子供「もうこんなところまで追手が・・・!」(46)

追手A「いたぞ!子供一人にてこずりすぎたな。」スタッ
追手B「へへ、追い詰めたぞクソガキ!」カシャッ
子供「っ・・・後ろは壁・・・横も壁・・・」ジリッジリッ
追手C「観念しろガキ、抵抗しなければ痛い目には合わせないからよ。」
子供「やなこった!お前らに捕まるくらいなら死んだほうがマシだ!」

ザッ・・・
追手A「誰だ!?」クルッ
追手B「男?仲間がいたのか!」チラッ
???「子供一人に3人で寄ってたかって、みっともないことこの上ないな…」
追手C「俺がガキを見張ってる、お前らでそいつをどうにかしろ」
追手A「へい、ボス」
追手B「あんちゃん、覚悟しろよ!」
???「覚悟するのはお前達だ。」ザシュッ

追手A「え・・・
追手B「な・・・

追手C「お、お前ら・・・」

???「おい、てめぇもヤルか?」ガシッ
追手C「ひっ・・・!」ドテッ
???「腰抜かして気絶・・・か・・・殺す手間が省けたか」
子供「え・・・ぁ・・・」
???「おい、お前」
子供「ひっ・・・!」
???「心配するな、危害なんか加えねぇよ・・・」
???「その証拠に、こいつら倒してやったろ」
子供「あ・・・ありが・・・」
???「おいおい、お礼なんかいらねぇよ。俺が勝手にやったことだ。」
子供「でも・・・」
???「ん?まぁ、礼くらいは受け取っておこうか。どういたしまして・・・ってな」
子供「おいら、リムトっていうんだ。名前・・・教えてくれよ」
???「ああ、名前か・・・俺はロティってんだ。普段はチンケな傭兵だよ」

リムト「ロティ…」

ロティ「で・・・」タッ・・・タッ…
リムト「ん?」テクテク…
ロティ「お前はなんで付いてくるんだ?」
リムト「カッコイイから?」
ロティ「いや、俺が聞いてるんだが・・・」
リムト「ロティはどこ行くの?」
ロティ「いや、決めてない」
リムト「そっか、それならうちに来てよ」
ロティ「は…?」ポカーン
リムト「おいら、一人だから」
ロティ「どういうことだ?」
リムト「一人なんだ」
ロティ「だからどういうことだよ?」イラッ
リムト「気づいたら一人だったんだ」
ロティ「もう少しわかりやすく・・・いや、なんでもない」
   (聞くだけ無駄か。どうせ俺はすぐ去るしな)
リムト「ずっと一人だから、友達が欲しいんだよ」ジーッ
ロティ「そんな目で見るな」
リムト「・・・」ジーッ
ロティ「・・・」フイッ
リムト「ごめん」
ロティ「・・・いや」
   「わかったよ」
リムト「え?」
ロティ「家までだ。いってやるよ」
リムト「本当?」
ロティ「本当だ」

ガチャッ・・・バタンッ

ロティ「ほう、良い家だな」
リムト「良い家かな・・・」
ロティ「ああ、俺は嫌いじゃない。この、狭さというか」
リムト「うん」
ロティ「ああ、悪い、嫌味じゃないぞ」
リムト「え?」
ロティ「俺もガキのときはこのくらいの家に住んでたからな」
リムト「本当?」
ロティ「ああ、物心付いたころから一人でな」
リムト「一緒だ」
ロティ「お前とか?」
リムト「うん」
ロティ「カンベンしてくれよ、俺はお前ほどガキじゃないぞ」ハハッ
リムト「おいらもガキじゃないぞ」
ロティ「お前はガキだろ」ツネッ
リムト「ガキじゃない!」フイッ
ロティ「・・・で」
ロティ「ここまで連れてきてどうしたいんだ」

リムト「友達」
ロティ「は?」
リムト「・・・」
ロティ「友達もいないのか」
リムト「ううん」
ロティ「なんだ、いるのか」
リムト「いないけど」
ロティ「どっちなんだ…」
リムト「おいらしかいないから」
ロティ「あ・・?この町にか?」
リムト「うん」
ロティ「そんなわけ・・・」チラッ
ロティ「・・・・」
ロティ「外には誰もいないんだな」
リムト「皆、連れていかれた」

ロティ「さっきのやつらにか?」
リムト「うん」
ロティ「・・・・」
リムト「・・・」
ロティ「いや・・・」
リムト「・・?」
ロティ「お前の親はいつ連れて行かれたんだ?」
リムト「さあ・・・」
ロティ「お前も物心付いたときから一人だったのか」
リムト「うん」
ロティ「・・・」ウーン
ロティ「来るか?」
リムト「え・・・?」
ロティ「俺は傭兵だ。」
リムト「うん」
ロティ「ここに居続けるわけにはいかないんだよ」
リムト「うん」
ロティ「一緒に来るか?」
リムト「いいの?」
ロティ「ああ、もちろんだ」
リムト「じゃあ・・・」
ロティ「ただし、俺の言うことはちゃんと聞けよ」
リムト「うん!」

ロティ「よし、じゃあ着替えを用意しな。二着あれば充分だ」
リムト「うん」イソイソ
ロティ「はは、そんなに焦らなくていい」
リムト「出来たよ」
ロティ「よし、いくか」
リムト「うん」

ガチャ・・・バタンッ

ロティ「ここにはもう、戻って来れないかもしれない」
リムト「・・・」チラッ
ロティ「それでも良いのか?」
リムト「・・・うん」
ロティ「そうか、じゃあいくか」

クルッ・・・テク・・テク・・・

リムト「ロティ」
ロティ「なんだ?」
リムト「どこにいくの?」
ロティ「そうだな。」ウーン
ロティ「とりあえずここから近い安全な都市・・・ってところか」
リムト「どこにあるの?」
ロティ「まぁ少し距離はあるが、ここから東に、数日歩けば付く場所だ」
リムト「見えないよ」
ロティ「ははは、まだ見えないさ」
リムト「あるの?」
ロティ「ああ、俺はその都市から来たからな」
リムト「戻るの?」
ロティ「ああ」

-----------------------------
リムト「おいら、一人だから」
ロティ「どういうことだ?」
リムト「一人なんだ」
ロティ「だからどういうことだよ?」イラッ
リムト「気づいたら一人だったんだ」
-----------------------------
ロティ(こいつも親の顔を知らないってことだよな)
ロティ(孤児・・・)

リムト「どうしたの?」
ロティ「ああ、いや」
リムト「・・・?」
ロティ「なんでもない」チラッ
リムト「なに?」
ロティ「それよりな、お前、年はいくつなんだ」
リムト「わかんない」
ロティ「え?」
リムト「・・・」
ロティ「ああ・・・いや、そうか。そうだな」
ロティ「俺だって自分の年は正確には・・・わからないしな」
ロティ(こいつの家で何か探すべきだったかも知れないな)
リムト「どうして?」
ロティ「え?」
リムト「ロティも何歳かわからないの?」
ロティ「え、ああ・・・俺の年はある程度はわかるんだ、正確にはわからないだけさ」
リムト「どういうこと?」
ロティ「俺もお前と同じで、いつ生まれたか知らないんだよ」
ロティ「親がいなかったからな」

ロティ「それよりだ」チラッ
リムト「?」
ロティ「歩きながら色々とお前を鍛えようと思う」
リムト「修行・・・?」
ロティ「修行か、そうだな」
リムト「何するの?」
ロティ「自分の荷物は自分で持つ。これは当たり前のこととして」
   「体力を作る修行だな」
リムト「何をするの?」
ロティ「ま・・・すぐにわかるさ」フッ・・
ロティ「じきに周りも暗くなるし、今日はこのあたりで休むか」
ロティ「背もたれに出きるくらいの木を探してみろ」
リムト「うーん・・・あ、あれかな」
ロティ「よし、そこで休むぞ」
リムト「野宿・・・」
ロティ「野宿は始めてか」
リムト「うん」
ロティ「はは、それもそうか」
ロティ「さて、お待ちかねだぞ。修行を始めるか」
リムト「修行・・・」
ロティ「とりあえずこの木のてっぺんまで登ってきな」
リムト「・・・高いよ」
ロティ「それができなかったら・・・」
リムト「できなかったら・・・?」
ロティ「そうだな。ここに置いていく」
リムト「登る・・・!」ダッ
ロティ「おお・・・早っ・・・」
   (ざっと見て10メートル以上はあるぞ・・・登りきれるのか?)

リムト「登れたぞー!」
ロティ「こいつ、やるな・・・」オォ・・・
   「よし、飛び降りろ」
リムト「え・・・?」
ロティ「そこから、飛び降りろ」
   (さすがに無理か?)
リムト「でも・・・」
ロティ「できないならゆっくり降りてもいいぞ」
   (そりゃまぁ、大の大人でも10メートルから飛び降りたら無事には澄まないしな)
リムト「・・・・!」タンッ!
ロティ「ばっ・・・まじか!」ドザッ
リムト「へへへ、飛び降りたぞ」
ロティ「こいつ・・・本当に飛び降りるか・・・」
ロティ「俺が受け止めなかったら死んでたな」
リムト「死ん・・・・」
ロティ「ははは、ちゃんと受け止めるつもりだったから安心しろ」
リムト「・・・」ジトーッ
ロティ「はは、受け止めただろ?」
リムト「うん」
ロティ「・・・」
   (すまないな、お前を強くするにはこの程度じゃダメなんだ)
   (それに、俺にはもう時間もないしな・・・)

ロティ「ま・・・お前の度胸はわかったよ」
リムト「へへへへ」
ロティ「本格的に訓練を始めるか。明日の朝から」
リムト「何をするの?」
ロティ「そうだな、荷物持ちでもさせるか」
リムト「それ全部・・・」
ロティ「全部だ、ざっと30キロはあるぞ」
リムト「・・・」
ロティ「できるか?」
リムト「うん」
ロティ「よし、偉い」

ロティ「それと、メシは基本無しだ」
リムト「え・・・」
ロティ「コレも修行の一環だ」
リムト「どうして?」
ロティ「こういう安全な道中のほうが、訓練に向いてるんだよ。
    食いたいときにくえない、なんて状況はいくらでもあるからな。」
リムト「・・・」
ロティ「安全なときに空腹に強くなっていかないとな」
リムト「サバイバルみたい」
ロティ「旅ってのはいつでもサバイバルだよ」
リムト「・・・うん、わかった」
ロティ「ま、本当ならこんな訓練いらないんだがな」
   「お前はまだ小さいからな・・・」
リムト「うん」
ロティ「そのかわり、都市についたら腹いっぱい食わしてやるよ」ニコッ
リムト「うん!」

リムト「・・・」グウゥウ
ロティ「・・・」グッ…
リムト「・・・」グゥ…
ロティ「さすがに空腹がきついか」
リムト「大丈夫」グウゥウ
ロティ「嘘いえ、腹が鳴りっぱなしじゃないか」
リムト「・・・大丈夫」グゥウ
ロティ「ははは、よく体力がもつな」
リムト「・・・」グウゥウ
ロティ「・・・」
   (すごいな・・・頑固というか、我慢強いというか、
    もう三日飲まず食わずだぞ、普通なら弱音を吐いてる…)
リムト「う・・・」グウゥ・・・
ロティ「どうした?」
リムト「大丈夫」グウゥウ
ロティ「無理はするなよ、辛かったら言えよ。修行とはいえ、倒れたら意味がないしな」
リムト「大丈夫」グウゥ…
ロティ(もうまともに喋る気力は無いか・・・?いや、体力を消費しないために喋らないのか。
    この幼さでもわかるのか。それとも、人間の本能か?)

ロティ「見えてきたな、あと少しで都市だ」
リムト「うっ・・・」チラッ
ロティ「ははは、少し元気になったな」
リムト「・・・」グウゥ…
ロティ「この調子なら今日には着くか。ついたらうまい料理でも食べよう」
リムト「う・・ん」グゥウ…
ロティ「しかし、一度去った街に戻ってくるとはな」
   (安全すぎて傭兵の依頼が無いんだよな、この街…)
リムト「嫌いなの?」グウゥ・・・
ロティ「いや、嫌いじゃないさ、良い街だ」

ロティ「ほら、着いたぞ」
リムト「・・・」グゥウウ・・・
ロティ「よく頑張ったな、まずは飯だな」
リムト「・・・」

カラカラン

マスター「いらっしゃい、おや・・・あんたは」
ロティ「また来ることになったよ、上手い料理を頼むぜ」
マスター「いつものだな」

マスター「お待ちどう、そっちのガキはずいぶんと衰弱してるな」
ロティ「修行がてら断食させた」
マスター「お前も一緒に断食したんだろう。お前もずいぶんとやつれてるぞ」
ロティ「子供一人に辛い思いはさせられないだろう」
マスター「くくく、傭兵のくせに、お人好しか」
ロティ「冗談はよせ」
ロティ「リムト、ここの一押し、ヒッポグリフのソテーだ、よく噛んでから飲み込めよ」
リムト「いただきます」パクッ
ロティ「よく噛めよ」
リムト「うん」
ロティ「ヒッポグリフっていうのはな、馬と鷲が合わさったような魔物のことでな」
リムト「うん?」ムシャムシャ
ロティ「ま・・・その肉はよく高級料理として扱われるんだが」
リムト「高いの?」
ロティ「普通はな。ま、ここのは安い」
マスター「で、よく戻ってきたな?平穏すぎて戻ってこないかと思ったよ」
ロティ「色々あってな、というよりも見ての通りだ」
マスター「このガキか」チラッ

ロティ「そういうことだ、最近はどうなんだ?」
マスター「相変わらずだよ、おかげで安心して店を出せるってもんだ」
ロティ「そうか、それは何よりだ」
マスター「お前にとっては良くないんだろ」
ロティ「まあ、そうだな、傭兵としての仕事がないと話にならないからな」
マスター「街は安全だが、良い依頼があるぞ、どうだ?」
ロティ「ほう、聞いてみようか」
マスター「明日、領主様がこの都市に巡回訪問する予定だそうでな」
ロティ「護衛依頼か」
マスター「ああ、案内も兼ねた護衛ってところだな」
ロティ「ふむ、請け負ってみるか」
リムト「何するの?」
ロティ「傭兵の仕事だよ」
リムト「傭兵?」
ロティ「まあ、今はお前にはあまり関係ないよ」
マスター「とりあえず今日は空き室を使え、宿代が浮くぞ」
ロティ「マスターには毎度世話になるな、今回も世話になるぞ」
マスター「おう、遠慮はするな」

ロティ「今日はここが寝室だ」
リムト「野宿じゃない」キラキラッ
ロティ「ああ」フッ
リムト「ベッド・・・」フカフカ
ロティ「懐かしいか?」
リムト「・・・ううん」
ロティ「強がるな」
リムト「うん」
ロティ「・・・後悔してるか?」
リムト「ううん」
ロティ「そうか」
リムト「一人じゃないから」
ロティ「うん?」
リムト「一人じゃないから」
ロティ「ああ」
リムト「後悔・・・してない」
ロティ「そうか。よかったよ」

ロティ「明日か・・・あのいけ好かない領主に頭を下げてまで」
リムト「・・・?」
ロティ「いや、なんでもない」
   (そうだ、リムトを連れて来たのは俺だからな)
ロティ「明日はここで留守番してくれるか」
リムト「どうして?」
ロティ「少し用事がな」
リムト「マスターと話してた依頼?」
ロティ「ああ」
リムト「わかった」
ロティ「悪いな、今日はもう寝るか」
リムト「うん、おやすみ」
ロティ「ああ、おやすみ」

ざわざわ
おお、領主様だ
領主様がいらっしゃったぞ!
領主様!
領主様!
今回はやけに私兵が多いな
いったいどうしたんだろう?
領主様!
領主様!
ざわざわ

ロティ「ずいぶんと盛況だな」イラッ
リムト「嫌いなんだ」
ロティ「嫌いか…そうだな、大嫌いだ」
   (俺が孤児だった理由も、こいつが孤児だった理由も、全てこの領主"様"のせいだからな)
リムト「でも街の人は・・・」
ロティ「慕っているよ、この都市みたいに発展しているところには手厚い援助をしているからな」
リムト「ロティはなんで嫌いなの?」
ロティ「・・・」
   (発展しない町は平気で潰し、奴隷を集めて商人に売る・・・そんな非人道は秘密裏だ)
   (そうして潤ってきた汚い金で領主は肥え、都市は発展・・・真実を知っていれば嫌いにならないわけがない)
リムト「・・・」ジーッ
ロティ「そうだな、性格が合わない」
   (そして秘密故に善良な市民達は真実を知らない)
   (傭兵は金のために、そんなクズのために働く。ひどい話だ・・・)
   (いや、他人事じゃない、自分のこと…)
リムト「性格・・・」
ロティ「そのうち、色んな感情がわかるようになるさ。行って来るよ、留守番を頼んだぞ」
リムト「うん、いってらっしゃい」

領主「おお、お主が今回の護衛か、ふむ・・・ほう・・・」
ロティ「ロティと申します」ペコッ
   (何だ、こいつ・・・ジロジロと・・・気持ち悪い)
領主「しっかりと頼むぞ」ムフンッ
ロティ「承知しております」
   (くそったれが、この場で殺したくなる…)
領主「改めて説明するか」
ロティ「今回の都市巡回訪問の案内兼護衛役ですよね」
領主「ああ、ただし。今回は少しばかり違うのだよ」
ロティ「と、いいますと?」
領主「この街から少し南へ行ったところに遺跡があるだろう?ほれ」
ロティ「・・・」
領主「そこへゆく」
ロティ「・・・」
   (死ぬ気なのか、こいつは)
領主「私兵は半数は滞在させる。その分の戦力として貴様を雇ったのだ。我輩をしっかりと守れよ」
ロティ「心得ております」
   (まさにくそったれだな)
領主「ではゆこうか」
ロティ「はっ」

ロティ「ここから先が遺跡です」
領主「そんなことはわかっとるわい」
ロティ「・・・とにかく、私から離れぬようお気をつけください」
領主「ふん、今回は奥まで行くぞ」
ロティ「・・・今なんと?」
領主「貴様の耳は吹き抜けか何かか?」
私兵「そうだ、傭兵は領主様の声を聞き逃すほど無能なのか」
ロティ「・・・奥までですね、承知しました」
   (どうにもむかつくな・・・)
ロティ「魔物も数多くでますので、くれぐれもお気をつけを・・・」
領主「何度も言うでない、言われんでも充分に気をつけておる」
ロティ「・・・」

カタッ・・・カタッ・・・

領主「しかし、足音だけが響くのう」
ロティ「遺跡とは言っても、洞窟のようなものですからね」
ロティ「それよりも・・・喋っていると魔物を引き寄せやすくなりますよ」
領主「くくく、それは困るな」
ロティ「では、お静かに」

カタッ・・・・カタッ・・・・
カチッ

ロティ「・・・?」
領主「ふむ」
ロティ「うわっ・・・!」ヒュ…ン
領主「落ちたか、生意気な傭兵風情が…」
領主「はじめからこんな遺跡に用など無いわ」
私兵「では、戻りましょうか」
領主「ああ、念のため魔物どもを地下に放っておけ」
私兵「承知しました」

ヒュ・・・・ドサッ・・・

ロティ「くっ・・・ゴミ山・・・?命拾いしたか・・・しかし・・・」

ムン・・・ムン・・・・・・

ロティ「くさいな・・・」
ロティ「まさか・・・罠とは・・・」

ロティ「上は、登れないか・・・進むしかない・・・か・・・」
ロティ「しかし、地下は初めてだな・・・地図はないのか・・・」ガザ・・ゴソ・・・
ロティ「・・・・・・」
ロティ「何をやってるんだ俺は・・・」

一方その頃


ガタッ・・・ガタン

リムト「・・・!」
私兵A「あの廃村の生き残りだぜ」
私兵B「やっぱりあの傭兵が連れてきていたか」
リムト「あのときの・・・」
私兵C「へへ、そうだ。オレがあのときの追手Cだよ」
私兵C「今度こそ捕まえたぜ」
リムト「へっ・・・やなこった!」ザッ・・・スタッ
私兵A「なっ…!飛び降りやがった…」
私兵B「ここは二階だからな」
私兵C[冷静に言ってる場合じゃねぇぞ、早く追いかけるぞ!」ダッ・・・


リムト「・・・はぁ・・・はぁ…」
マスター「おや、ロティの連れの・・・」
リムト「・・・助けて」ボソッ
マスター「あ?」
リムト「…追手が」
マスター「あ、ああ、オレの足元に隠れとけ」

カラカラン・・・バンッ

私兵A「おい、お前!こっちに小さい子供が来なかったか?」
マスター「子供?知らないな」
私兵B「嘘をついても良いことないぞ、しっかり見たんだからな」
マスター「見間違えだろう」
私兵C「なら改めさせてもらうぞ」
マスター「好きにしろ」
私兵C「よし、私兵A、お前は上の階を探せ」
私兵A「あいよ」
私兵B「じゃあオレはこのフロアを探すか」
私兵C「なら俺はまた外を見てくるか」

カラカラン・・・バンッ

マスター「ふん、その子供が何をしたっていうんだか」
私兵B「色々とワケアリでな」
マスター「どうせ噂のアレだろ」
私兵B「バカを言うな、そんなもの噂に過ぎない」
マスター「当事者がよく言うね」
私兵B「おい、それ以上口にしてみろ・・・」
マスター「あ?」
私兵B「領主様への侮辱罪でしょっぴくぞ」
マスター「くくく・・・はははっ・・・」
私兵B「何が可笑しい?」
マスター「事実だろう?」
私兵B「事実ではない」
マスター「ま、あまり長居されると商売に響くんでね」
マスター「終わったらさっさと出て行きやがれクソッタレ共が」
私兵B「こいつ・・・!」
私兵A「やめろ!」
私兵B「殺す!」
私兵A「とにかく抑えろ!」
私兵A「市民を殺したら極刑だぞ」
私兵B「くっ・・・覚えてろよ」
私兵C「終わったか、次だ。さっさとガキを探すぞ」

カラカラン・・・バンッ

マスター「ふぅ、もういいぞ」
リムト「あ、ありがとう・・・」
マスター「ふん、お礼はいらねぇよ。ロティの連れならな」
リムト「ロティと仲が良いの?」
マスター「あ?まぁ昔からの腐れ縁ってやつかな、特に語るようなことはないがね」
リムト「ふぅん・・・」
マスター「なんだ、気になるのか?」
リムト「・・・うん」
マスター「そうだな、やつとの馴れ初めは・・・」

・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・

そして遺跡では・・・

ロティ「地図がない上に地下じゃあ・・・道がわからないな」
ロティ「歩きまわるのは得策じゃないが・・・助けが来る保障はどこにも無いし・・・」
ロティ「むしろ来ないと思ったほうが良いか・・・」

カタッ・・・カタッ・・・

ロティ「魔力でもあるのか・・・遺跡なのに灯りがあるのだけが救いだな・・・」

ガル・・・
ガルル・・

ロティ「・・・・」
ロティ「まいったな・・・1・・・2・・・3・・・4体か」
ロティ「下位種の平原ゴブリンということだけが救いだな・・・」
ゴブリンA「ガァ!」シュバッ
ロティ「・・・遅いな」ザッ・・・
ゴブリンB「ウガァ!」ダンッ
ゴブリンC「ガッ・・!シュバッ
ロティ「二匹いても同じだ」ザシュッ・・・タンッ・・・
ゴブリンC「ウギッ・・・?」
ロティ「お前もだ」ザンッ
ゴブリンD「ウ・・・・ガ・・・」スタスタッ
ロティ「逃がすか!」シュン!
ゴブリンD「ウガッ・・・」
ロティ「背中を向ければ、投擲の良い的だ・・・」フゥ

ロティ「領主が捉えた魔物を放った・・・ってところか」
ロティ「そう考えるのが妥当かな、遺跡にここまで下位の魔物がいるはずがないしな・・・」
ロティ「しかしこれで進む道がわかるな・・・」
ロティ「…魔物が来た方向が答えか」

カタッ・・・カタッ・・・カタッ・・・・

ドクン・・・・

ロティ「うっ・・・こんなときに・・・」ドクン…
ロティ「もうもたないか・・・」

都市サイド・・・

リムト「・・・・」
マスター「遅いな」
リムト「うん」

カラカラン…

領主「邪魔するぞ」
マスター「隠れろ・・・!」
リムト「・・・」サッ…
領主「おい、酒を持って来い」
マスター「これはこれは領主様、バーボンで良いですかな」
領主「上等なものなら何でも構わぬよ」
マスター「ではそのように・・・」スチャ

コポコポッ・・・

マスター「どうぞ」スッ
領主「ふはは。苦しゅうない」
マスター「ところで、今回の訪問はどちらへ?」
領主「聞いてどうする?」
マスター「いいえ、特には何も。ただの好奇心です」
領主「南の遺跡へ行ってきた」
マスター「遺跡へ・・・」
領主「傭兵は残念だが、死んでしまったよ」
マスター「ははは、ご冗談」
リムト「ロティ・・・」ボソッ…
領主「事実だよ」
マスター「あいつは簡単にはくたばりませんよ、他人の陳腐な罠程度では・・・」
領主「貴様、なんと申した」
マスター「おっと、何か口を滑らせましたかな」
領主「貴様、我輩を愚弄するか!」
マスター「滅相もない、落ち着いてください」
領主「愚弄するつもりだな、貴様など打ち首にしてくれよう!」
リムト「やめろ!」
マスター「おい、ガキ・・・」
領主「ほほう、こいつがあの傭兵がかばったという・・・件のガキか」
領主「こいつは連れて行く、ふはは・・・運が良いなマスター」
マスター「おまえ・・・」
領主「感謝するぞ、マスター殿」
リムト「はなせ!この!」

カラカラン…

マスター「くそっ・・・ロティ・・・すまない・・・」

遺跡サイド…

ロティ「くっ・・・」ドクン・・・
ロティ「おさまれ・・・」ドクン・・・
ロティ「リムト・・・」ドクン・・・
ロティ「・・・・」ドクン
ロティ「・・・・」ドクン
ロティ「友達って・・・」ドクン…
ロティ「最初はマスターだけだったな・・・」ドクン・・・
ロティ「ガキのときから、ついこの間まで・・・」ドクン・・・
ロティ「リムトが・・・友達になったときは」ドクン・・・
ロティ「正直嬉しかったか・・・」ドクン・・・
ロティ「修行・・・」ドクン・・・
ロティ「さすがにもう・・・つけられないか・・・」ドクン


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・

おい!倒れてるぞ!
あれじゃないか!
見つけたか!
捜索にまわして正解か!

ロティ「ん・・・・」
マスター「ふ・・はは・・・死んでないか、さすがロティだ」
ロティ「死ぬわけ・・・」ハッ
ロティ「俺・・・生きてるのか・・・」
マスター「すまない、オレが依頼を紹介したばかりに・・・」
ロティ「いや、良いんだ・・・俺が望んだことだ」
マスター「それと・・・もう一つ」ヒソヒソ
ロティ「何・・・?ウグッ・・・」
マスター「待て、発作からすぐだろう、今は動くな」
ロティ「しかし・・・」
マスター「とりあえず地上までは担いでいく」
マスター「お前達もご苦労だったな、解散していいぞ」
街人A「へい、おつかれさんです」
街人B「へへ、見つかってよかった」
街人C「マスターもお気をつけて」

マスター「どうせお前のことだからな」
ロティ「ああ・・・」
マスター「腐れ縁だからな、止めはしない」
ロティ「よくわかってるな」
マスター「お前は、とまらないからな」
ロティ「友達は、助ける」
マスター「とりあえず地上まではおとなしくしておけよ」
ロティ「世話になる」
マスター「そのセリフは聞き飽きた」
ロティ「そうだな、世話になりっぱなしだからな」
マスター「お前らしくも無い、水臭いこと言うな」
ロティ「・・・」
   (リムト、待ってろよ)

私兵C「領主様!」
領主「こんな夜分に何事かね?」
私兵C「侵入者です。件の傭兵かと思われます」
領主「バカを言うな」
私兵C「しかし」
領主「あの遺跡で落とし穴にかけて、そして平原ゴブリンとはいえ4体も放ったのだ」
領主「無事であるわけないだろう」
私兵C「しかし、現に侵入されています」
領主「では、迎え撃て、それだけのことだ。それが貴様の仕事だろう」
私兵C「はっ!領主様はお逃げください!」
領主「言われんでもそうするわい」

・・・・・
・・・・
・・・

ロティ「リムト!どこだ!どこにいる!」ザッ

シュン!

私兵A「ぐあっ!」ドタン…
私兵B「ぐはっ・・・」バタン…

ロティ「くそっ!広すぎる・・・」

ドタドタッ…

私兵C「領主様のところにはいかせんぞ、かかれぇ!」

ロティ「くっそ・・・追手か、しつこい!」ザシュン
私兵D「かかれ・・・え?」ズサッ
私兵E「・・・?」ズルッ…
私兵F「グフッ…」ズサァ…

私兵C「強すぎる・・・」
ロティ「一度気絶した分際で・・・!」バッ…
私兵C「ひっ・・・!」ブルブル
ロティ「リムトの居場所を教えろ」
私兵C「あああ、あああ・・・ああ・・あの・・・あのガキか・・・」
ロティ「教えろ!」グッ…
私兵C「ヒイィ!教える!教えるから剣をおろせ・・・!」
ロティ「案内しろ」

私兵C「くっ、こっちだ・・・・」テク・・・テク・・・
ロティ「嘘をついていたらその場で斬るぞ」
私兵C「嘘は・・・嘘はつかない・・・」

ロティ「リムト・・・」
リムト「・・・ロティ」ハッ
ロティ「・・・今助けるからな」
私兵C「ふ・・・ははは」
ロティ「なんだ?」
私兵C「さすがに傭兵も餌には釣られるか」
私兵C「ここには何十もの私兵を待ち伏せさせた」
ロティ「なに?」グルリ
ロティ「・・・・・」
私兵C「あははは!あのあと領主様に失態をひどく叱られてからは・・・」
私兵C「いつか貴様に仕返ししてやろうと思ってたんだよ」
私兵C「無残に切り刻まれて死ね! お前ら、やっちまえ!」
私兵達「うぉおお!」

ザン・・・
ザクッ・・・ザシュ・・・
ザク・・・
ロティ「グッ・・・」ザクッ・・・ザン・・・
私兵C「はは・・・愉快愉快」
ロティ「ただでは・・・死なない・・・!」シュン!
私兵C「へ・・・・?」スルッ・・・
ロティ「投擲されるとは・・・思わなかったか」
私兵C「くっ・・・だが、お前もここまでだ・・・」
ロティ「俺は死なないさ・・・リムトを・・・」
ロティ「助けるまではな・・・」バタン・・・
私兵達「死んだか?」
私兵達「私兵Cも道連れにされたか、傭兵め」ゲシッ
私兵達「やめとけ、足蹴にするのは死体に失礼だぜ」
私兵達「ははは!はははは!」

・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・

ロティ「うっ・・・・」
リムト「ロティ・・・」グスッ
ロティ「なんだ、泣いてるのか」
リムト「泣いてない」
ロティ「強情だな」
リムト「泣いてない」
ロティ「今にも泣き出しそうな顔だぞ」
ロティ「待ってろ、今自由にしてやる」カラッ・・・
ロティ「私兵Cの懐に鍵があるはずだ・・・」ガザゴソ

カチャ・・・カチャ・・・

ロティ「さて、逃げろ」
リムト「ロティも・・・」
ロティ「俺は少ししたら行くよ」
リムト「・・・」
ロティ「信じろよ」
リムト「・・・ん」グスッ
ロティ「泣いてないんじゃなかったのか」
リムト「泣いてない」
ロティ「相変わらず強情だな」
ロティ「すぐに追いつくよ」
ロティ「とりあえずマスターのところに行け」
ロティ「道くらい、もうわかるだろう?」
リムト「うん・・・」
ロティ「急げよ、また捕まらないようにな」
リムト「ロティも、急いでね」スタッ…
ロティ「ああ」

ロティ「ふっ・・・ははは・・・ウグッ…」

ロティ「ああ、また・・・意識が遠のく・・・今度こそ死ぬのか」

ロティ「今度こそ・・・」

ロティ「まさか戦闘で死ぬとは・・・」

ロティ「発作で死ぬと思ってたんだがな・・・」

ロティ「リムト・・・たった数日だけど」

ロティ「楽しかったよ・・・」

カラカラン・・・

マスター「お・・・おまえ」
リムト「ロティが・・・」
マスター「よく戻ってきたよ」
リムト「え・・・?」
マスター「よく戻ってこれたよ!」
リムト「・・・」
マスター「ロティが、見込んだだけのことはあるってことか?え?」
リムト「・・・」
マスター「とにかく疲れてるだろう、ヒッポグリフのソテーだ、食え食え」
リムト「・・・・・・」
マスター「どうした?」
リムト「怒ってない・・・」
マスター「怒る?誰が?オレがか?」
リムト「・・・」
マスター「ロティがいないってことは、死んだんだろう」
リムト「・・・」コクッ
マスター「だが、お前を責めることは出来ない」
リムト「え・・・」
マスター「ロティがお前を助けることを選んだからだ」
リムト「・・・・」

マスター「あいつは孤児だったからな」
リムト「・・・」
マスター「お前に同じ影を感じたんだろうな・・・」
リムト「・・・・」
マスター「あの日、お前が寝付いたあとだ」
リムト「・・?」
マスター「二人目の友達が出来たと言っていたよ」
リムト「・・・!」
マスター「お前のことだとすぐにわかった」
リムト「どうして・・・」
マスター「この店に誰かを連れて来たことが、今まで一度も無かったからな」
リムト「・・・・・・」
マスター「さて・・・お前が生きて帰ってきただけで充分にめでたいことだが・・・」
リムト「・・・」
マスター「明日にでも領主の屋敷にいかないとな」
リムト「・・・」
マスター「今度は、ロティを連れ戻しにな」
リムト「・・・・・・」
マスター「もちろん一人じゃないさ、街の人を何人か同行させる」
リムト「うん」
マスター「お前はその間上の部屋を自由に使え」
リムト「・・・おいらも行くよ」
マスター「そうか、わかった」

マスターと街人、そしてリムトは再び領主の屋敷へ行く。
しかし、使用人はおろか、領主すらいない。
まさにもぬけの殻だった。

リムトの案内でロティの倒れている場所までたどり着けば、
そこは凄惨な遺体と、剣が一刺しされている遺体が放置されていた。


ロティの遺体を持ち帰り、マスターの計らいによって正式な葬儀を
追えた一週間後・・・・

マスター「そうか、行くのか」
リムト「うん、おいらも傭兵になるよ」
マスター「傭兵か、間違ってもロティの後を追うなよ」
リムト「どういうこと?」
マスター「死ぬなってことさ」
リムト「うん・・・」
マスター「ま、それなら空き部屋のチェストを漁ってみろ」
リムト「・・・?」
マスター「ロティが昔使ってた剣と鎧がしまってある」
リムト「それって」
マスター「ああ、もって行けよ」
リムト「いいの・・・?」
マスター「ロティも喜ぶかもしれないな」
リムト「じゃあ・・・」
ダッダッダッ

マスター「あいつは、強くなれるかね、ロティ」

天からのロティの答えは無い。

マスター「お前がもっと一緒にいてやれれば、確実に強くなるんだろうがな」

マスター「あいつはきっと強くなる、それを願おう」

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