男「勉強しよう」女「ばっちこい」(19)
女「おとこー。日付変わるよー。朝が来たら大変だよー」
男「んー……」
女「おーとーこー、男?」
男「……ん」
女「起きて。大変なんだよ」
男「んーん……」
女「んーん、じゃなくて大変だから。一刻を争う緊急事態なんだよ」
男「んーん」
女「おっきろー!」
男「あーっ! なんですか?! なんで明るいうち来れないの?! なんで毎回寝込みを狙って不法侵入するのさ?!」
女「それは後で話すよ。今はそんなことに構ってられないの!」
男「俺には最優先で解決してもらいたい問題なんだけどな?!」
女「起きたよね? 目は覚めたよね?」
男「明日が何の日か知ってるよね?」
女「もちろん知ってるよ。だって私と男の大事な日だもん……」
男「頬を染めて特別な記念日みたいに言わなくていいです。分かってるなら女も明日に備えて布団に入りなさい。俺も寝ます。おやすみ」
女「駄目なの! 寝ちゃったら取り返しつかなくなるの!」
男「なんで取り返しが付かなくなるの? むしろ、今のうちに寝ておかないと明日の定期テストで……」
女「……。」
男「そういうことね」
女「取り返しつかなくなるんだよ……」
男「はぁー……、今回だけ面倒見てあげる」
女「つ、つまりそれは」
男「勉強をしよう」
女「ばっちこい」
男「あらかじめ言っておくけど、徹夜はしない」
女「はい」
男「不安な教科はどれ?」
女「社会と英語」
男「国語も毎回のごとく赤点すれすれだよね?」
女「対策として小説を沢山読みました」
男「題名は?」
女「ぐりと」
男「今晩は国語をやろうか」
女「え? 英語……」
男「平仮名ばかりの羅列を小説にカテゴライズする人に選択権はありません」
女「でも1冊読むのに2日もかかったよ」
男「そんなんでよく今まで赤点を取らなかったね。むしろ、なんで生きてこれたの?」
女「運と運が見事に絡みあってこう」
男「よし、勉強を始めよう」
女「男が話を聞いてくれない」
男「赤点を取りたいなら会話してあげる」
女「男とお喋りできるなら赤点を取ってしまうのもやぶさかでは」
男「はい、教科書開いて」
女「あれー?」
男「鞄ごと持ってきてるってことは中身は全教科……は、無理にしても最低でも5教科は揃ってるんだよね?」
女「鞄の中はお菓子だけだよ。食べる? かりんとうと綱あられと」
男「これ全部没収ね」
女「っ?!」
男「舐めてるの? 女は人生を舐めきってるの?」
女「男が喜んでくれると思って持ってきたのに……」
男「お菓子で喜んでもらいたいなら、スナックと呼べる物を鞄に詰めて来るべきだったね」
女「……だから背が伸びないんだよ」
男「教科書を貸してあげるから272ページの蛇足を音読してみようか。一度でもつっかえたり誤読をしたらやり直しね」
女「か、漢文の音読だけはご勘弁を!」
男「なら、教えてもらう側らしい身の振り方をして。俺は女のピンチに付き合ってるだけで、赤点なんか取らないんだから」
女「かしこまりました」
男「ルーズリーフ貸してあげる。はい」
女「ねえ、国語ってどうやって勉強するの?」
男「どうやってって、教科書を読んで例文を解いて漢字練習するだけ」
女「それって現代文だけだよね?」
男「漢文や古文だって同じだよ。新しく出てきた単語は書いて読んで覚える」
女「ほへー」
男「頻出単語に目が行きがちだけど、出番の少ない語句であればあるほど意地悪な出題者はいじりたくなるだろ?」
女「うんうん」
男「だから、古文漢文は基本的に全文をノートに書き写します」
女「そこまでするの?」
男「それが基本なんだって。そして単語を調べて、隣のページに現代語訳や日本語訳を書きます」
女「うえぇ……」
男「それで授業用のノートが完成です」
女「数学しよう」
男「理数系なんて女の得意分野じゃん。しなくていいよ。明日に最後の確認と調整をすればいいさ」
女「だって、だって……」
男「なに?」
女「書き写せって言うんでしょ? 教科書から」
男「残念だけどそんな時間はない」
女「ほ、本当っ?!」
男「喜ぶ気持ちも理解できるけど、その根っからのめんどくさがり屋は治すべきだと思うよ」
女「あ、え……うぅ……」
男「それに明日のテストの国語系統は現文だけだから、古文漢文に割いていられる時間もないし」
女「社会もあるよ。世界史」
男「……それも勉強してないの?」
女「うん」
男「なんで……って暗記モノだからか」
女「授業聞いてても全然頭に入ってこないよ。『タヴァスコ・ガ・マダ』とか『レオパルド・ダ・ピンチ』とか」
男「『ヴァスコ・ダ・ガマ』と『レオナルド・ダ・ヴィンチ』ね。調味料も兵器名もまったく関係ない」
女「だから世界史しよ?」
男「世界史は手に負えないから、いっそのこと斬り捨てた方が賢明な気がするんだけどなあ」
女「でも追試やだ」
男「やだ、とか言われても絶対に明日の科目は3つのうち2つが追試になるんだから諦めようよ」
女「3つのうち2つ?」
男「1時間目から世界史、現代文、英語です」
女「ごめんね。私、概日リズム睡眠障害だから明日休むかもしれない」
男「なんでいらない知識ばかり肥やしてるの? 女のずれてる体内時計は生活改善で直せる範疇だからね?」
女「男は苦手な教科なくていいなー」
男「女に努力って言葉を2万回くらい書き綴ったノートを毎食に食べさせたくなった」
女「どうやったら勉強が好きになれるの?」
男「べつに好きってわけじゃないさ。やらなきゃいけないから、してるだけであって」
女「私もそう考えてるんだけどどうしても奮起できなくて……」
男「勉強って聞くと堅苦しい授業とか強制参加のテストってイメージばかりが先行して馴染めないんでしょ」
女「まさに男の言う通りでございます」
男「そうじゃなくて、もっと気楽に考えればいいんだよ。むしろ考えなくていい」
女「勉強中は頭を使うなってこと?」
男「この場でその解釈を口に出せた勇気は褒めてあげよう」
女「ごめんなさい!」
男「女が数学や理科が得意なのはどうして?」
女「どうしてって……なんで?」
男「俺に聞かないでよ。そこから解決の糸口を探していきたいんだから」
女「聞かれても判んないよ。他の科目よりも点数がいいだけで全体から見ればいつも平均くらいだし」
男「前の学年末テストの結果はどうだった?」
女「理数系?」
男「理数系」
女「化学が42点で数学が38点」
男「今後は理系を主張するのをやめようか」
女「ええっ?!」
男「驚きたいのはこっちだよ。平均点確実に下回ってるし、数学に至っては赤点じゃないか」
女「ちゃんと追試で合格したよっ!」
男「追試を受ける時点でちゃんとしてないんだよ? 普段は家で何してるの?」
女「それは……男と今度なにをしよっかなーって考えてて……」
男「……。」
女「男? 怒った? おとこー?」
男「いや、うん。大丈夫。大丈夫だから気にしないで」
女「うん……?」
男「つまりは遊ぶことばかりを考えているってことね」
女「案が思い浮かばなくなったらときに、息抜きでちゃんと勉強してうりょっ?! 痛い……」
男「ごめん。つい手が出た」
女「平手で頭、叩かれた……」
男「学習意欲が欠けてるなんて次元じゃないね、それ」
女「暴力亭主! ……て、亭主」
男「自分で言って自分で恥ずかしがるはやめようね」
女「でもさ、亭主って言われても悪い気はしないと思うんだ。する?」
男「家内に亭主と呼ばれることがないでしょ」
女「あー、そうだったね」
男「あー、でも、喧嘩の真っ最中なら他人行儀な呼び方にもなりそう?」
女「たぶん、なると思う」
男「じゃあ、おかしくはないか」
女「ねえ、2人だけのときの呼び方決めちゃわない?」
男「男と女でいいじゃん」
女「それじゃ雰囲気でないからつまんないよ」
男「俺に何を求めてるの?」
女「いいからいいから。いくつか候補出すから選んで」
男「変なのだったら全部却下するよ」
女「あなたにする? 旦那様にする? それともぉ……わ・た・し?」
男「3つ目が特に意味分からなかった」
女「私も言いながら違う気がした」
男「今まで通りに名前で呼び合えばいいよ」
女「ちぇっ、親密さが増してチャンスが増えると思ったのに」
男「その積極性を勉強に生かすべきだと思うんだ」
女「知識だけ先行しても実力がなきゃ生きていけないよ!」
男「俺らの年齢からそれを定着させると人生が台無しになるよ」
女「……料理とか」
男「ま、まあ……、料理……微妙」
女「ああっ! 来週に家庭科の実技テストがあったの忘れてた!」
男「それは筆記テスト明けの土日でやればいいよ」
女「教科を差別しちゃいけないよ。そんなんだから男……は……」
男「どうしたの?」
女「男……、丑三つ時が終わりそう」
男「……。」
女「朝の仕度は7時30分からでも間に合うでございます! どのようにして時間潰しをいたしましょうかっ?!」
男「勉強をしよう」
女「ばっちこい」
おわり
英語、と社会と理科嫌い
国語と数学が楽しい
あー、タイトルから『を』が抜けてた
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