兄「おいおい、またお前のどうして癖が出たのか?」
俺は今年高三になった弟の言葉に思わずそう零した。
俺より三つ下で頭の良い弟とは、昔から喧嘩をしたことがない。
男の兄弟だったら、大抵取っ組み合いの喧嘩をするものらしいが、俺たちには無かった。
何故なら、こいつが頭が良すぎるせいで、そもそも大喧嘩の取っ掛かりになるような小さな諍いさえ起きなかったのだ。
弟「不思議なんだよ。僕、さっきふと思い立って、兄さんと恋愛することを妄想しようとしたんだけど、何故か吐き気が出るくらい受け付けないんだ」
兄「なぁ、お前って俺のこと嫌いなの?」
弟「ごめん、兄さんをけなすつもりじゃないんだよ。でも今のが率直な感想なのは確かだ……自分の兄と恋愛することに対して、生理的に無理だという感情が湧き上がってくる」
兄「んー、まぁ確かに実際そうだろうな、兄弟がいる人間なら」
弟「僕は動物としての本能をあまり実感したことがなかったけど、同性かつ身内の家族との恋愛に嫌悪感を持つこの感情は、本能の働きなのかな?」
兄「そうだと思うぞ。だって考えたら、同性に恋してたら子孫が残せねえし、近親者との間の子どもって障害を持ちやすいって聞いたことあるし、本能で自制しとかないとな」
弟「でも……それって、本能に理性が負けてるような気がする」
兄「はいぃ?」
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思わず俺の口から相棒の杉下右京みたいな声が出た。
しかし弟はそれを完璧にスルーして、何か真剣に考え込んでいる。
俺はその姿にピンと来ていた。
まずい。
これは非常にまずい。
弟は一度気になってしまうと、自分の気が済むまでとことん問題と向き合う。
学者として大切な才能は、自分が納得するまで先に進まず踏ん張ることだって感じの言葉、何かのマンガで見たっけ。
弟「決めた、僕、兄さんに恋してみるよ」
兄「マジかー!!でもやっぱりかー!!」
弟「本能的に無理でも、その気になって兄さんに接していけばいけるんじゃないかな……そもそも一番気心が知れている人だし、僕は兄さんのこと、弟としては好意的に見ているんだ」
兄「あ、そうなの?……マジで?なんか照れる……」
兄「いやいや、照れてる場合じゃねぇ!やめとけやめとけ、やるだけ無駄だって、ほら、生産性?がまったく無いじゃん」
弟「疑問を放棄するのは僕の一番嫌いなことだって、兄さんこそ知ってるだろ?生産性なんて糞食らえだよ。僕は自分がこの現象に納得するまで、兄さんには協力してもらうから」
兄「えぇぇぇ……俺、協力しなきゃいけねぇの!?無理無理無理、絶っっっ対無理!!」
弟「……協力しなければ、家族共有のパソコンに保存されてる、兄さんの隠しフォルダを母さんに教えるまでだ」
兄「なん……だと……!?お、おおお、お前アレ見たの!?」
弟「家族共有のパソコンで見てる兄さんが悪いよ。大丈夫、フォルダの中までは見てないから」
兄「っぶねーマジで見られたら終わってた……」
弟「どれだけハードな内容なんだい……あ、言っとくけどデータを消しても無駄だよ?たとえ兄さんを脅すネタが無くなっても、僕なら捏造することだってわけないことさ。親からの信頼は僕のが厚いからね」
兄「ぐぬぬ……我が弟ながら恐ろしいヤツ……なるべく程々にしてくれ……」
弟「考証期間は一週間でいいかな。僕も受験生だし、万が一にも精神的にヘビーな問題なってしまっては大変だ」
弟はすっかり新たな疑問に夢中の様子だ。
ブツブツと言いながら自分の部屋に戻っていく弟を見て、俺は溜め息を零した。
明日から学校だという、ただでさえ憂鬱な日曜日の夜。
……どうやら明日からの一週間、かなり大変なことになりそうだ。
一日目:まずは相手の良いところを探そう★
弟「兄さんのいいところか……」
兄「ていうか、昨日のやっぱり本気だったんだな」
昨日はあれきりで話が終わったので、もしかして今日になればすっかり忘れて無かったことになるんじゃないか、なんて思っていたのだが。
やはり俺の弟は諦めなかったらしい。
風呂の後、湯上り姿で俺の部屋にやってきて、手帳にペンを持ちつつ、ベッドに腰掛けている。
恐らく昨日のうちに恋愛プランを練ったのだろう。
弟「兄さんの顔はハーフっぽくてかっこいいし、見た目はクリアと言えるかな?やはり胸部や下腹部を思うと興奮しないけど」カキカキ
兄「純日本人なのにハーフ疑われるんだよな……」
弟「あ、そういえば、兄さんとは音楽の趣味が合うよね」
兄「つうか俺が買ったCDばっか聴いてるもんな」
弟「兄さんの選曲にはハズレが無いからね。ちょっとコアだから、友だちと話せないんだけど、ここも良いところかな」カキカキ
弟「性格的には、頼まれたことはなんだかんだやってくれる、自然と人から頼られるタイプだよね。苦労人気質とも言う。僕は何かに夢中になると、他が全て疎かになるから、面倒見の良い人間は望ましい」カキカキ
兄「……あと、自分で言うのもなんだけど、ちょっと卑屈らしいぞ。なんたってお前が出来良すぎるからな。俺のが頭悪い分、親から頼まれたことはきっちりやらなきゃって昔から思ってたせいかも」
弟「へぇ……そうだったんだ。僕は兄さんがそんな劣等感を持ってたこと、気付いてなかったよ」
兄「出来の良い兄弟を持つと、意外といろいろあるんだぜ。否応なく比べられるし……意識しちまうんだよな」
弟「普段ぼんやりしてる兄さんの意外とシリアスな一面……これがギャップ萌えか!」カキカキ
兄「ぼんやりしてるって思ってたのか……」
弟「さて、今日はこんなものかな。今週の日曜日あけといてね。最終日の仕上げとして、デートするから」
兄「二人で外出るとか公開処刑なんですがそれは……」
弟は手帳を閉じると、マジマジと俺を見つめた。
弟はまさに純日本人って感じで、目はきりりと細めのあっさり醤油顔だ。
本当に兄弟か?と知り合いにはよく言われる。
弟「うん、頑張ればイケるかも」
ボソッと呟いて、弟は部屋を出て行った。
兄「……」
兄「おお、神よ……我を救いたまえ……神よ……Save me……!」
二日目:相手に優しくしてあげよう★
母「兄ー!学校行く前にゴミ出しといてー」
兄「ほーい」
弟「あ、待って。僕も持つ」サッ
兄「!?」
母「あら、今日はだいぶ早起きしてるのに、弟はそこまでしなくていいわよ」
弟「いいんだ。たまにはね」
兄「……」
俺は大学が少し遠いから、弟より早めに家を出る。
いつもだったら、今が弟が起きる時間だ。
兄「ど、どういう腹積もりなんだ」
弟「僕が好きになれるかと並行して、兄さんも僕をどれだけ好きになれるかも、ついでに検証しようと思って」
兄「」
ついででここまでするとは。
さすが弟。
将来はさぞかし有望な学者になるだろう。
弟「この一週間は僕も一緒に駅まで行くよ」
兄「お前の高校は近所だから、俺に合わせたらかなり早くなるぞ?いいのか?」
弟「それだけの対価を払ってでも、僕はこの身を以って疑問に対する答えを出してみせる」
弟の目は嫌になるくらい強くまっすぐな光があった。
昔からこいつはそういうやつだ。
俺は弟の疑問を解決してやるために、今まで一体何回くらい協力させられてきただろう。
疑問が解決しても、弟がすっきりするだけで、俺にはびた一文の得もない。
そうとは分かっていても、いつもこうして弟に付き合ってやってしまうのだ。
兄「んじゃ、ここでな」
弟「うん。……ねぇ兄さん」
兄「ん?」
弟「考えてみれば、僕って家の手伝いをあまりしたことが無いね。いつも兄さんがやってくれてたから」
兄「まぁ、そうだな。つか、今さら気づいたのか?」
弟「いつもありがとう」
兄「お!?お、おう……まぁ、慣れてるし」
弟「じゃあね、大学頑張って」
弟はそう言うと、くるりと踵を返して高校の方へ洗いていった。
今まで俺が率先して手伝ってたのに気付いてなかったくせに、あぁやって素直に謝るから、今まで散々あいつと頭の出来を比べられても、結局嫌いになれないのだ。
兄「とは言え、今回の協力だけはな……気が重いぜ」
三日目:なるべく一緒に過ごしてみよう★
兄「なぁ、いつまで俺の部屋にいるんだよ。レポート書けねぇ」
弟「兄さんって、大学で遊んでる方のグループにいそうな見た目なのに、実際はかなり真面目だよね。これもギャップ萌えか」カキカキ
兄「全く……聞いちゃいねぇな」
日曜日から、弟は家では終始俺にべったり引っ付いている。
弟がどんなか気持ちを持って引っ付いているのか、俺はそれをなるべく考えないようにしている。
弟「僕、三日前からずっと考えてるけど、やっぱり兄さんは客観的に評価しても人間として良い人だ。また、この三日間で考え続けていたお蔭なのか、あの生理的な嫌悪感が今はだいぶ薄れてきたよ」
兄「薄れちゃったのかよ!?」
弟「これは本当にイケるのかも。夜になれば確実に兄さんにムラムラ出来ると思う」
兄「うわぁぁぁぁあああ!!聞きたくない!お前はいいけど俺にはけっこうダメージがあるんだからな!」
弟「今日こそは兄さんを自慰行為の道具にしてみせる……!僕はもう逃げない!」
兄「その決意マジで要らねぇからな!?頼むから夜のお供にしないでくれ!」
弟「どうか僕の幸運を祈ってくれ、兄さん」
兄「誰がするか!」
四日目:相手にアピールしてみよう★前編
兄「……で?」
弟「ん?」
兄「いや、あの……で、出来たのか?」
弟「何?期末テストのこと?」
兄「え、お前期末テストだったの?勉強してる素振りなかったけど」
弟「失礼だな、ちゃんと学年一位だよ」
兄「マジかよ……いや、ていうか、それじゃなくてな」
弟「?じゃあなんだい?」
兄「いや、だから、そ、その……」
兄「……お前、俺で抜けた?」
弟「あぁ、それか」
兄「『あぁ、それか』って、俺、昨日そればっか気になってたんだからな!?」
隣に部屋がある実の弟にオカズ宣言されて、平気で眠れる兄がいるだろうか。
いや、いない。
俺は目の下の隈を指差しながら弟に尋ねた。
兄「……んで?」
弟「様々な紆余曲折を経たけど、結果的には出来たよ」
兄「うわぁぁぁあああ!!」
とうとうやっちまった。
こいつ、かなり高いハードルを四日目にしてあっさり超えやがった!
俺は自分の机に突っ伏して頭を抱えながら、考えた。
このまま、マジで弟が目覚めたら、どうする?
今までは、日曜日になれば考証期間は終了で、それで済むと思っていた。
しかし、弟は俺が思うよりも己にある倫理観や道徳観のハードルを、悠然と跳び越えていくばかりだ。
もし、このまま勢いよく、疑問の研究という前提さえ突き抜け、本気にでもなったりしたら……。
弟「これは本当にイケるかもしれないね、僕は本能に打ち勝つ!」
兄「勝っちゃダメ、絶対」
だが、残念ながら今の俺には弟の暴走を止める術は無い。
ただ無事に終わることを祈るだけだ。
五日目:相手にアピールしてみよう★中編
弟「兄さんが大学へ登校する時間で家を出ると、駅まで全然人に会わないね」
兄「まぁな。わりと早いし」
弟「あ」
そうだ、と言い終わる前に、弟はなんと、手を握ってきた。
兄「くぁwせdrftgyふじこlp!?」
弟「ねぇ、この実験には兄さんの協力がやっぱり必要だ。兄さんが協力してくれるかどうかで、僕の感情は多いに影響を受ける」
兄「あぁ、やめて、恋人繋ぎやめて、俺も一線を超えてしまう」
弟「恋人繋ぎくらい、僕が兄さんを自慰好意の道具に使ったことに比べれば些細なことさ」
兄「ノォォオオオオ!!」
昨日から弟はガンガン行こうぜ!状態になっている。
たぶん、俺をオカズにしたことで何かを振り切ってしまったのだ。
ある種のハイテンション状態とも言えるだろう。
いや、言えなくてはならない。
兄「やばいやばい、何がやばいって、やばいとしか言えないくらいやばい」
弟「日曜日のデートのためにも、今慣れといた方がいいよ」
兄「え、お前どんなデート考えてるの!?少なくとも人がいるところでは絶対繋がねぇからな!?」
弟「それはさすがに弁えてるよ。ていうか兄さん、手が熱いね」
兄「そりゃ熱くなるか冷たくなるかだろこんな状態じゃ!」
弟「その二択の中で熱くなったことがいいんじゃないか」
やばい、こいつちょっと微笑んで、ノリノリになってる。
ていうか大胆過ぎる。
本当に、このままだと日曜日はヤバイかもしれない。
俺も流されやすいから、もしかしたらもしかすると、ホップステップジャンプしちゃうのかもしれない。
あぁ、マジで一体どうしたらいいんだ。
六日目:相手にアピールしてみよう★後編
弟「土曜日なのに何処か行かないの?」
兄「今は中間テストがある時期だからな。その勉強しねぇと。明日はあんま出来ないし」
弟「嬉しいな、ちゃんとデートのために協力してくれてるんだ」
そう言うと、弟はもたれかかるようにして俺の首に抱きついてきた。
まだ幼い頃なら可愛げがあるものの、高三の年でやるのは完全にアウトだ。
重いし、熱いし、それに男の身体だからゴツゴツしてるのか、少し痛い。
兄「明日で終わりだからな。最後くらいはちゃんと協力してやるよ」
弟「そう言われると寂しい感じさえしてくるな。もしかして、僕って案外本当に」
兄「あのな、軽々しくそういうこと言うなっつーの。これはあくまでお前のいつもの探究癖の一環なんだからな」
弟「そうだね。兄さんはいつも付き合ってくれる」
兄「だってそうしないとお前、いつまでもせがんでくるからな。俺が折れるまで、お前は絶対に折れないもん」
弟「それは昔の話じゃないか。今ならもうちょっと分別はある……と、思う」
兄「とにかく後ろどいてくれ、いい加減苦しい」
明日のことは考えたくない。
でも、やっと明日で終わるんだよな。
終わらなかったらどうしよう。
いや、終わらせなくてはならないんだ。
弟のためにも、俺がこいつを元の道へ戻してやらねばなるまい。
最終日:デートしよう★
弟「と言っても、僕も兄さんもあまり手持ちがないものね」
兄「うむ」
弟「映画館行って、デパート行って、家でゴロゴロだね」
兄「まさか今日、親が同窓会で帰りが遅くなるなんてな……お前知ってたの?」
弟「偶然だよ偶然。さ、先ずは映画だ」
~映画館~
兄「映画館でこそアクション物だよなー」
弟「そうだね、迫力が違うし」ギュッ
兄「うわー、一昨日と昨日で俺、手握られるの確実に慣れてきてるー」
弟「そう?僕はまだドキドキするけどな」
兄「お前はむしろ慣れ過ぎてるー」
《二時間後》
兄「あまり映画に集中出来なかった……」
弟「よし、次はデパートだね」
兄「なんか買いたいもんあるのか?」
弟「実は無いんだ。兄さんはある?」
兄「んー……」
兄「うーん……」
兄「あ、修正ペン欲しかったわ」
弟「……」
兄「って、仮にもデートでないわなー」
弟「大丈夫、アリだよ!」
兄「むしろ目が輝いているだと!?」
デパート
弟「僕もここの文房具専門店に行きたかったんだよ」
兄「一番安いやつでいいやー」
弟「兄さん、安物買いの銭失いという諺があるよ」
兄「う」
弟「僕のオススメはコレだね」
兄「おお、通常の約三倍のお値段……」
弟「これくらいなら僕が買ったげるよ」
兄「え、いや、それは兄としてちょっと」
弟「すみません、これお願いします」
店員「ありがとうございます」
兄「ぐぬぬぬ……」
駄目だ、完全に弟はデート気分だ。
その後もお小遣いがあるからと、クレープやらジュースやら奢られてしまった。
俺はお年玉をもらってすぐに全部使い切るたちだから、弟に何かやるだけの金は、恥ずかしながら持っていない。
今度バイトの給料が入ったら、何かしら買って返そう。
まぁ、久しぶりに弟と遊ぶ楽しさはあったが、弟にそういう目で見られるのは、なかなか耐え難くもあった。
でもそれもこれで終わりなんだ。
明日からは、やっと普通の兄弟に戻れる。
晩ご飯の材料を買って家に戻って、弟がちょっかい入れてくる中で俺が適当に作って、風呂入って、すぐにベッドに入った。
早く寝て、明日になって欲しい。
この一週間、磨り減りまくった俺の神経がそう叫んでいる。
弟「まだ今日は終わってないじゃないか」
兄「」
声と同時に、布団の虫になっていた俺の上に何かが乗ってくる。
錆び付いた機械よろしく、ギギギとぎこちない仕草で顔を出すと、弟が馬乗りしていた。
そして俺が絶句して硬直している隙に、瞬時に腰を浮かせて布団を放り投げた。
弟「夜になると、ムラムラするよね。これも本能に負けているのかもしれない。でもね、僕はそれよりもっと大きな本能に打ち勝とうとしてる。だからこの際仕方ないよね」
兄「おーっと、ここにきてこいつぁむしろ倫理をぶち壊す勢いだぁ!」
弟「兄さん……兄さんはどうして、可能性を排除するの?きっと兄さんだって、僕を受け入れられるよ。僕たちの頭の中にある生理的な嫌悪感なんて、真に愛すべき人を見えなくするものでしかない」
兄「……」
弟「僕は思考によってそれを排除することが出来た。本能に理性は打ち勝てる。きっと兄さんだって、僕を好きになれる。僕は兄さんを大切にしてあげられる自信がある」
こいつは昔からそうだった。
頭が良いから、大抵の疑問の答えは自分が予想した通りになった。
だから、疑問を検証すると言っても、結局は自分の思い描いた結末になる。
そう信じてやまない奴なんだ。
つまり簡単に言えば、頭でっかちなところがあるのだ、この弟は。
兄「あのな」
弟「うん」
兄「お前さ、愛せてるって言うし、まぁちょっとはムラムラしてるみたいけど、実際できるのか?」
弟「うん?」
兄「つまりさぁ……ぶっちゃけた話よ」
兄「お前、俺の息子の面倒見れんの?あ、息子っていうかチンコな。舐められる?咥えられる?どうなんだ?」
弟「……」
兄「頭で考えるのと実際やるのは全然違うからな。お前、俺で抜いた時、俺についてるチンコのこと考えたか?」
弟「……一応、想像した兄さんの裸にはイチモツはついていたけど、都合よく存在感を消して妄想してたのは認めるよ」
兄「そうだろうな。あとな、男同士ってのはな、お尻のところ使うのな。お前、そのことは?」
弟「……あまり考察していなかった。とにかく僕の思考が納得出来ていれば、実際の問題は後回しでもいいかと思って」
兄「あのな、お尻の穴がどんだけ汚いかお前、分かるだろ?プラトニックな愛なら家族でいいんだよ。でも多少汚くても低俗でも、俺が言ってる愛はセックスありきなの?分かるか?」
弟「……でも、やってみなきゃ分からないよ」
兄「いいから見てみろ!!」バッ
弟「!!」
兄「お前にも同じ物がついてるだろ?全然綺麗なもんでも可愛さのあるもんでもない、出すもんだって生臭くて、実際苦いらしい。そんなもんをお前、舐められるのか?咥えられるのか?あぁ?無理だろ?」デーン
弟「……」
兄「頭では出来ると思ってるのかもしれねぇ。世の中には同性愛者がいて、平気でしゃぶれる人間もいるもんな。でも、お前の本能は何て言ってる?」
弟「……」
はたからみれば、どれだけシュールだろう。
まさか、弟に堂々と自身の息子を見せ付けてやる日が来るとは思わなかった。
しかし、この頭でっかちの人間はこうでもしないと納得してくれないだろう。
もしもこいつが俺の息子を咥えられたら、完全に俺の負けだが。
果たして弟は、ぐっと歯を食いしばり、何度も手を伸ばそうとしたが、とうとう触ることは出来なかった。
俺はそれを確認してパンツを履き直した。
弟「……兄さん……僕……」
兄「な、無理だろ?本能に負けたっていいじゃねぇか。必要だからあるんだろーし。実の兄に恋することが出来ねぇ本能があるならある、無いなら無い、それでいいじゃん」
弟「……」
弟「ごめん、兄さん」
兄「いいって。お前がちゃんと納得したんならな」
いつもすましている弟が、こんな風にしゅんと落ち込む顔を見せるのは何年振りだろう。
それだけで、この一週間に溜まりに溜まった俺の鬱憤も晴れるというものだ。
八日目:エピローグ★
兄「んじゃ、学校いってきまーす」
弟「兄さん、おはよう。いってらっしゃい」
兄「おー」
俺の望んだ通り、今日からまた俺たちは今まで通りの兄弟に落ち着いた。
つい昨日のことでぎこちなさがあるかとも思ったが、頭の良い弟は切り替えも早い。
出かける間際の一瞬の会話でも分かる。
あの調子なら、この一週間のことはすぐに弟のやんちゃな思い出になるだろう。
兄「まったく、どうなることかと思ったぜ」
もう、今日からは弟が駅まで一緒に登校することはないし、恋人繋ぎをすることもない。
もう、今日からは嘘でも愛してるとは言われない。
それでいい。
賢いお前は、真っ当に祝福され、お前の血を受け継いだ子どもを育める、幸せな家庭を作るべきだ。
そのために俺は、ずっと仲の良い、なんだかんだ弟の面倒を見てしまう兄であり続けたのだから。
そしてこれからも、俺はそうあり続けるだろう。
いつまでも、仕方ないという振りをして、お前の疑問のために手助けしてやるのだろう。
……しかし、もし一週間前に俺の隠しフォルダの中身を見られてたら、全てダメになっていた。
まさか弟がフォルダの存在を知っていたとは、危なかった。
惜しいけど、あの弟物のエロ動画のデータは全部消しておこう。
そう思いながら、俺はひと気の無い朝の道を一人きりで歩くのだった。
おしまい
読んで下さった方、レスしてくれた方、ありがとうございます。
ちなみに禁断の愛に挑んでみるシリーズとして、《男「僕は兄さんが好き」女「私は姉さんが好き」》もあります。
このSSとは繋がりはないです。
自分にも兄弟がいるんで、書いててダメージくらってました。
それでは!
このSSまとめへのコメント
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