鶴屋「キョーンくんっ!!おっはよ!!」
朝比奈「おはよう、キョンくん」
キョン「ああ、おはようございます」
鶴屋「今日もめがっささっぶいねー!ホントいつまでも布団の中に入ってたいぐらい!!」
キョン「ええ、そうですね」
鶴屋「昨日のテレビ見た?いやー、あれってホント面白いよねー。あたし、ずっと笑っててもうお腹いたくなっちゃってさー」
キョン「そうなんですか」
鶴屋「朝ごはん、何食べた?卵焼きっかな?」
キョン「えっと……」
朝比奈「つ、鶴屋さん、キョンくんが困ってますよ?」
鶴屋「え?あ、ごっめんね!あたしばっかり喋っちゃって!!はい、キョンくん、どーぞ!!」
キョン「鶴屋さんっていつも元気ですね」
鶴屋「まぁね!!元気が一番!!元気がないと面白いことを面白いって感じられないっからね!!あと元気の秘訣は好き嫌いをしないことー!!」
キョン「そうですか。ほかにも何か秘訣はあるんですか?」
鶴屋「そうさねぇ……。やっぱり、冬場は庭で乾布摩擦かなっ」
キョン「か……!?」
朝比奈「かんぷー?……なんですか、それ?」
キョン(鶴屋さんが乾布摩擦だと?それってやっぱり、つまりは、衣服とか、ぬいで……)
鶴屋「お、みくるもやってみる?気持ち良いしさ、体にもいいよ。あと、日頃しないことすると新しい発見もあったりするっさ」
朝比奈「へぇ。やってみようかなぁ」
キョン(朝比奈さんが乾布摩擦……それって、結論としまして、とどのつまり、上半身は……)
鶴屋「……キョンくぅん?」
キョン「は、はい?」
鶴屋「あまり、変な想像してると……」
キョン「え……」
鶴屋「あたしが気合いれちゃうからねっ!鶴屋流デコピンは、いったいよぉ?」
キョン(ああ、もう入れてください)
鶴屋「それでさぁ、今朝も庭で体操してたらもう雀が集まり始めてね」
朝比奈「へぇー」
キョン(ホント、鶴屋さんは元気だな。鶴屋さんがいるだけでダウナーオーラは自然と霧散してくれそうだ)
鶴屋「おっと。ここまでだね」
キョン「え?共同玄関まではまだ……」
鶴屋「ほら、みくる、いくよっ」
朝比奈「は、はぁい。それじゃ、キョンくん、また放課後に部室で」
キョン「ええ」
鶴屋「またね、キョンくんっ!」
キョン「はい」
キョン(にしても、どうして急いでいくんだ。まだ、始業開始には余裕があるし……。俺としてももう少し鶴屋さんの元気をわけてもらいたかったんだが)
ハルヒ「……キョン」
キョン「ハルヒか。よう」
ハルヒ「朝から、楽しそうねぇ……?それだけ元気があるなら、お使いぐらいしてくれてもいいわよね?」
キョン「おつかいだと?モノによる。怪獣は連れてこれんぞ」
休憩所
キョン(まさか、朝からコーヒーのパシリに行かされるとは……。あいつもいよいよ王様から女帝の様相を見せてきやがったな……。違いは分からんが)
キョン「えっと……」
鶴屋「あったし、これ!!」ピッ
キョン「鶴屋さん?!なにをするんですか?」
鶴屋「いやぁ、寒いからあったかいおしるこ飲もうと思ってぇ」
キョン(俺の金が……)
鶴屋「お!!あたしってば強運!!当たりが出たからもう2本!!」
キョン「何を言っているんですか?この自販機に当たりは……。あれ?ボタンが光ったままだ。鶴屋さん、お金いれ―――」
鶴屋「それじゃね!!」タタタッ
キョン「……」
キョン「よくわからんが、あとで鶴屋さんにお金は返しておこう」ピッ
キョン「うー、さぶ……。へっくしゅん!」
キョン「あー……。風邪引かないように、俺も乾布摩擦してみるか……」
放課後
ハルヒ「今日は何をしようかしらねえ」
キョン「今年するイベントはほぼコンプリートだろ。正月まで元気をとっとけ」
ハルヒ「いやよ。そんなのつまらないじゃない」
キョン(鶴屋さんが四六時中傍にいてくれるならお前に付き合ってもいいけどね)
鶴屋「おっす!ハルにゃん!元気!?」
ハルヒ「元気元気。鶴ちゃんは?」
鶴屋「見ての通りっさ!!鶴屋家の生まれは無病息災に恵まれてるからねっ。神いらずっさ!!」
キョン(鶴屋さんのお日様スマイルは朝比奈さんのエンジェルスマイルとは別の養分をくれるね)
ハルヒ「ふぅん。病気とかしたことないの?」
鶴屋「ないね。たまに喉がかれちゃうときもあるけどっ」
キョン(それは声援のしすぎではないでしょうか)
ハルヒ「あたしでも何度か風邪くらいは引いたことあるけど……」
鶴屋「ふふん。ハルにゃん、気合がたりないにょろ。乾布摩擦がオススメだけど、やってみっかい?」
キョン(ハルヒの乾布摩擦だと……。ありっちゃありだな……)
ハルヒ「ところで、どうかしたの?」
鶴屋「ああ、そうそう。みくるがちょろんと遅れることになったから、伝えて欲しいって言われてね」
ハルヒ「委員会かなにか?」
鶴屋「ううん、掃除当番。ほら、この時期って欠席する人増えるからねー」
キョン「そうですね。うちのクラスも空席がいくつも出始めました」
鶴屋「でっしょー?みんな、あたしみたく好き嫌いせずに寒くてもTシャツ一枚で過ごしてみないとね!」
キョン「鶴屋さん。朝は布団が恋しいって言ってたじゃないですか」
鶴屋「それはそれ。これはこれ」
キョン(都合の良い人だ)
ハルヒ「分かったわ。わざわざ伝えてくれてありがとう」
鶴屋「なんのなんの。これでも名誉顧問だしね」
キョン「あ、鶴屋さん」
鶴屋「なに?」
キョン「(今朝の飲み物の代金、返します。なんのつもりですか?)」
鶴屋「(あれは当たったものだから、とってていいよ。温かいものでも飲んで飲んでっ)」
キョン(まさか。鶴屋さん、俺がパシリにされたことを自分の所為だって思って……?)
鶴屋「ん?どうかした?ほら、団長が持ってるよん」
キョン「ありがとうございます」
鶴屋「バイバイ、キョンくんっ。また、あした!」タタタッ
キョン(良い先輩だ)
ハルヒ「キョン。何してるのよ。早く行くわよ」グイッ
キョン「わ、わかってるからベルトを引っ張るな!!」
ハルヒ「ふんっ」
キョン「……お前も別の意味で元気だよな」
ハルヒ「鶴ちゃんみたいに無病息災ってわけじゃないけどね」
キョン「確かに鶴屋さんが病気になるところは想像しにくいものがあるな」
キョン(床に伏す鶴屋さんか……。全くもって絵にならん)
ハルヒ「そうねぇ……。確かに想像できないわね」
キョン「ま、俺としてはお前が風邪をひいたことがあるって事実に驚いているけどな」
ハルヒ「ふっ。このままベルトを引き千切ってもいいのよ、キョン?」
キョン「やめろ!!ベルトって本当に千切れるときもあるから!!」
ハルヒ「なら、こい!!」
古泉「おや、仲がいいですね」
キョン「助けろ、古泉」
古泉「そんな、恐れ多いことはできません」
キョン「てめぇ……」
ハルヒ「そーだ!!良いこと思いついたわ!!」
キョン(お前の良いことは万人にとっては悪夢なんだよ)
ハルヒ「SOS団で健康強化週間をしましょう」
キョン「なんだ、それは?」
ハルヒ「まぁ、団員である以上、風邪とか骨折とか壊血病程度で休むことは許されない。でも、体調を崩していると本来の力が100%発揮されないでしょ?」
古泉「確かにそうですね。人間は普段から全ての力が出せているわけではないですから、余計な効率低下を招くだけです」
ハルヒ「その通りよ、古泉くん。だからね、ここは団長としてみんなの健康管理を徹底しようと思ったわけよ!!」
キョン(たった今な)
ハルヒ「こうしちゃいられないわ。早く部室で今後の予定を組まなくちゃね!」
部室
ハルヒ「まずは、日頃の食生活がどうなっているか、アンケートするわよ。今から配るこの紙に3日分の食事メニューを書きなさい。朝昼晩、間食も全部よ」
キョン(3日前の間食など、覚えているわけがない。3日前の朝飯だって怪しいぐらいなのに)
ハルヒ「ちなみにあたしは基本的に1日のカロリーをオーバーしないように気をつけているわ」
キョン「お前も体重を気にするのか」
ハルヒ「べっつに。あたしは食べても太らないし」
キョン(嘘だな)
ハルヒ「ほら、文句をいわずにちゃっちゃと書く!!」
キョン「やれやれ……」
古泉「困りましたね。恥ずかしながら、食生活に気を使ったことがありませんから……」
キョン「そうかい。そのままハルヒにいじられろ」
長門「……」
キョン(長門はどんな食生活なんだ?ちょっと気になるぞ)
長門「……」カキカキ
キョン(朝からカツ丼食ってるのか……。コンビニ弁当が主食みたいだな。まぁ、長門の場合、健康の心配はないだろうが)
ハルヒ「ダメじゃないの、有希ぃ。こんなんじゃ、30代でメタボ体型になっちゃうわよ?」
長門「……」
ハルヒ「昨日なんて、これ、大体だけど大人二人分のカロリー摂取してるわよ?」
長門「……」
ハルヒ「これは不摂生ここに極まれりね。有希、今日からあたしが食事を考えてあげるわ」
長門「いい」
ハルヒ「あたしがよくないのっ!!」
長門「……」
キョン(長門、食べるのが好きなんだろうか)
古泉「涼宮さんはどうしてしまったのですか?」
キョン「何のことだ。いつも通りだろ」
古泉「何を言いますか。これほどまでに涼宮さんの愛情を感じたことはありません」
キョン「一人でも休むような事態を避けたいだけだろ。怪我した相手も引き摺って参加させるだろうけどな」
古泉「そういった事態の芽を摘むためにこうしているのでしょう。感激ですよ」
キョン「ただの思いつきで感激か。幸せ者だなぁ、古泉」
ハルヒ「いい?まずは野菜よ、有希。野菜から食べることでカロリーは押さえられるのよ」
長門「……」
ハルヒ「ここ、テストに出すからね」
長門「わかった」カキカキ
キョン(長門にはあとで俺から好きに食えと言っておこう)
朝比奈「すいません、おくれましたぁ」
ハルヒ「みくるちゃん。はやく座って」
朝比奈「わぁ、何をしてるんですかぁ?」
キョン「ハルヒの下らない思い付きですよ」
ハルヒ「誰がくだらないよ。組織の中でメディカルチェックをすることは重要でしょ?」
キョン(それなら月に一回ぐらいしてくれ)
朝比奈「3日分の食事を書けばいいんですか?」
ハルヒ「そうよ。さ、早く書いて」
朝比奈「はぁい。―――そうだ。キョンくん、キョンくん」
キョン「はい、なんでしょうか?」
朝比奈「さっき、鶴屋さんからメールが届いたんですけど、キョンくんに「ごめんにょろ」って伝えて欲しいって。何かあったんですか?」
キョン「え、ええ……。それほど大事じゃないんですがね。鶴屋さんって意外と気にするタイプなんですかね」
朝比奈「鶴屋さんはいつも周りをよく見てるって感じだから。キョンくんのことはいつも気にしてる感じだし」
キョン「鶴屋さんが俺を?」
朝比奈「うん。朝の会話は大体昨日のキョンくんの話ですから」
キョン(それはどういうことだろうか。普通に考えれば、鶴屋さんは俺のことを……。いや、でもあの人に限ってそのようなことは考えられない気もする)
キョン(なんというか、鶴屋さんならもっとストレートに攻めてくるだろう。取る行動はハルヒと似ているところもあるからな)
キョン(何か意図でもあるのか……)
ハルヒ「ちょっと、そこ!!なにヒソヒソ話してるわけ?」
朝比奈「ひっ」
ハルヒ「みくるちゃん?書いたのぉ?」
朝比奈「あ、あのごめんなさい。一昨日のメニューがおもいだせなくってぇ」
ハルヒ「そんな言い訳通用しないわよ!!罰よ罰!!面白い顔にしてあげるわ!!」
朝比奈「ひぇぇぇ!!」
キョン「やめろ、ハルヒ」
ハルヒ「―――みんな、あまり良いもの食べてないわねぇ」
キョン「俺たちは一般庶民だぞ」
ハルヒ「そう言う意味じゃないの。でも、これは由々しき事態ね。このままじゃあみんなは将来下っ腹が出るわね」
朝比奈「えぇ!?」
ハルヒ「特にみるくちゃんは三段腹になって、嫌な巨乳になる!!」
朝比奈「ひぃ……そんなぁ……」ブルブル
キョン(朝比奈さん、安心してください。貴方は将来、とても美しいボディラインをしていますよ)
ハルヒ「明日までにみんなの健康メニューを考えてきてあげるわ。感謝しなさい」
キョン(カエルの足とかじゃないだろうな)
ハルヒ「それじゃ、今日はここまでね。解散っ」
キョン(やれやれ。食べられるものが出てきて欲しいね)
古泉「心配はないと思いますよ。あれでいて涼宮さんは常識的な思考の持ち主です。ネットなりレシピ本なりみて、考えてくるのではないでしょうか」
キョン「……そんな面倒なことをするとは思えないがな」
古泉「そうですか?僕はそう信じますが」
翌日 通学路
キョン(ハルヒのやつ、何か嫌なものを用意してないだろうな。家庭科室を占領して、放課後3分クッキングとか始めなければいいが)
キョン「ん?あれは……」
鶴屋「……」スタスタ
キョン「鶴屋さん、おはようございます」
鶴屋「お、キョンくん。おはようっさ。今日も元気?」
キョン「ええ」
鶴屋「毎日こう寒いとやんなっちゃうね」
キョン「鶴屋さんは寒さに強いんじゃないですか?」
鶴屋「まっねぇ。あたし以上に強い人はいないっさ」
キョン「あははは。全く、その通りです。ところで、朝比奈さんは一緒じゃないんですか?」
鶴屋「流石にいっつも一緒ってわけじゃないからね。待ち合わせするときもあるけど」
キョン「今日はしなかったんですか?」
鶴屋「うん。ほら、いつも一緒だとマンネリしちゃうし」
キョン(恋人か何かなんだろうか、朝比奈さんと鶴屋さんは)
飯
鶴屋「昨日、みくるから聞いたんだけど、また面白いことやるみたいだねぇ」
キョン「ハルヒの思いつき健康料理ですか?食わされる身になってください」
鶴屋「メニュー考えるだけでしょ?それにそれはハルにゃんの優しさにょろよ」
キョン「余計なお世話にならなきゃいいんですけどね」
鶴屋「そう毎回毎回困らせるようなことしないんじゃないっかな?」
キョン「え?」
鶴屋「そうそう、今日も乾布摩擦したんだよねー。いやー、もうね気分爽快っ。キョンくんもやってみれば?」
キョン「日課なんですか」
鶴屋「そだよ。ジョギングも欠かさないしねっ」
キョン(本当に元気だなぁ)
鶴屋「ま、健康で困ることがあったらあたしを頼っていいからね」
キョン「そうさせてもらいます」
鶴屋「うんうん。おっと、そうだ。昨日さ、帰りに猫みたんだよ、猫。それがめがっさ可愛くて、連れて帰ろうかなって思ったんだけどねー」
キョン(今日は、いい1日になりそうだな)
鶴屋「抱き上げようと思ったら噛まれちゃって、ほんとまいったよー。って、キョンくん、きいてる?」
共同玄関
鶴屋「それがもうすっごく面白くってさぁ、笑っちゃうよねー」
キョン「ホントですね」
鶴屋「おとと、まーた、あたしばっかり喋っちゃったね、ごめんよ。キョンくん」
キョン「いえいえ。とても楽しい通学路になりました」
鶴屋「そうかい?だったら、嬉しいねっ」
キョン(今日はここまで一緒に来てくれたな)
鶴屋「それじゃ、ここでバイバイだね」
キョン「ええ」
鶴屋「それじゃ、ハルにゃんによろしくぅ」
キョン「わかりました」
キョン(捉えどころのない感じが、またいいな)
谷口「おい、キョン」
キョン「よう」
谷口「てめえ……うらやましいやつ!!!」
教室
谷口「あの鶴屋さんと一緒に登校なんざしやがってぇ!!」
キョン「なら、お前もしたらいい。あの人なら快諾してくるだろうよ」
谷口「マジ?!」
キョン(まあ、流石の鶴屋さんも迷惑がるだろうけどな)
谷口「なら、アタックしてみるか……。いや、でも、俺にはもう彼女が……」
キョン「……言ってろ」
ハルヒ「……」
キョン「よう、ハルヒ」
ハルヒ「今朝、鶴ちゃんと一緒だったの?」
キョン「ああ、たまたま一緒になってな」
ハルヒ「ふぅーん」
キョン「あの人はいつも元気だ。しかも嫌な元気じゃないね。こっちまで活力が沸いてくる感じがする」
ハルヒ「へぇ……。よかったわね」
キョン(なんか、機嫌悪そうだな)
放課後 部室
ハルヒ「今から、家庭科室に行くわよ!!!」
キョン(やっぱりか)
ハルヒ「ほら、みんな準備して。古泉君とキョンは食材運んで!」
キョン「ハルヒ、メニューを決めるだけじゃなかったのか?」
ハルヒ「何言ってるのよ?実際に作り方を学んだほうがいいでしょ?手料理はね失敗したらヘコむのよ?ま、キョンにはわからないでしょうけど」
キョン(あー悪かったね。手料理も出来ない男で)
古泉「あの様子なら涼宮さんは一般常識の範囲で料理をしてくれそうですよ」
キョン「食材はまあ、普通だけどな」
古泉「涼宮さんの手料理を味わえる上に健康になる。これはとても素晴らしいことですよ。個人的には今日を祝日にしたいぐらいです」
キョン(昼飯から4時間弱。間食するにはいいかもしれんが、食材が食材だけに早すぎる夕食になるんじゃないか、これ)
長門「……」
キョン「長門、辛くなったら頼っていいか?」
長門「任せて」
キョン(流石、長門。頼もしいね)
ハルヒ「ふんふふーん」
鶴屋「お、みんなお揃いで、どったの?」
朝比奈「鶴屋さん、今帰りですか?」
鶴屋「うん。掃除が思った以上に長引いちゃって」
ハルヒ「今から家庭科室にいくのよ。そこで料理をして、みんなで健康になるの」
鶴屋「へえ、それはいいことっさね。あたしも草葉の陰から応援してるよん」
キョン「それ、死んでますから」
鶴屋「おっと、そっかそっか。誤用だね、あっはっはっはっは」
ハルヒ「鶴ちゃんも来たかったらきてもいいわよ?」
鶴屋「折角だけど、これから用事があるんだよね。ごめんっ」
ハルヒ「そう……。残念ね」
鶴屋「んっ……それじゃ、みんな、バイバイにょろ。お料理がんばってぇぇ……ちょうだいっ!!」
キョン「はい。さようなら」
朝比奈「さようなら」
長門「……」
キョン(ハルヒもああいう元気さなら、俺も好感もてるんだけどなぁ)
ハルヒ「さ、ついたわよ」
朝比奈「お、おじゃましまぁす」
長門「……」
古泉「……ふむ」
キョン「どうした、古泉?」
古泉「いえ……。気のせいでしょう」
キョン「なんだ、言えよ。お前がそういうと気持ち悪いんだよ」
古泉「そうですか?なら、正直に言いましょう。鶴屋さん、どこか様子がおかしくなかったですか?」
キョン「そうか?いつもの鶴屋さんだっただろ」
古泉「ですよね。申し訳ありません。可笑しなことを言ってしまって」
キョン「俺が言えっていったんだから、別に謝ることじゃない。でも、どうしておかしいって思ったんだ?」
古泉「いつもより覇気がなかったといいますか。うまく言葉にはできないのですが」
キョン「ふぅん」
ハルヒ「ちょっと!!はやくしなさい!!」
通学路
キョン「……」
古泉「体が重い気がしますね」
キョン(気のせいではない。胃袋が無駄に広がってる気分だぜ。ゴム風船は膨らませられるたびにこんな苦しみを味わっているんだろうな。料理の味自体は申し分なかったのが余計に腹立たしい)
朝比奈「うぅ……」
ハルヒ「なによ。みんな、元気ないわよ。折角、あたしが手料理振舞ってあげたんだから、もっとニッコニコの笑顔で歩きなさいよ」
キョン「あのなぁ……ハルヒ……。いくら体にいいからって、量を考えろよ、量を。ありゃどう考えても20人前はあったぞ」
ハルヒ「やぁねえ。そんなに無いわよ16人前よ」
キョン「ふざけんな!!……うぅ」
キョン(ハルヒのやつ、一人一人の料理を人数分作りやがったからなぁ。試食なんだから格料理一人前でいいだろうが。長門がいなきゃ体内から破裂していたところだ)
長門「……」
キョン「長門、苦しくないか?」
長門「別に」
キョン「そ、そうか」
長門「まだ、摂取は可能」
ハルヒ「じゃ、みんな!!渡したレシピ通りの食事をとりなさいよ。いいわね?」
キョン(もう当分は味わいたくない)
古泉「あはは。了解しました」
ハルヒ「それじゃ、また明日っ!!」
朝比奈「きもち、わるいですぅ……うっ……ふぅぅっ……」
キョン「朝比奈さんもかなり無理してましたよね」
朝比奈「だ、だって……次々と目の前に出てくるから……たべなきゃって……」
キョン(なんてお優しい。流石は朝比奈さん。それに比べてハルヒはまるで悪魔だな。あのやろう、出すだけだして一口も食べやがらない)
古泉「ですが、僕は本当に心から歓喜していますよ。まさか涼宮さんの手料理をあれだけ味わえるなんて思ってもいませんでしたから。僕の仲間に自慢できます」
キョン「腹を擦りながら言っても、説得力ないぞ」
長門「……」
キョン「長門が居て、本当に助かったぜ。ありがとよ」
長門「いい」
朝比奈「では、私はここで……うふぅっ……!」
キョン(朝比奈さん……帰ったらすぐに胃腸薬を飲んでくださいね……)
翌日
キョン(胃もたれするかと思ったが、健康重視なだけあって流石に日を跨いで胃を圧迫することはないんだな。嵐のように過ぎ去るハルヒみたいだぜ)
鶴屋「……」スタスタ
キョン(まぁ、あの人もまた嵐みたいにやってきて去っていくんだけどな)
キョン「鶴屋さん、おはようございます。今日も会いましたね」
鶴屋「キョンくん、おはよう」
キョン(ん……?)
鶴屋「どっかしたかい?」
キョン「あ、えっと……鶴屋さん?」
鶴屋「なぁに?深刻そうな顔して、水虫の告知でもうけたのー?なんちゃって。今の映画の台詞だよ。覚えてるっ?」
キョン「ええ、勿論ですよ。そのあと鶴屋さんが吹き出してあとの台詞が言えてなかったですよね」
鶴屋「あはは。そーそー。だってさぁ、みくるが真面目な顔で「最後の戦いに赴かなければなりませんっ」とかいうか、ぶっ!あはははははは!!」
キョン「鶴屋さん……」
鶴屋「あははは、あー、おかしい。ゴメン、ゴメン。思い出したらまたわらえ、ぶっ!あははははは!!!あー、だめ、またツボにはいちゃったぁー!!」
キョン(一瞬、元気がないように見えたのは気のせいだな……)
鶴屋「ほんと、キョンくんたちと出会ってからは楽しいことばっかりで、飽きないね」
キョン「鶴屋さんからしたらそうかもしれませんが、こっちは気苦労が多いんですよ」
鶴屋「そうなの?あたしにはキョンくんも楽しんでるようにみえるっさ」
キョン「そうですか?それは眼科に行くことをオススメしますよ」
鶴屋「あはは、キョンくんってば照れちゃってぇー……んっ……」
キョン「鶴屋さん?」
鶴屋「ごめん……ちょっと、先にいってって……」
キョン「どうかしたんですか?」
鶴屋「ここで、みくると待ち合わせしててさ。ごめん、キョンくん」
キョン「ああ、そうですか」
鶴屋「また、あとでね」
キョン「分かりました」
鶴屋「うんっ」
キョン(こんな中途半端な場所で待ち合わせって……。普通は駅前とかじゃないのか……?)
キョン(鶴屋さん……どうしたんだ……)
共同玄関
キョン「……」
谷口「よっ。キョン。今日は鶴屋さんと一緒じゃないんだな」
キョン「まぁな。あの人だって、いつも俺と一緒に登校は嫌だろうさ」
谷口「ふぅん」
朝比奈「あ、キョンくん。おはよう」
キョン「朝比奈さん、おはようございます。……ん?」
谷口「ああ、朝比奈さん!!おはようございます!」
朝比奈「谷口くん、おはようございますっ」
谷口「やっほぉー!!今日は1日ハッピー!!!」
キョン「あ、朝比奈さん、今、来たんですか?」
朝比奈「うん、そうだけど?」
キョン「鶴屋さんは?」
朝比奈「鶴屋さん?まだ、来てないと思いますけど……?」
キョン「え?だって、橋のところで待ち合わせしてたんじゃ……?」
朝比奈「いえ……。今日は待ち合わせはしてないです」
キョン「……」
谷口「どうしたんだよ、キョン。期末テストをすっかり忘れて当日を迎えたような顔してるぜ?」
キョン「そんな小さなことじゃねえ」
谷口「は?」
朝比奈「キョンくん、どうしたんですか?」
キョン「谷口、鞄頼む」
谷口「あ、おい、キョン!どこ行くんだよ!!」
キョン「忘れ物だ!!」ダダダッ
谷口「忘れものって家に帰ってたら遅刻だぞー?」
朝比奈「キョンくぅーん」
キョン「岡部が来たら、腹が痛くてトイレに篭ってるといっておいてくれ!!」
谷口「はぁ?!」
キョン「まさか……鶴屋さん……!!」
キョン「はぁ……はぁ……いた……!!」
鶴屋「ふぅ……ふぅ……」
キョン「鶴屋さん!!」
鶴屋「あ、ありゃ、キョンくん?どうかしたのー?」
キョン「こっちの台詞ですよ。朝比奈さんと待ち合わせなんてしてなかったんですね」
鶴屋「ありゃぁ……バレちゃったかぁ。みくるならもう少し早く登校してると思ったんだけど……」
キョン「体調が悪いんですね?」
鶴屋「へーき、へーき。ちょろんと体が重いだけっさ」
キョン「風邪ですか?」
鶴屋「多分ね。いやー、病気になったことがないとさ、ちょっとの熱でも凄く辛いのよ。困っちゃうね、全く。あははは」
キョン(笑い事で済ませられるぐらいなのか。鶴屋さんの顔色は悪いといえば悪いが……それほど深刻でもないような気がする)
鶴屋「あんがと、キョンくん。大丈夫だから」
キョン「保健室まで行きましょう」
鶴屋「いいってば。あたしのことなんて」
キョン「ダメです。絶対に引きませんから」
保健室
鶴屋「ごめんよ……」
キョン「気にしないでください。先生は居ないみたいですから、あとで呼んできましょう」
鶴屋「いいよぉ。そこまでしなくても。すこーし、横になれば完全復活元気バリバリになるしさっ」
キョン「とにかく寝ててください」
鶴屋「うん……」
キョン(まさか、想像すらできなかった鶴屋さんの病床についた姿を見ることになるとはなぁ)
キョン(今年の風邪はとんでもなく厄介なのか、それとも……)
鶴屋「キョンくん、ちょいと耳をかしておくれ」
キョン「なんですか?」
鶴屋「……駆けつけてくれて、すっごくうれしかったよ。あんがと」
キョン「これぐらいお安い御用ですよ。じゃ、先生を呼んできますから」
鶴屋「うんっ」
キョン(元気のない鶴屋さんは確かに麗しいが、お日様スマイルを輝かせる鶴屋さんのほうが何倍も素敵だね)
キョン(早くいつもの調子を取り戻してくれないとこっちが先に参ってしまいそうだ)
教室
ハルヒ「鶴ちゃんが風邪で倒れた?」
キョン「ああ。今、保健室で寝てる」
キョン(朝比奈さんに言ったらすぐさま保健室へ飛んでいったから、朝比奈さんもいるだろうな)
ハルヒ「そう。なら、お見舞いに行かないとね」
キョン「アホか。迷惑だろ」
ハルヒ「なによ。病人の前で騒ぐつもりなんてないわよ」
キョン「朝比奈さんもいるから、心配するなって。大勢で押しかけたほうが迷惑だ」
ハルヒ「いいわよ。あたし一人でいくから」
キョン「ああ、仕方ねえな。俺もいく」
ハルヒ「はぁ?」
キョン「お前のことだ、ネギを持って如何わしいことをするかもしれんしな」
ハルヒ「如何わしいことって、ネギを鼻に突っ込むとか?」
キョン「そっちなら……いや、どっちにしろネギは突っ込んでいいものじゃねえ」
ハルヒ「何いってんのよ。早く行くわよ、アホキョン」
保健室
ハルヒ「鶴屋さーん!!!」ガラッ
キョン「おいっ!おいっ!」
ハルヒ「なによ?」
キョン「なによ、じゃねえよ。病人がいるんだよ、ここには」
朝比奈「あ、あの……しーっ……しーっ……」
ハルヒ「みくるちゃん、鶴屋さんの様子は?」
朝比奈「今、眠ったところです」
ハルヒ「ふぅん」
鶴屋「すぅ……すぅ……」
ハルヒ「……本当に風邪なの?」
朝比奈「本人はそういってますけど……」
ハルヒ「これが鶴ちゃんが弱ったときの姿なのね。写真でも撮っておこうかしら」
キョン「ハルヒ?冗談だよな?」
ハルヒ「当たり前でしょ。何言ってるのよ、もう」
キョン(だが、この姿の鶴屋さんを撮って残しておきたいという気持ちは分からんでもない)
鶴屋「すぅ……すぅ……」
キョン(いつも口を開きっぱなしにしているような人が、こうしてベッドで静かな寝息をたてている光景など、鶴屋さんに選ばれた超絶羨ましい野郎だけに許された特権だろうからな)
キョン(朝比奈さんのように女の子なら見放題であるかもしれんが)
ハルヒ「熱は測ったの?」
朝比奈「それが……」
ハルヒ「ん?」
朝比奈「……平熱なんです」
ハルヒ「平熱?なにそれ、どこも悪くないってこと?」
朝比奈「それは分かりません。熱はないですけど、いつもの鶴屋さんでないことは確かですから」
ハルヒ「熱が出ないっていうなら、お腹のほうに菌がきてるんじゃないの?」
キョン「そんな様子は無かったぞ。体が重いって言ってたしな」
朝比奈「私もそれは聞きました」
ハルヒ「インフルエンザとかじゃないの?あ、でも、それなら高熱がでるわよね……」
キョン(鶴屋さん、一体どうしちゃったんですか……)
ハルヒ「頭痛とかもない感じだったの?」
朝比奈「はい」
ハルヒ「てことは……鶴ちゃんは生理が重いタイプと見た」
朝比奈「せ……!?」
キョン「(ハルヒ、なんてこといいやがる!!!おいっ!!)」
ハルヒ「何よ、キョン。男にはわからないでしょうけど、生理が重い女の子は倒れちゃうことは珍しくないのよ?」
キョン「(俺が言いたいのはそんなことじゃなねえええ!!!)」
朝比奈「あ、あの……涼宮さん……それも違うと思います……」
ハルヒ「あら、そうなの?」
朝比奈「鶴屋さんはここまで体調を崩すことはないですから……」
ハルヒ「ふぅん。なら、生理でもないのね」
キョン(ああ、誰か今だけ俺の聴覚を麻痺させてくれ)
ハルヒ「でも、これじゃあ民間療法を試せないわね……」
キョン(お前はやっぱり、ネギを突っ込むつもりだったのかよ!!)
鶴屋「うぅ……すぅ……すぅ……」
ハルヒ「みくるちゃん、鶴ちゃんのことお願いね」
朝比奈「はぁい」
キョン「朝比奈さん、何か手伝えることがあれば言ってください」
朝比奈「あ、キョンくん」
キョン「なんでしょう?」
朝比奈「(長門さんが昼休みに部室で待ってるって、先ほどここへ来て伝えてほしいと)」
キョン「(長門が?)」
朝比奈「(話があるそうです)」
キョン(このタイミングで長門の呼び出しとなると、鶴屋さん絡みか。もしかして、鶴屋さんの体を蝕んでいるものは何かヤバいもんのか……)
ハルヒ「キョン、何してるの?いくわよ」
キョン「ああ」
朝比奈「キョンくん」
キョン「はい、なんですか?」
朝比奈「鶴屋さんをここまで運んでくれてありがとう」
キョン「いえいえ、いつも鶴屋さんには元気を貰っていますから、そのお礼ですよ」
昼休み 部室
キョン「……」ガチャ
長門「……」
古泉「どうも」
キョン「なんで、お前までいるんだよ」
古泉「鶴屋さんのことを聞きましたよ。様子はどうだったのですか?」
キョン「どうもこうもない。太陽の笑顔が無くなった」
古泉「まさに曇天ですか。それは大変ですね。太陽は生命にとっても最も大切なものですから」
キョン「そう思うならなんか薬でも用意しろよ」
古泉「薬は毒にもなります。間違った処方をすると、容体を悪化させてしまうこともありえます。ですから、ここは慎重になったほうがいいでしょう。それが大事な方なら尚更です」
キョン(それぐらいわかってる。大事だからこそ、こうして焦ってるんだろうが。長門の呼び出しって事態にな)
キョン「長門、鶴屋さんのことなんだろ?」
長門「……」コクッ
キョン「言ってくれ」
長門「不既知型濾過性情報体」
キョン「……え?」
長門「不既知型濾過性情報体」
キョン「長門、何の話だ?」
長門「彼女の体内にいるもの」
キョン「鶴屋さんの体内にそのふきちなんとかって奴がいるのか」
長門「そう」
キョン「なんだ、それは?」
長門「情報統合思念体の亜種。様々な生物へと寄生し、寄生した生命体の情報を吸収。その後、他種の生命体へと移る」
キョン「それでどうなる?」
長門「情報を吸収された生命体は、生命機能を停止させる。これは不既知型濾過性情報体が生命体が活動するために必要な情報を持ち去ってしまうため」
キョン「……」
古泉「生きる術を持ち出してしまうということですか?」
長門「そう」
キョン「生きる術を持ち出すってなんだ?」
古泉「我々はどうやって心臓を動かしていると思いますか?どうやって脳を、目を、腕を、足を使っていると思いますか?」
キョン「そんなもの知るかよ。無意識だろ」
古泉「そう。我々は心臓を無意識で動かしている。脳の使い方も無意識のうちに学習し、使いこなしている」
キョン「それがなんだ?」
古泉「すべては情報です。生きるための情報が我々の中には存在している。道具というのは知らなければ使えませんからね」
キョン「DNAの中に説明書でも入ってるのかよ」
古泉「そう考えてもらっても構いません」
キョン「それでその説明書を奪われてどうして死ぬことになる」
古泉「目の前に用途不明の機械を置かれたら、貴方はどうしますか?」
キョン「そりゃ、触ってみるだろ」
古泉「動かし方が分からない場合は?」
キョン「放置するな」
古泉「そういうことです」
キョン「心臓も一緒だっていうのかよ」
古泉「情報を持っていかれるというのはそういうことですよ。突然起こる心臓発作の原因には長門さんのいう情報体が絡んでいるのかもしれませんね」
キョン(なんとも怖いやつが居たもんだな。即死性のウイルスかよ)
キョン「長門、そんなやつがどうして地球にいて、しかも鶴屋さんに取り付いてるんだ?」
長門「不既知型濾過性情報体はその名の通り、寄生先へ濾過し、外部からでは一切既知することができなくなる」
キョン「長門でも無理なのか?」
長門「症状が出るまでは」
キョン「症状って今の鶴屋さんの状態か」
長門「そう。情報体は既に情報をほぼ吸収しを得ている。彼女の体から出て行くのは時間の問題」
キョン「出て行ったら……?」
長門「生命活動が停止する。彼女の身体が衰弱しているのはその影響」
キョン「なんとかなるんだろ?」
長門「……」
キョン「長門」
長門「……できない」
キョン「なんでだ?!お前なら、そのなんとか情報体を丸め込めるんじゃないのか?!」
長門「不既知型濾過性情報体が吸収を終えてしまった以上、排除した時点で彼女の生命活動は停止する。既に彼女は情報を抜き取れている状態であり情報体によって生かされている」
キョン「嘘だろ、長門?」
長門「不既知型濾過性情報体は非常に獰猛で狡猾。外敵に対しては完璧な対策を取る」
古泉「抜き取った情報を消化して死ぬ、といったところでしょうか」
長門「概ね」
キョン「なら、その情報体を鶴屋さんの中に閉じ込めておけば」
長門「それでも緩やかに生命維持に支障が出始める。今から押さえ込んでも2400時間以内に死に至る」
キョン「……」
古泉「お手上げ、というやつですか」
キョン「古泉」
古泉「いえ、手はあります」
キョン「なんだ、早く言え」
古泉「涼宮さんの力です」
キョン「ハルヒの……」
古泉「願望実現能力。万能の治療薬になるはず」
長門「……」
キョン「だが、どうやるんだ?ハルヒに自分のことを自覚させるのか?」
古泉「まさか。涼宮さんが鶴屋さんの回復を心から願えば解決です」
キョン「……」
古泉「なにか?」
キョン「それなら、今日には回復するよな」
古泉「どういうことでしょうか?」
キョン「あいつは既に鶴屋さんの見舞いに行ったからな」
古泉「おお。そうでしたか。それなら話は早いですね。もう効果は出始めているのではないでしょうか?」
キョン「何故、そう思う?」
古泉「涼宮さんは友達想いな方ですから、倒れたとあれば人並みに心配し、回復を願うはずですからね」
キョン(何故だろうな。いつもの俺なら古泉の説明に諸手を挙げているところだが、漠然とした不安がある)
長門「……」
古泉「何も心配はいらないでしょう」
キョン「とにかく放課後を待ってみるか。長門、放課後ちょっと付き合ってくれ」
長門「……」コクッ
キョン(ハルヒにも鶴屋さんの回復を願うように懇願しとくか。何なら千羽鶴でも折らせるのもいいな)
教室
キョン「ハルヒ」
ハルヒ「んぁ?」
キョン「鶴屋さんの件だがな」
ハルヒ「鶴ちゃん?ああ、そうそう今日はSOS団は臨時休業だから」
キョン「え?」
ハルヒ「鶴ちゃんが心配だもの。みくるちゃんと相談して、看病してあげようって話になったのよ」
キョン「そうなのか」
ハルヒ「ええ。勿論、アンタも来るのよ?いいわね?」
キョン「なんだよ。結局休みじゃねえな」
ハルヒ「なら、別に来なくてもいいわよ?」
キョン「行くに決まってるだろ。あの人にはかなり世話になってるんだしな」
ハルヒ「そう。なら、荷物持ちよろしくね。あたしが鶴ちゃんのために健康料理つくってあげるのよ。食べれば一発で回復するわ」
キョン「ほう、そうかい」
キョン(ああ、なんだ。ハルヒなら大丈夫だな。何を不安に思うことがあったんだ、こんにゃろう。ハルヒはこういう奴じゃねえかよ)
放課後
鶴屋「もう、みくるってば心配しすぎだって」
朝比奈「でも……」
鶴屋「ちゃんと授業も出れたし、ノートもばっちりくっきり写したし、何も心配いらないね」
キョン(鶴屋さんには悪いがその言葉は信じられそうにないな。表情にいつもの温かさがない)
鶴屋「キョンくんも心配してくれるのはうれしいけどさっ。ちょろんと体がだるいだけだし」
キョン「いいじゃないですか。心配して減るものはないですよ」
鶴屋「そっかい?……キョンくんは、やさしいね」
キョン(かわいい……)
ハルヒ「おっまたせー!!さーいきましょう!!」
鶴屋「ごめんよ、ハルにゃんにまで心配かけて」
ハルヒ「気にしないの!!困ったときはお互い様じゃない!!」
キョン(こいつからそんな殊勝な台詞が聞けるとはな。これはいよいよ、鶴屋さんも全快間近かもしれん。嬉しい限りだ)
古泉「では、参りましょう」
長門「……」
ハルヒ「でも、鶴ちゃんが倒れちゃうとはねぇ。明日は槍でも降るのかしら?」
朝比奈「やりぃ!?」
鶴屋「あははは。いいねえ、鉄板の傘が……んっ……いるね、そりゃ……」
ハルヒ「鶴屋さん、大丈夫?」
鶴屋「へーきへーき、元気ビンビンっさ」
ハルヒ「そう?辛くなったら言ってね、すぐにタクシーチャーターするから」
鶴屋「あはは、うれしい」
朝比奈「鶴屋さん……」
キョン「……」
古泉「気づかれましたか?」
キョン「悪化してないか?」
古泉「長門さん?」
長門「今、不既知型濾過性情報体を彼女の中に押し込めている。しかし、消失する兆候は見られない」
古泉「どういうことでしょうか……。涼宮さんは鶴屋さんの回復を望んでいない……?」
キョン「そんなことあるかよ……」
鶴屋邸
鶴屋「さ、あがってあがって」
キョン(何回見ても鶴屋さん宅には息を呑むね。この人の家系はどうなっているのか)
朝比奈「鶴屋さん、すぐに着替えて横になってください」
鶴屋「そういうわけにもいかないっ……さ……。お茶ぐらいださないとね」
ハルヒ「そんなのいいって」
鶴屋「そっかい?それじゃあ、着替えてくるから待っててよ」
朝比奈「私もお手伝いします」
ハルヒ「あたしも。着替えている途中で倒れたら洒落にならないもの」
鶴屋「あんがと……ふぅ……」
キョン「長門も付き添ってやってくれ」
長門「わかった」
古泉「……涼宮さんの手料理に望みを託しましょう」
キョン「……」
古泉「涼宮さんならきっと叶えてくれるはずですよ。我々の望みを」
キョン「古泉……正直に言おう。ハルヒは助けてくれない」
古泉「何故、そう思われるのですか?」
キョン「ハルヒは保健室で言った。鶴屋さんの弱ったところをカメラで撮りたいとな」
古泉「……」
キョン「あいつは心のどこかで弱った鶴屋さんを見たいって思っちまってるんだ」
古泉「なるほど。鶴屋さんのあのような状態は確かに貴重ですからね」
キョン「心の底から、あいつは鶴屋さんの回復を望んじゃいない」
古泉「まだ分かりません。既に病弱な鶴屋さんを見たわけですから、これから回復へ向かうことも十分に考えられます」
キョン「だといいがな……」
古泉「……」
ハルヒ「ちょっと、キョン、古泉くん。何をぼーっとしてるわけ?ほら、今から健康料理を作るんだから、手伝いなさい」
キョン「ああ」
ハルヒ「いやー、事前に色々調べておいてよかったわ。芸が身を助けるとはこのことねー」
キョン(ハルヒ、頼むぞ。鶴屋さんを救えるのはもうお前しかいないんだ)
ハルヒ「クッキング、かいしー」
鶴屋さんの自室
ハルヒ「鶴屋さん、できたわよー!!超料理長ハルヒが作った、一発元気リゾット!!」
鶴屋「おぉ。おいしそうだねっ」
ハルヒ「ふふん。美味しいだけじゃなくて、どんな病気も一発で治るわよ」
鶴屋「ハルにゃんがそういうなら、そうだねっ」
ハルヒ「ふーふーしてあげるわね」
鶴屋「いやぁ、なんかわるいねえ。至れり尽くせりってこういうことをいうんだろうね」
ハルヒ「ふー……ふー……。はい、あーん」
鶴屋「あーんっ。……うんっ。とってもおいしっさ!!もっともっと!!」
ハルヒ「あら、もう元気になったの?」
鶴屋「ハルにゃんのおかげだねっ」
朝比奈「鶴屋さん……よかったぁ……」
長門「……」
鶴屋「はふっはふっ……うんっ。めがっさサイコーっ。こんなに美味しいリゾットははじめてにょろ。あんがとっ!もう今すぐ外で乾布摩擦したいぐらいだね!」
キョン(無理をしているのは明白だな……。頼む、ここから回復してくれ……)
朝比奈「どうぞ、鶴屋さん。お水です」
鶴屋「うん、あんがと」
ハルヒ「鶴屋さん、もういいの?半分も食べてないけど」
鶴屋「ああ、うん。あたしだけハルにゃんの手料理を食べるのは申し訳ないからねっ。あたしの食べかけでゴメンだけど、食べちゃって」
ハルヒ「え、ええ……。有希、食べる?」
長門「……」コクッ
キョン「鶴屋さん、気分はどうですか?」
鶴屋「ん?もう元気っ元気っ。なーんにも心配いらないよん」
古泉「そう、ですか……」
鶴屋「ほら、ほら、いい顔が台無しだよ、一樹くんっ」。俯いちゃだめにょろ」
キョン「(長門)」
長門「……」フルフル
キョン「そうか……」
ハルヒ「えっと……な、何か欲しいものある?」
鶴屋「ないよ。これ以上貰ったら、罰が当たっちゃうっさ。みんな、ほんとにありがと。あたし、すっごくしあわせっ」
鶴屋邸前
ハルヒ「できることはもうないわよね……」
古泉「そうですね。食欲が落ちているのは少々気がかりですが」
ハルヒ「うーん。まぁ、鶴屋さんには主治医ぐらいいるだろうし、民間療法でできるのはここまでね」
キョン(違う。現代医学の粋を結集しても鶴屋さんは元気にならない。ハルヒ、お前がどうにかしないとダメなんだよ)
朝比奈「鶴屋さん……大丈夫……でしょうか……うぐっ……」
ハルヒ「もう!みくるちゃん、何泣いてるのよ?ただの風邪じゃない。不治の病じゃあるまいし」
朝比奈「だ、って……しんぱいっ……でぇ……」
ハルヒ「よしよし。心配ないわ。あの鶴屋さんだもの。きっと元気になって通学路の坂道を走ってあがってくるわよ」
朝比奈「うっく……はい……」
キョン「ハルヒ」
ハルヒ「なに?」
キョン「……家に帰っても鶴屋さんの回復を祈っててくれないか?」
ハルヒ「ええ。当然じゃない」
キョン「助かる」
ハルヒ「それじゃ、みんな。また明日ねっ」
キョン「……っ」
古泉「涼宮さんは鶴屋さんの回復を心より願っています。これは間違いありません」
キョン「なら、どうしてだ。どうして鶴屋さんは元気にならねえんだよ。あのウイルスはハルヒの力をも無効にしちまうのか?」
古泉「それは……」
キョン「長門、ほかに手は無いのか?」
長門「ない」
キョン「どうして……」
長門「……」
キョン「あ、いや、長門、悪い。お前にも出来ないことがあるって、受け入れられないだけで……」
古泉「とりあえず今日のところは解散にしましょう」
朝比奈「は、はい……」
長門「……」コクッ
キョン「やれやれ……」
キョン(自分の無力さが今日ほど恨めしいと思ったことはないな)
翌日 学校
キョン「朝比奈さん!!」
朝比奈「キョンくん」
キョン「鶴屋さんは……?」
朝比奈「それが……それが……うぐっ……今日……おやすみしてて……」
キョン「話したんですか?」
朝比奈「電話で……すこしだけっ……でも……ぜんぜん、げんき、なくて……うぐっ……」
キョン「朝比奈さん」
朝比奈「きょんくぅぅん……」ギュッ
キョン(普段なら抱きついてくる朝比奈さんに邪な感情を芽生えさせるところだが、今日ばかりはないもない)
キョン(ただ、鶴屋さんの安否だけが気がかりだ)
キョン「朝比奈さん、今日も鶴屋さんのお見舞いに行きましょう」
朝比奈「は、はい……ぐすっ……」
キョン(何度でもやってやる。ハルヒの力ならどうにかなるはずなんだからな)
キョン(世界を作り変えちまうんだぞ、ハルヒ。なら病気の一つぐらいなかったことにできるだろ?)
鶴屋邸
鶴屋「なんだい、また来たのかい?うれしいけど、みんなに迷惑かけちゃってるから、申し訳ないね……」
キョン「そんなことは」
ハルヒ「鶴屋さん、今からまた健康料理つくるわね」
鶴屋「うん」
朝比奈「鶴屋さん……鶴屋さん……」
鶴屋「なんだい、みくる?泣きそうな顔しちゃって。しょーがないなぁ」
朝比奈「うぅ……うぐっ……」
キョン「……」
ハルヒ「有希、古泉くん。手伝って」
古泉「はい」
長門「……」コクッ
鶴屋「ほんと、あたしってしあわせだね。あははは……んっ……」
キョン「鶴屋さん、無理はしないでください」
鶴屋「……キョンくん。ちょっといいかな?訊きたいことがあるのよね」
キョン「なんですか?」
鶴屋「あたし、死ぬんでしょ?」
キョン「え……」
朝比奈「な、なにを言ってるんですかぁ!?」
鶴屋「主治医さんもただの風邪だって言ってたけど、こりゃ、そんなものじゃないっさ。もっと、別の何かでしょ?」
キョン「……」
鶴屋「長門っちからなんかきいてないっかな?」
キョン「長門は医者じゃないです」
鶴屋「普通の医者より、信頼できるんじゃない?」
キョン「……!」
朝比奈「鶴屋……さん……?」
鶴屋「あーあ……ハルにゃんがすることもーちょっと見てたかったなぁ……」
キョン「鶴屋さん!!何を弱気になってるんですか?!貴方らしくもない!!」
鶴屋「ん……そうだね。元気だけが取りえなのに、なっさけないね。ごめん、キョンくん」
キョン(糞野郎。鶴屋さんの中から出て行けよ、この病魔野郎……!!)
ハルヒ「―――もういいの?」
鶴屋「うん。あんがと」
ハルヒ「そう……」
キョン(半分も食べられないか。かなり無理をしてあれなら、相当だな……)
長門「……進行が早い」
キョン「え?」
長門「予測時間よりも速いペースで衰弱している」
キョン「どうして……」
古泉「病は気から。です」
キョン「何が言いたい?」
古泉「鶴屋さんは直感のレベルで自分は助からないと察しているようですから、その分心身に影響が出始めているのでしょう」
キョン「長門、あとどれくらいだ」
長門「1000時間ほど。ただし、これよりも短縮される可能性が高い」
キョン「……」
古泉「何か手はないでしょうか……」
ハルヒ「これ以上は邪魔になっちゃうし、帰りましょうか」
朝比奈「は、はい」
鶴屋「みんなー、ありがとねっ」
長門「……」
古泉「また、来ます」
キョン「それでは―――」
鶴屋「まって」グイッ
キョン「え?」
鶴屋「キョンくんにだけ、内緒のはなしっ。聞いてって」
キョン「なんですか?」
鶴屋「みくるともっと仲良くしてあげてくんない?」
キョン「な……?!」
鶴屋「ハルにゃんのこともあるだろうけどさっ。あたしとしては―――」
キョン「鶴屋さん……」
鶴屋「なに?やっぱ、みくるはダメかい?それだとちょっと困っちゃうよね、あははは」
キョン「違います!!どうしてそんな俺に託そうとするんですか?!朝比奈さんは貴方が守るんじゃないんですか?!」
鶴屋「だって……あたしはもうさ……」
キョン「鶴屋さん……」
鶴屋「こわい……んだ……」
キョン「え……?」
鶴屋「なんかさ……今までめがっさたのしかったし……みんなとも会えたから……今は、怖くて……」
キョン「鶴屋……さん……」
鶴屋「キョンくん……こわい……こわい……よ……」
キョン「……っ」
鶴屋「キョンくん……たすけて……」
キョン(違うんです……俺には貴方を助け出すだけの力なんてない……)
キョン(宇宙的、未来的、超能力的な力はない。ましてや、世界を変えるだけの力もない……!!役立たずなんです……)
キョン「す、いません……」
鶴屋「うっぐ……ううん……ごめんっ、キョンくんっ。あたし、こんなに幸せだったのに、これ以上は強欲っさ。あんがと、キョンくん。ばいばいっ」
キョン「……」
鶴屋邸前
ハルヒ「キョン、何してたの?」
キョン「……ハルヒ。よく聞いてくれ」
ハルヒ「え?」
キョン「三年前のことだ」
ハルヒ「三年前?」
古泉「待ってください」
キョン「とめるな」
古泉「それはまだ早い」
キョン「これしかねえんだよ、古泉!!」
古泉「しかし!」
キョン「なら、何か解決法を出しやがれ!!!今すぐにな!!!」
朝比奈「あ、あのぉ……」
長門「……」
ハルヒ「ちょっと、キョン。どうしたのよ?何をそんなに怒ってるわけ?」
キョン「……」
ハルヒ「鶴屋さんのことで気が立ってるのは分かるけど、古泉くんに当たってもどうしようもないでしょ?それに鶴屋さんはただの風邪だし」
キョン「違う!!」
ハルヒ「え……」
古泉「落ち着いてください」
キョン「古泉!!お前はこのままでいいと思ってるのかよ?!」
古泉「……」
キョン「長門!!お前はどうなんだ?!」
長門「……」
キョン「朝比奈さん……」
朝比奈「ご、ごめんなさい……わたし……わたし……なにもできなくて……」
キョン(助けてって言われたのに……やっぱり……なにもできないんだなぁ……おれってやつは……がっかりだぜ。心底な)
ハルヒ「キョン、そんなにカッカしてあんたらしくないわよ。カルシウム足りてないんじゃない?」
キョン(足りてたら、ここまで怒鳴らなかったのかね。よくわからん)
ハルヒ「さては、あたしのあげたレシピ、ちゃんと試してないわね?あれにはきちんとカルシウムも計算さてれてるし、心も体も健康になれるのよ?帰ったら試しなさいよ」
古泉「……!」
キョン「……レシピ?」
ハルヒ「渡したでしょ?なに、忘れちゃったわけ?なにやってんのよ、アホキョン」
キョン「ハルヒ。あのレシピは健康になれるのか?」
ハルヒ「もっちろん」
キョン「無病息災を願う料理ってことだったよな!?」
ハルヒ「そ、そこまで大げさじゃないけど。ま、あれさえ食べていれば病気をすることなんてないわね。何せ、キョンのは特別健康に気を遣ったレシピですもの」
キョン「ハルヒ!!」
ハルヒ「な、なによ?」
キョン「ありがとよ。それしかねえよ」
ハルヒ「はぁ?」
キョン「古泉、やってみるぞ」
古泉「ええ。試す価値は十分にあるかと」
ハルヒ「ちょっと、ちょっと。なによ?どうしたの?」
キョン「万能薬が見つかったかもしれない。お前のおかげでな」
ハルヒ「もう、なんで急に買い物なんて……」
朝比奈「涼宮さん、これもですよね」
ハルヒ「ええ、そうよ」
長門「コンニャク」
ハルヒ「有希、コンニャクは違うわ」
長門「ちくわ」
ハルヒ「おでんでも食べたいの?」
古泉「涼宮さんがアンタの健康のために作った料理。それこそ万能薬に違いないでしょう」
キョン「俺にしか効かないってオチはないよな?」
古泉「正直に言えば、その可能性もあります。しかし、もう無病息災を願い作られた健康料理にかけてみるしかありません」
キョン「俺のが失敗しても長門のを試す。それでも無理なら朝比奈さんもの古泉のも試す、それで無理なら、ハルヒに言うぞ。魔法の言葉をな」
古泉「僕は貴方の料理で大丈夫だと思いますので、その心配はしていません」
キョン「何故だ?」
古泉「料理に最も必要なのは愛ですから。貴方のためを想って作られた料理ならその効能はどんな薬にも勝るはずですから」
キョン「ふん。まだ安心はできないんだ。ぬか喜びにならないことを願ってろ」
鶴屋邸
キョン「鶴屋さん」
鶴屋「……ん?どしたの?なんか、嬉しそうだね」
キョン「一口だけ、食べてもらいたいものがあるんです」
鶴屋「なんだい?」
ハルヒ「これよ。あーん、して」
鶴屋「う、うん……あーんっ」
古泉「どうでしょうか?」
鶴屋「うん、おいしいっさ。あんがと」
ハルヒ「いいのよ」
鶴屋「でも、なんで、急に?」
ハルヒ「どうしてもキョンたちが鶴屋さんにこれを食べさせたいっていうから。あたしは迷惑だって言ったんだけど」
キョン(いってねーだろ、おいっ)
鶴屋「あははは、そうなんだ。いやー、そこまで心配されてるとはね。ただの風邪なのに大げさにょろ」
ハルヒ「そうよねー」
ハルヒ「これで満足した?」
キョン「……」
長門「……」コクッ
キョン「……ああ。大満足だぜ、ハルヒ。ありがとな」
ハルヒ「べ、べつに……あたしだって、鶴ちゃんのこと心配だし、名誉顧問に休まれるといざってときに困るじゃないの」
キョン「そうだな」
鶴屋「……あ」
朝比奈「それじゃあ、また、明日ね、鶴屋さん……うぐっ……うぅぅ……」
鶴屋「ちょいと、みくる、どうしたのさ?」
朝比奈「だって……だってぇぇ……うぅぅぅ……」
鶴屋「あーあー、みくるは泣き虫なんだからぁ」
ハルヒ「そーよ。それにしても鶴ちゃん、ちょっと顔色よくなったわね」
鶴屋「そっかい?今の料理がズガンっと効いたかなっ?」
ハルヒ「そう。それじゃあね、鶴ちゃん」
鶴屋「うん。ホントにあんがと!!ハルにゃん!!キョンくん!!みくる!!長門っち!!一樹くん!!」
駅前
ハルヒ「またね、みんな!!」
キョン「おう」
古泉「助かりましたね……」
キョン「まぁな……。ハルヒのおかげであり、ハルヒの所為だけどな」
古泉「心から願わなかったことを気にしているのですか?」
キョン「気にしてないって言えば嘘になるな」
古泉「誰しも心の底から願うことは難しいものですよ。知的好奇心の欠片が残っていれば、尚のことです」
キョン(そう。俺もハルヒを責めることはできない。俺だって鶴屋さんの弱った表情を見て、可愛いだのなんだの想ったわけだし。俺がハルヒの立場だったとしても、同じことになっていただろう)
古泉「それに、涼宮さんの中では鶴屋さんが患っているのは不治の病ではなく、単なる風邪。ですからね。我々とは深刻度がまるで違っています」
キョン「分かってる」
古泉「それでは、この辺で」
キョン「おう」
朝比奈「あの……キョンくん……」
キョン「朝比奈さん?」
朝比奈「ありがとう、鶴屋さんのこと……」
キョン「俺はなにもしていませんよ。ハルヒが作った万能料理のおかげです」
朝比奈「ううん。それだけじゃないの。鶴屋さんのこと一番心配していたのってきっとキョンくんだから」
キョン「そんなことは。朝比奈さんだって心配していたでしょう?」
朝比奈「そうだけど。でも……」
キョン「朝比奈さん?」
朝比奈「ごめんなさい。なんでもないの。とにかく、鶴屋さんを助けてくれてありがとう。本当に感謝してます」
キョン(もしかして朝比奈さんにもハルヒ同様、心の底から鶴屋さんの回復を願いものがあったのだろうか)
キョン「朝比奈さん。俺も同罪ですから」
朝比奈「キョンくん……」
キョン「だから、気にしないでください」
朝比奈「ありがとう……。またね」
キョン「はい。お気をつけて」
キョン「……長門」
長門「なに?」
>>156
キョン(もしかして朝比奈さんにもハルヒ同様、心の底から鶴屋さんの回復を願いものがあったのだろうか)
↓
キョン(もしかして朝比奈さんにもハルヒ同様、心の底から鶴屋さんの回復を願えないものがあったのだろうか)
キョン「悪かった」
長門「……」
キョン「お前ならなんとかできるだろうって思ってて、変な期待をずっとしてて……えっと……」
長門「私の力不足。貴方の指摘は正しい」
キョン「そんなことあるかよ!」
長門「……」
キョン「長門に何度命を救われていると思っているんだ。お前はむしろ半年ぐらい有給休暇を与えたいぐらいなんだぜ?」
長門「……」
キョン「料理、手伝ってくれてサンキュ」
長門「構わない」
キョン「また、明日な」
長門「……」コクッ
キョン「ふぅ……」
キョン(凡庸な奴もそら必要だろうけど。こういうときぐらい、秘めたパワーが開花してもいいんじゃないだろうか)
キョン(ま、そう都合よくいけば、毎回ハルヒに振り回せることもないんだよな。全く、世界はよく出来てるな)
翌日 キョン宅
キョン「いってきまーす」
妹「まーすっ!!」
キョン「ん?」
妹「あーつるちゃんだぁ!!」
鶴屋「やぁやぁ、キョンくんっ!!そして妹ちゃん!!元気っかい?!」
キョン「ええ。とても」
妹「げんきだよーっ」
キョン「体はもういいんですか?」
鶴屋「うんっ。もうガッツマックス、エネルギー充填200パーセントっ!!もうね、今なら富士山はおろか、エベレストだってこの服装で踏破できる気分だねっ!!」
妹「すごーい!!」
鶴屋「そうさっ!あたしはめがっさ、すごいっ!!!」
キョン(よかった。いつもの鶴屋さんだ)
鶴屋「一緒にいこっか、キョンくん」
キョン「よろこんで」
鶴屋「キョンくん、あんがと」
キョン「え?なんのことですか?」
鶴屋「またまた、照れちゃって」
キョン「いえいえ。本当のことですよ。鶴屋さんは自力で病魔に打ち勝ったんですから」
鶴屋「そっかい?ま、キョンくんがいうならそういうことにしとこうかっ」
キョン「ええ、そうしておいてください」
鶴屋「ふふっ……みくるが放っておかないわけだ」
キョン「どういう意味ですか?」
鶴屋「なんでもっ。あ、キョンくんっ、自販機はっけーん!!何飲むにょろ?」
キョン「うーん……登校中なのでお茶にしておきます」
鶴屋「そっかい。ほい!」ピッ
キョン「どうも」
鶴屋「いやいや、これぐらいはねー」
キョン「お、鶴屋さん、当たりが出ましたよ。もう2本いけるみたいです。どうしますか?」
鶴屋「え?この自販機は当たりなんて……あははは。あー、こりゃやられちゃったねぇ。んじゃ、おしるこ2本もらっちゃうっ!!」
鶴屋「あー、あったまるにょろ」
キョン「よかったですね」
鶴屋「うんっ。ホントに。こんなに楽しいこと、ほかにはないねっ!!」
キョン「ええ、そうですね」
鶴屋「お、おぉ?!キョンくんもあたしと一緒に居られてうれしいっかな?!」
キョン「そりゃあ……まぁ……」
鶴屋「そーかい、そーかい。ふふーん。なら、今日は出血大サービスだよん!!しっかり、見といておくれ!!」
キョン「え?」
鶴屋「これをこーして……ほい。ポーニテールっ」
キョン「……!!」
鶴屋「どうにょろ?似合うかい?」
キョン「はい。とても」
鶴屋「これ、みくるには内緒だからね、あとハルにゃんにも」
キョン「言いませんとも。理由は分かりませんが、鶴屋さんがそういうなら!!」
鶴屋「あはははは!!いいねー、キョンくん!!そのノリ、サイッコー!!あははははは!!」
>>164
鶴屋「これをこーして……ほい。ポーニテールっ」
↓
鶴屋「これをこーして……ほい。ポーニーテールっ」
鶴屋「おとと、ここまでだね」
キョン「え?」
鶴屋「後ろ」
キョン「後ろって……」
ハルヒ「おはよう、キョン。鼻の下、伸びてるわよ?」
キョン「え……!?そんなことは……!!」
ハルヒ「バカ……。そんなにみたけりゃ、言えばいいでしょうが……」
鶴屋「それじゃあね、キョンくん。また、あとで!!」
キョン「はい」
鶴屋「お、そーだ!!キョンくーんっ!!!」
キョン「なんですか?」
鶴屋「あたし、キョンくんのことだーいすきっだからっ!!」
キョン「は……!?」
ハルヒ「……?!」
鶴屋「あははははは!!!おしるこ、あんがとっ!!キョンくんっ!!」
キョン「は……!!!!」ジョボボボボボボボボ
鶴屋「あははははは!!!おしっこ、あんがとっ!!キョンくんっ!!」ゴクゴク
ハルヒ「どういうことよ……!!キョン……!!」
キョン「ま、まて、ハルヒ!!あれは鶴屋さん流の挨拶だろ!!」
ハルヒ「やっぱり、ポニーテールか!!こんちくしょう!!!」
キョン「落ち着け!!おい!!」
ハルヒ「うがぁー!!!」
鶴屋「あっはっはっはっは。やっぱり、こうして見てるのが面白いね」
鶴屋「今回はちょろんと関わり過ぎちゃったけど……まいっか」
鶴屋「おしるこ、おいしいねっ」
鶴屋「……また、あそぼっ。キョンくんっ」
キョン「ハルヒ!!いてえ!!ひっかくなぁ!!」
ハルヒ「今、髪を伸ばしてるんだからね!!!」
キョン「しらんわっ!!」
おしまい。
>>165
鶴屋「これをこーして……ほい。ポーニーテールっ」
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鶴屋「これをこーして……ほい。ポニーテールっ」
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