モバP「レイナサマ、寝てても大丈夫だよ」 (51)


麗奈「別に……眠くなんて……ないし……」

P「スタジオに着くまではもうしばらくかかるし、ここのところ仕事漬けだったからね。疲れただろう?」

P「僕とレイナサマしかいない車内ならいつもの騒がしさもないしね、ゆっくり休むといい」

麗奈「……」

P「……」

麗奈「ねぇ」

P「ん?」

麗奈「……おなか空いた」

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P「ああ、そういえばご飯まだだったね。どこか寄っていく?」

麗奈「ドライブスルーがいいわ」

P「?」

麗奈「一々降りて食べるのは嫌。ドライブスルーがいい」

P「仰せのままに、レイナサマ」





店員「いらっしゃいませー」

P「ハンバーガーのセット一つ。ウーロン茶で」

麗奈「……この超匠っていうのを持ってきなさい」

店員「かしこまりましたー」

麗奈「……」

P「……」

麗奈「怒らないの?」

P「?」


麗奈「アレ、かなり高かったけど。イタズラのつもりで頼んでやったんだけど」

P「まぁ、たまにはいいよ。ご褒美のつもりで」

麗奈「ふーん、なら今度からは毎回その『ご褒美』って奴を貰っちゃおうかしら」

P「……それは正直勘弁してほしいな」

麗奈「勘弁してほしいと言われて勘弁してやるレイナサマでない事くらい分かってるでしょ?」

P「ふ、それもそうだね」

麗奈「ふふふ……アーッハッハッハッ……ゲホゲホ」

P「ライブで頑張った後なんだから、無理して大声出さなくていいよ?体に良くない」

麗奈「む、無理なんて……!」


P「レイナサマの声は、ちゃんと聞こえてるから」

麗奈「…………」

麗奈「………………こ、今度からは気をつけてやらない事もないわ!」

店員「お待たせしましたー」

P「はい、レイナサマ。袋持っててくれるかな」

麗奈「このレイナサマに任せておきなさい!」

麗奈(フフフ、運転に集中してる隙に何かしらイタズラしてやるわ!)




P「……」

麗奈「……」モグモグ

P「美味しいかい?」

麗奈「……」コクン

P「それは何よりだ」

麗奈「アンタも食べなさいよ。ポテトとか、冷めたら美味しくないわよ」

P「ハンドルで両手塞がってるからね。油で汚す訳にもいかないし」

麗奈「……じゃあ、食べさせてあげるわ」


P「え?」

麗奈「このレイナサマが、特別に、食べさせてあげるって言ってるの!信号赤になったし、口出しなさい!」

P「は、はい」

麗奈「食らいなさいっ」

P「」パクッ

麗奈「どう?レイナサマに食べさせてもらうポテトは格別美味しいでしょう?」

P「うん。凄く美味しいよ」


麗奈「じゃあもう一つくれてやるわ、口開けなさい」

P「」パクッ

P「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」

P「ゲホッゲホッ!」

麗奈「アーッハッハッハッ!引っ掛かったわね!マスタードをたっぷり付けまくってやったレイナサマスペシャルポテトに!」

P「く、こんな見事に引っ掛かったのはいつ以来だろうか」

麗奈「ほら、ウーロン茶。さっさと流さないと響くわよ。ククク……」

P「ありがとう……ヤバイ、信号青だ!」


麗奈「あ……もう終わりなの?」

P「流石に走行中はね。赤信号になったらまたお願いしてもよろしいですか、レイナサマ?」

麗奈「任せておきなさい!油断した頃にスペシャルも交えてたっぷり味あわせてやるわ!」

P「……出来れば、スペシャルは無しで」




麗奈「……」

P「眠くなったら、寝てもいいよ。もう22時だし」

麗奈「ねむたくない」

P「そうかい?まあそろそろスタジオに着くから」

麗奈(……)

麗奈「帰りたくない。このままドライブしなさい」

P「ええ?」

麗奈「ご褒美。アタシ、ライブ凄く頑張ったんだから。ご褒美にドライブ」


P「……」

麗奈「お願い」

P「……分かったよ。どこか行きたい場所はあるかい?」

麗奈「海がいい。誰もいないような海岸がいいわ」

P「任務了解、レイナサマ」




麗奈「……」

P「……」

麗奈「ふぁぁ……」

P「眠いねー」

麗奈「アンタは寝ちゃだめよ、運転手なんだから」

P「レイナサマは寝てもいいんだよ?」

麗奈「なんか、さっきからアンタ執拗にアタシに寝るように諭してない?まさかこのレイナサマが寝てる間にいやらしい事する気じゃないでしょうね?」


P「いや、僕はただレイナサマが眠そうにしてるから言ったのであって……ホントに寝なくてもいいの?」

麗奈「嫌よ。どんなイタズラされるか、分かったもんじゃないわ」

P「寝てる間にイタズラする人なんてレイナサマくらいだけどね……」

麗奈(が、我慢しなきゃ……折角、こんなシチュエーション、なんだから)

P「……明日は、光の収録かぁ」

麗奈「……!ふん。サボっちゃえばいいのよ、あんな奴のプロデュースなんて」


P「そういう訳にもいかない。僕はプロデューサーだからね」

麗奈「いつになったらアイツのヒーロー気取りは治るのかしら。あんなだから、このレイナサマよりオファーが少ないのよ。元がいいのに……」

P「レイナサマは光の事随分評価してるんだね」

麗奈「評価なんてしてないわ。ただ、損してるなって思ってるだけよ」

P「僕は、損してるとは思わない。光はあのキャラだからいいんだよ、きっとね」

麗奈「……随分とアイツの肩を持つのね。下僕の癖に」


P「あー、そんなつもりは無かったんだけど……気を悪くしちゃったかな?」

麗奈「別に、そんな事で一々怒ったりしないわよ。ふんっ!」

P「弱ったな……」

麗奈「下僕は黙って運転に集中してればいいのよ」

P「アイアイ、サー」

麗奈「……」

P「……」


P「喉乾いたなら、お茶あるからね」

麗奈「分かってる」

P「……」

麗奈「……」

P「……」

麗奈「Zzz……」




P「レイナサマ。着いたよ」

麗奈「ん……海……?」

P「ああ。誰も居ないよ」

麗奈「……ちょっと寒いわね」

P「もう秋だからね。とりあえずこのジャケットで我慢してもらえないかな」

麗奈「それアンタの上着じゃない。それアタシに貸して、アンタはどうすんのよ」


P「僕はまぁなんとか……アイドルに風邪を引かせたりしたら、社長になんて言われるか分からないからね」

麗奈「まあ確かに、このレイナサマが風邪引くのとアンタが引くのじゃ、世間への影響力が違い過ぎるわね」

P「そういう事」

麗奈「でも要らないわ」

P「ええ?でもそのままじゃ」

麗奈「全く頭の回らない下僕ね……ここ。座って」


P「う、うん……?」

麗奈「それで、アタシがアンタの足の間にこう、入って……ジャケットの前外して二人羽織みたいにしてっと……さぁ、下僕の務めとしてアタシを温めなさい!」

P「それって……こう、ぎゅってするって事っでいいのかな?」

麗奈「まぁ、それも方法の一つではあるわね。……な、なんでもいいけど早くしなさいよ!寒いんだから!」

P「……じゃあ、失礼します」ギュッ

麗奈「っ……」


P「あんまり自信ないけど……抱かれ心地はどうですかね、レイナサマ?」

麗奈「うん……あったかい。嫌じゃないわ……」

P「それは何よりです。僕もレイナサマの体温で暖かくていい感じだよ」

麗奈「これなら、二人ともあったまれるって訳よ。レイナサマの天才っぷりがようやく理解できたかしら?」

P「へへー。流石レイナサマでごぜーますよ」

麗奈「仁菜っぽい喋り方止めなさい。キモイから」

P[ごめんよ」


麗奈「……星って、こんなにいっぱい見えるものなのね。知らなかったわ」

P「ビル街の空からじゃ見えないからね。綺麗だなぁ……」

麗奈「なんか、星ってアイドルみたい」

P「?」

麗奈「どれもこんなに輝いてるのに……普段見えるのは一握りだけなのよね」

麗奈(アタシも、いつかは誰にも見られなくなっちゃうのかな……)

麗奈「……」


P「……そうだね。でも、こうも言えるんじゃないかな」

P「たとえ雲や排気ガスに隠されてしまっていたとしても、それでも星は輝いている」

P「そしていつか僕達みたいな物好きに見つけて貰える。どんな星であれ……必ずね」

P「……」

麗奈「……アンタにしては、いい事言ったつもりかしら?」

P「うん。いい事言ったつもりだ」


麗奈「台詞がクサ過ぎんのよ。まだまだね」

P「反省します」

麗奈「ねぇ。ちょっと風が強くなってきたから、その……もう少し」

P「……」ギュ

麗奈「……うん。ありがと」

P「おお。レイナサマがお礼を言うなんて」


麗奈「何よ。悪い?」

P「いえ、下僕として感激の極みです」

麗奈「それなら、まぁいいけど」

P「……」

麗奈「……」

麗奈「アタシ、もう少し大人しくした方がいいのかしら」


P「どうしたんだい突然」

麗奈「なんか、あの海見てたら、そう思ったのよ。このままでいいのかな……って」

麗奈「ワガママにイタズラしてたら、いつの間にか皆離れていって、一人であの海に取り残されるような……そうなる気がするの」

P「あー。夜の海は怖いよね、なんか。呑み込まれそうになる」

麗奈「ねぇ……正直に答えて」

麗奈「アンタだって、内心アタシのイタズラに嫌気が差してるんじゃないの?」


P「……」

P「まぁ、イタズラされる事そのものは、いい気分しないね」

麗奈「やっぱり……」

P「でもね、その後イタズラ大成功!って喜んでるレイナサマを見ると、僕はどうしても嫌な気分になれない」

麗奈「……!」

P「それはきっとレイナサマが本当に心から楽しんでるからなんだろうね。なんだかんだ、フォローは欠かさないし」


麗奈「ふ、フォローなんて生まれてこの方した事ないわっ!」

P「じゃあ、無意識のうちにやっちゃってるんだよ。……まぁともかく、レイナサマにいたずらされて本当に嫌な気持ちになる人は、ほとんどいないんじゃないかな」

P「だから良い子のフリをしたり自分を押し殺す必要なんてない。レイナサマはレイナサマのまま、君らしく輝いてほしい。それが僕の、プロデューサーとしての祈りだ」

麗奈「……」

麗奈「だから、台詞クサいっての……」

P「反省します」


麗奈「……」

P「……」

P「……そろそろ、戻ろうか」

麗奈「…………うん」




P「もう日付変わっちゃうなぁ。ちょっと夜遊びが過ぎた」

麗奈「母さん達には、アタシが連れまわしたって言っとくわよ」

P「ありがとうございますだ、流石レイナサマ」

麗奈「ま、ちゃんと海まで運転できたご褒美ってとこだから。調子に乗るんじゃないわよ?」

P「へへー」

麗奈「……ふふっ」

P「ん?僕何か面白い事言った?」

麗奈「なんでもないわよっ」


麗奈「……この前ツインテールにしたじゃない?」

P「ああ、[スクールデビル]の時だね」

麗奈「あれ、どうだった?」

P「可愛かったよ。凄く」

麗奈「いつもツインテールにしてた方がいい?」

P「うーん……それはどうかなぁ。いつものレイナサマも凄くイイし。そのままでもいいんじゃないかな?」

麗奈「……そっか」


P「うん。ていうか僕はレイナサマならどんな髪型でも似合うと思うよ」

麗奈「文香みたいに前髪ながーく伸ばしても?」

P「それだけは勘弁してください!何でもしますから!」

麗奈「ふふ……バカね、冗談に決まってるじゃない」

P「心から安心したよ」




麗奈「……」

P「……」

麗奈「ね、このキラキラーンってイントロの曲何?さっきからずっと流してるけど」

P「ん、この曲かい?プリンスって歌手の『ゴールド』だよ」

麗奈「アンタこういうのが好きなの?」

P「特別好きな音楽のジャンルがあるわけじゃないけど、この曲は好きだね」


麗奈「ふーん……なんで?」

P「……少し昔の話になるけど、いいかな?」

麗奈「ま、他にする事もないし聞いてあげるわ」

P「僕がまだ新人プロデューサーだった頃、ガチガチに緊張して毎日過ごしててね。『良い』アイドルを作ろうと必死になってた」

P「可愛くて、素直で、歌もダンスも出来て、品行方正で、ファンサービスが良くて、事務所の方針に従順で……黄金のように完璧なアイドル」

P「そうすれば売れるし、それがアイドルにとっても最も幸せな事だと思い込んでいた」


P「だからワガママな子には結構キツイ事も言ったし、休む暇が無いくらいスケジュールをギチギチにしたりもした」

P「自分の担当アイドルを皆完璧な子にしようとしたんだ。そして、それは何人かの脱落を経て実現した」

麗奈「脱落、って」

P「移籍した……いや、させたんだよ。僕の手でね」

麗奈「……」

P「…………でもね、結局全然売れなかった。オーディション担当の人には『君のとこのアイドルは皆同じような顔しかしないね』って言われたよ。ショックだったなぁ」


P「それから、僕は脱落して移籍していった子達の様子を見る事にしたんだ。自分は間違ってなかったんだって、安心させるためにね」

P「予想通り、彼女達は僕の担当だった頃よりずっと仕事を減らしたみたいだった。それで僕はほくそ笑んだ。ざまあみろとさえ思った。でも、レッスンしてる彼女達の顔を見たら………………」

P「とても楽しそうに……輝いていた。完璧にしたはずの担当アイドル達には、決して見る事の出来ない輝きだった」

P「それでなんだか空っぽになっちゃってね、事務所の中で茫然と立ち尽くしてたんだ。そしたら、一枚のCDを社長に手渡された。『12番目の曲を聴きなさい』ってね」

P「それがこのゴールド……『輝くもの全てが黄金ってわけじゃない』。そういう曲だった」

P「……ごめん、ちょっと喋り過ぎたね」


麗奈「案外、ワルだったのね。アンタ」

P「ああ。思い返すたびに嫌な気持ちになる、随分な悪だったよ」

P「……」

麗奈「ま、いいんじゃない?元ワルってのは、アタシのプロデューサーには丁度良い経歴だわ」

P「ふふ……そうかもしれないね」

麗奈「これからは『ダブル☆デビル☆コンビ』みたいな感じで売り出してみない?」


P「生憎レイナサマとユニットを組むには足りないものが多すぎるんだ」

麗奈「わかるわ的な?」

P「その例えがわからないわ」

麗奈「それとも頭髪?」

P「冗談だよね?僕まだそこまで生え際後退してないよね?お願いだから冗談だって言って下さいレイナサマ」

麗奈「じ、冗談よ。冗談だってば」

麗奈(髪の話には随分必死になるのね)


麗奈「ま、将来は確実にヤバいタイプだと思うけどね」

P「……」

麗奈(……もしかしてガチヘコミしてる?)

麗奈「あのさ、まぁ、将来もっといい発毛剤も出るだろうし、そんなに気を落さなくても……いいと思うわよ……?」

P「こ、この程度で折れるハートは持ってないよ。僕はパッションが取り柄のプロデューサーだからね!」

麗奈(涙目になってるじゃない……)


P「もう直接家に送って行くけど、いいよね?」

麗奈「あ……う、うん。それでいいわ」

麗奈(……)

麗奈(もうすぐ、終わっちゃうのね……)





P「着いたよ、レイナサマ」

麗奈「……」

P「レイナサマ?」

麗奈「ねぇ」

P「何かな?」

麗奈「明日からもアタシ、イタズラしまくるわ。どこまででも、トップアイドルになるまでレイナサマらしく輝いてあげる」


麗奈「だから……もう、一度だけ、今日だけでいい、から……」

麗奈「アンタの温度、ちょっとでいいから……感じたいの」

麗奈「……………………駄目?」

P「駄目なワケがありませんよ、レイナサマ」ギュッ

麗奈「……」ギュー

P「……」

麗奈(あったかい……)


麗奈「…………よしっ!充電完了!離れなさい!」

P「ん、もういいの?」

麗奈「もう十分よ。……送ってくれてありがと」

P「どういたしまして。それじゃレイナサマ、また明日」

麗奈「また明日?それじゃ駄目よ」

P「ええ?じゃあどうするんだい?」

麗奈「アンタは明日も、明後日も、そのまた次の日も、ずっとずっと……」

麗奈「このレイナサマだけを見てなきゃ、許さないんだからねっ!」

終わりです。レイナサマがあまりにも可愛いのでつい書いてしまいました

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