少女「今日から貴方が私の彼氏ですか?」(263)

男「あー、彼女欲しい……」

男(もうすぐクリスマスだっていうのに……)

男(26歳でフリーターの俺には無縁か……)

男「仕事までネットでもしとくか……」

カチ……カチ……

男「ん……?なんだ、変なサイトに飛んだぞ……?」

男「彼氏募集中……ここをクリック……?」

男(出会い系サイトか?)

カチッ

少女『――今日から貴方が私の彼氏ですか?』

男「え……」

少女『どうもー』

男「やべ、変なの開いた。消そ」

少女『初めましてー♪私―――」

カチッ

男「ふぅ」

男「今のなんだ……?ネット中継みたいな……感じだったけど」

男「……」

男「ウイルスチェックはしとくか」

男(でも、ちょっとだけ可愛かったな)

――翌日

男「……」

カチ……カチ……

男「あ……昨日のサイトだ」

男「……」

男(彼氏募集中……ネット電話のテレクラみたいなもんか?)

男(つっても、有料サイトでもないし、会員登録もいらないし)

男「……」

カチッ

少女『あ!』

男「うお!!」

カチッ

男「お、思わず閉じてしまった……」

男「なんだ、このサイト……?」

男「もう一回……」

カチッ

少女『あ!!』

男「おぉ!?」

少女『なんで消すんですか!?』

男「……」

少女『もしもーし!!きこえてますー?』

男「あ、あの……」

少女『おーい!!』

男「そ、そうか……マイクがいるよな、こういうのって」

少女『なんとかいってくださーい!!』

男「な、なんか……怖いし……閉じるか」

少女『ねえってばー!!』

カチッ

男「そろそろバイト、いくか」

――街

男「お疲れさまでした」

「うーっす」

男「……」

店員「本日はノートパソコンが大特価でーす!!」

男「……」

店員「今ならなんと3万円でーす!!」

男「……あの」

店員「はい!!」

男「……」

男「あ、いえ。なんでもないです」

店員「はぁ」

男(あのサイト、気にはなるけど……マイクを買うほどじゃないな)

――自宅

男「ただいまー……っと」

男(さて……ネットネット……)

カチ……カチ……

男「………」

カチッ

少女『すぅ……すぅ……』

男「寝てる……」

少女『…すぅ…』

男「……」

少女『ん……?』

男「あ、やべ」

カチッ

男「……あの子、常にパソコンの前にいるのか?」

男「なにやってんだ?」

――翌日

男「……」

カチッ

少女『……お!?』

男「……」

少女『あのぉ……私のどこが気に入らないんですか?』

男「……」

少女『折角、お付き合いしているのにこの仕打ちは無いと思うんですよ』

男「……」

少女『それに私、マゾじゃないですから。放置されても嬉しくないんで―――』

カチッ

男「……さてと、仕事いくか」

――夜

男「……」

カチッ

少女『もぐもぐ……んぐ!?』

男(なんか食ってる……)

少女『もごぉごもがぁ!?』

男「……」

少女『ももふぉふぃふぃ!??』

男(うわ。モニターになんか飛んだ。きたねえ)

少女『ふぇふぉふぉるば!!』

男「……」

カチッ

男「なんか面白くなってきた」

――翌日

男「……」

カチッ

男「あれ、いないな」

男「……いつでもいるわけじゃないのか」

少女『―――ふぅ。すっきりした』

男「……」

少女『最近、ちょっとお腹が緩んで大変―――ぬわぁ!?』

男「……」

少女『なんですかぁ!?何も答えない癖にそうやって乙女の生活を覗き見て!!変態!!へんた―――』

カチッ

男「一応、普通に生活はしてんのか」

男「四六時中パソコンの前ってわけでもないんだな……」

――夜 街

男「お疲れさまでした」

「おつかりんこー」

男「今日は疲れたな……酒でも買って帰るか……」

店員「今日はノートパソコンが大特価!!」

男「……」

店員「なんと29800円!!!これは安い!!」

男「……」

男(いいか)

男「コンビニに寄っていこ」

店員「さあ!5台限りですよー!!」

――自宅

男「……」

カチッ

少女『―――あいうぉんちゅー♪あいにじゅー♪』

男(AKBが好きなのか?)

少女『な!?!また勝手に!!!』

男「……」

少女『もう!!見るときはみますよー!!って言ってください!!!』

男(そんなことができるのか?)

少女『なんでこんな人が私の彼氏に……さいてーです!!』

男「……」

少女『……あの、そろそろ会話をしま―――』

カチッ

男「寝るか」

――日曜日

男「今日はバイトもないし……予定もないし……」

男「……あの子、どうしてんだろ」

カチッ

少女『ぶるぶるあいあい!!ぶるべりあい!!』

男「……」

少女『どうだー!!驚きましたかー!!いつもそうやって突然覗いてくるのを逆手にとって、いきなり一発芸をお見舞いしてやりましたよー!』

男「……」

少女『あっはっはっはっは』

男「……」

少女『あはは……は……』

男「……」

少女『……』

男「……」

少女『ちょっと!!なんで今日に限って途中で閉じないんです!?信じられません!!!』

男(なんか見てて楽しいな)

少女『だ、だいたいですね、なんでそうやっていつもいつも黙ってるんですか!?』

男「……」

少女『彼女に失礼だと思わないんですか!?』

男「……」

少女『もしもーし!?おーい!!なんとか言ってくださーい!!』

男(可愛いな。何歳ぐらいだ?)

少女『なんで私ばかりがいつも喋ってるんです?!』

男「……」

少女『……あの』

男「……」

少女『マイクがないなら、買ってくださいよ。安い奴、教えてあげますから。えっとですね、あれがいいですよ。ソニ―――』

カチッ

男「腹減ったな。飯でも買いに行くか」

――1時間後

男「……」

カチッ

男「あれ?」

男「……いないな」

男「またトイレか?」

男「……」

男「………」

男「…………出てこないな」

男「どうしたんだろう……?」

少女「じゃーん、いないと思いまし―――」

カチッ

男「あ、そーだ。あのゲーム予約開始だったな。予約しとこ」

男「よし。予約できた」

男「……」

カチッ

少女『ふえーん!!!』

男「うぉ!?」

少女『もういいがげんにじでぐざーい!!』

男「……」

少女『私、彼女ですよ!?なんで無視するんです!?』

男(この子、画面に寄り過ぎて鼻の穴がどアップになってるのに気付いてないな)

少女『貴方の声、まだ付き合ってから一度も聞いてないんですよぉ!!』

男「……」

少女『おかしくないですかぁ!?!』

男「……」

少女『……なんかいえや、こらぁ!!』

男(やっぱり面白いな)

男「……」

少女『バーカ!アーホ!!』

男「……」

少女『この甲斐性なしー!』

男「……」

少女『スケベー、覗き魔ー、へんたーい』

男「……」

少女『痴漢ー、ロリコンー』

男「……」

少女『これだけ言われても反論しないなんて……この腰ぬけー』

男「……」

少女『……あの、怒ってます?ぜ、全部冗談ですから―――』

カチッ

男「うーん……部屋の掃除でもすっか」

男「……ふむ」

カチッ

少女『あ!!よかったぁ!!あの!!さっきのは全部冗談ですからね!!嘘!!嘘です!!』

男(本から片付けるか)

少女『あの良い過ぎたなら謝りますから!!――こっち向いてくれません!??』

男「ふんふーん」

少女『あ、部屋の掃除ですか。いいですね。私も定期的に掃除してますよ』

男「よし」

少女『この前もほら!新しい掃除機買ったんですよ!どうですか?』

男「テーブルの上も整理しなきゃな」

少女『この小型の掃除機が近所の家電屋さんには売ってなくて、手に入れるのに苦労したんですよ』

男「よいしょ……」

少女『吸引力もすばらしいんですよ!ほらほら!!』

男「うし、こんなもんか」

少女『あのぉ!!!私の何がいけないんです!?直しますから言ってみてくれません!?』

男「……」

少女『……あの』

男(偶に見つめると照れるのが可愛いな)

少女『えと……マイクを……そろそろ……ですね?』

男「……」

少女『買ってくれてもいいかなぁって思うんですよぉ』

男「……」

少女『安いの紹介しますし、私のとお揃いにしません?』

男「……」

少女『ほらほら、これなんて可愛いですよ?』

男「……」

少女『あはー』

カチッ

男「……出かけよう」

――街

店員「大特価!!ノートパソコンが27900円!!5台限り!!!」

男「……」

店員「あ、どうです!?」

男「パソコン用のマイクって何階に置いてます?」

店員「あ、えーと……四階にありますね」

男「どうも」

店員「あの、ノートパソコン、どうですか?」

男「なんで売れないんです?」

店員「わかりません……この型、そんなに悪くはないんですけどね」

男「ふーん」

店員「どうです?」

男「間に合ってます」

――自宅

男「……」

カチッ

少女『べろべろばー!!』

男「……」

少女『……』

男「……」

少女『うわーーー!!!』

男「な、なんだ……?」

少女『もういいです!!わかれましょう!!』

男「なんで?」

少女『だって、私のこと嫌いなんでしょう!?もういいですよ!!早く閉じちゃってください!!私達の愛と一緒に!!』

男「意味がわからんな」

少女『ふん……弄ばれただけなんだ……私……』

男「別にそんなことは……まあ、多少面白がって見てたけど」

少女『ほらー!!』

男「いや、ごめん。なんか君を見てるのが楽しくなってきちゃって」

少女『はいぃ?!女の子を見て楽しむとかとんだ変態さんですね!!知ってましたけど!!』

男「悪かったってば」

少女『今更謝られても許しません!!』

男「そうか……残念だな」

少女『……え?』

男「折角、君と同じマイクも買ってきたんだけど」

少女『え、あ……会話……してる……』

男「君がそこまでいうなら……終わりにしよう」

少女「え!?ちょ!!!あの!!私、大好き!!あなたのことだーいす―――」

カチッ

男「腹減ったなぁ」

男「……次、開くときが楽しみだ」

男「……」

カチッ

少女『あ……』

男「泣いてたのか?」

少女『な、泣いてません……』

男「……」

少女『……なんですか。昔の女に未練でも?』

男「……」

少女『もう閉じてください』

男「君から閉じればいいだろ」

少女『……できればやってます』

男「できないのか?」

少女『だって……貴方から告白してきたじゃないですか』

男「え?いつ?」

少女『最初に……』

男(このページを開いたときのことか?)

少女『はやくとじろーー!!!』

男(枕投げてきた……)

少女『うぅ……初めての彼氏だったのにぃ……』

男「……」

少女『……なんでいつまでもみてるんです!?!』

男「あ、ごめん。嘘嘘」

少女『え?』

男「これからもこうやって話してくれないか?」

少女『……』

男「なんか君と話してると面白いし」

少女『えと……その……それって私のことを愛してる――――』

カチッ

男「あ、なんかノートンが起動しちゃった」

男「やべえな。ブラウザが閉じちゃったよ」

カチッ

男「ごめんごめん」

少女『死ね』

男「怒るなって。今のはわざとじゃないから」

少女『……ふん。知らないっ』

男「もしもし?」

少女『……』

男「……」

少女『………』

男「……ふわぁ~」

少女『なんで欠伸するんですかぁ!!!もっとなんか言ってくださいよ!!』

男「え?なにを?」

少女『いや……ごめん、とか、本当にわざとじゃないんだ、とか。言い訳をいっぱいしてくれないと、こっちも許せなくなっちゃうでしょう!?』

男「ごめん。本当にわざとじゃないんだ」

少女『なんでオウム返しなんですかぁ!?』

少女『告白してきた相手を追いかける恋愛とか漫画でも見たことないですよ……』

男「なあ」

少女『……ふーんだ』

男「このサイトってなんなんだ?俺、リンクを辿ってるうちにここを見つけただけで、よく分からないんだけど」

少女『え?それって……ここがどんなサイトか知らないってこと?』

男「そう言ってるだろ」

少女『ま、まさか……私の紹介文とか全く読まずに、告白を……?!』

男「うん」

少女『ばぁ~』

男「な、なんだよ」

少女『か!!!』

男「……」

少女『じゃあ、なんで私に告白してきたんですか!!偶々ですかぁ!!』

男「そうなるな」

少女『……泣きたい』

男「どんなサイトなんだ?」

少女『……ここは出会い系サイトみたいなものなんです』

男「やっぱり」

少女『気に入った意中の人のアドレスにアクセスすることで告白が成立。で、告白された方は基本的にお断りできません』

男「それっていいのか?」

少女『はい。だってアクセスするには条件がありますから』

男「条件?」

少女『その人のことが本当に好きじゃないと、アクセスできない仕組みになってます』

男「え?」

少女『ですから、告白される側は安心してお付き合いできる……はずなんですが』

男「あー、どうやって好きかどうかを判断してるんだよ?」

少女『このサイトのトップページに書いてます!!』

男「アドレスくれ」

少女『むー……どーぞ!!』

男「手書きかよ……えっと……」

男「えっと……」

少女『ちゃんと読んでください!……あ、あと良ければ私の紹介ぶ―――』

カチッ

男「……ん?」

カチカチッ

男「あった……えっと……」

男「このサイトで告白をする場合について」

男「相手のアドレスを入力し、トップページに行ってください。その際、告白認証が行われます」

男「認証時、相手のことを深く想っていなければ認証ができませんのでご注意ください」

男「……気味悪いな」

男「人の感情をどこで……?」

男「……このサイトでは感情感知システムを試験導入しています?」

男「……うさんくせえ」

男「……」

カチッ

少女『お分かりいただけただろうか?』

男「……そんな低い声出すなよ」

少女『で、どうでした?』

男「感情感知システムって言うのか?あれの意味がよくわかんないんだが」

少女『なんでもパソコンを通じて感情を数値化してるらしいですよ?』

男「どこから?」

少女『マウスとかキーボードからですかね?』

男「怖いし、誤作動でまくりだろ。今回みたいに」

少女『……』

男「あ、えと」

少女『あの……私のことどうでもいいなら、もう別れてくださいよぉ!こっちも辛いんですから!!』

男「えー……それは嫌だな」

少女『お……そ、それって……私のことが……す、き……?』

男「いや、なんか面白い」

少女『あーそうですか!!私は貴方にとってピエロですか!!玉乗りでも仕込みますぅ?!』

男「怒るなよ」

少女『じゃあ、好きなんですか?』

男「いやさ、こう画面越しで会話してるだけだし、まだネット上で会話してるだけだろ?」

少女『ええ、まあ』

男「直接会って話さないか?」

少女『え!?もう結婚ですかぁ!?』

男「はぁ!?」

少女『あ、いやぁ……それは話が飛躍しすぎっていうかぁ』

少女『で、でも……その……面倒をきちんとみてくれるって、いうなら……いいですけどぉ』

男「結婚って……まさか!!」

少女『あは~、挙式は洋風がいいですけ―――』

カチッ

男「……あ、書いてる。直接会うときは、結婚を決めたときのみにしてください、か。でも、会うぐらいならバレるわけないだろ……」

男「……」

カチッ

少女『――で、お色直しは最低でも2回はしたいですよね~』

男「おい」

少女『あ、はい?』

男「このサイト、監視でもされてるのか?」

少女『はい。偶に変な事をお願いする人もいるみたいなんで』

男「さっきアドレスを手書きでみせてきたよな?」

少女『それが?』

男「このサイトからじゃアドレスの受け渡しはできないのか?」

少女『はい。個人使用のアドレスは全部ダメです。渡そうとした瞬間に通信が切られます』

男(どんなサイトだよ……プライバシーもあったもんじゃないぞ)

少女『あの、どうかされました?――で、いつ会います?』

男「あ、ごめん。じゃあ、会うのはキャンセルで」

少女『結婚詐欺だぁ!!うわーん!!』

――夜

少女『――で、友達が『それはピーマンだろ!』っていって、もうおかしくて、あはは!』

男「そろそろ終わるか」

少女『あ、そ、そうですか?』

男「君、学校は?」

少女『え?』

男「え?じゃなくて明日学校あるんじゃないのか?」

少女『ありますけど、それがなにか?』

男「なら早く寝た方が」

少女『それもそうですね』

男「……」

少女『なんです?』

男「いや……おやすみ」

カチッ

男(そういえばこの子はいつも画面の向こうで俺のことを待ってるのか……?)

――翌朝

男「朝の9時……普通なら学校に行ってるよな」

男「……」

カチッ

男「……え?」

少女『あ、おはようございます。今は少し、静かにしててくださいね?』

男「君、学校は?!」

少女『今、授業中です』

男「……」

少女『あ、はい。―――えと、58です』

男(本当に授業中かよ)

少女『なんですか?』

男「勉強、頑張ってくれ」

少女『うっす!』

男(小型のパソコンとかか……?)

――夜 街

男「お疲れさまでした」

「おつかれちゃーん」

男「……」

店員「今ならノートパソコンが17500円でーす!!」

男「……」

店員「どうですかぁ!!最新のモバイルパソコンですよー!!」

男「あの」

店員「はい!?」

男「どんな感じなんですか、それ?」

店員「あ、えっと、電子辞書サイズなんですが、こうして広げることもできるんです」

男「ふーん」

店員「どうです?」

男(そこまでする必要もないよな)

男「また来ます」

――自宅

男「なあ」

少女『ふぁい?』

男「食べながら会話するか、普通?」

少女『食事時を狙ってくるからじゃないですか』

男「ところで君が使ってるのってパソコンなのか?」

少女『はい!お見せることはできませんけど、最新のノートパソコンです』

男「小さいのか?学校にも持って行ってたみたいだけど」

少女『手の平サイズです』

男「うそだろ?」

少女『電子辞書と一緒ぐらいですかね。告白されたときに買ったんですよ』

男「なんで?」

少女『だってぇ、会いたいときに会えない女だと思われたくないですからぁ』

男「ふーん」

少女『ふーんって……』

男「それいくらで買った?」

少女『もう大特価でした!!なんと3万円です!!』

男「……」

少女『いやぁ、なんかすごいお得な感じでしたね』

男「今なら半額ぐらいになってるぞ?」

少女『えぇ!??どこでですかぁ!?!』

男「それ言ってもいいのか?」

少女『あ、ダメです。場所を特定するような会話も禁止なんで』

男「だよな。その店はよくいくのか?」

少女『えっと、ネットで知りました』

男「そっか」

少女『それにしても半額ですか……・なんか損した気分ですね。あ、よければ一緒のパソ―――』

カチッ

男「あ、ブラウザ間違って閉じちゃった……」

男(でも、意外と近くに住んでんのかな?)

――数日後

少女『あ、どうもー』

男「よ」

少女『そういえば、パソコンに詳しいですか?』

男「なんで?」

少女『最近、パソコンの調子が悪くって』

男「メインのほうか?」

少女『ちょっとまってください……はい、このデスクトップのほうです。これで貴方と運命の出会いを……あは~』

男「どう調子が悪いんだ?」

少女『なんか遅いんですよ。重たいっていうか』

男「ウイルスじゃないのか?」

少女『うーん……そんなはずは……』

男「なんか色んなもんをインストールしてるとか」

少女『……もう!!わかりません!!こっちにきてくださいよ!!』

男「無茶言うな」

少女『――お、なんか軽くなりました!!』

男「ウイルスソフトの入れ過ぎかよ」

少女『ありがとうございます!!』

男「別に良いよ」

少女『あの……』

男「なんだ?」

少女『も、もうすぐ……クリスマス、ですよね?』

男「そうだな」

少女『えと……どうします?』

男「どうするって?」

少女『クリスマスはやっぱり……二人で……きゃー!!』

男「でも、画面越しだろ?」

少女『ええ、まあ』

男「虚しいな」

少女『そ、そんなことはないでしょう!!全国には遠距離恋愛している人たちもいるんですよ!!』

男「つってもなぁ」

少女『こうして画面越しでキスだった……んー……』

カチッ

男「……」

カチッ

少女『せめて突っ込んでくれないと恥ずかしいじゃないですかぁ!!!』

男「知らん」

少女『意地悪……きらいっ!』

男「……」

少女『……だから、なんで見つめるんで―――』

カチッ

男「……そうか。あと2週間でクリスマスか」

――夜 街

男「お疲れさまでした」

「おっつんこ」

男「今日は一段と冷えるな」

店員「大大大特価!!!今ならこのパソコンが9800円です!!」

男「あはは……」

少女「うわ!!やっす!!!ネットの情報は正しかったぁ!!」

男「え……」

少女「あー!!なんでこんなに値下がりしちゃってますかー!!」

店員「どうですか!?今ならこのUSBメモリもついてきますよ!!」

少女「でも……もう一台……買おうかなぁ……あの人に……」

男「……あ、あの」

少女「はぇ?」

男「……」

少女「……誰ですか?」

男「え……」

少女「なんでしょうか?」

男「い、いや……」

少女「失礼します」

男「あ……」

店員「あぁ……」

男「……」

店員「買いません?」

男「お断りします」

店員「ふぇぇ」

男(なんだ……いつも顔を合わせてるのに……)

男「やっと、会えたのに……なんだよ……」

――自宅

男「……」

カチッ

少女『ババロア!!』

男「うおぉ!?」

少女『驚きました?』

男「お前の声にな」

少女『そうですか、あっはっは』

男「なあ、今日―――」

少女『ミシシッピ!!!』

男「……」

少女『……』

男「電気屋で―――」

少女『マザーテレサ!!』

男「お、おい……」

少女『今日の晩御飯はチャーハンでした。なんか手抜きで困っちゃいますよね』

男「なぁ……」

少女『取っ手の取れるティファール!!』

男「……」

少女『で、チャーハンと一緒にシューマイが出てきたんですよ。こっちはすこし手間暇かけてくれたかなーって思ったら、なんと冷凍食品でしたとさ!』

男「おい」

少女『――言わないで』

男「え……」

少女『……』

男「な、んで……?」

少女『……ダメ』

男「……」

少女『やっと……ちゃんと貴方のこと好きになれたのに、こんなことで会えなくなるのは嫌です』

男「あ……ごめん」

少女『あの……それでですね、シューマイの上に乗ってるグリーンピースの是非を問おうと家族会議を開いてですね―――』

男「……じゃあ、そろそろ」

少女『はい!また明日!!』

男「あ、クリスマスだけど」

少女『はい?』

男「仕事、休むことにした。一緒に過ごそう』

少女『ほ、本当ですか!?!』

男「ああ」

少女『わーい♪』

男「おやすみ」

少女『はーい。おやすみな―――』

カチッ

男「……」

男「やばいな……すごく、会いたくなってきた……」

――数日後 夜 街

男「お疲れさまです」

「おつかれさまんさ」

男「ふぅー……」

店員「みなさーん!!大ニュースでーす!!なんと!!このパソコン!!7800円でーす!!」

男「……」

店員「今なら色んな付属品もお付けしちゃいまーす!!」

男「……」

店員「どうですかー!!買いませんかぁ!?!??」

男「……」

店員「あと4台ですよぉぉ!!」

男「……」

店員「どうですかぁ!?!?!」

男「……」

店員「……かってくだしゃい。この季節、外で働くの辛いんですよぉ」

――クリスマス・イブ 夜

男「……」

カチッ

少女『ハッピーニューイヤー!!』

男「まだだろ」

少女『えへへ……あのぉ、どんなことしますか?』

男「そうだなぁ……」

少女『蜜柑は用意しましたよ?』

男「食べれないだろ」

少女『私は食べます。もぐもぐ……すっぱ!!』

男「あはは……」

少女『……今、幸せですよ、私?』

男「ふーん」

少女『い、や……ふーんって』

男「あ、それより外、雪ふってるぞ」

少女『ええ!?降ってませんよ?』

男「降ってるよ」

少女『嘘だぁ』

男「ホントだって」

少女『そっちだけじゃないんですか?』

男「そんなことないって」

少女『えー?』

男「外出てみろよ」

少女『仕方ないですねぇ……』

男「……降ってるだろ?」

少女『いえ?』

男「おかしいなぁ……」

―――っかでーす!!!

少女『……!?』

男「降ってないか?俺のところは降ってるけど」

男「―――待ってるから」

少女『あ―――』

カチッ

男「これ以上は駄目だな」

店員「はぁ……はぁ……」

男「ありがとうございます。大声張り上げてもらって」

店員「……4台、買ってくださいよ?」

男「はいはい」

店員「もう……で、なんでこんなことさせるんです?」

男「会いたい人がいるんです」

店員「恋人?」

男「はい」

店員「いいなぁ……」

男「クリスマスなのに大変ですね」

店員「この仕事、やめようかなぁ」

男「あ、これ無線ランとかは付属なんでしたっけ?」

店員「そうですよ?もう大サービスです」

男「じゃあ、残り3台も下さい」

店員「他のはすぐに使えるようにしなくていいんですか?」

男「はい。この一台だけでもう十分だと思いますから」

店員「じゃあ、少し待っててください」

男「はい」

男「はぁ……」

男「来るかな……」

男「……」

店員「あのぉ」

男「はい?」

店員「どうぞ。使い捨てカイロですけど」

男「いいんですか?」

店員「手を握る時、手が冷たかったら彼女さんが可哀想ですからね。しっかり温めておかないと、ね?」

男「ふぅー……」

男「……」

男(ここまで遠いのかな……?)

男(どれくらいかかるんだろう)

男「……パソコンを使えばどこにいるか分かるか?」

男「……」

男「………」

カチッ

少女『――はい?』

男「……あと、雪は?」

少女『……はい。降ってます』

男「そうか」

少女『……』

男「……今、どこにいる?」

少女『え?自宅に決まってるじゃないですか』

男「そうか」

少女『残念でしたー!!』

男「なにがだよ」

少女『会えるかもしれないんて、甘いですよ!!外に出るだけで会えるなら、世間狭すぎですよー』

男「そうだな」

少女『ふふ……』

男「俺は今、外にいるんだけどさ。使い捨てカイロ貰って、手を温めてたんだ」

少女『へえ。そうだったんですか』

男「店員さんにサービスしてもらった。ほら、パソコンをいっぱい買ったから」

少女『あはは。――って、それ私と同じやつ!?』

男「そう。投げ売りされた」

少女『あちゃー……』

カチッ

男「どうした?」

少女「いえ……私とお揃いにしよって思って、私もそれ買ってたんですよ……すいません」

男「あ……てことは……」

店員「あー!!お二人が恋人だったんですかぁ!?!?」

少女「え……あ、はい」

店員「お二人で5台も買っていただいて、ありがとうございます」

男「はは……」

店員「では、これを」

少女「え……?マフラー?」

店員「今日は冷えますからね。福引の景品なんですけど、差し上げます」

男「そんな……悪いですよ」

店員「いえいえ。アナタは当たりを引いたってことで」

男「じゃあ……ありがとうございます」

少女「えへへ……あったかい」

男「そうだな」

店員「ありがとうございましたー!!よいお年をー!!」

――自宅

少女「どうします、このパソコン?」

男「どうするって……もういらないな」

少女「え……?」

男「もうこうやって触れられるし」

少女「そ、そうですね……」

男「……雪が降ってきたな」

少女「嘘が本当になりましたね」

男「ああ……」

少女「あの……」

男「ん?」

少女「今日から貴方が私の彼氏ですか?」

男「はい、そうです」

少女「むー……やっと聞けた……。でも、待たされたお仕置きです!!――私はずっと貴方の彼女ですからね!!」


おしまい。

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