ほむら「……革命家の魔法少女?」(331)





『 もし私たちが空想家のようだといわれるならば

  救いがたい理想主義者だといわれるならば

  できもしないことを考えているといわれるならば

  何千回でも答えよう――「その通りだ」と…… 』


――エルネスト=ラファエル=“チェ”=ゲバラ





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■見滝原駅■

その日、電車に乗って一人の少女が日本国G県見滝原市へと姿を現した。
浅黒い肌をしたその少女は、基本的には日本人的醤油顔をしていたが、
何処となく身に纏った空気にはトロピカルな匂いが漂っていて、異国情緒を漂わせていた。

やや癖のある黒い髪の上に草臥れたパナマ帽を乗せ、
空色のシャツに黄色のスカーフ、キャメルのスカートにキャンバスブーツ、といった出で立ちである。

手には革の古びたトランクを一つ、荷物として携えていた。

???「……」

見滝原駅は地方都市の駅としては破格の大きさであり、
近年急速に発達しつつある見滝原市の規模に合わせて数年前に大規模改装されたばかりで、
非常に綺麗で近代的な駅舎を有している。

その広いホームで、きょろきょろと辺りを見渡している彼女の姿は、
何処となく“おのぼりさん”な印象を見る者に与えるもので、
どちらかと言えば地方扱いされることの方が多いG県の見滝原にしては、やや珍しい姿と言えた。

???『……“大佐”!』


そう彼女へと呼びかけたのは、一人のブレザー姿の女学生らしい少女である。

何処か南国風の“大佐”と呼ばれた少女に比べて、
如何にも普通の日本人の女学生、といった印象の極めて地味な少女であった。

なお、彼女が“大佐”へと呼びかけた際の言語は、スペイン語であった。

???『ようこそ見滝原へ!お待ちしてました!』
大佐「やあ、直接顔を合わせるのは随分と久しぶりだね。息災そうで何よりだよ」

“大佐”と呼ばれた少女もまたスペイン語で返すと、
迎えに現れた少女――ここでは仮に“ブレザー”としよう――と握手を交わすと、
ニッと人好きのする爽やかな頬笑みを浮かべた。

ブレザー「“大佐”こそ!……香港ではどうでしたか?」
大佐「万事順調だよ。現地魔法少女との折衝も上手く行ったさ」
ブレザー「それは重畳です。それにしても、“大佐”殿が自ら来て下さるとは」
大佐「何、この見滝原に関しては、少し気になってた事があってね。ついでにそれも調べるのさ」

ここで“大佐”は再び微笑むと、ブレザーの少女の手を離した。

ブレザー「では、ご案内致します。関東管区より派遣された要員は既に、件のホテルに集結済みです」
大佐「そうか。よろしい、向かうとしよう」

二人は連れ立って見滝原駅を後にすると、
駅前で適当なタクシーを捕まえて、運転手へと目的地の名を言った。

ブレザー「ホテル・ウメスへ」



■ホテル・ウメス■


その日、佐倉杏子と千歳ゆまは少しばかり綺麗な服を着て、
ホテル・ウメスの一階ラウンジで二人してケーキをパクついていた。

先日、ちょいとした“臨時収入”があったことに加え、
杏子にも少しばかり風見野から見滝原へと出向く“用事”があった。
故に、当座の拠点とする事にしていたホテル・ウメスで評判のケーキを食べてみよう、
という話になったのである。

無頼な彼女達にしては珍しく、極めて合法的かつ行儀良く、
美味しいケーキに舌鼓を打っていた。

ゆまは歳相応の天真爛漫たる笑顔でケーキを頬張り、
杏子はその様を眺めながら、かつての“師匠”の事を思い出して、
少しだけ寂しさを感じさせる笑みをこぼしていた。

そんな杏子が、自分のケーキをやや行儀悪く口に運ぼうとした時だった。

杏子「……アン?」

ふと、ロビーに入って来た二人連れの少女と、
それを出迎えに待っていたらしい三人の少女の姿が目に入ったのである。

別段、珍しい光景では無い。
ホテルの一階ロビーで待ち合わせなど、それこそ有り触れた光景である。


杏子「(アイツら……ひょっとして)」

しかしその五人が五人、そろいもそろって――

杏子「(間違いねぇな……あの指輪は)」

――『魔法少女』だとするならば、それは断じて有り触れた光景などではない。

杏子「(……チラッと見ただけじゃ解んねぇけれど……五人とも魔法少女だとすりゃぁ)」
杏子「(少し厄介だね、何が目的だか知らないけど……気に入らない)」

魔法少女がチームを組む事自体は珍しくないが、それが五人ともなればかなりの大所帯である。
当然の事ながら、彼女達が必要とするグリーフシードの量も人数に比例して多くなる。

単に旅行か何かで見滝原に寄っただけなのか、それともここを新たな狩り場と定めているのか。

見滝原の隣、風見野を縄張りとする杏子に取って、彼女達の存在は対岸の火事ではない。

ゆま「?……キョーコ、どうしたの?」
杏子「ゆま、ちょいとトイレ行って来る」

杏子の様子に疑問を持ったゆまにそう言い残すと、
杏子はラウンジを出て、こっそり五人の魔法少女らしき少女達を追った。
――少なくとも、どの部屋に泊まるかぐらいは、確かめておいて損は無い筈だ。



■六〇七号室■


ホテル・ウメスの六〇七号室はツインルームであり、中々に眺めの良い部屋であった。
“大佐”はトランクを二つある内の一方のベッドに放り投げると、
パナマ帽を脱いで、投げたトランクの上にポンと置き、ベッドの端に腰かけた。

「それでは諸君。事の次第を改めて説明してくれたまえ」

“大佐”がそう、『英語』で問いかけたのは、
先のブレザーの少女に新たに三人加えた四人の少女である。

いずれも如何にも日本人な少女である点と、
十代の半ば程度の年齢であるらしい点を除けば、
服装も容姿もバラバラの三人である。

内の一人が、携えていたアタッシュケースを開いて、
中から書類綴りを二つ程取りだすと、一方を“大佐”に渡し、
もう一方を静かに読み上げ始めた。

この報告者の読み上げた内容を要約すれば、以下の様になるだろう。

――事件は四日前。
“大佐”の率いる“組織”の日本支部関東管区所属で、調査のために本地・見滝原へと派遣していた工作員、
暗号名『アルバトロス』が何者かにより殺害されたのである。


暗殺の現場は魔女の結界内であった為に、魔女の消滅に伴い遺体は消滅。

『アルバトロス』との連絡途絶にともない、
彼女との連絡要員が見滝原へ赴き、インキュベーターに問い合わせた。
その結果、キュゥべえが『アルバトロス』が殺害される所を目撃したと証言したのである。

連絡要員がさらに聞きだした所、下手人が魔法少女であるという事が解ったが、
さらに懸念すべき情報として、類似の魔法少女殺しが、見滝原周辺地域で頻発しているというのである。
動機は不明。しかしグリーフシードや縄張りをめぐって、魔法少女同士が殺し合う事自体は、さして珍しい事では無い……。

大佐「そして本格的な下手人捜しは、いよいよここから、という訳か」

報告を聞き終わった“大佐”は、そのように締めくくった上で、報告者に対し問いを発した。

大佐「『アルバトロス』は一体、何を調査していたんだね?」

この問いに答えたのはブレザーの少女であった。

ブレザー「見滝原周辺地区の魔法少女の現状に対する調査です“大佐”」
ブレザー「昨今、この見滝原周辺地域では魔女の出現が増加傾向にあるとの報告もあり」
ブレザー「よって危険地帯たる見滝原周辺における魔法少女の総数、能力の詳細等の調査が必要と」
ブレザー「日本支部関東管区で決定され、『アルバトロス』らが派遣されていた、という次第です」


大佐「……『アルバトロス』は調査の結果を多少なりとも形にしていたのかな?」

ブレザー「はい“大佐”。こちらに」

ブレザーの少女から“大佐”が受け取った報告書は、
報告書というより殆どメモ書きで、その内容も名前と簡単な情報の列記に過ぎなかった。

なお余談ながら、その中には『巴マミ』の名前が無論あった。
――閑話休題。

“大佐”は報告メモを読み終わると、呟くように独語し始めた。

大佐「日本支部は出来てまだ日が浅い」
大佐「我らが組織の要員だけでは、事の真相に至るのに時間を喰うだろう」

そしてブレザーの少女らへと視線を向けて、言った。

大佐「良し。まずは現地協力者を見つける事だ」
大佐「『アルバトロス』のメモを基準に、コンタクトを取るとしよう」



■一階ラウンジ■


ゆま「キョーコ、トイレ長かったけど、大きい方だったの?」
杏子「……まぁそんな所だ」

杏子はラウンジに戻ってくると、取り敢えず食べかけのケーキに齧り付いた。
取り敢えず部屋の番号だけは、気付かれずに確認出来た。
六〇七号室。本当は壁や扉に耳を付けて話を盗み聞きしてやろうかとも思ったが、
不用意に近づき過ぎて気付かれれば二対五だ。軽率な事は出来ない。

杏子「……なぁゆま」
ゆま「?何、キョーコ?」
杏子「例の織莉子ってヤロウ、見れば一目で解るんだよな?」

杏子の問いに、ゆまは力強く答える。

ゆま「うん!絶対に解るよ、キョーコ!」

彼女は力強く答える。
――ゆまは『役立たず』ではない。
そういう事実を、ゆまは杏子に示さねばならないのだ。

杏子「……なら良いんだ」

取り敢えず、このラウンジで粘って、連中が降りて来るのを待つ事に、杏子は決めた。
ゆまの連中の確認をさせ、織莉子が見当たらなければ、当座は杏子の敵では無いということだ。

杏子「(……少し癪だが、キュウべぇの野郎からマミに連中の事を知らせる様に言っとくか)」
杏子「(マミの事だ。勝手に動いて連中に突っかかってくれるだろうしな)」
杏子「(連中の事は取り敢えずマミに丸投げだ。こっちはこっちで――)」

――果たさねばならぬ『オトシマエ』があるのだから。



■巴マミの部屋■


QB「マミ、少しばかり話があるんだけど、良いかな?」

おやつのケーキにフォークの先を突き刺していたマミのもとに、
上のような事を言いながらキュウべぇが姿を現したのは、
杏子が“大佐”らを発見したのと殆ど同じ時間であった。

マミ「あら?何かしらキュウべぇ」

マミは一先ずフォークを手放して姿勢を正すと、
見なれた来訪者を出迎えた。

QB「少し、厄介な事になったかもしれないんだ」
QB「彼女達が、この見滝原に姿を現した以上、マミには注意してもらわなくちゃならない」

マミ「彼女達……?」

キュウベェの表情の無い声は、今日は珍しく警戒の色を帯びている。
マミはキュウべぇとの付き合いの長さからそれを聞きとり、彼女はやや身構える様子を見せた。

QB「南米から、彼女達がやって来たんだ」
QB「たぶん、現在における地球上で最大の、魔法少女による『組織』が」

マミ「組織?」

QB「そうさマミ、組織なのさ。小規模なパーティじゃあ無い、大規模な組織」
QB「そのリーダーが、この見滝原に姿を現したのさ」



――魔法少女の組織!
これまでに聞いた事の無い、突拍子も無い存在に、マミは戸惑いを隠せない。
そんなマミの様子を意に介する事無く、キュウべぇは『彼女達』の名を告げた。

QB「彼女達は『A.O.E.M.』を自称している」
QB「ラテン語の、『Arcanum Organizationem Exercitus Magica』の頭文字を取った略称だ」

QB「意味は、『秘密魔法軍事組織』」
QB「マミ、彼女達は非常に危険だ」

取り敢えずここまで。

原作に、五人以上の魔法少女の集団とか組織とかが出て来ないのを不思議に思っていたので、
そういった連中をまどマギに出してみようというSSです

性質上オリキャラが多数出ますが、一部を除いては殆どモブですし、
あくまで原作キャラが主役の話作りをしていくつもりです

それでは




■再び巴マミの部屋■



マミ「『秘密魔法軍事組織』?」
QB「そうさ、マミ」
QB「その名前の示す通り、彼女達は“大佐”と呼ばれる魔法少女を指導者として掲げる」
QB「上意下達の、極めて軍隊的な秘密結社なのさ」
QB「日本ではまだ知られてはいないけれど、北米南米なら『A.O.E.M.』と言えば」
QB「知らない魔法少女はまずいないだろうね」

――『秘密魔法軍事組織』
キュウべぇの口から飛び出す剣呑な情報の数々に、マミは思わず眉を顰めた。

魔法少女としてはベテランであるところの彼女は、
魔法少女が共同で生活していく事の難しさを嫌という程に知っている。
だからこそ、魔法少女の結社、等と言われても、まず『胡散臭い』という印象が何よりも先立った。

QB「彼女達は南米に本拠地を置いて活動している」
QB「正確な本拠地の場所は僕もまだ把握していないけれど、恐らくはブラジルの可能性が高いね」
QB「南米では魔法少女にまつわるあらゆる事を彼女達が仕切っている」
QB「いわゆる『縄張り』の線引きや、グリーフシードの分配……」
QB「さらには魔法少女の素質を持つ少女達の管理までね」

マミ「!?……じゃあ南アメリカじゃあ魔法少女になるのにも」
マミ「ええと……『A.O.E.M.』の許しを得なくちゃいけないって事?」

キュウベぇは頷いた。

QB「そうさマミ。実際には、彼女達も全ての素質ある少女を管理しきれているわけじゃあない」
QB「けれども、彼女達の手は非常に長い、と言えるだろうね」

キュウべぇの、『A.O.E.M.』に関するマミへの講釈は尚も続いた。

QB「それだけじゃないんだマミ」
QB「さっき彼女達は危険だと僕は言ったけれど」
QB「その理由なんだけどね――」

QB「彼女達は魔法少女としての力を悪用して、大規模な犯罪にも手をそめているんだ」



■ホテル・ウメス 一階ラウンジ■


杏子「!……ゆま」

杏子はゆまに小声で合図をすると、受付カウンターの近くを指差した。
ゆまが杏子の指さす方を見れば、4人連れの少女達が、ホテルから出て行こうとしている所だった。

杏子「……」

『オリコはいるか?』という問いを、口パクのみで問う杏子に対し、
ゆまは眼を皿の様にして少女達の姿を凝視する。

ゆま「……」

そしてゆまは首を横に振った。

杏子「ハァ……」
杏子「(何だよ、粘り損かよ……)」

最初に食べたケーキ以降何も注文せずに粘った為に、
ウェイターがわざと水を頻繁に交換しに来たりと、
『はやく席を空けろ』と急かされたりと居心地が悪かった。
その上で成果が無かったのであれば、溜息の一つもつきたくなる。

杏子「(……いや、待てよ)」

先程出て来たのは確かに四人だった。
対して入って来たのは五人。

杏子「(六〇七号室だったな、確か)」
杏子「(そこに今は一人で……)」

暫し考える仕草をした後、杏子は席を立った。

杏子「ゆま、行くぞ」
ゆま「?……どこへ、キョーコ?」
杏子「良いから」

ゆまの手を引き、杏子は勘定を済ませた。
そして『ガキんちょめ、粘りやがって』というウェイターの視線を背中に受けながら、杏子はエレベーターに乗りこんだ。

幸いな事にエレベーターは、近頃流行りにカードキーを差しこまなければ動かないタイプでは無かった。
杏子は迷わず、六階のボタンを押した。



■六〇七号室■


事細かに指示を与えて、部下達を送り出した“大佐”は、
ブレザーの少女が土産において行ったピース缶より煙草を一本取り出し、
ライターで火をつけようとして、、止めた。

このホテルが、一部の喫煙スペースを除いて禁煙なのを思い出したのだ。

喫煙スペースに行って吸う事も考えたが、
この国は少年少女の飲酒喫煙に関してとてもうるさいという話も同様に思い出し、
苦笑いを一つして、ピース缶もライターもトランクへと押しこんだ。

大佐「~~♪」

そして口笛を吹きながら、ブレザーの少女のもう一つのお土産を、
彼女の置いて行ったボストンバッグより取り出す。

それは巾着付きのビニール製の袋に入っていて、
“大佐”はそれを慎重に取りだした。

――黒光りするソレは、一丁の短機関銃だった。
『イングラムM10』あるいは『MAC-10』などと呼ばれる短機関銃で、
命中精度は悪いが、白兵戦で絶大な威力を発揮する代物である。

基本的にロシア製や中国製を使う事の多いヤクザなどが、
時々持っているのが摘発され報道されるように、
アメリカ製の本銃も非合法に日本にも入り込んでいる。

それを、ブレザーの少女は仕入れて来てくれたのだ。

本拠地にはもっと優秀で威力のある銃火器が大量に保管されているが、
それらをわざわざ持ち込むよりも、日本国内で密輸品を手に入れる方が、リスクが少ないのだ。

魔法を使えば、本拠地からの持ち込みも不可能では無いのだろうが、
余計な魔力は使わないに越した事は無い。

“大佐”は、マガジンと銃弾に加えて、出来ればと頼んで置いたサプレッサーも入っている事を確かめる。
それらを再び袋に戻して、ボストンバックへと仕舞おうかと考えていた――その時であった。

大佐「――」

“大佐”は口笛を止めると、入り口の方を見た。
そしてイングラムを仕舞う手を止めた。



■六〇七号室前、廊下■


杏子とゆまはドアの前に立ち、今廊下に出ているのは自分たちだけである事を確かめた。
二人は顔を見合わせると、何時でも変身できるように身構えながら、
備えつけのチャイムを鳴らそうとした。

大佐『入って来たまえ。ここは少し設備が古くてね、オートロックじゃないんだ』

しかしそれよりも早くに、中から聞こえて来た声に、
杏子は舌打ちし、ゆまは少しギョッとした。

扉の向こうから聞こえて来たのは、確かに日本語だった。
扉越しなのでややくぐもっていたが、それに加えて、何処となく妙な訛りがあるように、
杏子には感じられていた。

杏子「……チッ」
杏子「ゆま、そこで待ってろ」

再度舌打ちすると、杏子はゆまに手で後ろに下がる様な仕草をした。

ゆま「キョーコ!ゆまは――」

――役立たずじゃない、と彼女が言おうとする所を、杏子は掌で制し、
そこで待て、と視線で強く言った。ゆまはしょんぼりした様子で、後ろに下がった。

杏子「……」

杏子は変身し、その身を赤い魔法少女装束で包んだ。
その上で意を決し、把手を掴むと、勢いよく回し、ドアを蹴り飛ばした。


部屋の中へと飛び込んだ杏子だったが、
飛び込んで直ぐの所に部屋の主が待ち伏せている事は無かった。

慎重にゆっくりと、部屋の奥へと歩みを進めていく。
すると、部屋の主には直ぐに会う事が出来た。

緑の迷彩柄の、軍服然とした魔法少女装束に、赤いベレー帽を被っている。
そしてその手には、一丁のマシンガンと思しきモノが構えられ、その照準は杏子に合わされていた。

少しだけ更新。
今日はたぶんここまで

踏み台クロスもしくはメアリー・スーの予感!!11



■六〇七号室■


ホテル・ウメス、六〇七号室の中は今や緊張によって張り裂けそうになっていた。
佐倉杏子と“大佐”。二人の魔法少女が殺気を漲らせながら睨みあっているのである。

杏子の手には得物の槍はまだ無く、
逆に“大佐”の手にはイングラムM10短機関銃が握られ、
その銃口は真っ直ぐ杏子へと向けられている。

もし杏子と“大佐”の両者ともが普通の人間であったのならば、
百人中百人が“大佐”の勝ちを宣言するであろう状況である。
――しかし、二人は共に『魔法少女』なのだ。


佐倉杏子は考える。
眼の前には、サブマシンガンを構えた魔法少女が一人。
ここは狭い室内で、得物の槍を使うには余りにも狭すぎる。

しかし目前の敵の懐へと一直線に飛び込みつつ、
槍を突き出すフォームそのままに生みだすならば、
敵が引き金を引くよりも速く、その心臓を貫き徹す事は充分に可能だろう。

杏子は自分の速さには自信があったし、槍の間合いは極めて長い。
流石に銃弾を避ける事は叶わないが、しかし引き金を引く速さに勝ることならば、
自分には充分に出来るという確信が彼女にはあった。

伊達に長く、一匹狼の魔法少女として生き残って来た訳ではないのだ。

杏子「(しかも、今のアタシには『ゆま』がいる)」

こういう事態を想定していた訳ではないが、
結果として部屋の外に残して来たゆまは格好の伏兵になっている。

ゆまにテレパシーで来るように言えば、彼女は即座に変身し、スッ飛んでくるだろう。
無論、テレパシーをこの場で使えば、目の前の軍服女郎にも聞こえるだろうが――

杏子「(だとすりゃコイツの注意も一瞬、部屋の外のゆまに向く)」

――聞いたが為に、必然的に注意がそれる。
その瞬間に、最大速度で突っ込みつつの槍の一突き!

つまり、万が一戦闘になっても勝算は充分にあると、杏子は考える。


――そんな杏子に対し

大佐「コイツは」

“大佐”は笑みを浮かべながら話しかけ始めた。

大佐「イングラムM11短機関銃。装弾数は9mm弾で32発」
大佐「そいつを、僅か1.5秒の内に撃ち切る連射力を持っている」

大佐「君が、私がコイツを撃つよりも速く動けると思っているならば……」
大佐「その考えは止めた方が良い。君の得物は知らないが、それが届くよりも」
大佐「私の銃弾が君を蜂の巣にする方が速い」

これ対し杏子は、八重歯を剥き出しにして獣染みた笑みを返した。

杏子「仮にアンタの言ってる事が正しいとしてさぁ」
杏子「そんな豆鉄砲で魔法少女を殺せると思ってる訳?」

“大佐”は尚も微笑み、言う。

大佐「いや。ソウルジェムにでも直撃させなければ、まぁ無理だろう」
大佐「そして君も、それを許すつもりはあるまい」
大佐「しかし、急所に当たらずとも、このイングラムの連射力で弾丸を喰らえば」
大佐「君は動きを一瞬止めざるを得まい」

“大佐”の笑みが深くなる。
犬歯が剥き出しになり、杏子同様、獣染みた笑顔になった。

大佐「私にはその一瞬さえ、あれば良い。私自身の、『魔法少女として武器』で、君を殺せる」

杏子「……」


杏子は黙して“大佐”の口上を聞いていたが、それは憶したが故では無い。
彼女は“大佐”の言葉を耳に入れつつもしかし、冷徹に彼女の隙を窺っていたのだ。
しかし次に“大佐”の口から飛び出した言葉には、流石に杏子も反応を見せざるを得なかった。

大佐「言っておくが、ドアの外に残してきた誰かに期待するのは止めた方が良い」
杏子「!……(ゆまに気付いてたか)」
大佐「その誰かがここに踏み込んで君を助けるよりも、私の動きの方が速い。これは間違いない」
杏子「……」
大佐「……」

互いに黙し、暫時睨み合う。
再びやって来た張り詰めた沈黙の時間は、今度は短かった。

杏子「……はぁ」

不意に杏子が睨むのを止め、肩を竦めながら溜息を吐いた。
殺気は、嘘の様に雲散霧消していた。
杏子の殺気が消えたのを受けて、“大佐”の殺気もまた同様に消えた。
銃を下ろし、笑みも、普段の人好きのするようなものへと戻った。

そして二人揃って魔法少女の姿から、普段の姿へと戻った。


大佐「その様子では、件の魔法少女殺しの下手人じゃぁなさそうだ」
杏子「……成程。見なれない魔法少女がぞろぞろ現れたから何事かと思えば」
杏子「犯人捜しをしに来たって訳だ」
大佐「そんな所だよ。……警戒させて悪かった。君は見滝原の魔法少女か?」
杏子「うんにゃ。隣の風見野のだよ。コッチに来てるのは野暮用だ」

まるで、さっきまでの殺伐とした空気が嘘だったように、
世間話のような調子で、二人は話し始めた。

互いにとって、敵では無いらしいという事を認識した為だ。
杏子は、この場で戦えば自分が負けるなどとは微塵も思ってはいなかったが、
それはどうも相手もまた同様であったであろうと察していた。

しかし意味の無い殺し合いを好んでやる趣味は二人共に無い様子でもあった。

大佐「……君のツレを、ずっと外に待たせておいても悪いだろう」
大佐「呼んでくれないか。二人ともに、飲みモノでも奢ろう」
大佐「少し、話をしようじゃあないか」

杏子「……まぁタダで飲み食いするのは歓迎だ。ゆま!」
ゆま「キョーコ!大丈夫だった?」

杏子に呼ばれて、
魔法少女姿のゆまはぱたぱたと部屋へと駆けこんで来て、杏子へと抱きついた。

杏子がゆまの頭を撫でるのを見つつ、“大佐”は小さく聞こえないぐらいの溜息を吐いた。
そして杏子へと悪戯めいた笑みを向けた。


大佐「しかし、こんな所でドンパチやる破目にならなくて助かったよ」
大佐「実を言えば、私の方がだいぶん不利だったからね」
杏子「……?銃を持ってるような奴が何で不利なんだよ?」

杏子の怪訝そうな顔に“大佐”は、
イングラムのマガジンを外して杏子へと投げてよこした。

杏子は銃には詳しくは無かったが、
投げ渡されたマガジンの様子がおかしいのは直ぐに気付いた。

杏子「オイ、これって……」
大佐「そうともさ」

――通常、拳銃にしろ短機関銃にしろ自動小銃にしろ突撃銃にしろ、
マガジンを有する銃では通常、戦闘時かその直前以外においては、
マガジンの中に銃弾を入れないで置くのが普通である。

マガジンの中にはバネが入っており、
これの力で中に入っている銃弾を薬室へと送り届ける役割を果たす訳だが、
マガジン内部に銃弾を長い間入れっぱなしおくと、このバネがへたってしまうのである。
当然、このバネが駄目になると給弾不良が起こり、銃がマトモに動かなくなってしまうのだ。


このバネがへたれるのを防ぐ為に、
“大佐”に贈られたイングラムのマガジンにも弾丸は一発も込められていなかった。
そして“大佐”には、それを込めている時間は無く、つまりは――

杏子「つまり何だ!空の銃を向けて、あんだけ凄んでた訳かよ!」

――イングラムには、銃弾は一発も装填されたいなかったのである。
先程までの立ち合いが、とんだ茶番であった事を知った杏子は、思わず呆れてしまった。

大佐「取り敢えず、ジンジャーエールでもどうかな、お二人さん」

そして呆れた杏子に“大佐”は、片眼を瞑り、舌を出してみせつつ、
いつのまに取りだしたのか、ジンジャーエールの瓶を二つ、
杏子とゆまへと掲げて見せるのだった。

少しだけ更新

>>26
<踏み台クロスもしくはメアリー・スーの予感!!
これだけにはならない様に、全力で努力する所存

クロス・・・なのか?
史実にしか見えないんだが

>>35
クロスじゃあないです



■見滝原 市街地某所■


マミ「……」

巴マミは定例のパトロールに出向き、魔女の気配を探っていた。
しかし彼女の脳裏を占めるのは、キュウべぇより教えられた『A.O.E.M.』に関する情報の数々だ。

マミ「(困ったことになったわね)」

キュウべぇより彼女が得た情報を彼女なりに咀嚼した結果、
マミが得た『A.O.E.M.』に対する印象は、一語で言い表す事が出来る。

マミ「(まるでマフィアか何かね……)」

キュウべぇ曰く。
――やれ、彼女達は武器の密輸に手を出している、とか。
――やれ、麻薬組織やテロリストと血みどろの抗争を繰り広げている、とか。
――やれ、魔法少女に軍事訓練を施し、破壊工作の技術などを仕込んでいる、とか。
――やれ、敵対する者には一切容赦なく、暗殺者を送り込んで残虐に抹殺する、とか……。

兎に角、出て来る話出て来る話、剣呑なものばかりで、
聞いているマミの方が眩暈を覚える程だった。


マミ「(そんな組織のリーダーが……この見滝原に)」
マミ「(でも一体、何のために?)」

キュウべぇにも、それは解らないという事だった。
もしも彼女達が南米でそうしていると言う様に、この見滝原を自分たちの縄張りとするつもりで来たのならば――

マミ「(私が、戦わなくちゃならない)」

マミは、自分にはこの見滝原を護ることこそが、
孤独な自分に残された最後の生き甲斐だと思っている。

もしも、キュウべぇの言う邪悪な魔法少女結社がこの見滝原を侵さんとするのならば、
マミはそれに対し、レジスタンスとなって闘いを挑まねばならないだろう。

この見滝原を、魔法を自分の為だけに使う様な輩に、渡す訳には断じていかない。
――絶対に、絶対に、絶対に、絶対に!

マミ「(でも……)」

――だが哀しきは、彼女は独り。

マミ「(私ひとりで……そんな大規模な組織に勝つなんて……)」

個で組織に挑む愚は明白である。
しかしマミには、独りで戦う以外の選択肢を見いだせなかった。
彼女は、哀しいぐらいに孤独であった。



■見滝原 美国邸■


織莉子「キリカ、マズいことになったかも知れないわ」
キリカ「?……どーしたって言うのさ、織莉子」

マミが来るべき難敵に思いを馳せていたのと同じ頃、
織莉子もまた、不意に見えた未来のヴィジョンに、軽い頭痛を感じていた。

美国織莉子の魔法少女としての能力は『予知』であるが、
この能力はある種『痙攣的』な性質があり、
今の様に突然、来るべき未来の映像が脳裏に飛び込んで来る事があるのである。

そして視えたヴィジョンに、織莉子は危機感を抱いていた。

織莉子「(視えたのは、戦いの様子……)」
織莉子「(キリカと、見知らぬ魔法少女が戦っていた姿……)」

――しかも、それは1対3。

織莉子「(気になった点は、それだけではないわ)」


戦っていたキリカは兎も角、問題はその相手の三人組の魔法少女達だ。
魔法少女の装束は各々の個性があったが、まるで制服か何かの様に揃いの黒のベレー帽を被り、
右手に揃いの腕章のようなものを着けているのが、確かに視えたのだ。

そして全員が、同じ『銃器』で武装していたのも。

織莉子「(あれは……確か……)」

昔テレビで見たか、新聞で読んだかで知っていた。

――『AK-47“カラシノコフ”』

『人類史上最も人を殺した兵器』だとか『小さな大量破壊兵器』とも呼ばれる、
世界である意味最も有名で、そして最も普及している突撃銃。
当然、日本にも密輸されて入り込んでいる。

織莉子「(現代兵器で武装した魔法少女)」
織莉子「(それも恐らくは、集団戦に慣れた……いえ、訓練されている……)」

視えた場面において3人の魔法少女達は、非常に規律のとれた動きでキリカを翻弄していた。
そう、まるで軍隊の様に、一糸乱れぬ動き……。

織莉子「(私達のいま行っている『魔法少女狩り』……)」
織莉子「(これが、思わぬ難敵を引き込んだ……?)」

>>41
ウプス!
酷い誤字だ
<――『AK-47“カラシノコフ”』

<――『AK-47“カラシニコフ”』


視えたヴィジョンより考えうる様々な事態に、思いを巡らせる織莉子。
しかしそんな彼女の思索は、抱きついてきたキリカの衝撃に中断される。

キリカ「織莉子!どうしちゃったの!?具合でも悪いのかい!?ねぇ!?ねぇ!?」

――『マズいことになったかも知れないわ』
この一言をキリカに投げかけてから、急に黙り込んで難しい顔をし始めた織莉子。
彼女の顔は元々白く透き通っているが、それがいつもよりも青白く見えて、
キリカは思わず織莉子に抱きついていた。具合でも悪いのかと思ったのだ。

織莉子「……」
織莉子「んもう!キリカったら……」
織莉子「心配してくれてありがとうね、キリカ」

そんなキリカの様子に、思考を中断された織莉子は起こることも無く、
微笑みながら、キリカの頭をよしよしと撫でるのであった。

ちょいと更新



■見滝原 魔女の結界■


暁美ほむらが止めていた時間を再始動させると、
ありったけの.50AE弾と手榴弾の爆発が『芸術家の魔女イザベル』の凱旋門染みた体へと突き刺さり、
魔女は悲鳴を上げながら消滅していく。

ほむら「……」

魔女の消滅に伴い結界もまた崩れ始め、
最後には陽炎のように揺らめいて消滅した。

そして夕陽に照らされた見滝原と暁美ほむら、
魔女の遺したグリーフシードだけがこの場には残っていた。

ほむら「……」

鉄面皮のほむらは、戦利品である筈のグリーフシードを拾い、盾へとしまった。
ほむらは徹底した無表情で、そこには魔女を仕留めた事への達成感、
グリーフシードを得た事への高揚感といった、浮かべていても良いような表情は微塵も見えない。

余りにも『同じ得物』を狩る事を続けて来たほむらに取って、
最早魔女狩りは単なる作業でしか無く、そこには何の感慨も残ってはいないのだ。

ほむら「……」

ほむらは辺りを軽く見渡し、マミのような他の魔法少女の姿が見えないのを簡単に確認すると、
すぐにその場より小走りで立ち去った。

この時間軸においても、彼女にはやらねばならぬ事が余りに多い。
こんな所で、余計な時間を消費している余裕は、ほむらには無かった。

――その余裕の無さ故に、彼女は気付かなかった。


ブレザー「……」

少しばかし離れた所から、オペラグラスで雀やカラスを観察している様に見せかけながら、
ほむらの事を観察していたブレザー姿の少女の事を。

ブレザー姿の少女はオペラグラスから眼を離すと、独語した。

ブレザー「『黒い魔法少女』……」

キュウべぇが『魔法少女狩り』の犠牲者達より聞きだした、犯人の特徴である。
そしてほむらの魔法少女装束は、黒と灰と紫で構成され、見る者には特に黒色が印象強い。

ブレザー「……」

ブレザーの少女がこの場に居るのは、全くの偶然に過ぎず、別の任務の一環であったのだが、
しかし思わぬものを彼女はここで発見したのである。

ブレザーの少女は携帯電話を取り出すと、自分の仲間の一人に掛けた。
そして短い報告を済ますと、静かに、ほむらの背中を追い始めた。



■美国邸■


キリカ「暫く、魔法少女狩りを止める?」
織莉子「ええ。少し、厄介なことになりそうなの」

ほむらがブレザーの少女に尾行をされ始めていたころ、
織莉子はキリカに彼女達の作戦を一時中断する事を告げていた。

キリカ「……何か視えたんだね、織莉子」
織莉子「その通りよキリカ。陽動と“アレ”の探索を兼ねた作戦だったけれど」
織莉子「藪を突いて蛇を出す……良くないモノを呼び寄せてしまった」
キリカ「良くないモノ?」

憂いを帯びた表情で、織莉子は頷いた。

織莉子「敵よ、キリカ。私達の新しい敵」
織莉子「私達が殺めた魔法少女達の誰か」
織莉子「その誰かのえにしが、手繰り寄せた新たなる敵……」

『敵』という言葉にキリカは、
何故に織莉子が『狩り』の中止などという事を言いだしたのかを察し、
頬を膨らませ、不貞腐れているようにも見える表情をして言った。


キリカ「つまりなんだい、織莉子。その新しい敵に、キミは私が遅れを取りかねない……」
キリコ「そういうことなのかい?」

キリカは唇を蛸のように突き出して、ブーブーと不満げな様子だった。
キリカは織莉子が自分を心配してくれているらしい事には、とてつもない喜びを覚えていたが、
しかしそれと同時に、自分が織莉子が任せてくれた仕事を果たす事が出来ないと思われるのは心外だと感じていた。
――自分の、織莉子に対する無限の愛を疑われているようにも感じられるからだ。
無限の愛は無限に無敵だ。ならば如何なる務めも果たせよう。
果たせないとすれば、それは愛が足りていないのだ。

織莉子は駄駄を捏ねるキリカの頬をむにゅりと掴むと、
教師が子どもをメッと叱る様な表情を作り、諭す様に言った。

織莉子「私はキリカの力を疑ってなんかいないわ」
織莉子「でもねキリカ、貴女を不必要な危険にさらす事だけは、私には決して出来ない」
織莉子「私はねキリカ」

織莉子は、万感の思いを込めて言った。

織莉子「貴女がいないと生きて行けないの」
キリカ「――」


こう言われてしまえばキリカには何も言う事は無く、何も言う事は出来なかった。
ただ黙って、微笑みウンと頷くだけである。

織莉子「今日から何日か」
織莉子「嵐が過ぎ去るまでは二人で身を潜めるの」
織莉子「キリカ、貴女は暫く、この家から外に出ないように」
織莉子「学校も休むのよ」

キリカは、少しきょとんとした表情で問うた。

キリカ「つまりそれは、暫くここで一日中、織莉子と二人っきりってことかい?」
織莉子「そうよ」

キリカはハシャいだ。



■見滝原 ショッピングモール■


まどか「はしゃいじゃって!」

文字ではウェヒヒとしか表現しようの無い、
とても個性的な笑い声を上げて鹿目まどかは、
『親友』と言っていい友人、美樹さやかの舞い上がっちゃってますねーな姿を温かく見守っていた。

行きつけのCDショップで偶然、相当なレア物を偶然発見したのである。
さやか愛しの――本人は認めたがらないが――上条恭介への、恰好の贈り物を手に入れて、
さやかは通路でくるくると小躍りするぐらいにはしゃいでいた。

――つまり、とても前方不注意になっていた。

まどか「あ」
さやか「わ!?」
???「おっと」

さやかは一人の少女とぶつかりそうになったが、
その少女は素早い反応でさやかを抱きとめていた。


草臥れたパナマ帽をに、空色のシャツに、色のスカーフ……といった格好の少女である。
まどかやさやかよりも少しだけ大人びた顔立ちの少女――“大佐”であった。

大佐「大丈夫かな、お嬢さん」
さやか「ええええあああああハイッ!すみませんごめんなさい!」

顔を真っ赤にして平謝りするさやかに、
“大佐”はニコニコと笑って、いやいいんだと手をヒラヒラ振った。

そんな“大佐”の少し後ろには、
赤い髪の野生児染みたまどからと同年代らしき少女と、小学生ぐらいの少女の姿が見える。
言うまでも無く、佐倉杏子と千歳ゆまであった。

さやか「そ、それじゃあスミマセンデシター!」
まどか「あ!さやかちゃん!……私からもゴメンナサイ!」

さやかと、一緒になって謝るまどかが共に赤面しながら走り去るのを見送った“大佐”は、
ふと、何か不思議そうな、怪訝そうな視線を走り去るまどかの背中へと向けた。
そして、軽く眉をしかめた。

杏子「……どうかしたさ?」
大佐「……いや、何でも無い。気のせいだろう」

杏子の問いに、“大佐”は少し間を置いて答え、何でも無いと、掌をヒラヒラする仕草を見せた。

大佐「そんなことより……あのエスカレーターの上だったな」

“大佐”の眼は、まどかから外れ、登りのエスカレーターに向けられていた。

目が覚めたので、更新

>>20ではM10だったのに何で>>29ではM11になってたんだろう
何にせよコレ、ほむらはM92じゃ厳しいだろうしM870をソウドオフしても勝ち目なくないか?

>>56
うーぷす
M10の方が正しいです。単純なミス



■ファミリーレストラン■


佐倉杏子と千歳ゆまは共に『食い詰め少女』である。
故に彼女達にとって、タダ飯は何にも増してありがたいものだった。

杏子「(肝心の奢り主が、得体の知れない野郎なのは何だが)」
杏子「(少なくとも『今』の時点では……コイツはあたし達の敵じゃないらしい)」

ジンジャーエールを勢いよく飲みほした杏子とゆまに、
例の人好きのする笑みを浮かべながら“大佐”は言ったのだ。

大佐『もののついでに、食事も一緒にどうかな?無論、私の奢りだが』

この“大佐”を名乗る魔法少女は、本名を語る事は無く、
ただ自分はG県の外からやってきたのであり、
それは自分の『仲間』を殺した不届き者を探しだす為だ、とだけ簡単に述べた。
最後に、細かい事は飲み食いしながら話そう、と付け加えて。

成程、お腹も一杯になれば、口も軽くはなりそうなものである。

杏子「(っても、大した事を知ってる訳じゃねーんだけど)」

自分が件の『魔法少女狩り』で知っている事と言えば、
ここの所自分の縄張りとしてる街を根城にしていた魔法少女を殺ったのがその犯人だろ言う事と、
そして『魔法少女狩り』と関係があるかは知らないが、
『織莉子』という得体の知れない白い魔法少女が何やらコソコソと動き回っていることぐらいだ。

杏子「(ま、織莉子にオトシマエを着けさせるのはアタシの仕事だけどな……)」


さて、そんな訳で見滝原で今一番に儲けているショッピングモールの最上階、
レストラン街の一角のファミリーレストランに3人はやって来ていた。

最初、ホテル・ウメスに入っているフレンチレストランに“大佐”は行くつもりだったが、
店の前に置いてあったメニューの値段を見て、杏子もゆまも思わず気後れして、
ふと、値段も手ごろで味もよろしい、と風の噂に聞いていた店に換えてもらったのである。

杏子もゆまも、元の育ちからして豊かでは無かったし、
長くやくざな生活が続いた為か、すっかり貧乏性が身に沁みついていた。

大佐「好きな物を頼んで結構だ」

席に着いた杏子とゆまは、“大佐”のこの台詞に、
杏子とゆまは値段と量を見比べて色々と吟味した上で注文をした。

あまり高いモノを頼めば、値段に比例して、こちらが出さねばならない情報も増える、
と杏子は考え、ゆまにもそれと無く会話に混ぜて伝え、当たり障りのないメニューを選んでいた。

なお“大佐”は、コーヒーと小さなアイスクリームのみを頼んでいた。
彼女は小食だった。



■再び、ファミリーレストラン■


大佐「――ふむ」

“大佐”は、今しがた食事をしつつ杏子とゆまから聞きだした情報を色々と整理していた。
温くなったコーヒーの残りを啜る。余り美味くは無いが、その苦みで眼は覚める。
それに、ニューヨークのコーヒーよりはマシに思える味だった。

杏子「どう?メシの代金分ぐらいにはなったかよ?」
大佐「いいや、それ以上だ。『新参者』の私達にとっては値千金の情報だったよ。もっと奢ってもいいぐらいだ」

“大佐”が杏子より聞きだした情報は、
『魔女狩り』のこと、『織莉子』のこと、
そして杏子の知る見滝原および風見野の周辺地域で活動する魔法少女についての事であった。

内、『魔女狩り』に関しては既にインキュベーターから聞き出せたものと大差なく、
『織莉子』に関しては殆ど噂話と同じ程度の内容であったが、
見滝原、風見野、その周辺での魔法少女の活動状況に関する情報は、
やはり現地人ならでは詳細さがあり、価値があった。

無論、杏子も全てを語ってはいないだろう。
“大佐”の見た所、彼女とゆまは二人で一つの一匹狼で間違いはあるまい。
自分達の不利になりうる情報は、出してはいない筈だ。

しかしそれでも、調査員『アルバトロス』が抜けた穴を取り敢えず埋めるには充分は情報であった。

――そんな事を考えていた時であった。


杏子「それで?」

不意に、杏子が“大佐”に問うた。

大佐「それで、とは?」
杏子「いや、何さ。アンタのお仲間で、この見滝原に来ていたのが一人殺られて」
杏子「ソイツの仇討のために、アンタらはわざわざ県をまたいでやってきた……て話だけど」
杏子「聞いた感じだと、殺されたアンタのお仲間、この見滝原の人間じゃないっぽい」
杏子「こんな所でコソコソ、余所者の魔法少女が何してたのか、ってね」
杏子「気ならない訳ないじゃん」

魔法少女という人種は存外土地に根付くもので、一度定めた縄張りからは中々移動を行う事は無い。
――その縄張りの魔女を狩りつくしてしまうような事でも無い限りは、である。

杏子「アンタらは、少なくとも5人いて、死んだのを含めれば6人」
杏子「魔法少女のパーティーとしては、結構大きい方だろ」
杏子「必要なグリーフシードも、当然多くなる」

“大佐”は杏子の言わんとしている事を察した。
一匹狼らしい警戒心である。――悪くないと思う。

大佐「私達が、この見滝原を手にしようとやって来たのではないか」
大佐「殺されたのは、余所者が余計な探りをいれていたから」
大佐「そう言いたいのかね?」


杏子「それで?」

不意に、杏子が“大佐”に問うた。

大佐「それで、とは?」
杏子「いや、何さ。アンタのお仲間で、この見滝原に来ていたのが一人殺られて」
杏子「ソイツの仇討のために、アンタらはわざわざ県をまたいでやってきた……て話だけど」
杏子「聞いた感じだと、殺されたアンタのお仲間、この見滝原の人間じゃないっぽい」
杏子「こんな所でコソコソ、余所者の魔法少女が何してたのか、ってね」
杏子「気ならない訳ないじゃん」

魔法少女という人種は存外土地に根付くもので、一度定めた縄張りからは中々移動を行う事は無い。
――その縄張りの魔女を狩りつくしてしまうような事でも無い限りは、である。

杏子「アンタらは、少なくとも5人いて、死んだのを含めれば6人」
杏子「魔法少女のパーティーとしては、結構大きい方だろ」
杏子「必要なグリーフシードも、当然多くなる」

“大佐”は杏子の言わんとしている事を察した。
一匹狼らしい警戒心である。――悪くないと思う。

大佐「私達が、この見滝原を手にしようとやって来たのではないか」
大佐「殺されたのは、余所者が余計な探りをいれていたから」
大佐「そう言いたいのかね?」


“大佐”は剣呑な内容を、しかし相変わらずの爽やかな笑みと共に話す。
杏子の表情に、少しずつ険が加わっていく。

杏子「別に。そもそもアタシとゆまの縄張りは風見野だ」
杏子「そしてこの見滝原は、基本的にはマミの縄張りだ」
杏子「アンタらが見滝原を狙うのならば、それはマミとアンタらの問題だ」
杏子「でもね――」

杏子は視線に殺気を込めて“大佐”を睨んだ。
犬歯の先を剥き出しにし、口角を挑発的に釣り上げて、嗤う。

杏子「自分の縄張りの隣に大所帯で居座られたら、ハッキリ言って迷惑なんだよ」
杏子「今の見滝原は理想的な狩り場かもしれないけれど、この先もそうだとは限んないし」
杏子「アンタらの出方次第じゃ、アタシ達はマミとでも組んで、アンタらを許さない」

大佐「……」

杏子に対する“大佐”は無言であった。

杏子は間違いなく歴戦の魔法少女だ。
彼女の眼から放たれた殺気は、その事を充分に証明している。
ホテルでの立ち回りも見事であった。

『自分とは異なり』、彼女の年齢は外見相応であるだろう。
その事を考えれば、佐倉杏子は相当な場数を踏んでいるに違いない。
軍事訓練も受けては居ない、一匹狼の魔法少女であることを思えば、驚くべきことだと言える。
――敵対するのは、好ましいとは言えず、むしろ……

うぷす、間違えた。
二重投稿してら


大佐「少なくとも」

暫時あって、“大佐”はようやく口を開いた。

大佐「『現時点』では私達は君達の敵では無い……これだけは確かだと、言っておこう」

杏子のような一匹狼の警戒心を解くのは容易ではない。
仲良くしましょう、と言って仲良くできる相手では無いのだ。
故に言い方も、こういう言い方のほうが受け入れ易い筈だ。

杏子「『現時点』では、ね」
大佐「『現時点』では、さ」

そう言って“大佐”はまたも微笑んだ。
その灰色の瞳孔には、何の感情の揺らぎも浮かべずに。



■ホテル・ウメス 三一五号室■


杏子「……」

ゆまはベッドのスプリングの感触を楽しみながら、
“大佐”より渡されたメモ書きをジッと見つめる杏子の様子を窺った。

ファミリーレストランでの食事が済んだ後、
3人はホテルへと戻り、ロビーで別れた。

別れ際に“大佐”と杏子が交わした会話を、ゆまは覚えている。

大佐『ともかく私は、例の件の犯人を探す』
大佐『暫くはこのホテルを拠点とするつもりだ』
大佐『もし私に何か用があるならば、六〇七号室を訪ねてくれ』
大佐『居ないようならば、このメモの番号に掛けてくれればいい』

杏子『――魔女はどうする。結界でバッティングしたら?』

大佐『私達には、若干の備蓄がある。魔女は君達に譲るよ』
大佐『もしも、犯人に関しての耳寄りな噂でも聞いたら、また教えてくれ』
大佐『今度はステーキでも奢ろう』

そう言って別れたのだ。
今、杏子の手の中にあるメモが、件のメモなのだ。

杏子「なぁ、ゆま」
ゆま「なに?キョーコ?」

杏子はふとメモから眼を離し、ゆまの方を見て言った。

杏子「あの“大佐”って野郎……どんな奴に見えた?」


ゆまはちょっと驚いた表情を作った。
杏子はゆまを良くも悪くも子ども扱いしていて、
こういう風に意見を求めて来るのは珍しい事だった。

ゆま「(えっと……えっと……)」

予期せぬ問いにどぎまぎしつつ、ゆまは必死に答えを考えた。
ゆまは『役立たず』と言われて育った。
そんな彼女にとって、誰かに、特に杏子に役立たずと思われる事は、考えたくも無い恐怖だった。
――ちゃんと考えて答えなければ、と思う。

ゆま「うーんと、えっと、えっと……」

“大佐”を名乗る、あの少女。
ゆまのこれまでの人生においては、見た事の無いタイプの人間であった。

年頃は杏子とそう変わらない筈なのに、まるで大人の女性を前にしているような感じを抱いた。
声はややハスキーで、口調も口調であるから、その点は男っぽいと思った。
外国に行った経験など無いし、外国人に知り合いなどいないが何故か、“大佐”からは異人の様な雰囲気を感じた。
南国の、甘い香りがしたような気がした。

しかしこうした印象以上に、ゆまの心を捉えて離さないモノを、“大佐”は持っていた。


ゆま「眼が怖い人……かな?」
杏子「眼?」
ゆま「うん。あの人、とっても良い顔をして笑うのに、眼の奥が笑ってない」

ゆまは“大佐”の灰色の瞳を思い出した。
一見するといつも人好きのする笑みを浮かべているように見える彼女の、その灰色の瞳の奥。
そこには、何の感情も浮かんではいない。まるで靄が詰まってでもいるかのようだ。

杏子「……そうか」

ゆまの答えに杏子は、手を口に当てて、思考の海に飛び込んでいる。
何か、ゆまの言葉に思う所があるようだった。

ゆま「ねぇキョーコ?」
杏子「ん?」
ゆま「ゆまの答え、役に立った?」

おずおずとゆまは聞き、杏子は一瞬呆けた表情をしたが、直ぐに照れくさそうな笑顔になった。

杏子「ああ、役に立ったよ」

そう言って杏子はゆまの頭を撫でた。
ゆまは笑う。杏子の掌の感触が、とても柔らかかった。



■見滝原 再開発地域■


急速な発展を遂げる見滝原において今、
まさに古いものから新しいものへと変わって行く最前線……。
それがこの再開発地域だ。

普段は工事の音が絶えないが、時間が遅いせいか、何時になく静かであった。
そのしじまの中を、コツコツと歩くのは、時間遡航者、暁美ほむらである。

ほむら「(何者かしら……これまでには、無かったパターンのようだけど)」

その暁美ほむらが、自分は尾行されているという事実に気付いたのは、
うなじの辺りに奇妙な疼きを感じたからだった。

――誰かに見られている

ふと、そんな予感を覚えた時からほむらは、
ショーウィンドーのガラスや、見通しの悪い道路に置かれたミラーなどを使って、
自身の背後を振り向かずして見る様に努めた。

そして、自分の予感が正しかったのを確認した。
幾度となく時間を繰り返す事で、通常ではあり得ぬ程の戦闘経験を積んだほむらは、
魔女や魔法少女の気配に敏感なっており、その鋭敏な感覚が、無意識的に追跡者を捉えたのだ。


尾行者は二人。

ブレザーの制服を着た、取り立てて特徴の無い地味な少女が一人。
ほむらには、見覚えの無い制服である。

そしてもう一人は、服装に特徴は無いが、背と体格が平均より明らかに大きい少女である。
ほむらは知らないが、ホテル・ウメスで“大佐”を出迎えた三人の内の一人である。
ほむらは彼女に対し、『メスゴリラ』という印象を抱いた。

ほむら「(どっちにも、見覚えは無いわね……)」
ほむら「(恐らくは、どちらも魔法少女……)」
ほむら「(何者かしら)」

同じ時間を繰り返す、時を駆ける魔法少女たる暁美ほむらにとって、
イレギュレー要素は歓迎すべきものであると同時に、忌避すべきものでもあった。

時間の牢獄への突破口となりうるか、はたまた見えない落とし穴になるか。
イレギュレラーには、この二つの相反する性質がどちらも内包されている。

ほむら「(尾行をまくだけならば、時間停止を使えば容易い)」
ほむら「(でもそれは、この場においては適切な判断とは言えない)」
ほむら「(いまなすべき事は、彼女達の正体を探る事)」


ほむらは左手の盾へと手を伸ばすと、カシャリとそれを廻した。
――瞬間、時間はほむらを除いて全て停止し、世界は灰色の帳に包まれる。
この『時の止まった時間』を認識できるのは、ほむらと彼女が触れている誰かだけだ。

手ごろな建て替え中のビルの四階まで、キャットウォークを利用したちまち跳んで行くと、
適当な柱に影に隠れ、時間停止を解除する。

ブレザー「!?」
メスゴリラ「!?」

尾行していた相手が唐突に、それこそ煙一つ遺さず姿を消してしまったのだ。
四階のほむらからは、二人の尾行者が慌てふためく姿が見え、驚き喚く声が聞こえた。

ブレザー「どうなってるの!?消えたわよ!?」
ブレザー「加速装置でも使ったって言うの!?」
ブレザー「それとも幻覚か何か?」

メスゴリラ「いや!超スピードだとか幻覚だとか、そんなチャチなもんじゃない……」
メスゴリラ「もっと恐ろしいモノの片りんを――」

二人の尾行者をほむらは冷徹なる眼で観察しつつ、次にどんな手を打つかを計算する。
尾行に気付いた以上、尾行者が自分に追いつく事は最早あるまい。

いずれ二人は諦めて帰るだろう。
その帰る時を狙って、自分は何らかの行動を起こすべきだ。

彼女達が何処へ向かうかを見届けるか、それとも――


ほむら「(二人が別れた所を見計らって、時間を止めて背後を取る)」
ほむら「(後頭部に銃口を突き付けるかナイフを首筋に当てて、尋問する)」

彼女達が自分の敵か味方かは解らないが、
尾行なんてことをしている時点で、少なくとも友好的には見えない。

自分には限られた時間しか無い以上、悠長に彼女達の向かう先を追跡するのはタイムロスだ。
ここは手っ取り早く、尋問をする方向で行こう。

ほむらはどうするべきかを決め終えると、
後は二人の尾行者が諦めて帰るのを待った。

思いの外、二人は諦めるのが早かった。
少しの間、小声で何かを話し合うと、直ぐに二人連れだって来た道を引き返し始めたのだ。

尾行相手の逆襲を警戒しているらしく、互いが互いを直ぐに庇えるような位置取りを絶やさない動きであった。

ほむら「(……一見して、集団行動慣れしているわね)」
ほむら「(本当に何者なのかしら……)」

余り尾行などに時間を費やしたくはないのだから、さっさと二人には別れてもらいたいのだが――

そんな事を考えながら、ほむらは逆尾行を開始した。

とりあえずここまで

全然話が進まん……



■見滝原 公園■


――迂闊!
と、ブレザーの少女は胸中で毒づいた。
敵を罠に嵌めるつもりで、自分自身を窮地に追いこむとは!

ブレザー「……」
ほむら「答えなさい。貴女は何者?名前は?」

後頭部には銃口が突きつけられ、
尾行対象であった筈の『黒い魔法少女』に背中を取られている。

言うまでも無く、まずい状況である。
一応、ブレザーの下にはベルトで密輸品のマカロフを一丁吊ってはいるが、
既に両手を上げる様に言われてその通りにしてしまっている。
コイツで抜き撃ちにするよりも、突き付けられた銃で頭をスイカの様に割られるのが速いだろう。

魔法少女はソウルジェムを砕かれない限り、基本的には死ぬことが無い。
しかし肉体に激しい損傷を受けて、その魂を濁らせない少女など殆ど無い。
ましてや頭など撃たれれば猶更である。
つまり、死なずともマズい事には変わり無いのだ。

相方のメスゴリラは今、ここには居ない。
正確には『デカ』という暗号名――身長体格がデカいからという安直さから来た名前だ――なのだが、
彼女とは少しばかり前に別れ、現在位置が何処かは直ぐには解らない。


黒い魔法少女――つまりはほむら――からの逆襲を恐れ二人で行動していたが、
逆尾行をされていた場合を考えて、それを撒く為に1、2の合図で二人別々の方向に出鱈目に走ったのである。

尾行を勘づかれ撒かれた時点で、この場における主導権は相手に握られてしまった。
つまりここは一旦退いて“大佐”に指示を仰ぎ、仕切り直しをしようと思っていたのだが……。

ブレザー「(おかしい……相当出鱈目に、魔法少女の力を駆使して逃げ回った筈が……)」
ブレザー「(どうして追いつけた?そういう能力だっての?)」

人気の無い所にうっかり出てしまったのが運の尽きだった。
一瞬、気を抜いた時には背後を取られていたのである。

ブレザー「……」
ほむら「生憎だけど、沈黙を通して時間稼ぎをするつもりなら、止めた方が賢明よ」
ほむら「貴女が無意味な沈黙を貫くというなら……そうね、私はまず貴女の膝を後ろか撃ち抜く」
ブレザー「!」

――膝を撃ち抜く。
それはIRAを始めとするテロリストが裏切り者への報復を行う際の手段として、
あるいは傭兵が捕虜をリンチする際の拷問の手段として、いわば常套的なやり方である。

ブレザー「(敵対組織の誰か?それともキュウべぇに雇われたフリーランス?)」

故にブレザーの少女は、自分の『同業者』であるのか勘違いをしていた。
――無論、そんな事は無いのだが。

ほむら「変身しようとしたり、テレパシーで助けを呼ぼうとしても撃つわ」
ほむら「そして……後十秒以内に口を開かないようなら、まず右膝を撃つ」
ほむら「10……」
ブレザー「ままま待ちなよ!」


ブレザーの少女は、ほむらが本当に撃ちかねないのを気配で悟り、慌ててそれを制止した。
無論、彼女には自分の事も組織の事も話すつもりは毛頭ないが、まずは会話で相手を翻弄しなければ、
このどん詰まりの状況に変化は来ない。

ブレザー「そう焦るなってさ!いきなり銃を突きつけられて、思わずビビッちゃってただけだって!」
ブレザー「取り敢えず、そのぶっそうなモノを下ろしてくれないかな~~なんて……」

相手の警戒心を少しでも下げようと、敢えて道化染みた話し方をしてみるが、
すこし顔を横に向けて、流し眼に見るほむらの顔は、一片の揺らぎも無い鉄面皮であった。

ほむら「貴女がどう思うおうと感じようと、私にはどうでもいいことだわ」
ほむら「貴女はただ、私の質問に答えていればいい」
ほむら「私が充分と思えるだけの情報を話すようならば、見逃してもいいわ」

ブレザー「……」

――さあ如何するか。
多少の負傷は無視してでも、銃弾を恐れず突っ込むべきか。
しかしブレザーの少女が一瞬垣間見た、自分へと突き付けられた拳銃はかなりの大型だった。
変身後ならば兎も角、変身前に至近距離でアレを喰らうのはゾッとしない。

ブレザー「(銃を抜くのは無理だろう)」
ブレザー「(能力は……この状況だと役には……)」


彼女の魔法少女としての能力は極めて強力だ。
それこそ、その使い手たる彼女自身の肉体すらも大きく傷つけかねない程に。
そしてその強力さ故に、この様な至近距離での戦闘には甚だ向かない能力であった。

ほむら「沈黙は許さないと言ったつもりだけど」
ブレザー「!……私は――」

ほむらの銃口の向きがが、スゥッと膝の裏側へと動いた気配を感じる。
もう、時間的な猶予は無い。

ブレザー「!」

しかしここで彼女は、ある事に気がついた。

――自分が右手に着けている、腕時計の存在にである。
年頃の女子が着けるには無骨な、やや古いデザインのGショックであった。

ほむら「これが最後の警告よ。話さなければ――」
ブレザー「……」


ほむらの警告を耳にしつつ、ブレザーの少女は、
変身せずとも使える若干の魔力を、自身の右手の指に嵌った指輪型ソウルジェムより
指、掌、手首を通して腕時計へと流し込む。
それは僅かな魔力であったが、彼女のもくろみを為すには充分な魔力であり――

ブレザー「なぁ、あンた……まず一つだけ言いたい」
ほむら「何かしら」

ブレザーの少女の横顔の、口の端が弧を為した。

ブレザー「 く た ば れ !」

その一言と共に、彼女の右手の腕時計が真っ白に光り……『爆ぜ』た。

取り敢えずここまで。



――目晦まし!?
ほむらの視界は一瞬と言えど、強烈な白光により塞がれ、思わず彼女は左手で両眼を覆っていた。

魔法少女同士の戦闘においては、余りに大きな隙であった。
そして、自らの右手をズタズタに引き裂く大怪我と引き換えに得た隙を、
ブレザーの少女は決して見逃しはしなかった。

ブレザー「ハッ!」

一瞬で魔法少女へと変身を果たすと、
それによって得た超脚力を使って、一足飛びにほむらとの間合いを離す。

そして、重傷でマトモに動かない右手については取り敢えず痛覚を切る事で棚上げにし、
左手に魔力を集中すれば、ゴルフボール大の黒い球が、虹色の光と共に幾つも生成されていく。

ブレザー「喰らえッ!」
ほむら「――ッ!」

既に一瞬のフラッシュアウトからの回復を果たしていたほむらだが、
彼女が回復からの何らかのアクションを執るよりも、ブレザーの少女の反撃のほうが速かった。


左手に握り込んだ黒球の数々を、ほむらの方へと力一杯に投げつける。
ほむらは迫りくる黒球のに対し直感的に危険を感じ取り、
デザートイーグルを投げ捨て、左手の盾へと手を伸ばした。

――閃光ッ!そして白煙ッ!

夜の公園の真ん中で、時ならぬ轟音と光が迸り、煙の柱が空へと登った。

ブレザーの魔法少女の『能力』は、ある種の『破壊エネルギー』の『操作』である。
球状に圧縮されたエネルギーを瞬間的に開放する事で、いわゆる『デトネーション』と同じ効果を得る事が出来るのだ。

他にも様々な応用による戦い方が存在するが、
今彼女がほむらに対し用いたのは、いわば最も基本的な方法であった。

ブレザー「――ッチィッ!」

ブレザーの少女は、追撃の為の黒球をさらに生成するが、
それを煙の向こうのほむらへと投げつけようとして、止めた。


その向こうにはもう、ほむらが居ない事を気配で感じ取ったのだ。

ブレザー「逃がしたのか、それとも見逃されたのか……」

ブレザーの少女の能力には幾つか欠点があるが、
激しい閃光と爆音が発生するのを避け得ないのもその一つだ。

夜中にあんな音を鳴らした以上、直ぐに消防車や警察、それに場合によっては野次馬が寄ってくるだろう。

ブレザーの少女は『相手をしとめた手応え』を感じていなかった。
ほむらは予期せぬ反撃を受けた上でなお、逆襲は出来たであろう。

それでも退いたのは、野次馬等を警戒してのことだと、ブレザーの少女は考えていた。

ブレザー「私も退散すっか……」

――原因不明の爆発事故!
そんな見出しが明日の朝刊に乗ること考えて頭が痛くなりながら、
ブレザーの少女も一人、夜の闇へと姿を消した。

少しだけ更新



■ほむホーム■


ほむら「はぁ……」

ほむらは自宅へと戻るや否や、ソファーの一つへと身を投げだすようにして座った。
そのままゴロリと寝転がれば天井が見え、自身の頭上で揺れるギロチン型の振り子もまた見える。

ほむら「……少し、マズいわね」

よもや、あそこから逃げられるのは計算外だった。
そんな自分の見通しの甘さに、腹が立つ。

ほむら「これで、あのイレギュラーは完全に敵に回ったという訳ね」

あれだけのドンパチをやっておいて、手と手を取り合って仲良く、などとは出来ないだろう。

ほむら「(少し早計だったかしら……)」
ほむら「(もう少し穏便な手段をとっていたなら……)」

一瞬、ほむらは迷いを覚える。
だがそれは言葉通り、ほんの一瞬に過ぎなかった。

ほむら「(……いいえ。それは違うわ)」


彼女が思い出すのは、美国織莉子と呉キリカの事である。
彼女達による『魔法少女狩り』というイレギュラー的事件を、我関せずと放置した結果が何であったか。

――まどかの胸に深々と突き刺さった大きな破片……

あの時感じた怒りと哀しみを思い出す。
あんな思いだけは、もう沢山だ。絶対に、絶対に、絶対に、絶対に。

ほむら「(イレギュラーへの対処は、それが敵であれ、味方であれ、迅速に行わなければ)」
ほむら「(『兵は拙速を貴ぶ』……)」
ほむら「(いいえ、『兵は拙速なるを聞くも、いまだ巧久なるを睹ざるなり』だったかしら)」
ほむら「(どっちでもいいわ。重要なのは、素早く、とにかく素早く白黒をハッキリさせるということ)」
ほむら「(私は灰色を許さない。旗色が決まったいれば対処は容易いけれど)」
ほむら「(どう動くか解らないモノには、限られた時間では対処が難しいもの)」

あのブレザーの少女とその仲間たちが、
敵として自分に立ちふさがるのであればそれはそれで構わないとほむらは思う。
ただ全力で、叩き潰すだけだ。

ほむら「(私自身に対して悪意が集まる事は、大した問題じゃない)」
ほむら「(重要なのは、まどか。彼女ただ一人)」
ほむら「(私自身の命さえ、彼女の命に比べれば何の価値も持たない)」
ほむら「(私が矢面に立つ事で、キュウべぇや悪意ある魔法少女からまどかを守れるのなら)」
ほむら「(それで充分)」

そこまで考えた所で彼女は、体をソファーから起こし、
軽くストレッチして硬くなった部分を解すした。


ほむら「(一戦した直後に、また出歩くのは気が向かないけれど)」
ほむら「(私には時間が無い)」

グリーフシードも武器弾薬も、どれ程あっても足りる事は無い。
対ワルプルギス戦用の様々な仕掛けの仕込みもある。

今夜もマトモに寝れそうに無いが、魔法少女の肉体には睡眠不足程度は全く問題にならない。
ソウルジェムの濁りは若干増すかもしれないが、それも許容範囲内だ。

ほむら「行動に慎重さは必要かもしれないけれど」
ほむら「動かないという選択肢はないわ」

ほむらは小さく独語すると、扉を開け、夜の街へと再度飛び出した。

彼女は走り続けなければならない。
鹿目まどかを運命より開放する、その時まで。

例えそれが、血を吐きながら続ける悲しいマラソンだとしても。



■マミの部屋■


暁美ほむらが我が家を飛び出したのと同じ頃、
逆にようやく我が家へと戻った魔法少女もいた。

――巴マミである。

夜も深まる時分になって、巴マミは自宅へと帰ったのだ。
一応、世間的には女子中学生となっている彼女だが、こうして夜遅くに帰宅する事は珍しく無い。

魔女探索の為には自分の足で地道に歩き回らねばならない為に、どうしても時間を掛けざるを得ない。
したがって自然と、彼女は夜遅くまで外を出歩く事が多くなったのだ。

しかし理由はそれだけでない。

例え家に帰ったとしても、誰一人彼女を待っている人が居ないというが実の所、
帰りが遅い最大の理由かもしれない。

マミは孤独だった。
それ故に彼女には、空白の時間が余りに多く圧し掛かるのだ。
その空白を塗り潰す為にも彼女は日々、魔法少女としての責務に没頭するのである。


マミ「……」

ドアに鍵を差し、グルリと回す。
電気も点いていな部屋の中は、相変わらず空白で満たされている。

マミ「ただいま」

小さな声で、帰宅を告げた。
『A.O.E.M.』について彼女に告げに来ていたキュウべぇが、まだ部屋に残っているのを期待しての行動だった。
しかし残念な事に、彼(?)の返事は無かった。

マミ「――」

声にならない溜息を一つ。
電気を点け、靴を脱ぐ。

もう一度溜息をつきつつ、靴下を脱ごうとして――

マミ「……あら?」

夜風にそよぐカーテンが眼に入った。

マミ「変ね。家を出る前に閉めたと思ったのに……」

首をかしげながらも、まぁ良いかと思う。

マミ「閉め忘れたのね……まだ春先のせいか、少し寒いわ」

マミの部屋はマンションの中でも高い階に位置している為、中々に風が強いのだ。
昼間は兎も角、夜になると窓を開けっ放しにしておけばかなり部屋が寒くなってしまう。

窓を閉めようと思い、近づいた――その時であった。

――ぴぃぃぃんぽぉぉぉぉん

マミ「!」

思わぬ呼び鈴に、思わず肩がビクリとした。

こんな夜中に訪ねて来るとは非常識だが、
しかしそんな非常識さ以上に、マミには気にかかる点があった。

マミ「(誰かしら?こんな時間に?)」

今現在、マミの部屋を訪れるような人間は殆ど居ない。

かつてはごく普通に学友・友人もいたマミだが、
魔法少女としての使命に没頭していく過程で、自然と独りになってしまっていた。

両親も既に亡く、身内の縁も薄い今の彼女にとって、
部屋への来訪者とは集金か宅配便ぐらいであったのだ。

マミ「……」

夜中であると言うことから考えれば、宅配便や集金の類とも思えない。
――では誰が、こんな夜分に?


マミ「……」

恐る恐る玄関へと向かうマミ。
そんな彼女には、不安と期待が混じり合っている。

――ぴぃぃぃんぽぉぉぉぉん
マミ「!」

もう一度ビクッと肩を振るわせる。
意を決し、ドアノブに手を掛けながら、覗き穴より部屋の外を窺おうとする。

――まさにその瞬間であった。

???『いやぁ、中々のコレクションじゃないか』

――声が聞こえた。
見知らぬ声であり、それは部屋の中から聞こえたのだ。

マミ「――え?」


・ ・ ・ ・ ・ ・
部 屋 の 中 か ら ?


???『良い茶葉ばかりそろえてある』
???『これだけの味覚とこだわりの持ち主でありながら、紅茶党なのが残念だ』
???『かく言う私はコーヒー党でね』

マミ「くっ!?」

――やられた!
マミは魔法少女に変身すると、
室内故に銃身の短いカービンタイプのマスケット銃を一丁生成し、居間へと飛ぶが如くに駆け込んだ。

果たしてそこには、見知らぬ少女が一人居た。
茶葉のパッケージや、ティーセットなどがまとめて入れてあるガラス棚から眼を離し、
自身へと銃口を向けているマミの方を見た。

その表情は極めて穏やかな微笑みで、銃口が見えていないのかとマミが思う程だった。

黄色いスカーフに空色のシャツ。
キャメルのスカートに、白いソックス。
くせのある黒髪の下には、浅黒い肌を持つ整った顔がある。

三角形のガラス机の上には、彼女のモノと思しき、
マミには見覚えの無い草臥れたパナマ帽が置かれていた。
さらに言えば、パナマ帽の隣にはやはり見知らぬ白い紙箱も見える。


???「巴マミさん、だね」
???「夜分遅くに失礼とは思ったんだが、なにぶん急用でね」
???「こうしてお部屋にお邪魔させてもらった訳さ」

マミ「誰かしら?人の家に、前もっての連絡も無く、しかも土足で踏み込むなんて」
マミ「酷い無作法ね」

???「いやいや土足じゃないよ。見ての通り、ちゃあんと靴は脱いでいるよ」
???「まあ、事前に電話も入れなかった点については謝るよ」
???「本当なら、もっと早い時間にお邪魔するつもりだったのが、遅くなってしまってね」
???「お詫びにプリンを買って来たんだが、どうかな。ひょっとして卵がお嫌い?」

くるりと彼女の方に向き直り、
マミへと話しかけて来る彼女の声にも表情にも、緊張感は一片たりとも見えない。

マミ「随分と余裕ね。こうして銃口をつきつけられているというのに」

銃口を改めて、相手の心臓に擬す。

マミ「余計なお話は結構だわ。私は『誰かしら?』と貴女に聞いているのよ」

で、革命戦士はいつでるんだ?


そう言って、マミは不埒な来訪者を睨みつける。
しかし対する相手は柳に風とばかりに、マミの視線を受け流し、相変わらず涼しい顔をしていた。
――得体の知れない相手だ。

???「問われて名乗るは吝かじゃあないが」
???「故あって、とうの昔に名前は捨ててしまってね、今では――」

銃口に怯えぬ少女は、悪戯っぽい言葉と共に名乗った。

大佐「『大佐』と呼ばれている」
大佐「キュウべぇから聞いているかな?」
大佐「悪名高い『A.O.E.M.』のリーダー『大佐』とは、私の事だ」

取り敢えずここまで

>>121
もう出てます。
まだ『革命家』としての側面は表には出て無いですが



――『A.O.E.M.』ッ!

キュウべぇよりその存在を聞かされてから、
多少なりともいずれ邂逅する事を予期していたとはいえ、
まさかそれがこんなにも早くであるとはマミも思ってはいなかった。

そして、その頭目を名乗る少女が今、眼の前にいるのである。

マミ「(何が目的なの……?)」

マミ自身にはそういう意識は無いが、見滝原はマミの『縄張り』という事になっている。

もしもその縄張りを奪う為に彼女達が姿を現したと言うならば、
マミを殺す絶好のチャンスを見過ごした理由が解らない。

マミ「(あの時、私の意識は、完全に呼び鈴の方に奪われていた)」

そして、恐らくは開いていた窓より入り込んだであろう“大佐”には、全く気付いてはいなかった。
つまり、容易に背後をとって、容易く不意打ちを仕掛けられた、ということなのだ。

その好機をみすみす見逃し、
その上こうして我が身を銃口のもとに曝している、その意図が解らない。


大佐「……その様子では、キュウべぇから私について、色々と聞かされているようだね」
大佐「そしてそれは、実に良くない噂のようだ」

“大佐”は残念そうな、寂しさを感じさせる笑みを浮かべた。
それは自然と、人に好感を覚えさせる類の笑みだったが、マミの表情は依然険しかった。

マミ「ええ。あの子には色々と聞かせてもらったわ」
マミ「とんだ大悪党だそうね、貴女は」

『大悪党』の部分をマミは強調するが、対する“大佐”は軽く肩を竦めた。

大佐「困ったことだが皆、私をそんな風に呼ぶ」
大佐「私自身としては、『愛』と『正義』に生きているつもりなんだがね」

マミ「何が目的?何をしに、この見滝原に現れたのかしら」

“大佐”の軽口を意に介する事無く、マミは詰問する。
口調は彼女らしく丁寧だが、しかしその語気は頗る強い。


大佐「――『魔法少女狩り』」
マミ「!」
大佐「その表情、知っているようだね」
大佐「私の部下が一人殺された。その犯人は、巷を騒がせている魔法少女殺しと同一犯らしい」

大佐「私は、その犯人に然るべき報いを受けさせる為に、この地にやって来た」
大佐「まぁ他にも、二、三の野暮用はあるがね。しかしそれらは、事のついでに過ぎない」

大佐「今日、こうして君を訪ねたのも、『魔法少女狩り』について色々と聞きたい事があったからさ」
大佐「君が知っている事を教えてくれたり、私の質問に答えてくれるならば、非常に助かる」

マミ「……」

大佐「さぁ。その銃を下ろしてくれいないか?」
大佐「少なくとも現時点では、私は君の敵じゃあない」
大佐「紅茶かコーヒーでも飲みながら、話をしようじゃあないか」

マミ「……」

マミは銃口は動かさず、一瞬逡巡した。
そして答えた。


マミ「答えは――“No”よ」
大佐「ほう?」
マミ「私は貴女を信用できない。話し合いは無し。直ぐにでも、ここから出て行って」
大佐「それは嫌だと言ったら?」
マミ「コレが見えないのかしら?」

マミはカービンマスケットをずいっ!と前へ突き出した。
この距離ならば、狙いはまず外すこと無く、“大佐”の心臓に魔法の弾丸が突き刺さるだろう。
しかし“大佐”には恐れや危惧は一欠片も見えない。

マミ「脅しだとは思わないことね。私は撃つ時は撃つわ」

しかし“大佐”はなおも笑う。

大佐「いいや。君は撃たないし、撃てないよ」

言うと、“大佐”は両の手を腕を左右に広げた。
その姿は、リオ・デジャネイロの『コルドーバのキリスト像』を連想させるモノだった。

大佐「実は君については佐倉杏子君から多少聞いていてね」

マミ「!?……佐倉さん、から?」

大佐「佐倉君は、君とはそれなりに深い関係を築いていたようだね」
大佐「そんな彼女より得られた情報は実に精度が高かった」
大佐「多少なりとも、君の『プロファイル』を私は得る事が出来た」


マミと“大佐”は真っ向から見つめ合う。
マミには、“大佐”の灰色の瞳がハッキリと見えた。
そこからは何の感情もマミは読みとれなかった。
まるで灰色の霧が、その瞳の中には詰まってでもいるかのように、正体が知れなかった。

大佐「君は撃たない」

大佐「例えば相手が魔女や使い魔、君を殺そうと襲いかかる魔法少女であったなら」
大佐「君も迷わず心臓目掛け引き金を引いていたかもしれない」

大佐「だが、敵意を持たない相手を一方的に撃つような事は、君にはできない」
大佐「ましてや私は今、変身もしていないばかりか、身に寸鉄一つ帯びていない」
大佐「そんな相手を撃つ事など、君には出来ない」

大佐「君には出来ない」

マミ「……出来るわ」

大佐「君には出来ない」

マミ「撃つわよ」

大佐「君には出来ない」

マミ「本当に撃つわよ!」

大佐「君には出来ない!」


かくの如くマミに対し語りかけつつも、“大佐”はじりじりとマミへと迫って行く。
その異様な迫力に、マミは思わず後ずさる。

もしもマミが冷静であったなら、リボンで“大佐”を拘束するといった考えも浮かんだかもしれない。
しかし今の彼女は“大佐”の放つ異様な気配に呑まれて、そんな冷静な思考が出来ないでいた。

マミ「!」

――気がつけば、追い詰められていた。
壁に背がついている。もうこれ以上、後退は出来ない。

大佐「やはり君は善人だな」
大佐「魔法少女たる君には、こうなる前に色々と出来る事があるだろうに」

“大佐”の右手が、マミのマスケット銃に伸びる。

マミ「――あっ」

マミが反抗する間もなく、マスケット銃は魔法のように毟り取られていた。
“大佐”の左手がドンという音を立てて、壁に掌を着く。
マミの顔の直ぐ隣に、“大佐”の左腕がある形だ。


気付けばマミは完全に壁際に追い詰められる格好になっていた。
未だ変身すらしていない筈の少女に!

マミ「――ッッッ!」

“大佐”の顔が、覗きこむ様な形で近づく。
“大佐”は少しだが、マミよりも背が高かったのだ。
つまりマミは“大佐”の近づく顔を僅かに見上げていた。

マミ「……」

マミは真っ向から“大佐”の顔を見返し、睨みつけた。
それを意に介することなく、“大佐”は顔をどんどん近付ける。

仕舞いには、互いの鼻先が触れ合うかと思う程に、
マミと“大佐”の顔は近づいて――

とりあえずここまで

ちょいと質問です。
作中にスマホを出すのってありですかね?
まどマギのテレビ版が放映中の時期って、まだスマホは出始めたばかりで、
作中にも確か出て無かった筈だけれども

好きに書くべしよ。

グーグルグラスみたいな端末でもいいのよ

>>143
ありがとう

>>144
ググったけど、こんなのあるのか。
なんかサイバーパンクに出てくるガジェットみたいだ

そう言えばまどマギの世界って、現実より若干科学が進んでるとか、そんな設定があったような……



いずれにせよ、今日は夜9時ぐらいに投下の予定



■マミの部屋の前■


ブレザー「――」
ブレザー「ふぅ」

ブレザーの少女は、ショツダーバッグから取り出した缶コーヒーを一気飲みし、一息ついた。
恐ろしい程に砂糖で甘く、最早コーヒー自体の味がどうなっているのかが解らないような代物だったが、
ひと仕事して疲れた体には、このくどい程の甘みが丁度良かった。

そんな彼女の右手には包帯が巻かれており、若干、焦げ茶色に染まっていた。
つい先程のほむらとの一戦で、自身の腕時計を目晦ましの為に吹っ飛ばした時の傷だ。

残念な事に、高い治癒能力を持った魔法少女が手近に居なかった為に、傷はまだ治りきってはいない。
魔法の効果で、多少なりとも痛みは軽減されている筈だが、それでも傷口はじくじくと痛んだ。

――ほむらとの交戦後、直ぐにホテル・ウメスへと取って返した彼女は、
帰る道すがら“大佐”へと携帯電話で事の次第を報告していた。

基本的に『A.O.E.M.』に属する魔法少女はテレパシーを好まず、
余程の緊急事態にしかこれを用いない。
何故ならば、テレパシーはキュウべぇに盗聴されている可能性が余りに高いからだ。


ともかく、ブレザーの少女からの報告を受けた“大佐”は一先ず彼女と合流し、
報告よりの情報を基に、簡単な『人相書』を仕立て上げた。

『人相書』といっても、そう大した代物では無くて、
せいぜい魔法少女装束や身体的特徴などを簡単にまとめた、落書き付きのメモ程度のものでしかないが。

この『人相書』を手に“大佐”が向かったのは杏子とゆまのもとであった。
幸い二人はホテルの部屋でゴロゴロしていたが、残念な事に二人から有力な情報は得られなかった。

しかし“大佐”はこの時、杏子より『マミに聞くのが良い』というアドバイスを受ける事が出来た。
巴マミは、この見滝原を事実上取り仕切っている魔法少女だ。
件の『黒い魔法少女』――この場合はほむらの事――について知っている可能性は高い。

かくして進物片手に、“大佐”はマミの部屋を訪ねたのだが――

ブレザー「(思ったより時間かかるわね……)」

扉の向こうから銃声等が聞こえて来ない事を考えれば、
さほど酷い荒事には発展してはいない筈だが――。

ブレザー「(まあ、何も無いにこしたことは無いね)」
ブレザー「(怪我してからの二連戦は流石に嫌だし)」


マミの在宅を確認した上で、二人はこの場へとやって来た。
ブレザーの少女がこの場にいるのは、呼び鈴を鳴らして中のマミの注意を引く事と、
外で待機して、万が一の戦闘の際はバックアップにまわる為だ。

だがどうも、バックアップの仕事の方は、せずには済みそうであった。

そんな事を考えつつブレザーの少女は、
ブレザーの内ポケットより薄型の携帯電話を取り出すと、時計代わりにして時刻を見た。

彼女の愛用の腕時計は、彼女自身が吹っ飛ばしてしまっていた。
……敵であれ、味方であれ、中立であれ、件の連続魔法少女殺しの犯人であれ、そうでなかれ、
必ず腕時計分の弁償金だけは、あの黒い魔法少女からふんだくってやろうと、彼女は硬く誓う。

――そんな事を考えていると。

大佐「それじゃあ。夜分遅くにすまなかった」
大佐「おやすみなさい。今度来る時は、美味しいコーヒーをお土産にするよ」

ドアが開いて、“大佐”が中より出て来た所だった。
上の様に言いつつパナマ帽を被り、軽くお辞儀していた。

大佐「待たせて悪かったね」
大佐「さあ帰ろうか」


ドアを閉じると“大佐”はブレザーの少女にウィンクし、ゆっくりとエレベーターへと歩き出した。
その少し後ろを、ブレザーの少女は追う。

ブレザー「有益な情報は得られましたか“大佐”?」

大佐「充分な成果を得られた」
大佐「君と一戦やらかした魔法少女の名前は『アケミ・ホムラ』」
大佐「マミ嬢と同じ見滝原中学校の生徒で、第二学年」
大佐「マミ嬢の見立てでは、魔法少女殺しに関して彼女は『シロ』だそうだ」

ブレザー「……被害者は皆、刃物か何かで切り裂かれていた」

大佐「対してアケミ・ホムラは銃を使っていた」
大佐「散々同じ手口で殺しをしておいて、今更得物を変えるのも不自然だ」
大佐「やはり『シロ』だろうな」

ブレザー「ではその、アケミ・ホムラは一体何者なのですか?」
ブレザー「どこかの組織の手の者とか?」

“大佐”は首を横に振った。


大佐「これもマミ嬢よりの情報だが、アケミ・ホムラは徹底した一匹狼らしい」
大佐「彼女の知る限りにおいて、ホムラは一貫して単独行動を取り」
大佐「他者に干渉すること、される事を酷く嫌っているらしい」
大佐「マミ嬢も幾度か接触を試みたが、冷たく拒絶されたそうだ」

ブレザー「……では私は怪我のし損だと言う事ですか?」

ブレザーの少女は疲れた様な声を出した。
一戦交えた相手が、自分達の探す相手とはまるで別人だったのだから。

大佐「いや、そうでもない」
大佐「マミ嬢より聞いた内容で、幾つか気にかかる点もあった」
大佐「そこでだ」


大佐「――明日、見滝原中学校にお邪魔しようと思う」

とりあえずここまで
マミさんがどうなったかについてはまた次回

後、スマホに関しては、ガジェットとして使えそうだと思った時に出すかも

では

ショルダーバッグがショツダーバッグになってたが
中古の腕時計1つ分の賠償となれば弾切れのベレッタぐらいだろうか



■マミの部屋■


――砂糖をたっぷりと入れた紅茶を、マミはゆっくりと時間を掛けて飲んだ。
基本的に甘党な彼女だが、今飲んでいる紅茶は、普段と比べて五割増しに砂糖が多かった。

マミ「――ふぅ」

芳醇な紅茶の香りが鼻孔に、砂糖の強い甘みが口腔内にとそれぞれ広がる。
疲れてややボンヤリとした頭脳へと糖分が沁み渡って行く様な感覚を、マミは覚えた。

マミ「(“大佐”……)」

砂糖の甘みで冴えた脳裏に、
あの得体の知れない灰色の瞳が浮かぶ。

マミ「(本当に、彼女は何者なのかしら)」

マミが“大佐”に対して抱いた印象を一言で表すならば、それは――

マミ「(『鵺』ね)」

正体不明で捉えどころない“大佐”はまさしく、
この伝説上の怪物の名前で形容するに相応しい人物だった。

マミ「……」

そして彼女は、つい先程の邂逅の様子を想起した。

>>154
誤字指摘感謝



■回想の中のマミの部屋■


大佐『これでようやく話が出来る様になった』
大佐『立ったままでいるのもなんだろう。まずは座ろうじゃないか』

マミと鼻先同士が触れ合う程に顔を近づけていた“大佐”は、
そう諭す様な声色で囁くと、あっさりマミを解放した。
無論、奪い取ったマスケット銃を、マミへと返すのも忘れない。

呆気に取られているマミを余所に、
“大佐”はソファーの右側に座ると、
ポンポンと自身の隣の空いたスペースを軽く叩いた。
……座れ、ということらしい。

マミ『……』

マミは暫間、呆気にとられたままでいたが、直ぐに正体を取り戻した。
そして最初に覚えた感情は……徒労感であった。

“大佐”の人を喰ったありさまに、マミは怒りを覚える以上に呆れてしまっていた。

最早どう見ても“大佐”は、自分に対して敵意を向けてはいないようにしか見えず、
まるで自分だけが一生懸命に独り相撲していた様に思えた。

それがなんと滑稽でアホらしいことかと思ってしまえば、もう気力は保たせようが無かった。

緊張の糸が緩んでしまい、マミは自分から戦意を抜け出て行くのを感じていた。

マミ『何だかとても疲れたわ』
マミ『貴女の質問に答えるから、それを終えたら、今日は帰ってくれないかしら』

そう言ってマミ“大佐”の方へと歩み寄って行ったが、流石にソファーには座らなかった。
いかに戦意と警戒心が萎えたとは言え、促されるまま隣に座れるほど呆けてもいなかった。

椅子を一つ持ってくると、ちょうど“大佐”と向かい合えるような格好で座った。
“大佐”は少し残念そうな顔をした後に、身を乗り出す様にした。

大佐『――では、話をしよう』



■再びマミの部屋■


――回想から戻り、マミは改めて考える。

マミ「(本当の意味で重要な情報は話してはいないけれど……)」
マミ「(あれで良かったかしら……)」

『人相書』を見せられた時には、『これが……暁美さん!?』などと呟いてしまい、
彼女について知っている事を思わず喋らされてしまった。

現状、マミとほむらは相互不干渉、というよりも事実上の冷戦状態であるため、
はっきり言って“大佐”に対しほむらの事を話した所で、少なくとも道義的には何の問題も無い。

しかし仮にも同じ学舎で学ぶ魔法少女である。
それを“大佐”に売り渡した様で、何とも気分が悪かった。

キュウべぇから得た情報よりマミが得ていた“大佐”の人物像と実際のソレとは、別物と言っていい程の隔たりが合った。
もっと解りやすい悪党を想像していたのが、実際の彼女はとても『複雑』な人間であるように思えた。

彼女の纏った異様な気迫はマミには未知なるものであり、
彼女の灰色の瞳からは、如何なる真意も読みとれなかった。

敵なのか?
味方なのか?
『魔法少女狩り』の犯人を探しに来たといったが、本当なのか?
それが本当だとして、目的を果たした後も素直に見滝原より立ち去るのか?

“大佐”に対する疑問は尽きず、そしてその問いのいずれにも答えを得てはいなかった。


マミ「(いずれにせよ……)」

マミは、最後の紅茶を飲みほしながら、
先の邂逅中、“大佐”が自分を殺す気であったなら、どうなっていたかを想像した。

そして肝を冷やし、思った。

マミ「(暫くは……いえ、もう二度と会いたくないわね)」

もしも“大佐”が見滝原に手を出さないのであれば、マミは彼女を放置したいとも考えていた。
正体の知れない霞のような人間を相手にするのは、それは精神をすり減らされる行為だった。

――しかし彼女の願いは叶わなかった
彼女は翌日には、“大佐”と再び相まみえる事となる。
そしてその場所は――



■見滝原中学校への通学路■


まどか「おっはよー!」
さやか「おはよう、まどか」
仁美「おはようございます、鹿目さん」

まどかは今日も目覚ましの音で起きると、
いつも早起きのパパにおはようと言って、
いつも起きないママの布団を引っぺがし、
いつも美味しいパパの朝ごはんを食べて、
いつもの通学路で二人の友達と出会った。

いつもどおりの変化の無い、鹿目まどかの生活のサイクル。
しかし最近、このサイクルにも一つの変化が生じていた。

ほむら「おはよう、まどか」

ちょっと不思議な転校生、暁美ほむら。
最近、まどかの世界へと新たに加わった、素敵な友達であった。

まどか「うぇひひ、さやかちゃんに仁美ちゃん、ほむらちゃんもオハヨー」

少し特徴的な声を上げて、まどかは皆へと笑いかけた。
特に彼女が満面の笑みを浮かべたのは、ほむらに対してだった。


さやか「お!相変わらず朝からお熱いですな~~」
仁美「キマシ(ry」

そんなまどかは、さやか仁美が茶々を入れるのを聞き、少し顔を赤くした。
だが否定の言葉は出て来なかった。確かに二人の言う通りだったからだ。

まどかとほむらは出会ってまだそえれほど長い時間が経ってはいないのにも関わらず、
二人は不思議な程の速さで仲良くなっていった。

今ではほむらは、さやかや仁美同様に、まどかにとってとても大事な人の一人となっていた。

まどか「……?ほむらちゃんどうしたの?」
ほむら「?何がかしら?」
まどか「いや、何だか今日は少し、顔色が悪いみたいだから」

ほむらは元々、どちらかと言えば青白い顔をしているが、
しかし今日はそれが特にひどい様にまどかは見えた。
良く見れば、眼の下が微かに青黒くなってもいる。

まどか「隈できてるよ。ほむらちゃん寝不足?」

少し間が空く。

ほむら「……ええ。やらなきゃならない事がいくつかあって」
ほむら「ここの所、少し寝不足気味ね」



まどか「だめだよほむらちゃん!ちゃんと睡眠時間をとらないと!」
まどか「授業中に寝ちゃったりしたら、さやかちゃんみたいになっちゃうよ」

さやか「ちょい待ってまどか、今聞き捨てならない言葉が」

ほむら「大丈夫よ。予習はちゃんと済んでいるし、急に指名されても問題無いわ」
まどか「でも、やっぱり授業中に寝るのは良くない様な……」
ほむら「まどかは真面目ね。大丈夫よ、私は美樹さやかとは違うわ」

さやか「聞いてよ!二人とも!」

やいのやいのと、まどかとほむら、そしてさやかがじゃれ合って、それを見て仁美が楽しそうに笑う。
まどかにとっての、少し新しくなった『いつもの朝の風景』の一幕。

――そこに今日は、予期せぬイレギュラーが加わった。

???『おや!奇遇だな』
???『よもやこんな所で会おうとは思わなかった』

聞き覚えの無い声が、まどかの耳朶を打った。

???『いや学校までお邪魔しようと思ったんだがね』
???『まさかその途中で出会えるとは……僥倖僥倖』



まどか、さやか、仁美、それにほむらが声のする方を見た。
四人の全員にとって、見知らぬ誰かがそこに居た。

やや草臥れたパナマ帽。
黄色のスカーフ。
着ているシャツは今日は黒色。
スカートの色は今日は灰色。
靴は変わらぬキャンバスブーツ。
手には小さなボストンバッグ。

???「ああ悪いね。こっちが一方的に知っているだけで、面識は無いんだった」
???「はじめましてかな、諸君」

まどか達は知らないが、彼女が誰かは言うまでも無い。
――“大佐”と呼ばれるあの魔法少女であった。

とりあえずここまで

話が進まん……もっと書くペースを上げたいが、どうにもならんね
次回か次々回ぐらいで、ちゃんと話を動かしたい



まどか「ええと……」

まどかはいきなり現れた謎の少女に戸惑った。

自分と同年代としては些か変わった格好をした少女であった。

顔の造作じたいは日本人的であったが、
浅黒い肌に灰色の瞳、黒い癖っ毛と、や異国情緒の趣をもった少女であった。

今まで、出会ったことは無い筈の――……。

まどか「(あれ?)」

本当に出会ってないのだろうか?
まどかは現れた少女の姿に、微かな既視感を覚えていた。
気のせいかとも思ったが、そうでは無い。

ふと気付けば、隣のさやかも眉根を寄せて考え込むような表情をしている。
彼女との付き合いの長いまどかには何となく、自分とさやかが『同じ疑問』を抱いているらしい事が解った。

最初に問いを発したのは、積極性でまどかに勝るさやかだった。


さやか「あの……どこかでお会いしたことありますか?」
大佐「ん?」

まどか達はまだその名を知らない“大佐”は、少し驚いた様な表情で、考える仕草を見せた。
彼女が考えていたのは、僅かな時間だった。

さやか「あ!」
大佐「おお!」

さやかと“大佐”が『解った』を意味する声を上げたのはほぼ同時だった。

さやか「昨日ぶつかった!」
大佐「昨日ぶつかられた!」

ここでまどかも、何処で“大佐”と出会ったのかを思い出した。
昨日の放課後、ショッピングモールで、さやかのCD探しにつき合った帰りに、
ふざけていたさやかがぶつかって、謝った相手だ!

さやか「ああ、あの時はスミマセンでした!」
大佐「いやいや。こっちも怪我一つしていないんだ。謝る事はないよ」

やや恐縮そうにするさやかと、朗らかに笑う“大佐”。
事情を知らないが為に、何が何だか訳が解らない仁美とほむらは、互いに顔を見合わせた。


大佐「そちらのカワイイお嬢さんとも、昨日会っていたね」
大佐「改めて」
大佐『 Bom dia, senhorita. 』
まどか「ふぇ!?」

“大佐”の視線はさやかからまどかへと動き、彼女へも声を掛けて来た。
まどかは“大佐”の口から飛び出て来た未知なる言語に驚き、あたふたと慌てた。

さやか、仁美らの視線は、この可愛らしく慌てるまどかへと集中し、
まどかを見る“大佐”の眼に、一瞬妖しげな光が過ったのに気付いてはいなかった。

――ただし、ほむらだけは違っていたが。
“大佐”の眼の輝きに、ほむらは微かに顔をしかめていた。

まどか「ええと……ええと、あいんふぁいんせんきゅーあんどゆー?」
大佐「あはは!さっきのは英語じゃないよ、セニョリータ」
大佐「私の母国の言葉さ。だからその解答は不正解だな」
まどか「はぇっ!?」

まどかは思わず赤面し、さらにあたふたと慌てた。

さやか「(カワイイ)」
仁美「(かわいいですわ)」
ほむら「(まどカワイイ)」

一同はそんなまどかの様子に、思わず幸せな気持ちになった。


大佐「それにだね、お嬢さん」
大佐「実は私が用があるのは、君達二人にではないのだ」

特に反応を見せていないのは“大佐”だけであった。
“大佐”は相変わらずの笑顔を、まどか、さやかに投げかける。

さやか「えっと」
まどか「それって」

さやかとまどかは、仁美とほむらの方を見た。
無論、仁美には心当たりなど無く、
逆にほむらには心当たりは有り過ぎる程に有った。

ほむら「――私かしら?」

ほむらがツイと前に出て“大佐”と正面から向き合った。
昨晩、一戦を交えたブレザーの少女の一味か何かであろう、とほむらは思っていた。

ほむら「(こんな朝から、出向いてくるとは思わなかったけれど……)」


盗みや騙りを行う杏子ですら、
非魔法少女の一般社会に自身の正体がバレるのを嫌い、避ける。

この眼の前の誰かもまた魔法少女であるならば、それは同じ事の筈だ。
だとすれば、こんな白昼堂々――実際には朝だが――と、こちらに接触を持って来るような事は普通しない。

相手の考えが読めず、ほむらは内心、微かな驚きと不安を感じていた。
まどかへと向けていた視線の意味も気にかかっていた。
無論、これらの懸念の全てを、顔色には一切、おくびにも出さないが。

ほむら「何の用かしら?生憎、私には貴女と面識は無い筈だけど」
大佐「それはだね――」

“大佐”はソッと、静かにほむらへと歩み寄って、その耳もとへ囁いた。
そしてその言葉に、ほむらの背骨は凍りついた。

大佐「『腕時計』の事が一つ。そして――」









大佐「――そこのピンク色の髪のお嬢さんについても……色々と聞きたい事があってね」







取り敢えず、ここまで
次回くらいから、話がようやく本格的に動き出すぜ……ようやくだ



■見滝原中学校■


――放課後。
ほむらは屋上へと早足で向かっいた。
一緒に帰る様に誘う、まどか、さやか、仁美らに用事があると断って、彼女は屋上を目指した。

ほむら「……」

扉を開けば、たたでさえ異様に白い屋上の景色が、
人気の無さも相まってその白亜の度合いを強めていた。

大佐「やあ、待ちかねたよ」

そんな屋上の端で、振り向いてほむらの方を見たのは“大佐”であった。
彼女はこの学校の部外者であるが、魔法少女であれば学校への不法侵入など息を吸うより容易い。

ほむら「……」

ほむらは“大佐”の声には応えず、ツカツカと無言で距離を詰めて行く。
その鉄面皮は、もはや凍てついているかと思う程の冷たさを湛えていた。

“大佐”は軽く肩を竦めると、彼女もまたほむらの方へと歩き始めた。
苛立ちを示す速歩のほむらに対し、“大佐”の歩みは余裕を感じさせる悠々たるものだった。


ほむら「……」
大佐「~~♪」

ほむらは無言で、“大佐”は鼻歌を奏でながら、互いに歩み寄る。
そして互いに歩み寄りつつ、二人はともに魔法少女に変身していた。

ほむらはいつも通りの、黒と灰と紫の魔法少女装束の姿となっている。

一方“大佐”は、第二次世界大戦当時の、
イギリス陸軍特殊空挺部隊――通称『SAS』――の軍服を思わせる姿に変身していた。

すなわち、緑の迷彩色の軍服風の装束に、赤色のベレー帽という出で立ちであった。
ただし下に履いているのはズボンではなく、スコットランド人兵士のようなスカートであったが。

ほむら「……」
大佐「……」

二人は、長方形の屋上のちょうど真ん中程の地点で、互いに向かい合う形で足を止めた。
ほむらは“大佐”を睨みつけ、“大佐”はほむらへと微笑みかける。

――大佐『放課後に話をしよう』
――大佐『君の学校の屋上で、私は待っている』

そう囁いて今朝の“大佐”は立ち去った。
まどか達は結局何だったんだと頭上にクスチョンマークを浮かべていたが、ほむらだけは独り難しい顔をしていた。
“大佐”の言葉のせいで、今日は一日中、ほむらは気が気でなかった。


――まどかの、余りにも類稀なる『素質』。
――それをキュウべぇ以外の存在に知られるとは!

いつ、どうやって知ったかが気にかかるが、
それ以上に気にかかるのは一体全体、相手が『どこまで』知っているかだ。

場合によっては、まどかを護る為にコイツは殺さなくてはならないかも知れない。

大佐「そう睨みつけないでくれ。怖いじゃないか」
ほむら「黙りなさい。余計なおしゃべりをするつもりは無いわ」

ほむらは黒い長髪をファサりと手で梳き風に靡かせると、冷たく言い放った。

ほむら「それで……結局の所、何が目的で私に会いに来たのかしら?」
ほむら「改めてそれを、要点だけ、簡潔に言って」

ほむらは、自身の生きる意味を『鹿目まどかを護る』という一点においてのみ見出している。
このイレギュラーが何処で何をしようが、まどかに関わらない限りにおいては、はっきり言って彼女には知った事では無い。
しかし、ほんの少しでも、まどかに対し危害を加える様な可能性があるのならば――ただ抹殺するのみだ。

今朝の短い囁きだけでは、得られた情報が少なすぎる。
迅速かつ、適切な行動へと移る為にも、ここでより多くの情報を聞きださねばならない。


大佐「……」
大佐「私がこの見滝原へとやって来たのはそもそも二つの理由があった」

“大佐”はピッと右手の人差し指を立てた。

大佐「まず、第一に『魔法少女狩り』に私の部下が殺された」
大佐「故に、その犯人を捜し出し、然るべき報いを与える事だ」

“大佐”はピッと右手の中指も続けて立てた。

大佐「第二に、この見滝原では魔女の発生件数が劇的に上昇しているという」
大佐「その情報の真偽を確かめる事」
大佐「『統計的』に考えて、このような事象が起こっているのは、様々厄災の前触れである場合が殆どだからだ」

『統計的』という言葉にほむらがピクッと少しだけ反応したが、一先ずそれには言及せずに“大佐”は話を続ける。

大佐「君への接触は、まず、君を尾行していた私の部下と君が一戦交えたのが理由だ」
大佐「君が我々の敵なのか、それとも昨日の一件は単なる自衛行為だったのか」
大佐「それを問いたかったのさ」

大佐「ついでに言えば、君が件の『魔法少女狩り』について何か知っているかに……」
大佐「これについても問わんと考えていた」

大佐「さらに言えば、巴マミ嬢から、君について多少伺っていてね」
大佐「そこから推測される君の生き方は、通常の魔法少女のソレとは著しく違う」
大佐「そこが個人的に気になっていた」


ほむら「(――巴マミ!)」

“大佐”の口から出て来たマミの名前に、ほむらは顔の険を深くした。
しかし“大佐”はこれにも反応せずに、ただ話を続けた。

大佐「そして、例のピンク色の髪のお嬢さんについてだが」
大佐「実は彼女について、私が疑問を覚えたのは今朝あったその時でね」

大佐「彼女と、一緒にいた青い短髪の娘」
大佐「あの二人は、魔法少女としての素質を持っているだろう?」
大佐「特に、ピンク髪の」

ほむら「……何故そう思うの?」
ほむら「キュウべぇにでも聞いたのかしら?」

ここで初めてほむらは“大佐”の語りへと口を挟んだ。
“大佐”は相変わらずの、真意の読めぬ笑顔のまま、それに答えた。

大佐「私はね。大勢の魔法少女と出会って来た」
大佐「そして魔法少女の素質を持つ者とも」

大佐「確固たる数値化されたものではないが」
大佐「自分の経験の蓄積から、ある程度の素養の多寡は感じ取ることが出来る」

大佐「あのお嬢さんは――百年一人の逸材だ」

一旦ここまで。

ふむ。総合すると、つまり

・時間停止の発動には『盾の駆動』が不可欠
・ただし『盾の駆動』には、『ほむらの手で動かす動作』は、映像に準拠する場合は必要ない

て事か。
つまり、一応、盾の駆動、というワンシークエンスはいるわけか
理解した。

皆さまの情報に感謝

そして投下します


ほむらは“大佐”の『百年に一人の逸材』の言葉を聞くや否や、
右手を左手の盾の方へと閃くような速さで伸ばしていた。
盾の内より適当な銃を抜き、目の前の“大佐”を射殺する為である。

大佐「待て」

そんなほむらの動きに対し、“大佐”は右の掌をほむらの方へと突き出し、これを制した。

大佐「話は最後まで聞きたまえ」
大佐「私はあのお嬢さんの素質を見抜いた。そしてその上で思ったのだ」

大佐「何故、君はあのお嬢さんに『魔法少女』について教えていないのか」
大佐「何故、君は彼女の素質を知りながら、契約させずに護衛をしているのか」
大佐「この二点が気にかかった」

ほむら「!」

ほむらは“大佐”の言葉に驚いた。
あの僅かな今朝の邂逅の間に、どうやってそこまでの事を理解し得たというのか!

大佐「――どうやらその表情……私の推測は当たっていたか」
ほむら「!……貴女は」
大佐「鎌をかけさせてもらった」
大佐「まあ、鎌をかけて確かめずとも、すでに殆ど確信に近い推測ではあったのだがね」

“大佐”はワトソン君を前にしたシャーロック=ホームズのような表情を作った。
それはほむらの唯でさえ昂った神経を、逆撫でにする類のものだった。


大佐「今朝、私はソウルジェムを指輪型にして、さりげなくお嬢さんへと見せていた」
大佐「しかるに、彼女には何の反応も無かったよ」
大佐「魔法少女や、その存在を知る者ならば、何らかの反応をみせて然るべきなのに、だ」
大佐「彼女は嘘が得意な方にも見えないし、本当に知らなかったのだろう」
大佐「これが第一の推理だ」

大佐「第二の推理だが。今朝の君の立ち位置の動きと、私との間の取り方、視線の運びが根拠だよ」
ほむら「ッ」
大佐「殆ど無意識の動きなんだろうが、君の動きは、ピンク髪のお穣――」

ほむら「『まどか』、よ」
大佐「ん?」
ほむら「彼女の名前は『鹿目まどか』よ!」

ほむらは半ば叫ぶ様にして、“大佐”の講釈を遮った。

ほむら「得意満面のご高説には痛みいるわ」
ほむら「でも私は、いつまでも貴女の能書きを聞いている程、暇ではないの」

ほむらは、親の仇とばかりに“大佐”を睨みつけた。

ほむら「貴女の推理なんてどうでもいいわ」
ほむら「私のとって重要なのは――」

そしてほむらの右手が再び閃き、『魔法染みた動き』でその手には一丁の銃が握られていた。


狩猟用の水平二連式の散弾銃――いわゆる『コーチガン』――の、
ストックを切り落とし、銃身をギリギリまでソードオフした代物だ。

そのシェルエットは最早、散弾銃というよりも大型の拳銃を思わせるものだった。
この至近距離では、致命的なまでの殺傷力を発揮するだろう得物であった。

ほむら「貴女が、『まどかに何をするつもりなのか』よ」
ほむら「返答次第では……いいえ」

ほむらの表情が、いつもの鉄面皮より急激に変化する。
その口角は吊りあがり、恐ろしく残酷な相貌を、ほむらは“大佐”へと見せつけた。

ほむら「まどかに眼をつけた時点で、貴女は危険人物」
ほむら「いっそここで、殺してあげようかしら」

ほむらのコーチガンの銃身に装填された12ゲージ散弾を二発同時発射可能なように改造されている。
至近距離で二発分の散弾を喰らえば、いかに魔法少女と言えど――。

大佐「見たまえ」

しかし“大佐”はまるで銃を突き付けられてなどいないような調子で、平然としていた。
そして右手で、スッと何処かを指差した。

ほむら「……」

ほむらは一歩“大佐”より間合いを開けると、その指さす方に視点を向けた。
無論、銃口は“大佐”へと擬したまま。


ほむら「!」
大佐「見えたかな」

成程――見えた。
ほむらは自分の迂闊さを呪った。
敵は複数だという事は知っていた筈なのに。

魔法少女の能力で、強化された視力。
それを用いて見えた先に居たのは、自分へとスコープ越しに狙いをつけている、一人の狙撃手の姿だった。

見滝原中学校近くのビルの一つの、屋上からほむらの方を狙っている姿が、はっきりと見えた。

ほむらは知る由も無いが、
狙撃手は『A.O.E.M.』に所属し、主に暗号名『デカ』の名で呼ばれる魔法少女であった。
バレー部の主将か、さもなくば女子レスリング部の主将を思わせる、
年に似合わぬ大きな体が、その暗号名の由来だった。
なお余談ながら、彼女は実際には某高校の手芸部の所属であり、運動部員ですらない。

大佐「彼女の手にしているのは、レミントン社製のModel.750、セミオートマチックライフル」
大佐「銃器の規制に極めて厳しいこの国でも合法的に入手できる、主に狩猟用で使われるライフル銃だ」

思わぬ狙撃手の存在に、舌打ちするほむらに対し“大佐”は、
まるで夕飯のおかずの品目を説明する様な調子で、ほむらを狙う銃について話し始めた。


大佐「使用する弾丸は、30-06スプリングフィールド弾」
大佐「元は軍用の弾丸。現在では、熊やバイソンの様な、大型の猛獣を相手にする際に用いる」
大佐「狩猟用なのでフルメタルジャケット弾では無く、ソフトポイント弾だ」
大佐「つまり標的に命中すれば、弾体が潰れて砕け、標的の体内に飛び散る」
大佐「そしてグシャグシャに掻きまわす」
大佐「本来であれば、人間に向けて良い銃弾では無いが」
大佐「生憎、魔法少女間の戦闘には『戦争法規』は適用されない」
大佐「ハーグ条約も。そしてジュネーヴ条約も」

空恐ろしい内容を喋りながらも、声の調子に一切に変化は無い。
それだけに、それは余計恐ろしげに聞こえた。

大佐「さて。君がそのショットガンで私を撃つのは構わないが」
大佐「君が引き金にそれ以上の力を掛けたその瞬間」
大佐「ライフル弾が飛んでくるのを覚悟したまえ」
大佐「彼女の射撃の腕は中々のモノだし」
大佐「例え初弾を避け得たとしても、あれはセミオートのライフルだ」
大佐「すかさず、次弾が飛んでくる」

ほむら「……」

ほむらは考える。
敵が普通の人間の狙撃手であれば、
その反応速度を凌ぐ速さで動く事で、結果的に銃弾を避け得るかもしれない。
しかし狙撃手が同じ魔法少女であって、それは可能であろうか?


ほむら「(時間を――)」
大佐「さらに言えば」
ほむら「ッ」

ほむらの思考は“大佐”の声によって断ち切られる。
“大佐”が右の掌をサッと上げると、ほむらの後方で誰かが動く気配がした。

振り返れば、既に見知ったブレザー姿の少女が、
屋上への出入り口の陰から姿を現す所であった。
その手には、カラシニコフと思しき自動小銃が握られている。
――どうでもいいが、彼女は魔法少女装束もブレザーであるらしい。

大佐「ついで言えば、ブレザー姿の彼女以外にもう一人、伏兵を隠してある」
大佐「その彼女も君を手にした銃で狙っている」
大佐「さあ、4対1だが」
大佐「どうするかね?」

ほむら「……」

ほむらは包囲されている現状をどうするか、
高速で思考を展開させた。


ほむら「(二方向より銃口を向けられている)」
ほむら「(狙撃手の方は問題ない。初弾さえ躱せれば、後は時間停止でどうにでもなる)」
ほむら「(問題は……AK持ちのブレザーの方)」
ほむら「(この距離でフルオート射撃をされれば、躱しきるのは難しい)」
ほむら「(さらに、見えない伏兵の存在もある)」
ほむら「(そっちはブラフかも知れないけれど……)」
ほむら「(どうする?)」

多少の負傷は覚悟で動くべきか……ほむらがそこまで思考を進めた時であった。

――マミ『そこまでよ、“大佐”さん』

ほむら「!」
大佐「!」

ほむらを始めとした、見滝原中学校周辺に集っていた魔法少女全員、
マミよりの唐突なテレパシーが響いた。

ハッとして“大佐”が狙撃手“デカ”の方を見る。
ほむらもまた、“大佐”につられて、彼女の見た方を自分でも見た。

――マミ『いいえ。これで4対2ね』

そこではマミが、“デカ”の頭へとマスケット銃を突き付けていた。
ほむらにも“大佐”にも、その姿はハッキリと見えた。

とりあえずここまで。


ほむら『巴マミ……貴女、何のつもりかしら』

この時間軸においては、完全な冷戦状態であった筈のマミが、
何故か自分の側について、“大佐”と呼ばれた魔法少女の手下へと銃を向けている。

これはほむらには、完全に予想外の事態であり、
それは“大佐”にとっても同様のようであった。

大佐『君は暁美ほむらとは敵同士じゃなかったかな?私の記憶が正しければだが』

珍しく少し驚いた表情をした“大佐”が、テレパシーでマミへと問う。
マミは不敵な頬笑みを浮かべながら答えた。

マミ『“大佐”、それは違うわ』
マミ『私と暁美さんは味方同士では無いけれど、敵同士でも無い』
マミ『互いにとって中立の間柄よ』

マミ『そして暁美さん』
マミ『何のつもりかって、助太刀よ』
マミ『私はこの場においては、貴女の側につくって事』


ほむら『巴マミ……そもそも、何故貴女がここに?』
大佐『ではその中立を敢えて捨てて、ここで暁美ほむらにつくのは何故だね?』

それぞれへマミの答えに対し、
ほむらと“大佐”の双方、それぞれが新たな問いをマミへと投げかけた。

マミ『二人同時に質問されたら困るわ』
マミ『私は聖徳太子じゃないんだから』

そう言いつつも、マミは律儀に二人の問いに答えてた。

マミ『まず、暁美さん。これは単純に、貴女が屋上に小走りで向かうのを見たからよ』
マミ『様子が明らかに普通じゃなかったから』
マミ『悪いとは追い掛けさせてもらったら、思わぬ場面に出くわした……というわけ』
マミ『そして貴女がピンチに見えたから、助太刀させてもらったわ』

マミ『それと“大佐”。何故、貴女では無く暁美さんの側に味方したか、だけれど』
マミ『これも単純に、貴女と暁美さんを比べるならば、まだ暁美さんの方が信用できたからよ』
マミ『まがりなりにも、暁美さんは学校の後輩で、同じ街で暮らす魔法少女』
マミ『それに比べて貴女は、本名すら明かさない、正体不明の異邦人』
マミ『どちらを信用するかは、考えずとも明らかよね』

彼女は見滝原の守護者である。
街の住人と余所者と、どちらに味方をするかに、議論の余地など無い。


ほむら「……」
大佐「……」

ほむらと“大佐”は共にマミへと向けていた視線を自身の正面へと戻し、暫時見つめ合った。
どちらも無言で、ただ見つめ合っている。

マミ『――それでお二人さん。どうするのかしら?』
マミ『私としては、双方ともに矛を納めて貰えると助かるんだけど』
マミ『この状況で一戦を交えるならば、互いに不必要に傷つきかねないと思わない?』

ほむら「……」

ほむらは現状について再び思考を巡らせる。
自分の『時間停止』は極めて強力である。
大概の敵は、これを用いる事で容易く勝利出来るだろう。

――しかし万能では無い。

ほむらは自身の戦闘能力の基幹に『時間停止』と並んで、
『繰り返し』による膨大な情報の蓄積があることを自覚していた。


ほむら「(単にイレギュラーというだけならば、問題は無い)」
ほむら「(『時間停止』を用いた不意打ちで、一撃必殺できる)」

ほむら「(けれども、銃を突き付けられても平然としている所や)」
ほむら「(伏兵や狙撃手を配置している点)」
ほむら「(銃器を駆使している点)」
ほむら「(総合して考えるに……この“大佐”とやらは)」
ほむら「(とても『実戦慣れ』している)」

ほむらが事前情報を持たない実戦慣れしたイレギュラーに、
しかも数で劣った状況で挑むのもゾッとしないことだった。

ほむら「(まどかを話に出されたせいで、少し血気に逸り過ぎていたかもしれない)」
ほむら「(巴マミが出て来てくれたお陰で、少し頭が冷えたわ)」

美国織莉子という、許されざる潜在的脅威が暗躍している現状で、余計な戦闘は慎むべきであった。

ほむら「(それに“大佐(コイツ)”の言葉を信じるならば)」
ほむら「(あの美国織莉子と呉キリカをコイツら追っているらしいわね)」
ほむら「(……予知能力を持った美国織莉子と、私の時間停止は恐ろしく相性が悪い)」
ほむら「(私ひとりでは、あの連中の始末は、苦戦を避け得ない)」
ほむら「(ならば……コイツら当て馬に使う事も有効な手段と言える)」
ほむら「(いきなり銃を向けたのは、流石に軽率だったかしら)」

美国織莉子の一件で、自分はイレギュラー要素に唯でさえ過敏になっているきらいがある。

そのイレギュラーが、よりにもよってまどかに眼をつけたと聞けば、
ほむらは自身の血液全てが逆流しかねない程の恐怖と憤怒を禁じ得なかった。


ほむら「(……この“大佐”という魔法少女が)」
ほむら「(佐倉杏子同様に『利』によって動く魔法少女であるのならば)」
ほむら「(友好関係を築かずとも、情報と利益誘導で、こちらに有利な風に動かせる可能性はまだある)」
ほむら「(無論、まどかには絶対に近づくなと警告をした上でだけれど)」

以上の思考を数秒間で行ったほむらは、
ここは自分から武器を下ろすべきか?と考えたが、
しかし行動を起こしたのは“大佐”の方が先だった。

大佐『“デカ”上等兵、ライフルを下ろせ』

そうテレパシーで、狙撃手へと指示を出したのだ。

デカ『“大佐”、良いんですか!?』
大佐『構わないから下ろすんだ。銃を下ろせば、マミ嬢は撃たない』

“大佐”の指示に従い、狙撃手は銃口を下げ、
それに合わせてマミもマスケットの銃口を“デカ”の頭部より外した。

大佐「……『ビューグラー』」
大佐「一先ずその場で待機だ」

“大佐”は、ほむらには何処にいるかが理解できぬ誰かに指示を出していた。
伏兵はブラフで無く、本当であったらしい。


大佐「……」
ブレザー「……」

さらに“大佐”がブレザーの少女へと目配せすると、彼女もカラシニコフを下ろした。

ほむら「……」

それらの動きを確認し、その上で最後にほむらはコーチガンを下ろした。
見えない伏兵を除けば、この場にいる全ての魔法少女が、手にした武器を下ろした形となった。

マミ『……これでようやくお話が出来る様になったわね』
マミ『ねえ、“大佐”さん』

大佐「……」
ほむら「……」

少しの間、嫌な沈黙が流れる。
マミが少し居心地悪そう、コホンと咳払いをする。
それを切っ掛けにした訳でもないが、沈黙を最初に破ったのはほむらであった。

ほむら「“大佐”……でいいのよね?」
大佐「そう言えば、ちゃんと名乗ってはいなかったな」
大佐「その通りだよ。改めまして、私が“大佐”だ」
ほむら「そう……まぁ名前なんてどうでもいいのだけれど」

ほむら「貴女……『魔法少女狩り』の犯人を捜している」
ほむら「さっき確かにそう言ったわよね?」



大佐「全く以てその通りだ」

ほむら「……」
ほむら「その犯人は」
ほむら「私が知っている」

大佐「……ほう?」

ほむら「それを、教えても構わない」

大佐「……ふむ」

ほむらは微動だにしない鉄面皮で、その声は囁くように小さい。
一方“大佐”もまた、例の真意を隠す微笑の仮面を纏い、事実上の無表情であるのにはほむらと相違ない。
その纏った空気にも、ほむらの口から飛び出して来た内容に見合うような、それらしい驚きの色はまるで無かった。

――なお、二人が急にテレパシーでは無く口を使って会話し始めた為、
距離の離れた場所にいるマミには、ほむらと“大佐”が何を話しているのかが、まるで聞こえていなかった。
魔法少女の力で聴力を強化するも、ほむらの声も“大佐”の声も、とても小さくて聞きとる事は出来ていなかった。

ビルの屋上から、
何を話してるのーっ!といった表情で見つめて来るマミを無視して、ほむらと“大佐”は話し続ける。

ほむら「何故、何処で、どうやってそれを知ったかについては、説明するつもりもないし、問われても答えない」
ほむら「信じる信じないは貴女の勝手」
ほむら「ただ、私の話すのは真実だけよ」


大佐「……それで、その情報に対し、君が私に求める見返りは何だね?」

ほむらはファサと髪を手で梳いた。
ほむらにとっては、半ば癖のような動作であった。

ほむら「 『決して鹿目まどかには近づかないし詮索しない』 」
ほむら「これが私の求める見返りよ」

大佐「もしも私が約束を違えたら?」
ほむら「その時は貴女を殺すわ」

大佐「……」
ほむら「……」

再び、共に黙した。
今度の沈黙は、さらに短いもので、“大佐”がそれを破った。

大佐「君の提案に対する答えを言う前に」
大佐「ひとつ、君に質問したいのだが、良いかな?」
ほむら「……かまわないわ」

少し間があいて、“大佐”は問う。

大佐「ソウルジェムが濁り切った時……どうなるか」
大佐「君は知っているのかな?」

ほむら「――ッ!」


“大佐”が何を言わんとしているか、それはほむらには痛みを伴う程に良く解った。
つまり『魔法少女の真実を知っているか?』と、相手は問うていると言う事だ。

大佐「その反応を見るに、知っている、か」
大佐「成程、色々な疑問に、それでストンと納得がいったよ」

ほむらの答えを聞かずして、鉄面皮に走った動揺より、“大佐”は答えを得ていた。
そして言う。

大佐「良いだろう暁美ほむら」
大佐「私は、君との取引に応じようと思う」

とりあえずここまで

話が進まないにも程がある……もっとサクサクいきたいのに



■見滝原中学校 校門付近■


マミ「暁美さん」
ほむら「……巴マミ」

校門の陰で、マミはほむらが屋上を降りて出て来るのを待ちかまえていた。

結構な時間、マミは校門側でほむらを待ち続けていたが、
ようやく彼女が出て来た所をつかまえる事が出来ていた。

学校の屋上でほむらと“大佐”が取引を始めた時、
マミのいたビルの屋上とは距離が開き過ぎていて、何を話しているのかまるで聞き取れなかった。

魔法少女の能力で聴力を強化したりもしたが、二人の話声が小さすぎて無駄であった。
視力を強化することで二人の表情は何とか見る事が出来たが、
歳に比べて博識なマミも、流石に読唇術までは知らなかった為、結局、二人が何を話していたのかは解らなかった。

だからマミには、ほむらをつかまえて、話を聞きだす必要性があったのだ。
余計なお節介だと、ほむらには突っぱねられそうではあったが、
見滝原の守護者として、事の次第は把握しておきたいと思っていたし、
仲が良く無いとは言え、ほむらは同じ学舎で日々を過ごす後輩の魔法少女なのだ、心配はしていた。


ほむら「……例の狙撃手は?」

マミが何かをほむらへと問い始めるよりも、先にマミへとほむらから問いかけて来た。

マミ「屋上にいた娘の事なら、随分前に別れたわ」
マミ「互いに一言も口をきかなかったけれど、ね」
ほむら「……そう」

聞くだけ聞くと、ほむらはマミの横を素通りして校門より出ようとしたため、
マミは慌ててその袖を掴んで引き止めた。

マミ「ちょ!ちょっと!帰ろうとするなんてひどいじゃない!」
ほむら「……あの時、助けてくれたのは感謝するわ」
ほむら「だからと言って、私には貴女とつるむつもりは毛頭ない」
マミ「つるむだなんて……少しお話をするぐらい良いじゃないの」

マミはほむらのつっけんどんな態度に、少し剥れた表情をした。
彼女はアイドル的美少女なので、怒った表情もとても魅力的だったが、
ほむらがそれに対して何の反応も示さず、鉄面皮を保っていた。


ほむら「……少しならば良いわ。要件は手短に」
マミ「それじゃあ、前置きは無しで直接的に聞くわ」
マミ「“大佐”さんと何を話していたのかしら?」
ほむら「……貴女には関係ない事よ」
マミ「関係無くはないわよ」

マミはほむらへと顔をグッと近づけた。
その顔に浮かんだ表情は、生徒を叱る先生を思わせるものだった。

マミ「貴女、キュウべぇと仲が悪いみたいから聞いていないのかもしれないけれど」
マミ「あの“大佐”さんは、かなり大規模な魔法少女結社のリーダーだそうよ」
マミ「そんな彼女が、この見滝原で、何らかの目的を持って暗躍している……」
マミ「見滝原の魔法少女にとっては、人ごとじゃないとは思わない?」

ほむら「……」
ほむら「キュウべぇからアイツについて何か聞いているの?」

マミ「ええ。色々とね」

ほむらに問われ、マミはキュウべぇに聞かされた幾つかの事をほむらへと話した。
ほむらはそれを、マミの言葉を黙って聞いていた。
基本的にマミが話しかけても半ば聞き流していたこの時間軸のほむらの普段を考えれば、
随分と珍しい光景であったと言えた。


ほむら「……『A.O.E.M.』」
マミ「ええ」
マミ「私もキュウべぇに教えて貰って、初めて知ったのだけれど」
ほむら「……」
マミ「暁美さん?」

ほむらは両手を組み、少し俯くと、そのまま黙りこくってしまった。
思考に没頭してっしまっているらしく、その瞳は何処も見てはいなかった。

マミ「暁美さん」
ほむら「……」
マミ「暁美さん!」
ほむら「……」
マミ「 暁 美 さ ん ! 」
ほむら「……何よ巴マミ」
マミ「何よ、じゃないわよ。まったく」

人を前にして思考に没頭して放置とは、
わりと温厚な巴マミでも思わずプンスカなる失礼さであった。


マミ「それで、結局“大佐”さんとは何を話していたのかしら?」
マミ「色々とコッチも話してあげたんだから、少しぐらい教えてもらっても良いわよね」
ほむら「……」

ほむら「――ワルプルギスの夜」

マミ「……え?」

マミは、ほむらの口から飛び出して来た意外な言葉に、ポカンと口を開けて唖然とした。
今、何と言ったかしら――『ワルプルギスの夜』――それって、あの『ワルプルギスの夜』の事?

ほむら「信じる、信じないは貴女の勝手よ」
ほむら「そう遠くない未来に、『ワルプルギスの夜』が来る」
ほむら「だからアイツらに言ってやったわ」
ほむら「何をするにしても、さっさと済まして、見滝原を去ったほうが賢明だって、ね」



■ホテル・ウメス 六〇七号室■


――本来であれば、ほむらより聞きだした情報をもとに、
直ぐにでも美国織莉子と呉キリカの捜索の段取り決めへと移るべきであった。

しかし暁美ほむらより告げられた、その名前により“大佐”は、
少なくとも今夜『魔法少女狩り』の犯人探しに出る意思を完全に吹き飛ばされていた。

ホテルの自室のベッドに寝ころび、ジッと天井を見つめる。

しかし実際には、“大佐”の眼が見ているのは天井などでは無いのだ。

彼女の意識は今や、過去の回想の世界へと飛んでいた。

――ユカタン半島、グアテマラの地獄の様なジャングルの世界へと

とりあえずここまで

申し訳ない。
個人的に色々迷った結果、若干プロットに変更があったので、>>244のパートのみ、無かった事にしたい。
これから投下するが、つまり>>243からの続きということになる

>>243よりの続き

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■ブラジル サンパウロ州 ベルチオガ■


ブラジルと日本にはおおよそ十二時間の時差が存在する。
その為、日本では今や夕刻に近づきつつある時分において、
ブラジルはまだ早朝といって良い時間であった。

ようやく夜も明けて、太陽も顔を出さんとする時間帯であり、
ベルチオガの街もまだ動き出してはおらず、人気もまばらであった。

――ブラジル連邦共和国サンパウロ州、ベルチオガ。

日系ブラジル人の多く住むサンパウロ州の沿岸部に位置し、
州都サンパウロより車で二時間程の距離にある海岸の港町である。

このベルチオガは人口も少なく、基本的に規模の小さな町である。
しかし美しい白い砂浜で良く知られ、リゾート地として著名である。

リゾートシーズンでは釣り人と海水浴客で賑わい、街の人口が一時的に倍以上にも膨れ上がる程だった。

しかしそんな街だけに、こんな朝早くに動き出している人間は少なかった。
とは言っても、一人も居ない訳ではない。

わざわざリゾート地で早起きしてジョギングに勤しんでいる観光客や、
それ以外にも何らかの事情で、早起きして作業を行っている現地人の人影が、まばらに見えていた。


――『その少女』も、明け方のベルチオガの街で既に活動し始めていた内の一人であった。
ただ彼女の場合は、特に目的等があった訳では無くて、ただ何となく目覚めてしまい、暇を持て余していたが為であったが。

長い金髪を三つ編み状にした、白人の少女である。
顔立ち等から察するにゲルマン系だが、程良く日に焼けて、肌は健康的な小麦色であった。
その瞳は冬の湖の様に澄んだ青色で、瞼が厚ぼったいために、普通にしていても眠たそうな眼つきに見える。
加えて、身に纏った空気が外見に反して酷く老成していて、その眼つきもあいまって、見る者に草臥れた印象を与える。
端的に言えば、若々しさが無い、おばあさんめいた少女であった。

青地に白い格子模様のシャツに、灰色のスラックスを履いていて、服装にも女の子らしさは微塵も無い。
人気の無い静かなビーチを眺める姿には、何処となく哀愁が漂っていた。

彼女は、スラックスの後ろポケットからひしゃげた紙箱を取り出し、
そこから奇妙な紙製の筒を一本取り出した。

――『パピロースィ(吸い口煙草)』という、現在では紙巻き煙草に淘汰された古い煙草ベである。
紙巻き煙草に、ボール紙の吸い口を取りつけたもので、主にロシアを始めたとした北ヨーロッパで好まれたものだ。
現に彼女が手にしているのは、ロシア製の『ベロモルカナル(白海運河)』であった。

彼女は前の右ポケットから安物のライターを取り出すと、
吸い口部分を自分が吸いやすい形に潰して調整しつつ、火を点け、吸い込む。

――相変わらずの、酷い味だ


ロシアでも最も等級の低い煙草の一つである『ベロモルカナル』は、
スターリン時代から続く古い銘柄で、一応、発売当時は高級品であった。
しかし、新聞紙に別個で買った煙草の葉を包んで吸うのが普通だった、当時のソ連での高級品である。
西ヨーロッパ等で流通していた一般的な煙草と比べても、その質は大いに劣っていた。

にも関わらず現在なおこの煙草の生産が続いているのは、
値段が安い事もあるであろうが、フィルターを通さないその味が、独特の風味と濃さを持っているからだろう。

彼女も、その何とも言えないマズさを愛好している者の一人であった。
かつて『東部戦線下のロシア』でこの味を覚えて以来、癖になってしまったのである。

???「……」

不味くて濃い煙を吸い込みながら、海を眺めるその姿は、少女というよりオッサン染みていた。

???「……」

パピロースィは、普通の紙巻き煙草に比べると、一本吸い終わるのに時間が掛る。
ゆっくりと酷い味を味わい、充分にそれを堪能した後、その吸殻を投げ捨てようとした、その時であった。

――♪♪♪

左ポケットに入っていた携帯電話が突然、鳴り始めた。
彼女はそれを取り出して番号を見るが、覚えが無い。

しかしこんな早朝にかかってくる電話が、普通のモノである筈もないので、
彼女は迷わずそれに出た。


大佐『――早朝にスマナイな』
大佐『だが一刻も早く、君に話しておかねばならなかった』
???「!」

彼女は、電話の声の主に驚いた。
今は日本に行っている筈の、我らが『ボス』からの電話であった。
それも、こんな早朝に。普通の電話である筈がない!

???「おどろいたなぁ、“大佐”」
???「こっちとヤーパンの時差は十二時間らしいけれど、それを忘れて電話してきた……」
???「――と、言う訳ではなさそうだね」

彼女の『ボス』への話口調は極めてフランクなものだったが、
それは彼女が『A.O.E.M.』の中でも、極めて特殊な立ち位置にいるからだった。
彼女は“大佐”と対等に話せる、数少ない魔法少女であった。

大佐『その通りだよ“メッサー”』
大佐『休暇中の君には悪いと思ったが、事は急を要する』
大佐『これは国際電話だ。通話料金も馬鹿にならないし、手短に話そう』

???「“大佐”、君に珍しく昂った声を出させる事態とは、一体なんだってんだい?」

大佐『ワルプルギスの夜』

???「――!」

その名前を聞いた瞬間、“メッサー”と呼ばれた少女の全身に驚愕が走った。
なお“メッサー”とは、ドイツ語で『ナイフ』を意味する言葉だ。


大佐『私が今いる、この日本、見滝原に、ワルプルギスの夜が来る』
大佐『その情報を、今しがた入手したばかりだ』

少女は驚きを鎮めようと、ロシア煙草をもう一本吸おうと思ったが、止めた。
――『呑んでいる場合』では無い。

???「ガセじゃないのか?『ワルプルギスの夜』の出現は、予測不可能だ」
???「ただ、人の多い所に現れる。ヤツについて僕達が知っている事なんて、それぐらいの筈だ」

大佐『情報の正しさは、これから確かめる』
大佐『その情報源より得た、例の事件の犯人の情報』
大佐『それを真か偽か確かめる。確かならば――』

???「『ワルプルギスの夜』についての蓋然性も高まる、か」
???「成程、それで」
???「本当だったら……どうする」

少女と“大佐”の間に、地球半周分の距離を隔てての沈黙が流れ――

大佐『私は一度。君は二度』
大佐『奴と遭遇し、そして敗れた』
大佐『私は、1970年のバングラデシュで』

???「僕は、1944年の東部戦線、そして1969年のビアフラで」


大佐『それ以来、ヤツをあらゆる手で追跡したが、ヤツの動きは不規則でまるで予測がつかない』
大佐『いつも後手に回り、ヤツが引き起こした災禍の後始末をしてきたに過ぎない』
大佐『だがな“メッサー”。もし情報が正しければ』
大佐『我々はヤツに先手を取れる』

“大佐”の声は明らかに興奮していた。
そしてその興奮は、“メッサー”への伝染し、背骨を振るわせる。

???「解ったよ“大佐”。僕も休暇を切り上げて、そっちに向かおう」
???「準備が出来次第、また連絡するよ」
???「兵隊達を引き連れていった方がいいかな?」

大佐『いや。それは一先ず待ってくれ』
大佐『まずこっちでの真偽の確認が先だ』
大佐『君はリオに戻って、出立の準備を済ませた上で、私の連絡を待ってくれ』
大佐『真だとすれば、その時にまた話し合おう』

???「了解だよ、“大佐”」
???「電話料金がそろそろ心配だ。切るよ」
大佐『ああ。朗報を期待していてくれ』
大佐『それではな、“メッサー”上級曹長』

電話は切れた。
“メッサー”は携帯電話をスラックスのポケットへと仕舞うと、
足早に自身の宿泊しているホテルへと向かった。
当然、そこをチェックアウトして、リオ・デジャネイロへと帰る為である。

早足で人気の無いベルチオガの街並みを駆け抜ける彼女は、
無意識的に自身の胸元に手をやっていた。

彼女が手で押さえている場所にはシャツに隠されて見えないが、
ペンダント状にして首に着けられた一つの勲章が、その鈍く黒色に輝いていた。

――それは、鉄十字の勲章であった。



■ホテル・ウメス 六〇七号室■


“メッサー”への電話を終えた“大佐”は、
手にしていたプリペイド式携帯電話をベッドへと放り投げると、
座っていた椅子の背もたれへと、力を抜いて、その体重の全てを預けた。

うなじの辺りを背もたれのてっぺんに乗せて、天井を仰ぎ見る。

少し休んだら、待機させている部下達を引き連れて、
暁美ほむらより得た情報をもとに、犯人の探索に出なければならない。

右手の人差し指で、こめかみを軽く叩き、軽く眼を閉じる。
すると瞼の裏側には、かつて未熟だった時代の風景が、古い映画の様に映し出されてくる。

まだ、“大佐”とすら名乗っていなかった、かつての自分。
そんな自分が、運命の悪戯で訪れた、故郷のファヴェーラより遠く離れたあの地の風景。

――1970年、バングラデシュ

あの地で“大佐”は、『ワルプルギスの夜』と出会い、そして……地獄を目撃した。

史実上においては、『ボーラ・サイクロン』として知られる大惨禍。
“大佐”は、その名の背後に隠れた真実を知っている。

推定される死者『50万人』という、人類史上でも類例を見ない程の大災害を引き起こした魔女。
歴史の陰に隠れ蠢き、屍の山を積み上げ、血の大河を流す怪物。

その怪物が演出したこの世の地獄に、“大佐”は確かにいたのだ。

大佐「もしも、暁美ほむらの情報が正しいのならば」
大佐「――今度は負けんぞ」
大佐「必ず、仕留めてみせる」


とりあえずここまで。
メッサー上級曹長という新キャラを出しましたが、基本的にオリキャラでストーリー的に重要なのは、
彼女と“大佐”だけです。
後はモブと脇役だけなので、オリキャラ大氾濫なんて事態には絶対にならないし、ならせません

あと、ボーラ・サイクロンは実在の事件です。
詳しくはwikipediaの該当記事で



■ホテル・ウメス 三一五号室前■


――“大佐”は電話により一通り部下達への今後の指示を出し終えると、
自室を出て、エレベーターで階下に降り、三一五号室前までやってきた。

この部屋に泊まっているのは佐倉杏子と千歳ゆまの二人である。
“大佐”は、この二人との間に、より積極的な協力関係を結びたいと考えていた。

“大佐”は組織の関東管区に属する要員で、
直ぐに動ける者全てに見滝原への召集を掛けたが、
しかし日本支部自体が出来てそれほど時間が経っていないこともあって、
集められる数はさほど多くは無い。

そしてそのさほど多くない配下の魔法少女の中でも、
実戦慣れしたベテランとなればさらに少なくなる。

千歳ゆまは兎も角として、佐倉杏子はかなり実戦慣れしている。
加えて、どこの組織にも属さぬフリーランスである。
雇用関係を結べる余地は、充分にあると“大佐”は考えていた。
――『ワルプルギスの夜』と対決する以上、戦力は多すぎると言う事はあり得ないのだ。


“大佐”は、美国織莉子と呉キリカの捜索を通して、
暁美ほむらの齎す情報の真偽を確かめる予定であるが、
実の所、真実性に関しては余り疑ってはいなかった。

あそこで嘘をつくメリットが、暁美ほむらには無い。
もしも嘘をついてそれがバれたならば、“大佐”がどういう行動に出るか、
予測がつかない程の愚かモノには、暁美ほむらは見えなかった。

魔法少女であるほむら自身はは兎も角、鹿目まどかは素質は別にして今はただ人間である。
そして嘘への代償として、交換条件であったまどかを“大佐”が狙う可能性は、
ほむらにも充分に考えつくであろう。

彼女が、護るべき対象である鹿目まどかを、
危険に曝す様な真似をするようには“大佐”は思えなかった。


大佐「(今、私が為すべき事は大きく二つ)」
大佐「(美国織莉子と呉キリカを調べ上げ、真に『クロ』だと判明した場合)」
大佐「(襲撃プランを立てて実行に移す事)」
大佐「(もう一つは『ワルプルギスの夜』の情報の確認、そしてそれが『真』であった場合)」
大佐「(迎撃計画を立案し、その準備を行う事)」

大佐「(暁美ほむらより改めて、彼女が何をどこまで知っているかを、聞きださねばなるまい)」
大佐「(彼女もまた、かなりの手練の魔法少女とみた)」
大佐「(可能ならば、協力関係を結びたい)」
大佐「(無論、巴マミとも……)」

だが一先ずは、美国織莉子と呉キリカである。
ほむらより得た情報を基に監視の網を張り、念入りに観察しなくてはならない。

大佐「(そして佐倉杏子君。君は)」
大佐「(美国織莉子との間に因縁があった筈だ)」

“大佐”はコンコンと、部屋のドアをノックした。

杏子『いるよ。入ってきな』

“大佐”はドアノブを廻した。

少しだけ更新

ちょいと質問。
日本全体で、だいたい魔法少女が何人ぐらいいる、とか、そういった設定ってどっかで出ているとかありますかね?
かずみマギカを見たり、魔女の数とかから推測すると、結構な数の魔法少女が日本にいる計算になる

“大佐”の組織の日本支部の構成人数を考えてたら、何人ぐらいが適当か解らなくなってきた……

>>275
難しい話だなww

と思って調べてみたらこんなの出てきたwwwwww

http://raliosralios.web.fc2.com/MadoMagipop/MadolaPopulation.htm

難しすぎて分からないから>>1確認してみてww

>>276
すげぇ、めっちゃ真面目に考察してる……
読むのに時間かかりそうだ……

なんか>>276をまじめに読んでみたら答え出ないんじゃないかとか思い始めた

よくよく考えれば中学生の自殺者人口とか参考にならないかな?

自[ピーーー]る人って対外人生に絶望してるはずだし…

(これをネタにしていいのかは分からんけどね、若くして亡くなった方お悔やみ申し上げます)

参考までに2008年の中学生の自殺者は34名らしい

>>278
なるほど
……結構な数が亡くなってるんだな
お悔やみ申し上げます

平成23年度の居所不明児童生徒の数は、1,191人
(小学生:855人 中学生:336人)で、その前までは、
各教育委員会の調査方法にばらつきがあったため、文部科学省が改めて通達を出し、
1,000人以上が行方不明児童だと分かりました。

一県あたり7.14人と考えてみたらどうよ(中学生336人中)
人口で考えると5.25人だ(群馬、中学生336人中)

>>281
サンキュ。こっちも参考になる



■見滝原 再開発地域■


杏子「ふぁ~~……」

杏子は欠伸を一つして、目もとに滲んだ涙を手の甲で拭った。
その傍らではゆまが、コックリコックリと舟を漕いでいる。

大佐「――」

杏子の視線の先にいる“大佐”は、そんな二人とは対照的に、
早朝にありながらも両眼をハッキリと見開き、背筋をピンと伸ばして、
杏子らのいる古い工場の中を歩き回り、手下一同に色々と指示を出していた。

――大佐『ひとつ、傭兵をやってみないか?』

昨晩、部屋にやってくるなり“大佐”は杏子とゆまへとそう切り出して来た。
組織に、グリーフシードが幾らかと、結構な額の現金で雇われないか、という誘いであった。
何でも近いうちに大規模な『出入り』があるから、手練の魔法少女が一人でも多く欲しいらしい。

提示された額に、特に魅力的に覚えた杏子は、少し考えた後に『O.K.』と答えた。

夕食として奢られたステーキは絶品で機嫌も良かったし、
何より、最初の標的とやらが杏子のとっては渡りに船だった。

――美国織莉子
――あの阿婆擦れには、ゆまの分の借りを返さねばならない


しかるに、一時的に“大佐”の側についた形になる杏子とゆまであったが、
夜に雇用契約を結んでそれから僅かに日を跨いで早々――

大佐『朝早くに悪いが、早速仕事だお二人さん』

とまぁ、日の出と共に起こされて、そして今に至るという訳である。

杏子らが今いるのは、見滝原再開発地区の一角にあった、潰れかけの町工場である。

“大佐”曰く、
大きな音を立てて作業をしたり物を運び込んで並べたりといった雑多な作業のためのスペース、
並びに仮設の拠点としても使える様な場所が欲しかったらしい。
経営に行き詰って項垂れている工場長に札びらを切って、ここを『借り受けた』そうだ。

“大佐”はブレザーの少女らに指示を出して、
何処から持ってきたのか、折り畳み式の机やパイプ椅子などを運び込ませ、並べている所であった。

杏子「……」

雇われたとは言え、雑多な力仕事などやる気もない杏子は、
少し離れた所に立って作業の様子を窺っていたが、ふと、ある事に気付いた。

杏子は比較的記憶力の良い方であるが、
以前に“大佐”と一緒に居る所を見かけた魔法少女が、
例のブレザー姿の少女以外には見当たらないのである。

作業をしているのは、見知らぬ連中ばかりである。


杏子「なぁ」
大佐「ん」
杏子「何か見た事の無い連中ばっかだけど、あのデカいのとかは?」

――見滝原中学校でほむらを狙ったライフル銃手、“デカ”のことである。

大佐「あぁ。彼女たちならば、別件で動いていてね」
大佐「今、ここに居るのは、朝一番で駆けつけてくれた私の部下達だよ」
大佐「他にもまだ来る予定だ」
大佐「少なくとも、本日の午前10時までには全員がここに集合する予定だ」

杏子「……全部で何人ぐらいだよ」

杏子の問いに、“大佐”は少し思案してそれに答えた。

大佐「そうだな。日々のパトロールに魔女狩り」
大佐「『縄張り』の管理に、学生などの身分を持つ者には日々の生活、と」
大佐「他に所用あって、ここへは来れない者も少なくは無い……」
大佐「午前10時までにここに来れるのは、全部でざっと25名だな」

杏子「にじゅう、ご、ね……」

――結構な数である。
杏子の知る限りでは、相当な大人数である。
魔法少女のパーティーというやつは通常、3人から4人程度で、
5人、6人ともなればかなりの大集団であると看做す事が出来る。


それが25人。
しかも実際には、それ以上の数の魔法少女が、“大佐”の傘下にあるという。

杏子「(どんな手品使ってんだか……まぁ普通じゃあ、ないな)」

そんな事を考えていると、表から大きな音が響いて来て、杏子の思考は中断された。
見れば、“大佐”達が工場入口のシャッターを上げているのが見えた。

シャッターが開くとそこには、
トヨタのピックアップトラックが一台と、日産のダットサントラックが一台。
つまり合計二台の軽トラックいて、荷物を満載している。

二台ともに工場の中へと入って来て、互いが外に出る時に邪魔にならぬよう、間隔を開けて停車した。
中から降りて来たのは、どちらの車からも、一見すると女子大生ぐらいにみえる少女であった。
つまり外見的には、軽トラックを運転していても違和感は無い。

杏子「あの運転手も魔法少女?」
大佐「そうだ」
杏子「にしちゃ、歳を喰ってるみたいだけど」
大佐「――それは本人達の前では絶対に言わないことだな」

“大佐”の言わんとする事を理解して、杏子はそれ以上問わなかった。


荷物を下ろす為に、“魔法少女達が軽トラックへと駆け寄って行く。
“大佐”は、杏子に目配せして自分はダットサントラックの方へと歩み寄り、
杏子は軽い溜息を一つ吐くと、ゆまの背中をポンと叩いて、自分達はピックアップの方へ向かった。

搭載されていた荷物は、どれもダンボールの箱で、ガムテープで固く閉じられている。
魔法少女の筋力があるために一人で持つ事が出来たが、かなり重たいと杏子は思う。

ゆま「うんしょうんしょ……」
杏子「どっこいせ、と」
杏子「どれも重たいけど、何が入ってんだ、こいつら」

一通りダンボールを下ろし終わった所で、杏子は“大佐”へと問うた。
“大佐”は少し思案顔をした後に、直接見せた方が言葉よりも速いと思ったのか、ポケットから飛び出しナイフを取り出し、
ダンボールの一つへととナイフの切っ先を走らせ、箱を一つ開けて見せた。

杏子が開いたダンボールの中を覗き込むと、少しだけ眉をしかめた。

杏子「ったく……こんなモン、どっから仕入れてくるんだよ」
杏子「ひょっとして、まさか箱の中身が全部コレだったりすんのか?」
大佐「流石にそれは無いが、かなり大がかりな作戦になる予定でね」
大佐「取り敢えず、ありったけを持って来たのさ」


“大佐”はダンボールの中で、緩衝材のスチロールや新聞紙に包まれたソレを一つ取り出した。

ストックは木製。
銃身は空冷用放熱カバーで覆われ、
本銃の外見を特徴づける、銃機関部左側より突き出たマガジンは、今は取り外されていた。

大佐「ベルグマンMP18短機関銃」
大佐「いささか古いが、充分に使える」

杏子「『いささか』だぁ?」

その木製ストックには何が沁み込んでいるのか、かなり黒ずんで見える。

杏子「アタシには『相当に古い』モンに見えるけど」

大佐「ああ、ストックが黒ずんでいるのは、グリース漬けで保管されていたからだ」
大佐「機関部や銃身を腐食から護る為には、グリースで完全に覆うのがベストだが」
大佐「これをすると、木製のストックなどはどうしても黒ずんでしまう」
大佐「だが、見てくれは悪くなるが、性能には変わりは無いよ」
大佐「この国の軍人は、良いモノを遺してくれた」

杏子「『この国の軍人』……だぁ」

大佐「うむ」
大佐「いつの時代、どこの国でもそうだが」
大佐「敗軍の将が、来るべき次の戦争の為に、武器を秘蔵するのは極々当たり前のことだ」
大佐「ただコイツは、時代の流れに取り残されて、使われる事は無かった」
大佐「だから私達が代わりに、有効活用するのさ」
大佐「短機関銃ともなると、銃への規制の厳しいこの国では」
大佐「ある程度の数を揃える為に密輸をするのも一苦労だ」
大佐「だから、多少古くても既に国の中にあるものを使う方が、安上がりで手間が掛らないのさ」

とりあえずここまで

なお、秘蔵されていたMP18が祖父の遺品を整理していたら出て来た、という事件は実際にあったケースです。
海軍陸戦隊などでは、ドイツ製のサブマシンガンを結構使ってました


“大佐”は、ダンボール内に同封されていた箱型マガジンを取り出すと、
いつの間にか敷かれていたブルーシートの上にMP18とマガジンの両者を並べた。

他のダンボールの中からも同様に銃器を取り出したり、
あるいは弾薬などを取り出したりして、やはりブルーシート上に並べて行く。

杏子達も手伝い、また、遅れてやってきた『A.O.E.M.』の構成員たちも加わって、
結局午前10時になる前には、“大佐”の呼んだ全員がそろい、ダンボールの中身を全て出し終わっていた。

ブルーシート上に並べられた装備は実に雑多な品ぞろえで、
中には杏子には何に使う物なのかが解らないモノも混じっていた。

杏子「……」
ゆま「……」

杏子とゆまは、全員がそろった“大佐”の部下達をざっと眺めた。
25人もの魔法少女が一か所に集まるとは中々に壮観である。

服装、外見年齢、体格などは全員がバラバラで、
その身に纏った雰囲気の違いから察するに、出身の社会階層もかなり違うようだ。
育ちの明らかに良いのから、どう見ても杏子同様に無頼なのもいた。


大佐「さて、諸君」
大佐「召集に応じ、この短期間でここまでの数が馳せ参じてくれたことに」
大佐「諸君らの組織への忠誠に、まずは感謝しよう」

U字型に並ぶ部下達の視線を一身に受けながら、“大佐”が一席ぶち始めた。
杏子とゆまの二人は、少し離れた場所でその様子を窺っている。

なお、杏子とゆまの二人に関しては、既に“大佐”がご歴々へと簡単に紹介をしていた。
一同の反応を杏子が見るに、取り立てて何か際立った様子は見えず、
どうやら自分達の様な傭兵魔法少女を雇い入れる事は“大佐”の組織では珍しい事では無いのだと、
杏子には推測する事が出来た。

大佐「既に諸君の全員に通達は済ませたと思うが」
大佐「改めて本作戦の概要について述べよう」

大佐「まず、我らが同志『アルバトロス』を殺害せしめたる犯人……」
大佐「その容疑者たる美国織莉子、呉キリカを捜索、発見、監視し」
大佐「有罪(ギルティ)であると判断でき次第、奇襲攻撃を以てこれを抹殺する」

ここまでは、杏子もゆまも聞かされていた内容であった。
しかし、その次に飛び出して来た情報に、杏子は度肝を抜かれた


大佐「加えて、この見滝原にワルプルギス出現という情報を、私は掴んだ」
大佐「同志殺害の犯人の抹殺と並行して、この情報の真偽を確かめ」
大佐「迎撃の為の計画を立案し、その準備を行う」

杏子「ちょ!ちょっと待ちなよ!」

思わず杏子は叫び、
“大佐”を始めとする一同の視線が自分に向いたのを見て、
これは失敗した、と思った。

ゆまを含む全員の視線が杏子に集中し、居心地が悪い。

大佐「何だね、杏子君」
杏子「……ワルプルギスって“あの”ワルプルギスの夜の事だよな」
大佐「その通り」
杏子「それが、この街に、来る?」

“大佐”は顎に右手を当てた。

大佐「ふむ……そう言えば、まだ話してはいなかったな」
大佐「ならば、この場で教えておこう」
大佐「ワルプルギスの夜がこの街に来る、という情報が入ったのだ」
大佐「そしてその情報が真である可能性は、私は高いと考えている」

杏子には、寝耳に水の話であった。


ゆま「キョーコ、わるぷるぎすの夜って?」

ゆまが杏子の袖を引いて聞いてくる。
すかさずそれに答えたのは“大佐”であった。

大佐「超弩級……つまり恐ろしく巨大な魔女の通称さ、ゆまお嬢ちゃん」
大佐「余りに大きく、強く、そして長生きだ」
大佐「余りに強いがために、他の魔女のような、身を隠す為の結界を必要としない」
大佐「ヤツの引き起こす厄災により破壊された街、殺された人の数は、もはや数えられない程多く」
大佐「歴史においてそれは『大災害』として記録される」

ここまでで“大佐”がゆまへとした説明は、
杏子が噂話に聞いていたモノとおおよそ同じであった。
しかしここより先の話は、杏子も知らない様な話ばかりであった。

大佐「ヤツは一応、人型と言える姿をしている」
大佐「一見、西洋の御伽噺に出て来る、貴婦人のようにも見える」
大佐「しかしヤツは常に上下さかさまで、足は無い」
大佐「人間ならば足が在る場所には、巨大な歯車が重なり合って廻っている」
大佐「殆ど常に、聞く者の神経を逆なでにするような不愉快な笑い声を上げている」
大佐「大勢の使い魔を従えている」
大佐「ヤツの護衛軍団で、コイツら普通の魔女の使い魔とは比べ物にならない強さだ……」


杏子「……随分と、詳しいみたいじゃねぇか」

次々と出て来るワルプルギスの夜についての情報の数々に、思わず杏子は口を挟んでいた。
最初に出会った時から得体の知れない奴だとは思っていたが、それがいよいよもって得体が知れない。

大佐「そりゃそうさ。私はヤツめと実際に戦った経験があるからね」
杏子「――はぁ?」

あの伝説の魔女と戦った?
飛び出して来た突拍子もない話に、杏子は思わず呆けた様な顔を見せた。

彼女もそこそこの魔法少女歴の持ち主だが、
半ば伝説のワルプルギスと実際に戦った奴など、当然会った事も無い。

そもそも、魔法少女の中にはワルプルギスの夜の事を単なる与太話と思っている者も少なくない。
それは、実際に対面した、という話をまるで聞かないからである。

杏子は知らない事だが、それはワルプルギスの夜と対峙した魔法少女の殆どが、
その戦いで命を落としているからであった。


大佐「1970年、当時は東パキスタンと呼ばれていたバングラデシュで、私はヤツと遭遇した」
大佐「そして戦いを挑み、敗れた。だが何とか生き永らえる事だけは出来た」
大佐「以来私は、ヤツとの再戦の機会を、ずっと求め続けていた」
大佐「そして今、その機会が私の掌中に入らんとしている、というわけだ」

杏子「……あ?」

今コイツ、聞き捨てならない事を言わなかったか。
1970年……だと?杏子は素早く現在の年の数から1970を引き算する。

杏子「アンタ、今いくつなんだよ……」

“大佐”はニッコリと、悪戯っぽく笑い、右目を瞑ってウィンクして見せた。

大佐「レディーに歳を聞くのは、マナー違反だよ、杏子君」



■見滝原 町工場 仮説拠点■


杏子「……それでさ」
杏子「アタシらの傭兵契約って、ワルプルギスの夜と戦りあうのも入ってる訳?」

杏子は“大佐”の年齢やら来歴やらに探りを入れたが、
それらは全てのらりくらりとかわされてしまっていた。

なので、取り敢えず杏子は一番肝心な点だけは糺しておこうと考えた。
“大佐”は直ぐに問いへと答えた。

大佐「いいや。相手が相手だからね。あんな端金じゃあ、割に合わない」
大佐「私は、生きて行く上で出来るだけ公正であろうと努めている人間でね」
大佐「ワルプルギスとの戦いに、君自身の意思で参加しようというのならば」
大佐「改めてその為の契約を結ぼうと思う。何処ぞの白い化け物と違った、公平かつ適正なやつをだ」

杏子「……」

大佐「それと、加えて言っておくならば」

色々と計算をする杏子に対し、その思考に割り込む形で“大佐”は告げる。


大佐「ヤツが来れば、君の本来の根城である風見野もまず、無事では済まないだろう」
大佐「私の知る限りでは、ヤツがこの辺りへとやって来た時に想定されうる被害の範囲は」
大佐「到底、見滝原一都市程度では収まりきらない」
大佐「下手をすれば、このG県の大半が焦土と化す可能性が在る」

杏子「……尻尾巻いて遠くに逃げる以外に、やり過ごす手は無い……ね」

大佐「まさにその通り」

見滝原一都市に被害が集中するというのならば、
君子危うきに近寄らずの精神で、風見野に籠って知らぬ顔をする手もあった。

しかし、どこまで“大佐”の言う事が本当かは知らないが、
風見野まで被害が及ぶと言うのならば、流石に杏子にも戦わない選択肢は無い様だった。

ゆまと二人連れだって、見知らぬ土地へと夜逃げするなど、
基本的に負けず嫌いな杏子にはまっぴらゴメンであった。

また、見知らぬ街に縄張りを移す際に考えうる様々なリスクを考えても、
わざわざ美味しい縄張りを、いくらワルプルギスとは言え魔女相手に明け渡すのは割に合わない。


杏子「……いいさ」
杏子「そっちが割り合う条件を出してくれるなら」
杏子「私は雇われてやっても良い」

大佐「『私は』?ゆまお嬢ちゃんは?」

杏子「それはゆま自身が決める事だろ」

すかさずゆまは、杏子へと自分の考えを述べる。

ゆま「ゆまは杏子の行く所なら、何処でも一緒に行くよ」

ゆまは、杏子の役に立ちたいと考えている。
その杏子の側を離れるつもりは、彼女には無かった。

杏子「……ならゆまについての条件も追加だ」
杏子「話がつくなら、アタシは“大佐”、アンタの側につくよ」


とりあえず、ここまで



■美国邸■


織莉子「あら?」
織莉子「あら、あら?」
織莉子「あら、あら、あら?」

台所で戸棚の扉を開けた織莉子は、中に顔を突っ込んで何かを探していた。
懸命に探すが見つからず、しまいには――ゴツン。

織莉子「いたぁい」

おでこをぶつけてしまったらしい。
戸棚の中から頭を出し、乗っていた脚立から降りて、額をさすった。
強めにぶつけてしまったのか、少し涙目になっている。

キリカ「織莉子~ぉ。どうしたの――って!大丈夫かい、織莉子!?」
キリカ「怪我してないかい!?」
キリカ「あああ医者だ!医者を!医者が!」

台所を覗きこみに来ていたキリカが、そんな織莉子へと抱きつき同様に涙目になる。
まるで、この世の終わりでも来たかのような慌てぶりだった。


織莉子「だ……大丈夫よ、キリカ。少しぶつけただけだから」
キリコ「ホントかい織莉子ぉ!?血は出て無いかい!?本当に大丈夫かい!?」
織莉子「まったくもう。キリカは大げさね」

織莉子の顔を子犬の様な顔で覗きこんで来るキリカに、
織莉子はクスリと微笑して、キリカの頭を軽く撫でた。
その額は少し赤くなってはいるが、実際、大した怪我はしていないようだった。

キリカ「そう言えば織莉子。君はキッチンで何をやってたんだい」

落ち着いたらしいキリカが、今更ながら織莉子へと聞いた。

織莉子「そうよ、キリカ。どうしようかと思ってたのよ」
キリカ「何がだい、織莉子」
織莉子「紅茶の葉を切らしてしまったのよ。困ったわね、お茶菓子の用意は出来てるのに」

すっかり二人でのティータイムの習慣が出来ていた織莉子とキリカの二人だが、
当然、織莉子が一人でいた時よりも紅茶の消費量は増える事になる。
その事をすっかり失念していたのだ。


織莉子「どうしましようかしら」
キリカ「買ってくれば良いだけの話じゃないのかい、織莉子」
織莉子「――キリカ」
織莉子「私達は今、迂闊に外に出ない方が良いって話をしたでしょ」

美国織莉子の持つ予知能力は、魔力を並はずれて多く消費したり、
見たいと思う未来を見る事が出来なかったりと不都合な点は多いが、
半面、その予知情報の精度の高さは折り紙つきである。

その予知のヴィジョンが得体の知れない敵の存在を知らせて来たのだ。
ならば細心の注意を以て、それに備えねばならない。

キリカ「えー」
織莉子「えー、じゃないわ、キリカ」
織莉子「貴女の身の安全に関わる事なんだから」
キリカ「でもさー……織莉子」

キリカは織莉子へとしな垂れかかると、口を蛸のように突き出して、
ぶーぶーと不満を言った。


キリカ「君の紅茶を飲めないなんてあんまりだよ」
キリカ「私はどうやって織莉紅茶分を補給すればいいのさ」
織莉子「……もう」

甘えるキリカに、織莉子は河豚のように膨れると、
コツンと、痛くも痒くも無いような拳骨を、キリカの頭に一つ。
キリカは大げさに痛がって、うわーん織莉子がぶった、と嘘泣きしてみせる。
出会って以来の、いつも通りのじゃれ合いであった。

キリカ「……あっ!そうだよ、織莉子!」

ふと、キリカが何かを思いついたらしく、ポンと拳で掌を叩いた。

キリカ「私達だと、一目で解らないようにすればいいじゃないか」



■美国邸前■


美国邸とは道路を挟んで真向かいの、同じ程度に大きな屋敷の屋根の上。
そこで腹這いになって、美国邸の様子を窺う、一人の魔法少女の姿があった。

姿があった、とは言っても、余人にはその姿を窺う事は叶わない。
何故ならば、その姿は周囲の景色に完全に溶け込んで、何も居ないが如くにしか見えないからである。

その全身は、魔法少女には珍しく色気も華やかさも無い、忍者を思わせる装束に覆われている。
そしてそれはカメレオンの様に色を自在に変え、周囲の風景に完全に同化してしまうのである。
魔女や使い魔すらも、彼女は騙す事が出来る。

いわば、一種の『ステルス迷彩』が、彼女の魔法少女としての能力なのである。
そんな彼女は、『ビューグラー』の名で呼ばれている。
無論、本名では無く、『A.O.E.M.』の構成員としての暗号名である。

『ビューグラー』とは『 bugler 』と綴り、その意味は『喇叭吹き』である。
その能力である『ステルス迷彩』は『忍者』を連想させ、
そして『忍者』はその異称として『喇叭』を持つ……いわば、その暗号名は一種の駄洒落であった。


彼女は今、『大佐』からの指令に基づき美国邸の監視の任に就いていた。

美国織莉子という名前は、中々に珍しい名前である。
加えて『美国久国』という、自殺した汚職政治家の娘なのだ。
その住居を探し出す事は、極めて簡単な事だった。

『ビューグラー』の能力は諜報、奇襲、偵察、暗殺に無類の強さを発揮する。
半面、面と向かっての戦闘能力は決めて低い。
このような監視任務は、まさに適材適所であった。

『A.O.E.M.』は魔法少女の組織である。
そして組織が組織であるが故の強みとは『大勢の人間がその内にいる』という点にある。
彼女のように直接的戦闘能力に乏しく、日々の魔女狩りにも難儀する魔法少女でも、その能力を活かす事が出来るのだ。
そして魔女狩りは、それが得意な魔法少女に任せる事が出来る。
さらに人数の多さ故に、効率的なチームワークで、結果的に魔力を節約して魔女を斃す事が出来る。
グリーフシードは、各員の働きに応じて支給すれば良いのだ。

『ビューグラー』のような魔法少女が、
グリーフシードの事を気に掛けずに能力を行使できるのも、組織の一員故であった。


「(――ムッ)」

強化した視力で、美国邸を隈なく監視していた『ビューグラー』であったが、
正面玄関の扉が開くのが、ハッキリと見えていた。

そして、出て来た二人連れの姿を見て――絶句した。

暫時、その『二人』を目で追い、思考の硬直が解けてから、
左肩にベルトで留められたトランシーバーのスイッチを入れた。

『A.O.E.M.』では余程の緊急事態でも無い限りテレパシーを用いない。
組織外の魔法少女に傍受される可能性もあるし、
何よりインキュベーターの不用意に会話を聞かれるのはマズいのだ。

だから連絡はトランシーバーか、携帯電話で行うのが基本であった。

「こちら『ビューグラー』、こちら『ビューグラー』」
「監視対象の外出を確認、これより追跡する、オクレ」


囁く様な小さな声で通信を行う。
マイクの性能が良いモノを使っている為、小さな声でも充分に音を拾ってくれるのだ。

≪了解、『ビューグラー』≫
≪監視対象の行動ルート並びに目的が判明次第、再度報告せよ、オクレ≫

「了解した、オワリ」

通信を終えると、家々の屋根を猫の様に伝って、『ビューグラー』は追跡する。
そして思う。

「(アレで変装のつもりなんだろうか?)」

彼女の視線の先には、そろって男装し付けヒゲを生やした織莉子とキリカの姿があった。
――無論、バレバレであった。

とりあえずここまで
時間が空いてしまって、申し訳ない

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