昨日
　七森町

あかり「あっ」

撫子「………」ｽﾀｽﾀ

あかり（この前カフェで見た大人っぽいお姉さんだぁ）

あかり（私服も大人っぽいなぁ…どこに行くんだろ…）ﾃｸﾃｸ

撫子「待った？」

藍「うぅん、今来たところ」

あかり「………」ｼﾞｰｯ

藍「それじゃ、どこ行こっか」

撫子「いいよ、どこでも藍の好きなところで」

藍「じゃあその辺見て回ろうか」ｷﾞｭｯ

撫子「うん」ｷﾞｭｯ

あかり（あっ、手繋いだ！）

あかり（恋人同士なのかなぁ…やっぱり大人っぽいなぁ…）

今
　ごらく部部室

あかり「…でね、大人っぽい恋愛っていいなぁ…って思ったんだぁ」

ちなつ「手繋ぐのって大人なの…？」

京子「手ぐらい私と結衣でも繋ぐぞ、ほらほら」ｷﾞｭｯ

あかり「違うよぉ、その人は雰囲気が大人っぽかったの！」

あかり「あかりはその後、お姉さん達とは別の方向に行ったから分からないけど…きっと大人なデートをしたに違いないよぉ」

結衣「大人ねぇ…あかりにとって大人ってなに？」

あかり「えっ？うーん…」

あかり「……ぶ、ブラックコーヒー飲んだりとか？」

京子「恋愛関係ねぇし」

あかり「うーん…具体的に聞かれると難しいかも…？」

あかり「みんなは、大人のデートってどんなのだと思う？」

ちなつ「そうね、私は…」

ちなつ「夜景の見えるレストランでお食事するとか？」

あかり「あ～、すっごく大人っぽいねぇ」

ちなつ「もちろんファミレスじゃないわよ！予約が必要なレストランよ！」

京子「スーツとか着てないと入れないレストランだな！？」ﾜｸﾜｸ

あかり「ご飯は前菜から順番に出てくるのかなぁ！？」ﾜｸﾜｸ

…

ウェイトレス「前菜です」

あかり「わぁい前菜、あかり前菜大好き」

ちなつ「あかりちゃん…今日はあなたのためにこのレストランを予約しておいたの…フッ」

あかり「すっごく嬉しいよぉ、ありがとうちなつちゃん！」

ちなつ「このレストランの魅力は料理だけじゃないの…見て？この窓から見える景色…」

あかり「わぁ～！すっごい綺麗だねぇ」

ちなつ「そう？あかりちゃんのほうが綺麗よ」ﾌｯ

あかり「えへへ、照れちゃうなぁ…お世辞でも嬉しいよぉ

ちなつ「お世辞じゃないわよ？あかりちゃん…本当に綺麗…」

あかり「そ、そうかなぁ…？」

ちなつ「その綺麗な紅い宝石、私の物にしたいわ…」

あかり「え…？」ﾄﾞｷｯ

ちなつ「上の階に部屋を取ってあるの、食事が済んだら一緒に…」

あかり「ち、ちなつちゃん…」

ウェイトレス「スープです」

…

ちなつ「きっとこんな感じよ！」ﾊﾞｰﾝ

あかり「うわぁすごいすごい！すっごい大人っぽいよぉ！！」

京子「ちなちゅカッケー！！」

結衣（いや、誰だよ今の…）

あかり「いいなぁ～！あかり、夜景の見えるレストランでお食事デートしたいよぉ！」

ちなつ「まだダメね、あかりちゃんには早すぎるわ」ﾌｯ

あかり「えぇ～そんなぁ」

あかり「…でも、あと何年か経って大人になったらこんなデートしたいなぁ」

結衣「七森に夜景の見えるレストランなんてないけどな」

ちなつ「…………あっ」

あかり「…………えっ」

京子「おい結衣、空気読めよ！」

結衣「ご、ごめん…つい」

あかり「えへへ…そうだよねぇ、夜景の見えるレストランはもっと都会じゃないとないよねぇ」

ちなつ「七森でもできそうな大人なデートプラン…難しいですね」

京子「フフ…そんなに難しいかね？お二人さん」

ちなつ「なんですか京子先輩」

京子「七森でも大人なデートは出来る！こいつの力を借りればね！」ﾊﾞｰﾝ

結衣「……ラムレーズン？」

京子「ラムレーズンの原料はラムとレーズン！ラムといえばラム酒！つまり…！」

京子「お酒の力だ！！」

結衣「なるほど、アルコールか」

あかり「アルコール…！」ﾄﾞｷﾄﾞｷ

京子「お酒があれば自分の部屋だって大人デートスポットに早変わりだぞ、あかり！」

ちなつ「仕事終わりに二人っきりの飲み会ですか！？」ﾜｸﾜｸ

あかり「宅飲みってやつだね！？」ﾜｸﾜｸ

…

京あか「かんぱーい！」ｶﾞｼｬｰﾝ

京子「ぷはーっ！仕事終わりの疲れた体にラム酒がしみるー！」

あかり「わぁいチューハイ、あかりチューハイ大好き」

京子「ほらもっと飲めあかりー！一気！一気！」

あかり「止めてよぉ京子ちゃん」ｸﾞﾋﾞｸﾞﾋﾞ

京子「わたひのしゃけがのめんのかー！？」

あかり「酒癖悪すぎだよぉ」

京子「ひっく…」

あかり「京子ちゃん、そんなところで寝たら風邪ひくよぉ…ひっく」

京子「ひっく……ひっく、ぐすっ…」ﾒｿﾒｿ

あかり「京子ちゃん……どうしたの？」

京子「へへ…ごめん、最近仕事が辛くってさぁ…」ｸﾞｽｯ

京子「ごめんね、せっかくの飲み会なのに、湿っぽくなっちゃって…」ﾒｿﾒｿ

あかり「気にしなくていいよぉ…よしよし、お疲れ様…」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

京子「……あかりぃ」ｷﾞｭｯ

あかり「京子ちゃんいつも頑張ってるもんね…お休みの日くらいあかりに甘えていいんだよぉ」

京子「うん…」

…

京子「きっとこんな感じだ！」ﾊﾞｰﾝ

あかり「すっごいよぉ！！大人な空気を感じるよぉ！！」

ちなつ「二人だけの世界って感じですね！」

結衣（京子はあかりに甘えたいんだろうか…）

あかり「すっごくいいよぉ、あかりも宅飲みしたいなぁ！」

京子「しかしこれはまず就職しなければいけないと言う高難度の技…果たしてあかりに使いこなせるかな？」

ちなつ「この就職氷河期の時代になんて技を…！」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ

あかり「大学を出ても就職が難しい時代だってテレビで言ってたよぉ…！」ｺﾞｸﾘ

結衣「やけにリアルだな」

あかり「それに、お酒は20歳になってからだもんね、今すぐにはできそうもないよぉ」

京子「なんだ、あかりは今すぐ大人の恋愛したいの？」

あかり「出来れば…」

ちなつ「それは無理だよ、だってまだ私達中学生だし…」

京子「いや、結衣はなんか出来そうな雰囲気持ってるだぞ」

ちなつ「そうですね、結衣先輩は出来そうですね…！」ｼﾞｭﾙﾘ

結衣「え…？おいおい…」

あかり「あかりも結衣ちゃん大人っぽいなぁって思うよぉ」

あかり「ブラックコーヒー飲めるし」

結衣「なぁあかり、他に判断基準なかったの？」

あかり「結衣ちゃんが想像する大人の恋愛ってどんなの？」

結衣「大人……私は、そうだなぁ…」

結衣「……同棲とか、いいなって思うよ」

結衣「デートとかじゃないけど…好きな人と一緒に住むって大人っぽいなぁって思う」

京子「よし分かった、引っ越しの準備してくる」

ちなつ「荷物まとめてきます！！」

結衣「鍵閉めとくね」

あかり「一緒に住む…素敵だねぇ」

結衣「だろ？互いに支えあって生きてくっていうかさ…」

…

結衣「あかり、朝だよ」

あかり「うぅ～ん…あと5分～」

結衣「何言ってんの、ほら子供じゃないんだから…起きてよ」

あかり「ふわあぁ…おはよぉ結衣ちゃん…」

結衣「おはよう、あかり」

あかり「結衣ちゃん、今日は何時にお仕事終わり？」

結衣「今日は定時かな、そんなに忙しくないだろうし」

あかり「えへへ、じゃあ駅で待ってるから一緒に帰ろ？」

結衣「うんいいよ、夜は久しぶりに一緒にご飯つくろっか」

あかり「わぁい結衣ちゃんと一緒にお料理、あかり結衣ちゃん以下略」

結衣「おっと…そろそろいかないと遅刻だ」

あかり「あ、そうだねぇ」

結衣「はいあかり、お弁当」

あかり「いつもありがとぉ結衣ちゃん」

結衣「それじゃ今日もお互い頑張ろう」

あかり「うん、行ってきまぁす」

…

結衣「って感じかな…」

京子「なんだこの圧倒的夫婦感は！！これが大人の力か！？」

ちなつ「いやああぁぁぁああぁぁぁあぁぁあぁぁあ！！あかりちゃんそこ代わってえぇぇえぇぇえぇええぇぇぇえぇ！！」

あかり「ﾁｮｰｲｲﾈ!ｻｲｺｰだよぉ結衣ちゃん！！」

結衣「まぁでも…そもそも恋人がいないと同棲なんて出来ないけどね」

あかり「……恋人」

京子「まぁ、そりゃそうだよね」

ちなつ「二人じゃないと恋愛はできませんもんね」

あかり「そっかぁ…そうだよねぇ…」

あかり（あかりは、大人な恋愛に憧れてるけど…）

あかり（大人な恋愛の前にまず、恋人がいないと…だよね…）

あかり「恋人かぁ」

あかり（なんでだろう、こんなに大切な事をすっかり忘れてたよぉ）

あかり（あかりが好きな人……あかりを好きな人……）

あかり（それって、どこにいるのかなぁ？）

夕方
　帰り道

あかり（恋人……）ﾃｸﾃｸ

結衣「おい、あかり」ｸﾞｲｯ

あかり「わぁっ、なに？」

京子「信号赤だぞー」

あかり「あ…ごめん、ぽけっとしてたよぉ」

ちなつ「なんだか上の空だね、どうしたの？」

結衣「考え事？」

あかり「うぅん、なんでもないよぉ…」

あかり（恋人かぁ…）ﾎﾟｹｰ

京子「なんでもあるだろコレ」

ちなつ「もう聞こえてませんよ、たぶん」

結衣「まぁ…なんとなく何考えてるかは分かるけどね…」

あかり「…………」

あかり（あかりが好きな人…）

あかり（ちなつちゃん、京子ちゃん、結衣ちゃん、櫻子ちゃん、向日葵ちゃん、杉浦先輩、池田先輩、松本先輩、千鶴先輩…）

あかり（みんな大好きだけど、それって恋とは違うよねぇ…）

あかり（恋ってなんだろ…どんな気持ちになるのかな？）

あかり（分からないよぉ）

あかり（……あかりを好きな人はいるのかな？）

あかり（みんなと仲良くしてるし、嫌われてる事はないと思うけど……）

あかり（でも、あかりを恋愛的に好きだって人は……）

あかり（いるのかなぁ…分からないなぁ…）

あかり（何も分からないよぉ）

あかり（恋って、なんなの？）

ちなつ「じゃあね、あかりちゃん」

あかり「うん、また明日」

結衣「大丈夫か？もしアレだったら家まで送ってくけど」

あかり「うん、また明日」

京子「…………１＋１は？」

あかり「うん、また明日」

京子「まったく聞こえてないよ」

結衣「すごい集中力だ」

ちなつ「あかりちゃんの家、すぐそこだから大丈夫だと思いますけどね」

あかり「…………」

結衣「……あ、ちょうどいい人が来たよ」

京子「え？」

あかね「あらあら、みんなおそろいね♪」ｽﾀｽﾀ

ちなつ「ひぃ！？あかねさん！？」ﾋﾞｸｩｯ

京子「あかねさん、ちょりーっす」

結衣「あかねさん、今帰りですか？」

あかね「えぇ、今日のバイトも終わったから」

京子「じゃあ、あかりを連れて帰ってあげてよ」

あかり「………」

あかね「あらあら、あかり？どうしたの？」

結衣「話すと長くなるんですが…」

京子「ちょっと考え事しちゃってるんだよね」

あかね「あかり、お姉ちゃんよ？一緒に帰りましょ？」

あかり「あ…お姉ちゃん？いつからいたの？」ﾊﾟﾁﾝ

あかね「よっぽど考え込んでたのね」

あかね「それじゃ、帰りましょうか」

あかり「うん」

あかね「そう、そんな事があったの」ｽﾀｽﾀ

あかり「うん、あかり…誰かに恋なんてした事ないから分からなくって」ﾃｸﾃｸ

あかね「うふふ、あかりもそういう事を考えるようになったのね」

あかね「知らない所でどんどん大人になっていっちゃうから、お姉ちゃんちょっとさみしいわ」

あかり「…大人？あかりが？」

あかね「そうよ」

あかり「大人…なのかなぁ、あかりって」

あかり「夜景の見えるレストランにも入れないし、就職もできないし、一緒に住む恋人もいないのに、大人なの？」

あかね「そんな事言ったらお姉ちゃんだって同じよ」

あかね「スーツなんて持ってないし、お酒も飲めない」

あかね「それに、恋人もいないわね」

あかり「えっ、そうなの？」

あかね「うん、実はね」

あかり「お姉ちゃんは大人だから、恋人いるって思ってたよぉ」

あかね「実は今まで一人もいたこと無いのよ」

あかね「お姉ちゃんもあかりとおんなじって事ね」

あかり「そうは見えないけど…」

あかね「…あかり、お姉ちゃんが大人に見える？」

あかり「うん、見えるよぉ」

あかね「それはね、きっとお姉ちゃんが少しだけ高いところにいるからなのよ」

あかり「高いところ？」

あかね「うん、大人っていうのはね、階段なの」

あかね「20歳になったらその日から大人とか、お仕事をしてお金を稼げるようになったら大人とか、そういう事じゃないの」

あかね「今のあかりみたいにいっぱい悩んで、考えて…少しずつ階段を登っていって」

あかね「その先の、一番上にあるのが大人なの」

あかり「……そっかぁ」

あかね「お姉ちゃんはあかりよりちょっとだけ早く生まれたから少し上の段にいるだけ」

あかね「本当の大人から見たらお姉ちゃんもあかりもまだまだ子供なのよ」

あかね「……でも大丈夫、ちゃんと上には登っているから」

あかね「あかりはきっと、素敵な大人になれる…お姉ちゃんが保証する」

あかり「えへへ…ありがとぉ！」

あかり「そっかぁ、あかりは少しずつ大人になってるんだね…」

あかね「そうね」

あかね「いつかきっと…好きな人も出来て」

あかね「お姉ちゃんより上に登っていっちゃうのね…」

あかり「え？」

あかね「…なんでもないのよ」

あかね（…あかりもいつか、誰かと恋に落ちる）

あかね（そしたら未だに一歩も踏み出せないで立っているだけの私なんて追い越して）

あかね（手も届かなくなる程遠くに行ってしまうのね）

あかね「………」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

あかり「わぁっ、なぁに？」

あかね「うふふ」

あかね「素敵な大人になってね、あかり」

夜
　赤座さんち

あかね「………」ｽﾀｽﾀ

あかり「お姉ちゃん」

あかね「あらあかり、まだ起きてたの？」

あかり「うん、今寝るところだよぉ」

あかね「そうなの、おやすみなさい、髪乾かして寝るのよ？」

あかり「あ、あのねっ…お姉ちゃん」

あかね「？」

あかり「今日、あかりの部屋で一緒に寝ない？」

あかね「え？」

…

あかり「せまくない？」ｺﾞｿｺﾞｿ

あかね「えぇ、大丈夫よ」

あかね「あかりと一緒に寝るのも久しぶりね…いきなりどうしたの？」

あかり「えっと、あのね…」

あかり「夕方の事なんだけど…」

あかね「うん」

あかり「……その、お姉ちゃんは…好きな人、いるの？」

あかね「……」

あかり「恋人はいないって言ってたけど、好きな人はいるの？」

あかり「もしいたら、お話聞かせて欲しいなぁって…」

あかね「………好きな人、ね」

あかね「えぇ、いるわよ」

あかり「そうなんだぁ…お姉ちゃん、大人だぁ…！」

あかね「うふふ、そうでもないわよ」

あかり「そんな事ないよぉ、流石お姉ちゃんだねっ！」

あかね「……本当に、そうでもないのよ」

あかね「お姉ちゃんは多分、大人にはなれそうにないわ」

あかり「……え？」

あかね「好きな人がいてもね、先に進めなければ何の意味もないのよ」

あかね「ずっと片思いのままじゃ…階段は登れないの」

あかね「お姉ちゃんの階段は急なのよ、一人で登るにはキツすぎるの」

あかね「でもね、お姉ちゃんは回り道ができない性格だから…ここから動けないの」

あかね「……ごめんなさい、話が逸れちゃったわね」

あかり「お姉ちゃん……」

あかね「ふふ…気にしないでね？そろそろ夜も遅いし寝…」

あかり「あ、あかりが…っ！」

あかね「？」

あかり「あかりが、一緒に登るよ！！」

あかね「あかり……」

あかり「あかりが、お姉ちゃんと一緒に登るよ」

あかり「一人じゃ大変でも、あかりが後ろから押せば…お姉ちゃん、階段登れるよね？」

あかり「あかりお手伝いするよぉ、だって、だって…！」

あかり「あかり、お姉ちゃんと一緒に大人になりたいもん…！」

あかね「………」

あかり「あかり、ずっと考えてたんだ」

あかり「恋の事とか、大人の事とか……」

あかり「それで、頭に浮かんできたのは…お姉ちゃんだった…！」

あかり「いつも優しい、あかりの自慢のお姉ちゃんは…あかりの憧れの大人だもん！」

あかり「お姉ちゃん、夕方に言ってたよね？あかりはいつかお姉ちゃんより上に登っていっちゃうって」

あかり「でもね？あかりはお姉ちゃんみたいになりたいって思ったんだよ？」

あかり「だから、お姉ちゃんより先になんて行きたくないよ…！」

あかり「いつまでも、あかりの憧れのお姉ちゃんでいて欲しいよぉ…！」ｸﾞｽｯ

あかね「……何も、泣かなくても」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

あかり「だって、だってぇ…！」ﾒｿﾒｿ

あかね（……そうね、私は…あかりのお姉ちゃんだもの）

あかね（お姉ちゃんなのに、妹にかっこ悪いところ見せちゃダメよね）

あかね「そうよね、私はお姉ちゃんだもんね…」

あかね「前には…進まなくちゃ」

あかね「あかり、ありがとう」

あかね「お姉ちゃんね、あかりのおかげで階段を登る勇気が出てきたわ」

あかり「そうなの？よかったぁ…」

あかね「それで、あかりに聞いてほしい話があるの」

あかり「え？あかりに？」

あかね「えぇ、とっても大事なお話」

あかね「……もしかしたらあかりは、この話のせいですごく悩む事になると思うけど」

あかね「…それでも、お姉ちゃんと一緒に階段を登ってくれる？」

あかり「いいよぉ」

あかね「………あのね、あかり」

あかね「私は……」