僕「僕はカラスなんだ」 (241)

僕(さて、どこから話そうか)

僕(やっぱりあの女の子と出会った時の話が一番なんだろうな)

僕(そこからが一番調度いいんだ)

僕(僕はそう思うね)

僕(少し長くなるよ)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1378776021

僕(あー、今日も海青い)

僕(もう何百回と見てるけど青い)

僕(そこに映る僕の姿は黒い)

僕(人は僕の事をカラスなんて言うんだ)

僕「僕だってちょっと羽が生えて黒いだけの人間かもしれないのにね」

おじさん「寝ぼけたこと言ってんじゃねえよ」

僕「おじさん、そんな身も蓋も無い事言わないでよ」

おじさん「身も蓋もあるわい。お前さんは死ぬまでカラスなんだよ」

僕「うるさいなあ、さっさとタバコやめたら?お客さんに迷惑だって」

おじさん「俺は船操縦するだけだ、誰にも迷惑なんぞかけちゃいねえ」

僕「そんなんだからおばさんに逃げられたんだよ」

おじさん「うるせえ」

ぽか

僕(また殴られた)

僕「ていうかいっつも思うけど、何でおじさんは人なのに僕の言葉が分かるの?」

おじさん「前にも言っただろ?俺が海の男だからだよ」

僕「もういいよそれ」

僕(でもなんかそれで納得しちゃうんだよな)

僕(不思議なもんだ)

僕「で、今日もお客さんはおじいさんおばあさんばっかり?」

おじさん「ああ、買い出しに来るじじばばの嵐だ」

おじさん「あ、いや違うな」

僕「違う?」

おじさん「今日は一人だけ、若い姉ちゃんも乗せるんだ」

僕「へー」

おじさん「ぐへへ、今日は良い日だ」

僕(その汚い歯を見せて笑うのやめてほしいなあ、いい加減)

僕(船に人が乗り始める)

僕(今日の顔触れもいつもと変わらない)

僕(乳母車を押すおばあさんに、透明の袋に野菜を入れているおじいさん)

僕(顔がみんなしわくちゃだ)

僕(あれ、あの子はしわが無いな)

僕(あれがおじさんが言ってた子か)

僕(何か四角くて大きな物を担いでいる)

僕(だいぶ前に、シャシンってやつをとりに来た人も、もう少し荷物は少なかったな)

僕(食べ物を入れるには大きすぎるな)

僕(黒いし、堅そうだ)

僕(なんなんだろう)

女の子「……カラス?」

僕(あ、目があった)

僕(逃げよ)

僕「おじさんおじさん」

おじさん「なんだよカラス」

僕「あの女の子、帽子をかぶって、目がきらきらしてる、不思議な女の子」

おじさん「それがどうした」

僕「あの子、何か大きな四角いもの担いでるんだけど、なにあれ」

おじさん「あ?あれはなあ、多分キーボードだろ」

僕「きーぼーど?」

おじさん「なんだお前さん、知らないのかい」

僕「カラスが何でも知ってると思ったら大間違いだよ」

僕「で、そのきーなんとかって、どんな食べ物?」

おじさん「食えねえよ、楽器だ、楽器」

僕「ガッキ?」

僕(また初めての言葉だ)

僕(初めての言葉は苦手なんだよなあ、もう)

おじさん「まあいい、カラスなんかに楽器は無縁さ」

僕「なにさその態度、教えてくれてもいいじゃん」

おじさん「なら、そのお譲ちゃんに着いて行ってみろよ」

おじさん「そんなら嫌でも分かるだろ」

僕「ああ、なるほど」

僕「良い考えだ」

僕(船着き場に着いて、お客さんが次々と降りて行く)

僕(当然女の子もだ)

僕(重そうだなあ、きーぼーど」

僕「こんな羽じゃ手伝えっこないよね」

おじさん「無理だろうな」

僕「もっと太かったらなあ、羽が」

おじさん「そういう問題かよ」

僕(よいしょよいしょと、女の子がきーぼーどを運んで行く)

僕(空はうんざりするくらいの快晴だ)

僕(気温は少し下がって、すごしやすくはなったけどね)

僕(あの子、どこまで行くんだろう)

僕(あんなにキラキラした目で、何を目指しているんだろう)

僕(公園に女の子が着いた)

僕(何か四角くて小さいものを、ポケットから取り出してる)

女の子「あ、もしもし?」

僕(話し始めた!)

僕(何なんだよ人間って)

僕(おじさんはあんなの持ってないぞ!)

僕(箱からきーぼーどを出し始めた)

僕(随分とややこしそうだ)

僕(おじさんの歯みたいに、白と黒が混じってる)

僕(一体何なんだ、あれは)

女の子「……よし」

僕(?)

僕(向こうから、髪の長い女の子が歩いてきた)

僕(友達なのかな)

僕(友達に会うために、こんな小さな島に来たんだ、この子は)

僕(良い子なんだろうな)

僕(今から何をするんだろう)

女の子「♪♪♪」

僕(女の子が何をするかと思ったら、がっきにある白黒の歯に手を当てて、音を出し始めたんだ)

僕(そして、それに合わせて女の子は、一生懸命、歌ったんだ)

僕(ガッキの音に合わせて、お腹から声を出してね)

僕(僕はそれにびっくりした、なんてもんじゃないさ)

僕(全身の羽が震えて、空から落ちてしまいそうだったんだ)

僕(その子の歌声と、ガッキの音が合わさって、何か大きな力みたいなものが出ているんだ)

僕(でもそれは大きいだけじゃなくて、なんかこう、温かいんだ)

僕(それでいて優しい、不思議な力)

僕(それは、さっき来た髪の長い女の子にぶつかっているみたいだった)

僕(痛くはないのかなって思った)

僕(でもそれは、形のあるものじゃないんだ)

僕(だって、目に見えないんだから)

僕(でも、その大きくて温かくて、優しい何かは)

僕(たしかに存在したんだ)

僕(僕は、一瞬でその大きくて、温かくて、優しい何かを好きになったんだ)

僕(名前すらわからないのに、不思議なもんだね)

僕(でもさ、どうしても忘れられないんだ)

僕(その大きくて、温かくて、優しい何かもそうだけど)

僕(歌を聞いていた時の、髪の長い女の子の涙だけは)

僕(僕のこの小さな頭にこびりついて離れないんだ)

僕「というわけさおじさん」

おじさん「ほう」

僕「鼻くそほじらないでよ」

おじさん「うるせえなあ」

僕「それより、なんなのさ」

おじさん「なにがさ」

僕「その、女の子が出していた、大きくて温かくて優しいなにかさ」

おじさん「ふむ」

僕「僕はきっと、あの大きくて温かくて優しい何かに出会うために生まれてきたんだよ」

おじさん「それはまた大規模な話だ」

僕「茶化さないでよ」

おじさん「ま、俺にはその正体わかるけどな」

僕「なんだよそれ、最初から教えてよ」

おじさん「落ちつけってカラスよ」ごしごし

僕「ドサクサに紛れて鼻くそつけないでよ」

僕「いいからさっさと教えてよ」

おじさん「そいつは無理だな」

僕「ふざけんなよくそジジイ」

おじさん「その答えってのはよ、自分で見つけなきゃ意味がねえ」

おじさん「俺だって、そいつを理解するのに、とんでもねえ時間がかかったんだ」

おじさん「いや、もしかしたら今でも理解できてないのかもしれない」

おじさん「もちろん、その不思議な何かを表す言葉は知っていたさ」

おじさん「でもよ、それは理解するのに何年も何年もかかったんだ」

おじさん「そんな貴重なもの、お前にほいっと教えられるわけねえだろ?」

僕「……はあ」

僕「なに、そんなに難しいものなの?」

おじさん「いや難しくはねえ、ものすごく単純なものさ」

おじさん「どこにでも転がってるものさ、誰だって持ってるもんだしな」

僕「よくわからないよ」

僕「だったら僕、とっくに気づいているはずじゃないか」

おじさん「それはお前が鈍感だからだ」

僕「そう言う問題なの?」

おじさん「そういう問題さ」

おじさん「気がつかなきゃ見えてこないし、自覚しなけりゃ感じられない」

おじさん「もしかしたら死ぬまで気がつかない奴だって、いるかもしれねえしな」

僕「やっぱりややこしいじゃないか」

おじさん「まあとにかくだ、お前さんは経った今、権利を得たんだ」

僕「権利?」

おじさん「それをさがしにいく権利さ」

おもしろい

>>24 あざっす
まだ夏休みで暇なんで今日一日これやります

おじさん「難しく考えることはねえ、探したければ探せってことさ」

僕「いいの?」

おじさん「ああ、誰も止めやしない」

おじさん「これはお前の人生、いや鳥生なんだからな」

僕「語呂悪いねそれ」

おじさん「黙れ」

僕(なんだかおじさんのその言葉で)

僕(空や海がいつもより青く見えたんだ)

僕(いつもは臭いだけの潮風が)

僕(僕に頑張れって言ってるみたいだった)

僕「わかった、じゃあおじさん、僕行くよ」

おじさん「ああ、行ってこい。答えが見つかるまでは帰ってくるなよ」

おじさん「約束できるか?」

僕「もちろん」

おじさん「良く言った」

僕(たまに褒めるのやめてほしいなあ)

僕(照れて調子狂っちゃよ)

おじさん「次の出航で町に出る。その時に行くんだ」

おじさん「旅をしてれば、答えに辿りつくはずさ」

僕「どうしてわかるんだい」

おじさん「俺が海の男だからさ」

僕(そう言って、おじさんは船を出したんだ)

僕(船に乗ってる間、おじさんは一言も僕に話しかけなかった)

僕(いつものぶっちょうずらで、舵をとっていたんだ)

僕(空は相変わらず青かったんだ)

僕(あの女の子は、今どこでなにをしているんだろう)

僕(町に着いておじさんは、茶色い不思議な形をした椅子に腰かけたんだ)

僕(煙草をふかしながらね)

僕(体に悪いからやめたほうがいいのにね)

おじさん「行ってこい」

僕「なんかいつもより声小さくない?」

おじさん「……風邪気味なのさ」

僕「ふーん」

おじさん「そう言えばお前には名前が無かったな」

僕「名前?」

僕「そういえばなかったね」

僕「ていうか基本的に呼び方カラスじゃん」

おじさん「まあな」

僕「もっと早くつけてよ」

おじさん「めんどくせえよ」

僕(くそジジイ)

僕「で、どんな名前をくれるの」

おじさん「そうさなー」

僕「ポチなんてのはやめてよ」

おじさん「あ、駄目か」

僕「つける気だったのかよ」

おじさん「冗談さ」

僕「で?」

おじさん「ジョンだ」

僕「なにその変な名前」

おじさん「外国では普通の名前だ」

僕「なんでそんな名前なの」

おじさん「大昔の話だ」

おじさん「ある漁師が嵐に巻き込まれて、外国に着いちまったんだ」

おじさん「何の取り柄もないアホなんだこれが」

おじさん「でもよ、そいつは外国で努力して努力して}

おじさん「外国にしかないもんたくさん持って帰って」

おじさん「たくさんの人に影響を与えたんだ」

僕「で、その人の名前がジョン?」

おじさん「そういうことさ」

僕「あのさ」

おじさん「なんだ?」

僕「家出したおばさんの好きな本の主人公もそんな名前じゃ無かった?」

おじさん「あれはカモメだ」

僕「あ、そうだっけ」

おじさん「そうだ」

おじさん「まあ、お前にはぴったりだろ?」

僕「かな」

僕「じゃあ、今日から僕はジョンだ」

おじさん「そうだ」

僕「じゃあ、行ってきます」

僕(そう言って僕は、旅に出たんだ)

僕(大きくて、温かくて、優しい何かを探す旅にね)

三日後

僕(あー、今日も人が多い)

僕(駅…って言うんだっけあれ)

僕(あそこから降りてくる人たちからは、あの大きくて温かくて優しい何かは感じられないな)

僕(なんか、別の何かだな)

僕(冷たくて、悲しくて、寂しい)

僕(よくわからない)

僕(おなか減ったなあ)

僕(しばらく何も食べてない)

僕(ゴミ箱でも漁ろうかな)

ばさばさ

僕(……空っぽ)

?「おい」

僕「?」

カラス「腹減ってんのか」

僕(……カラスだ)

むしゃむしゃ

僕「ありがとう」

カラス「良いってことよ、今日はいつもより収穫が多かったんだ」

僕「いいのかい?本当に」

カラス「ああ、困った時はおたがいさまさ」

カラス「それにこの街は結構荒れてる、用がないなら早めに立ち去った方が身のためさ」

僕「用か」

僕「ないことはないんだ」

カラス「ほう」

カラス「なるほど、で、お前さんは、その大きくて温かくて優しい何かの正体を知りたいわけか」

僕「そうなんだ、何か知らない?」

カラス「そうだな、特に思い当たる節はないな」

僕「……そうか」

カラス「まあ、またこの街に戻って来た時は、いつでも頼れ」

僕「うん、ありがとう」

?「おーい」

僕「なに?あのカラスの群れ、友達?」

カラス「そんないいもんじゃねえよ」

カラス「あいつら全員と仲が良いわけじゃねえ、気が合わないやつらだって大勢いる」

カラス「正直、一緒にいて苦しいやつもいるんだ」

僕「なんでそんなやつらといるんだよ」

僕「気が合う奴とだけ仲良くしとけばいいじゃん」

カラス「まあ、それもそうだけどな」

カラス「いつかよ、あいつらが俺の助けになってくれるかもしれねえだろ?」

僕「それが理由なの?」

カラス「……さあな」

バサッ

僕(行っちゃった)

僕(なんなんだろうなあいつ)

僕(でも、また会いたいなあ)

僕(さて、どこに行こうか)

僕(風の向くまま気の向くまま)

僕(なんだか大きな建物に辿りついた)

僕(駅よりも大きいな)

僕(なんなんだろうここは)

僕(砂だらけの広場がある)

僕(網が張られた、箱みたいなものもある)

僕(よくわからないなあ)

僕(あの建物、大きいんだから人くらいはいるだろうなあ)

僕(……うわっ、いっぱいいた!)

僕(全員、机に向かって、何かを必死に書いている)

僕(しかもみんな子どもだ)

僕(あんなことしてなにが楽しいんだろう)

僕(他の部屋もそうなのかな)

僕(?この部屋だけ、みんな立っているな)

僕(あ、あの時の女の子のガッキに似てるな、あれ)

僕(白黒の歯がある。でも、大きいな随分と)

子ども達「いま~私の~ねが~いごとが~」

僕(なんで、あの子どもたちはあんな怖い顔をして歌っているんだろう)

僕(あの時の女の子みたいに、楽しそうに歌えばいいのに)

僕(もったいないなあ、あの子の歌を聞かせてあげたいよ)

僕(あ、あの時の女の子のガッキに似てるな、あれ)

僕(白黒の歯がある。でも、大きいな随分と)

子ども達「いま~私の~ねが~いごとが~」

僕(なんで、あの子どもたちはあんな怖い顔をして歌っているんだろう)

僕(あの時の女の子みたいに、楽しそうに歌えばいいのに)

僕(もったいないなあ、あの子の歌を聞かせてあげたいよ)

僕(その時に、大きくて、温かくて、優しい何かは出ていなかった)

僕(ああ、あの子にもう一度会いたい)

僕(木陰で一休みしようかな)

?「」とことこ

僕「?」

?「あ、どうも」

僕「ありさんだ」

バイト終わってからの夜続き書きます

いいね

僕「こんにちは」

ありさん「こんにちは」

僕「僕はカラスのジョン、君は?」

ありさん「いい名前ですね、ぼくの名前はありのアンです」

僕(礼儀正しい子だな)

僕(というかこの子は一人なのか?)

アン「どうかしました?」

僕「いや、ありってさ、普通集団で行動するもんじゃない?」

アン「あー……まあ、そうですね」

僕「しかもさ」

僕「たった一匹で、なんでそんな大きな種を運ぼうとしてるんだい?」

アン「おかしいですか?」

僕「うん、とてもね」

アン「素直な人ですね」

僕「そうかな」

アン「うーん、なんでしょう、恥ずかしいんですけどね」

僕「うん」

アン「認められるためなんですよ」

僕「認められるため?」

アン「はい」

僕「誰にさ」

アン「家族です」

僕(家族か、羨ましいな)

僕(僕なんて親の顔すら覚えてないよ)

アン「どうしました?」

僕「いや、なんでもないよ、それで?」

アン「はい、家族と言うか、兄妹がたくさんいるんです」

アン「兄さんや姉さんも、みんな凄くて」

アン「ぼく、みんなより体が小さいんですよね」

アン「だから、いつも馬鹿にされて」

アン「だから今日は、この大きな種を一匹で運んで、認めさせてやるんです」

アン「アンはできるやつだって」

アン「そしたら、お父さんやお母さんも、ちょっとはぼくに一目置いてくれるかなって」

僕「それはすごいな」

僕「僕なんて、そんなこと考えた事」

僕(……ない……のかな?)

僕(よくわからない、自分の事なのに)

僕(僕は自分のことが何一つ分かっていないんだ)

アン「じゃあ、ぼくもうひと踏ん張りしますね」

僕「うん、がんばってね、アンくん」

アン「はい!」

僕(すごいなあ、何かの為に全力になれるなんて)

僕(僕も、何か力になれないかな)

僕(僕なら、少し力を貸せば、種を軽く動かす事ができるんだ)

僕(ほんの少しだけ、羽を)

そっ

アン「なにしてるんですか!!」

僕「!!」びくっ

アン「ぼく一匹の力で、最後までやらないといけないのに」

アン「なんで、余計なことするんですか!」

僕(うわ、やばい)

ばさっ

アン「ちょっと!」

僕(怒らせちゃった)

僕(何してるんだろ、僕)

僕(何かできたらなーって思ったのに)

僕(あだになっちゃった)

僕(だめだなー僕)

僕(でも、不思議だな)

僕(アンくんが怒鳴った時に、確かに感じたんだ)

僕(大きくて、温かくて、優しい何かを)

あれからしばらく

僕(あー、生き物に会うの怖い)

僕(すっごい怖い)

僕(山落ちつくわー、ずっとここでだらだらしてたい)

僕(ここなら食べ物にも困らないし)

僕(でも、結局あれの正体がわからないな)

人間「××××ー!!」

僕(たまに人間が何か叫びに山に来るんだよなあ)

僕(うまく聞き取れないけど)

僕(その中から、たまに搾りかすみたいに感じるんだよね)

僕(あの大きくて温かくて優しい何かの搾りかすをね)

僕(どうしよ、今日は山の裏側でも探索しようかな)

僕(裏側にはあんまり来た事無かったなあ)

僕(あ、池がある)

僕(満月が綺麗に映ってるな)

僕(池の奥が空みたいだ)

「ゲコゲコゲコ♪」

僕「……カエル?」

「ゲコゲコゲーコ♪ゲコゲーコ♪」

僕(歌か、悪くないな)

「ゲコゲコー♪」

僕(なんだろう、ここにもあれがほんのり感じられるな)

僕(大きくて温かくて優しい何かが)

僕(歌声に交じってるな)

僕(たくさんの歌声の中から、槍みたいに飛び出てるのがある)

僕(それかな)

?「全然駄目!」

僕「?」

?「アルトとソプラノのバランスが全然なって無いじゃない!」

?「テノールはましになったけど、バスはまだボロボロ」

?「こんなんじゃ、全国ケロケロ合唱コンクール、また奨励賞で終わっちゃうわよ」

「いいじゃねえか、賞貰えるんだから」ぼそっ

?「そこ!奨励賞なんて、コンクールのパンフレットくらいの価値しかないのよ」

?「まあ次がんばってね賞なのよ!」

僕(随分と熱血なカエルさんだな)

しゃがれた声「まあまあアマさん、落ちついて」

僕(アマさんって言うのか)

「なんだよあいつ、一匹で熱くなりやがって」

「で、でもアマさん来てから、私たちだいぶレベル上がったし」

「みんなで楽しくできなきゃ意味ねえっつーの」

「えー、でも私アマさん好きよ」

僕(みんなぼそぼそ言ってるなあ)

しゃがれた声「まあアマさん、今日はこのくらいで」

しゃがれた声「みんなもお疲れ、今日は解散です」

僕(アマさんって呼ばれたカエルさんは何も言わない)

僕(怒ってるんだろうか)

がさっ

僕「?」

ぴょこん

?「あ」

僕「どうも」

僕(カエルだ)

カエル「いやいややめてこないで、食べないで」

僕(あ、この声、アマさんって呼ばれてたカエルだ)

アマさん「私は食べてもおいしくないわよ」

僕「落ちついてよ、僕はカラスのジョン、君なんて食べたりしないよ」

アマさん「……本当?」

僕「ああ、僕はグルメなんだ」

アマさん「それ、まずそうって意味?」

僕(……否定はできない)

アマさん「本当に、本当に食べないのね」

僕「本当に本当に食べないよ」

アマさん「……ふう」

僕(うわすごい脱力してる)

僕(よっぽど疲れてたんだな)

アマさん「さっきの合唱きいてたの?」

僕「うん、結構好きだったけど」

アマさん「全然よ」

僕(随分と気が滅入ってるなあ)

僕「あのさ、僕探し物をしてるんだ」

アマさん「探し物?」

アマさん「なによ、それ」

僕「えっとね、大きくて、温かくて、優しい何か」

アマさん「もっとわからなくなったわ」

僕「奇遇だね、僕もだ」

アマさん「よくわからないものを探すなんて、すごいわね」

僕「でしょ」

アマさん「見つかりそうなの?」

僕「さっきちらっと見えたんだ」

アマさん「ちらっと?どこからよ」

僕「君たちの合唱からさ」

アマさん「まさか、私たちは何かを出した覚えはないわよ」

僕「とにかく、僕はそれの正体を知りたい」

僕「君の話を聞かせてくれないか?」

アマさん「私の?」

僕「そう、君の」

アマさん「なんでよ」

僕「ヒントになるかもしれないのが、こんなに近くにいるんだ」

僕「このチャンスを、みすみす逃せないね」

アマさん「……そう、わかったわ」

アマさん「幼い頃ね、歌を聞いたの、人間のね」

僕「人間の?」

僕(あの日の僕みたいだ)

僕(あの子のことなのかな、いや、違うかもしれないけど)

アマさん「随分と離れた町よ、そこで私は、その子の歌を聞いて思ったの」

アマさん「自分でも、何かを作りだすことくらい、できるんじゃないかって」

アマさん「それで、町を飛び出して、合唱隊があるこの町にやってきたの」

アマさん「もともと家族もいなかったから、失うものはなかった」

僕「奇遇だな、僕もだ」

アマさん「あら、そうなの」

アマさん「それでね、いざその合唱隊に入ってみればもう最悪。だから思ったのよ」

アマさん「私が、この合唱隊を変えてやるんだって」

僕(熱いカエルさんだ)

僕(僕まで熱くなってくる)

アマさん「でもね、ずれてるのよ、私と他のメンバーの情熱がね」

アマさん「もともと上を目指す気なんてなかったみたいだし」

アマさん「駄目ね、私」

僕「確かにそうかもね」

アマさん「随分ズバッと言うのね」

僕「そんな風に弱音はいてちゃね」

僕「でもさ、アマさんはかっこいいよ」

アマさん「かっこいい?」

僕「うん、がんばってるアマさんは、かっこいい」

僕「羨ましいよ」

アマさん「よしてよ、そんな大したもんじゃない」

僕「アマさんは、そんなにしんどい思いをしてまで」

僕「なんで歌えるの?」

僕「アマさんは、なんで歌うの?」

僕(何に対しても、僕は理由が欲しいんだ)

僕(僕が生きている世界には、全て理由があるって信じたくてね)

アマさん「そうねえ」

アマさん「なんか、言葉でそういう理由を決めちゃいけない気がするのよ」

アマさん「それは、何か違う気がするの」

アマさん「全部後付けになって、正しいものじゃなくなる気がするから」

僕「僕のおじさんみたいなこと言うね」

アマさん「おじさん?」

僕「何か質問すると、大抵海の男だからって言うんだ」

アマさん「それ頭おかしかったんじゃない?」

僕「かもね」

アマさん「文句ばかり言ってたけど、他のメンバーも成長してきてるのよ?」

アマさん「前までは音程すら取れてなかった子が、お腹から声を出せるようになってたり」

アマさん「他にもね、こんなことが……」

僕(アマさんは、そこからずっと、自分のメンバーを自慢し続けたんだ)

僕(まるで、家族みたいにね)

僕(とても綺麗な笑顔だった)

僕(それは、あの時の女の子の笑顔に、少しだけ似ていたんだ)

アマさん「あら、ごめんなさい、喋りすぎたみたいね」

僕「大丈夫だよ、とても楽しかった」

アマさん「何か力になれた?」

僕「もちろん」

僕(ほんの少しだけ近づいた)

僕(あの大きくて温かくて優しい何かに)

僕(そんな気がしたんだ)

アマさん「ならよかったわ」

僕「これからもがんばってね」

アマさん「ええ」

僕(さっきまでと随分違う声だな、とても優しい声だ)

アマさん「あなたもね」

僕「そうだね」

アマさん「そうだ、一つ良い事教えてあげる」

僕「なんだい」

アマさん「何かを探すんなら、同じところにとどまりすぎちゃだめよ」

僕「必ずしもそうじゃないよ」

アマさん「どういうこと?」

僕「僕がここにとどまってたから、アマさんに出会えたんだ」

アマさん「カラスのくせに口が達者ね」

僕「思った事を言っただけだよ」

アマさん「あらそう」

僕(それから僕は、さよならも言わずに飛び去った)

僕(なんだか恥ずかしくてね)

僕(不意にこう思ったんだ)

僕(アマさんにも、アンくんにも、似たようなものを感じた)

僕(いや、同じものを持っていた気がする)

僕(でもそれはなんなんだろう)

僕(ああ、星がきれいだ)

それからまたしばらく

僕(嵐だ)

僕(ひどいなあ、雨もすごいし、風もすごい)

僕(このまま飛び続けられるかも不安だ)

僕(どこかでしのがなきゃ)

僕(あ、あれは)

僕(前に子ども達が閉じ込められてた建物に似てるな)

僕(隣にまた別の大きな建物がある)

僕(そこで雨風をしのごう)

僕(やたらと綺麗な飾り付けをしてるな)

僕(お祭りみたいだ)

ばさばさ

僕(ふう、中は落ちつくな)

僕(眠たくなってきた)

僕「zzz」

ざわざわ

僕(?……なんだか騒がしいな)

僕(天井裏にいるから、下でなにをしてるかわからないや」

僕(降りてみよう)

ばさっ

僕(うわ、すごい人)

司会者「さて、続いては●●さんのキーボード弾き語りです」

僕(……きーぼーど!?)

僕(ステージの上には、あの女の子が立っていた)

僕(前よりも、ほんの少し背が伸びていたんだ)

僕(嬉しくて飛び上がりそうになったさ)

僕(女の子は、また音を奏で始めたんだ)

僕(おなかの底から、歌い始めたんだ)

僕(それはもう、すごいなんてもんじゃなかった)

僕(また、あの大きくて、温かくて、優しい何かに僕は触れたんだ)

僕(でもそれを感じたのは、僕だけじゃないみたいだ)

僕(下にいるお客さんの中で、泣いている人までいたんだ)

僕(あの顔をうずめている男の子や、腕を組んでいる女の人も、きっとそれを感じているんだろう)

僕(まるでそこは、何かの奇跡が寄せ集められた場所みたいだった)

僕(奇跡だけじゃ無い、たくさんの人が持っている、強い意志みたいなものも集められたんだ)

僕(こんなに満たされた空間を、僕は見たことが無かった)

僕(何よりも、女の子の顔は、前よりずっとキラキラ輝いているんだ)

僕(だって僕、眩しくてその子の事が、途中から直視できなくなったんだ)

僕(太陽に負けないくらい、その子は輝いてた)

僕(僕が呆然と感動している間に、その子の歌は終わった)

僕(でも、今度はちゃんと歌詞も聞き取ったよ)

僕(とっても素敵な歌だったな)

僕(どうやら、あの子が歌っていたイベントは、文化祭というものだったらしい)

僕(あの子は、何事も無かったように、独りで細々と片付けをしてたんだ)

僕(曇っていた空が、急にその時晴れたんだ)

僕(まるで、太陽が、あの子に会いたがっていたみたいだった)

僕(彼女を祝福するようにね)

僕(そして彼女は、太陽に向かって、にっこりほほ笑んだんだ)

僕(まるで何かをやり遂げたようにね)

僕(カラスの僕の声は、人間には届かない)

僕(おじさん以外はね)

僕(だけど、僕は空高く、彼女に言ったんだ)

僕「君は最高だ!」

僕(彼女には、かーとしか、聞こえなかっただろうけどね)

僕(別にそれでも良いんだ)

僕(良いんだ)

僕(彼女には、今までどんなことがあったんだろう)

僕(アンくんみたいに、誰かに認められるためにがむしゃらになったこともあるのかな)

僕(アマさんみたいに、結果を出したくて、ただひたすら燃えてた事もあったのかな)

僕(うまくいかなくて泣いたこともあるのかな)

僕(でも、どんな過去があったにせよ、彼女はあれを歌ったんだよなあ)

僕(駄目だ、二回も会ったのに、あの大きくて温かくて優しい何かがわからない)

僕(なら、飛び続けるしかないな)

僕(停滞してちゃ、駄目なんだ)

バサッ

僕(空にはもう、雲が全然ない)

僕(あの子も、この空を見ているのかな)

おやすみなさい

この話好きだよ
おやすみ

僕(随分長い事飛んでるな)

僕(ご飯も喉を通らない)

僕(あの日から、延々と飛び続けてる)

僕(僕はどこへ向かってるんだろう)

僕(山が見えてきた)

僕(アマさんと出会った山より、随分大きいな)

僕(疲れてきた)

僕(あれ?家がある)

僕(こんな山奥に誰が建てたんだろう)

僕(縁側がある。日向ぼっこしたら気持ちよさそうだな)

僕(?あれは)

僕(ケージだ、随分と小さいな)

僕(中に何かいる)

僕(鳥?いや、違う、随分と大きい)

僕(ケージの中がいっぱいいっぱいになるほどだ)

僕(……ネコさんだ)

僕(真っ黒の、ネコさんだ)

ネコ「あなたは誰?」

僕(話しかけられた)

僕「僕はカラスのジョン、君は?」

ネコ「私はネコのパティ」

ネコ「こんな山奥に何の御用?」

僕「うーん、探し物かな」

僕「それより気になったんだけど」

僕「君はどうしてそんな狭い所にいるの?」

ネコ「どうしてって?」

僕「だって、ネコって生き物は本来自由なものじゃないか」

僕「僕が住んでいた海沿いの街のネコなんて」

僕「寝たいときに寝て、食べたい時に食べる」

僕「そんな生活を送っていたよ?」

ネコ「それ人間で言うと二―トって言うらしいわ」

僕(それは初めて聞いた、じゃあ僕も二ートか」

僕「でさ、どうしてそこに?」

ネコ「うーん、ご主人様がね、ここにいろって」

僕「そうなの?」

ネコ「ええ、最初はね、別に飼われてたわけじゃなかったの」

ネコ「時々えさをもらって、遊んでもらっていた」

ネコ「若い女の人よ」

ネコ「でもある日、ご主人様は私を見てこう言ったの」

ネコ「『この子は私がいなきゃだめだ、私が守らなきゃ』ってね」

僕「随分と勝手な人だな」

ネコ「私は、優しい人なんだなって思ったわ」

ネコ「でもね、怖かったの」

ネコ「いえ、今でも怖いわ、あの人の、何かにすがらないと、生きていけないような目が」

僕「人間にも、いろんなやつがいるんだな」

僕「反抗すればよかったじゃないか」

ネコ「かもしれないわね」

ネコ「でも、あの人時々、とても寂しそうな顔をするのよ」

ネコ「まるで世界に自分がたった独りでいるみたいにね」

僕「そりゃ、こんな山奥で一人で住んでいたらなあ」

僕「今その人は?」

ネコ「多分、裏の畑ね」

僕「ここにいたらまずい?」

ネコ「かなり」

僕「それはまずいな」

僕「ところでさ」

ネコ「逃げないのね」

僕「いざとなったらすぐ逃げてやるさ」

僕「君の話を聞いていると、君が同情してここにいるみたいだ」

僕「君自身の感情はどうなるんだい」

ネコ「言葉が通じないのに、どうやって伝えるのよ」

僕「君には鋭い爪や牙がある」

僕「それを使えば拒否もできるじゃないか」

ネコ「そんなことしたらかわいそうじゃない!」

僕「」

僕(アンくんに叱られた時の事を思い出すな)

ネコ「ご、ごめんなさい、つい」

僕「いや、構わないよ」

ネコ「私の事を思って言ってくれたのに」

僕「いやいや、ところでさ」

ネコ「なに?」

僕「僕は、あるものを探してるんだ」

ネコ「ふーん、で、その大きくて温かくて優しい何かを探してるわけね」

僕「うん、さっき君が怒鳴った時にも、うっすら感じたんだ」

ネコ「ごめんなさい、よくわからないわ」

僕「いいよ、今までもわからなかったんだ」

僕「そう簡単にわかるわけがないだろうな」

ネコ「ごめんなさい」

僕「いいって」

ネコ「でも、何かを探しているんなら、来た道を戻るのもいいかもしれないわね」

僕「戻る?」

ネコ「今までの道を、見直してみるの、案外見落としてたりするものよ」

ネコ「試してみる価値はあるんじゃない?」

僕「なるほど」

僕「良い考えだ」

ネコ「あ、ちょっと待って」

僕「なんだい?」

ネコ「行くなら、裏にあるリンゴを持っていきなさい」

僕「いいのかい?」

ネコ「一個くらいならばれっこないわ」

僕「そうか、ありがとう、いただくよ」

僕(裏庭のリンゴを一ついただいた)

僕(パティのご主人様には会わなかった)

僕(今すぐには食べずにとっておこう)

僕(大切な思い出の一つだ)

僕(さて、どこまで戻ってみようかな)

昼か夜に続き書きますノシ

僕(あても無く飛んでたら)

僕(この町は)

僕(僕が旅に出てすぐに出会ったカラス君の町だ)

僕(懐かしいなあ)

僕(あ、あれは)

カラス「……」

僕(カラス君だ)

僕(周りに何羽かカラスの仲間がいるな)

僕(あ、散らばってく)

僕(カラス君だけになった)

僕(チャンスだ)

僕「おーい」

カラス君「だからもうえさはねえっつってんだろうが!」

僕「」びくっ

僕「カラス君、僕だよ、ジョンだよ」

カラス君「はっ……お前か。すまねえな、怒鳴っちまって」

僕「それはいいんだけど」

カラス君「久しぶりだな、どうだ、見つかったか」

カラス君「えっと、例のその」

カラス君「でっかくて、ひょろっとして、熱い何かだっけ」

僕「大きくて温かくて優しい何かだよ」

カラス君「そう、それだ。見つかったのか」

僕「うーん、わかりそうなんだけど」

僕「あと一歩と言うか」

僕「二歩と言うか」

カラス君「なんだそりゃ、どっちだよ」

僕「笑わないでよ、僕だって頑張ってるんだから」

カラス君「でもよ、あと一歩ってことは、近づきはしたってことだな」

僕「まあ、そうなるかな」

カラス君「どうやってそれに近づいたんだ」

僕「えっとね」

僕(僕は話したんだ)

僕(アンくんにアマさん、パティに例の女の子の事を)

カラス君「ほう、変わったやつらばっかりだな」

僕「それもそうだね、みんな変わってた」

カラス君「まあ今日はもう遅いし、俺の家に来るか?」

僕「いいのかい?」

カラス君「ああ、それに俺もお前の助けになりたいしよ」

カラス君「ここの通風孔の奥だ」

カラス君「どうだ、結構広いだろ?」

僕「本当だ、すごい、外も見れるじゃないか」

僕「それになんだいこれ」

僕「石とかゴミが、家具みたいに置かれてるじゃないか」

僕「素敵だ」

カラス君「からかうなよ」

僕「からかってなんかないさ」

カラス君「……まあいい、話を戻そうぜ」

僕「待ってよ、それより君の名前は?」

カラス君「……ああ、ジョン、お前には名前があったな」

カラス君「羨ましい限りだ」

僕「ないの?名前」

カラス君「いや、あったんだろうな、忘れちまった」

カラス君「つけてくれた親のカラスはいたんだ」

カラス君「でも、死んじまった」

カラス君「死んじまってから、俺の名前を呼ぶやつなんて、誰もいなくなったんだ」

カラス君「カラスと言えども、所詮は鳥頭、すぐに忘れちまったよ」

僕「そう、だったんだ」

僕(なんとかしてあげたい)

僕(でもなにもできない)

僕(悲しいなあ)

カラス君「まあいい、お前さんはその、たくさんの動物に会ってきたんだろ」

僕「だね」

カラス君「そいつらに共通点はなかったのか?」

僕「共通点?」

カラス君「そうだ」

カラス君「何か思い当たることはないか?」

カラス君「言ってた事や、行動とかよ」

僕「うーん」

僕(アンくんは、家族に認められるために、がむしゃらだった)

僕(アマさんは、結果を出すために、みんなのことを必死に考えていた)

僕(パティは、わがままな飼い主のことなんか考えて、自分を犠牲にしていた)

僕「駄目だ、見えてこない」

カラス君「ふむ、相当難しいもんなんだな」

僕「いや、でもおじさんは簡単で単純だって」

僕「とっくに見えてるんだけど、僕が鈍感で気付いていないだけかもしれない」

カラス君「じゃあ俺も鈍感ってことかよ」

僕「かもね」

僕「でも、たしかにあの子たちから感じたんだよ」

僕「みんなが自分の事を語ってくれたときに」

僕「ねえ、カラス君」

カラス君「なんだよ、ジョン」

僕「君の話を聞かせてくれないか?」

カラス君「俺の話?」

僕「そう、君の話しだ」

カラス君「俺の話なんかしてどうするんだよ」

カラス君「するってえとあれかい?俺の中にもその大きくて温かくて優しい何かがあるって言うのかい?」

カラス君「面白い冗談だ」

僕「冗談じゃない、ある気がするんだ。話してくれ」

僕「僕がここに戻ってきたのには、何か意味があるかもしれないじゃないか」

僕「話してくれよ」

カラス君「……はあ」

カラス君「わかったよ、観念しよう」

カラス君「なにを話せばいい」

僕「なんでもいい、君の喋りたい事全てだ」

僕「僕は、そこからヒントを得る」

カラス君「そうだな…」

カラス君「俺はいわゆるエリートだったんだ」

僕(まさかの自慢話)

カラス君「親はここら一体を支配するボスだったんだ」

カラス君「俺は、その背中を見て育った」

カラス君「そしたら、俺も親並みに、自然と上達したんだ」

僕「ふーん」

僕「あ、リンゴ食べる?」

カラス君「話聞いてるのかよお前」

僕「まあまあ、せっかくあるんだし」

カラス君「どこからだしたんだそのリンゴ」

僕「羽の中だけど」

カラス君「どうやって飛んできたんだよ」

僕「そういうもんじゃないの?」

カラス君「まあいいや」

僕「じゃあリンゴ切るね」

ズパッ

カラス君「」

カラス君「どんな翼してるんだよお前」

僕「え、みんな羽で物切ったりするでしょ」

僕「よくおじさんの家で玉ねぎのみじん切りしてたよ?」

カラス君「……それ、多分世界中のカラス寄せ集めてもお前だけだ」

僕「意外な才能を持っていたんだな僕」

カラス君「受け入れるのもはええな」

シャリ

カラス君「りんごうめえな」

カラス君「話を続けよう」

カラス君「でよ、親が死んだとこまでは話したな」

僕「うん」

カラス君「そこから、ずっと一羽で狩りをしていた」

カラス君「するとよ、思ったより収穫しちまったんだ」

カラス君「だから、他のカラスに分け与えた」

僕「優しいね」

カラス君「茶化すなよ」

カラス君「でな、そういうことを続けてるとな」

カラス君「自然と好かれちまったんだ」

カラス君「いろんなカラスにこう噂されるんだ」

カラス君「『あいつはいいやつだ』って具合にな」

カラス君「俺も、それに合わせて愛想よくふるまっちまう」

カラス君「いかにも良いやつみたいな感じでな」

カラス君「どんなやつに対しても、好ましい態度をとるのが癖になっちまったんだ」

僕「どうして?」

カラス君「?」

僕「別に、わざわざ好かれようとなんてしなくていいじゃん」

僕「めんどくさいのに」

カラス君「そうだな、嫌だったんだ」

カラス君「俺が仮にそいつらに対して、冷たい対応をしたとしよう」

カラス君「そしたらそいつら、悲しい顔をするだろ?」

カラス君「それが嫌なんだ」

カラス君「そんなことを続けるうちにな」

カラス君「作り笑顔ばかりがうまくなっちなった」

カラス君「自分を演じることだけが、俺の日常になっちまってたんだ」

僕(なんでこいつは、自分のことをこんなに過小評価してるんだろ)

僕「それは君が優しいからじゃん」

僕「どうしてそこまで考えられるんだい」

カラス君「気持ち悪いだろ?相手の悲しい顔なんてさ」

カラス君「どんなにずる賢くても、嫌な奴でも、俺にはそいつら全員が」

カラス君「どうしても、嫌いになれないんだ」

カラス君「全員大切な、かけがえのない存在に思えてくるんだ」

カラス君「だから、俺はそういうことを続けてきたんだ」

僕(すごい、こいつ)

僕(普通じゃない)

僕(誰だって気に食わないやつの幸せなんて望めない)

僕(それなのに、なんで?)

僕(不思議な奴だ)

僕「まあ、なんにせよ素敵な話じゃん」

カラス君「かもしれねえな」

カラス君「でもよ、そういうことを続けてると、あるものが出てくるんだ」

僕「あるもの?」

カラス君「それは大きく二つある」

僕「なんだい、それ」

カラス君「一つ目は、俺が時々苦しいんだ」

カラス君「俺の事を好いてるやつらの頭の中では」

カラス君「実際の俺とは、全然違う形をした俺がいるんだ」

カラス君「誰も、本当の俺を見てくれない」

カラス君「それが、苦しいんだ」

僕(じゃあやめろよ)

僕(あ、それはこいつには無理なのか)

カラス君「考えてもみろよ」

カラス君「綻びも傷跡もなにもねえ、真っ白な完璧な俺がいるんだぜ」

僕「カラスなのに真っ白か」

カラス君「いや別にそういう意味じゃねえけど」

カラス君「とにかくだ、俺はそれが嫌で堪らない」

カラス君「俺だって、一羽で浜辺を散歩して、綺麗な貝殻を見つけたいときもあるわけさ」

僕(乙女かよ)

カラス君「でもそういう日に限ってよ」

カラス君「一緒に狩りにいこうだの、あいつのとこに押しかけにいこうだの」

カラス君「嫌になっちまうんだ」

カラス君「でも、嘘をつかなきゃやってられねえ」

カラス君「悲しい事だけどな」

僕「でもさ、それってすごいかっこいいことだと思うんだけど」

カラス君「褒められるのは、好きじゃねえんだ」

カラス君「それが二つ目だ」

僕「なんだい?」

カラス君「嫉妬さ」

僕「嫉妬?」

カラス君「ああ、こんな俺に対して嫉妬するカラスも当然いるんだ」

カラス君「でも、そいつらは陰でしか俺への嫉妬を口にしない」

カラス君「いざ目の前にしたらいつもにこにこと」

カラス君「えさまでせがんでくるんだぜ?」

僕「でも、渡せなかったらそいつらがかわいそう」

僕「とか考えるんだ」

カラス君「そういうことさ」

カラス君「だけど、今日の俺は思いきったんだ」

僕「どういうことだい」

カラス君「えさは今日は渡さねえ、自分たちで探せってな」

僕「おお、すごいじゃないか」

カラス君「だから、そういう言い方はやめろよ」

僕(ならどう言えと)

カラス君「でもよ、やっぱちょっともやもやしてるんだ」

カラス君「あんな言い方して、傷つかなかったかとか」

カラス君「そんなことばっかだ」

カラス君「今日は、きいてくれてありがとよ、ちょっと誰かに話したかったんだ」

僕「いいよ、すごいいい話だった」

僕「君は正しい事をしたんだ、誇っていいよ」

カラス君「なんだい偉そうに」

カラス君「上から物を言われるのは好きじゃねえんだ」

僕「あ、ごめん」

僕(僕の悪い癖だなあ)

僕(おじさんが言ってたな)

僕(『お前はいつだって、心のどこかでみんなを見下している』)

僕(『それがうっかり表に出ちまった時、きっと損する事になるぞ』)

僕(良く言われたなあ)

僕(今ではあの気味の悪い笑顔が恋しいなんて)

僕(不思議なもんだ)

僕(もしかしたら、旅の間でも僕は結構いろんなものを見下してきたのかもしれないな)

僕(自分の事を大したことないやつだって思ってるんだ)

僕(だから斜に構えた姿勢でしか、物事が見れないんだ)

僕(嫌になるな、本当)

僕(自分に自信が無いんだ)

カラス君「まあ、こんなとこか」

カラス君「何か力になれたか?」

僕「もちろんさ、ありがとうカラス君」

僕(まあ、結局わからないままだけどね)

カラス君「せっかくだ、今日は泊まってけ」

僕「いいのかい?」

カラス君「ああ、今日はサービスして俺の宝物も見せてやるよ」

僕(カラス君は僕を部屋の奥の狭い所に連れてきた)

僕「どれだい?宝物って」

カラス君「これさ」

ばさっ

僕「これ、貝殻じゃないか」

カラス君「ああ、俺のコレクションさ」

僕「すごいじゃないかこれ!」

僕「形も色も、珍しいものばかりだ」

カラス君「まあ、そういうのを集めたからな」

僕「どれくらいかかったの?」

カラス君「覚えてねえよ、なんなら一個くれてやろうか」

僕「いいのかい!」

カラス君「テンション高いなお前」

カラス君「まあ、好きなの持ってk……」

僕「どうしたの?」

カラス君「隅っこに隠れてろ」

僕「え?」

カラス君「いいから」

僕(何なんだ?)

ばさばさばさ

僕(誰か入ってきた?)

?「おい七光り、えさよこせよ」

カラス君「今日は断っただろ?」

?「隠し持ってるだろ、おいお前ら探せ」

僕(だいぶ荒らしてるな)

僕(こっちには入ってこなさそうだ)

僕(立ち向かえよ、僕)

僕(何で震えてるだけなんだよ)

僕(おじさんは僕が他の奴らを見下してるって言った)

僕(違う、僕は見下してるんじゃない)

僕(恐れてるんだ)

僕(他の奴らに、何も勝るものがないってことを認めるのが怖くて、堪らなかったんだ)

僕(僕は何もできない、世界で一番弱虫なカラスだ)

「ちっ、なにもねえな」

「おい、貝殻が落ちてるぜ」

カラス君「や、やめろ!」

「あ、これもいいな、もーらい」

「小洒落たもん持ってるじゃねえか七光り」

「ズラかるぜ」







僕(……静かになった)

僕(僕は凄く腹が立った)

僕(もちろんカラスにね)

僕(部屋の隅でただ震えていただけの、ジョンっていうカラスに)

僕(僕は心底むかついたんだ)

カラス君「おい、ジョン、出てこいよ」

カラス君「すまねえ、貝殻全部持ってかれちまった」

カラス君「かっこ悪くてすまねえな」

カラス君「反抗すらできないんだ、俺」

カラス君「誰かが傷ついたら、自分が傷つくことを、俺は知ってるんだ」

僕(何言ってるんだこいつ)

僕(一番かっこ悪いのは僕じゃないか)

僕「あいつらの住処はどこだい」

カラス君「ああ、駅の裏にある山の中の小さなほら穴だけどよ」

カラス君「それがどうかしたか?」

カラス君「お前、それきいてどうする気だ?」

僕「」ばさばさっ

カラス君「おい!どこ行くんだ!」

僕(僕は迷わず住処を飛び出した)

僕(もちろん貝殻も取り戻すためでもある)

僕(でも一番は、僕の名誉の挽回だ)

僕(もともと名誉なんてものは無かったかもしれないけどね)

僕(残念なことに、そこからはよく覚えてないんだ)

僕(でも二つだけ覚えてる)

僕(ぼろぼろになって、一個だけ貝殻を取り戻したことと)

僕(あいつらの住処に行った時の、僕の言葉だ)

「なんで彼の事をわかってやれないんだ!!」

僕(今までで一番大きな声だったかもしれないな)

おやすみなさい

こいつなら余裕だろwwwwwwwwwwww

羽で物斬れるのにwwwwwwww

>>150
おやすみ

僕(どれくらい時間が経ったんだろう)

僕(頭がぼんやりする)

「正義の味方にでもなるつもりだったのか?」

僕(カラス君だ)

僕「さあ、わからない」

僕「ただ、何かしたかったんだと思う」

カラス君「貝殻ごときに」

僕「貝殻の為だけじゃないさ」

僕「君の為なんだ」

カラス君「かっこいいこと言ってるつもりか?」

僕(痛いとこつくなあカラス君は)

僕「ごめん」

カラス君「別に謝ることじゃねえ」

カラス君「でもよ、わからねえんだ」

僕「なにがだい」

カラス君「どっちに怒ればいいのかをだよ」

カラス君「俺が向こうへいつもどうりえさを渡してたら、ああはならなかったんだ」

カラス君「まあ、立場が悪くなるのは慣れっこだ」

カラス君「楽しみなくらいだよ」

僕「楽しみって……原因は僕じゃん」

カラス君「今の状態が幸せじゃないのは確かだな」

僕「……」

カラス君「もういいさ、飛べるようになったらまた探せよ」

カラス君「その、大きくて、強くて、甘いなにかをな」

僕(大きくて温かくて優しい何かだけどね」

カラス君「じゃあな」ばさばさ

僕(行っちゃった)

僕(あー、余計なことしたな)

僕(僕のエゴで、カラス君に迷惑をかけた)

僕(最悪だ)

僕(そういや、あいつらのとこに行って、僕はどうなったんだろう)

僕(体が痛いってことは、やっぱり負けたのかな)

夕方

カラス君「おい、お前あいつらになにしたんだ」

僕「ふぁっ?」

僕「いや、よく覚えてないんだけど、負けたんじゃないの?僕」

カラス君「満身創痍だったぞあいつら」

カラス君「全身がずたずたでしばらく飛べねえぞあれ」

僕「え、まじ?」

カラス君「まじだ」

カラス君「まさか土下座してくるとは思わなかったぜ」

カラス君「お前のおかげだ」

僕「じゃあ、この僕の怪我は?」

カラス君「あいつらの住処の近くの電柱にお前の顔の痕があったぞ」

僕「」

僕「かっこ悪すぎだろ僕」

カラス君「まあいいじゃねえか」

カラス君「そんなしょぼくれた顔、すんじゃねえよ」

僕(あ、なんだこれ)

僕(カラス君の今の言葉に、またあれを感じた)

僕(大きくて、温かくて優しい何かを)

カラス君「ありがとうってことだ」

僕「いや、僕は」

カラス君「……」ぽろっ

僕「いきなりどうしたの、なんで泣いてるの」

カラス君「泣いてるか?俺」ぽろぽろ

僕「泣いてるよ、やめてよ、僕まで泣きそうになるだろ」

僕「君は無理しすぎたんだ、もう休んでいいんだよ」

僕「誰も君の事を嫌いになったりしない」

僕「君みたいな優しいカラス、見たこと無いもの」

僕「そんな君を、少なくとも僕は絶対に嫌わない、誓うよ」

僕(そこからずっと、僕は彼をはげまし続けた)

僕(彼に相応しいと思う言葉を、次々と並べた)

僕(カラス君にとって、良い思いをするか悪い思いをするか、考えもせずにね)

僕「君にもし名前をつけるなら、そうだ、獅子だ」

僕「君は獅子のように、気高く生きたんだ」

僕「なによりも尊い事だろう?それは」

カラス君「くくっ、ははは!」

僕「なんで笑うんだよ、面白いこと言ったか?僕」

カラス君「いや、お前が面白いんだよ」

僕(必死で励ましてるのにそれはないだろ)

カラス君「お前はそれでいい」

カラス君「十分だ、ジョン」

僕(駄目だ、僕まで泣きそうだ)

僕(胸の奥が締め付けられる)

僕(ずっと、こんな言葉を僕は求めていたのかもしれない)

カラス君「お前、貝殻一個だけ持って帰ってただろ?」

カラス君「やるよ、それ」

僕「いいのかい?」

カラス君「ああ、礼だよ」

僕「礼?何のだい?」

カラス君「俺に、ある物を理解させてくれた」

カラス君「それを指す言葉は分からねえが、理解したんだ」

カラス君「お前の言う、大きくて、温かくて、優しい何かをな」

僕(畜生、先越しやがった)

カラス君「そう悔しがるなって」

カラス君「それは、多分分かるべき時にわかるんだ」

カラス君「遅かろうが速かろうが、関係ねえよ」

カラス君「だから、いいんだ。それでな」

すっ

カラス君「受け取ってくれ。それの証の貝殻だ」

カラス君「感謝だけじゃ無い、これが俺の、大きくて温かくて優しい何かの代わりだ」

僕(なんだろ、今のこいつの笑顔)

僕(見送ってくれた時のおじさんに似てるな)

僕(そうだ、僕は早く、おじさんに報告しなきゃいけない)

僕(それが、僕のやらなきゃいけないことなんだ)

コクリ

僕(僕は何も言わずに頷いて、カラス君の家を飛び出した)

僕(振り返るとさびしくなりそうだったから、前だけ見て羽ばたいた)

僕(夕日はすっかり沈んでいて、星がきらきらと光っていた)

僕(星は、僕らの事なんて、知りもしない)

僕(でも、僕はそんなあやふやな星に願ったんだ)

僕(叶えてくれるかどうかわからないけどね)

僕(カラス君が、幸せになりますように)

僕(言い忘れてたことがあったな)

僕(あ、でも戻ってまで言わなくていいか)

僕(言わなくても、彼はとっくに分かり切っていることだろうしね)

僕(どうせ、言ったとしてもこう言うだろう)

僕(『そういうことわざわざ言わなくていいんだよ、そんなに不安なのか、馬鹿だなあ』)

僕(って具合かな)

僕(何を言い忘れたかと言うと)

僕「僕たちはずっと友達だ」

僕(ってとこかな)

それからまた時は流れた

僕(ここは、駅?)

僕(こんなに小さな駅もあるんだな)

僕(駅なのに誰もいないだなんて)

僕(不思議なもんだ)

僕(木陰で休もうかな)

僕(曇ってるけど)

のしのし

僕(うわなんかでかい犬来た)

のしのし

僕(やばいやばい来てる来てる)

ジー

僕(めっちゃ見てるよあれ、やばいやばい)

犬「安心しろ、わしはお前を食いやせん」

僕(だいぶ年取ってるみたいだな)

僕「こんにちは、あの、あなたは」

犬「犬に名前を訪ねるときは、まず自分からじゃろ」

僕(うわ、おじさんそっくり)

僕「ジョンです」

犬「ほう」

犬「わしの名前はジョニー」

僕(なんか似てる、嫌だなー)

ジョニー「通りすがりのガキにつけられたんじゃ」

僕(嫌な話だ)

ジョニー「わからないものは大体ジョニーにするとか、わけのわからんことを言いおってな」

僕(でも一応受け入れてるんだその名前)

ジョニー「なにがおかしい」

僕(やばい笑ってたのばれた)

面白い、笑える、そして自然と涙かでる、いや、もう泣いてる。応援します。
あとジョンは毒舌だなぁww

ジョニー「まあよい、ところで小僧、こんな辺鄙な町へ何故?」

僕「……」

僕(このおじいさんなら、知ってる気がする)

僕「探し物を、してるんです」

ジョニー「海へ行け、そこに答えがある」

僕「まだ何も言ってません」

ジョニー「探し物なんて、大体海にあると決まっとる」

僕(じゃあ僕のおじさんのテレビのリモコンも海にある事になるぞ)

ジョニー「まあ騙されたと思って行ってみろ」

ジョニー「物事とは、案外そういうもんじゃぞ」

僕「そういうもんなの?」

ジョニー「そういうもんじゃ」

僕(すっごいこの犬僕のおじさん臭がする)

僕(だからかな)

僕(何でか納得しちゃった)

僕「近くに海があるんですか?」

ジョニー「ああ、ここは海辺の町じゃからの」

ジョニー「ここをまっすぐ行けば着く」

僕「ども」ぺこ

ジョニー「待て」

僕「なんですか、急いでるんですよ」

ジョニー「一つきかせてもらいたい」

ジョニー「おぬし、何故探し物を探す?」

僕「そりゃあ、探したいからですよ」

ジョニー「違うの」

ジョニー「おぬし、何故食べるのかと問われたら、食べたいからと答えるのか?」

僕(当たり前だ)

ジョニー「違うじゃろ?」

僕(違って無いって)

ジョニー「飢えて死ぬのを防ぐためじゃろ」

僕「……まあ、たしかに」

僕「何が言いたいんですか」

ジョニー「つまりじゃ」

ジョニー「おぬしの探し物をしている、明確な目的じゃよ」

ジョニー「それは、なんじゃ?」

僕(なんでだろ)

僕(あれに触れられた時、心地いいから?)

僕(?じゃあ、何で正体が知りたいんだ?)

僕(わからない)

ジョニー「……まあよい」

ジョニー「見つければ、嫌でも分かる、そういうもんじゃろ」

僕「そうなんですか?」

ジョニー「そうじゃ」

僕(年寄りの考えてる事は難しい)

ジョニー「さあ行け、ジョン」

僕(言われなくても)

ばさばさ

僕(うわ、近い、すぐ着いた)

僕(白い砂に、ゴミに流木)

僕(潮はすっかり満ちている)

僕(この香り、懐かしいなあ)

僕(風が冷たい)

僕(もう冬が来るのか)

僕(人間は羽が無いから寒そうだな)

僕(着いたはいいけど誰もいない)

僕(ゴミと砂と石と貝だけがある)

僕(やっぱり、海は落ちつくな)

僕(みんなのことが、頭に浮かんでくる)

僕(アンくんの、認められたくてがんばってた姿)

僕(アマさんの、結果を出したくてがんばった姿)

僕(女の子の、熱い歌声)

僕(パティの、傷つけたくない臆病な姿)

僕(カラス君の、笑顔や涙)

僕(どれも出会ってよかった)

僕(何でだろ、涙が出てきた)

僕(海に入ってなんかないのに、溺れてる気分だ)

僕(止まらない)

僕(まるで僕自身から、あの大きくて温かくて優しい何かが出てるみたいだ)

僕(それでも僕はそれの正体が分からない)

僕「教えてよ!僕に!!なんなんだよこれは!!!」

僕(どうしてもがまんできなくなって、僕はそう叫んだんだ)

僕(すると後ろから、誰かの泣く声が聞こえたんだ)

僕(その泣き声は、僕の質問に答えてくれるみたいに、しっかりと届いたんだ)

僕(僕は、その泣き声の主の顔を拝むため、振り返った)

僕(そこにいたのは、あの女の子だった)

僕(こんなところで会えるなんて思ってなかった)

僕(ずっとずっと会いたかった)

僕(またあの歌声が聴きたかった)

僕(また、僕の羽を震わせてほしかった)

僕(あの大きくて温かくて優しい何かを、向けて欲しかった)

僕(そこにいたのは、女の子だけじゃ無かった)

僕(男の子もいたんだ)

僕(あの日、建物の中で、彼女の歌を聞いて泣いていた男の子だった)

僕(彼は、彼女の隣に座ったまま、なにもしていなかった)

僕(ただ、彼女の方を見ていた)

僕(どうかしてるんじゃないか?あいつは)

僕(誰かが悲しんでるのに何もしないなんて)

僕(馬鹿じゃないのか)

僕(彼女は、それからずっと泣き続けた)

僕(まるで、胸の奥にある真っ黒なものを、吐き出すように)

僕(彼女の嗚咽から、僕はまた感じた)

僕(あの大きくて温かくて優しい何かを)

僕(でも、それの正体に、僕はまだ届かない)

僕(今まで以上に、それはむき出しで出ているのに)

僕(いつの間にか僕も、男の子と同じように、彼女の泣いている様子を眺めた)

僕(それから、しばらく経った)

僕(彼女は、泣きつかれたみたいに顔を上げた)

僕(その目は、前よりも、何倍も何十倍も)

僕(ずっときらきら光っていた)

僕(太陽が束になっても敵いっこないくらいの輝きだった)

僕(彼女は、男の子から黒い大きな何かを受け取った)

僕(またきーぼーどかと思ったよ)

僕(でも、また違うやつみたいだ)

僕(パイナップルみたいな、不思議な形をしている)

僕(彼女はそれを、鞄から取り出した)

僕(6本の糸が張られて、中が空洞な、不思議なものだった)

僕(彼女が、ポケットから貝殻の様な何かを取り出した)

僕(それを手にとって、そのパイナップルもどきの糸を、上からジャーンと震わせた)

僕(その音は、波の音のような爽やかで、風の音のように力強かった)

僕(彼女は、それを肩にかけて、海に向かって歩き出した)

僕(海沿いに立った彼女は、男の子の方を向いた)

僕(そして、そのパイナップルもどきが出す音色に合わせて、また歌い始めた)

僕(羽が全て抜け落ちてしまうかと思った)

僕(さらにそこから、空の果てまで飛ばされるんじゃないかとまでね)

僕(今度の歌詞は、とっても素敵なものだった)

僕(今まであったものや、たくさんの人に出会って悩んだ事)

僕(そして、そんなしがらみを全て捨てて、自分は自分の道を進む)

僕(そういう曲だったんだ)

僕(言葉にすると単純だろ?)

僕(でもそれには、女の子の全てが詰まっていたんだ)

僕(大きくて、温かくて、優しい何かをありったけに集めて、それを歌にしたんだ)

僕(もう、本当に最高だったさ!!)

僕(歌っている時も、彼女は泣いていたんだ)

僕(でも、さっきまでの悲しい何かとは違う)

僕(とっても嬉しそうな泣き顔だったんだ)

僕(まるで、今まで探してきた、大切な探し物を見つけたみたいにね)

僕(僕も彼女と歌ったんだ)

僕(彼女にはカーカーとしか聞こえないだろうけど)

僕(少しでも僕は彼女と共有したくて)

僕(空高く飛び上がって、大きな声で歌ったんだ)

僕(男の子も歌い始めたんだよ)

僕(一緒に、笑いながら、踊るように)

僕(二人は、世界中の誰よりも、幸せそうだったんだ)

僕(だってさ、その二人からも、あの大きくて、温かくて、優しい何かがいっぱい出てたんだ)

僕(僕の羽は、ずっとうずうずしっぱなしだったさ)

僕(空を覆っていた雲が、少しだけ薄くなった)

僕(眠っていた太陽が、二人と一羽の歌で、目覚めたようだった)

僕(そして、温かい光で、僕らを包んだんだ)

僕「おめでとう!」

僕(空高くから、僕はそう言った)

僕(カラス君からもらった貝殻を、僕は二人の方へ落したんだ)

僕(別にカラス君との思い出を捨てたわけじゃないさ)

僕(二人にも、カラス君と感じた事を感じて欲しい、そう思ったんだ)

僕(あ、男の子のほうが気付いて拾ってくれた)

僕(すると急に、女の子が、ぱいなっぷるもどきを弾く手を止めたんだ)

僕(どうしたんだろ)

僕(海を見ている)

僕(先にある、海と空がくっついた一本の線を見ているのかな)

女の子「」すーっ

僕(息を吸った)

女の子「大好きだった!!」

僕(彼女の、その言葉が答えだった)

僕(電流に打たれたみたいになって、僕は空にぷかぷか浮かんでいた)

僕(そうだ、彼女の言葉こそが、答えだ)

僕(アンくんは、認められる為に、努力した)

僕(家族の事が大好きだったから)

僕(アマさんは、文句を言いながら、カエルたちと結果をとるために心を鬼にしていた)

僕(合唱団の仲間が、大好きだったから)

僕(パティは、抵抗をしなかった。傷つけたくなかったから)

僕(自分のことを思っている、人間の事が大好きだったから)

僕(カラス君は、自分を偽って、他のカラスを傷つけないようにした)

僕(どんなカラスも、大好きだったから)

僕(それが正しくても、正しくなくても、みんなみんな)

僕(何かが大好きだったんだ)

僕(きっと、あの女の子も、何かが大好きだったんだ)

僕(それは一人かもしれない。二人かも、三人かもしれない)

僕(友達かもしれない。家族かも、ほとんど関わっていない他人かもしれない)

僕(とにかく、何かの大好きがたくさん集まったから、彼女はそれで苦しんだんだろう)

僕(それで悩んで、泣いて、それでもたくさん笑う事もあって、笑いたいって思いもあって、笑ってほしいって夢もあったんだ)

僕(それが、まるで木みたいに集まって、大きな山になったんだ)

僕(その山なんだよ。その山は、とても大きいんだ)

僕(そして、温かくて、優しいんだ)

僕(その山が、僕が探していたものの、正体だった)

僕(おじさん言った通り、それは、どこにでも転がっているんだ)

僕(誰だって、何かが好きなんだから、当然だ)

僕(僕は、おじさんの言葉の意味がようやくわかった)

僕(ああ、彼女にお礼を言いたい)

僕(でも、僕はカラスだから、伝えられない)

僕(あの男の子になりたいな)

僕(歌い終わって、二人とも抱き合ってやんの)

僕(羨ましいよ)

僕(僕も、一緒に喜びたかった)

僕(でも、僕はやらなきゃいけないことがある)

風呂からあがったら続き書きます
もう終わります

>>203
先に寝るよ
続きは朝に読ませて貰う
おやすみ

>>175
読んでくれてありがとうございます

>>204
おやすみなさい
読んでくれてありがとうございます

僕(おじさんのいる港へ向かわなきゃ)

僕(早く、報告しないと)

僕(行く前に、僕は二人の方を見た)

僕(どうか、あの二人に幸せな未来が待っていますように)

女の子「幸せになってね!」

僕(僕に言ったんじゃないんだろうな)

僕「ありがとう!」

僕(一応お礼は言っておこう)

男の子「じゃあな、ジョニー!」

僕(僕はジョンだ糞餓鬼)

僕(今までにないくらい、力いっぱい羽ばたいた)

僕(今まで出会ってきた生き物に、心の中でありがとうと呟きながらね)

僕(だいぶ見覚えがある風景になってきた)

僕(懐かしい家、懐かしい車、懐かしい船、懐かしい海、懐かしい匂い)

僕「戻ってきたぞ!」

僕(おじさんの船はどこだ)

僕(うわ、すぐ見つかった)

僕(でもエンジンがついてないな)

ばさばさっ

僕(中にもおじさんはいない)

僕(おかしいな)

僕(家に行こうか)

僕(いつも船で会ってるから、なんか変な感じ)

ばさばさ

僕(家も近所なんだよなあ)

僕(この古臭い木造に、ひび割れた窓ガラス)

僕(貧乏くさいったらありゃしない)

僕(これじゃ、家出したおばさんに文句なんて言えないよ)

僕(中も相変わらずだ、散らかり放題)

僕(海の本に船や釣りの道具)

僕(そして、なんだか豪華に飾ってるおばさんの写真だ)

僕(金ぴかの置物の中に、なんでおばさんの写真なんておいてるんだろう)

僕(食べ物まで横に置いて、なんの意味があるんだ?)

僕(人間のやることはわからないなあ)

僕(おじさんはどこだー)

僕(あ、いた)

僕(布団で寝てるな)

僕(少し痩せたかな)

僕(でもおかしいな、普通ならもうとっくに起きてるのに)

僕「おじさん、僕だよ、ジョンだ。帰ってきたよ」

おじさん「……」むく

僕「あ、起きてた」

僕「大丈夫?目がいつもみたいにぎらぎらしてないよ」

おじさん「人を妖怪みたいに言うんじゃねえよ」

おじさん「おかえり、ジョン」

僕(声が前よりしゃがれてる、それに小さい)

僕「ただいま、おじさん」

僕「どうしたの?もう船には乗らないの?ニートになるの?」

おじさん「お前は定年退職ってのを知らんのか」

おじさん「まあ、年だけじゃねえか」

おじさん「ちょいと、煙草やりすぎちまったみたいだな」

僕「本当にね、馬鹿じゃないの?」

おじさん「馬鹿はお前だ、そういう時は、そんなことないって言うんだよ」

おじさん「ほんと鳥頭だなお前」

僕「こんな時まで説教すんなよ糞ジジイ」

僕「そんなことより聴いてよ、実はね」

おじさん「おお、わかったのか」

僕「言う前に喋らないでよ、空気読んでよ」

おじさん「海の男はなにしても許されるんだよ」

僕「あっそ」

僕(なんか弱弱しくて茶化せないなあ)

僕「僕、がんばったんだよ」

僕「たくさんの生き物に出会って、たくさんのところに行ったんだ」

僕「羽が疲れて駄目になりそうな時も」

僕「えさがなくてふらふらな時も、がんばったんだよ」

僕「それでね、ついに見つけたんだ」

おじさん「……そうか」

僕「あの大きくて温かくて優しい何かはね」

僕「誰かを好きで好きで堪らない気持ちが、重なってできたものなんだ」

僕「一人や二人が好きとか、そういうんじゃなくてさ」

僕「そのせいで、苦労したり、悩んだり、努力したり」

僕「そういうのが、山みたいに積み重なったものなんだ」

僕「どうだい、おじさん、これが答えだ」

おじさん「ほう」

僕(おじさんはこう言うと思ったんだ)

僕(『よくやったぞジョン、それが答えだ。頑張ったな』)

おじさん「がっはっはっはっはっは!」

僕(うわすげえうぜえ)

僕「なにがおかしいんだよ」

おじさん「いやすまんすまん」

僕(すまんですんだら警察も鳩もいらないよ)

おじさん「別にお前さんは、何も間違っちゃいない」

おじさん「でもよ、もしもの話だ」

おじさん「あるやつに、お前の写真を見せるとするだろ?」

おじさん「そいつに、この写真の生き物は何かと尋ねる」

おじさん「答えが、黒い羽の生えた鳥の仲間です、なんてかえってきてみろ」

僕「……」

おじさん「違うだろ?」

僕(ドヤ顔うぜえ)

おじさん「まあいい、理屈は完璧だ。だから、答えくらいは教えて……」

おじさん「ごほっごほっ!」

僕「おじさん?」

僕「どうしたの?」

僕(なんだろ、胸がざわざわする)

おじさん「すまん…ちょっと疲れたみたいだな」

僕「おじさん、大丈夫?」

おじさん「カラスに心配されるほど、落ちぶれちゃいないさ」

僕「とか言いながら何で目閉じるんだよ」

僕「そのまま寝たりしないでよ、ぎりぎりまで期待させておいて」

僕「目開けてよ、ねえ」

僕「ばーかばーか」

おじさん「ドサクサに紛れて悪口言ってんじゃねえよ」

僕「なんだよ、起きてるなら目開けてよ」

おじさん「なんでもないと言ってるだろう」

僕「いやだから目開けてって言ってるじゃん」

おじさん「硬いこと言うなや、それくらい許してくれよ」

おじさん「ごほっごほっ!ごほっ!」

ぺちゃっ

僕(なんか赤い染みが布団についた)

僕(なんだこれ)

僕(……あ)

僕「ねえ、おじさん」

おじさん「  って言うのさ」

僕(おじさんは、短い言葉を言った)

僕(それが、あの大きくて、温かくて、優しい何かを指す言葉だってことはわかった)

僕(その後に、おじさんは、ゆっくりと目を開けたんだ)

おじさん「よくがんばったな、ジョン」

僕(その言葉は、僕がずっとずっと欲しくて、堪らないものだった)

僕(多分、僕が旅に出たのは、何もできない僕を、認めてもらうためだったんだ)

僕(アンくんと僕は、同じだったんだ)

僕(なにもできない僕のままでいるのが嫌だった)

僕(だからがむしゃらになるしかできなかった)

僕(それに、僕があの大きくて、温かくて、優しい何かの正体を知りたかった理由もわかった)

僕(おじさんに、あの短い言葉を、簡単な気持ちを)

僕(伝えたかったんだ)

僕(生まれてから、ずっと一緒にいてくれた)

僕(おじさんが僕のお父さんだった)

僕(ご飯を食べて、一緒に笑って、喧嘩もした)

僕(そんなおじさんに、その気持ちを伝えたかったんだ)

僕「おじさん、僕はね!」

僕(そう、伝えたかったんだ)

僕(精一杯言おうとしたんだ)

僕(照れくさいけど、この気持ちをね)

僕(そのために、旅をしてきたんだ)

僕(でも、遅かったんだね)

僕(おじさんは、また目を閉じたんだ)

僕(なんど羽でつついても)

僕(くちばしで叩いても)

僕(耳元で叫んでも)

僕(おじさんは、石みたいにぴくりとも動かなかったんだ)

どたばた

僕(?)

女のひと「キャー!カラス!!しっしっ!」

僕(追い出されてしまった)

僕(そう言えば、聞いたことがあるな)

僕(カラスってのは、死の象徴だってね)

僕(どうしよう、また泣きそうだ)

僕(駄目だ、何も考えるな)

僕(とにかく羽ばたくんだ)

僕(海の向こうまで、どこまでもどこまでも)

僕(僕は、飛んでいるうちに、ようやく理解したんだ)

僕(おじさんが死んだって事をね)

これで僕のお話はおしまいだ。

どうだった?

うん、もちろんおじさんは僕のせいで死んだってわけじゃないよ。

それでもね、たまに思っちゃうんだ。
 
僕が帰ってきたから、おじさんが死んだんじゃないかってね。
 
まあ、そんな昔のことはいいんだよ。

あれからかい?
 
いいや、アンくんにも、アマさんにも、パティにも、カラス君にも、当然ジョニーさんにもあの男の子と女の子にも会ってはいないよ。
 
アンちゃんは、家族に認められたかもしれないし、認められなかったかもしれない。
 
アマさんも、合唱大会で、大切な仲間たちと優勝できたかもしれないし、できなかったかもしれない。
 
パティも、あれからも女の人に閉じ込められて暮らしているかもしれないし、逃げてどこかで暮らしているかもしれない。
 
カラス君も、あれからもみんなに優しくしているかもしれないし、もしかしたら、一匹でどこかに行ってしまったかもしれない。
 
ジョニーさんも、あれから海で誰かに道案内をしているかもしれないし、もしかしたら寿命で死んでしまったかもしれない。
 
男の子と女の子も、あれからも仲良くしているかもしれないし、お互い離れ離れになってしまったかもしれない。

でもいいんだよ。
 
僕が、みんなに会えた事そのものに、意味があったんだから。
 
そりゃね、女の子が始まりだったさ。だからって女の子との出会いだけでよかったってわけじゃないんだ。
 
誰か一人でも、一匹でも、一羽でも欠けていたら、僕は答えを見つけられなかったかもしれないからね。
 
誰か一人のおかげなんて言うのは、他のものを否定しているみたいで、好きじゃないんだ。
 
だから、君に出会えたのも、大切な要素なんだよ。
 
心残り?
 
やっぱり、おじさんに伝えられなかった事かな。それが理由だったからね、あの頃は。

前置きが長くなったね。
 
実はこの話をしだしたのは、卵を温めている君の気を紛らわすためだけじゃないんだ。
 
君にあることを伝えるためだったんだ。
 
え?今卵が動いたって?
 
なら急いで伝えなきゃね。子供たちが生まれる前に君に伝えとかなきゃいけないんだ。
 
それが、僕が答えを見つけた意味かも知れないからね。
 
恥ずかしいけど、言うね。
 
心して聞いてくれよ。
 
えっとね

















      「      」






































おしまい

乙!






愛偉大だな

読んでくれた方々、ありがとうございました。

自分の小説をSS風にリメイクしてみました。


ありがとう

お疲れ様です作者さん

おじさん   ジョンも……お疲れ様…

>>235
>>237
>>238
ありがとうございます
終始1人でラストまで突っ走りました。

素敵でした。

>>240
ありがとうございます

SSは今まで何度か書いてますが、今回も楽しんで書きました

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