P「どうも。元スパイの赤羽根です」 (487)
初投稿になります。
書き溜めあります。
よろしくお願いします。
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都内某所 4月 23:58
高木「もうこんな時間か……」
私の腕時計は夜の0時を回ろうとしていた。
突然だが、こう見えて私は社長だ。それもアイドル事務所の。
まぁ、まだまだ小さいがね……いずれ大きくする!
――いや、問題はそこじゃない。人手不足だ。
アイドル候補生13人に対し事務員とプロデューサーが1人ずつ。
おかげで私も営業に回っているというわけだ。
音無君はいつも言う。
『社長?いい加減、普通に誰か採用してください普通に!』と。
しかし私の哲学であり経験は曲げられない。ティンとこないのは仕方がないだろう?
高木「とはいえ、限界かな……時には信念を曲げるべきだろうか」
頭を悩ませながらも、夜の街を歩いて帰る。
歩いて帰れる距離だと判明したら、律子君に歩いてくださいと言われてしまった。
『予算もギリギリですので、すみませんが歩いてください』
高木「一応、上司なんだがねぇ……」
不良1「オイおっさん、カバンよこせ」
知らない声でふと我に返る。
思案しすぎて周りが見えてなかったようだ。
いつの間にやら3人の不良に囲まれていた。
不良2「なあ火ィもってない?」
不良3「ちょっとこっち来いよ」
高木「なんだね君たt」
しかし彼らは私の話を聞かずに、カバンをむりやり引きはがす。
高木「コラ君たち!返したまえ!」
不良2「っせーな、火ィ持ってねーならコレで我慢してやるよ」
高木「返しなさい!大事な書類が入ってるんだ!」
不良3「しつけーな、やっちゃう?」
不良1「いいんじゃね?別にバレねーだろ」
その言葉の意味を理解するのには、時間がかからなかった。
あぁ、オヤジ狩りというやつか。下手をすれば、私は死ぬのだろうか?
最初に話しかけてきた不良が、右手をふりあげる。
が、とっさに目をつぶった私に右手はふりおろされなかった。
?「うるせーな。騒ぐならよそでやれ」
見知らぬ青年が、後ろから不良の手をつかんでいた。
地獄で仏、いや救世主とはこのことか。
不良2「な、なんだテメ「だからうるせぇ」ぐわぁ!」
不良3「オイ、大丈夫か!?」
彼はもう一方の手で、目にデコピンをお見舞いする。
?「とっとと失せろ」
その一言で彼らは逃げ出した。
まるで漫画のような出来事に、私はただ茫然としていた。
不良1「離せよクソっ!」
?「おっとお前はカバンを置いていけ」
不良はカバンを投げ捨てると、一目散に走って行った。
高木「ありがとう、恩に着るよ。しかし目はやりすぎではないかね?」
?「目尻だから失明の問題はない。急所の一つだ」
青年は淡々と述べる。冷静さと行動力がすさまじく高いようだ。
?「じゃあ、これで」
高木「待ってくれ。名前は?何かお礼がしたい」
?「礼などいらん。その気持ちがあるなら募金活動でもして……」
しかし彼は一旦区切り、私をじっと見ながらゆっくりと言った。
赤羽根「ひとつ頼みがある。名前は……赤羽根健治だ」
高木「赤羽根君か、なんだねお願いとは?」
思えば、このときが運命だったのかもしれない。
募金から羽を連想し、ありふれた名前を言った彼は――
――まぎれもなく救世主だった。
P「あんた、社長でしかも人手不足なんだな」
高木「なぜそれを?」
P「ブツブツと独り言つぶやいてたぞ」
高木「お恥ずかしい限りだ。まあ貧乏事務所だがね」
P「給料はいらない。事務所を助けてやる。だから働かせてくれ」
高木「……なんだかすごいことをいってないかね?」
P「ああ。だがマジに話してる。ちょっと色々あってリストラされてな」
高木「何をやっていたのかね?」
P「わかりやすく言うなら、『スパイ』ってところだな」
高木「……アッハッハ!面白いジョークだねぇ。うむ、ティンときた!」
私は名刺を渡す。
高木「明日、ここに13時に来なさい。形だけだが面接をしよう」
そういって彼とその場を後にした。
※ここから視点はPに変わります、すみません。
翌日 12:50
P「ここか、確かに貧乏だな」
たるき亭という食堂の上にはその事務所があった。
3階にガムテープで765と貼ってある。
ガムテープというのが、より貧乏に見せるのではないか?
P「まぁ、なんでもいい」
身を隠せるならどこだっていい。
階段を上がり、扉の前で一呼吸。ノックをすると、中から返事が聞こえた。
小鳥「はい、どちら様でしょうか?」
扉を開けると、美人な人が対応してくれた。
アイドルかと思ったが、よく見ると制服を身に着けている。
ここの事務員らしい。
P「13時に社長と面接をさせていただく、赤羽根といいます」
小鳥「えっ?でもそんな連絡h」
高木「いや~待っていたよ!さあ、中に入りたまえ」
小鳥「社長!そういう大事なことは連絡してください!」
高木「すまない音無君。とにかく会議室を使うよ」
小鳥「はぁ、わかりました」
会議室へと通された俺は、一つ質問をぶつける。
P「あの、アイドルは?」
高木「彼女達ならいまはレッスンの時間だ。といっても自主レッスンで、互いに教え合うといった感じだがね」
P「見学は可能ですか?」
高木「今から向かえば1時間くらいは見れると思うよ」
P「なら行きましょう」
高木「いやホントに行動力があるね君は」
レッスンスタジオ 13:19
律子「お疲れ様です社長。えっと、そちらの方は?」
高木「すぐにでも分かるよ。なに、大丈夫だ」
律子「はぁ、わかりました」
とりあえず会釈だけでもしておこう。眼鏡をかけていたということは、恐らく秋月とかいう奴か。
高木「それで、アイドル諸君はどうかね?」
律子「みんないい雰囲気です。ただ、やっぱり個性が強いというかなんというか」
高木「ふむ、そうか。まあこの世界じゃ個性は薬にも毒にもなるからねぇ」
チラリと俺を見ながら続ける。
高木「それを活かすようにサポートをしっかり頼むよ!」
律子「はい!任せてください!」
ハイキュウケイオワリヨー ミキネムイノ コラーミキー リッチャンガオコッター
高木「さてと、君はもっと近くにいかなくていいのかい?」
P「いきなり知らない男が近づいたら警戒するでしょう」
P「とりあえずは社長と遠目から様子見ですね」
高木「なるほど。あぁそうそう、先ほどの彼女は秋月律子君だ。彼女は元トップアイドルでね、今はプロデューサーとして支えているよ」
P「指導者としてはバッチリ、か」
高木「他に訊きたいことはあるかね?」
P「希望ならいくつか」
事務所 18:53
高木「さてみんなにニュースがある」
社長は全員を集めて話す。
高木「気になっていただろうが、ここにいる彼は新しいプロデューサーだ!」
P高木以外「えええぇぇぇーーーー!」
高木「というわけで自己紹介を頼むよ」
P「ただいま紹介されました、えっと赤羽根健二と申します」
P「必ずトップアイドルにするから、よろしく」
高木「それと、彼はワケありでここに住む。まぁ社長室はあまり使ってないから丁度いい」
真美「えっ、住む!?」
亜美「遅刻の心配がなくて楽チンっしょ~」
高木「というわけで、仲良くするように」
響「社長、それ本気で言ってるのか?」
貴音「響、何事も適応が大事ですよ」
千早「まぁ、なんでもいいですけど」
高木「そういうわけで今日は解散。来週も頑張ってくれたまえ」
オツカレサマデシター
高木「さて今日一日でどう思ったかね?」
P「そうですね、とりあえず1時間ずつでいいので接してみてからですね」
P「秋月さん、音無さん。なるべく無駄遣いはしませんから心配はいりません」
P「ひとつお願いがあります」
律子「なんですか?あとよそよそしいので律子でお願いします」
P「それが原因でリストラされたんで遠慮します。それより彼女たちのプロフィールや活動記録なんかを用意できるだけください」
小鳥「相当な量ですよ?」
P「構いません、早くよこして下さい」
律子小鳥(なんなんだろこの人、表情一切変わらないし)
P「じゃあ早速資料お借りします」
律子「後からまた持っていきますね」
P「お願いします」
――12人か。まぁ普通に処理できる量だな。
翌週 事務所 7:30
小鳥「おはようございます。って誰もいないいのよね」
いやいるんだけど。
小鳥「えっとコレは?社長宛てね」
小鳥「失礼しキャアっ!」
失礼な女だ。まるで不審者でも見たかのような反応だ。
小鳥「あ、ぷプロデューサーさんでしたか……(そういえば忘れてたわ)」
おおかた忘れていたんだろう。軽く会釈で返しておこう。
小鳥「ところでそれって春香ちゃんの活動記録ですよね?」
P「ええ。天海はいつ来ますか?」
小鳥「たぶん8時くらいには来るかと」
P「分かりました。たるき亭で朝食とってきます」
事務員のいうとおり、8時に天海はきた。
会議室で1時間話をすることにした。
春香「よろしくお願いしますね、プロデューサーさん!」
P「早速だが、なぜアイドルを目指す?」
春香「えっ?歌って踊るのが好きで……普通の理由です」
少し赤くなりながら天海は言う。理由が脆いというのは、一番危ないかもしれない。
P「軽く自己紹介してみてくれ」
春香「事故紹介?えっとよく転びますけど……」
訂正、一番危ないヤツ確定。
その後、誤解を解きつつ如月と交代した。
P「早速だが、なぜアイドルを目指す?」
千早「私は世界的な歌手を目指しています。アイドルはその手段だと思っています」
淡々と如月は言う。割り切るにはそれ相応の自信があるということか。
P「歌以外の仕事は、できればしたくないという感じか?」
千早「はい、歌に繋がるのであれば受けてもかまいません」
俺と少し似ている。なら、こいつも危ない。
その後、如月の理想を少し聞いてから星井と交代した。
美希「あふぅ、よろしくお願いしますなの」
P「早速だが、なぜアイドルを目指す?」
美希「ん~キラキラできるかなって、アハッ☆」
なるほど。独特な感性だがマイペースだ。
才能はあるというが、これでは無駄遣いだ。
P「ウサギとカメなら、どっちを応援する?」
美希「童話のこと?美希的にはお昼寝できるウサギさんかな。でもゆっくり歩くカメさんも捨てがたいの」
その後、星井を観察しながら高槻と交代した。
やよい「よろしくお願いしまーす!高槻やよい14才です!」
資料によれば笑顔が印象的、確かに明るい。
P「早速だが、なぜアイドルを目指す?」
やよい「えっとクイズ番組とか面白そうだなーって」
恐らく本音ではない。全てがウソというわけでもなさそうだが。
P「家の掃除をするとき、高槻ならどこから始める?」
やよい「天気がいい日なら先にお洗濯し……はわっ!長介に干してって言うの忘れてた!」
この子は落ち着きが必要だな。
その後、掃除について熱く語った高槻には萩原と交代してもらった。
雪歩「あああの、よよよよろしくお願いしますぅ!」
P「……早速だが、なぜアイドルを目指す?」
雪歩「わ、私、自分に自信がなくて、少しでも自分を変えたくて……」
男性恐怖症にもほどがあるだろ。なぜ部屋の隅に行くんだコイツは。
雪歩「ひんそーでちんちくりんな私が夢なんか見ちゃってごめんなさいですぅぅぅ!」
そう言うと萩原は部屋を出て行ってしまった。
俺が怒られかけたがしかたがない。
萩原にはよりいっそう慎重に接さなければならないようだ。
あとスコップがどうとか騒いでたがなんの話だ?
昼食をまたもやたるき亭ですませ、菊地を呼んだ。
真「よろしくお願いします!」
P 「早速だが、なぜアイドルを目指す?」
真「だってかわいいじゃないですか!ボクもかわいくなりたいんです!」
なるほど、色々と間違っているとはこういうことか。
P「一人称がボクっていうのは、どうやら普段からみたいだな」
真「うっ!変、ですか?」
――少し試すか。
P「まあ違和感はある」
真「そ、そうですか……あの、ちょっと変えてみます!」
そういうと深呼吸を始める。
真「えへへっ☆こんにちはぷろでゅーさー!」
P「双子を呼んでくれ」
真「」
誰にでも失敗はあるが、アレはやっちゃいけない類だったな。
事故にはなるべく巻き込まれたくない。
真美「よろー兄ちゃん!」
亜美「亜美たちのことなんでも聞いてねー」
P「早速だが、なぜアイドルを目指す?」
亜美真美「楽しそうだから」
P「特技は?」
亜美真美「モノマネー!あとゲームとメール!」
このシンクロ感はなんだ?
亜美「んっふっふ~、逆に質問ね!」
真美「真美と亜美ならどっちがお好みかなー?」
ああなるほど、問題児なんてもんじゃないな。
菊地以上の大事故の根源だ。
P「水瀬を呼んでくれ」
真美「まさか、真美たちでは飽き足らないというのか!?」
亜美「貧乳ツンデレのほうがお好みだったかー」
伊織「誰が貧乳ツンデレよ!」
クッ チハヤチャンオチツイテ
P「早速だが、なぜアイドルを目指す?」
伊織「家柄に頼らず、自分だけの力で成り上がるためよ」
こいつも少し俺に似ているところがある。
だがどこか大人ぶっているようにしか見えない。
伊織「他に質問は?」
P「人を採用するにあたって一番大事だと思うものは?」
伊織「さあね。能力とか?」
P「なるほどね。とりあえずアドバイスだ」
P「急いては事を仕損じる」
伊織「アンタにもアドバイスしてあげる。もっと愛想をふりまくことを覚えなさい」
伊織「この業界はイメージが大きな要素をもつわ。そんな顔じゃ煙たがられるわよ」
伊織「じゃああずさを呼んでくるわ」
ツンデレ、ね。指導が大変そうだな。
P「採用するにあたって大事なのは信用だ」
あずさ「よろしくお願いしますね、プロデューサーさん」
P「早速だが、なぜアイドルを目指す?」
あずさ「運命の人を見つけるためです」
運命の人?まさか電波系か?
あずさ「私、よく道に迷うんです。でもアイドルとして一生懸命やったら」
あずさ「運命の人に見つけてもらえるかなって、うふふ♪」
P「例えば俺がここに入社するのも運命だと思いますか?」
あずさ「うーん、そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません」
あずさ「でも運命だったとしたら、素晴らしいことですよね」
その後、ゆったりとした1時間を過ごしながら四条と交代した。
貴音「よろしくお願いします、ぷろでゅーさー殿」
P「早速だが、なぜアイドルを目指す?」
貴音「己の力を試すために、この世界に入った所存です」
P「特徴的な話し方だな。出身地は?」
貴音「秘密です」
P「では何かの漫画に影響されたとか?」
貴音「秘密です」
年齢、名前、志望理由しかわからん。その気になればわかるがしたくはないしな……。
P「四条にとって最も大事なものは?」
四条は微笑みながら、人差し指を口に当てる。
貴音「とっぷしぃくれっとです」
P「分からないが分かった。我那覇を呼んでくれ」
響「はいさーい!もう待ちくたびれたぞ自分!」
P「悪かったな。早速だが、なぜアイドルを目指す?」
響「自分、ダンスが好きなんだ。自分のダンスでみんなが笑顔になってくれたらいいなって思って」
こいつも天海タイプか。
響「それに、自分完璧だからすぐにトップになってみせるぞ!」
P「完璧ならすでになっててもおかしくないか?」
響「えっとそれは、こ、これからもっと完璧になるからなんくるないさー!」
もしかしなくてもバカだなコイツ。
18:30
P「みんな集まってくれ」
俺の呼びかけに視線が集まる。星井は寝ぼけているようだが。
P「ハッキリ言おう。このままではトップなどムリだ」
その言葉にざわつく一同。だが、まずは嫌われてでも心を折らなければいけない。
春香「あの、何がいけないんですか?ダメなところは治しますから!」
P「なら天海、歌とダンスと見た目で二番目に得意なものはなんだ?」
春香「えっと二番目、かろうじてダンスです……」
P「なら見せてみろ」
しかし天海は動けないでいた。自信がないからだろう。
P「もういい。わかっただr」
千早「待ってください」
P「なら如月、二番目に得意なのは?」
千早「そうですね、私もダンスで」
そういってステップを踏む。だが何をしようと俺の心は変わらない。
P「正確だが、それまでだ。デモテープを聞いたときのように驚きはしない」
P「星井は本気で取り組まない、高槻は笑顔しかない。萩原はオドオドしすぎ、菊地は可愛さを勘違いしている」
P「双子は悪戯かゲームばかり、水瀬は頼ら無すぎる。三浦は見通しが甘い」
P「四条の秘密主義は扱いづらいし、我那覇は楽観的すぎる」
P「これでどうしろってんだ?」
沈黙があたりを包む。目に涙を浮かべる者もいた。
律子「……言い過ぎです。誰にだって弱点はあるでしょう!」
秋月がそう言うと、ポツリポツリと口を開き始める。
真「ボクたちはまだ、ダメなところもありますけど…」
あずさ「だから逆に頑張っているんじゃないかしら?」
伊織「疑問形じゃダメよあずさ。それに、弱点ぐらい把握してるわ」
美希「よくわかんないけど、言い過ぎだって思うな、そこの人」
雪歩「さ、最初からうまくいく人なんて、ほんの一握りの人だけで、うぅ…」
小鳥「そうよ雪歩ちゃん、今回はプロデューサーさんの言葉がきついと思います」
P「天海、お前はどう思う」
春香「…私たちは、これから輝くんです。だから、今はダメでも…」
春香「絶対なれるって決まったわけじゃないですけど、それでも…」
春香「それでも、みんなといっしょに頑張りたいです!」
P「その台詞が聞けてよかった」
P「お前ら全員、トップアイドルを目指すべきだ」
P「初めからなるべくしてなった者などはほとんどいない」
P「だが、自分を知り、諦めない志があるならなれる」
P「きつく言ってすまなかった」
俺は深々と頭を下げた。
21:00
思春期の女性というのはなかなか大変だ。
謝ったとたんに罵詈雑言の嵐。
まぁ本気で言ってる者はいないようだが。
小鳥「落として上げるなんてどこのホストですか」
P「自信がつきやすい方法です」
小鳥「それに、諦めずに夢を持ち続けるって大変なんですよ?」
P「社長がスカウトしたのはそういう子たちばかりでしょう?」
律子「どうして二番目を挙げさせたんですか?」
P「一番は自分で自覚できる武器、二番は自覚している、これから伸ばせる武器だからです」
小鳥「なるほどー。期待していますね、プロデューサーさん」
P「はい。ところで社長はいますか?」
高木「呼んだかね?」
P「今日飲みに行きませんか。話したいことがあるので」
高木「たるき亭でいいかね?」
P「いえ、個室がいいです。どこか居酒屋ありますかね」
高木「ふむ、わかった。ではちょっと探しておこう」
某居酒屋 22:53
高木「それで話したいこととは?」
P「まず今日の失言です。見捨てずに黙って見守っていたことに感謝します」
高木「いやいや、君なら何かやってくれるだろうと思ってね」
P「それから本題です。前の仕事についてです」
高木「ははっ、スパイと言っていたね。して、本当は?」
P「ええ、スパイです」
高木「君ぃ、真剣に話しているのだよ?」
P「ええ、真剣です」
高木「……真剣というなら詳しく話せるかね?納得できるように」
P「そう、ですね…例えば、世界にはスパイがいるのは分かりますか?」
高木「それは海外の話だろう?それとも君は、海外でスパイだったというのかな?」
P「いえ、海外だけではなく日本にもあるとしたらどうです?」
高木「…まさか、そんな話が…」
P「とりあえず、話せることをお話しします」
P「俺は孤児でした。物心ついたときには組織にいて、色々と教育をうけました」
P「世界を相手に様々なことをしました。結果的に第三次世界大戦を防いだこともあります」
P「基本的には、一人で行動しました」
P「いつしかコードネームを受け継ぎました」
P「コードネームP。パーフェクトのPです」
P「殺人はしたことはありません。手ほどきは受けてますが必要がないんです」
P「情報操作の痕跡すら残さずに、盗むのが理想であり俺のやり方ですから」
高木「…信じられんな。あまりにかけ離れた話だ」
P「でもこれが事実です。日本政府の機密情報ですから、知らないのが当たり前です」
高木「して、パーフェクトな君がなぜこんなところに?私は何も情報などもっていないが?」
P「言ったでしょう?リストラされたんです。ミスをひとつ犯しましてね」
P「俺の存在は、極々一部にしか知られてません。戸籍もありません」
P「ところがドイツの諜報機関BNDに目をつけられました」
P「痕跡は消したハズなのにね。当然、彼らはそれを利用しないハズがない」
P「案の定、日本に交渉をもちかけてきた。俺の存在と俺が持つ情報は、もはや世界をひっくり返す力がある」
高木「もしそれが本当なら、君ひとりでも革命を起こせるのではないかね?」
P「そんなものに興味はない。そういう教育を受けたからですかね」
P「育てたスパイが裏切るなんてのはよくある話で、それを防ぐためにもはや洗脳に近い教育をするんです」
P「話をもどしましょう。日本だけでなく世界にダメージを与える人間の存在がバレた」
P「そりゃあ消そうとしますよね。俺もその命令を受けたとき、死ぬつもりでした」
P「でも、助けてくれた人がいました。まぁ教えられませんが」
P「で、今は世界中の諜報機関から逃げてるってわけです。もちろん助けた人物にすら見つからないように痕跡は消しました」
高木「…ではなぜここに?」
P「動くほどに見つかる危険性は高くなります。だからなるべく一か所に」
高木「この業界は人と関わる。見つかるのでは?」
P「えらい人は言いました。木を隠すなら森の中。人を隠すなら人ごみの中」
高木「…どうすれば信用できる?」
P「そうですねぇ、なら黒井崇男との因縁をお話しすれば信じますか?」
高木「き、君ぃ!なぜそれを!」
P「まぁ調べただけです。その昔、魔王エンジェルというユニット企画が立ちあがった。メンバーは音無小鳥と日高舞」
高木「もういい、そこまでで充分だ。その話を知っているのは私と黒井、音無くんと日高くんだけだったというのに…」
高木「…ひとつ確認したいが、765プロは大丈夫なのかね?」
P「その点は大丈夫です。万が一狙われたら、さっさと逃げます。標的は俺一人だし、765プロは俺のことを知らないことにする」
P「そのくらいの情報操作は簡単です」
P「ある日突然いなくなるかもしれない覚悟はしておいてください」
高木「……なるほど、給料はいらないという意味がいまわかった。かくまってくれということだね」
P「イヤなら断ってくれて構いません。昔も今も、無関係な人はできる限り巻き込みたくないんで」
そう、関わらなければ、楽なんだ。
どうせこの初老も、断るに決まっている。
高木「…この年になっても、まだまだ面白いことはあるものだ」
高木「絶対にアイドル諸君を危険にさらさないように。あとは好きにしなさい」
それは騙し合いの世界で生きてきた俺には、信じがたい反応だった。
某スタジオ 10:20
天海と如月、我那覇と四条。料理はまぁ大丈夫らしい。
春香「千早ちゃん大丈夫?」
千早「ええ、ちょっとカメラマンに腹がたっただけよ」
響「まぁ確かにちょっとその、え、えっちな撮り方っていうか」
貴音「では、わたくしが抗議して参りm」
響「貴音ぇ!そんなことしたら自分たちせっかくのお仕事なくなっちゃうさー!」
貴音「しかしそれでは…」
春香「まぁ深夜枠での放送だし、ちょっとはそういうのも仕方ないよ//」
千早「…そうね。少し外の空気を吸ってくるわ。すぐ戻るから」
とりあえず如月のフォローに回るか。
アオイートリーモシシアワーセー モシチカクニアッテモー
P「確か、蒼い鳥、だったか」
千早「!? 聴いていたんですか?」
P「ああ」
千早「…どう、ですか?」
P「確かに上手い。だが改善点をあげるなら『青い鳥もし幸せ』を一呼吸で無理に歌い上げる必要はない」
千早「っ!…驚きました、てっきり収録の態度を注意されるかと」
P「自分でわかっているなら注意の必要はない。歌の仕事につながるとは限らない、モチベーションが下がるのは本人の気持ち次第だ」
P「ちなみに一呼吸で歌わない時は、低音に力を入れろ」
千早「あの、収録なんですが」
P「自分で判断しろ。やりたくなければやらなきゃいい」
千早「私が言うのも変ですが、それでいいんですか?仕事ですよね。なのにやりたくないならなんて」
P「如月、ハッキリ言おう。今のお前には歌しかない。だが、それの何が悪いんだ?」
千早「っ…歌だけでは通用しないと言われて」
P「だからなんだって?むしろ歌だけで通用するくらいになればいいじゃないか」
千早「それが理想です。でも、現実はそうはいきません」
P「本当に?如月は他が失敗しても歌があるからあなどれない…そんな風に恐れられたくはないのか?」
P「この収録が失敗しても、別の番組で歌えればいつだって巻き返せる」
P「そう思えたら、この収録に敵意をもたず、リラックスできるんじゃないか?」
ソロソロホンバンイキマース
千早「……」
P「巻き返すときのために、もっと歌を磨いておけ。さ、仕事再開だ」
事務所 14:00
千早「あの人は、いえプロデューサーは本当はいい人なのかもしれないわ」
春香「どうしたの千早ちゃん?」
千早「なんというか違うのよ、他の人と」
春香「確かに違うね。なんか変な感じ?」
千早「まあ変人ではあると思うけど…でも頼ってもいいのかもしれないなんて」
千早「ふふっ、気のせいね。忘れて」
春香「あー千早ちゃんが笑ったー」
千早「私も笑うときぐらいあるわ」
春香「アハハごめんね。ところであの人は?」
千早「真に付き添っていったみたい」
春香「大丈夫かなー…」
千早「どうして?」
春香「真、だいぶ苦手意識があるみたいで。私もちょっと苦手だけど」
千早「根拠はないけれど、プロデューサーなら大丈夫だと思うわ」
撮影スタジオ 同時刻
ハイオッケー キュウケイイレマース
真「はぁ…」
これでため息20回目か。しかし話しかけるなオーラがすごい。
真「もっとこう、ふりふりっとしたやつがよかったなー…」
とはいえバッチリと仕事はこなしている。意識は高いようだが…
カメラマン「んーなんか躍動感が欲しいんだよなー」
ディレクター「でも笑顔はいいじゃない」
カメラマン「なんとなく表情かたいんですよ」
ディレクター「そう?キリっとしてかっこいいけどな」
こういう会話も聞こえてしまうと、やはりフォローが必要だよな。
はぁ、耳がいいってのも考えものだな。
P「菊地、勝手に話すぞ」
真「どうぞ」
P「菊地ができる最大限のかわいいアピールってできるか?」
真「ふりふりした服であれば」
P「じゃあやろう」
真「は?」
P「企画を持ち込んでくr」
真「ちょ、ちょっとまってください!」
P「なんだ?」
真「だってボクがそれをやると、まわりがみんな白けるんです」
真「ボクだって空気は読めます。かっこよさを求めてるなら、仕事ですから自重します」
P「黙れ、希望する服を教えればそれでいい」
真「なっ、黙れって!そんな言い方はひどいですよ!」
真「あ、わかりました。一度かわいいのを撮って諦めさせるつもりですね。残念ですけど、そういうのは慣れっこです!」
P「なんでもいいから早く教えろ」
教えてもらえたのはいいが二つ問題が。
一つはセンス、一つは敵意むき出しってことだ。
俺、初日でそんなに嫌われたか…
P「すみません衣装さん、菊地のプロデューサーです。こういうのってありませんか?」
衣装係「えーっと、近いのならいくつか」
P「なら貸していただけませんか?」
衣装係「でも急には…」
P「最高のモデルにこのセンスがある衣装。この組み合わせを見たくないんですね?」
衣装係「それは…」
カメラマン「…そこまで言うならお願いします。売れない雑誌の4ページであろうが、良いものを撮りたいので!」
人は否定形で訊くと了承しやすい、そんな知識がまさかここで役にたつとはな。
まぁカメラマンに助けてもらった感じだが。
P「菊地、準備はできたな?」
真「ホントにいいんですか?」
P「本気でかわいくなりたければこれを守れ。九割セーブしろ」
真「…はい」
P「菊地!お前は可愛い!」
真「っ//行ってきます!」
菊地は外見は整っている。しかし過剰なアピールと古い少女マンガのイメージで減点される。
もし本気でかわいい路線を今のままいくなら――
真「バッチリって言われました!次はどうすればいいですか!」
P「ワンピースなら五割セーブしろ」
真「やってみます!」
ドレスなら淑女らしく黙って微笑む。ワンピースなら少し快活に。
ストリート系ならボーイッシュに。
――つまり力の抑えどころを覚えさせればいい。
カメラマン「いいね!隠れてた良さを引き出せた気がするよ!」
真「ありがとうございます!」
事務所 17:28
真「プロデューサーはすごいや!なんだか今日のボクってボクじゃないみたいだったよ!」
雪歩「どどどうしたの真ちゃん!?あんなに嫌がってたのに!」
真「ボクの勘違いだったってことだよ雪歩!はやく次のお仕事来ないかなー」
雪歩「真ちゃんが言うなら…うぅ、でもやっぱり怖いものはこわいですぅ…」
千早「…見た?春香」
春香「うん。まさか真が認めるなんて…」
千早「言い方はきついけれど、本当にすごい人よ」
春香「うーん…でもつかみどころがなさ過ぎて怖くって」
千早「それは、そうだけど。ゆっくり知っていけばいいわ」
春香「そう、なのかなぁ…」
事務所 22:00
律子「あら、まだいらしていたんですか」
P「高槻と水瀬の仕事をまとめていまして」
律子「いつ仕事とったんですか?」
P「たるき亭で昼食をとっているときですが」
律子「私も効率重視ですけど、昼食ぐらいゆっくりしたらどうです?」
P「時は金なりというだろう」
律子「はぁ、あの、余計なお世話ですけど」
P「余計ならいらん」
律子「うっ…そういうところ直したらどうです?」
P「愛想を振りまくのは、アイドルの仕事だ」
律子「人間関係とか少しは気にしてください!」
P「そういう秋月はどうなんだ?」
律子「私?」
P「俺がいなければ、俺のようになっていた。今は気づいて修正しているみたいだが」
律子「あなたほど極端ではないつもりですが」
P「余計なお世話だが、人は車に追いつけない。だが車は人のスピードに合わせられる」
P「例えば秋月と高槻、どっちがどっちだ?」
律子「……本当に痛いところをあっさりと」
P「ただ、秋月の良さはそこだ」
律子「なんですか急に」
P「時には引っ張る存在が必要だ。とくに団体で行動するなら。見事にこなしていると感心するよ」
律子「けなすか褒めるか一つにしてください。本当にあなたって人はよくわからない人ですね」
P「俺にはできないことだ。特に団体行動ってのはしたことがない」
P「秋月、これからもアイツらをよろしく頼むよ」
律子「言われなくてもそのつもりです。じゃ、お先に失礼しますね」
そういって彼女は事務所を出て行った。
律子「……本当に変な人。でも悪い人じゃないのかしら。ふふっ……」
スタジオ 15:43
МC「では次の問題はこちら!フリップにお書きください!」
クイズ番組は難しい。たとえわかっていても正解してはいけない時もある。
まあ高槻と水瀬にその心配はないハズだったんだが。
MC「おや、水瀬チームの解答がすごい!解答オープン!」
フリップ[なごや県]
芸人「そんな県はねえよ!」
ワハハハ イオリカンチガイシテタワー テンネンダナ
なんとか水瀬がうまく立ち回っているが、高槻の元気がない。
昼食はきちんととっていたし体調も崩してはいなかったハズだ。
やよい「ありがとうございました!」
伊織「またよろしくおねがいしま~す」
伊織「ちょっとやよい、どうしたの?今日は元気ないじゃない」
やよい「伊織ちゃん……ううん、なんでもないよ」
伊織「そんなわけないでしょ?この伊織ちゃんに話せばすぐ解決よ」
やよい「ありがとう伊織ちゃん……でも、ウチの問題だから……」
P「二人ともさっさと車に乗れ」
伊織「分かってるわよ、いちいち言わないで」
P「――高槻、心配事があるなら早く話せ」
やよい「……」
伊織「やよい、無理に話さなくてもいいわ。時間がたったら話したくなるときもあるわよ」
伊織「それにコイツに無理に話すこともないわ」
やれやれ困ったものだ。
こうなったら反発せずに従うとしよう。
P「水瀬の言うとおりだ、俺に話したくなければその必要はない」
P「そのかわり話せばきちんと対応はする」
やよい「……実は長介とけんかしちゃって」
伊織「なにがあったの?」
やよい「長介も色々やりたいことがあるみたいで……私、お姉ちゃんなのに長介のこと、最近放っておいたなって…」
やよい「私の家、お金がないから……長介に我慢ばかりさせてたなぁって……」グスッ
やよい「うぇ、ううっ、うわあぁぁん、ちょうずげに゛ぎらわれちゃっ、うぅ…」
伊織「そういうことだったの。いい、やよい?帰ったら長介に謝るの」
伊織「長介だってバカじゃないんだから、ちゃんと分かるわ」
やよい「で、でも、許じてぐえなかったら?」
伊織「ほらハンカチ貸すから泣き止みなさい。そうね、許してくれなかったら……」
会話から察するに兄弟でしかも高槻が姉で長介とやらは弟か。
そのぐらいの年の子は頑固だからな、根に持つとやっかいだ。
伊織「それでも謝るしかないんじゃないかしら」
水瀬の顔も曇っていた。許してもらえなかった時のことは考えつかなかったらしい。
ここは水瀬を持ち上げつつアドバイスするか。
P「水瀬のいうとおりだ」
水瀬がミラー越しに睨んでくる。話の邪魔をするなといった感じか。
P「高槻、長介くんは嫌ってなどいない」
やよい「ふぇ?」
P「ただストレスがたまってただけだ。それに謝りつづけるのはいいことだ」
P「長介くんだってこのままでいいハズがない。だが変にプライドが邪魔をして、自分からは謝れない」
P「だから姉が先に謝って、会話のキッカケを作ればいい。水瀬はそういうことを言いたいのさ」
やよい「……うん、私、長介にちゃんと謝る!えへへ、ありがとう伊織ちゃん!」
伊織「そ、そうよ!そういうこと!ちゃんと仲直りするのよ!」
P「高槻、お前から笑顔をとったら、みんなは悲しむぞ」
事務所 18:18
やよい「えへへ、プロデューサーってすごいね!」
亜美「どうしたのやよいっち?」
伊織「まぁ、なかなか優秀なんじゃない?私はまだ認めてないけど」
真美「いおりんもとうとう認めたかー」
伊織「認めてないって言ってるでしょ!」
やよい「伊織ちゃんはプロデューサーのこと嫌いなの?」
伊織「べ、別に嫌いとは言ってないわよ」
やよい「じゃあ伊織ちゃんも好きなんだね!」
真美「聴きましたか亜美隊員!」
亜美「もちろんですとも真美隊員!いおりんとやよいっちは兄ちゃんにラブラブなんだねー!」
伊織「ななな//なに言ってんのよアンタたち!そんなわけないでしょー!」
春香「うう…みんながあの人に騙されていっちゃう…」
小鳥「あら?どうしたの春香ちゃん、覗き見なんかして」
春香「っ!こ、小鳥さんビックリさせないでくださいよ~…」
小鳥「えぇ!?えっとごめんね春香ちゃん、それでなにかあったの?」
春香「……あの、小鳥さんはあの人のこと、どう思いますか?」
小鳥「プロデューサーさんのこと?んー…変わった人だとは思うわ」
春香「じゃあその、認めてますか?変な台詞ですけど……」
小鳥「なんとなく言いたいことは分かるわ。仕事はすごくできると思うけれど」
小鳥「ミステリアスすぎて分からないのよねぇ」
春香「そうですよね!あーよかったー」
小鳥「でも別に嫌いではないわ。好きとも思ってないけど」
春香「あ、そうですか……」
オーディション 11:15
P「ローカル地方だが、大御所が誕生した番組でもある。集中していけ」
あずさ「あ、あのプロデューサーさん//そろそろ手を離していただかないと//」
P「断ります」
あずさ「あ、あらあら//どうしてですか?」
P「ギリギリまで離しません。あなたはGPSでも追えませんから」
あずさ「でも周りの視線が気になってしまって//」
P「俺は気にしません。あくまで仕事ですから」
あずさ「そ、そうですよね……」
デワオーデションヲハジメマース
あずさ「時間ですので頑張ってきますね!ふふっ」
P「あ、三浦。一つ言っておく」
あずさ「なんですかプロデューサーさん?」
P「あなたはしっかりしなくて結構です。頑張らないでください。期待はしています」
あずさ「は、はぁ……えっと、とにかく頑張ってきますね!」
だから頑張るなって言ってんだろうが。
スタッフ「結果はすぐ発表されますのでそれまでお待ちください」
P「三浦、どうだった?」
あずさ「あ、プロデューサーさん…うまく質問に答えられませんでした…」
あずさ「あ、でも後半は答えられた気がします!プロデューサーさんさんのおかげですよ~」
P「どんな感じだったんだ?」
あずさ「最初、審査員の方が早口で聞き取れなくて…そこで頑張るなって言葉を思い出したんです」
あずさ「聞き取れなかったですけど、リラックスして答えられました~」
まあ早口だってのはリサーチしたから知ってたんだがな。
P「なら見当違いのことも答えたりしたか?」
あずさ「いくつかはそうなってしまったと思います。他の子はきちんと聞き取れてしっかりしてますね…」
P「あの審査員のためにそういう練習をしてたんだろうな。俺はわざとさせなかったが」
あずさ「えぇっ!?どうしてしなかったんですか?」
スタッフ「4番、三浦あずささんいらっしゃいますかー?合格です!」
P「呼ばれてるぞ、テレビで歌ってこい」
あずさ「え?え?あ、あらあらなんだか忙しいですけどいってきますね!」
リサーチによると、審査員はわざと早口で聞き取らせないようだ。
その状況での判断力と行動を見ているらしい。
それなら興味を引く回答の方が、適切な回答より印象に残りやすい。
例え見当違いの答えでも、面白いと判断されれば儲けだ。
審査員「三浦あずささんですね、あなたなかなかの天然さんだけどキャラじゃないみたいね」
あずさ「よく言われます~」
審査員「やっぱりあなた面白いわ。また機会があったらよろしく。じゃ、収録おつかれさま」
あずさ「ありがとうございましたー。…本当にゆっくり話せたのねぇ…」
オツカレサマデシター オツカレサマ
あずさ「プロデューサーさーん、見てくれました?」
P「いや見てない」
あずさ「え、あ、あの私また何か失敗しちゃいましたか?」
P「いえ見てないので知りません。というか見る必要を感じなかっただけです」
あずさ「わ、私…やっぱりもっとしっかりしてなきゃダメですよね…帰りましょうかプロデューサーさん」
P「帰るのはいいがどこに向かうつもりだ全く」
そう言いながら俺は手をつかむ。
P「色々と誤解してるんだろうけど…ま、車で話す」
車内 12:20
P「別に見捨てたわけじゃない。言ったでしょう?期待はしてるって」
P「三浦は見通しが甘い、甘すぎる。でも…」
あずさ「でも…?」
P「アイドルとしての甘さは嫌いじゃない。むしろ憧れの存在がそんな弱点を持っているとしたら」
P「それは大きな武器として通用する。アイドルが身近な存在だと思えたら好きになるだろ」
P「もちろん俺も好きだ」
あずさ「まぁ…!ふふっ、そんなことを言われたのは初めてです//」
P「顔が赤いぞ?熱でもあるのか?」
あずさ「いえいえ、お気になさらずに//私、これからも頑張ります!ゆっくりと、ね」
P「そうしろ。能力は高いんだから頑張りすぎるな。空回りはダメだ」
あずさ「はーい、あ、着きましたね……」
P「先に降りててください、すぐ行きます」
あずさ「ふふっ//俺も好き、だなんて//」
亜美「あずさお姉ちゃーん、聞こえてるー?」
あずさ「?なーに亜美ちゃん?」
真美「なんか嬉しいことでもあった?」
あずさ「ええまあ。ちょっと、ね」
亜美「いいなー。何があったか知らないけど」
律子「ホラホラあんたたち、給湯室にお弁当おいてるから早く食べなさい」
真美「いえっさー」
律子「ふぅ。ところであずささん、プロデューサー殿となにかあったんですね?」
あずさ「えぇ!?//そ、そんなことないですよ!」
律子「分かりやす過ぎます」
あずさ「うぅ//その、とっても意地悪に見えて優しい人なんだなって気づきました」
律子「また一人陥落、か」
あずさ「『また』ってことは律子さんもですか?」
律子「サアシゴトシゴト」
あずさ「律子さん?律子さーん?」
数日後 9:00
春香千早「おはようございます」
P「おはよう、お前たちはレッスンだ」
真響「おはよーございます!」
P「おはよう、お前たちはバックダンサーの仕事に行って来い」
美希「おはよーございまあふぅ」
P「天海たちについていけ」
雪歩やよい「おはようございますぅ!」
P「雑誌の取材があるから待機してろ」
律子「おはようございます」
P「おはよう、三浦と水瀬、四条が午前はオフ、双子がもう車に乗ってるからスタジオに連れてってくれ」
吉澤記者「おはようさんパーフェクト」
P「おはようござい……今なんと?」
吉澤「取材終わったらたるき亭においで」
あの記者、そういえば…
吉澤「やよいちゃんと雪歩ちゃんだね、可愛い子を前にしちゃうと緊張しちゃうなーなんてね」
吉澤「年寄りには優しく頼むよ」
やよい雪歩「よ、よろしくおねがいしまーすぅ!」
とりあえずここまでにします。
読んでくれてる方がいるか分かりませんが、ありがとうございました。
明日も更新予定です。
レスいっぱいもらえて嬉しいです。
再開の前に一つほど。
リアリティを追及しているつもりですが想像力がたりないので矛盾とか
分かりづらい内容、もしくはだるく感じるかもしれません。
それでも良い方は引き続きよろしくお願いします。
たるき亭 10:53
吉澤「世間は狭いね。表の顔は芸能記者、裏の顔は諜報員。そしてまさかの再開」
P「その説は助けていただいてありがとうございました」
吉澤「ちなみに来てから君がいることを知ったよ」
P「ヤツラにはバレてるんですか?」
吉澤「君の居場所?僕以外にはバレてないね」
P「なぜ助けたんです?」
吉澤「いやぁ、理不尽だと思ったからさ。どう考えても安藤が怪しい」
P「あなたはよく消されませんでしたね」
吉澤「君がうまく逃げてくれたからね。すべて君ひとりの力だと思い込んでるようだ」
P「あなたの立ち位置がよくわかりません」
吉澤「君の元上司であり味方だよ。逃がしたときに命令しただろう?真相を暴くまでは死ぬな」
吉澤「暴走した安藤を止めたいが、僕では力不足だ」
P「……任務了解」
吉澤「僕も可能な限りはサポートするよ、じゃあこれで」
P「……ご主人、サバ味噌煮定食一つ。それと舞台の台詞合わせですよ。だからそんな顔しないでください」
あとで脚本家を雇って書かせなきゃな……
春香「梅雨だねー」
千早「そうね」
春香「お仕事ないから暇だねー」
千早「そうね」
春香「むぅ…ちーはーやーちゃん!」
千早「なに春香?」
春香「千早ちゃん、なんだか生き生きしてるね!梅雨なのにうらやましいよー」
千早「春香、プロデューサーが言ってたわ。来たるべきときに備えて、自分を磨けって」
春香「それはそうだけどさー…小さな目標が欲しいなーって」
美希「あふぅ。美希のこと呼んだ?」
千早「おはよう美希。レッスン再開よ」
春香「星井じゃなくて、欲しいって言ったのを勘違いしちゃったんだね。もう、ドジだなぁ」
美希「春香にだけは言われたくないの」
春香「アハハ、それもそうだね…」
美希「ところで目標なら、プロデューサーにお願いすればいいって思うな」
千早「私もその意見に賛成ね。CМとかならすぐに取ってきてくれるんじゃないかしら」
事務所 12:43
千早「プロデューサー、ちょっといいですか?」
P「どうした如月?」
千早「春香と美希なんですけど、二人に仕事ってありませんか?」
P「ない」
千早「ではなにか取れませんか?小さなお仕事でもいいんです。刺激や目標は必要かと」
P「なるほど。ちょうど午後はデスクワークも片付いて暇だったところだ。営業してこよう」
春香美希「やったぁ!」
P「……お前たち、自分で言いにきたらどうだ」
春香「だ、だって怖いじゃないですか…」
P「なにが」
春香「まだそのレベルに達してないとか言われるかと…」
美希「美希おなか空いたの。春香、今日はお菓子ないの?」
春香「ごめんね美希、明日はクッキー作ってくるよ!」
美希「それなら許すの!」
P「よし、それでいこう」
春香美希千早「はい?」
翌日 9:00
春香美希「おはようございます!なの」
P「製菓のCМの仕事だ。すぐに準備しろ」
春香「え?いきなりですか?」
P「新商品の宣伝だからな。見ない新しい顔でやりたいというのを探してきた」
春香「見ない顔、ですか…うぅ…」
P「イヤなら早く売れろ」
美希「このCМで売れるから問題ないの」
P「大した自信だな」
美希「だって美希たちが出るんだよ?だったら美希たちもお菓子も売れるって思うな、アハッ☆」
春香「そ、そうだよね!よーし頑張るぞー!」
根拠がない自信か。やはり真のプライドの持ち主だな星井は。
スタジオ 9:30
スタッフ「では、このような感じでお願いします」
春香「わかりました!天海春香、頑張ります!」
美希「美希も頑張るの!見ててねプロデューサー!」
P「三浦ほどの安心はないから見ててやる」
ホンバンイキマース
美希「あふぅ、甘いもの食べたいのー」
春香「私はどうかな?天海だけに」
美希「うまくないの。それに比べてすぎのこ村はうまいの!」
春香「きのこ、たけのこ、すぎのこ」
美希「あなたはどれ派?」
ハイオッケーデース チェックオネガイシマース
春香「プロデューサーさんどうでしたか?」
美希「バッチリだったでしょ?」
P「……」
スタッフ「オッケーです!ありがとうございました!」
P「いや、少し修正を加えよう」
スタッフ「テイク2いきまーす、ヨーイスタート!」
美希「あふぅ、甘いものほしいのー」
春香「星井だけに?うまくないよ美希」
美希「うるさいのー!」
春香「まあまあ、じゃあ私なんかどう?天海だけに」
美希「うまくないの。それに比べてすぎのこ村はうまいの!」
春香「きのこ、たけのこ、すぎのこ」
美希「あなたはどれ派?」
スタッフ「オッケーでーす!」
P「口出ししてしまって申し訳ありませんでした」
スタッフ「いえいえ、おかげさまでいい画が撮れました!」
春香「プロデューサーさんってダジャレの才能があったんですね」
美希「ホンの少し出番が増えたの!」
P「天海、ビジュアルレッスンの効果が多少は出てたな」
春香「ホントですか!?」
美希「今日の春香は、美希と同じくらいキラキラしてたって思うな、あふぅ」
P「先に車に乗ってろ。軽く営業してくる」
車内 10:30
春香「……」
美希「」スヤスヤ
春香「はぁ……」
美希「春香?」
春香「起きてたの美希?」
美希「んーと、寝ながら起きてたよ?」
春香「それ、どっちなの?」
美希「どっちでもいいって思うな、それよりため息ついてどうしたの?眠いの?」
春香「それは美希だけじゃないかな」
美希「なんてね。美希わかるよ?プロデューサーでしょ?」
春香「うえぇ!?な、なんで!?」
美希「苦手だって言ってたもん。でも本当は仕事熱心な人だって気づいちゃったんでしょ?」
春香「すごいね美希は。その通りだよ…なんか今までの自分がバカみたいで…」
美希「別にいいんじゃない?最初は味がわからないことって、いっぱいあるよ?」
春香「味?」
美希「おにぎりだって食べてみないと、何の具が入ってるかわからないでしょ?」
春香「ふふっ、美希らしいね。帰ったらプロデューサーさんさんに謝るよ」
美希「それがいいの!」
事務所 11:02
根拠がないのに自信はある。そんな真のプライドがあるのにやる気がないとは。
星井のやる気を引き出すには、何が必要なんだろうか。
春香「ぷ、プロデューサーさん」
P「ん?」
春香「あの、クッキー作ってきたんですけど、どうですか?」
P「毒がないならいただく」
春香「そんなの入ってませんよー!って、そうじゃなくてですね…」
とりあえずひとつ口に運んでみる。…かなり美味いな。
春香「あの、ごめんなさい!私、なんとなく避けてました!」
P「天海、頭をあげろ、謝るな。これから避けなきゃいい」
春香「は、はい!あのそれから……名前でよんでくれませんか、プロデューサーさん?」
P「それはできない。俺の信条に反するからな」
春香「そう、ですか…」
P「…覚えておく。いつか、名前で呼べるようになったら呼ばせてくれ」
春香「は、はい!」
梅雨が明けたある日 8:07
律子「プロデューサー殿、響と貴音のどちらに付き添いますか?」
P「四条は今日はグラビアだったか…同性のほうが相談しやすいだろ」
律子「じゃあ響をお願いしますね。深夜枠ですけど全国区のテレビでしたっけ」
P「沖縄出身というのを活かすなら、あの番組だろ」
律子「本当にいつそんな仕事をとれるんですか?」
P「一昨日の昼食時だが?」
律子「だからごはんくらいゆっくりしてくださいよ」
P「なら秋月も栄養ドリンクを多用するな」
律子「あなたと違って書類の山に苦戦してるんです!」
P「最近になって書類が増えてないか?秋月だけ」
律子「仕事が増えたから嬉しい悲鳴ですけれど、悲鳴は悲鳴ですね」
話をそらすということは、何かを隠しているな。
まあ泳がせておくか。
MC「さあ始まりました県民性観察バラエティ『県民YO!』」
芸人「見ようと民謡をかけてるんですかね?」
MC「そこツッコんじゃダメ」ワハハ
MC「ゲストの紹介です。今日は沖縄出身のアイドルです」
芸人「アイドルきたー!」
MC「落ち着きなさい!ビックリしちゃってるじゃん」
響「はいさーい!765プロ所属の、我那覇響だぞ!今日はよろしく!」
芸人「響ちゃん小っっっちゃ!可愛い!」
響「うがー!そんなに小さくないぞ!」
MC「慎重いくつ?」
響「ひゃ、152せんち…」
芸人「小っっっっっっちゃ!可愛い!」
響「さっきよりも小さくなってるじゃないかー!」
>>79
慎重 ×
身長 ◯
すみません
P「おつかれさま、なかなか面白いイジられかただったな」
響「ちょっとだけいやだったさー…」
P「我那覇、お前の良さはなんだ?」
響「自分の良さ?んー…編み物とか?」
P「それは別のトークで披露してろ。いいか、お前の良さは表情だ」
響「表情?」
P「如月や四条とは逆だ。豊かな表情が武器なんだから、イジられてる時が真価を発揮する」
響「でもずっと言われるのはいい気がしないぞ」
P「そこで秘密兵器だ。ここ最近ずっとダンスの仕事はさせなかった」
響「そういえば真との仕事が最後だったぞ」
P「面白さとクールでかっこいいダンス。このギャップがさらに完璧へと近づく」
P「そういうの、ワクワクしないか?」
響「おおっ!スゴイぞプロデューサー!」
P「分かったらあの芸人にお礼を言って帰るぞ」
響「うん、わかったプロデューサー!…あれ?それって自分がまだ完璧じゃないってこと?…」
P「気にするな、今日はその可愛さを武器にする日だ」
響「うがー!気にするさー!って、か//可愛いとかそんないきなりずるいぞ!//」
芸人がやたらと言ってた気がするんだが、今だけ反応しないで収録で反応しろよ…
事務所 19:20
小鳥「お疲れさまですプロデューサーさん、今日は上手くいったって聞きましたよ」
P「上手くいったのは我那覇です。アイツを褒めてやってください」
律子「あ、お疲れさまですプロデューサー殿…」
こころなしか顔がうかばれないな。異変でもあったか?
P「どうした。仕事のミスか?」
律子「プロデューサー殿…あなたなら、貴音のフォローもできますよね?」
律子「私には、今日の貴音は何も問題がなかったように見えたわ」
P「本人が何かに納得していないというのか」
律子「そうなんです。私にはそれがわからなくて…」
小鳥「いま屋上にいるみたいですよ、貴音ちゃん」
P「四条か…とりあえずやってみよう」
P「そろそろ夏とはいえ、夜は冷えるぞ」
貴音「その声はあなた様」
P「あなたが赤羽根健二のことなら正解だ」
貴音「なにようですか?」
P「今日の仕事について、だ」
貴音「……わたくしは、今日の失敗が悔しいのです」
P「あててやろうか?」
貴音「そのようなことが可能なのですか?」
P「人間関係のいざこざか」
貴音「っ!なぜお分かりになるのです?」
P「人の集まりでできたのが社会。だからイヤなことの大半がソレだ」
P「あてたご褒美に詳細を教えてくんねぇかな」
貴音「――たのです」
P「は?」
貴音「言われたのです。扱いづらいと」
P「前に俺も言ったな。秘密主義すぎて扱いが難しい」
貴音「わたくしは、なんでもかんでも秘密にしているわけではございません」
貴音「親しき仲になれば、おのずと秘密を明かしあう仲になるとは思いませんか?」
P「そういう信条があったわけね」
手すりの近くへ移動し、四条の隣へと立つ。
P「キャラじゃないってのはこれまた厄介だな」
貴音「わたくしは、まちがっていたのでしょうか?」
そういって四条は月を見る。
貴音「以前、水瀬伊織が申しておりました。月は自分では輝けない。太陽に照らされているのだと」
貴音「わたくしは、一人では輝けないのでしょうか…」
P「…その昔、夏目漱石は教師の頃に生徒に言った」
P「I love youは月が綺麗ですねとでも訳しておけと」
貴音「わたくしも存じ上げております」
P「なんでそんなことを言ったと思う?」
貴音「…ろまんちすと、だったのでしょうか?」
P「トップシークレット」
貴音「いけずです…」
P「なんてな。まあ知らないやつも多いが、ヒントは時代背景だ」
貴音「時代背景…異国の文化が入り始めたころでしょうか」
P「だいたいあってる。それまでは日本古来の考え方ってのがまだ広く浸透していたころだ」
P「想いなんかを秘め事というだろ。愛や恋は隠すことが美徳とされていた時代だった」
P「愛してるなんて言葉は破廉恥なんてレベルなんかじゃなかったんだろうな」
貴音「そのような理由が…して、あなた様はなにをおっしゃりたいのですか?」
貴音「まるで隠すことがよいこと、いまのままでよいというのですか?」
貴音「わたくしは、変わらなければいけません。このままでは、また今日のように」
P「そうじゃない。隠すことは四条の切り札だ」
P「だが切り札はなかなか切らないからこそ威力を発揮する」
貴音「と、いいますと?」
P「一番大事なことだけを隠せ。逆に相手を知りたければ、まずは自分から心を開け」
これだけ伝えれば大丈夫だろう。戻って書類の整理だ。
P「あ、誰も見てないから泣きな。本当は泣き虫の小娘さん」
事務所 19:52
律子「どうでしたか?」
P「自分の中で解決させた。だからどうなったか知らん」
P「強くなるのは最後は自分の力だ。ちょっと手伝ってやっただけ」
律子「本当にすごい人ですね…私もはやく見返さないと!」
P「せいぜい頑張りな」
律子「まったく。貴音のこと、ありがとうございました」
P「はいはい」
小鳥「お茶が入りました~。あ、律子さんはコーヒーでしたね」
ガチャ
貴音「…律子殿、小鳥殿、ご迷惑をおかけしました」
P「派手に泣いたみたいだな」
貴音「な、泣いてなどおりません//」
目が腫れてるんだけどまあいいや。
同時刻 961プロ
黒井「さて、そろそろあのアホの高木が泣いて私に負けを宣言する日が近づいてきたわけだが」
黒井「お前たちの調子はどうだ?」
冬馬「問題ないぜ」
北斗「いつも通りって感じかな」
翔太「不調のときなんてあった?」
黒井「まあさんざん言ってきたことではあるが、961プロは常勝が社訓だ」
黒井「特に765プロなどという低俗で底辺な事務所などには絶対に負けてはならん」
黒井「次のフェスでは765プロも参加するというが、一切気にせず勝ってこい」
黒井「まあ、勝つ以外の選択肢など存在しないがな!ハーハッハ!」
冬馬「相手が誰だろうと関係ねぇ。真っ向からねじ伏せてやる」
某日 フェスティバル会場 18:00
P「なにか不安や質問がある者は?」
春香「プロデューサーさーん、な、なんだか緊張してきちゃいました」
あずさ「あらあら、大丈夫よ春香ちゃん」
千早「そうよ春香、私たちの力を出し切ればいいの」
P「そのとおりだ。実力以上の力はふつう出せない。変に気取らず実力を出し切れば問題ない」
黒井「ハーハッハ!笑わせるな756プロよ!」
P「ウチは765プロです」
黒井「おや?底辺すぎて社名を覚えられなかったようだククク」
P「それでなんの用ですか?まさかそんな底辺な台詞を吐きにきたわけではないですよね」
黒井「まったくこれだから困るよ貧乏プロダクションの貧乏プロデューサーは」
P「では勝手に困ってください。ミーティングの途中なので」
黒井「な、なんだコイツは!この黒井崇男が直々に話しているのだぞ!」
P「で?」
黒井「な、なんなんだ貴様は!」
P「赤羽根健二です。ではミーティングがありますので」
黒井「く!しかしそう平然としていられるのも今のうちだ!アデュー!」
春香「……プロデューサーさん、あんなこと言っちゃっていいんですか?」
P「お前たちが勝てば問題ない。負けても現状の把握と他事務所の観察になる」
千早「随分と冷静ですね」
P「それが俺のやりかただ」
あずさ「でも言い返したときのプロデューサーさん、かっこよかったですよー」
P「じゃあ俺に恥をかかせないように歌ってきてください」
スタッフ「そろそろお時間ですのでおねがいしまーす」
P「じゃ、いってこい。曲はTHE IDOLM@STERとREADY!!だ」
春香千早あずさ「はい!」
さて、色々とこちらの仕事もしますか。
とりあえず情報を整理しよう。
諜報機関のリーダー安藤、奴が俺の存在をドイツに売ったと考えるのが最も整合性がある。
ではなぜ?
金か?いや、俺が働いたほうが金は手に入る。
怨恨?そんなものには縁がない。
すべて手柄はヤツのものになっているはず。
誰かの責任を押し付けられた?
それなら調査でソイツ自信が消されるはず。
知ってはならないことを知った?
可能性としてはあり得るが、ではその知ってはならないこととは?
いったいなんだ?
――わからない。
あれから吉澤記者の接触もない。
彼は無事なのか?
それに、765プロは本当に安全なのか?
――近いうちに周辺を探っていないか逆に探ってみるか。
フェスティバル ステージ 18:20
千早(今日は声がよく通る)
あずさ(お客さんもすごくノってくれてるわ)
春香(それでも…)
春香千早あずさ(届かない…っ!)
冬馬「みんなーありがとう!」
北斗「また会えるのを楽しみにしてるよ、エンジェルたち」
翔太「今日はぼくたちも、とっても楽しかったよー!」
キャアァァ!ショータクーン!トウマー!ホクトサーン!
P「――で、泣きそうな顔をしてるワケか」
春香「…負けてしまいました」
千早「私では、まだ実力がたりないようです…」
あずさ「千早ちゃんだけのせいじゃないわ、私も、もっと頑張れたかもしれないもの…」
黒井「ふん、所詮は口だけの事務所ということか!まあ王者の前では誰もが等しく敗者だ気にしたまえ!」
P「気にしてます。黒井社長、あなたがたの勝ちです」
黒井「そんなものは見ればわかる!自分の負けを認めて田舎へ帰りたまえ!」
P「いえ、宣戦布告です。今日のジュピターの力はせいぜい50%といったところでしょう」
P「しかし戦い方のパターン分析はすべて終わりました」
P「次も勝てないでしょうが引き分けにはできます」
P「首を洗ってまっていてください。あと、高木社長から伝言です」
P「あれは私もお前も間違ってない、間違ってるのは会社だったんだ、だそうです」
黒井「…フン、負け犬はいつまでも遠吠えしかできんのかと伝えておけ」
P「断ります。俺は伝書鳩ではありません」
黒井「なっ!どこまでも不快な男だ!失礼するアデュー!」
P「ふう、なかなか面倒な人だ。帰るぞ、今日はゆっくり体を休めろ」
あずさ「まだまだ、これからよね…帰りましょ?春香ちゃん、千早ちゃん」
春香「はい…」
千早「そうですね…」
翌週 事務所 10:00
亜美「兄ちゃーん!」
真美「遊ぼー!」
小鳥「二人とも、プロデューサーさんも忙しいかr」
P「暇だ」
小鳥「」
P「デスクワークは終わった。秋月のも少し手伝った」
亜美「やったー!」
真美「じゃあこの格ゲーやろー!」
P「やったことがないがまあいいだろう」
~開始より1時間~
真美「兄ちゃん弱すぎっしょー」
亜美「もしかしてゲーム全般的にやってない?」
P「ゲームというと、俺の場合はポーカーかバカラなんだ」
亜美「なかなか渋いですなぁ」
真美「もしかして世界を股にかけるスパイだったりして!」
P「どこのジェームズボンドだ。まあそれより」
P「だいたい覚えた」
~開始より2時間~
真美「兄ちゃん強すぎっしょー…」
亜美「もしかしてゲーム全般的にセンスある?」
P「ブラックジャックなんかもやってたな」
亜美「うぅ、悔ちぃよぉ」
真美「ちかたないね」
P「さて、そろそろ営業でもするか」
真美「でも真美たちまだ負けてないもん!」
亜美「ポッケモンならプレイ時間カンストしてるもん!」
P「ポッケモン?あぁ、あのポータブルゲームか」
律子「くだらないこと言ってないで、レッスンの準備しなさいアンタたち」
亜美「いつの間にいたの!?」
真美「仕事でもゲームできたらいいのに…」
律子「そんな都合のいいことはありません」
亜美「えー!?兄ちゃんなんとかしてよー!」
律子「いくらプロデューサー殿でもむりです!」
P「――いや、ひとつ方法はある」
翌々週 16:22
伊織「それでオーディションを突破して、はろスタの準レギュラー取ったってわけね」
やよい「すごいですー!いいなぁ…でもポッケモンスターってなんですかー?」
真「モンスターを集めるゲームだよ。そういえばボクもあんまりやったことないな、父さんに禁止されてたし」
雪歩「みんな、お茶が入ったよ。伊織ちゃんはオレンジジュースね」
伊織「あら、気が利くじゃない。いただくわ雪歩」
雪歩「ふふっ、そういえばそろそろ『はろスタ』の時間だよね?」
やよい「小鳥さーん、チャンネル変えてもいいですかー?」
小鳥「うーん録画はしてるのだけど、やっぱり観たいわね。いいわよやよいちゃん」
やよい「うっうー!ありがとうございまーす!」ガルーン
真「おっ、早速二人のミニコーナーみたいだよ」
TV「「亜美と!真美の!目指せポッケモンマスター!」」
ナレーター「このコーナーは、それぞれのバージョンでどちらがより強いかを競うコーナーである!」
雪歩「すごいなぁ二人とも、私より年下なのに…私だけまだお仕事ちゃんとできてないし…」
真「大丈夫だよ雪歩!プロデューサーがちゃんとしたアドバイスくれるって!」
伊織「まあ、能力だけはこの伊織ちゃんと同じくらいすごいって思うわ」
やよい「雪歩さんなら絶対いいお仕事できますよ!」
P「ただいま戻りました」
雪歩「お、お帰りなさいプロデューサー!あの、お茶淹れますね!」
P「ああ、頼む」
真「うーん、やっぱり男の人は苦手なんだなぁ」
伊織「そればっかりは仕方ないわよ。自分で変えなきゃ」
やよい「プロデューサーはとってもいい人ですよ?」
真「いい人ってのはたぶんわかってるんだと思うよ。ただ…」
P「三浦、肩の力を抜け。ジュピターどころか他のアイドルにも負けたいのか?」
あずさ「すみませんプロデューサーさん、しっかりしなきゃって思っちゃうとつい…」
P「散歩のときと同じだ、あれこれ考えるな」
真「言い方がキツイから怖いんじゃないかな…」
小鳥「まあプロデューサーさんの持って生まれた性格なんだから仕方ないわ」
やよい「性格…ですか…」
伊織「?どうしたのやよい?」
やよい「たぶん見間違いだと思うんですけど、たまにプロデューサーの目がとっても怖いときがあるなーって…」
伊織「アイツが野蛮な目をしてるのはいつも通りよ。やよいは間違ってないわ」
小鳥「野蛮はちょっと言い過ぎよ伊織ちゃん」
伊織「でも事実でしょ?さっきあずさを怒るときだってそういう目だったわ」
真「まあまあ、それも持って生まれた目なんだよきっと」
やよい「そ、そうですよね!変なことを言ってすみませーん!」
雪歩「あの、お、お茶が入りました…」
P「そこに置いといてくれ。それから萩原、ちょっと会議室に」
雪歩「ひぅっ!わ、私なにかしちゃいましたか!?」
P「それを話すんだ。手洗いに行ってくるから先に行ってろ」
雪歩「…ま、真ちゃーん、私、クビになっちゃうのかなぁ…」
真「えぇ!?いきなり何を言うんだよ雪歩!?」
やよい「ええっ!雪歩さんクビになっちゃうんですかぁ!?」
雪歩「だってだってだってぇ!私だけなんの成果も出せてないからとうとう怒っt」
伊織「ちょっと落ち着きなさい!そんな権限は社長にしかにゃいわよ!」
真小鳥(噛んだ)
あずさ「ぷっ、ごめんなさい伊織ちゃん。でも誰にでも噛むことはあるわ」
伊織「っ//と、とにかく!アイツにそんな権限はないわ!何かあったらみんなが守るから安心しなさい!」
雪歩「み、みんな、ありがとう……」
会議室 16:38
P「座れ」
雪歩「は、はい!失礼します!」
P「固くなるな。別にクビにしようってわけじゃない」
雪歩「へ?な、なんでそれを?」
P「あれだけデカイ声で騒いだら聞こえるよ」
雪歩「ううぅ//すみませーん//」
P「本題だ。萩原、男性恐怖症は治ったか?」
雪歩「…ごめんなさい、プロデューサーでも近づけません…あ、あの、嫌いってことじゃないんです!」
雪歩「な、なんだか分からないけど怖くって…子どものころ、よくクラスの男子に意地悪されたんです…」
ああ、よくある好意の裏返しってやつか。
好きな人にちょっかい出して、反応を見たくなる心理だな。
P「そうか。それじゃあしばらくはトーク番組なんかは無理だな」
雪歩「す、すみません…せめて一人とかならまだ頑張れる、かもしれないです」
P「そうじゃなきゃ俺とも満足に会話できないだろ」
P「そこで、相手の顔を見ずに会話する方法を考えた」
雪歩「そ、そんな方法があるんですか?」
P「ただし司会者とは顔を合わせるのでそこは努力しかない」
P「ずばり、ラジオでまずは仕事をとれ」
雪歩「ええ!?わ、私、面白いこととか話せないですよぉ…」
P「だろうな。そういうことは期待していない」
雪歩「うう…じゃあ何を話せば…」
P「コイツだ」
俺はカバンから一冊のノートを取り出す。
それは萩原の詩集だった。
雪歩「」
P「一週間前に忘れていたのを発見した。中身を見る気はなかったが、ページが見開きになってた」
俺はそのページを開く。双子のいたずら書きのあとがあるページを。
P「初めは双子の交換日記かと思ったが、持ち主が萩原だと判明した。そういうわけで返すよ」
雪歩「――笑ってください」
P「新手のジョークか?」
雪歩「私みたいなのが、こんなもの書いてて……バカみたいだって思いましたよね」
P「もう少しマシなジョークを言え。一般的にはかなり感性が高いぞ」
雪歩「気を使わなくていいですよ…ハハハ…」
P「俺は勝手ながらある人にいくつか見せてきた」
P「それは見ず知らずのホームレスだ」
雪歩「そう、ですか…アハハハ…」
P「萩原、真面目に聞け。初めは特になんの感想も抱かなかったようだ」
P「だが次第に感動して涙を流すものが続出した」
P「ラジオを通じて、少しでもリスナーの心を癒す。こんなことができるのは、そういない」
雪歩「私が、リスナーさんを癒す?」
P「イヤなら仕事は断る。秋からの新番組だからまだまだ他に候補はいるだろうしな」
雪歩「……ます」
P「大きな声で」
雪歩「や、やります!夏の間に一生懸命書き溜めますぅ!私、頑張ります!」
P「秋にガッカリさせんなよ?」
雪歩「はい!」
雪歩「あ、あの…ひとついいですか…?」
P「なんだ」
雪歩「プロデューサーは、その…どう思いましたか…私のポエムを」
P「蝶が花に集まるのに理由がいるか?批評家ぶって、良いものをわざわざ言葉で飾る必要はない」
雪歩「っ//ありがとうございますぅ//」
P「茶をいただいたら我那覇たちの迎えに行ってくる」
雪歩「でも、少し冷めてしまって」
P「なら帰ってきたらもう一度淹れてくれ」ガチャリ
ワ、ワカリマシタァ//
伊織「アンタ、なかなかやるわね」
P「なんの話だ」
伊織「自信をつけさせるのが上手いって話」
そりゃあ逆のことをしてきたからな。要領は同じだ。
7月28日 14:00
亜美真美「「暑いー」」
美希「暑いの」
伊織「オレンジジュース無いの?」
律子「ないわ。それにしても暑いわね…」
小鳥「ホントに暑いですね…」
あずさ「あせもに気を付けないと」
貴音「いけませんね」
P「一応、男がいるのを忘れないでください」
やよい「?プロデューサーと社長のことは忘れてませんよー?」
雪歩「たぶん違う意味じゃないかな…」
千早「喉に負担をかけないようにしないと」
真「ただいまー!」
響「なかなか白熱した戦いだったぞ!」
P「走って来たのか。スポドリ飲んで汗を拭け」
春香「プロデューサーさーん…なんで汗かいてないんですか…」
P「……激しい運動で慣れてるからな。これくらいまだ普通だ」
発汗をある程度コントロールできるなんて言ったらヤバイな。
――それにウソは言ってない。
真美「ねえねえピヨちゃん、海行きたいYO!」
亜美「律っちゃんがダメって言うYO!」
律子「まだ言ってません!」
伊織「やっぱり言うつもりじゃない」
高木「いやあ諸君、本当に暑いねぇ」
真美「しゃちょ→海行かなーい?」
亜美「亜美たちのせくち→な水着見たくなーい?」
高木「ハッハッハ、確かに見てみたいね」
真美「じゃあ海行こう!」
亜美「ひびきんだって海が恋しいでしょ?」
響「言われてみればしばらく海に行ってないぞ…」
小鳥「だけどそんなお仕事はいまのところないわねぇ」
真「プロデューサー!海の仕事とれませんか?」
P「すでに埋まってた。だからここにいる」
美希「プロデューサーでもダメなの…」
P「もっと名前が売れてりゃ仕事とれたかもな」
春香「アハハハ…」のワの
亜美「ゲームみたいに一気にレベルアップする方法とかないの?」
真美「フルプロの夏合宿みたいな感じ?」
やよい「ふるぷろってなんですか?」
春香「えっと、野球選手を育てるゲームだっけ?」
貴音「なんと!その小さな箱の中に人がいるのですか!」
律子「そんなわけないでしょ…暑さで頭がボケてきちゃってるわね…」
貴音「わたくしはいつも通りですよ律子嬢」
美希「なんでもいいの。クーラーも扇風機も使えないほどお金がないってどういうことなの…」
高木「すまないねぇ…みんなの出番がすこしずつ増えたから、雑誌を買ったり録画していたらいつの間にかねぇ…」
小鳥「録画の仕方ぐらいは覚えてください…一日中録画してたら電気代もかかるに決まってます!」
高木「面目ない…年はとりたくないものだねぇ」
P「――よし、合宿しよう」
そして調査の再開といこう。
8月2日 7:00
P「では社長、一泊二日の合宿に行ってきます」
小鳥「あの、いいんでしょうか?私も残ったほうg」
高木「いやいや、君も765プロの家族なんだ。合宿を通して絆を深めたまえ」
高木「なに、録画はできんが電話番くらいはできるさ。それに、私にもやらなければいけないことはあるからね」
小鳥「…わかりました」
響「プロデューサー!ピヨ子ー!早くいくさー!」
伊織「よく民宿なんか見つけたわね」
律子「プロデューサー殿の知り合いがかけあってくれたそうよ」
あずさ「あらあら、じゃあ現地でそのかたにご挨拶しないとね」
千早「プロデューサーの知り合い…?」
やよい「きっとプロデューサーみたいに優しい人ですー!」
P「じゃ、駅まで歩くぞ」
エエー! クルマツカワナイノ? 15フンダカラガマンガマン
俺はため息を一つつく。吉澤記者は来てくれるだろうか?
電車内 9:36
千早「~♪」シャカシャカ
春香「わぁ!海ですよ海!はやく泳ぎたいなあ」
小鳥「今日の最高気温は38度だそうよ」
貴音「真、暑いですね…」
雪歩「四条さんでもやっぱり暑いですか?」
貴音「はて、それはどのような意味でしょうか萩原雪歩」
雪歩「なんだか、四条さんっていつも涼しげな雰囲気があるから」
貴音「わたくしとてこの暑さには心を乱されてしまいます」
貴音「まだまだ習練が足りませんね…」
雪歩「えっと、冷たい麦茶飲みますか?」
貴音「いくら水筒に氷をいれても、この暑さでは溶けてしまいますよ」
雪歩「魔法瓶だから冷たいままですよ♪どうぞ」
貴音「面妖な!まさしくこれは魔法です!」
あれから調査を続けた結果、知ってはならないことという可能性もつぶれた。
俺の仕事にミスもなかった。
そこで安藤という男ではなく、組織全体を見つめ直すことにした。
安藤というリーダーがいて、その下に何人か幹部がいる。
幹部はいくつかのチームを束ね、チームはだいたい5人くらいで構成されている。
それぞれのチームは役割分担されている。
ハニートラップ部隊や暗殺部隊、裏切り者専用の暗殺部隊もいる。
たしか拷問部隊もあると聞いたな。
ただし例外が一人だけいた。
それが俺。
組織内でも安藤と幹部しか知らない存在。
比較的困難な仕事を専門に、主に単独で動く。
しかも絶対に裏切らない、手柄もすべて他人のもの。余計な感情は排除する教育をうけた。
ロボットより精密に動く生きたロボット。
さて、そんな俺を司式が消そうとしたのはなぜ?
安藤は、もしくは他の幹部が俺の存在を売ったのはなぜだ?
そのとき脳裏にある単語がよぎった。
『革命』
なぜそれがよぎったかは分からない。
だが、教育のたまもので、たまにある第六感はよく当たる。
だが、革命という単語からどんな答えを導き出すべきか、見当もつかない。
「――さん」
P「――ん?」
小鳥「プロデューサーさん、着きましたよ!」
P「ああ、すまない。いま行く」
小鳥「そんなしかめっ面でなにを考えていたんですか?」
P「ちょっと、ね」
小鳥(本当になにを考えてるのかしら)
P「さてみんな、20分歩けば目的地だ」
マタアルクノー!? ツカレター!
小鳥(気のせいかしら…なんだか遠い存在のように感じたけど…気のせいね)
765プロ会議室 同時刻
高木「よく来てくれた」
黒井「冷房設備も整ってないのかこの事務所は」
高木「昔と変わらない暑さじゃないか」
黒井「昔は地球温暖化などと騒いではいなかったほど涼しかったよ」
高木「――ちっとも変わらないな、お前は」
黒井「フン、貴様もな」
黒井「それで、わざわざこの私を呼んだ理由はなんだ?」
高木「あの時の話の決着をつけようじゃないか」
黒井「くだらん!あれはダメダメなお前のいつものミスだ!」
黒井「……そして、セレブで完璧な私の唯一のミスだ」
高木「いいかげん自分を責めるのはよさないか」
黒井「責めずにいられるか!魔王エンジェルはっ!音無小鳥と日高舞はっ!」
黒井「我々がつぶしたようなものなんだぞ!」
高木「……音無くんと日高くん。あの二人が組めば頂点に立てると信じていた」
高木「だが、焦らずにゆっくりと準備する時間を、会社はくれなかった」
高木「アイドルにランク制度を導入したばかりだったからかな、会社側はすぐにでもデビューさせろとうるさかった」
黒井「その反対を我々が押し切れなかった結果、どうなった!」
黒井「音無小鳥は過労で倒れ、日高舞は目標を見失って妊娠の暴挙に出た!」
黒井「日高舞を問い詰めたとき、彼女はなんと言ったか覚えているか!」
高木「……小鳥と歌えないのならもう意味がない、と言っていたな」
黒井「会社が焦った?笑わせるな!会社はランク制度に臆病になったとでも思っているのか!」
高木「私の目にはそう見えたがね」
黒井「だからお前はいつまでたっても甘いんだ!会社はただ利益が欲しかっただけだ!」
黒井「私は悟った!たとえ早期にデビューしても耐えられるようなアイドルを育てるには」
黒井「十分な資金と十分な設備!これらが必要なんだと!」
高木「しかしそれでは倒れることを前提としているじゃないか!」
黒井「まさか、ゆとりを持って育てることが必要だと思っているのか?」
高木「現にいまのジュピターの三人には、少しゆとりを持たせてるような気がするが?」
黒井「貴様の目は節穴か?過密スケジュールをこなせるようにレッスンを重ねているだけだ!」
高木「……やはりお前はキザなやつだよ」
黒井「ウィ。そういう貴様はいつまでも甘い」
黒井「もういいだろうこの話は。私は貴様に完全勝利して、全面的に認めさせるぞ!」
高木「それなら私はお前に勝って、お前の呪縛を開放してやるよ」
黒井「せいぜいほざけ!アデュー!」バタン
高木「……黒井、いつか救ってやるからな」
~車内~
黒井「車を出せ。我が事務所に帰るぞ」
黒井「高木、いつかお前も懺悔の道連れだ……っ!」
某所 同時刻
??「吉澤、どこへ行く」
吉澤「表の仕事だよ、明後日までに編集長に記事をまとめて提出しなきゃならなくてね」
??「お前の器量なら、すぐにできるだろう」
吉澤「ははは、年寄りをおだてたってお駄賃はでないよ」
??「最近、外出が多いじゃないか。何か個人的に動いてるのか」
吉澤「やだなぁ、そんなわけないでしょう」
吉澤「――2週間も前から僕を見張ってるのに、そんな質問しないでくださいな」
??「…確かに見張らせていた。そして異常なしとの報告がある」
??「だがお前ほどの諜報員なら、監視の目をくぐるのも造作もないことだ」
??「言え、何をしている」
吉澤「…遅刻は減給なんだがねぇ」
??「…食えないヤツだな、行け」
??「だが少しでも怪しい事をつかめば、戦友でも殺す」
吉澤「…僕も同じだよ。じゃあ急ぐから」
民宿 10:02
真「海だー!」
やよい「うっうー!プールより大きいですー!」
伊織「お父様の島と同じくらいかしら」
春香「あいかわらずスケールが違うね」アハハ
P「とりあえず合宿とは名ばかりだが、かならず二人以上で行動しろ」
律子「絆を深めるためにちゃんと守るのよー!」
亜美真美「アイアイサー!」
真「響、どっちが速く泳げるか競争だ!」
響「望むところさー!」
貴音「律子嬢、昼食はどうなさるのですか?」
律子「お昼は民宿の方が用意してくれるわ」
春香「千早ちゃん、いっしょに遊ぼ!」
千早「え、ええ…でも私はここで休むわ」
春香「もったいないよ!あずささんもいっしょにビーチバレーやるって言って…ってあずささーん?」
あずさ「えーっと、みんなはどこに行ったのかしらー?声は聞こえるのだけれども」
千早「あずささん、とりあえず後ろに春香がいます」
あずさ「あらあら、いつの間に後ろにいたの?」ドタプーン
千早「……春香、やっぱり休んでるわ」
春香「ええ!?千早ちゃん!?」
雪歩「私、お部屋を片付けてくるね」
やよい「じゃあ雪歩さんのお手伝いしますね!」
雪歩「ふふっ、ありがとうやよいちゃん」
美希「じゃあ美希はでこちゃんの相手してあげるの」
伊織「でこちゃん言うな!まあ、相手してあげてもいいわよ」
美希「じゃあ早速遊ぶの!」
P「さて、こっちも仕事しますかね」
小鳥「プロデューサーさん?単独行動はダメですよ?」
P「それはあなたもですよ?」
小鳥「じゃあ今は私と行動しませんか?」
P「音無と?」
小鳥「……だめですか?」
正直、仕事がしたいのだが…まあ怪しまれるよりはマシだな。
P「いいですよ。何をするかは任せます」
小鳥「じゃあちょっと近くでお茶しましょう!ゆっくり話してみたかったんです」
小鳥(気分はまるでスパイ…そう、私は美人スパイ!謎だらけの実態を明かすのよ小鳥!)
P「……音無?」
小鳥「ハッ、すみませんオホホホホ…」
あいかわらず変な女だ。
小鳥「プロデューサーさんは何部だったんですか?」
学校など行ってないとは言えんな。
P「決まったものはやってませんね。頼まれればなにかやる感じです」
小鳥「凄いですね!じゃあモテたんじゃないですか?」
P「残念ながら縁はなかったですね」
小鳥「でも見た目は整ってますよね?メガネ美男子って感じじゃないですか」
視力抑制の特別な眼鏡なんだよな、これ。
P「そんなこと言われたのは初めてですね」
小鳥「へー…そういえば誕生日はいつなんですか?765プロはみんなの誕生日をお祝いするんです!」
俺の誕生日、いつなんだろうか。たぶん32歳って言ったらどう思うだろうか。
P「いつだと思います?」
小鳥「んーなんとなく4月生まれとか?」
P「正解はCMのあとで」
小鳥「なんのCMですか、ふふっ」
小鳥(意外とふつうなのかしら?昔からスペックは高かったみたいだけど)
P「そろそろ戻りますか」
小鳥「そうですね、お昼ご飯の時間ですもんね」
そういって立ち上がろうとしたとき。音無の隣を太った男が通った。
P(あ、ぶつかるな)
とっさに倒れるであろう方向に体を移動させる。
小鳥「キャッ!?」
P「おっと」キャッチ
男「あ、すみません」
小鳥「い、いえ、こちらこそ」
P「大丈夫ですか?」
小鳥(……うわぁ!//な、なんかドキドキしてる私!?そ、そうよ急にぶつかったからビックリしただけよ!)
P「音無?」
小鳥「ひゃい!」
P「……大丈夫ですか?」
小鳥「あ、え、えっと大丈夫です//」
道中を戻るときは無言だった。
成りゆきとはいえ抱きとめたのはやはりまずかったのだろうか。
それと同時に、違和感を抱いていた。
なぜ俺は助けたのだろうか。
以前の俺なら、なるべく関わろうとしなかった。
倒れたければ勝手に倒れればいい。
むしろ自分がぶつからない位置に移動したはず。
だが無意識のうちに俺は助けた。
これはどういうことだ?
P「俺はあなたが好きなんでしょうか?」
小鳥「ピヨ!?な、何を言ってるんですかプロデューサーさん!//」
小鳥(なに、どういうこと!?意識させようって魂胆なの?)
小鳥(落ち着くのよ小鳥、レディコミにもこんな感じの描写はあったわ)
小鳥(でもそれは気があったからこその発言で、つまりプロデューサーさんは…)
小鳥(そういうこと?)
P「いや、そうじゃないな、うん。すみません忘れてください」
小鳥(きっとまだ自分のきもちに気付いてないのね…自分の気持ち…私は?)
民宿中庭 19:34
雪歩「レバーはきちんと焼かないとダメですぅ!」
久々のバーベキューだ。
萩原が仕切ること以外は割と普通のバーベキューだ。
――音無が目を合わせてくれないことを除けば。
やはり昼のアレがまずかったようだ、不本意だがあとで謝りにいこう。
表の仕事に支障はきたしたくない。
律子「たまにはこういうのもアリですね」
P「終わったら馬車馬のごとく働いてもらうがな」
律子「あいかわらずですね。次の作戦でも立ててるんですか?」
P「深夜枠の30分ドラマとか狙ってるよ」
律子「さすがですね、私も早くプロデューサー殿に追いつかないと」
P「詳しいことは分からんが、何か隠してるんだろ?」
律子「メンバーは教えませんが、ユニットをプロデュースする予定です」
P「それで資料の山とにらめっこだったのか」
律子「まあ頼るばかりじゃ成長できませんから。自分の力でやってみたいんです」
雪歩「プロデューサー!そのお肉はあと3秒待ってから裏返してください!」
春香「ゆ、雪歩ちょっと落ち着いて!ほら麦茶持ってきたかうわぁぁ!」ドンガラガッシャーン
貴音「らいよーうえうああうあ」
響「大丈夫ですか春香で合ってる?」
やよい「貴音さん、食べながら喋るのは、めっですよ!」
小鳥「大丈夫?はいタオル」
春香「うう…中が水着でよかったー…」
千早「食べ終わったらお風呂入りましょう」
春香「私は小っちゃい子どもじゃないよー!」
真美「…ねえ兄ちゃん」
P「ん?」
真美「いまはるるんのこと、えっちな目で見てなかった?」
一同「「「「え!?」」」」
春香「ぷ、プロデューサーさん//」
P「まてまて、いきなり転んだやつがいたらそっちを見るだろ」
亜美「そして服が張り付いたはるるん見てあんなことやこんなことを」
P「なんでそうなるんだよ、これ巷で噂の死亡フラグってやつか?」
亜美「大丈夫だよ兄ちゃん、死亡フラグは10人以上立てれば生存フラグかハーレムフラグになるっぽいよ!」
P「そんなに立てれるヤツいねーよ」
大浴場 20:17
あずさ「ふうー、足をのばせるっていいですねー」
響「そうだね、なかなか広いお風呂って浸かれないもんね」
真美「ひびきん別に小さいから」
響「それ以上言うと怒るさー」
小鳥「みんなケンカはダメよ?」
貴音「それにしても、ここの湯は何に効くのでしょうか?」
律子「肩こりや冷え症に効くって書いてあったわ」
千早「……クッ!」
真「うん、気持ちはわかるけど抑えようね」
美希「幸せなのー…このままお仕事も増えていったら、トップアイドルになれるかな?」
やよい「プロデューサーや律子さんがいれば、絶対になれますよ!」
小鳥「ふふっ、ちゃんとレッスンも頑張らなきゃなれないわよ?」
やよい「はわっ!それならレッスンも一生懸命頑張りますー!」
雪歩「プロデューサーが来てから、少しずつだけど変わってきたよね」
千早「そうね…プロデューサーの期待に応えられるように、頑張っていかなきゃね」
亜美「兄ちゃんのおこげだね!」
真美「おかげでしょ?それはわざとらしいよ~」
亜美「うーむ、このネタは使えないか」
伊織「……ねえ、アンタたちってそんなにアイツのこと好きなの?」
一同「」
美希「美希はわりと好きだよ?差し入れにイチゴババロアくれたし」
伊織「あんな野蛮な目で渡されても嬉しくないわよ」
美希「そう?美希的には、お仕事に集中してる目って感じだったな」
春香「言い方はきついけど、確かに人一倍お仕事に真面目に取り組んでるから…」
千早「私はその、す、好きという感情はわからないのだけれど…私の歌に的確なアドバイスをくれるし」
千早「私の歌を、もっとプロデューサーに聴いてほしいとは思うわ」
美希「千早さん、それたぶん恋なの」
千早「な//なにをそんな//」
真美「あれあれー?千早お姉ちゃんが動揺してますなー」ニヤニヤ
千早「そ、それなら真美だって同じよ!さっき春香が転んだとき」
真美「す、ストーップ!真美なんにもないよそんなの!」
亜美「ほほう、姉にそんな秘め事があったとは」ニヤニヤ
真美「なにさ!亜美だって社長室で兄ちゃんのワイシャツにくるまってニヤニヤしてたじゃん!」
亜美「うえぇ!?あれはえと、事故だったんだYO!」
真「ごめん亜美、それたぶんボクも見てた」
亜美「うあうあー!まこちんの裏切り者ー!」
律子「真、裏切りはよくないわ。真はどんなことがあったの?」
真「ボ、ボクこそなんにもないよ!やだなー亜美ったらそんなデタラメを」
亜美「まこちんがワンピで撮った写真、いつも持ち歩いてるの知ってるYO!」
真「」
律子「実に興味深いわね、さっさと白状しちゃいなさい」
真「うぅ//……お、男の人に初めて可愛いって言われたときの恰好で…」
律子「そういえば雑誌のモデルの仕事でそんなのあったわね」
真「あぅ//み、みんなこっち見ないでぇ…//」
小鳥「真ちゃん、可愛いー!」
真「こ、小鳥さんだってなにかあるでしょう!?」
小鳥「私?別にプロデューサーさんとはなに、も…」
~回想~
小鳥『キャッ!?』
P『おっと』キャッチ
P『大丈夫ですか?』キリッ←乙女フィルター補正
律子「音無さーん?」
小鳥「…はっ、な、なんですか?」
一同「」ジーッ
真「なにか、あったみたいですね」ニヤニヤ
小鳥「うぐっ!実は今日…」カクシカ
律子「よかったですねー」ニヤニヤ
小鳥「うぅ…これなんてイジメ…り、律子さんだって!」
律子「やだなあ、私は書類と戦う毎日ですからそんな余裕ありませんよ」
あずさ「あら?前にそういえば話をはぐらかされたことが」
律子「アレーナンダカノボセテキタミタイダワー」
小鳥「確保ー!」
律子「わ、わかりました!私も話します!話せばいいんでしょまったくもう…」
律子「その、好きとかは分かりませんがなんとなく悪い人ではないなー、とは」
美希「律子、さんも恋してるの」
律子「美希!余計なこと言わないの!」
あずさ「でもなんだか顔が赤いですよー」
律子「血行が促進されてるだけです//というかあずささんだってそういうことあったじゃないですか」
亜美「ここにきてあずさお姉ちゃんまでフラグかー!?」
真美(ぐぬぬ…ライバルが多い…)
律子「なんでも好きって言われたそうじゃないですか!」
響「うえぇ!?そ、そんなことがあったのかー!?」
あずさ「ご、誤解です律子さん!アイドルとしてとっても魅力があるって言われただけで」
あずさ「決してプロデューサーさんがそういう感情で言ったわけでは…」
亜美「あのとき機嫌が良かったのはそういうことだったんだー」
貴音「あずさ、素直に認めたほうが楽ですよ?」
あずさ「…貴音ちゃん、そうやって自分だけ隠したままなのはずるいわよ?」
響「なんだかこの流れはイヤな予感しかしないぞ…」
貴音「わたくしは確かに、ぷろでゅーさーをとても頼りにしています」
小鳥「…そういえば、前に泣いてたことあったわね」
律子「何を言われたのか、プロデューサーとして知っておくべきね」ニヤニヤ
貴音「あなたがたはいけずです//」
貴音「そうですね…ぷろでゅーさーには、これからの方針を指南していただきました」
小鳥「本当にそれだけ?」
貴音「とっぷしーくれっとです」
律子「そう、それならプロデューサー殿に直接」
貴音「お、お待ちください律子嬢!」
律子「話す気になった?」
貴音「そ、その…誰も見ていないから泣けと…//」
一同(そりゃ惚れるわ)
貴音「しかし、わたくしはあいどる。この気持ちは胸のうちに秘めておきます」
律子「そりゃそうよ。しっかしそんなことがあったとは…」
貴音「…響、どちらへ?」
響「へ?い、いや、髪を洗おうかと」
貴音「先ほど洗っていたではありませんか。せっかくですから響もひとつお話を」
響「なんか貴音が怖いさー!」
貴音「なにを面妖なことを、わたくしはいつも通りですよ?」
千早「我那覇さん、もうこうなったら諦めが肝心よ?」
響「うう…じ、自分はその、特にエピソードは」
律子「ある芸人さんに可愛いって言われても反応しなかったけど、プロデューサー殿には反応したらしいじゃない」
響「そ、それはたまたまで//」
律子「プロデューサー殿が嘆いてたわよ。収録でも反応すればいいのにって」
響「だってプロデューサーはいきなりっていうか、とにかく不意打ちで言われたら照れるじゃないか!」
一同(確かに)
響「と、とにかく自分の話はもう終わり!雪歩はどうなの!」
雪歩「ひゃう!わ、私はいつもダメだしばっかりでそういうのは…」
真美「…ゆきぴょん、電車で何か書くたびに兄ちゃんに見せてなかった?」
亜美「まさか愛の言葉を…」
千早「萩原さん大胆…」
雪歩「ちちち違いますぅ!!!!あれはポエムを評価してもらってただけですぅ!」
真「ポエム?雪歩、ボクにもあまり見せたことないよね?」
春香「私も誰のノートか見ようとしたら慌てて止められた記憶が…」
あずさ「あらあらー、意外とやるのねぇ雪歩ちゃん、うふふ」
貴音「萩原雪歩、なぜぷろでゅーさーには簡単に見せるのですか?」
雪歩「うう…秋からラジオでポエムのコーナーがあって…書き溜めてプロデューサーに評価してもらってたんですぅ…」
伊織「そういえばここ最近ずっと何かを書いてるとは思ってたわ」
雪歩「プロデューサー、私のポエムをすごく褒めてくれて…創作意欲がすごく湧いてくるんですぅ!」
美希「じゃあプロデューサーのおかげなんだね!」
亜美「もはや兄ちゃんなしでは、生きていけない体になってしまったのだ…」
やよい「ええっ!?雪歩さんなにかの病気なんですかー!?」
春香「きっとそいう意味ではないかなーって」
雪歩(プロデューサーなしでは生きていけない…えっとそれって…はうぅっ!//////)ボンッ
真「ゆ、雪歩!?しっかりして!」
雪歩「だ、大丈夫だよ真ちゃん…////」マッカッカー
亜美「おやおやーゆきぴょんはなにを想像したのかなー?」ニヤニヤ
雪歩「ななな何も考えてませぇーん////」
伊織「亜美、それくらいにしてあげなさい」
亜美「しょうがないなー。じゃあ代わりにやよいっちはどうなの?」
やよい「プロデューサーのことは大好きですよ?本当の家族だったらいいのになーって」
亜美「うーむ、やよいっちは手ごわいですなぁ」
美希「えっと、やよい、プロデューサーと手をつなぐところを想像してみて」
やよい「プロデューサーとですか?……はい、しました!」
美希「そのまま色んなところをまわるの!大きな公園とかをのんびりしてたら、いつの間にか夕方なの」
美希「突然プロデューサーが、やよいの目をじっとみてこう言うの」
美希「やよい、キスしていいかな(低音ボイス)」
やよい「はわわ//プロデューサーとそんな//だ、ダメですけどダメじゃないというか…//」
美希「もう目を開けていいよ、やよいもプロデューサーに恋してるの!」
やよい「うう//なんだか恥ずかしいです…」
春香(あの真剣な目で迫られたら…)
真(君だけが俺のお姫様だよ、なんて…な、なに考えてるんだボクは//)
響(変態プロデューサーがどうしてもって言うならそれはそれで…な、なに考えてるんさー自分のバカー!)
伊織「アンタたちも戻ってきなさいよ…」
美希「でこちゃんはどうなの?」
伊織「でこちゃん言うな!別にどうとも思ってないわよあんな変態」
美希「そうじゃなくて、プロデューサーとキスしたいって思う?美希は彼氏にするのはアリだけど、キスはまだってカンジ」
伊織「は、はぁ!?あんな変態大人とき、きききキスぅ!?」
美希「されたい?されたくない?」
伊織「そ、そんなの…たぃに決まってるじゃなぃ…」
美希「?よく聞こえなかったの」
伊織「キィー!どうしてもって言うならしてあげないこともないわよ!//」
美希「ツンデレ乙なの」
伊織「うるさいうるさいうるさーい!」
亜美「……つまり、みんな兄ちゃんのこと好きってこと?」
あずさ「あらあら、プロデューサーさんったらモテモテですねぇ」
真美「に、兄ちゃんは誰にもわたさないよ!」
春香「真美のものじゃないよ!」
雪歩「ま、まだ誰のものでもありませぇん…」
千早「私は歌さえ聴いてくれればそれで…」
律子「ちょ、ちょっとストーップ!いつから暴露大会になったのよもう!」
響「今更すぎるぞ…」
無人駅 同時刻
吉澤「遅れてすまない」
P「俺もいま来たばかりです」
吉澤「あれからなにか分かったか?」
P「さっぱりだ。よくあたる第六感で革命の単語が浮かんだということ以外は」
吉澤「革命?」
P「なにか分かりますか?」
吉澤「ふむ…一応調べてみよう」
P「お願いします、そちらはなにか分かりましたか?」
吉澤「主に悪いニュースなら」
P「…どうぞ」
吉澤「ひとつ、ボクを監視しているヤツがいた。すぐに振り切ったが」
P「吉澤さんを?」
吉澤「そうだ。それから二つ目、いま組織は二つの派閥に別れている」
吉澤「安藤派と吉澤派だ。僕の名前は使わないでくれと言ったんだけどねぇ…」
P「なかなかヤバイ状況ですね」
吉澤「まだ衝突はないけれど、時間の問題だろうね」
P「……まだあります?」
吉澤「あるよー♪」
P「でしょうね。なんですか?」
吉澤「ドイツ以外にも情報は売られていたようだ」
P「…は?なぜ?」
吉澤「さあ、今のところはわからない。世界中を混乱の渦にでも叩き込みたいのかねぇ」
P「……俺は、裏切るなんてことは一度も考えたことはない。裏切られるのは別にかまわないが」
P「だけど、今回ばかりは納得できない。世界平和のために動いてきたハズなのに」
吉澤「…四つ目、いいニュースだ。765プロの安全は保障するよ」
吉澤「私の部下に765プロを守らせている。最悪の場合は狙撃部隊で君を守る」
P「アイツらの安全も保障できるのか?」
吉澤「もちろん。まあ限界があるかもしれないが、可能な限りは守るよ」
吉澤「部隊のメンバーには、君の素性を知らせていない。混乱と情報の洩れを防ぐためにね」
吉澤「それにお得意様がいなくなったら、記者として困ってしまうからね」
吉澤「――最後にひとつ、ボクからの忠告だ」
吉澤「あの子たちに、早く素性を教えた方がいい。それかあの場を去ることだ」
P「なぜ?安藤派にはバレていないのでしょう?」
吉澤「そうじゃない。君も薄々感づいているんじゃないのか?よく当たる第六感とやらで」
P「……いつか、正体がバレるかもしれない。そんなのは最初から覚悟している」
吉澤「このまま黙ってるなんて、あの子たちが可哀想じゃないか」
P「あなたも知ってるでしょう?俺は普通じゃない…世間的には、俺は存在していない人間だ」
P「そんな人間だと知ったら、アイツらは拒絶するさ……」
吉澤「でも順二朗くんは拒絶しなかっただろ?」
P「あれは社長さんが頭イカれてんだよ……」
吉澤「ふぅ、まあ君の生まれてはじめての自由な人生だ。僕が口出ししても、ね」
P「……あなたが俺の立場なら、どうしますか」
吉澤「難しい質問だね。君ほど強くもないからきっとすぐに自殺したんじゃないかな」
P「では生きてると仮定したらどうです」
吉澤「そうだね…………悩んだ末に、打ち明けるんじゃないかな。なんかこう、信頼してしまうんだよ」
吉澤「記者としての立場から言うと、ダイヤモンドの原石ってあんな感じなんだろうね」
大部屋 22:00
春香「……なんか、ビックリしちゃったね」
千早「……そうね」
伊織「……まあ、そういうこともあるわよ」
やよい「……こんなとこまでみんな仲良しなんですね」
真「……これ、もしかしてすごいことなんじゃない?」
雪歩「……もしかしなくてもすごいことですぅ」
亜美「……これからは早いもの勝ちなの?」
あずさ「……抜け駆けはダメよ?亜美ちゃん」
真美「……抜け駆けしないと勝ち目なんてないっぽいよー」
響「……でも本当にすごいことだぞ、こんな人数」
貴音「……それほどまでに、あの方は素晴らしい殿方ということでしょう」
律子「……アンタたち、アイドルの間は絶対にだめよ?」
小鳥「……でも他事務所にもモテるんだろうなぁ」
一同(……あり得る)
美希「……」zzz
8月3日 7:00
P「みんな、おはよう。朝食をとったら各自帰り支度をして待機。8時くらいに出発だ」
一同「……」
P「体調はしっかりと管理しろよー、明日からまた仕事があるからな」
一同「……」
P「……なにか?」
一同「「「「浮気はダメだよ!」です!」」」
P「はぁ?」
真美「朝ごはん一番乗りー!」
亜美「そうはさせるかー!」
春香「走ったら転んじゃわああぁ!」ドンガラガッシャーン
美希「平常運転で安心なの」
どうやら絆というか、団結力は格段に高まったようだ。
……俺を除いて。
9月14日(土) 20:00
俳優「オールナイトジャパーン!」タータラッタ タッタララッタッタラ
俳優「本日のゲストは、765プロよりお越しの竜宮小町の三人でーす!」
亜美「こんばんわー!双海亜美でーす!」
伊織「みんなこんばんわっ、水瀬伊織ちゃんですっ」
あずさ「うふふ、三浦あずさです、よろしくおねがいしまーす」
俳優「いやー三人とも可愛いですねー!残暑がまだまだ厳しいけど、三人を見たら頑張れそうですよ」
あずさ「あらあらー、ありがとうございますー」
俳優「さあ、軽く紹介いたしましょう!リーダーは水瀬伊織こといおりん!」
伊織「はーい!みんな、今日はラジオだけで姿を見せられなくてごめんね。でもその分、トーク頑張っちゃうから応援してね!」
俳優「いやあ素敵な挨拶ありがとう!続いて元気いっぱいの双海亜美こと亜美ちゃん!」
亜美「やっほー、全国の兄ちゃん姉ちゃん、今日も亜美、メチャ頑張るかんね!」
俳優「亜美ちゃんを見てるとなんでもできそうな気になれるな、ハハっ」
俳優「最後は大人の魅力たっぷり三浦あずさこと、あずささん!」
あずさ「ただいま紹介にあずかりました、三浦あずさと申します。今日は、リスナーのみなさんを楽しませられるよう頑張りますね」
俳優「このゆったりとした独特の空気がクセになっちゃいそうです。えーまずは曲ですね」
俳優「曲はsmoky thrillです、どうぞ!」シラヌガーホトケッホットケナイッ
事務所 22:15
律子「ただいまもどりましたー」
P「三人は直帰か。ラジオは問題なかったぞ」
律子「それはよかった。えーと握手会の会場がアレでその前はCМが2本と。それから……」
P「土曜日の午後にフェス、だな。相手はおそらくジュピター」
律子「そうですね、プロデューサー殿が練った対策は頭に入ってます!」
P「そうか、ならあとは体調の管理を怠るな」
律子「お気遣いどーも。それじゃあとは家で仕事しますのでお先に失礼します」
P「気をつけろよ」バタン
P「……音無は明日も休みか、電話番もしなきゃな」
俺は二冊手帳を取り出す。
黒井手帳には、土曜日 ジュピターと書く。
赤い手帳には、思いつく限りの推理を書きなぐっている。
デジタルで編集した方が楽だが、万が一ハッキングされたら最悪だ。
デジタル対策はアナログで充分だ。
TV「次のニュースです、今日○○署の署長ら三名が、着服に関与したとして逮捕、起訴されました」
悪いニュースばかりだ。
合宿以来ろくなニュースを聞かない。
レッサーパンダの赤ちゃんが生まれたとか、その程度なら明るいニュースもあった。
だがTVを点けるたびに、殺人だ放火だ汚職だ領土問題だと毎日よくネタが尽きないもんだ。
竜宮小町という、秋月プロデュースの新ユニットが、爆発的なヒットだというのはもちろんいいニュースだが。
アイドルたちと生活しているせいか、ホンの少し危機管理能力が下がってきたような気もする。
それとも、トレーニングをしていないせいで減退期に入っているのだろうか。
自分でプログラムを組んで、それをハッキングしたってトレーニングにはならないし……。
真美『もしかして世界を股にかけるスパイだったりして!』
唐突に双海姉の言葉がフラッシュバックした。
P「……大丈夫、バレやしない」
無理やりそう言い聞かせて、俺は予算表を片手に電卓をたたき始めた。
P『ただいまもどりました』
音無『こっちに来ないで!』
P『え?』
春香『この、人殺し!』
P『待て!俺は殺しなんか』
高木『すぐに出ていきたまえ!』
P『そ、そんな……ここはどこだ!?』
急に景色が切り替わる。
そこは深い暗闇。
闇の中から見覚えのある目が俺を捕らえる。
安藤『今日から俺たちは家族だ』
吉澤『僕はなかなか君とは会えないだろうが、仲良くしよう』
また景色が切り替わる。
今度はすべてが白い光の中。
眩しくて思わず目を細める。
??『―な――!』
俺はそれに手を伸ばすがギリギリで届かない。
??『―――で!』
もう少し……もう少し……身を乗り出してそれをつかむ。
途端にそれは振り返り、俺に叫んだ。
亜美『来ないで!』
事務所 9月15日(日) 4:53
P「……朝一でまずはコインランドリーか」
自分史上稀にみる悪夢だった。
睡眠をとっていたハズなのにひどく疲れている。
P「……仕事、今日だけは休みてーなー」
ふと口に出してみる。
もちろん休む気などさらさらないが、普通の人間ならこんな愚痴をこぼすのだろうか。
結局布団も汗でグッショリと濡れていたため、二度寝することは諦めた。
――そろそろ、ここを去るべきなのかもしれない。
情が移ってきているのが、なんとなくわかる。
信じがたいが、排除してきた余計な感情が芽生えてきているのだろう。
あの組織にずっと長くいたハズなのに、
ココ(765プロ)にいた時間の方が倍は長く感じる。
P「……決めた」
今月、俺はここから立ち去ろう――。
9月18日(水) 23:00
P「…はい…はい…では高槻を起用していただけると…失礼します」ピッ
P「……いきなり電話かけてきて高槻の使わせろだと?どれだけ上から目線だよ」
まあ上なんだけどさ。
愚痴を言いながらながら携帯を切る。
……そうだ、そろそろ携帯も解約しないとな。
……腹減ったな、コンビニでも行ってくるか。
アリガトゴザイマシター
P「えーっとフェスには竜宮小町が出るから、天海・如月・星井も出させたほうがいいか」
ドサッ
後ろで何かが崩れ落ちた。
本能が振り向くなと告げているが、振り向いてしまう。
危機管理能力の著しい低下。
俺は何をやっているんだ。
P「……嘘だろ、ウソだと誰か言ってくれ」
血だらけの男が一人、倒れていた。
男「はーっ、はーっ、かはっ……はーっ」
そいつはまだ息があった。
いつ死んでもおかしくないような状態だ。
目の焦点が定まってないが、親の仇でも見る様な目つきだ。
P「トマト祭りの帰りかぁ?」
男「ぜぇ、ぜぇ、ど、どっちだ…」
P「は?」
男「安藤派か?安藤派なら…わ、わたしの命にかえても…」
――そうか、コイツ下っ端の諜報員なんだ。
しかも吉澤派だ。
安藤派と答えれば襲い掛かってくる。
吉澤派と言ってもまともに考えられるか怪しいもんだ。
――試しに、こう言ってみるか。
P「6代目Мr.Perfect だ。何があった」
男は目を見開き、俺に這いずりながら寄ってくる。
男「噂は本当だったんだ…こ、これを…」
男は一枚の折りたたんだ紙を震える手で差し出した。
しゃがみこんで紙を受け取ると、男はまた話し出す。
男「それ、には、わたしの、お、親の墓の、場所だ…死ぬ前に、墓参り、したかった…」
男「親不孝のわたしのか、代わ、りに……た、頼む…」
P「……泣くな、適切な処置を施せば」
男「も、もう無理だ…もうひ、一つだ、け、聞いてくれ…」
男「みんな、い、言ってた…あなた、だけが、希望だと…」
男「逃げ、て、…ください…でも、た、た…戦うことを、やめないでください…」
P「……好きな花はなんだ」
男「と、トルコキキョウ…ぜぇ、ぜぇ…」
P「……近いうちに必ずお供えしておく」
男の目がだんだんと穏やかになっていく。
男「た、戦って、勝っで、ぐぇ…」
P「……任務了解」
男「あ、あ、うぁあぁ、ヒグッ、うぁりが、ど、お゛…」
言い終えた直後、男の手から力が抜けた。
P「……逃げろ、戦え、か」
そのとき遠くで声が聞こえた。
津田はどこだ、逃がすな始末しろ、と。
安藤派のヤツらだろう。
津田とはこの男のことか。
とにかく逃げさせてもらう。
涙を流ないことはなにもおかしくない。
だが、いわゆる悲しみという感情だろうか。
俺の心を支配していくのが分かる。
……心?
P「今月とは言わず、仕事片付いたらすぐに出ていこう」
腕時計は0時を回ろうとしていた。
誰もいない事務所に鍵をかける。
今夜もまた眠れそうにはないだろう。
9月21日(土) 11:58 社長室
高木「本気なのかね?」
P「はい、仕事が片付きしだいここを去ります」
同時刻 車内(事務所前)
律子「もう、あれほど準備しなさいって言ったでしょ!」
亜美「ごめんね律っちゃん、すぐに取ってくるよ」
律子「まったく、先に車に乗ってるからね!」
亜美「わかったー!」
11:59 社長室/事務所
高木『ふむ、ちなみに理由を聞かせてもらえるかね?』
亜美「えーっとどこに置いたっけ?」
P『あくまで推測ですが、ここを特定された可能性があります。』
亜美「あ、あった!……しゃちょーと兄ちゃん?なに話してんだろ?」
高木『……そうか、それでは仕方がない』
P『ひとつ、いいですか?』
高木『なにかね?』
P『俺が元スパイだと知っても、ここにいさせてくれた理由はなんですか』
亜美「兄ちゃんが元スパイ?なんかのゲームしてんのかな」
高木『ティンときたからだ、本当にそれだけだよ』
P『ハハッ、変わってますね』
高木『よく言われるよ。ちなみにギリギリまで居てくれと言ったら、いつまでかね?』
P『今月までです。今月中には辞めさせていただきます』
亜美「兄ちゃんが辞める……辞める?え、辞める!?」
P『アイツらには迷惑かけました。テロリストを撲滅させた人間が、アイドルプロデュースなんて笑えるよ』
亜美「え、え、えっと、兄ちゃんが…スパイで辞める…え?」
律子「亜美ー!早くしなさーい!」
亜美「あっ、う、うん……」
律子「ちょっと亜美!遅いから様子を見にきたわよ、ってどうしたの?」
亜美「え、えっと…は、早く行こ!」
律子「あ、ちょ、ちょっと亜美!階段を走らないで!」
フェスティバル会場 13:00
律子「いい?相手がジュピターでも大丈夫!」
あずさ「プロデューサーさんが作戦考えてくださったものねー」
伊織「まあ、アイツにしてはマシな作戦なんじゃない?」
亜美「……」ショボーン
伊織「?ちょっと亜美、具合でも悪いの?」
あずさ「亜美ちゃん?」
亜美「ふぇ?だ、だいじょーぶだよ!ちょっと眠くなっただけだよ!」
伊織「大事な戦いの前に緊張感もちなさいよ!」
亜美「ごめんごめん、説教はあとで!」
律子(なにか様子がおかしい、大丈夫かしら)
亜美「れっつらごー!あまとうなんかやっつけろー!」
律子「いっとくけど、春香たちもくるからねー。負けてられないわよ!」
あずさ「そうでしたか、うふふ。負けないくらい楽しまないと!」
P「いいか如月、お前の技術にかかってる」
千早「はい、どんなことでもやり遂げます!」
P「最初、まずはとにかく目立て!注目を集めろ」
P「そのあとは抑えろ。天海と星井が目立ちすぎないように持ちこたえろ」
春香美希「「はい!」なの!」
P「如月、お前はいわば一発屋状態をキープすることになる」
P「するとファンは注目してるぶん不審に思う」
P「だが飽きられないようにギリギリのところで二人がつなぎ」
P「サビでもう一度爆発させる。最後のサビでは三人とも力を振り絞れ」
P「かの有名なヒトラーの演説にならって作戦を立ててみたが、質問はあるか?」
美希「ねえプロデューサー」
P「なんだ星井」
美希「ヒトラーって誰?」
P「歴史の教科書あたりに載ってるよ」
美希「ふーん。よくわかんないけど、美希は最後までキラキラするのガマンすればいいんだねっ☆」
P「それでいい。あとは周りを気にしないで歌ってこい」
律子(あずささんはとてもいい状態で動けてる)
律子(伊織は周りが見えてるみたいね。うまくフォローに回れてる)
律子(でも、亜美がおかしい。全然集中できてない)
P(如月はしっかりと歌い上げてる)
P(天海はミスしかけたが、持ち前のあざとs、機転を効かせて魅力にしている)
P(星井は……才能に頼りすぎだ)
P(くそっ、力を引き出せないまま辞めるのか)
P(それでもなんとかジュピターには食いついていってる)
P(――だが、それまでだ)
冬馬(確か、あいつ天海とか言ったな。なかなかやるじゃねえか)
北斗(竜宮小町のレディたちはなんだかうまくいってないみたいですね)
翔太(765のプロデューサーさん、なんか面白いことやってるなー)
律子「……」
あずさ「」オロオロ
伊織「……」
亜美「」グス
律子「……今日のことは怒ってないわ。またレッスン頑張りましょう」
伊織「そうね、くよくよしても仕方ないわ」
あずさ(なんだか不穏な空気…年長者の私がなんとかしないと…)
冬馬「オイ、ちょっと待てよお前ら」
律子「あら?何のようかしら天ケ瀬冬馬」
翔太「僕たちもちゃんといるよー」
北斗「チャオ☆」
律子「今日は文句がつけられないほど素晴らしかったわ。じっくりと研究させt」
冬馬「ふざけんじゃねえ!」
亜美「」ビクッ
伊織「女相手にそんなに叫ぶことないじゃない」
北斗「はは、確かにそうだ。それについては謝ります」
北斗「だけど、同じアイドルとしての戦いに性別は関係ないですよね?」
翔太「うんうん、正直期待してたんだよ僕たち」
律子「期待?嫌味なら別に聞きたくないわ」
翔太「えー、ホントに期待してたのに。特に冬馬くんは本気でやろうって盛り上がってたよ」
あずさ(ど、どうしましょう…なんとか丸くおさめたいのだけど…)
冬馬「アンタらにはがっかりだぜ。仲間がどうとか言っておきながら」
冬馬「まるで連携できてねーじゃねーか!」
伊織「……それは、リーダーの私の責任よ」
翔太「え?君の責任なの?それ本気で言ってる?」
伊織「本気で言ってるに決まってるじゃない」
北斗「状況判断の力を、もっと身に着けたらどうかな?お嬢さん」
冬馬「もしそれが本気なら、ホントにおめでたいやつらだぜ」
冬馬「仲間をかばったつもりか?所詮そうやって傷をなめ合うだけじゃねえか」
律子「それで何が言いたいのかしら?話が長い男は嫌われるわよ」
翔太「アッハハハハ!確かに僕もそういうのは好きじゃないかも」
北斗「冬馬、言うなら優しく言「そこのチビ!」」
冬馬「確か双海亜美とかいったな。今日のお前はプロ失格だ!」
冬馬「仮に体調不良だとしても、管理できないんじゃあダメだ」
北斗「だからオブラートに、まあいいか。冬馬はそういう奴だし」
翔太「それに見抜けなかったメガネのお姉さんやメンバーにも、ちょっと問題があったんじゃないかな」
亜美「ゎ、わかってるもん……亜美が足を引っ張ってたって…うう、うえええええん!」
亜美「で、でも、亜美にだって色々あって、なんにも知らないくせに、うわあぁぁん!」
亜美「あまとうの、ヒッグ、あまとうの、ヒッグ、あまとうのバカーーーーーーー!」
翔太「あーあ、冬馬くん泣かせたー」
北斗「これはやりすぎかな。ほら、冬馬」
冬馬「うぐっ!な、なんだよ!その、少し言い過ぎたよ」
P「はいそこまでー。やっぱりお前らは来ると思ってたよ」
翔太「あ、765のお兄さんじゃーん!」
北斗「今日はすごく盛り上がってましたね」
P「それで、このありさまは?」
冬馬「……俺のせいだよ。俺が事実を言ったからこうなった」
冬馬「だけどな、こっちは真剣にやってるんだ!仲良しごっこならよそでやれ!」
北斗「おい冬馬!冷静になれ」
P「まあまあ、ここは一旦終わろうぜ、な?」
P「秋月、三人をつれて楽屋に戻れ」
律子「わかりました」
P「それにジュピターの三人も、特に天ケ瀬は勘違いしていることがある」
ホライクワヨ ダイジョウブアミチャン ゴメンネ ワスレモノナイワネ
冬馬「勘違い?」
P「お前らも真剣だしウチも真剣だ。そしてあの四人も真剣だ」
P「それに仲良しごっこと団結は違う」
P「……まあ、どうせ明日話すだろうし、今は帰って左足の管理をしとけ」
P「最後の決め、太もものスジに軽い痛みが走ったように見えた」
冬馬「な、なんでそれを!つーか明日ってどういうことだよ!」
P「今は頭も冷やせ。じゃ、仕事あるからこれで」
オイマテヨ モウイイジャントウマクン イマハシタガオウ
春香「プロデューサーさん♪」
美希「今日の美希たち、ジュピターに負けてなかったって思うな」
千早「プロデューサーのおかげです、ありがとうございました」
P「お前らはなかなか頑張ったみたいだが、細かいミスが目立つな」
春香「うぅ、すみませーん…」
P「だが成長した証でもある。今日はしっかり休め。如月と星井は明日はオフ。天海はレコーディングだ」
春香美希千早「はい!」
9月22日(日) 14:00 961プロ エントランス
P「ジュピターに会わせてくれ。765プロの赤羽根と言えば通じるハズ」
受付嬢「すみませんが765プロとは関わるなと社長が」
P「昨日約束してるんだ直接。それに携帯を忘れてったみたいだから返しにきた」
受付嬢「しかし、規則は規則で」
翔太「あれー?765のお兄さん、なんでここにいるの?」
P「よう御手洗、携帯忘れてたみたいだから届けにきたんだ。中にいれてくんない?」
北斗「おや誰かと思えば、別に黒井社長も席を外してるし少しくらいいいんじゃないですか?」
P「さすがモテるやつは話がわかるな。じゃあお邪魔します」
受付嬢「ちょちょっと困ります!社長に連絡しますよ!」
P「どうぞどうぞご勝手に」
北斗「ところでどうして敵地に?」
P「携帯返すのと話の続きをね」
冬馬「ん?てっテメー!人の携帯なんで持ってやがる!」
P「お前たちの楽屋に落ちてたんだよ」
冬馬「それ泥棒じゃねーか!」
P「人聞き悪いな、それに返したからいいだろ?」
冬馬「な、なんなんだ765プロの連中は……」
961プロ 第三応接室 14:12
P「さて、一度おまえたちとじっくり話がしてみたかったんだよな」
翔太「僕たちと?」
P「そう。いったい黒井社長になにを吹き込まれたのか気になってね」
北斗「ああ、そういうことですか。俺は昔社長が女性をとられたって聞きましたね」
翔太「えークロちゃんそんなことがあったの?」
冬馬「それ本当なのか!?」
北斗「どうした冬馬?何を慌てているんだ?」
冬馬「俺は765プロは裏で汚いことをしてるって」
俺に限ればそれで正解なんですけどね……。
翔太「んー765プロってそもそもあんまりお金ないのにそんなことできるの?」
P「できるならとっくにやってるな」
北斗「気にするなよ冬馬」
冬馬「まだ何も言ってねえ!」
P「なるほどね。まあ黒井社長の過去を考えたら憎むのもわかるかな」
冬馬「おっさんの過去を知ってるのか?」
P「お前らは直接聞けばいいだろう」
翔太「だーって全然教えてくれないんだもん」
北斗「そういえば聞いたことがないですねぇ」
P「ま、せいぜい頑張れ。とりあえず俺が聞きたいことはそれだけだ」
冬馬「オイ待てよ!自分だけ言いたいこと言って帰んのかよ!」
P「ダメ?」
冬馬「俺にも言わせろ!仲良しごっこじゃないってどういうことだ」
P「ああ、ソレか。今は仲良しごっこに近い」
P「だが、自分のためだけに動くのと、他人のために動くのでは結果が違うのさ」
冬馬「チッ、くだらねえ……」
P「もちろん、個人の力も大事だけどね。ただこのままならウチがいつか圧倒的な差をつけて勝つ」
――このまま俺が残ればの話だがな。
冬馬「だったらなんだ!負けねえように力をつけてねじ伏せてやる!」
P「はは、いいねえその闘争心」
冬馬「バカにすんじゃねえ!」
P「いやいや星井に見習わせたいよまったく」
冬馬「くそっ!だいたい昨日のアイツらはなんだ!結局負けたじゃねえか」
P「竜宮小町か?それなら御手洗が言ったように俺の責任だ」
P「つまり俺の負けであって秋月たちの負けじゃない」
冬馬「……それなら、次で決着をつけてやる」
P「次のフェス?」
冬馬「昨日はオレがさいごにミスをした。次はそうはいかない、全力でやってやる」
冬馬「だからそっちも、ベストメンバーのベストな状態で挑んでこい!」
冬馬「アンタがいう団結の強さってやつを、俺に勝って証明してみせろ!」
P「……オーケー、9月29日の日曜日、証明しよう」
すると天ケ瀬が手を差し出してきた。
冬馬「男と男の勝負だ。誓いの握手をしろ」
北斗「やれやれホントに冬馬は熱血感だな」
黒井「ノンノンノン、下衆と握手などする価値はない」
P「黒井社長……お久しぶりです」
黒井「まったく756プロのドブネズミが一匹入り込んだと聞いたから来てみれば貴様か」
P「ウチは765プロです。そんな暗記力で大丈夫ですk」
黒井「大丈夫だ問題はない。それより貴様にこのセレブな私がひとつ質問してやろう」
P「光栄ですが恐れ多いのでお断りします」
黒井「まず一つ、貴様の名は?」
スルーかよ。
P「赤羽根健二です」
黒井「そうか、ま、頭の片隅に覚えといてやろう」
黒井「さっさと帰りたまえ」
P「失礼します、アデュー」
黒井「言い方がなっとらんアデューだ!」
翔太「クロちゃん怒るとこソコなんだ……」
黒井「うるさい!お前たちはレッスンしていろ!」
事務所 19:00
律子「ハァ」
P「どうした、飲酒運転の検査はしてないぞ」
律子「飲んでません……プロデューサー殿、最近亜美になにかあったとか知りませんか」
P「双海妹か、特には」
律子「いったいどうしちゃったのよ……ハァ」
P「双子姉には聞いたのか」
律子「真美にも聞いたけど、何も教えてくれないんです」
律子「なんだか、常に何かにおびえていて……」
P「ふーん……なにか分かったら連絡するよ」
律子「すみません、お願いします……」
同時刻 千早宅
千早(…コンビニの帰り、誰かに見られていたような…気のせい、よね)
9月26日(木) 16:45
スタッフ「それじゃ如月さん、レコーディングの方はじめますねー」
千早「はい!」
~♪
音声係「いやぁ流石の歌唱力だなぁ」
P「ありがとうございます」
音声係「前からすごかったんだけどさ、いい歌声になったよ」
P「ありがとうございます」
音声係「なんかバラエティもできる歌手って感じでオレ好きだな」
P「歌手ですか、如月も喜ぶと思います」
歌手、か。
それはいいんだが、複雑な気分になる。
如月の目標は歌手だから嬉しいが、
今はまだ、「アイドル」なんだ……。
P「レコーディング、うまくいって良かったな」
千早「はい、プロデューサーのおかげです」
P「いや、お前自身の努力のおかげだ」
千早「しかし、プロデューサーがいたから」
P「俺がいなくなったらダメになるのか」
千早「そういうわけでは……」
P「だからお前自身の手柄だ」
千早「そう、ですね……私、頑張りましたよね」
P「ああ」
千早「私、頑張りましたよ?」
P「……なんだ?」
千早「その、頑張った人は褒められるべきですよね……」
P「さっき褒めたぞ」
千早「で、でしたら、その…ぁ…」
千早「頭を撫でてくださぃ//」
P「悪いが無理だ。それに場所をわきまえろ」
千早「へっ?……はっ//」
音声係(オレちーちゃんのファン一筋で生きてく)
スタッフ(俺もそうするよ)
事務所 18:00
律子「お疲れさま、学校帰りで疲れたでしょ?」
千早「まあ少し……それより喉の保湿が大変だったわ」
律子「徹底してるわね」
小鳥「そこが千早ちゃんの良さでもあるのよね」
千早「音無さん、そんなに持ち上げても何もだせませんよ?」
小鳥「ふふっ、なんだか千早ちゃん可愛くなったわね」
千早「なっ、かっかわ//」
律子「小鳥さん、千早は前から可愛いわよ?」
小鳥「それもそうですね、ごめんなさい」
千早「あの、もうやめて//」
P「ホラさっさと帰れまったく」
千早「あっ、あのプロデューサー!」
P「なんだ?」
千早「あの、私の勘違いだとは思うんですが…最近、誰かにつけられてるような」
小鳥「それってストーカー!?」
P「……そうか、こちらからも色々と探っておく」
事務所 9月29日(日) 6:00
今日、俺は退社する。
社長以外の誰にも気づかれずに。
今日の仕事は、フェスでジュピターに勝つこと。
前回は天海と星井で固め、如月という爆弾で盛り上げた。
今回は天海が爆弾だ。
星井と如月でまずは先制する。
そして天海の歌と、表情。
天海は笑顔も似合うが、もうひとつの秘密兵器がある。
――涙だ。
意外なことに、天海の涙を見た者はほとんどいない。
偶然にも俺は、事務所でDVDを見ていた天海に声をかけた。
春香『グス、あ、プロデューサーさん。これスゴく泣けるんですよ』
どうやら悲恋モノの映画だったらしい。
そして俺は、今日そこに賭けることにした。
フェス向きではないが、バラードであるmy songでいく。
既存の作戦ではジュピターには勝てない。
時には大胆に行動しないと勝てない。
――で、なぜ俺がこの時間に起きているかというと
千早「……」
P「……病院に行こう」
今朝、如月から電話があった。
歌が、歌がとしか言わない。
その後すぐに事務所に如月は来た。
如月は歌えなくなっていた。
歌おうとすると声が出ない。
異常事態に戸惑う事が、俺にはできない。
そこに激しい苛立ちを覚えながら、病院をたたき起こして診てもらった。
待っている間、看護師たちの会話が聞こえてしまう。
――ねえ確か如月千早って――
――そうだわ、昨日発売の週刊誌に――
P「なあ、知ってる情報をすべて教えてくれ」
事務所 9:00
P「まさかスクープされるとはな」
如月にはかつて弟がいた。
子どもの頃に事故死し、家族は次第に仲が悪くなっていった。
決して如月は悪くない。
悪かったのは運だ。
そしてそれは、トラウマとして残っていた。
医者の判断では、一時的な発作らしい。
炎症もなく、失声症というやつに近いのだろう。
P「水曜以降、お前の近くをうろついてる輩がいないか知らべた」
P「だが見つからなかった。水曜日の段階で記事はできていたんだろう」
千早「すみません……」
P「今後の対策は、とりあえず社長の指示を仰いでからだ」
P「そしてフェスだが」
千早「大丈夫です、歌わせてください」
P「できればそうしたいが、無理だ」
千早「お願いします!」
P「……」
明らかにマズい。誰だって止めるハズ。
千早「……最初で最後のワガママです」
千早「あの記事に、負けたくないんです」
千早「だから……お願いします!じゃないと、私は…優に…」
P「……時には大胆に、か」
P「本来なら絶対に許可しない」
P「だから俺はお前を止める」
P「あの作戦も中止だ。それでも出たいなら、俺を振り切ってでも出ろ」
P「いいか。俺は、止めたからな」
千早「ありがとうございます」
これでいい、これでいいんだ。
俺は今日いなくなるから、もう俺には関係のないことだ。
コイツらも、俺と関与なんかしていない。
そのほうが幸せなんだ。
フェス会場 12:00
P「よう、逃げなかったのか」
北斗「お言葉ですが、そちらはあまりにも不利ですよ?」
P「だからなんだ?」
翔太「悪いけど、僕たちも手は抜けないんだー」
P「それで?」
冬馬「アンタ、ふざけんなよ」
冬馬「ベストな状態でっつったよな?」
冬馬「こんなんで勝っても嬉しくねえ!」
P「……じゃあ、ミーティングあるから」
P「それに、竜宮小町だっているんだ。勝ってから言え」
冬馬「……クソっ!」
??「」コソコソ
翔太「あれ?今誰か通ったような」
北斗「……なあ冬馬、もしかしたらなんだが」
冬馬「ん?」
14:00
律子「千早、大丈夫?」
P「如月、いつもに比べたら伸びがなかった」
律子「……仕方ないわ、しばらくは無理よ」
千早「」ギリッ
律子「本当なら歌わせたくなかったし、プロデューサー殿を殴ろうと思った」
律子「でもそんなことしても意味はないし、何よりあなたが心配だった……」
律子「…ごめんなさい、私、頭の中がもうぐちゃぐちゃでなんて言っていいか…」
P「……竜宮小町も、なんだかギクシャクしてたな。特に亜美」
P「いったい何があったかは分からないが、早く解決しろ」
P「お前には仲間がいるんだから」
亜美「……うん」
黒井「おい、765のプロデューサー」
P「おや、いらしてたんですね」
黒井「少し顔を貸せ。話したいことがある」
P「分かりました。……みんな先に帰ってろ」
律子「……わかりました」
フェス会場外 14:07
黒井「ここならいいだろう」
P「なんでしょうか」
黒井「単刀直入に言おう。ジュピターの行方を知らないか」
P「知りません」
黒井「そうか……」
P「……何かあったんですね」
黒井「貴様に話す義理など」
P「いいから答えろ!」
黒井「……これは独り言だ。もしもこの私の考えが正しいなら、渋沢という男を追っているかもしれん」
P「渋沢?」
黒井「如月千早の記事を書いた下衆だ。あの記事があっても歌うアイドルなど、記事のネタにしかならん」
P「まさか、来ていたんですか?」
黒井「ウィ、そうだろうな。ま、私としては貴様らが負けるのはいっこうに構わん」
黒井「……だが、これでは勝っても気分が悪い。まったく765プロは本当にダメな事務所だな」
黒井「だが、貴様だけはどうやら違うようだな」
黒井「本当の名前を言ってみろ」
P「赤羽n」
黒井「そんな男は存在しない、引き抜き工作をしようとしたが、貴様の存在は一切分からなかった」
黒井「何者だ貴様」
P「……それこそ教える義理はありません」
黒井「フン、そうか。……貴様なら、ジュピターを探し出せるか?」
P「あなたの人脈を使えばいいでしょう」
黒井「もうやっている!だからこそだ…本当は765の人間に頼むなど有りえん」
黒井「しかも得体が知れん奴などもってのほかだ!」
黒井「……しかし、アホの高木が信用しているというから頼むんだ」
黒井「一刻も早く探し出し、連れ戻してほしい」
黒井「この黒井崇男、恥を忍んで貴様に頭を下げる」
黒井「頼む、嫌な予感がするのだ…」
P「……いいでしょう。今日であなたともお別れですから」
黒井「……相変わらず、意味のわからん男だ」
最寄駅 16:23
冬馬「翔太!アイツはどっちに行った!」
翔太「たぶん右!」
北斗「冬馬、ここは挟み撃ちだ!」
冬馬「分かった!逃がさねえぞあのやろう!」
渋沢「ヒィ、ヒィ、速えな畜生!」
女子校生「ねえアレジュピターじゃない!?」
女子高生「わっ、ほんとだ!何かの撮影?」
女子校生「速ーい!」
P「――聞こえた」
およそ700メートル先、地下2階か。
視力抑制眼鏡を外そう。
冬馬「翔太!左から行け!」
翔太「冬馬くんは?」
冬馬「このまま行くぜ!」
P「――いた、見つけたぞ」
渋沢「ひぃ、ひぃ、ひぃ」
北斗「残念ですけど、行き止まりですよ」
渋沢「のわぁ!」
翔太「はぁ、はぁ、確かあの記事書いた人だよねぇ、はぁ」
冬馬「やっと追いついたぜ……真剣勝負をぶち壊しやがって!」
P「殴るな!天ケ瀬!」
冬馬「なっ!あ、アンタは!」
翔太「765のお兄さん!」
北斗「おっと、逃がしませんよ?」
渋沢「畜生!」
P「絶対に手を出すな、それすら記事にされるぞ」
渋沢「ひ、表現の自由を」
P「ほう、俺を相手に法律で挑むか」ゴゴゴ
渋沢「ヒッ!」
P「あとは俺がこいつの出版社に連れて行く。お前らは速く帰れ、社長命令だぞ」
北斗「……わかりました」
冬馬「おい北斗!」
翔太「冬馬くん、ここは任せようよ」
冬馬「チッ、分かったよ……」
P「……さて、積もる話は歩きながらしようか」
渋沢「」ガクブル
同時刻 765プロ事務所
律子「亜美、もうダメ。話しなさい」
亜美「……」
律子「私だってあなたをみんなで囲んで話させるなんてやりたくないわ」
律子「それに春香たちだってこんなのはイヤなの」
貴音「あの、律子嬢、いったいなにを」
律子「貴音、今は黙って亜美が逃げないようにして」
貴音「……承知しました」
真美「真美にだけでも、話してよ…」
亜美「本当は話したいけど、それだけはダメなんだよ」
響「なんでダメなんだ?」
亜美「……亜美、みんなが好きだから。だから、これはダメ」
亜美「例え真美でも…真美だからこそ、たった一人のお姉ちゃんだからこそ」
亜美「ダメだよ。亜美が黙ってないと、ダメだよ…」
律子「いいかげんにしなさい!」
亜美「律っちゃんこそいいかげんにしてよ!」
あずさ(……どうしてこんな時に私は…年長者なのに…)
律子「亜美!こんなこと言いたくはないけど」
亜美「じゃあ言わなきゃいいじゃん!」
律子「な!あのねえ最近あなたがちゃんとできないから」
亜美「そんなの分かってるよ!だったら亜美を外せばいいじゃん!」
あずさ「!」
亜美「お願いだから一人にして!」
あずさ「……!」プルプル
律子「亜美!あなたなんてこt」
スッ
あずさ「亜美ちゃん、ごめんなさい」
パチン!
亜美「……え?」
一同「え、え?」
律子「あ、あずさ、さん……?」
亜美「う、うそ、亜美いま、あずさお姉ちゃんに」
律子「な、なんで、平手打ちなんか…」
あずさ「亜美ちゃん、私いまの言葉は許せないわ」
あずさ「亜美ちゃんがどんなことを抱えているのかはわからないわ」
あずさ「でもそれが私たちに良くないことなのは分かるの」
あずさ「そうだとしたら、隠していてもいつかは分かるかもしれない」
あずさ「あとから知ってしまったら、どうにもできなくなってるかもしれないでしょう?」
亜美「……でも、これは今知ってもどうにも」
あずさ「たとえそうだとしても、私たちはバラバラにはならないわ」
あずさ「さっき一人にしてって言ったけど、苦しんでる亜美ちゃんを一人にはできないわ」
あずさ「それとも、その秘密を話したら私たちがバラバラになっちゃう」
あずさ「私たちの団結って、そんなものだったかしら?」
亜美「それは、違う、と思う……」
あずさ「亜美ちゃん、私は年長者なのにフラフラしてて頼りないけど」
あずさ「他に頼れる人はいっぱいいるわ」
あずさ「だから……お願い」ダキッ
亜美「…グス、ヒグ、あ、あずさ、お姉ぢゃ、ん、うぅ…」
亜美「うわああぁぁぁん、ごめんなざいぃぃ、うわああぁん」
あずさ「亜美ちゃんは、怖かったのよね」
あずさ「私もみんなが好きだから、その気持ちは分かるわ」
あずさ「痛かったわよね……ごめんなさい」
亜美「亜美が、亜美が悪かったよ…グス」
律子「亜美、私も謝るわ。キツイこと言ってごめんなさい」
亜美「律っぢゃぁん、うう、ごめんね」
律子「……亜美、ゆっくりでいいわ。だからおねがい」
律子「なにがあったのか、みんなで解決しましょう」
亜美「う、うん…グス…え、えっと…ちょっと待って…」
真美「大丈夫だよ、亜美は真美の妹だから…ずっと待てるよ」
亜美「ありがと…」
亜美「……この前の土曜日のお昼、忘れ物を取りにきたの」
亜美「しゃちょーと兄ちゃ、…あの人が話してた」
亜美「それで、今月に辞めるって言ってた」
亜美「辞める理由は元スパイで、テロをする悪い人をやっつけたからって」
亜美「それで、あの人がいると765プロが危ないって…」
小鳥「えっと、あ、亜美ちゃん?」
真美「ウソだ!兄ちゃんがそんなハズ…」
一同「」ビクッ
亜美「ウソだって、亜美も信じたいよ!でも…でも…」
真美「……ホント、なんだね」
律子「えっと、どういうこと?」
真美「つまり…兄ちゃんはスパイだったんだよ…」
春香「えっと、映画とかの?」
美希「ジェームスボンド?」
真美「うん……あの人は、危険、だと思う…思いたくないけど」
律子「いくらなんでも、イタズラにしちゃやりすg」
真美「違うよ!違うよ…」
小鳥「プロデューサーさんは、辞めるって言ったのね?」
亜美「うん、確かに言ってた…」
小鳥「…なら、社長に聞きましょう」
律子「でも社長は今日、日本アイドル協会の会議に」
小鳥「予定では15時には終わります。そろそr」ガチャ
高木「ふぅーなかなかためになる話だったよ音無くん。……みんな、そんなところに固まってどうしたのかね?」
小鳥「社長、お話があります。プロデューサーさんが辞めるって本当ですか」
高木「……誰からその話を?」
小鳥「辞めるか辞めないのかを言ってください!」
高木「ああ、本当だ。今日、彼はここを去る」
某出版社前 16:39
P「つまり、お前はあくまで個人に責任はないと言うのか」
渋沢「如月千早の話は金になる、会社の判断だ」
P「だがお前もそれを楽しんでいたんじゃないのか?」
渋沢「し、仕事を楽しんで何が悪い!」
P「下衆な野郎だ。社長の嫌な予感ってのもうなずける」
渋沢「事実を書いて何が悪い!」
P「断片的にしか書いてないのは明らかに取材不足だ」
P「それか、意図的にそう書いたかのどちらかだろう」
渋沢「い、いいかげんにしろ!それ以上問い詰めるならお前の記事を書くぞ!」
P「……やれるもんならやってみろ。どのみち俺にも仕事がある、いつまでもテメーを相手にしてられねぇよ」
俺は渋沢から手を離し、急いで事務所へ戻った。
渋沢「……覚えてろ、いつかテメーを記事にしてやる……っ!」
小鳥「……理由は、なんですか」
高木「実家のお父様が倒れたらしく、家業を継ぐそうだ」
律子「そう言うようにって打ち合わせでもしたんですか」
高木「っ!……何を言ってるのかね」
律子「そう、なんですね」
春香「え、そ、それって」
千早「そんな……そんな!」
美希「これ、ドッキリ、だよね?」
やよい「プロデューサーが、スパイ……」
伊織「ここは日本よ?そんなのありえないわ」
あずさ「嘘、なんですよね?」
真「ボク、いま何も考えられないや」
響「ど、どういうことなんだ…なんなんだこれ…」
貴音「あの方が、まさか……」
雪歩「でも、でも、でも…」
亜美「……」
真美「……」
本日はここまでにします。
Pって処理能力高杉って思ってたら浮かんだネタです。
明日も更新予定です、ありがとうございました。
では、おやすみなさい。
こんばんわ
色々と設定に意見があるみたいですが許してください…
ちなみにまだ最後が書き溜め終わってません。
頑張ります。
事務所 16:56
P「ただいま戻りました」
高木「…赤羽根くん、まずは会議室へ」
P「会議室?なにか書類でも」ガチャ
一同「……」
P「……なんだみんな」
伊織「本当の名前を言いなさい」
P「は?赤羽根k」
律子「本当の名前を、言いなさい」
……あぁ、そういうことか。
P「……名前は無い。誰が気づいたんだ?なに、危害は加えないさ」
亜美「亜美が、ぐーぜん聞いたんだよ」
はあ、やっぱりか。
第六感は本当によく当たりやがる。
P「話せることは話そう」
俺はすべてを語った。
孤児であること。
パーフェクトと呼ばれたこと。
殺人は未だにしていないこと。
組織の誰かが、俺を売ったこと。
怪しいのは安藤ということ。
名前は明かせないが、協力者がいること。
ニュースになる前に揉み消された、津田という男のこと。
標的である俺が、特定されてるかもしれないこと。
P「だいたい話した通りだ。あとは好きにしてくれ」
P「警察に突き出してもいい。マトモに取り合ってくれるならな」
沈黙があたりを包む。目に涙を浮かべる者もいた。
確か4月にもこんなことがあった。
あのときとは状況がまったく違うが、どうなるんだろう。
まあ、もうどうでもいいのだが。
P「決まらないなら、俺は荷物をまとめて出ていく。邪魔なものは勝手に処分しろ」
俺は会議室のドアノブに手をかけ、その場を立ち去った。
――あの言葉が無ければの話だが。
春香「待ってください!」
春香「勝手にいなくなるなんて、そんなのズルいですよ!」
誰もが度肝を抜かれた。
この俺ですら、振り向かずにはいられなかった。
P「スパイはズルくなきゃ、生きていけないんだよ」
春香「スパイなら約束を破ってもいいんですか!」
裏切りは常套手段だ、と言いかけて飲み込んだ。
天海と約束したこと、何かあったか?
春香「いつか、名前で呼ぶって……呼ばせてくれって言ったじゃないですか!」
P「……」
春香「トップアイドルにするって、言ったじゃないですか!」
春香「それも、最初からウソだったんですか?盛り上げるための、なんでもないウソだったんですか?
春香「例えそうだったとしても、私は本気で信じてました……」
P「天海……」
春香「危険人物かもしれないのは、分かってます。でも、信じてるんです!あんなに私たちのために一生懸命に
なってくれた人が、そんなに怖い人なんですか?少なくとも、ここにいるときはそんな人じゃなかった!」
P「……それでも俺は、こういう人間だ。赤の他人が、お前たちの人生を壊しちゃならない」
春香「赤の他人なんかじゃありません!765プロは、家族なんです!」
春香「本音を言ってしまえば、最初はプロデューサーさんが嫌いでした。乱暴な口調だし、ムスっとしてるし」
春香「でもあのCM撮影でアイディアを出してくれた時、とっても嬉しかったんです!それもウソだったんですか?」
P「ああウソだ。職場の人間が、俺を冷たい目で見てることはすぐ分かった。信用させて働きやすくするために、動いたまでだ」
春香「……たとえ働きやすくするためだったとしても、嬉しかったんです……」
春香「例えスパイだったとしても、プロデューサーさんはプロデューサーさんなんです!」
春香「私たちが知らないことや、危ないこともしてきたのは分かりました。でも、人を殺したりはしていないって言いましたよね?」
春香「それって、最後の一線は超えないようにした、プロデューサーさんの優しさじゃないんですか?」
P「っ、違う!殺人ほど証拠が残りリスクを負うものはない。放火だろうが窃盗だろうが、同じだ」
春香「スパイって情報を盗むんでしょう?同じじゃないですか!」
P「……だから、最もリスクが低い手段であって」
春香「プロデューサーさん!」
P「……黙れ」
春香「プロデューサーさんの代わりは、いないんです…家族の代わりはいないんです…」グス
春香「ずっと尊敬し、てるんれず…ヒック、かっ、家族は、一緒にいなきゃ…」
春香「だから、ヒック、い、行かないでぐだざ、い゛……」
P「……黙れと言っただろ……春香」
どうして、なんだ。
春香、その武器になる涙は俺なんかに使うもんじゃない。
春香「やっと、名前で呼んでくれましたね、えへへ」グス
P「……」
貴音「あなた様、月はひとりでには輝けぬものです」
貴音「あなた様という太陽がいるから、美しく輝けるものです」
P「……貴音」
響「自分がトップアイドルになるところを見ないなんて、すっごく損だぞ」
響「……それに、今のプロデューサーはとってもいい人じゃないか。昔なんか、知らないぞ!」
P「……響」
美希「響の言うとおりなの。大事なのはこれからだって思うな」
美希「おにぎりもいちごババロアもくれたし、それにプロデューサーのおかげで
最近アイドルちょっと楽しいって思うな、アハッ☆」
P「……美希」
律子「……あなたは後輩だけど、なんでもできて先輩みたいだった。まあ年齢もたぶん先輩だし」
律子「それにここにいる間、私たちに危険はなかった。恐らくその協力者とやらが守ってくれてるのでしょう」
律子「つまりあなたがいても安全ってことね。それなら、私が追い越すまで辞めないでください」
律子「目標がいなくなったら、探さなきゃいけないじゃないですか」
P「……律子」
小鳥「はぁ、ホント謎すぎて不気味です。話を聞いたら余計わからなくなりました」
小鳥「でも、だからこそ知りたいです。765プロのみんなに、あなたは愛されています」
小鳥「なくてはならない存在なんです!」
P「……小鳥」
あずさ「プロデューサーさん、前にお話ししましたよね。ここに来たことは運命だったのかって」
あずさ「最近、考えていたんです。運命だったから来たんじゃないか」
あずさ「もし違ったとしても、運命であってほしいって思うんです」
あずさ「プロデューサーは、運命だって思いたくはないですか?」
P「……あずさ」
伊織「あんた、スパイのなかじゃ相当スゴイんでしょ?」
伊織「思うんだけど、アンタがいたほうが安全じゃない」
伊織「万が一、危ないことがあってもアンタなら守れるんじゃないの?」
伊織「ミジンコよりは使えるんだから、ここに残って伊織ちゃんに仕えなさい、にひひっ♪」
P「……伊織」
亜美「本当に、危険じゃないんだよね?」
亜美「亜美、スパイだったことより黙って辞めることの方がショックだったよ……」
亜美「兄ちゃんは竜宮小町のプロデューサーじゃないけど、それでも亜美のプロデューサーだよ!」
亜美「残るって言ってくれたら、許すよ!だから残って!」
P「……亜美」
真美「兄ちゃんズルいよ、真美まだ兄ちゃんにゲームで勝ってないよ!」
真美「勝つまでいつでも挑戦受けるって言ったじゃん!」
真美「裏切らないでよ!……真美はもう大人だから許すけど」
真美「次に裏切ったら本当に許さないから!」
P「……真美」
やよい「プロデューサーは自分のことをダメだって言ってたけど」
やよい「それは違うと思います!」
やよい「だってプロデューサーはとっても優しい人です!」
やよい「プロデューサー、手を出してくれますか?」
俺は言われたとおりに手を前に出す。
やよい「はい、ターッチ!イェイ!」パチン
やよい「えへへ、元気が出るおまじないです!」
やよい「これをやってくれる人に、悪い人はいないかなーって」
P「……やよい」
雪歩「わ、私、男の人が苦手でした……今も苦手ですけど、プロデューサーならなんとなく平気です」
雪歩「初めて家族以外の男の人と仲良くなれたって思ってましたぁ」
雪歩「それなのにいなくなるなんて、そんなこと言わないでくださいぃ」
雪歩「プロデューサーのおかげでお仕事もできるようになりました」
雪歩「でも私はまだまだダメダメなダメドルなんですぅ!」
雪歩「だからここに残ってくださいぃ!」
雪歩「私のこと、嫌いになっちゃったんですか……?私はプロデューサーを尊敬してますぅ!」
P「……雪歩」
千早「プロデューサー、私は歌以外に興味はありませんでした」
千早「でも、プロデューサーのおかげで変われたんです」
千早「歌以外のことが、歌を成長させてくれる」
千早「成長した歌を、もっと聴いてほしい、もっと話したいこともいっぱいあるのに」
千早「担当アイドルの悩みを聞かずに辞めていいんですか?」
P「……千早」
真「あの時、可愛いって言ったのはウソだったんですか?」
真「仕事を進めるためのウソだったんですか?」
真「もしそうだって言うなら、見ていてください、絶対に可愛いって言わせてみせますから!」
真「可愛くないかもしれないけど、秘策だって考えてあるんですから!」
P「……真」
P「……はぁ、分かったよ」
P「本当にお前らは揃いも揃って本物のバカどもだ」
P「……だが、いつだってそういう奴が、時代を動かしてきたんだ」
P「いいぜ、本当に覚悟はできたか?」
P「俺はいま覚悟を決めた。お前らを守りつつ、年内には安藤と決着をつける!」
P「真相をつきとめて、絶対に生き抜いてみせる」
P「……俺は、お前らを信じていいのか?」
高木「それはもう、聞かなくても分かり切っているのではないかね?」
P「……ふふ、分かったよ」
P「これからは、俺らしく生きる……まだ完全に自由じゃないが」
P「赤羽根健二として、お前らを必ずトップアイドルにする」
P「引きとめたのはお前らだ、後悔すんなよ?」
春香「後悔なんかしません!だってプロデューサーさんですから!」
アーヌケガケダー エエッソウイウツモリジャ マアナンデモイイデスケド ウッウー
P「……吉澤さん、俺はパーフェクトなんかじゃなかったようだ」
961プロ 18:00
秘書「765プロ敗北記念に、乾杯ー!」
職員「「「「「乾杯ー!」」」」」
秘書「いやぁ黒井社長!ついに社長の夢が叶いましたね!」
黒井「……ウィ、そうだな」
秘書「ジュピターの三人ならいつかやってくれると思ってましたよ!」
黒井「……そうだな」
秘書「どうかされましたか?」
黒井「……仕事があるので少し席を外す。楽しんでいろ」
秘書「は、はい!」バタン
黒井「……」
冬馬「……オッサン、廊下に一人で寂しくないのか」
翔太「え?僕たちもいるから4人だよ?」
北斗「男4人ってのも、どのみち悲しいですけどね」
黒井「……ぜだ」
冬馬「ん?」
黒井「なぜ負けたんだ高木ぃぃ!」
冬馬「……オッサン、やっぱりアンタ」
黒井「お前たち、今日はもう上がれ。以上だ」クルッ
翔太「あっ、クロちゃん!」
北斗「翔太、今日はそっとしといてやろう……」
某日 中央霊園 10:17
千早「ごめんね、あまり来れなくて」
千早「優、私もうダメかもしれない……」
千早「……でも優のために、やれることはやるわ」
千早「それじゃ、またあとで来るから……」
P「千早?」
千早「え?プ、プロデューサー!どうしてここに?」
P「津田という男に頼まれてな」
千早「津田?あぁ、ニュースにならなかったって言ってた……」
P「ああ、ちょうどこのあたりだ。少し待っててくれないか」
千早「分かりました」
P「千早はどうしてここに?」
千早「私は、弟が」
P「優くんだったな、すまん」
千早「いえ、気にしないでください」
P「……優くんはどこに?線香を上げさせてくれ」
千早「ありがとうございます、こっちです」
P「なあ、千早はどうして歌が好きなんだ?」
千早「私、ですか?」
P「ああ、美希や春香は楽しいから歌っている、でもお前は思いが強すぎる」
千早「そういえばその二人は今は?」
P「とりあえず、お前抜きでオーディションに行ってる」
P「それより、今はお前だ」
千早「……優は、私の歌が好きでした」
千早「見殺しにしたわけじゃありません。それでも、私が助けられなかったのは事実です」
千早「優のために、私は歌を歌わなければいけないんです」
P「……厳しいことを言うぞ」
P「弟への謝罪のつもりなんだろうがそれは違う」
P「そうすることで許されたいと思っている、自分のために歌ってるにすぎない」
千早「私はそんなつもりじゃ!」
P「分かってる、深層心理というやつだ」
P「別にお前を責めているわけじゃない」
P「もうそろそろいいんじゃないのか?重い十字架を背負うのは疲れただろう」
千早「たとえ優が許してくれても、私自身が許せません」
千早「歌が歌えない私に、もう価値なんてっ!」
P「甘ったれるな!」
千早「」ビクッ
P「お前を応援してくれるファンはどうでもいいのかよ」
P「世界的歌手になる奴が、こんなことでくじけるのかよ!」
千早「っ!それは…」
P「……もしも俺に姉がいて、自分にずっと懺悔し続けてるとしたら」
P「俺は姉に言う。もう大丈夫、お姉ちゃんのやりたいようにやってくれ、って」
千早「……優は、本当にそう思ってるんでしょうか」
P「自分が姉を苦しめてることに、いつかは気づく。俺ならそんなの耐えられないね」
千早「それなら、私はこれから誰のために、歌えばいいんでしょうか?」
P「ファンのためじゃダメか?」
P「あと俺のためにじゃ、ダメか?」
千早「……でも、優を忘れることは」
P「……そうか。なら優くんと少し喋らせてくれ」
千早「プロデューサー?」
P「優くん、初めまして。お姉さんのプロデューサーだ」
P「お姉さんはよく頑張ってる。これからもっと多くのファンを喜ばせるだろう」
P「だが忘れないでほしい、如月千早の公認ファンクラブ第一号は」
P「まぎれもなく君だ。弟としてではなく、ファンとしてこれからも応援してくれ」
千早「……私、頑張れるでしょうか?」
P「……それはお前次第だ」
P「だが、これからは俺がお前をサポートするんだ」
P「名実ともに、歌姫にしてやる」
千早「プロデューサー……」
P「……ああもう面倒臭いな」
P「俺のために、何か一曲歌ってくれ」
千早「っ!……ふふっ、まあ、なんでもいいですけど♪」
事務所 11:39
千早「戻りました」
律子「なんだか憑き物が落ちたみたいな顔ね」
千早「いきなりなに律子?」
律子「別に♪……それとは対照的というか」
千早「?」
P「戻りました」
律子「ああプロデューサー殿、待ってましたよ!」
P「何かあったのか律子」
律子「ええ、春香と美希がケンカしちゃって…」
千早「あの二人が?」
律子「どうやらオーディションがダメだったみたいなの。でもそれにしては様子がちょっと変っていうか」
P「で、二人は今どこに?」
律子「春香は給湯室にいます。美希は、飛び出していったからわからなくて…」
P「わかりました。まずは美希のところに行ってきます」
律子「場所分かるんですか?」
P「元スパイですから」
公園 12:13
美希「ねえカモ先生、やっぱりのんびりアイドルやるって無理なのかな」
P「やっぱりここか」
美希「……どうしてわかったの?」
P「協力者から、時々ここで見かけるって聞いてたから」
美希「そうなんだ……」
P「何があったのか、詳しく聞かせてくれないか?」
美希「ヤ!美希、今は誰とも話したくない気分なの」
P「そんなこと言うなよ」
美希「……」
P「この公園、お気に入りなのか?」
美希「……」
P「……腹減ったろ、コンビニでおにぎり買ってきたけど食うか?」
美希「食べるの」
P「なるほど、オーディションで落ちたのに笑ってる春香にイラついたのか」
美希「だって悔しいの!今日の春香、全然ミスしなかったのに落ちたんだよ?」
美希「ミスしたらしょうがないけど、してないからもっと悔しいの!」
P「なるほど」
美希「美希ね、最近ちょっとアイドルが楽しくなってきてたの」
美希「でも春香は本気でやってるのか分からないな」
P「アイツなりに本気だと思うぞ」
美希「本気なら悔しくて泣いたり怒ったりするって思うな」
美希「美希が言えたことじゃないけど、どうして笑っていられるのか神経疑うの!」
P「……美希、お前変わったな」
美希「美希が?美希は美希だよ?でも胸はちょっと大っきくなったかも」
P「そっちじゃなくてさ、前はもっとのんびりやりたいって言ってたじゃないか」
美希「今もそう思ってるよ?」
P「そうか。だけど本気でやるのも楽しくなってきたって感じだな」
美希「うーん、そうなのかな」
P「なあ美希、本気でやったことって何かあるか?」
美希「んー…ちょっとやればだいたい出来ちゃうから、ないの」
P「なら、今以上にやってごらん。本気って超楽しいんだぜ」
美希「楽しい?どのくらいキラキラできる?」
P「そりゃ想像できないくらいさ」
美希「そうなんだ……」
P「お、アレか。お前の先生は」
美希「分かるの?カモ先生が」
P「なんとなくだけどな」
美希「美希ね、カモ先生みたいにのんびりできたらいいって思うな」
P「鴨ね……なあ美希」
美希「なーに?」
P「俺はその考えを否定はしない。だけどアイドルとしてキラキラしたいなら」
P「鴨もいいが、白鳥になってほしい」
P「別に鴨が嫌いなわけじゃない。でも、キラキラしてるのは白鳥のほうだ」
美希「白鳥?」
P「強制はしない。でも気になったら少し調べてみるといい」
P「それでも鴨がいいなら、好きにしなさい」
美希「……ねえプロデューサー、どうして美希にそんなに構ってくれるの?」
P「担当アイドルだから」
美希「じゃあ担当じゃなかったら構ってくれないんだ」
P「……いや、構うだろうな」
美希「どうして?」
P「星井美希という女の子が、トップへ駆け上がるのを見たいからかな」
P「だけど、俺はいつまでいっしょにいられるか分からない」
P「それでも、命をかけてでも見る価値がある」
P「……なんて、勝手に思われて迷惑か?」
美希「……迷惑なんかじゃ、ないよ」
美希「美希ね、こんな感じでのんびり屋さんだからいつも怒られるんだ」
美希「律子、さんとかには特に怒られちゃうし」
美希「でも本当は知ってるの」
美希「期待してくれてるから怒ってくれるんだって」
美希「もっと頑張ってれば、竜宮小町にだって入れたかもしれないの」
P「……たった一言、よくやったって言われたかったんだよな」
美希「……わかんない」
P「期待が強すぎて、つい厳しい言葉ばかり言われる」
P「俺もそういう経験はあるよ」
美希「プロデューサーも?」
P「ああ、だが安心しろ」
P「これからは本気で褒めるし、悪いことをしたら本気で怒る」
P「美希のために、できることはなんでもする」
美希「プロデューサー……」
P「それに、春香だって悔しいに決まってるさ」
P「でもアイツは知ってるんだよ」
P「くよくよして、落ち込んでばかりじゃ前に進めない」
P「悔しいからこそ、無理やり笑うんだって」
美希「悔しいから笑う……」
P「メンタルはきっと、一番強いんじゃないか?」
美希「……春香は、いまどこ?」
P「事務所だな」
美希「謝ってくる!」ダッ
P「おい美希っ」
ドン 痛ーなこの野郎 ごめんなさいなの
P「……あれ、あいつらどっかで見た覚えが」
不良3「あーあ腕折れたな」
不良2「慰謝料だなこりゃ」
不良1「あれ、こいつアイドルの星井美希じゃね?」
美希「ごめんなさい、美希、急いでて」
不良2「ちょっと遊んでも間に合うって」グイッ
美希「い、いや!離して!」
不良3「見た目ほど男慣れしてなさそうだぜ」
不良1「やべぇ、燃えるわこの展開」
美希「た、助けてプロデューサー!」
言われなくても助けるって。
不良2「痛ってぇ!」
不良1「どうし、た…」
不良3「て、てめー…」
P「どうやら縁があるみたいだな、俺たち」
不良3「逃げるぞ!」
不良2「ちょ、ま、待てよ!」
不良1「早くしろ!」
スタコラサッサー
P「大丈夫か?」
美希「」ポー
P「美希?」
美希「へ?あ、ありがとうなの!」
事務所 12:26
美希「早く謝りたいのに~」
千早「プロデューサーの指示に従って、大人しく待ちましょう」
美希「むー、千早さんは大人なの」
給湯室
P「春香、お前の言い分は分かった」
春香「私はただ、みんなと楽しくやりたいだけだったんです……」
P「分かったてば。いいか、大事なことを言うからちゃんと聞け」
P「慣れ合いを仲間とは言わない。本気で相手を想うからこそキツイことだって言うんだ」
春香「っ……そう、ですね」
P「今、美希がやっと本気を出そうとしている」
P「それを最も引き出せるのは俺じゃない、お前たちだ」
P「励ましや慰めも大事だが、これからは本当の仲間でありライバルだ」
P「お互いを挑発して、より高みを目指してくれ」
P「春香、お前ならできるだろう?」
春香「は、はい!私、頑張ります!」
P「それでいい。前向きなのはお前の長所だからな」
春香「美希、ごめんうわぁ!」
美希「春香ー!」ダキツキー
春香「み、美希どうしたの?」
美希「ごめんね春香!美希、春香に追いつけるように頑張るの!」
春香「ええ!?美希は私より歌もダンスも上手いし」
美希「それでも春香の方が上なの!」
P『挑発して、より高みを――』
春香「……ふふ、分かったよ美希。それじゃあ私も美希に追いつけるように頑張るから!」
美希「だーかーらー、春香の方が上なの!」
春香「美希の方が上だよ!」
美希「春香なの!」
春香「美希だって!」
美希「春香!」
春香「美希!」
美希春香「「ぐぬぬぬぬー!」」
千早「……なんですかこれ」
P「俺が聞きたい」
ある平日の昼下がり
やよい「こんにちはー…」
小鳥「あらやよいちゃん、学校は?」
やよい「今日は創立記念日でお休みです…」
小鳥(やよいちゃんの元気がない……やよいちゃんの元気がない!?)
小鳥「ぷぷ、ぷろ、プロデューサーさん!119番って何番でしたっけ!?」
P「落ち着け小鳥。やよい、えらく落ち込んでるがどうした」
やよい「プロデューサー……元気ってなんなんでしょうか」
小鳥「プロデューサーさん!は、早くやよいちゃんを病院に!」
P「黙ってファンレターの仕分けしろ小鳥!」
小鳥「すみませんピヨ…」
P「さて、元気って何?か……」
やよい「はい……実は、クラスに学校に来ない人がいたんです」
やよい「私、その人と仲が良かったから、家に行って励ましていたんです」
やよい「だけど、なかなか元気にならなくて、転校してしまいました…」
やよい「元気って、なんなんでしょうか…元気にできないなら、私、アイドルやってる意味が…」
P「……励ましてるとき、お前の顔に元気はあったか?」
やよい「あ……」
P「周りを元気にしたい、それは立派なことだ」
P「だが励ましているお前自身が元気じゃなかったら、不安になるばかりだ」
やよい「……」
P「まずは自分が元気になれ。それから、これを」
やよい「?なんですかこの紙?」
P「……ファンレターに混ざっていた。その子からの手紙だよ」
やよい「!」
P「中身は読んでない。……まあ、おおかた予想はつくがな」
やよい「プロデューサー……私、誰よりも元気なアイドルになります!」
P「……期待してるぜ」
事務所 20:00
千早「では、明日吉澤さんが取材にくるんですね」
P「そうだ、とりあえず明日に備えて今日はもう帰れ」
千早「お疲れ様でした」
真「お疲れさま」
小鳥「私もそろそろ用事があるので」
P「お疲れ様です」
真「……」
P「」カタカタ
真「……」
P「」カタカタ
真「……あの」
P「なんだ」カタカタ
真「プロデューサーはここに住んでるんですよね?」
P「それがどうした」
真「……特訓に付き合ってくれませんか」
P「可愛くなるための?」
真「はい」
P「その前に、お前は何時に帰るつもりだ」
真「プロデューサーが本気で可愛いって言ってくれたら帰ります」
P「……やってみろ」
真「いきますよ!コホン…きゃぴぴぴ~ん、菊地真ちゃんなりよ~☆」
真「みんな~いつものいくよ~!せ~のっ、まっこまっこり~ん☆」
P「……」
真「……」
P「極一部にはウケそうだな」
真「お、男の人にはそんな感じですか?」
P「いや、女でも変わらん」
P「真、隅で丸くなってないでこっちに来い」
真「だって……精一杯考えたのに……」
P「そういう時もある」
真「プロデューサー……可愛いってなんなんでしょうか」
P「これまた漠然とした質問だな」
真「ボクは雪歩や貴音さんみたいに見た目が可愛いわけじゃないし」
真「美希やあずささんみたいに可愛い仕草ができるわけでもない」
真「春香は中身があるって言ってくれたけどよく分かりません……」
P「……俺には分かるよ」
P「ありのままの自分があるってこと」
P「俺にはまだ自分がない」
P「でも、お前にはあるだろ?」
真「……ありのままのボク、ですか」
P「そうだ。誰よりも本当は乙女なことを、俺は知っている」
真「なっ//なに言ってるんですかもう!」
そういうと真は正拳突きを放ってくる。
P「危ねぇなオイ」パシ
真「へ?うわぁあ!?なんで手を握ってるんですかぁ//」
P「いや正拳突きを受け止めただけで」パッ
真「あっ……」
P「……な、乙女だろ」
真「うぅ//」
P「まあ、あまり変に考えずにいったほうが俺はいいと思うぞ」ガチャ
美希「ハニー!忘れ物しちゃったの!って真クン?」ダキツキー
真「美希!どうしたの?」
P「ほら、ブランケット忘れてるぞ」
美希「ありがとうハニー!」
P「……まあ、呼び方なんて人それぞれだけどさ」
美希「真クンも忘れ物?」
真「え、あ、ああうんそんなところかな、アハハ」
美希「じゃあ途中まで一緒に帰るの!」
真「う、うん。えっとじゃあ先に行ってて」
美希「分かったの!じゃあねハニー!」
P「気を付けて帰れよー。真もとりあえず今日は帰れ」
真「は、はい……」
P「……どうした?」
真「最後に一個、試していいですか?」
P「いつでもどうぞ」
真「目をつぶってください」
P「? ああ、分かった」
真「は、ハニー!」ダキツキー
P「!!!!!」
真「うう//そ、それじゃまたねハニー!」ダッシュ
バタン カオアカイヨマコトクン? ナンデモナイヨ!
P「……いいかもしれない」
事務所 12:00
やよい「そろそろ笑っていいかなの時間ですー!」
雪歩「今日は竜宮小町がゲストだもんね!」
真美「……」
P「えーっと響のPVの撮影が明後日で…」
やよい「伊織ちゃんすごいな~」
雪歩「あずささんもしっかりファンの心をつかんでますぅ」
真美「……」
P「こんなもんか。雪歩、テレビ見てないでラジオの準備しとけ」
雪歩「は、はい!」
P「……真美」
真美「なに?」
P「悔しいのか?」
真美「……少し」
P「焦るな、ちゃんとトップアイドルにしてやる。今日はバラエティに出るんだかr」
真美「そういうことじゃないよ」
P「……いつも、いっしょにいたもんな」
真美「うん、いつもいっしょにいたのに今はいないんだ」
真美「だから、なんか悔しい」
真美「真美はもう大人だから、全部がいっしょじゃダメだって分かってる」
真美「真美たちに違いがあることで、それが武器になるのは分かってる」
真美「分かってるけど、分かってるけど……」
P「……真美、悔しいのは本当なんだろうけど、もっと別の感情があるんじゃないか?」
真美「別?」
P「本当は、悔しいよりも寂しいんじゃないのか?」
真美「真美が、寂しい?」
P「俺にはそう見える」
真美「そうかも、しれない……でも、しょうがないよ兄ちゃん」
真美「亜美は竜宮小町で頑張ってるもん、なかなか一緒にはなれないよ」
P「……いっしょになりたいなら、方法はある」
真美「なに!?なにをすればいいの?」
P「もっと売れるんだ。そしたら、俺が双子で何かのレギュラーをとれるように掛け合う」
P「前にはろスタの準レギュラー取ったじゃないか」
P「絶対できるよ、お前なら」
真美「……うん」ニコッ
真美「真美、頑張るよ!」
P「そうだ。子どもは元気にやってりゃいいんだ」
真美「真美はもう大人だよ!」
P「あずさぐらいになったら言え」
真美「ミキミキぐらいまではすぐなるもん!」
P「はいはい。それにしても、亜美はこの前とうってかわってスゴイな」
やよい「うーん……」
真美「どうしたのやよいっち?」
やよい「なんか、伊織ちゃんがちょっと変かなって」
>>232酉つけ忘れました
P「伊織が?」
やよい「えっと、なんか表情が硬い気がして」
P「……確かに伊織らしくないな。猫かぶるのは得意なハズ」
真美「いおりんどうしたんだろ?」
P「……律子に任せたほうがいいな。竜宮小町のプロデューサーはあいつだ」
響「ただいまー…」
やよい「響さんお帰りなさいですー!」
真美「ひびきんお帰りー!ってどうしたの?」
P「オーディション駄目だったのか?」
響「……オーディションは合格だったぞ」
P「じゃあなんで落ち込んでるんだ」
響「…いっしょに受けた他の子に、嫌味を言われたんさー…」
やよい「なんて言われたんですか?」
響「完璧じゃないくせにうるさい。竜宮小町のいる事務所だから受かったんだって」
P「完全な八つ当たりだな」
真美「ひびきんがスゴイから受かったに決まってるじゃん!」
響「うん……でも、完璧なんかじゃないってのは、本当は自分が一番分かってるんさー」
響「自分、トップアイドルになるまで帰らないって言ってきたから」
響「今はまだ帰れないんだ」
響「でも、嫌味とか言われちゃうとやっぱり寂しくなるし」
響「ハム蔵たちにも気を使わせちゃうみたいで、頭の中がグチャグチャになっちゃうんだ」
P「なあ響、そんなのは気にしなくていいじゃないか」
響「どうして?」
P「だって765プロっていう家族があるだろ?」
響「だけど……やっぱり本当の家族じゃないから」
P「そうかな。前はシンカー(仲間)って感じだったけど」
P「今はヤーニンジュ(家族)って感じだと思うぞ」
響「プロデューサー、ウチナーグチ分かるのか!?」
P「沖縄に潜伏してたときもあったからな」
P「大丈夫、俺たちがいるんだなんくるないさ」
響「っ!そ、そうだね!自分、こんなことでへこたれないぞ!」
公園 翌日 18:00
真美、響に続き、今日は雪歩か。
最近、こういうのが多い気がするが誰かの陰謀か?
おかげで二つ知ったこともあった。
雪歩はどこからともなくスコップを取り出せること。
そしてすごい速さで掘り進めること。
P「雪歩ー。そろそろ泣き止んだかー?」
雪歩「うう、私なんて、私なんて、グス」
あと何分これが続くんだろうか……。
P「雪歩、気になることがあるんだが」
雪歩「うう、なんですかぁ?」
P「こんなに深く掘って、どうやって脱出するんだ?」
雪歩「……出られませんー!」ザクザク
P「待て待て待て待て!掘るのを止めろー!」
P「まったく、捕虜の救出経験があったからいいものを」
雪歩「うぅ//」クスン
P「いったい何があったんだ?」
雪歩「実は、昨日のラジオの収録前に悪口を言われたんですぅ……」
確か、響もそんなことを言っていた。
偶然か?
P「なんて言われたんだ」
雪歩「……セルフハンディキャップばかりのズルい子だって」
P「それを言ったやつは正しく意味を理解してないな」
雪歩「そ、そうなんですかぁ?」
P「失敗してもいいように、あらかじめ逃げ道を作ることを言うんだ」
P「最大の違いは、お前は努力しているってことだ」
雪歩「でも、私は本当にダメダメで…」
P「萩原雪歩!」
雪歩「はっはい!」
P「謙遜と自虐は違うんだ」
P「お前はいつも劣等感をまとってる」
雪歩「うぅ、ごめんなさいぃ…」
P「だが劣等感を持つことは悪いことばかりじゃないんだ」
雪歩「ふぇ?」
P「劣等感ってのは理想と現実のギャップだ」
P「高い理想を持ち、つまずきながらも努力して目指す」
P「そして芯の強さなら誰にも負けない」
雪歩「そ、そんなことありません…」
P「そう言うな。お前を応援しているファンがそう言ってるんだ」
P「胸張って堂々としてりゃあいいんだ」
雪歩「でも、私が失敗しちゃったら…」
P「そのときは俺がカバーしてやる。プロデューサーってそんなもんだろ?」
雪歩「っ!ありがとうございますぅ!」
事務所 21:00
P「みんなランクDまでは上がった。竜宮小町はランクC」
P「もう少しで追いつけるな……」
律子「9人をプロデュースしてよくそこまでできますね…」
P「だけど最近になって、アイツらが弱音を吐くようになったんだ」
律子「それだけ信用してるってことですよ」
P「本当にそうだといいんだが」
律子「本当にそうですよ。いままでもずっと不安になりながら頑張って来たんですから」
P「……そうだったのか」
律子「……ところで貴音は何かあったんですか?」
P「なに?」
律子「……まさか気づかなかったんですか?」
P「今、どこに?」
律子「屋上です。プロデューサー殿、少し疲れてるのでは?」
P「……まさか。屋上だな、行ってくる」
律子「……人間らしくはなってるけど、なんか変わってきたわね」
P「今日は月も隠れてみえないな」
貴音「……あなた様」
P「何を悩んでいるんだ」
貴音「前のように当ててはくれないのですか?」
P「今回はさっぱり分からなくてな」
貴音「そうでしたか……わたくしは、あなたに感謝しております」
P「そうか」
貴音「おかげでここまで来ることができました」
貴音「しかし、ここから先は一筋縄ではいきません」
貴音「わたくしは、己の力に限界を感じ始めています」
貴音「よく響や雪歩に相談をされます」
貴音「しかしそれは、わたくしが年上であるゆえのこと」
貴音「わたくしは気丈に振る舞っていますが、そこまで強い女ではありません」
貴音「妖怪の類や蛇なども苦手な、普通の女です」
P「……お前みたいなのが普通なら、世の中のエンゲル係数はもっと高いだろうな」
P「周りから頼られる奴が、逆に頼ってはいけないなんて誰が決めた?」
P「お前たちの曲にもあるだろう」
P「一人ではできないこと、仲間とならできること」
P「もっと頼っていいんだ、俺だって協力する」
貴音「……仲間、ですか」
P「なんなら俺は執事でも構わん」
P「銀色の女王には釣り合わないか?」
貴音「……ふふ、とてもお似合いですよ」
貴音「しかし、それでは伊織の執事はどうされるのですか?」
P「そうだな、どっちもやってやるよ」
貴音「ふふ、あなた様は本当にいけずな方です♪」
P「嬉しそうだな」
貴音「あなた様が変わってきていることが、喜ばしいからです」
貴音「前よりも角が取れて、丸くなってきています」
P「……丸く、か」
貴音「わたくしは、齢18の若輩者でございますが、これからもよろしくお願いします」
10月20日(日) 事務所 17:47
律子「はあ…」
P「フェスの結果、聞いたよ」
律子「あれ以来、どうしてもジュピターが相手だと実力が出せなくて…」
律子「ランクCから伸び悩んでるし…」
律子「私がしっかりしないから、あの子たちに迷惑をかけちゃう…」
P「なあ、一度ゆっくり話し合ってみたらどうだ?」
律子「伊織たちと、ですか?」
P「そうだ、今みたいにな」
律子「……私が弱気になってたら、あの子たちを不安にさせてしまうじゃないですか」
P「そうかな」
律子「……じゃあどう思うんですか」
P「お前はいままで弱音も吐かずによく頑張ったよ」
P「でもさ、たまには弱音を吐いてみてもいいんじゃないか?」
P「弱音を吐けるってのは、強い証拠さ」
P「だから俺は、凄いけど強くはない」
P「だいたい当たってるだろ?」
P「今すぐとは言わないけど、早めに話してみろよ」
律子「ホントになんでもお見通しなんですね」
P「そうでもないよ。さて仕事仕事」
伊織「ああここにいたのね、ちょっと付き合いなさい」
P「伊織か、先に行ってろ。ちょっと書類そろえるから」
伊織「……給湯室にいるわ」
P「分かった。えっとコレとコレでいいかな…」
律子「……プロデューサー殿」
P「うん?あ、コレも必要か」
律子「私たちは、あなたの弱さをいつでも受け入れますから!」
P「……ありがとよ」
給湯室 17:58
P「それで?なにがあったんだ?」
伊織「……」
P「黙ってちゃ分かんねぇぞ」
伊織「……」
P「話したくなったらまた来い。じゃあ俺は仕事があるから」ガタッ
伊織「っ!待って!」
P「……」
実際に服の裾を掴まれると、どうしていいか分からないものだな。
P「……ふぅ、とりあえず座れよ。オレンジジュースだっけ?」
伊織「……竜宮小町のリーダーが私で、本当にいいの?」
P「それは律子に聞け」
伊織「アンタは、アンタはどう思ってんのよ……」
P「……伊織」
P「俺は、お前がリーダーってのは筋が通ってると思う」
伊織「本当に?」
P「あずさと亜美、そしてお前の中なら打倒だろ」
伊織「……それなら、どうしてランクCで止まってるのよ」
伊織「あのジュピターはもうランクBでもうじきAになるわ」
伊織「ここの中でもみんなに追いつかれそうになってる」
伊織「私は、もっと先に進まなきゃいけないの!」
P「なあ、伊織」
伊織「こんなとこで立ち止まってる場合じゃないのよ……!」
P「水瀬伊織!」
伊織「な、何よ」ビクッ
P「お前、何を焦っているんだ?」
伊織「焦ってる?そりゃ焦るに決まってるでしょ!」
P「自分の力で成り上がりたいとか言ってたっけ」
P「そろそろ本当の理由を言ったらどうだ?」
伊織「私はウソなんか言った覚えはないわ」
P「具体的に言えってことだよ。父や兄に認めてほしいんだろ?」
伊織「はぁ!?なんでそんなこと知ってるのよ!」
P「誰を相手に言ってんの?」
伊織「っ!それもそうね……調べたってワケ?」
P「悪いな。これも管理のウチってことで」
伊織「……変態」
P「なんと言われようと構わん」
P「それより、お前は焦りすぎだ。特にここ最近はな」
伊織「だって!」
P「分かってる。認めさせるためだろ」
伊織「そうよ。早くトップアイドルになって、見返してやるんだから!」
P「なあ、そんなに家族を目の敵にするのはやめたらどうだ?」
伊織「嫌よ!いつも見下してばかりで、お前にはまだ早いとかばっかり」
P「辞めろって」
伊織「でも事実なのよ!」
P「辞・め・ろ。辞めろ!」
P「だいたい本当に見下してると思ってんのか?」
伊織「そうに決まってる!」
P「……そうか、俺はそう思わないがな」
P「危険なことから守るために、下手な真似はさせたくない」
P「今なら大丈夫だろうと判断したから、ここにいる」
P「認めているからこそ、可愛い子には旅をさせよってことなんじゃないのか?」
伊織「……きっと違うに決まってる」
P「家族ってのはなかなか素直になれない間柄らしいな」
P「だから思ってることと逆の言葉ばかりが出てくる」
伊織「アンタに、アンタに何が分かるのよ!」
P「何も分かんねえよ」
P「……俺には、家族がいなかったからな」
伊織「っ!そ、そういうつもりじゃ……」
P「気にするな。昔の話だ」
伊織「でもっ!」
P「今はこんなにも立派な家族に囲まれて、俺は何ひとつ後悔していねぇ」
P「お前は特に、いつも真逆の言葉ばっかりだ。だから一番嬉しいかもしれないな」
伊織「……なんなのよアンタ」
P「あん?」
伊織「なんでアンタはなんでもかんでもお見通しなのよ!」
P「……さあな」
伊織「ふざけんじゃないわよ!そんなアンタだから、私はっ!」
P「……俺?」
伊織「っ!……もういいわ」
伊織「それより、アドバイスを頂戴」
P「思い切って新曲とかどうだ」
伊織「……それで勝てるの?」
P「どうした?水瀬伊織ともあろう者が、勝てないのか?」
伊織「……いいわ、勝ってやろうじゃないの!」
P「そうやって、お前は自信もって前向いてればいいんだよ」
P「だが今日みたいなときは、たまには家族に甘えてもいいんじゃないか?」
P「俺たちもだし、父や兄にもたまには電話してみろよ」
律子「プロデューサー殿、今大丈夫ですか?」ガチャ
P「今度はなんだ?」
律子「悪いんですけど、あずささんを探してきてくれませんか?」
P「……まさかコンビニから帰ってこれないのか?」
律子「ええ、すみません……」
P「分かりました。すぐに他のアイドルにも連絡を取ってくれ」
P「じゃ、また明日な、伊織」バタン
伊織「……」ポパピプペ
伊織「あ、お父様?お仕事中ごめんなさい」
伊織「大した用事じゃないのだけれど……ありがとう」
伊織「は?イジメ?そんなことあるわけないでしょもう!……頑張るから」ピッ
公園 18:21
あずさ「すみませんいつも……」
P「コンビニぐらいからは帰ってこれるようになりましょうよ」
あずさ「はい……」
P「……フフッ」
あずさ「な、なにかおかしいことでもありましたか?」
P「いえ、大したことじゃないよ」
あずさ「あ、私がおかしいですよね……こんなにも迷子になるなんて」
P「別にそっちじゃなくてさ、今日は竜宮小町の日だなーなんて」
あずさ「えっと、どういうことですか?」
P「律子、伊織に続いてあずさ。次は亜美かな?」
あずさ「あ、あのープロデューサーさん?」
P「ああ、すまない。あずさも何か相談事があるんじゃないのか?」
あずさ「……分かります?」
P「暗い顔だからな。笑った方が似合うぞ」
あずさ「あらあら//……少しだけお話しに付き合ってもらっていいですか?」
P「歩きながらどうぞ。あ、手は繋がさせてもらうよ」
P「つまり、竜宮小町に迷惑をかけたくない、と」
あずさ「はい。私、年長者なのにオロオロしてばかりで……」
P「確かに決断することは苦手みたいですね」
あずさ「この前も、年長者の私がなにもできなくて……事務所の雰囲気が悪くなちゃったりして……」
P「あぁ……その説は大変お騒がせしました」
あずさ「いえ、その、スパイさんだなんてなかなか会えませんから」
P「なかなかってレベルではないんじゃ……」
互いに軽く笑い合って、そして少し黙って歩いた。
P「――なあ、ちょっと疑問に思うんだけど」
下を向いていたあずさが、ゆっくりと顔を上げる。
P「年長者って肩書きは必要なのか?」
あずさ「肩書き、ですか?」
P「肩書きというか、うまく言えないな」
P「だけどさ、年上という理由だけでなんでもできなきゃいけないのか?」
あずさ「でも、みんなは私よりしっかりしてるから……」
P「しっかりしてないことは、悪いことか?」
あずさ「現にプロデューサーさんにもご迷惑をおかけしてますし……」
P「迷惑?」
あずさ「はい、律子さんや他の子たちにも迷惑をかけてしまって……」
P「じゃあ聞いてみたらいいじゃないか」
あずさ「え?」
P「本当に迷惑がかかってるのかを」
あずさ「そ、そんなこと!……できません」
P「試しに俺に聴いてみろよ」
あずさ「ええっ!?」
P「ほら早く」
あずさ「で、でも」
P「はーやーくー」
あずさ「うぅ……私、迷惑でしょうか……」
P「大迷惑だな!」
あずさ「……やっぱりそうなんですね」
P「おかげでこうして迎えにこなきゃならないし」
あずさ「すみません…」
P「まったく、これからもかけ続けてください」
あずさ「え、え?」
P「迷惑だが、不思議と嫌な気持ちにはならないんだよ」
P「律子たちはどうなのかは知らない」
P「だけどこうしてさ」
俺は繋いだ手をあずさの顔の前に挙げる。
P「竜宮小町の三浦あずさと手を繋げたんだ。迷惑だけど迷惑じゃないんだよ」
あずさ「まあ……っ!」
P「分かったか?迷惑と同時になんか良いものをもらってるんだよ」
あずさ「……あの、プロデューサーさん?」
P「なんだ?」
あずさ「ありがとうございます。あ、事務所が見えてきましたね」
P「そろそろ手を離すか」
あずさ「そうですね。でもいつか、竜宮小町じゃなくて、ただの三浦あずさとして手を繋いでください」
P「どういう意味だ?」
あずさ「うふふ、なんでもないですよー」
そう言って、事務所へあずさは小走りで行った。
その顔は、いつも以上に笑顔が似合っていた。
事務所 18:31
亜美「兄ちゃん、ちょっといい?」
P「ゲーム?」
亜美「ううん、相談したいんだ」
律子「プロデューサー殿、お願いします」
P「ここはお前が対応するべきじゃないか?」
律子「今なら応接室が空いてますから」
P「対応する気ゼロですか」
律子「プロデューサー殿をご指名みたいですので」
P「いやそうだけどさ」
律子「それに、悔しいけど今一番頼れるのはあなたですから」
P「いいのか?」
律子「私もすぐに頼れる存在になりますから!」
P「……」
律子「もう!亜美が待ってますよ!」
P「……充分、頼れる存在だよ。じゃあ話してくる」
P「それで、どうした?」
亜美「……フェスの結果、知ってる?」
P「ああ。ジュピターに勝てなかったみたいだな」
亜美「うん。亜美、一生懸命頑張ったら、あまとうぐらい勝てるって思ってた」
亜美「でも、でも……勝てなかった……っ!」
机の上で、その小さな手をぎゅっと握りしめる亜美。
P「よっぽど悔しかったみたいだな」
亜美「だって、勝でるど思ってだのに……グス」
P「オイ鼻水出てるぞ。ほらティッシュ」
亜美「ありがと……」チーン
P「まあ勝負なんだから負けることもあるさ」
亜美「でも、亜美のせいで負けてるかもしれないじゃん」
P「亜美のせい?」
亜美「亜美、竜宮小町の中で一番下だと思う」
亜美「バラエティとかでも、亜美はお笑い担当っていうか……」
P「……RPGってジャンルはやるか?」
亜美「ラストファンタジーとか?ふつーにやるけど?」
P「最初の村なんかでさ、洞窟の情報と毒薬草をくれるためだけの村長っているだろ」
亜美「うん、話が変わるか気になって何度も話しかけるお爺さんでしょ?」
P「あるいはただの嫌がらせってパターンもあるな」
P「最初で、しかも全く重要人物からは程遠い人物だ」
P「ぶっちゃけいなくてもなんら物語に影響はない」
P「なのにどうしていると思う?」
亜美「うーん……なんでだろ?」
P「じゃあいなかった時のことを考えてみろ」
亜美「えっとー……毒攻撃でゲームオーバーになるかも」
P「そうだ。別に道具屋で買えないわけじゃない。でもいないと一回目は失敗するかもしれない」
亜美「まあ亜美くらいの上級者は、最初からカジノで大儲けして強いアイテム手に入れるけどね!」
P「そうだな。ところが誰もが一発で大儲けできるとは限らない」
P「そして正攻法で村長から情報と毒薬草をもらい、攻略するやつもいる」
P「そういうプレーヤーは村長に対し、少し感謝をする」
亜美「一回しか見ないけど、亜美も攻略サイトには感謝するよ!」
P「さて、竜宮小町というパーティががいて、それぞれに違う能力や魅力がある」
P「さっきバラエティではお笑い担当と言ったが、それは亜美にしかできないコマンドだ」
P「分かるか?律子がお前をユニットに入れたのは、お前にしかできないことがあるからなんだ」
亜美「亜美にしか、できないこと…」
P「お前にしかできないことを、お前は任された」
P「なのに、自分は役立たずだからと言って責任放棄か?」
P「僧侶がいじけて、回復してくれなきゃゲームオーバーだ」
亜美「……うん、そうだね。亜美、自分にできることを一生懸命やるよ!」
P「そうだ、ジュピターに勝てる作戦なら、すぐに用意できる」
P「でも、俺という攻略サイトを毎回使って勝つことが、本当に嬉しいか?」
亜美「ううん、アイドル活動だけは攻略サイトにあんまり頼りたくない!」
P「いい子だ」
亜美「大人だもん!」
P「大丈夫だ、俺がすぐに真美を有名にして、二人で仕事させてやる」
P「竜宮小町のゲストとして、二人が組めば誰にも負けない」
P「だからそれまでは、律子たちを信じて突き進め」
亜美「分かった」
P「じゃあ、真美のことも応援しててくれ。俺もお前らを応援してるよ」
亜美「兄ちゃん!」
P「ん?」
亜美「えっと、しゃがんで目をつぶって」
P「こうか?」
亜美(よし、ほっぺならセーフだよね//)
あずさ「亜美ちゃーん?」ゴゴゴ
亜美「うあうあー!!いつ入ってきたのあずさお姉ちゃん!」
あずさ「いつだったかしらー?」
伊織「話が終わったなら早く出なさいよアンタたち」
律子「――はい、はい――え、明日ですか!?あの、少々お待ちください。プロデューサー殿!」
P「今度はなに?」
律子「961プロからお電話です!」
P「お電話変わりました赤羽根です。あぁ黒井社長」
P「え?なんでいるんだ?いなくなる予定が変更になったので……はぁ、明日ですか」
P「分かりました、高木に伝えておきます。失礼します」
律子「……明日、来るんですか?」
P「みたいだな。明日は月曜日だ、大人だけで話し合って解決しよう」
律子「私も含まれてますか?含まれてませんよね、そうですよね!」
P「バッチリ含まれてるな。あずささんはオフだから関係ないけど」
律子「うぅ……なんか苦手なんですよね、黒井社長」
P「あんまり気にすんな」
律子「それができるのはアナタぐらいです」
P「はいはい。それじゃ俺はファンレターのチェックがあるから」
そう言って手紙の山を見る。
なかなか多くなってきたが、まだまだ竜宮小町宛てが多いな。
P「……ん?これは――?」
10月21日(月) 事務所 8:02
小鳥「プロデューサーさん、何を書いてるんですか?」
P「気分転換に、思いついたことを書いてるだけだよ」
小鳥「見てもいいですか?」
P「どうぞ」
小鳥「えーっと、人生というキャンバスにどんな絵を描く?」
P「まだそこまでしか書いてませんがね」
小鳥「結構哲学的なんですねぇプロデューサーさんって」
P「そうですかね?あ、小鳥ならどんな絵を描く?」
小鳥「私ですか?そうですね、名前が小鳥なのでやっぱり大空を飛ぶ小鳥を描くんでしょうか?」
P「いや俺に訊かれても」
小鳥「そ、そうですよね、ははは…」
P「――不安ですか?」
小鳥「へ?何がですか?」
P「案外、表情が顔に出やすいタイプだな」
小鳥「やだっ、そんな顔してましたk、あ……」
P「へー表情が顔に出やすいのかー」
小鳥「誘導尋問とは、さすが元スパイ…」
P「黒井社長に、なにか負い目があるのか?」
小鳥「ええ、まあ」
P「ふーん……」
そのときノック音が聞こえた。
小鳥「っ!わ、私ちょっと社長室へ用事が」
P「ありません。一緒に出迎えなさい」
小鳥「ピヨ~…」ズルズル
扉を開けると、そこには黒井社長が立っていた。
黒井「高木はいるか?」
P「ええ、会議室にいます」
黒井「出迎えもなしか」
P「出会いがしらに喧嘩されても困りますので」
黒井「……フン、入るぞ」
高木「……やあ、待っていたよ」
黒井「貧民がセレブを待つのは当たり前だ」
高木「まあ、座りたまえ。いま音無くんがお茶を淹れてくれるさ」
黒井「高級な茶葉か?最低でも玉露以外は茶と認めんぞ」
高木「そういわずに」
小鳥「ムリです許してください」
P「とりあえずお茶ぐらいは出した方がいいのでは?」
小鳥「邪魔にならないように屋上にいますから、終わったらよんでくださいではさらば」ダッシュ
P「あ、ちょ、待て……速っ」
とりあえず俺が淹れるか。
雪歩なら美味しく淹れられるんだろうか?
……いや、社長は大丈夫として黒井社長に怯えるからムリかな。
P「どうぞ、粗茶ですが」
黒井「……オイ、事務員はどうした」
P「……なるべく早く連れてきます」
黒井「……ウィ、傷つけないように頼む」
屋上 8:17
P「隣いいか?」
小鳥「……どうぞ」
少し肌寒く感じるのは、秋が深まっているからというだけではなさそうだ。
小鳥「――どうして、黒井社長がここに来たか分かりますか?」
P「分かりますよ」
小鳥「そうですか。そうですよね、元スパイなんだし」
P「今日は、4、いや3人の人間が人生の選択をする日です」
小鳥「……」
会議室 同時刻
黒井「私が来た理由が分かるか?」
高木「ああ、謝罪だろう?」
黒井「流石にその脳みそでも覚えていたようだな」
黒井「私のジュピターは、私の意見は、全てが正しかった」
黒井「昨日、いやもう少し前からだ」
黒井「下衆な記者もいない、風評被害もない状態で、私の完全勝利だった」
高木「あぁ、吉澤くんのおかげで如月くんは社会的に立ち直れたよ」
黒井「そうか。では認めるんだな、お前は間違っていたと」
高木「……ああ、約束だったからな」
黒井「ならば話は早い。まずは事務員、いや音無小鳥に謝罪だ」
黒井「その後に日高舞へ謝罪しに行く」
高木「分かった」
黒井「あとは、あの男が連れてくるのを待つだけだ」
高木「……」
屋上
小鳥「知ってますか?私は元アイドルだったんです。ランクはCで止まりましたけど」
P「知ってます」
小鳥「どこまで知っていますか?」
P「少し前、魔王エンジェルというユニット企画が立ち上がった」
P「社長の二人はゆっくり実力をつけさせたかったが、会社は反対した」
P「結果、アナタは過労で倒れてしまい、日高舞は会社の男性と結婚、妊娠」
P「それを機に、あの二人は方針が対立した」
P「高木社長は会社に責任があるとわざと言い続けている」
P「黒井社長は自分たちが止められなかったことにより、責任を感じている」
P「そして、あなたは自分が倒れたせいだと感じている」
小鳥「全部じゃないですか…」
小鳥「あのとき、私が倒れなかったらきっとランクSまで行けたんです」
小鳥「会社にも、社長のお二人にも、舞ちゃんにも」
小鳥「私はイドル復帰を考えられませんでした。心が、折れてしまったんです」
小鳥「せめて私のような人が出ないように、支える側に回ったんです」
小鳥「カッコ悪いですよね、この業界にしがみついて……でも臆病だからアイドルには戻れないんです」
小鳥「名前の通り、音が無くなって、小鳥のままで終わったんです……」
P「カッコ悪いです」
P「あなたはいつまで過去にとらわれてるつもりですか?」
小鳥「…分かりません」
P「それならもう今日で終わりにしましょう」
小鳥「で、でも私は、もうアイドルには戻れないんです!」
P「無理に戻れなんて言ってないだろ?」
小鳥「え?」
P「きっとこう考えたハズ。今からやってもまた失敗する」
P「だったらそんな考えは捨てろ」
小鳥「でも…私は失敗したんです!」
P「そんなこと無ぇ!」
小鳥「」ビクッ
P「……発明王エジソンの格言を教えます」
小鳥「天才とは99%の努力と1%の閃きd」
P「いいえ、それは誤訳です。1%の閃きがなければ、99%の努力は無駄になる」
小鳥「真逆じゃないですか!やっぱり失敗はあるんです!私は失敗したんです!」
P「――私は今までに、一度も失敗をしたことが無い。
電球が光らないという発見を、今まで2万回したのだ――」
P「あなたは、支える側に回った。そして、ランクSにならない方法を見つけた」
P「この体験は、アナタにしか伝えられないことなんだ」
P「よく、俺は万能だなんてみんな言うが」
P「俺が失敗なんか存在しないなんて、説得力に欠けるだろう」
P「覚悟を決めろ。過去と立ち向かってケリをつけるんだ」
P「たとえ誰の責任になろうと、上手くいかないという体験ができた」
P「責任者は、その経験をした。ただそれだけだ」
P「誰が悪いとか、そんなのは無い」
小鳥「……私に、できるでしょうか」
P「もし途中でくじけそうになったら、俺が少し助けてやる」
P「それに、そろそろ下の二人も痺れを切らしてる頃だろうよ」
黒井「遅いな」
高木「屋上にいるみたいだな」
黒井「まったく何をグズグズしているんだあの男は」
黒井「茶もマズイ、客人を待たせる……これだから底辺で低俗な会社は嫌いなんだ」
高木「……お前も怖いんだな」
黒井「何の話だ、恐れるものなど私の才能以外に無い!」
高木「それなら、私たちの方から謝りに行こう」
黒井「なに?」
高木「彼に任せずとも、すぐに呼びに行ける距離じゃないか」
高木「それでも呼びにいかないのは、呼びにいけないからだろう?」
高木「お前も私も、過去と向き合うの決心がまだついていないんだ」
黒井「…寝言は寝て言え」
高木「黒井、お前は昔からキザなヤツだった。天才に憧れが強かった」
高木「だから隠れて努力していた。だがもう、自分の気持ちまで隠すのはやめるんだ」
黒井「うるさい!」
コンコン
高木「入ってくれ」
ガチャ
小鳥「遅れてしまい、申し訳ありません」
律子(怖すぎる……帰りたい……)
P「お待たせしました」
黒井「事務員だけ来い。二人は席を外してくれ」
小鳥「あの、赤羽根プロデューサーだけは同席を認めてくれませんか?」
黒井「……勝手にしろ」
律子(……これってラッキーなのかしら?)
高木「では、律子くんは席を外してくr」
律子「わかりましたそれでは」
P(……よっぽどこの空気が嫌だったんだろうなー)
黒井「さて音無小鳥、久しぶりだな」
小鳥「お久しぶりです、黒井社長」
黒井「今日ここへ来たのは、君に謝罪をするためだ」
小鳥「待ってください」
小鳥「会社のせいでも、お二人のせいでもありません。私が倒れなければ、良かったんです」
高木「それは違うぞ音無くん!」
小鳥「いいえ、現に舞ちゃ、舞さんはちゃんとお仕事をこなしていました」
黒井「それは、彼女自身のポテンシャルが高いからであって」
小鳥「とにかく、もうお二人が争うところを見たくないんです」
高木「しかしだね、それでは君ひとりが責任を負うことになるじゃないか」
小鳥「そうです、その方がいいんです」
黒井「何をバカな事を言っているんだ!高木がそう言えとでも言ったのか!」
小鳥「高木社長は関係ありません!……黒井社長、そんなに自分を責めないでください」
小鳥「高木社長もです」
黒井「コイツは自分じゃなく会社のせいにしたんだ!自分が悪いなど思ってない!」
高木「――いだろう」
黒井「なにか言ったか?」
高木「私に責任がない?そんなわけないだろう!」
高木「黒井、お前の言うとおりだ。私たちが止められなかったのが悪い!」
高木「もうずっとそう思っているよ。だが、お前はずっと反抗した」
高木「私はどうだ?会社の圧力に簡単に負けた」
高木「それはもう、私たちではなく私一人に原因があるだろう!」
高木「だから私は、お前が責任を感じていることに耐えられなかった」
高木「だからわざと、会社の責任だと言い張ってきたんだ!」
高木「責任をとるのは、私一人で充分なんだ!黒井、自分をそれ以上責めるな!」
黒井「……なんなんだ貴様は。どこまでお人好しなんだ」
小鳥「高木社長、本当は心の中で、ずっと責任を感じていたんですね」
小鳥「でも、それも違います。私がうまくいかなかっただけです」
小鳥「社長のせいではありません」
高木「しかし!」
小鳥「失敗なんて、ないんですよ?上手くいかない方法を見つけただけです」
小鳥「だから私は、これからトップアイドルになる人へそれを教えることができるんです」
黒井「それならば、いったい誰が悪いというのだ!」
小鳥「……誰も悪くないと思います」
小鳥「確かにトップアイドルになれなかったのは残念です。勢いもあったのに……」
小鳥「でも、私はもう過去にとらわれたくないんです」
P「……少し、いいですか?」
三人は俺を見る。
俺は一枚の手紙を取り出した。
P「ファンレターの中に、混ざっていました。日高舞からの手紙です」
高木「日高くんからか!?」
黒井「なに!?」
小鳥「舞ちゃん!?」
P「読み上げます」
舞『なんとなく感が働いたので、手紙を送ります。回し読みしてください。
高木さん黒井さん、ご無沙汰してます。小鳥、元気でやってる?
私は元気です。娘の愛も、うるさいぐらいに元気です。
あのときから、私たち4人の時間は止まってしまった。
ずっと後悔しています。三人ともそれぞれの考えがあって、自分が悪いと思ってる。
私も同じです。どうしてもっとセーブしてやれなかったんだろうって。
一人で突っ走って、着いてくる人のことを考えてやれなかった。
だから、私のせいなんだって思ってた。
あれから時間が経って、愛を産んだりしてるうちに、考えが変わったの。
あのときは上手くいかなかったけど、次は絶対うまくいく。
なぜなら私だから。そして小鳥がいて、今は社長になった二人がいて。
失敗するハズがない。
だから、4人ともそろそろ時間を進めるときがきたのかもしれない。
過去には戻れないんだから、突き進むのみよ。
――というわけで、来年から再デビューすることにしました。
上手くいったら、また一緒に歌ってくれるよね?
一緒にプロデュースしてくれますよね?
身勝手かもしれないけれど、私は一足先に進みます。
必ず追いついてください。 舞
p.s 直筆サイン付きの手紙なんだから、プレミアつくわよ』
P「……以上です」
P「誰もが責任を感じ、苦しんできた」
P「もうそろそろ、思い十字架を背負わなくても許されるのでは?」
P「それに、こうして一歩踏み出している人もいます」
P「それがどんなに苦しい道のりになると分かっていても、ね」
P「別に無理に昔に戻らなくても、いいんですよ」
P「だけど、過去とそろそろ決別しましょう」
P「俺はこの手紙に、そんなメッセージがあると思います」
黒井「……ククク」
小鳥「黒井社長?」
黒井「ハーハッハ!実に彼女らしい!」
黒井「いいだろう、全て水に流してやる」
高木「黒井……」
黒井「しかーし!あの事件がなくても私は今のやりかたを貫く!それが私の答えだ」
高木「……ははっ、お前らしいな」
黒井「高木、私は貴様のようなぬるま湯でアイドルを育てたりはせん」
黒井「だが、ジュピターはもうすぐランクAに対し貴様らはまだランクCとD」
黒井「そんな格下相手に勝ったところで何も得るものはない」
黒井「私ならライブでも開いて注目を集めるがな」
高木「ウチはなにかと貧乏でね。ライブはまだまだかな」
黒井「ならば使え」
黒井社長は小切手に金額を書き、突き出す。
小鳥「こ、これなら……でもどうして?」
黒井「勘違いするなよ、格下のくせにライバルなどと世間から言われるのが不快なだけだ」
黒井「今更ジュピターのランクを下げることはできん。早く貴様らがランクを上げろ」
黒井「それに高木には昔、金を借りた。利子をつけて返しただけだ」
高木「……缶コーヒーのことか?」
黒井「よく覚えていたな。褒美に明後日公演のジュピターのライブチケットを1枚やろう」
高木「私に研究させてくれるのか?」
黒井「ノンノン、完成されたパフォーマンスに圧倒され、自ら負けを認めさせる機会を作ってやっただけだ」
高木「……本当にキザなやつというかなんというか」
黒井「さて、私は一刻も早くオフィスに戻って玉露で口直しするとしよう、アデュー!」
小鳥「……行っちゃいましたね」
小鳥「これで、良かったんでしょうか?」
P「良かったんじゃないか?」
高木「これで良かったんだよ」
小鳥「プロデューサーさん、ありがとうございました」
高木「私からも礼を言うよ」
P「いえ、俺はただ手紙をよんだだけです」
P「それより、せっかく資金をいただいたんですから、ライブの企画書でも作りますね」
高木「ああ、頼むよ」
小鳥「晴舞台ですね!楽しみだな~」
P「小鳥も歌うよ?」
小鳥「はい?」
P「手紙に書いてあったじゃん。歌ってくれるよねって」
小鳥「でもアイドルには戻りませんから」
P「特別ゲストで一日だけ戻ってもらいます」
小鳥「ええ!?でもそんな……ありえませんよね社長?」
高木「……ティンときた!」
小鳥「ぐっ!……でも事務員としてのお仕事もありますし」
P「代わりにやっときます。俺の分はだいたい終わってるんで」
律子「小鳥さん歌うんですか?」
小鳥「イヤですよ!」
律子「でも社長命令なら諦めるしかないんじゃ」
P「そうだ、律子も歌おう」
律子「は!?なんで私まで」
高木「ティンときた!二人で限定ユニットを組めば」
P「いいですね、じゃ作りますか」
律子「というかなんで歌うとか歌わないとかそういう話に?」
P「黒井社長の援助でライブをやるんだよ」
律子「……えええええぇぇぇぇ!!!!!??????」
10月26日(土) 事務所 12:00
高木「ウォッホン、えーアイドル諸君、大事な話がある」
美希「なーに社長?」
高木「実は、11月24日の日曜日、765プロオールスターライブを行う」
一同「」ポカーン
高木「では、あとの説明頼むよ君」
P「はい。えーまずは会場なんだが」
春香「ちょちょちょっと待ってください!」
P「なんだ春香」
春香「ライブですよ!ライブ!いきなりなんで決まったんですか!?」
P「まあ色々あってな。パシフィコ横浜国立大ホールを押さえたから」
律子「そんな大きなところ押さえたんですか!?」
P「資金的には武道館でも良かったけど」
千早「あの、収容人数はどのくらいですか?」
P「5000くらいかな」
やよい「ほぇー……」
P「質問はとりあえず終わってから聞く」
P「そういうわけで、レッスンはライブを想定したものになる。全体練習もある」
P「さらに細かい話はしないが、小鳥と律子も出す」
律子「本気で言ってるんですか?」
小鳥「もう、諦めましょう……」
P「なのでレッスンを手伝うように。詳しくは練習の段階で指示する」
P「あとは営業でライブの告知をすること。以上」
一同「……」
P「……どうした?」
一同「やったあぁぁ!!!!」
貴音「皆に光を届けられるのですね!」
真「なんだか緊張してきた!」
響「自分、すっごく嬉しいぞ!」
あずさ「あらあら、みんなとっても嬉しそう」
美希「あずさもとっても嬉しそうなの!」
伊織「うまくいけば、ランクも上がるってわけね」
やよい「一生懸命がんばりますー!」
雪歩「えっと、告知のためのポエム考えなきゃ!」
亜美「ねー真美」ゴニョゴニョ
真美「んっふっふー、ナイスアイディア!」
春香「ライブかー、楽しいだろうなーってうわぁ!」ドンガラガッシャーン
千早「春香、本番では転んじゃダメよ?」
一同「あはははは!」
律子「はぁ……ま、たまにはアイドルに戻るのも面白いかもしれませんね」
小鳥「私、ちゃんと歌えるかしら……」
同時刻 都内某所
??「なあ吉澤、この世界は腐っていると思わないか」
吉澤「君が言うなら腐っているんじゃないのか?」
??「誰もが平和に、安心して暮らせるような世界は作れないのか」
吉澤「難しいね、社会主義で成功した国はほとんどない」
??「じゃあ共産主義ならどうだ?」
吉澤「一旦すべてをゼロにして、そのあと平等に成長する」
??「だが独裁者が偏った考えを持つと失敗する」
吉澤「じゃあダメだな」
??「独裁者が、偏ってなければどうだ?」
吉澤「上手くいくさ。でもそんなの神様ぐらいだろ」
??「そうか?神は全知全能だ」
??「たとえば、パーフェクトとかさ」
吉澤「……君は何を考えているんだ、安藤」
安藤「昔も今も、世の中の平和を願ってるだけだ」
吉澤「……」
安藤「そろそろ俺はやるぞ、世界を平和にする」
吉澤「……」
安藤「どうだ?俺といっしょに世界を変えないか?」
吉澤「……」
安藤「無言は肯定とみなすぞ」
吉澤「なあ、君は本当に完璧な世界がほしいのか?」
安藤「欲しいね。お前はこの不完全な世界のどこがいいんだ」
吉澤「不完全だが、なかなか味があるもんだよ」
安藤「……喰えない奴だ。安藤派とか吉澤派とか、意味がなくなるというのに」
吉澤「最近、異動が多いのはどういう意味なんだ?」
安藤「同じ志の者を集めているだけだ」
吉澤「……そうかい」
11月1日(金)
P「それぞれの持ち歌はたぶん大丈夫だ」
P「問題は全体での練習だな」
雪歩「ひぅ!すみませぇん!」
春香「えっとここで……あれ?」
真「雪歩と春香が入れ替わるんだよ」
亜美「んー、なんかここはあずさお姉ちゃんが前に出た方がいいかも」
真美「いやいやお姫ちんでしょー」
律子「選ぶ基準が…はあ」
あずさ「あらー?」
千早「大丈夫ですか小鳥さん?」
小鳥「低音って難しい……」
響「足をクロスすると回りやすいぞ」
貴音「くろす、ですか」
やよい「クロス……あ、できましたー!」
伊織「なるほどね…」
美希「そろそろ次のステップに行きたいの」
11月3日(日) 14:57
伊織「あずさ!間違えて告知しちゃ意味ないでしょもう!」
あずさ「ごめんね~伊織ちゃん」
亜美「でもメチャ注目されてたし、オッケーっしょ!」
律子「じゃあジャージに着替えて練習よ」
ハーイ キョウモガンバロー マッテーリツコサーン
高木「うむ、仲良きことはいいことかな」
千早「春香、告知で噛んじゃったらダメじゃない」
春香「ご、ごめんね千早ちゃん」
貴音「しかし注目はされたようです」
高木「……ちゃんと集まるかな」
11月9日(土) 12:28
美希「疲れたのー…」
響「オーバーマスターは結構動くからね…」
貴音「ふぉうふぉほあかもすいへまいひまひあ(丁度おなかも空いてまいりました)」
響「貴音、食べながら言うのはやめるさー…」
雪歩「えっとここでターン…それから…」
美希「雪歩は頑張り屋さんなの」
雪歩「えぇ!?そんなことないよぅ」
P「おつかれさん、差し入れだ」
美希「ハニー!」ダキツキー
P「あいかわらずだな」パサッ
美希「ハニー分の補給なの!」
春香真(羨ましい…)
小鳥「あれ?封筒落としましたよプロデューサーさん」
P「え?ああ、これか。ちょうどいい」
P「前に思いついたことを書いていたでしょう?」
小鳥「一文だけ書いてたのですか?」
P「それだ、続きを書いてまとめたんだが」
P「社長に見つかって、作曲家に勝手に依頼を出したらしい」
響「それでそうなったんだー?」
P「まさかの曲になった」
やよい「プロデューサーが作った曲なんですかー!?」
千早「ライブで歌うんですか?」
P「できればそうしてくれと作曲家の先生から言われたよ」
亜美「なんて曲?」
真美「せくちーな曲?」
P「せくちーじゃないな」
封筒からCDと歌詞カードを取り出す。
P「Colorful Daysだ。振り付けはこれから考えるから、まずは歌えるようにしておいてくれ」
やよい「うっうー!プロデューサーのために一生懸命歌います!」
11月20日(水) 13:17 たるき亭
吉澤「安藤は、近いうちに何か行動を起こすかもしれない」
P「何をするつもりなんだ?」
吉澤「部下に探らせているが、さっぱりわからない」
吉澤「しかも、反安藤派の連中を消したり、異動させているんだ」
吉澤「僕の部下もだいぶ減ってしまった。護衛に回せる人数もギリギリだ」
P「邪魔な人間を遠ざけているのか」
吉澤「それから、全知全能の神に近い存在として君の名を挙げていた」
吉澤「世界を変えるとか言っていたな」
P「……いっそこちらから先に消しに行くか?」
吉澤「その後はどうする。統率系統が乱れたら、反乱分子が湧き出るぞ」
P「……吉澤さんなら、統率もとれるでしょう」
吉澤「なるべくしたくはないかな」
P「……ご主人、そんなに聞き入らないでください」
吉澤「台詞合わせはここまでにしようか。生姜焼き定食をひとつ」
11月23日(土) 会場 19:09
P「機材も演出もいい感じだな」
小鳥「あの、ホントに歌うんですか?」
春香「大丈夫ですよ!1曲だけですから!」
小鳥「でもソロって……」
律子「しょうがないじゃないですか…竜宮小町に回されたんですから」
千早「あとは力を出し切るだけですね」
P「そうだな、あと不安な者はいるか?」
やよい「な、なんだか緊張してきちゃいました…」
雪歩「私も…うぅ、間違えずにできるかな」
伊織「大丈夫よ、明日もリハーサルは一回あるし、ちゃんとできてたじゃない」
真「もし間違えても、堂々とやれば大丈夫だよ!」
貴音「……はて、いま無関係な人物がいたような」
――なんだと?
真美「お姫ちんどうしたの?」
貴音「いえ、なんでもありません。明日は全力をつくしましょう」
亜美「そーそー!自分たちならなんくるないさー」
響「うがー!自分の真似するなよもー!」
……念のため明日は見回りを強化するか。
美希「ハニー!明日は美希のこと、ちゃーんと見ててね!」
万が一の場合は、春香たちとファンを先に避難させなければならない。
美希「ハニー?怖い顔してどうしたの?」
P「……ん?ああ悪いな美希、明日は見守ってるぞ」
美希「見守るだけじゃヤ!応援してほしいって思うな」
あずさ「そうね、美希ちゃん一生懸命頑張ってたものね」
P「分かった、サイリウム振るから。あずさは大丈夫か?」
あずさ「えっと、衣装が少しきついかなって//」
響「どこまで大人なんだ……」
11月24日(日) 0:00 某所
安藤「諸君、時はきた」
安藤「今こそ世界を変えるべきだ」
安藤「20時丁度に、パシフィコ横浜国立大ホールを襲う」
安藤「心配はいらない、吉澤派は代表もろとも処刑した」
安藤「邪魔する者はいない」
安藤派「「「「「「ウオォォー」」」」」」
安藤「独裁者は偏った考えを持ってはならない」
安藤「ゆえに、最も闇を知り尽くし完璧な人間でなければならない」
安藤「それにふさわしいのは誰だ?」
安藤派「「「「パーフェクト!」」」」
安藤「その通りだ……なんとしても我々は勝つ」
安藤「――行け」
安藤派「「「「イエッサー!!」」」」
事務所 1:19
邪魔な人間を遠ざけ、俺の存在を世界に公開した。
安藤にとって、何が不利益になるのだろう。
革命。
どういう意味なんだろう。
第六感は答えまでは教えてくれない。
高木『もしそれが本当なら、君ひとりでも革命を起こせるのではないかね?』
いつかの高木社長の言葉がよみがえる。
まさか、安藤は革命を起こすつもりなのか?
いや、そんなハズはない。
世界平和を、日本の安全を、裏から守ってきた。
私利私欲に走ることは、忘れたハズ。
ドンドンドン!
ふいに扉を叩く音がした。
敵か?いや、敵なら急襲を選ぶ。
この時間に来るやつなんて……。
思案しながらも注意しつつ、俺は扉を開けた。
吉澤「ぜぇ、やあ……ご覧の、ありさまだよ…」
P「誰に、襲われたんだ」
吉澤「安藤派の連中さ、私の部下も皆殺しだ」
P「まずは入れ、応急処置しかできないがマシになるだろう」
吉澤さんは酷い怪我をしていた。
消毒と止血が先か。
吉澤「私の、部下が…ぜぇ…ゲロったよ…す、すまない」
P「……俺の居場所がバレたのか?」
吉澤「ぜぇぜぇ…そのようだ……家族を人質に取られた、らしい…げほっ」
P「……とりあえず止血はした。あと痛む場所は?」
吉澤「なに、肋骨が少しやられただけさ…ぜぇ」
P「……その部下はどうなった」
吉澤「……殺されたようだ」
沸々と湧き上がる怒りを鎮めると、代わりに一つの疑問が浮かぶ。
P「なぁ、連中はどうして俺を探しているんだ」
吉澤「殺すためじゃないのか?」
P「本当に?独裁者がどうとか言っていたよな」
吉澤「げほげほっ…完璧な人間…パーフェクトがふさわしいとか」
P「……仮説だが、安藤が革命を起こすとしよう」
P「動機はわからない、だが奴は世界を1度ぶっ壊すつもりだ」
P「そして俺に統治させる……」
吉澤「説得力はあるね。だがそれでは説明がつかない」
P「ああ、俺の存在をバラすメリットがない」
吉澤「……気をつけなさい。私を含め、同胞を殺すなど異常だ」
吉澤「行動を起こすのは時間の問題かと思われる」
P「……俺の任務は、大抵の場合問題を防ぐのが多かった」
P「事が起きてから解決するのは、あまり得意とは言えない」
P「とは言え奴らにも準備が必要だ。相手がこの俺だ、綿密な計画を練るだろう」
P「準備が完了し、革命のために世間の注目を浴びる時」
P「それは終末、すなわち大晦日だ」
P「だから12月に入った時点で、こちらから仕掛ける。先手必勝だ」
吉澤「勝ち目は、あるのか?」
P「……今は、それ以外じゃ勝てない」
事務所 8:04
吉澤さんは、足手まといになりたくないと言って出ていった。
それなりに回復はしているし、あの人なら追跡も撒けるだろう。
とは言え、事態は深刻だ。
会場周辺に不穏な輩がいるかもしれない。
――待て、吉澤さんの部下が俺の情報をリークした。
その部下は、なぜ俺を知っている?
吉澤さんはこの事態を恐れて、俺の情報を言っていない。
誰が、いつ、どこで、どうして、なぜ、何の因果で俺を教えた?
吉澤さんが裏切ったとは考えにくい。
だが、仮説として説得力はある。
……いったい、何を信じればいいんだ。
会場 9:48
千早「少しずつ、お客さんが集まってきたわ」
雪歩「ええ?開場は16時からなのに…」
あずさ「そのぐらい楽しみにしてくれてるってことじゃないかしらー」
美希「美希、今日はたくさんの人にお祝いしてもらえるんだね」
雪歩「美希ちゃん、昨日お誕生日だったもんね。きっとファンの人も一日遅れだけど楽しみにしてるよ」
あずさ「そうねー、美希ちゃん、ちゃんとMCで何を言うか考えておいてね」
美希「もちろんなの!律子、さんに昨日しつこく言われたの!」
律子「しつこくて悪かったわね」
雪歩「あああの律子さん!美希ちゃんはそういう意味で言ったわけでは」
律子「分かってるわ雪歩。今日ぐらいは絶対怒らないって決めてるから」
亜美「聞きましたか真美隊員」
真美「バッチリであります。今なら秋月総隊長のボールペンを壊してしまったことも、水に流せるであります」
律子「伊織、当分二人の分は無しでいいわよ?ゴージャスセレブプリン」
亜美真美「「めちゃ怒ってるー!?」」
会場 10:17
P「じゃあ打ち合わせの確認をしていてくれ。俺はスタッフに挨拶してくる」
一同「はーい!」
……挨拶は別にすぐ終わる。
それよりも会場内に異変が無いかをチェックしなければ。
たとえばそう、爆弾なんかがあったらとんでもないからな。
P「本日はよろしくお願いします」
スタッフ「こちらこそお願いします」
P「あの、申し訳ないんですが会場全体の見取り図はありますか?」
スタッフ「うーん、ホントに細かく載ってる見にくいやつしかないですけど」
P「一枚頂けませんか?万が一地震とかあったら大変ですので」
スタッフ「誘導目的ですか?」
P「あとは双海亜美、双海真美がかくれんぼとかするとなかなか見つけられないので」
スタッフ「アハハ、そいつは大変だ。えーと余ったのがコレか、どうぞ」
P「ありがとうございます」
スタッフ「今日は頑張ってね」
地図によると、1階は広いエントランスで、大きなモニターがお出迎え。
普段は横浜の風景を映しているらしい。
2階はエントランスを抜けたその先にあり、シーサイドロビーとなっている。
つまりは横浜港の観光スポットように作られた、長いカーブの廊下だ。
3~6階まではメインホールと客席だ。
ここもくまなく探索しておいた方がいいだろう。
次に一般客は入れない裏側だ。
地下1階は荷物の搬入口となっている。
斜めになった土地に建てたからだろうか?
業務用エレベーターが1つあり、3階の裏口に直接続いている。
次に1階、スタッフの会議室、仮眠室、および動力室がある。
全て見回ったが、どこにも異常は見つからなかった。
2階、食堂らしき小さな休憩室がある。
また避難階段があることから、あの長い廊下の内側だと分かる。
3階、ステージの裏側。
いわゆる部隊の袖であり、スタッフも普通に働いているので問題はない。
3階は奥に行くと、先ほどよりも立派な会議室がある。
今日はここに救護班が待機する予定らしい。
確か医薬品の類は、仮眠室にあった。
ベッドがあるおかげで、処置しやすいからだろう。
会場周辺も探索したが、不審な人物及び怪しい物体は見つからなかった。
ちらりと腕時計を見る。
P「一旦戻るか」
戻る途中、グッズ販売を少し見て回った。
そこで俺の目に留まったのは、
765プロオリジナルウォッチ。
今使っているのは、俺がパーフェクトの名を継いだときに受け取った特別仕様。
目立たないが耐久性のある腕時計だ。
P「……一つください、4000円で、はい」
もうそろそろ俺はあの組織から自由になる。
別に時計にこだわりもない、着けたい物を着けよう。
渋沢「ヒャハハ…待ってろ、今日こそテメーを記事にしてやる」
渋沢「あとは、安藤とかいう男が何かするのを待つだけだ…」
13:36
春香「もう少し、だね…」
やよい「グッズ販売にいっぱい並んでますー!」
伊織「グッズ販売自体は誰でも並べるものね」
真「誰が一番人気なのかな?」
伊織「そりゃあこの伊織ちゃんに決まってるじゃない」
真「うぐっ、竜宮小町はやっぱり強いなぁ…」
貴音「確かに桃色のさいりうむが売れ行きは好調のようですね」
響「おーいハム蔵ー、こんな時に逃げちゃダメだろー!」
春香「また逃げちゃったの?」
響「そうなんだ!ハム蔵のやつ、人がいっぱいいるせいか緊張して運動してくるって…」
貴音「なんと、ハム蔵殿もライブに出演するのですか?」
やよい「ハム蔵さんすごいですー!」
真「いやぁそれは難しいんじゃないかなぁ…」
やよい「え?でもハム蔵さんっていつも響さんといるから…」
響「実は一緒に出るつもりだぞ!自分の時だけなんだけど」
伊織「そんなことより早く見つけなさいよ!」
響「そんなこと言っても返事してくれないんだぞ…」
小鳥「……?今なにか背中にっひゃあ!な、なにコレくすぐったっっ!」
春香「小鳥さーん!ハム蔵くん知りませんか?」
小鳥「えっと響ちゃんのぁん!何かが胸にっんっ!」
真「もしかして……」
貴音「小鳥嬢、失礼します」
小鳥「え、なにするの貴音ちゃ、え、ちょちょちょっと待ってぇ/////」
やよい「あー!ハム蔵さんがいましたー!」
ハム蔵「ヂュイ(●´ω`●)」
響「なに満足そうな顔してるんさー!ハム蔵のえっちー!」
伊織「まあいたんだからいいじゃない」
高木「みんな!グッズ販売でもう売り切れてしまったものがあるそうだ!」
春香「だ、誰のグッズですか!」
小鳥「うぅ、おへそ見られた…// でもこれはこれでアリか…」
高木「なんと音無くんのポスターだ!」
小鳥「……ピヨオォォォォォ!!!???」
会場 15:47
スタッフ「開場は16時から、開演は18時からです!水以外の持ち込みは禁止といたします!」
A「16時に開場のようです」
H「心配するな、受付の人間の一部は我々の仲間だ」
T「武器はどうなってるんです?」
H「工藤さんの指示によれば、搬入口にあとから届くらしい」
A「しかしなんでこのライブ会場を襲うんですか?」
T「なんでもパーフェクトがこの会場に来るという情報があったらしい」
H「とある週刊誌の記者からの情報だ。まあ違っても構わん」
工藤「そうだ、どのみち我々は絶対的な正義か、凶悪なテロリストの未来が待っている」
AHT「「「工藤さん!」」」
工藤「なに、心配はいらない。まずは入ることが優先だ」
AHT「「「わかりました」」」
ステージ 同時刻
P「うん、リハーサルはバッチリだな」
高木「ああ、この前のジュピターに劣らないパフォーマンスだと思うよ」
P「あ、社長、お疲れ様です」
高木「今日のアイドル諸君は、いつも以上に輝いて見えるようだ」
P「そうですね。ところでジュピターのライブ行ったんですね」
高木「年甲斐もなく、若い女性の隣でサイリウムを振ったよ」
P「黒井社長とお話はしましたか」
高木「王は褒め称える言葉を聞き飽きたと言っていたな」
高木「良かったら私たちのライブにも来てくれと伝えておいたよ」
P「来ると思いますか?」
高木「親友だからね、きっとジュピターも連れてくるんじゃないかな」
P「……営業方針は変わらないみたいですけど、和解できてよかったですね」
高木「君のおかげだよ。日高くんも来てくれたらよかったんだが、家事が忙しいそうだ」
P「来られたらすべての注目を奪われそうで怖いです」
会場内 17:52
あれから何度も見回りをした。
不審な物も一切見当たらない。
なのに、なぜかこの不安は晴れない。
冬馬「オイ、辛気臭ぇ顔してんじゃねえよ」
P「……冬馬?」
冬馬「……なんか、変わったな」
P「そうか?」
北斗「確かに苗字で呼んでいたのに、名前に変えるのは急ですね」
翔太「でも親近感がわくからいいと思うよ?」
P「……黒井社長は?」
翔太「クロちゃんなら水買いに行ったよ」
冬馬「オッサンに無理やり連れられてなきゃ、絶対にこなかったぜ」
翔太「え?さっきまで必死にイメージカラー覚えてたじゃん」
北斗「あずささんのイメージカラーは?」
冬馬「え、えっと…紫!そうだ紫だよどうだ思い知った、か…」
P「たいへんよくできました」
冬馬「うるせぇ!そんな目で俺を見るな!」ダッ
北斗「やれやれ、今日はしっかりと楽しませてくださいね。チャオ☆」
翔太「待ってよ冬馬くーん!」
P「俺が変わった…変えられたというのが正しいかな」
春香「プロデューサーさん!」
P「ああ、今行く」
あと少しで、コイツらの晴れ舞台だ。
余計なことは考えず、まずは円陣を組もう。
高木「さて、君たち。あとはただ楽しみなさい。ファンよりも楽しみなさい、以上」
律子「そうよ、私たちならできるわ。ボヤボヤしてると、引退した私に追い抜かれるわよ?」
小鳥「みんなに負けないように、私も頑張るわ!」
貴音「皆の力を合わせれば、何も恐れることはありません」
響「まあ完璧な自分についてくればなんくるないさー!……みんなも完璧だぞ?」
あずさ「緊張しちゃうわ~、でも、ゆ~っくり頑張りましょ?」
亜美「あずさお姉ちゃん、ホントに緊張してる?」
真美「リラックスしてるようにしか見えないYO」
伊織「ま、平常運転で安心ね」
やよい「私、来てくれた人を元気にできるように、元気いっぱいでやりますー!」
雪歩「わ、私も来てくれた人をガッカリさせないように頑張りますぅ!」
真「中身がしっかりしてれば大丈夫だよ、雪歩!」
美希「美希、今日はキラキラできるよね?もうワクワクが止まらないの!」
千早「私は、一人でも多くの人に歌を届けます……見ててね、優」
春香「みんな行くよー!765プロー!」
一同「オー!」
P「行ってこい、そこにお前らの未来がある。その手で思いっきりつかんで来い!」
一同「ハイ!」
そのときだった。
せっかく良いセリフで決めたのに、その余韻に浸ることはできない。
第六感が働いた。
いま動かなければ、取り返しがつかなくなる。
P「……社長、ちょっと持ち場を離れます」
高木「どこに行くのかね?」
P「ゴミ掃除です、ではっ」
高木「き、君ぃ!」
誰に会うべきなのか。
どこに向かうべきなのか。
さっぱり分からないが、体が進む方へ勝手にひた走る。
スパイとしての能力は、もうガタガタに落ちている。
それでも、俺以外に対応できる奴はいない。
信じたくないことも、事実ならば受け入れなければならない。
根拠はない。
だがそれでも、未来を汚す敵がいると確信した。
18:00 ステージ
ザワザワ
ファン「まだかなー?」
ファン「そろそろじゃない?」
ファン「真王子ぃー!」
~オープニング♪
ファン「「「「「わぁぁーー!」」」」」
アイドル「ARE YOU READY!! I'M LADY!! 始めよう やれば出来る きっと 絶対」
アイドル「私 NO.1!」
ワー!ハルルン チーチャン ユキピョン マコトオージ アズササーン
ミキチャーン オヒメー ヒビキチャーン アミマミ ヤヨイターン
同時刻 B1 搬入口
なぜここへ来たのか。
そんなのは俺自身にも分からない。
そもそも、来たことが正解か不正解かすらも分からない。
U「こりゃあたまげた。本当に生きてたんだなぁ、お前」
Y「あら、パーフェクトなんだし不思議じゃないわよ?」
U「それもそうか、で、どうする?」
Y「安藤さんからの指示は……生け捕りにしろ、だってさ」
U「まったく、武器の調達も楽にできねえのかよ」
Y「そう言いながら戦闘態勢に入ってるじゃない」
ふざけんな。
なんでよりによって今日なんだ。
またこれだ。
俺と関わったせいで、アイツらが不幸になる。
P「そんなの、ダメだ」
Y「なんか言ったかしら?」
P「俺は絶対、アイツらを守る!」
左足で地を強く蹴る。
男の方にまずは右ヒザで腹部を狙う。
U「俺かよ!チッ」
男は横へ移動してかわす。
着地を女が手に持ったナイフで狙う。
Y「恨みは無いけど刺されなさい!」
P「断る」
行動が読めれば対処はできる。
着地の際に半身をひねり、女の手首を掴む。
そのままひねりあげれば、ナイフを落として女を人質にできる。
Y「痛っ!」
U「大丈夫ぐぁ!」
女の腕を背中に回し拘束、落ちたナイフを男にむけて蹴りぬく。
U「クソがあぁ!」
見事にナイフは男の太ももに刺さった。
P「大人しく抵抗をやめろ、さもなくばこの女を殺す」
Y「……やってみなさい。知ってるわよ?あなた唯一殺したことがないパーフェクトですってね」
P「……だからなんだ。殺せないと言うのか?」
U「テメーは腰抜けだ!」
本気だぞ。
そう言おうとした次の瞬間、頭に鈍い音が響いた。
少し遅れて、痛みが襲ってくる。
O「二人だけだと思ったかい?残念、オレもいました~」
俺はゆっくりと意識を失う。
危機管理能力がここまで落ちていたとは。
薄れゆく意識の中で俺が最後に思い描いたのは――
P「みん、な……」
765プロの景色だった。
ステージ 18:05~
春香「★START!! START!! START!!
EVERYTHING OK♪
その一歩がこの今へあの未来になる」
千早「眠り姫 目覚める 私は今
誰の助けも借りず
たった独りでも
明日へ 歩き出すために」
雪歩「ALRIGHT* 今日が笑えたら
ALRIGHT* 明日はきっと幸せ
大丈夫!! どこまでだって
さあ出発オーライ*」
やよい「キラメキラリ ずっとチュッと
地球で輝く光
キラメキラリ もっとMOREっと
私を私と呼びたい」
真「もっと 高めて果てなく 心の奥まで
あなただけが使えるテクニックで 溶かしつくして
本能 渦巻く最中に墜ちてくときめき
今宵だけの夢 踊るわ 激しく」
亜美真美「スタ→トスタ→ スタ→とスタ→
目と目 手と手 繋いで
ひとりじゃない星にウィンク
双子な星座がトゥインクル」
フェアリー「Thrill のない愛なんて
興味あるわけないじゃない
わかんないかな
Taboo を冒せるヤツは
危険な香り纏うのよ
覚えておけば?
Come again!」
竜宮小町「キミが触れたから七彩ボタン
全てを虹に変えたよ
どんなヨロコビもキミと分かちあえる
はじめまして
ボクに出会ってくれてありがとう」
小鳥「いつか咲こう きっと 諦めないで
葉を広げて うんと 茎を伸ばして
高くたって ゆける
まっすぐに芽を
限りない明日へ向けてゆこう」
客席 19:40
高木「やはり来てくれたか」
黒井「ジュピターの三人がどうしてもというからな」
冬馬「オッサンがどうしてもって言うから」
北斗「もう来たかったって言えばいいじゃないか」
翔太「なんか冬馬くん、クロちゃんに似てきたねー」
高木「ありがとう、もう少ししたらアンコールが始まるよ」
黒井「フン、もうこれ以上時間を無駄に過ごす必要はない。お前たち、帰るぞ」
冬馬「もういいのか?」
北斗「それにしては名残惜しい顔をしてますね…」
翔太「……あ、渋滞に巻き込まれたくないんだ」
黒井「」
高木「……今日はありがとう…ぷぷっ」
黒井「笑ったな貴様!高木の分際で!」
北斗「まあまあカリカリしないで社長」
冬馬「それに高木社長もステージ裏に戻っといたほうがいいぜ」
高木「ありがとう。では気をつけて」
黒井「アデュー!二度と来るか!」
北斗「また来ますよ☆」
客席 同時刻
安藤「――あー諸君、聞こえるか?」
安藤「武器を隠せる者はそのまま客席に」
安藤「隠せない者は配置に着け」
安藤「合図と共に、作戦開始せよ」
安藤「……あまり精度が良くない無線だな」
安藤「まあいい、奴を序盤で無力にできたのは大きい」
安藤「あとは、我々の時間が来るのを待つだけだ」
ステージ裏 19:55
高木「諸君、本当に素晴らしかったよ」
高木「客席から見たんだ、これは間違いない」
高木「あとは、彼が作ってくれた曲を、全力で歌うだけだ」
高木「幕が閉まっているうちに、配置についてくれ」
春香「あの、プロデューサーさんは?」
高木「それが、携帯もつながらなくて…いったいどこにいるんだろうか」
小鳥「……大丈夫、私と律子さんで探すわ」
律子「そうね、もうずっとついてなくても、やりきれるって信じるわ」
高木「……うむ、仲良きことはいいことかな」
春香「分かりました!みんな!」
一同「」コクン
アイドル「765プロー!オー!」
本日はここまでとなります。
またしばらく忙しくなるので
早くて水曜日、遅くても土曜日には更新します。
はたしてこの先どうなるのか、こうご期待ください。
おやすみなさい
それから、アドバイスや疑問等がありましたらなんでもどうぞ。
今度こそおやすみなさい
こんばんわ
メアリー・スーも知らない無知だったのでググってきました。
みなさんはやはりこういう設定はお気に召さないでしょうか?
不快ならすぐに依頼します。
続けても良いのであればレポートを片付けてから書き溜めます。
分かりました。
頑張って書き溜めます。
綺麗な終わり方かどうかはわかりませんが…
あとレポートやらなきゃ…
わかりました
では当初から考えていた終わらせ方にします。
レポート面倒です…
こんばんわ
人いますかね?
こんばんわ
人いますかね?
連投スマソ
書き溜めは終わってないけど今日中に終わる予定です
再開します
1F 仮眠室 ??:??
P「――っ、うーん……ここ、は……っ痛!」
目を覚ますと、そこは仮眠室だった。
後頭部がまだ痛む。
殺すつもりで殴ってきたみたいだな。
P「……ハッ、今何時だ!?」
慌てて765プロウォッチに目をやる。
P「22時、だと……」
6時間近く気絶していたことになる。
やけに外からの音が騒がしい。
対照的に、中は静まり返っている。
まさか、死んで――そんなハズない。
最悪の状態だけは、想像したくない。
嫌な想像をかき消し、まずはここから出なければならない。
P「ん?開かない?」
仮眠室は外からつっかえ棒のような何かで塞がれているようだった。
P「クソ、何か武器になるようなものは……」
ガタン
不意に上から音がした。
そこでようやく天井を見る、すると、大きな排気口からまた音がした。
ここから脱出できるか?
思考を巡らせていると、見覚えのある顔が金網越しに現れた。
吉澤「遅くなってすまないね、悪いがネジを外してくれないか?」
吉澤さんはこちらに小さなマイナスドライバーをよこす。
サイズが小さく、開けるのに手間取ってしまった。
P「怪我は大丈夫なのか!?」
吉澤「大丈夫なわけないだろう。マトモな戦闘は期待しないでくれ。よいしょっと」
吉澤「ふぅ、疲れたよ。あ、ここから外には出られないよ」
P「ならどこから?」
吉澤「実は記者として今日ここに来ていたんだ。奴らは2時間前に銃声をぶっ放した」
P「アイツらは無事なのか!?」
吉澤「直前で僕はトイレに行ってたんだ。異変に気づいて、3階のトイレからここまで君を探していたんだ」
吉澤「おかげで2時間も排気口をさまよっていたよ」
P「……アイツらを助けなきゃ」
P「協力してください。このままじゃ、アイツらが!」
吉澤「もちろんだ。安藤を止めるのは、今が最後だ」
見張り『中に誰がいる!そこを動くなよ!』
扉の向こうで、棒を外す音がした。
チャンスだ。
見張り「止まれぐぁ!」
扉の死角に入り、思いっきり扉を蹴り返した。
吉澤「悪いが若造にはまだ負けんよ」
ひるんだ瞬間、吉澤さんは武器を取り上げあっという間に無力化してしまった。
P「悪いが代わりに眠っていてくれ」
新米らしき見張りを気絶させ、仮眠室に拘束しておいた。
吉澤「撃たずとも威嚇にはなるだろう。あと無線も持っていてもいいかもしれない」
P「吉澤さんの分もあとで調達が必要ですね」
吉澤「きっと手に入るよ。さて、このまま行くか、排気口を使うか……」
排気口の方が時間はかかるかもしれないが、安全だ。
このまま行けば危険だが、時間はかからない。
――待て、安藤ならどうする?
排気口を見落とすか?
もしも排気口を進み見つかれば、あっという間に終わる。
P「どのみち危険ですが、このまま行きましょう」
吉澤「分かった」
1F 仮眠室前廊下 22:07
敵は皆銃を持っており、定位置を中心に徘徊している。
だが人数が足りないようで、いずれも単独行動。
しかも連携はとれない距離に配置されている。
だからこそ使えない新人が見張り役に無理やりされていたのかもしれない。
都合のいいように思えるが、裏を返せば危険だ。
本当の戦力は、安藤の近くに集中させているといえる。
また外がうるさいのはおそらく警察やメディアの報道機関だと思われる。
ヘリの音が聞こえるのは、上空からの報道部隊だろう。
まさか自衛隊が出動するとは思えない。
P「吉澤さん、俺が注意をひきつけます。後から出てきて気絶させてください」
吉澤「……ふふ」
P「吉澤さん?」
吉澤「殺せと言わないのが、実に君らしいと思ってね。さあ行こう、まずは会議室まで」
B「……誰だ」
P「俺だよ」
B「拳銃一丁で勝てると?」
P「負けはしない、俺を殺せないからな」
敵は明らかに嫌な顔をする。
P「安藤の指示で、殺せないハズだ」
B「……だが傷つける程度なら許可は出ている」
言い終わると同時に、サイレンサー付きのベレッタを撃ってくる。
B「……なんで避けれるんだ」
しかし当たることはなく、あっという間に距離をつめて銃口を額に当てる。
P「別に見てから避けてるわけじゃない」
吉澤「ごめんよ」
スタンガンが敵の背中を直撃する。
B「……化け物め」
ゆっくりと敵は倒れた。
これで二人分の無線は確保した。
1F 会議室 22:16
C「うわぁ!」
D「話せば分かるって、だからやめろぉぉ!」
吉澤「やはり精鋭部隊は安藤の周りを固めているのか」
P「スタンガンの出力を上げすぎてないか?」
まさかそんなハズないだろうと乾いた笑い声をだす。
死なない程度に押さえてくれればそれでいいけど。
吉澤「ところで、私がトイレに行ったときの話なんだが」
P「トイレ?」
吉澤「ああ2Fの廊下の途中だよ。私の他にも、誰か個室に入っていたような気がするんだ」
P「……敵、でしょうか」
吉澤「分からないが、注意はした方がいい」
P「そうですね、今のところ無線で指示もでていないみたいだし、ゆっくり攻略していきましょう」
2F 障害者用トイレ個室 同時刻
北斗「……翔太、少し詰めてくれ」
翔太「静かに!バレちゃうよ!」
冬馬「なんで男四人で個室に……」
黒井「やっぱり来なきゃ良かった」
1F エントランス受付の机の下 22:19
吉澤「現在地点エントランス、敵は7名、いずれも銃を所持」
P「了解、麻酔銃での狙撃をお願いします」
俺はゆっくりとエントランスに出る。
5人が正面入り口を向いて待機していた。
おそらく警察の突撃を少しでも遅らせるためだろう。
K「っ!動くな!」
一人が気づき、こちらに銃口を向ける。
その声で、残りの6人もこちらに向き直った。
P「なるほど、入り口とボスの二か所はそれなりに考えてるわけか」
L「余計なことは喋るな!」
P「おいおい、俺は死なない技術もあるけど裏返せば死ぬ技術もある」
P「下手に撃とうとすれば死ぬぞ?射殺許可は出てないのに」
I「な、なぜそれを!」
P「へぇそうなんだ。単なるブラフだったんだけどまだ許可は無しか」
K「貴様!「待て」」
柱の死角から、がたいのいい男が出てきた。
手には軽機関銃がある。
P「開発しているという噂は聞いたが、本当に武器作ってたのか」
工藤「そうだ、とてもスリムな形だろう?」
P「物騒だな、ソレもお前も」
工藤「君ほど危ない存在じゃあない」
依然として8つの銃口は俺を見つめたままだ。
P「8人か……まあ普通に処理できる人数だな」
H「なんだと!」
工藤「慌てるな、これがコイツのやり口だよ」
P「そういう工藤さんこそ、幹部のくせに小心者って噂だぜ」
工藤「まったく口がよく回るやつだ」
P「寡黙な人間って近寄り難いでしょ?」
工藤「……お前らは撃たずに援護しろ、死なれちまうからな。俺が気絶に抑える」
目の前の銃口がわずかに上下した。
工藤は右利き、俺から見て右側に体を運べば躱せる。
工藤「チィ!なめるなよ!」
俺は接近から一転、バク転で体重移動を後ろに切り替える。
M「クソっ、遠ざけるだけでいっぱいだ!」
こっちもいつまでも避けられない。
急いで柱の後ろに身を隠す。
周りであちこちが火花を散らせる。
N「ち、くしょ…」
工藤「どうしたどうしたぁ!天下のパーフェクトが逃げの一手か!」
俺は近くの観葉植物を投げる。
瞬く間に鉢が蜂の巣になった。
投げた方向とは逆に飛出し、Mの左足を打ち抜く。
M「ぐあぁぁ!」
工藤「ちょこまかと!」
また別の柱へ身を隠し、呼吸を整える。
P「次は……アレだ!」
俺はモニターを打ち抜く!
液晶画面が割れ、工藤以外の目を引く。
ウッ ウァ
工藤「ミスディレクションにはもう引っかからんぞ!」
P「危ねぇ!」
グフ
弾の出所から俺の場所を推測し、滅茶苦茶に撃ってくる。
机の下へと戻ったが、いくつかすり傷を作ってしまった。
致命傷じゃないだけマシか。
工藤「ククク、追い詰めたぞパーフェクト」
P「……」
工藤「観念してそこから出てこい、殺してやりたいがそこまではしないさ」
I「かはっ、く、工藤さ、ん…」
工藤「流れ弾に当たったか、クズめ」
I「そ、そん、な、ゴフ!」
工藤「フン、間抜けも一人いたが、この状況と人数で勝てるのか?」
工藤が威嚇射撃を一発撃つ。
同じタイミングで、吉澤さんが最後の一人を狙撃した。
P「……降参だ」
両手を挙げ、降伏の意思を示しながらゆっくりと出る。
そして、ゆっくりと入り口側へ歩く。
工藤「ゆっくり歩けば逃げられるとおもってんのか?」
工藤も合わせて、ゆっくりと向きを変える。
工藤の目と銃口は、俺一人にしか向けられていない。
机から目を離したお前に、もう勝機はない。
P「追い詰めた?間抜けが一人?」
工藤の表情が、次第にこわばっていく。
工藤「お、お前ら、なぜ寝ている…」
P「追い詰められた間抜けはテメーだ」
吉澤「おやすみ」ドシュッ
2F シーサイドロビー 22:26
吉澤「君はどうやって弾を避けているんだ?」
P「発射のタイミングを読んで、少し前に射線から外れるだけです」
P「利き手、クセ、銃の反動……なんだか昔に戻ったみたいだ」
吉澤「戻った?」
P「殴られたせいなのか、アイツらのために動いているのか……」
P「どっちかは分かりませんが、訓練されたばかりのように、全てが研ぎ澄まされている感じです」
吉澤「それで眼鏡をつけているのか」
P「鋭敏すぎて、使い物になりませんから。抑制した方がちょうどいいんです」
吉澤「なるほど、ちょっとストップ」
P「ええ、敵がいますね」
カーブを描く廊下のおかげで、ギリギリまでは近づける。
だが、逃げ場も少ない危険地帯だ。
吉澤「さっきみたいな無茶な真似は、できるだけしないでくれ」
P「善処します……ところでどうしてポカリがリュックに?」
吉澤「ライブ前に買った物だが」
P「あのですね、水以外は持ち込み禁止なんですよ」
吉澤「いやぁすまない。僕はあまり動かないからそんなに飲まなかったけどね」
P「没収します」
吉澤「立派なプロデューサーだね」
P「さてリュックの中を見回したけど、スタンガンぐらいしか使えないかな」
吉澤「麻酔銃も切れてしまったからねぇ…年を取るとどうも射撃が苦手になる」
P「向こうは全員銃を持ってる。かなり不利だな……はっ!」
吉澤「……!一旦こっちに!」
急いで俺たちは引き返す。
偶然なのか、敵の一人がこちらへ歩いてきた。
P「気づかれてはいないが…どうすれば」
いっそこのまま突撃をかけた方がいいのか。
しかし、敵には見覚えがあった。
安藤の参謀役、松下。
カリスマ性はないが、戦える頭脳派といった感じだ。
そしてなにより鼻がつまっているため話し方がキモい。
吉澤「もう少し戻ろう、確かトイレがあったハズ」
P「……トイレにいる奴が敵なら無力化しておかないと、挟み打ちになりますね」
もし誰もいなければ、作戦を考える場所にしよう。
P「……」
吉澤「……」
障害者用トイレから、なんというか気配を感じた。
鍵までかけて、ここに誰かいますよと主張が激しい。
吉澤「……これで敵がいたら間抜けにもほどがあるねぇ」
冬馬(だ、誰か来ちまったぞオイ!)
翔太(冬馬くんどうにかしてよ!)
冬馬(なんで俺!?)
北斗(リーダーじゃないか)
冬馬(リーダーって死ぬポジション!?)
黒井(骨は拾ってやる。……残ってれば)
冬馬(ふざけんなオッサン!)
吉澤「念のため銃は構えさせてもらうよ」
北斗(じゅう?)
翔太(銃のことかな)
北斗(死ぬときって怖さを通り越して何も考えられないな)
翔太(きっと天国に行けるよボクたち)
冬馬(誰かあぁ、助けてくれえぇー!」
北斗「あ、声に出ちゃった」
2F トイレ 22:33
P「なにやってんだお前ら」
黒井「ノーン!こちらの台詞だ!どういうことだこれは!」
翔太北斗冬馬「「「シー!」」」
黒井「す、すまん」
P「えっと、説明するとだな、ここはテロリストに占拠された」
冬馬「( ゚д゚)」
P「そして俺は元スパイでテロリストの元同僚」
北斗「(;゚д゚)」
P「この方は俺の味方で、普段は芸能記者」
翔太「(;;゚д゚)」
P「生き残りたければ素直に指示に従え。冬馬、ちょっと小型マイクをつけさせてもらう」
黒井「(´;ω;`)」
吉澤「やれやれだねぇ……メイクと演技の稽古の時間だ」
2F シーサイドロビー 22:49
P?「久しぶりだな、松下さん」
松下「おや、やはり出てきましたか」
P?「じゃないと目的地に行けないし」
松下「それで、どうするつもりですか」
P?「見逃してくれたら嬉しいね」
松下「そんなわけないでしょう」パチン
松下が指を鳴らすと、部下たちがぞろぞろと前から集まってくる。
松下「さて、この状況で一斉射撃を行ったらどうなる?」
P?「蜂の巣だ」
松下「ですが射殺許可は無い」
松下「しかし誤射にしましょう、工藤は責任を自らの命で払ったことにしてね」
P?「……残念だが、俺は本当に俺かな?」
松下「気が狂いましたか?」
P?「いーや、いたって正常だ」
前には松下を含め9人の敵。
横には食堂へのスタッフ用の入り口。
松下たちより5メートル前にはトイレ。
そこで松下を指さし、こう言う。
P?「例えばお前らの後ろにいるのは誰だ?」
松下「誰か確認しなさい」
後ろを振り返った部下が慌てて叫ぶ。
E「ま、松下さん!後ろにも奴がいます!」
松下「……ほぉ、影武者ですか」
P?「そうだ、どちらが本物か分かるか?」
松下「分かりません」
松下「が、二人とも捕らえましょうか」パチン
指を鳴らすと同時に、5人が前へ、4人が後ろに走り出す。
そこで横の扉をくぐる。
P「5人は任せたぜ、冬馬」
P(冬馬)「ダアアアァァァ!」
翔太「こっちこっち!」
北斗「階段だ冬馬!」
冬馬「分かってらぁー!」
松下「どうやらニセモノですね、無暗に撃たないように」
P「走りながらじゃショットガンは狙えねぇだろ!」
とは言え殺傷能力はかなり抑えた弾薬を使っているようだ。
当たれば死にはしないが激痛だ、すぐに捕まる。
P「カーブ構造にこんなに感謝する日がとはな」
E「クソ!こっちが本物か!?」
F「どっちでもいい!」
G「このままじゃいつまでもグルグル回るだけだぞ!」
Q「口より足動かせ!」
回るのは1周で充分だ。
R「どこに行った!」
S「警戒を高めろ!」
V「……非常口が開いてる」
T「報告しますか?」
松下「待ちなさい、報告したら殺せないでしょう」
~非常階段 踊り場~
吉澤「よくやった」
黒井「ケガはないか?」
冬馬「ぜぇっぜぇっ…二度とこんなに速くは走れねぇ…」
翔太「それで、このあとは?」
吉澤「まずは彼が来るまで待機だ」
北斗「その間に襲われるのでは?」
吉澤「こちらにも銃はある」
冬馬「なっ!変装道具にピストルって……」
黒井「見るな、見てはならないものだ」
P「よし、着いてきてるな」
後は俺も食堂に飛び込むだけだ。
だが、このまま終わるわけがない。
そう、一人ぐらいは逆回りしてるかもしれない。
G「行き止まりだ!」
こんな具合にね。
P「どけよ雑魚がぁ!」
G「くっ!止まれぇ!」
目の前の男が引き金を引く。
死ぬ間際には映像がスローに見えるというが、まさにスローに見える。
危険を察知し、記憶の密度が高くなるからだという。
そしてそれは、引き金を引く方も同じだ。
違うのは、そこで次の行動に移れたかどうかだ。
俺はほぼスピードを落とさず、スライディングで股を通り抜ける。
男は反動で次の行動には移れなかったようだ。
G「コイツ……!」
後転倒立から両足を首に絡め、そのまま気絶させる。
首4の字固めに近い感じだが、上手く決まって良かった。
その後3人がついてきていることを確認し、食堂へ入る。
松下たちの姿は見えない。
P「上手く階段へと誘い込めたか…」
俺は開いている非常口へと目をやる。
罠が仕掛けられている可能性もあるが、こんなに狭い場所では爆弾も設置できない。
なぜなら自分たちが巻き込まれるからだ。
P「……やっと三人が来たな」
隠れるところはいくらでもある。
Q「奴はどこだ!」
E「非常口が開いてる……」
F「気をつけろ、常に構えておけ」
案の定、俺には気づかなかったようだ。
じゃあ、ひとつやりますか――。
松下「もしかして吉澤かな?」
吉澤「やあ松下くん、できればその銃を下ろしてくれ」
松下「嫌ですね。あなたこそ下ろしてください」
吉澤「そしたらあっという間に階段を下りて撃ち殺すんだろう?」
松下「ええ、当たり前でしょう?あなたのことを報告したら」
松下「殺せ、と」
ステージ 同時刻
安藤「……こちら、ステージ、なんだ」
安藤「……そうか、死にぞこないめ」
安藤「殺せ」
安藤「……ん?そんなに怖がることはないじゃないか」
高木「っ、頼む、誰ひとりとして危害は加えないでくれ」
安藤「ああ、下手な真似をしなけりゃ危害は加えない」
安藤「我々はこの腐った世界を変えるだけだ」
高木「ば、バカなことをするんじゃない」
安藤「ムダな言動は慎め」
高木「ヒッ……わ、わかった……」
安藤「それでいい。死に急ぐことはない」
2F 非常階段 踊り場 22:54
F「松下さん!」
E「奴はどこに?」
Q「気をつけろ……どこかに潜んでいるかもしれん」
どうやら8人が踊り場に集合したか。
P「まんまと挟み撃ち成功ってことだな」
俺は踊り場に近づき、拳銃を構える。
松下「ククク、かーっかっか!」
しかし松下は臆することなく笑う。
松下「あのですね、私がこうなることを想像できないとでも?」
北斗(これってなんだかやばそうじゃないですか?)
吉澤「……なんだか余裕そうだねぇ」
松下「階段なら廊下よりも狭い、数を活かせないのはすぐに分かる」
松下「だからわざと挟まれたんですよ」
P「どういうことだ」
松下「これですよ」
試験管を2本取り出し、ニヤリと笑う。
松下「これを混ぜれば爆破する。だが、指向性なんだよね」
翔太(指向性?)
黒井(……指向性マイクとかの指向性か?)
松下「分かるな?我々を中心に周りだけが吹っ飛ぶということだ」
松下「挟み撃ち……いい作戦だがあなたの負けだ、パーフェクト」パチン
冬馬(これってヤベーぞ!)
P「……吉澤さん、銃を下ろそう」
P「俺も下ろす」
吉澤(みんな、耳を塞ぎなさい)
松下「かーかっか!懸命な判断ですよ」
P「……なあ、死ぬかもしれねえから一つ言わせてくれ」
松下「なんですか?」
P「アンタのその喋り方さあ、キモいんだわ」
P「常に点鼻薬を持つことを、おすすめするよ」パチン
次の瞬間、バチバチと大きな音を立てて松下は崩れた。
もちろん他の敵もである。
黒井「……何が起きたんだ」
冬馬「お、終わったのか?」
吉澤「もういいよ、我々の勝利だ」
P「うまくいって良かったな」
翔太「どういうこと?」
P「おっと、濡れてるところは踏まないように」
北斗「濡れてる?……なんですかこの匂い。どこかで嗅いだような」
P「これだよ」
俺は先ほど没収したポカリの空の容器を見せる。
P「気づかれないように、奴らの足元に流しておいた」
吉澤「指で合図が鳴ったから、スタンガンで一気に感電させたんだ」
P「アイツは鼻が詰まってるから気づかなかったみたいだな」
北斗「というか死ぬかもしれない状況でこんな微かな匂いに気付けませんよ」
P「俺なら普通にわかるけど?」
翔太「765のお兄さん凄すぎ……」
P「ここはさすがに見回ってないみたいだな。ここを降りていけば出られる」
黒井「本当か!?」
P「俺はみんなを助けるから残るけどな」
冬馬「……俺も残る」
翔太「ええ!?」
北斗「冬馬!?」
冬馬「アンタにだけカッコつけさせたくねぇ。それに、俺だって協力できるだろ!」
P「あのなぁ、運が良かっただけかもしれないぞ」
冬馬「それでもだ!今日のライブで、やっぱりアイツらには負けられねぇって思った」
P「だから頼むってか?危ねえんだぞ」
黒井「……貴様がいるからこそ安全だろう」
P「正気か?」
黒井「万が一ここを降りた先で撃たれたらどうする」
P「……分かった、前にもそんなこと言われたな」
P「あの時は伊織だったっけ」
吉澤「はははっ、それじゃあとは3階に行くだけだ」
翔太「それが一番危ないんじゃ……」
北斗「でも、ここにいつまでもいたら不安が増すばかりだ」
P「はいはい、それじゃ作戦を立てよっうぐ」フラリ
冬馬「おいアンタっ!やっぱりどこか撃たれて」
P「違うよ、耳が良すぎるんで至近距離での発砲が耳に響くだけだ」
北斗「完璧の代償ですか」
P「痛みを鈍化させても、すぐに治癒させるなんてできない。完璧な人間なんかいないんだよ……」
ステージ 23:07
春香「あ、あの……」
A「黙れ」
春香「は、はい…」
安藤「こらこら、怖がらせるんじゃない」
安藤「なんだねお嬢さん。言ってみなさい」
春香「…みなさんは何が目的なんですか?」
安藤「革命だよ、腐りきった世界を正す時がきたのさ」
春香「……どうして私たちのライブなんですか」
安藤「別に君たちに恨みがあるわけじゃない」
安藤「だが、君たちの関係者には、ある人物が関わっていてね」
千早「……プロデューサーのことですか」
安藤「ほう、そんな役職だったのか」
安藤「奴は世界にとってもはや脅威だ、危険因子は排除する」
千早「……クッ!」
真「なら、どうして逃げられたんだよ!その前にだってそういうチャンスはあったじゃないか!」
Y「威勢のいい娘ね、でもそれ以上は頭と引き換えよ」チャキ
真「…!」
亜美「うぅ……」
真美「パパ…ママ…」
あずさ「大丈夫、きっと警察が助けに来るわ」
U「警察ぅ?こりゃたまげたぜハッハ!」
O「怪我人の分際で笑ってんじゃねーよ」
U「あぁん!?なんか言ったかコラ!」
樋口「騒ぐなやかましい…転がすぞ」
W「キャー樋口さん怖ーい(棒)」
貴音「革命ですか。あなた方は、歴史に名でも残すつもりですか」
Z「発言するときは手を挙げてって習わなかった?」
X「どっちでもいいじゃん」
安藤「別に英雄になりたいわけじゃないさ」
伊織「じゃあなに?誘拐ってわけ?」
安藤「水瀬財閥にも興味はない。まあ国民の金が不平等なのはお前のせいかもな」チャキ
律子「やめて!」
安藤「撃たない撃たない、むやみに命を奪いたくはないからね」
美希「こ、こわい…助けてハニー…」
やよい「げ、元気でいなきゃ…」ブルブル
雪歩「ふぇぇ、怖いですぅ…」プルプル
安藤「もう少しすりゃあ我々の要求を全世界に届けられる。それまでの辛抱だ」
小鳥「こ、こんなことがいつまでも続くもんですか!」
安藤「……なに?」
響「そ、そうだぞ!プロデューサーがお前らなんかすぐにやっつけるさー!」
安藤「……くく、そうだな。奴はまだ生きている」
安藤「だが、我々の元へ必ず帰る。奴の居場所は我々しかないのだから」
安藤「そもそも彼の何を知っている?」
安藤「世界をひっくり返す情報を、君たちは知らない」
安藤「それが奴を活かす理由さ。情報さえ手に入ればどうだっていい」
安藤「世界各地で紛争が絶えないのも」
安藤「無数に宗教が派生したのも」
安藤「すべて奴は知っている」
安藤「だが奴はエリートだ、情報漏れが無いようにある工夫をしている」
安藤「奴以外は認証しないコンピューターがある」
安藤「奴のアクセスが1年間無ければ、自動的に消滅だ」
安藤「死後の処理まで想定しているとはな……。だが奴は死ねない」
安藤「死ねばここにいる人質全員が道連れだと、ちゃんと理解しているようだ」
高木「……全ての情報を公開すれば、平和になるとでもいうのか」
Z「手ェ挙げて言えってば」
X「律儀なやつ」
安藤「全てではないが、可能な限り公開はしよう」
安藤「どのみち革命後には一般人には扱えねぇだろうがな」
安藤「むしろ知ってしまうことで、立ち直れなくなるかもしれないが…」
江角「安藤、客は全員3Fに集めたぞ」
安藤「ご苦労、少し狭いが管理はしやすくなった」
A「安藤さん、無線がほとんど応答しません」
安藤「放っておけ、革命についてこれないクズどもだ」
A「イエッサー!」
安藤「……さて、もうそろそろか?」
1B 搬入口 23:09
P「いいな、これが最後だ」
冬馬「本当にいいのか?」
翔太「なんか、緊張してきたかも」
北斗「普通のUSBが、こんなにも重く感じるなんて……」
黒井「さあ、我々はさっさと6階の客席まで行くぞ」
吉澤「くれぐれも気をつけるように」
P「……それじゃ、俺の合図でやれ」
P「合図は『取れるもんなら取ってみろ』」
1F 動力室 23:14
北斗「……あの、いいですか?」
吉澤「なんだね?」
北斗「この袋に入った粉はなんですか?」
吉澤「仮眠室にあったマイスリーという睡眠薬だよ」
翔太「睡眠薬?強力なの?」
吉澤「まあまあかな。他にも色々あったが、副作用がなるべく少ないものを選んだ」
翔太「ふーん。ねえねえ、僕も質問いい?」
吉澤「どうぞ」
翔太「最後の作戦なんだけどさ、どこまで信用できるの?」
黒井「確かに。すべて”ハズだ”をつけて話していたな」
冬馬「それに肝心の最後は任せろとしか言わなかったぜ?」
吉澤「あぁ、まぁ…すべて推測は当たるだろうね。しかし最後は私もどうするのか…」
黒井「なんでもいい。空調の電力はどれだ」
吉澤「えーっと…これだね。予備電源はこっちか。じゃあオフにしたし6階に行こう」
冬馬「推測外したら一生呪ってやる」
北斗「外れたら死ぬから呪えないよ」
冬馬「……死んでもあの世で呪い続けてやる」
業務用エレベーター 23:22
俺が安藤ならどうするか。
まず部隊の人数は少ない。
精鋭部隊の数は6、7人くらい。
幹部が3人はいるかもしれない。
その人数で制圧するには、5000人近くの人質を一か所に集めるだろう。
ステージも使えば狭いが無理ではない。
そしてパーフェクトをおびきよせ、情報を聞き出す。
パーフェクトには吉澤という負傷者がいる。
つまり安藤一人でパーフェクトを対処し、他は吉澤を。
ホールの入り口は3か所。扉に向けて狙撃体制を取る。
それでも残りの人間で人質は抑えられる。
そしてパーフェクトと対峙したとき、最悪の場合は撃ち合いだ。
こちらには残り6発のリボルバーが一丁。
不利もここまで不利だと笑える。
……そういえば、亜美真美とクロックタワーやったときを思い出すな。
確かエレベーターでシザーマンに殺されたっけ。
流石に今は打ち殺せるから別にってそもそもいるわけねーよな。
6F 観客席 扉前 23:25
吉澤「いやぁ遅れてすまない」
冬馬「何してたんだ?」
吉澤「扉に罠を仕掛けてきた」
北斗「あぁ…彼が言ってましたっけ」
翔太「大丈夫なの?」
吉澤「それはお楽しみだよ。じゃあ僕はここまでだ」
黒井「我々だけで行くのか!?」
吉澤「大丈夫、推測は当たるよ」
黒井「それなら貴様はどこに行く」
吉澤「僕は警察を非常口から呼んでくる。適度に負傷してるし逃げてきたように見えるだろ?」
吉澤「大丈夫、空調操作は怠らないから」
冬馬「……分かった。行くと言ったのは俺だ、覚悟を決める」
翔太「冬馬くん…分かった。ここまで来たら引き返せないもんね」
北斗「そろそろ時間です」
黒井「ウィ、気づかれないようにそっと扉を開けろ」
3F ステージ裏 23:30
……暑い。どうやら作戦は進行中らしい。
吉澤【……チャンネル4-2、聞こえ…か…】
そこで吉澤さんから無線が届いた。
安藤たちとは別のチャンネルを使うように改造した。
だがもともと制度が悪いのか、改造がダメだったのか……かなり聞き取り難い。
P「聞こえた、どうぞ」
吉澤【無事に……らは着いた…ぬなよ…】
ジュピターたちは無事に配置についたようだ。
最後の出番か。
P『だから12月に入った時点で、こちらから仕掛ける。先手必勝だ』
吉澤『勝ち目は、あるのか?』
P『……今は、それ以外じゃ勝てない』
無線のスイッチを切り、おもむろにつぶやく。
P「死ぬなよ、か……」
ステージ 23:55
U「クソ……血が少し足りねぇ」
Y「そういえば刺されたんだっけ」
U「あぁ、なんだか睡魔が襲ってきやがった…血が頭にいってねえな」
O「名誉の負傷だよ」
樋口「足手まといになるくらいなら寝てろ……じゃなきゃ転がすぞ」
W「樋口さんマジ怖ーい(棒)」
X「俺も眠い…ふわぁ」
江角「いつものことだろ」
A「……暑くないですか?」
Z「発言するときは手ェ挙げろっての」チャキ
安藤「銃を下ろしてやれ、まったく……暇だな」
X「逃げたんじゃない?それか死んだんだよ……ふわぁ」
安藤「オイお前ら、奴が来るまで何か一曲歌え」
小鳥「な、なに言ってるんですか……」
安藤「歌って踊るのが仕事だろー?」
律子「っ!……なんて、人なの」
安藤「もう少ししたら警察が要求を聞いてくるだろう」
安藤「その時に世界の真の姿を教えるのさ」
安藤「全てではないがな」
千早「……『約束』でいいですか」
美希「千早さん!」
真「な、何考えてるんだよ!」
江角「安藤、お前頭大丈夫か?」
安藤「大丈夫なわけないだろう」
安藤「俺はどうしようもないバカだ」
安藤「だがいつだってそういう奴が時代を動かしてきた」
響「! それ、プロデューサーの台詞!」
安藤「で、歌うの?歌わないの?」
あずさ「……歌いましょう」
亜美真美「「あずさお姉ちゃん!?」」
貴音「……わたくしたちは、不安になっているふぁんの皆に歌うのです」
伊織「アンタたち、正気!?」
雪歩「うぅ、わ、私足がすくんじゃって立てませぇん……」
やよい「怖いです……」グス
千早「私も、怖いわ。でも、不思議と緊張はしない」
千早「歌っていた方が、まだ気は紛れる」
千早「だからみんなお願い、一人じゃ怖くて……」
春香「千早、ちゃん……」
O「アイドルの生歌かー」
Z「手を挙げて歌うのか?」
樋口「挙げなくていい……転がすぞ」
W「もう逆に怖くなーい(棒)」
春香「……そうだね、私も緊張はしてない」
小鳥「無理しないでみんな!」
高木(クソ!極度の緊張でみんなが壊れたか…?)
高木「早く…早く来てくれ…」
A「緊張していない……副交感神経……なんだこの違和感」
P「アカペラでやるつもりか?」
アイドル「プロデューサー「さん」!!!!」
11月25日(月) 0:02 会場前
レポーター「――えー犯人グループは未だに立てこもっています」
レポーター「今から約一時間前に銃声が聞こえて以来、現場に変化はありません」
レポーター「…ん?あれ、ちょっとカメラさんあそこを!」
レポーター「男性です!男性が非常階段を降りてきました!」
レポーター「どうやら怪我をしてるしているようですが…今、警察に保護されたようです」
吉澤「ふぅ、いやぁ疲れた」
刑事「すみません、あなた今、中から出てきましたよね」
部下「お話をお聞かせ願います。中の様子は?おい誰か、手当てを頼む!」
吉澤「まあまあ慌てなさんな。先に警視総監へ連絡しなさい」
刑事「警視総監?失礼ですがあなたのご関係は?」
吉澤「そうだねえ…『JEIO』で確認を取ってくれ」
刑事「は、はい…」
吉澤(日本特殊諜報機関JEIO。さすがに話が通じるだろう)
刑事「分かりました。警視総監から変わってくれと」
吉澤「ありがとう、手当てはいいから少し席を外してくれ」
刑事「了解しました」
ステージ 0:04
安藤「会いたかったよ」
P「会いたくなかったぜ」
安藤「よく来たと言いたいが、むしろ来れなければこちらが困っていたよ」
P「来なきゃ紅い部屋になってただろうからな」
安藤「ククク……ヒーローは遅れてやってくるというが」
P「遅すぎたってか?俺はヒーローなんかに憧れてない」
安藤「まぁ、いい……チャンスをやろう」
安藤「今なら戻っても罰は与えない」
P「……いくつか知りたいことがある」
安藤「世界にお前の存在をバラしたのは俺だ」
P「なぜ?」
安藤「お前はあまりに脅威的だ」
安藤「優秀ゆえに、危ない」
P「俺が戻ってもその事実は変わらない。戻るメリットは?」
安藤「充分にあるさ」
安藤「なぁパーフェクト、この世界は腐ってると思わないか?」
P「腐りきってるな」
安藤「俺は世界を変えたいんだ」
安藤「平等を掲げつつ何も平等じゃない」
安藤「異性は見た目じゃないと言いつつ最低限のラインを引く」
安藤「生まれつきの運動神経だけでイジメは発生する」
安藤「そしてイジメは命まで奪う」
安藤「勉学に励めば逆転できると思うが」
安藤「落ちこぼれが妬み、負の感情は負の感情を生み出す」
P「……それが現実だな」
安藤「だからこそ、すべてを一度無に返し再生する」
P「誰が導くつもりだ」
安藤「もちろんパーフェクトだ」
P「それが利点か」
安藤「どうだ、戻ってこないか?」
P「……」
世界の脅威。
なんだかいい気はしないな。
俺を武器として見るなら、俺を手に入れた奴は世界を手に入れることになる。
いわば最強の武器、グングニルの槍。
その槍が直接世界の頂点に立つ。
そりゃあ誰も逆らえない。
P「確認させてくれ」
P「断ったらどうなる」
安藤「断れないさ」
P「……いったい何の罠を仕掛けている」
安藤「そういうわけじゃないが、お前をしばらくは生かすよ」
P「何が狙いだ」
安藤「分かってるだろう?」
P「……なるほど、俺の持つ情報か」
安藤「そうだ、お前以外にアクセスできないコンピューターがあるだろ」
P「頑張ってハッキングしろ」
安藤「それができないから言ってるんだ」
P「ふーん…」
安藤「分かるか?お前の持つ力は強すぎるんだ」
安藤「一人じゃ管理もたいへんだろう」
P「俺はアンタの教育のおかげで、あいにくだが革命なんか興味はない」
P「アンタの教育のおかげで、表情も感情も捨てた」
P「アンタの教育のおかげで、銃火器の扱い方も覚えた」
P「アンタの教育のおかげで、テロリストの制圧のしかたを覚えた」
P「アンタの教育のおかげで」
P「俺はアンタからパーフェクトの名を継いだ」
P「今日の推測も行動も、ここに来るまでの動きも」
P「俺かアンタかの違いでしかない」
P「全く同じ考えを持つ人間が二人いた……簡単な理論だが恐ろしいよな」
6F 0:11
冬馬(推測は外れない…)
翔太(そういう意味だったんだ…)
北斗(なんだかとんでもないことになってますね…)
黒井(……つまり、ここにくるのは必然だった)
黒井(罠と分かってそれでも進んだのか…バカな男だ)
3F 同時刻
安藤「ククク……そうだな」
安藤「パーフェクトってのは初代からずっとそうだ」
安藤「姿が違うだけで、ただのコピーさ」
安藤「俺はそこも気に入らない」
安藤「気に入らなかった……なぜ俺だけ個性を消さなきゃならないのかと」
安藤「ところがお前を教育して気づいたよ」
安藤「みんないっしょにすればいいやって」
P「あんなツラい訓練、耐えれない奴はどうなる」
安藤「そんなのは革命後の世界にはいらない」
P「……どうして変わった。昔はそんな野望も捨てていただろう」
安藤「全て捨てた私が、密かに捨てきれなかったものだ」
P「……はぁ」
P「先に言おう。俺は導き手になんかならない」
P「俺は自由が欲しい、お前の元には戻らない」
P「そして革命後の世界には、自由はない」
P「全て平等なら、悲しみも楽しみもない」
P「俺はこの世界が大っ嫌いだ」
P「任務に就くたびに、醜さを知ってしまう」
P「本当にバカだ。人類はどうしようもなくバカだ」
安藤「そうだろう?なのになぜ戻らない。自由がないからというだけか?」
P「……救いようのないバカなこの世界」
P「だがいつだって、そんなバカが時代を動かしてきた」
P「俺はこの大っ嫌いな世界が大好きで大っ嫌いだ!」
安藤「ククク……お前もパーフェクトの器じゃなかったのか」
安藤「いいだろう。大人しく情報を渡して死ね」
P「どうしても欲しいか」
俺はゆっくりと安藤にから遠のく。
誰も背後にいないように移動する。
安藤「よこせ、いまや貴様には過ぎた玩具だ」
横目で部下を見る。わずかに目の瞳孔が小さくなっている。
暗い所では普通大きくなるのに。
準備は整った。
P「欲しけりゃくれてやる。ただし」
P「取れるもんなら取ってみろ」
合図と同時に、6階から4つのUSBが宙を舞う。
江角「! 回収しろ!」
江角の一言で一斉に動き出す。
俺はすぐにに拳銃を構える。
まずは左手にいる男の右手を狙い撃つ。
A「ぐあぁ!」
派手に倒れ、見覚えのある女がこちらを見た。
右手を同じく狙い撃つ。
Y「っだあ!」
そこで何人かの銃弾が飛んでくる。
横っ飛びでステージから降り、体制を直しながらもうひとりの女を狙う。
左利きらしかったので当然左手を狙う。
W「あーあ、やられたー(棒)」
樋口「調子に乗るな!転がされてーのか!」
樋口は確か右利きだった。
そしてリボルバーの名手でもある。
P「フン……おっと手元が」
樋口「甘いぜ!転がしたる!」
樋口はステージに上り、上から射撃してきた。
俺が撃った弾は、いつもよりも大きな音を立てながら飛ぶ。
だが無情にも外れ、セット一部を破壊する。
樋口がハンマーを引く隙に、視界に映った男が狙っていた。
容赦なく右手を打ち抜く。
O「あ痛!やり、返された…」
そして俺は動きを止める。
樋口はステージ上から俺を見下しながら言う。
樋口「よくやったよお前。だがこの距離じゃ俺は外さねぇ」
江角「気をつけろ、そいつは射線を見極めてかわすぞ」
樋口「ほう…なら俺の弾を避けた時にお前が撃て」
ギシ
江角「手柄は私のものか?」
ギシ…ギギ
樋口「追い詰めた俺の手柄だ。舐めてると転がすぞコラ」
江角「分かりましたよ……なんだこの音」
ステージのはるか上で、バキっとセットの柱の一部が崩れた。
それらは樋口と江角目がけて降ってくる。
樋口「チィ!邪魔だ!」ドン
江角「何をすっうわぁ!」
樋口は江角を突き飛ばし、降ってくる大きな欠片に発砲。
体制を崩しながらも、直撃はまぬがれたようだ。
江角は頭に受け、気絶してしまった。
立ち上がろうとする樋口の右手を狙い撃つ。
だが激しく動くせいで、リボルバーだけを弾き飛ばす。
そのまま抵抗できないよう、顔めがけて拳銃を構える。
樋口「ハァハァ……始めから狙いはコレか」
P「ああ、射撃訓練はアンタにしてもらったからな」
P「戦イ方其ノ四、地形ヲ利用セヨ……そう言ってたよな」
樋口「ハァ、ハァ…転がせ」
P「そうしたいが扉の近くから三人、安藤がステージから狙っていてね」
安藤「面白い、戦闘力だけを奪っていくとは……五年前のマリツール紛争の戦い方にそっくりだ」
U「たまげたね、樋口さんと同等かそれ以上の腕前だァ」
X「でももう詰みっしょー…ふわぁ」
Z「てめぇ江角さんに手ぇ出したな!ぶっ殺す!」
安藤「さて、これで終わりかな?」
P「……かもな」
実はもう弾は残ってない。
安藤なら、きっとそれもバレている。
それでも言わないのは、俺から情報を抜き出せていないからだ。
安藤「後ろの三人、落ちたUSBを回収しなさい」
P「――いいのかな?扉を離れて」
安藤「……なんだ?」
P「これを見越して、扉の外側に爆弾をしかけた」
P「警察のスピード違反を検知する機械を応用した」
P「扉の向こうの人間がある一定の距離を離れると、音波が距離を探知して起爆する」
P「松下が昔、俺に熱心に教育してくれたよ」
6F 0:18
翔太(警察のあの機械ってそんな危ないの!?)
冬馬(あのジジイ、なんてもんつくってやがる!)
北斗(……ブラフ?どっちにしろ爆発したら巻き込まれて終わり?)
黒井(そもそもその機械を手に入れてないだろう…ブラフか…)
会場前 同時刻
レポーター「えーたった今この会場内で銃声が聞こえました!」
レポーター「事態を重く見た警察は、SATを非常口に配置させました」
レポーター「そのため我々取材班はえー少し離れたところに、えー避難するようにと」
レポーター「警察の方から指示がありました」
レポーター「はたして人質は無事なのでしょうか?えーー、一旦スタジオに……たった今情報が入りました!」
レポーター「どうやらSATの配置が完了したようです!えー今度こそスタジオにお返しします」
非常口前 同時刻
吉澤「私の指示で突撃してくれ」
吉澤「テロリストは皆、黒い服で背中に白い八咫烏のマークがついている」
吉澤「人数は10人近くいる、いずれも軍人だと思って対応しなさい」
吉澤「私も着替えたら配置につく、心してかかれ」
SAT「「「「了解!」」」」
少し休憩します
再開します
3F 同時刻
P「さぁ、どうする」
安藤「……いいだろう、そっちの方が面白そうだ」
P「安藤、お前は必ず確認させる」
P「だから俺はあえて教える」
P「教えなきゃ、ここにいるみんなが吹っ飛ぶからだ……まぁ、どうしようもなかったら」
P「それもいいかもな」
安藤「……その表情を教えたのは俺だが、今は腹が立つばかりだ」
安藤「後ろの三人、扉を一斉に開けて爆弾を確認せよ」
先ほどの三人が、お互いに顔を合わせて頷く。
そして三人が取っ手に触れる瞬間
安藤「どのみち着いて来れん」
そう呟いた。
三人は触れるとどうじに苦痛な表情で悲鳴を上げ倒れる。
安藤「爆弾というのは見え透いたブラフだ」
安藤「だがアイツらは革命後の世界についてこれない」
安藤「そうなる前に前もってドロップアウトさせた」
安藤「優しいだろう?」
P「……俺が言うのも変だが、お前は狂ってる」
安藤「狂ってなきゃ、世界は変えられないんだよ」
安藤「…感電?スタンガンでも取り付けてあったのか?」
P「ご名答、予備も合わせて3か所だ」
安藤「予備…」
P「なかなか回路を組む材料が足りなくてね」
P「いくつか蛍光灯を破壊して手に入れたよ」
安藤「…はっはーん、吉澤か…なるほど、計算外だった」
安藤「てっきり吉澤ぐらいは殺したと思っていたよ」
安藤「ということは今頃SATが来ているハズだ」
安藤「ふむ……まいったな」
A「ハァ…ハァ…ハァ…安藤、さん…ハァ、ゆ、USBを回収しました」
安藤「……ご苦労、死ね」
A「え?」
パン
サイレンサー付きの銃は乾いた音を鳴らし、あっけなく命を奪った。
雪歩「ひぅ!……ぅーん」パタ
真「雪歩!?しっかりして雪歩!」
貴音「落ち着くのです、音に驚いて気絶しただけですから」
O「あ、あれ?」
Y「な、なにしたって言うのよ」
安藤「実はパーフェクトにはスタンガンをあまり持たせるように言ってない」
安藤「なぜならスタンガンは言うほど強力じゃあないし、どちらかと言えばけん制用に持つからだ」
安藤「つまりは仲間がいる、この計画は失敗だ」
安藤「そこで、プランKに変更する」
樋口「な、なんだそれ聞いてね」
パン
またもや簡単に命は消える。
今度は樋口だ。
樋口「かは…っ!」
安藤「プランKはKILLのKさ」
P「……みんな、目をつぶっていなさい。絶対に見ちゃダメだ」
春香「は、はい!」
安藤「まったく…おかげで部下をみんな撃つことになるとはね」
安藤「もう組織は終わりかな」
P「もう俺とお前、吉澤さんしかいない」
安藤「吉澤ねぇ……最も長いつきあいだったが、裏切るとは」
P「先に裏切って殺しにかかったのはお前だ」
安藤「ああそんなこともあったな」
P「……指導者になるか、死ぬか」
P「俺の道は二つだけか」
安藤「その必要はない、お前は死んでもらう」
安藤「USBは集まった。捕まってしばらくしたら、それこそ俺の時代が来る」
安藤「この”情報”を守るなら、檻の中が安全だろう」
P「……ふふ」
安藤「何がおかしい」
P「残念だがそいつはニセモノだ。安売りで買った」
安藤「ほう…つまりニセモノを巡って俺は自ら組織を壊したと」
P「そういうことだ。独裁者のなれの果てだよ」
安藤「はぁ…やられたよ、まんまとやられた」
安藤「ククク…だがまだやることはある」
安藤「お前を殺さなきゃ」
P「なぁ、どうして俺を世界にバラした」
P「いままで通り秘密で良かったじゃないか」
P「どうしてだ?何のメリットがある?」
安藤「メリットなど無い、お前は力がありすぎるんだ」
P「……醜いぜ、あまりにも醜い」
安藤「そうさ、この際だからハッキリ言おう」
安藤「お前が羨ましい…お前が憎い」
安藤「勘違いするな、根幹の行動原理は正義感だ」
安藤「格差と怨恨に満ち溢れたこの世界を、平等にしたいだけなんだ」
安藤「同じパーフェクトなら、やはり平等にあるべきだ」
P「狂ってるなんてレベルじゃねーな」
安藤「しかしまぁいい教訓にはなった」
安藤「負うた子に浅瀬を教えられるとはこのことか」
安藤「そしてこれからは少しも油断はしないようにする」
安藤「俺はお前を殺したい、お前は俺を止めたい」
安藤「分かりやすい構図だな」
安藤「違うのはただ一つ、お互いの実力は同じ、互いの考えも同じ」
安藤「このこう着状態を先にくずした方が勝ちってことだ」
P「SATがそろそろ来るだろう」
P「こう着状態に時間制限がある以上、俺の絶対的有利にはかわりない」
安藤「その時は私は自殺する」
安藤「ちょうど弾もあと2発あるしな」
P「丁度?」
安藤「お前を殺して俺も死ぬ」
安藤「どうせ俺はもう死ぬ運命だ」
安藤「クク、こんなセリフは小説の世界だけかと思っていたよ」
P「……以前の俺なら、死ねと命令されたら死んでいた」
P「今だけは、どんな手を使ってでも生きたい」
ステージに上がり、安藤との距離を詰める。
その距離は腕を伸ばせば届くほどだ。
安藤「アイドル14人と社長、そして銃を持った戸籍の無い男が二人」
安藤「この舞台は喜劇か?それとも悲劇か?」
P「吟遊詩人気取りか?」
安藤「辞世の句の延長線上にあるものだと思え」
P「じゃあ戦国武将は皆ナルシストか」
安藤「カリスマ性があるなら、自分にも惚れると思うが、ね!」
互いに拳銃を相手の額に構えて対峙する。
春香「プ、プロデューサーさん!」
俺は目を安藤からは離さずに、静かに怒る。
P「目をつぶれと言ったろ…春香だけじゃなく、みんなだ」
安藤「少しでも隙を見せたら撃つつもりだが、そんなことはないか」
P「口を動かすより頭を動かせ。じゃなきゃ」
安藤「今考えたことは――」
P安藤「「お前の銃がなくなっても気づかないぞ」」
言い終わると同時に俺は動く。
左掌底で銃口を上へと向けさせる。
もちろん安藤も同じ行動だ。
俺の右手も上を向く。
そこで俺は、右手の銃を捨てる。
どうせ弾は入ってない、持ってても意味がない。。
それよりも両手が開いている方が都合がいい。
左手で銃身を掴み、右手で手首を掴む。
そのまま本当は肘を曲げさせるのだが、そこは安藤。
安藤「下ががら空きだ!」
腹に激痛が走る。
大きくあとずさりしてしまった。
安藤「流石だ、それでも俺の銃を奪うとは」
そう、俺は奪った。
あとは撃つだけ。
しかし、俺は撃てない。
俺が構える前に安藤が構えていたからである。
安藤「発想は悪くない。だがその先は考えなかったのか?」
P「俺が捨てた銃…」
頭に浮かんでいなかったわけではない。
安藤が部下を撃つとき、弾を6発入れ直した。
そしてあと2発あると言った。
つまり、2発は装填しているが、まだ予備の弾丸を持っている。
……かもしれない。
それでも勝つには、賭けに勝たなきゃならない。
安藤「お前は悩んでいる、俺が予備の弾を入れたかどうか」
安藤「お前は蹴られていたから、弾を詰めるところを見ていない」
安藤「悩んでるということは、自慢の張力が完璧には使えない」
安藤「耳元で撃たれたか、耳元で松下の爆弾が爆発したか」
安藤「それで正常に機能しないといったところだろう」
P「大正解」
悩んでいる。
仮に装填していると厄介だ。
よく銃を突きつけたまま対峙するなら、先に撃てばいいという奴がいる。
しかし、撃たれた側は反射反応で引き金を引いてしまい、結果相撃ちになってしまう。
そう、悩んでいる。
賭けに勝っていなければの話だが。
P「悪いが一時休戦だ」
俺はステージを駆け抜け、ステージ裏に姿を隠す。
安藤「ほう、精神的に動揺するかと思っていたが……」
安藤は銃をあっという間に分解すると足元にバラバラと落とす。
安藤は銃を撃てなかった。
理由は簡単、俺が撃てなくした。
銃身をわずかに曲げておいた。
俺は怪力というわけじゃないが、てこの原理で一点に力を集中させれば曲げられる。
当然撃てば銃自信が壊れる。
安藤「お前なら、いや俺ならそうすると思ったよ」
しかし俺も撃てない。
安藤の銃は撃てるだろう。
そうでなければ部下を撃てない。
しかし安藤を撃てるかどうかは話が違う。
部下よりも強力な防弾チョッキを着ているかもしれない。
ありとあらゆる可能性を、行動と確定情報、クセ、そして俺ならどうするか――
そうやって可能性を絞っていく。
なにより考えを裏切らなければ勝てない。
出し抜くには……。
安藤「なにを迷っている?やればいいじゃないか」
安藤「さっきみたいに弾丸の火薬量を増やせばいいじゃないか」
P「……そこもバレてるか」
樋口に向けて撃ったあの5発目。
俺は確かに火薬の量を増やして威力を挙げていた。
安藤「音が少し大きかったからね、すぐに分かったよ」
もちろん普通の人間には分かるはずもない。
安藤「つまり、お前には弾頭を外すツールも、少量の火薬もある」
安藤「そしてその判断自体は正解だ」
安藤「威力を挙げないと、防弾チョッキを貫通できない」
安藤「ところが仕方なく樋口相手に使った」
安藤「だからお前は、いや俺でも、いま弾頭を外して火薬を詰める」
安藤「かといって阻止しようとすれば、あっという間に組み立てて撃たれる」
安藤「万事休すというやつだ」
安藤の言うことはすべてが当たっている。
当たり前か、俺でも当てる。
「パーフェクト」が相手という条件なら、全てを。
P「解説役どうも、負ける覚悟はできたか?」
安藤「する必要はない」
安藤「絶対に勝てる方法を知ってるか?」
P「……いつか言ってたっけ」
P安藤「「負けなきゃいい」」
コイツ、この状況でもまだ策があるのか?
……やはり、あれをするつもりか。
確かにあれなら、俺も動揺する。
頼む、それだけはやめてくれ。
安藤「さて、また舞台に役者が揃ったか」
P「……おとなしく両手を上に上げろ」
安藤「はいはい」
P「顔の位置よりも高く上げろ」
安藤「奪う算段も看破してるか」
P「当たり前だ」
安藤はしぶしぶ上げる。
P「ゲームオーバーでいいか?」
安藤「んー……アレをやるしかないか」
安藤「命令だ、銃をよこせ」
P「……嫌だ」
安藤「ではしょうがない」
――やめろ。
安藤「唯一お前が欲しくても手に入らなかった情報」
――言うな。
安藤「お前の両親と出生の秘密は話さないことにしよう」
P「……約束が違う」
安藤「なんのことだ?」
P「俺が組織と世界の平和を守ったら、いつかは教えると言った」
P「いつとは明言していない……だが言わないのは約束が違う!」
安藤「だからなんだ?」
P「その情報は渡せ!」
安藤「嫌だ、ついでに言うと、いつでも消せる」
P「待て!消すのだけは…クソ!」
安藤「そうだな……銃と取引だ」
パーフェクトは初代のコピーとは言うが、多少は違いがある。
例えば潜入に長けた者もいれば、暗殺に長けた者もいる。
俺は情報操作に秀でていることと、任務の遂行率が異常に高かった。
そして目の前にいる安藤は、カリスマ性に長けている。
巧みな話術で人の心を見通し、弱点を見つけて揺さぶる。
その逆もまた然り、人を心酔させることも得意とする。
P「チッ…分かった、情報は諦める…ただし銃は渡さない」
安藤「いいのか?」
P「構わない。これがお前のやり口だということはよく知っている」
安藤「そうか、じゃあ頑張って自分で調べるんだな」
安藤「まぁ、調べても両親の存在など見つからないがね」
両親が、いない――?
安藤「そもそも少しの教育で感情を捨て切れる人間など存在するハズがないじゃないか」
何を、言っているんだコイツは……。
安藤「人間離れした能力は、そりゃあ普通の人間じゃないんだから当り前さ」
安藤「……おや?どうやらめったにかかない汗をかいているようだな」
安藤「そうそう汗といえばここは暑いな」
安藤「いやあ見事な手腕だよ」
安藤「睡眠薬を細かく砕いて上から撒く」
安藤「また体温を上げて血液の巡りを良くすれば、薬の効果は早く効きはじめる」
安藤「ことごとく弾をかわしたのは、射線を見極められるからだけじゃない」
安藤「脳内のメラトニンが急激に増え、それに伴って集中力が切れたから当たりずらかった」
安藤「しかも、緊張とリラックスをどちらも高められた結果、自律神経が乱れてイライラさせた」
安藤「睡眠薬もUSBも、時間経過に伴って落ちる仕掛けか…よくできてるよ」
俺に固執してるせいか、他人が行ったことの推理はすべて外れている。
当たり前だ。
吉澤さんを除き、俺に協力者がいるとは普通考えもつかない。
それより恐ろしいのは、この口車で安藤のペースに持ってかれることだ。
わずかに芽生えた感情を、ありったけの理性で抑える。
P「そろそろ解説は聞き飽きたぜ」
安藤「……あっそ、じゃあ撃てよ」
P「本気だぞ」
安藤「育ての子になら、撃たれても悔いはないさ」
俺は引き金に指をかける。
安藤「大した度胸だ。殺したくないという葛藤で指が震えるハズなのに」
だが、そこから先は少しも動かせない。
動揺を悟られないよう必死に取り繕う。
安藤「……はぁ?」
P「なに、しらばっくれてんだテメー!」
安藤「しらばっくれ……なに言ってんの?」
P「この野郎!」
安藤「あぁ、孤独ってこと?」
P「黙れ!」チャキ!
安藤「……よく考えたら間違いだった」
ダメだ。
このままだと、引き金を引いてしまう。
……ダメ?
こんなクズ相手に何がダメなんだ?
やめろ、こんなのは俺じゃない。
だが負の感情に覆われそうな俺がいる。
俺であって俺じゃない。
今にも引き金を引いてしまいそうな俺は、誰なんだ?
安藤「――俺じゃ、ダメか?」
うつむいていた顔を思わず上げてしまう。
安藤「そりゃ俺はお前の本当の親じゃない」
安藤「だけどさ、ガキの頃から知ってる」
安藤「一番長く接してきたのは俺だ」
ゆっくりと手を差し出してくる。
安藤「戻ってこい、お前の居場所はここだろう?」
P「俺の、居場所…」
春香「プロデューサーさん!」
千早「プロデューサー!」
安藤「孤独ってツライよな…」
やよい「プロデューサー!」
美希「ダメなのハニー!」
P「孤独は…嫌だ…」
高木「君ぃ!落ち着くんだ!」
律子「プロデューサー殿!」
安藤「お前は、誰かに必要とされたかった」
雪歩「プロデューサー!ダメですぅ!」
響「そんなの聞いちゃダメだプロデューサー!」
P「誰かに、居てほしいと言われたい…」
伊織「アンタが必要なのよプロデューサー!」
亜美「兄ちゃん!そんなのってないよ!」
安藤「今からなら遅くはない。お前と二人なら、SATなんか大したことはない」
貴音「いけませんあなた様!」
真「こっちを見てプロデューサー!」
安藤「知っているだろう?世界は闇に包まれている」
真美「兄ちゃん!真美たちを守るって言ったじゃん!」
あずさ「目を覚ましてくださいプロデューサーさん!」
安藤「俺が、その闇から守ってやる……俺以外には誰も守れないだろう?」
P「守る…」
小鳥「プロデューサーさん……プロデューサーさん!」
――気づけば俺は、銃を手渡していた。
安藤「ククク……分かっていたよ、こうなることは」
高木「そんな…そんな…」
P「安藤さん、俺に指示をください」
安藤「では……そのまま待機だ」
安藤が銃を持ったまま、五歩後ろに下がる。
安藤「指示を出そう」
安藤はゆっくりと、その銃を上げる。
安藤「統治者となる神は一人でいい。パーフェクトは二人もいらない」
安藤「世界のために、死ね。孤独であわれな男よ」
やられた。
結局やつのペースに呑まれた。
死ねと言われると、命令通りにしようとする自分がいる。
あぁ、ここで死ぬのかと思うと、途端に恐怖は消え、冷静さが戻ってくる。
そして気づく。
やられた。
こんなことになるなんて……
分かっていた
~回想~
どうあがいても安藤相手に心理戦で勝てないことは分かっていた。
安藤『なにを迷っている?やればいいじゃないか』
安藤『威力を挙げないと、防弾チョッキを貫通できない』
安藤『だからお前は、いや俺でも、いま弾頭を外して火薬を詰める』
安藤『万事休すというやつだ』
安藤は分かっていた。
最後に必ず銃を手に入れると。
そして安藤は俺でもある。
安藤の考えは俺の考えでもある。
だから俺は1発の弾頭を外した。
そして火薬を、すべて抜き取って戻した。
P「……目が覚めたぜ」
P「やっぱり、俺はもう戻らない」
P「俺はもう、孤独じゃない」
P「俺には、家族がいる……こんなにも立派な家族がな!」
いま引き金を引かれても、弾はただジャムるだけ。
そこで生まれる隙を、俺は絶対に見逃さない。
負けない……俺は必ず、みんなを守る。
吉澤『勝ち目は、あるのか?』
P『……今は、それ以外じゃ勝てない』
……例え、命を犠牲にしてでも。
俺の命で助かるなら……
P「俺の命なんか、喜んでくれてやる!安藤!」
安藤「……ククク」
安藤「分かって、いたよ」
安藤「正常な判断ができなくなる……それをお前は恐れた」
安藤「お前は俺で、俺はお前だ」
安藤「最後の罠も、見事だが残念だったな」
安藤「どうして五歩離れたか分かるか?」
――しまった。
安藤「正常な思考に戻る前に、距離さえ取れれば俺の勝ちだった」
安藤「なぜなら」
弾倉を抜き、一番上の弾丸。
トラップバレッドを親指で弾き捨てる。
安藤「ジャムらせる弾を、取るための安全圏が欲しかったからだ」
P「……ふふ、分かってたよ」
わずかに安藤の表情が曇る。
安藤「……まだ、何かあるというのか」
P「いや、もう本当に手は尽きた」
P「俺の、負けだ」
すみません、>>419と>>429の間に抜けがありました
それと、書き溜めが尽きたので遅くなります
安藤「もしや、引けないのかな」
P「黙れ!」
安藤「怒るなよ、確かに両親がいないのは残念だけどさぁ」
P「黙れ黙れ黙れぇ!」
安藤「叫ぶな聞こえてるから」
安藤「でもさ、世界の統治者になって両親のことを知って」
安藤「何が不満なんだ?」
P「黙れと言ってるだろう!」
安藤「ああそうか。結局孤独は解消されないもんね」
P「黙れぇ!!」
安藤「そりゃあ自由も欲しくなるな」
P「黙れ……殺すぞ!」
安藤「ちょっとアイドルに優しくされたら、そりゃ嬉しくなるよな、孤独なんだもん」
P「だ、まれ…」
安藤「泣くなよ~、事実は受け入れなきゃ前に進めないだろ?」
P「…だ……れ…」
安藤「うなだれたら外すぞ?」
P「だ……黙れ……黙れよ……」
安藤「黙ってもお前は……これ以上は言わなくてもいいか」
P「ひっく……そうだ……俺は孤独だ……だからそれ以上はその口を開くな!」
429じゃなくて>>420でした
重ね重ね申し訳ありません
P「春香」
春香「い、イヤです……聞きたくありません!」
P「お前はドジでバカみたいに明るくて前向きで」
P「お前のお菓子はちょっと甘ったるくて」
P「最初は危ないヤツだって思った」
P「だが……いままでありがとう」
春香「うぅ……」ポロポロ
P「千早」
千早「やめてください!」
P「これほどまでに面倒な女はそういない」
P「頭が固いというか、なんというか」
P「だがそれでも、お前の魅力と歌は、かけがえのない宝になったよ」
P「お前の歌は、最高だ」
千早「……くっ!」
P「雪歩」
雪歩「うぅ……」
P「いつも劣等感をまとっているし」
P「犬も男も苦手だって本当に大変だった」
P「だが時に癒され時に芯の強さで成長し」
P「お前を見てるのが、初めて心から楽しいと思えた…ありがとう」
雪歩「こんなの、あんまりですぅ…」
P「やよい」
やよい「グス、うぇ、うう」シクシク
P「周りを元気にできるなんて、本当にすごい」
P「お姉さんだからか、大人でもあった」
P「苦労を苦労と思わない、そんなお前だからみんな好きなんだろうな」
P「ハイタッチ、嬉しかったよ」
やよい「うわあぁぁん……ぷ、プロデューサー…」
P「律子」
律子「……なんですか」
P「お前は俺を目標にするなんて言ってたけど」
P「俺の目標はお前だった」
P「データだけじゃない、人の気持ちすらもちゃんと考えて行動できる」
P「それが大事だって、俺は教えてもらったよ」
律子「……そう、ですか……」
P「伊織」
伊織「……黙りなさい」
P「わがままで、自信家で、猫かぶって」
P「でも本当は優しくて、努力家で」
P「許されるなら、お前の執事に生まれ変わりたいよ」
P「大事に思ってくれるからこその罵声、最後に聞かせてくれ」
伊織「うるさいうるさいうるさーい!アンタなんて…アンタ、なんて…!」
P「あずさ」
あずさ「はい」
P「俺はお前と手を繋いだが、そこで人のぬくもりってやつを知った」
P「……こうなったのも運命、なのかな?」
P「だとしたら、俺はお前に出会えたこの運命にこう言おう」
P「ありがとう、願わくばまた会わせてくれ……ってな」
あずさ「はい……ダメ、涙が……」ポロポロ
P「亜美」
亜美「兄ちゃぁん…グス…」
P「よく、頑張ったな」
P「後先考えないお前にはよく振り回された」
P「でも、その行動力はお前の最強の武器だ」
P「……俺も、俺の役目を果たせたかな?」
亜美「うぅ……兄ちゃぁん!」
P「真美」
真美「イ゛ヤだよ兄ぢゃん!」
P「……ゴメンな、亜美とレギュラー取らせるって、約束したのに」
P「行動力だけじゃなく、思いやりの気持ちをもった」
P「超ナイスでグレートな女の子だ」
P「本当に、ゴメンな」
真美「グス、ずるいよ…イヤだよ…」
P「真」
真「ボク、ボク…」ボロボロ
P「誰よりも強く、誰よりもカッコイイ」
P「誰よりも最強だ。間違いなく」
P「俺は知ってる、最強だがカワイイ瞬間はもっと最強だって」
P「……誰が何と言おうと、お前が可愛くないなんて認めない」
真「ぷ、ぷろでゅーざぁ!ボクは!ボク、は……うう」ボロボロ
P「美希」
美希「ハニー…」
P「ありとあらゆることにおいて小悪魔だったよ」
P「どうすれば本気出すか、本気ならどれだけすごいか」
P「俺の知ってるなかでこれほど先の展開を裏切ってくれた奴はお前だけだ」
P「もっとお前を見ていたかった…ありがとう」
美希「待ってハニー!そんなの、ヤ!だって美希、美希は……!」
P「響」
響「な、なんだよプロデューサー!」
P「実は感情を教わったのはお前からだ」
P「その豊かな表情と、ダンスへの情熱」
P「他にも数えきれないほど、完璧だった。完璧を目指すからこそ、美しくなれるのかな」
P「響、にふぇーでーびる」
響「うぅ…か、完璧なんて…まだまだだから…こ、こんなの嫌だぞ!」
P「貴音」
貴音「……はい」
P「月は一人じゃ輝けない…それでも、輝けば美しく華麗で儚い」
P「そんなお前を見たくて、俺はお前を照らす太陽になりたかった」
P「だけどお前は月のように美しい太陽だった」
P「こんな俺を慕ってくれて、感謝しきれないな」
貴音「あなた様…それは、わたくしの言葉です…言い足りないのでまだ居てください!」
P「小鳥」
小鳥「……プロデューサーさん」
P「いつもみんなを一番支えているのは、あなたでした」
P「俺はみんなに愛されてるって、言ってくれたのもあなたでした」
P「そんなあなたも、みんなから愛されているんです」
P「こんな俺でも支えてくれて、嬉しかったよ」
小鳥「いやです…お別れなんていやです!」
安藤「時間だ」
P「……あぁ、そうだな」
安藤「ククク…知ってるか?頭蓋骨は意外と硬い」
P「だから自殺の時は銃口を咥えた方が成功するって話か」
安藤「そうだ、そこで心臓を狙うことにする」
安藤「その前に、防弾チョッキを着ていないか確かめる」
P「もういいだろう、最後の1発は威力を上げてあるんだから」
安藤「ククク…それもそうだったな。俺を撃つために威力を上げた弾丸を2発目に仕込んだ」
安藤「完全に裏目に出たな」
P「……安藤、俺は撃たれて死ぬ」
P「だが、銃声とともにSATが来るぞ」
安藤「知っている、もうすぐ近くまで来ている事ぐらい分かるよ」
あと5分もしないうちに、きっと突入するだろう。
安藤「時間稼ぎにしては、大成功だな」
11月25日 0:49
扉(外側)
吉澤「いいか、銃声がしたら一気に突撃だ」
SAT「了解!」
ステージ
安藤「……さらばだ」
バン
空気の層を突き抜け、あっという間に俺に飛んでくる。
そして、弾丸は俺の胸を捉えた。
勢いよく後ろに倒れる。
「突撃ーーー!!!」
春香「イヤ…イヤ…いやあああぁぁぁぁぁ!!」
SAT「犯人を確保!遺体が数人転がっている、確認急げ!」
SAT「人質との接触に成功!ただちに避難誘導します」
千早「プロデューサー!」
雪歩「プロデューサー!」
SAT「君たち!ここは危ないんだ、ただちに離れるぞ!」
真「イヤだ!プロデューサーを置いてなんかいけない!」
あずさ「こんなところで終わるわけがありません!」
真美「そうだそうだ!だって兄ちゃんなんだから!」
SAT「くそ、おい!こっちにも手を貸せ!」
響「自分完璧なんかじゃないぞ!だから完璧にする義務があるさー!」
やよい「もやし祭りにまだ招待してません!だから絶対に連れて行きますー!」
律子「私一人で12人も見れるわけないでしょう!寝てないで起きてください!」
SAT「こうなったら無理やり連れて行くしかない!」
伊織「どこ触ってんのよ変態!アイツじゃなきゃ抱っこなんかさせてって離しなさい!」
美希「離すの!勝手に連れて行かないで!ハニーがまだ残ってるの!」
亜美「はーなーせー!おーぼーだ!訴えてやるー!」
SAT「こっちにもまだいるぞ!」
小鳥「プロデューサーさん!プロデューサーさん!」
貴音「あなた様!あなた様!」
会場外 0:53
レポーター「たった今SATが突入しました!」
レポーター「どうやら人質の救出に成功したようです!」
レポーター「あ!あれが主犯でしょうか!顔は見えませんが両手を拘束されています!」
SAT「車に乗れ!」
安藤「ククク……アイツの死をもって作戦を終了する」
安藤「俺は諦めんぞ…最大の障害が無くなったいま、いつの日か…」
安藤「いつの日か必ず世界を変えてみせる」
安藤「クックック…」
―――――――――
――――――
――
12月24日(火) たるき亭 13:07
高木「やぁ、遅れてすまない」
黒井「この距離でも遅刻するのか貴様は」
高木「今日は家から来たんだ」
黒井「フン…調子はどうだ」
高木「あれからしばらくはマスコミが騒ぎたてたからね、あと2か月は活動自粛だ」
黒井「そうか……」
高木「ジュピターは元気かね?」
黒井「活動に影響はない」
高木「そうか。あの会場に、お前とジュピターはいなかったことになってるのだが」
黒井「マスコミに圧力をかけて、我々のイメージダウンにつながらないようにしただけだ」
高木「そうか…ケガなどが無くてなによりだ」
黒井「……今日はクリスマス・イブだ」
高木「街は賑やかだな」
黒井「ささやかながら、貴様の事務所宛てにプレゼントを送った」
黒井「ジュピターの連中が、どうしてもというからな」
高木「……ありがとう、きっと彼女たちも喜ぶよ」
高木「実は、今日は萩原君の誕生日でね」
高木「仕事もできない状況だし、事務所で夜にお祝いしようということになったんだ」
黒井「私は行かないぞ、ジュピターも行かせん」
高木「……そうか」
黒井「……話だけなら聞いてやる」
高木「はは、まあそれでだねぇ……萩原君は誕生日を優先されてきたそうなんだ」
黒井「だから今年はクリスマスのお祝いをしようということか?」
高木「あぁ、みんなで決めたみたいだ」
黒井「……今日はクリスマス・イブだ」
高木「街は賑やかだな」
黒井「……ささやかながら、貴様の事務所宛てにプレゼントを送った」
黒井「ジュピターの連中が、どうしてもというからな」
高木「……ありがとう、きっと彼女たちも喜ぶよ」
高木「実は、今日は萩原君の誕生日でね」
高木「仕事もできない状況だし、事務所で夜にお祝いしようということになったんだ」
黒井「私は行かないぞ、ジュピターも行かせん」
高木「……そうか」
黒井「……話だけなら聞いてやる」
高木「はは、まあそれでだねぇ……萩原君は誕生日を優先されてきたそうなんだ」
黒井「だから今年はクリスマスのお祝いをしようということか?」
高木「あぁ、みんなで決めたみたいだ」
高木「あとは、彼がいてくれれば良かったんだがね…」
黒井「忘れろ、所詮捨て駒だ」
高木「お前もなかなか気に入っていたみたいじゃないか」
黒井「私が?ノンノン目上の者に対する言葉づかいを直してやろうと思っただけだ」
高木「それはお前だけじゃないかな」
黒井「……」
高木「……」
黒井「早く新しいプロデューサーを見つけろ」
高木「ああ」
黒井「日高舞に追い越されるぞ」
高木「そうだな」
黒井「…アデュー」
高木「メリークリスマス」
某所 14:25
吉澤「……安藤」
吉澤「戦友として、君を救えなかったな」
吉澤「……私の友であり」
吉澤「彼にとっては親同然だった」
吉澤「……さて、何か新しい記事でも探すとしよう」
渋沢「見つけた」
吉澤「ん?あー如月千早の記事の」
渋沢「そうだ、アンタを探していた」
渋沢「ヒャハハ、いったいあの男は何者だ?」
渋沢「妙にアンタと話していたみたいだからな、アンタをつつけば何かは出るだろっ…ぅぐ!」
吉澤「……ご愁傷様だねぇ、今すぐ病院に行ったほうがいいよ」
渋沢「うぐわぁ!な、んあ!急に息が……!」
吉澤「安藤と接触したな?少しでも証拠を残さないために一服盛られたな」
吉澤「連れて行ってやる。運が良ければ一生入院で済むよ」
渋沢「あああぁぁぁあああぁぁああぁああぁぁあぁああああぁ!!」
765プロ事務所前 17:54
真「あれ?春香?」
春香「あ、真!会いたかったよー!」
真「何時からいたの?集合時間18時だよ?」
春香「えっと30分くらい前に…」
伊織「早すぎるわよ」
やよい「でも伊織ちゃん、早く行こうって」
伊織「それは別なのよやよい!」
春香「まぁまぁ。伊織、やよい、久しぶり!」
伊織「そうね、元気してた?」
やよい「お久しぶりですー!」ガルーン
千早「ふぅ、家を出た時は吹雪みたいだったわ」
春香「千早ちゃーん!」
千早「春香、本当にいつも元気ね」
やよい「私も負けてられませーん!」
千早「ふふ、高槻さんはもっと元気ね」
響「うぅ、寒いぞ…」
貴音「こんばんわ皆様」
真「あ、響、貴音さん!」
貴音「こんばんわ真、真、今日は楽しみですね」
真「え、えっと…まこと…あぁ、そういうことか!」
千早「くくく」プルプル
響「千早の沸点もいつも通り低いなー」
亜美「ただいま参上!」
真美「いえーい!」
やよい「亜美、真美、なんだか今日はとっても可愛いですー!」
亜美「んっふっふー、やはりやよいっちは気づくか」
真美「さすがじゅーしームックの申し子!」
律子「それを言うなら純真無垢ね。そもそもジューシームックってなに?」
響「今日はどこか変わってるのか?」
春香「んー…あ!そのマフラー!」
真美「おーさすがはるるん!」
亜美「ミキミキが雑誌でオススメしてたやつだよ!」
美希「うー寒いの…」
律子「噂をすれば」
美希「みんなこんばんあふぅ」
伊織「いつ見ても眠そうというか…」
美希「あ、でこちゃんそのホッカイロ借りるの」
伊織「それぐらいいいわよ、あとでこちゃんゆーな」
美希「さすがなの、これからはなんでもでこちゃんに借りるの」
伊織「少しは自分で用意しなさいよこの金髪毛虫!」
雪歩「お、遅くなっちゃいましたかぁ?」
あずさ「ごめんね雪歩ちゃん、つい雪だるま作りに夢中になっちゃって」
響「いったいどういう状況なんだ?」
小鳥「す、すみませーん!電車が遅れちゃって!」
千早「これで全員集合ね、ぷぷ…」
真「まだ抜けきってなかったんだ…」
春香「あれ?社長とプロデュー、……社長は?」
小鳥「え?いないの?」
高木「ふぅ、なんとか飲み物が買えたよ」
小鳥「社長!遅刻ですよ!」
律子「いや言える立場じゃないでしょう…」
社長「ハッハッハ、仲良きことはいいことかな」
雪歩「仲、いいんでしょうか…?」
あずさ「うふふ、いつも通りで平和ね~」
小鳥「いつも通り……」
一同「……」
伊織「……小鳥」
小鳥「あ、あの…私、そういうつもりじゃ」
伊織「違うわ、早く鍵開けて。みんな待ってるわ」
小鳥「そ、そうね、今開けるわ」
カシャン
小鳥「……アレ?」
響「どうかしたのかピヨ子ー?」
小鳥「なんか、鍵がかかっちゃった」
あずさ「え、えっとーそれって鍵が開いてたってこと?」
律子「小鳥さん?」
小鳥「ちゃ、ちゃんと昨日、閉めて帰りましたよ!?」
真美「じゃあ誰が?」
亜美「しゃちょーが犯人だー!」
高木「わ、私は昨日は休んでいたが…」
雪歩「まさか、ど、泥棒さん!?」
真「えぇ!?」
美希「じゃあ開けてみればいいの」
千早「み、美希?」
美希「美希たちはまだ飾り付けもやってないんだよ?」
美希「ホントに誰かがいるなら、美希たちみんなで捕まえちゃえばいいって思うな」
貴音「しかし……もしも、もしもあの安藤とかいう者の仲間がいたとしたら…」
高木「……分かった、私が代わりに開けよう。下がっているんだ」
18:03
カチャン、と音がしてドアは開く。
高木「電気は……あった」
765プロの事務所内に、明かりが灯る。
高木「な、なんだこれは……?」
小鳥「どうしたんですか社長って、ええ!?」
その後も次々と入っては驚きの声を上げる。
どうして、飾り付けがしてあるのか、と。
P「メリークリスマース! チキンあるけどみんな食う?」
春香「プロデューサーさん!」
千早「プロデューサー!」
真「えぇ!?プロデューサー!」
雪歩「プ、プロデューサー!」
美希「ハニー!」
やよい「プロデューサー!」
伊織「この変態!なんでいるのよ!」
亜美「兄ちゃん!」
真美「兄ちゃんだー!」
あずさ「プロデュ~サ~さ~ん!」
響「プロデューサーじゃないか!」
貴音「あなた様!」
律子「プロデューサー殿!」
小鳥「プロデューサーさん!」
高木「き、君ぃ!」
P「よっ」
その後はまぁ大変だった。
なんでいるんだとか。
どうして生きてるんだとか。
幽霊じゃないのかとか。
P「正直、本当にもうダメだと思った」
P「でもよ、死亡フラグは10人以上立てれば生存フラグかハーレムフラグになる」
P「だろ?亜美」
亜美「それ、夏合宿の時の…」
P「生まれて初めて神頼みってやつをしたよ」
P「そしたらさ、弾丸は心臓に当たらなかったんだ」
俺はかつてつけていた腕時計を出す。
弾丸が埋まっていて、当然壊れている。
P「こいつは耐久性の高い特別使用なんだ」
P「利き手側に着けて、手首のささやかな保護に使うんだ」
P「ちょうど別の着けてたから、内ポケットに入れてたんだ」
P「ほら、丁度0時49分で止まってる」
P「まぁこの時間が、本当の俺が始まった時間ってことだな」
P「……なんだ、どうしてみんなそんな怖い顔してんだ?」
P「――え?本気で心配して本当に悲しかった?」
P「悪かったって、俺だってまさか助かるとはさぁ」
P「……許してくれんのか?」
P「条件? 言うべき言葉?」
P「えー…この度は本当にご心配をおかけして大変申し訳ございませんでした」
P「……足りない?」
P「え、えーと…焼き土下座でもすればいいか?」
P「いやぁさっきコンビニで立ち読みしたら出てきたから……」
P「そんなことじゃない? じゃ、じゃあ血を賭けて…」
P「謝罪はもういい? じゃあなんだよ?」
P「ああそれか…あーいやなんでもございません」
P「なに、とびっきりの笑顔で?」
P「あーもう分かったよ、精一杯やるよ。こんな感じか?」
P「な、笑うなよ…ったく、いいか?言うぞ?」
P「ただいま!」
「「「「「「「「おかえりなさい!」」」」」」」」
エンディング曲
Colorful Days (M@STER VERSION 12 Colors)
これにて終わりです。
読んでくださった方、レスしてくれた方、ありがとうございました。
今のところは続編とかはあまり考えていませんが、
気が向いたら書くかもしれません。
アドバイスや疑問等があったらご自由にどうぞ。
ただし荒らしは他の人の迷惑になりますのでやめてください。
ちなみに実はスパイという設定と負ける事、
最後のオチ(?)ぐらいしか考えていませんでした。
なので途中で結末にどう持っていくべきか悩みました。
なので最後の方はちょっと強引でした、すみません。
このスレはあとはアイマス雑談スレとかにでもしてください。
もしくはこういうの書いてくれとか言われたら書くかもしれません。
※あまり期待はしないでください
それではみなさん、また会う日まで(`・ω・´)ノシ
携帯からすみません、急にpcが動かなくなったので
依頼を出してきます
初心者ですみません
このSSまとめへのコメント
このssはヤバイ!めっちゃ良作じゃん!
めちゃくちゃ感動した!
Pの設定盛り過ぎててワロタ
Pのセリフが「トランスポーター」のジェイソン役の中の人で脳内再生されて幸せ
237の雪歩とのやり取りがこのSSの約1年前(2012年12月23~24日)に書かれたCとかDシリーズの『劣等感の足跡』の引用なのかオマージュなのかパクりなのか……。