モバP「悪い夢のあとに」 (36)

撮影スタジオ―――


「――よし、カット! 今日はここまで!」

加蓮「お疲れさまでしたーっ!」



加蓮「ふー……。疲れたぁ」

P「お疲れ、北条」

加蓮「あ……プロデューサー。お疲れさま、今日の私どうだった――」

P「さぁ、共演者に挨拶して帰るぞ」スタスタ

加蓮「……。うん……」

P「なんだ?」

加蓮「う、ううん。なんでもないよ」

P「そうか」


加蓮「…………」



加蓮(少しくらい……褒めてほしかったな……)

http://i.imgur.com/eMpB4nC.jpg

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―――
――


事務所―――


P「……ということだ。なにか質問は?」

加蓮「ううん、大丈夫」

P「ならいい、次の撮影は明々後日だ。体調には気をつけておけ」

加蓮「うん、わかった」

P「じゃ、今日はこれで終わりにしよう」


加蓮「……ね、ねぇ」

P「ん? なんだ」

加蓮「今日の撮影、どうだったかな? 演技とか、その……」

P「演技? そうだな……」

加蓮「…………」

P「特に言うことはないな。レッスン通りだ」

加蓮「…………そっか」

P「なにか不満でもあるのか? それならトレーナーに伝えておくぞ」

加蓮「ううん、いい……大丈夫。気にしないで」

P「……? まぁいい、とにかく今日は終わりだ」

加蓮「ん……」コクン

P「明るいうちに帰れよ、最近は物騒だから」

加蓮「…………」



加蓮(せめて、もっと一緒に……)

加蓮(だって)

加蓮(だって、今日は――)



P「あぁ、そうだ」

加蓮「!」

P「ひとつだけ言いたいことがあった」

加蓮「う、うん。なに?」





P「いい加減、敬語くらい使え。一応こんなんでも俺は上司だぞ」



加蓮「ぁ……」



加蓮(……そう、だよね……)



加蓮「…………」


P「返事は?」

加蓮「……はい……ごめん、なさい。次から、気をつけます……」

P「それでいい。じゃあな、お疲れ北条」


がちゃ ばたん


加蓮「…………」




加蓮「…………」ポツン



加蓮「…………あはは」

加蓮「なに期待してんだろ……バカみたい」

加蓮「プロデューサーがお祝いしてくれるなんて……あるわけないじゃん」


加蓮「バカだなー、私」


加蓮「……ホント、なにしてんの」

加蓮「…………」


加蓮「……あーあ。なにやってんだ、私っ」フルフル

加蓮「ダメダメ、せっかくアイドルになったのにさ!」


加蓮「もっと前向きになんなきゃ」ジワッ

加蓮「もっと、もっと……楽しく、しなきゃ。夢叶った……のに」


加蓮「なのに…………なんで」ポロ


加蓮「なんでこんなに……」



加蓮「……寂しいの、かなぁ……っ」ポロポロ

加蓮「やだよ…………こんなの……っ」


加蓮「アイドルって……こんなに寂しいものだったのかな……?」


加蓮「全然、楽しくない…………楽しくないよぉ……!」ギュ



加蓮「ぐす、うぅぅ…………!」






加蓮「ねぇ、誰か……」






加蓮(私を助けて――)





―――


――ん

ねぇ、――ってば!



――加蓮!



加蓮「………………ん」パチッ



「あ、やっと起きた。大丈夫?」



加蓮「…………あ」





加蓮「……りい、な……?」


李衣菜「うん、私。なんだかうなされてたみたいだけど……加蓮、平気?」

http://i.imgur.com/O3pOLat.jpg

加蓮「うなされてた……? 夢……だった、の?」

李衣菜「夢? ……うーん、ちょっとおでこ貸してね」ペタッ

加蓮「…………」

李衣菜「……うん、熱はないみたいだけど。どこか具合悪いところとか――」


加蓮「……っ」


ぎゅっ

李衣菜「ってうわあぁ!? ななな、なになになにっ?」

加蓮「李衣菜……りいなぁ……!」

李衣菜「ど、どしたの加蓮? そんなに嫌な夢だった?」

加蓮「……っ」ギュー

李衣菜「……うん、そっか。へーきへーき、私がついてるでしょー?」ナデナデ

加蓮「ん……うん、うん……!」

李衣菜「よしよし、大丈夫大丈夫……」

―――


李衣菜「どう? 落ち着いたかな」ポフ ポフ

加蓮「……ごめんね李衣菜、ありがと」ギュ…

李衣菜「いいよ、別に。へへ、加蓮に頼られるの、けっこう嬉しいし」


加蓮「ふふ……なんだかお姉ちゃんっぽいね」

李衣菜「えっへん」

加蓮「……あったかい」スリスリ

李衣菜「加蓮もあったかー。えへへ♪」

加蓮「ふふ♪」

がちゃ


泰葉「李衣菜。そろそろPさんが戻ってくる頃だから、加蓮を起こし、て……」



李衣菜「あ」ギュー

加蓮「あ、泰葉」ギュー



泰葉「…………」



泰葉「うん、大丈夫。前の事務所でもそういうのあったし私は別に気にしないよ」ニッコリ

李衣菜「待って泰葉、違うよ!?」

泰葉「ふふっ」ススス

李衣菜「いやふふっじゃなくて、後ずさりやめて! 泰葉ってば――!」

http://i.imgur.com/Qq1ceuO.jpg

―――
――



加蓮「――ってわけで、ちょっと李衣菜に甘えてたの」

泰葉「そっか……そうだったんだね」


李衣菜「誤解が解けてなによりだよ……」

泰葉「てっきり李衣菜がロックに目覚めたのかと思ったけど」クスッ

李衣菜「てっきりて……それに私はもともとロックなんですぅー」ムスー

泰葉「はいはい、そうだね」

李衣菜「な、流された……!」

泰葉「ふふ……それで、加蓮」

加蓮「あ、うん……なぁに、泰葉」


泰葉「あんまり夢のこと……気にしないでね」

泰葉「私も李衣菜も一緒だから。独りじゃないでしょう?」

加蓮「……うん」

泰葉「大丈夫。もしまた、変な夢を見ても……」


泰葉「私たちがついてるから。心配しないで、加蓮」


泰葉「ねっ?」ニコッ



加蓮「……うんっ!」

李衣菜「あはは、言いたいこと全部泰葉に言われちゃった」

泰葉「ふふっ、私の勝ちかな」

李衣菜「えー。なんの勝負なの、もう……」


加蓮「えへへ……二人ともありがと。大好き」

李衣菜「うん。私も二人のこと大好きだからねっ」

泰葉「私だって大好き。親友だもの!」

加蓮「ふふ……親友、かぁ。なんだか嬉しいな」

泰葉「ちょっと恥ずかしいね……こういうこと言うのって」

李衣菜「泰葉は恥ずかしいんだ? じゃあ私の勝ちー」

泰葉「あ、ずるい李衣菜。さっきのは嘘、全然恥ずかしくないから」

李衣菜「ダメですー、そんなの認められませーん」

泰葉「認めなさい、先輩命令ですっ」

李衣菜「岡崎先輩こわーい、あははっ♪」

加蓮「ふふっ。二人とも、喧嘩してたらまた怒られちゃうよ?」

李衣菜「喧嘩じゃないよー、泰葉と遊ぶの楽しーなー♪」ナデー

泰葉「もう……じゃあ私は加蓮をっ」ワシャー

加蓮「きゃ……やったなーっ! それなら私は李衣菜っ!」ナデナデー

李衣菜「あはっ、くすぐったいよぉ!」

泰葉「ふふふっ♪」

加蓮「えいえいっ、なでなでーっ♪」


きゃいきゃい

   あははは……


―――
――

―――


がちゃっ

P「ただいまー。悪い悪い、遅くなって」


李衣菜「あ、Pさんおかえりなさいっ」

泰葉「お疲れさまです」

加蓮「おかえりー」


P「お、三人揃ってるな。……なんでお前ら、髪の毛ボサボサなの?」

李衣菜「えへへー」

泰葉「ちょっと遊びすぎちゃって。ふふっ」

P「んー? よく分からないけど仲良しそうでなによりだ」

加蓮「でしょー? んふふー」

P「ん……?」

加蓮「? なに?」


P「…………。なんかいいことあったか、加蓮」

加蓮「え……? どうして?」

P「いつもより笑顔が三割増しだからさ。なにかあったのかと思って」

加蓮「……うん。あったよ、すごくいいこと。ふふ」

P「うん、そっか」ナデ

加蓮「えへ」

李衣菜「…………♪」

泰葉「…………」ニコニコ


加蓮「あ、なに笑ってんのー?」

李衣菜「別にー?」

泰葉「ふふ、なんでもないよ。ね?」

李衣菜「ねー?」

加蓮「むー、気になるなぁ」


P「……ふふ」

P「……李衣菜、泰葉」

李衣菜「へっ?」

泰葉「はい?」

P「ありがとな」ナデナデ


泰葉「え、お、お礼を言われることなんてなにも……!」

李衣菜「そっ、そうですよ! なんですかいきなりっ」

P「んー……なんとなくだ、なんとなく」ナーデナーデ

加蓮「二人とも顔赤いなー、なんでかなぁ?」ニヤニヤ

だりやす「あ、赤くないっ!」

P「ははは……」

―――
――



P「さて、そろそろ出かけるかー」

泰葉「そうですね。もう日も落ちましたし」

李衣菜「私たちは準備ばっちりですよっ」


加蓮「あれ、どこか行くの? お仕事あったかな……」

李衣菜「あ、そっか。加蓮にはまだ言ってなかったっけ」

加蓮「んー? なんのこと?」

泰葉「ふふ……Pさんから伝えてあげてください」

P「え、俺? あー……そうだな。なぁ、加蓮」

加蓮「う、うん。なに?」






P「……ハッピーバースデー。誕生日おめでとう、加蓮」




加蓮「ぁ……」


李衣菜「へへ。加蓮、おめでと!」

泰葉「おめでとう。ふふ、また同い年だね」

加蓮「う、うん……! ありがと……」


P「それで、プレゼントなんだけど……」

P「少し前に、『いつか豪華な食事がしたい!』って言ってたろ?」

加蓮「あ……言った、かも?」

李衣菜「Pさんがね、私たち三人連れてってくれるって!」

泰葉「綺麗な夜景も観られる、って。奮発したんですよね?」

P「お、おう。満足してくれるかは分からないけど……」

加蓮「嬉しい……えへへ」

P「形に残るものの方が良かったかもしれないけど、そっちは二人に任せたよ」

加蓮「そっち、って?」

李衣菜「ふふ。私と泰葉で、プレゼント用意したんだよ」

泰葉「きっと気に入ってくれると思うな」

加蓮「本当? じゃあ楽しみにしてるね」

李衣菜「ま、そのお楽しみは豪華ディナーのあとってことで! ね、Pさんっ」

P「あ、あんまりハードル上げないでくれよ」

泰葉「いいえ、期待してます。これは先行投資ですよ?」

P「うっ……」

李衣菜「楽しみだね泰葉!」

泰葉「うんっ、李衣菜!」

だりやす「いぇいっ♪」ハイターッチ

P「はぁ……あはは」


加蓮「…………」



加蓮(……ふふ)

加蓮(やっぱり楽しいな。アイドルになれて……ここにいられて、よかった……)

加蓮(もう大丈夫。……独りじゃないもんね!)

泰葉「ほら、加蓮もっ」

李衣菜「はいたーっちっ!」

加蓮「うんっ!」


ぱしーんっ


だりやすかれん「いぇーいっ♪」



加蓮(これからも、ずーっと楽しい日々が続きますように!)

加蓮「ねぇっ、泰葉、李衣菜! ……Pさんっ!」


泰葉「どうしたの?」

李衣菜「なーにっ?」

P「なんだ、加蓮?」



加蓮「本当に……どうもありがとうっ!」



加蓮(私、もう寂しくないよ!)



おわり

仲間だもんげ!

というお話だったのさ
新ジャンル「だりやすかれん」を書きたかったんだ、好きなんだすまない

加蓮、誕生日おめでとう!

おつ
絶許

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