チカン電車 百合ver (195)
オリジナル エロ 百合
寝れないから一つ書きます。
単純にエロが書きたいだけのものです。
書きためなしです。
いつもより早く起きて、電車に乗った。
それが間違いだった。自分が花も恥じらう女子高生だったことを忘れていた。
社内はおっさんの加齢臭やら汗臭さやらが充満して、最悪の極み。
社会の歯車の一つとして頑張っている?
そんなの知ったことではない。
こっちは女子高生だ。
将来の保険料やら年金やらのために生かされてるようなもんだろ。
むしろ、敬って欲しい。
ああ、話がずれた。
とにかく朝の電車内は、人に押されてもみくちゃにされて最悪だった。
私はとにかく早く椅子に座りたくて、座席のすぐ近くに陣を構えた。
鼻息の荒い、お腹だけが妙にでっぷりとした子豚の隣に仕方なく立つ。
と、ちょうど電車が止まった。
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駅のホームで待っていた、余裕のないサラリーマンに道をあけてやる。
そいつは子豚の腹に一度当たって、跳ね返りながらもバックを盾にまた奥へと邁進していった。
続いて雪崩のように人・人・人。通勤ラッシュ。
最後尾に同じ高校の制服を見かけた。
肩より少し短いショートカットのクラスメイト。
名前は佐藤。下の名前は知らない。
話したこともない。
まず、グループが違う。
大まかに言えば、私は体育会系。佐藤はどちらかというとおっとり文化系。
話もどうせ合わないから、話しかけたことはない。
いや、嘘だ。後ろの席だから、プリントを渡す時とかに、何度か声はかけた。
線の細いか弱い印象。
たぶん、私が触ったら折れる。たぶん。
そんなことを考えていたら、隣から声がした。
「おはよう」
これまた、蚊の鳴くような声だった。
聞こえないふりをして遊んでやっても良かったが、どうも佐藤は息を切らしているようだった。
「おはよう」
オウム返し。佐藤は透けるような白い頬を赤くさせて、肩で息をしていた。
佐藤は扉の前に立っていた。そして、キョロキョロと辺りを見回す。
「何してんの?」
「えっと、どこ持とうかと思って」
確かに、佐藤の背ではつり革を持つことは物理的に不可能だった。
そして、移動しようにも子豚が邪魔している。
仕方ない。
「ちょっとおじさん」
「ふー?」
日本語で喋れ。汗を撒き散らしそうな勢いで子豚がこちらを振り返る。
「この子そこに移動させてあげてよ」
「ふー!」
いや、たぶん日本語を喋っているのだろうけど、私にはふごふごという雑音のようなものにしか聞こえなかった。
それでも、OKサインを手で出してくれたので、意思が通じたことだけは理解できた。
子豚が左脇のOLに怪訝な顔をされながらも、横にずれる。
意外といいやつ。
「ありがとう」
人並みに飲まれながら、もはや姿も見えない場所から佐藤が言った。
「どーも」
私はちょっとばかりこそばゆくなりながら、携帯を取り出して意味もなくメールを見た。
受信なし、と。
電車が発車する。学校まで20分。それまでこの体勢か。
きついな。
地べたに座り込みたい気分になったが、私だって車内の複数人から恨みを買いたくはない。
幸い子豚が斜め後ろに移動したおかげで、子豚ヒートと子豚ブレスからは解放されたわけだ。
電車が一際ガタンと揺れた。態勢を維持するために必死に手すりを掴む。
窓から見える景色が大きく斜めにずれていく。
「ひゃあ」
聞き取れたのが奇跡、と思われるくらい小さな声で佐藤が悲鳴を上げた。
たぶん、この揺れで押しつぶされたに違いない。小さいから。
まあクラスメートのよしみで人道支援してやりたいけど、残念ながら私の入る隙間がもうない。
悲しいかな。
次の駅に着けば、またアリのような大群が押し寄せてくるのだろう。
細くて良かった。少しでも空間を食わずに済むし。
うちのオヤジと一緒に満員電車に乗った時のことを、ふいに思い出す。
もうちょっと、体の節々が引っ込んでいたら、あの時あの小学生の女の子を電車の中に入れられたのに。
それから、無条件でお腹の大きいやつが憎くて仕方ない。
親戚のガキンチョに、大人になったらみんなお腹大きくなるのって聞かれたことがあるが、
断じて違うと言ってやりたい。そうならない努力をしてもらいたいもんだ。
私がひとりで勝手にイライラしていると、車内放送が流れてきた。
耳障りな音楽に、ラップが混じっている。
斜め後ろのOLが舌打ちしている。
むっちゃ怖い。
そういうのは心の中で留めといて欲しいもんだ。
たんたん、と続いて足音。
座席にいる若いイケメンリーマンが音楽を聞きながら、足でリズムを刻んでいる。
イケメンだからって何でも許されると思ったら大間違いだ。OLはどうやらそれで苛立っていたようだ。
私は自分には甘いが他人の迷惑行為には厳しい。
とくに、朝の寝起きはイライラする。
そして、せっかく早く起きてこの電車に乗れた幸せな気分が、もはや30%としか残っていない。
人知れずため息を吐く。
「……ゃ」
また、壁1枚くらいの隔たりがあるんじゃないかと言うような小さな声が聞こえた。
佐藤が、再び押しつぶされているのかもしれない。
私は少し頑張って体を捻ってみる。ちっこい佐藤が窮屈そうに立って、プルプルしている。
おーおー、押しつぶされている。
可哀想に、後ろにおっさんがいて、ちょうどそいつの口元が佐藤の首筋あたりに位置してしまっている。
そのポジショニングは狙っているとしか思えない。
(なんだ、あいつ近すぎない?)
合わせてなんかない。この温もりにずっと包まれていたい。
佐藤が私を好きだと言ってくれることも、嬉しい。
ただ、なぜか、私の喉の奥には、魚の小骨を引っ掛けたような気持ちがぶら下がっていた。
「どうしたの?」
「ううん……」
考えるのは止めだ。考えてもどうしようもない。
今、この瞬間は私は幸せだ。それでいい。
「宮下さん……夜は大人しい」
「そう……かもね。それか、さっきはしゃぎ過ぎて疲れたのかも」
「そっか……」
「このまま、抱きついて寝てもいい?」
「いいよ」
佐藤が柔らかく私を見て、微笑む。包まれてるって、こんな感じかな。佐藤の小さな体が、とても大きく感じられる。
抱きしめる力を強めたり、弱めたりして、そうしていつの間にか私は眠ってしまっていた。
翌朝、慌てる佐藤に体を揺すぶられて起床した。
正確には半分瞼が開いた状態で、視界に佐藤の胸の辺りが飛び込んできた。
「おはよう、宮下さんっ……学校に遅れるよっ」
「お……っぱい」
「……」
眠い。目が開かない。もう、無視しよう。
「宮下さんっ……起きて」
「ムリムリ……ムリダーヨ」
「……制服は?」
「……」
目をつむったまま、私は腕をのそりと上げる。
「あそこに……ひっかけて」
「あれだね……」
佐藤はごそごそと、何か音を立てている。
ただ、私は眠すぎて目を開ける力はない。
と、急に布団が剥ぎ取られた。しかし、私は微動だにしない。
「……もう、脱がすよ」
なにい? が、私は動く気はない。
胸元のボタンが外されていく気配を感じた。
「……家政婦?」
「家政婦だって……こんなことしない」
ヒヤッとした空気が胸元とお腹を撫でる。
「起き上がって……」
「や」
私は足元の布団をまた引張てきて、潜り込む。暖かい。気持い。寝よう。
「やって……どうしよう」
どうもしなくていいから。
「……もう一緒に寝よ」
のそのそと、私は佐藤の体を布団の中に引きずり込もうとする。
「わ、たし制服だからっ」
「よいよい」
「よくないよくないっ」
佐藤の困った声が布団の上から降ってくる。
あー、でもそろそろ起きないと遅れるような気はする。
起きようか。起きまいか。いや、起きなきゃダメなんだけど。起爆剤欲しい。
「さとーさん……」
「なに?」
「ちゅー……」
布団の中でもごもごと私は言った。
「……ええ」
「さすれば……むにゃ」
「そんな……」
悩んでる佐藤可愛い。早く早く……あ、あれ、でもこれ悩んでいる間に起きれそうな気がする。
脳みそがだんだんと覚醒していく感覚。目が冴えてきて、
「ふんっ……あ、起きれた。おはよう!」
私は上半身を起こす。
「……」
その後、なぜかまた佐藤にほっぺたをつねられた。
始業ベルが鳴ったのは、私たちが学校に到着するとっくの前の話だった。今は、佐藤と空き教室で小休止。
携帯を見ると、ハートマークでやたらデコレートされた翔ちゃんからのメールが来ていた。
内容は、ただの冷やかし。
「はあ、授業始まってたね」
「うん」
佐藤は周りから見て、優等生に入る部類だ。こういうことが続くと、進路にも響くだろうか。
「マジで、ごめん……はあ」
寝起きの私よ、恨むからね。
「気にしないで」
とは言え、やることもなしにここにいてもなあ。
幸い、鍵が開いてたから良かったけど。ん? 鍵が開いてるってことは、また誰か閉めに来るんじゃないでしょうか?
コツ――廊下から、靴音。
「お、やばっ……」
「え、あ」
「どこかに隠れる所は……例えば、掃除用具入れとか、あった!」
教室の隅にある掃除用具入れの扉を開ける。よく、漫画とかならここに入って……、
「せ、狭すぎる」
無理だ。二人は入れない。
「ど、どうしよう佐藤……佐藤?」
「ごめん」
「どわ?!」
佐藤は私を突き飛ばして掃除用具入れに放り込み、そのまま、勢いよく扉を閉めた。
衝撃で、私は数秒呆ける。やたら大げさな足音が止まる。
「ここで何してる!?」
「すいません」
「あ、こら逃げるな!」
男の声。どこの担任だろうか、って、じっとしている場合じゃなくて。
私が教室の外に出た頃には、もう二人共その場にはいなかった。
「あのバカ……っ」
どっちに追いかけっこしに行ったんだ。
キョロキョロしながら、廊下に立っていたのがいけなかった。
早いこと、身を隠しながら別の場所に移動するべきだった。
「宮下」
「げ、美香ちん」
「誰が美香ちんだ!」
「……こんな所で会うなんて、奇遇じゃん」
「奇遇も必然もない! お前というやつは、またこんな所で油を売って……授業はどうした授業は!」
「寝坊した!」
「またか!」
「ごめん!」
「ごめんじゃなーい! ちょっと、来い!」
美香ちんが、私の首根っこを引っつかむ。
「わわ、こんな所翔ちゃんに見られたらなんて言われるか」
「ば、バカ。あいつのことは今は関係ないだろ」
「浮気現場?」
「違う!」
「って、今美香ちんと付き合ってる場合じゃないから」
「どの口がそれを言うか……」
「今、急いでんだって」
「……佐藤か?」
急に立ち止まって、美香ちんが肩越しに私を睨みつける。
睨むというか、見据えるというか、悪意はない。それが分かったから、私も少し冷静に返事を返す。
「うん、そう」
「……宮下」
「何さ」
そこで、美香ちんは少し言いにくそうにして、私の肩に手を置いた。
「佐藤は……やめておけ」
「……は?」
「いや、だから……その」
「急に何なの美香ちん……」
私は美香ちんに多少苛立っていた。
「理由は、お前の方が分かるんじゃないのか……」
「だから、何の理由なの」
「佐藤……には父親がいる。この意味、分かるだろ」
「分かりません」
「……宮下、あまり大きな声では言えないが、佐藤は」
私は、そこで美香ちんの腕を振りほどいた。
「美香ちんのアホンダラ!」
「み、宮下……!」
私は階段を駆け上がって、上に逃げた。美香ちんは追ってこない。
何、遠慮してんだろう。馬鹿だなあ。先生なんだから、しっかり生徒追いかければいいのに。
でも、ひどいじゃん。せっかくできた友達。せっかく知った温もり。
ちゃちな表現だけどさ、幸せな気分が台無しだよ。
「あーあ」
私は屋上の扉を思いきり蹴っ飛ばして、開けてやった。
そこには、それなりに綺麗な空が広がっていた。
レス142訂正:こんなところ武ちゃんに見られたら
その日、私は昼休みから教室へと顔を出した。翔ちゃんが、嬉しそうに抱きついてきたけど、少しだけ罪悪感。
「佐藤は? 来てない?」
「佐藤さん? 来てないなー」
「おかしいな、私より先に捕まったのに」
「捕まったって……どうせ、翔ちゃんの遅刻のとばっちり受けたんでしょ」
「あー、うんそうなんだけど……」
「どうしたの?」
歯切れの悪い私に、武ちゃんが首を捻る。
「いや……」
「気になるの?」
「そりゃ、まあ」
「……何かあった?」
あって欲しくはないけれど、あったと言う事なのだろう。
先ほど美香ちんに言われた言葉が、喉に刺さっていた小骨に張り付いている。
親父がどうしたって言うんだ。佐藤の中の親父の存在がなんだって言うんだ。
「美香ちゃんに聞いてみようか?」
武ちゃんが、いつになく真面目な顔で言った。
武ちゃんが、甘えに甘えて美香ちんから聞き出してくれたのは、佐藤の家の住所だった。
佐藤は、どうやら父親が探していたらしく学校に電話が掛かってきていたようだ。
(武ちゃん、美香ちんありがと)
私を掃除用具入れに隠した後、佐藤は父親に強制送還されて行ったらしい。
無断外泊、連続遅刻で担任も父親と一度話をした方がいいだろうと判断したのだ。
どうして、こういう問題を当事者だけで片付けさせるのか。
当事者同士に問題があるから、亀裂が入るんじゃないの。
あいつの家は、蜂の巣か何かか。
「……」
私は携帯の地図から目を話し、前方の表札に視線を転じる。
佐藤。普通の庭付き二階建て。玄関横の新聞受けには結構な量の雑誌やら、広告やらが詰まっている。
かと思えば、石段には草一つ生えてないし、庭も案外と綺麗。
インターホンを探したけれど、ついていないようだ。
しょうがなく、玄関の扉を叩く。
「ごめんくださーい」
返事はない。もう何回か叩いてみる。ガラスが割れてしまいそうだ。
しょうがない。手も痛いし、普通に開けよう。引き戸に手をかけると、
「あ……」
案外と、すんなり開いて拍子抜けした。
「こんにちはー」
近所迷惑にならない程度の大声で叫ぶ。外が明るくて気づかなかったが、中は照明がついていた。
こつんと足先に何か当たる。学校指定の黒色のローファーが鈍く光っていた。
「帰ってるよね……」
その靴の横に、男物の靴。それに気づいた瞬間、どうしようもなく気持ち悪い気分が襲ってきた。
嫉妬のようなものかもしれないし、男性に対する嫌悪なのかもしれない。
こんな気持ちは初めてだった。とにかく気分を害する。忘れよう。私は首を振る。
「もしもーし」
不法侵入で訴えられたらどうしようか。
まあ、それでも、いいや。佐藤が無事を確認できたらそれでもいい。
靴を脱いで上がると、ぎしりと廊下が音を立てた。
(やばっ……心臓痛い……)
呼吸が荒くなる。そこからは、できるだけ、音を立てないように奥に進んだ。
と、シャワー音。誰か、お風呂に入っているようだ。
「……え?」
声が聞こえた。男と女。二人分だ。
聞こえたのは、風呂場からだった。
『おと……っさ……もう』
シャワー音をかき消すような、激しい水音。
『っ……はあ……イくのかい?』
『うんっうんっ……イくイっちゃう』
『これじゃあ、お仕置きにならないよ……』
パチュンパチュンと、何かと何かがぶつかり合う音。いや、何かじゃない。
私には分かっていた。それが、佐藤と佐藤の親父が交じり合う音だということが。
私は動けないまま、二人の喘ぐ声を聞いていた。
『もっと……ぐちゅって…‥』
『……こら、耳を噛むな』
『おいひっ……んあっあっ……っぅ』
『……っう』
『私……っ……友達が……できた』
『そう……かい』
『……だから、まだ頑張れるっ……っあはあ』
『うん……っう…‥出す……よ』
『いいっ……よ』
分からなかった。私は、佐藤に騙されていたのだろうか。
だとしたら、滑稽だ。でも、分からない。ならば、なぜ、私に助けを求めるような言葉を発したんだ。
おいおい、佐藤、あんた何がしたいんだよ。私を苛めたいのか。泣けてくるよ。叫んでしまいそうだよ。
この扉をぶち破ってしまいたい。でも、言うべき言葉は私の中のどこにもなかった。だから、私は何もできなかった。
私は二人の絶頂に達する声を聞いた。鶏の断末魔みたいだった。
これは、何の試練だろうか。佐藤の悦のこもった声は余りにもエロくて、少し濡れた。
佐藤と父親はまだ風呂場から出る気配はない。親父は、また娘に挿入していた。
佐藤の感じる声は、私が知るよりも卑猥で激しく甲高い。荒々しさに酔いしれている。
「……っ」
その声を何度も何度も聞いていると、まるで自分が佐藤を犯しているような気分になってくる。
ホテルで見た、ベッドの中で感じた愛おしさが込み上げてくる。
そしてそれが、一気に冷めていくのも分かった。
こういう要素があるなら最初に書いておいてほしかったな
私は佐藤のことを何も知らなかった。それが悔しくて悔しくて、泣いた。
気がついたら、近くの公園のベンチで膝に顔を埋めて泣いていた。
携帯を見ると、武ちゃんから、『今、どこ?』と短いメールが送られていた。着信も4件程あって、全部武ちゃんだった。
私はそれに返事を返す。来て欲しいけど、来て欲しくない。そう送って、場所も何も告げずに携帯をカバンの奥底に突っ込んだ。
「……うっ……ひっぐ」
これっぽちも女の子らしくない泣き方で、私は声を押し殺す。
斜陽がまだ、私を照らしている。早く沈んでしまえ。
こんな所で泣いていても、非生産的だ。でも、家に帰って一人で泣いて、佐藤のことを感じるのも嫌すぎる。言うなれば、何にもしたくない。
「っ……うえっ……ぐ」
ティッシュも持ってない。ハンカチもない。顔、誰にも見られたくない。
「っず……っ」
>>151 ごめん、最初は入れる予定なかった。バッドかハッピーかも決めてないので、切るなら今のうちかも……
今、思えば、親父の痴漢を防ぐ方法なんていくらでもあったんじゃないだろうか。
だって、毎週金曜日にあの車両にいなくていいし、椅子のそばにだって頑張れば陣取ることはできる。
そもそも、佐藤は泣いてはいたが、痴漢を撃退する練習などと言ってはいたが、痴漢を拒否するような決定的な言葉を言っていない。思い返せば返すほど、私は踊らされていたような気さえする。
「っ……っず」
でも、そんなことはどうでも良かった。佐藤が一緒にいてくれるなら、どうでもいい。
鼻をすすり過ぎて、鼻腔がつーんとする。
「いた……」
一緒に、カフェに行ったりカラオケに行ったり、旅行に行ったり……。
そんな風に考えていたのは私だけだったのだろうか。それは、特別なことじゃないけど。
「友達か……」
佐藤が、風呂場でよがりながら言った言葉だ。
友達になったばかりなんだ。これからだったんだ。なのに、こんなのってない。
公園の街灯が灯る。気がつけば、辺は真っ暗だった。
蛾の群れの下で、私は砂利音に顔を上げる。
「……佐藤」
「武子さんから宮下さんが……私の家に行ったって」
私の知っている佐藤だ。少し、おどおどしてる。だから、だろうか。私は驚くことも逃げることもせずに、返答した。
「行った……」
「……あ」
「聞いた」
「……なにを」
「風呂場の……」
その一言で、佐藤は默した。言い訳を考えようとしているのか、それとも事実をありのままに受け止めているのか。
「みやしたさ」
「あんたさ、親父のこと本当に好きなんだね……」
何か言う前に、私は遮った。
「それだけ愛されてるなら、そりゃあ痴漢の一つや二つはしちゃうよ。ごめんごめん、変な介入しちゃったわ」
「そうじゃ……」
「あー、大丈夫誰にも言わない。今日のことは、武ちゃんにも誰にも。今、忘れる。すぐ忘れる、はい忘れた!」
私は乾燥した唇と、口内をひきつらせるように笑った。
「これで大丈夫」
勝手に家に入ったことは言及して来なかった。それが、佐藤の攻めるポイントだと思っていたけれど。佐藤は何も言い返してはこない。
「……」
「それからさ、金曜の話し。あれ、やっぱり無しね」
「え?」
「だって、どう考えても迷惑だと思うもん。ごめんごめん」
「そんなことないっ」
「嘘ばっかり。お父さん困るじゃん」
「そうだけど……」
「佐藤は、お父さん困らせたくないんでしょ」
「それも、そうだけど……」
「だったら、もう私出る幕ないし」
ちょっと2時間程抜けます
私はまた顔を膝に埋めた。もう、佐藤の顔を見てられない。
自分の言った言葉が、割れたガラスのように胸の辺りに降り注いでいるようだった。
「お父さんは好き……何よりも大切」
「うん……」
「でも、痴漢とか、セックスとかダメだって分かってる」
「ん……」
「それでも……嫌じゃないの……小さい頃から少しずつそうなっていった」
小さい頃から、親父の手垢がついてる。こいつの貰い手はいるんだろうか。
むしろ、親父が許してくれるのだろうか。佐藤、あんたずっとこのままでいいの。
私には色々言いたいことがあったけれど、それを飲み込んで佐藤の言葉を黙って聞いた。
「私とお父さんは……きっと切っても切れない……おかしな事だと思う」
「……」
いつか、あの家を出る時が来るかも知れないよ?
いつまでも、学生じゃないんだから。家族だからって、いつまでも一緒になんて、夢物語に過ぎないでしょ。
そうしたら、私と佐藤なんてもっと永遠から程遠い。
「ずっと、こんなことばかり繰り返してたから……」
砂利が鳴る。顔を上げる。佐藤がジャングルジムの方へ歩いていく。
「頭の重要な部分が、麻痺してるのかも……」
彼女は懐かしむように、見上げていた。少なくとも私にはそう見えた。
「でも」
佐藤は、ジャングルジムに登り始める。小さな彼女は、一見すれば小学生に見間違えてしまう。
昔は、ここでこうやって遊んでたのかもしれない。
「電車で宮下さんが私を助けてくれた時……っしょ」
檻の上まで登った佐藤は、その頂上でゆらゆらと仁王立ちしていた。
「危な……」
私は、どきりとして立ち上がる。
「その時、私……始めて怖いと思った。お父さんのこと。それと……あっ」
佐藤の体が、斜めに倒れていく。無音のスローモーションビデオを見ているようだった。
お尻を打ち付けるように、佐藤は檻から落ちた。
「佐藤!」
そんなに高さはなかったが、私は走って佐藤の元に駆け寄る。
彼女はしゃがみこんで、お尻をさすっている。
「大丈夫っ? ばか、あんな所に登るから……」
「大丈夫……むしろこれくらい当然なんだと思う」
「はあ……?」
「宮下さんを傷つけた分、私も傷つかないといけない」
「……何言ってんの。私は、これっぽちも傷ついてませんが?」
「……そっか」
佐藤は服についた土を払いながら立ち上がる。
「宮下さん……」
馬鹿な私。涙でぐちゃぐちゃの顔を見せておきながら、恥ずかしげもなくよくそんな事言えたものだ。
「……人生色々、女も男も色々だし」
適当にはぐらかす。佐藤は足元をふらつかせながら、ポケットからハンカチを取り出した。
「これ、使って」
「……ありがと」
素直に受け取って、目元を拭う。ついでに、鼻も噛んでやった。ささやかな抵抗だった。なんともまあガキ臭いこと。
「はい、どうも」
「うん……」
「……もう、遅いから、私帰るわ。あんたも、お父さん心配するから帰んなよ」
この辺は、街灯も少ない。田舎過ぎる。
それこそ、正真正銘の痴漢に出会ったら事だ。
「じゃあね」
私は踵を返す。佐藤に背を向け、逃げるように歩き出す。ハンカチなんて意味ない。優しくするな。
「宮下さん……」
佐藤が私の手を掴む。柔らかな体温。握り返したい。
けれど、私は振り向きはしない。
「佐藤……もう」
「……気味が悪いって分かってる。でも、お願いがあるの」
「お願い……?」
「お父さんのことなかったことにはできない。でも、離れる努力をしたい」
「何を……」
「勝手なお願いなのは分かってる。だから、一度だけ言うから」
私の手がじんわりと湿っていた。私のではなく、佐藤の汗だった。
「金曜日、もう一度一本早い電車に乗って、一緒にお父さんを止めてください」
佐藤がなぜ未だにそんなことを言うのか、私には理解し難かった。その心変わりは、一体何故なんですか。
私のためなんですか。そう思っていいんですか。思わせぶりじゃないんですか。後ろを盗み見る。佐藤はその小さな体を半分に折り曲げて頭を下げていた。
小さな頃から染み付いたものを、そう易易と変えられるものなのかっていうね。
そうそう、私たち別に付き合ってるわけじゃないし。
ていうか、近親はまずいし。
佐藤このままほっといたらやばいし。はっ。
「……」
私は怒っているのか。苛立っているのか。それは、もう水に流していたのか。
佐藤の行動に一喜一憂し過ぎだ。自分の気持ちがよく分からない。佐藤の家のこともよく分からない。
でも、後ろの席で、ロクに話もしないのにいつも笑ってくれる彼女のことが、私は――。
「………っ佐藤のバカあああああ! 好きだバカああああ!」
夜の帳に飛び込むように、公園から猛ダッシュで私は走り去ったのだった。
その夜、私は武ちゃんに電話した。まず、電話を無視したことを謝った。
美香ちんを振り切って逃げたことに対しても謝った。
そのお詫びに、武ちゃんの好きなものを一個買ってあげることを約束したら許してくれた。
『おい、私は?』
後ろの方から、ドスの利いた美香ちんの声。
「ええっと」
『冗談だ。おまえ、ちゃんと帰ったのか?』
「帰ったって」
『佐藤の家に行ったのか』
「うん」
『そうか。ま、まあ……その気にするなよ。そういう家庭もある』
「美香ちん……知ってたの?」
『1年前に佐藤が学校に行ってない時があって、その時に家庭訪問に行ったんだが……まあうん、そんな経緯で』
「止めてよ」
『無茶言うな……』
悩ましいため息が電話越しに聞こえる。
『親子の度の過ぎるスキンシップだと思えば……』
「いやあれは……!」
『なんだ? 途中で』
待てよ、美香ちんが見たものと、私が見たものにずれがあったらどうする。
どの程度のものを見たんだ、美香ちんは。私が見たものだとすれば、もっと事は大きくなっているはず。
「いやー、ファザコンだと思うよ、実際」
『互いにコンプレックス持ちならば止めようがないだろ』
「……そうですね。もう美香ちんはいいから武ちゃんと代わってくださーい」
『おま、仮にも教師に『あ、はいはい。聞いてたよ』
「武ちゃん、頼みがある」
『……みなまで言うない。分かってる』
「美香ちん、後ろ?」
『ううん、ベランダに行ってるよ』
その夜、私は武ちゃんに一つだけお願いをした。
佐藤はきっと怒るだろう。いや、泣くか叫ぶか悲しむか。
けれど、これだけは譲れなかったのだ。
その日、その曜日。
私は、いつもより早く起きて、電車に乗った。それが間違いじゃなかったことを証明してやる。
「武ちゃん、あんたスカートの下にジャージ履かないでよ」
「朝練の時の癖でつい」
「ま、そっちの方が武ちゃんはいいか」
「でしょー」
電車が揺れる。後ろの何か柔らかなものにあたって前のめる。
「あ、すいません……あ」
前の子豚だった。相変わらずだね。何がとは言わないけどさ。
「武ちゃん、ちょっと寄って。もう少しで電車着くから」
「はーい」
電車が止まり始める。金属の金切り声がうるさい。
ホームで待つ人・人・人。すし詰めの車内は、特に動きはない。
極力不自然のないように、私は周囲に目を見張る。
電車が完全に止まる。先頭の一人がタッチダウンを決めるアメフトプレーヤーのように、容赦なく満員電車に突っ込んでくる。ほかの乗客もそれに続く。
「うおっ……」
武ちゃんは小さすぎて、波に飲み込まれないかと心配だったが、鍛え抜かれた足腰のおかげでむしろ乗客を跳ね飛ばさん勢いだ。と、最後尾に同じ高校の制服を見かけた。
肩より少し短いショートカットのクラスメイト。
佐藤だった。佐藤は、目を見開いていた。何せ、あれから私は教室で一切佐藤と会話しなかったから。たぶん、嫌われてたと思っているに違いない。
「……」
「……」
すれ違って、佐藤はまた押し流されていく。
私は挨拶はしなかった。でも、これでいいのだ。佐藤が嬉しそうに車内に乗り込んで来られても困るし。なにせ、これから佐藤の嫌がる方法で、佐藤の親父を止めるのだから。嫌われていると思っていた方が、やり易いじゃん。
その代わり、佐藤の行き着く先をチラチラと確認した。後ろに何人かいる。が、佐藤のすぐ真後ろに陣取っているのは――
一人。その男はニットと薄茶色のサングラスを掛けて、文庫本を片手で持って読みふけっている。
電車が発車する。私は武ちゃんと目配せする。
私たちは現行犯でとっちめるなどと、そんなことは考えちゃいなかった。
男の方を見る。やはり、そいつだった。
注意して見ると、文庫本がカモフラなのはバレバレだった。
サングラスを上にずり上げて、電車の揺れに合わせて動いているようにも見える。
(……家で飽き足らず、電車でも痴漢か……)
その後、何駅か過ぎて学校に着く直前に、後ろの子豚が急に話しかけてきた。
「え? なに」
「ふー」
「あ、久しぶり……今日はいいよ。ありがと」
「ふー?」
「大丈夫。任せて」
「ふー……っ」
「そんなそんな、照れるって」
隣を見ると、武ちゃんがキョトンとしていた。
その顔は、どうやって会話しているの? って顔だな。何となくだよ。
(さて……)
果たして、電車は学校のある駅に着いた。
佐藤はなぜか降りようとしない。
(あいつ、なんで降りないわけ……っ)
このままだと佐藤も現場に居合わせることに。後からなら、いくら罵声を浴びせられても構わない。
でも、一緒だと決心が揺るいでしまう。いや、でもいて欲しいような。ああ、くそ!
などと一人で百面相をしている間に、電車は次の駅へと向かっていた。
親父はマスクを装着している。手馴れてやがる。
アナウンスが鳴り、扉が開く。佐藤の親父は大きめのバックに文庫本を突っ込み、娘から顔を隠すようにして電車を降りていく。私たちもそれに続く。佐藤の親父は、すでに走っていた。たぶん、何か勘付いたんだ。
そりゃ、娘が下車する駅まで付いてきたらそりゃびびるか。
「武ちゃんっ」
「うん」
後ろから、佐藤が着いて来ていたが構わず親父を追いかける。
やっぱり私もジャージを履いてくるべきだったかな。
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