上条「正義とは俺自身。俺が正義だ!」 (45)

「………酷い傷だ」

目の前で倒れた少年を前に、男は呟いた。
至る所から鮮血が流れ、彼着ている学生服を紅く染め上げている。

只の喧嘩では、絶対につかない傷だ。

顕著なのは右手で、赤黒く変色し、既に痛覚すら失われていてもおかしくはない。
この右手で、何を殴ったのか。

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「まだ意識はあるか?一体何故………」

身を屈んで、少年に語りかける。勿論助けるつもりだが、この傷の付き方が気にかかった。

自分は、彼を傷付けた相手を知っている。

「………………………………」

掠れた声で告げられ、男は確信した。
また、奴等と戦わねばならないと。

「…………行かないと…………」

言ったのは男ではなく、少年。
両腕に力を込め、血が滴るのも構わず立ち上がろうとする。右手に血が滲み不安定な体勢になるが、それでも倒れはしない。

「待て。お前が死んだら本末転倒だろう。大人しく………」

その傷を治せ、と言いかけ、男の説得が止まった。

眼に、光が宿っている。

直接見た訳では無いが、その眼は祖母から聞いた昔の自分の眼に良く似ていた。

「俺が………守らないと……!」

『 たとえ世界を敵に回しても守るべきものがある』とは祖母の教えだ。

彼も、奴等から大切なものを守ろうとしている筈だ。

「お前も、中々面白い奴だ」

少年の今にも崩れそうな腕を支えて、男は自分の背中に彼を担ぎ上げた。

天の道か……!

「お、おい………あんた何を…………」

このまま怪我を治しても、少年はまた無力のまま飛び出し、やがて死ぬだろう。

「喋るな。傷に響くぞ」

ならば、力を与えよう。全てを守る力を。

「あんたは…………一体………」

「俺か?俺の名は……………………」

その答えを聞かないまま、少年の意識は深く落ちていった。

という訳で>>5の通り
禁書×カブトのクロスです。

エタらないように頑張ります。

「第七学区、異常無し………と」

モッズコートの下にスーツを着た、若干年離れした出で立ちの、御坂美琴が呟いた。
去年で19歳を迎えた彼女は、空に向かってふぅ、と息を吐く。

「アイツが消えて、もう5年経つんだ……」

5年前の今日、第十九学区に隕石が落ちたあの日から、ワームの侵略は再開した。
数年前の渋谷隕石の話は都市伝説のようにしか聞かされていなかったが、隕石の中から渋谷のものと全く同じ怪物が出てきた事で、人類は再び侵略の恐怖に晒されることとなった。

彼女の想い人であった上条当麻は、
「守らなきゃいけない奴がもう一人いる」
と言い残し、ワームに襲われた自分を庇った傷のまま、姿を消した。

「………もう、会えないのかな」

左腕の時計は五時を指す。自宅の冷蔵庫の中身を思い出しながら、足は夕食の材料を探して動き出していた。

夕方の商店街は、制服を着た学生達で混み合っている。
その中で一際目立つコート姿の御坂は、辺りを見回して店を探す。

確か、味噌が余っていた筈だ。今日は鯖味噌にしよう。

「えーっと…………あったあった!」

目当ての魚屋を発見し、駆け足でそこへ向かっていく。すると

「きゃっ!」

「おっと」

前方の男とぶつかる。と思った時にはもう遅く、前進する力がそのまま自分に跳ね返り、勢いよく尻餅をついた。
慌てて立ち上がろうとしたところに、屈んだ男の右手が伸びた。

「すまない。大丈夫か?」

「あぁはい!こちらこそ………」

ごめんなさい。と言いかけて止まる。

この声、聞き覚えがある。

顔を上げて男を見ると、そこに居たのは作務衣姿の黒髪の男。

「……おい。どうした御坂」

「あ………あぁ………!」

忘れる筈のない、あの男の顔。

「早く立ち上がれ。他の人の迷惑だろう」

「ああああああーーー!」

上条当麻の顔が、そこにはあった。

第七学区のマンションの一室。
夕陽の差す台所から、トントンと包丁の音が聞こえる。
中学卒業からこの部屋で独り暮らしをしている御坂には、自分以外の人間が台所に居るのは、不思議な光景だった。

あの絶叫の後、さは

ミスった。

あの絶叫の後、鯖の口に何故か小指を突っ込んでいた上条を自室へ引っ張り、空白の五年間を聞こうとした所、勝手に料理を始めて今に至る。
しかも御坂の心を読んでいたかのように鯖味噌を作っている。勝手に食材を使って済まないという気持ちは彼には無いようだ。

「どうした?浮かない顔だな」

台所からソファまで、上条の声が届く。

「…………うっさい」

「何か聞きたい事があるんじゃないのか?」

「分かってんならとっとと答えなさいよ!」

全く変わらない上条の声のトーンに、つい語気が強まる。
まるで「お前の考えなどお見通しだ」と言われているようだ。
そんな御坂の心情を気にせず、上条が答える。

「五年間、俺はある人の下で修行をしていた。
………未来を掴む為に」

「………意味分からない」

「お前は俺のいない空白の五年間について聞こうとした。違うか?」

図星を突かれた御坂がしばらく黙るのを見ると、溜め息をついてパネルのスイッチを押した。
熱を帯びてたちまち湯となった水にネギと豆腐を入れ、お玉に乗せた味噌を溶く。

「………変わったわね。あんた」

五年間の修行の成果に微笑んでいる最中、リビングから御坂が呟いた。

「………そうかもしれないな。俺はよく分からないが」

「昔はいつも気怠そうでいけ好かない奴だったけど、それでも誰かを助ける為に精一杯だった。
今は…………何かクール自信満々で……」

ソファとキッチンで、二人は背中合わせに話す。
上条の方を向くのは、御坂の心の何かが許さなかった。

「気に入らないか?」

「別にそういう訳じゃ………!」

御坂の言葉は、突如として鳴り響いたアラームに掻き消された。
舌打ちして机の上の携帯を取り、連絡に応じる。

「嘘、2体のワーム!?」

告げられた報告は、たちまち夕食の時間を邪魔する原因となった。

「ワームが出たのか?」

「何でもないわ!あんたは夕食作って私の帰りを待ってなさい!」

半ば捨て台詞のように言いながらコートを着て、家を出た。
幸か不幸か、ワームは別の場所に1体ずつ現れたらしく、ここから遠い方は仲間が向かっているので、自分はもう一方の撃破を任せられた。

そうだ。もうワームから守られはしない。
今度は、自分が彼を、皆を守る番だ。
その為に、私はZECTに参加しライダーとなった。

目的地はそう遠くない。このまま走れば敵が見えてくる。
自分と同じように向かってくる相棒の気配を感じて、御坂は陽の沈んだ街を駆けていった。

「変身!」

自分と併走する青い鍬形虫、ガタックゼクターを掴んでベルトに装着した。

『Henshin』

電子音声と共に、御坂の体が強固な青の鎧に包まれていく。

これこそ、彼女が五年の間に手に入れた力。
学園都市が旧ZECTから奪取した『マスクドライダーシステム』の一つ、『ガタック』。

「しゃっ!行くわよ!」

戦士へと変わった御坂は、走るスピードのまま赤と青の蜘蛛のようなワームへと突進した。

肩の砲台からエネルギー弾を発射して敵を牽制し、ショルダータックルを放つ。
ワームと共に転ぶが互いにすぐ立ち上がり、攻撃を仕掛けた。

「らぁっ!」

蜘蛛のワームの右手が届く前に自分の右拳を打ち、間合いを取って足刀を極め、左の拳でアッパーを放った。

流れるような連続攻撃にはワームも太刀打ちできず、戦いは一方的に展開していく。

「キャストオフ!」

御坂が叫び、ベルトのゼクターの顎部分に当たるゼクターホーンを左から右へ展開する。

『Cast Off』

次の瞬間、今まで御坂が纏っていた銀色の鎧が爆発的に飛散する。
しかし、これは退化ではなく進化を表していた。
頭部左右に倒れていた一対の角が起きて、側頭部に収まる。
その姿は、凛々しくもあり、また雄々しくもあった。

『Change Stag Beetle』

ライダーフォームへと成長したガタックは、肩の二本の曲剣を振るい、再びワームへと立ち向かう。

縦横無尽に敵を剣で切り裂く戦闘スタイルは、ある者は舞うようだと言い、またある者は単に暴れているだけと言う。

一瞬の隙を突いて後ろへ跳んだワームが、腕から白い糸を出す。
糸はガタックの左腕に付着し、途端に体はワームに引き寄せられた。

「……………っ!それなら!」

完全にワームの間合いに入る寸前、右手の剣で張り詰めた糸を力任せにぶった斬った。
自らの最大の強みとも言える強靭な糸を斬られて狼狽えるワームを尻目に、ガタックは右手に力を込める。

「仕上げよ!………見せてあげる。私の必殺技」

バチバチ、と彼女の体から電気が発生し、さっきまで飛び散り、地面に落ちていた鎧の欠片がガタックの眼前に浮かび上がった。

作られるのは道筋。打ち出されるのは弾丸。
電気反応が更に強まり、ワームの脳に緊急信号が出される。

「行けっ!」

叱声と共に、鎧の欠片が超高速で発射された。
逃走しようとしたワームの背中を貫き、大きな穴を空ける。
蜘蛛のワームは崩れ落ち、爆炎を上げて跡形もなく消滅した。

これが、御坂が独自に編み出した必殺技、『超電磁砲(レールガン)』。
昔のようにコインを弾にしなくとも、その威力は未だ健在だった。

大きく息を吐くと、一気に気が楽になった。

「さて。あいつが待ってるし、早く帰ろっか……」

言い終わる前に、彼女の身体中に衝撃が走った。

衝撃に耐え切れず、膝をつく。
決してライダーシステムに不備があり、身体がボロボロになった訳ではない。
だとすると、答えは一つ。

「二匹目………いや、三匹目!?」

どこから現れたのか、目の前には黄と黒の警告色のもう一体の蜘蛛が、彼女を嘲笑うかのように立っていた。

腕から仲間と同じように糸を出し、膝をついたままの彼女の右手の自由を奪う。

衝撃、正確にはワームの攻撃の弾みで剣を落としてしまい、糸を斬ることが出来ない。
それを見越してか、新しいワームはゆっくりとガタックに歩み寄る。

いくらライダーシステムを装着しているといっても、この状態から滅多打ちされたのではひとたまりもない。

援軍は、おそらくまだもう一方のワームと戦っているだろう。
あっという間に圧倒的に不利な状況に叩き落とされた御坂は、それでもまだ身を捩って糸を千切ろうとする。

やがて、ワームの棍棒のような腕が振り降ろされた。

やっと、あいつに会えたのに………

仮面の下で目を瞑った御坂の覚悟は、杞憂に終わった。

次に聞こえたのは痛々しい攻撃音ではなく、唸るバイクのエンジン音と、

「御坂、無事か?」

あの時と同じように、自分に向かって語りかける上条の声だった。

バイクの向く方を見ると、ワームがかなりの距離を吹き飛ばされていた。

「っ………何で来たのよ!」

安堵と、上条への感謝と、自分への憤りが同時にこみ上がった。
もう、彼に頼りたくはなかったのに。
守ろうと決めたのに。

「あんた今度こそ死ぬわよ!?それでも良いの!?」

「それは、やってみなくちゃ分からないだろう?」

ヘルメットを脱ぎ、再び立ち上がるワームをきっと見据える。
その眼は、暗い夜の中でも光を宿し、
その顔は、五年前の決意の顔と全く変わらなかった。

「来い。カブトゼクター!」

上条の声に呼応して、天空から御坂とは違ったゼクターが飛来する。

カブト虫を模した紅いゼクターは、猛スピードてガタックの自由を奪う糸を切り、上条の右手に収まった。

「今……俺はこの手で未来を掴んだ」

改めて、上条は右手のゼクターを眺める。
暗闇の中でも眩い輝きを放つ金属製のそれは、自分の師の眼の光によく似ていた。

「俺はこの時を待っていた。
五年の間…………俺はこの瞬間の為に生きてきた」

「あんたは…………」

変身を解いた御坂が近付くのを左手で制止し、そのままワームに向かって歩み出す。

「俺は…………選ばれし者だ!」

右手のゼクターをベルトに装着し、身体は鎧に包まれる。
『マスクドライダーシステム』の第一号、『カブト』

その別名は、光を支配せし太陽の神。

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