ミリオタ「萌えミリタリーの世界…?」 (14)
私が死んだあと、私が書いているこれは何処に行くのだろうか?
製本されて本になるのか、はたまたゴミ箱に捨てられる運命なのか。
私には分からない。でも私には記録する義務がある。
彼等の奮闘を、彼等の死闘を…
1964年、カリブ海の小国にて記す
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1398910518
私がいつからそこにいたのかは分からない。でも私はそこにいた。
回りでは爆音が聞こえていた。機関銃の音も聞こえていた。
私は気がつくと戦場にいた。
ここで私の出自について明かす必要がある。今から書くことは今まで誰も書かなかった告発である。
宇宙人、と称されるものたちが二度目にこの地球を襲った時―1930年代だったが―に、宇宙人以外にこの地球に現れた者がいた。我々である。
読者諸兄、"この地球"は"この地"の誤植ではない。我々はアジアやアフリカからこのカリブに来たことを、自虐して"この地球"と書いたわけではない。
私は黄色人種だし、"我々"の中には黒人も白人も存在したのだ。
我々はこの地球の外から来た。
だが我々は宇宙人ではない。
率直に言えば…別の世界から来たのである。
理解してくれなくてもいい。 多分ほとんどの人に理解して貰えないだろう。
ともかく私は、違う世界から来たのである。
元の世界での私の趣味は、まぁ有り体に言えば軍事趣味だった。
戦車や兵士たちの動く様に興奮し、制服のレプリカ(脚注:模造品の事である)を取り寄せては部屋に飾るなどした。
兵器の背景などを調べてはそれを仲間と語り合うこともあった。
しかし私を含む大体の軍事趣味者の趣味は思想に傾倒している訳ではなく、むしろ冷静になってそれを観察することに重きを置き、そしてそれを楽しんでいたのだった。
私がその軍事趣味に傾倒していた頃だったが、
多分奇妙な事に思われるだろうが…この世界で言う、魔女や艦娘と呼ばれる存在、硬く言い換えると航空歩兵や特殊技能水兵などといわれる存在、
それがアニメ(脚注:漫画映画のこと)にて描写されるようになったのだ。
こちらの世界では一般的なそれらは、私の元いた世界では全く一般的でないという以前に存在しなかった。
アニメの中での彼女達は輝いていて強かった。
綺麗で可愛らしかった。
私はそれに心を奪われ、軍事趣味者もそうでない者も心を奪われた。
それは大流行した。
私はその時人生に疲れていた。
私はアニメの輝く世界に行きたく、そして生きたかった。
画面の中(脚注:漫画映画は通常スクリーンに投影される)の彼女達は無敵だった。
私は彼女たちに自分の人生の鬱憤も吹き飛ばして貰いたかった。
私は毎晩寝る前に祈った。彼女たちに会いたいと。
私がとうとう人生に疲れ絶望した時、とうとう念願かなって私はこの世界に来ることが出来た。
この世界が現実なのかは分からない。昏睡した私が見ている夢なのかもしれない。
だがそれを確かめるすべはなく、私はこの世界で長く生きすぎたのである。
ともあれ私は初め狂喜した。すぐにそれは絶望へと変わることになった。
私が起きたとき、そこは戦場だった。
私がまわりを見回すと、そこには兵士たちがいた。戦車もいた。
銃弾飛び交い、砲が着弾したときの地響きが腹に響く。
兵士たちのうめく声や叫び声が聞こえ、士官らしき人物が喚いていた。
私はこの時恐ろしいほどに冷静だった。夢だと思っていたからだ。
彼等は見た限り、第二次世界大戦当時のドイツ国防軍のようだった。
モーゼル小銃(脚注:マウゼル、またはモウゼル小銃、ヴァイマル共和国軍の標準的な歩兵装備)を手に持った兵士が、
シュタールヘルム(脚注:鉄兜)を被って匍匐前進をしていたからだ。
「何をしている!頭を下げんか!」
突然頭をむんずと捕まれて地面に押し付けられる。
私の服は泥だらけになり、砲火の煤で真っ黒になっていた顔と大差無いほどの汚れになった。
私が抗議しようとして顔を上げた時、私は驚愕した。
白人だ。そして随分と大時代な軍服を着ている。
ははあ、これはリエナクトメント(脚注:歴史上の戦いを再現する再現戦のこと)だなと思い、呑気にも下手くそな英語で話しかけようとした。
「何をぶつくさ言っているんだ!はやく銃を探さんか!」
彼のビンタによって私の頬は熱を帯び、状況がわからない私はうろたえて押し黙るしかなかった。
「ん?貴様黄色人種か?」
私はぎこちなく首肯した。それよりも私はなぜ彼の言うことが分かるのだろうか?
. .シャイセ
「くそっ、どうして言葉の通じない奴を送り込んできやがった」
「もういい、貴様はそこに伏せていろ!」
私はおとなしく彼の指示にしたがい、戦闘を眺めていた。
まだ夢うつつだったのである。
私が戦闘をぼーっと見ている間、彼等はずっとせわしなく動き回っていた。
「伏せていればいいのに…」
私は思わずそう呟いた。私のいた世界、そこで記憶していたドイツ軍の戦法というのは確か、戦闘状態であっても隊形を維持することに努めていたはずである。
それがどういうことか、彼等はまるで群衆のようにうろうろと動き回っていた。当然隊系など全く見られず、士官はただわめき散らしている。
また、MG(脚注:軽機関銃のこと)手が何処にも見られなかった。
戦死してしまったのか?と思って回りを見回すが、見渡す限りライフルを手にした兵卒の死体だけだった。
私は何故だかこれがリエナクトメントでないことを理解した。
そして自分が恐ろしく冷静なのを逆に恐ろしく思い始めた。
と、そこまで行って初めて夢うつつな気分が抜けてきたのであった。
脇から汗がじんわり吹き出し、顔が紅潮する反面、腹は冷えきって痛いほどである。
暑いのに寒かった。震えが止まらなくなり、銃弾や砲火の音から逃れんとして耳を塞ぎ、芋虫のように体を丸まらせた。
私は本能的に理解したのだろう。これは夢かもしれないが夢ではない。恐らく敵弾に当たれば自分も死ぬ。
私がブルブル震えながら地面にできた窪みに伏せ、顔だけで回りを見ていると、兵士たちが撃っている方向…すなわち敵がいる方向に人間がいないのに気づいた。
思わずそんなはずはない、敵はどこだ?と思い目を凝らすと、そこにはなんとも形容しがたい生き物がいた。
生き物と言えるかはわからない。機械的な角張った形をしており、黒と赤のけばけばしいコントラストが見るものを恐怖させた。
ふと、労働組合的無政府主義、アナルコサンディカリスムの旗を思い出した。
私はその思想には全く興味が持てなかったがその色合いは気に入っていた。
しかし眼前の敵を気に入ることは到底できそうもなかった。
時々上げる金切り声のような鳴き声も不快で、挙動も不快だった。
そして体からにょきにょきと突き出た枝のようなものから弾のような物体を発射していた。
大きさは人間程度のものから戦車よりも大きいものがいた。
先ほどからワイマール兵が盛んにライフルで撃ちかけているが、小さいのを除いてまったく効果が出ていない。
確かに小さいのは倒せているが、数が多すぎる上に奴等はまったく怯まず前進してくるからだった。
ワイマール兵は反撃とばかりに敵から放たれる弾丸に貫かれて倒れるばかりである。
とうとう士官が痺れを切らして撤退を指示した。
「撤退だ!下がれ!」
「どこへ行けばよろしいのですか!?」
「知るか!自分で考えろ!」
なんということだ。
私はあわてて逃げるワイマール兵たちと駆け出した。
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