千早「変わるモノ、変わらないモノ」 (57)


春香「千早ちゃん!千早ちゃん!」

千早「えっ?何?」

春香「大丈夫?千早ちゃん?話しかけても全然反応してくれないんだもん・・・最近疲れてるみたいだね?」

千早「ええ・・・、ごめんなさい。最近夜眠れなくて・・・」

春香「そうなんだ・・・最近忙しいから、体には気を付けてよね。」

千早「分かってるわ。ありがとう春香。」

春香「えへへ、お茶入れてくるね」


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千早「ありがとう、春香。」

最近夜眠れない日々が続いている。どうしてだろう・・・

正確には眠っているのだが、悪夢で目が覚めてしまう。

おかげで、春香にまたいらない心配をさせてしまう。それはいやだ。

春香「千早ちゃんお待たせ」

千早「ありがとう。春香、これは・・・?」

春香「お茶にしようと思ったんだけど・・・カフェインが入っているからやめてこれにしたんだ」

そう言った春香はホットミルクを出してくれた。ありがたいわ

千早「でも、ここで飲んだらここで眠っちゃうんじゃ・・・?」

春香「大丈夫だよ。今日はみんな出かけて、小鳥さんは買い出しに出てるし。来ているのは私たちだけだから」

千早「そう・・・じゃあ、少しだけ横になるわ」

春香「お休み千早ちゃん」

・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・


ここは・・・どこ?

あたり一面が真っ暗で見えない。

自分の腕の先すら見えない。

助けて、誰か!

パシッ!

えっ?誰かが腕を掴んで引っ張っている!?

やめて、離して!

どうして、掴んで離さないの?

あ・・・あれ?急に光が・・・?眩しい!

「助けて!だれか!」

春香「千早ちゃん!起きて!大丈夫だよ!」

小鳥「大丈夫よ千早ちゃん!」

千早「はっ!?」

胸がものすごくドキドキしている。苦しい。息が上がっている。

また・・・あの夢・・・

小鳥「大丈夫?」

春香「はい、お水・・・これ飲んで。」

冷たい水が、喉を潤わせてくれる。

千早「ありがとう、落ち着いたわ」

春香「良かった・・・」

小鳥「びっくりしたわ・・・買い出しから戻ってきたら、千早ちゃんが泣きながらうなされてて・・・」

えっ?嘘?

春香「どうしたら、いいのか分からなかったけど・・・起こした方がいいかなって思ったんだ」

そうなんだ・・・

千早「ごめんなさい・・・迷惑掛けてしまって・・・」

春香「いいんだよ、別に・・・私たちはみんな仲間なんだから。」

小鳥「そうよ、悩み事があったらすぐに相談してね」

悩み事・・・自分の中じゃないと思っているんだけど・・・

小鳥「・・・今日は早めに帰ったらどう?明日とあさってはめったにないオフだから、ゆっくりした方がいいわよ」

春香「そうだよ、無理しちゃだめだよ」

そうね・・・ここにいてもみんなに心配されるだけだものね・・・

千早「そうね、ごめんなさい。先に帰るわね・・・」

小鳥「お疲れ様・・・」

春香「じゃあね・・・千早ちゃん」


私は事務所を後にし、家を目指して歩いている。

家に帰っても、やることは無いわ・・・

久々にcdを聞こうかしら・・・最近全く聞いてなかったわね・・・

それに、しても・・・うなされてたとは・・・

何が理由なの?

自問自答しようにも、答えは出ない。

ふと気がつくともう、マンションの玄関に着いていた。

ガチャ

千早「ただいま」

・・・・

返事は無いわ・・・あたりまえだけど・・・

バックも何もかも放り出し、ベッドに横になる。

身体は重く、やる気が出ない・・・

いつ頃だろうか?

眠れなくなってしまったのは?

分からない・・・

千早「・・・考えても何も浮かばないなら、音楽でも聞こうかしら」

cdは・・・どこにやったかしら?思い出せないわ・・・

ここの引き出しかしら?いや、違う。

じゃあ?ここ?

ガタン!

あっ!

バタバタバタ!

引き出しを引っ張り出してる際に、上に置いてあったものを全部落としてしまった。

はあ・・・ついてないわ・・・

本や、ペン、あの写真、あのスケッチブックが全部転がり落ちてしまった。拾わなければ・・・

これは・・・

少し、触った時にほこりが指についた

優・・・

あの時二人で取った写真・・・。

いつも飾ってあるのに、見向きもしない日々が続いていたわね・・・

「ごめんね・・・」

気がつくと、私はぽろぽろと涙をこぼしながら、つぶやいていた。

「・・・どうしてだろう」

あんなに、大事にしていたのに、

このスケッチブックだって、ときどき開いていたのに、

見向きもしなくなってしまったんだろう?

ここで、ほこりかぶっているなら最初から持っていた母に戻してやろうか?

そんな時にふと、母のことを思い出した。

「お母さん・・・」

私は、母のことは好きじゃない。父親もそうだ。

優が居なくなってしまってから二人は些細なことで喧嘩を始め、物を投げつけ、激しい罵り合いの毎日だ。

幼いころから、ずっと続けば誰だって嫌になるはずだ。

いや、むしろ好きな人はいないだろう。

でも・・・

私の前で離婚届を押した日は、悲しかった。

離婚するのは、はっきり言って時間の問題だと思っていた。

だからといって・・・




何も私の前で判を押す必要はあるのか?


そして、わずかにも期待していた・・・

あのころの二人に戻ることはできなかったのか?

そんな希望の光を消す必要はあったのか?

その時から、悲しみと怒りが交りあった気持ちが消えなくなり、

家から出て行き一人暮らしを始めた。

この時初めて思った。




母や父親はどんな気持ちだったのだろう?


わずかな考えが頭をよぎった。

いつも、二人で笑い合い私達と楽しく過ごしていた。

そんな二人が笑わなくなってしまっていた・・・

いつも眉間にしわをよせて、

目を鬼のように開かせ、

時には目から涙を流しながら、

口からは、汚い言葉、

そんな二人は一体どんな気持ちだったのだろう?

わずかな考えは、疑問から確信へと変わっていた。

優を失って苦しい思いをしたのは私だけじゃない。

あの時、苦しい思いをしたのは家族全員だったのだ。

怒鳴ってでもいないと、悲しみが紛らわせることができなかったのだろう。

そして・・・

あの時に・・・声が出なくなったとき支えてくれたのは765プロのみんなだった。

でも・・・




それ以前に大事な人を忘れていた。


あの時、私にスケッチブックを春香に届けてくれたのは、

「お母さん」

どうして・・・大事な人の存在を忘れてしまっていたのだろう?




どうして・・・気がつけなかったのだろう?





どうして・・・憎んだりしたのだろう?




そして・・・どんな気持ちで・・・

春香に大事にしていたスケッチブックを託したのだろう?


私には・・・分からない。

・・・
・・


真っ暗な中。

私は手探りで探す。

真っ暗闇から抜け出す道を。

パシッ

誰かが私の手をつかみ私をひっぱってゆく

そして、眩しい光の場所へと。

「ありがとう」

私がそうつぶやくと、

その手は驚いたといわんばかりの反応をして引っ張るのをやめた。

「あなた・・・優なんでしょう?」


その手はぎゅっと力を込めて来る

「ごめんね・・・あなたのことを思い出してあげられなくて・・・」

・・・反応は無い


「私、お母さんともう一度、やり直してみる」

「あの時の憎い思いは変わらないけど、変わることができる」

「約束するわ・・・」


「変わるモノ、変わらないモノ」

「この二つを・・・」

「大事にしてゆきたいの!」

言いきったときに、その手は私の腕をゆっくりと離した。


「もうだいじょうぶだね」

どこか嬉しそうな声が聞こえる。

「ええ、もちろんよ」

これには自信はあるわ。


「おねえちゃんはやっぱりすごいね!」

「あたりまえじゃない」

私を誰だと思っているのよ?

あなたには世界で一人しかいない姉で。

私には世界で一人しかいない弟なのよ?

ちょっとしばらく出かけるから、抜けるよ。

そう考えると、目から暑い涙がポタポタこぼれおちてゆく。

「じゃあ、またね!」

その瞬間眩しい光が、キラキラと金色の輝きを放った。


はっ!

気がつくと私は、床の上で眠っていたようだ。

まくら代わりにしていたクッションは濡れていた。

あれ?私、いつの間に落としたものをかたずけたのだろう?

でも・・・そんなことに、気を足られている場合じゃないわ


約束・・・守らなければ・・・

携帯電話を手に取る。

ディスプレイに懐かしい電話番号を並ばせる。

緊張するこの気持ちを押しこめて。

発信ボタンを押して・・・よしっ!


プルルルル

千早「もしもし?お母さん?」

千早「ううん、べつに、久しぶりね。こうして話すのも」

千早「・・・ごめんなさい。」

千早「・・・お願い、これだけは黙って聞いて!そして・・・言わせてちょうだい。」

千早「あの時つらかった。ものすごく。自分の殻に閉じこもって自分のことしか考えてなかった。」

千早「どうして、私のことをわかってくれないの!?ってずっと思っていた。」

千早「でも、分かったの。」


千早「私よりも、あなたたち。そう、お母さんとお父さんが一番つらかったんだって」

千早「そんなことにも気がつかないで、憎んでひどく傷つけてしまった・・・」

千早「こんな私を許してくれる?」

千早「・・・」

千早「・・・ありがとう」

涙がほうを伝って落ちてゆく。


千早「ありがとう・・・お母さん・・・」

滝のようにとめどなくこぼれ、目の前が見えない。

千早「今度一緒に優のお墓に行こうね」

千早「約束よ」

千早「じゃあ、またね」ピッ

電話を切り、床に座り込む。


千早「ありがとう・・・お母さん・・・」

滝のようにとめどなくこぼれ、目の前が見えない。

千早「今度一緒に優のお墓に行こうね」

千早「約束よ」

千早「じゃあ、またね」ピッ

電話を切り、床に座り込む。


最後の方は、強引に電話を切ってしまったが・・・

切らなければ、嗚咽が出てきてしゃべれなくなってしまう。

テッシュで涙を拭き、一人考えた。

母は、こんな私を快く許してくれた。

あの時、苦しんで悲しんだことは変わらない。

でも、優が気がつかせてくれたこの思いは・・・


大事にして行きたい。

ありがとう。優。


―数日後―

ガチャ

千早「おはようございます」

春香・小鳥「おはよう千早ちゃん」

春香「ねえねえ、久々の休みどうだった・・・?」


春香は、明るくふるまいながらもどこか心配な様子で聞いてきた。

千早「久々に羽が伸ばすことができてよかったわ」

春香「そう、良かった・・・」

春香は、安心したといわんばかりの表情を見せた。

同じく小鳥さんも事務作業をしながらも、同じような表情を見せている。

千早「ごめんなさいね。二人に心配ばかりさせてしまって」


春香・小鳥「えっ?」

二人が驚いた表情を見せる。どこまで、同じ表情を見せるのだろうか?

ここに来るまでに二人は何を話していたのだろう?

そんなことは今どうでもいい。

千早「でも、私はもう大丈夫よ。だから心配性ないでね」

そう言って私は笑って見せた。


二人の少しの沈黙の後に、

春香「あれ?なんだか・・・」

小鳥「雰囲気が変わった?」

千早「いいえ。変わっていませんよ?」

春香「うそだー!絶対変わってるよ!」

千早「だから変えてないってば」クスクス


春香の楽しそうな顔見て、

私は、おどけながら思った。

雰囲気は変えていないわ。

ただ・・・「思い」を変えたのよって。
                      Fin

以上となります。

支援くださった皆様ありがとうございました。

劇場版で千早が母親といい方向へ向かっているのを見て書いてみたいと思い、

途中に抜けたり同じものを投稿するなどいろいろありましたがなんとかやれました。

また、機会がありましたらお会いしましょう。では・・・

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