梓「いいんですか?夜中まで学校に残ってしまって」澪「ま、まあな」 (42)

ただの澪梓です

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梓「しかも屋上……」

澪「だ、だだdだだいj、だいじょうぶさ」

梓「そんなことないと思いますけど……」

澪「うぅ…梓ぁ……」

梓「ま、まあ悔やんでも今さら帰れませんし。警備員の目をどうにかやり過ごせたと思ったら、屋上の扉を施錠されて帰れなくなってしまうとは……」

梓「よく考えたら施錠するのは当然でしたね。事前に気づけなかったわたしもわるいです」

澪「そうか。施錠してくれたからここは誰にもジャマされない場所なのか!良かったな梓!」

梓「暢気なこと言って……トイレどうするんですか」

澪「トイレ?あっ」

梓「『あっ』じゃないですよ先輩らしくない…」


澪「どうしようあずさ~~~~!?」

梓「こんなしょうもないことを理由に抱きつかれても嬉しくないです」

梓「仕方ないですね。お花を摘む場合は屋上のその隅で済ませましょう」

澪「屋上に花壇はないよ!?」

梓「ぼかして言ったんですよ!?わかって!」

梓「って上品ぶったところで微妙に気まずいこの雰囲気では意味ないですね」

澪「トイレ…ほんとうにここでトイレを済ますのか!?///」

梓「夜だから暗くてよく見えないとは思いますが、もし気になったら目を閉じてください。耳もふさいで」

澪「う、うん……」

梓「わたしはそこまで気にしませんけど。他人や家族ならともかく」

澪「それは暗にトイレするところをじっくり見てくださいって言いたいのか!?///」

梓「メンドクサイ!頭よわいときの先輩すごくメンドクサイ!」」

澪「梓がどうしても私に見せたいって言うならわたし……ぜんぶ受け入れてあげる///」

梓「だからそんなフェチもってません!!///」

澪「そ、そうだよな!梓だけに恥ずかしい思いをさせられないな!わ…わたしのおしっこを見てくれ梓ぁ!!///」

梓「うわーん澪先輩が壊れたー!」


澪「ようやく頭が冷えました。ごめんなさい」

梓「こんな汚い話はおしまいです!!お菓子でも食べましょう!」

澪「……梓のなら汚くない」ぼそり

梓「わたし一度食べてみたかったんですよねーこの味のポテチ」

澪「そ、そうなんだアハハ…。なんだか喉がかわいちゃったなーハハハ……」

梓「飲物にお茶ありますので喉かわいたらどうぞ」

澪「ありがとう。いただきます…」

梓「先輩はなに持って来たんです?」

澪「オッホン、よく訊いてくれた」

澪「今晩はなによりも雰囲気が大事だからな。梓、雰囲気作りに欠かせないものといえば?」

梓「えっ、えっ?星空とか?」

澪「ジャーン!音楽だ!ラジカセだ!」

梓「おー」


梓「今晩初めて澪先輩がまともに思えました」

澪「ちなみにラジカセは部室から拝借した」

澪「わたしさ、野外で優しい音楽を鳴らして二人で寄り添うシーンに憧れててさ。だからそれをわたしと梓でやってみたい」

梓「はい喜んで、フフッ」

梓「野外…音楽……なんとなく夏フェスを連想しました」

澪「夏フェスなあ。一度行ってみたいと思ってたんだよ。だって一日中音楽三昧だぞ。DVDの録音じゃなくて生の音だ!」

梓「一日中いろいろな音楽を聴けるって幸せでしょうね。あ、そうだ。けいおん部でやる来月の夏合宿、提案して夏フェスにしてもらいましょう。唯先輩たちにとっても良い刺激になるはずです」

澪「ほんとか!?うわーやったーありがとう!///」ぎゅっ

梓「わっぷ……こんどの抱きつきは自然でした。でも唯先輩の相手してるみたいでなんだか疲れます。えへへっ」

澪「今なら梓の憎まれ口も笑って受け入れられる!」


梓「クスクス」

澪「あ、怖い。怖いからやっぱりわたしが傷つくようなこと言わないで」

梓「ああいえ、そうじゃなくて」

梓「二人っきりのときの澪先輩はほんと子供みたいです」

澪「バカにしてる?」

梓「かわいいですよ?」

澪「そうかぁ///」

梓(澪先輩ってわるい男にすぐ引っかかりそう…)

梓「あーあ、憧れのカッコイイ澪先輩が懐かしいなあ」

澪「過去の話か……」

梓「はい(にっこり」

澪「ちくしょう素直でかわいいなあ」

梓「ほらほら先輩、持ってきたもの他にあれば出してくださいよ」


澪「あとはビデオカメラだ」

梓「カメラにはどんな夢があるんですか」

澪「そんな語るような少女チックな夢はないよ」

澪「せっかくの機会だし二人の想い出を映像に収めときたくて」

梓「じつは……屋上で警備員から隠れてるときに悔んでました、ビデオカメラとかレコーダーとか持ってくればよかったって」

梓「屋上での暇つぶしのことしか頭になくて、わたしはお菓子とお茶しか持ち込んでません…」

澪「いいじゃない。結果的に役割分担できたし。梓がおやつ担当で、わたしが機材担当」

澪「わたしたち、おたがいに足りないものを補える最高の二人じゃないか」

梓「澪せんぱい…………フフッ」

澪「わたしカッコイイ?(ドヤッ」

梓「惚れ直すにはもうちょっと」

澪「そぅか…」


梓「でもせっかく屋上に泊まってるのに、空が曇ってますね」

澪「あの雲がどこかに去ってくれればいいのにな」

梓「今晩の天気予報はどうなってましたっけ」

澪「晴れ」

梓「んー……ほんとでしょうか……」

澪「夜は長いよ」

梓「はい…」

澪「それではさっそくラジカセ鳴らそう」

梓「じゃあわたしお菓子の袋をぜんぶ破って広げますね」

澪「風で飛ばないように重石あったほうがいいな。屋上に石は落ちてるかな…?」

梓「今晩は風がおとなしそうですし無くていいかもです」

澪「そっか」

梓「地べたに座って食べましょうか」


梓「この曲も、これも、その次の曲もオフボーカル」

澪「全部オフボーカルバージョンを選んでみた」

梓「…………♪」

梓「~~♪~♪~~~♪、、、♪」

澪(ちょっとオンチだけどそこは梓らしい)

澪(小さい身体がリズムに合わせて小さくゆれてる)

澪(夜中の上に人工灯が屋上にほとんど届いてないから梓の姿はよく見えないけど)

澪(そのわずかな光で梓の輪郭がぼんやりと浮かび上がっているのは様になっている)

澪(暇つぶしにコンクリートに垂れるツインテールを指に絡めて遊んでみる)

澪(…………)さらさら くりくり

澪(梓は気にせず歌詞を口ずさみ続けてる。少し前までは髪に触れると集中が途切れてしまいます、てイヤがられたなぁ)

澪(良い触り心地。ずっと触っていたくなる)

  さわ…

澪「ひぅっ!」

梓「お返しです」サラサラ

梓「でも先輩、『ひぅっ』て……。もう一回やってください」

澪「絶対ヤダ!///」

梓「一瞬ときめいたのに残念です、フフッ」


澪「まさか髪の触り合いで10分も経つとは」

梓「途中から頭の撫で合いになってましたけどね」

澪「はははっ、傍から見たら変なふたりだな」

梓「周囲に人がいたらやりません///」

澪「うん……さすがにわたしもそれは恥ずかしい……」

梓「でも、今は二人きりですから♪」

澪「……公衆下で…羞恥心でいっぱいのふたりが…顔を赤らめて撫で合いっこ……イイ…良い曲が思い浮かびそう///」

梓「また変なスイッチがはいってる……つんつん」

澪「ふぁっ!?」

梓「おはようございます」

梓「撫でられるのもいいけど撫でるほうも良いですね……撫でた手があったかいです」

梓「あ、澪先輩に撫でられるのはって意味ですからね!?」

澪「う、うん」

梓「べつに唯先輩にされたってなんとも思ってませんよ!?暑っっっ苦しいだけです!」

澪「唯が聞いたらショックで1週間寝込むな…」

梓「うぐっ……い、いま言ったのはウソ!!」

澪「わかってる、わかってる。梓が唯のことをキライになるはずないもんな?唯のスキンシップを受けてるときの梓、まんざらでもないって顔してるし」

梓「そんなことありません!ただちょっとあったかくてやわらかくて……って何言わせるんですか澪先輩のバカァ!!///」

澪(えーっ!?)

梓「そうか……わたしには澪先輩がいるんだから唯先輩には今後スキンシップを控えてもらって……ブツブツ」

澪「わたしは気にしないぞー……って聞こえてないな……」


澪「と、とにかくだな!わたしが梓を撫でたくなる気持ち、わかってくれた?」

梓「はいっ!えへへ」

澪「フフフッ」なでなで

梓「とか言いながらまた撫でるんだから」

澪「そういえば……、梓に頭を触られることはめったにないな」

梓「ふだんは先輩がお姉ちゃんみたいだから遠慮してしまうんです」

澪「さっきは子供みたいって言ったくせに調子いいヤツめ」

梓「子供みたいですけどやっぱりお姉ちゃんです」

澪「ほめてるんだよな……」

梓「可愛げがあっていいと思いますよ♪」

澪「そ、そうか///」

梓(デジャヴを感じる)なでなで

澪「んっ……ふぅ。4回目くらいか」

梓「へ?」

澪「梓がわたしの頭に触れた回数。めったにない、て言ったでしょ?それで覚えちゃった」

梓「そんな多かったですか?よく覚えてましたねぇ」

澪「たくさん触ってくれれば覚えきれないかもしれないよ?///」

梓「ならこれからも二人で過ごす時間を増やさないとですね。近いうち夏休みが来まs……あーっ夏休みは先輩が……」

澪「わたし?たしかに夏休みも受験勉強に追われるだろうけど普段から勉強してるから、梓が心配するほどせっぱ詰まってはいないよ。梓と遊ぶ時間は作れる」

梓「万が一大学に受からなかったら罪悪感でわたしが死んじゃいます!」

澪「ママより厳しいなー」


澪「心配いらないよ梓。わたしは唯たちと同じ大学へ行くって決めたんだ。だから絶対に合格する。万が一にも受からないなんてことはない」

梓「……そこまで言うのなら安心です。」

梓「それなら澪先輩も。来年わたしが受験期になってもわたしと過ごす時間を作ってくれたらうれしいですっ」

澪「ほー?今から余裕だな」

梓「わたしだって普段から勉強してますもん。それくらいの時間作れます」

澪「梓はどこの大学受けるんだ?」

梓「んっふふっ。澪先輩は特別ですからね、打ち明けちゃいましょう。わたしはHTTと同じところを合格します」

澪「ほんと!?」

梓「澪先輩にウソなんてつきません♪」

澪「やったー!大学でもHTT結成だー!」

梓「そのためには唯先輩と律先輩をどうにかしないとですね……」

澪「わ、わたしがなんとかする!ムギと和といっしょに!」

梓「わたしも出来る範囲でお手伝いします」

澪「心強い」

梓「ということで、忘れないでくださいよぉ?」

澪「今年も来年も夏休みは二人で過ごす時間を作る。忘れるわけないよ」

梓「……夏休みだけ?」

澪「んと……冬休みもいいぞ」

梓「…………いつでも」

澪「いつでも!」

梓「えへへ。合格するって信じてますからね?」

澪「『梓がわたしを信じてくれるからわたしも梓を信じられる』、『わたしが梓を信じるから梓もわたしを信じてくれる』だろ?」

梓「です!」

澪「そうだ!」


梓「空……晴れませんね」

澪「天気予報は外れっぽいな」

澪「でもまあ夜中晴れなかったとしても、わたしは梓とこうして一夜を過ごせるだけでうれしいよ」

梓「わたしも、はい、いっしょに居られてうれしいです」

梓「でもやっぱり見たいです。天の川」

澪「だな。わざわざ七夕を迎えるために無断で学校に泊まったんだもんな」

梓「まったくです。近くの川辺でゆったり眺めればいいのに。なんでここまでしちゃったかなーわたし」

澪「ごめんな無理強いしちゃって」

梓「ほんとです。澪先輩があんなに押しが強いなんて、以前なら考えられませんでした」

澪「それは……ほら、わたしはこの制服着るのが今年度で最後だし、」

澪「せっかくの高校生活だからな。学校で梓と思い出を作るのが夢だった。だから受験のストレス発散も兼ねてすこしハメを外して遊んでみたかったんだ」

梓「……さっきまで受験だ大学だって騒いでたけど、来年で先輩は卒業ですもんね」

澪「さみしくなる?」

梓「少し……。でも受験期に澪先輩が遊びにきてくれるなら全然さみしくありません」

澪「もちろん行くよ。さっき約束しただろう?」

梓「はいっ」

澪「そういうわけだから今晩は梓に癒されたい」ごろん

梓「どういうわけですかっ……もう、今は膝枕は澪先輩にしてもらいたい気分だったのに」

澪「梓の足は触り心地がすごい良いよなあ。ずっとほっぺをくっつけてたい」

梓「澪先輩の足だって良いものですよ。さすがファンクラブが出来るほどの美人です」

澪「ファンクラブ……」びくっ

梓「クスクスッ」

澪「あずさのいじわる」


梓「膝枕かわってくれたらいじわるしません♪」

澪「それはやだ」すりすり

梓「んもぅ」

梓「カメラで撮ってしまいたいですよ。こんな甘えん坊な澪先輩をHTTのみんなに見せてあげたいです」

澪「ビデオカメラならもう動いてるよ」

梓「えっ?そういえばカメラはどこに」

澪「すぐそこに置いてあるよ。ちょうどわたしたちがど真ん中にくるように設置してみた」

梓「ちょっと待って!いつからですか?」

澪「最初からだよ」

梓「さ、さいしょ…か…ら……」

澪「ほんとは0時に梓と見直そうと思ってたのに。ちょっと早いけど録画見てみる?」

澪「わあ…映像は暗くてわかりづらいけどほら!わたしたちの声はバッチリだ!」

梓「                       」

澪「あ、わたしたちの輪郭はしっかり見えてるから動きもわかる!これは良い録画だ!」

梓「消してください~!聴き返したら絶対はずかしい!!」

澪「梓がHTTのみんなに見せたがってた膝枕のシーンもしっかり撮れてるよ!ほら!」

梓「ほんとうに撮りたかったわけじゃありませーん!」

澪「この映像も良い思い出になるよ、絶対(キリッ」

梓「神様おねがいします、澪先輩をもとのカッコイイ頼れる先輩に戻してください!」

澪「そこまで言わないで梓ぁ!」


梓「しょうがないなあ、カメラはこのまま撮り続けましょう」

澪「ありがとうございます……ありがとうございます……」

梓「誰かに見られたら顔から火が出ちゃいますよコレ……」

澪「その気持ちも良い思い出に(ry」

梓「あーあー、そういえばー」

澪「露骨すぎる話題転換だ」

梓「卒業しても制服は手元に置けますよ。着ようと思えばいつでも着れるんじゃないかと」

澪「サイズが合わなくなってたらと考えると怖くて……」

梓「そんなに怖いですか?わたし中学の頃の制服を久しぶりに着たら少しサイズがきつくなってました。自分の成長が実感できてうれしかったです!」

澪「ウェストはこれ以上成長しなくていい……(さめざめ」

梓「あぁそっち……」


梓「唯先輩と律先輩はしっかり勉強してるんでしょうか……」

澪「多少は自分たちの力で勉強してほしいけど……」

澪・梓「んー…………」


澪(律『んあ~助けて澪~!授業ノート見せてくれないと試験範囲わかんな~い~。おねがいみ~お~』澪『なんで……珍しく授業起きてたのに…』律『落書いてた。テヘッ☆』)

梓(唯『ギ~太~あたらしいお洋服だよ~。うほぉ……ギ~太はどんなスカートも似合うねぇ』憂『おねえちゃーん、わたしの服が足りn……おねえちゃん勉強してるんじゃなかったの?』唯『こ、これはちがうの!』憂『なにが?』)


澪・梓「一人じゃやらないな……」

澪・梓「やっぱりわたしが付いていないとっ」

澪・梓「ん?」

澪「なんでもない」
梓「なんでもないです」

澪・梓「…………」

澪・梓「プフッww」


梓「唯先輩が留年したら来年、私は唯先輩のことを呼び捨てにしないといけません」

澪「絶対卒業させる。情景が容易に想像できてヤダ」

梓「わたしも遠慮したいです。パリポリ」

澪「あっ今食べてるのポテチ?わたしももらっていい?」

梓「はい。んー、なら一度膝枕やめましょう。先輩食べづらいでしょう」

澪「梓に膝枕のまま食べさせてほしい」

梓「もう……先輩と後輩が逆転してますよ、フフフッ。はい、あーん」

澪「あむっ。あっ美味しい」

梓「それは買ってきた甲斐がありました」

澪「このしょっぱさ、丁度いいな」

梓「あれ、そうでした?わたしはもうちょっと薄い方が好きかなあ」


澪「甘いお菓子ある?」

梓「チョコも買ってきました。あーん」

澪「あむっ……お、これはもしかして」

梓「たけのこの里です」

澪「やっぱり!まつたけの里もいいけどたけのこの里もいいよな」

梓「はいっ。ポリポリ」

梓「不思議と、律先輩と……あとムギ先輩を呼び捨てにする自分は想像できないなぁ」

梓「唯先輩なら……『ゆいーういー一緒に帰ろー』……。しっくりきちゃう」

梓「まあそんな事態になってほしくないです、ふふふっ。澪先輩、あーんしてください」」

澪「Zzz……」

梓「寝てる!?ついさっきまで起きてたじゃん!」

澪「Zzz……」

梓「あ、あれー?ほんとうに寝てる……?」

澪「Zzz……」

梓「もう……天の川見るために夜更かすんじゃなかったんですか」

梓「仕方ない。雲が晴れたら起こそう。ポリポリ」

梓「シャクシャク……シャクシャク……」

梓「……澪先輩を呼び捨てたこと、まだなかった」

澪「Zzz……」

梓「……みーお」なでなで

梓「あっ手が先輩の汗まみれになっちゃった」

梓「今晩は熱いなー。汗ぬぐう用にタオルの一枚でも持ってくればよかった」

梓「お手拭きもないし……」

梓「…………ま、まあ澪先輩の汗だし。きたなくないよね?」

澪「Zzz……」

梓「ごくり…………」

澪「…………」

梓「…………」

梓「ぺろぺろ」

梓「……ポテチのほうがしょっぱい」

梓「……甘しょっぱい……///」


梓「先輩!起きてください!」

澪「ん~あと5分……ぺろぺろ」

梓「ひゃあっ!ふともも舐めないで!///」

澪「スベスベ~むにゃむにゃ」

梓「天の川!うっすらとですけど天の川が見えてます!」

澪「……あまのがわっ!?」

梓「やっと離れた」

澪「……図鑑で見るよりぼやけてる」

梓「人工灯が周りに多いですから見づらくなるんでしょう」

梓「図鑑と同じような夜空が見たいなら山に行かないとムリでしょうね」

澪「そうなのか!?」

梓「でもそのわりには見えてるほうですよこれは。先輩、カメラカメラ」

澪「うぅ……ごめん知らなくて」

梓「謝らないでください。天の川撮れてますか?」

澪「うん。こんな感じだけど」

梓「どれどれ。はいOKです」

澪「やったー!晴れてよかったー!」

梓「よかったです!」

澪「綺麗だな!綺麗だ!」

梓「はいです!」



おしまい


 あの七夕の日から数年。N女大へ進学した澪を追うようにN女を受験したわたしは、無事に合格することができた。

 澪とは受験期の間ほとんど会うことはなかった。彼女が大学寮に住むことになったからだ。そのことが発覚したときはあの約束が叶うことがない、と二人で落ち込んだものだった。

 桜ヶ丘と大学は気軽に通える距離ではない。澪と殆ど逢えず、寂しさを電話に乗せて誤魔化す日々を過ごした。その反動でわたしの大学生活は生身の澪との想い出が大半を占める有様だ。

 高校3年生となったわたしは新けいおん部の部長として奔走した。なかなか捕まらない新入部員に焦りが募ったものの、澪が電話越しに応援してくれて冷静になった。

 そしてかわいい後輩と出逢い、部活に励み、お別れを告げた。彼女等とは少しして大学で再会することになった。

 現在、澪もわたしも無事N女を卒業し共働き生活を営んでいる。社会人としてはまだまだ未熟なだけにお互い給料は少なく、家賃を浮かすため二人でワンルームを借り貧乏生活を営んでいる。

 こういう貧乏生活にも澪は憧れていたそうだ。せつない物語の主人公っぽいだとかなんとか言っていたけど、よくわからない。なんだかムギ先輩を彷彿させて面白い。

 今、わたしたちは幸せです。そこには揺るぎない愛があるから。 

 ムギ先輩をはじめHTTや新けいおん部の若葉ガールズのメンバーは皆、それぞれの人生を楽しんでいるようだ。連絡を取り合うと唇が絞まらない。

 真っ先に子供を作るのは誰になるだろう。わたしや澪でないことは確かだ。みんなの誰かがおめでたになったら素直にお祝いしよう、フフッ。


 今、わたしの手元にひとつのメモリーカードがある。それをパソコンに挿入しマウスをなめらかに動かす。

 不意に背後から同居人が抱きついてきた。湯上りでほてった腕をわたしの首にまわして、バスタオル越しにたわわな果実をうなじへ押しつけてくる。鼻に届くのはシャンプーとボディーソープのほのかな香り。

 パソコンの画面を見てこれから何をするか彼女は解ったようだ。懐いな、と一言漏らすと、彼女がさっきの体勢のまま両手の平をわたしの頬に貼り付ける。あったかい。

 よく拭いてよー澪の身体湿ってる、とブツクサたれると、どうせ今夜は関係なくなるし、と耳元でささやかれる。その瞬間女の欲望が胸の内から湧き上がりゾクゾクしてくる。でももう少し待ってね澪。先にこの動画を見るんでしょう?

 それじゃあ再生しようお姫様。ひょっとしたら頬を優しく包む貴女の手が離れるほどに、わたしは噴き出してしまうかもしれない。カチリとEnterキーを叩き動画が再生される。

 それは初々しくて変に真面目だった頃のわたしたちが、未来のわたしたちへ出した一通のビデオレター。


梓「あーあー、こんばんは。中野梓です」

澪「秋山澪です」

梓「現在時刻は七夕の午前3時ちょうど。午前3時ちょうど」

澪「時刻はカメラでわかるからいらないんじゃないか」

梓「あ、そうでしたか」

梓「ていうか本当にやるんですかこれ……。なにもビデオレターにしなくても普通に夜空を撮ってれば」

澪「実はビデオレターもわたしの夢のひとつでさ。写真と違って声や動作でもメッセージを伝えられるのが魅力的。せっかくだから今やっちゃおうっというわけさ」

梓「んもぅ。カメラを意識して喋るのすごい緊張するんですからね」

澪「じつはわたしも……」

梓「えー……こんな調子じゃ律先輩たちに送ったって笑われるだけですよ……」

澪「でも撮りたい……」


梓「いちどカメラ止めて話の流れを決めたほうがいいんじゃないですかこれ…グダりますよ」

澪「ま…まあ、それもいいじゃないか。さて何を話そうか梓」

梓「行き当たりばったりでいくんですね……」

澪「でも話し合う時間がもったいない気もする……」

梓「夜明けまで時間ありますよ。どれだけ長くするつもりですかビデオ」

澪「決めてない……」

梓「……何も考えてないんじゃ」

澪「うぅ…そうだよ!」

梓「うわー」

澪「蔑みの視線を感じる…暗くて確認できないけど感じる……」


澪「さあさあ梓、星空の話をしよう」

梓「はい!本題入っちゃいましょう!そのためのビデオレターですもんね!」

澪「そうそう、細かいことは気にしない!アハハハハハハッ」

梓「カメラ貸してください!」

澪「奪い取られた…」

梓「見てくださいご覧の皆さん!満天…とまではいきませんが綺麗ですよ!」

澪「おーい、梓がぴょんぴょん跳ねたら画面がぶれるぞー」

梓「あっとっとスイマセン///」

梓「オホンッ。失礼しました。それでは見てください。今わたしが指してる先に天の川があります!」

梓「ちなみにあっちの方向のあの星と、そっちの星とぉ、あともうひとつは……えーっと…」

澪「梓、それじゃ画面の前の人には伝わらなくないか…」

梓「そ…そうですよね!とにかく向こうにある星とを繋げて夏の大三角形が出来ます!」

澪「そういえば夏の大三角形って七夕の時期は地球からははっきりと見れないんじゃなかったっけ」

梓「……ふぇ!?」

澪「あっゴメン言わないほうがよかったかな…」

梓「すいません…画面の前の皆さんもすいません…///」

澪「わたしは梓が楽しそうにしてるだけで満足してるよ」

梓「うーん……?素直に受け取っていいんですよねぇその言葉?」

澪「人に子供っぽいと言っといて自分が一番子供っぽい梓がかわいい、と翻訳してくれ」

梓「うわーん仕返しされたー」


梓「カメラ返します……」

澪「もういいの?じゃ続きはわたしが撮るよ」

澪「なあ、画面の前のみんなに今夜の集まりについてすこし話さない?みんなに内緒でやったこと、一言おわびをいれときたくて」

梓「あ、はいです。そもそもこの『七夕の夜空をながめよう企画』は澪先輩が言い出したことでした」

澪「わるいと思ったけど梓とふたりっきりで過ごしたくて、梓だけ誘ったんだ。黙っててごめんなみんな」

梓「お誘いにのってしまいました。スイマセン」ぺこり

澪「バックで流れてる音楽はわたしの持ち込んだラジオだ。もう切っておくよ」

梓「空が晴れるのを待っている間音楽を聴いて過ごしていました。あっ、じつはこの時刻までずーっと曇りでして。すっかり天気予報に騙されました」

澪「おかげで梓の膝枕をたっぷり堪能させてもらったよ」

梓「ちょっと先輩!恥ずかしいからみんなの前で言わないでください!///」


梓「今更ですけどこのビデオ必要なんでしょうか……」

澪「あははは……」

梓「まあ撮るもの撮りましたし、これでビデオは終了ですね先輩」

澪「……まだやってないことがある」

梓「えっ?」

澪「七夕さ。わたしたち、まだ七夕に願い事を伝えていない」

梓「願い事……しかしどうしましょう。笹もなければ短冊も持ってないし」

澪「短冊ならあるよ。ペンも、はい」

梓「用意がいいですね」

梓「でも灯りが弱くてとても書けたものじゃないです。残念ながら」

澪「やっぱりぃ……しくしく」

梓「これは昼間に書きましょう。今はお願い事を考える時間にして」

澪「そうする……。天の川を頭上に戴いて願い事を書き記すのはさぞロマンチックだったろうに……しくしく」

梓「詩人ぶってるとこすいませんが、そこまで入れ込むことでもないような……」

梓「そ……それじゃあ願い事を考えましょうか。一端カメラ切りまーす」

澪「しくしく……いいよ撮り続けて」

梓「でも画面の前のみんなが……じゃあ後で編集して、要らない部分はカットしますからね」

澪「うん……しくしく」


梓「さっきの時間はカットですねー。映像に残すことはありません」

澪「では梓から願い事の発表をしてもらいます」

梓「えっ!?ヤですよそんな恥ずかしいこと!どこかの笹に吊るすだけのつもりだったのに!」

澪「そうか、なら先にわたしが発表する!次が梓で!」

梓「澪先輩……もしかして深夜テンションでもの言ってません?」

澪「じゃあイクぞ!まず一つ目は!『みんなで第一志望の大学に合格する』!」

梓「一つじゃないんですか欲張りさんめ。お願いというより宣言ですしソレ」

澪「七夕って願い事を三つ以上書くものだろ?」

梓「えっ一般的には一つでしょう?」

澪「えっ」

梓「えっ」

梓「ふつうは一つです……最低三つ、て織姫様と彦星様にどれだけ仕事させる気なんですか」

澪「願い事は抽選で選ばれるからたくさん書くものだろ?少なくとも三つは常識だ、て律……が……」

梓「あー律先輩、あとで痛い目みてください」

澪「りーつー……!!」


澪「も、もう一つだけ発表させてくれ!」

梓「えぇどうぞぉ……ふわぁ~あ。ねむい」

澪「梓がそれじゃ困る!ほらお茶!お菓子!」

梓「グムゥッ!?げほっ、ごほっ!」

梓「窒息するかと思った!バカァ!」

澪「やりすぎた!すまん!でも聞いてくれ!」

梓「画面の前のみんなに向けて言うんでしょ?わたしが聞く必要ないもん。つーん」

澪「梓も含めたみんなに聞いてほしいんだよぉ!」

梓「つ、つーん……」

澪「『恋人の梓と、それからわたしに勇気をくれたみんなに永遠の幸せを約束してください』って言いたいんだって!どうしても!」

梓「つーん……?勇気……みんな……?」

澪「あああああああああああああああっ!?先に言っちゃったあああああああああ!!」

澪「今の無し!おーコホンコホンッ!」

梓「深夜テンションもここまでくるといくら恋人でもうっとおしいです……いったい何の話ですか?」

澪「ほ…ほんとにごめんよ梓ぁ!!」

梓「あーんもー!許すから早く話して!!」


澪「こっほんっ。わたしと梓はあの日話し合うことで、お互いを恋人としてきちんと認めることができた。あの日以前のわたしたちは恋人ごっこをしていたに過ぎなかったと思う」

梓「ん?」

澪「性の葛藤を乗り越えお互いの性別を受け入れたことで、現在のわたしたちが在る」

梓「ちょっ先輩!?その話はもう済んで」

澪「いや言わせてくれ。あのこともわたしたちの大切な想い出だから。いや、いずれ訪れる試練だったんだ」

梓「いずれ……?」

澪「そう」


澪「事の発端は梓と恋人としてお付き合いを始めたあの日からだ」

澪「わたしは情けないけどヘタレだから、わたしから梓に告白することはできなかった。梓が告白してくれなかったら一生一方的な片想いだと思い込んでたにちがいない」

澪「梓の告白を受けてわたしの中にはうれしい気持ちはもちろんあった、けれど素直にうれしくなれない思いもあった。性別の壁をそのとき初めて意識したんだ」

澪「仮にだ。わたしが壁を感じなかったら?梓も壁を感じなかったら?わたしたちは将来壁を感じずに生きれたと思う?」

澪「そんなことは有り得ない……。絶対に周りの誰かがこう言って壁の存在に気づかせるんだ」

澪「同性愛なんて気持ち悪い、て」

梓「………………」


澪「おろかにもわたしは自分一人の問題だと、誰にも心配をかけまいとした。でもわたしは運が良かった。一人で悩みを抱え込もうとしても無理矢理聞き出すような……ははっ、自分勝手な親友がいたから」

梓「それって……あぁっ」

澪「さすが幼馴染というか。どんなに表面を繕って周囲に明るくふるまっても、アイツの目は誤魔化せなかった」

澪「今思うとわたしって馬鹿だよな。どうしてすぐに悩みを誰かに打ち明けなかったのだろう」

梓「……わかります、その気持ち」

澪「何度となく律に心配されてきた。ついイライラが募って心にもないことを言ったこともある。それなのに律はわたしと顔を合わせても嫌な顔ひとつしないし、日常を崩そうともしなかった」

澪「ある日律に言われたんだ。幼い頃から今までで一度も見せたことのない、本気の怒りを放ちながら」

澪「『おまえ、ヤバイこと考えてないよな?一人で悩んでたらダメだ。仲間に相談しろよ!わたしじゃダメか!?なら唯でもいい!ムギでもいいし和でもさわちゃんでもいい!全部ぶちまけてみろ……!!』って」

梓「不覚にも律先輩がカッコよく思えてしまった」

澪「すごい剣幕で迫られたものだから足がすくんでしまったよ。でも頭は不思議と冷静でいられてさ。『ヤバイことなんて考えてないぞ、男の人になってみたい、くらいがせいぜいだ』って言い返す準備はできてた。まさに口を開こうとしたときだ」

澪「律が……律が涙を流したんだ。わたしは今度こそ茫然とした」

梓「…………」

澪「嗚咽の止まらない律を眺めていてようやく気づいた。これは自分だけの問題じゃない。迷惑をかけまいと一人で抱え込んでいたら、それがかえって大好きな親友を傷つけてしまう。悩みをみんなに打ち明けようと決意したのがそのときだ」

澪「後日律や唯、ムギ、和に相談した。話し合った結果は梓も知ってるとおりだ。あいつらがいたからあの日、梓とあの話し合いをする勇気が生まれた!」

梓「そうか……みんなはすでに知ってたんですね……わたしたちの関係を。あの日を迎える前から」

澪「今まで黙っててごめん……」

梓「ぜ、ぜんぜんかまいませんっ、むしろ話してくれて嬉しいです。でも気になるのは……あの日問題が解決したあとも黙っていたのはどうしてです?」

澪「それは…………」

梓「?」

澪「……梓と二人だけで解決したことにするほうが素敵だ、て唯が」

梓「無邪気なもんです……」


澪「今日この七夕企画に誘ったのは、きっちり全て話したほうが良いと思ったからだ」

澪「わたしは恋人に相談する勇気すら一人で奮い出せなかった……。そんなわたしの弱さを梓に隠すのは、唯にはわるいけど卑怯だと思い直した」

澪「梓に幻滅……いや、とっくに幻滅してたな。あの日梓に幻滅した、て言われたもんな。幻滅に幻滅を重ねてしまった。ハハッ、いいさ。隠さなきゃ傷つく自尊心なんて梓の前ではもうない」

梓「残念でした。今度は幻滅しません」

澪「えっ?」

梓「カッコよくて頼れる先輩像はとっくに跡形もなく崩れてますから幻滅の余地がありません♪」

澪「なっ……言ってくれるなーこのーっ」グリグリ

梓「きゃーっ」


澪「コホンッ。これが今晩伝えたかったことのすべてだ……です」

梓「あの問題の裏で澪先輩がそんなことになっていたなんて」

梓「わたしから後でみなさんにお礼言わないといけませんね」

梓「澪先輩とお付き合いするようになって、その裏で澪先輩は重大な悩みを抱えて、親友たちの助言を得て、解決した」

梓「みなさんの支えがあったから、わたしたちは今も恋人でいる」

梓「えーっと……ということは問題が解決した翌日、わたしたちの関係をHTTのみなさんに知らせましたけど、あれは単なるお披露目的なものじゃなかったんですね。もっと深い祝福だった。なのに唯先輩のせいでわたし一人だけ理解してなくて仲間はずれにされた気分ですよ、まったくぅ……」

澪「あははは……」

梓「でも、まあ……唯先輩にそんなこと言えた口ではないです、わたしは。恋人を名乗っておいて、澪先輩に打ち明けられるまで、恋人の悩みの相談に乗れなかった」

澪「それは……しかたないさ。わたしが何もない風に周りに振舞っていたから、打ち明けるまで梓は知らなくてm」

梓「いえっ、解っていました」

澪「えっ……?」


梓「いや、解ったとは違うのですけど……。それに話を聞く限りでは、澪先輩の悩みに気づいたのは律先輩よりずっと後でしょう、おそらく」

梓「澪先輩から憂鬱な雰囲気をほんの少し感じ取りました。けれど態度に表れないし、なにより困ったことがあれば恋人のわたしに相談してくれると思っていたから訊こうとしなかった。今思うと恋人って立場に甘えていただけです……」

澪「……」

梓「ある時ふと、ほんとうになんでもないときにふと、わかったんです。澪先輩の悩みの正体が。そして先輩が一人で解決しようとしていることも」

梓「ポッと頭に過っただけで確証なんて無くて……。それなのに確信がありました」

梓「そしたら今度はわたしが悩んでしまいました……。澪先輩に気づかされたんです、壁の存在に」

梓「死角にいた壁が問いかけたんです。あんたは澪先輩を理想の男像に重ねているだけじゃないかって」

梓「先輩のコトバを借りて表現したけど、実際には自分へ宛てた独り言だった」

梓「わたしはけいおん部に入った頃から、先輩をカッコよくて頼れる人だと尊敬していました。一度部を辞めようとしたのを撤回したのも澪先輩が信頼できたから。部活だけでなくプライベートでも澪先輩と二人っきりで過ごすことが珍しくなくなった頃には、信頼が恋慕に変わっていました」

梓「壁が問いかけたようなことを考えたこともないです。だから自分が呟いたとは……正直今も信じられなくて。それに呟きの内容について触れるのが恐くなりました。まるで自分を構成する大事な部分を稚拙な手で弄り回すような危うさがあった」

梓「そこであの独り言を聴かなかったふりをすることにしました。べつのことに夢中になることで思慮がそちらへ向くのを避けたりもしてきました……」

梓「それでも壁から逃げることはできなかった……。とうとう夢の中に出てきたんですよっ!!男の人の身体になった澪先輩がッッ!!!」

澪「あ…梓……?」

梓「わたしは恐くなって逃げようとした!けど身体が言うことを聞かなかった!!勝手に身体が動いた!そしたらそいつも近寄ってきた!嫌なのに腕の中に抱かれたッ!嫌なのに!」

梓「気持ち悪いのに、わたしの身体は気持ちよさそうにしててっ!!そいつに身体をまさぐられてッ!!!恥ずかしい声を出させられた!あげくわたしの身体がそいつに抱きついて押し倒させて……グゥヴェエエエエエッ、はあはあ…ヴェエエエッッッ!!グォホッ!ゴホッ!!」

澪「お、おい!もういいよ!!辛いだろ!?」

梓「ゲホッゲホォッ、ハァッ、ハァッ……」

梓「すいません取り乱して……」

澪「辛かったなあ……。辛かったなあ……!」ぎゅっ

梓「あぅっ、暗闇で急に抱きつかないで…………やっぱりこのままでいて」

澪「よしよし…………」なでなで


梓「もう平気です……」

澪「すまなかった……気づいてあげられなくてすまなかった……」

梓「せ、先輩は悪くないです!それに先輩だって自分のことに必死だった!」

澪「あずさ……」

澪「……よしわかった。二人とも反省すべきところがあった。お互い変な意地を張るのやめよう」

梓「はい……」

澪「正直こんなに深く話す予定じゃなかった……」

梓「わたしは……これで良かったと思います。勢いで話してしまいましたが、おかげで胸のつっかえが取れた気がします」

澪「……ふふっ、わたしもすっきりした」

澪「よし!湿っぽい空気をカラーッと吹き飛ばそう!わたしの用はもう全部済んだけど、梓はなにかビデオに撮ることあるか?」

梓「ビデオ?」

梓「あ、しまったー!!あんな内容をビデオレターにするなんてヤですよ!?」

澪「  ダメなの?  」

梓「ダメですぅ!!」


澪「梓ってカメラの存在を忘れやすいな。よし覚えた」

梓「いらないこと覚えないで!?もうカメラの電源切ってください!」

澪「切ってもいいけどその前に撮れてるか確認したいことがある」

梓「えー今見返すのはやめましょうよぉ」

澪「いや、これは梓に関わることだから梓は見返さないといけない」

梓「この流れだと嫌な予感しかしないのですが……やっぱり見返すのは後日にしましょうよ」

澪「わかったよ……。代わりにひとつ訊かせてくれ」

梓「えーもう眠いです。膝枕して欲しいなぁ……」

澪「……わたしの汗って甘しょっぱいのか?///」

梓「……起きてたんですかっ!?///」


澪「梓って変態さんなんだな///」

梓「ちがーうっ!あれはほんの出来心で!」

澪「フェ、フェチは人それぞれだもんな。ただ相手の了承があったほうがヒかれないと思うぞぉ……」

梓「ヒかないで!ごめんなさいごめんなさい!」

澪「でもな!ほんとうのところ…う……うれしかったんだ///」

梓「えっ……///」

澪「あああ!ぶっちゃけるとな!胸がキュンときた!」

澪「今まで見たことのないあの梓がすごく愛おしく思えた……」

梓「先輩……」

澪「梓!わたしは確かにあの時うれしかった!うれしかったよ!」ぎゅっ

梓「きゃっ!わ、わかりましたから急に抱きつかないで///」

澪「梓のフェチ、受け入れていくから!あっ、もしかして梓!直で汗舐めとりたいか!?い、いいよ!フェチだから仕方ないよ!今右のほっぺに垂れてるんだ!舐められるなんて初めてだから過剰に反応しちゃうかもしれないけど、わたし慣れるから!舐めて!さっきからドキドキがとまらないの!あとやさしく舐めてね///」

梓「こんなときに頭よわいモード!?わからないけどわかりましたから舐め舐め連呼しないでくださいよぉ!///」


 ぺろっ


梓「はぁ、はぁ、はぁ、///」

澪「ゾクゾクしたぁ……甘しょっぱい?///」

梓「ノォォォォコメントォ!!!」

澪「ひぃっ!?」

澪「あ、あの。さっきも言ったように梓のフェチをどんどん受け入れていくから!」

澪「なのでこれからも貴女の恋人として側に居させてください///」

梓「えぇこちらこそっ!!ただし澪先輩の考えるようなマニアックな意味じゃなくて!!!」

梓「ってアーッ!!!!」

澪「わっ!?」

梓「わっ!じゃないですよ!ビデオにこんな話を残すつもりですか!?」

澪「わたしは……べつにいいぞ?」

梓「カットです!あとで絶対編集しますからね!絶対!///」

澪「えっー!?」

梓「もちろん先輩が最初っから盗撮してた部分は全カット!ビデオレターも星に関係ない部分はカットです!」

澪「それじゃ梓の間違った大三角形の紹介以外見どころがないじゃないか!反対!」

梓「うあああああ!!やっぱり全カットでs……!」

梓「お……お腹が痛い……トイレェ……」



 プツンッ



 ――ねえ、あの頃のわたし。貴女の悩んでいることは決して無駄にならなかったよ。それは試練です。その試練を乗り越えた先に本当の幸せがあります。一度乗り越えてしまえば同じ試練を二度でも三度でも、簡単に乗り越えてしまえます。

 あずさは澪のために、澪はあずさのために、生きる。でも生きるには一人で抱え込んではいけない。貴女には愛してくれる仲間がいる。どうかそれを忘れないで。

 貴女はシャボン玉は好きですか?どちらでもないでしょうね。未来のわたしはシャボン玉が大好きです。貴女には想像もつかないかもしれない。そんな子供の遊び、と一蹴してしまいますか?

 優しく吹くだけで飛んでいくそれはか弱く、それでいて美しい色合いを纏う。わたしの目はたゆたうシャボン玉に惹かれ見守ってしまう。ときどきシャボン液に濡れた手を差し出して、そっと乗せ、眺める。

 幸せとは泡のように脆いもの。あのなんでもない雨粒が当たるだけで弾け、無害でかわいらしいぬいぐるみに触れたらやっぱり割れてしまう。泡の表面では様々な色のひしめく群像劇が繰り広げられていて、見つめる者を楽しませる。

 わたしはこの儚い美しさを大切にしたい。キミも一緒にどうです?




こんどこそおしまい

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