのに、死ぬに死ねない苦痛だけを手に入れたんだから」

次は僕が拷問を受けるってことだろうか、漏らしてしまった。恐怖で何も考えられない。

ドラえもん「残り一分ギリギリ間に合ったね」

出木杉君が力を振り絞り僕に声をかけてきた。

『世界を!しずかくんを!ジャイアンを!スネ夫を!!ご両親を守る為にここまできたんだろ!!』

ドラえもん「まだ喋る元気があったんだ?もう遅いけどね」

ドラえもんがそう言うとポケットから爆弾の様なものを取り出した。

ドラえもん「のび太くんが死ねば世界がそのまま再生するんだ。地球ごと殺してあげる」


僕は出木杉君からもらった言葉で、勇気を振り絞り、預かっていた拳銃をドラえもんに放った。

ドラえもんの動きが若干怯んだ。思っても無かった反撃だったのだろう。

ダメージは全く与えられなかったが数秒を稼げた。その数秒が明暗を別けた。

僕は目を覚ました。夏とは思えない気候だった。

一階からママの声がする。「のびちゃ~ん」起きないと学校に遅刻するわよ~

おかしい。今は八月。夏休み真っ最中のはずである。

カレンダーを確認すると四月だった。ドラえもんがきたあの日に戻ったらしい。

それと同時に股間の冷たさに気が付いた。おねしょをしてたらしい。


ドラえもんは現れなかった。そして僕の十回目の誕生日も何事もなく過ぎ去った。

今までの日常に戻ったのだ。……ただ一つ、出木杉くんが居なくなったことを除いて……

それから三十年の月日が過ぎた。

しずかちゃんは数年前に大手企業に勤める名門出身の人と結婚したとのうわさだ。

ジャイアンは実家の雑貨店を閉店して、仲間と一緒に起業したらしい。

スネ夫は年と共に放蕩癖は収まっていき、家業の取締役になっていると聞いた。


僕は……

その時、一階から声がした。

『のびちゃ~ん。お誕生日のケーキを買ってきたわよ!一緒に食べましょう』

僕は返事をした。

『は~い。ママ今行くよー!!』

一階に行く階段を降りながら、僕は考える。僕がしたことは本当に正しかったのだろうか?

ドラえもんは僕にとっては本当に味方で友達だったのではないか?

いつの日にか、ドラえもんも皆もいて仲良く子供時代を過ごせる。

そんな夢をみながら、あるいは見る為に、きっと、今日も明日も惰眠を貪るだろう。

食べられなくなるその日まで……





チラ裏SS オチマイ

付き合って頂いた皆様においては、お疲れ様でした。





のび太が凄い才能を眠らせてるから、

リスクを承知で才能を目覚めさせるって話にするはずがどうしてこうなったのでしょう?

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