日高舞「20世紀の終わりに」 (13)

「舞、妊娠したって……確かなのか……!?」

目の前の男、私のプロデューサーはこれまでに見たことのないほど真剣な顔つきで、そう問いかけてきた。

その問いに短く「間違いないわ。」と返す。

「本当……なのか。」
私の返事を聞いたプロデューサーはガックリとうなだれた後、額を抑えて何かを考え始める。
これからどうすれば良いかを考えているのだろう。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1400005749

しばらくの、無言。
お互いに何も喋らず、この部屋で聴こえる音はお互いの呼吸音だけとなる。

しばらくしてからプロデューサーが口を開く。

「……その子を産む気か?」

「えぇ、産むわ。」
プロデューサーの問いに短く返事を返す。

「……舞、ならばアイドルを続ける事は出来ないぞ。
恋愛は御法度のこの業界で、16にして子を産むという事はとてつもないイメージダウンとなる。
そして、この事を隠し通せないほどにお前の存在は大きい。
……どうする気だ?」


「もちろんわかってるわよ。
だから芸能界を去って、この子を育てる。
ただの一人の女性、ただの一人の母となる。」

「……何故だ!?何故、ここまで来てそんな事を……!
これまで築き上げて来たモノを全て捨てて、お前が求めるのは何だ!?」
私の言葉を聞いたプロデューサーが声を荒げて問いかける。

「競い合ってお互いを高め合うライバルの居ない、今のつまらないアイドル業界で女王を続けるよりも、やりたい事を見つけたからよ。」

「やりたい事?それは何だ?」

「……実はね、まだやりたい事が何なのかわかってないの。」

「……は?それはどういう……。」

「そうねー、やりたい事を見つけるのがやりたい事……かな。
声をあげて、頭を使って……今まで以上にがむしゃらになって生きて、やりたい事を見つけるの。」

私の言葉にプロデューサーはしばらく絶句し、またお互いに無言となる。

しばらくたってからプロデューサーが口を開く。
「……舞、きっと君はこれからは凄まじいまでの苦難と戦うことになる。
16にして子を産み、育てるという事は、イエロージャーナリズムなマスコミ達にとってこれ以上ない餌となるだろうし、世間の目も冷たいだろう……。
天才のお前でも容易く乗り越えられる問題じゃない。
これからお前が進む道は、廃墟か地獄か、それとも暗闇か……。」

「それでもよ、それでもやりたいの。」
プロデューサーの言葉に、強く意思を込めてそう返す。


「……俺はプロデューサーだ、プロデューサーの仕事は「アイドルに関する事」……。
アイドルを辞めたお前の、やりたい事探しには手を貸さないぞ。」


「もちろんわかってるし、そもそもこの事にプロデューサーが手を貸せる事なんて無いわよ。」

「……わかった、記者会見の準備をしてくる。」
私の言葉を聞いて部屋を出ようとしたプロデューサーに「一つ言いたい事があるの。」と声をかけて呼び止める。

呼び止められ、一体何なんだという表情をしながらプロデューサーが振り向く。

「……何だ?」

「プロデューサー、今までありがとう。」

プロデューサーはその言葉に「あぁ」と短く返すと部屋を出て行ったのであった……。

あれから十年以上たった今、私には一人の娘が居た。

娘の名は、「愛」
とにかく元気で努力家な娘。

「ねぇママ、どうしたの?」

娘の愛を見つめていると、愛が不思議そうな顔でそう聞いてくる。

「んー?あなたを産んで良かったなーと思って。」

「えぇー!?ママ、いきなり何なのー?」

「ふふふ……。」
大きな声をあげてアタフタする愛を微笑みながら見つめる。

20世紀の終わりに恋をして、産まれた私の娘。
私がアイドルを辞めてまで探し求め、手に入れたかけがいのない宝物。

「愛、あなたこそが私が求めた物よ。
産まれきてくれて、ありがとう。」

短いですが、以上です。

アイマスDSと、ヒカシューの「20世紀の終わりに」の楽曲クロスssでしたー。

http://m.youtube.com/watch?v

あ、youtubeのURLがPC用になってませんでした……。

http://www.youtube.com/watch?v

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