あかり「トリック・オア・トリート!」(158)

結衣「……」

あかり「トリック・オア・トリート!」

結衣「あかりは何を着ても可愛いなぁ」

あかり「ぇへへ。 ってそうじゃなくて!」

結衣「まぁ、立ち話もアレだし上がったら?」

あかり「おじゃましまーす」

結衣「こんな時間にチャイムがなってびっくりしたよ」

あかり「ご、ごめんね!」

結衣「おまけにモニターに写ったのがうごめくシーツだし……」

あかり「ちゃんとお化けな顔も書いてあるんだよっ!」

結衣「全然見えてなかったけどね」

あかり「うぅ……」

結衣「てっきり京子だと思ったんだけど、まさかあかりとは……」

あかり「たまにはいいかなーって」

結衣「出番ほしさについにこんなことにまで手をだしたのか」シクシク

あかり「そ、そんなのじゃないよぉ!」

結衣「で、京子やちなつちゃんは?」

あかり「え?」

結衣「どうせ京子あたりがけしかけたんだろ?」

あかり「違うよぉ! 今日はあかりの独断先行だよ!」

結衣「……」ピトッ

あかり「熱なんてないよ……」

結衣「あかりがおかしい。 お団子が7つぐらいに増えてない? 大丈夫?」

あかり「もー! 結衣ちゃん!」

結衣「いやぁ、本当に一人って珍しいな、と」

あかり「あかりだって本気を出せばコレくらいできるもん!」

結衣「はいはい」

――

結衣「はい、ホットココア」

あかり「わーい。 ありがとー結衣ちゃん」

結衣「でも、本当に一人できたの?」

あかり「一人だよぉー?」

結衣「もう9時半なのに、あかりが一人で外出なんて信じられないよ……」

あかり「ちゃんとお姉ちゃんに許可とってあるから大丈夫ー」

結衣「いや、そこはお姉さんじゃなくて親じゃないのか?」

あかり「あかりの管理に関してはお姉ちゃんが一番なの! っていつも言ってるから」

結衣「そ、そうか」

結衣「ふー。 まぁあかりでよかったよ。 京子だったらもっと大変な事やらかしそうだし」

あかり「あはは……」

結衣「でも日付変わるまでは油断できないね」

あかり「えぇっ」

結衣「京子ならいつ飛び込んできてもおかしくない」

あかり「わかるような気がする……」

結衣「あいつの場合、お菓子あげてもいたずらして帰りそうだからなぁ」

あかり「お菓子じゃなくてラムレーズンでしょ?」

結衣「そうだな。 一応買っておいてあるんだけどね」

あかり「百合夫婦ってやつだよね!」

結衣「いや、そういうのじゃ……。 ってそんな言葉どこで覚えたんだ!」

あかり「お姉ちゃんが、あかりとは将来禁断の百合夫婦になるのよーって」

結衣(あかねさん……)

結衣「いいかあかり。 確かに私と京子は仲がいいけど、その、百合夫婦ってのでは、たぶん、無いと思うんだ」

あかり「そうなの?」

結衣「うん」

あかり「そっかぁ」

結衣「あぁでも、古谷さんと大室さんは百合夫婦だと思うよ」

あかり「向日葵ちゃんと、櫻子ちゃん?」

結衣「うん。 あの二人は確実に百合夫婦」

あかり「そうなんだぁー。 今度結婚のお祝いしてあげないと!」

結衣「えっ、いやー、そういうのはどうかなぁー」

あかり「ながーいマフラー編んであげて、二人で巻くとか!」

結衣「……ありだな」

あかり「ぇへへ」

結衣「マフラーっていうと、あのちなつちゃんからもらった……」

あかり「あぁ……」

結衣「あれ、古谷さんに教えてもらったって言ってたような気がするけど」

あかり「そうだねー。 その時櫻子ちゃんが向日葵にかまってもらえなくて色々と……ってあぁ!」

結衣「何!?」

あかり「あの時、向日葵ちゃんが櫻子ちゃんにマフラーあげてた……」

結衣「そっか……。 じゃあ改めてマフラーをプレゼントってのは」

あかり「考えなおしかなぁー。 うーん、冬って考えると、手袋とか?」

結衣「あえてバラで3つ渡して、一つに二人の手を入れるー、みたいな?」

あかり「おぉー! やったことあるみたいな発想だねっ!」

結衣「ないよ」ニコッ

あかり「あ、ありそうだけど……」

結衣「ないよ」ギリッ

あかり「そ、そっかぁー」

あかり「……やってみたい?」

結衣「そうだなぁ。 やってみたい、かな」

あかり「ぇへへ、結衣ちゃん可愛い」

結衣「いや……」

あかり「やっぱり、京子ちゃんと?」

結衣「うーん……」

あかり「もしかして、ちなつちゃん?」

結衣「……あかりがいいかな」

あかり「そっかぁ、あかりかぁー。 えぇ!?」

結衣「だめかな?」

あかり「えっ、と……」

結衣「……そっか」

あかり「あっ、その、ダメってわけじゃないんだけど……!」

結衣「だけど?」

あかり「こ、心の準備が!」

結衣「……あはは」

あかり「ぇへへ」

結衣「まだ手袋するような時期じゃないしさ、ゆっくり覚悟決めといてよ」

あかり「や、やるんだ……」

結衣「ダメってわけじゃないんだろ?」

あかり「う、うん……。 がんばる!」

結衣「首を洗って待ってるんだぞ」

あかり「それ違うと思うなぁ!」

結衣「あはは」

――

結衣「ハロウィンかぁ」

あかり「いたずらっていうと、櫻子ちゃんの顔が思い浮かぶー」

結衣「私は京子だなぁ」

あかり「この間ねー、あかりが散歩してて」

結衣「う、うん」

あかり「公園のベンチで、鳩さんにクッキーあげてたら、いきなり叫び声が聞こえて」

結衣「ほう」

あかり「鳩さんが一斉にバサーッ!って……」

結衣「それはびっくりするな」

あかり「その叫び声、櫻子ちゃんのいたずらだったんだよ!」プンスカ

結衣「そういう話の流れか」

あかり「そうだよぉー。 ほんとにびっくりしたんだからー!」

結衣(同じ現場に居合わせたら私もやるだろうな……ふふふ……)

あかり「トマトジュースで皆が倒れてた時もびっくりしたんだからね!」

結衣「あぁ、アレは楽しかったな」

あかり「楽しくなんてなかったよぉ!」

結衣「ちなつちゃんがやけに慌ててて何が起こったのかと……」

あかり「ちなつちゃんも間違えてたんだ……」

結衣「もうちょっとで京子を刺そうかという勢いだったよ、ちなつちゃんは……」

あかり「あはは……」

結衣「そして、もうすぐ年賀状だね……」

あかり「……」

結衣「思い出すだけで凍りつくなんて」

あかり「今年は気合を入れて見ないと!」

結衣「あぁ……。 あかりのもちゃんと届くといいなぁ」

あかり「えぇっ、あかりの届いてなかったの!?」

結衣「届いてたのは、届いてたけど……ははは……」

あかり「何! 一体何がったのー!?」

結衣「今年はがんばれ」

あかり「ふぇぇ」

あかり「あー、でもその前にクリスマスだねー」

結衣「あぁ。 またアレやるのかな」

あかり「池田先輩、優しくて可愛かったんだよー」

結衣「おばあちゃんってかんじだよな、千歳は」

あかり「うん!」

結衣「綾乃は……、綾乃だったよ」

あかり「わかんないよぉ」

結衣「座ってただけだからな」

あかり「あかりはあんみつ食べたんだよー」

結衣「千歳のイメージにぴったりだな」

あかり「楽しかったって言ってもらえて嬉しかったんだよぉーぇへへー」

結衣「じゃあ、今年は私とあかりで先に予約しておこうか」

あかり「お、おぉー」

結衣「ふふっ、覚悟決めておくんだよ」

あかり「が、頑張るっ!」

結衣(私もだけどな……)

あかり「あ、でもこの前、本屋で池田先輩に声かけたら無口で立ち去られちゃって……」

結衣「それは千鶴じゃないか?」

あかり「千鶴さん?」

結衣「千歳の双子の妹だよ」

あかり「えぇっ! 池田先輩って双子だったんだ……」

結衣「私も結構最近まで知らなかったからなー」

あかり「じゃあ……どうやって呼ぼう!?」

結衣「池田先輩Bとか……」

あかり「び、びぃー……」

すまん、15分から20分ぐらいあく

――

あかり「生徒会長さんって見たことないよねぇ」

結衣「そうだっけ?」

あかり「うん。 結衣ちゃんはあるの?」

結衣「あぁ、そういえばあの時のあかりは怨念だったね……」

あかり「だからその怨念ってなんなの!?」

結衣「生き霊がね……」

あかり「あかりにそんな力が……」

結衣「生徒会長は、ちょっとあかりに似てるところがあるかも」

あかり「えっ、どんなところー?」ワクワク

結衣「と、透明感がすごいところ……?」

あかり「ぇへへ、空気仲間なんだぁ」

結衣「いやいや画面に入ればあかりよりは存在感あると思うよ」

あかり「そんなぁ……」アッカリーン

結衣「うーん、でもたしか、海に行った時も生徒会長いたって話だったかな」

あかり「えっ」

結衣「私も全然気づいてなかったけど……」

あかり「う、うーん……居た、様な気が、しない……よぉ」

結衣「あはは……」

あかり「あっ、でもこの間生徒会室が爆発したのは知ってるよ!」

結衣「西垣先生だなー」

あかり「その先生も見たことないかも……」

結衣「理科室登校の先生だからね」

あかり「そ、そんな登校の仕方があるんだ……」

あかり「……ババフェイス……」

結衣「ぶっ、いきなり何を」

あかり「ぇへへ、思い出しちゃって」

結衣「ババフェイスは嫌だな」

あかり「ユッピー可愛いと思ったんだけどなぁ……」

結衣「確かに悪くはないと、思うけど……」

あかり「けど?」

結衣「ユッピー知ってるよ。 とか言われそうで」

あかり「ふぇ?」

結衣「後、お休み、ユッピーとか言われそうで」

あかり「よ、よくわからないけど、大変なんだね!」

結衣「あぁ……大変なんだ」

あかり「あかりもニックネームほしいなぁ」

結衣「あかりだと、どうしてもあかちゃんにしかならないねぇ」

あかり「あかちゃんは嫌だなぁ」

結衣「うーん……」

あかり「うーん……」

結衣「あかりは、あかりのままでいいと思うよ」ニコッ

あかり「そ、そうかなーぇへへー」

結衣「そうそう」

あかり「……」

結衣「……」

あかり「しくしく」

結衣「か、考えておくよ!」

あかり「ほんとに!? わーい」ニコニコ

あかり「あっ、この間のちなつちゃんとのデートどうだった?」

結衣「あぁ、楽しかったよ」

あかり「よかったぁー。 ちなつちゃんすごい気合入ってたんだよっ!」

結衣「そうだね、もう少しで折られるところだったよ……」

あかり「どうして!?」

結衣「ははは……」

あかり「あはは……」

結衣「でも、ちなつちゃんとの距離も少しは縮まったかもしれない」

あかり「だったら、ちなつちゃんも呼び捨てで呼んであげたらいいんじゃないかなっ」

結衣「ぁー……」

あかり「だめかな?」

結衣「ぜ、善処します」

あかり「京子ちゃんみたい」

結衣「ついに私に京子が移ってきたのか……」

あかり「悪いことばっかりじゃないと思うよっ!」

結衣「悪いとは言ってないよ」

あかり「あっ」

結衣「……まだ言ってなかっただけだけどね」

あかり「ぇへへ」

結衣「でもやっぱり、京子みたいにちなつちゃんに突撃する気にはならないなぁ」

あかり「結衣ちゃんは結衣ちゃんらしくで大丈夫思うよぉ」

結衣「うん」

あかり「あかりも、あかりらしく空気頑張る!」

結衣「いや、そこは直してもいいところだろ」

あかり「本当に?」

結衣「……ホントウダヨ」サッ

あかり「ちょ、ちょっとー目を逸らさないでーっ」

――

結衣「あー、あれは面白かったな」

あかり「ぇへへ、そうだねー」

結衣「……なぁ、あかり」

あかり「はい?」

結衣「何かあったんだろ?」

あかり「ハロウィンだよ!」

結衣「そうじゃなくて」

あかり「……どうしてそう思うの?」

結衣「あかりは9時に寝てるはずなのに、9時半にうちに来て……」

あかり「……」

結衣「おまけに一人でなんて。 お姉さんと喧嘩して家出でもしてきたのか?」

あかり「……」

結衣「家出だったら、家出って言ってくれれば私は泊めてあげるし」

あかり「ぇへへ、結衣ちゃんは優しいね」

結衣「……はぁ。 まぁ、早いところ仲直りしたほうがいいと思うぞ」

あかり「……う、うーん」

結衣「……今は深くは聞かないよ。 でも、あかりが家出かぁ」ジーッ

あかり「な、何?」

結衣「こうやって大人の階段を登っていくのかなと思って」

あかり「ほんとに京子ちゃんみたい」クスクス

結衣「あいつ、姿見せないと思ったら私に憑いてるのか? 恐ろしいやつだ」

あかり「あはは」

あかり「あかりが娯楽部にはいってもう結構経つねぇ」

結衣「なんだ、いきなり」

あかり「ぇへへ、大人の階段を登っているあかりは感傷に浸ってみたいのです」

結衣「おぉ、あかりが突然難しい言葉を」

あかり「いろんなこと思い出して懐かしいなぁって」

結衣「そうだなぁ。 色々あった」

あかり「短冊が飛ばされたり」

結衣「めだちたgirl」

あかり「あの箱まだあるのかなー?」

結衣「あるんじゃないかなぁ」

あかり「思えばあの時からあかりは空気キャラに……」シクシク

結衣「ははは……」

あかり「結衣ちゃんは、ごらく部の皆、好き?」

結衣「あぁ、好きだよ」

あかり「ぇへへ。 あかりも大好き!」

結衣「よかった。 あかりも、ちなつちゃんも普通の部活に入ってもらったほうが
 良かったんじゃないかって思ったりもしてた」

あかり「うん」

結衣「でも、いつも二人とも楽しそうにしてくれてるし、あかりは今、良かったって言ってくれたし」

あかり「ぇへへ」

結衣「京子が突然ごらく部作る! なんて言い出した時はどうしようかと思ったけど
 付き合うことにしてよかったって、思ってるよ」

あかり「うん。 あかりも、入学してごらく部があってよかったって思う!」

結衣「……なんだか、修学旅行の夜みたいな会話になってきたな」

あかり「ぇへへ。 秋だからかなぁ」

結衣「秋だからかもね」

結衣「修学旅行のおみやげ、木刀でごめんね」

あかり「う、ううん、嬉しかったよぉ!」

結衣「流石にそれは嘘だってわかるよ」

あかり「木刀だもんね……」

結衣「もっと気のきいたのを買おうと思ったんだけどね」

あかり「でも京子ちゃんらしかった、よ!」

結衣「ははは」

あかり「結衣ちゃんの八ツ橋も美味しかったよぉー」

結衣「それはよかった。 あかりが行く時のおみやげ期待してるよ。 木刀以外で……」

あかり「あはは……」

結衣「……あかり」

あかり「何?」

結衣「一体何を隠してるんだ?」

あかり「何のこと?」

結衣「さっきから昔話ばっかりして。 将来のことを話すとすぐに濁して避ける」

あかり「……」

結衣「そんなに酷い喧嘩したのか? その、死にたく、なる、ような」

あかり「そんなこと、ないよ」

結衣「……」

あかり「秋の夜って、なんだかネガティブになっちゃわない、かな?」

結衣「……」

あかり「それだけだから、心配しないで」

結衣「……」

あかり「……あかりは、ごらく部の皆のこと本当に大好きだよ」

結衣「うん」

あかり「もっと皆で騒いだり、思い出作ったりしたいと思う」

結衣「……」

あかり「生徒会の皆だってすごく大切で、応援したいと思ってる」

結衣「……」

あかり「皆とまだまだ、もっと、一緒にいたいから、そんな、自分から死ぬなんてことは、ないよ……!」

結衣「そうか。 そうだよな。 あかりがそんなこと考えないよな」

あかり「うん」

結衣「じゃあ」

あかり「でも」

結衣「……」

あかり「……でも」

あかり「でも、もう一緒に居られないかもしれない」

結衣「……!」

あかり「……結衣ちゃんは小さい頃から、あかりや京子ちゃん守ってくれて

 ちなつちゃんがごらく部に来た時も、守ってあげるって言ってて……。

 あかりは、そんな結衣ちゃんのフォローができたらいいなぁなんて、思ってたんだよ?

 でももうできないかもしれない」

結衣「どうして、そんな……こと……」

あかり「ねぇ、結衣ちゃん。 あかりが居なくなっても、皆のこと守ってあげてくれる?

 あかりは、何もしてあげられなかったのかもしれないけど……」

結衣「そんなことない! そんなことない……けど……。

 何なんだよ。 さっき、死ぬつもり無いって言ったじゃないか!

 そんな言い方だと、まるで……」

あかり「……あかりからの最後のお願いだよ」

結衣「最後って、あかり……やめてくれよ、そういうの」

あかり「……あかりたちが小さい頃、やったハロウィンの遊び覚えてる?

 三人でいろんな人にお菓子をもらおうとしたけど、もらえなくて……

 京子ちゃんが迷子になって……、結衣ちゃん一人で探しに行っちゃって……」

結衣「覚えてる、覚えてるけど、だから、昔の話はもう!」

あかり「その時みたいに、皆を守ってあげて」

結衣「……嫌だ」

あかり「……お願いだからね」

結衣「……だったら、私はあかりも守る! だから何処かへ行こうとしないでくれ!

 そうだ、ずっとうちに泊まっててもいいから! だから」

あかり「……ううん。 ごめんね。 実は家出じゃないの。

 あかりは、遠い所に行かないといけないから、最後のお別れに来たんだよ。 ぇへへ」

結衣「なんだよ、それ……」

あかり「……それじゃ、もう時間がないから」

結衣「まって、待ってくれ!」

あかり「ぇへへ。 今までありがと……。 さようなら!」

結衣「あかり、行くな! あかり!」


結衣は必死にあかりに手を伸ばす。
ここであかりを引き止められなければ、二度とあかりとは会えないとわかったから。

さっきまで隣に居たはずのあかりが遠い。
それでも結衣は手を伸ばす。

結衣の手は――

最速レスのコンマ判定
偶数or奇数でEND変わります

伸ばされた結衣の手が、あかりの手を掴んだ。

あかり「えっ……結衣……ちゃん……」

結衣「行かせない! 絶対に……!」

あかり「……」

結衣「ごらく部を守るなら、絶対にあかりも、守らなきゃいけないから」

あかり「……」

結衣「だから、こっちへ、戻ってきてくれ。 あかり!」

あかり「結衣ちゃん……ありがとう――」

――

結衣「……んん……。 しまった、寝てたのか……。 さっきのは夢?」

あかり「……」

結衣「あ、あかり! おい、大丈夫か?」

あかり「……」

結衣「あかり!」

あかり「……京子ちゃんめっちゃイボイボ……」

結衣「……寝てるだけか。 おーい、あかりー、こんなところで寝てたら風邪引くぞー」

あかり「ふへ……? ぁー結衣ちゃんおはようー」ウトウト

結衣「おはよう……。 ほら、布団引くから、もうちょっと踏ん張って」

あかり「ぇへへ……、ありがとうね、結衣ちゃん」

結衣「ん? あぁ、当然だろ」

あかり「ぇへへー……」

結衣「ほら、布団だよー」

あかり「わーい」モフモフ

結衣「起きてるのか怪しいな」

あかり「寝起きてるよぉー」フラフラ

結衣「だめだこりゃ」

あかり「あかりがねー、結衣ちゃんの所に来たのはー、結衣ちゃんが好きだからだよぉー」ニコニコ

結衣「ありがと」

あかり「結衣ちゃん大好きー」ウトウト

結衣「はいはい。 私もあかりの事好きだよ」

あかり「ぇへへー」スヤスヤ

結衣「……寝るか。 おやすみ、あかり――」

――



だっいっじけっん!

結衣「うわぁっ」

ゆっりゆっらっらっらっら!

結衣(何だもう朝か……。 アラームなんてセットしたっけ?)

さーくらさきーぃー! おかざきぃー!

結衣「……あぁ! 着信か! もしもし!」

京子『ゆーーーーーーーいーーーーーーーーーーー!!!』

結衣「なんだ京子か。 朝から元気だな」

京子『何呑気なこといってるの! 昨日の夜から何度も電話してるのに一行に出ないし!』

結衣「昨日の夜って、一度も着信なかったと思うんだけどなぁ……」

京子『あぁもう、そんなことより、はやくなもラゲ病院に来てよ!』

結衣「……なもラゲ病院……誰か怪我でもしたのか!?」

京子『あかりが轢かれたんだよ!』

結衣「あかり……? あかりって……」

京子『昨日の夜ー』

結衣(昨日の、夜?)

京子『7時ぐらいに――』

結衣(昨日……?)

京子『9時半ぐらいに手術終わって――』

結衣(9時半……)

京子『今夜が山田もとい、山だって――』

結衣(……あかりは!)

京子『ちょっと結衣、聞いて』

結衣「あかりが居ない!」

京子『は? ちょっと、結衣、ゆ』プツッ

結衣(……靴がない。 でも、昨日使ったコップはある。

 ……あかり……。 あのあかりは……まさか……)

――

あかり「怨念が、おんねん」

――

結衣(……思い出すシーンがここだなんて。

 でも、あれが夢じゃなくて本当だったら、私は確かに、あかりの手を掴んだ、はず……。

 だったらきっと……)

――

京子『なもラゲ病院に――』

――

結衣(行かないと……!)

――なもラゲ病院

結衣(やっとついた……。 あぁ、しまった、何処に入院してるのか……)

老人「ぇーと、なんじゃったかのぉ」

受付「保険証ですよおじいさん」

老人「ほっかいろ? 腰についとるのとってもらえんかのぉ」

結衣(うぅ、こんな時に……! もう、一か八か適当な医者っぽい人に聞くしか……)

医者風の男「ふふ、お困りのようだね?」

結衣「えっ? あ、あの、赤座あかりって子が入院してる部屋ってわかりますか!?」

医者「あぁ、昨日の子、ね。 確か3階の、306号だったかな?」

結衣「306ですね! ありがとうございます!」

医者「ふぅん。 シビれるねぇ……」

――

結衣(306、ここか!)

結衣はノックもせずに扉を開く。

病室には――誰もいなかった。

綺麗に片付けられたベッド。 開け放たれた窓。

結衣「ぁ……あぁ……」

病室を間違えたのだろうかと、札を確かめる。

そこは確かに306号室だった。

結衣「……あぁ、名札も、ないじゃないか……」

名札もなく、空室となっている病室。

それは、つまり――

京子「結衣!」

結衣「京、子……。 あかりは……死んだのか……」

京子「……え?」

結衣「……え?」

京子「いや、結衣があかりの隣の部屋に突撃してったから何事かと思って声かけたんだけど」

結衣「隣?」

京子「うん。 あかりの部屋は305だよ。 メールしたじゃん」

結衣「……携帯おいてきた」

京子「はぁ……」

結衣「あかりは、無事なのか……?」

京子「う、うーーーーん……。 まぁ、とりあえずあかりの部屋いこうよ」

結衣「あ、あぁ……」

あかね「あ、結衣ちゃん……」

ちなつ「結衣先輩……」

結衣「こんにちは……。 すみません、昨日の夜は全然気づかなくて……」
   (昨日の夜のことは言わないほうがいいよな……。
   そもそも、私も本当だったのか、まだわからないし……)

あかね「いいのよ。 来てくれてありがとう」

結衣「それで、その、あかりは……」

あかね「……手術は成功して、峠って言われてた昨日の夜も越えたけど、意識が戻らなくて」

ちなつ「皆でずっと呼んでるんですけど……」

京子「うぅ、薄情者め……」グスッ

あかね「だから、結衣ちゃんもお願い」

結衣「……はい」

結衣「……あかり」

結衣はそっと、あかりの手を握り、名前を呼ぶ。

あかりの寝顔は、安らかだ。

周りの医療機器がなければ、普通に寝ているだけのように見える。

結衣(……昨日の夜、あれは本当にあったこと、だと思う)

握った手に力を込める。

結衣「あかり……」

もう一度。 今度は少し大きな声で呼びかける。

反応はない。

結衣(……そうだ。 昨日、最後にあかりにかけた言葉は)

結衣はあかりの耳元に顔を近づけ、そっと――






結衣「……あかり、起きて。 朝だよ」





あかり「……ん……」

あかりの手がかすかに動き、静かに瞼が揺れ、目が開く。

あかり「……おはよう、結衣ちゃん。 もう朝?」

まだ焦点があってない様子で、キョロキョロしながらあかりがつぶやく。

あかりが目を覚ました事に喜びの声をあげようとした面々がずっこける。

あかり「……?」

あかね「ふふっ、あかり、なによ、それ……もう……!」

京子「あんなので起きるなんて……」

ちなつ「あかりちゃんには呆れます!」

あかり「……何のこと?」ボーッ

京子「こ、こいつぅ~」

ちなつ「ちょっと、京子先輩! これでも病人ですよ!」

京子「おっと、そうだったそうだった。 あはは」

あかね「先生呼んでくるから、ちょっと待っててね?」

あかり「……うん」

京子「結衣びいきだー!」

結衣「おい、騒ぐなよ」

ちなつ「そうです。 静かにしてください!」

あかり「……結衣、ちゃん」

京子「ご指名だぞ、結衣」

ちなつ「結衣先輩流石です!」

結衣「あ、あぁ……。 どうした、あかり」

あかり「……ありがと」

結衣「……どういたしまして」

あかり「……」ニコッ

京子「いい雰囲気ですなぁ」

ちなつ「ぐぬぬ……!」

――二週間後

結衣「あかりー、見舞いに来たぞー」

あかり「ぇへへ、いらっしゃいー」

結衣「元気そうでよかった」

あかり「うん。 毎日皆が来てくれるから、寂しくないし、嬉しいよっ!」

結衣「あはは。 騒がしくてごめんね」

あかり「そんなことないよー」

結衣「はい、差し入れのアンパン」

あかり「わーい。 これで今日も安心して張り込みが……ってなんでですかぁー!」

結衣「うん、元気でよろしい」

あかり「あはは」

あかり「今日は結衣ちゃんだけ?」

結衣「あぁ。 皆用事があるって」

あかり「そっかぁ。 残念」

結衣「もうだいぶ調子もよさそうだし、今度生徒会の皆も連れてくるよ」

あかり「わぁ、賑やかになりそー」ニコニコ

結衣「生徒会長も連れてくるから存分に対決するといいよ」

あかり「えぇっ……。 そういえば生徒会長さんって見たことないなぁ」

結衣「あぁ、そうだったね」

あかり「どんな人なのかなぁー」

結衣「あかりに似てると思うよ。 存在感が希薄なところとか」

あかり「そ、そうなんだ……」

結衣「でも」

あかり「画面に入ったらあかりより存在感あるんだ、よね?」

結衣「うん。 え?」

あかり「あれ? こんなお話前にもしたような……」

結衣「あぁ……したんだけど……。 覚えてるの?」

あかり「うーん、したような、しなかったようなー」

結衣「……まぁ、いいや。 キットしたんだと思うよ」

あかり「うん。 そうだねー」

結衣「……クリスマスにデートする約束は?」

あかり「えぇっ、そんな約束してた……っけ?」

結衣「あはは。 したんだけどね」

あかり「ご、ごめんね! 全然覚えが、うーん、でもちょっとそういうのがあったような……」

結衣「じゃ、改めて。 クリスマスにデートしようね」

あかり「う、うん! 頑張ってそれまでに治すよ!」

結衣「あぁ、でも無理はしないでくれよ……。 もし何かあって、私がけしかけたってお姉さんにバレたら……」

あかり「わ、わかった……!」

――

あかり「……」ウトウト

結衣「……眠いのか?」

あかり「ぇへへ」

結衣「私もそろそろ帰るから」

あかり「うん、今日はありがと。 あ、でも、あかりが寝るまで居て欲しい、なぁ……」

結衣「いいよ」

あかり「ぇへへ。 あと、手も……」

結衣「はい」

あかり「ありがと……」

結衣「……おやすみ、あかり」

あかり「おやすみ、結衣ちゃん……」

――

あれから二ヶ月。 あかりは無事退院して、学校にも復帰した。

すぐに冬休みに入ったけど。

そして今日。

あかり「結衣ちゃーん! わっ」コケッ

結衣「あかり、走ると危ないって」

まだあかりの体は万全とまで行かない。

少し急ぎ足になるだけで転びそうになる。

だから、私はそっとあかりに手を差し出す。

結衣「ほら、手繋いで行こう」

あかり「う、うん! あ、雪だぁー」

結衣「ほんとだ」

灰色の空から装飾で煌めく街に雪が降りてくる。

今日はクリスマス。 約束の日。

私はあかりの手を引いて、ゆっくりと歩き出した。
                                         おわり

保守やら支援やら乙やら感謝ー
奇数だったらあかりは残念ながら……

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