日高舞「20世紀の終わりに」 (13)
「舞、妊娠したって……確かなのか……!?」
目の前の男、私のプロデューサーはこれまでに見たことのないほど真剣な顔つきで、そう問いかけてきた。
その問いに短く「間違いないわ。」と返す。
「本当……なのか。」
私の返事を聞いたプロデューサーはガックリとうなだれた後、額を抑えて何かを考え始める。
これからどうすれば良いかを考えているのだろう。
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しばらくの、無言。
お互いに何も喋らず、この部屋で聴こえる音はお互いの呼吸音だけとなる。
しばらくしてからプロデューサーが口を開く。
「……その子を産む気か?」
「えぇ、産むわ。」
プロデューサーの問いに短く返事を返す。
「……舞、ならばアイドルを続ける事は出来ないぞ。
恋愛は御法度のこの業界で、16にして子を産むという事はとてつもないイメージダウンとなる。
そして、この事を隠し通せないほどにお前の存在は大きい。
……どうする気だ?」
「もちろんわかってるわよ。
だから芸能界を去って、この子を育てる。
ただの一人の女性、ただの一人の母となる。」
「……何故だ!?何故、ここまで来てそんな事を……!
これまで築き上げて来たモノを全て捨てて、お前が求めるのは何だ!?」
私の言葉を聞いたプロデューサーが声を荒げて問いかける。
「競い合ってお互いを高め合うライバルの居ない、今のつまらないアイドル業界で女王を続けるよりも、やりたい事を見つけたからよ。」
「やりたい事?それは何だ?」
「……実はね、まだやりたい事が何なのかわかってないの。」
「……は?それはどういう……。」
「そうねー、やりたい事を見つけるのがやりたい事……かな。
声をあげて、頭を使って……今まで以上にがむしゃらになって生きて、やりたい事を見つけるの。」
私の言葉にプロデューサーはしばらく絶句し、またお互いに無言となる。
しばらくたってからプロデューサーが口を開く。
「……舞、きっと君はこれからは凄まじいまでの苦難と戦うことになる。
16にして子を産み、育てるという事は、イエロージャーナリズムなマスコミ達にとってこれ以上ない餌となるだろうし、世間の目も冷たいだろう……。
天才のお前でも容易く乗り越えられる問題じゃない。
これからお前が進む道は、廃墟か地獄か、それとも暗闇か……。」
「それでもよ、それでもやりたいの。」
プロデューサーの言葉に、強く意思を込めてそう返す。
「……俺はプロデューサーだ、プロデューサーの仕事は「アイドルに関する事」……。
アイドルを辞めたお前の、やりたい事探しには手を貸さないぞ。」
「もちろんわかってるし、そもそもこの事にプロデューサーが手を貸せる事なんて無いわよ。」
「……わかった、記者会見の準備をしてくる。」
私の言葉を聞いて部屋を出ようとしたプロデューサーに「一つ言いたい事があるの。」と声をかけて呼び止める。
呼び止められ、一体何なんだという表情をしながらプロデューサーが振り向く。
「……何だ?」
「プロデューサー、今までありがとう。」
プロデューサーはその言葉に「あぁ」と短く返すと部屋を出て行ったのであった……。
あれから十年以上たった今、私には一人の娘が居た。
娘の名は、「愛」
とにかく元気で努力家な娘。
「ねぇママ、どうしたの?」
娘の愛を見つめていると、愛が不思議そうな顔でそう聞いてくる。
「んー?あなたを産んで良かったなーと思って。」
「えぇー!?ママ、いきなり何なのー?」
「ふふふ……。」
大きな声をあげてアタフタする愛を微笑みながら見つめる。
20世紀の終わりに恋をして、産まれた私の娘。
私がアイドルを辞めてまで探し求め、手に入れたかけがいのない宝物。
「愛、あなたこそが私が求めた物よ。
産まれきてくれて、ありがとう。」
短いですが、以上です。
アイマスDSと、ヒカシューの「20世紀の終わりに」の楽曲クロスssでしたー。
http://m.youtube.com/watch?v
あ、youtubeのURLがPC用になってませんでした……。
http://www.youtube.com/watch?v
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