慄える小鹿の愛しさよ(16)

ジャン「あいらいっつもベタベタしてて気持ち悪リィ」のモノです。
小説風のシリアスを書けたらいいと思います。お付き合いくださると幸いです

全てが終わったわけではない

正体不明の巨人になるという少年、人間兵器。

それがトロスト区の門を巨大な岩で塞ぐという前代未聞の出来事

そしてその成功した快挙。

初めて人類が巨人に勝利したと言う、喜ぶべき事なのに

それに伴った被害はあまりにも大きすぎた

到底素直に喜べないこんな夜にも、この月夜は余りにも美しく照らしている

コツ、コツ、と歩く足音と冷たい月が駐屯兵団基地城の廊下を見つめる

打ち鳴らすつもりのない靴音でも梟も寝静まる夜では意味もない

靴音に耳を流しながら進む足取りは、重くも、軽くもない、普段通り

なのに心は重く沈み、彼の人の狼狽した表情と声だけが砲弾のように反響する

慣れ親しんだ足はたいした時間もかけず、駐屯兵団隊長の執務室の扉の前で止まった

「キッツ・ヴェールマン隊長、リコ・プレツェンスカです。入室許可を頂いてもよろしいでしょうか」

二回のノックと馴染みの言葉、今まで何度も言ったことのある言葉に機械のように唇が動く

業務のため、昼間は何度も唇に紡がせる

しかし、この夜は、この時はまったく意味の違うものとなる

その事を、私はもう何度味わってきただろう

返事を待っていると、またいつもと同じ間隔の間で隊長から返事が出る

「---…入りなさい」

「はっ、失礼します」

重厚な扉を開く、その重さは夜になると違う気がする

ーいや、この"時"だからこそ、こんなにも重く感じるのか

扉を閉め、鍵をかけると、その執務室の長に向き直る

「…ヴェールマン隊長」

「今は"キッツ"と呼びなさい、そうだろう…リコ」

「えぇ、キッツさん…」

月明かりが照らす窓の下、狼狽した彼の表情、昼間見たそれとは変わらず…

いやむしろより狼狽し、痩せこけた様に見える

生まれたての小鹿が、今にも命の灯火に消えてしまいそうなー…

そんな不安と、どうしようもない愛しさにうっすらと目尻が熱くなった

ゆっくりと、怯えさせないように彼の座る椅子へと歩み寄る

絨毯が硬い靴音を吸い取るのと同時にこの罪の意識も軽くなる気がする

ピクシス指令の側近ですらここまで近くないだろうと、それほど傍に寄る

青白い月に照らされた彼は哀れなくらい憔悴しきっていた

少し値の張る酒を先程まで煽っていたのだろう、アルコールの匂いの残るグラスが光る

無理もない、あんなにもありえない出来事が起きていたのだから

「君は…私を情けなく思うか?」

自嘲するように笑う彼に、胸に鋭い剣を刺されたような痛みを感じる

嗚呼、なんて情けない人ー…

そして、どうしようもなく、愛しい人

「いいえ、そんなことは思いません。あの時誰もがキッツさんと同じことを思い、あなたの支持を頼りにしました」

支えるように、彼の背後から腕を伸ばし、逞しい首に絡める

かすかに震えるその首筋が、どうしようもなく愛しい

「もちろん私も…結果、貴方の思惑と違えど、最終的に人類は救われた」

「貴方は間違ってなんかいなかった」

「私は、貴方を見限ったりなどしません」

嗚呼、私の声もどれだけ震えているだろうか

彼を小鹿と呼ぶ人を、怒ることなんて私もできないー…

「リコ…君だけが私の救いだ…意志の強い君の言葉が、私を救ってくれる…」

「妻にも、こんな弱い姿は見せられたことはなかった…」

薄い唇、そして彼の気の弱さを隠すための大きな髭ー…

彼自身から紡がれる言葉に、後暗い悦びと、甘い愉悦が胸を締め付ける

「そんなことを言ったら…奥様に悪いですわ…」

「なに…今頃あいつは内地で何も知らずに、幸せに暮らしているてんそれだけで十分だ」

そう、彼が普段、頼りがいがあり優秀な隊長であるために…

妻にも、子供にも、そして部下にも、優秀な指揮官であるためにも…

私が必要なんだ…

私だけが、彼のこんなにも弱い部分を知っている…受け止められる…

それだけでいい、それが今の自分と彼を肯定してくれるー…

寂しい月明かりが、身を寄せ合う私達を照らしてくれる

しんみりとそう思っていると、黙りこくっていた彼が急に私の腕を引っ張った

「キャッ!…キッツさ、なにを…ひゃぁ!」

「今宵は冷える…私を、どうしようもない私を温めてくれないか?」

あっという間に腕を取られ、抱えられるようにお姫様だっこをされる

そんな親に捨てられた子供のような顔をしないでください

そんな暖かい腕で、そんな瞳を向けないでください

「…奥様とお子さんに…悪いですわ」

言葉とは裏腹に、そのたくましい肩に回す腕を止められない

夜が明け前までの逢瀬、それまでは共に過ごしたいのは同じだから…

「今更であろう…愛しい者よ…」

「キッツさん…」

白く柔らかなシーツに横たわらされ、どうしようもない深みに嵌って行くー…

自分の気丈さを称える細い眼鏡を優しく取られ、彼しか知らない自分を晒される

絡ませい合いながら、互いに深い場所に落ちていくのを感じていた…


………………
……………
…………

………
……


リコ「…何よコレェェエエエ!!!!」

イアン「何って、俺の書いた恋愛小説だ。中々いい出来だろう?」

リコ「確かに読みやすく引き込まれるストーリー…ってそうじゃないわよ!!」

リコ「なんで!!登場人物が!!!私と!!ヴェールマン隊長なのよ!!しかも不倫!!!」

イアン「面白いだろ?こういう大人の恋愛もの好きなんだ」

リコ「あんたの好みなんてどうでもいいわ!!これじゃあ私と隊長の仲が疑われるじゃない!!」

イアン「大丈夫だって」

リコ「大問題よ!!!ひっかくわよ!?」

イアン「落ち着けって…ほら、ここよーく読めよ」

リコ「…なになに?『この物語はフィクションです、実際の登場人物とはなんら関係ありません…タブン』

リコ「タブンってなによぉぉぉ!!!!ふざけんな!!私はあんな妻子持ちのヘタレオヤジなんか興味ないわよ!!」

イアン「うわあ立体起動すんな!!落ち着けって!悪かったって!!」

リコ「私はまだうら若き乙女なんだから!もっと若くて格好良いのがいいのよ!?」

イアン「わ、わかったわかった…これはしまっておくから…」

リコ「今すぐ処分しろ!!!」

ギイッ

キッツ「おい!随分騒がしいな!職務中だぞ!!?」

リコ「ひゃ!隊長!?」

イアン「な、なんでもございません!!」

おわり

以上で完結です。小鹿×リコもどきというドマイナーにもほどがあるssを書いてみました…
誰得なんだこれ

次はまた幼馴染三人組を書きたいですね

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