モバP「ブスだなー」 (440)

卯月・未央・凛「」

P「いやー、びっくりびっくり。入って3秒ブス祭りとかいじめかと思うわ」

社長・ちひろ「」

P「俺事務所間違えた?」

ちひろ(…ちょっと社長!なんちゅう人スカウトしてきたんですか!三人とも固まっちゃってるじゃないですか!)

社長(ティンと来て引き抜いてきたんだが、まさかこんな感じだとは…)

ちひろ(とりあえずどうにかしてくださいよ!)

社長(う、うむ)


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社長「えー、本日から我が社で共に働くことになったP君だ」

P「どうもー、今日からお前らブスどもをプロデュースすることになったPだ。よろしく。しかしブスだなお前ら」

卯月・未央・凛・社長・ちひろ「」

P「そりゃ前のプロデューサーも辞めるわけだ」

卯月「あ、あの!」

P「なんだ?」

卯月「わ、私のことを罵るのは構いませんが、前のプロデューサーのことを悪く言わないでください!」

P「島村」

卯月「はい」

P「俺は一言も前プロデューサーを罵ってはいない。彼の苦労を思っただけだ。ブス三人をニュージェネレーションというユニットとしてこのプロダクションから必死に売り出そうとしていた彼の努力を。相当優秀なプロデューサーだったんだろう。こんなブスをここまで売れる商品に仕立て上げたんだからなあ」

卯月「」

P「俺は努力する人間、努力した人間を蔑むことはしない」

未央「じゃ、じゃあ!」

P「だが本田、それは俺がこの目で見てそう思えた時だけだ。それ以外はクソの足しにもならん。お前らブスの努力なんぞ、前プロデューサーの比ではない。お前らがここまで来た努力なんぞ、アイドルを目指す人間がすべからく通る道だ。自慢にも賞賛にも値しない」

凛「…あんたはプロデューサーと私たちの何がわかるっていうの」

卯月「ちょっと」

凛「卯月は黙ってて」

卯月「……」

凛「私たちは今まで一生懸命頑張ってきた。プロデューサー一人が頑張ったわけじゃない。私たち三人と一緒になって必死にここまで登ってきた。その努力を否定される言われはない」

P「威勢がいいな渋谷。もっと寡黙な奴かと思ったがそうでもないんだな。うるさいブスか、最悪だな」

凛「卯月も言ったけど、私を罵るのはいいよ。でもプロデューサーのしてきた事を悪く言うのは許さない。ニュージェネレーションは彼と私たちが努力して出来た結晶。それを否定するのは彼のやってきたことを否定するのと同じなの。撤回して」

P「思った以上に面倒くさいな。こりゃ前プロデューサーもお前らのことを見放すわけだ」

凛「…どういうこと?」ギリッ

P「どうもこうもないさ、言葉の通りだ。ねえ社長」

社長「……」

凛「社長、どういうことですか」ジロ

社長「いや…なんというかなあ」

ちひろ「…」

P「今のお前らブスには到底理解できないから聞いても意味ねえよ」

凛「あ?」

未央「ちょっと凛!」

P「怖いねぇ。アイドルの顔とは思えないわ。
ま、真実が聞きたいなら俺の懐が温かくなるぐらい立派なアイドルになることだな」

凛「…最低」

未央「…酷い」

卯月「…うぅ」グス...




P「おう、なんとでも言え。クズで結構。最低上等。泣くほど悔しいなら俺をアッと言わすよう努力するんだな」ハハハ

ちひろ「え、ええっと。あ、そうそう今日はこの後3人はレッスンだね!スタジオに移動しましょう!」

社長「そ、そうだな!さあ三人とも移動移動!」

「「「…はい」」」

P「じゃあ俺も見学させてもらうか。今日はそれぐらいしか予定もないしな」

凛「……」ギリ

P「ひゅー」

社長(どうしたものか…)

ちひろ(どうしましょう…)

事務所

社長「P君」

P「はい?」

社長「いや、どういったものかな。彼女たちは多感な年ごろだ。
彼女たちには少しきつすぎるのではないかな。言葉もそうだが、態度も対応も」

P「社長」

社長「なんだね?」

P「あれはだいぶ抑えた方ですよ?」

社長・ちひろ「」

P「もう少しきつくてもいいかなとも思ったのですが、
あまりにも彼女たちがひどいもので呆れてあれぐらいになってしまいました。
なんというか、彼女たちはそこまでなんだなと」

社長「…そこまでとは?」

P「彼女たちはアイドルでもプロでもなんでもない、ただの傀儡であることに満足しているんだなと」

社長「傀儡?」

P「はい、傀儡です。偶像でも象徴でもなく、ただ踊らされているだけです。だから…、いえ、まあそういうことです」

社長「君は彼女たちに何を見た」

P「何も。彼女たちからは何も見えません。そこらへんに転がっている石となんら変わりありません」

社長「そうか。なら君は彼女たちをどうする?見捨てるかい?」

P「ただ俺は俺の信じる道を進むだけです。それが間違っていればどうぞ自由に俺を捨ててください。
俺が捨てられることはあっても俺は誰も捨てません。それが俺の信じる道です」

社長「…わかった。それがどこまで本当なのか見極めさせてもらおう」

P「はい」

スタジオ内


トレ「ちょっと休憩入れましょうか」

「「「はい」」」

トレ「島村さん、ステップ遅れてる」

卯月「はい」

トレ「本田さん、この前教えたところまた間違えてたわ」

未央「すみません!」

トレ「渋谷さんはキレが悪いわね」

凛「…はい」

トレ「今日は三人とも調子が悪いけどどうしたの?」

未央「…それは」

P「おーす、真面目にやってるかブスどもー」ガチャ

トレ「?!お疲れ様です、あなたが新しいプロデューサーさん?」

P「はい、Pと申します。よろしくお願いいたします」

トレ(聞き間違えだったのかな、ブスって)

P「レッスン中は拍車をかけてブスだなお前ら」ハハハ

トレ(間違ってなかった!)

凛「…集中切れるから出てってくれない」

未央「凛!」

凛「…何?」

未央「いや、そのさぁ」

P「俺一人で集中切らすとか相当集中力無いんだな。あ、ブスだからしょうがないか」

トレ「」

P「ま、これから仲良くやってくんだからレッスンぐらい見せてくれや、ブスリン」

凛「…死ね」

P「ひゅー」

卯月「ト、トレーナーさん!レッスン再開しましょう!」

トレ「そ、そうね。じゃあプロデューサーさんはちょっと」

P「適当に邪魔になりそうなところで見てますよ。お気になさらず」

トレ「」

未央「トレーナーさん!」

トレ「はっ!じゃ、じゃあ早速再開しましょう!」

凛「…チッ」

P「イエーイ」

卯月「」

ダンスレッスン・ボイストレーニング中

P「……」

トレ「はい、じゃあ今日はここまで!」

「「「ありがとうございました」」」

P「やっと終わったかー、見てるこっちも疲れるレッスンとか本当にひどいな」

トレ「ちょっとプロデューサーさん!」

P「はい?」

トレ「先ほどから言葉が過ぎませんか」

P「そうですか?」

トレ「そうです!酷いってもんじゃありません。とても担当するアイドルにかける言葉ではありません!」

P「担当するアイドルねえ」

トレ「ええ!」

P「俺はこいつらのことをアイドルだなんて全く思っていないので心配無用です」

トレ「えっ」

P「言葉通りですよ。こんなブスをアイドルなんて言うなら日本中アイドルだらけになっちゃいますよ」ハハハ

トレ「」

P「さてと、色々わかったことだし今日はこのあたりで失礼するかね。おいブスども!」

「「「……」」」

P「返事もできないなんてブスとかそれ以前の話だな。まあいいや。
ブスが風邪なんかひいたら目も当てられないから早く着替えて帰るんだな」ハハハ

ガチャ

トレ「…あれは何?」

未央「…なんというか」

卯月「うぅ...」

凛「ただのクズ野郎だよ。プロデューサーでもなんでもない。ただのクソ野郎」

トレ「渋谷さん…」


P「…」

数日後

ちひろ(どうも、可愛い事務員ちひろです。新しいプロデューサーさんが入って数日経ちました。
初日は険悪ムードの中の自己紹介でした。さてさて今日はどうなることやら。事務所の扉を開けましょう!)

P「おはようございます、千川さん」

ちひろ「」

P「どうかしましたか?」

ちひろ「はっ!おはようございます。いつも私が事務所に一番で来ていたので驚いてしまいました」

P「それは失礼しました。いつもこれぐらいには事務所にいたので。
引っ越しなんかの身の回りの片づけが終わったのでこれからは通常営業です」

ちひろ「そうなんですね。それにしても早くないですか?」

P「目を通さなければいけない資料が多いので。それに今日はニュージェネレーションの握手会でしょう。
軽く準備をと思いましてね」

ちひろ「久しぶりの握手会ですけれど、そんなに何か準備が必要でしたか?
準備は私の方で整えましたから、昨日渡した資料の内容で十分かと思いますが」

P「このプロダクションにきて初めての仕事ですからね。過去の資料と他の握手会の資料を見させてもらっていました」

ちひろ「…仕事熱心なんですね。彼女たちに対してはあんなに冷たいのに」

P「別に熱心ではないですよ?当たり前のことです。それに冷たく接しているわけではありません。普通の対応です」

ちひろ「あなたの基準がわかりません」

P「出会って数日ですからね。それで色々わかればエスパーか、よほどじっくりと見ているかのどちらかです」

ちひろ「そうですか」

ガチャ

未央「おっはようございまーす!」

ちひろ「はい、おはようございます」

P「おはよう、随分早い出社だな。いい心がけだ。見どころあるブスだな」

未央「…担当アイドルに朝一でブスって言うのはプロデューサーとしてどうなの?」

P「思ったことが口に出てきてしまうのが俺のいいところでな」

未央「…そう」

P「ああ。言いたいことは言う。それが一番だ」

未央「そっか」

P「そうだ。本田も言いたいことがあるなら言っておけよ」

未央「…私はあなたのことが嫌い。しまむーもしぶりんもあんたのことが嫌いだよ。わかってると思うけど」

P「これで好かれてたら相当気合の入ったドMか極度の変態だろう。
三人とも一応正常なブスだとわかって俺は嬉しいよ」

未央「私は全然嬉しくないよ。二人は一緒に仕事したいとも思ってないだろうし」

P「それは光栄だ。俺もお前らなんかと仕事をしたいと思わない。
とっとと売れるようになって新しいプロデューサー雇ってほしいわ」

未央「ほんと最っ低だね」

P「褒め言葉としてもらっておこう」

ちひろ「朝から険悪ムードやめやめ!未央ちゃんあっちで今日の握手会の打ち合わせしましょう!」

未央「は~い」

P(ここにいると嫌でもからまれそうだ。資料を読むのも面倒になりそうだし、応接室に移動するか)ドッコイセ

凛「…おはようございます」

卯月「おはようございまーす」

ちひろ「はい、二人ともおはよう。奥で未央ちゃんいるから待っててね。握手会の打ち合わせをしましょう」

卯月「はい!」

凛「…ちひろさん、あいつは」

ちひろ「プロデューサーさんは応接室で資料見てるわ。
粗方打ち合わせ終わったら最終確認をプロデューサーさんとしましょう」

凛「嫌」

ちひろ「凛ちゃんが嫌がるのは十分わかるけど、仕事って嫌な人とも顔を合わせなきゃいけないことの方が多いのよ。
仕事と割り切ってお願いね」

凛「…はい」

P「おーっす、揃いも揃ったりブスどもー」

卯月「あ…おはようございます」

凛「こんな奴に挨拶なんかしなくていいよ」

P「そうつれないこと言うなよブスリン。せっかくの俺らの初仕事なんだからさあ」

凛「これが最後の仕事になるといいと本気で思ってるよ」

P「お前らが俺の懐を潤してくれるまで辞める気はないぜ」キリッ

凛「死ね」

卯月「ちょっと凛ちゃん!」

凛「何?」ギロ

卯月「うぅ…」

P「それぐらい威勢がいいとからかいがいがあるってもんだ」

凛「本気で言ってるんだけどね」

P「俺も本気さ」

未央「…」

ちひろ(…本当に大丈夫なのかしら)

P「さ、俺も久しぶりの握手会に向けて出発と行きますかね。車出してくるから準備してから降りてこいよー」ヒラヒラ

凛「私今日仕事やめていい?」

ちひろ「仕事って嫌なこともあるんだよ。それを乗り越えてこそ!」

未央「…あっと」

凛「何?」

未央「えっと…、いやさ!さっさと準備しちゃおう!またあいつになんか言われるのも癪だしさ!」

卯月「そうだね!お仕事だもん、頑張らなきゃ!」

凛「…うん」

未央「…」

ちひろ「?」

握手会会場

P「ご無沙汰しております!Pです!今はCGプロにお世話になっています。
おかげんいかがですか?変わりありませんか?」

卯月(…めちゃくちゃにこにこしながら話してるよ!)ヒソヒソ

未央(知り合いなのかな?)ヒソヒソ

凛(外面だけ整えるとか吐き気がする)ボソ

P「見ての通りまだまだの三人ですが今日はよろしくお願いいたします」

卯月・未央・凛 ペコリ

ニュージェネレーションアクシュカイカイジョウハコチラデース!

ワイワイガヤガヤ

P「暑い中これだけの人数がくるっちゅうのは相当だな。流石前プロデューサー様。おいブスども!」

「「「…」」」

P「俺と仕事するのが嫌だろうがなんだろうが知らねえが、
今ここにきているファンのためにお前らのやるべきことをやりやがれ」

卯月「…はい」

未央「…はい!」

凛「…」

P「お、ブスリン返事はどうした?仕事だぞ仕事。前プロデューサーと一緒にやってきた大切なファンとのお仕事だぞー」

凛「軽々しくプロデューサーのことを口に出さないでくれる?汚らわしい」

P「おーこわ。ま、なんだっていいさ。ブスでもファンにとってお前らはアイドルだ。
怖い顔なんかしないで笑顔で行けよー。ちょっとはブスも見れるようになるかもしれんしな」ハハハ

ニュージェネレーションサン、ニュウジョウオネガイシマース

P「さ、行った行った。ファンと交流してこいよー」

「「「…」」」

ソレデハ、ニュージェネレーションノサンニンノトウジョウダー!

ワーーーーーーーー!!

P(…さてと)

プロデューサー君が辞めてもう数か月が経った。特にしまむーとしぶりんが酷かった。
私も当然のようにショックだったし、しばらくは食事も喉を通らなかった。
それだけプロデューサー君を信頼していたし、大切だったんだと思う。

でもしまむーもしぶりんもそれ以上にプロデューサー君が大切だった。
だから今でもまだ彼の影を引きずっている。
どうにかならないかなと頑張ったけど、彼を大切に思っていたのは一緒だから、
何を言っても慰めにならないことを知っているから、余計にかける言葉がなかった。

新しいプロデューサーが来るという話があった。新しいプロデューサーが来た。
でもすぐ辞めた。仕事の大変さよりも何よりも事務所の雰囲気に耐えられなかったのだと思う。

また新しいプロデューサーが来た。でもすぐ辞めた。
四人目のプロデューサーが辞めた時、社長も諦めて色々落ち着くまで社長とちひろさんが私たちの面倒を見ることになった。

今までの仕事をひたすらこなす。定例ライブも営業活動も。
プロデューサー君が作ってきた仕事をただひたすらこなす。
そうすることでしまむーもしぶりんも少しだけ気力を取り戻したような気がした。

そして数日前あいつが来た。センセーショナルな言葉を放ち、私たちに言いたい放題。
それでも私はそれがなぜか嬉しかった。今まで来たどのプロデューサーよりも私たちを見てくれていた気がした。

私はなんでアイドルなんだろうって思う。どこにでもいるような高校生だし。
それでも今日の握手会には沢山のファンの人が来てくれて、頑張ってねと言ってくれる。
それに応えるのが何より楽しいと思える。だから私はここにいる。

でもしまむーもしぶりんもそうじゃないみたい。
二人はプロデューサー君との繋がりを壊さないようにニュージェネレーションの仕事をしているように感じてしまう。

だからあいつは私たちに、



P「お前らアイドル失格だ」



そう言い放った。

P「お前らは何のためにアイドルをやってるんだ。前プロデューサーのためか?」

静かに、落ち着いた口調であいつは聞いた。

凛「…そうだよ」

P「渋谷、お前帰れ。いや、もう一生事務所に来なくていい。吐き気がする」

卯月「ちょっと待ってくださいよ!」

P「待たない。お前らの目には何が見えてるんだ」

あいつはモニターを指差す。そこには多くのファンが列をなしていた。
私たちが休憩から明けるのを今か今かと待っている。

P「お前らにはこれだけのファンが見えないのか?」

凛「…見えてるよ」

P「全く見えてねえって言ってんだよ、ブスが!!」

あざ笑うだけのあいつが初めて怒鳴った。

P「お前らが見てんのは前プロデューサーが作った仕事だけだ!
何一つファンなんか見ちゃいない!お前らを支えてくれてるのはなんだ、前プロデューサーか!
違うだろ!今さっきまで目の前にいたファンの一人一人だろうが!!」

凛「…」

卯月「…」

ああ、そうだ。私たちは目の前のファンが見えていなかった。プロデューサー君との繋がりだけを見続けていた。

P「お前らが前プロデューサーとの繋がりを大切にしたいんだったら大切にすればいい。
だがな、それよりも大切にしなきゃいけないものが目の前にあるだろ!
それが見えないなら帰れ、今すぐ帰れ!金輪際アイドルを名乗るな!!」

激昂したあいつの目は何よりも真剣に私たちを見つめていた。

ソロソロキュウケイアケデース!

P「…休憩が明ける。お前らがどうアイドルとしてファンに接するか、もう一度考えながら一人一人と触れ合ってこい。
それで何も感じなかったらアイドル辞めろ」

そういってあいつは控室から出て行った。

凛「…」

卯月「…」

未央「…口は悪いけどさ、本当のこと言われちゃうと何も言えなくなっちゃうよね」

卯月「…」

凛「…」

未央「さ、気を取り直して行ってみよー!ファンのみんな暑い中来てくれてるんだしさ!」

凛「…うん」

ニュージェネレーションサンオネガイシマース!

休憩明けから何かが変わった気がした。それは小さな変化だったかもしれない。
目くばせや笑い方だったり、話し方や握手のし方だったり。
目に映るのはファンの一人一人で、それ以外には何も映らない。この人たちのために私は頑張るんだと。


P(…)

私もしまむーもしぶりんも疲れて車中で寝てしまった。こんなに疲れたのはここ最近では久しぶりだった。

P「起きろブスども。事務所だ」

未央「うぅん」ノビー

卯月「あっ、寝ちゃってすみません...」

P「そう思うなら涎を拭いて早く事務所に行くんだな」

卯月「…っ」ゴシゴシ

凛「…どうも」

P「今日はもうやることねえから荷物とって来い。駅まで送ってやる。ブスでも通り魔にあうご時世だからな」ハハハ

「「「…」」」

ブロロロロ

P「ただ今帰りましたよー」

ちひろ「お帰りなさい。みんなを駅まで?」

P「ええ。ブスだって通り魔や痴漢にあう時代ですからね。商売道具を傷つけられたらたまったもんじゃない」

ちひろ「」

P「さてと、仕事仕事」

ちひろ「はっ!そういえば今日はどうだったんですか、握手会」

P「100点満点中3点ってところですかね」

ちひろ「一人1点ですか?」

P「いえ、一人が2点で二人は0.5点といったところですかね」

ちひろ「誰が2点ですか?」

P「秘密です」

ちひろ「けちー」

P「そんなもんです。そういえば視聴覚資料とかはどこにありますか?」

ちひろ「ライブ映像とかですか?それなら奥の衣裳部屋の横の部屋に名前順に並んでいますよ」

P「ありがとうございます。後程見させて頂きます」

ちひろ(なんでこういう丁寧な口調をあの子たちに使わないのかしら)

P「?」

ちひろ「いえー。それでは私はこれで失礼しますね。プロデューサーさんも今日は早く帰って疲れを癒してくださいね」

P「どもー。気を付けてください」ヒラヒラ


P(…さてと)

未央(バックの中にないとすると事務所しかないよね。ちひろさんまだいるかなあ。
お、事務所まだ電気ついてる!ラッキー♪)

未央「おじゃましまーす」ソロリ

未央(あれ?鍵かかってなかったけど誰もいない?不用心な事務所だなあ。
…ん?この曲私たちの曲?去年のライブのかな。どこから流れてる?あいつの机から?)

未央(ん…この資料は?)



本田未央。ほかの二人と比べるとダンスも歌もレベルの差が開いているのが現実。
しかし二人よりもよっぽど彼女のダンスや歌は見ていて聴いt  バタン!



未央(やば!あいつどこからか帰ってきたみたい!どうしよ!とりあえず隠れよう!)

翌日事務所

P「ニュージェネレーションの活動を休止する。これは俺だけでなく社長の判断でもある」

卯月「…えっ?」

未央「…」

凛「…どういうこと?」

P「日本語も理解できないのかブスリン。言葉の通りだ。活動休止。それ以上でもそれ以下でもない。
異論反論は一切受け付けない。これは決定事項だ」

卯月「そんな…」

凛「…あんたはそこまでしてプロデューサーに勝ちたいの?」

P「どういう意味だ?」

凛「そうやって彼のやってきたことをぶち壊して新しく自分の功績を立てたいだけなんじゃないのって言ってんの!」

P「ははは!お前本気でそんなこと思ってんのか?」

卯月「…私たちを辞めさせたいんですか?」

P「それもいいな。ま、お前ら辞めさせるだけなら何もそんな面倒な手なんか使わずにスパッと辞めさせるさ。
それにお前らは大切な商品だ。辞めさせるには惜しいしな。
せいぜいプロデューサーさんとの思い出を抱きしめながら俺が辞めるのを待つんだな」ハハハ

凛「…後ろに気を付けなよ」

P「ご忠告どうも。格闘技の心得もあるもんでな。そうやすやすと後ろには近づけんと思うがな」

凛「…」ギリ

P「さて、活動休止と言っても何もやらんわけにもいかん。各々の活動方針も決まっている。
社長からお前らの活動内容は俺に一任されているから、口答えするなら辞めてもらう」

未央「…」

P「まず島村」

卯月「…はい」

P「お前は老人ホームと幼稚園でボランティア活動をしてもらう。千川さんに内容を伝えてある。
しばらくは千川さんと共に行動してもらう」

卯月「…アイドル活動ではなくボランティアですか?」

P「お前みたいなブスがアイドル活動なんか出来るわけねえだろ。質問も一切受け付けん。やってこい。それだけだ」

卯月「…はい」

P「次に渋谷」

凛「…」

P「返事ぐらいしたらどうだー、ブスリン?」

凛「…」チッ

P「いい返事だ。お前はさらにブスだから人前には当然出せん。とにかくお前は俺が許可するまでレッスンだ。
俺の知り合いのトレーナーを呼んでいる。そいつの指示に従え。いいな」

凛「…」

P「肯定と受け取った。ま、お前に口答えする権利はないがな」

凛「死ね」

P「なんだ話せたのか。結構結構」

P「そして本田」

未央「…はい!」

P「お前は俺と一緒に活動してもらう。内容はその都度説明していく」

未央「はい」

P「そんじゃ、今日からそんな感じで動くからよろしくー。
千川さん、トレーナーから活動報告をもらうから、真面目にやるんだぞー」バタン

「「「…」」」

凛「…ねえ未央」

未央「何?」

凛「あいつに何か吹き込まれたの?」

未央「何かって?」

凛「未央、あいつのこと嫌いじゃないの?なんでそんなにすんなり受け入れてるの?」

未央「…」

凛「未央はもうプロデューサーのことなんかどうでもよくなったんだ?移り気が早いね。気持ち悪い」

卯月「ちょっと凛ちゃん!」

凛「卯月は黙ってて」

卯月「うぅ…」

凛「ねえ、なんか言ったらどうなの。そんなにあいつがいいの?
私らのニュージェネレーションがなくなるのに何も言わない気なの?ねえ何か言いなよ!」

言葉は腐っていく。言いたい言葉がわからなくなる前に。

未央「…そうやってさ、ずっと思い出の中で生きてればいいよ。私はそんな生き方やだよ。私は前に進む」

凛「どういうこと?」

未央「そのままの意味だよ。今のしまむーもしぶりんも私は嫌い。ずっとそこにととどまって、思い出の中で生きてる。
ずっとそうしていたいならそうすればいいよ。私は先に行く。
前プロデューサーが私たちに見せようとしてた世界に私は行くよ。
ニュージェネレーション活動休止は私も賛成。今のままじゃどこにも行けないし、どこへも進めない」

卯月「…」

未央「私は私を信じて前に進む。そのためには今の二人と一緒じゃ無理なんだ。
だから、私はプロデューサーと一緒に進むことを決めた」

凛「…未央はプロデューサーのことなんかどうでもいいんだね。最低」

バシン!

卯月「ちょ、凛ちゃん!」

未央「…それで気が済んだなら私は行くね」バタン

凛「…」


P「いい音したな」

未央「…うん、いろんな意味で痛かったよ」

P「言いたいことは言えたか?」

未央「うん。ありがとね」

P「言葉はいらん。行動で示せ」

未央「うん、頑張る。…でも、今は少し泣いてもいいかな」

P「泣き終わったらお前は前に進む。約束だ」

未央「うん、約束」ユビキリ

P「…」ナデナデ

未央「…うぅ」ポロポロ




ちゃんみお立志編終わり。

最初改行酷くてすんません。
ぽつぽつ書いていければと思います。
おやすみなさい。

生きてて良かった
けど何してたんだよ元P…

>>200
最初
元P「卯月はいい子だなぁ。みんなの笑顔のために頑張れるなんて!」


→好かれる
元P「仕事も順調だな……よし、これからだ!」(お互い気づいてない)


→告白
元P「…卯月は好きだけどこれはダメだろ。断っても受けてもアイドル卯月が死ぬ」

元P「なら失踪して嫌われればいいのか!」


→いつかの未来
元P「いいアイドルになったんだな。よかったよ」


……仕事とか大丈夫かねこの元P

未央(やば!あいつどこからか帰ってきたみたい!どうしよ!とりあえず隠れなきゃ!)

ツクエノシター

P「ふぅ。よくもまあこんなに資料があるもんだ。流石というかなんというか」

未央(ドキドキ)

P「…ん?まいいか。お湯でも沸かすか」 アオイートリー

未央(ブフッ!)

P「おいブス、顔を俺に見せない努力は見上げたもんだが俺はまだ帰る予定はない。ずっと隠れてるつもりか」

未央(えっ、ばれてる!?)

P「早く出てこい本田」

未央「…なんでばれたかなー」

P「香水の匂いで誰かがいたのがわかる。柑橘系だから本田だろうと思っただけだ。難しい話じゃない」

未央「気持ち悪いねぇ」

P「匂いには敏感でな。得意先のプロデューサーさんが香水を変えたらそこから話を広げる。
業界で生き残っていくための技術だ」

未央「必要あるの?」

P「話すということは何よりも大切なことだ。話すから相手がわかる。
話すから相手を信頼できるかどうかがわかる。話すから伝わる。そのきっかけを作るのに命を懸ける。
それがプロデューサーだ」

未央「…じゃあ私たちにきついことを言うのもプロデューサーだから?」

P「いや、それは思ったことをただ口に出しているだけだ。他意はない」

未央「最悪だねー。ちょっとは遠慮とか配慮とか覚えた方がいいんじゃない?特に多感なお年頃の女の子に対してはさあ」

P「誰に対しても俺は思ったことを口にする。そうすることが一番だといつも思っている」

未央「…」

P「我慢した言葉は心に残って積もる。積もった言葉は心の中で徐々に腐っていく。
腐っていった言葉は自分を少しずつ蝕んでいく。
そしていつの間にか言いたい言葉がなんだったかわからなくなってしまう。
言葉は生ものだからな。どんどん腐っていく。それが肥やしになることもある。
ただ、多くはいい結果には結びつかんがな」

未央「…私は」

P「言いたいことがあるなら言ったらいい。本田が、プロデューサーが辞めてからいままでの間に言いたかった言葉。
まだ言葉が腐ってないなら、形が残っているなら聞いてやる」


私は、私の言いたかった言葉はなんだろう。私が二人に言いたかった言葉は。
みんなに、私自身に言いたかった言葉はなんだろう。



未央「…私は、私はもっと先の世界が見てみたいんだ」



言えなかった言葉が自分の口から漏れ出した。ずっと心にとどめていた言葉が。

未央「プロデューサー君が私たちに見せようとしていたアイドルとしての先の世界を目指したい。
しまむーとしぶりんと一緒にその先の世界に行きたい!
…でも二人はいつまでもそこにとどまって動こうとしないの。
二人の気持ちが痛いほどわかるから私は言葉をかけられなかった。
もっと先の世界を目指そうなんて言えなかった。でも言いたかった!
プロデューサー君が必死になって私たちに見せようとしてたその世界に私は行きたい!
そしたら私たちはまたプロデューサー君の前に立てると思う。
でも駄目なんだ。私は二人が大好きだから、二人との関係が壊れちゃうのが怖い」

P「…そうか」

未央「うぅ…」ボロボロ

P「少し待ってろ。紅茶入れてくる」

未央「…うん」グスッ

P「熱いから気をつけて飲め」

未央「…ありがと」

P「今日の握手会、100点満点中3点だったという話を千川さんとした」

未央「…低評価だね。一人1点?」

P「いや、一人が2点であとは0.5点ずつ。その2点がお前だ」

未央「…私?」

P「まだまだではあるが、二人とは決定的に違う。
お前だけは他の二人と違って、アイドルでありたいと思っている気持ちが強いように見えた。
それは長年この業界に身を置いてきた人間の勘だから理由があるわけではないがな」

未央「うん」

P「お前が俺の書いたレポートを見たかどうかは知らんが、レッスン一つ見てもお前と二人の間には大きな差がある。
お前は歌も踊りも二人に比べればへたくそだ」

未央「…ほんとズバッというね」

P「隠す意味がないからな。だが二人よりも見ていて楽しかったし、聴いても飽きなかった。
それはお前がアイドルでありたいと思っている気持ちがこもっているからだと思う。
ま、これもこの仕事に身を置いてきた人間の勘でしかないがな」

未央「信用できないなぁ」

P「勘ってのは大切だ。常に意識を張り巡らせ、そのなかで引っかかる何かに対して反応する。
鍛え抜かれた技術ともいえる。訓練で得られるものだから直感よりも信頼できるものではある」

未央「そんなものなんだ」

P「ああ。その勘に本田が引っかかった。小さな引っかかりや違和感かもしれんが、
そういうものを俺は大事にして今まで来た。ま、本当は色々あるんだが今の言葉で繋がった」

未央「繋がった?」

P「ニュージェネレーションとして今まで売り出してはいたものの、中身はばらばら。
ただの仲良しおままごとユニットだ。お前が周りに合わせてお前自身を腐らせてしまっている。
このまま続けていけばお前がまず潰れる。そしたらもう終わりだ。島村が先か渋谷が先か」

未央「…」

P「お前、ギリギリだったんだな」

まだ数日しか一緒にいないのに私が感じていたことも、私自身のことも隅々まで見透かしている。
この人は見ていてくれている。あの人みたいに。
日数なんて関係なく、この人は私たちを真剣に見つめていてくれていたんだ。
そんなことを考えていたら涙が止まらなくなった。

P「ギリギリのところだったならよかったとしよう。崩れてないならどうとでもなる。間に合ってよかった」

そういうとこの人は頭を撫でてくれた。大きくて暖かい感触が心を包み込む。
言えなかった言葉と共に、吐きだせなかった気持ちがあふれ出た。

未央「…私は二人に言えるかな」グス

P「知らん。言うのは俺じゃない。お前だ」

未央「ほんと優しくないんだね」

P「必要であれば優しくする。お前の口からお前が言わなければ何の意味も持たない。
俺があいつらに言ったとしても、それは違う言葉になってしまう。お前が言いたいか言いたくないか、それだけだ」

未央「…うん」

P「言いやすい環境を作ることぐらいは手伝ってやる。プロデューサーだからな」

未央「そんなとこだけプロデューサー面?」

P「あとはお前次第だ。本田未央がこれからどうしていきたいのか、どうなりたいのか」

未央「…私、頑張るよ」

P「ああ」

トカチツクチテー

未央「あ、携帯」

P「携帯取りに来たんだろ。さっきからずっと鳴ってて五月蠅かったぞ」

未央「ってやば、もうこんな時間じゃん!」

P「お前のせいで今日は仕事が何一つ進まなかった。罰としてコップ洗っとけ」

未央「えー」

P「洗い終わったら途中まで送ってやる。さっさと済ませろ」

未央「はーい」スタコラ

P(…)

未央「へぇー、バイク通勤なんだ」

P「楽しいからな。メットかぶったか?」

未央「あい!」

P「しっかり掴まってろ」

未央「あい!」



ブロロロロロロロロロロ



未央「結局家まで。ありがと」

P「家の側だからついでだ、ついで」

未央「…あのさ」

P「あ?」

未央「しまむーもしぶりんも、前プロデューサーが大好きだったんだ。
だから今までアイドルとしてCGプロにいて、ニュージェネレーションとして活動してきたんだと思う」

P「お前は好きじゃなかったのか?」

未央「んー、どうなんだろう。それこそ言葉が腐っちゃったのかな。結局彼に私は何も言えなかったし。
特にしまむーのアタックがすごくてさ、とても言えるような雰囲気じゃなかったんだと思う」

P「…そうか」

未央「でも言えなくてよかったのかなって思うよ。言ってたら私がきっと彼のことを引きずってたと思う。
結果的に良かった例なのかもしれないね」

P「結果論だが、そうなってよかったな」

未央「うん。でも今度はちゃんと言うようにする」

頭を下げてお願いするしか私には出来ないけれど。

未央「私だけじゃなくて、しまむーもしぶりんも支えてあげてください。
私は二人と一緒がいいんだ。一緒に苦労して、一緒に笑いあった二人だから。絶対一緒に行きたいんだ」

P「約束はできん」

未央「…」

P「そればっかりは俺じゃなくてあいつらが決めることだ」

未央「…それでも!」

P「俺は誰も見捨てない。それだけは約束しよう。あいつらが本当にアイドルになりたいと思えるように尽力する。
そしてあいつらがアイドルとして生きていきたいと思うなら、俺はそれに対して全力で応える。それでいいか?」

未央「うん!約束だよ!」

P「ああ」

未央「えへへ♪それじゃあおやすみ、プロデューサー君!」ダッシュ

P「うるさいやっちゃ」ポリポリ






P「ニュージェネレーションの活動を休止する。これは俺だけでなく社長の判断でもある」





ちゃんみお立志前夜終わり

彼が灰色の世界から、煌めき輝く世界に連れ出してくれた。

綺麗なドレス、煌びやかなアクセサリー、私をどこまでも運んでくれるガラスの靴。

私の日常は彼のかけてくれた魔法で一変した。

鳴り響く歓声、鳴り止まないアンコール、胸の高鳴り。

私は彼の魔法があればどこまでもいける。そう思っていた。

私の魔法は12時を告げる前に解けた。

私はまた灰色の世界に戻される。

綺麗なドレスと、煌びやかなアクセサリー、ガラスの靴を身に付けたまま。

私はシンデレラに憧れていただけの、綺麗な格好をして、煌びやかに見せかけていた偽物の人形。

私はアイドルなんかじゃない。綺麗になれる魔法をかけられた醜い人形。

輝く世界に心躍らせ、そして輝く世界に捨てられた、二度と輝くことのできない灰かぶり。

私の朝は早い。

5時半に起床して、6時にハナコと散歩。公園でランニングとストレッチ。7時半には家に戻ってシャワーと朝食。
学校に行ける時は学校の準備、仕事の時はもう少し早く支度を済ませて出発。

レッスンだけの日は早くスタジオに入って入念にストレッチ。
過去の自分の映像を見てどこがいけなかったかをチェック。
卯月や未央のいいところを探して真似してみる。

レッスンが終わるとトレーナーさんと反省すべき点について話し合い、
その日のレッスンの映像を見て問題のある動きをチェックして直す。

喉のケアも忘れず、マスクの着用、のど飴の携帯、なるべく喉に負担が無いようなものを食べる。

家に帰ればハナコの散歩、学校の宿題、友達と遊んだり、卯月や未央とメールや電話、
筋力トレーニングをして、ストレッチをして暖かくして就寝。

こんな生活を、プロデューサーが辞めてから続いている。

辛いと思ったことはない。足りないことだらけで、時間が24時間じゃ足りない。

私はいつも私と戦っている。理想の私はもっと艶やかにステップを踏んでいて、もっと伸びやかに歌う。

どれだけ求めても、魔法にかかっていた時の私にはなれない。

プロデューサー、今日はどうだったかな、私大丈夫だったかな?

プロデューサーは仕事が大好きだった。

誰よりも早く事務所に来て、誰よりも遅く帰る。

営業、レッスン、資料作成、ありとあらゆることを嬉々としてこなしていた。

ファンレターが初めて事務所に届いたとき、パーティーをしようと大はしゃぎして、
社長とちひろさんになだめられていたのを今でも忘れない。

私たちが活躍することを何よりも喜び、失敗すれば一緒になって落ち込んで、
いつも私たちのことを考えていてくれた。

だから、そんなプロデューサーが私たちに何の言葉もなしに辞めるとは想像もつかなかった。
それがどれほど私に、私たちにとって衝撃的だったか理解できるだろうか。

プロデューサーはいつも私に、


「大丈夫、凛は立派なアイドルだ」


と言ってくれていた。そんなことないよ。
私は卯月よりも可愛くないし、未央みたいに明るく出来ない。そんなのがアイドルでいいと思えない。

でも、そんな何気ない言葉が私をアイドルにしてくれていた。

そんな彼にスカウトされた私は、彼がそばにいればアイドルでいられると思った。

プロデューサーが私にかけた魔法は、
今でも私の中に、私の理想となって存在している。

綺麗なドレスを着て、煌びやかなアクセサリーを付けて、ガラスの靴を履いた私が。

プロデューサーがいなくなった今、彼が作った仕事が、
彼が目指した理想のアイドルを目指すことだけが、私をアイドルにしてくれる唯一の理由だった。

プロデューサーが辞めてから、新しい人が来るたびに私は私を確認した。

これでいいの?

もっとこうした方がアイドルらしくない?

このステップはどう?こんな風に歌うのはどうだろう。

初めは丁寧に話してくれたが、だんだんと言葉が少なくなり、
最終的に私が来る度に嫌な顔をするようになった。

なんで私の言葉を聞いてくれないの?私はアイドルでいいの?

そんな私に対して彼らは魔法ををかけてくれなかった。

彼らは私を見ようとしてくれず、仕事というレンズを通してしか、渋谷凛という人間を見てくれなかった。

P「思った以上に面倒くさいな。こりゃ前プロデューサーもお前らのことを見放すわけだ」

…見放す?どういうこと?こいつは何かを知っているの?絶対聞き出してやる。

握手会の日、あいつは私に怒った。
でも私にとってはそれが私のアイドルでいる理由で、それ以外にアイドルでいられる理由が無い。

P「お前らを支えてくれてるのはなんだ、前プロデューサーか!違うだろ!
今さっきまで目の前にいたファンの一人一人だろうが!!」

私を支えてくれるのがファン?プロデューサーが私を支えて、
私に魔法をかけてくれてアイドルにしてくれたんじゃないの?

じっと目の前のファンを見つめる。

恥ずかしそうな顔をしている。

こんな私に笑顔を向けている。

温かい言葉をかけてくれる。

考えとは裏腹に、懐かしい胸の高鳴りを感じる。

これはなんだろう。

なんで未央はそんなすんなりニュージェネレーションの活動休止を受け入れられたの?

それは私がアイドルである理由を奪うことになるんだよ?それが未央にはわかんないの?

思い出の中で生きてる?違う、私にとってプロデューサーがアイドルである理由なんだ。

それがなかったら、私なんかあいつが言うとおりただの何もないブスだよ。

プロデューサーのやってきた事を否定すること、それはアイドルである私を否定するのと同じ。

未央は私なんかどうでもいいんだ。

未央なんか!



バシン!




???「キミが渋谷凛だな」

凛「はい」

M「今日からしばらくの間君のレッスンを担当するPの友人Mだ。よろしく頼む」

凛「よろしくお願いします」

M「うむ、Pから色々聞いてはいるが、実際に見た方が早い。
キミが一番得意としているダンス、その次に歌を見せてもらおう」

凛「はい」

この人にあいつは何を話しているんだろう。どうせブスだなんだと言っているんだろう。

この人がどんな人かは知らないが、私はプロデューサーが魔法をかけた理想の渋谷凛を目指すだけだ。

M「うむ、なかなかいい筋をしているな」

凛「どうも」

M「しかしまあ、いい筋どまりだな。なんてことはない。私ならもっとうまく出来るな」

そういうとMさんは私のダンスを完璧に踊り切った。
これはもう同じダンスとは言えない。全くの別物。魅入ってしまう。艶やかで、伸びやかで。

M「ざっとこんなものさ。これはレッスンの賜物だ。
しっかりと技術ときついトレーニングを積めば、これぐらいのダンスなんてなんてことない」

この人についていけばきっとあの時の渋谷凛になれるかもしれない。

M「ただな、私はここまで止まりの人間だ。技術をいくらつけようとも、決して届かない頂きがある。
君はそこを目指す気持ちがあるか?」

決して届かない頂。それはきっと私の目指す渋谷凛だろう。

凛「はい、あります」

M「そうか。厳しいレッスンになると思うが、頑張ってくれたまえ」

凛「はい」

どんな辛いレッスンだって耐え抜く自信がある。

目指すべき渋谷凛に届いたら、私はきっと本物のシンデレラになれるんだと思う。

そんな風に思えたのは最初だけで、
これまでで受けたレッスンの中で最も辛く、今にも逃げ出しそうだ。

でも逃げるわけにはいかない。

プロデューサーが目指した渋谷凛に近づくため。

そしてあいつからプロデューサーが私たちを見放した理由を聞きだすまでは、なんとしても耐え抜いて見せる。

久しぶりに卯月と未央とレッスン。

未央とはあれ以来あまり良い雰囲気ではない。もちろん一方的にだ。

未央はいつも通り明るくて、卯月や私を心配してくれる。

でも私はそっけなく、適当にあしらってしまう。

それでも未央は私を気にかけてくれる。

どうしてそんなに優しいんだろう。

平気でビンタするような女だよ?

あれ?未央が遠くにいる?

追いつけない。そんなはずはない。

毎日吐いて、体中が悲鳴を上げるほどのレッスンを受けてるのに、未央の裾さえ触ることが出来ない。

何か違う。技術や体力の問題ではない。

もっと違う何かが私と未央の間にある。

決定的な溝。

レッスンが終わり、その日の反省をする。

事務所のソファー前のテレビで今日のレッスンのビデオを再生する。

未央の姿を懸命に眺める。何が違うんだろう。腕の伸ばし方?ステップの速さ?

集中して見ていたから周りの気配に全く気付かなかった。
絶対に会いたくなかったのに、最悪の場面で最悪の奴に出会ってしまった。

P「お、今日のレッスンのビデオか。いやー、お前ほんとブスだな」ハハハ

凛「…あ?」

P「おーこわ」

こいつは未央に何を教えているんだろう。未央がこんなに遠くにいるのは、きっとこいつが何かをしたせいだ。

凛「…ねえ」

P「なんだ?」

凛「あんたは未央に何をしたの?」

P「俺は何もしてない。気持ちの問題だな」

気持ちの問題?

P「ま、今のお前さんにはわからんだろう。お、眉間にしわが寄ってる。次のステップを考えたな」

凛「…」

P「あーあ、そのせいで全体の流れが切れた。酷い顔。これじゃ駄目だ。ブスに拍車がかかってる」ハハハ

凛「…」

P「見ててしょうもない映像だな。仕事に戻る。早く帰れよ、ブスリン」

なんなのこいつ。

P「お、そういやブスなお前にお仕事一つ決まったぞー。
お前がブスだから仕事取るのも苦労したわー。再来週の頭にファッション誌のモデルの仕事なー。
夏ってこともあって水着もあるぞー。せいぜいブスに拍車がかからんように気を付けるんだなー」ヒラヒラ

ブス、ブス、ブス、ブス!本当に大嫌いだ。

M「では今日は表情のトレーニングをしよう。キミは感情表現が得意そうではないからな」

凛「はい」

M「うむ、ではまずは笑ってみたまえ」

凛「…」ニコ

M「うむ、見事に張り付いた笑顔だな。レッスンのし甲斐がある」

凛「…」ハァ

M「もっと楽しいことを考えて笑いたまえ。では次は怒った表情をしてみよう。嫌なことを思い出すのが一番だ」

嫌なこと。あいつのことを思い出す。

凛「…」

M「」

凛「…あ、あの?」

M「はっ!すまない、あまりにも完璧な表情だったから肝を冷やしたよ」ハハハ

凛「…」

M「要するにそういうことだ。笑いたいときは楽しかったこと、泣きたいときは悲しかったこと、
怒りたいときは嫌だったこと、そういった思いを表に出すんだ。
本物の表現は相手にちゃんと伝わるし、必ず響く。それが何よりも重要だ」

凛「本物の表現?」

M「ああ。どれだけ着飾ったとしても、本物の輝きを前にしては全てが霞んでしまう。
この前のレッスンの本田君を見てどう思った?」

凛「…私とは違う。遠いなって」

M「素直でいい感想だ。では私がキミに会った時に見せたダンスと比べてどうだ?」

凛「…また別なものの気がします。未央のダンスの方が、…心を掴むものがありました」

M「うむ。それが本物の表現ということだ。彼女はとても魅力的だったな。キラキラ輝いて」

凛「はい」

M「気持ちが無ければ、どれだけ技術や体力をつけても、本田君のようにはなれない。
それがキミと本田君との距離だ」

凛「私と未央の距離…」

M「まあ、キミも島村君も本田君のようになれると思う。
そのきっかけが何だかは私にはわからないが、きっとキミを目覚めさせる何かがあるはずだ」

凛「…私が目覚めるきっかけ」

未央が目覚めたきっかけはなんだろう。

あいつは気持ちの違いといった。

でも気持ちなら私だって負けない。
遠い場所にいる魔法にかかった理想の私を追いかけ続けている。

何が違うの?


M「もしキミが行き詰って悩むなら、彼に相談すればいいじゃないかな?
彼とは長い付き合いだが、彼ほど仕事やアイドルに対して真摯な人間はいない」

凛「真摯?ブスブス言うのにですか?」

M「ははは!」

大笑いされた!?

M「いや、彼の言う通りさ、キミはブスだ。私もそう思う」

凛「…酷くないですか?」

M「酷くないさ、ありのままの事実を述べただけだ。
レッスンを見てて思うがね、キミはとてもブスだ。全く持って輝きがない。
気持ちが見えないんだ。それが伝わってきてしまう。やはり彼はキミのことをよく見ているようだ」

凛「よく見てる?」

M「ああ。今は本田君と一緒にいるようだが、本田君と同じようにキミも島村君もしっかりと見ているとおもよ。
現にあいつはそういう男だ」

凛「あいつは私たちのことが嫌いなんじゃないんですか?」

M「あいつがキミたちのことを?それは無いな」

凛「どうして?」

M「どうしてと言われてもなあ。ただ、彼はキミたちのことを大切に思ってるぞ?」

大切に?あれで?

M「あー、これは私の独り言なんだがなー」

凛「…」

M「という、いかにも青春漫画みたいな流れは嫌いでね」

凛「…なんなんですか」

M「まああいつのために少しだけ話してやろう。
例えば私だ。私は彼の知り合いだ。キミは私の事を知っていたかい?」

凛「いいえ」

M「だと思う。キミたちのレベルではなかなかお目にかかれない存在だからね」

凛「お目にかかれない?」

M「ああ。なんたって私は、マスタートレーナーだからな」ドヤァ…

凛「…マスタートレーナー?」

M「…あ、あれ?反応鈍い?」

凛「ええ」

M「そ、そうか…結構有名だと思ってたんだけどなぁ」ズゥン…

凛「す、すみません…」

M「いや、別にいいんだ。
例えば天海春香、如月千早、星井美希なんかを専属でトレーニングするレベルのトレーナーだ」

凛「    」ボーゼン

M「ま、超一流ってやつさ。そんな人間を嫌いなやつに付けるわけないだろう?」

凛「…」

M「ましてや私をこの期間雇うのにいったいいくらかかると思っているんだい?」

懐が温まるのがあんたの一番の事なんじゃないの?

M「他にも色々あるんだが、それは私の口から言っても信じないかもしれんな。
自分の目で見て、そして真実かどうかを確かめるんだな。あの男はよく見ているよ。
キミの事も、キミ以外の人もしっかりとね」

凛「…」

M「さ、トレーニングを続けよう。
ファッション誌のモデルなんて、まさに表現力が無ければどうにもならない現場だ。
しっかりと叩き込んであげよう」

凛「…はい」

明日は撮影。あいつと初めての二人きりでの仕事。

数日前から緊張とも何とも言えない感情が体を支配してうまく寝つけない。

本当になんなんだろう。私を見ている?私の何を見てるの?

結局今日もあまり眠れないまま朝を迎えてしまった。肌がほんの少し荒れている。

準備もそこそこに、何となく事務所に早く向かう。

凛「…おはようございます」

P「お、今日も朝からブスだなー。挨拶するだけましと考えるか」

凛「…」チッ

P「Mのトレーニングの効果があったみたいだな。見事な感情表現だ。
ま、そういうイライラした態度は最初から上手かったけどな」ハハハ

やっぱりこいつは嫌な奴だ。

P「…それにしても早く来たな。俺との仕事が楽しみであんまり寝れなかったんだな」ドヤァ…

凛「あんたと仕事なんてしたくないから嫌で嫌で仕方なかったんだよ」

P「ま、なんでもいいさ。寝不足で肌が荒れてるのはブスに拍車をかけてるぞ。
メイクさんが超一流なことを祈るしかないな」ハハハ

なんでそんなことわかるの。ほんの少し、私も気づかないかもしれないぐらいの肌荒れなのに。

P「んじゃ、ちょっと早いが準備して行くかねー」




ブロロロロロロ





P「CGプロのPと申します。今日はよろしくお願いいたします。渋谷!挨拶!」

凛「渋谷凛です。お願いします」

ディレクター「はい、よろしくお願いします。
そろそろ他の方も到着すると思いますので、軽く準備してお待ちください」

P「はい!」

凛(…ちょっと寒い)フルフル

P(ガサゴソ)「ほれ、ストール掛けとけ。室内現場は冷えて嫌いだ」ハァ…

…ほんとなんなの!

P「言い忘れてたが、今日は本来お前なんかが同席するのもおこがましいぐらいのスターとの撮影だ。
何か一つでも盗めるものがあったら盗んどけ」

凛「…誰が来るの?」

P「星井美希」



凛「     」



P「いい反応だな」ハハハ

凛「…無理無理無理!!」

P「本番当日に言って正解だったな」ニヤリ

ナムコプロホシイミキサンハイリマース!

P「おはようございます、CGプロのPと申します。
本日は弊社の渋谷凛が一緒に撮影をさせていただきます。若輩者ですがどうぞ温かい目で指導してやってください」

律子「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」

美希「よろしくなのー」

凛「    」

P「渋谷!挨拶!!」

凛「お、おはようございます、渋谷凛です!今日はよろしくお願いします!!」

P「すみませんね、新人みたいなものなので。そうだ、赤羽根は元気にやってますか?」

律子「お知り合いなんですか?毎日元気で驚かされますよ」

P「調子に乗ってるようならあいつの恥ずかしい過去をぶちまけてやろうかと思ってるんですけど、元気なら何よりだ」

美希「ハニーの恥ずかしい話聞きたいの!」

律子「…美希?」

美希「は、はいなの…」

P「765プロに敏腕女性プロデューサーがいると聞いていましたが、なるほど素晴らしい。
なかなかあなたのようなプロデューサーはこの業界にもいないでしょう。頑張ってください」

律子「あ、ありがとうございます…」

美希「なんか変な雰囲気なのー。ね、凛ちゃん」

凛「    」

P「すみません、星井さんを前に緊張しすぎてるみたいで」

美希「んー、可愛いー」スリスリ

凛「     」

律子「美希、からかわないの」コツン

美希「てへ♪」

ジュンビオネガイシマース!

P「お。それでは後程。よろしくお願いします」

律子「お願いします。行くわよー」

美希「はーい」

凛「    」

P「そろそろ現実に戻れ」コツン

凛「!…す、す、す」

P「す?」

凛「スリスリされた…」

P(…刺激強すぎたか?)

撮影中

P「うーん」

律子「どうしました?」

P「いえ、うちの渋谷なんですがね」

律子「ああ…なんというか、くすんでいますね」

P「お、はっきりいいますねー」

律子「も、申し訳ありません!」

P「いえいえ、私もそう思いますから」

律子「…それはどうなんですか?」

P「いいんですよ。隠しても何の意味もないですから」

律子「…だからうちの美希と仕事をブッキングさせたんですか?」

P「…なぜそう思います?」

律子「うちのプロデューサー殿が、
『あの人は意味のないことはしない、何よりもアイドルのことを思って行動する』と言っていましたので、
もしかしたらと思いまして」

P「…俺はただ、キラキラ輝いている星井さんを見て何かを感じて、学んでほしいなと思っただけです。
渋谷はあんな風にキラキラするのを目標にやってるんです。でも届かなくて苦しんでいる。
自分もあんな風にキラキラ輝いていた時期があったから。自分にかかった魔法をもう一度取り戻そうとしてる。
でもそうじゃない、違うんだってことを知ってほしいんです」

律子「渋谷さんのこと、しっかりと見ているんですね」

P「プロデューサーですから。俺があいつを見てやらなくて、誰があいつを助けてやるんですか。
あいつだけじゃないです。事務所にいる他の二人のためだって、俺は命を懸けますよ。それがプロデューサーです」

律子「…プロデューサー殿が憧れるのがわかりますよ」

P「ん?」

律子「いえ、独り言です」

星井さんはとてもキラキラしている。

魔法をかけられたシンデレラだ。キラキラして、私には眩しすぎる。

なんであんなにキラキラ出来るのだろう。



撮影休憩中 控室



美希「疲れたのー」

凛「お、お疲れ様です」

美希「凛ちゃんもお疲れさまー」

凛「は、はい!」

美希「凛ちゃんはもっとリラックスしていいと思うな。今もそうだけど、撮影中もー」

凛「リラックス、ですか?」

美希「そう、リラックス。なんか無理してるなーって思うの。もっと楽して、楽しんだ方がいいと思うよ」

凛「…楽しむ」

美希「そう、楽しむ!じゃなきゃキラキラ出来ないよ?」

凛「キラキラ?」

美希「そう、キラキラ!今の凛ちゃんは無理してる感じがするの」

凛「…」

美希「いつかきっと凛ちゃんは駄目になると思うな」

凛「星井さんは」

美希「ん?」

凛「星井さんはどうしてそんなにキラキラ出来るんですか。
私は星井さんみたいにキラキラ出来ません。星井さんにはどんな魔法がかかっているんですか?」

美希「魔法?」

凛「星井さんはキラキラ輝くシンデレラだと思います。シンデレラは魔法でキラキラ輝くんです。
そんなキラキラ輝く魔法があるなら、私に教えてください」

美希「どういうことー?」

凛「…私は昔、ある人に魔法をかけられて、煌めくステージに立っていました。
でもその人が突然いなくなって、私にかかっていた魔法は解けてしまったんです」

美希「…」

凛「それからずっと私は、魔法のかかっていた私を追ってきました。
でも全然届かないし、追いつかない。私は星井さんの言うように楽しむことなんて出来ません。
少しでも楽をしたら、私が遠くに行ってしまうような気がして」

美希「…うーん、美希には難しいことはわかんないけど、凛ちゃんにとってその人はとても大切な人だったんだね」

凛「…はい。あの人が私をアイドルにしてくれました。あの人がいるからアイドルでいられました。でも今の私は…」

美希「うーん、やっぱり美希にはわかんないの。でもね、自分が心から楽しまなきゃ、
人には楽しい気持ちは伝わらないと思うの。苦しいのー、辛いのー、って気持ちでお仕事しても、
きっとそれはうまくいかないよ。だからもっと楽しめばいいと思う。
そしたらきっと凛ちゃんもキラキラ出来ると思うな!」

凛「…楽しむ」

美希「そう、楽しむ!まずは後半の撮影を楽しんでやってみよー!」

凛「…はい」

撮影再開


P「…お?」

律子「渋谷さん、雰囲気変わりましたね」

P「ええ」

律子「美希が何か言ったのかしら」

P(…)




オツカレサマデシター!




P「今日はありがとうございました。とても良い勉強になりました。またよろしくお願いします」

律子「こちらこそありがとうございました。今度はまた違う場所でお会いできることを楽しみにしていますね」

P「ええ」

美希「お疲れさまなのー」

凛「お疲れ様です」

美希「凛ちゃん、撮影後半は楽しんでできた?」

凛「…少しだけ」

美希「うん、それでいいの!凛ちゃんの楽しいなって気持ちが美希にも伝わったよ♪」

凛「…」

美希「ちょっとだけだけど、キラキラしてたと思うな。美希ほどじゃないけどね♪」

律子「みーきー」

美希「」

P「いえいえ、星井さんのキラキラに比べたらうちの渋谷なんて」ハハハ

美希「でもね、美希はもっとキラキラするんだよ。今度見せてあげる!」

凛「…楽しみにしてます」

律子「それではこれで失礼します。行くわよー」

美希「はーいなのー。じゃあね凛ちゃん♪」フリフリ

凛「お疲れ様でした!」

P「さてと、うちらも帰りますかね」

凛「…うん」

楽しむ、そんなことプロデューサーが辞めてから考えたこともなかった。

なんで私はアイドルなんだろう。彼が私に魔法をかけたからアイドルなのだろうか。

魔法が解けても私はアイドルであり続けようとした。

それはただプロデューサーが大切だったから?違う、と思う。

私はアイドルでいたいのだ。でも私は楽しめない。自信が無い。

あの時輝いていた私には絶対に届かない。

魔法はもう解けてしまった。

M「今日で私のレッスンは終了だ。長いことお疲れ様。よく頑張ったな」

凛「ありがとうございました」

M「こちらもいい勉強になったよ。
しかし、キミを目覚めさせることが出来なかったのが何よりも悔しいよ。私もまだまだな」

凛「いえ、そんなこと…」

M「いいんだ。さ、それよりも何よりも今日はこの後君を送っていかなくてはいけないところがある。
シャワーを浴びて身支度を済ませて出発しよう」

凛「行くところ?」

M「ああ。キミのプロデューサーからご褒美がある。時間がないから早くしてくれたまえ」

凛「…はい。それで、どこに行くんですか?」

M「765プロオールスターライブだ!」

765プロライブ後の事務所

ガチャ

P「ん?こんな夜にどうした。家出少女か?」

凛「…」

P「随分しおらしいじゃないか。ブスリン改めシオリンに改名するか」

凛「…ねえ」

P「なんだ?」

凛「あんたは私たちの事嫌いなんじゃないの?」

P「嫌いになるほどお前らの事なんか知らん。
別に嫌ってもいないし、好いているわけでもない。プロデューサーとアイドル、それだけだな」

凛「好きでもないのになんで私たちにあんなこと出来るの?」

P「あんなこと?」

凛「トレーナーさんの事、今日のライブの事。どっちもすごいお金がかかったんでしょ?
トレーナーさんは超一流の人だし、ライブチケットもプレミア、しかもそれを5枚も」

P「トレーナーは俺の知り合いだったから。チケットもたまたま手に入った。
ただそれだけだ。気にするようなものじゃない」

凛「…気にするよ、私にそんなことしてもらう価値なんてないのに」

P「価値ねえ」

私にそんな価値はない、私はただの魔法の解けた醜い人形。

アイドルなんてそんな大そうな肩書なんか背負えない、汚い灰かぶり。

凛「私に価値なんてないよ。お金をかけるだけ無駄。私なんか…」

P「島村より可愛くないし、本田より明るくない、か?」

凛「…」

P「お前は自信が無さすぎる」

自信なんかない。いつも不安で、余裕が無くて、辛くて、苦しくて。

P「お前、今まで来たプロデューサー全員に、これでいい?もっとこうした方がいいんじゃない?
こっちの方がうまくいくんじゃない?とか、そんなことをずっと聞いてたりしなかったか?」

凛「…」

P「ま、そんなこったろうと思ったよ。お前はどうにも自分を信じなさすぎる。
そんなに卑下するほどお前は酷いのか?」

凛「…酷いよ。あんたも言うじゃん、ブスだって。私は醜くて、魔法が解けた汚い人形」

P「お前、結構頭ん中ロマンティックなんだな」ハハハ

凛「…私はアイドルでいいのかな」

P「知らん」

凛「…知らんって」

P「お前が決めることだ。お前がアイドルでいたいならそれが答えで、それは俺が決めることじゃない」

凛「…」

P「煌びやかに着飾ることは誰でも出来る。それをお前は魔法だと思っている。
そんな魔法なら俺だってかけてやれる。でもそれは本当の魔法じゃない。
お前、この前の撮影の時に星井さんから何を感じて、何を学んだ」

凛「…もっと楽しめって。そしたらもっとキラキラ出来るって」

P「そうだ、もっと楽しめ。何よりもお前がアイドルであることを楽しんで、
それで初めて自分の中から魔法が出てくる。そしてファンに魔法をかける」

凛「…ファンに魔法?」

P「かかる魔法を探すなよ。お前が魔法をかけるんだ。
その魔法は煌めくステージの上から鳴り止まない歓声を、アンコールを、強烈な好意を湧き立たせる。
誘惑して、翻弄して、魅了して、ファンがお前の魔法に魅せられて輝く。
そしてその魔法がお前に返ってきてお前を輝かせる。
お前を輝かせるのは、お前の魔法に魅了されたファンの一人一人だ。
ファンはお前を映す鏡だ。お前が魔法をかけて輝く世界を作るんだ」

凛「…でも私には」

P「だー、面倒くさいやっちゃなあ。ちょっと待ってろ。あれ重くて持ってくるの大変なんだよ」

P「どっこいせ」ドサ!

凛「…これは?」

P「お前の魔法に魅入られた人たちからのファンレターだ。
自分がアイドルでいいか信じられないならファンを見ろ。
お前をアイドルだと思ってくれるファンを信じろ。それで駄目なら諦めろ」

大きな段ボール箱が4つ。

色々な言葉が書いてある。

歌が素敵、魅了されます。

ダンスがかっこいいです!

仲が良さそうで見ていてウキウキする。

応援してます、頑張ってください!

渋谷さんは私の憧れです。



一つ一つの言葉に、涙が溢れた。

P「魔法をかける側もいいだろう?」

凛「…うん」

P「いつかその魔法が自分に返ってくる。自分を輝かせてくれる大きな魔法になってな。
今はまだ小さい魔法だが、お前が諦めずに自分を信じてくれるファンを信じて進んでいけば、
いつかお前が目指していたシンデレラになれるんじゃないか」

凛「…私に出来るかな」

P「それはお前次第だ。お前が諦めればそれで終わりだ。
でもな、俺はお前が諦めない限り支えてやるさ。それが俺の信念だ」

凛「…うん」

P「それにな、本田に頼まれたんだ。私だけじゃなくて、島村も渋谷も支えてやってくださいって」

凛「未央に?」

P「握手会の夜だったかな。
こんな嫌味な奴に頭下げてまでお前らを支えてほしいってお願いされたんだぞ?
その誠意に大人として応えないわけにはいかないだろ」

凛「…」

P「本田は先の世界に一歩足を踏み入れた。島村ももう進む準備はできている。
お前はあいつらと一緒じゃなくていいのか?」

私は、

凛「私は…アイドルでいたい。二人と一緒にあのステージにたどり着けるまで走り続けたい!」

P「やっと自分の意志でアイドルであろうと決意出来たんじゃないか?」

凛「…そうかもしれない」

いつもプロデューサーにアイドルである理由を求めていた。

でもプロデューサーはそんな理由じゃアイドルにはなれないってわかっていたんだ。

それがわからなかった私のために、プロデューサーは辞めていったのかもしれない。

悲しいけど、でもその思いに応える為にも、私は前に進まなきゃいけない。

P「他人に理由を求めるとどうしても決意が出来なくなる。
でもその思いがあれば大丈夫だ。お前には環境も、才能も、何より仲間が揃ってる。
焦らなくていい。でも真っ直ぐ前を向いて走り続けろ。
振り返らずに、ただ前を向いてあいつらと手を取り合って進んでいけ」

凛「うん」




私がみんなに魔法をかけて輝く世界を作る。

私を信じてくれるファンの煌めきで、私はキラキラ輝くシンデレラになる。

本物の煌めきを信じて、私はみんなと一緒に進んでいく。

あの煌めくステージを目指して。






しぶりんぼっち編終わり。

ひっそり更新。
毎度レスありがとうございます。
おやすみなさい。

私はいつも二人の背中を追いかけていた。

歌も上手くないし、ダンスもよく間違える。それでも二人は私を見捨てないでくれた。

こうしてバラバラに活動をしていると、私がいかに二人に支えられていたかがよくわかる。
二人は私の目指すべき目標でもあったし、隣にいてくれる仲間だった。

だから私は彼が辞めた時、何よりもショックを受けていた二人を支えてあげたかった。
でも私では支えきれなかった。それでも私は二人の側に居ようと思った。
何が出来なくても、私を今まで支えてきてくれた二人に、ほんの少しでも恩返しがしたかった。

今もその気持ちは変わらない。
しぶりんにビンタされても、しまむーに憐れむ目で見られても、私は二人を絶対に見捨てない。

P「出来る出来ないじゃなくて、やるかやらないか。お前がまず考えるべきことはこれだ」

未央「どういうこと?」

P「とにかくお前にはきついことをさせる。出来る出来ないなんか考えるな。やるかやらないか、1か0だ」

未央「1か0」

P「そうだ。ちなみに0、やらないという選択肢はない。
もしそれを選ぶなら俺はお前が意志の無い、プロデュースに値しない人物だと決定する」

未央「厳しいね」

P「それぐらいの覚悟がなきゃあいつらにお前の背中を見せてやることはできん」

未央「背中?」

P「俺はお前と約束したようにあいつらを支えてやる。
お前はあいつらに背中を見せて、私はここにいる。早くこっちに来いって言ってやれ」

未央「…」

P「決めるのは俺じゃない。お前が決めろ。やらないならやらないなりにテキトーにお前をプロデュースしてやるよ」

未央「やる。やらないなんて選択肢は端からないよ。今度は私が二人を支えるんだって決めたんだもん。やります!」

P「ん、いい返事だ。まずは手始めにライブバトルと行くか。もう予定は組んである」

未央「」

P「しゅっぱーつ」

未央「ちょ、ちょっと待って!私ライブバトル初めてなんだけど!?」

P「知らん。行くぞー」

未央「わー!待ってー!!」

ライブバトル会場



P「お、結構混んでるなー。流石秋葉原」

未央「」ガタガタ

P「なんだ震えて。寒いのか?」

未央「緊張してるの!いきなりライブバトルとか何考えてるの!?」

P「1か0だぞー」

未央「う…」

P「ま、これも大切なレッスンだ。ちなみに超アウェーだから」

未央「」シロメー

P「だらしない。ほら、今日の対戦相手が出てきたぞ」

???「にゃーはっはっは!みんにゃー、元気にしてるかにゃ?みくは元気だにゃー!」

P「秋葉原の地下アイドル前川みくだ。彼女にしてみれば秋葉原は自分の家みたいなもんだからな。相当手ごわいぞ」

未央「」ガタガタ

P「失敗したからってどうってことない。ここよりもっとでかいとこでライブやったりしてるだろ?」

未央「隣に二人がいたから平気だったけど…」

P「1か0。逃げるなら逃げちまえ。お前はそこまでの奴だよ」

未央「…もっとかける言葉とか無いの」

P「これぐらいでビビッてたら、いつまでたっても渋谷と島村の背中なんか追い抜けないぞ?」

未央「…頑張る」

P「それでいい。ほら出番だ、行ってこい」

未央「はい!」





P「ここまで酷いとプロデュースのし甲斐があるってもんだ」

未央「うぅ…」

P「泣いてる暇があったら次行くぞ」

未央「…次?」

P「おう。次は路上ライブで新たなファンを獲得だ。ニュージェネレーションのCDも売るぞ」

未央「」

P「しゅっぱーつ!」

未央「…おー」




P「見向きもされないとか、お前本当にアイドルか?」

未央「」ゲンナリ

P「ま、初日の営業はこんなもんか」

未央「これを毎日?」

P「時間が許す限り。二人を支えるんだろ?」

未央「うん!でもさ、こうも自分の酷さを目の当たりにすると、さすがにへこむというか」

P「そんな本田にレッスンのお知らせだ。渋谷のレッスンが5時には終わる。
そのあと俺の知り合いのトレーナーから渋谷と同じレッスンを受けてもらう」

未央「しぶりんと同じレッスン?」

P「きっついぞ。でもお前は二人を支えるんだろ?
二人よりも多く練習して、多く場数を踏んで、少しでも二人よりも強くならなきゃならない。
支える奴が貧弱じゃ支えられるわけがない」

未央「…私には力が足りないんだよね。うん、私やるよ!やりきってやる!」

P「いい返事だ。じゃ、早速移動だ」

未央「はい!」


待ってろ二人!私は先に行く。少しでも二人の前を行って、二人を引っ張ってあげるんだ。
辛くても、きつくても、私はやれる。二人のために、そして私のために!



M「お、キミが本田君か。Pの知り合いのMだ。よろしく頼む」

未央「本田未央です!よろしくお願いします!」

M「うむ、いい返事だ。では早速だが君が得意とするダンスと歌を見せてくれ」

未央「はい!」




M「うむ、とても指導のし甲斐があるレベルだな!正直今まで見てきた中で一番だ!」

未央「…すみません」

M「いや、なんというかな、キミの魅力が全て消されているようなものだったよ。色々考えすぎではないのかな?」

未央「…はい」

M「色々と大変で考えることは沢山あると思うが、まずは目の前の事からゆっくり片づけていくのが一番だ。
目下キミが考えなければいけないのは技術と体力をつけることだな」

未央「はい!」




M「うむ、今日はここまでにしておこう。また明日も頑張ってくれたまえ」

未央「はい!ありがとうございました」ボロボロ

P「お、終わったかー」

M「今しがた。とても指導し甲斐のあるいい生徒だ!」

P「それはなによりだ。明日もしっかり頼むよ」

M「ああ。それとこれが今日の分の渋谷のレポートと映像だ。確認してくれたまえ」

P「すまんな。あとで確認しておく。何か特別なことがあれば連絡くれ。体調までは直接会わないとわからんからな」

M「任された。では今日はこれで」

P「おう、お疲れ。本田もお疲れだな」

未央「お、お疲れ様です…」

P「干からびてる暇があれば早くシャワー浴びて帰る準備をしろ。送ってってやる」

未央「…はーい」ヨタヨタ



P「これは…いけるのか?」


未央「あれ、今日はバイクじゃないの?」

P「修理に出しててな。早く乗れ」

未央「はーい」



ブロロロロロロ



未央「…あれ、もう着いちゃった?」

P「随分ぐっすり寝てなた」

未央「かなり疲れてたみたい…」

P「早く寝て明日に備えるんだな」

未央「うん。今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします」

P「おう、お疲れ。ゆっくり休め」

未央「うん。おやすみー」バタン

P(…さてと)

路上ライブはかなりきつい。

まず誰にも注目されない中で歌って踊るのがこんなに苦しいものかと思い知る。
そして注目を浴びたと思ったら罵声を浴びることもある。
好奇の目で見られるのも精神的に来るものがある。

なんでこんなことしなければいけないんだろうって思う。
でもプロデューサー君はこの行為に意味があるからやらせているんだと思う。
ならその意図を汲み取る努力をしなければ。



P「しかしまあ今日も酷い罵声を浴びてたな」ハハハ

未央「全然面白くないよ!ひいひい言いながらやってるのに!」

P「じゃあヒントをやろう」

未央「ヒント?」

P「楽しいと思えば楽しい。つまらないと思ったらつまらない。それだけだ」

未央「…それがヒント?!」

P「素晴らしいだろ?」

未央「全然!」

P「そうか?そのままの意味だけど、今のお前には真理だとおもぞ」

未央「わかんないよ」

P「さ、今日もレッスンに行ってみよー」

未央「…おー」




M「ふむ、それで私に助けてほしいと」

未央「…はい。全く意味がわからないんです。そんなの当たり前じゃないですか」

M「うむ、その当たり前というのが重要なんだと思うぞ」

未央「当たり前が大切?」

M「ああ。楽しいと思えば何でも楽しいものさ。楽しいと思えればそれを楽しいと思わせることが出来る。
逆につまらないなと思っていればつまらないなと思わせてしまう」

未央「私の気持ちが出てしまっているということですか?」

M「まあそういうことだろう。実際に私が見ているわけではないからわからないがな」

未央「…」

M「ダンスでも歌でもそうだけれど、そういうものは見ている人には伝わってしまうものなのさ。
キミがどんな状況でも楽しんでいられれば、それが見ている人にも伝わるし、その逆もしかり」

未央「…私は楽しむことが出来るでしょうか」

M「そんなに長い期間キミと一緒にいるわけじゃないからわからないが、
きっとキミの魅力はそういう風に出来るところにあるんじゃないかと思うよ。
それこそPに聞いてみればいい。彼はよく見ているからな」

未央「…はい」




ブロロロロロロ



未央「…ねえ」

P「なんだ?」

未央「私の魅力って何かな」

P「自分ではどう思う?」

未央「うーん、しまむーやしぶりんに比べたら、元気で明るいところがいいところかなとは思うよ」

P「そうか。お前の魅力ははみでるところだと思っている」

未央「…けなしてるの?」

P「褒めてるだろう。それに今はお前の魅力を話してたんだろう?」

未央「…そうだけど、はみでるってあんまりいい言葉じゃないと思うよ」

P「そうか?いい言葉じゃないか、はみでる」

未央「それは私のどういう魅力に繋がるの?」

P「そうだな。例えばこの道路には停止線というものがある。ここで止まってくださいよー、と記しているものだ」

未央「うん」

P「島村は停止線の手前、安全な位置でしっかり止まるイメージだな」

未央「普通だっていいたいの?」

P「普通というか、当たりはずれが無くて安心できるという意味だ」

未央「うん、それで?」

P「渋谷はいつも停止線の上でピタッと止まるイメージだな。完璧に制動されていて、隙がないという感じだな」

未央「べた褒めだー」

P「イメージの話だ。渋谷が島村みたいに安全な位置で止まっているのは想像がつかん」

未央「で、私はその線からはみ出て止まるってことでいいの?」

P「そうだ。停止線なんか気にしないで、気付いたら停止線越えててあわてて止まるイメージだ」

未央「私ただの馬鹿じゃん」

P「それが魅力だと思うぞ。お前が島村のような動きをしてもつまらないし、
渋谷のような動きをしても、それは誰も求めてないと思う」

未央「…」

P「別に狙ってはみ出てるわけじゃないんだと思う。
気分が乗ってきて気づいたらはみ出ていたという感じだな。
それは島村や渋谷がやってもうまく相手に伝わりづらい。
ミスしちゃったんだなという印象になってしまう。
だがお前はそれをどうも正当化してしまう何かがある。
それがお前の伝える力だと思う」

未央「私の伝える力?」

P「お前は馬鹿っぽいから思ってることとか表現したいことがストレートに見える。
だからはみでてしまってもそれが本気で楽しんでるからなんだろうなという印象を与える。
そう思うと、こいつのやってることはこれでよくて、こっちもなんだかこれでいいような気がしてきて、
いつの間にかお前のペースに飲まれていく」

未央「うーん、貶されてるのか褒められてるのかわからなくなってきた」

P「これでもかっていうほど褒めてるぞ。
お前がどんなことでも楽しめれば、その雰囲気は周りに伝わる。
今は辛いことを辛いまま受け取ってるかもしれんが、
それも楽しめるようになれば、あとはお前の独壇場だ。
周りを飲みこんで、いつの間にか全員味方だ。
そう出来るように路上ライブも組んでたんだが、ちとキツすぎたか。やめるか?」

未央「やめないよ!私もっと楽しんでみる。今は確かに辛いけど、なんか今の話聞いてたら楽しめる気がしてきた!」

P「そうか。じゃあ明日から頑張るように」

未央「うん♪」

P「ちょうど着いたな。また明日。ゆっくり休めよ」

未央「うん!プロデューサー君もね」オヤスミー



P「…単純だな」

楽しむ。それってどういうことだろう。

言葉にしてみるとわかりにくいけど、歌って踊ってみるとわかりやすい。

ステップもグチャグチャになることもあるけど、それでも踊りきる。
歌も外すこともあるけど、みんなに伝われ!って思いながら精一杯歌う。

そしたらなんだか楽しくなってきて、
見ている人にもこの楽しい気持ちが伝わればいいなって思ってギアが上がる。

ファンも知ってる人もいないけど、
私の目の前の世界は雑踏からキラキラ輝く星空に変わっていく。
私は今星空の中で歌っている。そう思うともっと楽しくなって笑顔になる。

P「プロデューサーチョップ!」

未央「痛い!」

P「確かに俺ははみでるところがいいとは言った。
言ったがな、ステップを間違えまくっていいと言った覚えはない」

未央「楽しくなってつい…」

P「プロデューサーチョップ!」

未央「痛い!二回も!」

P「今日はレッスンきつめにしてもらうからなー」

未央「」

M「何があったかは知らないけど、今の君はとても魅力的になったな」

未央「そうですか?」

M「ああ。初めて見せてもらった時消えていた魅力が今は燦然と輝いているよ。
キミの気持ちが伝わってきてとてもいい気分だ」

未央「ありがとうございます!」

M「じゃあステップを間違えないようにしっかりレッスンだ。ハードにいくぞ」

未央「」…ハイ

ライブバトル会場



P「前回は悲惨だったが、今回はいけるよな?」

未央「もっちろん!まっかせなさい!」

P「奇しくも相手は前川みくだ。またもアウェーでの戦いだが、お前らしく楽しんで来い」

未央「はい!」





前川「そんにゃー!」




P「ま、これぐらい普通だ。それぐらい出来なきゃ失格だ」

未央「ちょっとは褒めてもいいんだよー?」ムフフ

P「そうだな、ご褒美にレッスンをきつくしてもらおう」

未央「」

P「嬉しくて声も出ないか。よかったよかった」

未央「わーー!!」

P「アイスでも買ってやるから騒ぐな」

未央「やったー♪」


P「はぁ…」

P「明日は営業無しで午前中からレッスンだ」

未央「急にどうしたの?」

P「島村がレッスンをしたいと言ってきたからな。ちょうどいい。渋谷とお前と三人でレッスンだ」

未央「しまむー、どうしたんだろ。何かあったのかな」

P「何かあったんだろ」

未央「何かしたの?」

P「俺は何もしてない。島村がそうしなきゃって思っただけだろう」

未央「じー」

P「なんだ?」

未央「嘘ついてるなーと思ってさ。何かしたんでしょ?」

P「どうしてそう思う?」

未央「犯人はいつもそうやって、俺は何もしていない!って言うものなのさ!」

P「…」アワレミノメー

未央「そうじゃなくてさ、しまむーのことも見ててくれてるんだろうなと思ってさ。急にお休みもあったし」

P「なんにせよ動きがあったのはいいことだ。明日は重要だぞ。お前の背中を見せるいい機会だからな」

未央「うん。頑張るよ」

P「お前が頑張るって言うとなんか空回りしそうでなあ。
今まで通りでいい、変に無理しなくていい、お前が俺と一緒にやってきて感じたことをそのままやればいい。
そしたら自然に結果となって現れる」

未央「はい!でもなんか緊張しちゃうな。久しぶりに三人でレッスンだし」

P「緊張するようなことは何もない。お前がお前でいればいいだけだ」

未央「…うん、そうだね!よーし、やるぞー!」


P「…」ヤレヤレ

しまむー、しぶりん、私はここにいるよ。
いつも追いかけてただけの私は今ここにいて、二人がここまで来るのを待ってるよ。

楽しんで楽しませようと思って、さらにギアは上がる。
いつの間にかトップギアだ。
私はどう見えてるかな。私の世界は今キラキラに輝いてるよ。





P「今日まで長いことお疲れだったな。これは俺からのご褒美だ。駅に着くまで開けるなよ」

未央「なにこれ?」

P「開けてからのお楽しみだ。その目に焼き付けてこい。そしてお前らの目指すべき場所を確認して来い」

未央「?」




ちゃんみお奮闘編終わり

とりあえずここまでで。
あと2・3話ぐらいで終わる予定です。
どうでもいいけどミツボシ☆☆★はすっごいベタな振り付けで踊ってほしいと思う今日この頃です。
おやすみなさい。





未央(駅着いたけど、何入ってるんだろ?…手紙?)



色々お疲れだったな。
お前が抱え込んできたものを考えると、15歳には少し荷が重すぎるものだったろう。
それを支えてくれる人間がいないのは辛いもんだ。俺もそうだった。

それでも今日まで色んなものを抱えて踏ん張ってここまで歩いてきたことは、
お前のこれからの人生において必ず力になる。
それがアイドルという道であっても、他の人生を歩んだとしてもだ。
お前がこれからどういう道を選ぶかは知らん。お前が決めることだ。

渋谷も島村も、何とか今日まで持ちこたえることが出来た。
少しずつではあるが、前に進んでいる。明日はもっと前に進むだろう。
そういう兆しが俺には分かる。お前もいつも二人を見ていたなら、きっと分かるはずだ。
その上で、お前が進みたい道を決めろ。

765プロのライブチケットを同封してある。開始までは時間がある。会場は港スタジアムだ。
港公園駅を降りたら案内がある。間に合うように移動しろ。

二人にも伝えておいてほしいんだが、明日はオフの予定だ。存分に楽しんで来い。

お前らが目指す世界は、そこよりももっと先だ。本物を感じてこい。

P

未央(…マジ?これチョープレミアチケットじゃん!って時間ギリギリ!移動移動!
電話は…電車だから無理か。メールしとこう)



ガタンゴトン



港公園駅前



卯月「…あ!未央ちゃーん、こっちこっちー!」

未央「しまむー?!どしたの?」

ちひろ「プロデューサーさんがそろそろ未央ちゃん来るから落ち合えって」

未央「ちひろさんまで?どういうこと?」

卯月「未央ちゃんもチケット持ってるんだよね?」

未央「さっきプロデューサー君に貰ったけど、二人も貰ったの?」

卯月「うん!しかもしかも!」

未央(…しまむー、なんか変わった?)

卯月「なんと!あの天海春香さんから渡されちゃいました!」

未央「へっ!?」

卯月「へへー♪プロデューサーが調整してくれたみたいで、ライブ前の天海さんと話しちゃいました」

ちひろ「オーラというか、雰囲気が違いましたね」

未央「」

卯月「…今はまだ上手くこの気持ちを形に出来ないんだけどね、私…」

卯月「私、前に進もうって、そう思うんだ」

未央「…しまむー」

卯月「未央ちゃんが必死になって私や凛ちゃんを支えててくれたから、
今こうやって前に進む決心が出来ました。本当にありがとう」

未央「…頭なんて下げないでよ。私は二人に支えられてここまで来たんだもん。そんなの当たり前だよ」ヘヘヘ

卯月「…未央ちゃん」


ちひろ「さ、そろそろ会場の時間です。行きましょー!」

未央「そっだね。さ、行こー!」

卯月「おー!」

ゾロゾロゾロゾロ



港スタジアムS席


社長「お、遅かったね。待ちくたびれたよ」

ちひろ「社長!?」

卯月「社長もプロデューサーからですか?」

社長「ああ、今日のこの時間だけは空けておいてくれと言われてさ。是非とも本物を君たちと見てほしいとね」

ちひろ「あれ?プロデューサーさんは一緒じゃないんですか?」

社長「いや?私はスカウト活動をしてから来たから一緒ではないよ?」

未央「プロデューサー君はさっきまで私と一緒にいたけど、あれ?」

卯月「あとから遅れてくるのかなぁ?」

ちひろ「うーん、連絡してみますね」



プルルルルル


P『はーい?』

ちひろ「お疲れ様です、無事未央ちゃんと社長とも合流できましたよ」

P『それはなにより』

ちひろ「プロデューサーさんはいらっしゃらないんですか?」

P『え?なんですか?』

ちひろ「プロデューサーさんは来ないんですかって聞いたんです!」

P『すみません、電波が悪いみたいでよく聞こえないです。とにかく楽しんできてください』

ちひろ「え、ちょっと!」

P『それじゃあまた事務所で』



ツーツーツーツー



未央「なんて?」

ちひろ「電波が悪いみたいでよくわからなかったです。楽しんできてくださいと」

未央「うーん」

社長「…」

ちひろ「…というかなんで私だけ席が離れてるんでしょう」

席順



●・●・●社・卯・未・○・ち・●・●・●



凛「…え?」

卯月「あ!!」

未央「しぶりーん!!」

凛「…なんでみんないるの?」

未央「プロデューサー君からのご褒美だってさ!」

卯月「ちひろさんの隣が凛ちゃんかな?」

凛「そう…みたい」

凛(未央の隣か…気まずい)

未央「ほらしぶりん、こっちこっち!」

凛「…うん」



カイエジュップンマエデス!!


ザワザワザワザワ


???「みんなー!準備はいいかなー!?」


オーーーーーーーーー!!!!!



未央「始まるね!!」

卯月「うん!!」

凛「…」ドキドキ


春香「それじゃあいっくよーーーー!!!!」




ウオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーー!!!!!








未央「…ん?」

凛(…キラキラして、私には眩しすぎる。この光に当てられると、私の醜さがさらけ出されてしまいそう)フルフル

未央「しーぶりん!」

凛「…何?」

未央「しまむーも!」

卯月「ふぇ?!」

未央「そーれ、ギュッ!」

卯月「…?」

凛「…手なんか繋いでどうしたの?」

未央「えへへ♪なんとなーくさ、なんとなーく。
こうして三人で手を繋いだら、なんかあのステージまでいけそうな気がしてさ」

凛「…」

卯月「…私もそんな気がする!」ギュッ!

未央「でしょ♪しぶりんにもも一つギュッ!」

凛「はは、何それ」

未央「なんだろね。…でもずっとこうしたかったんだと思う。こうやって三人で手を繋いでさ♪」

卯月「…未央ちゃん」

凛「…未央」

未央「えへへー。お!次は星井さんだ!」ワーーー!!

凛「…」フフフ



社長(…彼を信じて、よかったのかもしれんな)

ちひろ(ですね)

社長(!?)

ライブ終了後


社長「素晴らしいライブだったね」

ちひろ「はい!」

卯月「キラキラ輝いて、魔法みたいでした!」

未央「流石765プロといったところですな」

凛「それは誰なの?」

未央「あ、そういえば明日は三人ともオフだってプロデューサー君から伝言」

卯月「オフかー」

凛「…」

社長「目指さなければいけないのはこのライブよりももっと先の世界だと、P君は言っていたよ。
全くもって同感だ。感心してばかりはいられないな。
このライブを糧にして、明日からの一日を変えていこうじゃないか。私ももっと頑張らねばいかんな」

卯月・未央「はい!!」

凛「…はい」

ちひろ「さ、遅くなる前に帰りましょうか」

「「「はーい」」」




しぶりん事務所へ

765プロライブ翌日


未央(オフとは言われたものの、流石に昨日のライブを見せられたら、
オフなんて言ってられないよね。少しでも上手くならなきゃ!)


卯月(春香さん、輝いてたな。あんな風になりたいけど、今の私じゃなれない。もっと練習しなきゃ!)


凛(私がみんなを魔法にかける。足りないものが多いけど、それでも、私なら出来る!)




未央・卯月・凛「あっ」

事務所



P「ふぁー、眠い」ノビー

「「「おはようございます!!!」」」

P「おお!?って何してんだ?今日はオフだって言わなかったか?」

未央「いやー」

卯月「昨日のライブを見てたら」

凛「このままじゃ駄目だって思ってさ」

P「…はぁ」

未央「少しでも積み上げなきゃ絶対にたどり着けないからさあ」

卯月「約束を果たすために、少しでも努力したいんです!」

凛「星井さんみたいにキラキラ輝くのはまだ無理だけど、
それでもいつかあんな風にキラキラに輝いて、みんなを魔法にかけるんだ」

未央「…なんで星井さん?確かにキラキラしてたけどさ」

凛「ファッション誌の仕事で会って色々話したの。その時も凄くキラキラ輝いてたからさ」

未央「…え?星井さんに会ったの?」

凛「うん。仕事だったけどね」

未央「…しまむーも天海さんに会ったんだよね?」

卯月「うん♪いっぱい話しちゃった」

未央「…プロデューサー君?」ジトー

P「なんだよ」

未央「…私会ってない」

P「誰に?」

未央「765プロの人にだよ!二人は会ってるのになんで私は会ってないの!?」

P「たまたまだ、たまたま」

未央「う…わー!私も会いたいよーーーーー!」

P「みくにゃんに会ったからいいだろ」

未央「みくにゃんはいいよ!」

P「酷いな」

未央「うー」ズーン

P「んで、お前ら何しに来たんだ?」

卯月「私たち、あのステージの先の世界に行きたいんです」

未央「みんなを熱狂させて、感動させたい!」

凛「あんな煌めく世界を作りたい」

未央「そのために、本気のプロデュースをお願いしたいんです!」

凛「どんな辛いことがあっても、二人がいれば絶対に大丈夫」

卯月「辛いことがあっても、振り返らないで、前を向いて進んでいきます」

未央「だから、これからも本気のプロデュースをお願いします!」



卯月・未央・凛「お願いします!」



P「…」

卯月・未央・凛「…」





P「やーっといい顔になったな」



信頼できる上司も仲間もいない。何年もプロダクションを転々としてきた。

信頼出来るアイドルはいたが、彼女たちを輝かせる前にプロダクションが潰れてしまったり、
担当を先輩プロデューサーに取られたりと、今まで功績らしい功績を残せないでいた。

功績が無いこと自体はいいのだが、担当したアイドルたちがその後良い成績を残せず
他のプロダクションに移籍になることが多く、それが何より悔しかった。

彼女たちは懸命にアイドルであろうとしていたが、大人がその芽を潰してしまっていた。
それでも、どのプロダクションにいても仕事に対して真摯でいた。
そうでなければアイドルを目指す彼女たちに失礼だから。

あの輝くステージを作りたかった。一人一人が宝石のように輝き、
会場にいるすべての人を一つにしてしまうほどの力を持った彼女たちのステージに憧れた。

しかしどのプロダクションもそれに応える熱量を持っていなかった。どこも本気ではなかった。
理想を目指すとは言葉だけで、その実、目の前の小事に一喜一憂するだけのつまらない場所ばかりだった。

そんな中でも俺は全力を尽くしてきた。そんな時、CGプロの社長に誘われた。

CGプロと言えばこの業界にいれば名前ぐらいは聞いたことあるなというぐらいの小さなプロダクションで、
ニュージェネレーションという三人組ユニットを売り出していたなと記憶していた。

そんなCGプロの社長から直々にお誘いを受けた。
その時はプロダクションの事務員として働いていたが、やはりプロデュース側にいたい、
その気持ちを汲み取ってくれた社長の熱意に惹かれた。

社長から前職のプロデューサーが辞めてしまい色々と困っていると聞かされた時、これは天啓だと思った。

しかし事務所に入った瞬間、どのプロダクションのアイドル達よりも酷いというのを体が感じた。
言葉で表現すると安っぽくはなるが、彼女たちからオーラを全く感じられなかった。

彼女たちが何かを秘めているのは分かったのだが、
それが何かによって酷くくすんでしまって、目も当てられない状態になっていた。

だから、






モバP「ブスだなー」






                        終わり

ある日の事務所




プルルルルル・プルルルルル・プルルルルル ピッ


ちひろ「はい千川です。どうしたんですか?」

P『すみません、パソコンの電源を切り忘れてしまっていて。申し訳ないのですが電源切っておいてください』

ちひろ「はーい。了解です。営業頑張ってくださいね」

P『ありがとうございます。よろしくお願いします』


ピッ


ちひろ「データの管理も重要な今日この頃ですしね」

PC

ライブスケジュールフォルダ

営業日誌フォルダ

計画書フォルダ

視聴覚資料フォルダ

アイドル日誌フォルダ

………



etc

ちひろ「さ、パソコンの電源を落としましょう」カチカチ

カチ

ちひろ「電源電源♪」カチカチ

カチ

ちひろ「あら、なぜかアイドル日誌フォルダが開いてしまった。困った困った」

カチ

ちひろ「あら、ワードが開いてしまった。いっけなーい」テヘ

渋谷凛。

前プロデューサーが信頼していた一人。もちろん島村や本田も同じように信頼していたのだろうが、
渋谷に関しては特別な何かがあったのだろうと推測できる。

二人に比べてダンスも歌も差をつけている。器量の良さと技術の高さ。
三人をじっくり観察するとやはり一つ一つの動作にレベルの違いを感じる。
しかしどこか切羽詰っている印象がある。そしてどうにも無愛想である。

精神的な余裕と、もう少し笑うこと、この二つが当面の課題になるだろう。
感情をコントロールしているのかもしれないが、もう少し素直な表情を作れるようにしてやらねば。

ゆっくり付き合っていこう。

島村卯月。

感傷的な人物。少しの言葉で傷つき、その反面少しの言葉で喜ぶことも出来る子だ。
ダンスや歌は渋谷に劣るものの、基本がしっかりしており、お手本のような子。
それ故に何かとがった一面がほしいところではある。しかしそれが彼女の良いところなのだろう。

何か自分と親近感を覚えるが、それでも届きはしない、そんなアイドルになれる可能性を秘めている。
その姿は765プロの天海春香を彷彿とさせる。天海春香になる必要はない。
彼女を簡単に超える存在になってもらわなければ困る。今はまだその可能性を秘めている段階だ。

焦らずじっくりと。

本田未央。

ほかの二人と比べるとダンスも歌もレベルの差が開いているのが現実。

しかし二人よりもよっぽど彼女のダンスや歌は見ていて聴いていて楽しい。
それは彼女の在り方が要因だろう。

レッスン中も常に笑顔を忘れずに取り組んでいる。クズがいるスタジオにあっても、
彼女は彼女を崩さずに本田未央であり続けた。ほかの二人よりもアイドル性を持っているなと感じた。

ただ、技術面の向上は必須の課題であり、彼女の土台の上にそういった技術が乗って初めて、
彼女がアイドルとしてスタートできるだろう。

長い戦いになりそうだ。

こうしてレッスンを見させてもらうと、社長の見る目があるのだなと感じる。
三人とも持っているものや秘めているものに可能性を感じざるを得ない。

しかし、今のままではただの路傍の石のままである。星は空にあるから綺麗なのであり、
地面に転がっているだけではただの不細工な石でしかない。

彼女たちが空に行くのか、路傍の石でいるのか。それは俺には分からない。
それでも、彼女たちが輝く空の星を目指すなら、俺は彼女たちのために道を示そう。
それがプロデューサーの仕事だから。



ちひろ「いけない、勝手にスクロールしてしまう」


憎まれ口や皮肉を言うことはあっても、子ども相手に激昂するとは思わなかった。
しかしそれほどまでに酷い内容だったのは間違いない。

どこまでも上の空で、何一つ目の前のファンを見ていない。
彼女たちにとってこれは仕事であって、それ以外の何物でもなかった。

彼女たちはアイドルではない。これだけのファンがいる中でもそれを自覚できないことに対して
どうしても怒りが抑えられなかった。

遠くから彼女たちの様子を見ていたが、アイドルではなくただの高校生。何の価値もない。

休憩明けからは少し良くなった。ほんの少し。ただ今はそれだけで十分だ。
彼女たちの存在意義がどこにあるのか、それが少しずつ変化していけばそれでいい。
前プロデューサーの影が強すぎるから、ちょっとだけでもそこから前に進む、それだけで大きな進歩だ。



ちひろ「握手会の日の事かしら?」



スクロール

自分の事務所の売り出していたアイドルを活動休止にすると聞いたら、
誰だって驚くだろうし止めるだろう。しかしことは急を要していた。

今ならまだ三人とも救いようがある。誰か一人が崩れてしまえばもう取り戻すことが出来なくなってしまう。
それほどに三人は深く関わりあっている。

本田はギリギリのところでどうにか見つけられた。
一緒に行動し支えていけば三人の中で早く輝けるだろうし、
それが二人にとってもいい影響を与えることになるはず。

あとは二人がどのように立ち直っていくかを考えなければいけない。

どうしようかと悩んでいたが、とにかく行動方針を決めてやるしかない。
まずニュージェネレーションの活動はとにかく止める。三人を駄目な方向に持って行ってしまう。

特に渋谷。異様なまでに執着している。
何か要因があるのだろうかと、本田を送り届けた後事務所で渋谷の経歴を見て何となくわかった。

本田、島村は社長のスカウトでCGプロに所属したのだが、
渋谷は前プロデューサーがスカウトしてきたらしい。

渋谷にとって彼はアイドルであることの支えだったのだろう。
だからこそ彼が残してきたものにすがり、それを護ろうとしている。
そうすることで自分がアイドルであることを認識できるかのように。あくまで推測ではあるが。

根が深い。しかしだからこそ、彼女自身が一人でアイドルになるために、
彼との関係を終わらせてやらなければいけない。
でなければ、アイドル渋谷凛は形を成すことが出来ない。それはあまりにももったいない。
磨けば他の事務所のアイドルにだって負けないほど光り輝けるポテンシャルがあるのにそれが埋もれてしまう。
そうなる前に、彼女をアイドルにしなければ。

だからといって彼女を無理にファンの前に出すのは得策ではない。一つの失敗で崩壊する恐れがある。
今はひたすらにレッスンに打ち込んでもらい、その間に何か違う仕事に触れる機会を作り、
そこから色々感じてもらおう。スタイルもいいしモデルの仕事もいいかもしれない。掛け合ってみよう。

彼女が彼女を信じられるようになったら、その時アイドルとして活躍してもらおう。

渋谷はどうにかするにしても、島村をどうするかも難しい。

彼女の場合も渋谷と同じで前プロデューサーに依存した形だと思うが、
彼女の場合は前プロデューサーに対しての恋愛感情で動いていたのではないかと思う。
いつの間にか彼女がアイドルでいたいと思う気持ちが彼の気持ちに応えるという気持ちに
すり替わってしまっているのではないだろうか。

恋愛感情自体は問題ではない。多感な年ごろだ。
そういった理由もアイドルである理由の一つになるだろうかと思う。

しかし島村の本当の問題は、もとは違う目的でアイドルであったはずなのに、
それがいつの間にか恋愛感情とすり替わってしまって
自分の本当の気持ちが見えなくなってしまったことにあるのではないだろうか。

だからどこか力が入らない、どこに向かえばいいのかわからないという感覚に
支配されているのではないだろうか。

彼女の本当の理由が胸を張って言えるようになったら、彼女もまた輝ける。素質は申し分ない。
どうしたものかと考えたが、彼女がもっと近くで誰かに喜んでもらえる環境を作って、
そこから様子を見てというのがいいのかもしれない。

今無理に刺激を与えてもいい影響は出ないとなると、
高齢の方か、子どもを相手にするのがいいかもしれない。そういった環境を整えよう。

本田に関しては、あとはもうプロデュースの問題で、
露出を増やし自信をつけさせ、とにかく困難を乗り越えて力にするのが一番。

どんなことでもきっと彼女なら笑顔で乗り越えるはずだ。
それが彼女の一番の魅力であり、彼女を輝かせてくれることだろう。



ちひろ「うーむ」



スクロール

ボランティア活動を行う際、幼稚園の先生と老人ホームの職員の方に、
歌の話や仕事はさせないでくださいと頼みこんでいた。

アイドルとは違う活動をさせて、その中で彼女にとって一番いいタイミングできっかけを与えて、
彼女が自ら動けるようにさせたかった。

千川さんには彼女の行動を常にビデオカメラで追ってもらい、毎日チェックし、
表情の機微やちょっとした言葉の違いを見極めた。マイクは千川さんにお願いして彼女のエプロンに仕込んでおいた。

☆月■日、彼女の表情がほんの少し緩んだ。気が緩んだともいえるのか。
本田との営業を休みにし、急きょ幼稚園に行くことにした。

そして一人の女の子を捕まえて、

「あのピンクのエプロン付けてるお姉さん、歌がとっても上手だからおねだりしてみるといいよ」

と言った。彼女は喜んで島村のところに行き、歌をせびった。
困りながらも歌っている島村の表情が、俺が入社してから初めて柔らかくなった。

天使の歌声ではないが、柔らかくて温かい、彼女しか出せない歌声は、老若男女すべてを優しい気持ちにさせる。

午後は休ませてほしいと千川さんに伝えて帰ってしまったせいで先生方に謝らなくてはいけなかったが、
とても大きな一歩を踏み出したと思う。

翌日の老人ホームでの歌の会、実はこれが第一回目だ。
企画立案して、彼女の為だけに作ったものだ。

意外に好評でこれからもやっていきますと職員の人に言われたので、少し得をした気分だ。

勿論一人目の準備が遅れるのは演出。島村に一番に歌ってもらいたかった。
彼女の歌を何より老人ホームの人たちの頭に叩き込みたかった。

そのおかげで、後日島村が歌をおねだりされる結果に繋がる。

レッスンをしたいと言われて、本当に嬉しかった。彼女の心がほんの少しだけ揺れている。

これはいい機会だ。本田の営業をやめ、渋谷を含め三人でレッスンをさせる。

渋谷も島村も、自分より下手だと思っている本田がどれだけ先に行っているかを認識するいい機会だ。

必ず良い方向に転がる。俺の勘が言っている。

予想通りの結果。誰よりも本田は輝いた。
渋谷は技術的にも体力的にもいい勝負だったが、今のままでは決して追いつけない。

島村は、あまりにも酷い結果になってしまった。
センターで踊っていたのに存在感が消えた。

まあ島村だけでなく本田の前では渋谷も存在感は薄くなってしまったが。

何に感謝していいかわからない。苦しい中、それでも彼女は前に進んだ。
大丈夫、もう大丈夫。もがき苦しんで、答えがほしくて前に進んだ。それでいい。

本当のお前は、ジャングルジムの上の、おばあちゃんの横の、笑顔が大好きな一人のアイドルだ。
もうお前の答えは出ているはずだ。あとは最後のお膳立てをしてやるだけ。

渋谷もきっと本田のレッスンを見て何かを感じただろう。
本田よりもさらに本物を見させてやりたい。



「もしもーし。おー、久しぶり俺だ。元気してるか?
ちょっとお前ん所の天海春香と会わせたい奴がいるんだが。
あとファッション誌のモデルの仕事とかで星井美希と一緒に撮影とか出来たりしない?」

ちひろ「…とってもよくみんなを見てくれているんですね。プロデューサーさん、尊敬しちゃいます」

P「それはどうも」ニッコリ

ちひろ「いえいえ」ガタガタガタガタ

ちひろ(…やばい、ここで振り向いたら多分生きては帰れない)

P「どうしたんですか、千川さん。俺のデスクに何か用ですか?」スマイル

ちひろ(…振り返らなくても生きては帰れない!)

P「どうしたんです?何か言ってくださいよ」ハハハ

ちひろ(ここはもう素直に謝るしかない!)クルリ

ちひろ「すみません!ほんの出来心d」

P「プロデューサーアイアンクロー!」ガシッ!!

ちひろ「ひぎぃ!」

P「俺は電源を切ってくださいと言いました。
誰がファイルを開いて文章を確認してくださいと言いましたか?」ギリギリギリギリ

ちひろ「そ…その!」

P「あぁ?」ミシミシミシ

ちひろ「ぁぁぁっぁ」

P「何も見ていない、何も言わない、すべて忘れる。OK?」

ちひろ「ぁが…」

P「もう少し強くしてほしいんですね」ミミミンミミミン

ちひろ「はい!何も見ていません!何も言いません!すべて忘れます!!」

P「はい」パッ

ちひろ「うぅ…痛い」サスリサスリ

P「勝手に人のデータを見るからです」

ちひろ「だってぇ、面白そうな文字が見えたから」

P「ほほう」ポキポキ

ちひろ「すみません」

P「今後そういうことはやめてください。いいですね」

ちひろ「はぁい…」

P「不満があるならもう一度痛みを味わいますか?」

ちひろ「勘弁してください!でも…」

P「でも?」

ちひろ「やっぱりプロデューサーさんは凄いですね。態度は悪いですけどみんなのことをしっかり見てて」

P「当たり前でしょう。プロデューサーですから。俺が見なくて誰が彼女たちを見るんですか」

ちひろ「さっすがー♪プロデューサーの鏡ですね」

P「褒めても許されるわけではありません」

ちひろ「ちっ」

P「早く電源落としてください。営業戻らなきゃいけないんですから」

ちひろ「はーい」カチカチ




ヴゥーン




                        終わり

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年08月28日 (水) 17:48:41   ID: T6UBJPr0

2 :  SS好きの774さん   2015年02月13日 (金) 10:29:20   ID: Uzb3_cnd

これはただの性格悪い奴

3 :  SS好きの774さん   2015年10月01日 (木) 15:45:32   ID: WPQsDiGX

2年前のSSということに感慨深いものがある
一から道を作っていく話はやはり面白い

4 :  SS好きの774さん   2016年09月14日 (水) 09:54:25   ID: RDRF0v84

これは良作!お疲れ様でした。こうゆう頼れる大人って現実ではなかなか出会えないからなぁ。
デレファンには書き方的にキツい表現あったり、言葉や想いのやり取りがニートには分からない.伝わらないと思うけど、素直に面白かったです。

5 :  SS好きの774さん   2016年11月16日 (水) 14:48:32   ID: QQNfWy1q

>4
コミュ障で、上手くいかないのは皆まわりがやる気ないせい、な大人が「頼れる大人」?頭大丈夫か?

人格否定しといて「本当はお前のことを思ってやってたんだよ!」とかただのうざい奴じゃん

>言葉や想いのやり取りがニートには分からない.伝わらないと思うけど
こんなん社会人としては失格だろ。そんなこともニートには分からない、伝わらないと思うけどね

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