響「我那覇響の憂鬱」 (18)

『はいカットー!』

『どれどれ……はい、はい……』

『……』

『……はい! オッケーです!』

「ふぅ?、終わったー!」

「お疲れ様でーす!」

「お疲れ様です!」

自分、我那覇響! 沖縄出身の16歳で、765プロでアイドルやってるんだ!

最近はようやく仕事ももらえるようになってきて、
今はドラマの撮影が終わったところ!

「おうお疲れさん、やっとクランクアップだな!」

この人は自分の担当プロデューサー! 凄く落ち着いてて顔もにぃにそっくりだし、
最初に会った時はびっくりしたんだ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1381416183

「なあなあプロデューサー、自分の演技どうだったかな!?」

「凄くよかったぞ、役柄もハマってたから、
この仕事を推して本当によかったよ」

というのも、今回のドラマは離島出身の高校生っていう役柄で、
まあ主演じゃないんだけど、でも自分の境遇とぴったりなんだ。

だから、プロデューサーと話し合って、
無理に役を作らないで自然に演じることにしたら、
これが凄くしっくりきたんだよね。

やっぱりプロデューサーはスゴイぞ!

「そんなことない、
これも響がちゃんとレッスンをこなしてきたからだ。
よく頑張ったな」

『お疲れ様でーす』

「あっお疲れ様です! またよろしくお願いします!」

「お疲れ様です、こちらこそまた是非! 多分、すぐにでもまた顔を合わせることになると思いますよ! ここだけの話」

「えっ、それってどういう……」

「いやあ、あの監督さん、
なんでも我那覇さんのことすっごく気に入っちゃったみたいで、
次のドラマでも使いたいって。主演、あるかもしれないですね!」

「本当ですか! 是非お願いします! やったな、響!」

スゴイぞ! あの監督さん結構怖かったんだけど、
自分のこと気に入ってくれてたんだな! そうならそうと言ってくれればいいのに!

「まあそういうわけなんで、この後の打ち上げ、
よかったら是非来てくださいよ」

「あっ、えっと……」

時計を見るともう夜の8時半。これから打ち上げに参加したら、
12時ぐらいになっちゃって、
そうすると家族たちに餌があげられなくて、
家族たちがかわいそうだぞ。

「響……」

「えっと……、自分」

「すいません、実は明日朝一でロケでして、
今日のところはちょっと……」

あれ? そんなのあったっけ、自分忘れてたのか?

「そうですか……、残念だなあ。まあ、
そういうことなら仕方ないですね、またよろしくお願いしますね!」

「はい、すいません、またなにかあればよろしくお願いします! 失礼します!」


「……なあプロデューサー、自分、
明日仕事は午後からじゃないのか?」

「ああ、そうだよ」

やっぱりそうだ。ならどうしてウソをついたんだ?

「響はペットの世話があるだろ? だから、打ち上げ行きたくないだろうと思ってな」

自分の家族のことまで考えてくれてるなんて、
プロデューサーはやっぱりスゴイぞ! ――でも、仕事のコネクションとか考えたら、
打ち上げは参加した方がいいんじゃないのかな。

「そういうのは俺の仕事だ。
お前はそういう難しいことに首を突っ込まなくていい。ほら、
冷えるだろ、さっさと着替えてこい」

「うーん、ま、それもそうか! すぐ着替えるから待ってるんだぞ!」


とは言ったものの、自分にも悩みはあるんだ。

『――我那覇さん、今日も来れないそうです』
?
『うーんそうか、今日こそはと思ったんだが、クランクアップしてもダメか……』
?
『ことごとく参加しませんからね……』

売れてからというもの仕事には困らなくなったし、忙しくなることはうれしいことなんだ。
?
でも――。
?
『いい子なんでしょうけどね、ちょっと……、なんかあるのかなって勘繰っちゃいますよね――』
?

自分には家族がいるんだ! それもたっくさん!
?
ハムスターのハム蔵、犬のいぬ美でしょ、蛇のへび香にシマリスのシマ男、オウムのオウ助とうさぎのうさ江、ねこのねこ吉とかワニのワニ子、それに豚のブタ太とモモンガのモモ次郎……。

紹介しきれないくらいいっぱいいて、一緒に暮らしてるんだ!
?
それで、家族の世話があるから夜には帰らないといけない、ってわけなんだ。
?
だから打ち上げとかにはいつも参加できないんだ……。
?
自分は全然かまわないんだ! 765プロのみんなは友だちだし、それで十分だと思うし、でも――
?
『なんか他の番組とか、どこ行ってもこうらしいですよ。事務所の方針とかなんですかねー』
?
最近はいろいろなところから言われるんだ! 我那覇響はぼっちだ――なんて風に。みんなひどいぞー……。

?
それに――

「響ー、そろそろ準備できたかー?」

「は、はいさい、もう大丈夫だぞ! 今出るからな」

「よし、今日はこれで終わりだからな、このまま直帰するだろ? 送っていくよ」

「じ、事務所には寄って行かないのか?」

「えっ、ああ、事務所にはもう誰もいないらしいからな、鍵も閉まってるらしいけど」

――みんなが自分に隠し事してるような気がするんだ。

「そうなのかー……。まあいぬ美たちも待ってるから、今日はまっすぐ帰るぞー」

なんだか最近みんながよそよそしい気がするんだ。

今日なんかみんなはともかく、普段から遅くまで残って仕事してるプロデューサーが直帰なわけないんだ。

だから事務所には誰かがいるはずなんだ。

先週の金曜だって、いつもは一緒に事務所から帰ってた春香と千早は、寄るところがあるって言って先に帰っちゃったんだ。

次の日は自分オフだったから、久しぶりに貴音と遊ぼうと思って電話したんだ。そしたら――

『申し訳ございません、響。これから所用があります故、生憎ご一緒することができないのですよ』

「そうなのかー……。それなら仕方ないな! じゃあまた――」

『ひぃぃぃぃぃん! 犬! 四条さん! 犬ですよぉ!』

『ああぁぁ雪歩! こんな所に穴掘っちゃダメだ!』

『え、えぇ、では』

――切る直前に電話の向こうから雪歩と真の声が聞こえたんだ。

貴音と雪歩と真なら、自分仲いいつもりだぞ!

――もしかして、自分って嫌われてるのか!?

思い返せば、本当につい最近なんだけど、どこか除け物にされてるような気がするぞ!

もしかして、自分だけ少し売れてきたからなのか!?

……いやそんなことない、はずだぞ。
確かに家族の世話でみんなと一緒にいられないことも多いけど、多いけど……。

「うがー! 自分はぼっちなんかじゃないぞ!」

「ジュジュジュイ!」

「そうだよなーハム蔵、みんなもいるもんなー……。うん、なんくるないさー」

そりゃ最近忙しくてみんなと遊べなかったけど、きっと自分の思い過ごしなんだ。


昨日プロデューサーが言った通り今日は夕方からなんだけど、でも今日は朝から事務所に行くことにしたぞ!

木曜日だから本当は学校なんだけど、あんまり学校に行かないから、その、ほら! 自分アイドルだからたまに学校に行くとみんなが驚いちゃうんだ!

友だちだっているけど、でも学校はあんまり好きじゃないっていうか、765プロのみんなといる方が楽しくて好きなんだ!


「はいさい!」

「うえええ、響ちゃん!?」

元気よくドアを開けたらぴよ子がスットンキョーな声を上げたんだ。

「ひ、ひ、響さん、おはよーございますー」

やよいもいたんだけど、なんだかすごく慌ててるんだ。まるで、自分には来てほしくなかったみたいな、そんな感じのリアクションで……。

って! これじゃ自分が嫌われてるみたいじゃないか!

――違うよね?

「お、おはよう響ちゃん、今日は午後からだったわよね?」

「そうだけど、最近みんなと過ごせてなかったし、たまにはと思って遊びに来たんだー」

「そ、そうなんですかー……。あっ、そういえばそろそろタイムセールスの時間が……」

「そ、そうね、あたしもちょっと終わってない仕事が……」

そう言ってぴよ子もやよいもそそくさとどこかに行っちゃった。

これじゃ……、これじゃ本当に自分友だちいないみたいじゃないか!

「うがー! みんなひどいぞー! 最近自分が遊ぶ暇がないからって!」

「あっ響ちゃん!?」

ぴよ子の制止も振り切って、持ってた荷物も放り出して事務所を飛び出したんだ。

みんなひどいぞ、友だちだと思ってたのに、そうじゃなかったなんて……。

やっぱり自分――
「ぼっち……」
なの、かなあ。

きっとみんな自分を嫌ってるんだ。そんなのひどいぞ。



「響!」

近くの公園のベンチでずっとうずくまってたら、プロデューサーが走ってきた。

もう秋だっていうのに、袖をまくって息を切らしながら近付いてくる。

「……こんなところにいたのか、探したぞ」

なんだよプロデューサー。

「なんだもなにも、響が荷物も持たずに飛び出したって聞いたから。小鳥さん心配してたぞ」

絶対ウソだぞ、みんなが自分のことなんか心配するもんか。

知ってるんだ、本当はみんなが自分のこと嫌いなんだって。

「……」

ほら黙っちゃった。やっぱり自分は嫌われてるんだ。そう思ったらまた泣けてきたぞ。うう……。

「……ちょっと待ってろ」

そう言ってプロデューサーは少し離れて誰かと電話し始めた。

プロデューサーはオトナだから、どうせみんなに「響と仲よくしてやってくれ」みたいなこと言うんだろうけど、もう自分にはどうでもいいんだ。
「――はい。……そうです。――なんで、少し急いでもらって、ええ。……大丈夫ですか? ――はい、お願いします」


「響、戻るぞ」


今日の仕事は、事務所でプロデューサーと打ち合わせをしてから向かうんだけど、あんな感じで飛び出してきちゃったから、ちょっと戻りづらいぞ。

泣いてから時間もたったし、大丈夫だよね?

プロデューサーに連れられて、とぼとぼ事務所に向かうんだ。

「あのなあ、響」

ずっと無言だったけど、事務所の階段を登ってるときにプロデューサーが口を開いた。

「なにを勘違いしてるのか知らないけれど、みんなが響のことを嫌いになるもんか」

さすがにそれがウソってことくらい自分にだってわかるぞ。

「ウソなんかじゃない。ほら、みんなが待ってる」

そう言ってプロデューサーは扉の前に立った。

こんなに重たい扉だったかな、少し怖くなる。

ううん、いつも通り元気に行くんだ。

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