アルミン「エレン、ミカサ。サンタクロースの話を知ってるかい?」(34)

エレン「サンタクロース?」

ミカサ「聞いたことがない」

エレン「それでそのサンタクロースとやらがどうしたんだ?」

アルミン「クリスマスの夜中、そのサンタクロースが来るんだ。
それで朝になってから枕元を見ると自分の欲しかったプレゼントが置いてあるんだよ」

アルミン「サンタクロースは白のトリミングのある赤い服と赤い帽子姿で白髭を生やしたお爺さんさ。ほら、丁度この挿絵みたいな…」

エレン「随分と胡散臭い爺さんだな」

アルミン「そう?僕には陽気で優しげなお爺さんに見えるけどな」

ミカサ「それで、そのサタンクロスはどうしたら来てくれるの?」

アルミン「サンタクロースね。一年間良い子に過ごしたのならそのご褒美として来てくれるんだ」

ミカサ「なら、アルミンのところにはきっと来てくれると思う。エレンには…」ジーッ

エレン「そんな目で見るなって。大体サンタなんているわけ…」

アルミン「まぁ、信じない人には来ないかもね」

エレン「うっ…」

アルミン「でも、信じる人にはきっと来てくれるさ!」

エレン「そう言われるとなんか実在する気がしてきたぜ」

アルミン「だろ?二人はサンタクロースに何を頼むんだい?」

ミカサ「いきなり言われると悩む…」ムムム

アルミン「あ、物で頼むよ。あとあまり高価すぎるものも…サンタクロースが困るからね」

エレン「なんでそんなことが分かるんだ?」

アルミン「えっと…僕がサンタクロース…もとい、サンタさんの知り合いだからさ」

ミカサ「本当に?」

アルミン「そうだよ!休暇の時によく一緒に図書館に行ったりしてるんだ。あと、プレゼントを届ける手伝いをしたことだってある!サンタさんが乗るソリに乗せてもらったことだって!」

アルミン「だから、今欲しい物を教えてくれたら僕がサンタさんに伝えてくるよ!」

ミカサ「なら、私は料理本がほしい」

アルミン「料理本ね!エレンは?」

エレン「じゃあ、マフラーかな」

ミカサ「エレン…マフラーなら私も編める」

エレン「大丈夫だっての!」

アルミン「はは…最近寒いもんね。それで何色のマフラーがいいの?」

エレン「うーん…黄色で頼む」

アルミン「了解!早速伝えてくる!」ダッ

アルミン(お金は…これだけあればいいかな)ジャラジャラ

アルミン(僕のなけなしの貯金だけれども…それでも二人が喜んでくれれば十分だ)

アルミン(僕はいつも二人にもらってばかりだから…少しでも、恩返しになればいいな)

アルミン(しかしクリスマスムード一色のこのトロスト区…周囲は男女のカップルだらけ)

アルミン(…心なしか、一人で歩いているといつもより寒いや…体も心も…)スタスタ

――――
――

アルミン「エレン、ミカサ。伝えてきたよ!」

エレン「お、ありがとよ」

ミカサ「ありがとう、アルミン」

アルミン「どういたしまして。サンタさん、今夜は楽しみにしててって言ってたよ」

アルミン「あ、それとミカサ」

ミカサ「?」

アルミン「サンタさんが、ミカサには直接プレゼントを渡したいから今夜倉庫に来てほしいだって」

エレン「ミカサだけかよ?ずりいぞ!」

アルミン「ミカサは女の子だろ?サンタさんはお爺さんだから、夜中に女子寮に忍び込むと色々まずいんだと思うよ」

アルミン(実際、教官に見つかったりしたら最後。その場でとっ捕まえられて僕は営倉へまっしぐらだろうな…)

ミカサ「夜のいつ頃に向かえばいいの?」

アルミン「ご飯の後がいいって言ってたから、それでお願い」

ミカサ「分かった」

エレン「…なんだよ」

アルミン「エレンもそんな顔しないで。ちゃんと夜中に来てくれるって言ってたよ、いい子にしていればね」

エレン「わかったよ…」



ミカサ「今日はエレンが珍しく人参を残していない」

アルミン「僕がサンタさんはいい子にしてれば来るって言ったからかな?」フフ

エレン「う、うるせぇ!今日はいつもより腹が減っていただけだよ!」

ミカサ「その調子で、明日からも沢山人参を食べるべき」

エレン「……」

アルミン「僕は図書室に返さなきゃいけない本があるから先に行くね」ガタッ

アルミン「ミカサ、忘れずに倉庫に来てくれよ」

ミカサ「ええ」

アルミン「…」ゴソゴソ

アルミン(衣装の貸出をしていたから借りてみたのはいいけど…きちんと確認すべきだったな…)

アルミン(赤のロングブーツはいいとして、ウサギの耳のついた赤い帽子にボンボン付きの服に…下はウサギの尻尾付きのブリーツだなんて)

アルミン(とりあえず着てみたのはいいけれど、これは恥ずかしい。恥ずかしすぎる…でも、着ないと正体がすぐにバレてしまうから仕方ない…)

サンタミン(そしてモコモコで歩きにくい!サンタさんって大変なんだなぁ…)ヨタヨタ

倉庫

サンタミン「やぁ、君がミカサだね?」

ミカサ「アルミン?どうしたの、そんな格好をして。とても似合っていて可愛いけれど」

サンタミン「違う!アルミンじゃなくてサンタクロースじゃ!彼から話は聞かせてもらって、今こうしてプレゼントを渡しに来たのじゃよ」

ミカサ「でも、貴方はアルミンにそっくり。声も顔も…」

サンタミン「世の中にはそっくりの人間が三人はいるという話がある!だからたまたまだよ!」

ミカサ「アルミン、口調が元に戻っている。それに、特徴である白い髭も生えていないし…」ガシッ

サンタミン「…へ?」

サンタミン(ミカサに両頬を手で包まれて…ミカサ、顔、近いよ?)

ミカサ「…その大きな青い瞳。私には分かる、貴方は間違いなくアルミン」

サンタミン「…僕の負けだよ…そこまでバレバレならもう下手な演技する必要もないか…エレンには内緒にしてくれよ?」

ミカサ「それに関しては大丈夫」

サンタミン「なら安心だ。…ミカサ」

ミカサ「どうしたの?」

サンタミン「メリー・クリスマス!」スッ

ミカサ「これは…プレゼント?」

サンタミン「うん。早速開けてみて」

ミカサ「分かった」ペリペリ

サンタミン「ミカサは丁寧に開けるんだね」

ミカサ「ええ。綺麗な包装紙だから破いたら勿体無いし、貴方がくれたものだから」

サンタミン「ミカサ…」

ミカサ「これは…料理の本?」

サンタミン「うん。ミカサが欲しいって言ってたから、あの後買いに行ったんだ」

ミカサ「ありがとう、アルミン。日が昇ったら早速読ませてもらおう」

サンタミン「喜んでもらえたなら良かったよ。それじゃあ僕はここで…」

ミカサ「次はエレンにプレゼントを届けるの?」

サンタミン「うん」

ミカサ「私も行っていい?」

サンタミン「ダメだ。見つかったら間違いなく営倉送りだからね?そうなったらエレンも僕も悲しむよ」

サンタミン「…こう言ったら変かもしれないけれど、ミカサの分まで僕がしっかりと届けるから安心してくれ」

ミカサ「…分かった。ありがとう」

サンタミン「ならいいんだよ。それじゃあおやすみ、ミカサ」

ミカサ「ええ、おやすみなさい。気をつけて帰ってね」

サンタミン「うん、ミカサもね!」

サンタミン「…」スタスタ

サンタミン(後は着替えて部屋に戻ってエレンの枕元にプレゼントを置いて寝るだけだ…)スタスタ

サンタミン「…ん?」

サンタミン(向こうから歩いてくるのは…サシャかな?行き先は…食料庫だろうな)

サシャ(今日は何を拝借しちゃいましょうかねぇ)スタスタ

サンタミン「こ、こら!」

サシャ「ひ、ひぃっ!…って、あ、貴方様は…巷で噂のサンタサンですか!?」

サンタミン「…おっほん。その通り」

サシャ「ならお肉をください!…いや、この際パンでも芋でもいいです!お腹ペコペコなんです!」

サンタミン「ダメじゃ。プレゼントはいい子にしか渡せないんじゃよ、サシャは今食料庫に入ろうとしただろう?」

サンタミン(まあいずれにせよサシャにあげる食べ物は今は持ちあわせてないんだけどね)

サシャ「そ、そんなぁ…"今夜"は入りませんから…いい子にしますからぁ~…」ヘナヘナ

サンタミン「…」

サンタミン「…君の知り合いに、アルミン・アルレルトという子がいるじゃろ?」

サシャ「はい、よくご存知ですね!そういえば、貴方どことなくアルミンに似ている気がします!」

サンタミン「よ、世の中にはそっくりな人間は三人いると言うから…」

サシャ「なるほど、なら納得です!」

サンタミン(今度は通せそうで良かった…サシャ、騙してごめん)

サンタミン「そのアルミンへサシャにパンをあげるように頼んでおこう。何を隠そう、わしは彼の知り合いなのじゃ」

サシャ「ええっ!アルミンって頭がいいだけじゃなくてサンタサンとも知り合いだったなんて…凄い人だったんですね!サンタサン、ありがとうございます!明日の朝食の時に早速頼んでみます!」

サンタミン「あまりせがまないようにな…ではサシャ、今日はもう寝なさい」

サシャ「はい!今日はいい子にして寝ます!サンタサンもお体にお気をつけて!」ダッ

サンタミン「ああ…ありがとう、サシャ」

サンタミン(明日からはしばらく、サシャにパンを分けてあげなきゃな…)スタスタ

――――
――

アルミン「ふー…」

アルミン(ようやく戻ってこれた…なんだかものすごく疲れたよ、エレンの枕元にプレゼントを置いたら僕も寝よう)

エレン「…駆逐…してやる…」グガー

アルミン(エレン…よく寝てるや)スッ

アルミン(これでよし、と。エレン、喜んでくれるかな?)

アルミン(…僕ももう寝よう、おやすみ。エレン、いつもありがとう)

エレン「おい、起きろアルミン」ユサユサ

アルミン「ん…」パチ

エレン「珍しいな、いつもはお前に起こされるのに今日はオレが起こすだなんて」

アルミン「昨日遅くまで本を読んでたせいかな…」ウトウト

エレン「ミカサももう起きてるだろうし、早く行こうぜ」

アルミン「う、うん…」イソイソ

ミカサ「おはよう、二人とも。今日はいつもより遅かったじゃない」

エレン「アルミンがいつもより起きるのが遅かったんだよ。オレいつもこいつに起こしてもらってたからさ」

アルミン「まぁ、こうして間に合ったんだしいいだろ?…そういえばエレン。サンタさんは来てたかい?」

エレン「ああ、そのことなんだけどよ…」

エレン「アルミン、ちょっと目瞑ってろ」

アルミン「え?いいけど…」ギュッ

エレン「オレがいいって言うまで開けるなよ?」

アルミン「うん」

エレン「…」グルグル

アルミン「…ん?」

エレン「こんなもんでいいか。よし、目開けても大丈夫だぞ」

アルミン「…ええと、これは?」

エレン「マフラーだよ。きつくないか?」

アルミン「だ、大丈夫だけど…これ、エレンがサンタさんに頼んだものだろ?」

エレン「そうだよ」

アルミン「人に貰ったものを人にあげるのはよくないんじゃないかなぁ…」

エレン「別にこれといってほしい物もなかったし、お前いつも寒そうにしてるから咄嗟に思いついたんだ」

アルミン「え、エレン…」

エレン「うん、やっぱりお前には黄色が似合うな」

アルミン「はは…エレンの口からそんな言葉が出るだなんて…明日は槍が降るかもね…」

エレン「どうしてそんなしょぼくれた顔をしてるんだよ、何かあったのか?」

ミカサ「…エレン」ツンツン

エレン「ん?」

ミカサ「実は……」

エレン「そういうことだったのか…悪いことをした、ごめんな」

アルミン「ううん、いいんだ。君の気遣いが伝わってきて嬉しかったし、ありがとう」

ミカサ「アルミン。私も言うなと言われていたのに言ってしまった、ごめんなさい」

アルミン「いや、いいんだよ。ミカサも僕のことを気遣ってくれたんだろう?」

アルミン(二人に恩返しをしたいと思って始めた筈なのに…相変わらず僕は、貰ってばかりだな)シュン

エレン「アルミン?」

アルミン「あ、ごめん。どうしたの?」

エレン「ちょっと質問いいか?」

アルミン「うん。なんでも聞いてくれ」

エレン「なんでまたオレ達にプレゼントをしようと思ったんだ?」

アルミン「それは…クリスマスだから」

エレン「それだけじゃないだろ?ほら、なんでも聞けって言ったしちゃんと答えろよ」

アルミン「…いつもエレンとミカサに助けてもらってるし、せめてもの恩返しがしたいと思ったんだ」

アルミン「僕はいつも何かを貰ってばかりで何もしてあげられていないから…」

エレン「そんなことねえよ、いつも座学で助けてくれるし朝も起こしてくれるじゃないか…今日だけは違ったけど」

ミカサ「それだけじゃない。温もりも沢山貰っている」

エレン「そうそう。なんだかこいつといると落ち着くというか、心が暖かくなるというかさ」

アルミン「ふ、二人とも…」

エレン「…アルミン。今、暖かいか?」

アルミン「うん…凄く暖かいよ…ありがとう」

アルミン(エレンはマフラーのことを言ってるんだろうけど…僕にとってはそれだけじゃなくて…)

アルミン「…でも、このマフラーどうしよう。僕は、エレンにあげたものだからエレンに着けてほしいんだけど」

エレン「オレはアルミンに着けてほしい。さっきも言ったけど、お前いつも寒そうだしな」

アルミン「うーん…」

ミカサ「二人で一緒に巻くのは?」

アルミン「そ、それはちょっと…」

エレン「そうだよ。歩きにくいだろ」

アルミン(エレン…突っ込むべき場所はそこかい?)

ミカサ「なら、二人で交互に巻くのはどうだろう。今日はエレン、明日はアルミンという具合に」

アルミン「ああ…それでいいんじゃないかな」

エレン「なら決まりだな!」

ミカサ「良かった。…そういえば、二人とも。ここにアルミンから貰った料理本がある。早速、次の休みにでもこの本を見て料理を作ろう」

エレン「お、楽しみだな!」

ミカサ「エレンも手伝って」

エレン「ならオレは食べる係な」

ミカサ「ダメ。分からないなら手順を教えるからちゃんと手伝って」

アルミン「僕も手伝うよ!」

ミカサ「アルミンはいいの。なぜなら私達から貴方へのお返しだから。…エレン、手伝うでしょ?」

エレン「あ、あぁ!任せとけ!アルミン、楽しみに待ってろよ!」

アルミン「うん…!ありがとう、二人とも…!」

アルミン(来年もまた…正体はバレてしまったけど、二人にとってのサンタクロースになって幸せを届けられればいいなぁ)

アルミン(…今、凄く暖かいよ。君達がいて暖かくないわけないじゃないか。二人とも最高のクリスマスプレゼントを、本当にありがとう)

おわり

良いクリスマスを

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