アスカ「バレンタインデーにチョコ?」(158)

ヒカリ「うん、日本のバレンタインデーはチョコを渡すのよ」

アスカ「ふーん」

ヒカリ「……あんまり興味なさそうね?」

アスカ「だって、私、付き合ってる人いないし」


ヒカリ「日本では別に付き合っていなくても、あげていいのよ」

アスカ「そうなの?」

ヒカリ「うん。好きな人、憧れている人、日頃お世話になっている人……そういう人にあげるの」

アスカ「へぇ」

アスカ「じゃあ、2月14日はチョコ食べ放題ね!」

ヒカリ「……なんで?」

アスカ「だって、私に憧れている人なんて、くさる程いるでしょ?」

ヒカリ「そうだと思うけど……あ、そっか」

アスカ「なに?」


ヒカリ「日本のバレンタインはね、女の人が、男の人にあげるの。ドイツとは逆よ」

アスカ「……はぁ!?」

ヒカリ「え、ええ?」

アスカ「なんで女性が損しないといけないのよ!!」

アスカ「えー……」

アスカ「納得いかない……どうして、そんなことがまかり通っているの……」

ヒカリ「あのね、アスカ、バレンタインはね」

アスカ「なによ?」


ヒカリ「そ、その……日頃、伝えられない感謝や想いを、告げる機会を与えてくれる日っていうか……」

アスカ「……」

ヒカリ「なかなか言えないことってあるでしょ? それをね、チョコに込めて渡すのよ」

アスカ「……」


ヒカリ「アスカ?」

アスカ「なるほど。概ね理解したわ」

ヒカリ「ほんと?」

アスカ「でも、解せないわ。告白なんて、好きな時にしたらいいじゃない」

ヒカリ「だ、だから、そういう勇気がもてない人もいるから!」

アスカ「そうかもしれないけどー」


ヒカリ「あ、それとね! 最近は友チョコっていうのも流行っててね」

アスカ「友チョコ?」

ヒカリ「うん。女の子同士でね、友達にあげるのよ」


アスカ「……間違ってたらごめんだけど、それってバレンタイン関係あるの?」

ヒカリ「……えーっと……」

アスカ「チョコ繋がりじゃない! チョコの売り上げを伸ばすために誰かが企てた陰謀よ!」

ヒカリ「わぁー……その手の話、久々に聞いたよ……」

アスカ「駄目よ、ヒカリ、大人に騙されちゃ」

ヒカリ「うーん……アスカにチョコ、あげようと思ったんだけどな」

アスカ「それは貰うわ」

ヒカリ「え、え?」

アスカ「バレンタイン関係なくってことでよろしく」

ヒカリ「いいけどさぁ……」


ヒカリ「……あ、でも、アスカ」

アスカ「なに?」

ヒカリ「碇君には、チョコ、あげるよね?」

アスカ「……はぁ?」

アスカ「……なんで、私があのバカにそんなものあげなくちゃいけないのよ」

ヒカリ「えっと」

アスカ「変なこと言ったら、ぶっとばすわよ」


ヒカリ「……」

アスカ「……」

ヒカリ「……」

アスカ「……」


ヒカリ「……そ、そう、感謝!」

アスカ「あん?」

ヒカリ「感謝のね、思いを込めて!!」

アスカ「感謝ぁ~?」

アスカ「なんで、私が感謝しなくちゃいけないのよ」

ヒカリ「だ、だって、いつもお世話になってるでしょ?」

アスカ「なってないわよ!」

ヒカリ「……ほら、ご飯とか、作ってもらってるんじゃ」

アスカ「むしろお世話してる!!」


ヒカリ「……」

アスカ「……」


ヒカリ「……そ、そっか」

アスカ「そうよ」

ヒカリ「でも、本当にいいの?」

アスカ「……なにがよ?」

ヒカリ「チョコ、あげない?」

アスカ「あげない」


ヒカリ「……ほんとに?」

アスカ「あげない!」

ヒカリ「ふーん……」

アスカ「……」



アスカ「…………」

ミサト「……んっんっ」ゴクゴク

アスカ「……」

ミサト「……んっんっ」ゴクゴク

アスカ「……」


ミサト「ぷっはぁー! 今日もシンジ君のご飯と、ビールが美味いっ!!」

アスカ「……ミサト、おやじ臭い」

ミサト「なによぉー、アスカだって美味しいでしょ、ご飯ー」

アスカ「別に……普通でしょ、これくらい」


ミサト「普通じゃないわよ!」ドンッ

アスカ「な、なんでよ」

ミサト「学校行って、エヴァの訓練して……見知らぬ土地で中学生の男の子が一人……まぁこれはアスカも同じだけど……」

アスカ「……」

ミサト「その上、家事をこなして、私たちの分までご飯を作ってくれるのよ」

アスカ「……」

ミサト「これが普通なら、世の中学生全員、NERVの職員として働いてもらいたいくらいよ」

アスカ「……」


アスカ「……なら、ミサトがご飯、作ればいいじゃない」

ミサト「それは無理ー! シンジくーん! いつもありがとー!!」

シンジ「―――ちょっと、ミサトさん、飲みすぎじゃないですか?」


ミサト「あ、シンジくーん! ご飯美味しいわよ―」

シンジ「はいはい」

ミサト「はぁ、幸せ……シンジ君、私がお婆ちゃんになったら、介護よろしくね」

シンジ「いつの話ですか……まだ若いのに」

ミサト「キャー! ちょっと聞いた、アスカ!? まだ若いですって!」


シンジ「……はぁ」

アスカ「こんな大人にはなりたくないわね」


ミサト「キャーキャー!!」

アスカ「……でも、感謝、かぁ」ボソッ


シンジ「なにか言った?」

アスカ「なんでもないわ」

シンジ「そう?」

アスカ「……」


ミサト「シンちゃん、シンちゃん」

シンジ「はい?」

ミサト「吐く」

シンジ「吐きそうとかじゃなくて断定ですか!? トイレ連れていきますから、少しだけ堪えてください!」

ミサト「ううう……」オエッ



アスカ「…………」

―――『いらっしゃいませー』


アスカ「……」

アスカ「……」

アスカ「お菓子、お菓子……」


アスカ「……」

アスカ「……」

アスカ「……」


アスカ「……あった、ここね」

アスカ「……」

アスカ「チョコって、どういうのが……」

アスカ「……」

アスカ「……」


アスカ「ポッキー……とかよりは、普通の板チョコ?」

アスカ「……」

アスカ「……」


アスカ「100円……?」

アスカ「こんなので、いいのかしら?」


アスカ「……」

アスカ「……!」

アスカ「バレンタインフェア……」


アスカ「……」

アスカ「いろいろ、あるのね……」

アスカ「……」

アスカ「……」


アスカ「義理と……本命?」

アスカ「……なに、それ」


アスカ「……」

アスカ「……」

アスカ「……ああ、そういう……」

アスカ「……私は、当然」

アスカ「……」

アスカ「……」


アスカ「…………義理、よね」

アスカ「感謝、だし」

アスカ「……」

アスカ「……うん」


アスカ「……」

アスカ「……どれに、しよう」

ヒカリ「―――あれ、アスカ?」

アスカ「……!」ビクッ


ヒカリ「こういうとこで会うの、珍しいね」

アスカ「……」

ヒカリ「なにを買いに来たの?」

アスカ「……夕飯」

ヒカリ「え?」


アスカ「夕飯の、おかずの、その……足りなくて」

ヒカリ「ああ、おつかいなんだ」

アスカ「そ、そうよ、バカシンジのやつ、私をおつかいに行かせるなんて、生意気!」

ヒカリ「あはは」


アスカ「ヒカリは、なにしてんのよ」

ヒカリ「私? 私は……」

アスカ「……」

ヒカリ「えーっと……」


アスカ「……バレンタインのチョコ、買いに来たんだ?」

ヒカリ「!」ピク

ヒカリ「ま、まぁ、そう、かな? そうだね!」

アスカ「……鈴原にあげるんだ?」

ヒカリ「な、なんで、そこで鈴原の名前っ!」


アスカ「……」ジトー

ヒカリ「……」

アスカ「……」


ヒカリ「う……そ、そうです、鈴原にあげるためのチョコを買いに来ました」

アスカ「やっぱり」

ヒカリ「で、でもね、アスカにあげる分もだよ!」

アスカ「別に私の分なんて、ついででも構わないわよ」

ヒカリ「そんな気はないけど……」

アスカ「……で、どんなチョコ、あげるの?」


ヒカリ「うーん、やっぱり手作りにしようかなって」

アスカ「手作り? どうして?」

ヒカリ「だって、やっぱり、本命チョコは手作り……」


アスカ「……」

ヒカリ「……じゃ、じゃなくて、あ、あの」

アスカ「……」

ヒカリ「や、安上がりになるから! 手作りの方が!」

アスカ「ふーん」

ヒカリ「……絶対、信じてないじゃん……」

アスカ「ま、ね」

ヒカリ「……」


アスカ「そうねぇ、本命ねぇ……」

ヒカリ「……」

アスカ「それだけ、ヒカリの気持ち、込めてれば美味しくもなるわよね」

ヒカリ「ううう……」

ヒカリ「も、もういいでしょ! 私、行くからね!」

アスカ「―――ちょっと待って!」ガシッ


ヒカリ「……なに?」

アスカ「……」

ヒカリ「アスカ?」

アスカ「……」


アスカ「……て、手伝って、あげよっか?」

ヒカリ「……え?」

アスカ「……だから、チョコ、作るの……手伝ってあげるわよ」

ヒカリ「え、でもこういうのって、一人で……」


アスカ「……」

ヒカリ「……あ、そっか……」

アスカ「……」

ヒカリ「そうだね、うん! アスカにも手伝って貰っちゃおっかな!」

アスカ「……うん」


ヒカリ「ん、頑張ろうね!」

アスカ「……ええ」

ヒカリ「―――それでね、溶かしたやつを、冷水と温水で、温度調節しながら……」


アスカ「……」

ヒカリ「うん、これを型に入れて、コーティングすれば、完成だよ!」

アスカ「……え、お終い?」


ヒカリ「そうだけど」

アスカ「溶かして固めただけじゃない?」

ヒカリ「……で、でもさ、こういうのって気持ちの問題だから」

アスカ「そうかもしんないけど……」

アスカ「あれ?」

ヒカリ「なに?」


アスカ「あのレシピ本って」

ヒカリ「……! ……こ、これはね」

アスカ「ちょっと見せて」

ヒカリ「……だめ!」


アスカ「……」ペラッ

ヒカリ「……ああ」

アスカ「ねぇ、ヒカリ?」

ヒカリ「……なぁに」


アスカ「この本、ずいぶん読み込んであるわね」

ヒカリ「……」

アスカ「しかも、チョコケーキのベージ、ハートマークでいっぱいだし……」

ヒカリ「……」


アスカ「……まさか、私がいるからって、簡単なやつにしたんじゃないでしょうね?」

ヒカリ「……」

アスカ「ヒカリ」

ヒカリ「は、はい」

アスカ「これ、作るわよ」

ヒカリ「今から!?」


アスカ「当然でしょ」

ヒカリ「でも、もう夜だし……」

アスカ「さっき、ヒカリの保護者には泊まらせてもらえるようにお願いしてきたわ」

ヒカリ「いつの間に!?」


アスカ「うちにも連絡済み。逃げ場はないわよ」

ヒカリ「アスカって、ほんとアスカだよね……」

ヒカリ「でもね、お菓子作りって、ちょっとも分量を間違えられないから、けっこう難しいのよ」

アスカ「覚悟は出来てるわ」

ヒカリ「……でもぉ」

アスカ「お菓子作りのっていうか、徹夜のだけど」

ヒカリ「ええー……」


アスカ「お願い! ヒカリ!」

ヒカリ「……はぁ、分かった。どうせ、アスカの頼みは断れないもん」

アスカ「ありがと!」


ヒカリ「じゃ、頑張ろっか」

アスカ「ええ!」

―――チュン、チュン


アスカ「終わった……」

ヒカリ「本当に、朝になっちゃたね……」

アスカ「疲れた……」

ヒカリ「でも、完璧に出来たよ……」


アスカ「はぁ……」

ヒカリ「後は、渡すだけだね……」

アスカ「渡す……?」


ヒカリ「うん……え?」

アスカ「渡すって……これを?」

ヒカリ「考えてなかったの?」


アスカ「……でも、こんなの渡したら……」

ヒカリ「……」

アスカ「……ヤバイでしょ、さすがに」

ヒカリ「大丈夫だと思うけど」


アスカ「ハートのチョコとか、乗っちゃってるし……」

ヒカリ「可愛いよ!」

アスカ「……ヒカリ」

ヒカリ「うん?」

アスカ「今、食べちゃおっか」

ヒカリ「やめてよ! 私の徹夜まで無駄になっちゃうよ!」


アスカ「まぁ、そうよね……それは申し訳ないわ……」

ヒカリ「そうして欲しいな」

アスカ「渡す……渡すのか……」

ヒカリ「……」


アスカ「……グチャッ! ってしたくなるわね」

ヒカリ「やめてよ!」

ヒカリ「―――おはよー、みんな」

アスカ「……」


ヒカリ「……アスカ? どうしたの?」

アスカ「なんなの、この……なんなの?」

ヒカリ「なにが?」

アスカ「……空気っていうか、みんなソワソワしてる感じっていうか……」


ヒカリ「あー……バレンタインって、こんな感じなのよ」

アスカ「教えときなさいよ……」

アスカ「そもそも、いいの? こんなの持ってきて」

ヒカリ「この学校、そういうのは寛容だから」

アスカ「……そう」

ヒカリ「違う学校だとね、持ってるのバレたら、没収されたりするんだって」

アスカ「それは災難ね」

ヒカリ「ねー」


アスカ「……あ」

ヒカリ「ん?」

アスカ「バカシンジ」

ヒカリ「……どこ?」

アスカ「校門のとこ」

ヒカリ「んー……? 見えない」

アスカ「ほら、あそこあそこ」

ヒカリ「えーっと……いたいた、ほんとだ」


アスカ「とぼとぼ歩いてるわね」

ヒカリ「えー、普通だよ」

アスカ「覇気がないわね、覇気が」

ヒカリ「そんなことないってば」


アスカ「……あっ」

ヒカリ「今度はなに?」

アスカ「あれ……って」

ヒカリ「……あ」

アスカ「……」

ヒカリ「……チョコ、貰ってるみたいだね」


アスカ「……」

ヒカリ「ほら、でも、碇君ってさ、ヒーローみたいなものだから」

アスカ「……」

ヒカリ「そういう意味での、だと思うから、義理だよ、うん」


アスカ「……」

ヒカリ「……」

アスカ「……私だって」

ヒカリ「え?」

アスカ「私だって、義理よ」

ヒカリ「そ、そっか、そうだよね、ごめん」


アスカ「……」

ヒカリ「……」

アスカ「……」

ヒカリ「……」


アスカ「……でも、ちゃんと渡すから、安心して」

ヒカリ「……うん!」

シンジ「……っと」



ヒカリ「ほら、碇君、来たよ」

アスカ「え、え、今渡すの?」

ヒカリ「早く渡した方が、楽だって」

アスカ「……でも」


ヒカリ「そんな悶々とした状態で、授業なんて受けられないでしょ、ほら」トンッ

アスカ「ちょ、ちょっと、押さないでって」

アスカ「……あっ」

シンジ「あ、アスカ、おはよう」


アスカ「……」

シンジ「昨日は委員長の家に泊ったんだって?」

アスカ「……うん」

シンジ「委員長とアスカはほんとに仲良いよね」

アスカ「……」

シンジ「でも、アスカがいないから、昨日はミサトさんの相手するのが大変だったよ」

アスカ「……」

シンジ「……アスカ?」

アスカ「な、なによ!」

シンジ「どうしたの? 体調でも悪い?」

アスカ「……別に、なんともないわよ」

シンジ「そう? それならいいんだけど」

アスカ「……」

シンジ「……?」


アスカ「し、シンジ!」

シンジ「ん?」


アスカ「あの―――」

トウジ「―――なんや、けったいなもん持っとるやないか」


アスカ「……!」

シンジ「あ、トウジ。おはよう」


トウジ「おはようさん。朝から仲良いなぁ、お二人さん」

シンジ「べ、別にそんなことないと思うけど」

アスカ「……」


トウジ「あー! せやなぁ、今日はなんて言ってもバレンタインデーやもんな!」

アスカ「……」

トウジ「その箱はつまり、そういうことか! かぁ~、ほんまこっちが火照ってくるわ!」

アスカ「……」

ヒカリ「―――鈴原!!」

トウジ「な、なんや、そんな怖い顔して」

ヒカリ「この……!!」


アスカ「いいわよ、ヒカリ」

ヒカリ「でも……」


シンジ「そうだよ、委員長。別に言わなくても分かってるから」

ヒカリ「……え?」

シンジ「アスカが僕にチョコなんて、そんなの、あるわけないじゃないか」


アスカ「……っ!」

アスカ「……」

ヒカリ「……い、碇君、これはね」


アスカ「やめて、ヒカリ」

ヒカリ「アスカ?」

アスカ「…………なにが、バレンタインデーよ、ばっかみたい」

ヒカリ「アスカ……」


アスカ「私は、ただ、机の上に置いてあったゴミを捨てようとしただけ」ポイッ

ヒカリ「……あ」

アスカ「アンタたちも、浮かれてんじゃないわよ。ここは学校よ? 勉強する場所なの」

シンジ「……えっと」

トウジ「……お、おう」


アスカ「……」

ヒカリ「……」


アスカ「……ヒカリ」

ヒカリ「なに?」

アスカ「私……早退するから。先生に、そう言っておいて」

ヒカリ「ま、待って!」


アスカ「……」スタスタ

ヒカリ「待って……」

ヒカリ「……」

シンジ「……」

トウジ「……」


ヒカリ「……碇君」

シンジ「……なに?」

ヒカリ「ゴミ箱のそれ、持ってついて来て」

シンジ「で、でも」


ヒカリ「いいから!」

シンジ「う、うん」

ヒカリ「ここなら、誰も来ないかな」

シンジ「……そうだと思うけど」


ヒカリ「どうしてついて来てって言ったのかは、分かるよね?」

シンジ「アスカのことだよね?」

ヒカリ「うん」

シンジ「……」


ヒカリ「その箱、開けてみて」

シンジ「……? うん」

シンジ「これは……」

ヒカリ「ぐちゃぐちゃになっちゃたみたいだけど、匂いで分かるでしょ?」


シンジ「チョコケーキ……だ」

ヒカリ「そうだよ。昨日、アスカが徹夜で作ったやつ」

シンジ「……」

ヒカリ「私の家に泊まったの知ってるでしょ、そういうことだよ」

シンジ「……」


ヒカリ「アスカが、碇君のために作った……チョコケーキ」

シンジ「……」

ヒカリ「何回も失敗しちゃってさ、アスカってあんまり料理は得意じゃないみたい」

シンジ「……」

ヒカリ「それでもさ、最終的には上手に出来てね、見た目もすっごく可愛くて」

シンジ「……」


ヒカリ「後は、渡すだけって、二人で話して……」

シンジ「……」

ヒカリ「碇君が他の女の子にチョコ貰っても、それでも渡すって、そう言ってたんだ……」

シンジ「……」

ヒカリ「ねぇ、碇君」

シンジ「……なに?」

ヒカリ「アスカの態度もよくないけど、碇君の言葉もよくないよね」

シンジ「……」


ヒカリ「私も、自分に自信のある方じゃないから、気持ちは分かるけど」

シンジ「……」

ヒカリ「でもさ、アスカの心をさ、知ってるわけでもないのに……貰えるわけないって、どうしてそんなこと言っちゃうの?」

シンジ「……」

ヒカリ「そういう人を傷つけちゃう優しさは、一番よくないよ……」

シンジ「……」

ヒカリ「これが最後の質問だけど」

シンジ「うん」

ヒカリ「この後、どうすればいいのか……分かるよね?」

シンジ「……うん」

ヒカリ「そっか……それなら、もういいんだ。ごめんね、偉そうに」

シンジ「ううん、話してくれて、ありがとう」


ヒカリ「……」

シンジ「……委員長」

ヒカリ「なに?」

シンジ「今から、ちょっと下品なことするけど、見逃してね」

ヒカリ「……え?」

シンジ「……」ガシ

ヒカリ「……!」


シンジ「……」パクッ

ヒカリ「……」

シンジ「……」モグモグ

ヒカリ「……」


シンジ「ははっ、美味しいや」

ヒカリ「……でしょ?」

シンジ「こんな美味しいケーキ、初めて食べた」

ヒカリ「アスカにも……そう言ってあげて」


シンジ「……うん!」

アスカ「……」


アスカ「……」

アスカ「……」

アスカ「……」


アスカ「……」

アスカ「……」


アスカ「……」

コンコン


アスカ「……!」


『アスカ、家に帰ってたんだ』


アスカ「……」


『少し、探したから、遅れちゃった』


アスカ「……」


『ここ、開けても良いかな』


アスカ「……嫌」


『そっか。じゃあ、このまま話すね』

『委員長にさ……話、聞かせてもらったよ』


アスカ「……」


『ごめん。僕、なにも知らなくて……もちろん、それで言い訳するつもりじゃないけど』


アスカ「……」


『嬉しかったよ、すごく』


アスカ「……」


『それから、ケーキも食べた。本当に美味しかった』


アスカ「……!」

アスカ「……食べたんだ」


『うん』


アスカ「あんな、ゴミみたいなやつ」


『ゴミなんかじゃないよ。世界一美味しいチョコケーキだった』


アスカ「……」


『ねぇ、アスカ。ほんのちょっとだけ、扉開けるけど、許してね』


アスカ「……」

ガチャ


コトッ


……パタン



アスカ「……なにこれ」


『それさ、僕が作ったチョコなんだけど』


アスカ「……」


『みんなに作ったんだ。感謝している人、全員に』


アスカ「……」 

『でも、アスカのだけは、他のと違って、特別に作ったんだ』


アスカ「……!」


『アスカには……感謝とか、そういうのと、またちょっと違うから』


アスカ「……」


『こんなこと言うと悪いけど、昨日はアスカがいなくて助かったよ』


アスカ「……」


『良かったら、食べてもらえないかな』

アスカ「……」ヒョイ


アスカ「……」

アスカ「……」パクッ


アスカ「……」

アスカ「……」

アスカ「……」


アスカ「……」

俺「……」

―――カチャ


シンジ「あ、アスカ!?」

アスカ「……」


シンジ「えっと、その……」

アスカ「……」

シンジ「どうかな? チョコの味……」

アスカ「……」


アスカ「……甘すぎね。私の口には合わないわ」

シンジ「え、ええー?」

アスカ「だから……」

シンジ「……?」


アスカ「来年は……もっと、私の口に合うように、作りなさいよ」

シンジ「……!」


アスカ「……」

シンジ「……」

アスカ「……」

シンジ「……」

シンジ「学校、戻る?」

アスカ「今日はもう、いいわよ」

シンジ「そっか」

アスカ「後で、ミサトにお説教されるわね」

シンジ「そうだね」


アスカ「……」

シンジ「……」


アスカ「ふふっ」

シンジ「あはは」

エピローグ


トウジ「……どーぼ、ずびばぜんでじた」ボロッ


ヒカリ「土下座で駄目なら、この先一年は、アスカの奴隷になるって言ってるけど」

アスカ「……言わせたんじゃなくて?」

ヒカリ「まぁ、そうとも言うけど」


アスカ「ヒカリって、怒らせると実は一番怖い?」

ヒカリ「そ、そんなことないわよ。……ねぇ、鈴原」

トウジ「……ヒッ、そ、そやな!」


アスカ「ださっ」

アスカ「ま……アスカ様は寛大だからね。許してあげるわ」

ヒカリ「ほんと!? ……ほら、鈴原!」

トウジ「ははー……ほんま、おおきにー……」

アスカ「……」


アスカ「……で、ヒカリはどうなったの?」

ヒカリ「え?」

アスカ「だから、鈴原にチョコ、あげたの?」


トウジ「なんやて!?」ガバッ

ヒカリ「ちょっ、アスカ!」

トウジ「委員長、ワシにチョコ、くれるんか!?」

ヒカリ「あの、その……」

トウジ「もう、昨日の一件で女子共からダニ扱いされてもうて、チョコなんて一生拝めへんもんかと……」

ヒカリ「ええと……」

トウジ「ワシは、ワシは……」ウッウッ

ヒカリ「ううう……」


アスカ「あ、ごめん。これじゃ私も鈴原と変わんないわね」

ヒカリ「……」

ヒカリ「いいの」

アスカ「え?」

ヒカリ「ほんとは、私もチョコあげられなくて、困ってたから」

アスカ「そっか」


トウジ「てことは、ほんまに!?」

ヒカリ「その代わり、作ったチョコはもうないから新しく作るけど、いいよね?」

トウジ「かまへん! しかも手作りなんて、最高や!」

ヒカリ「ふふ、そっか」


アスカ「……」

アスカ「……ただいま」

シンジ「あ、アスカ、おかえり」

アスカ「……」

シンジ「ごはん、もうちょっとかかりそうだから」

アスカ「そう」


シンジ「……」

アスカ「……」

シンジ「……」

アスカ「……」

アスカ「……バカシンジ」

シンジ「なに?」


アスカ「……あの」

シンジ「……?」

アスカ「……い、一応バレンタイン、渡したんだから、ホワイトデーのお返し……」

シンジ「ああ、うん。もちろん用意するつもりだけど」


アスカ「……」

シンジ「まだ、なにかあるの?」

アスカ「……」

アスカ「わ、私も」

シンジ「え?」

アスカ「私も! アンタから貰ったから! ……だから、お返し、あげるから」

シンジ「……!」


アスカ「……」

シンジ「……」

アスカ「……」


シンジ「……そ、そっか」

アスカ「……そうよ」

俺「そうだよ」(便乗)

アスカ「言っておくけど!」

シンジ「うん」

アスカ「今度こそは、ちゃんとした、とっておきのやつだから!」

シンジ「ふふっ、うん」

アスカ「アンタが作るようなやつの、一千万倍、すごいやつなんだから……」

シンジ「負けないくらい、頑張るよ」


アスカ「……」

シンジ「……」


アスカ「……じゃあ、早くご飯、作ってよね」

シンジ「わかった」

アスカ「……はぁ」


アスカ「……」

アスカ「……」


アスカ「……」カパッ

アスカ「……」


アスカ「……」ピッピッ

アスカ「……」

アスカ「……」

アスカ「……あ、もしもし、ヒカリ?」


アスカ「うん」

アスカ「うん」

アスカ「あはは、そっか」


アスカ「あ、うん、それでね」






アスカ「……お菓子作り、ちゃんと、教えてもらおうかなって」



終劇

オワタ
季節外れなのは分かってるんだけど、某まとめでバレンタインネタ見たら書かずにはいられんかった。

もう最近は毎日のようにエヴァSS書いて投下して……これがエヴァの呪縛か。怖いわ。

ゼーレが黙っちゃいませんぜ

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom