風の子「あ、オチビ…エノキノデブ先生が一緒に来いって」(83)

・・・コロボックル通信社、印刷工場・・・

風の子「あ、オチビ。エノキノデブ先生に、一緒に来るようにって言われたんだけど……」

オチビ「一緒にって言うことは……うちの子がまたなにかやったっていうことね」

風の子「たぶん」

オチビ「全くあの子は……」ガックリ

・・・コロボックルの学校・・・

風の子「あのう、デブ先生。うちの子がまたなにかイタズラを……」

デブ先生「君達の子のイタズラは、”また”なんて回数で数えられるもんじゃない。あんなお転婆娘は、わしが校長になって以来始めてだ」

オチビ「すみません」

デブ先生「今日も城の見張りを振り切って小山を抜け出した」

風の子「申し訳ありません。後でしっかりお灸をすえておきます」

デブ先生「海のほうまで行ってるみたいなんだが、さすが君達の子だ、あまりにもすばしっこくって、腕利きのクマンバチ隊員が誰一人付いて行けないそうだ」

風の子「オチビに似たんだ……」

オチビ「風の子に似たんだ……」

風の子・オチビ「……」

オチビ「なによ!」

風の子「なんだよ!」

デブ先生「いい大人がけんかするんじゃない!」

風の子・オチビ「すみません」

デブ先生「まあいい。それでと言うわけではないが、君たちの娘には学校を出てもらおうと思っている」

風の子「デブ先生、それはご勘弁を。ちゃんと勉強させてやってください」

オチビ「しっかり言って聞かせますから」

デブ先生「勘違いしないでくれ。退学させるわけじゃない。卒業だ」

オチビ「それは……?」

デブ先生「君達の娘の成績は今までで最高だ。今とは教育の中身が違うから直接比べられないが、勉強だけならオハナに勝るとも劣らない。学校をサボってばかりいるのに」

風の子「喜んでいいのか、わかりませんが……」

デブ先生「卒業した後は、クマンバチ隊に入隊してもらう。」

風の子「ク、クマンバチ隊!」

オチビ「へー、それは面白いわ」

風の子「面白いって、うちの子は女の子じゃないか!女の子がクマンバチ隊なんて」

オチビ「だから面白いんじゃないの。」

風の子「面白くなんかない!」

デブ先生「こらこら、またけんかをするんじゃない。それに、これはヒイラギノヒコの考えでもある。」

風の子「世話役の……?」

デブ先生「そうだ。あと、ヒイラギノヒコが、コロボックル通信を立ち上げたメンバーを集めて話をしたいらしい。風の子、みんなに声をかけてくれ」

おチビ「ねえ、風の子、マメイヌ一匹貰えないかな?」
おチビ「ねえ、風の子、マメイヌ一匹貰えないかな?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/internet/14562/storage/1387488949.html)
の、約20年後の話です。短い話なんで読んでいただければうれしいんですが、読まなくてもわからないところはないと思います。

前にも書きましたが”誰も知らない小さな国”シリーズを読んだことのない人にはチンプンカンプンだと思います
50年位前の童話なんで知ってる人がどれくらいいるんでしょうか。まあ、最近有川浩による新シリーズが始まりましたが……

・・・翌日・コロボックルの役場・・・

ヒイラギノヒコ「みんなそろったかな?」

フエフキ「こんなおじさんたち集めて何があるんだい?」

オチビ「あたしはおじさんじゃないわ」

フエフキ「おばさんもいるな」

オチビ「失礼ね!」

ヒイラギノヒコ「いい年をしてけんかしないでくれ。コロボックル通信の創設メンバーに集まってもらったのにはちょっとわけがあるんだ。」

風の子「このメンバーを集めるということは、また何か面白いことを始めようと言うんですか?」

サクランボ「マメイヌ捕まえたときは楽しかったな、もう20年ちかく経ったっけ・・・」

ヒイラギノヒコ「面白いかどうか・・・エノキノデブから話してもらう」

エノキノデブ「わしも校長を十年以上やって、ツムジの爺さんの言ってたことが少しわかる気がしてきたんだ。
最近人間との関係が強すぎるようになってきたんじゃないか。これでは、コロボックル本来の姿が失われてしまう。
それにコロボックル小国自体は緑地保存地区に指定されたとはいえ、その周辺は都会になってきてわしらが活動できる状況ではない」

風の子「でもいまさら人間との関係を絶つわけにも・・・」

エノキノデブ「それはわしも分かっている。だから人間がもっと少ない土地に新しい城をもうひとつ作ったらどうかと思うんだ。まあ、道場みたいなものだな」

風の子「それが、コロボックル通信と何の関係が?」

ヒラギノヒコ「こんな霞をつかむような仕事をできるのは、好奇心の塊みたいな連中だけだ、と思うんだが」

風の子「なるほど。でも、みんなこの国の中心的な仕事してるから、抜けちゃったら……」

ヒイラギノヒコ「わしが世話役についたときは、今の君たちより若かった。若い者たちを信頼して良いだろう。それにいきなり引っ越すわけじゃない。
それまで手助けしてやればいい」

風の子「分かりました。じゃあ、まずは城を作る場所を探さないと……」

ヒイラギノヒコ「実はせいたかさんと相談して、目星はつけてある。ずっと北のほうにっ古い農家を集めて公園にしているところがあるらしいんだ。
あまり人気があるわけじゃないので、人もあまりいないらしい」

風の子「どれぐらい遠いんですか?」

ヒイラギノヒコ「せいたかさんの話だとここから500キロぐらいだ」

風の子「そんな遠くに?」

ヒイラギノヒコ「わしらの子孫が使うことも考えたら、東京から離れていたほうが良いとせいたかさんが言ってたんだ。わしもそう思う。」

風の子「確かに人間の町の拡がり方を見たらそうかもしれない」

ヒイラギノヒコ「それからクリノヒメをクマンバチ隊に入隊させる」

フエフキ「クリノヒメってオチビ・・・?」

ヒイラギノヒコ「・・・の娘だ」

フエフキ「女をクマンバチ隊に入れるのか?良いのか、風の子?」

風の子「ぼくは良くないけど、オチビがすっかり乗り気なんだ」アキラメガオ

フエフキ「だからっておめえ……」

オチビ「また女の子だからって嫌がるの?」

フエフキ「心配なだけだ」

オチビ「コロボックル通信にあたしを入れるの嫌がってたけど、ちゃんと役に立ったでしょ?」

フエフキ「オチビは特別だ」

オチビ「うちの娘も特別よ」

フエフキ「うっ・・・」

ヒイラギノヒコ「と言うわけだ。クリノヒメの訓練担当はフエフキに頼む」

フエフキ「何でおれがそんなことを・・・」

ヒイラギノヒコ「クマンバチ隊をみんな振り切って逃げるような娘をフエフキ以外誰が教育できるんだ?」

フエフキ「チェッ・・・わかりましたよ」

ヒイラギノヒコ「新しい城を作ったら、新しい味方を作らなければならない。新しい味方は、新しい世代に作ってもらおうじゃないか。」

オチビ「それをうちの子に?すごいじゃない、ねえ風の子?」

風の子「それはいいけど、どうしてクマンバチ隊に?」

ヒイラギノヒコ「ここにいれば何かあったときクマンバチ隊を出して救助することが出来る。しかし、新しい城を作ったらクマンバチ隊も一から作り直しだ。
それが軌道に乗るまでの間、自分の身は自分で守ってもらわなきゃならない」

風の子「うーん、そうか・・・」

ヒイラギノヒコ「というわけだ。フエフキ頼むぞ。風の子は全体のまとめ役だ。あとはまかせた」

風の子「はい、分かりました。よし、じゃあまず役割分担をしよう。まず偵察をネコにしてもらう。新しい城の設計は、ハカセ……」

ハカセ「僕がしても良いけど、ツバキの技師にお願いしたほうがよくないかな。年はとってるけどこういうことの知識は一番あるし、何よりコロボックル通信の一員だ」

風の子「そうだな。ツバキの技師にお願いしよう。じゃハカセは必要な資材の手配を頼む。サクランボはヘリプレーンを大型化してくれ」

サクランボ「あれをもっと大きくするのかい、目立たつんじゃないか?」

風の子「新しい城を作るにはこちらから荷物を運ばないと。長距離だから普通のヘリにはきついだろうし、今あるヘリプレーンは荷物を運ぶには小さすぎる。大きくなるから目立たないように飛ぶのは夜だけにしよう」

サクランボ「長い距離飛ばなきゃいけないならパイロットも増やさないと」

風の子「それはミツバチにやってもらおう」

フエフキ「おれは何をすれば良いんだ」

風の子「悪いけど、ヒイラギノヒコが言ったとおりうちの娘の教育を頼む」

フエフキ「貧乏くじ引いたなあ・・・」

オチビ「失礼ね、ひとのうちの子を。あたしに似て結構美人なのよ!」

フエフキ「美人かどうかなんて関係ない。女と口をきくのがいやなんだ」

オチビ「そんな事言ってるからまだお嫁さんが来ないのよ!」

フエフキ「大きなお世話だ!」

風の子「頼むからけんかしないでくれよ・・・」

今日はここまでです。
自分なりに世界観はたぶん壊れてないと思うんですが……
童話の世界ですからそう盛り上がる話ではないかもしれませんね、たぶん

・・・数日後・クマンバチ隊・・・

クリノヒメ「こんにちは、フエフキおじさん」

フエフキ「馬鹿もん!隊長と呼べ」

クリノヒメ「何年かぶりに会ったのにそんな怖い顔しなくたって良いじゃない」プウッ

フエフキ「言っておくが、風の子の子供だからといって特別扱いする気は毛頭ない。新米の隊員として扱うからな……ん!」

クリノヒメ「……なんかわたしの顔についてます?そんなじっと見て」

フエフキ「…なんでもない。面構えを見ただけだ。ヨシッ!まず、泉まで10往復!」

クリノヒメ「えー、そんなに!?」

フエフキ「さっさと行け!」

クリノヒメ「はい!・・・でも、あの、隊長」

フエフキ「なんだ?」

クリノヒメ「これ、お土産・・・もって来たんですけど」

フエフキ「お土産?」

クリノヒメ「スクナヒコ様のお守りです。お母さんが持って行きなさいって」

フエフキ「そうか、ありがとう」

クリノヒメ「じゃあ、行ってきます」シュッ

フエフキ「……初めてあった頃のオチビにそっくりだ」

・・・数週間後・コロボックル通信社・・・

フエフキ「風の子、仕事は進んでるかい?」

風の子「ああ、ネコのおかげでだいぶ情報も集まってきたし、大型化したヘリプレーンも来月には組み立てられそうだ」

フエフキ「順調だな」

風の子「うん。そういえば、うちの娘は迷惑掛けてないかい?」

フエフキ「いや、そんなことはない。あんなすごい運動神経を持った子を見たことが無い」

風の子「まあ、確かに元気のいい子だけど」

フエフキ「こいつが男だったら良かったのにって思うよ。オーニソプターの扱いももうミツバチに引けをとらないんだ。
クマンバチ隊で飛ぶのが一番うまいから、女王バチって呼んでるヤツもいる。本人はかわいくないって嫌がっているけど」

風の子「僕は女の子らしくなって欲しかったんだけどな」

フエフキ「風の子とオチビの娘だからな、あきらめろよ。それに、マメイヌを手なづけるのもうまい」

風の子「赤ちゃんの頃からマメイヌと遊んでたからね」

フエフキ「クマンバチ隊員になるために生まれてきたような子だよ。もしこのままクマンバチ隊でいてくれたらきっと隊長になるよ」

風の子「女の子が嫌いなフエフキにしては珍しいことを言うじゃないか」

フエフキ「嫌いなんじゃない、苦手なだけだ。明日からは小山の外に行ってクマンバチ攻撃の練習をさせる」

風の子「よろしく頼む」

シュッ、トン
サクランボ「おーい、風の子。あ、フエフキもいるのか、ちょうど良かった」

風の子「どうしたんだい?」

サクランボ「ヘリプレーンのことなんだけど……」

風の子「どこか調子が悪いのかい?」

サクランボ「いや、開発は順調だ。ただ図体が大きくなるから、どうしても小回りが利かなくなるんだ。ひとたび鳥に狙われたら手も足も出ない」

風の子「夜に飛ぶから大丈夫じゃないかな?」

サクランボ「新しい城を作る土地には、フクロウやモモンガがいるんじゃないか?小山の周りにはいないけど」

風の子「うーん」

フエフキ「心配ない。クマンバチ隊の飛行隊員が護衛する」

サクランボ「でも500kmも飛ぶんだぜ?」

フエフキ「オーニソプターで500kmはきついな……。そうだ、ヘリプレーンに飛行隊員を乗せていけばいい。襲われそうになったら、空中で飛び出して追い払う」

サクランボ「その手があったか。航空母艦みたいだね」

フエフキ「ただ、ヘリプレーンの中で取り扱えるようにオーニソプターを小さくしてもらわないと」

サクランボ「それなら、高速飛行用に翼を小さくした試作機がある」

フエフキ「よし。そいつを貸してくれ。来週からクマンバチ隊で特訓する」

風の子「頼むぞ、フエフキ」

・・・翌日。小山の外・・・

フエフキ「それじゃだめだ!」

クリノヒメ「ちゃんと的に当たってるのに?」

フエフキ「そんな投げ方してたら肩を壊しちまう。もっと踏ん張って腰を回転させるんだ」

クリノヒメ「こうですか?」クイッ、クイッ

フエフキ「そうだ。ひじをもう少し高く上げろ。で、胸を開け」

クリノヒメ「こう?」グッ

フエフキ「違う。胸のここの筋肉を伸ばすような感じで……」ムニュ

フエフキ・クリノヒメ「!!」

フエフキ「……えーと、つまりそういうことだ。後は自分でわかるだろ」

フエフキ・クリノヒメ「…………」キマズイ

クリノヒメ「あの、隊長」

フエフキ「なんだ?」

クリノヒメ「わたし気にしてないから大丈夫ですよ」

フエフキ「お、俺だって気にしてない」

クリノヒメ「顔真っ赤ですけど?」

フエフキ「うるさい!」

クリノヒメ「……」ジー

フエフキ「なんだ?」

クリノヒメ「何でまだ結婚してないんですか?カッコいいのに」

フエフキ「知るかそんなこと。誰も俺と結婚したいと思わなかったんだろう」

クリノヒメ「うそですよ、そんなの。隊長の特集して欲しいって投書がコロボックル通信にいっぱい来てるってお父さん言ってたもん」

フエフキ「俺には関係ない」

クリノヒメ「ひょっとして誰か好きな人にフラれ……」

フエフキ「帰るぞ!」シュッ

クリノヒメ「あ、待ってくださいよぉー」

今はここまで

・・・1週間後、コロボックル通信社・・・

フエフキ「なあサクランボ、高速飛行用の試作機のことなんだけど」

サクランボ「うん?」

フエフキ「操縦がとてつもなく難しいんだ。ほとんどのヤツが飛び立つことも出来ない。飛んだとしてもすぐ墜落しちまうんだ」

サクランボ「うーん、やっぱりそうか…」

フエフキ「やっぱり?」

サクランボ「抵抗を減らすために翼を小さくしてあるんだ。それを補うために羽ばたく力を強くしたから、バランスとるのはかなり難しいだろうと思ってはいたんだけど」

フエフキ「まともに飛べるのは一人しかいない」

サクランボ「誰だい?ミツバチか?」

フエフキ「いや、クリノヒメだ」

サクランボ「へえ、さすが風の子の娘だね」

フエフキ「ああ。だけど、あんな子供に護衛させるわけに行かないだろう?」

サクランボ「でも、高速飛行用の試作機を設計し直すのはきついな。今、ヘリプレーンで手一杯だから、どれくらい先になるか……ちょっとみんなで相談した方がよさそうだね」

フエフキ「そうだな、ネコにも現地の情報を教えて貰わないといけないし」

・・・翌日、同じくコロボックル通信社・・・

フエフキ「……というわけで、計画通りに護衛が出来そうにないんだ」

風の子「何とか試作機を改造できないのかい?」

サクランボ「ギリギリでバランスをとった機体だから、あれで駄目なら一から作り直しだ」

風の子「それは困ったな。護衛なしではダメかな?」

ネコ「何とも言えないな。昼間はカラスが多いからまず無理だ。夜は…」

フエフキ「どうなんだ?」

ネコ「新しい城の予定地にフクロウの巣が無いことは確認しているんだけど、ここを縄張りにしてるヤツがいるかどうかまでは……
今までのところ飛んでるのを見たこと無いから大丈夫とは思うけど」

風の子「そうか……フエフキ、うちの子に護衛って出来るのかな?フクロウがそれほど多くないって言うなら……」

フエフキ「技量としては問題ないと思う。けど……」

風の子「うーん……」

ネコ「しかたない、計画を延期するか」

シュッ、タン

クリノヒメ「わたしやります!」

フエフキ「あ、お前立ち聞きしてたのか!」

クリノヒメ「だって面白そうだったんだもの」

フエフキ「オチビと同じ様なことしやがって」マッタク

クリノヒメ「わたし、あの試作機で飛べます。わたしに護衛やらせてください」

風の子「だけど、女の子がそんなこと……」

クリノヒメ「おとうさん、そう言うのをセクハラって言うのよ。人間の世界では問題になってるんでしょ」

風の子「そうだけど……」

フエフキ「だけど、風の子がやめた方がいいって言ってるんだから」

クリノヒメ「”風の子の子供だからって特別扱いしない”って最初に言ったの隊長じゃないですか。それに、たった今技量には問題ないって言ったでしょ?」

フエフキ「ウッ……」

ハカセ「ハハハッ。クマンバチ隊の隊長もコロボックル通信の社長も形無しだな。でも、クリノヒメの言うことももっともだ。
どうだろう、フクロウに遭う可能性も低そうだからやってもらったら」

フエフキ「だけど、クリノヒメをクマンバチ隊に入れたのは自分の身を守らせるためで誰かを守らせるためじゃない」

クリノヒメ「でも私しか出来ないんでしょ?」

風の子「うーん……ここで計画を遅らせるわけには行かない。ちょっと不安だけど、やってもらおう」

クリノヒメ「まかせて、お父さん」

フエフキ「まったくオチビといいお前といい向う見ずなんだから……」

・・・数日後・机の上広場・・・

風の子「ミツバチ、パイロットの訓練を取材させてくれ」

ミツバチ「いいですよ。でも、今までと違うような特別な訓練て必要ないんですよ。ヘリプレーンを大型化しただけなんで操作は今までと大体同じなんです。
プロペラを大きくしたので、スピードも上がったし今までよりも安定して操縦しやすくなってます。まあ、小回りは利かないんですけどね」

風の子「そうなのか。さすがサクランボだな」

ミツバチ「それよりすごいのはクリノヒメですよ」

風の子「うちの子が?」

ミツバチ「ボクでもまともに飛ぶことが出来ない高速飛行用オーニソプターを自在に操るんですから」

風の子「そうか……」フクザツ

ミツバチ「ちょっと呼びましょう。おーいクリノヒメ、降りて来ーい」

ヴイーン、ピタ
クリノヒメ「なんですか?あっお父さん」

風の子「お、お前その格好は?!」

クリノヒメ「飛行服だけど」

風の子「でも他のパイロットはアマガエルの皮で作った服を着てるじゃないか?」

クリノヒメ「私はフクロウを追い払うために飛ぶでしょ。だから夜飛んだとき目立たないようにアカガエルの皮で作った服を着てるの」

風の子「それは良いとしてもそんな身体にぴったりした服なんて。みんなはもっとゆったりした服をきてるじゃないか」

クリノヒメ「それはね、服に少しでもシワがあると気流が乱れるから。あのオーニソプターは、ちょっとしたことですぐバランスを崩して墜落しちゃうの」

風の子「だからってそんなにピチピチの服でなくたって」

クリノヒメ「太ったらすぐバレちゃうから気をつけないと」

風の子「そう言う問題じゃなくって」

クリノヒメ「あ、お父さん私のことエッチな目で見てるでしょう?」

風の子「そ、そうじゃない。お父さんは……」

ミツバチ「すみません、こういう形の飛行服になって。オハナにいろいろな飛行服を作ってもらって試したんです。女の子に来てもらう服はボクとサクランボ技師の手に余るので……」

風の子「オハナが?オチャメさんの連絡係の仕事は?」

ミツバチ「世話役の奥さんが代わってくれまして」

風の子「ヒイラギのおくさんなら連絡係の代役はうってつけだ。だけどアカガエルのピッチリとした服が良いのかい?オハナが言うんなら間違いないだろうけど」

ミツバチ「本人が一番飛びやすいというので。でも、本当は人間の間ではやってる漫画に影響を受けたみたいですよ、最初は真っ赤に染めてくれって言ってましたから」コソコソ

クリノヒメ「よけいなこと言わないでください!」

ミツバチ「ゴメンゴメン。でもこれで、ヘリプレーン護衛の目途がつきました」

風の子「そうか、でも無理しないでくれよ、お母さんも心配するから」

クリノヒメ「うん」

・・・数ヵ月後・机の上広場・・・

サクランボ「明日で、荷物の輸送も最後だな」

風の子「ああ、こんなに早くできたのもサクランボの作ってくれたヘリプレーンのおかげだよ。後は向こうで集められるものを使って新しい城を作る。
まあ、最初は古い農家の屋根裏になるだろうけど。コロボックルの移動はツクシンボに計画してもらって鉄道でやる。
新幹線に乗れるって喜んでるやつらも多いんだ」

サクランボ「ほっとしたんじゃないか?」

風の子「そうだね、ここまで何とか計画通り来た」

サクランボ「違うよ、クリノヒメに実際飛んでもらうことが無くってさ」

風の子「そのことか。正直なところ、毎回ドキドキさ。クマンバチ隊になんか入れるんじゃ無かったって思ってるよ」

サクランボ「そうだろうな。もう少し飛びやすいものを作れたらクリノヒメにあんな負担を掛けることもなかったろうに。申し訳ない」

風の子「いいや、あの子も結構喜んでやってるんだ。それに責任感が出来てきたのか、最近すっかりおとなしくなって……」

シイノヒコ「あ、ちょうど良かった!」

風の子「何かあったのかい?」

シイノヒコ「また、クリノヒメが小山から抜け出しました!」

風の子「ああ、あの子は本当に……」ガクッ

サクランボ「風の子も大変だな……」

・・・概ね同時刻・港町の戦艦のマストの上・・・

クリノヒメ「やっぱり潮風って気持ち良い。海見てるとほっとする」

クリノヒメ「あの無人島何であんな名前なんだろう、猿もいないのに?」

クリノヒメ「もうじき日が暮れちゃう。早く帰らなきゃ。みんな怒ってるだろうなあ……」ヨイショ

シュッ、トン
フエフキ「満足したか?」

クリノヒメ「あっ、隊長!あ、あのどうしてここが」

フエフキ「バカと煙は高いところに昇るって言うからな。海辺で一番見晴らしがいいのはここだ」

クリノヒメ「あ、あの……ゴメンなさい。あのう……」ウルウル

フエフキ「もういい、帰ってしっかり休め」

クリノヒメ「あの、一人で部屋にいたらいろいろ不安になって来て。もし本当にフクロウにあったらどうしようとか、新しい城に行ったら海はもう見れないのかなとか……
で、外に行けば気が晴れるかと思って」

フエフキ「すまないな、お前みたいな子供にこんな大変な仕事を押し付けて」ナデナデ

クリノヒメ「いいえ、わたしがやりたいって言ったんですから。でも……」

フエフキ「なんだ?」

クリノヒメ「わたし、子供ですか?」ジー

フエフキ「……くだらないこと聞くな」

クリノヒメ「まじめに聞いてるんですけど」

フエフキ「……なら答えてやる。風の子とオチビの子供だ。帰るぞ」シュッ

クリノヒメ「あ、待って……」

・・・翌日深夜・・・

風の子  ウロウロ

オチビ「ねえ風の子。そんなウロウロされたら落ち着いて寝れないじゃないの。少しは落ち着きなさいよ」

風の子「だって……」

オチビ「荷物を輸送するたびにまとめ役がソワソワしてたらみんなの士気にかかわるでしょ」

風の子「そんな事言ったって心配じゃないか」

オチビ「大丈夫よ、うちの子が守ってるんだから」

風の子「だから、うちの子が心配なんだ」

オチビ「あたしの子よ、心配ないわ」

風の子「ボクの子だ」

オチビ「だから大丈夫」

風の子「……」

オチビ「あなたの子よ、大丈夫」ギュッ

風の子「……なーんだ」

オチビ「なによ」

風の子「オチビだってどきどきしてるじゃないか」

オチビ「あ、バレちゃった」

タッタッタ、ドンドンドン

シイノヒコ「開けてください!ヘリプレーンがフクロウ2羽に襲われました!」

風の子「なんだって!で、ヘリプレーンは無事なのか!?」

シイノヒコ「はい、クリノヒメが守ってくれました。が……」

風の子「が?」

シイノヒコ「一羽はクマンバチ攻撃で追い払ったんですが、やりは一本しかないので……」

風の子「まさか……」

シイノヒコ「体当たりして……オーニソプターは墜落しました」

オチビ ヘタッ

風の子「オチビ!」

シイノヒコ「大丈夫ですか!」

オチビ「大丈夫……」

シイノヒコ「クマンバチ隊が現地で捜索しているんですが、人数も少ないし土地に不案内で手間取っています。
今日は新月だから夜目も利かないので明朝捜索を再開します」

風の子・オチビ「……」

シイノヒコ「ただ、落ちた場所は新しい城の近くの山の中で人間はいないから、ミツバチ事件のときのような大事にはならないと思います」

オチビ「あたし行く。探す人間は一人でも多いほうがいいでしょ」

マメイヌ「ワン!」

オチビ「お前も一緒に探してくれるのね」ヨシヨシ

風の子「僕も……」

オチビ「駄目。風の子は全体のまとめ役なんだから」

風の子「だけど……」

オチビ「城造りが本格的に始まるんだからやらなきゃいけないことはいっぱいあるでしょ。あたしに任せて。向こうにはフエフキもいるし」

風の子「わかった。じゃあ、世話役に今からすぐヘリプレーンを飛ばしてくれるように頼んでくる」

・・・新しい城予定地・作戦会議・・・

フエフキ「体当たりした場所が地図のこのあたりだから、ここを中心に捜索する。風が少しあったから半径1kmぐらいは捜索隊を配置したいけど……」

バタバタ

フエフキ「ん、なんだあのヘリプレーンは?あ、オチビとサクランボじゃないか!」

サクランボ「おーい、手伝いに来たぞ」

フエフキ「助かる。とにかく人手が足りないんだ。すまん、オチビ。本当は今すぐにでも捜索に行きたいんだけどなれない土地で夜動くと危険なんだ」

オチビ「しょうがないわ」

フエフキ「で、サクランボ、簡単な地図しかなくて悪いけど、うちの隊員をこんな感じで配置して捜索する。
俺はこの山に行くから、その川沿いをサクランボは見てくれないか?」

オチビ「あたしは?」

フエフキ「ここで連絡係をしてくれ、どこで見つけても真っ先にここへ連絡させるから」

オチビ「でも」

フエフキ「周りの山にどんな動物がいるかまだわかってないんだ。オチビまで怪我をさせたら風の子に合わせる顔がない」

オチビ「……わかったわ。じゃあ、この子を連れてって」

マメイヌ「わん!」

フエフキ「なんだこの老いぼれ犬は……あっ」

オチビ「そう、昔フエフキがくれたマメイヌ。うちの娘が生まれたときからずっと一緒にいたからきっとにおいを覚えていると思う、ね?」

マメイヌ「わん、わん!」

フエフキ「よし、頼りにしてるぞ」

・・・捜索中・・・

フエフキ「なあ、お前少し休憩が多くないか?」

マメイヌ「クーン」ウワメヅカイ

フエフキ「まあ、しょうがないか。もうじきお前も20歳だからな。コロボックルで言えば90ぐらいの爺さんと同じか」

マメイヌ「クンクン」

フエフキ「水飲んだら行くぞ」

マメイヌ「わん」

・・・ちょっとあと・・・

マメイヌ「わん!」

フエフキ「なんだ、また休憩か?5分も歩いてないじゃないか。夜までに全部見れないぞ」

マメイヌ「わん!」

フエフキ「まったく、これじゃらちがあかない……置いて行くぞ」

マメイヌ「わんわんわん!」

フエフキ「噛み付くんじゃない!なんだ上を見て、ん、なんか枝に……あっクリノヒメ!待ってろ!」シュッ

フエフキ「おい、大丈夫か!!」ユサユサ

クリノヒメ「あ、隊長……隊長がいるってことは私天国に……」ボンヤリ

フエフキ「バカ!俺はまだ死んでない!」

クリノヒメ「ああ、じゃあ私も生きてるんですねえ(棒)………あっ、ヘリプレーンは?!」

フエフキ「お前のおかげでみんな無事だ」

クリノヒメ「良かった……」

フエフキ「それよりお前は大丈夫か、どこか痛いところはないか?」

クリノヒメ「全部」

フエフキ「こんな時にふざけるな!」

クリノヒメ「ふざけてないですよ。ほんとに痛いんだもん」

フエフキ「あ、すまん」

クリノヒメ「フクロウに体当たりするときはミツバチさんに教わったとおりやったんで怪我はしなかったんですけど、やっぱりオーニソプターが動かなくなって。
で、落っこちた先が運悪くタラの木の枝だったんです。
トゲに引っかかって、全身傷だらけになるわ飛行服が裂けるわ……あの枝に引っかかったところで気を失って……」

フエフキ「そうか、でも命に別状無くてよかった」

クリノヒメ「だけど、わたしキズ物になっちゃった」

フエフキ「怪我をしたって言え、誤解されるだろう」

クリノヒメ「隊長……」

フエフキ「なんだ?」

クリノヒメ「怖かった……」

フエフキ「よくがんばったな」

クリノヒメ「あの……やっぱりわたし、子供ですか?」

フエフキ「……」

クリノヒメ「わたしじゃ、お母さんの代わりになれませんか?」

フエフキ「オチビの……。オチビがなんか言ったのか?」

クリノヒメ「ううん、なんとなく……でも、やっぱり……」

フエフキ「さあな」

クリノヒメ「わたしスギ……」

オチビ「続きは帰って傷の手当てが終わってからにしてくれないかしら?」

フエフキ「あっ、オチビ!なんでここに!城にいたんじゃないのか?!」

オチビ「うちのマメイヌが案内してくれたの。あわてて飛んできたらラブシーンの真っ最中だったってところよ」

フエフキ「ラブシーンじゃない!この老いぼれ犬!さっきまであんなヨタヨタしていたくせに!」

マメイヌ「わん」

フエフキ「わんじゃない!!」

オチビ「フエフキ、うちの子に上着貸してくれない?胸ぐらい隠してやって欲しいんだけど」

クリノヒメ「あっ」

フエフキ「えっ?お、お前!ほら、これ着ろ!」

オチビ「二人して何いまさら真っ赤になってるの?」

フエフキ「いや、あの」

オチビ「ねえ、フエフキ」

フエフキ「なんだ?」

オチビ「あたしの事、お母さんて呼んで良いわよ」

フエフキ「うるさい!」

オチビ「あたし先に帰るから。うちの子頼んだわよ、じゃあね」シュッ

フエフキ「あ、待て、オチビ!」

クリノヒメ「隊長!」ギュ

フエフキ「……」

クリノヒメ「私まだ隊長の笛を聞いたこと無いです」

フエフキ「……城造りが落ち着いたら聞かせてやる」

・・・次の日・風の子とオチビの家・・・

オチビ「……って言う事で、うちの子、フエフキのお嫁さんになるかも」

風の子「なるかもって、何で止めないんだ!」

オチビ「何で止めなきゃいけないの?」

風の子「何でって、フエフキは僕と同い年だよ!」

オチビ「愛があれば年の差なんて……」

風の子「そんなのきれいごとだよ!」

オチビ「じゃあ、風の子がフエフキより良いお婿さん見つけてこれるの?」

風の子「そういうわけじゃないけど、あの子はまだ子供じゃないか」

オチビ「あたしが風の子と知り合ったときと二つしか違わないわ」

風の子「……」

オチビ「でもね、もしもあの子がお嫁さんに行ったらさびしくなると思わない?」

風の子「行くって決まったわけじゃない!」

オチビ「だから、”もしも”よ」

風の子「まあ、そうなったらね……」

オチビ「だからね……」ジー

風の子「な、なんだよ」

オチビ「もう一人赤ちゃん欲しいと思わない!?」ニコ
                          お・わ・り

これでひとまず終わりです。原作の空気は壊していないつもりなんですが、どんなもんでしょう?
ちなみにと言ってはなんですが、このお話は

幼馴染「ねえ新隊員、立って歩くカエル見た?」
幼馴染「ねえ新隊員、立って歩くカエル見た?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1402117985/)

に、続きます。かなりノリが違うんですけど、よろしければ見てください。それではさようなら

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