【閃の軌跡】リィン「日々の軌跡」 (161)

――喫茶・宿泊《キルシェ》 テラス席


サァァ……


ラウラ「……」


ラウラ「(唐突に降られてしまったな……)」


ラウラ「(今日は傘を持って来てはいないんだが……)」


ラウラ「(ふぅむ……。 どうしたものか……)」


ラウラ「……」


ラウラ「(……いや、秋雨に濡れるというのもまた、一興か)」


ラウラ「(………………よしっ。 ここは駆け足で――)」


「……ラウラか?」


ラウラ「!」


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リィン「やっぱりラウラだったか」


ラウラ「リィンか。 奇遇だな」


リィン「確かに、ラウラと帰りの時間が重なるなんて珍しいな。 部活帰りか?」


ラウラ「あぁ。 そなたは、今日も生徒会の手伝いか?」


リィン「そんなとこかな」


ラウラ「いくらサラ教官のためとはいえ……。 あまり精を出し過ぎるのも良くないぞ。 適度に息抜きをしなければ」


リィン「ははっ。 忠告ありがとう。 でも、俺にとってはこれが息抜きみたいなものだからさ。 少なくとも、苦ではないよ」


ラウラ「それならばいいのだが……」


ラウラ「(……本当に奇特な人間だな)」


リィン「ところで、ラウラ」


ラウラ「ん?」



リィン「もしかして、雨具を持って来てないのか?」


ラウラ「あぁ。 今日は天気予報を確認し忘れてな。 不注意だった」


リィン「いや実際、今日の天気予報では日中晴れだったんだが……」


ラウラ「……? それでは、なぜそなたは傘を持っている? 学校に持参したのだろう?」


リィン「あぁ、シャロンさんに言われてさ。 あの人の予感って、どこの天気予報よりも的中するんだよな」


ラウラ「なるほど……。 これからは私も一言尋ねることにしよう」


リィン「はは、そうしてみてくれ」


リィン「……」


ラウラ「……? どうした?」


リィン「そういえば、こんなこと夏の日もあったな」


ラウラ「……確かに、にな」


リィン「……」


ラウラ「……」



リィン「ラウラ。 もしよければ、傘に入ってかないか?」


ラウラ「!」


リィン「俺は今、学生寮に戻るところだったんだが……。 ラウラも帰ろうとしていたのなら」


ラウラ「……以前も言ったと思うが、軽々しく女子を相合い傘に誘うものではないぞ?」ジトッ


リィン「うっ……」


ラウラ「気遣いはありがたいが、遠慮させてもらおう」


リィン「そ、そうか……」


ラウラ「なに、ここから学生寮までの距離など、大したものではない。 少しばかり急げば、すぐだろう」


リィン「……」


ラウラ「それじゃあ、先に行かせてもらうぞ」タッ


リィン「待った」


ラウラ「!」ピタッ


リィン「やっぱり、傘に入って行かないか?」


ラウラ「……リィン?」ジトッ


リィン「へ、変な意味じゃないぞ?」アセアセ


リィン「もう10月も後半に差し掛かろうとしているわけだし、風も冷たい」


リィン「夏頃とは違って、秋雨とはいえ、この時期の雨は急激に体温を冷ましてくる」


リィン「それで風邪を引いてしまっては、明日の自由行動日も無駄になってしまいかねないし……。 俺もばつが悪いからさ」


ラウラ「……」


リィン「俺との相合い傘に引け目を感じているのなら、俺のを使ってラウラが帰ってくれ。 男の方が体力があるわけだし……」


ラウラ「あ~……。 もう、わかった、わかったぞ」


リィン「!」


ラウラ「リィン……。 人を思いやるのはいいが、まくしたてるような強引な物言いはあまり好ましくないな」


リィン「す、すまない……。 つい……」


ラウラ「……ふふっ。 もちろん、そなたの心遣いは嬉しいが。 私は、ある意味そこにそなたらしさを感じていただけだ」


リィン「お、俺らしさ……?」


ラウラ「……それでは、隣りに失礼させてもらうぞ」スッ


リィン「……え」


ラウラ「……なんだ。 そなたから誘っておいて、なぜ目を丸くしている?」


リィン「いや、傘は渡すから、1人で帰ってもらってもいいんだぞ?」


ラウラ「日頃からハードなスケジュールをこなし、疲れ切っているのはお互い様だろう?」


ラウラ「ここでは、女性も男性も、貴族も平民も関係なく、平等にしごかれているのだからな」


ラウラ「そんな中で、そなたにだけ無理をさせるわけにはいくまい。 それに、そなたが風邪を引いてしまっては、私も『ばつが悪い』からな」


リィン「……」アングリ


リィン「…………ふっ。 あはは、参ったな。 これは1本取られたよ」


ラウラ「まったく……。 そなたは他人のことを慮るあまり、自分のことを疎かにし過ぎなのだ。 こちらとしては、逆にそなたを気遣ってしまう」


リィン「すまない……」


ラウラ「謝る必要は無い。 そう言った至らない面を補い合うのも、仲間の役目だろう?」


リィン「…………ラウラには、本当に敵わないな」クスッ


ラウラ「ふふっ。 それでは、行くとしようか」



――帰り道


ラウラ「……」


リィン「……」


ラウラ「……」


リィン「……」


ラウラ・リィン「――あの」


ラウラ・リィン「!」


ラウラ「なんだ?」


リィン「い、いや。 ラウラの方こそ、どうした?」


ラウラ「……いや、私も別段話すことがあったわけでもないのだが……」


リィン「そ、そうか……」


ラウラ「……」


リィン「……」


リィン「……あのさ……。 ラウラって、水が似合うよな」


ラウラ「……? 水が似合う、とは?」


リィン「ラウラの実家の方にある湖畔を眺めているときだって、水泳部で練習をしているとき、それに、今雨を背景にしているとき……」


リィン「なんか、ラウラがいると、全て『画』になるな、と思ってさ」


ラウラ「……」カァ


ラウラ「……リィン」


リィン「……ん?」


ラウラ「そなたは、よくもまぁ、そのような歯の浮くような台詞を飄々と吐けるものだな……」


リィン「!?」


リィン「あ、いや、似合うってだけで、他意はないんだ! 気を悪くしたようならすまない!」


ラウラ「悪い気はしないが……。 まぁ、素直に受け取っておこう」


リィン「あはは……」


リィン「……」


ラウラ「(……ん?)」チラッ


ラウラ「……!」


ラウラ「……はぁ」


ラウラ「(誤解されそうだが、仕方があるまい……)」


ラウラ「……」スッ


ぎゅっ…


リィン「!?」


リィン「ら、ラウラ!?」アセアセ


ラウラ「そなたの肩が思い切り濡れているのは、私の方に傘を傾けているからだろう?」


リィン「あ……」


ラウラ「女子として、そなたの気遣いは嬉しく思うが……。 私は誰とも対等でいたい人間でな。 こうすれば解決するだろう?」カァァ


リィン「ラウラ……」


ラウラ「さ、さぁ。 さっさと行くぞ。 幸い、あと学生寮まであと300アージュ程度だ」


リィン「そ、そうだな。 俺の方はまだしも、ラウラは俺なんかとこうしていて勘違いされたら困るからな」イソイソ


ラウラ「!」


リィン「少し足を早めよう」


ラウラ「……リィン。 ……一言言っておく」


リィン「……へ」


ラウラ「そなたは普段から自分のことを卑下し過ぎだ。 誰からも信頼されているのだから、その信頼を自ら足蹴にするような発言は控えた方が良い」


リィン「す、すまない……。 つい……」


ラウラ「それに……」


リィン「?」






ラウラ「私は、周囲に勘違いされたら困る様な相手と、このようなことをする女子では、ないぞ……?」






リィン「……!」ドキッ


ラウラ「……」


リィン「ら、ラウラ……。 それって」


ラウラ「か、かといって! このような光景を見られたいわけでもない! 誰かに見られる前に、さ、さっさと歩くがよい!」グイッ


リィン「あ、あぁ! わかった――」



ゴロロロロ……



リィン「……あれ?」



ザァァァァァ……!!


ラウラ「……雷雲も来てしまったか」


リィン「困ったな、雨脚もますます強まりそうだぞ……」


ラウラ「こうなったら、いっそのこと走って帰るか?」


リィン「いや……。 せめて、雷が止むまではどこかで雨宿りをした方が良いだろう。 雷雲の方はゲリラみたいだし、少しずつ引いて来るだろうから」


ラウラ「……一理ある」


リィン「もちろん、ラウラの方が急ぎなら送って行くが……。 どうする?」


ラウラ「……ふふ、ここまで来たら何かの縁だ、最後まで付き合わさせてもらおう」


リィン「悪いな。 それじゃあ……。 そうだな、それじゃあ、そこの雑貨屋まで少し戻るか」


ラウラ「あぁ、そうしよう」


――食品・雑貨ブラントン商店


バタンッ


ラウラ「はぁ……。 案の定、相当な大降りになってきたな」


リィン「あのまま学生寮まで歩いていたら、傘があってもずぶ濡れになっていただろうな」


店主「おぉ、こんな天気に誰かと思えば、リィンくんとラウラちゃんか。 すげー大雨だな、こりゃあ」


店主「トリスタ放送の天気予報では日中快晴っつー話だったのに」


ラウラ「こんにちは、ご主人。 雨宿りの屋根代わりにしていってすまないが、少しの間いても構わないだろうか」


リィン「もちろん、来たからには何かしら買って行きますよ」


店主「んなこと気にしなくてもいいっての! まぁ、ゆっくりしていってよ。 特に見るもんがなかったらそこの椅子に座って待っててもらっても構わんぜ」


リィン「お世話になります」


ラウラ「感謝する」



リィン「(ご主人はあぁ言ってるが、流石に何かしら買って行かないとこちらが申し訳ないな……)」


ラウラ「リィン」


リィン「ん?」


ラウラ「折角だから、また私の買い物に付き合ってもらっても構わないか?」


リィン「え……?」


ラウラ「春頃だったか……。 買い物に付き合ってもらっただろう? みっしぃのぬいぐるみを買った時に」


リィン「そういえば、以前も『女の子らしいもの』を選ぶのに四苦八苦していたっけ」


ラウラ「あぁ……。 あれからも何度か1人で訪れているのだが、『普通の女の子』の感性を理解するには至っていないのでな……」


ラウラ「もちろん、疲れているのならば、そなたは座っていてもらって大丈夫だぞ」


リィン「いいや、付き合わせてくれ。 俺でもラウラの役に立てるなら、ぜひ」ニコッ


ラウラ「っ」ドキッ


リィン「……? どうかしたか?」


ラウラ「い、いや、何でも無い」アセアセ


ラウラ「(……こ、この男の口ぶりは、何とも人を惑わせるな……)」ハァ




ラウラ「これはどうだろうか。 私としては凄く興味をそそられる造形をしているのだが……」


リィン「龍の置物は、普通の女子は欲しがらないと思う……」


ラウラ「……そうか……。 それなら、あれはどうだろうか」


リィン「あれ?」


ラウラ「あの奥にかかっている掛け軸だ。 先ほどから気になっていたのだが、中々の名匠が描いたものだろう。
気迫が感じられる一品だ」


リィン「掛け軸の時点で……女子向け、ではないんじゃないか……?」


ラウラ「……」


ラウラ「…………はぁ………」ガックリ


リィン「そ、そんなに落ち込まなくても」ニガワライ


ラウラ「やはり、私には理解し難い感性のようだぞ……」


リィン「うーん……」






リィン「……そうだ。 ラウラ、見る物の種類を変えてみるのはどうだ?」


ラウラ「……ほう」


リィン「今までは実用品や置物を見ていただろう?」


リィン「今度は気分を変えて、アクセサリーなんかを見てみるのはどうだ?」


ラウラ「アクセサリー……。 装飾品か」


リィン「俺もよくわからないが、妹がデパートに行くと好んでアクセサリ売り場を見ていたからな」


リィン「普通の女子も、そういうものを好むんじゃないか?」


ラウラ「なるほど……。 確かに、他クラスの女子が話しているのは聞いたことがある!」


ラウラ「早速見てみよう!」


リィン「あぁ!」


リィン「(……よかった、上手くフォローできたみたいだ)」







                クエスト【悩めるお年頃?】を開始した!

 
 
 
 
 
 




ラウラ「……」


リィン「……」


ラウラ「リィン、すまない。 私には全て同じに見えてしまう」


リィン「悪いが、俺も細かなことはわからない……」


ラウラ「たしかに、輝いていて綺麗なのだが……」


ラウラ「……星や三日月の形が変わっているだけで、そこまで変わるものなのだろうか……」


リィン「さぁ……」


ラウラ「……」


リィン「あっ」


リィン「(しまったな、専門外過ぎてこれ以上のアドバイスができなくなってしまった)」


ラウラ「世の女子たちは、どれを『可愛い』と思うのだろうか……」


リィン「……うーん……」アセアセ


リィン「えーっと……。 きっと、こういったものに関しては、個人の好みによる判断が大きいだろうし……」


リィン「ラウラの気に入ったものを選べばいいんじゃないか?」


リィン「良いと思うものがなければ、それまでだと思う」


ラウラ「そういうものか……。 勉強になるな」


リィン「俺も憶測で話しているから、後で是非エマやアリサに確認してもらえると助かるが……」アセアセ


ラウラ「ふふっ、承知した」



…しばらくして……





ラウラ「……リィン」


リィン「ん? どうした?」


ラウラ「これを見てくれ」スッ


リィン「気に入ったものが見つかったのか?」


ラウラ「あぁ。 ……そなたは、どう思う?」


リィン「……どれどれ」


ラウラ「……」ドキドキ


リィン「……滴る水を模したネックレスか。 凄く良いんじゃないか?」


リィン「ラウラに凄く似合いそうだ」


ラウラ「……!」




ラウラ「……」


リィン「……? どうかしたのか?」


ラウラ「えっ。 あ、あぁ、いや」


ラウラ「良かった……。 実は私も、この透き通るような澄んだ青色に魅かれていてな」


店主「ん? ……おぉ、それに目をつけたか。 流石士官学生といったところか」


リィン「……? どういうことですか?」


店主「それ、今朝入荷したばかりの半貴石のペンダントなんだよ」


店主「バリアハートにあるオーロックス峡谷道産で、質が良いんだ」


店主「その代わり少しばかり値も張るんでな。 学生街のトールズに需要もあまりないから、入荷しないもんなんだが……」


店主「最近の寒秋のあおりで、青色は不人気色なんだよ。 だから、普段より格段に安かったんだ


店主「それで試しにって、1つだけ入荷してみたんだよ」


リィン「……なるほど」



店主「前説明が長くなっちまったな……」


店主「ま、とにかくお前らの審美眼が凄いと思ってよ。 思わず口出しちまった。 すまねえな」


リィン「いえ、謝ることなんてないですよ」


ラウラ「……」


リィン「……ラウラ?」


ラウラ「ご主人、これは幾らだ?」


リィン「!?」


店主「……あー。 安かったっつっても、半貴石なわけだからな……。 安くはねーぞ?」


ラウラ「承知の上だ。 気になったものは手に入れないと気が済まない性分でな」


店主「……あ~……」ポリポリ


店主「……。 仕方ねえ、少々利益割れしちまうが、格安でいいよ。 常連さんの頼みだしな」


ラウラ「そういうわけにも……」


店主「いや、いいっていいって。 格安っつっても、普通の学生さんが払うような値段じゃねぇんだし」


ラウラ「……感謝する」


リィン「(俺はまだしも、ラウラは大貴族の嫡子だからな……。 ラウラのことだから十中八九、自分の手持ち金から出しているだろうが)」


リィン「(それにしても、そんなに気に入ったのか……?)」


店主「それじゃ、先払いでいいかい? っつっても、後払いや取り置きなんかは扱ってないから、それしかないんだが」


ラウラ「あぁ、承知し――」ササッ


ラウラ「!」




ラウラ「……」


リィン「……?」


ラウラ「……ご主人、少し待ってくれるか」


店主「? 別に大丈夫だぜ」


リィン「……ラウラ?」


ラウラ「リィン、すまない。 少し出て来る」


リィン「えっ……」


ラウラ「雨が弱まって来たら先に帰ってもらって構わない。 それじゃ――」


リィン「ちょ、ちょっと待ってくれラウラ。 いきなりどうしたんだ!?」



ラウラ「……どうやら、財布を部室の方に忘れて来たみたいだ……」


リィン「!?」


ラウラ「失念していた……。 私もまだまだ鍛錬が足りない」


リィン「(鍛錬は関係ないと思うが……)」


リィン「……あれ? だが、学校ってもう閉まってるんじゃないか?」


ラウラ「……」


リィン「……。 やっぱり、いつもなら既に閉校している時間だ」


ラウラ「……大丈夫だ。 少し門を飛び越えるくらい、大した問題はない」


リィン「大問題だと思うんだが……」



リィン「それに、門を飛び越えても、ギムナジウムの扉だって閉まっているだろう」


ラウラ「……」


リィン「どのみち、今日取りに行くのは無理だろう。 明日の早朝にでも……」


ラウラ「ダメだ。 取り置きができない以上、今手に入れておかないと売り切れてしまうかもしれないだろう?」


リィン「それはそうだが……」


ラウラ「……とにかく、行って来る。 まだ用務員が残っているかもしれない」


リィン「(……)」


ラウラ「さっきも言ったが、そなたは先に――」


リィン「すいません」


店主「はいよ、どうした?」
















リィン「このペンダント、俺が買ってもいいですか?」


ラウラ「!?」



ラウラ「リィン!?」


店主「? でもよ、さっきラウラちゃんが――」


店主「(……)」


店主「あぁ、いいよ。 ラウラちゃん、うちは取り置きなんかはできないんだが、今払えるかい?」


ラウラ「……。 ……いや」


店主「っつーことで。 決定だ」


リィン「ありがとうございます」ニコッ


リィン「それでは……これで」スッ


店主「ひぃ、ふぅ、みぃ……。 はい、確かに支払いは頂いたよ。 ありがとうよ」


店主「……」ニヤッ



リィン「ふぅ。 お待たせ」


ラウラ「り、リィン。 そ、それは……その……」アセアセ


ラウラ「……」


ラウラ「……いや、何も言うまい。 今回は私の失態が原因だ。 甘んじて受け入れよう」


リィン「そうだな、財布やARCUSなんかの大事な携行品は、そうそう忘れてはいけないな」


ラウラ「……」シュン


リィン「おっ、雨も弱まったみたいだ。 そろそろ、行こうか?」


ラウラ「……そ、そうだな」


リィン「それではご主人、ありがとうございました」


ラウラ「……失礼した」


店主「おおう、また来いよ!」






バタンッ





店主「……」


店主「……青春だねぇ」



――第三学生寮前


ラウラ「……」トボトボ


リィン「……」


ラウラ「……」


リィン「……ウラ」


ラウラ「……」


リィン「ラウラ?」


ラウラ「?!」ビクッ


ラウラ「ど、どうした!?」


リィン「学生寮に着いたんだが……」


ラウラ「そ、そうか……」


ラウラ「……」



ラウラ「……リィン」


ラウラ「今日のことは、素直に。 そなたに感謝を」


リィン「いや……。 こちらから誘ったわけだから、お礼なんていらないさ」


リィン「むしろ、俺の方こそ有意義な時間を過ごさせてもらったよ、ありがとう」


ラウラ「……」


ラウラ「それでは、私はこれで。 ……また明日」


リィン「……あぁ、また」


リィン「(……)」



その夜――



――3F ラウラの部屋




ラウラ「……」


ラウラ「……はぁ」


ラウラ「(…………学生寮まで送ってくれたのに)」


ラウラ「(リィンには、不快な思いをさせてしまったな……)」


ラウラ「(……明日、しっかりと謝罪しなければ……)」


ラウラ「(……)」


ラウラ「(……そろそろ、寝た方が良い)」


ラウラ「……」




コンコンッ




ラウラ「!」


ラウラ「……誰だ?」


リィン「……こんな夜遅くにすまない」


ラウラ「……! リィンか?」


リィン「あぁ」


ラウラ「……待ってくれ。 今開ける」




ラウラ「……どうした?」


リィン「あ、あぁ。 少し用があってさ」


ラウラ「……男子がこんな夜更けに女子の部屋に来るのは、あまり感心することではないのだが……」ジトッ


リィン「うっ……」


ラウラ「……ふふっ、冗談だ」


リィン「まぁ、実際そうだよな。 すまない、もう寝ていたのか?」


ラウラ「いや……。 だが、そろそろ就寝しようとしていたところだ」


リィン「そ、そうか。 尚更のこと、申し訳ない……」



ラウラ「……いや。 ちょうど良かった」


リィン「え?」


ラウラ「リィン、先ほどはすまなかった」ペコリ


リィン「!?」


ラウラ「今日の別れ際、そなたに対して、私はぞんざいな態度を取ってしまった。 あれは、失礼にも程がある」


ラウラ「それを詫びさせてもらいたい」


リィン「そんなことはないって」アセアセ


ラウラ「謝らねば、私の気が済まないんだ」


リィン「……」



リィン「参ったなぁ……。 先に謝られてしまった……」


ラウラ「……?」


リィン「こっちこそ、謝らないといけないことがあるんだよな」


ラウラ「そなたが、私に……? 何を……」


リィン「あ、あぁ。 ……その、これ」スッ


ラウラ「……っ!」


ラウラ「そ、それは」


リィン「あぁ、さっきのペンダントだ」


ラウラ「そ、それがどうかしたのか? まだ開封もしていないようだが」


ラウラ「……」ギュ…


リィン「これを、ラウラに渡したくて」


ラウラ「……あ、あぁ、そうか。 わざわざすまないな……。 ……って」


ラウラ「………………」


ラウラ「…………………………へ?」



リィン「ごめん。 本当はお店を出たときに渡せば良かったんだけど……。 上手い切り出し方が見つからなくてさ」


ラウラ「え、あ、え……」


リィン「……遅くなってすまなかった。 俺の方こそ、ラウラに対して無礼な行動を取ってしまった」


リィン「一見しただけでは、完全に横入りの購入だしな」


ラウラ「……」


リィン「……? どうかしたのか?」


ラウラ「それはそなたが自分のために買ったものではないのか……?」


リィン「流石に俺には似合わないよ。 女性用売り場に売られていたものだし」タジタジ


ラウラ「でも、どうして……」


リィン「光の剣匠のこともそうだけど……、ラウラにはいつも世話になってるからさ」


リィン「丁度、そのお礼がしたいと思っていた所だったから……」


リィン「隙をついたような形になって申し訳ないが、受け取ってくれないか?」


ラウラ「…………」



ラウラ「……それは、受け取れない」プイッ


リィン「え!?」


リィン「ど、どうしてだ? ラウラも、このネックレスは気に入ってるんじゃなかったのか?」


ラウラ「あぁ、そなたの言う通り、私はそのデザインや色合いに魅かれていた」


ラウラ「……だが、このような形で手に入れることを望んでいたわけではない」


リィン「……」


ラウラ「……すまないが、妹君にでもあげてくれ」



リィン「……ダメだ」


ラウラ「え!?」キョトン


リィン「……俺は」


リィン「俺は、ラウラだから。 ラウラに似合うと思ったから、これを買ったんだ」


ラウラ「!」


リィン「それを、ラウラ以外の人にあげる気はない」


ラウラ「……」


リィン「しかし……。 受け取ってもらえないのなら、それはそれで仕方がない」


リィン「残念だけど、部屋に飾っておくことになるかな……」


ラウラ「……!」



ラウラ「……それは、飾るほど希少なものでもないだろう?」


リィン「だけど、俺が付けるようなものでもない」


ラウラ「っぐ」


リィン「それじゃあ、夜更けなのに悪かった」


ラウラ「ま、待て!」


リィン「……?」


ラウラ「そ、それではそなたが、無用のものを買ってしまったことになるではないか!?」


ラウラ「決して安い買い物ではなかっただろう!?」


リィン「……たしかに結果的にはそうなる。 けど、後悔はしてないさ」






ラウラ「……」


ラウラ「……なぜそんなに……強情なのだ……」


リィン「……」


ラウラ「私は、そなたに恩を着せるようなことはしていないし、むしろ助けてもらってばかりだ」


ラウラ「施しを受けてばかりいるのは、むしろ私の方じゃないか」


リィン「……そうでもないさ。 俺としては、ラウラの方こそ、俺に施しばかり与えている感覚なんだ」


ラウラ「……からかうな」


リィン「からかってるつもりはないぞ? 本心だ」


ラウラ「……あぁ、もう…………」



ラウラ「……はぁ」


ラウラ「………………リィン」


リィン「あぁ」


ラウラ「……そなたは、誰にでもこうやって渡しているのではないか?」


リィン「渡す……?」


ラウラ「こ、このような、アクセサリを……。 その、女性に、だ」カァァ


リィン「!?」


リィン「そ、そんなことはない! そもそも、俺にそんなものをもらって喜ぶ人なんてほとんどいないはずだし!」アセアセ


ラウラ「(こやつは……)」イラッ


ラウラ「……」


ラウラ「……はぁ」


ラウラ「わかった……」


リィン「!」


ラウラ「そなたの懇意、素直に受け取ろう」


リィン「え、本当か?!」


ラウラ「……ただ、頼みがある」


リィン「ん?」


ラウラ「私はあまりこういったものを着用したことがないんだ。 だから……」


ラウラ「できれば、そなたに付けてほしい」


リィン「え”っ」


ラウラ「……何だ、その声は」ジトッ



リィン「あ、あはは……。 いや、何でも……」


リィン「(シンディさんたちに、殺されそうだな……)」


ラウラ「では、頼む」


リィン「あ、あぁ」シュルッ


リィン「……」パカッ


リィン「……!」スッ


リィン「(……ラウラのうなじ、綺麗だな。 妙に艶っぽいというか…………)」


リィン「!」ブンブン


リィン「(ラウラは、俺を信じて言ってくれたのに……。 こんなことを考えるのは失礼だ)」


ラウラ「……? どうかしたか?」


リィン「な、何でもない! そ、それじゃ、つけるぞ!」


ラウラ「あぁ……」カァァ



リィン「……」カチャカチャ


ラウラ「(……首が、こそばゆい……)」


ラウラ「(やはり、男性の手は、堅いな……。 女子とは違う……)」


ラウラ「(……)」カァァ


ラウラ「(……自分で頼んでおいて、なぜ恥ずかしがっているのだ、私は……)」


リィン「……よし、できた」


ラウラ「!」


リィン「……こちらを向いてみてくれ」


ラウラ「……あ、あぁ……」



リィン「(……うわっ…………)」


ラウラ「……ど、どうだ……? その、半貴石の輝きに、見劣りしてはいないか……?」


リィン「……」ポーッ


ラウラ「……」カァァ


リィン「……」


ラウラ「……り、リィン? 何か言ってくれないか? 恥ずかしさともどかしさで、その……」


リィン「え? あ、あぁ、すまない!!」


リィン「あまりにも綺麗でさ……」


ラウラ「えっ」ドキッ




リィン「……! え、えっと、その、これは……!!」カァァ


ラウラ「」ボンッ


リィン「……ごめん、言い訳はしない。 すごく綺麗だと思う。 ラウラに、似合ってるよ」


リィン「その、無責任な言い方かもしれないけど……。 渡せて良かったと思う」


ラウラ「……やめてくれ…………。 ……は、恥ずかしさで顔から火が出そうだ……」


リィン「ご、ごめん……。 でも、本当に似合ってる」


リィン「それじゃあ、改めて言わせてもらう」


リィン「ラウラ。 いつも、ありがとう。 これからも……、よろしく頼む」



1時間後……


3F ラウラ部屋





――リィン『すごく綺麗だと思う。 ラウラに、似合ってるよ』



ラウラ「……」ボンッ


ラウラ「(……寝付けん!)」ガバッ


ラウラ「……」


ラウラ「(……リィンの、バカものが……)」


――リィン『滴る水を模したネックレスか。 凄く良いんじゃないか?』


――リィン『ラウラに似合いそうだな』


ラウラ「(そなたが、言ってくれたから……。 買うと決めたのに……)」


ラウラ「(結果的には、手に入ったが……)」


ラウラ「(……)」チャリッ…


ラウラ「(…………)」













ラウラ「(……ふふっ)」







                   クエスト【悩めるお年頃?】 を完了した!




ラウラ編 ・ 終



このような形で、短編を書いていく予定です。

軌跡シリーズファンの方々、ぜひお付き合いください。

次、誰になるかは未定です。





芸術というものは、もの凄く不遇なものだと思う。


リンデ「(……うーん)」


色合い・形・大きさ、何かがほんの少しでもずれていたら、それは全く違った作品として出来上がる。
駄作・良作・傑作。 
自分が作ったものがどんな評価をもらえるかは、その『ほんの少しズレ』で決まるといっても過言では無いと思う。


リンデ「……ダメだぁ。 全く進まない……」


だから、私はいつも迷う。
今日も、迷う。



リンデ「(……ここが、青過ぎると他との調和が取れないなぁ……)」


リンデ「(でも、イメージ的にはこの青色がベストだし……)」


自分で言うのは憚られるが、私には臆病なところがある。
意識しても、勝手におどおどとした喋り方になってしまうし、積極的な行動が苦手でもある。


リンデ「(うーん……)」


だから、『ほんの少しのズレ』に対する恐怖も、人一倍多くて。
作業の進行は、いつも遅い。


リンデ「(どうしよう……)」




「ふふ……ふふふっ……」


リンデ「……」


クララ「キタ……!! 石の声……きた!!!」キラーン


クララ「ふふ……ふひひひ……これは……いい!!」


リンデ「……」


リンデ「……はぁ」


クララ部長はいつも自分の世界に籠り、作品を作る。
私とは違い、彫刻製作をする彼女には、どうやら『石の声』というものが聞こえるらしい。


クララ「……インスピレーションが止まらんぞ!」


近くにいる私にギリギリで聞こえる程度の声で、何かを呟く。
こういうときは、大抵素晴らしい出来上がりになる。
本当に声が聞こえてるんじゃないかってくらい、非の打ち所のない仕上がりになる。

そして私はそれを見て、いつも思う。


リンデ「(……羨ましいなぁ)」






「よっこいしょーっ!」モニュッ


リンデ「ひっ!?」ビクッ


「あー、癒やされる……」モミモミ


リンデ「……ヴィヴィ!! やめなさい!」パシッ


ヴィヴィ「えー……。 あと少しだけ♪」ワキワキ


リンデ「だ、だめ!」ババッ


ヴィヴィ「ちぇー……。 いいじゃない、減るものでもないし」


リンデ「そういう話じゃないでしょう!」


ヴィヴィ「まーまー♪ カリカリしないの♪」


リンデ「……もう」


ヴィヴィ「さっきから全然作業が進んでないからさー。 私がこう……ぐわっ!とすればアイデアが浮かぶかと思って!」


リンデ「そ、そんなことで浮かんで来たら自分でやってるよぉ!」


ヴィヴォ「お? 大胆発言!」


リンデ「……ぁ…………」カァァ


ヴィヴィ「良いこと聞いちゃった♪」


リンデ「い、いい加減にしないと怒るよ!」


ヴィヴィ「はいはーい♪ 怒る前にお邪魔虫は退散しますよーっと!」タタッ


リンデ「あっ、こら!」


ヴィヴィ「じゃあね! 頑張ってよー!」フリフリ


リンデ「……もう」









妹であるヴィヴィは、自由奔放で、闊達な女の子だ。
些細なことにすら懸念を抱く私とは違って、見ていて気持ちよくなるくらい、自由だ。


リンデ「(……私って、色々、だめだなぁ……)」


ヴィヴィは妹だし、仲だって良いと思ってるけど。
少しだけ、コンプレックス。


リンデ「(……)」


リンデ「(……って、ぼーっとしてるヒマじゃない!)」


リンデ「(来年の学院祭では、もっと良い作品を出したいんだから! 頑張らないとっ!)」


リンデ「(……ここは……)」


リンデ「(……んっと、……)」


リンデ「(……)」


リンデ「(………………ダメだ……)」


リンデ「(……ちょっと、風に当たりに行こうかな…………)」


――士官学院 屋上


リンデ「……すぅ~……。 ……はぁ~」


屋上に出て、大きく深呼吸。
これは、私が煮詰まったときにする一連の行動の1つだったりする。


リンデ「(……もう、夕方かー)」


街や学内が一望できる場所。
不思議と、自分のことを、ゆっくりと落ち着いて考えることができるんだ。


リンデ「(何より、部室から近いから、ね)」




「……あれ?」


リンデ「……? ……あ」


「君は……。 ……リンデさん、か?」


リンデ「は、はい……。 こんにちは。 リィン君」


リィン「……良かった」ホッ


リンデ「……え? 良かった?」


リィン「たまに、ヴィヴィさんと入れ替わってる時があるし、間違えていたら失礼だな、と思って」


リンデ「入れ替わり!? ヴィヴィが? 私と? いつですか?!」


リィン「え? あ、あぁ。 けっこう、頻繁に、かな……?」


リンデ「あの子ったらー……! そういうイタズラする時は必ず断りを入れてっていつもいつも言ってるのに……!」


リィン「あはは……。 相変わらずみたいだね」











リンデ「本当にごめんなさい、リィン君。 あの子が迷惑ばかりかけて……」ペコリ


リィン「そんなことはないって」


彼は、リィン君。 本名はリィン・シュバルツァ―君。
春先に、私が困っていたとき、お使いを引き受けてくれた男の子。


リィン「今は、休憩中かな?」


リンデ「え、あ、はい。 そんなところですっ」


リィン「お疲れさま。 絵を描くって、相当集中力を使うもんな」


リンデ「は、はい。 ありがとうございます」


リンデ「そうですね……。 体力がある人だったら、続けていくらでもいけちゃうんでしょうけど……」


リンデ「私は、あまり体力がある方じゃないので、こうして少しずつ進んでます」


リィン「少しずつでも、絵をあれだけ上手に描けるって言うのは凄いことだと思うよ。 学院祭のとき、見させてもらったけど、素晴らしい作品だったと思うし」


リンデ「み、見てくれたんですね……」オドオド


リィン「あぁ、もちろん」ニコッ


リンデ「あうぅ……。 わ、私なんて、まだまだですよ……」


謙遜してはみたものの。
本当のことを言うと、褒められて凄く嬉しい。
こういう言葉を、素直に投げ掛けてくれる機会って、私にはあまりないから。






リィン「あ、そうだ」


リンデ「……?」


リィン「リンデさん、まだ時間はあるかな?」


リンデ「は、はい。 まだ私も来たばかりなので、ここでもう少し休憩していきますよ」


リィン「それじゃ、少し待っていてもらってもいいかな?」


リンデ「……? 大丈夫ですよ」


リィン「すぐ戻るから」タタッ


一言残すと、リィン君は足早に屋上を出て行った。


リンデ「(……どうしたんだろう?)」


リンデ「(……)」


思えば、彼はいつも走っている。
いつも、何かをしている。  人のために動いている。
トワ生徒会長の頼みで、生徒会の仕事を一部引き受けているって話だけど、それ以外にも活動しているみたい。


トワ「(……うぅ、凄いなぁ、リィン君)」


勝手に、落ち込む私、惨めだなぁ……。


ミスです。

>>72




リィン「あ、そうだ」


リンデ「……?」


リィン「リンデさん、まだ時間はあるかな?」


リンデ「は、はい。 まだ私も来たばかりなので、ここでもう少し休憩していきますよ」


リィン「それじゃ、少し待っていてもらってもいいかな?」


リンデ「……? 大丈夫ですよ」


リィン「すぐ戻るから」タタッ


一言残すと、リィン君は足早に屋上を出て行った。


リンデ「(……どうしたんだろう?)」


リンデ「(……)」


思えば、彼はいつも走っている。
いつも、何かをしている。  人のために動いている。
トワ生徒会長の頼みで、生徒会の仕事を一部引き受けているって話だけど、それ以外にも活動しているみたい。


リンデ「(……うぅ、凄いなぁ、リィン君)」


勝手に、落ち込む私、惨めだなぁ……。




――リィン「お待たせ」


5分後。
戻って来たリィン君は、汗1つかかず快活な笑顔を向けてきた。



リィン「実は、折り入って頼みがあるんだが……」


リンデ「た、頼み……?」


リィン「これ、飲んでくれないか?」


リンデ「……? ……っ!」


リンデ「こ、これって……! 『芳醇アロマティー』ですよね!?」


リィン「あ、あぁ。 よく知ってるな」


リンデ「大好物ですっ!!」


リンデ「……っあ」カァァ


リィン「それは良かった」ニコッ


リンデ「……うぅ……。 で、でもどうして、これを……? 多分、トールズじゃ売ってないと思うんですけど……」


リィン「調理部部長のニコラスさんがくれたんだ。 よかったら飲んでくれ」


リンデ「え、だ、だって。 今取りに行ったんじゃ……」


リィン「あはは……。 実は、最初は受け取りを断ったんだ。 少し手伝っただけで、お礼を受け取るなんて烏滸がましいからって」


リンデ「手伝ったらって……。 そ、それはリィン君が飲むべきだと思いますよっ!」


リンデ「私は何もしてませんしっ」アセアセ


リィン「俺が受け取ったものだから、もう俺のものだろう? それなら、俺がリンデさんにあげるのも、自由なはずだ」ニコッ


リンデ「……で、でも」


リィン「……それに、俺はそこまで、それを好きではないし。 どうせなら、大好物だって言ってくれる人に飲んでもらった方がいいだろう?」


リンデ「っ!! り、リィン君!!」カァァ


リィン「え、俺何か悪いこと言ったかな?」アセアセ


リンデ「(……困った顔しないでよぉ……)」ウゥ










――――――――――


――――――

――





――士官学院 屋上・ベンチ


リンデ「……」コクコク


リンデ「……ぷはぁ」


リンデ「(……美味しい)」ニヘラ


リィン「(……美味しそうに飲むなぁ。 本当に好きなんだろう)」


リンデ「……あ、ありがとうございます。 このようなものを頂いちゃって」


リィン「俺が勝手にしたことだから、気にしないでくれ。 むしろ、迷惑じゃなかったか?」


リンデ「ぜ、ぜんぜん!」


リィン「それなら良かった」ニコッ






リンデ「……は、はい」


リィン「……」


リンデ「……」


私のバカぁぁ!!
「は、はい」じゃ話が続かないでしょう!
リィン君が気を遣ってお茶までくれたのに,気まずい思いをさせたんじゃ申し訳が立たないよ!


リンデ「(な、何か話題を……。 話題を……!!)」グルグル


リィン「……」


リンデ「あ、あの……」


リィン「ん?」


リンデ「リィン君は、どうして、いつも元気なんですか……?」


リィン「……元気?」


な、何を質問しているの私は!
「なぜいつも元気なんですか?」って!?
元気じゃだめなの!? っていうか、質問の意図は……!?


リンデ「……」


リンデ「(……もう、聞いちゃおっかな。 せっかくの機会だし)」






リンデ「リィン君は、生徒会のお手伝いをいつもしていて、偉いと思います」


リィン「俺自身のためにもなるからさ。 それに、大したことをしているわけじゃないし」


リンデ「それでも、凄いですよ! 信頼されてるわけですし、その……。 なんというか、カッコいいと思います」


リィン「えっ……」


リンデ「うぁっ!? す、すいません! その今のカッコいいというのは、別に変な意味ではないので!」


リンデ「素直に思っているだけなので!!」


リンデ「って何言ってるの!」カァァ


墓穴を掘る、私。


リィン「……。 ……ありがとう。 素直に嬉しいよ」


リィン「でも、本当に凄いことをしているわけじゃないんだ」


リィン「頼まれたことを頼まれた通りやるだけ。 試行錯誤なんかはほとんどいらないんだ」


リィン「そんな俺に比べたら、何も無い所から作品を生み出すために頑張ってる、リンデさんの方が凄いし、カッコいいさ」


リンデ「……」


リンデ「……そんなこと、ないです」


リィン「……え?」


リンデ「私は、全然凄くなんかないです」








リンデ「美術部の人たちは、私もすごいと思ってます。 部長のクララさんや、同じ部活動員のガイウス君たちだって、皆すごいです」


リンデ「けど、私は凄く何かないんです」


リィン「……それは、どうして?」


リンデ「……。 ……少し、汚い表現になってしまいますが」


リンデ「私は、リィン君や、他の皆を尊敬もしているし……。 ……羨ましいとも思っているんです」


私が思っていること。
ずっと、聞いてみたかったこと。 人に聞いてほしかったこと。
何でか、はわからないけど。
ここで、もう、言ってしまおう。 そう思った。





リンデ「自分のやりたいことに積極的になって」


リンデ「それで、自分自身で、答えを見つけてますよね」


リンデ「私には、そう言う姿勢が足りてないから……」


リンデ「……だから、そういう人たちに凄いと言われても、実感が湧かない、というか」


リンデ「あ、もちろん、嬉しいんですけど!」


リンデ「……すみません、愚痴っぽくなっちゃって」


リィン「いや……」


そんなことないよ、とリィン君は続けた。
考え込む様な表情をしてから、また笑顔を向けてくれる。




リィン「なんとなく、俺にもわかるよ。 リンデさんの気持ちは」


リンデ「えっ……。 リィン君が?」


リィン「あ、ごめん。 軽々しかったかな」


リンデ「い、いいえ。 どうぞ、続けてください」


リィン「……上手い言い方がわからないけどさ」


リィン「人を羨ましく思うことって、汚いことでも、浅ましいことでもなくて。 当たり前のことなんじゃないかな」


リンデ「当たり前……?」


リィン「あぁ。 あくまで、俺の考えだけど」


リィン「平民が貴族を羨むことは、よくあるけど。 貴族が平民を羨むことだってあるっていうのは、知ってるかな」


リンデ「そ、そうなんですか?」


リィン「あぁ。 俺も、この学院に入るまでは考えたことも無かったよ」


リィン「……けど、実際、そういうことがあるんだよな」


リィン「だから、きっと。 リンデさんが人を羨ましいと思うことは、誰だって経験したことがあることだし」


リィン「リンデさんだって、誰かから羨ましがられてることだって、あると思うよ」


リンデ「……私が……」


考えたことも無かった。
自分、自分、自分って考えていたから。
人が私をどう思っているかなんて考えには、ほとんど至らなかった。
だから、とても心に残ったんだと思う。









リィン「少なくとも、俺はリンデさんのこと本気で尊敬しているし、羨ましいと思ってるよ」


リンデ「え、えぇ……っ!?」カァァ


リィン「さっき言った通り、自分の考えを形にするなんて、俺には出来ないし」


リィン「学業としっかり両立しながら、そういったことをしているリンデさんは、凄いと思う」


リィン「俺も、学ばないとなぁと思ってるよ」タハハ


リンデ「そっかぁ……。 うん……」


リンデ「……そうかもしれません、ね」


リンデ「リィン君、本当にありがとうございます」


リィン「え、い、いや。 今ので回答になってるんだったら、良かったよ」


リンデ「これ以上ないってくらい、ありがたい回答でした」




リィン「そっか」


リンデ「はい」ニコッ


リィン「……はぁー」


リンデ「り、リィン君、どうかしました!?」


リィン「いや……。 慣れないことしたら、少し緊張してしまった」


リィン「普段は人から教えられてばかりで、人に何かを教えたりすることなんて、ほとんどないからさ」


リンデ「うぅ……。 す、すいません……」


リィン「……それにしても」


リンデ「……?」


リィン「リンデさんが悩みを相談してくれたのは、嬉しかったな」ニコッ


リンデ「」キュン





リィン「俺は、もっと仲良くなりたいと思っていたし」


リンデ「え、あ、あの、えぇ、あう」カァァ


リィン「……って、あれ?」


リンデ「……ふぇ?」


リィン「もう、夕暮れじゃないか……?」


リンデ「……ぁ」


ガチャッ


用務員「……えっと。 あ、いたいた」


用務員「君たちー。 もう学校閉めちまうぞー」








リンデ「い、いけない! 私ったら、すっかり話し込んじゃって……」


リンデ「リィン君、ごめんなさい。 付き合わせちゃって」アセアセ


リィン「いや、俺の方こそ、長いこと話してしまったし」アセアセ


リンデ「……」


リィン「……」


リンデ「……ぷっ」


リィン「……あはは」


リンデ「それでは、私は美術室に戻って、片付けしてきますね」タッ


リィン「あぁ。 ……あ、リンデさん」


リンデ「……はい?」ピタッ


リィン「よければ、一緒に帰らないか? もう暗くなってしまったし、送って行くよ」


リンデ「えぇ!?」


リンデ「(……)」


リンデ「は、はい! よ、よろしければ!!」


リィン「それじゃ、校門の前で!」


リンデ「は、はい!!!」









――士官学院 美術室


ガチャッ


リンデ「……」バタンッ


リンデ「……」


リンデ「……」









リンデ「……♪」









――――――――――――――――リンデとの友好度が上がった!








終わり













もっとラブありでいいのだろうか……。
カップリングにすると偏りそうだから、あまりぐいぐい書けない……。
閃の軌跡ファンの皆様にとっては、どうでしょう。 あまり気にしないのかな。
ひたすらイチャラブだけのも、ありなのか。


次回キャラクターは未定です。


放課後――


――Ⅶ組・教室




きーんこーんかーんこーん…




サラ「あっ♪ 鐘が鳴ったわね。 っていうことで、今日の授業は終わり!」


ユーシス「やけに適当だな……」


サラ「そんなことないわよ~っ♪」


エマ「うふふっ。 明日は自由行動日ですしね。 教官方も楽しみなのでは?」


サラ「おっ。 さっすが委員長、わかってるわね~」


サラ「ビールに佃煮、そしてゴロ寝が私を待っているのよ~♪」


ユーシス「……教官ではなく、ただののんべえだな」


サラ「教官だって人間ですよーだ」


マキアス「やれやれ……」


サラ「ほらほら! そんなことより、副委員長! 早く号令!」


マキアス「あっ、はい」











マキアス「起立! ……礼!」


一同「ありがとうございました」


サラ「はーい。 みんなも、素敵な自由行動日をねっ☆」




アリサ「はぁ……。 サラ教官はいつでも変わらないわねー」


ラウラ「もう少し教師らしい立ち振る舞いをしてほしいと思うことはあるな」


エマ「ま、まぁ。 そこが良いところでもありますからっ」


ユーシス「生徒に擁護される教官、か……」


マキアス「そんなことをいつまでも話合ってもしょうがないだろう」


ユーシス「おや、いつもご乱心の平民様にしては珍しく、冷静じゃないか」


マキアス「なんだと!?」


リィン「(皆が皆、いつも通りだと思うんだが……)」アハハ


エリオット「リィン」


リィン「ん?」


エリオット「僕とガイウスはいつも通り部活に行くけど……。 リィンはどうするの?」


リィン「俺は……。 今日は特に予定もないから、校内を散策でもしていようかな」


エリオット「そういえば、今生徒会長は遠征中なんだっけ」


リィン「あぁ。 トワ会長は前回の通商会議の随行団の1人だったから、その後処理で色々とすることがあるみたいなんだ」


ガイウス「優秀過ぎるというのも、考えものだな……」


リィン「ははっ……。 とにかく、俺は今日明日とフリーだから、ゆっくりさせてもらう予定だよ」


エリオット「リィンは常に動いているイメージがあるから、たまにはゆっくりするのもいいかもね」


リィン「そんなことはないんだけどなぁ」


ミリアム「え~! なになにっ! リィン、ヒマなの!?」


リィン「あ、あぁ。 一応……」



ミリアム「なら私と決闘ごっこしようよ! た~のしいよ~!」


リィン「『ごっこ』ではないだろう……」


エリオット「ミリアムは血気盛んって感じだよねえ」


ミリアム「私はいつでも元気だよっ!」エッヘン


ガイウス「子どもは元気であることが仕事だしな」


ミリアム「そこまで子ども扱いはひどいよっ!」ムー


マキアス「……待て。 ミリアム」


ミリアム「ん~?」


マキアス「君は僕と職員室に来るんだ」


ミリアム「え~? 何で~?」


マキアス「旧校舎の不正使用……と言えばわかるか?」


ミリアム「」ギクッ



リィン「ミリアム……。 また入ったのか……」


ミリアム「だ、だってあそこって魔獣がたくさんいるから『勘』を取り戻すにはちょうど良くてさ~っ」


リィン「サラ教官から傀儡を借りればいいという話になっただろ?」


ミリアム「あれは何か戦ってる感が沸かないんだよ~。 ガーちゃんと同種だし」


マキアス「……そろそろ話はいいか?」


マキアス「ナインハルト教官から、放課後連れてくるように言われたからな」


マキアス「大人しく来てもらおう」


ミリアム「あ、あはは~っ」


マキアス「笑ってもごまかされないぞ」


ミリアム「逃げるが勝ちっ!」ビュンッ


マキアス「あ、こら! 待て!」


ミリアム「待てと言われて待つ人はいないよー!」


マキアス「~~ッ! そ、それでは、またな君たち! こらー!! 止まれー!!」



リィン「……」


エリオット「……」


ガイウス「……」


エリオット「あはは……。 風のように去って行ったね」


ガイウス「そうだな……。 っと、それよりも、俺たちもそろそろ時間だな」


エリオット「あっ。 本当だ」


ガイウス「それでは、リィン。 また後で学生寮で」


エリオット「またね!」


リィン「あぁ。 たまに部室寄らせてもらうよ」


ガイウス「いつでも来い」


エリオット「うん! 待ってるよ!」




ラウラ「それでは、私も部活の方へ向かうとしよう」


アリサ「あっ、それなら私も。 ラウラ、ギムナジウムの更衣室まで一緒に行かない?」


ラウラ「ふふっ。 ぜひ」


アリサ「ありがとうっ! それあじゃあね、みんな!」


ラウラ「失礼する」


ユーシス「それでは、俺も行くとしよう。 うるさいのがいなくなった所でな」スッ


エマ「皆が行くのであれば、私も部室へ向かうことにしますね」


エマ「フィーちゃん、どうしますか?」


フィー「……私は、もう少し教室で寝てく」


エマ「わかりました、それでは、また学生寮で」ニコッ


フィー「……んっ」


リィン「皆、また!」



リィン「(行ったか……)」


リィン「(俺は何をしようかな……)」


リィン「(クロウはトワ会長について行って、特別休学中だったか)」


リィン「(……俺は……何をしようか)」


リィン「(いつもいつも時間が欲しいと思ってはいるが……)」


リィン「(いざ時間ができると、案外何をするか思いつかないものだな……)」


リィン「(……俺って、本当に不器用だな……)」クスッ


フィー「……」ジーッ


リィン「!?」


フィー「……一人で笑ってる」


リィン「ね、寝てるんじゃなかったのか……」


リィン「(変な所を見られてしまった……)」




フィー「……リィンって、たまに変」


リィン「あ、あはは……。 ごめんごめん」


フィー「別にいい」


リィン「あれ?」


フィー「……なに」


リィン「今日は、園芸部には行かなくていいのか」


フィー「……あ」


リィン「?」


フィー「忘れてた」


リィン「え?」


リィン「(忘れる……?)」



フィー「行かないと……」スクッ


フィー「」フラフラ


リィン「お、おい、フィー? 大丈夫か?」


フィー「……ん? 何が?」ピタッ


リィン「足取りがおぼつかないぞ?」


フィー「心配無用。 何の問題もない」スッ


リィン「……そうか?」


フィー「体調管理も、猟兵団では、きた、え、られ、てたし……」フラッ


フィー「……あ、れ……………」ドタッ


リィン「フィー!? フィー!! ……フィー!! しっかりしろ!! フィー!!」


…………………………………

……………………

………







フィー「(…………ん………)」


フィー「(…………)」


フィー「(……?)」


フィー「(……ここ、どこ……?)」


フィー「(……外気が、頬にあた、ってる………外……?)」


フィー「(……)」ギュッ


フィー「(…………あたた……か……い……?)」


フィー「(…………)」


フィー「(……揺れ、てる…………)」


フィ「(……馬……? ……いや……、人間……? ……わから、ない……)」


フィー「(方向が、掴めない…………)」


フィー「(……………心地、………い…………)」


フィー「(………ね、む…………)」


フィー「(………………)」


フィー「(………)」





…………………

…………




翌日――


――第三学生寮・フィー部屋







フィー「……」


フィー「…………」


フィー「………………っ」ハッ


フィー「(……ここは………………)」


フィー「(…………部屋? 学生寮の……)」


フィー「(…………何で……? ……いや、それよりも……現状の、把握を……)」


フィー「(…………身体の硬直具合と、……空腹の度合いからして、今は、朝10時ごろ……)」グッグッ


フィー「(頭が、冷たい……? ……だけど、身体中、熱い……)」ヒタッ


フィー「(……汗が気持ち悪い…………)」


フィー「(……とにかく、動かないと…………)」グググッ


フィー「(……ぁっ――)」ズルッ


ドサッ


フィー「(……)」


フィー「(身体の自由が利かない……)」


フィー「(……やっぱり、風邪だったか……)」


ガチャッ


「……あれ」


フィー「!」



フィー「……リィン」


リィン「おはよう、起きたみたいだな」


フィー「んっ……」コクッ


リィン「丁度良かった。 今、朝食を用意したところなんだ」


フィー「……私、倒れた?」


リィン「……あぁ、高熱でな」


フィー「そっか…………。 情けな……」


リィン「風邪なんてどんな人間であれ引くものだって。 あまり気にすることじゃないさ」


フィー「団員から……言われてた」


リィン「ん?」


フィー「まだ戦場にいた頃……。 『百歩譲って怪我は許しても、病にはかかるな』って言われてた……」


フィー「……病気になったら、完全に戦力外になってしまうから……」


フィー「耳に胼胝ができるほど聞かされたのに……。 なんか、ダサい」


リィン「……」


リィン「あぁ。 ダサいのかもしれないな」


フィー「……」


リィン「お前が、今も『猟兵団』の1人だったなら、な」


フィー「!」


リィン「……今。 ここは『学院』で、お前は『生徒』だろう?」


フィー「……」


リィン「『郷に入りては郷に従え』って慣例句が、俺の故郷にはあるんだ」


リィン「ざっくり言うと、その場に溶け込めっていう意味なんだけど……」


リィン「昔はそうだったかもしれないけど、今は違うんだ。 ……そう考えた方が、色々楽だろう?」


フィー「……」


フィー「…………まだ、難しい、かも」


リィン「……」


フィー「……でも、頑張ってみる」


リィン「……! ……そっか」ニコッ



フィー「……」グゥ~


フィー「……」


リィン「……」


フィー「……お腹空いた」


リィン「あぁ、聞こえた」


フィー「それ、もらっていい?」


リィン「あぁ。 もちろん」スッ


フィー「……ありが――」ガタッ


リィン「! 危ないっ!」ガシッ


フィー「……力、出ない」


リィン「……恐らく、高熱を下げることに神経が集中してるんだろう」


フィー「……でも、食べたい」


リィン「……困ったな」


フィー「……」


リィン「……それじゃあ、……食べさせようか?」


フィー「……ん」コクッ



リィン「……ほら、あーん」


フィー「あむっ……」モグモグ


フィー「……味、わからない」


リィン「風邪の引き始めだからな……。 鼻も詰まってるだろう?」


フィー「ん」


リィン「昨日、ベアトリクス教官に処方してもらった薬もあるから、食後に飲むと良い」


リィン「それを飲めば、少なくとも今よりはぐっと楽になるはずだ」スッ


フィー「あむ」モグモグ


フィー「……薬。 苦いのは、得意じゃない……」


リィン「好き嫌いするんじゃありません。 『良薬口に苦し』だ」


フィー「それも慣例句……?」


リィン「あぁ」


フィー「……ちっ」


リィン「(舌打ち?!)」



フィー「……美味しかった。 ごちそうさま……」


リィン「味は感じないんじゃなかったのか?」


フィー「……言っておいただけ」


リィン「……フィーは、優しい子だな」


フィー「そうでもない」


リィン「よし、じゃあ次は薬だな。 ほら、水もあるから」スッ


フィー「ん……。 サンキュ」


リィン「どういたしまして」


フィー「……」


リィン「一気に口に入れて、息を吐かずに飲み込んでしまえば味なんてほとんどわからないさ」


フィー「……」コクッ


フィー「……っ」バッ


フィー「……っ、……っ」ゴクゴク


フィー「……ぷはっ」


リィン「……」


フィー「……やっぱり、苦い」


リィン「……あはは」


フィー「……」



フィー「……あ」


リィン「ん?」


フィー「……昨日と今日、お花にお水あげてない。 肥料も」


リィン「あぁ、勝手だが、俺がやらせてもらったよ」


フィー「……そう」


リィン「あぁ。 エーデル部長に聞いた通りにやったから、多分間違ってはいないと思う」


リィン「勝手にやってしまい、申し訳ない」ペコリ


フィー「んんっ」フルフル


フィー「ありがと……」


リィン「俺が勝手にしたことだから、礼には及ばないさ」


フィー「……そう」



フィー「……他の皆は?」


リィン「ん? みんな今日は予定が詰まってたみたいでな。 外に出払ってるよ」


リィン「他の皆も、フィーのこと相当気にかけていたみたいだった」


リィン「特に委員長は心配そうにしていたんだけど、どうやらどうしても休めなかったみたいで」


リィン「何でも、学院祭のときに展示した作品に、寄稿作として本に載る話が出ているらしい」


フィー「そうなんだ」


リィン「あぁ。 でも、用事が終わり次第すぐに戻って来るそうだ」


フィー「……別に良いのに」


リィン「人の厚意には甘えておくものだ」


フィー「……さっきから、説教がおっさん臭い」


リィン「おっさん!?」ガビーン



リィン「……よし、そろそろ、頭のタオル変えるぞ?」


フィー「ん」


リィン「ちょっと動かないでくれよ……。 ……よし、大丈夫だ」


フィー「……」


リィン「……? 何だ? 何か俺の顔についてるか?」


フィー「……リィンは、慣れてる」


リィン「……慣れてる?」


フィー「こういう、看病に」


リィン「あ、あぁ」


フィー「前も保健室で看病してくれたこと、あった」


リィン「……そういえば、あったな、そういうことも」


フィー「……看病慣れって、ババ臭い」


リィン「(俺って一体……)」アハハ…



リィン「あるとしたら、妹の面倒はよく見ていたから。 それかもな……」


リィン「『兄様はお節介です!』ともよく言われてたっけ」


フィー「(……)」


フィー「私は、助かってるけど」


リィン「……なら、良かった」ニコッ


フィー「ん」


フィー「でも、いいの?」


リィン「何がだ?」


フィー「今日は自由行動日」


リィン「あぁ。 俺は特に予定もなく、休日を過ごす予定だったからいいんだ」


フィー「……そっか」


フィー「じゃあ、助けるついでに、も1つ頼みたい」


リィン「あぁ。 何でも言ってくれ」


フィー「……」














フィー「身体拭いてもらってもいい?」





リィン「」







フィー「……なに」


リィン「……それは、俺じゃ、不味くないか?」


フィー「……汗かいて、気持ち悪い」


リィン「シャワーを浴びれば……」


フィー「……身体の自由が利かないから、却下」


リィン「シャロンさんを……」


フィー「今、いないでしょ」


リィン「……。 何故それを」


フィー「今、この寮内に、気配を感じないし」


リィン「気配を消してるのかも知れないぞ?」


フィー「……寮でそんな気苦労をするメリットはない」


フィー「……それに、さっき『朝食を用意した』って言ってた。 『してもらった』、じゃなくて」


リィン「……鋭いな。 確かに、今シャロンさんはラインフォルト社に出戻り中だ」


フィー「当然」ブイッ


リィン「……あと数時間もすれば、委員長も帰って来てくれるだろうし」


フィー「確定じゃないでしょ」


リィン「だ、だが俺がやるには問題が多過ぎる気が……」


フィー「……リィンに疚しい気持ちがなければ、大丈夫」


フィー「私は気にしないし」


フィー「戦地ではそんな悠長なことも言ってられなかった」


リィン「も、もちろんそんなことはないが」


リィン「だがなぁ……」



フィー「…………わかった」


リィン「!」


フィー「……リィンは、背中を拭いてくれるだけでいい」


リィン「ぶっ」


フィー「リィン、汚い」


リィン「ごめんごめん……。 じゃ、なくて」


リィン「(全部拭かせる気だったのかどうかは、聞かないでおこう)」


フィー「リィン、私は今、頼める人がリィンしかいない」


フィー「……ダメかな」


リィン「……」


リィン「(そんな顔をされたら、断れないぞ……)


リィン「……あぁ、わかったよ」


フィー「!」


リィン「でも、何か気に障ったことがあったら、いつでも言ってくれよ。 すぐにやめるから」


フィー「ん♪」



3分後…




リィン「……」


リィン「ふぃ、フィー? 大丈夫か?」


フィー「……ん。 大丈夫、だと思う」


リィン「(『思う』って……)」


リィン「じゃ、じゃあ、振り向くぞ?」


フィー「ほい」


リィン「……」クルッ


リィン「……!」


リィン「(し、白くて、細い……)」


リィン「(エリゼと、似てるな……)」


フィー「リィン……。 この状況で無言は、犯罪の匂いがする」


リィン「あっ、す、すまん!」



リィン「……それじゃあ、拭くから」


フィー「お願い」


リィン「……」コシコシ


フィー「……ぁ」ブルルッ


リィン「!? だ、大丈夫か!?」アセアセ


フィー「だ、大丈夫。 少し、こそばゆかっただけ」


リィン「そ、そうか。 続けるぞ?」


フィー「ん」


リィン「……」コシコシ


フィー「……っ、……ん」プルプル


リィン「も、もう少し強くした方が良いか?」コシコシ


フィー「……いや、今の、ん、ままで、いい」


リィン「そ、そうか……」


フィー「そう」




フィー「……」プルプル


リィン「(……)」コシコシ


リィン「(……よし、これで背中は拭いたから)」


リィン「(……次は……。 腕は自分でできるだろうし……


リィン「(…………うなじかな)」スッ


フィー「っひゃっ…………!!」ビクンッ


リィン「!?」


フィー「……ぃ、んっ」ピクピクッ


リィン「ふぃ、フィー!? 大丈夫か!?」


フィー「だっい、じょ、ぅ、ぶ……っ」ビクッ


リィン「(だ、大丈夫に見えないけど……。 いいのか)」コシコシ


フィー「あっ……はぁっ……」ビクビク


リィン「(……これ、皆に見られたら……。 俺どうなるんだろう……)」



10分後


リィン「……」コンコン


リィン「……フィー? そろそろ、大丈夫か?」


フィー「……ん。 だいじょぶ」


リィン「入るぞ?」


フィー「ん」


ガチャッ


リィン「……お疲れさま、身体拭くだけでも、一苦労だったろ?」


フィー「……ちょっと、疲れたかも」


リィン「気分の方はどうだ?」


フィー「……気持ち悪さとかはない。 むしろ、今はすっきりした」


リィン「それは良かった」


リィン「それじゃあ、俺はタオルと青桶をしまってくるから」


リィン「何か欲しいものはあるか? 飲み物とか」


フィー「……大丈夫。 さっき、リィンが持って来てくれた水がまだある」


リィン「そっか。 それじゃあ、行って来るよ。 ついでにお茶菓子とかも買って来るから」


フィー「……ん」



40分後…





コンコンッ


ガチャッ


リィン「お待たせ。 キルシェで美味しそうなお菓子があったから買ってき――」


フィー「……すーっ…………」


リィン「……」


リィン「(……寝た、か)」


リィン「(結構待たせてしまったし、何より風邪だものな)」


リィン「(……さっき薬も飲んでいたし、目が覚めたらきっと良くなってるだろう)」


リィン「(……っと、寝顔を見てるなんて決して褒められたことじゃないな…………)」


リィン「(頭のタオルだけ変えて、俺は自室に戻るとするか……)」


フィー「すー……すー……」


リィン「……」


リィン「こうして見ると、普通の子どもにしか、見えないのになぁ……」


リィン「昨日帰ったときも、そう感じたし……」


リィン「俺が……、支えないとな……」


フィー「…………」


フィー「(……やっぱり、昨日の、温もりは、りぃ………)」


フィー「(…………ん……………)」


フィー「(…………)」


フィー「(……zzz)」



……………………

……………

……




フィー『……』トテトテ


フィー『(……退屈)』


フィー『……』トテトテ


フィー『……?』


フィー『…………あっ』


リィン『…………』


エマ『…………』


フィー『……?』


フィー『(エマと、リィン……?)』


フィー『(こんな所で、何を……?)』


フィー『……』


フィー『(……見て行こう)』


エマ『……リィンさん、突然お呼び立てしてすいません』


リィン『大丈夫だよ。 それよりも、どうかしたのか?』


エマ『えっと……、はい』カァァ


リィン『……』


エマ『……その、リィンさんに折り入って伝えたいことがありまして……』


リィン『伝えたいこと……?』



エマ『その……』


エマ『私なんかが、ってことはわかってるんですけど……』


エマ『私……。 ……私……………!』


エマ『リィンさんのことが、好きです!!』


リィン『!』


フィー『……!』


フィー『(……っ)』


エマ『その……よろしければ……』


エマ『私と、お付き合いして頂けません、か……?』


フィー『(……)」チラッ


リィン『……』


リィン『……委員長』ガシッ


エマ『ひゃっ』ビクン


フィー『(!)』


エマ『……り、リィン、さん……?』


リィン『委員長……。 俺も……委員長のこと……実は……』グイッ


エマ『り、リィンさん……』トローン


リィン『いいん、ちょう……』クイッ


エマ『リィンさん……』スッ


フィー『(…………!!!)』












         「…………ダメ!!!!!!!」

 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 





リィン「うわっ!?」


エマ「きゃっ!」


フィー「……はぁ、はぁ」


エマ「……ふぃ、フィーちゃん!? 大丈夫ですか?!」


リィン「汗だくだぞ、どうかしたのか!?」


フィー「……エマ……? リィンも……」


リィン「今しがた委員長が帰って来たから、2人で様子を見に来ていたんだが……」


エマ「……私たちが、起こしちゃった……のでしょうか? ごめんなさい、フィーちゃん」


フィー「……」


フィー「……大丈夫」



1時間後…



フィー「……爽快」


エマ「ふふっ♪ 良かったですねっ」


リィン「シャワーを浴びれないのは、男ですらキツいからな。 女子はもっとしんどかったろう」


フィー「エマ、サンキュ」


エマ「どういたしましてっ」


エマ「フィーちゃん、大分良くなったみたいですね」


エマ「今朝見た時は、息をするのも辛そうな様子でしたので、心配だったのですが……」


フィー「……ん。 もう、あまりダルくない」


リィン「ベアトリクス教官の薬のおかげ……かな。 明日正式にお礼を言いに行かないとな」


フィー「……そうする」


フィー「……」


フィー「……エマ、リィン」


エマ「はい?」


リィン「ん?」


フィー「……昨日・今日のこと。 ……ありがとう。 感謝してる」


リィン「!」


エマ「!」


リィン「仲間だし、クラスメートだろ? 当然だよ」


エマ「困ってるときはお互い様、ですよ!」


フィー「……ん」


フィー「……でも」


フィー「もし、例え、そうだったとしても…………」


フィー「…………認めないから」


リィン「み、認めない? 何をだ?」


エマ「え、えっと、フィーちゃん? 何のこと?」


フィー「…………」













フィー「内緒……」ニコッ







フィーとの友好度が上がった!

エマとの友好度が上がった!





終わり
 




フィーは天使だと思います。

次回は誰かは未定です。よろしくお願いします。




ーー第三学生寮・シャワー室






アリサ「……」


リィン「……」


アリサ「……」


リィン「……あの、アリサ?」


アリサ「……」


リィン「俺は、別に大丈夫だから、その……。 無理はしなくても……」


アリサ「……」


リィン「……アリサ? やっぱりやめよう、こんな――」


アリサ「……えぇ~い!!!! いいの!!!!! わかってる!!! 私は、無理なんてしてない!!!」














アリサ「「いいから! 貴方は私と一緒にシャワーを浴びるの!!!!!」」







リィン「あ、アリサ、声が……」



アリサ「///」ハッ







10時間前…




――士官学院・グラウンド




リィン「……実験?」


ジョルジュ「あぁ。 実験なんて言い方は少し大げさだけどね」


リィン「というと、どういうことでしょうか?」


ジョルジュ「えっと、それはね――」


クロウ「まぁまぁまぁまぁまぁ!! 小難しい話する前に、これを見てくれよ!」バッ


リィン「……これは……。 石、ですか?」


クロウ「見て驚けぃ!」パリンッ


リィン「!」


ボォォォ…


リィン「あ、アーツ!? いつのまに詠唱を!?」



クロウ「残念っ! 誰もそんなことしてないんだなー」


リィン「!? だけど、今目の前で発動したのは、アーツでは……」


クロウ「アーツだけど、詠唱なんてもんは必要ないんだよ」


リィン「え……」


ジョルジュ「あはは……。 順序がめちゃくちゃだね」


ジョルジュ「リィン君。 それは、魔導石さ。 魔導杖や魔導バイクの力の源」


リィン「あ、あぁ、なるほど。 ……あれ? ですが、こんなに小さいものでしたっけ」


クロウ「それはオモチャなんだよオモチャ」


リィン「おもちゃ……」



クロウ「そそっ。 俺が企画立案した、その名もm」


アンゼリカ「『魔導くじ』」


クロウ「!? ちょ、てめぇ! それは俺の台詞!」


アンゼリカ「おや、それは申し訳ない。 あんまりにも遅いもので待ちくたびれてしまったよ」


クロウ「(どう考えてもわざとだろ……)」


トワ「も、もーうっ! 2人とも、後輩の前だよ! 喧嘩しないのーっ!」


クロウ「俺にとってはクラスメートだし~」ヒュー


トワ「屁理屈言わないっ!」


クロウ「へーい」


リィン「くじ、ですか?(相変わらずだなぁ……)」


ジョルジュ「そうそう……。 って、実際はそうじゃないんだけど」


リィン「??」


ジョルジュ「あべこべになっちゃったけど、1から説明するよ」


ジョルジュ「本来はさ。 導力の源になるものっていうのは、所持者の体力や精神力なんかを素にする半永久機関なんだけど」


ジョルジュ「これは、そういった『素』が必要ない、インスタント製品みたいなものなんだ」


リィン「なるほど……。 適正の無い人でもアーツが使えるようになる代物というわけですね」


ジョルジュ「そうだね。 ……と言っても、まだこれは試作品でさ」


ジョルジュ「導力の暴走なんかを考慮して、小さい力しか閉じ込めてないんだ」



リィン「なるほど。 それで、俺に頼みたいことと言うのはつまり……」


ジョルジュ「うん。 これを使ってみてほしいんだ」


リィン「試用すればいいだけ、ではないですよね?」


ジョルジュ「そうだね。 できれば、どのくらい効果があったのか、とかのレポートが欲しいかな」


ジョルジュ「効果時間、効力、効果範囲。 それらを大雑把でいいからまとめておいてほしい」


リィン「なるほど、それで『実験』という表現をしたんですね」


ジョルジュ「あぁ。 いずれ製品化を目標にしているものだからね」


ジョルジュ「でも、実際のやり方は簡単」


ジョルジュ「さっきクロウがやって見せたみたいに、ただこの玉を割ってくれるだけでいいんだ。 軽く力を入れるだけで割れるからね」スッ


ジョルジュ「石1つにつき、1回しか使えないから気をつけてくれ」


リィン「わかりました」


リィン「(……。 7、8個入ってるみたいだな)」ジャラッ


リィン「珍しく、工房ではなくグラウンド集合にしたのはこのためだったんですね」


ジョルジュ「誰かさんたちがふざけて工房内をめちゃくちゃにしかねないからね……」


クロウ「あん? 誰のことだ?」


アンゼリカ「君のことだろう」


クロウ「オメーだよ!」


ジョルジュ「うん、2人が思ってる人、両方正解かな」



リィン「ちなみに、何のアーツが入っているんですか?」


リィン「場合によっては対象が必要な補助アーツなどもあると思うのですが」


ジョルジュ「うん、良い質問だね」


ジョルジュ「でも、それがわからないんだよね」


リィン「!? わからない!?」


ジョルジュ「と、言うのも」


クロウ「その石っころにアーツの力を入れたの、俺たちだからさ!」


アンゼリカ「何が入ってるかは、お楽しみということさ」


トワ「ご、ごめんねリィン君……。 2人ともいたずらばっかりで」


リィン「あ、あはは……。 だから『くじ』なんですね……」


クロウ「スリルがあんだろー! わははははっ!」


ジョルジュ「本当は『くじ』なんかではなくて、『簡易使用型魔導石』っていうのが名前だからね……」



クロウ「まーっ、俺たちも鬼じゃないから!」


クロウ「流石に攻撃アーツか補助アーツかどうかの見分けくらいつくようにしてあっからさー! 頑張ってくれよ!」ニシシ


アンゼリカ「赤いものが攻撃系、紫が魔獣に対する補助系、そして緑が味方への補助系という内分けだったかな」


リィン「はぁ……。 まぁそれさえ分かれば、なんとか……」


リィン「(『だったかな』って……)」アハハ…


トワ「ご、ごめんねリィン君。 面倒な手間増やしちゃって」


リィン「いえ、そんなことありませんよ。 俺に出来ることでしたら、全力でやらせて頂きます」ニコッ


トワ「リィン君……」ポーッ


アンゼリカ「おっと、そのフラグはへし折らせてもらうよ」ヌッ


リィン「ふ、ふら……?」


ジョルジュ「とにかく、よろしく頼むよ。 報告は……そうだなぁ……」


ジョルジュ「ちょっと早いんだけど、明日の放課後までに頼めるかな?」


リィン「あっ、はい。 俺はこの後すぐに取りかかろうと思っていたので、大丈夫だと思います」


クロウ「――そうそう!!」


リィン「?」


クロウ「1個、俺からスペシャルなおまk―――――むぐっ!?」


アンゼリカ「それじゃあ、十分周囲に気をつけて行ってくれたまえよ。 一応、弱いとはいえ『アーツ』だからね」


リィン「……? は、はい」


ジョルジュ「……何かあったらいつでもARCUSの方で連絡してくれ」


リィン「わかりました。 それでは、失礼します」ペコリ



…………


……





……






トワ「もーっ!!2人も意地悪なんだからー! リィン君は折角手伝ってくれてるのに!」


アンゼリカ「ただ手伝うだけじゃ刺激が足りないと思ったからさ」パッ


クロウ「……ぶはぁっ! て、てめぇ!![ピーーー]気か! 息できなかったっつーの!」


アンゼリカ「君がつまらないことを言おうとするからだろう」


アンゼリカ「あれは内緒にしてこそ、価値があるというものだよ、うん」


クロウ「何でだよ! だってあれはただの――」


アンゼリカ「……」ゴニョゴニョ


クロウ「!」ニヤッ


クロウ「なーるほどね! それは面白い!! ってか、それはある意味うらやm――」


トワ「……。 2人して、また何か企んでる……?」ジトッ


アンゼリカ「……何でも無いさ。 全くね。 なぁ、クロウ」


クロウ「お、おぉともよ! 何でもないっての、うん!」


アンゼリカ「それでは、私たちはお昼にするとしようか」タタッ


クロウ「そうだなー! 今日の日替わりランチはなんだったかなー」タタッ


トワ「ま、待ちなさいーっ!! 絶対何か隠してるー!! 教えなさいーっ!!」タタタッ


アンゼリカ「捕まえてごらん、我が天使よ」


トワ「ふざけてるわけじゃないのーっ!!」


ジョルジュ「……やれやれ」















ジョルジュ「(リィン君が無事で済めばいいんだけどねぇ…………)」トテトテ



――士官学院・周辺道


1時間後…



リィン「はっ」ヒュッ


バリンッ


ボゥッ


シュゥゥ…


リィン「(……)」


リィン「(……火炎系アーツ・効果時間は10秒程度……っと)」カキカキ


リィン「(魔獣に対しても、空気中でも、ほとんど効果時間が変わらないと言うことは……)」


リィン「(対弱的な物質にでも阻まれない限り、効力は一定だということなのか)」


リィン「(屋内・屋外問わず発動できるみたいだし……)」


リィン「(効力や威力には、まだ問題があるみたいだけど……)」


リィン「(突き詰めることができたら、これは相当すごい発明になるのかもしれないな……)」カキカキ


リィン「(……メモは、これくらいでいいか)」パタン


リィン「……」チラッ


リィン「(……さて、と。 ……次で最後の1つだ)」


リィン「(案外早く終わりそうだな。 これで、清書したものを明日渡せば大丈夫だろう)」


リィン「(……最後の1つは、っと……)」ゴソゴソ


リィン「(…………あった)」ピッ


リィン「(……)」


リィン「(……ん? ……これは……)」




――第三学生寮・ロビー



アリサ「(んー……。 今日は部活休みだったから、早めに帰ってきちゃったなー)」


アリサ「(とは言っても、することないのよね……)」


アリサ「(……そういえば、シャロンはどこに……)」キョロキョロ


アリサ「(って、ダメダメ)」ブンブン


アリサ「(シャロンに構ってもらってるようじゃ、実家にいた時と何も変わらないじゃない!)」


アリサ「(お母様だって、『時間の有効な使い方くらい自分で考えなさい』って言うだろうし!)」


アリサ「……」


アリサ「(……でも、誰もいないみたいだしなぁ)」


アリサ「(……予習と復習したら、久々にお昼寝でもしようかしら)」


アリサ「(……そうしよっかな、うん。 たまには、ね……♪)」


ガチャッ


アリサ「(……ぁ)」



リィン「アリサ。 早いな。 部活帰りか?」


アリサ「え、あ、あっ、り、リィン! そっちも、早かったのね」アセアセ


リィン「……? どうかしたのか? 慌ててるが」


アリサ「う、ううん! 別に何も! 何でも無いわよ!」


リィン「……?」


アリサ「ら、ラクロス部は今日はお休みなの。 だから少し早めに帰って来ちゃった」


リィン「あ、そうなのか」


アリサ「リィンはどうしたの? 今日は生徒会の手伝いがあるって言ってなかった?」


リィン「あぁ、頼まれた仕事がほとんど終わってさ。 今、寮に戻って来た所だ」


アリサ「そうなんだ。 えっと、今日のはどんな仕事だったの?」


リィン「……そのことなんだが」




アリサ「……?」


リィン「そうだ、アリサ。 この後って時間あるか?」


アリサ「!?」


リィン「もし時間が空いてるなら、少し手伝ってもらいたいことがあるんだ」


アリサ「珍しいじゃない、リィンが私に頼み事なんて」


リィン「そ、そうか?」


アリサ「1人でいつも突っ走ってるイメージがありありなんですけど」ジトッ


リィン「う、うーん」アセアセ


アリサ「冗談よ、冗談」ニコッ


リィン「勘弁してくれ……」トホホ



リィン「……で、アリサ。 大丈夫かな。 もし予定があるなら無理はしないでくれ」


アリサ「あ、あぁ。 そうね、えぇっと……」


リィン「……やっぱり、急かな? すまない! 忘れてくれ!」


アリサ「え、う、ううん! 大丈夫よ! 時間は空いてるから!」


リィン「え、いいのか?」


アリサ「誰も寮にいなくってどうしようかと思ってたし!! ぜ~んぜん構わないわよ!」アセアセ


リィン「そ、そうか? ……ありがとう」ニコッ


アリサ「べ、別にお礼を言われることでもないってば!」カァァ


アリサ「(『暇だったからこれからお昼寝しようとしてた』なんて、言えない……)」ハァ…

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