久「今日も大勝ね♪」桃子「はぁ……」(156)

ありかなしか

久「ん? どうしたのモモちゃん? 調子悪いの?」

桃子「……いや別に。普通っすけど……」

久「ならちょっとくらい食べてよ。モモちゃんのおかげで今日も稼げたんだから」

桃子「……うぅ。あの、部長さん?」

久「まだ名前で呼んでくれないのね」

桃子「……私、もう辞めたいっすよ、こんなこと……」

桃子「通しで雀荘で荒稼ぎなんて、良くないっす」

久「もう、またその話ー?」モグモグ

桃子「だってあんなの、ズルいじゃないっすか。麻雀じゃないっす」

久「そうよ? 私はお金を稼ぎに行ってたんであって、麻雀をしにいったんじゃないの」

久「モモちゃんのおかげでずっと有利に打てるし、働くなんて馬鹿なことするよりよっぽど効率的でしょ?」

桃子「…………」

久「いい加減分かって欲しいんだけどなー」モグモグ

桃子「……帰るっす」

久「えっ? ちょっとモモちゃん?」

桃子「帰るっすよ。もう私には構わないで欲しいっす」ガタッ

桃子「出来れば連絡もんっ」

久「」グイッ

チュー

桃子「んんっ──」

久「」プハッ

桃子「んっ、はぁ……」ストン

久「……ここの料理、美味しいわよね」

桃子「……っ」モグ

久「大丈夫よモモちゃん」ナデナデ

久「あなたが私の協力に抵抗を感じているのは知ってる。でも私はあなたに協力してもらわないと困る」

久「だから私は何か別のことであなたを満足させなきゃいけない」ペロッ

桃子「ぁ……んっ」モジモジ

久「モモちゃん」

久「今日はこのあと、何も予定はないわよね?」ニコッ

桃子「────」コクン

起きるんだ

起きないなら乗っ取る

久「うーむ」

桃子「はぁ、はぁ──」

久「いやはや。何度見ても惚れ惚れするスタイルよね」モミモミ

桃子「あんっ、だ、ダメっす……まだそこは──んあぁっ!」ビクッ

久「出るとこはとことん出てて、引っ込むところはとことん引っ込んでる」サワサワ

久「おかげで普通より大きいおもちがさらに大きく見える不思議」チュッ

桃子「ひゃうっ、ど、どこにキスしてんすかっ! や、んっ! 久さ──ぅっ!」

久「……名前、呼んでよ……」ズリュ

桃子「ふああぁぁっ!」ビクンビクンッ

────

これからバイト
落として結構
ごめんね

待ってたぞ
っておい

桃子(どうしてこうなったんだろう)

桃子(一人ぼっちだった私は久さんに救われた)

桃子(暗がりに隠れてた私を見つけてくれたときの嬉しさは多く経験できることじゃない。自分の中から希望とエネルギーがあふれてきたような気がした)

桃子(私は久さんに感謝している。彼女のそばにいたくて、見つけてくれた恩返しをしたいと思って今ここにいる)

桃子(でも彼女が要求してきた見返りは私にとってはずいぶんと重たいものだった。大金を手にするたびに、自分でも驚いてしまうほど良心が責めたてられる)

桃子(眠れなくなる日もある。いいようのない苦しさから逃れたくて久さんを求めてしまうことも多くなった)

桃子(久さんを好きだという気持ちはずいぶんと形を変えてしまったけど、その本質は変わらない。だからこそ苦しいのかもしれない)

桃子(どうしたらいいんだろう)

久「……ふふっ」

チュッ

桃子「……んッ……」

久「今私のこと考えてたでしょ?」

桃子「……いえ、別に」

久「明日は少し遠くに行こうと思うの。だから待ち合わせの時間は早くするわね」

桃子「またやるんすか?」

久「勝ち続けが過ぎるのはよくないけど、夏の終わりに向けてもう少しお金がいるからね。荒稼ぎとまではいかなくてもちょびっと派手にやろうかと思ってるわ」

桃子(いつもそんなことばかり言ってる)

久「大丈夫よ。あなたは他人からお金を奪うなんて考えるから意味もなく悩んでしまうの。二人の将来のためにお金を稼ぐ。こうして考えたらずいぶん楽になるわ」

桃子(そんなの無理に決まってる)

久「割り切ってよ、頑張りましょうよ。これからも私とあなたはずっと一緒なのよ」ギュッ

桃子(結局、久さんを説得することも、彼女から離れることもできずに無慈悲なお金稼ぎは続いた)

桃子(久さんの喜ぶ顔を見てると胸の中が何かが絡みつくように痛む、でもどこかで一緒になって喜んでる自分もいる)

桃子(私、何が欲しいんだろう……)

智美「あれ? ひょっとしてモモじゃないかー?」

桃子「えっ?」

智美「やっぱりだ。いやー、懐かしいなー」ワハハー

桃子「あの、先輩はどうしてここに?」

智美「たまたまこっちに遊びにくる用事があってなー。友達と一緒にこっちに来たんだ」

桃子「そうっすか……」

智美「んー? 何かあったのか? 落ち込んでるように見えるぞー」

桃子「……そう見えるんすか?」

智美「まあなー」ワハハー

桃子(先輩は変わらないっすね……)

智美「私でよかったら相談にのるぞー」

桃子「……言えるわけないっす」ボソッ

智美「と言っても、もう私は帰らないといけないんだけどなー」

桃子「そうっすか」

智美「もし悩み事があるんだったら私に言ってくれ。一人で抱え込んでいくのはよくないからなー」ワハハー

桃子(何もわかるわけないっす)

智美「あっ、そうだ。もし時間あったら、うちの農業を手伝ってくれ。趣味で始めたんだー」

桃子「ふーん、農業っすか」

智美「趣味にしては割と規模が大きくってなー。一人でやると疲れるんだよ。それにモモが来てくれたら五人勢ぞろいだからな」

桃子「えっ? ひょっとして……」

智美「みんないるぞ。まあゆみちんと睦月はたまに手伝ってくれてるだけだけどなー」

久「今月の収支はまあまあね。悪くはないかな。でなんなの、言いたいことって」

桃子「用事ができたので、明日は出かけるっす」

久「……わかっているとは思うけれど」

桃子「逃げるわけじゃないですよ。ちょっとした気分転換っす。私だってたまにはこういうこともするっす」

久「そう。じゃあ思い切り遊んできなさい。これあげるわ」

桃子「……こんな大金必要ないっすよ……!」

久「いいえ、とっておきなさい。お金なんていっつも貯めこんでおくばかりじゃだめなのよ」

智美「よく来たなー」

桃子「おはようございます。先輩の家に来るのも久々っすね」

智美「おう、ところでなモモ、その格好じゃ農業は無理だぞー」

桃子「えっ? ……あっ」

智美「ワンピースはないだろー。何をやると思って来たんだ?」

桃子「ぬかったっす……」

智美「まあ、いいや。家には色んなサイズの服が余ってるから貸してやる。着いてきてくれ」

桃子「はい」

智美「ほら、服だ」

桃子「ありがとうございます。それにしてもなんだか懐かしいっすね。この家に入るとなんだか昔を思い出します」

智美「私が高校卒業してからもモモは来たことあると思うんだけどなー。着替えるのにそっちの部屋使うかー?」

桃子「はい。じゃあちょっと待っててください」

ガチャッ

ゆみ「えっ?」

桃子「えっ?」

桃子「――!!」

ガチャン!

智美「どうしたー、モモ?」

桃子「い、今、なんか裸の女の人がいたような……」

智美「そりゃあゆみちんがいるからなー。今日は時間がとれたらしくて来てくれたんだ」

桃子「き、聞いてないっすよ!」

智美「そうだったっけかー?」

桃子「こ、こんなの、卑怯っす! だまし討ちっす! や、やっぱり私ここで着替えま――」

智美「悪かったよ。ほらほら、時間を無駄するなー。さっさと入った入ったー」

ガチャン

桃子「……」

ゆみ「……」

桃子「……」

ゆみ「……」

桃子「……」

ゆみ「……モモ、久しぶりだな。元気にしていたか?」

桃子「……」チラッ

ゆみ「お前も蒲原の手伝いに来たのか? 津山や妹尾は今日は来ないとは聞いていたが」

桃子「……」プイッ

ゆみ「今日は日差しが強くなるそうだ。帽子を借りていけ」

ゆみ「日射病にもかかりやすかったんだったかな。水分はこまめにとっておけ。それくらいの予防策はしておけよ。あと、日焼け止めも塗っておいた方がいいな。お前は肌が焼けやすいからせっかくの白い肌にダメージが残る」

桃子「……余計なお世話っすよ」

ゆみ「そうだったか、すまない。じゃあ先に行っている」

ガチャン

智美「ワハハー。ビニールハウスだぞー」

桃子「あれ全部、先輩のものなんすか?」

智美「そうだぞ。知り合いから安く借りたんだぞー」

智美「家からは近いし、趣味で農業やってみるのも面白そうだったから始めたんだー」

ゆみ「都会生活に疲れた人たちがリフレッシュする意味で農業をすることがあるとは聞いていたが、間違ってはいないようだ」

智美「そうだなー。大変だけど、汗かいて気持ちよくていいんだ」

ゆみ「去年偶然蒲原に再会したと思ったら、いきなり農業手伝ってくれと言われたときには驚いたよ。お前の行動力は高校時代からさらに磨きがかかっているな」

桃子「私が誰かさんと最後に会ったのも大体それくらい前だったっすね」

ゆみ「……」

智美「じゃあそこからやってくれー。大体でいいからー」

ゆみ「そんな大雑把な調子でいいのか? 私は何度もやっているから構わないが」

智美「私も初めて間もない素人だから大丈夫だろー。じゃあ私はあっちの方からやってるからなー」

ゆみ「おい待て、お前がモモに指導してやるんじゃ――」

智美「ゆみちんが教えてやってくれ。ゆみちんは私より教えるのうまいからなー。ワハハー」

ゆみ「蒲原……」チラッ

桃子「……」

>>57
×いきなり農業手伝ってくれと言われたときには
○いきなり農業手伝ってくれと言われて

ゆみ「……」

桃子「……」

ゆみ「……じゃあモモ、私と同じようにやってみてくれ。まずは――」

桃子「嫌っす」

ゆみ「はっ?」

桃子「加治木さんに教えてもらうなんてお断りするっす。私は蒲原先輩に教えてもらいたいっす」

ゆみ「……」

ゆみ「わがままを言わないでくれ。大体そう思うなら、なぜさっき蒲原に言わなかった?」

桃子「わがままなのはどっちなんすか」

ゆみ「……お前はいつもそうだったな。人の気持ちを考えずに自分の言い分ばかりを押し通そうとする」

ゆみ「自分を主張することは人が生きていく上で必要であるのは違いない。しかし、その加減を知るのも大事だ」

桃子「じゃあ先輩がそれを知っていたらよかったんじゃないっすかね」

ゆみ「……喧嘩別れしたとはいえ、私たちが仲間であったことには変わりないだろう。そのよしみでいいから、私に教えさせてくれ」

桃子「仲間?」

ゆみ「なんだ、まさかその事実まで否定するわけじゃないだろうな」

桃子「恋人」

ゆみ「……」

桃子「恋人っす!! 事実を否定をしてるのはあんたのほうじゃないっすか!!」

桃子「なんなんすかあんたは!」

桃子「やりたいことがあるとか言って、自分ひとりで勝手になんでも決めちゃって! 一方的に決めておきながら、時間はつくれそうにない!? ふざけんな!!」

桃子「言ったじゃないっすか! 私はあんたと一緒にいれるだけでいいって!!」

桃子「私それ以上に何かねだりましたか!? 何か無理を言いましたか!?」

桃子「もう嫌なんすよ! 悪いことまでして一緒になって何になるっていうんすか!!」

桃子「二人の将来のために必要だとか言っちゃって! そんな嘘っぱちの言葉いらないっすよ!」

桃子「全部あんたが悪いんじゃないっすか!!」

ゆみ「……」

桃子「……あんたが悪い」

ゆみ「……」

桃子「……あんたが悪いんじゃないすか」ジワッ

ゆみ「……」

桃子「あんたが……!」グスッ

ゆみ「……」

桃子「ひっく…………くふっ……」ポロポロ

ゆみ「……」スッ

パサッ

桃子「あっ……」

ゆみ「日よけの帽子を借りてこいと言ったろ」

桃子「……」

ゆみ「これはおしゃれなデザインだからお前によく似合うよ。それと水も飲め。そんなに涙を流していたら、水分不足になるぞ」

桃子「な、泣いてなんか!」

ゆみ「目蓋を泣き晴らしてるようなやつが言うな。いいから飲め」

桃木「……」スン

ゆみ「……私とのこと以外にも何かがあったみたいだな」

ゆみ「話してみたらどうだ。楽になるかもしれないぞ」

桃子「……自分を押し通してばっかりだとか言ってませんでしたっけ」

ゆみ「私が聞かせてほしいんだ。もう強がるなよ、私の前では」

桃子(結局、具体的なことは何も言えなかった。ただ悪いことをしてお金を稼いでいるとしか)

桃子(久さんのことも伏せた。彼女と先輩は今は疎遠であるとはいえ、仲がよかったことには変わりないからだ)

ゆみ「……」

桃子「先輩の言うとおりっすね。人に話すだけで重い何かから解放された気分っす」フフッ

ゆみ「すまなかった」

桃子「なんで先輩が謝るんすか。関係ないでしょ」

ゆみ「お前にそんなことをさせてしまった原因は私にもある。あの時も多忙さにかまけて、お前との話し合いを避けてしまっていた」

ゆみ「考えてみれば、私たちの中で何が一番大事かなんて昔からずっと変わらないはずなのにな」

桃子「遅いっすよ……それ」

ゆみ「……なあモモ、私とやり直さないか?」

桃子「……!」

ゆみ「実は今日お前が来ることは知っていたんだ。蒲原から聞いていた」

桃子「えっ……!?」

ゆみ「私も実は今日まで後悔ばかりだったんだ。モモを一人にしてしまったと。そして自分自身をも孤立させてしまったと。気づいたのは別れてからすぐだ」

ゆみ「お前を失って初めて、自分の中の何かが失われたとわかった。お前はすでに私の一部だったんだ」

桃子「…………」

ゆみ「私も辛かったが、お前にも辛い思いをさせた。本当にすまなかった……もっと早く会いに来れなくて」

ゆみ「卑怯者だったんだ。理由づけがほしかった。今日この日になるまで言い出せなかった私を許してほしい」

ゆみ「できることならもう一度、お前と」ギュッ

桃子「――!!」

チュッ

ゆみ「……んっ……」

桃子「んくっ……んんっ……!」

ゆみ「……ぁっ……んっ……」スリスリ

桃子「…………ッ!」ビクッ

桃子(先輩、どこ触って……!)

ゆみ「……ぷはっ……んっ……」チュウウッ

桃子「……ッ……んぅッ……――!」

桃子(ずいぶんと懐かしい感覚だった)

桃子(抱きしめられて、キスされて、キスして――)

桃子(いつの間にかまた私は泣いていた)

桃子(今の自分に対してのやましさからくる困惑とそれをかき消すような喜びで胸が一杯だった)

桃子(反抗することなんてできるはずもなかった。したくもなかった)

桃子「先輩、先輩――!」

ゆみ「モモ……お前がここにいるんだな」

桃子「先輩……!」

ゆみ「これからずっと一緒にいよう。いや、一緒にいてくれ」

桃子「はい……!」


――――

親父「ご無礼。一発ツモ、4000・8000です」

久「ぐっ……」

久(まずったわね……これで一気にラス転落)

久(素の状態で打ってるときもあったはずなんだけど、徐々に頻度も減っていったからな、いつの間にか腕が鈍っちゃったか)

久(点3でこれじゃあ、点10、20なんてお話にもならないわ。どうしてこうなっちゃったのかしらね)

久(……)

久(……あの子に依存しすぎたのか。私自身も麻雀以外でだいぶ救われてるところあったからね)

久(今度は私もあの子を誘って出かけてみようかしら? あの子の喜びそうなものでも買って帰るか!)

ゆみ「ここでいいのか?」

桃子「はい、これから行かないといけないところがあるので」

ゆみ「わかった。帰りは気をつけてな」

桃子「はい、じゃあまた明日に」

ゆみ「じゃあ……モモ」

桃子「はい?」

ゆみ「明日は必ず来てほしい。渡したいものがあるんだ」

桃子「……わかったっす」

ゆみ「頼む、じゃあな」

桃子「……」

桃子「……」

桃子(私を救ってくれたのは久さんだ。久さんがいたからこそ、今私はこうしてここにいられる)

桃子(久さんと一緒にいたい、あの人には喜んでもらいたい。幸せな未来を歩んでほしい)

桃子(でも……)

桃子「久さんにはお別れを言わないと……」

カーガヤイテー オネガイー

桃子「電話……誰から?」

桃子(……久さん!)

桃子「はい。どうしたんすか」

??「東横桃子さんですね」

桃子「久さん!」

久「おーっすモモちゃん、いやードジっちゃったわー」

桃子「大丈夫なんですか!? 一体、どうしてこんなことに……」

久「あははー、私にもよくわかんないのよー」

??「どうも、○○署のものです」

桃子「……刑事さんっすか」

刑事「はい、この度、竹井久さんが強盗の被害に遭われたということで……こうして病院まで付き添わせていただきました」

桃子「強盗……」

久「いきなり後ろから殴られてねー。それからのことはまったく覚えていないわけよ」

桃子「そんな……なんでそんな急に……」

久「うんうん本当にそうよね、なんで私が狙われたのかしら」

桃子「犯人はまだ捕まってないんすか」

刑事「はい。まだ今回の犯行が突発的に行われたものなのか、計画的に行われたかもわかりません」

刑事「聞くところによると、竹井さんは通帳と印鑑を持ち歩かれていたようですね。その点で何か心当たりはございませんか」

久「ないんじゃない? わかんないけど」

桃子「そ、それって……」

久「そうよー、一文無しねー」

刑事「何かありましたらこちらから連絡を差し上げますので……」



久「はーあ、ようやく解放かー。色々と大変な一日だったわー」

桃子「あの、体は大丈夫なんですか?」

久「さあねえ、でも心の方は大丈夫じゃないかもねー」

桃子「……」

久「そういや盗られたバッグの中に部屋の鍵も入ってたから入れないなー。どうしよ?」

桃子「マンションの管理人さんに言えばなんとかなるんじゃ……」

久「そう? じゃあモモちゃん連絡しといてくれる? 私、なんか一気にどっと疲れがきちゃってさー」

桃子「久さん……」

久「はぁ……」

久「バチ当たったのかもね」

桃子「えっ?」

久「モモちゃん言ってたじゃない。ズルしてお金稼ぐのはよくないって」

久「今まで良い思いしてきたわけだし、そのツケが回ってきたって言われたら納得しちゃうわ」

久「私の最近の生活事情なんて知り合いには教えてないし、金を巻き上げてきたカモのうちの誰かじゃなかったら、通り魔かなんかでしょうね」

久「それにひっかかるってことは相当運が悪かったか、それだけの報いを受けなけりゃならないことをしたってことよね」

桃子「……」

久「はぁ、私の人生ってなんだったんだろ」

桃子「そんな……弱気になっちゃだめっす」

久「……」

久「……わかってるけどさ。悪いのは犯人だって思いたいけどさ」

久「……」

久「……私も同じことをしてきたんじゃない……!」

桃子「……」

久「実力勝負で挑んでくる相手から絶対に勝つ手段を使って……お金を巻き上げて」

久「そんな私にどんな救いがあるいうのよ……!」

桃子「久さん……」

桃子「……」

桃子「……」

桃子「私がいるっす」

久「! モモちゃん……」

桃子「私なら久さんを助けてあげられるっす!」

桃子「くよくよしすぎっすよ。怪我の方はそこまでひどかったわけじゃないんでしょう?」

桃子「ならまだいくらでも挽回できるじゃないっすか。お金ならまた貯めればいいだけっす」

桃子「それに忘れてるっすよ。お金ならここにあります!」

久「えっ……」

桃子「ほら、昨日渡してくれたじゃないっすか。ただ出かけるだけのにこれだけの大金を。一円たりとも手はつけてないっす!」

久「……」

うむ

桃子「これだけあれば、一か月くらいは楽勝でもちますよ。その間に仕事を探して――」

久「……ごめん、帰ってくれる?」

桃子「えっ?」

久「モモちゃん、雀荘でのことやめたがってたわよね。ちょうどいいわ。あなたもう、うちに来なくていいわよ」

久「今まであんなことに付き合わせちゃって悪かったわね。またいつか会える日が来たら会いましょう」

桃子「そ、そんな! 何を言ってるのかわけわかんないっす!」

久「帰って」

桃子「久さん!」

久「もういいから、帰って」

桃子「今の久さんを見捨てられるわけないっすよ! お願いですからこのお金受け取ってください!」

久「……さよなら」

桃子「久さん!」

桃子(……結局、久さんはお金を受け取らないまま、その場を走り去った)

桃子(私は必死で追いかけたけど、久さんは幽霊のようにどこかへ姿を消してしまった)

桃子(その日もまた眠ることができなかった)

桃子(不安と恐怖に押しつぶされそうになりながらもなんとか夜を過ごした)

桃子(そして……)

ゆみ「受け取ってくれ」

桃子「……!!」

ゆみ「部屋の合鍵だ。前よりも部屋は狭くなったが、居心地はよくなると思う。一緒に暮らしていくに最適な場所を選んだつもりだ」

ゆみ「それに今度はお前と過ごせる時間も取れる。お前とゆっくりと暮らしていけたらそれでいい」

桃子「……」

ゆみ「私は……お前とやり直したいんだ。一緒に暮らしたい。前と同じように衝突することもあるかもしれない」

ゆみ「それでもお前とはこれからの未来を一緒に歩んでいきたいんだ。過去の失敗にとらわれることなく、未来を大事にしたい」

ゆみ「昨日も言ったとおり、お前は私の一部なんだ。たとえ今のお前にとっての私がそういう存在でなかったとしても、そうなってもらうだけの自信はある。お前を誰よりも愛してるからだ」

ゆみ「受け取ってくれるか?」

桃子「……」

桃子(……)

桃子(久さんには別れをいうつもりだった)

桃子(久さんには幸せになってもらいたい。昨日まで、私がいなくても久さんなら幸せをつかめるはずって思いこんでた)

桃子(でもあんなことが起きてしまって、久さんを放っておくことなんかできなくなった)

桃子(今の久さんには私が付いていなくちゃならない。そうなんだ。絶対にそうに違いない)

桃子(私は久さんに幸せになってもらいたいんだ! 心の底からそう願っている!)

桃子(でも……)

桃子(先輩とも一緒にいたい。久さんに救ってもらうまでの私は先輩なしじゃ生きていけなかった)

桃子(久さんに救われても先輩は私の一部のままで、先輩がいなくなってしまったことで欠けた部分は決して埋まることはなかった)

桃子(それは今も変わらない。先輩と一緒に生きていきたい。幸せになりたい。そう望む自分がいる!)

桃子「……」

桃子「……」

桃子「私、どっちの道を選べばいいんすか……!」

小休憩
どっちルートにするのか決められないのでこれより投票する
先に3票とった方と結ばれるってことで

久ルートはなかなかに難しいなぁ
再開

ゆみ「返事を聞かせてくれるんだな」

桃子「はい……」

ゆみ「……」

桃子「先輩……」

『あなた、ひょっとして東横桃子さんじゃない?』

桃子「……」

『なんだかこの世の終わりって感じの顔してるけどさ、元気出しなさいよ』

桃子「私は……」

『おせっかいは受け取っておくものよ。いつか自分もおせっかいを焼けるようになるためにね』

桃子「あなたと……」

『ねえモモちゃん、あなたひょっとして自分がいる意味なんてない、とか思ってないでしょうね?』

桃子「……」

『ふーん。だったら私があなたのいる意味を教えてあげる。ついてきなさい』

桃子「……ごめんなさい!」

ゆみ「……」

桃子「そばにいてあげなくちゃならない人がいるんです。私、先輩とは一緒にいられないんです」

ゆみ「私以上に大事な人か?」

桃子「……はい」

ゆみ「なら仕方ないな。……今のお前に私は必要なかったか」

桃子「違うっす。先輩も欠けがえのない大事な人で、私の一部であることに変わりはないです」

桃子「それでもそばにいてあげないといけない人なんです。守られるんじゃなくて私が守ってあげないといけない人で……」

ゆみ「行くんだ」

ゆみ「その人を傷つけるかもしれない行為をこれ以上続けるな。お前が私のことを思えば思うほど、その人を傷つけることになる」

ゆみ「行け、モモ」

桃子「久さん、どこっすか……!」

桃子「あなた今どこにいるんすか……!」

桃子「……」ハァハァ

桃子「私はあなたが欲しい……!」ハァハァ

桃子「あなたにまだ恩返しをしてないっす……!」

桃子「……」ハァハァ

『手帳よ、私のやつ持っておきなさい。記録って自分で生きる意味を確認するためにあるんだから』

桃子「……そういえば、家に置いたままだ」

桃子「久さんの知り合いの連絡先とかいくつか書いてあったっけ」

桃子「久さんの行く先の手がかりがあるかもしれないっす……!」

久「……」

久「……これっぽっちのお金じゃ全然足りないけど」

久「……こつこつと返していかないとね」

久「……」

久「ごめんねモモちゃん……」

久「本当にごめんなさい……!」ジワッ

桃子「久さん!」

久「!!」ギクッ

桃子「やっと捕まえたっす……」ガシッ

久「離してよ……もうあなたの前にいたくないのよ」

桃子「私はあなたの前にいたいんすよ。一緒に生きてもらわなきゃいけないっす」

久「どうしてよ……あなたにあんなひどいことさせたのに……」

久「犯人を恨めば恨むほど、あなたが私に対してどんな気持ちを抱いていたかわかってきたのよ……私、こんなにもつらい思いをさせてたんだって」

久「こんな私なんかにあなたと一緒にいる資格なんて……」

桃子「なんすか、それは?」ヒョイ

久「あっ」

桃子「東横桃子さまへ……お金じゃないっすか。あなた一文無しなんでしょ? どうして私充てにお金なんか」

久「せめてもの償いよ……それぐらいわかってほしいわ。私だってけっこう傷ついたんだからね」

桃子「自業自得っすね。勝手にやらかして勝手に傷ついて。そんなことで私への償いになるとでも思ってるんすか?」

桃子「ぜんぜん足りないっすよ?」

久「…………」

桃子「私への償いの仕方、教えてあげるっすよ」

桃子「それは……」

久「まさか……せ、性奴隷として一生監禁するとか言わないでしょうね?」

桃子「えっ?」

久「点棒の分だけ血をかける麻雀をやれとか、一ツモごとに億単位のお金がかかる麻雀をやれとか! ま、まさか一生誰からも見えなくなるようなステルス能力を身に着けろとか!」

久「わ、わかるけど。わかるけど! 私はひどいことしたし! で、でもなにもそこまでしなくても……!」

桃子「……だぁああ、もう落ち着いてくださいっす!」

桃子「むちゃくちゃっすよ。私が言いたいのはそんなことじゃないっす」

久「じゃ、じゃあ熱した鉄板の上で……」

桃子「私と一緒に暮らしてほしいんすよ! あなたが二度とあんなことを続けないように私に見張らせてほしいんです!」

久「はっ……?」

桃子「っす」

久「でもあなた、私のことを恨んでるんじゃ……」

桃子「いつそんなことを言いました? 私は久さんに感謝こそしても恨んだことなんて一度もないっす」

桃子「私は久さんに笑顔でいてもらいたいんす。それこそが私の生きる意味でもあるんすよ」

久「でも……私はあなたに……」グスッ

桃子「ごちゃごちゃうるさいっすね」ダキッ

久「えっ――」

桃子「一緒に生きていきたいっす。苦しみも喜びもあなたと全部分かち合いたいんすよ」

桃子「あなたへの恩返しと、償いの受け取り。同時にさせてくれないっすかね?」

久「……あっ……ぁぁっ……」ジワッ

桃子「久さん……大好きっす……」

数か月後

久「ロンよ。5200。逆転ね」

親父「ぐっ……があっ……! この土壇場で地獄単騎だと……! ありえぬっ……! 恐るべき胆力……! 悪魔じみている……!」

桃子「やったっすね、久さん!」

久「ええ、きっちりとりかえしたわよ。今日はファミレスでご馳走ね」

桃子(久さんと私はイカサマをやめて、正々堂々と麻雀を打つことにした)

桃子(心機一転して二人で会社の勤めの身となり、とち狂った額のお金を賭けるような真似もしない。食事代が浮くか浮かないか程度のものだ)

桃子(今の私たちは金銭的には苦しい生活を送っているけど、それなりに幸せな日々を送っている)

桃子(何より、お金に余裕も持ちながらも心の奥底に鬱屈を重ねていたあの日々と比べたら、私はよく笑うようになった)

桃子(毎日が楽しいことばかりとは言えないけど、愛する人と喜びや苦しみを分かち合えるようになれたことが何よりも幸せだ)

桃子(それに……新しい自分を見つけることもできた)

桃子「でも、東3局……あれ、どう考えても攻める場面じゃなかったっすよね?」

久「うっ……」

桃子「結果、必要のない放銃をする始末。どういうことっすかねぇ……あれは?」

久「その、えっと、なんていうか舞い上がっちゃって……」

桃子「へーえ、舞い上がっちゃったんすか」

久「あ、あはは……」

桃子「帰ったらゆっくりとこのことについて話し合いましょうか。……ベッドの上で」ボソッ

久「え、ええ……」ゾクゾクッ

桃子「その前に! 二人で食事に行くっすよー!」ニコッ



おしり

書いててなかなか面白かった
最初はかじゅルート行く気まんまんだったけどもう展開が思いつかないのでこれで終了

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