佐久間まゆ「群青日和」 (12)

このSSは「佐久間まゆ『星屑サンセット』」と舞台を共有しています。
上記のSSを読まなくても、ままゆとPが両思いということをご存知ならば何も問題はありません。

では、投下していきます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1380545403

 事務所の窓から私は外を見つめる。

 灰暗い空の下でざあざあと盆をひっくり返したように雨が降り続ける。

 あの人は今日もきっとアイドル候補探しや営業のために駆け回っているのだろう。

 ちくりと胸が痛む。

 その情熱を普段の私に一片でも分けてくれたら良いのに、と。

 互いに気持ちを伝えたとはいえ私は彼の担当アイドルで、彼は私のプロデューサー。

 スキャンダルを起こせばたちまち私も彼も芸能界の闇に葬られてしまう。

 だからこそ私は行動を起こせない。
 
 どこに目や耳が隠れているのかわからないのだから。

 凛ちゃんも幸子ちゃんも今日はお休み。

 事務所にいるのはちひろさんと私だけ。

 私は手近なソファに座ってつきっぱなしのテレビを見つめる。

 アイドル総選挙の結果が大々的に放送されている。

 中間発表では5位だったのに、最終的には惜しくも6位、CDの発売圏外になってしまった私は、穏やかに笑みを浮かべることしかできない。

 悔しいのは山々だが、これで終わりではない。

 きっと次は見返して見せる。

 そんな意気込みを一人誓っている最中にちひろさんが私に声をかけた。

「まゆちゃん、駅までプロデューサーさんを迎えに行ってくれないかしら? あの人ったら傘を忘れたみたいなの」

「わかりました。では、行ってきます」

 以前とは違う晴れやかな笑みで、私はちひろさんに言葉を投げる。

 ちひろさんも笑みを浮かべながら、私を送り出してくれる。

 私は2つの傘を持って、私は事務所から雨の降る町に足を踏み出した。

 雨は激しく、傘の隙間から雨粒が吹き込む。頭に振りかかった雫が、私の体温を奪う。

 冷たい、冷たすぎる雨。

 まるで誰かの悲しみが降り注いでいるよう。

 そんなことを考えて、たまらず私は笑みを浮かべる。

 そんなこと、あるわけない。

 「高い無料の論理」と同じくらい意味のわからない考えに、たまらず私は自嘲気味に笑みを浮かべた。


――――  ――――  ――――

 駅の屋根の下には彼がいた。

 どこか落ち着かないそわそわとした表情の彼が。

 彼が私のプロデューサー。

 彼が私の、運命の人。

 彼も私に気付いたのか、ぱぁっと明るい笑みを浮かべるとまるで子供のようにぶんぶんと大きく腕を振る。
 
 黒いビジネスバッグには雨粒が一滴たりとも触れてはいない。

 私も穏やかに笑みを浮かべ大股に彼の元へと歩く。

 距離は縮む。

「お待たせしました、プロデューサーさん」

「ごめんな、アイドルにこんなことさせるべきじゃないとは思ったんだけど」

 その言葉に、私は首を横に振った。

「最近プロデューサーさんが私をかまってくれないから、その罰です」

 いたずらっぽく私が言うと、彼は驚いたように目を見開いて、そして笑みを浮かべた。

「最近忙しくてさ。近々休みが取れると思うから、その時はまた二人でどこかに行こう」

「ふふ、ありがとうございます」

 私は演技をしている。
 
 恋人の感情を封じ込めてただのアイドルとしての演技をしている。

 それは二人の秘密。
 
 二人だけの秘密。

 どちらとも無く手をつないで歩き出すと温もりが私の胸を満たす。

 それはまるでショッピングモールの暖房と冬の外気の混ざった温度のよう。

「そうだ。まゆにプレゼントがあるんだ」

 ビジネスバッグひとつの身で彼はそんなことを言う。

 私が困惑を浮かべたまま彼の瞳を見つめると、彼は一息でプレゼントの正体を述べた。

「CDデビューが決まったよ。総選挙では惜しくも6位だったけど、まゆはこんなところで満足しないだろ?」
 
 彼の言葉を理解するのには時間がかかる。

 常に回りくどい言葉を話す彼の言葉は、どこか詩的で幻想的だ。

 そんな彼が要点だけを掻い摘んで述べるのは珍しい。

「嘘……まゆが、CDデビュー?」

「本当さ。そんな残酷な嘘なんてつかないよ」

 プロデューサーさんの言葉に私は笑みをこらえ切れなかった。

 今すぐにでも歓喜を表現したい衝動をこらえて、悪戯っぽく彼を見遣る。

「……今度のお休みには、またあの展望台へ連れて行ってください。星の綺麗な夜に、二人だけで」

 キスをしそうなほどに顔を近づけて言うと、彼は笑いながら私の髪をなでた。

 本日の投下は以上です。

 後日ちゃんとしたイチャイチャを投下しますんで許してくださいなんにもしませんけど!

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