卯月「961プロでもがんばります!」 (74)

卯月「CGプロから移籍してきた島村卯月ですっ。これからよろしくお願いします!」

北斗「チャオ☆ こちらこそよろしくね、エンジェルちゃん」

翔太「やっぱり女の子がいると華やかになっていいよねぇ」

黒井「フン。前の事務所でどう扱われていたかは知らんが、ここでの甘えは許さんからな」

卯月「はい、がんばりますっ!」

冬馬「…………」

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北斗「それにしても、まさかCGプロがいきなり経営破綻するとはね……」

黒井「無計画にアイドルを雇いすぎた弊害だ。愚民は愚民なりに努力していたようだが、所詮は愚民だな」

卯月「うう……愚民でごめんなさい……」

翔太「で、でもさ! 卯月ちゃん自身は悪くないっていうか、黒ちゃんに拾ってもらえたワケだし?」

卯月「は、はいっ。黒井社長には感謝してます!」

黒井「ウィ。もっともその分、馬車馬のように働いてもらわねば困るがね」

冬馬「……けど、CGプロのアイドルって100人以上いたんだろ? 他の奴等はどうしたんだ?」

卯月「えっと……私と同じで移籍した人もいるんですけど、ほとんどのアイドルは……」

冬馬「辞めちまったのか……」

黒井「ハッ! この業界では珍しいことではない。いちいち感傷に浸るんじゃない!」

卯月「すっ、すみません……」

黒井「フン、まあいい。くだらん話はその辺にして、今後の予定についてだが」

卯月「はいっ」

黒井「当分はジュピターに付き合ってトレーニングだ。その他は追って指示する」

卯月「わかりました!」

冬馬「オッサン。俺、今日は朝からトレーニングだけど……それにも付いてこさせんのか?」

黒井「無論だ。961プロの一員となった以上、無駄な時間を過ごさせる訳にはいかん!」

卯月「が、がんばります……」

黒井「あと、移籍直後では右も左も分からんコトが多いだろう。誰かに面倒を見させるか……」

冬馬「――で、当分は俺がアンタをサポートすることになった。よろしくな、島村」

卯月「こちらこそ、よろしくお願いしますね! 鬼ヶ島羅刹さん!」

冬馬「……そのボケにも慣れたし、もう突っ込まねーぞ」

卯月「あれ? 城ヶ崎美嘉さんでしたっけ?」

冬馬「それはテメーんトコのアイドルだろ!」

卯月「えへへっ。ちょっとした冗談ですよ、天ヶ瀬冬馬さんっ」

冬馬「わ……分かってんなら最初からそう言えよ! ったく……」

冬馬「それにしても意外だったな。オッサンがアンタを引き取ったのは」

卯月「こういうのって珍しいんですか?」

冬馬「オッサンは完璧主義者だしな。倒産した事務所のアイドルを雇うなんて未だに信じられねぇ」

卯月「じゃあ、どうして私なんかが……」

冬馬「さぁな。女性アイドルを増やすとか、黒が似合うとか、それくらいの理由じゃねーのか」

卯月「黒が似合うなんて言われたこと無いですよ?」

冬馬「例えばの話だっての。オッサンも大概変人だから、何考えてるかなんて分かんねぇし」

卯月「……私より、凛ちゃんや未央ちゃんの方が凄いと思うんだけどなー」

公園――


卯月「はぁっ、はぁっ……疲れたぁぁ~」

冬馬「ふぅ……今のランニングで、午前のトレーニングは終了だぜ」

卯月「ジュピターさんって、いつもこんなキツい練習してるんですか?」

冬馬「慣れれば大したことねぇよ。それより、島村も意外とやるんだな」

卯月「はい?」

冬馬「途中でヘバったりしなかっただろ。CGプロ最古参アイドルは伊達じゃねえな」

卯月「そ、そうですか? えへへ……」

グゥゥゥゥ……

冬馬「なんだ? 今の音」

卯月「す、すみませんっ……私のお腹の音です……」

冬馬「……そういや、もう昼だな。俺も腹減ってきたし、一息入れるか」

卯月「あっ! それなら天ヶ瀬さん、一緒にお昼に行きませんか?」

冬馬「……なんでだよ?」

卯月「せっかく同じ職場で働くんですから、仲良くしといて損は無いですよ!」

冬馬「いや、悪いけど遠慮するぜ。女とメシ食ってもいまいち盛り上がらねーしな」

卯月「あっ……もしかして、男の人の方が好きとか……」

冬馬「おい待て。絶対誤解してるだろアンタ」

冬馬「結局、一緒に来ちまった……」

卯月「近くにファミレスがあって良かったですね! 私、オムライスとレモンティー!」

冬馬「カルボナーラとクリームソ……アイスコーヒー」

卯月「……今、クリームソーダって言いませんでした?」

冬馬「言ってねぇ」

卯月「天ヶ瀬さんって甘い物好きなんですか?」

冬馬「言ってねぇって言ってるだろ!」

卯月「私、美味しいジェラートのお店知ってますよ!」

冬馬「…………」

事務所――


卯月「午後は何をするんですか?」

冬馬「ビデオでライブの研究だ。こうして勉強しとかないと、すぐ新鋭に追い抜かされるからな」

卯月「ニュージェネレーションのビデオもあるかなぁ」

冬馬「事務所には無い。ピンキーキュートもな」

卯月「えっ……」

冬馬「前に探したんだよ。自撮りのヤツなら俺ん家にあるけど、ブレまくりで参考にならねぇし」

卯月「……そっか。残念……」

北斗「チャオ☆」

卯月「あっ、伊集院さん」

北斗「北斗でいいよ、エンジェルちゃん。ビデオの研究なら俺も混ぜてもらおうかな?」

冬馬「そうしろよ。そろそろ翔太も営業から帰ってくる頃だしな」

卯月「あ、私ジュピターのライブ映像が見たいですっ」

北斗「残念、エンジェルちゃんは社長からお呼び出しだよ。午後はそっちの予定で埋まるだろうね」

卯月「えぇ~っ?」

冬馬「呼び出しって……ああ、アレか。そりゃ午後は埋まっちまうだろうな……」

卯月「……?」

ガチャッ


卯月「失礼しまーす。社長、私にお話があるって聞いたんですけど……」

黒井「ウィ。まずは座るがいい」

卯月「は、はいっ」ガタッ

黒井「移籍初日ということで、今日は我がプロダクションの理念について話しておく」

卯月「理念……ですか?」

黒井「今のお前は961プロのアイドルだ。今後、CGプロでの記憶は一切捨て去ってもらう」

卯月「…………」

黒井「961プロの理念を正しく理解し、それに則った活動をしろ。それが王者への道と知れ」

卯月「……はい」

黒井「そこで、これから3時間かけてお前に961プロの理念を叩き込む」

卯月「さっ……3時間!?」

黒井「言っておくが、私はお前にそれほど期待していない。途中で寝たら即クビだと思うのだな」

卯月「えええぇぇぇぇぇ!?」

卯月「――はぁぁぁ。疲れたぁぁ……」

翔太「お疲れっ、卯月ちゃん」

卯月「あれっ、御手洗さん。お疲れ様ですっ」

翔太「やだなー。翔太くんって呼んでよ、同じ事務所の子なんだしさっ」

卯月「そうですね……そうだね、かな?」

翔太「それよりクロちゃんの講義? あれキッツイよねぇ。半分くらいは765プロの批判や愚痴だもん」

卯月「ホント……お弁当を胸で温めるとかセクハラの練習するとか、そんな事務所あるワケないよ……」

翔太「だよねー。世の中広いから、意外とあるかもしれないけどね?」

一ヶ月後――


卯月「ふぅ……」

冬馬「元気ねーな。最初の頃の『がんばります』はどうしたんだよ?」

卯月「天ヶ瀬さん……」

冬馬「レッスン疲れか? オッサンが完璧だの王者だのうるさいからな」

卯月「それもありますけど。やっぱり、みんなが傍にいないのは寂しいなって」

冬馬「みんなってのは……一緒にやってきたアイドル達のことか?」

冬馬「渋谷や本田とはデビュー前からの付き合いだったんだろ」

卯月「はい。それに美穂ちゃんや智絵理ちゃんともお仕事しましたし」

冬馬「小日向と緒方もCD出せたのは良かったな。やっぱ形になるモンは残しておかないとな」

卯月「………………」

冬馬「なんだよ?」

卯月「い、いえっ! なんでもないです……」

冬馬「とにかく、気持ち切り替えてけよ。人の心配してる余裕なんて無いだろ」

卯月「そうですけど……」

冬馬「島村だって将来どうなるか分からないぜ。オッサンの気分次第なトコもあるしな」

卯月「き、気分って……私、社長に拾ってもらえなかったら受験しなきゃいけなかったのに……」

冬馬「受験って、高校受験か?」

卯月「違います! 大学受験ですよっ!」

冬馬「えっ」

卯月「えっ……」

冬馬「し……島村って高3か? だったら俺とタメじゃねーか!」

卯月「いまさら!? もう会ってから一ヶ月も経ってますよ!?」

冬馬「中3か高1くらいだと思ってたぜ……だったら、なんで俺に敬語使ってんだ?」

卯月「なんででしょうね。最初に会った時にそうしてたから、なんとなく」

冬馬「タメなら気にすんなよ。別にそうでなくてもゴチャゴチャ言わねーけどな」

卯月「そう? じゃあこれからはもっとフランクに話すね、冬馬くん!」

冬馬「……切り替え早えーな。しかもいきなり名前で呼びやがった……」

卯月「あっ、ごめんね。イヤだった?」

冬馬「べ、別にイヤってワケじゃねーけどよ……」

卯月「良かったぁ! 冬馬くんも、卯月って呼んでくれていいよ?」

冬馬「お、おう……気が向いたらな……」

数日後――


卯月「冬馬くん、またおいしいスイーツのお店見つけたよ!」

冬馬「マジかよ! じゃあ今日の仕事あがりにでも……ん? なんだよ、その指の絆創膏」

卯月「これ? ちょっとお料理で失敗しちゃって、えへへっ」

黒井「……おい」

冬馬「げっ、オッサン……!」

黒井「お前達、最近随分と親しげじゃあないか? んん?」

卯月「はい! 私達、とっても仲いいですから!」

冬馬「あ、バカ……!」

冬馬「マズい、怒られるぜ……」

卯月「え? どうして?」

冬馬「『王者は孤独なもの』ってのがオッサンの持論でよ。馴れ合いとか大っキライなんだよ……」

卯月「ええぇぇぇ!!」

黒井「…………フン。じゃれあって961プロの品格を下げるようなことだけはしてくれるなよ」


バタンッ


卯月「あれ……?」

冬馬「……オッサンって、あんな寛容なこと言うヤツだったかな」

卯月「きっと一人ぼっちは寂しいって気付いたんだよ!」

冬馬「ねーよ。オッサンに限ってそれは無いって」

黒井「………………」

北斗「どうも、社長」

黒井「北斗か。用なら手短に済ませろ」

北斗「では単刀直入に。あのエンジェルちゃんを受け入れたのは、何故ですか?」

黒井「…………」

北斗「俺たち3人が馴れ合うことすら好ましくないと思う貴方が、どうして……」

黒井「…………」



黒井「……冬馬のガキっぽさを改善するためだ」

北斗「…………は?」

黒井「冬馬といえば、思い立ったら一直線、熱血漢、子供心を忘れない大人……」

北斗「…………」

黒井「どれも聞こえはいいが、実際はただのガキだ。あのままではトップアイドルにはなれん」

北斗「子供っぽいところもアイツの長所ですよ」

黒井「それを計算で出せるようにしてこそ完璧と言えるのだ! 現に先日のドラマ撮影も……」

北斗「あぁ……女優と見つめ合うシーンやキスシーンで、10回以上NG出してましたね」

黒井「あの童貞臭さはなんとかならんのかと頭を抱えていたのだが……」

北斗「それで、エンジェルちゃんで女性に免疫を付けさせようと?」

黒井「そうだ。冬馬と同い年、しかも人当たりが良いと評判のアイドルだったからな」

北斗「なるほど。CGプロが倒産して彼女がフリーになったのは、社長にとって僥倖だったんですね」

北斗「でも、そうすると冬馬の性格が改善されたら……」

黒井「当然、島村はお払い箱だ。ただの一般人に戻ってもらう」

北斗「それは、あんまりじゃないですか?」

黒井「なんだと?」

北斗「彼女はウチのレッスンにもついてきてます。それに、この前のライブだって……」

黒井「それが何だ? ヤツがいるとジュピターの人気にも影響が出る以上、長居させるメリットが無かろう」

北斗「……俺たちの人気って……何の話です?」

黒井「なに? 島村はお前達に話していないのか。チッ、余計な気遣いをしおって……」

北斗「…………」

北斗「――ってことらしいんだよね」

卯月「そんな……私、せっかくアイドル続けていけるって思ってたのに……」

翔太「用済みになったから捨てるってこと? さすがに酷くない?」

冬馬「…………」

北斗「……どうしたんだ、冬馬」

冬馬「あのよ……島村って初対面の時から、やけに俺たちに親しげだったよな」

卯月「そ、そうかな? 自分じゃよく分からないけど……」

冬馬「それって最初からオッサンと画策して、俺の性格を治すのが目的だったのかよ?」

卯月「えっ……」

冬馬「ファンとかじゃなくて、本当の自分を見てくれる女がいるって……」

翔太「冬馬くん……?」

冬馬「そう浮かれてる俺を、影で笑ってたんじゃねーのか?」

卯月「ちっ、違うよ! 誰に言われたとかじゃない! それに私、そんなに器用じゃないもん!」

翔太「だよねー。卯月ちゃん、どっちかっていうと冬馬くんタイプだもん」

冬馬「……いや待て。どういう意味だ、オイ」

翔太「マイペースで天然入ってるってこと」

卯月「それ、未央ちゃんに言われたことある……」

北斗「自分らしさを失わないっていうのかな。どんな時でも変わらない、見てると安心するタイプだね」

卯月「それは凛ちゃんに言われた……」

冬馬「…………」

冬馬「分かったよ……お前に限ってそりゃねーよな。疑って悪かった、卯月」

卯月「……名前で呼んでくれた。えへへっ」

冬馬「う、うるせぇ! そこはスルーしろよ!」

翔太「ちょっとー。そういうの後にしてくんない?」

北斗「そうそう。このままだとエンジェルちゃんがまたクビになっちゃうからね」

卯月「あ……そうでした……」

冬馬「とにかく、オッサンをなんとか説得するしかねぇだろうな」

北斗「俺としては、彼女がいるとジュピターの人気に影響が出る、って言葉が気になってるんだよね」

冬馬「……卯月、何か心当たりとかねぇのか?」

卯月「…………実は……」

冬馬「――オッサン! どういうことだよ!」

黒井「何事だ、騒々しい。我が961プロのアイドルとしてもっと品性を……」

冬馬「んなことどうでもいい! 聞いたぜ、ファンレターの話」

黒井「ほう、今頃話したのか、島村。とうに冬馬達に泣きついているものと思っていたが」

卯月「…………」

翔太「ホントなの? 卯月ちゃん宛のファンレターに、カミソリが入ってたって話」

黒井「フン……事実だ。一通や二通じゃなく、大量にな」

冬馬「……あの絆創膏、もしかして」

卯月「うん……封を開けた時にスパッて切っちゃって……」

北斗「脅迫まがいの手紙や殺人予告まであったそうですね」

黒井「ああ。島村の移籍や、冬馬との馴れ合いがジュピターのファンには不快だったようだな」

冬馬「だからって卯月をクビにすんのはおかしいだろ! 元々はオッサンの策略が原因じゃねーか!」

黒井「それが何だ? 島村の存在がジュピターのイメージダウンに繋がるのは間違いないのだ」

冬馬「……相変わらず、アイドルを商品としてしか見てねーのかよ」

黒井「冬馬の性格改善という意味では価値ある商品だったぞ。が、不要になった商品は廃棄するものだ」

冬馬「オッサン……」

卯月「……わかりました。私、辞めますっ」

冬馬「!?」

卯月「私がいたら冬馬くん達が困ると思いますし。それに辞めたって、夢を諦めるわけじゃありませんから!」

黒井「ほう、冬馬より余程聞き分けがいいな」

北斗「……エンジェルちゃんはそう言うけど。このアイドル戦国時代、簡単には再起できないよ?」

卯月「私もそう思います……でも……」

翔太「ま、待って! じゃあこうしようよ!」

冬馬「翔太……?」

翔太「来月のフェス。僕達が相手に10倍以上の票差を付けて勝ったら、卯月ちゃんをクビにしない!」

黒井「……なんだと?」

翔太「卯月ちゃんのせいで僕達の人気が落ちてるとしたら、10倍以上の差なんて無理だよね?」

冬馬「会場の収容人数が5万人だから、4万6千票くらいは必要だな……」

北斗「それに来月のフェスといえば、相手は強豪の765プロ。絶望的と言っていい」

黒井「…………」

翔太「もちろん、宣伝妨害とかの小細工も無し! それで黒ちゃんのメリットが何かって言うと……」

黒井「正当な方法で765プロに圧勝できれば、765プロ人気は一気に地に落ちる、ということだな」

翔太「そうそう。圧勝できなかったら、残念だけど僕達も卯月ちゃんのことは諦めるからさ」

黒井「……ククッ、いいだろう。それでお前らが納得するならば、それに越したことは無い」

翔太「よし、決まりだね!」

冬馬「翔太……お前すげぇよ」

翔太「いやいやー。黒ちゃん、765プロ大嫌いだからねぇ」

北斗「こういう柔軟な発想は翔太ならでは、だね」

冬馬「とりあえず、そうと決まれば特訓しようぜ。来月となるとあまり時間もねぇしな」

翔太「そだね!」

北斗「エンジェルちゃんを助けるために、少しは頑張らないとね」

卯月「……ありがとう。みんな、ありがとう……!」



黒井「…………」

そして、フェスの後――



冬馬「終わったな……」

北斗「いいフェスだったよ。二人とも、お疲れ様」

翔太「お互い死力を尽くしたーって感じだったね!」

冬馬「ああ。俺たちは正面から765プロと戦って……正真正銘、勝ったんだ」



冬馬「25,200票 対 24,800票。たったの400票差……」

冬馬「卯月……悪い、全然ダメだった。765プロのヤツら……マジで強かった」

卯月「い、いいよっ、謝らなくて! みんなが頑張ってくれて、私、本当に嬉しかったもん!」

翔太「でも、これじゃあ卯月ちゃんが……」

卯月「だいじょうぶ! 島村卯月、また1からアイドル目指してがんばりますっ!」

冬馬「…………」

北斗「……しょうがないね。社長との約束だ」

冬馬「そういえば、そのオッサンは?」

黒井「おのれぇぇぇ……気に食わんぞ!!」

冬馬「……ん?」

黒井「私の想定では、10倍ではなくとも5倍程度の差がつくハズだった! なんたる醜態だ……!」

北斗「……社長も大外れだったんですね」

黒井「やはり近年の女性アイドル人気に押されている! 高木のヤツ、女ばかり集めおって!」

冬馬「逆恨みじゃねぇか。それに、ウチにも女のアイドルは沢山いるだろ?」

黒井「奴等にはスター性が無い! お前らジュピターのような素質がまるで無いのだ!」

翔太「あはは……これ、褒められてるのかな?」

黒井「クソッ、高木めぇぇ…………んん?」チラッ

卯月「?」

黒井「…………」

黒井「……これだ! いるではないか、我がプロダクションにも女性の逸材が!」

卯月「え?」

黒井「天然、マイペース、女子高生、豊満な尻! 性格は無個性、故に無個性という個性がある!」

卯月「……無個性……気にしてるのに……」

黒井「いいだろう。島村卯月、お前は女性版ジュピターのメンバー1号だ!」

卯月「は……? え、えぇ~~~~~~っ!?」

翔太「ちょちょちょ、ちょっと待って! 何言ってんの!? 黒ちゃんとの約束は?」

黒井「約束ぅ? なんだそれは? 約束と言うからには契約書の1つでもあるのだろうな?」

翔太「……無いけど……」

黒井「島村には新たな商品価値がある。それはお前達にとっても願ったり叶ったりだろうが」

冬馬「そうだけどよ……アンタ、それでいいのか?」

黒井「フハハハハ! 勝つためには手段を選ばん、それが私のポリシーだ!」

後日 天ヶ瀬家――


翔太「じゃあ、今日は祝勝会兼、卯月ちゃんのアイドル続行を祝って」

「「カンパーイ!」」

冬馬「……で、今更なんだけどよ。なんで会場が俺ん家なんだ……?」

翔太「いいじゃん、広いんだからさ」

冬馬「確かに親父は単身赴任だし、母さんは亡くなったから、家には俺1人だけどよ……」

卯月「冬馬くん、お母さん亡くなってるんだ……」

冬馬「気にすんなよ。もう昔の話だしな」

北斗「そういえば……冬馬の家って何度か来てるけど、冬馬の部屋には入ったことないよね」

冬馬「絶対見んなよ! 絶対だぞ!」

翔太「分かってるってー」

冬馬「ホントかよ……ちょっと台所からツマミ持ってくるから大人しくしてろよ?」

翔太「ということで、冬馬くんの部屋の前に来ました」

卯月「や、やっぱりやめた方が……」

北斗「と言いつつエンジェルちゃんも来てるよね」

卯月「だ、だって気になるよっ。男の子の部屋って入ったことないし……」

翔太「じゃ、冬馬くんの部屋に侵入開始~♪」


ガチャッ

冬馬「お前ら! 俺の部屋には入るなって……」

卯月「…………」ポカーン

北斗「…………」ポカーン

翔太「…………」ポカーン

冬馬「うっ……うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

北斗「CD、グラビア、Tシャツ、うちわ、フィギュア……」

翔太「み、見事なまでにアイドルグッズの山だねぇ……」

卯月「………………」

冬馬「見るな! 見るんじゃねぇぇぇぇ!!」

翔太「特に卯月ちゃんのグッズが圧倒的だよ。こんなにいっぱいあるし」

北斗「冬馬、お前……」

冬馬「だから入るなっつったろうが!!」

卯月「…………」ポカーン

翔太「あーあ、卯月ちゃん固まっちゃったー」

冬馬「あっ……いや卯月、これは……」

卯月「…………」

冬馬「……違うんだ」

翔太「何が?」

冬馬「よく考えろよ。同じ事務所のメンバーのグッズくらいは持っておくべきだろ?」

卯月「そ……そうなんだ?」

北斗「確かに、俺も冬馬や翔太のグッズはいくつか持ってるしね」

翔太「僕も僕もー」

冬馬「ほらな。それが普通なんだよ」

卯月「そ、そっかぁ……ところで、この私のフィギュアなんだけど」

冬馬「あ? フィギュア?」

卯月「パンツがブルーのストライプだね。でもこれって、初期生産でしか作られてないんだって」

冬馬「えっ」

卯月「私のイメージに合わないからって、すぐ白に変更されたから……」

翔太「その初期生産っていつ頃の話?」

卯月「……半年以上前、かなぁ」

冬馬「…………」

卯月「…………」

冬馬「……そうだよ、元からファンだったよ! アイドルがアイドルのファンじゃいけねーってのかよ!?」

翔太「わぁ、盛大に開き直ったね」

冬馬「961プロに卯月が来た時、正直テンション上がっちまったよ……もう責めたきゃ責めろよ……」

卯月「…………」

卯月「あの……別に私、イヤじゃないよ? むしろ嬉しいなって思うし!」

冬馬「嬉しい……?」

卯月「うん。冬馬くんが私のこと見てくれてるんだなって感動しちゃった! ありがとうっ」

冬馬「……卯月」

北斗「本物のエンジェルだな。眩しすぎて直視できないよ」

翔太「普通はドン引き物だもんねぇ」

卯月「もともと、冬馬くんがそうじゃないかなっていうのは、ちょっと思ってたから」

冬馬「……気付いてたのか?」

卯月「私がCGプロ最古参って言ってたけど、当時のファンじゃなかったら知らないと思うし」

冬馬「…………」

卯月「ニュージェネレーションやピンキーキュートのビデオも、私が来る前から探してたんだよね?」

北斗「…………」

卯月「そのピンキーキュートの美穂ちゃんや智絵理ちゃんがCD出したことも知ってたね」

翔太「冬馬くん、隠す気ないでしょ?」

冬馬「いや、全力で隠してたつもりだ……」

卯月「あはっ! 冬馬くんって面白い人だよねっ」

北斗「ああ、気付いちゃった? 冬馬って本当は面白いヤツなんだよ。普段は無愛想だけどね」

翔太「良かったじゃん、秘密の趣味も受け入れてもらえて。これで安心して告白できるね!」

冬馬「…………は?」

卯月「こくはく?」

北斗「それも気付いてなかった? 冬馬のヤツ、エンジェルちゃんにベタ惚れだよ」

冬馬「ちょっ……テメェ、何言ってやがる!」

卯月「え……えぇぇぇ? ウソ、だよね?」

冬馬「………………」

卯月「…………」

冬馬「…………」

卯月「……えええぇぇぇ~~~っ!?」

翔太「卯月ちゃんもたいがいっていうか、この二人ってやっぱり似てるよね」

卯月「どっ、どうしようっ……!」

冬馬「落ち着け! どうもしねーよ!」

卯月「ドキドキする……こんなの初めてだよ、助けて凛ちゃん未央ちゃん……!」

冬馬「いいって! 別に俺が勝手にそう思ってるってだけで、何かしてくれってワケじゃねぇから!」

卯月「で、でも! 聞いちゃったんだから、ちゃんとお返事しないとダメだよ!?」

冬馬「いっ……マ、マジかよ……」

卯月「え、えっと……」




卯月「ごっ……ごめんなさい! 私、冬馬くんとはお付き合いできません!」

冬馬「だ……だろうな……はは……」

翔太「あ~……ご、ごめんね。僕のせいで気まずい感じになっちゃった」

冬馬「いや、気にすんな。断られるのは分かってたし、むしろスッキリしたぜ!」

翔太「冬馬くん……」

卯月「ごめんなさい……好きな人がいるわけじゃないんだけど、やっぱり私達、アイドルだから」

北斗「ま、自由に恋愛ってわけにはいかないよね」

冬馬「そうだな……」

卯月「せっかくアイドル続けられることになったのに、スキャンダルとかになったら困るし……」

翔太「…………あれ?」

翔太「今のさ。アイドルじゃなかったら付き合ってもいい、って聞こえたんだけど」

卯月「あっ……う、うん。そうだよ?」

冬馬「!?」

卯月「冬馬くんは、私にはもったいないくらい素敵な人だと思うんだ」

冬馬「そ……そうか? 大したことねーぜ、俺なんて」

卯月「ううん。私を必死に守ろうとしてくれたし、甘い物も好きだし、グッズも買ってくれてるもん」

翔太「……途中から物欲っぽくなってるけど」

卯月「でも……私が引退するまで待ってて、なんて言えないよね……」

翔太「え、なんでさ?」

卯月「いつになるか分からないよ。CGプロには30過ぎてアイドルやってる人もいたし……」

冬馬「なんだよ。つまり、待ってりゃいいのか?」

卯月「え?」

冬馬「じゃあ待つっての。何年でも、何十年でもよ」

卯月「……冬馬くん……」

翔太「大人は色々大変だねぇ。自由に付き合うこともできないなんてさ」

北斗「翔太も、もう少し成長したら分かるようになるよ」

翔太「でもこれで卯月ちゃんと仲睦まじくやってれば、冬馬くんは女性に免疫が付きそうだね」

北斗「そうだな。これで冬馬の童貞臭さも無くなるといいんだけどね」

卯月「ど……そ、そうなんだ……」

冬馬「北斗ぉぉぉ! 本当に余計なことしか言わねぇな、お前ら!」

卯月「だっ、だいじょうぶだよ、冬馬くん……わ、私も……だし……」

翔太「卯月ちゃん!? 言わなくていいよ、そういうことは!」

北斗「はは……いいカップルというか、いいコンビだよね。この二人ってさ」



おわり

読んでくれた人ありがとう
たまにはこういうのもいいよね

>>41
>冬馬「……で、今更なんだけどよ。なんで会場が俺ん家なんだ……?」

>翔太「いいじゃん、広いんだからさ」

いいじゃん、ヒロインだからさ
ふふ

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