担任「福路……なぜ呼び出されたかは分かるな?」
福路「……はい……」
担任「確かにお前は麻雀は強いのだろう、だからこそ大学からの推薦の話も来ているんだ」
担任「だが……推薦には、麻雀の実績と共にある程度の成績が求められることも知っているな?」
福路「えーっと……やっぱり、今の成績じゃ駄目ですか?」
担任「駄目どころか、卒業できない可能性もあるぞ。つまり留年だな」
福路「りゅ、留年!? 困ります、みんなの前では優等生でいたいのに!」
担任「次のテストで基準点が取れないようでは、少なくとも推薦の話は白紙だ。頑張ることだな」
福路「ど、どうしましょう……」
福路「後輩たちはみんな私を、麻雀も勉強も美貌も家庭的スキルも合わせ持つ優等生だと思っているのに……」
福路「本当は進級すら怪しい、劣等生だなんてバレたら……!」
深堀『キャプテンが留年? 人は見かけによらないですね……』
吉留『うわぁ……幻滅しました』
文堂『こんなガチバカを、私たちはキャプテンキャプテンと慕っていたなんて……』
池田『来年は、キャプテンと机を並べて授業だし! 何だか面白そうだし!』
久保『福路ィ! テメェのせいで、風越はいい笑いものだぞ! 歯ぁ喰いしばれぇ!』
福路「……た、大変……!」
福路「何とか、何とかしなきゃ……!」
担任「福路……なぜ呼び出されたかは分かるな?」
福路「……はい……」
ボロン
池田「あ、キャプテンだ」
吉留「こんにちはー」
福路「こ、こんにちは……」
池田「さっき職員室に入っていったって部員が言ってたけど、何の用だったんですか?」
福路「え、えっと……ちょ、ちょっと進路の相談を……」
吉留「三年は大変ですね。プロは目指さないんですか?」
福路「い、いや、プロも目指す気だけど……大学も行っておいた方がいいかなって……」
池田「キャプテンは頭よさそうですからね! きっと麻雀推薦でも一般入試でも、よりどりみどりだし!」
福路「そ……そう、かしら……あ、あはは……」
福路「ま、まずい……まずいわ……」
福路「だけど、今から勉強しても何とかなるとは思えない……」
福路「どうしましょう……だ、誰かに相談……でも、風越の後輩たちは駄目……」
福路「でも、誰に相談すれば……」
透華「あら? あなたは……風越の」
福路「あ……確か、龍門渕の……」
透華「龍門渕透華ですわ。どうしたんですの、浮かない顔をして」
福路「…………」
福路「透華さん……相談、乗っていただけますか?」
透華「……なるほど、そういうわけでしたのね……しかし、あなたが留年の危機とは……」
福路「うぅ、情けない限りです……」
透華「普段、学校の授業はちゃんと聞いてますの?」
福路「あ、はい……ちゃんと聞こうとはしてるんですけど……」
透華「……けど?」
福路「ついぼけーっとしたり、ウトウトしたりしちゃって……」
福路「気付いたら終わってて……でもよく考えたら、そもそも聞いたところで理解できないんですよね」
透華「…………」
福路「…………」
透華「…………」
福路「……てへ」
透華「ダメダメですわね……」
福路「透華さんは、勉強はお出来になるんですか?」
透華「そこそこと言ったところですわね。龍門渕家の者として、それなりの成績は求められますし」
福路「お願いです! 勉強を教えてください!」
透華「な、何言ってますの!? あなたは三年、私は二年でしてよ! さすがに……」
福路「正直、二年……いえ、一年の授業内容も自信ないんですもの」
透華「本当に、今まで何をしてきたんですの……」
透華「まぁ、困っている人を放っておくのもなんですし、勉強を教えるのは構いませんわ」
福路「本当ですか! ありがとうございます」
透華「ではハギヨシ、いるかしら?」
ハギヨシ「はい、ここに」
福路「わっ……本物の執事さんだ……」
透華「龍門渕家の執事のハギヨシは、日本の高等教育など朝飯前ですわ。彼に面倒を見てもらうといいでしょう」
ハギヨシ「よろしくお願いします、福路様」
福路「あ、はい、こちらこそ……」
ハギヨシ「こちらの部屋を勉強部屋としましょう」
福路「はい」
ハギヨシ「では、まず教科書を見せていただけますか? 何を学習しているかを把握しておきたいので」
福路「え、教科書ですか? 今は持っていませんけど」
ハギヨシ「授業では、教科書を使わないのですか?」
福路「いえ、使ってますけど……ほら、教科書って重いじゃないですか」
ハギヨシ「本ですからね……それが何か?」
福路「いちいち持って帰るのって、大変ですよね。だから、学校のロッカーに置きっぱなしにしてるんです」
ハギヨシ「…………」
福路「…………」
ハギヨシ「…………」
福路「……てへ」
ハギヨシ「明日必ず持ってきてください」
福路「はい……」シュン・・
透華「あら、帰られますの?」
福路「はい……ありがとうございました……」
透華「ハギヨシ、福路さんはどうでしたの?」
ハギヨシ「少しだけ話してみたところ……正直、留年の可能性があると言われても納得するしかないものですね」
透華「やれやれですわ……学校が終わったら、ここに来なさい。ハギヨシが教えてくれるでしょうから」
福路「ご迷惑をおかけします……」
ハギヨシ「それでは福路様。お気をつけて」
翌日
ハギヨシ「なるほど、これが教科書ですか……それにしても、ずいぶん綺麗ですね」
福路「えっ!? そ、そんな、綺麗だなんて急に言われても……でも、嬉しいです……」
ハギヨシ「教科書の話です。ちゃんと読んでいるのですか?」
福路「……授業で開けと言われた時に、開いてます。あとはずっと学校に置いたまんまで……」
ハギヨシ「それでは自宅学習の時に困りませんか?」
福路「自宅学習……? 家でも勉強しなくちゃいけないんですか?」
ハギヨシ「…………」
福路「…………」
ハギヨシ「…………」
福路「……てへ」
ハギヨシ「可愛く言っても駄目です」
福路「はい……」シュン・・
ハギヨシ「……ですから、この値をxに代入すれば……」
福路「あの、ハギヨシさん……麻雀も出来るんですよね?」
ハギヨシ「まぁ、それなりには嗜みますが……」
福路「一緒に打ってみませんか? 透華さんも交えて」
ハギヨシ「そうですね、ではそれはまた今度。今は勉強に集中してください……」
福路「私、ちょっと疲れちゃいました……休憩、お願いします……」
ハギヨシ「ついさっき休憩したばかりでしょう。さ、続けますよ」
福路「はい……」シュン・・
福路「こんにちは、今日もよろしくお願いします」
透華「……福路さんがここに通い始めてから結構経ちますが、調子はどうですの?」
ハギヨシ「上向きにはなっています。元々やれば出来るのですが、やらなかっただけですので」
福路「うぅ……もう、勉強したくないですぅ……」
透華「ほら、そんなことでは後輩に笑われますし、推薦入試のためのテストもうまくいかないですわよ」
ハギヨシ「推薦入試? それは初耳ですね」
透華「あら、ハギヨシに言ってませんでしたの?」
福路「あ……忘れてました。次のテストでそれなりの点を取らないと、推薦がオシャカになるんですよ」
ハギヨシ「それは大変……もっと早いうちから聞いておきたかったですね」
福路「ごめんなさい……」
ハギヨシ「では、その対策も練らないと。そのテストはいつですか?」
福路「えーと……」
福路「明日ですね」
透・ハ「」
福路「……失礼します」
担任「来たか。この前のテストなんだが」
福路「はい、どうでしたか? ちょっとは勉強してきたつもりなんですが」
担任「……あぁ、正直驚いたよ。この成績なら、留年は回避できるだろう」
福路「本当ですか!? よかった、それじゃあ推薦の話も……」
担任「あぁ、それなんだが……残念ながら、留年回避が精一杯程度のこの成績じゃ駄目だな」
福路「これで私も、華の大学せ……え?」
担任「ま、一般入試で頑張れ。今ならまだ間に合う……かもしれないからな」
福路「えぇーーーーーーー!」
透華「はぁ……自業自得とはいえ同情しますわ」
福路「どうしましょう……一般入試なんて、無理ゲーです……」
ハギヨシ「まぁ、今の調子でいけばどこかしら入れる大学はあるとは思いますが……」
透華「そもそも、プロになるのなら無理に大学に行く必要もないのでは?」
福路「プロになっても、勝てるかどうか分かりませんから。大学を出ておけば潰しも効くかと」
透華「そういうところだけ、妙に現実的ですわね……」
ハギヨシ「とりあえず、志望大学と学部を決めてみるのはどうでしょう? 傾向に対する対策も立てられますし」
福路「志望大学ですか……わかりました、考えておきます」
福路「……こんにちはー」
ハギヨシ「いらっしゃいませ。今日も頑張りましょう」
福路「透華さん、ハギヨシさん。志望大学、決めてきましたよ」
透華「あら、もう少しかかるかと思っていたのですが早かったですわね」
ハギヨシ「どちらの大学に、なさったんですか?」
福路「えーと……」
福路「東京大学の、文科三類に」
透・ハ「」
透華「……ついに、馬鹿をここまでこじらせてしまったんですの?」
ハギヨシ「高い目標を持つのは悪くないことですが、あまりに高すぎても……」
福路「大丈夫です!」
透華「どこからその自信が……」
福路「調べてみたら、倍率三倍ですよ。3分の1なら、何とかなりそうですから」
透華「倍率の問題ではないですわ……そういえば、文系なんですのね」
福路「だって理系って、文系に比べたらずっと忙しくて全然遊べないって聞いたので」
透華「福路さん……大学も学ぶ場ですのよ……」
福路「そんなわけで、これから東大模試に行ってきます」
透華「はぁ……まぁ、頑張ってらっしゃい」
ハギヨシ「お気をつけて」
透華「さて……ハギヨシ、彼女は実際どうですの?」
ハギヨシ「さすがに東大は論外ですが、どこにも入れないってことはないと思います」
透華「それは何よりですわね。今日のことも、きっといい薬になるでしょう」
ハギヨシ「……本当にそうなるでしょうか?」
透華「え? だってさすがに実力は……」
ハギヨシ「まぁ、確かにそれはそうなのですが……」
ハギヨシ「何となく……彼女は、タダでは終わらない気がするのです」
福路「模試が返却されました」
ハギヨシ「……あの、模試ですか……」
透華「どれ、見せてごらんなさい。まぁ見なくても結果なんてどうせE判に決まって……」
福路「はい、これです」
透華「…………」
ハギヨシ「……え?」
透華「C……判……?」
福路「うーん、やっぱりA判は厳しかったですね」
透華「……ハギヨシ、あなた何をしたんですの?」
ハギヨシ「い、いえ、私は何も……!」
透華「だ、だって、福路さんが東大C判なんて……そんなオカルトありえませんわ!」
福路「ふふっ……透華さん、覚えてますか? あの言葉を」
透華「え……?」
福路「言ったはずです……倍率は三倍、3分の1なら何とかなりそうだ……って」
透華「……! あ、あなたまさか……!」
福路「そう……私はあの日、右目を開いた……」
福路「そして……適当に選んだ人の動き、仕草、呼吸等を観察し……それを真似たんです!」
ハギヨシ「そ、そんなことが……!」
透華「どこの写輪眼ですの!?」
福路「倍率の高いところならば、真似ても落ちる可能性は高い……だからこそなんです」
透華「凄いですが、やってることはただのカンニングですわね……」
福路「やはり合格確実ラインの優秀な人には、当たりませんでしたけど」
ハギヨシ「福路様……そのような方法で仮に合格できたとしても、得られるものは……」
福路「大丈夫です。入ってしまえば美少女東大生プロ雀士として、それなりの地位は保証されますから」
福路「さらに卒業してしまえば、もうこっちのものです。東大卒の肩書きは、未来永劫失われません」
透華「もはや尊敬の念すら感じますわ……」
福路「こんにちは。そろそろ、寒くなってくる頃でしょうか」
透華「もう少ししたらですわね。でも、なんだかんだで普通に勉強もしているんですのね」
福路「あはは、何かここに来るのが癖になっちゃって……」
ハギヨシ「そういえば、センター試験の申し込みも始まっていますよね」
福路「学校で済ませたので大丈夫です。実際の試験も、右目を開けば余裕ですよ」
透華「あなた……やっぱりそれを使う気ですのね……」
福路「普通にやっては東大レベルの点は取れませんから。だから右目……で……」
福路「……………………」
福路「ああああああああああああああああああ!」
透華「ど、どうしましたの!?」
ハギヨシ「……お気づきになられましたか、福路様」
福路「こ……こんな、欠陥があったなんて……」
透華「な、何があったんですの!?」
ハギヨシ「以前受けた東大模試は、受験者は多くが東大志望……誰を真似ても、それなりの点は取れる可能性が高い」
ハギヨシ「ですが、センター試験は別です。東大受験のためには、センターも相応の点が求められる」
ハギヨシ「しかし、福路様がセンターを受験する部屋に、東大レベルの方は……そうそう、いないでしょう」
透華「……!」
福路「そ、そんな……私の、必勝の作戦が……」
ハギヨシ「……福路様、今ならまだ間に合います。身の丈に合った大学から、志望先を選びましょう」
福路「うぅ……美少女東大生プロ雀士として、チヤホヤされる夢が……」
透華「どうでもいいけど、自分で美少女って言うのはどうかと思いますわよ」
ハギヨシ「さぁ、福路様。今日も一緒に勉強し……一歩ずつ、進んでいきましょう」
福路「……はい……」
福路「こんにちは、さすがにめっきり寒くなりましたね」
ハギヨシ「福路様、センター試験お疲れ様でした」
透華「自己採点は済みましたの?」
福路「いえ、まだ……今までずっと教えてもらってきたのだし、ここで一緒にやろうかと」
ハギヨシ「福路様は、昨日の今日でお疲れでしょう。私がやりますので、透華様とご歓談でも……」
福路「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」
透華「……で、手ごたえはどうでしたの?」
福路「うーん、分かりません。東大を受けられる点数ならいいんですけど」
透華「まだそのようなことを……詳しくは知らないけど、8割後半は欲しいと聞いた気がします。右目も使えませんし……」
ハギヨシ「……終わりました」
福路「えぇっ、もうですか!?」
透華「ハギヨシですから」
福路「さ、さすがですね……」
透華「どうでした? まぁ悪くても本番で挽回はききますし、福路さんも落ち込むことは……」
ハギヨシ「……900点満点中、835点……およそ、9割3分です……」
透華「……へ?」
福路「まぁまぁと言ったところですね。よかったです」
ハギヨシ「信じられません……失礼ながら、今の福路様の実力では、こんな点取れるはずが……」
透華「ま、まさか一か八かで右目を使って、たまたま優秀な方に……」
福路「いえいえ、そんなギャンブルはしませんよ」
透華「で、では一体……」
福路「……透華さん。最近蚊に刺されたのですが、この近くはまだ蚊がいるんですか?」
透華「え、えぇ……龍門渕は全暖房ですから、もう一月ですけどまだ蚊が飛んでますわ」
福路「……すいません。ちょっと、窓を開けさせていただきます」カラカラ・・
透華「あなた、話を聞いてましたの? 蚊が入ってきますわ、やめてくださる?」
福路「…………」
透華「福路さん、閉めますわよ!」
福路「…………」
透華「まったく、もう……」カラカラ・・ピシャ
福路「……!」ダッ
ヒュンヒュンヒュン!
透華「なっ……」
ハギヨシ「!」
福路「透華さん……私の握った手の中を、見てください」
福路「今、6匹入りました」パッ
透華「……!」
ハギヨシ「ふ、福路さん……その、動体視力……」
福路「そう……私はこの能力を鍛え、同時に複数人を観ることに成功しました」
福路「目の前には、見渡す限りの受験生……解答の様子から、優秀そうな方もそうでない方も何となくわかる……」
福路「様々なことを考慮し……彼らの解答の中から、一番多い答えを選び続けたのです」
透華「ど、どこまで進化すれば気が済むの……あなたは……」
福路「これならば、二次試験……東大入試本番でも、三倍どころじゃない。負ける理屈はありません」
福路「私は……この力で、合格します!」
透華「…………」
ハギヨシ「……福路様……」
透華「……ハギヨシ、いるかしら?」
ハギヨシ「ここに」
透華「福路美穂子……彼女のこと、どう思う?」
ハギヨシ「……目標に向けて頑張る姿勢、そのための努力は見事と言えます」
ハギヨシ「ですが……やはり、その努力の方向を間違えているかと」
透華「そうね……私も、このまま合格させてしまっては……いけないと思いますわ」
透華「だから……私は、彼女を合格させません。龍門渕家の力を使ってでも」
ハギヨシ「ですが、いくら龍門渕家でも点数を低くつけさせたり、合格を取り消させたりは無理が……」
透華「そこまでは必要ありません……ちょっとだけ、大学側にお願いして手を加えていただくだけです」
ハギヨシ「…………」
透華「……ごめんなさい、福路さん」
福路「透華さん、ハギヨシさん……本当に今まで、ありがとうございました」
透華「福路さん、全力を出し切ってきてくださいな」
ハギヨシ「今日は雲行きも怪しいですし、お気をつけて」
福路「はい。では、行ってきます」
透華「……ハギヨシ」
ハギヨシ「はい、あちらの方は大丈夫です。と言いますか……何もしなくても、そうなる予定でもあったそうで」
透華「そうだったの……」
ハギヨシ「……正直、少し心が痛みます。なんだかんだで、やはり一緒に学んできた仲ですから」
透華「……そうね……」
ハギヨシ「……申し訳ありません、福路様」
ハギヨシ「あなたの能力……完全に、封じさせていただきました」
福路「右目の調子はバッチリ。受験票もある。筆記用具も問題なし」
福路「あとは、みんなの動きを真似て解答を書くだけ……何一つ、不安材料はないわ!」
福路「同室のみん、よろしく頼むわよ」
福路「さて、ここが私の席ね……あとは開始を、待つだけ……」
福路「……え……」
福路「な……何、これ……」
福路「席が……」
福路「席が……一番、前の列……?」
福路「そ、そんな……これじゃ、前の人たちがいないから、動きを真似できない……」
福路「じゃあ、横の人……ダメダメ! 一番前だし、試験監に丸見えよ!」
福路「後ろなんて、もっての他……ど、どうすれば……!」
「それでは、定刻になりましたので試験の説明を始めます」
福路「……っ!」
「……では、始め!」
バッ
福路(…………)
福路(ダメ、全然わからない……)
福路(……やっぱり、ダメなの? 私じゃ、ここまでなの?)
福路(どうすれば……どうすれば……)
福路(でも、もう……打つ手が……)
『キャプテンは、やっぱり頼りになるし!』
福路(……!)
『ここまで来れたのは、キャプテンのおかげです』
『キャプテン、本当にありがとうございました』
『私もいつか、キャプテンみたいに強くなります!』
福路(…………)
福路(……みんな……)
福路(そういえば、あの決勝戦でも……)
福路(みんな、ボロボロになりながら……最後の最後まで諦めてなかった)
福路(……そうね……キャプテンの私が諦めたんじゃ、みんなに合わせる顔がないわね)
福路(絶望的な状況でも、一縷の可能性に賭ける……みんなのおかげで、思い出したわ)
福路(透華さん、ハギヨシさん、みんな……聞いて!)
福路(美穂子さんは図々しいから、まだまだ諦めない!)
ハギヨシ「福路様……お疲れ様でした」
透華「……その様子だと、満足いく出来ではなかったみたいですわね」
福路「……一番前の席でした」
透華「……そう。気の毒、だったわね」
ハギヨシ「福路様、まだ後期試験も残されています。今から一緒に、対策していきましょう」
福路「……雨、ですね」
透華「……一日中、降ってますわね」
福路「えぇ……雨が、降っています……さっきも……今も……」
ハギヨシ「……福路様……」
透華「ついに合格発表ですわね」
福路「ドキドキします……」
透華(……まぁ、落ちてるに決まってるから全くドキドキしませんけど)
ハギヨシ「あ、張り出されました」
福路「神様……」
ハギヨシ(……申し訳ありません、福路様……)
透華(福路さん……あなたは、もう……)
福路「……ありました、私の番号!」
透華「……え?」
ハギヨシ「……確かに、福路様の番号ですね」
福路「やりました! 透華さん、ハギヨシさん! 本当にありがとうございました!」
透華「ちょ、ちょっと待ちなさい! あなた、一番前の席だったはずですわ!」
ハギヨシ「右目は、使えないはず……」
福路「確かに、お手上げだと思いました。もう、どうしようもないって」
福路「その時……後輩たちの声が聞こえたんです。そして気づきました、諦めちゃダメだって」
ハギヨシ「し、しかし……」
福路「……あの日のこと、覚えてますか?」
透華「試験日の、ことですの?」
福路「えぇ、あの日は……一日中、雨でした。試験中も、外は雨雲に包まれて暗かった」
ハギヨシ「……! そういうことですか!」
透華「ハギヨシ、どういうことですの!?」
ハギヨシ「外が暗いなら、部屋は電気をつける……天井から、光が照らされる」
ハギヨシ「福路様……あなたは問題文を見ていると見せかけ、そのさらに下の……」
ハギヨシ「床に移った、隣りの受験生の影を見ていたんですね」
福路「さすがハギヨシさん、その通りです」
福路「私は影の動きをベースとし、鉛筆の角度、音、空気の流れ、シックスセンス……それらから、動きを再現しました」
福路「あとはその人が、合格する力があること……三倍の倍率、3分の1に……賭けたんです」
透華「もう、人間じゃありませんわね……」
プルルルル
福路「華菜、私受かったわ!」
池田『マジですか! 東大受かるとか、さっすがキャプテンだし!』
福路「ありがとう、みんなのおかげよ!」
池田『そうと決まれば、さっそく祝勝会だし! いつにします、キャプテン!?』
透華「隣りの人と解答が一緒なら、カンニングを疑われないんですの?」
ハギヨシ「おそらく、完全に再現は不可能だったんでしょうね……ところどころ間違えつつも、合格点は取れていたのかと」
透華「本当に細かいところまで優れた能力ですわ……しかしハギヨシ、どうしましょう?」
ハギヨシ「……ふふ、もうここまで来たら手の打ちようがないですね」
福路「透華さん、ハギヨシさん! 本当に、ありがとうございました!」
透華「はぁ……あなた、苦労しますわよ」
透華「でも……今は、おめでとうと言っておきますわ。福路さん」
ハギヨシ「またいつでも遊びにいらしてください、福路様」
福路「はい、これからもよろしくお願いします!」
その後、福路美穂子は美少女東大生プロ雀士として一躍有名人となった。
そして期末レポートに対し本当に打つ手がなく、またも透華とハギヨシに泣きつく日が来るのであった。
END
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