魔王「ああ勇者、なぜあなたは勇者なの!?」(599)

魔王「私は魔王、あなたは勇者……」

魔王「この2つの存在は決して結ばれることが許されない、悲しき運命……」

魔王「おお、神よ! なぜこのような試練を私たちに与えたのか!?」

魔王「……神は私たちを見捨てたのか」

魔王「いえッ!! そうではないわ!!」

魔王「きっとこの試練を乗り越えた先には、宝石よりも輝かしい未来が待ってるの!!」

魔王「だから私はこの運命に屈しない!」

魔王「種族や身分の差なんて関係ない!」

魔王「そう……愛さえあればッ!!!」

勇者「うるさい少し黙れ」

魔王「……あなたも不安なのね。分かるわ」

魔王「私だってそう。目の前に立ちはだかる壁の余りの険しさに今にも屈しそう……」

魔王「だけど、それじゃ駄目なの!!」

魔王「それじゃ運命にも抗えない!!」

魔王「2人が結ばれるには、双方の力が必要なの!」

魔王「私だけじゃダメ……、あなたの力も必要なの」

魔王「だから、私の手を取って! そして一緒に歩みましょう!!」

魔王「私たちならきっとできるわ!!」

勇者「……誰か助けて」

側近「あらあら、なんだか楽しそうですね」

勇者「なっ! 新手か!?」

側近「あ、これはこれは、勇者の方ですか?」

側近「そんなに身構えなくても、襲ったりなんかしませんよ」

勇者「……」

側近「ほらほら、私武器なんて持ってないですよ」

勇者「……まあいい」

勇者「ちょうどいい所にきた」

勇者「……こいつ、何?」

側近「何って、魔王様ですよ?」

勇者「いや、ないだろ」

側近「どうして?」

勇者「いや、だって女だし、なんか意味不明なこと喚いてるし」

側近「でも魔王様ですよ」

勇者「……イメージしてたのと違う」

側近「それでも間違いなく魔王様です」

勇者「……」

魔王「ちょっと側近! いきなり現われて、なに勇者と仲よさげに話してるの!?」

側近「あらあら、なんだか賑やかだったから私も仲間に入れてほしかったんですが」

魔王「邪魔よ邪魔!」

側近「うぅ、それは残念です」

魔王「ほら、早く出てって!」

側近「……それじゃ、失礼します」

魔王「全く……、感動的な遭遇シーンが台無しじゃない」

魔王「まあいいわ」

魔王「さあ、さっきの続きよ!」

勇者「待ってぇ! こいつと二人っきりにしないで!」

勇者「……行ってしまった」

魔王「えっと……どこまで言ったかな」

勇者「……あのさぁ、ちょっといい?」

魔王「待って! 今セリフ思い出すから」

勇者「さっきから、お前何言ってんの?」

魔王「……へ?」

勇者「いや、へ、じゃなくて」

勇者「運命とか愛とか、訳わかんないこと言ってるけどさ」

勇者「俺はお前を倒しに来たんだ」

勇者「ごちゃごちゃ言ってないで、早く戦おうぜ」

魔王「……そう。やはり、それが運命なのね」

勇者「いくぞッ!!」

勇者は剣を振り上げて魔王に斬りかかった!
しかし魔王は避けた!

魔王「えい!」

魔王はビンタを繰り出した!
勇者の剣が真っ二つに折れた!

勇者「……はい?」

魔王の攻撃!
勇者の頬に往復ビンタを食らわせた!

勇者「ブブブブブブブブブブブブブブブブブブッ!!!」

勇者は意識をもうろうとさせている
ついに勇者はその場に倒れてしまった!
魔王は勇者にとどめを刺そうと腕を振り上げた!

魔王「……」

魔王「……できない」

魔王「やっぱり私には、勇者を殺すことなんてできないわッ!!」

魔王「ああ、神よ! なぜあなたは私にこのような仕打ちを!? お怨み申し上げます!」

勇者「……ぅぅ」

勇者「……あれ? ここは?」

側近「あ、気がつきました?」

勇者「あ、あんたは……」

側近「ここは医務室ですよ」

側近「魔王様にコテンパンにされたあなたを、私がここまで運んできたんですよ」

勇者「あ、ありがとう――」

勇者「って違う! 魔王にやられて、挙句魔物の手施しを受けただと!?」

勇者「何たる屈辱……」

側近「そんなにつんけんしなくてもいいんじゃないですか?」

勇者「う、うるさいっ!」

側近「魔物とか勇者とかどうでもいいですよ、そんなの」

勇者「どうでもいいだと!」

側近「そんな焼きたてのパンみたいな顔で怒鳴っても怖くないですよ」

勇者「は? パン?」

側近「魔王様のビンタで腫れあがって、今のあなた、すごく面白い顔になってます」

勇者「なっ!?」

側近「ほら、氷のうで冷やしますからじっとしていてください」

勇者「いや、いい!!」

側近「よくないです。そんな顔で出歩かれては笑い袋でなくても抱腹絶倒ものです」

勇者「勝手に笑えばいいだろ!」

勇者「魔物なんかにどう思われたって関係ない!」

側近「人間にもトロールと間違われて、出会いがしらに逃げられるかもしれませんよ」

勇者「ねえよ!!」

側近「とにかく、怪我人はじっとしていてください」

側近「じゃないと、力づくで大人しくしてもらいますよ?」

勇者「う……」

側近「私自らが介抱してるんです。むしろ幸せ者ですよ、あなた」

勇者「……頼んでねえよ」

勇者「……ところで魔王は?」

側近「魔王様ならお外で遊んでますよ」

側近「本当はこの部屋であなたの御世話をしたかったみたいですけど、私が追い出しました」

側近「医務室で騒がしくされたら困りますから」

勇者「……そうかい」

勇者「んで、あいつは一体何なんだ?」

側近「ん?」

勇者「言ってることがさっぱりだった」

勇者「間違いなく初対面のはずなのに、なぜか愛がどうとか言ってたし」

勇者「電波入ってるんじゃねえか?」

側近「まさかぁ、そこまでいきませんよ」

側近「他の娘よりちょっとだけメルヘンチックなだけですよ」

勇者「メルヘン、てかメンヘルだろ……」

側近「……あんまり魔王様のこと悪く言いますと、このメスでズタズタに切り裂いちゃいますよ?」

勇者「こわっ!!」

側近「やだ、勇者さんったら! 冗談ですよ、冗談」

勇者「そ、そっか、冗談か……ははは」

側近「……ふふふ」

勇者「……」

側近「大分腫れが引いてきましたね」

側近「さすが勇者をやってるだけあって回復が早いです」

勇者「まあな」

勇者「さて、と。じゃあ、俺は帰るよ」

側近「は?」

勇者「え?」

側近「……ただで帰すと思ってるんですか? この私がこれだけ甲斐甲斐しくあなたの御世話をしたのに」

勇者「……なんか魂胆があったのか」

側近「無かったらこんな真似しません」

勇者「……金ならないぞ」

側近「いらないですよ、人間のお金なんて」

側近「なにも取って食ったりはしませんよ」

勇者「……」

側近「ただしばらくここに滞在して、魔王様の遊び相手になってほしいなぁ、なんて」

勇者「はぁ?」

側近「ほら。魔王様、勇者さんのこと気に入ってるみたいですし」

勇者「いやだ」

側近「あんな美少女と戯れる機会なんてめったとないですよ。羨ましいぞ、このこのぉ!」

勇者「嫌だって言ってんだろ!!」

勇者「だいたいなんで俺があいつの遊び相手にならないといけないんだよ」

勇者「お前らが相手になってやれよ」

側近「そうしたいのは山々なんですけど、それじゃ駄目なんですよ」

勇者「どうして?」

側近「その相手が、勇者であることに意味があるんです」

勇者「……どういうことだ?」

側近「話せば長くなるんですけど――」

勇者「手短に話せ」

側近「やだ、せっかちさん」

勇者「うるさいバカ早く話せ」

側近「まずは魔王様の生い立ちから話さないと駄目ですね」

勇者「……長くなりそうだな」

側近「できるだけ簡単に説明します」

側近「魔王様は箱入り娘でしてね、お父様、つまり先代の魔王様からそれはもう大切に育てられました」

側近「外は危険だと城外に出ることがほとんど許されなくて、魔王様はこのお城の中でずっと過ごしていたんです」

側近「そんな生い立ちの持ち主だから、魔王様は立派な日陰少女へと成長してしまいました」

勇者「……日陰少女の割にむちゃくちゃハイテンションだったぞ?」

側近「昔はもっと大人しくて、かわいらしい深窓の令嬢だったんです」

側近「しかし、ある時を境に魔王様は変わってしまった……」

側近「そう! 人間界で流通している本にハマり込んでしまったあの日を境にッ!!」

勇者「……へぇ」

側近「城内で引きこもっていた魔王様にとって、書物は唯一の娯楽……」

側近「ちょっとした機会に偶然目にした、人間界で流行の娯楽小説やおとぎ話に魔王様はのめりこんでしまったのです!!」

側近「貪るようにそれらの書物を読み漁る魔王様……」

側近「読み重ねるにつれて空想の世界にどっぷり浸かっていき――ついにッ!!」

側近「魔王様はそれらの世界を自分に重ね、脳内設定を作り出してしまった!!」

勇者「……それがあの訳の分からないセリフの数々の正体か」

側近「イエス。ユーはとってもクールね」

勇者「いや、なにいきなり口調変えてんの?」

側近「そう、魔王という自分の立場と、悲劇や恋愛小説に登場するヒロインを重ねてしまった」

側近「『私は魔王……勇者とは決して結ばれない運命。だけど私は運命に負けないッ!!』といった具合に」

勇者「……」

勇者「……それで俺にその悲劇のヒロインごっこに付き合えってか?」

側近「オー、ユーはベリーサッシいいね」

勇者「だからお前はさっきから何なんだよ」

勇者「……なんで俺がそんなことしなきゃならないんだよ」

勇者「そんな危ない奴の相手できるか」

勇者「つーか、お前ら魔王のことを止めてやれよ。そんなアブノーマルな魔王、いやだろ」

側近「私は昔の魔王様より今の魔王様の方が好きですよ」

側近「だって見てて楽しいですし」

勇者「巻き込まれる俺は全然楽しくねえよ!!」

勇者「そもそも俺は魔王を退治しに来てるんだぞ」

側近「……ボロ負けしたくせに」

勇者「うっ……」

勇者「つ、次こそは勝ってみせる」

側近「威勢がいいのはいいですけど、その次がありますかね?」

勇者「は?」

側近「言ったでしょ? ただで帰す気はないと」

勇者「お、脅しかよ!? そんなもんに屈したりはしないぞ!!」

側近「この私と戦うと? 剣も無いのに」

勇者「剣がなくたってやってやる!」

側近「……」

勇者「いくぞッ!!!」

勇者「……あれ?」

側近「……ようやく効いてきましたか」

勇者「か、体が、うごかな……」

側近「勇者さんが気を失っている隙に遅効性の麻酔を打っておきました」

勇者「はぁッ!?」

側近「さぁて、改めて聞きますよ? しばらくここに残って魔王様と一緒にいてくれません?」

勇者「ふざけるなッ! 俺は勇者だ、そんなことできるか!!」

側近「おやおや、まだ自分の立場が理解できていないようですね」

側近「あなたに用意されている選択肢は『イエス』か『デス』ですよ?」

勇者「うぅ……」

側近「ちなみに後者を選んだ場合、ガチムチのエリミネーターをぎっしり詰め込んだ部屋に放りこみます」

側近「さぞかし楽しいショーが繰り広げられるんでしょうね」

勇者「や、やめてくれぇッ!!!」

側近「さぁ、あなたの気持ちは……どっち!!」

勇者「分かったよ! ちょっとの間、ここにいればいいんだろ!!」

側近「ええ、その通りです」

側近「きっとそっちを選んでくれると信じてましたよ」

勇者「……脅迫しておいて何言ってるんだよ」

側近「キョーハク? オー、ムズカシイことばネ。ぜんぜんわかりまセーン」

勇者「そのキャラさっきからうぜぇ……」

側近「さて、そうと決まれば勇者さんにはこれをプレゼントしましょう」

勇者「ん? なにこれ、ブレスレット?」

側近「勇者さんが勝手に逃げないように、この城から離れると爆発する仕掛けになってます」

勇者「はぁ!?」

側近「手首と泣き別れしなくなかったら大人しくしててくださいね?」

勇者「……悪魔め」

側近「私はちょっとお仕事があるのでしばらくいなくなりますけど、この部屋でじっとしててくださいね」

側近「といっても麻酔が切れるまで動けないでしょうけど」

側近「それじゃ、失礼しますね」

勇者「……」

勇者「……なんでこんなことになってるんだよ」

勇者「俺はこんなことをしに遠路はるばる旅をしてきたんじゃないぞ」

勇者「……はぁ」

魔王「ああ、ため息なんてついて! そこまで自分の運命を卑下にすることないわ!!」

勇者「おわ!!?」

勇者「……お前、いつからいた」

魔王「側近が部屋から出て行ったのを見計らってこっそり入ったの」

勇者「……」

魔王「ああ、勇者! どうしたのその格好! どうして地べたに寝そべっているの!?」

勇者「お前の側近に薬を盛られて体が麻痺して動けないんだよ」

魔王「まあ、なんて可哀想なの! わかったわ、私に任せて!」

勇者「え、あ……」

魔王「……えっとぉ、どこにあったかしら。医務室なんてめったに来ないからどこにしまってあるか分からないわ」

魔王「……あった!」

魔王「ほら、これを食べて!」

勇者「ちょ、それ……ふがふがッ!!」

魔王「確かこれで麻痺を治せるはずよ」

勇者「……ぷはぁ! 違う! これは毒消し草だから治らねえよ!」

魔王「え?」

勇者「麻痺が治せるのはまんげつ草だ!」

魔王「……えっとぉ、これ?」

勇者「そうそれ」

魔王「そうだったのね。知らなかったわ。どれも同じだと思ってた」

勇者「んなわけねえだろ……」

魔王「じゃあ、アーンして」

勇者「は?」

魔王「アーン」

勇者「……いやいや」

魔王「アーーーーン」

勇者「…………」

魔王「もう、仕方ないわね」

勇者「ちょ、無理やり詰め込――ふがふがぁッ!!」

魔王「うふふ。そんなにはしゃいじゃって」

勇者「はしゃいでねえよ! 窒息させる気か!!」

魔王「あはは! ごめんね」

魔王「ふぅ、なんだか幸せね。幸せすぎるくらい……」

魔王「こんな幸せが……いつまでも続けばいいのに」

勇者「いや、なにいきなりしんみりし出してるの? 展開すっ飛ばしすぎだろ」

魔王「……大丈夫、きっといつまでもこの幸福な気持ちのままいられるわ」

勇者「人の話聞けよ」

魔王「私たちがお互いのことをずっと好きでいられればきっと――」

勇者「おーいおーい」

側近「……魔王様。なにをしているのですか?」

側近「何やら騒がしいので来てみれば……。少しはしゃぎすぎですよ」

魔王「来たわね、お邪魔虫」

側近「お邪魔虫って……」

魔王「私と勇者を遠ざけようとして、いったいどういうつもりよ!」

側近「別に遠ざけようとは――」

魔王「うるさいうるさいうるさーい!!」

側近「ああもう、やかましいですね」

側近「あんまりわがままが過ぎるとおやつ抜きにしますよ」

魔王「えッ!? オニぃ、アクマぁ!!」

側近「ああはいはい。早く医務室から出て行ってください。ここは騒ぐ場所じゃないですよ」

魔王「バーカバーカ! 側近のバーカ!!」

側近「はぁ……あの子はもう」

勇者「……」

側近「まあ、あの通りまだまだ子供ですから色々手を焼かすと思いますけど、仲よくしてあげてくださいね」

勇者「……無理。会話が成立しないし」

側近「無理でもやってもらいます」

勇者「なんでだよ。そもそも俺がここに留まらなきゃいけない理由が分かんねえし」

勇者「ごっこ遊びがしたきゃ、他にも代わりがいるだろ」

側近「だめですよ。あの子、勇者との恋愛ごっこにご執心みたいですし」

勇者「だからってさぁ――」

側近「それにあなたにここに留まってもらわないと、あの子勝手に外に勇者探しに行ってしまって、私たちが大変なんです」

勇者「……父親はどうしたんだよ。外に出してもらえないんじゃなかったのかよ」

側近「先代の魔王様は今の魔王様に魔王の位を譲った後、魔王様のことを私に任せて地獄の湯巡り旅行に行ってしまいました」

側近「おそらくあと何十年かは帰ってこないかと」

勇者「……いい御身分だな、おい」

勇者「……つまり魔王のためというよりお前のために残れと言ってるのか?」

側近「まさか。もちろん魔王様がお喜びになるからですよ」

側近「でも、あなたに残ってもらった方が私も楽で助かるって話です」

勇者「……父親にばれたら怒られるだろ」

側近「ばれなきゃいいんですよ、ばれなきゃ」

側近「魔王様のあの妄想癖もじきに治るかもしれませんし、それまでの辛抱です」

勇者「……治るか?」

側近「……さあ?」

勇者「……はぁ」

側近「麻痺ももう治ったみたいですし、そろそろ医務室から出ますか」

側近「いつまでもここにいたら、また魔王様が来て騒ぎかねませんし」

勇者「……出て俺はどうすればいいの?」

側近「どうしたいですか? ディナーを用意しましょうか?」

勇者「いや食欲ないから、それはいい」

勇者「それより今日はいろいろあったからもうくたくたなんだが……」

側近「そうですか。ならまだちょっと早いですけどお休みになりますか?」

勇者「そうしたいが、俺はどこで寝れば?」

魔王「私の部屋で寝ればいいわ」

勇者「うわっ!!」

側近「魔王様ッ! いつの間に!?」

魔王「私のベッドってとっても広いの! 2人で寝ても全然へっちゃらなのよ!」

側近「だめです! そんなハレンチなッ!!」

魔王「何がハレンチなの?」

側近「え……それは……」

魔王「ねえ、勇者。いいでしょ?」

魔王「一緒にベッドに入って一晩中お話しましょ? そしてお互いに愛の言葉をささやき合うの」

側近「魔王様ッ!!」

魔王「うるさいうるさいうるさーい!!」

魔王「あなたは私の側近でしょ? ならどうして私の邪魔ばかりするの?」

側近「嫁入り前なのに、魔王様の身にもしものことがあったら先代様に申し訳が立ちません!!」

魔王「もしものことって何よ?」

側近「だから、それはぁ……」

魔王「側近のことなんて放って置いていきましょ、勇者?」

勇者「嫌だよ!!」

魔王「どうして?」

勇者「どうしても何も、お前には恥じらいがないのか!!」

魔王「どうして恥じらう必要があるの?」

魔王「将来を誓い合った二人はベッドで愛し合うって本に書いてあったわよ」

魔王「これが普通なんでしょ?」

勇者「……」

側近「……すみません勇者さん。魔王様はどうも世間知らずな所がありまして」

勇者「……つまり俺らの想像してることとあいつの言ってることは違う、と?」

側近「ええ。言葉通り甘ったるい言葉を掛け合って一晩過ごしたいだけで、具体的な行為とかはその……ゴニョ」

勇者「……」

魔王「二人で内緒話なんてしないでよ!! なに話してるのよ!!」

勇者「とにかく、俺はお前となんて一緒に寝ないからな」

魔王「どうしてよ!」

勇者「どうしてもだ! 大体勇者と魔王が一緒に寝るとかありえないだろ」

魔王「だからその運命を――」

勇者「ああ分かった分かった。お前にこんなこと訊いた俺がバカだったよ」

魔王「何よそれ!!」

勇者「……とりあえず俺の部屋、どこでもいいから適当に用意してくれる?」

側近「分かりました。すぐに手配いたします」

魔王「なによなによなによぉッ!! 二人のバーカ!!」

側近「――じゃあとりあえずここが勇者さんの部屋ということでいいですか?」

勇者「ああ」

側近「他の部屋に移りたかったら、言ってくれればすぐに替えますので」

勇者「あいよ」

側近「それじゃ、おやすみなさいませ」

勇者「おやすみぃ」

魔王「おやすみなさい、側近」

側近「ちょい待ち! 魔王様の部屋は違うでしょ?」

魔王「私もこの部屋でねーるーのー!!」

側近「いい加減にしないと魔王様が押し入れの奥に隠してる秘蔵本、処分しますよ」

魔王「ど、どうしてあなたが知ってるのよ!?」

側近「魔王様の部屋の掃除を誰がやってると思ってるんですか……」

魔王「うわ~ん、もう掃除なんてしなくてもいい!!」

側近「整理整頓もろくにできないくせに何言ってるんですか」

側近「じゃあ部屋でじっとしていてくださいよ」

魔王「……」

側近「間違っても勇者さんの部屋に忍び込もうなんて思わないように」

魔王「……ふん」

側近「お返事は?」

魔王「……ウス」

側近「なんですかその返事は……」

魔王「……」

側近「はぁ……まったく頼みますよ」

側近「おやすみなさい」

<深夜>

魔王「……そんな約束、守るバカはいない」

魔王「これだけ夜が更ければ、さすがの側近も寝てるでしょ」

魔王「うふふふふ、こっそり勇者のベッドに侵入して悪戯しちゃおっかな」

魔王「それで怒った勇者とじゃれ合ったりして……えへへぇ」

魔王「それじゃ、早速部屋から抜け出してっと――あれ?」

魔王「ドアが……開かない」

魔王「んんんんんんんんん!!」

魔王「ダメ……全然ビクともしない」

魔王「さては側近め、つっかえ棒かなにか仕込んだな」

魔王「これは困ったわ」

魔王「私がちょっと本気を出せばつっかえ棒ごとき破壊するのは容易……」

魔王「だけどそんなことをしたら破壊音を立ててしまう」

魔王「眠りが浅い上に、超がつくくらい地獄耳の側近がその音を聴き逃すとは考えにくい……」

魔王「かといって窓から脱出したら勇者の部屋まで遠回りになり、それだけ他の部下に発見されるリスクが高くなる」

魔王「考えなさい、魔王。どうするのが最善の方法なの……」

魔王「あらゆる可能性を想定して。思考をクールでシャープにするのよ!」

魔王「……」

魔王「……そうよ、発想を逆転させればいいんだわ!」

魔王「道を自分で切り開くことができないなら、代わりに道を作ってもらえばいいんだわ!」

魔王「そうとなれば――」

魔物「……はあ、だるい。夜の見回りとかとっとと終わらせて、とっとと寝よ」

魔王「……ハァ、ハァ」

魔物「ん? なんだか艶っぽい喘ぎ声がするぞ?」

魔王「だ、誰か……」

魔物「魔王様の部屋から? 魔王様、どうかしましたか?」

魔王「急に、胸が苦しくなって……助けて」

魔物「えっ!? そ、それは大変だ。すぐに誰かを――」

魔王「その前にこの部屋から出して」

魔物「え? 側近様から魔王様を部屋から絶対に出すなと言われているのでそれは……」

魔王「アッーー! 胸が、胸がぁ!」

魔物「魔王様!?」

魔物はつっかえ棒を取り外して魔王の部屋のドアを開け放った!
しかし次の瞬間、魔王の拳が魔物の鳩尾にクリーンヒットし、魔物は気を失ってしまった!

魔物「……うふふ。計画通り」

魔王「やっぱり私は冴えてるわね」

魔王「……それにしても側近のやつ、やっぱり他の魔物にも手を回していてみたいね」

魔王「さすがは側近。用意が周到のようね」

魔王「これはこの先も油断できそうにないわ。慎重に行きましょ」





魔王「……いつも以上に見張りの数が多かったわ。なんて傍迷惑なやつなのかしら、側近ったら」

魔王「たかだかこんなことのために夜遅くに見回りをさせられてる魔物たちの身にもなりなさいよね」

魔王「まあいいわ。そんなことは私には関係ない。所詮は雑魚、欺くのは簡単だったし」

魔王「ようやく着いたわ。この部屋が勇者の眠る部屋ね」

魔王「マスターキーをさっき倒した見回りから盗み出しておいたから、あとは開錠して侵入するだけ」

魔王「……突入!」

魔王「……」

魔王(気配を殺して、こっそりと……)

魔王(あれがベッドね。あそこに勇者が――)

魔王(ベッドに侵入完了。……ああ、こんな安っぽいベッドでなんて寝て。私と一緒ならもっと寝心地いいのに)

魔王(……はあ、勇者の体、あったかい)

魔王(さてと、どんな悪戯しましょうか。あんまり騒がれても困るからなぁ……)

魔王(……ちょっとベタだけど耳を甘噛みなんてどうかな)

魔王「……」

はむっ

側近「……あら大胆」

魔王「ぶっ!?」

魔王「ど、どうして側近がこの部屋に!?」

側近「それはこっちのセリフです。ここは魔王様の部屋ではないはずですが?」

魔王「側近の部屋でもないでしょ!」

側近「まあ、どうせ魔王様のことですから、約束なんて守らないと思って――」

側近「勇者さんとすり替わっておいたのです!」

魔王「え!? な、なら勇者は……」

側近「別の部屋で今頃ぐっすり眠っていますよ」

魔王「そんなぁ……」

側近「さてと、それでは魔王様?」

魔王「え、なに……かしら?」

側近「せっかくここまで来たんです。私と愛を語り合いましょうか、一晩中」

魔王「え、遠慮しておくわ……」

側近「そんなつれないこと言わないでくださいよ」

側近「……ただ、私の愛は、……痛いですよ?」

魔王「ひぃぃぃぃぃ!」

ちょっと席を外します
それにしても凄まじい過疎っぷりw
まめに支援してくれた人たちに多謝

<翌朝>

こんこん

側近「勇者さん、起きてらっしゃいますか?」

勇者「ああ、起きてるよ」

側近「朝食の用意ができましたので、食堂までご案内します」

勇者「あいよ。今部屋から出るよ」

がちゃ

勇者「おはよう」

側近「おはようございます」

勇者「ん?」

魔王「ぁぅぁぅぁぅ……」

勇者「……なにこれ?」

側近「これは気にしないでください。よくあることなので」

勇者「ふぅん」

魔王「モウヤダ、コワイコワイコワイ……」

側近「ここが食堂です」

勇者「……だだっ広いな」

側近「こういう所での食事は初めてですか?」

勇者「いや。とある国の王に食事に誘われたときもこんな感じの場所で飯食った」

勇者「だけどこうも広いと、やっぱり落ち着かんな」

側近「じきに慣れますよ」

魔王「そうよ。住んでるむうちにこれが普通になってくるわ」

勇者「あ、復活してる」

魔王「あの程度のことでいつまでも凹んでるようじゃ魔王なんて務まらないわ」

側近「じゃあ、これからはもっと厳しくしましょうか?」

魔王「そ、それには及ばないわ!」

魔王「さあ、食事にしましょ。勇者のお口に合えばいいんだけど」

勇者「……」

魔王「どう、おいしい?」

勇者「……くそ、めちゃくちゃ美味いじゃないか」

魔王「そう! それは良かったぁ!」

魔王「なら私の分もあげる!」

勇者「……いいのか? 俺は遠慮なんてしないぞ?」

魔王「私はいいの。どうせこんなに食べきれないから」

勇者「それじゃ遠慮なく……」

側近「……すっかり餌付けされてますね」

勇者「う……」

魔王「はい、あーん」

勇者「それはいいッ!!」

勇者「それにしても……魔物もこんないいもん食べてるんだな」

勇者「てっきり生肉をそのまま貪ってるのかと思った」

側近「なんというひどいイメージ……」

勇者「いやいや、でも本当に美味いよ。これ何の肉?」

側近「あ、それは人げ――いえ、牛です」

勇者「……ちょ、……え?」

側近「牛です」

勇者「嘘付けッ! お前、今人間って言いかけただろ!?」

側近「この地方名産のニンゲ牛です」

勇者「ニンゲ牛ってなんだよ!? アレか、牛みたいに脂の乗った美味しい人間って意味か!?」

側近「……ふふ、勇者さんは筋張ってて美味しくなさそうですね」

勇者「……」

側近「……ぷぷ。あははははは! 冗談ですよ、冗談」

側近「ちゃんとした普通の牛肉ですよ、それ」

勇者「……」

側近「あら、ひょっとして拗ねちゃいました?」

勇者「……お前、魔王とは違った意味で絡みづらい」

魔王「駄目よ、側近。私の勇者をいじめちゃ」

側近「あらあら、私のなんて。独占欲、むき出しですね」

魔王「私のなんだからいいじゃない!」

勇者「……はぁ、なんか食欲失せた」

側近「おや、まだおかわりはいくらでもありますよ?」

勇者「いや、もういい。ごちそうさま」

魔王「じゃあ、食事も済んだことだし、一緒にお庭でお話ししましょ?」

勇者「えぇ~」

側近「あれだけたくさんご飯を食べたんだから、今さら渋らないでください」

勇者「……分かったよ」

魔王「やったー! 昨日お話しできなかった分、いっぱいするわよ」

勇者「うへぇ……」

側近「うふふふふ。魔王様、嬉しいのは分かりますけど、くれぐれも羽目を外しすぎないようにお願いしますね」

魔王「分かってるわよ」

魔王「さ、行きましょ勇者」

勇者「おいちょっと! 手を引っ張るなよ!」

側近「……さて、私はお仕事お仕事っと」

魔王「見て勇者! これは私の城の自慢の中庭よ!」

勇者「……なんつーか、すごいな」

勇者「一面のお花畑、やたら可愛らしい装飾の噴水、楽しそうに走り回っている動物たち……」

勇者「これが魔王城の庭とは思えん……」

魔王「お父様がいない隙に私好みの庭に変えたの」

勇者「……帰ってきたら卒倒するかもな」

魔王「お父様だってこの庭の美しさを見れば、きっと怒ったりなんかしないわ」

勇者「どうだか」

魔王「ほら、あそこのベンチに座りましょ」

勇者「だから引っ張るなって言ってるだろ!」

魔王「うーん、いい天気!!」

勇者「……そうだな」

魔王「ねえねえ、勇者のこと、色々聞かせて!」

勇者「俺のこと?」

魔王「そうそう。貴方のこと、いっぱい知りたいの!」

勇者「俺のことなんて知ってどうするんだよ」

魔王「あら、将来を誓い合った相手のことを知りたいと思うのは自然なことだと思うけど?」

勇者「誓い合ってねえよ!! 妄想と現実をごっちゃにするな!!」

魔王「ほら、早く早く。話して」

勇者「ったく、相変わらず人の話を聞かないな……」

勇者「俺のことったって、いったいどんな事を話せばいいんだ?」

魔王「例えば……勇者になる前は何をしてたの?」

勇者「別に普通だよ。学校行きながら働いて、弟や妹の面倒見て――」

魔王「兄弟がいるのね!!」

勇者「ああ、まあな。生意気な奴らで可愛くないけどな」

魔王「素敵ね。私も妹や弟が欲しかったから羨ましいわ」

勇者「いたって鬱陶しいだけだぞ?」

魔王「そんなことないわよ。毎日が賑やかできっと楽しいと思うわ」

勇者「賑やか、ねぇ。ただうるさいだけだと思うが」

魔王「でもよかったわ。勇者に兄弟がいて」

勇者「は? なんで?」

魔王「だってそれっていずれは私にも弟や妹できるってことでしょ?」

勇者「……」

魔王「私にもすぐに懐いてくれるといいなぁ!」

魔王「でも兄弟の世話をしないと駄目なのに、旅なんてしてても平気なの?」

勇者「弟や妹がもう働ける年齢になったからな。だから俺一人抜けてもなんとかなるんだよ」

魔王「そう」

勇者「それに旅に出たのは家族に行くように言われたからだから」

魔王「どうして?」

勇者「父親が昔冒険者だったからな」

勇者「『男たるもの、一度は旅に出て世の中のことを知らなくてはならない』とか言われてさ」

勇者「それに魔王、つまりお前を討伐すれば家族が一生遊んで暮らせるだけのお金が手に入る」

魔王「……そう」

勇者「……なのに俺はここで何やってんだろうな」

魔王「……運命はえてして厳しいものよ。だけど二人の絆は永遠よ」

勇者「……やっぱり何か噛み合わないな、会話」

魔王「あら、あそこを歩いているのは叔父様じゃない」

勇者「叔父様?」

魔王「そう。私のお父様の弟に当たる人よ」

魔王「叔父様はこの城からだいぶん離れた所に住んでいるのだけど、今日は一体何の用かしら」

魔王「少しご挨拶をしてくるから、待っててくれる?」

勇者「ああ」

勇者(あれが魔王の叔父か。魔王と違ってまじめそうで少しおっかない顔だな)

勇者「……」

勇者(……ん、魔王の方をちらりとも見ずに素通りしちまったぞ)

魔王「お待たせ」

勇者「……なんだかそっけないな、お前の叔父さん」

魔王「んー、私、あまり叔父様と仲良くないから」

魔王「叔父様、私のこと、あまりよく思ってないみたい……」

勇者「そりゃ、こんなふざけた魔王だったらしょうがないわな」

魔王「ひっどーい! ここは『そんなことないよ、マイハニー』って慰める所よ」

勇者「そんなことないよ、マイハニー」

魔王「今頃言ったっておっそーい!」

勇者「……マジこいつメンドくせぇ」

側近「魔王様、勇者さん。そろそろランチの時間ですよ」

魔王「え、もうそんな時間なの?」

魔王「勇者と一緒なら、私は時間すら跳躍してしまうのね」

勇者「いや、してないから」

側近「時間を忘れるほど楽しめたということですよ」

魔王「宇宙の歴史すらも、私たちに掛かれば瞬きに満たない時間ね」

勇者「そりゃ壮大なこった」

勇者「そんなことはどうでもいいから、とっとと飯を食べに行こう」

側近「もう食欲は戻ってきましたか」

勇者「もう胃がさっきからしゃかりきだよ」

側近「ふふ、しゃかりきですか。ならうちのコックを泣かせるくらい食べちゃってくれて結構ですよ」

勇者「……くぅ、悔しい。でも食べてしまう」

側近「別に悔しがることないと思いますけど?」

勇者「なんか勇者としてかなり間違ってる気がする」

側近「自然にそういう気分も薄れてきますよ」

勇者「どうして?」

側近「魔物の世界の食事を取り続ければ、自然と体質も魔物に近くなりますから」

勇者「ぶっ!」

側近「あら勇者さん。お行儀が悪いですよ」

勇者「ちょっと待て。今のは初耳なのだが」

側近「そうでしたっけ? まあ、取るに足らないことですし、どっちでもいいでしょ」

勇者「そんな訳あるか。え、つまりそれって、ここの食い物食べ続ければ俺も魔物になるっていうのか?」

側近「そういうわけではないです」

側近「体質と言っても、体臭だとか好戦性だとか、せいぜいその程度です」

勇者「……ま、マジかよ。どうして……」

側近「魔界の野菜や調味料には特殊な魔力が宿ってるんです」

側近「この魔力は魔物の魔力を高めてくれたりもするんですけど」

側近「人間が食べると、人間の体内に魔物の魔力が宿って、先ほど述べた通りの変化が起きるんですよ」

勇者「……」

側近「……と言っても、食べるのを止めてしまったら、その魔力も自然消滅します」

側近「つまり、ここから出て行って、元の食生活に戻れば普通の人間に戻りますよ」

勇者「……そっか。そりゃよかった」

魔王「ちょっと! 勇者はずぅっとここにいるのよ! 変なこと言わないで!」

側近「ああ、はいはい。そうでしたね。勇者さんはずぅっとここにいます」

勇者「おい……」

魔王「ずぅっとここにいてくれるでしょ、ねえ勇者!?」

勇者「……」

魔王「うるうる」

勇者「やだ」

魔王「なんでなんでなんでェェェェェェッ!!」

勇者「いやいや、お前のその病気が治るまでの約束だし」

魔王「びょ、病気ぃ? ねえ、側近。私何かの病気にかかってるの?」

側近「ええ。お医者様でも苦殺の湯でも治せないという難病にかかってますよ」

魔王「それは大変! なら勇者、私をやさしく介抱して!」

勇者「おい、引っ付くな! そんなに元気なら介抱いらないだろ!」

魔王「うっ、む、胸が……苦し……」

勇者「今更おせぇよ!」

魔王「苦しいから、……さすって?」

側近「私がさすって差し上げましょう」

魔王「ちょっと、側近! なんであなたが出しゃばってくるのよ!」

側近「こういうのも側近の仕事ですので。勇者様のお手を煩わせるわけには」

魔王「そんなこと、側近の仕事に含まれてなぁい!」

側近「魔王様の貞淑を守ることは、立派に側近である私の仕事ですよ」

魔王「ていしゅく? 何よそれ」

側近「え、それは……」

側近「とにかく。女の身でありながらそう軽々しく殿方に胸の触らせるというのははしたないと思います」

魔王「え、でも本には男性は女性の胸を触ると喜ぶって――」

側近「なんであなたの知識は変な方に偏ってるのですか!?」

魔王「でも、勇者に喜んでもらいたいじゃない!」

側近「そんな未発達な胸では誰も喜びませんよ!」

魔王「ぐはっ! うぅ……そ、そんなことないわ! 勇者、そんなことないよね?」

勇者「そ、そういう話題を俺に振らないでくれ……」

側近「ほら、勇者さんも嫌がってるじゃないですか」

魔王「バカバカ、側近のバカーー!」

側近「はいはいバカで結構ですよ」

魔王「バカぁ、アホぉ、年増ぁ、行き遅れぇ!」

側近「ぐはっ!」

側近「ま、魔王様……?」

魔王「自分に相手がいないからって、私から勇者を取らないでぇ!」

側近「あの、ちょっと――」

魔王「知ってるのよ私! 側近、この前御見合いして、先方に断られたんでしょ!?」

魔王「『貴方は俺より役職もいいし、年収も高い。とても俺とは釣りあいませんよ』って言われて!」

側近「なんでそんなこと知ってるんですかッ!?」

魔王「恋愛よりも仕事ばかりにかまけてるからよ、この社会の歯車め!」

側近「……いい加減にしないと、私も怒りますよ?」

魔王「なによ、全部本当のことじゃない。あ、そういえば側近って」

魔王「――男性と付き合ったことないんだっけ?」

側近「ピキ……」

側近「……」

魔王「なによ、黙りこくっちゃって」

側近「この……が」

魔王「え、なに?」

側近「このニート魔王がぁ!!」

魔王「んなっ!」

側近「ご飯食べて遊んで寝るだけの魔王様に偉そうなこと言われたくないです!」

側近「大体なんで私がこんなに仕事ばかりしてると思うんですか!?」

側近「魔王様がご自身の仕事を一切しないから、私が代わりにやって差し上げてるんですよ!」

側近「感謝こそすれ蔑まれる謂れは全くなぁぁぁぁぁぁいッ!!」

側近「……激務の中で、必死に相手を見つけようとしてる私の気持ち、魔王様に分かりますか?」

魔王「……え、あ、うん。なんか……ごめん……」

側近「うっうっ……ぐすっ」

勇者「……女のヒスって怖い」

少し書きためる時間をくれ
残念ながら俺にはリアルタイムで書きながら投下をするという芸当はできない
一応、完結まで話自体は考えてあるから
すまんね

あと絵が素敵過ぎる件

魔王がつくスレに、三日間保守してるな・・・・・

>>142
魔王「間違えた」
魔王「Hな事がしたい」だっけ?

保守ありがと
風呂入ったり、構成考えるのに時間かかってあまり進まなかったけど一旦投下するよ
眠いんだな、もう

近衛兵「……お取り込みの所、ちょっと失礼してもいいかな?」

側近「ぐすっ……、ん? あ、近衛兵じゃない」

魔王「近衛兵! どうしたの? 私たちと一緒にランチを食べに来たの?」

近衛「あ、いえ、俺はその……遠慮しておきます」

近衛「……ちょっと」

側近「え、私ですか?」

近衛「…………」

側近「…………」

魔王「……なにをこそこそ話してるのかしら」

勇者「なあ、アレ誰?」

魔王「え? ああ、彼は近衛兵よ。しかも隊長さんなの」

勇者「近衛兵?」

魔王「ええ。といっても、いろいろ忙しいからあまり私のそばにいないことが多いのだけど」

勇者「ニートのお前とは大違いというわけか」

魔王「……うぅ」

側近「そういう勇者さんはヒモですけどね」

勇者「ハァッ!?」

側近「魔王様、勇者さん。私、ちょっと用ができましたので席をはずしますね」

魔王「え、どんな用なの?」

側近「ちょっと魔王様の叔父上様と大事なお話があって――」

魔王「あ、……叔父様、ね。そういえば来てたものね」

側近「はい。それでは失礼します」

魔王「……ふぅん」

勇者「……俺はヒモなのか」

魔王「なにをさっきからブツブツ呟いているの? 勇者はヒモなんかじゃないわ」

勇者「……え?」

魔王「だって、私達を結んでいるのは、ヒモじゃなくて運命の赤い糸――」

勇者「……やっぱり今の俺はヒモなのかなぁ」

魔王「ちょっと勇者。私の話を聞いているの?」

魔王「……まあいいわ。じゃあ、ランチも済んだことですし、これからどうしましょうか」

勇者「どうしましょうかって、どうせ俺に決定権はないだろ。好きにしろよ」

魔王「なら……、お話しましょ!」

勇者「またかよ」

魔王「私、もっと勇者のことを知りたいわ。恋人同士なんですから、色々なことを知っておきたいの」

勇者「もう突っ込む気すらしなくなってきた」

魔王「ねえいいでしょ?」

勇者「えぇー……」

勇者「……いや、やめとく」

魔王「どうして!?」

勇者「次はお前の話を聞かせろよ」

魔王「私、の?」

勇者「そうそう、お前の」

勇者「午前中は質問攻めだったから喋るの疲れた。次はお前が話せよ」

勇者「適当に聞いておいてやるから」

魔王「えー、私は勇者のことがもっと知りたいのに」

勇者「お互いに知り合わないと不公平じゃないのか? 俺にはお前のことを知る機会は与えられないのかよ」

魔王「え?」

勇者「なんだ……その。あー……」

魔王「あっ、そっか。恋人同士だもんね!」

魔王「勇者だって恋人の私のことをもっと知りたいものね。私、勇者の気持ち、全然分かってなかったわ」

魔王「ごめんね、勇者」

勇者「…………」

魔王「どうしたの、勇者。顔が真っ赤よ」

勇者「……とてつもなく死にたい気分だ」

魔王「なら私のお部屋でお話しましょ」

勇者「お前の部屋?」

魔王「アールグレイの紅茶にクッキーも持っていきましょ」

魔王「お茶をしながら優雅に歓談、これってとても素敵じゃない?」

勇者「素敵かどうかはともかく、クッキーと紅茶は惹かれるな」

魔王「ならそうしましょ」

魔王「善は急げよ。私、メイドの人に運んでもらえるよう頼んでくるわ」

魔王「はい、ありがとうメイドさん」

メイド「いえ」

魔王「もう下がっていいわ」

メイド「それでは失礼いたします」

勇者「……ここがお前の部屋か」

魔王「どう、とてもかわいいでしょ」

勇者「……まあ、大体予想通りだな」

魔王「予想通りだなんて。心が通じ合ってる証拠ね」

勇者「ピンクだらけで目がチカチカする」

魔王「ささ、ここに座って」

勇者「ベッドにかよ……」

魔王「ふかふかで気持ちいいわよ」

勇者「……」

勇者「……ホントだ。すっげー柔らかくて気持ちいい」

魔王「でしょでしょ! なんだったら今日からここで寝ても――」

勇者「だが断る」

魔王「それじゃあ、何から話しましょうか」

勇者「なんでも」

魔王「むぅ、張合いのない返答ね」

魔王「んーーー。じゃあ、お父様の話はどうかしら」

勇者「んじゃそれで」

魔王「もう知ってると思うけど、私のお父様は先代の魔王なの」

魔王「厳つくてあまり顔は可愛くないんだけど、ちょっとお髭がキュートなのよ」

勇者「ハート形の髭でもしてるのか」

魔王「もう、話の腰を折らないで」

魔王「お父様は可愛くはないけど、私にはとても優しくしてくれたわ」

魔王「欲しいものがあったら何でもくれたし、何でもしてくれた」

勇者「その結果、このわがまま娘ができた、と」

魔王「もう!」

魔王「……まあ、それでも、私を一歩も城の外に連れ出してくれなかった」

魔王「このことに関しては、ビックリするくらい頑固で、動く石像並みの石頭だったわ」

勇者「お前の頑固さも、きっと父親譲りだな」

魔王「私が頑固かはともかく、私、色んな所に行きたかったのよ」

魔王「人間界で色々お買い物もしたかったし」

勇者「魔王が親子連れでショッピングに来たら、お店が大混乱するわ!」

魔王「変装で完璧」

勇者「その頭の角は、ちょっとやそっとの変装では隠し切れないだろ」

魔王「アクセサリーで通るんじゃないの、これくらい?」

勇者「……いや、多分無理じゃないか?」

魔王「まあ、少し話が逸れちゃったけど、とにかく私、けっこう箱入りに育てられたのよ」

勇者「その辺は側近からも聞いたな」

勇者「でも、その割には魔王を継いだお前を放って、自分は温泉巡りとはな」

魔王「お父様は温泉が大好きだから。今までの慰労も兼ねてということで、ね」

魔王「私も喜んで送り出したわ」

勇者「なんで?」

魔王「だって、お父様がいなければ、私の好き勝手にできるんですもの」

魔王「お城の改造だってやり放題だし、城から抜け出すこともできるわ」

魔王「……まあ、上手く抜け出しても、側近に半日と経たずに見つかるんだけど」

魔王「側近ったら、すごい剣幕で私を探すのよ。本当に怖いわ。仕事の鬼ね、あれは」

勇者「なんか、聞いてるとお前、父親のこと鬱陶しく思ってないか?」

魔王「あら、そんなことは無いわよ」

魔王「お父様のことはとても好きよ。ただ自由を愛する私にとって、少しだけ枷になっているのは事実だけど」

勇者「そうか。もうずっと温泉巡りして帰ってくるな、みたいなニュアンスに聞こえたからさ」

魔王「そこまでは言わないわよ。でもしばらくは帰ってこないって言っていたし、その点は少し嬉しいかも」

勇者「まったく、親不孝な娘だな」

魔王「私が幸せなら自分も幸せだってお父様言ってたから、充分私は孝行してるつもりよ」

勇者「額面通りに受け取るなバカ。少しは魔王らしく仕事したらどうだ」

勇者「そうすれば親孝行にもなるし、側近の負担だって今よりぐっと減るんだろ?」

勇者「側近のあの悲痛の叫びを聞いただろ?」

魔王「……うふふ」

勇者「いや、笑ってるけどさ、本人にとっては死活問題だと――」

魔王「……いえ、そうじゃなくて。勇者が魔王に仕事しろだなんて、……あははっ!」

勇者「あ……」

勇者「……やばいやばいやばい。明らかにここの空気に浸食されてる。俺は勇者俺は勇者……」

ここまでし書きだめてないです
もう眠くて頭回らないから寝ます
朝まで残ってたら、とても幸せ
おやすみ~

保守ありがとう
全然書きだめできてないけど
少しずつ投下していきます

勇者「……あ、そういえば。さっきから父親の話ばかりだけど、母親は?」

魔王「私、お母様のことは知らないの」

勇者「知らない?」

魔王「私が物心つく頃にはもういなかったみたいで、顔も知らないの」

勇者「いなかったって、……亡くなってしまったのか?」

魔王「さあ? ……だってお父様、お母様のこと何にも話してくれないのよ」

勇者「ふぅん……」

魔王「ま、私のお母様なんだからきっと私そっくりの美人に違いないわ」

勇者「頭の中までそっくりじゃないといいがな」

魔王「なによそれ」

側近「……失礼します」

魔王「あら、側近。叔父様とのお話は済んだの?」

側近「ええ、とりあえず」

魔王「そう」

魔王「それで、ここには一体何の用なの?」

側近「先ほど勇者さんに紹介出来ませんでしたから、一度彼を紹介しようと思いまして」

勇者「彼?」

側近「ほら、入っていらっしゃい」

近衛「……」

勇者「ああ、さっきの近衛兵の人ね」

側近「彼は、この城の近衛兵隊の隊長です。これから色々顔を合わせることも多いと思いますから、一応と思いまして」

勇者「そっか。んじゃまあ、よろしく」

近衛「……」

勇者「?」

近衛「……」

勇者「……なあ、なんか俺すごく睨まれてるんだけど?」

側近「コラ、近衛兵。もっと愛想良くしないとダメですよ」

近衛「……ふん」

勇者「こ、こいつ……」

側近「全く、この子は……」

近衛「……顔見せは済んだし、もう行っていいかな、姉さん」

勇者「え、ちょっと待て。……姉さん?」

側近「あ、はい。言い遅れましたが、近衛兵は私の弟なんですよ」

勇者「はぁ!? お前、弟いたのかよ!」

側近「はい。言ってませんでしたっけ?」

勇者「聞いてねえよ!」

側近「まあ、言う機会も無かったですしね」

勇者「それはまあそうだが……」

近衛「……おい」

勇者「え、……なに?」

近衛「姉さんをお前呼ばわりするな」

勇者「……は?」

近衛「あと、魔王様とあまり馴れ馴れしくするな」

勇者「いや、何なんだよお前さっきから」

近衛「さっきから偉そうにして、お前は何様のつもりだ」

近衛「姉さんや魔王様の一体何なんだよ」

勇者「なっ、このガキ。生意気な口ききやが――」

近衛「ガキじゃない。人間のお前なんかよりずっと長く生きている」

魔王「勇者は私の運命の人よ!」

近衛「……」

勇者「……だそうだ」

近衛「……調子に乗るなよ」

近衛「姉さん、僕は仕事があるからもう行くよ。これ以上時間を浪費するのは嫌だから」

側近「ちょっと、近衛兵!」

近衛「……あ、最後にお前」

勇者「な、なんだよ」

近衛「……姉さんや魔王様に無礼を働いたら、相応の報いを受けてもらうぞ」

勇者「……」

近衛「……ふん」

側近「……まったく、あの子ったら」

勇者「敵意むき出し、って感じ」

側近「すみません、勇者さん。近衛兵は少し真面目すぎるだけで、別に悪気があるわけでは」

勇者「言葉の端々に悪意を感じたけどな」

側近「……すみません」

勇者「……なんつーか、お前ら全然似てないな」

勇者「顔もそうだし、性格も全然違うぞ」

側近「……まあ、そうかもしれませんね」

側近「私たち、異母姉弟ですから」

勇者「母親が違うのか」

側近「ええ」

勇者「……ふぅん」

勇者「そういえば、側近のこと全然知らないな。いい機会だから教えてくれよ」

側近「私のこと、ですか?」

勇者「どういう経緯で魔王の側近になったんだ?」

側近「うーん、……あまり楽しい話じゃないですよ?」

勇者「いいから」

側近「そうですか……。でしたら、簡潔に」

側近「私と近衛兵は、ここに来る前はスラム街で育ちました」

勇者「……いきなり重いな」

側近「そのスラム街は、親がいなかったりお尋ね者であったり、そういう訳ありな者達が住んでいました」

側近「そこでは魔物も人も関係無く、様々な人種がいました」

勇者「魔物も人も……」

側近「だからとにかくいさかいが絶えませんでしたね」

側近「だって、中には魔物に両親を殺されたという人もいますし、その逆もまた然り」

側近「食料だって豊富にありませんし。毎日がデッドオアアライブって感じでした」

勇者「……側近も、なのか?」

側近「え、なにがですか?」

勇者「……人間に、その、親を殺された、とか」

側近「ああ、私は違いますよ」

側近「私は、……捨てられたんです」

勇者「……」

側近「父は私を身ごもった母を捨て、私を育ててくれた母も、私を残して病死してしまいました」

側近「それからは死ぬ気でスラムで生きていきましたよ」

側近「お金も食料も何もありませんから、それはすごくひもじい生活でした」

側近「そんな境遇の中で、私は密かに野心を燃やしたものです」

側近「『絶対私はのし上がって、将来美味しいものをいっぱい食べてやるんだ』って」

側近「それから必死に努力して、このお城で雇ってもらい、仕事仕事仕事でここまでのし上がってやりましたよ」

側近「これぞ、執念の勝利ですね」

側近「今では毎日贅沢な食事にありつけますし」

側近「まあ、その仕事漬けの生活のせいで、いまだに素敵な男性に出会えないのですけどね……」

勇者「……」

側近「ちょ、勇者さん! どうしてそんなに涙目なんですか!?」

勇者「くっそ……。すまん、俺、こういう話にめっぽう弱いんだ」

勇者「俺の家も、決して生活が裕福だったわけじゃないから。ズズーッ」

側近「ああもう、鼻水までたらしちゃって! ほら、ちり紙で鼻かんでください」

勇者「うぅ、すまね」

魔王「……うぅ」

側近「え、魔王様まで!?」

側近「魔王様はもうすでにご存じでしょ!」

魔王「いえ、何度聞いても泣けるわ……。そうよね、貴方も運命に翻弄されて生きてきたのよね」

側近「そ、そんな大げさな」

魔王「私、側近が私の側近で本当に良かったと思ってるのよ」

魔王「側近、大好きよ!」

側近「ああ、抱きつかないでください! 服に鼻水が付きます!」

側近「ほら、魔王様もこれで鼻をチーンしてください」

魔王「うぅ……チーンッ!」

側近「はぁ……、なんで私こんなこと話しちゃったんだろ」

勇者「うぅ……」

魔王「うぅ……」

側近「……ふふ。この調子なら、しばらくおしゃべりは無理そうですね」

側近「それじゃ、私も仕事に戻ります。これでお暇しますね」

勇者「……ああ。こんなつらいこと話させてしまって、ゴメンな」

側近「あらあら、今日の勇者さんはずいぶんと殊勝ですこと」

側近「勇者さんのそんな珍しい姿を見れただけでも、話した甲斐があったというものですよ」

側近「それじゃ、失礼しますね」

勇者「……あー、不覚にも数年ぶりに感動しちまったぜ」

魔王「……そうよね。側近は頑張ってるものね。それを行き遅れだなんてからかっちゃダメよね」

勇者「そうだぞ。あんなにいい奴なんだ。すぐにいい相手が見つかるさ」

魔王「私にとっての勇者みたいな運命の相手が、ね」

勇者「あれなら、近衛兵がシスコンになるのも頷けるな。俺も側近の弟だったらなってるかも」

魔王「でも浮気は駄目よ」

勇者「……ん? あれ、ちょっと待て」

魔王「ん? どうかした、勇者?」

勇者「いや、側近と近衛兵はどうやって出会ったのかなって思って」

魔王「え、どういうこと?」

勇者「だってさ、側近は父親に捨てられ、そのままスラムで育ったわけだろ」

勇者「母親が違う近衛兵と、いつ出会ったんだろ。というか、どうやって自分の弟だった分かったんだろ」

魔王「ん? ん~?」

勇者「……まあ、いろいろと事情がありそうだし。あんまり深く追求しない方が良いのかな」

魔王「んー、よく分からないけど、多分その方が良いと思うわ」

魔王「あの二人、けっこう複雑なのよ。実は私もよく分かってないし」

魔王「……特に近衛兵の方は、すごく苦労してきたみたいだから」

勇者「そうなのか?」

魔王「勝手に話しちゃったら、私近衛兵に嫌われちゃうから言わないけど、ね」

勇者「……まあ、本人がいない所で詮索するのはあまりい趣味とは言えないか」

魔王「うん、お利口さん。なでなで」

勇者「頭撫でんな!」

<一週間後>
側近「おはようございます、勇者さん」

勇者「ふぁぁぁぁ、……おはよ、側近」

側近「朝食の準備が整いましたよ。洗顔が済み次第、食堂にいらしてください」

勇者「うーい」

勇者(……ここに来てから、それなりに経ったな)

勇者(普通に馴染みつつある自分が怖い)

魔王「あら、勇者おはよう!」

勇者「うぃ」

魔王「ねえねえ。今日は何をして遊びましょうか!」

勇者「どうせまたおしゃべりだろ」

魔王「あら、なんだったら魔王様ゲームでもいいわよ」

勇者「……なんだその遊び」

魔王「人数分の割り箸を一斉に引き合って、印の入ったのを引き当てた人が他の人に好きな命令を出せるというゲームよ」

勇者「……ただの王様ゲームじゃねえか」

魔王「ただし、リアル魔王には拒否権がある上に、毎回必ず命令を下せる」

勇者「ずいぶんとお前に都合のいいゲームだな!」

側近「あらあら、朝っぱらから元気ですね、二人とも」

勇者「俺だって、朝からこんな大声出したくねえよ……」

側近「勇者さんはボケに対して、高らかに突っ込みを入れてくれますからね」

勇者「俺は漫才なんかしてるつもりはないぞ」

魔王「漫才!? 私と勇者で夫婦漫才というわけね。夫婦、夫婦、ふふふふふ……」

側近「あらあら、また魔王様が変な妄想に入っちゃいましたね」

勇者「勝手にさせとけ」

魔王「……子供は三人は欲しいわね。どこか都会の喧騒から離れた地に白くて大きな家を建てて、牛さんや豚さんも飼って……」

側近「……随分と具体的で牧歌的な妄想ですこと」

勇者「……あ、そういえばさ。俺、全然近衛兵の姿を見ないんだけど、あいつ今どこか行ってるの?」

側近「え? いえ、近衛兵はここ最近はずっとこの城内にいたはずですけど」

魔王「ええ、私も何度も会ったし、遠出はしてないはずよ」

勇者「じゃあ、なんで俺は一度も会えてないんだ?」

勇者「……ひょっとして、俺、避けられてるのか?」

側近「……かもしれないですね」

勇者「せっかく知り合ったんだし、少し話をしてみようと思ったんだけどな」

勇者「今のところ、すごく俺の印象悪いみたいだし……」

側近「うーん、私も勇者さんと仲良くしてくれるように言ってはいるんですけどねぇ……」

勇者「……まあ、とりあえずこちらから一回接触してみるから、あいつのよく行く場所とか教えてくれないか?」

側近「ええ。それでしたらお昼頃に裏庭に行ってみてください。よくそこで昼食をとってますから」

勇者「そっか。なら行ってみるよ」

魔王「それまでは私と魔王様ゲームね!」

勇者「誰がするかッ!?」

勇者「結局させられたし……」

魔王「あー、面白かった!」

勇者「そりゃお前は面白かったよな! 独裁政権だったし!」

魔王「また今度も見せてね、荒ぶる勇者の舞」

勇者「誰が見せるかッ!」

勇者「……ていうか、なんでお前もついてきてるんだよ」

魔王「あら、私がいないと多分、近衛兵は勇者に見向きもせずにどこかに行っちゃうわよ」

勇者「……それは、そうかもしれんが」

勇者「……まあ、いっか」

近衛「……」

勇者「……お、本当にいた」

魔王「近衛兵、こんにちは!」

近衛「……あ、魔王様。こ、こんにちは」

近衛「……」

勇者「おいおい、なんで俺には無言で睨みつけるんだよ」

近衛「……ふん」

勇者「つれないな」

勇者「それにしても……なんでこんな所で飯食ってるんだ。しかも一人で」

近衛「……」

魔王「……ちょっと勇者」

勇者「え、なに?」

魔王「そういうことをずけずけと無遠慮に言っちゃだめよ」

勇者「……あ、ごめん」

魔王「近衛兵にだって、色々事情があるんだから」

勇者「事情?」

近衛「……」

勇者「あ、おい。何処に行くんだよ」

そっきん

勇者「……行っちゃった」

魔王「今のは、勇者が悪いわ。もう、鈍ちんなんだから」

勇者「いや、悪かったよ」

魔王「私に謝られても困るわ」

勇者「……後で近衛兵にも謝っておくよ」

魔王「よろしい」

勇者「……まあ、どんな事情か知らないけどさ。俺たちと一緒に食べればいいのに」

魔王「私や側近も誘っているのよ。なのに頑なに断るのよ」

勇者「……ふぅん」

魔王「もう行っちゃったものはしょうがないし、私たちは戻りましょうか」

勇者「……いや、俺は近衛兵の後を追いかける。謝るにしてもなるべく早い方がいいだろ」

魔王「そう……。私も一緒に行く?」

勇者「いいよ。ガキじゃないんだから、これくらい一人で出来る」

魔王「そっか。じゃあ、頑張ってね」

勇者「あいよ。行ってくる」

勇者「……えっと、近衛兵はどこ行ったんだろ」

勇者「…………」

勇者「お、いたいた」

勇者「ん?」

近衛「……」

勇者「……あいつ、何やってるんだ」

近衛「……」

勇者「剣を……洗ってる?」

勇者「お、おーい。近衛兵」

近衛「……」

勇者(無視かよ……)

勇者「……剣を洗ってるのか? そうか、剣は兵士の命だもんな。大事にしないとな――って、え?」

勇者「ちょっと、お前! なんでこの剣、こんなに汚れてるんだよ! というか、すげぇ臭い……」

勇者「普通に使ってたらこんなに汚れないだろ。だってこれ、血じゃないだろ?」

近衛「……」

勇者「……だんまりかよ」

勇者「……ここに来たのは、さっきちょっと無神経なこと言ったから謝りに来たんだが」

勇者「まあ、それについては済まなかったと思う」

勇者「でもさ、事情をよく知らない俺が口挟むのはお門違いかもしれないけど」

勇者「魔王も側近もお前のこと、心配してるみたいだし」

勇者「なんというか、その――」

近衛「……うるさい」

勇者「え?」

近衛「……さっきからゴチャゴチャうるさいんだよ!」

近衛「お前に僕のことなんて、全然関係ないだろ!」

近衛「知ったような口をきくな!」

勇者「あ……でも」

近衛「でもも糞もあるか!」

近衛「……そんなに僕のことが知りたいなら教えてやるよ」

近衛「僕は……」

近衛「――半魔だ」

勇者「半魔……」

近衛「魔物と人間の間に生まれた、半分魔物半分人間の存在」

近衛「この世界で、半魔がどれだけ嫌われてるか、お前だって知らないわけないだろ」

近衛「魔物からも、人間からも忌み嫌われ、疎まれている」

近衛「僕と姉さんがスラム育ちなのは知ってるな?」

近衛「人間と魔物の両種が住むスラムではな、半魔は周り敵しかいないんだよ」

近衛「半魔であるだけで、それは殺される理由になりうる」

近衛「姉さんが守ってくれなければ、僕はとっくに死んでるんだよ」

近衛「自分の身は自分で守りたい、その一心で僕は強くなった」

近衛「剣の腕だけでなく、誰からも見下されないように近衛兵という地位にも就いた」

近衛「実力さえあれば広く受け入れてくれる寛大な先代魔王様と、僕を支えてくれた姉さんのお陰だ」

近衛「とにかく、僕は死ぬ気でここまでやってきたんだ」

近衛「……といっても、現状はこれだ」

勇者「……」

近衛「……さっき、お前はこの剣がどうして汚れているかと訊いたな?」

近衛「これがさっきまでどこに捨てられていたと思う?」

勇者「どこって……」

近衛「……肥溜だよ」

近衛「見ろよ。家畜の糞尿まみれだ」

近衛「……誰がやったかは知らない。だけど、恐らくは僕の部下だ」

近衛「この地位に就いた所で、忌み嫌われるのは変わらない」

近衛「正面から向かっていっても僕に勝てないから、こういう回りくどい嫌がらせに変わっただけだ」

近衛「……これで分かっただろ」

近衛「僕が魔王様や姉さんに頼ったら、二人にも迷惑がかかる」

近衛「これは僕の問題だから、僕が一人で抱える」

近衛「……ほら、説明したぞ。理解したら早く消えてくれ。目障りだ」

近衛「……お前だって、半魔なんて気持ち悪いだろ」

勇者「お前が――」

近衛「は?」

勇者「お前が半魔であるだけで嫌われているなら、俺なんてここでは親の敵みたいなもんだろ?」

近衛「……お前には、そばに魔王様が付いてるから誰も手出しできないよ」

近衛「みんな、お前のこと、心の中ではボコボコにしたがってるよ」

近衛「僕だって、本当に忌々しい……」

近衛「なんだってお前ばっかり、姉さんや魔王様と……」

近衛「魔王様だって魔王様だ。魔物と人間との愛だなんて、まるで僕への当て付けじゃないか……」

勇者「……分かった」

近衛「……は? なにが?」

勇者「俺がなんとかしてやる」

近衛「……お前、何言って――」

勇者「確か、兵士の詰め所はこっちだよな」

近衛「ちょっと、お前何する気だ!」

勇者「……」

近衛「おい、ちょっと待てよ!」

勇者「お前は黙ってみてろ」

近衛「は……?」

魔物A「――それでよぉ、その女の腰のくびれったらたまんねえわけよ」

魔物B「俺はくびれた腰よりは、全体的にぽっちゃりした感じの女の方が好きだぜ」

魔物C「貧乳は神が生み出した、女体の極みだお」

勇者「そのとーり!」

魔物A「うっわぁ! なんだお前、いきなり!」

魔物B「こ、こいつ……魔王様が最近ご執心の人間じゃねえか!」

勇者「そうそう。シクヨロ」

魔物C「ま、魔王様を独り占めしてるなんて、ゆ、ゆ、許せないお!」

勇者「いやぁ、悪いね。アイツったら、もう俺にぞっこんなわけよ」

魔物C「ぞ、ぞぞぞ、ぞっこん!?」

勇者「そうそう。この前も、魔王が急に胸が苦しいなんて言い出すから、さすってやったわけよ」

勇者「そしたら、あいつ、顔を赤らめて恥ずかしそうに俯くんだよ。それがすごくかわいくてさぁ!」

魔物C「ま、魔王様の、ち、ちち、乳を、ナデナデッ!?」

勇者「そう、ナデナデ」

魔物C「……許せないおッ!!」

勇者「許せなくても、あいつは俺のものだ!」

勇者は襲いかかる魔物Cに正拳突きを繰り出した!

魔物C「あぼーーーーん!!」

魔物A「てめぇ、やりやがったな!」

勇者「おう、やってやったぞ」

魔物B「……この野郎。魔王様のお気にだってんで、こっちが下手に出てりゃあ調子に乗りやがって」

勇者「ん、やる? 俺、言っておくけど、強いよ?」

魔物A「魔王様に手も足も出ず、ボコボコにされたくせに偉そうな口叩くな!!」

魔物Aは勇者めがけて突進した! しかし勇者らひらりとかわした!

勇者「ぷぎゃーーーーー! ねえ、なに今の? もしかして攻撃? あ、ちょっと待って。ツボ入った。ぷぷぷ……」

魔物A「こ、の、やろー……」

勇者「そういえばお前さっき、腰のくびれがどうとか言ってたな」

勇者「側近なんかはけっこうスレンダーな体型してるよな。ま、あれはあれでいいよな」

魔物A「……て、てめぇ。皆の憧れ、側近様にまで手を出したのかよ……」

勇者「ん? 別にいいだろ。アレも俺の女だ」

魔物A「テメェェェェェェ、百万回殺してやるぁぁぁぁ!」

勇者「少し黙れ」

魔物A「ぐあぁぁぁっ!」

魔物B「おーい、皆ぁぁぁ。であえであえ!」

魔物Bは仲間を呼んだ! 大勢の魔物が現れた! 勇者は取り囲まれた!

勇者「ちょ、敵来すぎだろ……」

勇者「……まあいい」

勇者「てめぇら、まとめてかかってこいやぁぁぁぁ!!」

勇者「……いってぇ」

近衛「……お前、何がしたかったんだ?」

勇者「なにって……、お前への嫌がらせの矛先を俺に向けさせようと――」

近衛「……馬鹿か、お前」

勇者「馬鹿って何だよ……。一応、俺なりに考えての行動だったんだぞ」

勇者「これで魔王と今までより距離を取って、あいつらに嫌がらせの余地さえ与えてしまえば、上手くいくだろ」

近衛「……下手な考え、休むに似たり」

勇者「容赦ねぇ……」

勇者「それでも……まあ今までよりは多少はマシになるんじゃねえか?」

近衛「……その代わり、お前への風当りが強くなるんだぞ」

勇者「俺はそもそもここの人間じゃないから、どうでもいいよ」

勇者「……といっても、すっげぇ痛い」

勇者「っくそ。さすがにあの数を相手に喧嘩するのは無謀だったかな……」

勇者「顔があざだらけでパンパンに腫れあがってやがる」

近衛「……とんだ間抜け面だ」

勇者「お前、誰のためだと思ってるんだ!」

近衛「誰も頼んでない」

勇者「……そういうこと言うかぁ」

近衛「……でも、まあ……すまなかったな」

勇者「ははは……、素直でよろしい」

近衛「ただ……」

勇者「ん? ――いって! なにいきなり殴ってんだよ!!」

近衛「魔王様と姉さんを自分のものだと言ったのは、……訂正しろ」

勇者「……ははは。はいはい、訂正するよ、ったく。このシスコン」

近衛「……ふん」

魔王「……ああ、勇者。どうしたの、その顔!」

勇者「ああ、ちょっとな――」

魔王「いいえ、語らずとも分かるわ。きっとあれね」

魔王「夕日をバックに河原で拳を交え合い『なかなかやるな』『お前こそ』とお互いを認め友情を深め合う二人」

魔王「……素敵」

勇者「この城のどこに河原なんてある」

側近「……御苦労さまです、勇者さん」

勇者「あ、ああ」

側近「……」

勇者「な、なんだよ……」

側近「……今の勇者さん、とてもかっこいいです」

勇者「え?」

側近「ふふふ」

勇者「な、なんだよ」

近衛「……調子に乗るな。ただのお世辞だ。本当はパンプキンパイのような顔をしている」

側近「こら、近衛!」

近衛「……ふん」

側近「もう、素直じゃないんだから」

勇者「ははは……」

魔王「――そう。じゃあ、私はこれからは少し、勇者と距離を置いた方が良いのね」

勇者「うん、まあ、そういうこと」

魔王「……とてもつらいわ」

魔王「身が引き裂かれそうなほど。あまりの逆境に私の心も砕けちゃいそう!」

魔王「でも、これも、近衛兵のためなのよね。仕方ないことなのよね」

魔王「私、耐えるわ。またいつか、勇者と二人寄り添える日を夢見て!」

魔王「ああ、それにしても勇者! 親友のために身を呈して火の粉をかぶるなんて!」

魔王「それでこそ、私の勇者よ!」

勇者「……どうも」

側近「あらあら、親友だなんて」

近衛「……付き合いきれん」

ここまでで中盤終了
ぶっちゃけ疲れた……
途中で時間が開いたのはさるくらってたから
というわけで休憩させてください

ho

+ バチバチ
☆__,..-‐‐:、、,へ.........._
      く '´::::::::::::::::ヽ

       /0:::::::::::::::::::::::',
    =  {o:::::::::(;゚д゚):::} !!           
      ':,:::::::::::つ:::::::つ

   =   ヽ、__;;;;::/
        し"~(__)

      + ;
      * ☆_+
      : , xヾ..-‐‐:、、,へ.........._
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             ':,:::::::::::つ:::::::つ

          =   ヽ、__;;;;::/
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        * ☆_+ バチバチ
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             ⊂{o:::::( ゚д゚ ):::::::}     
             ':,::::::::::::::::::⊂:::

               ヽ、__;;;;::/
                (⌒)| ダッ
                 三 `J

どうもお待たせしました。本物です。嘘じゃないよ!
もっと早く帰れると思ったのに、近所でお祭りやってて道が混んでたんだよ

書きだめは皆無だからリアルタイムで書いていくよ
投下速度はかなり遅いと思うけど、どうかご勘弁を……

<数日後>
魔王「あ、勇者!」

勇者「ん?」

魔王「あ、いけない! そうよ、私は今、勇者に近づくことができないんだわ!」

魔王「……目の前にいるのに、話しかけることすらできないなんて。胸が……痛い」

魔王「だけど駄目よ、魔王。ここは耐えるのよ! じゃないと勇者の活躍が徒労に終わってしまうわ!」

魔王「……ああ、私は何て哀れな子羊」

魔王「神よ。この惨めな娘に、慈悲深い救いの手を差し伸べんことを、切に願います!」

勇者「……いや、別に話しかけるくらいいいだろ」

側近「日に10回はアレを繰り返してますね」

勇者「……まあ、見ていて飽きないからいいけど」

側近「なんか壊れたおもちゃみたいにコミカルですね」

側近「そういえば、勇者さん。あれからどうですか?」

勇者「なにが?」

側近「いや、嫌がらせの方ですよ」

勇者「……あまり言いたくないな」

側近「……そんなにひどいんですか?」

勇者「……聞きたいか?」

側近「うーん。……怖いもの見たさに、ちょっとだけ聞きたいような」

勇者「……この前、廊下を一人で歩いてたんだ。そして曲がり角に差し掛かったその時、突然顔面に使用済みの――」

側近「あー、もういいです。なんか生理的に無理そうです」

勇者「……だろうな」

勇者「……それで、近衛兵の方は?」

側近「あ、それなんですけどね」

側近「嫌がらせが全くなくなったわけではないんですが、かなり沈静化はしたみたいなんですよ」

勇者「ははは……、それはなによりだ。体を張った甲斐があったというもんだ」

側近「あの子、態度には全く出さないですけど、それでも心の中では勇者さんに感謝してるんですよ」

勇者「出来れば、分かりやすく態度に出してほしいんだけどな」

勇者「だってアイツ、俺が話しかけても、悪態つくか、『……ふん』しか言わねえんだもんな」

側近「まあ、長い目で見守ってあげてください」

側近「粘り強く攻略し続ければ、いずれはデレも来ますから」

勇者「……あまり想像したくないな。近衛兵のデレ」

側近「あら、結構可愛いですよ。近衛兵のデレは」

勇者「……えー」

側近「……私が仕事や恋愛や恋愛や恋愛のことで悩んでいるとき」

側近「頬を赤らめ、そっぽを向きながら、ぶっきら棒ながらも優しい言葉をかけてくれるんですよ」

側近「わが弟ながら、キュンって来ちゃいます」

勇者「残念ながら俺には来ない」

側近「実際に見てみれば来ると思いますよ」

勇者「俺が近衛兵に、キュンっと来たら、キモいだろ……」

側近「二人の周囲に薔薇が舞うのが目に浮かびますね」

勇者「安心しろ。舞わないから」

側近「そうですか。ちょっと見てみたかったような気が――」

勇者「オイッ! 弟を変な世界の住人にしようとするな!」

側近「まあ、冗談はさておき……。勇者さんには近衛兵と仲良くしてもらいたいんですよ」

側近「この城内に友人と呼べそうなのは、近衛兵にとって勇者さんしかいませんから」

勇者「……壁を作ってるのはむこうだけどな」

側近「大丈夫ですよ。あの手のキャラは一度壁を越えてしまえばなし崩しに攻略できますから」

勇者「あの手のキャラって……何の話だよ」

側近「フラグはすでに立ってます」

勇者「だから何の話だよ! フラグってなんだよ!」

側近「人間関係の変化をを簡略的に説明できる、便利な言葉です」

勇者「……まあいい」

勇者「とりあえず、なんとかやってみるさ」

側近「お願いしますね」

勇者「……なんだかんだで、お前は結構ブラコンだよな」

側近「褒め言葉として受け取っておきますね」

近衛「……姉さん」

勇者「うっわ! ビックリした! お前、いきなり出てくんなよ」

側近「あら近衛兵。何か用?」

近衛「……また、魔王様の叔父上様がいらっしゃってる」

側近「あら、なら早くいかないと。待たせちゃまずいわ」

近衛「うん。急いだ方が良いよ」

側近「そうするわ。呼びに来てくれてありがとう」

側近「じゃあ、後は二人でゆっくり歓談でもしててちょうだい」

近衛「……え?」

側近「じゃあねぇ」

近衛「あ、……行ってしまった」

勇者「……じゃあ、歓談でもしてようか」

近衛「……誰がするか、阿呆」

勇者「つれないな」

近衛「……ふん」

勇者「……っぷ」

近衛「……どうして笑うんだよ?」

勇者「くくく、わ、わりぃ。いやな、さっき側近と丁度話してたんだよ」

勇者「お前は俺と話す時、すぐに『……ふん』て言うってさ」

近衛「……」

勇者「むくれんなよ。笑って悪かったって」

近衛「……本当に腹の立つ奴だ」

勇者「そういえば、この前も魔王の叔父さんが来たよな」

勇者「確かその時も側近が、大事な話をするって席を外したと思うけど」

近衛「……叔父上様は、国軍の総司令官だ」

近衛「そして姉さんは魔王様の代わりに、国政を担当している」

近衛「だから、今日も政のことでいらっしゃったのだろ」

勇者「……まあ、魔王に政治の話は無理だもんな」

勇者「というか、そもそも叔父さんは魔王のこと、嫌ってるんだっけ?」

近衛「……ああ」

近衛「だから僕は……叔父上様のことが、少し苦手だ」

勇者「まあ、しょうがないだろ。見るからに真面目そうな人だし」

勇者「お気楽に過ごしてる魔王のことが、許せないんじゃねえのか?」

近衛「……だとしても、やっぱり僕は好きになれそうにない」

勇者「ああそっか。お前、魔王のこと好きだもんな」

近衛「なっ!」

勇者「あ、やっぱり当たり?」

近衛「……」

勇者「なんかお前の言動を見てて、何となくそうなのかなぁと思ってたけど……、そうか」

近衛「……ふん」

勇者「……っぷ」

近衛「ッ!?」

近衛「……」

勇者「ちょっと、無言で去るなよ!」

近衛「……お前と違って僕は忙しいんだ」

勇者「……そりゃ、俺は暇してるけどさ」

近衛「……くくく。なんだ、お前本当にヒモ状態じゃないか」

勇者「ひ、ヒモって言うな!」

近衛「ははは! ヒモにヒモと言って何が悪い」

勇者「……ひっでー」

近衛「ふん、じゃあな」

近衛「……あ、その前に一応ひとつ、教えておいてやる」

近衛「……お前は叔父上様のこと、いいように捉えているみたいだが――」

勇者「いや、別にいいようには捉えてないぞ。ただ、真面目そうだなぁって言っただけだ」

近衛「……あの人は色々と噂の絶えない人だから、気をつけた方がいい」

勇者「は? どういうこと?」

近衛「……じゃあな」

勇者「……行っちゃったよ」

勇者「……にしても俺って、本当に何のためにここにいるんだろ」

勇者「魔王の相手しろって言われてここに留まることになったのに」

勇者「今では、それすら満足にこなせてないような……」

勇者「……」

勇者「……俺もなにか、城内の仕事、手伝おうかな」

勇者「といっても、掃除も料理も出来ないしな……」

勇者「剣くらいしか能が無いけど、兵に志願なんてしようものなら四面楚歌……」

勇者「いやちょっと待て。俺は勇者だぞ……。魔王の軍門に下ってどうする」

勇者「いや、すでに下ってるような気がしないでも……」

勇者「…………」

勇者「……ん? うっわぁぁぁ! ちょ、あっぶねぇ!」

魔物「……っちぃ」

勇者「て、テメェら! なに投げつけてきてんだゴルァ!!」

魔物「逃げるぞ」

勇者「おいコラ、逃げんな!」

勇者「……ったく。あいつら、一体何を投げてき――って」

勇者「……うわぁ。これって……」

勇者「……」

勇者「俺、もうくじけちゃいそっ♪」

勇者「……」

勇者「……なんか俺、色々と末期な気がする」

魔王「……ああ、なんて可哀そうな勇者」

魔王「だけど非力な私は、貴方の何の力にもなってあげられないの」

魔王「ああ、勇者。愛しの勇者……」

勇者「……いや、なに柱の陰からハンカチ片手にこっそり覗き込んでボソボソ呟いてるの?」

魔王「こんなハンカチーフ一枚では、瀑布の如く溢れだす私の涙を受けきれないわ」

魔王「やがてこの城も、私から漏れ出る悲哀の高波に飲まれ、水没してしまうのだわ」

魔王「そして皆溺れてしまうのよ。夢も、希望も、有象無象が今の私の前ではわずかな慰みにもならない」

魔王「悲しみを絞り尽くした私は、きっと無残に干からびてしまうのね……」

魔王「こんな私を、どうか許して頂戴」

魔王「ああ、勇者。愛しの勇者……」

勇者「……こいつも相当末期だな」

勇者「……なあ魔王」

魔王「駄目よ、勇者! 私たちは今、お互いに言の葉を交わすことが許されない関係にあるのよ」

魔王「そう、例えるなら、人間界の神話に登場する、黄泉比良坂でのイザナギのイザナミのよう……」

魔王「私が『今日より私は、日ごとに1000の悲しみに包まれるわ』と言うと、貴方はこう言うの」

魔王「『ならば俺は、毎朝枕元で、お前に1500の愛を囁いてやる』ってね。キャーーー!」

勇者「勝手に改ざんするな! というか、何言ってるのかさっぱりわからん! 支離滅裂すぎる!」

勇者「……そんなことはどうでもいいんだよ」

勇者「どうせ暇なんだろ。ちょっと付き合えよ」

魔王「で、でも……」

勇者「いや、だからなにも全く接触しちゃいけないってわけじゃないって」

魔王「……そう」

魔王「……だったら!」

勇者「ッ!?」

魔王「むぎゅー」

勇者「ちょっと、抱きつくなッ!!」

魔王「充電中」

勇者「お前は電気で動いているのか!」

魔王「しばらく勇者とスキンシップ取ってなかったから、ガス欠気味なのぉ」

勇者「動力源を統一しろ! ハイブリッドかよお前!」

魔王「……はうー」

勇者「……間の抜けた声出すなよ」

魔王「あったかぁい」

勇者「……あっそ」

魔王「……充電あんど給油完了」

勇者「ならとっとと離れろ」

魔王「……うん」

勇者「……ゴホン」

勇者「……まあ、なんだ。最近、あまり一緒にいなかったし――」

魔王「勇者は私と一緒に遊びたいのね!」

勇者「……そう言われると、なんだか気後れするんだが」

勇者「……ぶっちゃけさ、俺ってお前と遊ぶ以外に、何をしろとも言われてないんだよな」

勇者「だからさ、正直何もすることないし、ぶらぶらして過ごしてるだけだと、なんだか自分の立場が――」

魔王「勇者はヒモだものね!」

勇者「お前にまで言われたッ!?」

勇者「……やばい。なんか知らんけど、すっげーショックだ」

勇者「……というか、お前、ちゃんと知ってたんだな。ヒモの意味」

魔王「側近が教えてくれたの」

勇者「アイツ、余計なことを……」

魔王「ねえねえ、それで何をして遊ぼっか?」

勇者「何って……何だろ?」

魔王「今日は勇者の好きな遊びでいいわよ」

勇者「……じゃあ、宝探し、とか?」

魔王「宝探し?」

勇者「ここも一応魔王城なわけだろ? ならそれなりのお宝も眠ってるんじゃないのか?」

魔王「宝物庫になら金、銀、ダイヤ、ルビー、色々入ってるけど?」

勇者「……そういう生々しいのはロマンが無いなぁ」

勇者「もっとこう、幻の剣とか、伝説の宝玉とか、そういう類の物は無いのか?」

魔王「さあ……。側近なら知ってるかもしれないけど」

魔王「……でも探せばきっとどこかにあるわ!」

勇者「まあ、探す過程を楽しんでこその宝探しだしな」

魔王「なら、早速探しましょ!」

魔王「魔王権限でどこでも好きな場所を探すことを許可するわ」

魔王「城内の宝をひとつ残らず、根こそぎ見つけ出しましょ!」

勇者「……いや、なにもそこまで徹底的にやろうとは言ってないけど」

勇者「んで、どこか、そういうものが眠ってそうな部屋って無いのか?」

魔王「……無いこともないと思うわ」

勇者「へぇ。で、どこなの?」

魔王「お父様の隠し部屋よ」

勇者「……いきなりすごい所出してきたな」

勇者「さすがにそれは勝手に入ったらまずいだろ」

魔王「平気よ。バレなきゃいいのよ」

勇者「おいおい、大丈夫なのかよ……」

魔王「大丈夫だって。心配しないで」

魔王「……ここがお父様の部屋よ」

勇者「……広いな」

魔王「それはそうよ。元魔王なんだから」

勇者「ふぅん」

魔王「隠し部屋への入口はここよ」

勇者「……いや、ここよって言われたって、どこよ?」

魔王「勇者、知らないの? どこに入口があるか分からないから、隠し部屋って言うのよ」

勇者「……お前も知らないのか」

魔王「……確かに私にも分からないけど、ここに入口があるのは確かなの」

勇者「何でそう言い切れるんだよ」

魔王「だって私、見たもの! お父様がこの部屋に入ってそのままどこかに姿を消したのを」

勇者「……だから隠し部屋があると?」

魔王「だってそう考えるのが普通でしょ?」

勇者「まあ、そうかもしれんが」

魔王「きっとどこかに、扉を開けるスイッチがあるのよ!」

魔王「どこかなどこかな~!」

勇者「おいおい! 荒らすなって」

魔王「あっ!」

勇者「え、見つけたのか!?」

魔王「……ベッドの下から、女の人が裸になってる絵がいっぱいの本が出てきた」

勇者「……それは見なかったことにして、そっと奥に押し込んでおいてやれ」

魔王「……うぅ、無い無い無ーい!」

勇者「……やっぱり隠し部屋なんて無いんじゃないのか?」

魔王「そんなこと無いと思うんだけどなぁ……」

勇者「と言っても、どこにもないじゃん」

魔王「……まったくお父様ったら、どうしてこう分かりにくくするの?」

勇者「……そりゃ、隠し部屋だからじゃねえのかぁ。あるのかどうかは知らんけどさ」

魔王「もうだんだん腹が立ってきた。絶対に見つけ出してやるんだからぁ!」

側近「……魔王様、何を騒いでいるんです?」

魔王「あら、側近」

勇者「魔王の叔父さんとの話を終ったのか?」

側近「ええ、まあ」

魔王「あら、また叔父様いらっしゃってたの?」

側近「ご挨拶なさいますか?」

魔王「……いいわ。どうせ見向きもされないでしょうし」

側近「……そうですか」

魔王「それよりも側近。貴方なら知ってるでしょ、お父様の隠し部屋に入る方法」

側近「え?」

魔王「私たち、今宝探しをしてるのよ。お父様の隠し部屋なら、きっとすごいお宝が眠ってるわ」

側近「宝探しとはまた、子供っぽい遊びをしているんですね」

魔王「子供っぽいって、勇者」

勇者「……へーへー、どうせ俺は子供っぽいですよ」

側近「……まあ、少年のような好奇心や冒険心も勇者には必要なんでしょうけどね」

魔王「それで側近! どうなのよ。知ってるの、知らないの?」

勇者「だから、きっとそんな部屋無いって――」

側近「知ってますよ」

勇者「……え?」

側近「……魔王様が先代様の隠し部屋のことを知っていたとは驚きました」

勇者「あるのかよ!?」

側近「ええ、ありますよ。ちゃんとこの部屋の中に」

勇者「……マジかよ」

魔王「やっぱりね、私の考えは正しかったのよ! それで、どうやって行くの?」

側近「隠し部屋の扉を開くための手続きは、けっこう複雑なんですよ」

側近「……まずは、この彫像を左に90度回す」

側近「次にこの花瓶をデスクにあるこのくぼみに合わせて置く」

側近「そしてこの本を本棚から抜き取り、ソファーを床についてるこの印の所まで右にずらす」

側近「最後に壁のシミに手を合わせて押してやると――」

突然壁が静かに横にスライドし、その先に下り階段が現れた!

側近「こうして隠し部屋までの階段が現れるという仕組みです」

魔王「分かるか、こんなもん!!」

魔王「……まあいいわ。結果的に隠し部屋は見つかったわけだし」

勇者「というか、なんで側近は隠し部屋のこと知ってるんだよ」

側近「……先代様の部屋とこの先の隠し部屋の掃除はメイドではなく、私がやるようにと先代様から言われましたので」

側近「そもそも隠し部屋の存在は、この城では私しか知らないはずですし」

勇者「ほう」

魔王「なら側近はベッドの下の、あの変な本のことも知っているのかしら?」

側近「え、魔王様見ちゃったんですか、あれ!?」

魔王「ええ」

側近「あぁ、これはちょっとやっちゃいましたねぇ……」

勇者「やっちゃったって?」

側近「……その本、本当は別に所にあったんです」

勇者「?」

側近「元々は、金庫の中に厳重にしまってあったのですが」

側近「偶然見つけてしまったもので、私がベッドの下へと移しておいてあげたのですよ」

勇者「金庫にしまってある物をどうやって偶然見つけるんだよ!」

勇者「……つーかエロ本をわざと見つかりやすい所に移すとか、お前はうちのお袋かよ……」

側近「だって、なんだかすごく腹が立ったんですもの」

側近「あんなにお綺麗な奥様を差し置いて、こんないかがわしい物にうつつを抜かしている先代様に」

勇者「それとこれとは話が別だろ……」

魔王「……ねえ、何の話それ?」

側近「ま、魔王様には関係の無い話です!」

お腹すいたから、休憩も兼ねてご飯食べていいかな?
徹夜してでも朝までには絶対に終わらせるから
なかなか話が進まなくてすまんね

ごめん、今思ったけど、この投下ペースだと多分徹夜しても朝までに終わらないわ
でも、投下自体は朝まで続けようと思う
皆が寝て起きた頃にクライマックス近くまで行けてたらいいなぁ……

魔王「ふぅん、まあいいのだけど」

魔王「そんなことより、側近! 隠し部屋にはすごいお宝はあるのかしら?」

側近「すごい……お宝ですか?」

側近「この先は……まあ、かつて先代様が書斎に使っていた部屋ですので」

魔王「……えー、ただの書斎ぃ」

魔王「……あっ、もしかして禁断の呪われた図書が眠っていたり――」

側近「しませんね」

魔王「……つまんないのぉ」

魔王「なんでお父様はただの書斎を、こんな仰々しい仕掛けまで作って隠しているのよ」

側近「……それはただの書斎じゃないからですよ」

魔王「……どういうこと?」

側近「……どういうことなんでしょうね」

魔王「もったいぶらないで教えてよ!」

側近「……ふふふ」

魔王「もう、ケチ!」

側近「……ある意味、この中にある物の中に、魔王様にとってお宝になるものがあるかもしれませんね」

魔王「?」

側近「さぁさ、早く中を見てきたらどうですか?」

魔王「い、言われなくてもそうするわ!」

魔王「……あら、こんな所にスイッチがあるわね」

側近「それはこの隠し扉を閉じるスイッチですよ」

魔王「あらそうなの? じゃあ、この下のスイッチは?」

側近「それは閉じた扉をロックするためのものです」

側近「中からロックしてしまえば、外からはどうやっても侵入できません」

側近「この扉、特殊な材質を使ってますから、大砲でも壊れませんし」

魔王「……それだけ厳重だというのなら、よっぽど見られたくないものがこの中にあるのかしらね」

側近「さぁ?」

魔王「ふん、側近の口からそれを聞き出そうだなんて、もう思ってないわよ」

側近「それじゃあ、私はここまでで。あとは二人でごゆっくりと中を見てきてください」

魔王「ありがとう。そうさせてもらうわ」

勇者「なんか、階段の先がうす暗くて結構雰囲気あるな。ちょっとドキドキするかも」

側近「ダンジョンじゃないんですから、魔物が突然襲ってきたり、なんてことは無いので安心してくださいね」

勇者「わ、分かってるよ」

魔王「さぁ、早く行きましょ。勇者!」

勇者「分かった、分かったから手を引っ張るなよ! 結構階段が急なんだから危ないだろ!」

魔王「勇者がもし階段を踏み外して転げ落ちそうになったら、私がこの胸で抱き止めてあげるから心配しないで!」

勇者「……頼りねぇ」

魔王「貧相な胸って言うなぁ!」

勇者「誰も言ってねえだろ、そんなこと!」



側近「…………」

勇者「……ぽつぽつと電球が灯ってはいるが、暗くて足元がよく見えんな」

魔王「そうね」

魔王「……あ、ねえ。あそこに見えるのって、扉じゃない?」

勇者「……本当だ。ということは、あの向こうに書斎があるというわけか」

魔王「……結構上質な扉ね」

勇者「この扉見ただけでも、ただの書斎って感じじゃないな」

魔王「けっこう年代物みたいだけど、でも全然痛んでない」

勇者「とにかく中に入ってみようぜ」

魔王「……意外と中はこじんまりとしてるわね」

勇者「本棚に文机、ベッド、クローゼットまであるな」

勇者「お前の親父さん、ここで寝泊まりしてたのか?」

魔王「お父様……。なにもこんな所で寝なくても、すぐ上に自分の部屋があるんだからそこで寝ればいいのに」

魔王「まったく、物臭なんだから」

勇者「本棚の中の本は、……うっわ、すっげー昔の本じゃねえかこれ!」

勇者「……すごいな。これなんか200年以上も昔だぞ」

魔王「私もまだ生まれてないわね」

勇者「ある意味、これはこれでかなりのお宝かもな……」

魔王「……でも、私にとってのお宝って、何のことなのかしら」

勇者「……さあな。適当に探してりゃ、いずれそれらしい物が見つかるだろ」

魔王「……そうよね」

勇者「……ん?」

魔王「何か見つけた? 勇者」

勇者「なんかこの本だけ他のと少し雰囲気が違うような――」

魔王「あ、それって」

勇者「……アルバムだな」

魔王「あ、この写真に写っているのはお父様だわ」

勇者「……こえぇ」

魔王「え、怖い?」

勇者「体ごついし、髪の毛逆立ってるし、目が赤光りしてるぞ……」

勇者「魔王城に乗りこんでこんなのに出くわしたら、100人が100人とも逃げ出すぞ……」

魔王「まあ、可愛い顔ではないけどね。でも、このお髭はそんなに悪くないでしょ?」

勇者「……なんというか、よくもまあここまで蓄えたもんだ。これほどまで長くなるのに苦労しただろうな」

魔王「お父様は毎朝、お髭のセットは欠かさずやっていたわ」

魔王「そのせいか、とっても滑らかでシルクのように艶やかなお髭なのよ。昔はよく三つ編みにして遊んだわ」

勇者「この髭を三つ編みにしたら……。た、多少は愛嬌出る、かな?」

魔王「あ、これにはお父様と叔父様の二人が写ってるわ」

勇者「……え? 叔父様って……。これ、お前の叔父さんなのか?」

魔王「ええ、そうよ」

勇者「……なんか今と全然違うな」

魔王「昔の叔父様は、今よりもだいぶん若々しかったみたいだから」

勇者「若々しい、というか……」

勇者「今は堅物のオヤジって感じなのに対して、この写真に写ってるお前の叔父さん、なんか軽いな」

魔王「叔父様ったら、昔はドラゴンに跨ってブイブイ言わせていたみたいよ」

魔王「当時巷を賑わせたドラゴンライダーのチーム、≪義我須羅津衆≫を率いていたと聞いたわ」

勇者「……元族のヘッドですか」

勇者「……これ、いつ撮られた写真なんだろ」

魔王「少なくとも私が生まれるよりは前じゃないかしら」

魔王「私が生まれたころには叔父様もチームを解散してたらしいし」

勇者「ふぅん……」

勇者「そういえば、近衛兵も言ってたな」

勇者「お前の叔父さんには、色々と黒い噂がある、みたいなこと」

魔王「……まあ、そうみたいね」

勇者「こういうことだったのか」

魔王「……まあ、今の姿を見てる限りじゃ想像できないかもしれないけれど」

魔王「当時の叔父様、この他にも女の人のトラブルが絶えなかったみたいだし」

勇者「……女遊びしまくってたってか。今のあのおっさんからは本当に想像つかねえな」

勇者「……てかさぁ」

魔王「ん?」

勇者「……お前の叔父さんだって、若い頃は好き勝手やってたんだろ?」

勇者「なのに、どうして自分のことは棚に上げてお前にあんなに冷たく接するんだ?」

魔王「どうして、と私に訊かれても困るけど……」

勇者「……お前は、ムカついたりしないのか?」

勇者「関係無いはずなのに、俺がなんかムカついてきた」

魔王「私は別に叔父様のこと、嫌いじゃないわ」

勇者「……ふぅん。どうして?」

魔王「だって、側近や近衛兵を後見人なのよ。叔父様って」

誤字か?
近衛兵を後見人→近衛兵の後見人 では?

>>503
誤字だ
やばいな、頭がいかれてきたか……

勇者「後見人?」

魔王「ほら、側近も近衛兵も、スラム育ちじゃない?」

魔王「正直な話、何の後ろ盾もなく、ここまで昇進するなんて出来なかったのよ」

勇者「……つまり、叔父さんが後押ししてくれたってことか?」

魔王「そう。だから叔父さんがいなかったら、私は側近や近衛兵に会うことすらできなかったかもしれないの」

魔王「もちろん、一生懸命に努力した側近と近衛兵の実力のお陰というのもあるけど」

魔王「でもやっぱり、その実力をちゃんと認めてくれて、お父様に推薦してくれた叔父様には感謝してるわ」

魔王「だってそうじゃなかったら、二人のことなんて、お父様の目に留まることもなかったでしょうし」

魔王「だから私、叔父様のこと嫌いじゃないわ」

勇者「……ふぅん」

魔王「まだ、なんだか不服そうね。勇者」

勇者「……まだ、少し釈然としない所があるけど、俺が口を出せる話じゃないしな」

勇者「……どうせヒモだし」

魔王「……っぷ。なぁに、それ?」

勇者「少しやさぐれてみた」

魔王「あはははっ! 自虐だなんて、勇者らしくないわ」

勇者「……俺だって、一応自己嫌悪はしてるんだぞ」

魔王「いいのよ、別に。勇者はとりあえず自分のことは棚に上げて、大きい口だけ叩いてれば」

勇者「……お前、もしかして俺のこと嫌いなんじゃないか?」

魔王「……」

勇者「……なんとか言えよ」

魔王「……っぷ。あははははっ! 冗談よ冗談!」

魔王「私が勇者のこと、嫌いになるわけ無いじゃない。好き好き大好き。すごく愛してる」

勇者「……お前、なんか以前に比べて性格が若干強かになってないか?」

魔王「……それにしても、このアルバム、色んな写真が収まっているわね」

魔王「どれも古い写真ばかりだけど」

勇者「……多分、側近の言う、お前にとってのお宝ってこれのことじゃないのか?」

魔王「そうなのかしら」

魔王「まあ、確かに面白い発見ではあったけれど、少し拍子抜けかも」

勇者「俺にとっては、驚きの連続だったけどな」

魔王「……まあ、勇者に楽しんでもらえたなら、いいかな」

勇者「……ん?」

勇者「おい、一枚アルバムから写真が落ちたぞ?」

魔王「あら、いけない」

勇者「……これ」

魔王「……写っているのは、人間の、女性?」

勇者「……みたいだな」

魔王「この人、誰なのかしら?」

勇者「……綺麗な人だな」

魔王「むぅ……、他の女の人に目移りしちゃ駄目!」

勇者「いでっ! 殴んなよ!」

魔王「浮気する勇者には、鉄拳制裁よ!」

勇者「お前の浮気の定義は、いささか広すぎないか……?」

魔王「そんなことないわ」

勇者「……さいですか」

魔王「そんなことはどうでもいいのよ。それよりも、この女の人よ」

勇者「……自分から話逸らしておいて」

魔王「どうして、アルバムの中から人間の写真が……」

勇者「……単純に、お前の親父か叔父の知り合いなんじゃないのか?」

魔王「どうして、魔物であるお父様や叔父様が、人間の女性と知り合いなのよ?」

勇者「……それを言うお前はどうなんだ。俺と知り合いだろ」

魔王「あ、そっか」

魔王「勇者はもうすっかりここに馴染んじゃってるから、すっかり忘れてたわ」

勇者「おいおい……。俺はまだ人間やめた覚えはないぞ」

俺……このSS書き終わったらラブプラス買うんだ……

マジで保守ばっかりさせてごめんなさい
ちゃんと完結まで書きだめてから投下しようと思ったけど
ずっと待たせるのも悪いから、ちょこちょこ投下していきます
こんなに長い間付き合わせるつもりはなかったんだ……ごめんよ

魔王「……それにしても、どこの誰なのかしら。この人」

勇者「さあな。そこまでは分かんねえよ」

魔王「……う~む」

勇者「まあ、アルバムに入れて取っておいてあるんだから、ただの知り合いってことはないと思うけど」

勇者「いくら考えたって、分からないものは分からないぞ」

魔王「……そうね」

勇者「……他にめぼしい物も無いし、そろそろ出るか?」

魔王「……そうしましょうか」

魔王「……側近はもういないみたいね」

勇者「そりゃあ俺ら、かれこれあそこに2,3時間はいただろうし」

魔王「そんなにいたかしら?」

勇者「アルバム見るのにそれだけ夢中だったことだろ」

魔王「……そうね。確かに私も結構楽しめたから」

魔王「それで、どうする? まだお宝探し、続ける?」

勇者「いや、もう十分面白いもん見れたし、今日はもういいよ」

魔王「そう」

勇者「そろそろ飯の時間だろ。食べに行こうぜ」

魔王「労働の後はご飯はきっと格別ね」

勇者「……これを労働と言っていいのか?」

<夜>
勇者「……あー、今日は疲れた」

勇者「……別に大したことしてないのにな」

勇者「このままじゃ、一気に堕落してしまいそうだ……」

勇者「今度、側近にでも何か仕事貰おうかな……」

勇者「……」

勇者「はぁ、なんか考えてみると、俺ってホント何やってんだろって感じだな」

勇者「……ねよ」

コンコン

勇者「ん?」

近衛「……いるか?」

勇者「……あれ、近衛兵?」

近衛「……ああ」

勇者「ちょっと待ってろ。今、鍵を開けるから」

近衛「……」

勇者「どうした? こんな時間に」

近衛「……城内の様子がおかしい」

勇者「城内の様子が? どういうこと?」

近衛「……一部の兵士が、妙な動きをしている」

勇者「……具体的には?」

近衛「何の目的があってか知らないが、こそこそとどこかに集まっているみたいだ」

勇者「なんだそりゃ」

近衛「よく分からないが……どうにも不穏な気配がする」

近衛「……僕には、何かが起きようとしているように見える」

勇者「考え過ぎ……ってことはないのか?」

近衛「……」

勇者「……んで、俺にどうしろと」

近衛「僕はこれからそれを調べに行ってくる」

近衛「だからその間、お前は魔王様と一緒にいて差し上げろ」

勇者「え、なんで魔王と?」

近衛「……嫌な予感がするんだ」

勇者「……ふぅん」

近衛「いいか、頼んだぞ」

勇者「……頼んだぞって言われてもなぁ」

勇者「たとえ何かが起こったとしても、俺より魔王の方が強いしなぁ」

勇者「……まあ、言われた通りにするけどな」

勇者「……っと、ここだな。魔王の部屋」

勇者「おーい、魔王。起きてるかぁ!」

魔王「え、勇者?」

勇者「おう。ちょっと開けてくれ」

魔王「ええ。ちょっと待ってて!」

魔王「どうぞ、中に入って」

勇者「おう」

魔王「どうしたの、こんな夜更けに?」

魔王「ま、まさか! ついに私と夜通し愛し愛されの甘いひと時を過ごす気にッ!?」

勇者「いや、ないない」

魔王「だったら、どうしたの?」

勇者「いや、ちょっとな」

魔王「?」

魔王「……そう、近衛兵がそんなことを」

勇者「……考え過ぎだと思うんだけどな」

魔王「いえ、勇者。違うわ」

勇者「は?」

魔王「きっと近衛兵は、私たちに気を使ったのよ」

魔王「いつまで経っても、なかなか進展しない私たちにやきもきして」

魔王「自らが愛のキューピットにならんと立ち上がったのね」

魔王「ああ、とても素敵だわ! なんて粋な計らいなの、近衛兵!」

勇者「……絶対違う」

勇者「まあ、とにかくだ。しばらくここにいさせてもらうぞ」

勇者「近衛兵が心配してたからな」

魔王「……そんなこと言って、本当は勇者自身も私のことを心配してくれてるんでしょ?」

勇者「……なんで俺が?」

勇者「大体、何かが本当に起きるかどうか、まだ分からないんだからな」

勇者「近衛兵の杞憂だって俺は思ってるから」

勇者「それでも、あいつは深刻に考えてるみたいだからさ、約束を反故にはできないじゃねえか」

勇者「後で絶対あいつ怒るだろうし」

魔王「……まあ、なんでもいいわ。とりあえず、今夜は勇者を一晩中独占できるし」

勇者「いや、一晩中いるわけじゃないし」

勇者「調べて何も無かったら、近衛兵がここに知らせてくれるだろ」

勇者「そうなったら、俺は帰るぞ」

魔王「別にそのまま残ればいいじゃない」

魔王「そして、時が過ぎるのを忘れて、二人の愛を確かめ合いましょう!」

勇者「断る!」

コンコン

魔王「あら、また誰かが来たわ。今度は誰かしら」

勇者「近衛兵か? 思ってたより早かったな」

勇者「ちょっと待ってろ。今開けるから――」

魔王「ッ!?」

魔王「勇者、扉から離れてッ!」

勇者「え?」

魔王は勇者を突き飛ばした! 勇者は壁に強く叩きつけられた! 
その直後、扉が突然爆発するようにはじけ飛んだ!

勇者「ぐげっ!」

??A「……チッ」

魔王「なんなの、アナタ達!?」

??A「……申し訳ありませんが、魔王様。私どもと一緒に来てもらえますか?」

魔王「嫌よ! 誰よあなた達! いきなりこんなことをするあなた達の言うことなんて聞きたくないわ!」

??A「……でしたら、実力行使させていただくほかありません」

魔王「……無理よ」

??A「ほう……。この数を相手に、いくら魔王様とはいえ、どうしてそんな大口が叩けるんですか?」

魔王「勇者が……勇者が私を守ってくれるわ!!」

??A「……その勇者というのは、そこで気を失っている奴のことですか?」

勇者「…………」

魔王「きゃああああっ! 勇者ぁ! 大丈夫っ!?」

魔王「こんな、ひどい……。あなた達、絶対に許さないわ!」

??A「……いやいや。それ、やったのあなたですから」

??A「さあ、大人しく我々に従ってもらえますか?」

魔王「う、うぅ……」

??A「さあ、さあ!」

魔王「たすけて……」

魔王「助けて勇者ぁぁぁぁぁっ!!」

勇者「……うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

??A「っな!?」

勇者「うおりゃあああああああああああ!!」

勇者は立ち上がり、目の前に敵に飛びかかった!

??A「ぐはぁ!」

勇者「はぁ、はぁ……」

魔王「勇者ぁ!」

勇者「……うぅ、頭がくらくらする」

魔王「やっぱり勇者は私のヒーローね! 私、勇者のことを、信じてたのよ!」

勇者「……そうかよ」

??B「よ、よくもリーダーを!」

魔王「勇者、頑張って!」

勇者「……お前は戦わないのな」

魔王「あら、お姫さまを守るのはナイトの仕事でしょ? お姫さまは戦ったりしないわ」

勇者「……はいはい」

勇者「……一体何が起きてるのか、全く分かんねえけど、とりあえずここから逃げ出すのが先決だな」

??B「我々から逃げおおせると思っているのか?」

勇者「……姫に信頼されてるんじゃ、騎士として応えんわけにゃいかんだろ」

魔王「きゃーーーーー! 勇者カッコいい!!」

勇者「……自分で言ってて、すげえハズいな、今の」

勇者「とはいえ、剣が無いのは痛いな」

??「……ふん、剣を持たぬ勇者など、牙を持たぬ犬っころに等しいわ」

勇者「……言ってろ!」

勇者は謎の集団の方へと駆けだし、戦いを挑んだ!

魔王「きゃーー、勇者! 頑張ってぇ!」

魔王「……ああ、私はこうして見ていることしかできないのね」

魔王「こういう時、本当に非力な自分が恨めしいわ……」

魔王「……それでも、私の声が、私の心が、勇者に届き、彼の力に少しでもなるというのならッ!」

魔王「私は声が涸れるまで、心が折れるまで、あなたのことをずっと信じ続ける!」

魔王「あなたなら、……勇者なら何とかしてくれる! 私はそう信じて疑わない、今ここでそう誓うわ!」

勇者「ぐはっ!」

魔王「勇者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

投下し始めてさほど経ってないけど、ご飯食べていいかな?
いついつ終わる予定っていうのはもう言わない。言ったってどうせ守れそうにないし。
けどラストは近い、はず……

書きながら投下だと途中でだれるから、まず書きだめの時点で完結させていいかな?
なるべく速くするから

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年04月11日 (金) 22:43:48   ID: TgLD2OzX

雑魚勇者態度でかすぎウザい

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