デジタルモンスター研究報告会 season2 エピローグ (399)

前スレ
研究員「安価でデジモンを進化させる」
研究員「安価でデジモンを進化させる」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1639266280/)

デジタルモンスター研究報告会 season2(前編)
デジタルモンスター研究報告会 season2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1689348335/)

デジタルモンスター研究報告会 season2 後編
デジタルモンスター研究報告会 season2 後編 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1693582684/)

今度こそ戦いは終わった…
が。
だからといって一息ついてノンビリというわけにはいかない。

敵との戦いで、我々のデジモンは負傷したし、サーバーのシステムもいろいろ破壊された。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1705312546

一旦ここまで

ブイモンは、キンカクモンやアイスデビモンとの戦いで全身に打撲を負っている。
症状からすると、各部の骨にヒビも入っていそうだ。
…考えてみれば当たり前の話だ。
蛮族デジモン達は、青銅器の武器を手にする以前は狩ったデジモンの骨を武器にしていた。
しかし「骨器」というのは馬鹿にできない強さがある。なにせ生物の肉体の中で最も硬い部位を武器に加工して使うのだから、生物の肉体を損傷させるのには必要十分なのである。
打撃で敵の骨を折ることだってできる。骨に骨をぶつければ、破壊できるのは自明の理だ。
…その骨器よりもずっと硬い凶器を振るう筋骨隆々のキンカクモンに、フレイドラモンはしこたま殴られたのである。たとえデジクロスによって肉体が頑丈になっていようとも、骨や筋肉、血管に損傷を負うことは避けられない。
「めちゃ痛い」とのことだが、命に別状はなさそうなのが幸いだ。

パルモンは、両足を骨折している。
セピックモンのブーメランで足を折られたのだ。
…我々の世界の人間は、足の骨折の治癒に一ヶ月かかることもあるという。
パルモンはどうだろうか…。

クラフトモンは…ひどい重症だ。
蛮族の王フーガモンに頭部含む全身を滅多打ちにされたのである。
ただでさえ全身に酷い負傷をした状態なのに、無理をしてデジタルゲートシステムやファイヤウォールの修復をしたため、怪我がさらに悪化したようだ。
対応を間違えたら死に至る危険がある。
幸い、これまでに積み重ねてきた研究成果によって、傷の治りが早くなる薬効成分をもつ薬草がいくつか発見されている。
しばらくの間は絶対安静にして、この薬草を混ぜた食べやすい食事を与えて回復を待たねばならない。

クラフトモンの外装であるケンキモンは、脚部が大破している。
幸いにも上半身はダメージが少ないので、ケンキモン修復の目処は立ちそうだ。下半身は解体して一から作り直さなくてはいけないだろうが…。
もっとも、外装より先に中身の治療が最優先だ。

ティンクルスターモンは、フーガモンに青銅棍棒でぶっ飛ばされて気絶していたが、もう元気そうに動き回っている。
「痛ムガ平気ダ」とのこと。
とんでもないタフさだ…どんな頑丈さしてるんだ。成長期なのに。信じられない。
パルタス氏の地獄のシゴキで超耐久力を得たとみえる。

ファンビーモンは、一番重篤…危篤状態だ。

ファンビーモンは多数のシャーマモンにボコボコにされて、キャンドモンに燃やされた。重度の火傷は呼吸器の中まで達している。
傷口を塞いで体液流出を止めはしたが、どんどんバイタルが低下しており…
今の我々では手の施しようができない。

ビオトープにて、ブイモンは命の灯火が消えかかっているファンビーモンのそばに寄り添っていた。

「ファンビーモン…せっかくたすけたんだぞ…いきろよ。しぬなよ…」

「…」
ファンビーモンは弱々しい目でブイモンを見つめている。

「オイラのこと、まえにくいころそうとしたくせによ…!オイラはおまえよりつよくなって、おまえをみかえしてやるってきめてたのに…!かってにこんなとこでしぬなよ…!」

「…」

「みてたか?オイラがワームモンとがったいして、つよくなったとこ…!かっこよかっただろ!さっきテキをたくさんやっつけてたおまえにだって、もうカッコよさでまけねーぞ!」

「…」

「オイラ、いままでずっと、じぶんのいちばんがなくなるたびにおちこんでた…。やっとわかったんだ、それがなぜかって。オイラ…カッコよくなりたかったんだ、おまえみたいに…」

ファンビーモンは、目を瞑った。

「くそっ…!しんじまうのかよ…。さいごまできらいだったよ、おまえのこと…!ちくしょう…!」

…そこへ、パルタス氏が通話で入ってきた。

『む、ファンビーモンが死ぬのか!?それは大きな損失だな…。む?そこのビオトープにあるデジタマは何だ?ワームモンとサラマンダモンがどうこうしたものとは別だな』

これはドリモゲモンが死に際に遺したデジタマです。

『確保したのか』

ドリモゲモンは優秀なデジモンです。
蛮族に混じってAAAの指示通りに作戦をこなせる知能を持っているし、地面を掘り進んで敵の足元からドリル攻撃ができる。
あれだけ強力だったモリシェルモンを、DPに大きな差があったにもかかわらず、実質単騎で倒しました。

つまり、あまり動き回らずに戦う巨大なデジモンに対して、ドリモゲモンは強力な特効メタ性能を持っているといえます。

そのデジタマが育てば、間違いなく優秀なセキュリティデジモンが育ちますよ。

『なるほど!おいティンクルスターモン!そのデジタマを破壊しろ!』

は!?

『イエーーッサ!』

ティンクルスターモンは手裏剣のように突撃して、ドリモゲモンのデジタマに突き刺さった。

「な…何やってんだてめぇェーーーッ!!」
突然のパルタス氏の凶行に、カリアゲは混乱しながらブチギレた。

『慌てるな、こうするんだ』

破損したデジタマは、ファンビーモンのもとへ転がった。

すると…
ファンビーモンに触れたデジタマが、光を放ち…
ファンビーモンを包みこんだ。

「んん!?」
カリアゲは目をひん剥いている。私も同じ表情だ。

やがて光が止むと…
少し大きくなった一個のデジタマがそこにあった。

「え?え?」
困惑するブイモン。

な…何やったんですかパルタスさん。

『ん?貴様達は死にかけのワームモンとサラマンダモンを、破損したデジタマへ吸収させたのだろう。同じことをファンビーモンでやったんだ』

ジョグレスを誘発させた…!?
な、何故!!?

『何故ってそれは貴様…ファンビーモンは優秀な遺伝子を持つ強力なデジモンだ。その遺伝情報が失われていくのを指を咥えて見てろと言うほうがおかしいだろう』

ええ…。
あ、あの。ドリモゲモンを育てたかったんですが…。

『強力だが制御がきかなかったファンビーモンの遺伝子と、知能が高く強いドリルを持ったドリモゲモンの遺伝子が混ざったら、さらに優秀になるはずだ。いい事ずくめではないか』

…。
そもそも孵化するかどうかも分からないですよ。デジタマのシステムがバグったかも。

『そうかもな!ハハハ!』

「そうかもなじゃねえ!!」
…もういいよ。過ぎたことは仕方ない。
ってか勝手なことしないでくださいパルタスさん!

『貴様らの判断が遅いからだ』

…この人、合理的なとこはあるんだけども。
感性が度し難い。

一旦ここまで

デジタマといえば…
大きな問題がある。

ワームモンとサラマンダモンがデジタマと融合してできた、大きなデジタマだ。

これはブイモンとデジクロスしてフレイドラモンとなり、強大なパワーを与えた。

「はらへった~…しにそうだぁ~」

ブイモンはこの通り、餓死寸前までエネルギーを使い果たして飢餓状態となった。

だが、ブイモンは食事ができるため、減ったエネルギーを補給可能だ。

ブイモン。
ボスマッシュモンが、前にパルモンが釣ったプカモンの干物をお湯で煮込んでくれたよ。
食べるといい。

「いただきまーす!ハムッハムッ!もぐもぐ…」

だが、この大きなデジタマの方はどうか。
口がないからエネルギーの補給ができない。

…デジタルワールドにおいて、エネルギー保存則は絶対だ。
当然、この大きなデジタマもエネルギーを限界まで消耗しているはずだ。

…このままでは、ワームモンとサラマンダモンが融合したこのデジタマは、エネルギーが尽きて死んでしまうのではないだろうか。

「…ワームモン、おまえもはらへってねーか?おまえもサカナたべろよ、ワームモン…」

ブイモンは、大きなデジタマに煮魚を差し出しているが…。

まさかデジタマが口を開けて餌を食べることなんてできるわけが…。

「ウミョォ~~ン!」

ん!?
大きなデジタマがパカっと割れて、大きく口を開けた!
な、なんんん!?

「おお、口あるんだな!ほらくえ!」

ブイモンは煮魚をデジタマの口に放り込む。

「バクッ!モグモグムシャムシャ…。ウミョォ~ン!」

なんてこった…
デジタマが、デジタマのまま食事したぞ!
どうなってんだ!?

「クワアァ~!クワアァ~!」

デジタマは2~3回鳴くと…
下部がヒビ割れ始め、ズボっと脚が出てきた。

https://i.imgur.com/cAbKDEh.jpg

オ…
オーーーーマイゴッド!!!!!

デジタマというか…
そういうデジモンだったのか!?

レベルを計測したところ…
『4.3』といったところだ。
成熟期をやや超えている成長段階だが、レベル5には至らない、中途半端なところだ。
生命のシステムが少しバグっているのかもしれない。

「ウミョォ!」

歩くデジタマ…命名デジタマモンは、ビオトープから出たがっている。
とりあえず私はデジタルゲートを開いて、デジタマモンを、先程まで戦いが繰り広げられれていたデジタル空間へ出してやった。

先程までデジタル空間にいた赤いオタマモン8体は、既にそこには居なかった。
カンナギ・エンタープライズ・ジャパンへ帰還したのだろう。

デジタマモンは、蛮族デジモンの焼死体を貪り食っている。

…うーん、これならエネルギー補給は問題なさそうか。

少しデジタマモンを計測してみたが…
DPはかなり低い。成長期並だ。

しかし、『エネルギーの貯蔵限界量』はかなり凄まじい。
おそらくグレイモンが肝臓に貯蔵できるエネルギーと同等量のエネルギーを貯蔵することが可能とみえる。

DPとはデジモンの強さそのものを示す指標ではなく、「基礎代謝量の多さと、身体能力の高さ」を示す数値だ。
このデジタマモンはおそらく、平時はできるだけエネルギーを消耗せずにひたすら体内に蓄えておき、膨大な貯蔵エネルギーをデジクロスしたときに一気に使用する…という生態を持っているとみられる。
つまり、デジクロスすることに特化したデジモンといえるだろう。

『素晴らしいいいいいいいいいいいイィイイイイイイイーーーーーーーー!!』

うわっスポンサーさん!?
どうしたんですか!?

『君のデジタマモン君…成熟期デジモンだということは、タマゴを産める!すなわち!彼のデジタマを育てれば、デジクロスが可能なセキュリティデジモンを大量生産できることになるぞ!これは素晴らしいィィイイーーーーー!』

スポンサーさんがいつになくテンション高い。

その時。

『感動した』

音声読み上げソフトによって、チャット文章が読み上げられたような声がした。

な、なんだ?
声がしたのは…
デジドローンの視界を映しているデジクオリアの映像だった。

…デジタルワールドで、ベーダモンにAAAとの戦闘を生配信していたデジドローンだ。

今のメッセージを発したのは、ベーダモンだった。
あ、そういえば居ましたね。忘れてた…。

『適当に数が減ったら 汝らに手を貸してやってもいいかと思っていた だがまさか 余の力を借りることなく あの生意気な小僧を撃退するとは 天晴だ』

お、おお…
どうも。

『いい戦いを見せてもらった 面白かったぞ汝ら 愉快 痛快 爽快な逆転劇だ 汝らがたまに持ってくるゲームソフトより遥かに面白い』

なんかべた褒めされている。

『気に入ったぞ 汝ら 何か面白いことをするとき 余の力が借りたくなったら呼ぶがよい 興が乗ったら手を貸してくれよう』

それがどうも。

『ではな』

ベーダモンは去っていた。

シンがジト目でベーダモンを見て、ひそひそ話をしてきた。

「…今回の戦い、ベーダモンが力を貸してくれたらもっと被害を抑えられたんじゃ?」

まあ…いいよ。
あくまでカリアゲやクルエのミッションは『ベーダモンをクラッカー側につけないこと』だから。

「はあ…」

なんでも聞くところだと、AAAもベーダモンにコンタクトを取ってきたことがあるらしい。

だけど、利用する気マンマンだったのが「鼻について気に食わない、生意気でムカつく」とのことだったそうで、結局ベーダモンはAAA側につかなかったようだ。

「クルエさんとカリアゲパイセンは、ベーダモンを何かに利用はせず、ご機嫌取りに徹したから反感を買わなったんスね。はー、器用なもんスね」

…気難しいよねベーダモン。

カリアゲがため息をついている。

「しかし…結局AAAは今回もまんまと逃げ帰ったのか。こんなの何回もやられてたらもたねーよ…本拠地に攻め入れねーのな…」

ごもっともだ、カリアゲ。
正直、二度も三度も同じことを繰り返されたくない。

どうにかならないのか…

「なるよ、どうにか」
メガ?
どういうこと?

「敵は去った。出てきていいよ、ハックモン」
メガがそう言うと、デジタル空間の影からひょこっと何かが出てきた。
https://i.imgur.com/JMCmXys.png

あれは…
何のデジモン?

「うちのデジタルアソートで開発中のアプリモンスター、ハックモンだ。十分な能力が発現していない開発途中の状態で、ガッチモン達ほど十分な戦闘サポート能力がないから、今回の戦いには加えなかった」

そのハックモンがどうしたんだ?

「ハックモンは『ハッキングツール』の能力を持たせている。まだ未完成だけども…『食べたマルウェアをコピーして操る力』を限定的に獲得している。この力で、スパイのチビマッシュモンに仕込まれていた『デジモン伝送路を繋げるマルウェア』をコピーし…AAAのデジドローンにくっつけたんだ」

なんだって!?
それじゃあ…

「そう。ハックモンが完成すれば、AAAのデジドローンに仕込んだマルウェアを起動して、僕たちのところへデジモン伝送路を繋いでしまうことができる」

カリアゲが立ち上がった。
「それじゃあ…本丸に打って出られるってことか!」

「そうなるね。もっともそのためには、ハックモンの完成以外に必要不可欠な要素が2つある」

「ん?なんだ?」

「ひとつは戦力の充実。今の僕達の戦力はひどく損耗している。まずは怪我を治さなきゃ」

「それはそうだけど…もう一つは?」

「…今回AAAの下僕にいた…ナニモン。あれと同じ能力をもつアプリモンスターを育てなくてはいけない」

「なんでだ?」

「こちらが送り込んだデジモンが、もしも適当な端末に誘い込まれてかネットから隔離されたら、脱出できずに監禁されてしまうでしょ」

「お…そりゃそうか。せっかく攻め込んでも監禁されたらな…」

「だから脱出手段として、ネットから切断されてもデジタルワールドへ逃げれる力が必要だ。…AAAがナニモンを育て上げたのも同じ理由だろう」

「できるのか?」

「頑張ってるけどまだできてない。AAAにやつ…一体どうやってあんなデジモン育て上げたんだ…悔しいけどあいつやっぱ凄いよ」

…何か非人道的なことをして育て上げたのかもね。

それにしても…
戦場の死屍累々の蛮族デジモンたちの死骸、どうしよう。

寄生ズルモンを摘出したガニモン達も、あの後結局死んじゃったし…。

ブイモンが不思議そうにこちらを向いた。
「え?くわないのか」

そ…それは…
…そうか。

人っぽい姿をしてるから、あんまやりたくないんだけど…
糧にしてやるのが、こいつらの供養になるだろう。

「おう!」

これだけたくさんあるから、腐らないようにハムやソーセージにするといいよ。

「なんだそれ?」

煙で炙って燻製にしたものを塩漬けにすると、保存食になるんだ。

加工の仕方は、教えるから…
ボスマッシュモンやティンクルスターモンといっしょにやっておいてくれ。

「ケンはいっしょにみてカントクしてはくっれねーのか?」

…加工されてるところを見たくないから。

「ヘンなのー」

とりあえず、腐る前に燻製に加工するといいよ。

ボスマッシュモン及びチビマッシュモン達が、フローティア島で燻製や塩漬けをする準備を始めた。

フローティア島の真ん中には、シェルモンの大きな死骸が倒れている。
参ったな…これもどうにか処理しないと。

「うぅ…あしいたいぃぃ…いたいよぉ」
パルモンは、折れた足を痛そうに庇っている。
これじゃ移動ができないよな…。
複雑骨折してるみたいだし、手術しないと元通りに歩けないかもしれない。
だけど手術をする設備なんで、うちにはない…。

と、とりあえず、飯を食べるといいよ。
ガニモンを茹でたから、ほら。

「いただきまーす…」
パルモンは、茹でられたガニモンの甲殻を鉄の武器でこじ開けた。
そして、もぐもぐと食べ始めた。

「んまーひ」
パルモンはガニモンのカニ味噌を食べた。
すると…

パルモンの体が…光り輝いた!
これは…まさか。
進化か!


https://i.imgur.com/VoroBRD.jpg

パルモンが進化した姿は、…植物の手足を持つ忍者のようだった。
背中には大きな手裏剣がある。

「脚!治った~!」

進化したパルモンは、ぴょんぴょんと飛び跳ねて、脚が治ったことを喜んでいる。

シュリモンと名付けよう。
しかし、どうして今進化したんだ…?


「さっき『進化しろ』って言ったからじゃねえか?」

おお、カリアゲ?

「さっき俺達、パルモンに何度か『このピンチを乗り越えるために進化してくれ』って頼んだじゃん。で、パルモンも進化しようとして…できない~ってなってた。それが今、遅れてやってきて、進化したってことじゃねえか?」

そ、そういうことか!?
さっきは「パルモンはもう成熟期に進化できそうなのに、なぜ進化できないんだろう」と思ってたけど…

そうじゃなかった。
成熟期への進化条件は満たしていたし、進化もできるんだけど…
「進化するぞ!フーン!」と気張ってすぐに進化が始まるようなものじゃなかった、ということか。

…なるほど。
やっぱり進化というのは、ピンチに陥った時に急にできるものじゃないんだな。

だからこそ、ブイモンがデジクロスという「その場で急に強くなる力」を得たのは僥倖といえるのかもしれない。

「それにしても…蛮族がまた力を取り戻したらやですね~」
クルエがだるそうな声で言った。

それはそうだね…。
蛮族の残党はまだまだデジタルワールドにいる。
それが今回我々のところに攻めて来れなかったのは、クルエがデジクオリアの裏技を利用した奇策によってAAAからのデジモン伝送路を切断したおかげだ。

いやほんと、あの時はナイスプレイ。

「いえい」

きっとこれからAAAは、蛮族の残党をクラッカーデジモンとして利用するだろう。

一般人や企業を狙ったサイバー攻撃をデジモンで行い、それを止めにきた我々のセキュリティデジモンを、蛮族デジモンで迎撃する…という戦いになっていくのだろう。

骨が折れそうだな、それは…。

『ふむ?蛮族の生き残りがまだいるのか?』

そうですよパルタスさん。
キンカクモンは生き延びたようだし…
これからも蛮族デジモンは増えていくと思います。

『ふむ…蛮族は集会をすることはあるか?』

ニセシャッコウモンのありがたいお話を聞く集会があるっぽいですね。

『ふむ…、なるほど分かった!』
ど、どうしたんですか?

『シューティングスターモン!聞いているか!』

『ウィーッス ドウシタ パルタス』

『お前…腹が減ってないか?』

『サイキン狩リニイッタバカリデ ホゾンショクハ マダマダアルガ』

保存食…。
どこに保存してるんですか?

『野生デジモンがいない極寒地帯の永久凍土に蔵を掘って、そこに貯蔵している。天然の冷凍庫だ』

あ…なるほど。賢い。
デジタルゲートを寒い地域に繋げば、それだけで冷凍庫が出来上がるのか。

…パルタス氏、最初の第一印象がアレだから脳筋みたいなイメージあったけど、やっぱ普通に頭いい人なんだな。

『デジタル?ハラヘッテタラ ナンダ』

『…これから一狩り、行かないか?シューティングスターモン』

『…ナルホド、オモシレー ヤッチマウカ』

え…え?
一体何を…パルタスさん?

つづく

は、話の流れからすると…
『一狩り』というのは。

集会中の蛮族達に、シューティングスターモンのミサイル攻撃を撃ちこむってことですか!?

「そうだ!奴ら蛮族デジモンを野放しにしていては国家防衛上の危機と判断した。よってシューティングスターモンの100%のパワーでまとめて粉砕殲滅する!」

し、しかし。
まだ罪を犯していない蛮族デジモンもいるんじゃ…

「罪?私はシューティングスターモンの餌を狩るだけだ。罪がどうとか関係ないだろう。貴様達は川で釣りをする時、罪を犯した魚デジモンだけを釣り上げるのか?」

…そういうスタンスですか。
ならまあ…口出しはできないか。
人形だからとか、知能が高く文化があるからだとか…そういう理由で特別扱いするのも違うしな。

あ!でも、ディノヒューモン農園は餌にしないでもらえませんか?

「なぜだ?」

…我々のパートナーデジモンは、4体ほどがあの農園の出身です。
いや、赤オタマモンもルーツを辿れば農園出身か。

我々セキュリティデジモンのさらなる進化の可能性を模索する上で、あの農園は研究観察対象として非常に有用なんです。

「いいだろう…今はな。だが、奴らがクラッカーと手を組むようになったら潰す」

…それは…仕方ないか。
分かりました。

蕃族の殲滅を企てるなら、集会をするタイミングを見図る必要がありますね。

『うむ!集会はいつやるんだ?』

…分かりません。
監視するしか…。

しかし、ずっとデジドローンで見張っていたらバレるかもしれませんね。
どうにかして、バレずに見張る方法はないか…?

そう話していると、パルモン改めシュリモンが話しかけてきた。
「みてみて!」
シュリモンは、全身を覆う布の服を脱ぎ去ると…
ほぼ100%植物って感じの生身が現れた。

「こうしたらどう?」
そしてシュリモンは、植物に擬態した。
…うーん。これはすごい。デジモンだと気付かないかも。完全に植物にしか見えない。

蛮族の拠点はジャングルにある。
この姿でジャングルの植物に紛れ込めばバレなさそうだ。

潜入するときは、シュリモンにデジドローンを持ってもらい、一緒に擬態してもらうことにしよう。

『しかし、シューティングスターモンがフルパワーで攻撃する場合、5分ほどエネルギーをチャージする必要がある!集会が始まった瞬間に発射、というわけにはいかないぞ』

わかりました。
うまくシューティングスターモンの準備ができてるときに、集会が始まるのを狙いましょう。

『オホン!諸君、蛮族の拠点なら他にもひとつあるぞ!キウイモンの島だ!』

ああ、スポンサーさん…そういえば言ってましたねそんなこと。

『何、本当かクロッソ!ならばそちらも殲滅する!シューティングスターモンが発射したと同時に、キウイモンの島へジオグレイモンを送り込む!スターモン抜きで我々の言うことを聞くか怪しいが…こういう機会も必要だろう!』

…もしもキウイモンがいたら保護してもらえませんか?

『なぜだ』

…蛮族が肉にせずに飼育しているとしたら、それは生かしたまま利用する価値があるということです。
うまく鹵獲できたら役に立つと思いますよ。ズバモンやルドモンのように。

『ふむ…それはもっともか。検討しよう』

そういえば、ルドモンとズバモンはどうなったんですか!

『ルドモンは成熟期に進化したぞ!ティアルドモンと名付けた。これからきっとデジタマを生むだろう』

おお、それはよかった。
ズバモンは?

『ズバモンか!死んだぞ!』

し…死んだ!?
どうして!?

『ヤツらをデジタルワールドで強敵と戦わせて武者修行させていたらな…二体とも成熟期に進化したんだ』

ふむふむ。

『だが、二体ともその場で脱走をしたんだ!』

脱走ですか…「まあそうなるだろうな」って感じですが、それで?

『お仕置きがてらに、シューティングスターモンに20%の出力で突撃させてから捕獲しようとしたんだが…力の調整を誤って70%の出力が出てしまった!』

…どうなりました。

『ティアルドモンは瀕死ながらも生き延びたが…ズバイガーモンは粉々に消し飛んで死んだ!やりすぎたな、ふはははは!』

やりすぎたなじゃないですよ!
安くないお金を払ってもらって売ったんですよ!
そっちが大損じゃないですか!

『まあそういうこともあるだろう!幸い、飛び散ったズバイガーモンの肉片や剣は回収できた。次に何かのデジモンを育てる時に与えたらパッチ進化するかもな!』

…流石にどうかと思いますよ。

『仕方がないだろう!成長期の段階ですら超強力な剣と盾だった奴らだ。それが成熟期になったのだぞ、スターモンやジオグレイモンで連れ戻そうとしたら腕の一本や二本切り落とされかねない!』

それは…
…致し方ないか。そのままほっといて脱走させたらAAAに回収されるだろうし…。

とても惜しい。

さて…
負傷したデジモン達への応急処置が済んだことだし、戦場の死屍累々を片付けるとしよう…。

マッシュモン達、シュリモン。頼んだよ。
「マシーーーー!」
「まかせて!」

マッシュモン達とシュリモンは…
死亡した蛮族デジモン達を解体して、燻製ハムに加工した。
残骸はププモン達に与えた。

蛮族デジモンは、自発的に我々を襲ってきたわけではない。
彼らもまた、クラッカーに利用された存在なのだ。

せめて糧にすることが、弔いになるだろう。

つづく

私とクルエは、デジタマモンをデジヴァイスへ入れてカンナギ・エンタープライズ・ジャパンへ足を運んだ。

神木さんに、救援に来てくれたお礼と報告をするためだ。

秘書の岸部エリカ氏が、我々を案内してくれた。
岸部氏は、最近よく名前を「リエ」と間違われて困る…等、いろいろ喋っていた。

そうして、私とクルエは神木氏の部屋に来た。

「まずは、クラッカーの襲撃を無事に退けられたようで良かった」

ありがとうございます。
クルエが随分な無茶振りをしたようですが、助けてくれてありがとうございます。

「いいや、助けていない。君達がデジクオリアを不正コピーしたから、執行者オタマモンを送り込んでデジタル空間に放火をして私刑に処しただけだ。そこにたまたまクラッカーのデジモンがいたようだが… とにかく、我々は君達に加担したわけではない。履き違えないように」

ああっそういうスタンスでしたね。
…大丈夫、あのオタマモン達がどこから来たのかは、誰にも教えていません。

「それは何よりだ」

それと、サラマンダモンのサラですが…
モリシェルモンに殺されかけたときに、ワームモンと融合し…
このデジタマモンになりました。

そう言い、私はデジヴァイスをプロジェクターへ接続し、スクリーンにデジタマモンの姿を映す。

『クワァ~!クワァ~!ウミョォ~ン!』

「…これが、サラの進化した姿か。レベル5に到達したのか?」

死にかけの状態で、レベル3の成長期デジモンおよび、レベル0のデジタマとジョグレスしたせいか…
レベル5には到達しておらず、4.3…くらいになっています。

「成熟期を超越してはいるが、レベル5には到達していない、か。不思議な状態だ」


せっかくなので、デジヴァイスのカメラをオンにしてみます。

「…わかった」

デジヴァイスのカメラをオンにすると…
デジタマモンの前にウィンドウが現れ、そこに神木さんの顔が映った。

『…!?ク、クワァ~!クワァー!クワァー!クワァァァ!!』

デジタマモンは、神木さんの顔が映ったウィンドウの方へ駆け寄りの夢中で頬ずりをした。

「…サラ。覚えているんだな。私のことを」

『クワァ~~~~!!クワァ~~~~!!』

「…君をデジタルワールドへ放逐して済まなかった、サラ。セキュリティチームに高カロリーな餌の獲得手段と、広い生育環境、そして成熟期デジモンが産んだデジタマを活用する手段ができた今だからこそ、君は自身の力を十全に活かせるが…、あのときの我々には、それがなかったんだ」

『クワ…』

「だから、我々は君を飼育放棄し…棄ててしまった」

『…』

「だが、君は生きてセキュリティチームのところへ戻ってきて、クロッソ・エンジニアリングへ来てくれた。そうして今、我々のところにいる君の子供達と…、そして君がデジクロスしたフレイドラモンが、セキュリティチームを救ったんだ」

『…』

「我々は、育ての親として最低なことをしてしまった…。だが、君が生まれてきてくれて、立派に育ってくれて…、本当に感謝している。どの面下げて、と思うかもしれないが…、君を誇りに思うよ」

『クワァ、クワァ~~!!』

サラマンダモンだった頃のサラは、人間の言葉を理解することはできるが、自ら文章を考えてチャットで意思表示をすることはできなかった。

脳の言語野の発達が、自ら文章を生成できるほどまでに発達していなかったからだ。

だが、チャットで対話できるワームモンとジョグレスしたことで、二体の人格と知能が混ざり合い、デジタマモンはチャットを使えるようになったようだ。

…デジタマモンは、チャットで文章を打ち出した。

『かみき いっしょに いたい』

「…ケン、クルエ。デジタマモンはこう言っているが…」

神木さんがそう言うと、クルエは頷いた。
「…いいよ、デジタマモン。ここのオタマモン達…あなたの子供達と、そして神木さんと。しばらく一緒にいていいよ」

『ありがとう クルエ ブイモンや カリアゲのとこに またもどるよ あとで』

…今ここにいるデジタマモンは、サラであり…
そして同時に、我々の拠点フローティア島でブイモンやカリアゲとデジクロスの特訓をし続けたワームモンでもあるのだ。

デジタマモンは、カンナギ・エンタープライズ・ジャパンのビオトープへと入り込んだ。

そして、サラの子供達である赤オタマモン達とともに、温泉を模した風呂に入った。

『なつかしい おちつく』

「…温泉卵みたいだね」

言っちゃったよ!

そして私は、これからやろうとしていることを話そうとしたが…。

「待て、私にジャスティファイアとの共同作戦の話をしようとしているのか?重要機密事項だろうそれは。聞くわけにはいかない、君達の研究グループとは協力関係だが、君達のセキュリティ事業に表立って加担しているわけではないのだから」

あっ、そ、そうでしたね。

「…君達にはサラの件の恩がある。クラッカーとの抗争関係と直接関わらないところで、個人的に礼がしたい」

お礼ですか…
何かありますクルエさん?

「…お礼って言っても、サラが頑張ってくれてるだけだから、私はなんともですね」

「欲がないね…」

欲を言っていいなら…
一つ聞きたいことがあります。

「何かな」

前に教えてくれましたよね。
デジクオリアをそもそも何故作ったのか。
デジクオリアがどういう原理でデジモンやデジタルワールドを観測しているのか。

「…ああ」

元々、古の時代には本物の霊媒師…シャーマン達が世界中にいて、霊視や冥界の観測をするロストテクノロジーを持っているらしかった。

そこで神木さんは、それら霊媒師たちの特殊な脳の状態を人工知能によって再現し、コンピューターに霊視をさせることに成功した。

そうして出来上がったのがデジクオリアであり…
デジクオリアで観測した冥界こそがデジタルワールド。

そして、冥界を漂う幽霊のようなものが、情報生命体デジタルモンスターだったよ。

「そうだ」

…その『実在した霊媒師』とやらの存在を、あまり触れていませんでしたが…
それについて詳しく教えてくれませんか。

「…いいだろう。他言無用でな」

はい、分かりました。

「…この研究を行うにあたって、実際の霊媒師の存在は不可欠だった。デジクオリアの観測した世界が、実際の霊媒師の視界に近いものが再現されいるかどうかテストするためにな」

そうですね…頑張って集めたんでしたっけ。

「そうだが…幸いにも、ごく身近に霊媒師が一人いたんだ」

誰ですか?

「…私だよ」

えぇ!?
神木さんが!?

「…とはいっても、私は古の時代のシャーマン達ほどちゃんと修行を積んだわけじゃない。祖先から受け継いだ霊感が残っていて、多少目が利く程度だ」

…びっくりした。
マンガの世界みたいですね。

「デジタルモンスターだって怪異だろう」

それはまあ…そうですが。

そういえば、カンナギ・エンタープライズって社名…
日本語ですよね。

『巫(かんなぎ)』…
神の依代。神と交信する者。

「そうだ。カンナギ・エンタープライズは、人間の脳をAIで再現し、人工知能を開発する事業をしている多国籍企業であり、収入源もその関連事業だが…、裏の顔がある」

裏の顔…?

「世界各地で、オカルトと揶揄されながらも今も細々と活動している本物の霊媒師達。その人脈を繋ぎ、その秘術の原理を科学で解き明かすことだ。デジクオリア開発にあたって霊媒師を集めることができたのは、その人脈のおかげであり、会社の金をデジクオリア研究に使えたのも元々そういうスタンスだったからだ」

株主からさんざんこっぴどく叱られ、世間から後ろ指をさされ…
そうしてしんどい状況の中で頑張って完成させたんでしたね。

「そうだ。これで霊能力の原理が、オカルトではなく科学によって解明されたということだ。だが、そういう背景は世間に一切公表していない」

…霊媒とか幽霊とか冥界に、フィクションの中で過剰なパブリック・イメージが植え付けられてるから、でしたね。

「そうだ」

…それでですね。
私が知りたいのは…

パブリックイメージ抜きで、実際に古の時代に活動してた霊媒師やら何やらって、結局何者なんですか?ということです。

「…墓場まで持っていくつもりだったが。ケン、君になら話してもいいだろう」

お願いします。

「現代人は、自分達が百年前や千年前の人々よりも知的な存在だと考えがちだ。だが実際はそうではない。『考える』というタスクを電子計算機に丸投げし、その恩恵を受けることができるようになっただけに過ぎない。現代の一般人が、星の動きを観察してコンピューター無しで自転周期や公転周期を計算できるか?六分儀を使うことができるか?…どう思う?」

…難しいでしょうね。

「そうだ。電子計算機に思考のタスクを丸投げする技術を持たなかった時代の人間の方が、現代人より遥かに生活の中で頭を使っていたといえるだろう」

…まあ、言ってることはなんとなく分かります。

「すなわち、その時代においては、人間の脳こそが電子計算機の役割を果たしていた。つまり古代では、人間の脳が生体コンピューターとして日夜使われていたんだ。科学水準が低い時代とて、そこで日々を考え抜いて生きてきた人間たちの思考そのものは侮れないものだ」

ふ、ふむ…?

「さて、現代において、電子計算機が電気信号によって相互接続することで形成されるコンピューター・ネットワーク上で、は度々デジモンの出現が確認されている。君達の研究施設にマッシュモンが湧いたようにね」

デジタルワールドから、偶発的に開いたゲートを通じてやってくるんでしたっけ。

「そうだ。古代の時代にも、ヒトの脳という生体コンピューターは、音声や視界という信号によって接続されていた」

人間関係…ですか。

「それもそうだが…、古代の時代に自身の脳を生体コンピューターとして酷使し、研鑽を重ねた人間の中には、特殊な能力を身に着けた者達がいた。『自身の思考や感覚を、他人と共有する力』を得た者達だ」

テレパシーというやつですか?

「そうだ。現代の携帯端末が電波で繋がるように、第六感のようなもので他人の脳と繋がれる者達がいたんだ」

…本当にいたんですか?そんな超能力者みたいなの。って、霊媒師本人の前で言うのもなんですが…

「世界一有名な霊媒師の名を挙げよう。モーセ、ムハンマド…そして、イエス。彼らがそうだ」

…預言者ですか。

「そう。彼らは人間の脳だけでなく、それよりさらに上の領域にまで思考バイパスを接続できた。それは即ち、当時は天界や天国と呼ばれていた場所…」

…それが、デジタルワールドですか!

「そうだ。ブッダが説いたとされる六道、天上界というものも、彼がデジタルワールドを断片的に観測し、それを独自に解釈したものではないかという説もある」

え、じゃあデジタルワールドにいる何者かが、旧約聖書やら何やらを預言者へ伝えたってことですか?

「それは分からない。我々が観測しているのと同じデジタルワールドから預言を受けたのかもしれないし、全く別の世界から交信を受けたのかもしれない。あるいは…まあ、中途半端な邪推は止めておこう。どのみち数千年前の者達が実際に何をしたのかなど、今更考えても仕方がない」

は、はぁ…。

「ともかく、現代の人間にはオカルトと切り捨てられることだろうが、古代の人間には脳という生体コンピューターを使い、他人の脳と繋がったり、デジタルワールドに繋がったりできる者がいたということだ」

それで、彼らは何をしたんですか?

「…現代と変わらないさ」

…まさか。

「そう。脳という生体コンピューターに不正アクセスを仕掛ける、『クラッカー』に相当する者が、当時も存在していたんだよ」

脳に不正アクセスするクラッカー…!?
それをやってどうするんですか?

「何をするのかも現代と同じだ。他人の脳から個人情報を抜き取る者もいれば、サイバー攻撃を仕掛けて脳を破壊する者もいただろう」

い、一体どうやって。
人間にそんなマネができるんですか?

「まさか。いくらテレパシーを会得した人間といえど、そこまでの芸当を自力で行うことはできない」

では、どうやって…
…まさか…、『何かの力を利用した』んですか。

「そうだ。世界中によく転がっている逸話があるだろう?黒魔術によって悪魔を召喚し、他人に呪いをかけるとか。丑の刻参りによって妖を呼んで呪詛を仕掛けるとか。陰陽師が式神を操るとか…」

それは、つまり…

「そう。自身の脳をデジタルワールドへ接続し、デジモンを呼び寄せ…、他人の脳へと送りつける。それが世界中に伝わるすべての『呪詛』の基本原理だ」

…そんな昔から…
人間はデジモンと関わっていたんですか。

「もっとも、その当時は現代に比べて世界中を行き来するデータ量がはるかに少ない。故に当時のデジタルワールドは現代に比べてずっと低栄養状態だっただろう。だから呼び寄せられたとしても、せいぜい幼年期程度…ズルモンやモクモン、ポヨモンなどだっただろうな」

あんまり強くないデジモンですね。

「現代基準ではな。だが当時は違った。データを食らうデジタルモンスターを脳の中へ送り込まれたとなったら、どうなる?」

…脳内のデータ…
記憶が、食い尽くされる。

「そうだ。幼年期程度で十分なんだ、人間を殺すのにはな」

「そして、クラッカーがいれば当然セキュリティもいる。呪詛に対して、飼育したデジモンの力で立ち向かう者もいただろう」

…デジモンを飼育…。
餌はどうしたんですか?

「君達がデジドローンでデジタルワールドからデジモンの餌を拾ってくるように、彼らもまた自身の術でデジタルワールドから餌を調達していたかもしれないな。あるいは、ビオトープのようなものを作って、そこでデジモンを飼育していたのかもしれない」

ビオトープを…?
どうやって。

「霊媒師は他人の脳と繋がれる。では、霊媒師が宗教の司祭をやったらどうなる?」

…大勢の信仰者と繋がれますね。

「そう。多くの人間の脳とつながれば、そこにはデジタル空間ができる。ならばその中でデジモンを飼育できるはずだ。それが宗教の力だったのかもしれないな。大勢の信仰者と繋がり、広いビオトープを用意することで、幼年期デジモンを進化させてより強力なデジモンを飼育し、強力な呪詛を仕掛けるという力が…」

…雲を掴むような話です。

「君達が今やっていることと同じだろう?」

それは確かに。

「しかし、そうなると…なんだか『デジタル』モンスターって感じが薄れますね~」
おお。
クルエが私の意見を代弁してくれた。

「そうか?…ひとつ質問だ。ソロバンはアナログとデジタル、どちらに括られると思う?クルエ」

「ソロバンですか?なーんか一見アナログぽいですよね。電気使わないし。でも話の流れからすると…」

ソロバンは…
現代人か使う用語では、電気を使わないという意味で『アナログ』と誤解されがちですが…
実際は『デジタル』です。

「そうだ。連続的な量を、段階的に区切って数字で表すこと…それこそが『デジタル』の定義だ。電子計算機を使うか否かは本質的には全く関係ない」

なるほど…。

「人間の脳はニューラルネットワークという仕組みで動いている。シナプスの重み付けを行い、ニューロンが発火し、ナトリウムイオンチャネルで通信をする。その仕組みは、十分に『デジタル』側だよ」

…不思議な感覚だ

そんな霊媒師が、なぜ今は廃れたんですか?
「霊媒師の人口が少なすぎるからだな。科学を発達させた人間達は、極少数の彼らに頼り権力を握られるよりも、万人が利用できる科学によって文明を発達させることを選んだ」

どういうことですか?

「一人の霊媒師に敵を呪ってもらうより、十人の凡人が銃を持って敵を撃ち殺した方がよほど強いだろう?」

そうか…
霊媒師がいくらデジモンをけしかけることができたとしても、情報生命体デジタルモンスターである以上、物理的な干渉力は持ちませんからね。

「そうだ。さらに人間は、『非科学的』という言葉を『否定』のために利用するようになった。…それがロストテクノロジーとなって廃れた理由だ」

インチキ扱いされたわけですね。

「だが、土着信仰とか、儀礼が形だけ残るケースもある。霊媒師でもなんでもない人間が、古代の霊媒師が残した儀礼を形だけ真似ていることはよくあることだ」

なるほど…。

…もしかして。
神木さんが、この話を公表しない理由は…。

パブリックイメージどうこうでなく…
『デジモンによる呪詛という可能性に辿り着く者が出ないようにするため』ですか?

「…察しの通りだ。デジタルワールドには、我々の世界から消えた情報が流れ着き、太陽から栄養データとして降り注ぐ。ゆえに現代のデジタルワールドは、霊媒師全盛期よりもはるかに強力なデジモン達で溢れている」

もしも。
クラッカーが、デジタルワールドのデジモン達を人間の脳へ送り込むことを画策し始めたら…。

「…霊媒師のロストテクノロジーを、IT技術と組み合わせた場合、古代より遥かに強力な『呪い』が可能になるだろうな」

それは…危険すぎる。

「可能性に気付いたら、やってみたくなるのが人間のサガだ」

間違いないですね。

「…君達だから話した。万が一、そういう手口をする輩が現れても…セキュリティ側として人々を護るために尽力してくれる君達だから。…ローグ・ソフトウェアのようにセキュリティ活動をビジネスとして割り切っている奴らには決して話せない」

…信用してくれてるんですね。

「そういえば、例の詐欺事件はどうなった?学校のセキュリティとして詐欺業者のクラッカーマッシュモンが忍ばされていた件は」

スポンサーさんから聞いた話だと…
親御さん達のスマホ等に侵入していたクラッカーマッシュモンは、ローグ・ソフトウェアが全て倒したそうです。
ついでに、自分達が提供するサービスにその場で乗り換えさせたそうです。

横取りされた気分ですが…
まあ仕方ないでしょう。

「マジでむかつきますよねー」
クルエは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「犯人は捕まったのか?AAAの差し金なのだろう、あのクラッカーマッシュモン達は」
それがですね…
真犯人にたどり着けなかったそうです。

詐欺業者の実際の犯行をやってた実働部隊は、警察が追っているところですが…
闇バイトか何かの可能性が高いみたいで。指示した者には辿り着けるか怪しいそうな。

「デジモンだけではなく人間にまで闇バイトをさせるのか、奴らは…」

厄介ですよね。

「電子計算機が人間の脳の代わりに『考える』というタスクを担うようになった現代では、クラッカーがデジモンを使って行うサイバー攻撃こそが、古の時代の『脳への呪詛』そのものなのかもしれないな」

…そうとも言えるかも知れない。

続く


これからシーズン2の最終章が始まりますが、更新ペースが今までよりもっと遅くなるかもしれません
ご了承ください

メガ、教えて欲しい。
デジタルアソートのアプリモンスターズ達は、一体どうやって作ったんだ?

「うーん…本来は機密事項なんだけども…」

今回の戦い、我々バイオシミュレーション研究所の実力だけでは太刀打ちできなかった。
アプモン達が助けてくれたおかげで、対抗できたんだ。

我々も、あれくらい多彩な能力を持つデジモンを育て上げないと、これからの戦いに勝てないかもしれない。

「…分かった。セキュリティデジモンを飼育するノウハウが強化されることは、デジタルアソートにとっても大事なことだ。技術協力していこう」

ありがとう。

「アプリモンスターズ達は、マッシュモンをベースにして作ったんだ」

マッシュモンを…!?
みんな姿がマッシュモンとは似ても似つかないけども。
ガッチモンなんて哺乳類ぽい姿してるぞ。

「マッシュモンは近接格闘能力こそ低いけど、自身を構成する菌糸をアップグレードしたり、同じ記憶を持った個体を複製することができる」

ふむふむ。

「その性質が、僕達の平和利用デジモン計画には非常によく適しているんだ。マッシュモンをベースにして、全身を構成する菌糸に必要な機能のソフトウェアを餌として与えることで、そのソフトウェア・アプリケーションの力を学習・獲得させていったんだ」

なんと…。
ガッチモンもナビモンもドーガモンも、元はマッシュモンだったのか。

「厳密には…マッシュモンを高度に進化させて、全てのアプモンのベースとなる『素体』を作った。それのソフトウェアを学習させたのがアプモンたちだ」

なるほど…。

どうやって収益化するの?

「マッシュモンは、自身の分身を生み出す力を持っている。アプモン達も、分身を作る力を受け継いでいる。さすがに身体を構成するデータが高度化しすぎたせいか、マッシュモンより複製スピードはずっと遅いけどね」

すると…
アプモン達のコピーを販売することで、収益を得るってこと?

「販売というよりは…見張りマッシュモン同様に、レンタルサービスのサブスクになるね。あまりたくさん殖やすことができないんだ。用が済んだときに勝手に廃棄されちゃかなわない」

それはそうか。

「先日の戦闘に出したアプモン達は、実験中のプロトタイプ。つまり…やがて分身体のオリジナルとなる個体だ」

ということは…
その個体がクラッカーとの戦いで死亡したら。

「バックアップもあるにはあるけど…だいぶ後退することになっていた」

…リスクが高い危険な賭けだったんだね。

「安いものさ。ネットをクラッカーに支配されてしまうのに比べればずっとマシだよ」

…そうだ。
我々の使命は、クラッカーを倒すことそれ自体じゃない。
ネットの治安を維持し、人々の暮らしを護ることだ。
戦闘はその一手段にすぎない。

そういえば、クラッカーが利用してる粘菌デジモン…
ズルモンやゲレモン、スカモン等も元はマッシュモンだった。

「そう。…今なら分かる。あれらは膨大な失敗作の上にできた一握りの成功だってね」

失敗作…?

「うん。アプモンの研究開発は、毎回トントン拍子で成功するわけじゃない。時に失敗することもある。望まない進化をした個体もいたよ」

…その個体はどうしたの?

「…成功は失敗の積み重ねという。だけど失敗は失敗だ。たくさん出現する失敗個体の飼育に不必要なコストを割いていては、さらに進歩した個体の飼育にコストが回らない」

…処分したのか。

「そうだよ。失敗作は処分した。たくさんのアプモン達が、研究途中で消えていった」

…。

「僕がデジタルアソートを立ち上げて、このバイオシミュレーション研究所と別組織として切り離した理由がこれだ。君達は眩しすぎる…僕達デジタルアソートの研究の路線とは相容れない。誰一人切り捨てないのが君たちの強みだから」

…カリアゲが心配してたよ、メガのことを。
昔とずいぶん、考え方が変わったって。

その理由がそれか。

「僕デジモンが将来平和利用されるために…クラッカーとの抗争の武器以外の役割を持ち、人々の暮らしにプラスの影響を与えられるようにする…。そのために必要なことだったんだ。『失敗作を切り捨てる』ことは」

「君達バイオシミュレーション研究所のセキュリティチームは、デジモンを失敗作として切り捨てない。たとえ弱いデジモンや、指示を聞かないデジモンであっても…、その長所を見出し、それらを組み合わせて敵に立ち向かった。だから君達はAAAに勝てた。そうだね?ケン」

…。
うん。私もそう思うよ、メガ。

コマンドラモンやパルモンのように、それ単体で優秀なデジモンだけを画一的に増やしていては、クラッカーに太刀打ちできなかった。

味方デジモンが誰一人欠けても、勝てなかった。
だけどその味方デジモン達は、どんな姿にするかを設計して、指向性を持たせたわけじゃない。

デジモン達自身に、どう進化するかを任せた。
デジモン達が本来持っている進化の力に…。
未知を探求し、予測不可能な進化をするという混沌が生み出す可能性に賭けたんだ。

「そう。だから君達は圧倒的な数の不利を覆せた。だけどそれは…とどのつまり、セキュリティチームの為すべきタスクが『敵性デジモンを暴力で排除すること』だから、そのアプローチが使えるんだ」

…。

「AAAは言った。デジモンは道具だと。…どう思う?」

そんなだから敗けたんだあいつは。

「…そうかもね、そうかもしれない。クラッカーは、ただ暴力で敵を倒すだけのデジモンを育てればいいというわけじゃない。デジモンに情報窃盗をさせたいなら、それができるような能力を持ったデジモンへと進化の指向性を持たせなくちゃいけなかった。それはつまり、望まない形式を持ったデジモンを切り捨てることを意味する」

…スパイウェアデジモンの粘菌デジモン達や、ランサムウェアデジモンのキャンドモンやアイスデビモンを作り上げるためにも、膨大な失敗作を犠牲としてきたってわけか。

「意外かもしれないけど…AAAはね。自分のデジモンを愛しているよ」

ええ!?
そうは思えないぞ。簡単にあっさりとデジモンを切り捨てるし。
蛮族デジモンを捨て駒にしていた。

「蛮族デジモンはあくまで野生デジモンを利用しているだけ…。彼の中では『自分のデジモン』ではないだろう。ズバモンとルドモンに対する彼の執着はどうだった?」

…是が非でも取り返そうとしていた。
使い捨ての蛮族とは真逆だ。

「そう。スカモンもそうだった。最初にスカモンと戦った時は、トドメを刺される前にチューモンに脳を回収させていた」

そういえばそうだっけな。

「二度目の戦いもそうだった。クレカ事件の後、クラッカーが僕達のサーバーへ攻めてきたとき、最後に戦場に残っていたのはプラチナスカモンだった。だけどAAAはプラチナスカモンへ破壊命令を出さずに、退却命令を出した。何故だと思う?」

…なぜ?

「おそらく…価値を比べたからだよ、ケン。僕達のサーバーを破壊して、プラチナスカモンを道連れにされて失うことよりも。僕達にトドメを刺せる絶好の機会を手放してでも、プラチナスカモンを生還させることをAAAは選んだんだ」

…それほどプラチナスカモンは大切なのか、AAAにとって。

「きっとそういうことだ。AAAのドリモゲモンが、ケンキモンより先にモリシェルモンを倒したのもそれが理由だ。ケンキモンを不意打ちできるチャンスを手放してでも、プラチナスカモンがモリシェルモンの胃酸で溶かされる前に救出する必要があったんだ」

…。
考えてもみなかった。
AAAにとって、デジモンに優先順位があったなんて。

「プラチナスカモンは戦いの道具やサイバー犯罪の道具というだけじゃない。AAAはプラチナスカモンに…なにか特別な使命を与えているとみえる」

そういえば、鉱山でプラチナスカモンが口からズルモンを出し、チョロモンになって帰ってきたのをレアモンに食わせてたね。
あれはなんだったんだ?

「まだわからない…けど、AAAの企みはきっと、小手先のサイバー犯罪で小銭を稼ぐことだけじゃない。まだなにかある」

嫌だな…。

「先日の戦いで、アイスデビモンだけ扱いが違っていたのに気付いた?」

扱いが違う?
どういうこと?

「アイスデビモンが戦いに投入されたタイミングは、僕達がすべての手札を出し切った後だった。シマユニモンとドリモゲモン、ガニモン寄生型のズルモン…優秀な手駒を数多く失った後で、アイスデビモンを投入してきたんだ。最初から投入していれば、それらを失わずに済んだかもしれないのに」

確かにそうだ。
でも、なぜ…?

「あいつは『失ってもいいデジモン』と『失いたくないデジモン』を明確に分けている。後者を生還させるためなら、前者をいくら犠牲にしてもいいと考えているんだ」

そ…そうか。
最初からアイスデビモンを投入していたら、パルモンの花粉でアイスデビモンが視界を塞がれている間に、モリシェルモンやケンキモンがアイスデビモンを倒していた可能性もあった

「そういうことだね。アイスデビモンを倒されたときのAAAの狼狽ぶりを見た?きっとアイスデビモンもプラチナスカモン同様に、『他の何を犠牲にしてでも生還させなきゃいけない、失ってはいけないデジモン』だったんだ」


そんなに大事だったのか。

「だって、ガラスやセメントやワックスを自在に操れるデジモンだよ?その価値を想像してみてよ」

…欲しすぎる!

「そうなるよね。いくらでも活用できる力だ。悪用もね」

「だから、そう。AAAは…、野生デジモンを利用しているんじゃなく、自分で作り上げたデジモンに対しては、『道具として』明確に愛情を持っている、はずだ」

道具として愛情を…?

「そうさ。自作のパソコンを愛機と呼んだり、自慢の車を愛車と呼んだりすることがあるでしょ。人間は道具を、道具として愛せるんだよ。だからデジモンを道具扱いすることは、愛情を持っていないということじゃないんだ」

…その割には、キャンドモンとか粘菌デジモンは使い捨てているように見えたけど。

「消耗品として利用することまで含めて道具…ということだろうね。ケンにも『お気に入りの消耗品』はあるはずだ」

あー。
シャンプーとか洗剤とか食糧品とかね。
そういう感覚なんだ。

「だからあいつは、デジモンを道具とみなしていることを批難されても平然としてるけど…ヘボエンジニアと言われると根に持つくらい怒る。見えっ張りなんだよあいつ」

…随分AAAのパーソナリティーを詳しく分析してるね。

「…僕達デジタルアソートも、デジモンを道具として扱う側だからね。分かるんだ、少し」

メガ…。

「僕達はケンやセキュリティチームとは違う。デジタルモンスターを、僕達が望む姿へ進化させなくちゃいけない。そのためには、デジモンを道具として割り切らなきゃいけないんだ」

…デジタルアソートの研究内容を、カリアゲが知ったら怒るかもな。

「その気持ちがカリアゲのいいとこだ。だからブイモンはカリアゲの気持ちに応えて土壇場でデジクロスに成功した。僕にはできないことだ」

…持ちつ持たれつだね。

「軽蔑したかな?僕達のこと、デジタルアソートのことを」

…正直に言う。
私は、デジタルアソートのようにはなりたくない。

「…」

だけどそれは、私自身がそうなりたくないってだけの話だ。それ以上でも以下でもない。
君達デジタルアソートは、社会に必要なことを、そしてデジタルモンスターが人々に受け入れられるために必要な事をやっている。

私がなりたくない姿になってでも。
そのことに、私は敬意を評すよ。

「…ありがとう、ケン」

私だって清廉潔白じゃない。
ディノヒューモンの集落から奪ってきたデジモンの子供を戦わせている。
まるで海外の紛争地帯の少年兵みたいにね。

「うおっ…ケン、言うゥ~。僕はずっとそれ言わずに黙ってたのに…」

自分達が何をしているかくらい分かってるさ。
この世界に神様がいて、善を救い悪に裁きを下すとしたら…
人間のためにデジモンを利用し戦わせている私達は、裁かれる側かもしれない。

「…綺麗事ばかり言ってられないね」

そうだね。
いつかしっぺ返しを食らうかもしれない。

「その時は、僕も共に裁かれるよ」

続く

シュリモンから連絡が来た。
もうすぐ蛮族デジモン達の集会が始まりそう…らしい。

集会とはつまり、ニセシャッコウモンという端末を通したAAAによる演説である。

即座にジャスティファイアへその旨を伝達した。
パルタス氏からの返答は早かった。
『ふはははは!待ちわびたぞ!シューティングスターモン、デジタルワールドに出てエネルギーチャージの準備をしろ!』

パルタスさん。
蛮族の集会が始まり次第、集会のど真ん中にシューティングスターモンの突撃攻撃を撃ち込むということでいいですか?

『できれば集会が終わったタイミングで丁度良く撃ち込みたいところだな!シューティングスターモンは秘密兵器だ、AAAとやらに知らせたくない!』

集会が終わったタイミングで丁度良く撃ち込む…厳しくないですか?
終わり次第解散するかもしれませんし。

「それならうちのドーガモンが時間稼ぎをするよ、ケン」

メガ!

「ドーガモンの力でニセシャッコウモンの姿と声を投影して、『演説の続き』をやる。そこへシューティングスターモンを着弾させると同時にドーガモンを引っ込める。これで蛮族デジモン達を爆心地へ留まらせることができるはずだよ」

『はっはっは!メガよ、デジタルアソートは非戦闘用の平和利用デジモンの開発をしていると聞いたが、随分なキラーカードに化けたな!』

「いや?ドーガモンは何も手を下さないよ、ただちょっとイタズラをするだけ」

『ふはははは!では、共同作戦といこう!』

…そして、シューティングスターモン着弾と同時に、キウイモンの島にスターモンとジオグレイモンが攻め入るんですね。

キウイモンがいたら保護をお願いします。

『そうだな!』

リーダーが立ち上がった。
「この機会に便乗して…ひとつ、やっておきたいことがある。『ディノヒューモン農園に恩を売る』ことだ」

恩を売る…?

「そうだ。現在は蛮族と対立しているディノヒューモン農園だが、蛮族が潰れたらAAAが農園を味方に付けようとするかもしれない。だから先手を打ち、農園に恩を売って味方につける」

カリアゲが頷く。
「ベーダモンのときみたいにか?リーダー」

「そうだ」

でも、どうやって恩を売るんですか?

「簡単な話だ。シューティングスターモンの爆撃を、フレイドラモンの仕業ということにして、農園の者へ爆心地へ近付かないように事前通告すればいい」

手柄の横取りをするつもりですかリーダー!?
いいんですかパルタスさん!

『ふはははは面白い!シューティングスターモンは秘密兵器だ、他の誰かの仕業にできるならこちらとしても大助かりだ!加えてそれを貴様らセキュリティチームの仕業にできるなら、貴様らの抑止力としての実績アピールにもできるだろう。いいぞ!やるがいい!』

…でも交渉できるんですか?
ディノヒューモン農園の言葉ってまだまだ原始的でボキャブラリーが少ないじゃないですか。

「農園の言葉と我々の言葉の自動変換アプリはメガが開発済みだ。それを使って、どうにか意思疎通をする」

大丈夫なんですか…?

「問題ないはずだ。『暴力による解決を、誰がやるのか』を伝えるだけだ。彼らのボキャブラリーに十分収まる情報だろう?」

なるほど…確かに。

フレイドラモンがやったことにするのはいいとして…
ブイモンは大丈夫なんでしょうか?
こないだの戦闘で、骨にヒビが入ったと聞いてますが。

ブイモン、調子はどう?
『いてて…まだなおってねーよ』

ほら、無理そうですよ。

「やれるな?ブイモン」

『ああ、やれるぜ!デジタマモンがついてるからな!まかせろ!』

リーダー!?
無理させるんですか!?ブイモンに!

「ブイモンはこれくらいの無理はやってくれる」

いいんですかそんな扱いで…。

『いいぞ!』

「いいんだ。別に実際に戦うわけじゃない、ちょっとディノヒューモンの前に姿を表すだけだ」

か、カリアゲ!
止めないのか!?

「…最近気付いたけど…ブイモンは逆境なほど燃えるとこあるんだよ。いや、いいとこなんだけどな?それに、『ブイモンの体を気遣って黙ってた』と言ったほうがブイモンには悪い」

カリアゲ…。

「過保護にしすぎるのは、仲間への信頼とは真逆だぞ。ケン」

ううっ、カリアゲに諭された…。
正論だ。

つづく

リーダーはデジドローンとブイモン、デジタマモンをデジタルワールドへ送り込み…
ディノヒューモン農園付近のアクセスポイントから出現させた。

よし…
それじゃブイモン、デジクロスを頼む。

『よっしゃ、やるぞデジタマモン!』
『ウミョォ~ン!』

デジタマモンは、脚を引っ込めた。
卵殻に炎の紋様が浮き出て、ナイフのように鋭い角が生えた。

https://i.imgur.com/EQAt5Qw.png

カリアゲはデジタマモンのこの形態に「勇気のデジメンタル」と名付けて呼んでいるらしい。

勇気のデジメンタルは、いくつかの破片に分割され、ブイモンを囲った。

破片から放たれる光がブイモンを包み込むと、光の中のシルエットは徐々に大きくなっていく。

やがて、破片が頭部と胸部、手足に装着されて装甲と化し…
フレイドラモンへのデジクロスが完了した。

『できたぜ!』

デジクロスの成功を見届けたリーダーは、デジドローンから音声を発した。
「フレイドラモン、できるだけエネルギー消費を抑えて形態維持に務めることはできるか?」

『そういうのはシェイドラモンのほうが得意じゃねえかなぁ』

「シェイドラモンは喋れるのか?」

『チャットならできるけど…喋るのは厳しいな』

声帯の構造が、喋るのに適してないのか。

「では、シェイドラモンに代わってくれ。チャットの文章を読み上げソフトで機械音声にすれば擬似的な会話はできるな」

『よし!ワームモン、代わるぞ』

フレイドラモンはシェイドラモンへと形態変化した。

シェイドラモンのチャットを読み上げソフトに接続する。

どう?喋れる?

『あー あー きこえる?』

おお!聞こえた!
大丈夫そうだね。

「それでは、ディノヒューモン農園とコンタクトを取りに行くぞ」
リーダーが操作するデジドローンは、シェイドラモンと共に農園の入口へ向かった。

農園の入口へ付いた。
リーダーは、ディノヒューモン語翻訳ソフトを駆使しながら、マイクに向かって発話する。
「モシモシー! キャクキャク!」

やがて、何者かがやってきた。
…スティングモンだ。

『ナゾナゾ!?』
スティングモンは問いかけてくる。
翻訳ソフトには「誰だ」と文字が出てくる。

リーダーは「私は味方だ、蛮族の敵だ」
「ワレワレ!トモトモ!ウホウホ、ボコボコ!」

それを聞いたスティングモンは…
『お前達、信徒の、仲間か?』

おお!?
日本語で発話して話しかけてきたぞ!?

シント…信徒。
我々が蛮族と呼んでる輩は、デジタルワールドではそう名乗っているのか。

リーダーも日本語で返答した。
「いいや違う。信徒達と戦っている者だ」

『なぜ、この言葉を、使える』

「これは元々我々が使っている言葉だ。信徒の親玉…AAAも、この言葉を使っている」

『トリプルエー?天使のことか』

スティングモンが発した「天使」という名称を聞き、リーダーは眉を潜めた。

「天使…?AAAは、あなた達にはそのように名乗っているのか。傲慢なものだな、天使とやらは」

『傲慢?知らない言葉だ。どういう意味だ』

「他人を見下してばかりいる奴のことだ」

『なるほど、傲慢。信徒共は確かに傲慢だ』

…スティングモンの態度がちょっと和らいだ気がする。
リーダーは今、『AAAの悪口』を交渉の手段として用いたのだ。

敵の敵は味方であることを、感情的・心情的に理解させるための手だ。

一旦ここまで

『それで、お前達、何者だ。どこから来て、何をしに来た』
スティングモンが問いかけてくる。
リーダーはデジドローン越しに返事をする。
「我々はセキュリティチーム。ここから遠く離れた土地で、お前達のように社会を形成して生きている。お前達が天使と呼ぶ者、AAAはその社会をデジモンの力で破壊しようとしている悪党だ。それを退治しようとしているのが我々だ」

スティングモンは頷く。
『なるほど、とりあえず信じよう。それで、何の用だ』

「そうか、助かる。今日は話が…」

『また我々の元からタマゴを奪いに来たのか』

「…!?いや、違う!そうじゃない!」

『気づかないと思ったか、セキュリティチーム。そこにいるデジモンは、私の子供だな』

「…認めよう。確かにこのシェイドラモンは、お前の子供だ、スティングモン」

『スティングモン?なんだその呼び方は。私が盟友オサオサから貰った名は「グサグサ」だ。他の名前で呼ぶな』

「…そ、そうか。分かった。お前のことはグサグサと呼ぶ」

グサグサ…
スティングモンってディノヒューモンからそう呼ばれてるんだ。

『あの時、信徒達の襲撃で、ブイブイとブンブンが死んだ。お前達と共犯じゃないのか、セキュリティチーム』

ううっ、すごく睨まれている…!
ブイブイとモスモンが死んだことを怒っている。そりゃそうだ。

「…そう勘違いされるのも無理はない。あのとき我々は、AAAに部下がいることを…信徒達がいることを知らなかった」

『無理な言い訳だな』

「オレは真実を語っている、グサグサ。我々は今からAAAと信徒達を滅ぼしに行くつもりだ。今ここでお前に嘘をついても何の得もない」

『滅ぼしに行く?仲間をか?』

「…何度も言うが、オレたちはAAAの仲間じゃない、敵同士だ。ブイブイとグサグサのタマゴを奪ったことは謝罪する。だがそれは、お前達が優秀なデジモンであり、AAAを倒すためにはその力が必要だと考えたからだ」

『ブイブイの子供はどうした?』

ブイブイ…エクスブイモンの子供。
つまりブイモンのことだ。

「今ここにいるシェイドラモンは… ブイブイの子供ブイモンと、グサグサの子供ワームモンが合体している姿だ。お前がブイブイと合体したように」

『何…!?ガチャガチャができるのか!?さすが我が子、優秀に育ったものだ』

「あの時、我々がお前とブイブイのタマゴを奪ったせいで、グサグサとブンブンに隙ができて…結果、二人はAAAの部下、信徒達に殺されてしまった。どれだけ詫びても、二人の命を戻すことはできない」

『そうだろうな』

「だからせめて、罪滅ぼしに… 償いとして、オレ達が今からこの手で、信徒達を皆殺しにする。そしてこれ以上、信徒達にお前たちの村が襲われないようにする」

『信徒たちを滅ぼす?できるのか?お前たちに。あれらは我々が長い間戦い、未だに滅ぼせていない敵だ。お前たちにあれが滅ぼせるのか?』

「できるさ。シェイドラモンの力があればな」

『それほど強いのか、我が子は』
そう言うと…
スティングモンは構えた。

『シェイドラモン、私と戦え。力試しをしてやる』

スティングモンは、あのスコピオモンの子孫だ。
デジクロスしてパイルドラモンやディノビーモンにならずとも、単体でかなり強いと予想される。

「しかし、今体力を消耗しては、信徒達を滅ぼすための体力が…」
リーダーがそう言おうとしたが…
シェイドラモンは突如光り輝き、フレイドラモンに変形した。

『リーダー!オイラやるよ。見せてやるんだ、今のオイラの強さを、ワームモンの親に!』
構えるフレイドラモン。
…ブイモンは先日の戦いの怪我がまだ残っているのだが…
大丈夫なんだろうか。

スティングモンが、フレイドラモンに飛び掛かる!
凄いスピードだ!

フレイドラモンは、スティングモンのパンチをいなす。
そして、スティングモンの顔にパンチを打ち込む!

スティングモンは素早い身のこなしで、フレイドラモンのパンチを躱し…
フレイドラモンの頭部へ右フックを決めようとした!
この軌道は回避できない…!

しかし、フレイドラモンはぴかっと光り、一瞬でシェイドラモンへ変形した。
シェイドラモンはフレイドラモンよりも身長差が低いため、スティングモンの右フックは空を切った。

態勢を崩したスティングモンに向かって、シェイドラモンは粘着糸を放った。
スティングモンの腕に粘着糸が絡まる!

スティングモンがもがいていると…
シェイドラモンは、フレイドラモンに変形し、スティングモンの顔面に蹴りを放つ!

…フレイドラモンは、スティングモンの顔に蹴りが当たる寸前で、脚を寸止めした。
『どうだ?オイラの実力は』

スティングモンは、ふぅと溜息をついた。
『中々やるな。だが、私とブイブイが合体した姿には及ばない』

『つえーもんな、パイルドラモン。オイラもあのくらい強くなりてーぜ!…で?まだやるのか、スティングモン?』

『グサグサと呼べ。…今のが全力か?シェイドラモン』
スティングモンは、フレイドラモンのことをシェイドラモンと呼んだ。
まあフレイドラモンという名前は教えてないから、仕方ないか。

『今はな』

『…私はもういい。貴様らはどうする?このまま私を殺せるチャンスだぞ?ん?』
スティングモンはまだ我々を疑っているようだ。まあ無理もないか…。

リーダーがマイクを握る。
「我々の社会には、『敵の敵は味方』という言葉がある。AAAを滅ぼそうとしている我々にとって、君たちは味方だ。グサグサ」

『…まあ今は信じてみようじゃないか』

「…デジタマを奪って悪かった、グサグサ。だがお前の子供は、これほど強く育ったぞ」

スティングモンは、ふふっと笑った。
『安心した。私の子供は既に信徒たちに食われていると思っていた…諦めていた。だが、生きていたんだな。これほど強くなって…』

「ああ。我々の大切な仲間だ」

『信徒たちに奪われるより、貴様らに奪われた方が、いくらか私の子供は幸せになったようだ』

「間違いない」

『それで、我々にその子を返す気はあるのか?』

「シェイドラモン本人に聞いてくれ」

『…我が子よ、村でオサオサと共に暮らさないか。美味いヤサイがたくさんあるぞ。最近は果物も採れるようになった』

フレイドラモンは、シェイドラモンへ変形し、チャットで返事をした。
『くらさない ぼくのかぞくは セキュリティチームだから』

『…フフ、そうか』
スティングモンは苦笑した。

『でも ぼくをうんでくれて ありがとう グサグサ。きみが ぼくを うんでくれた おかげで ぼくは セキュリティチームの みんなと しあわせに くらせてる』

『…』

『いのちを ありがとう』

『…これから信徒たちと戦うのか?我が子よ』

『そうだよ!』

『必ず生きて帰れ。どのように勝ったか、どのように活躍したか。私に聞かせるんだぞ。シェイドラモン』
スティングモンは、シェイドラモンの頭を優しく撫でた。

『うん!グサグサ!』

スティングモンはリーダーのデジドローンの方を向いた。
『…我が子を粗末に扱うなよ』

「ああ、もちろんだ。大切な家族を、粗末になんかしない」

『ならばよい。罪滅ぼしとやらをするのだろう、さっさとやってこい』

「いや、まだ話は終わっていない。そちらから聞きたい事と、こっちから伝えたいことがある」

『なんだ、セキュリティチーム』

「まずは聞きたい事だが… グサグサ、なぜお前は我々の言葉が話せる?これは我々やAAAの社会で使われている言葉だ」

『…奴に教わった。バブンガモンに』

バブンガモン…!?
バブンガモンって、蛮族側のデジモンじゃないか!ヒヒ型の!

「バブンガモンは信徒ではないのか?」

『奴は信徒が信徒になる前からいた信徒だ。だから信徒であって信徒ではない』

?????????????????????

つづく

リーダーは…
「何?バブンガモンが、信徒が信徒になる前からいた信徒で、だから信徒であって信徒ではない、と?」

『何を言っている?理解不能だ』

「いや、グサグサが今言ったことをそのまま復唱したんだが…」

『復唱とはなんだ、知らない言葉だ』

「相手が行ったことを、そのまま話すことだ」

『…私が言ったのか。自分で言ったが、わけがわからないな。あー、…つまり、だ。信徒が信徒になる前に、バブンガモンはすでに信徒だったのだ』

「…要するに…」

リーダーはスティングモンにいろいろと言葉を教えてから、言いなおさせた。

『言いなおそう。つまりバブンガモンは、類人猿デジモンの集団が、AAAに支配され信徒となる前から、既に類人猿デジモンのグループにいたのだ』

「よし!よく理解できた。言葉を覚えてくれてありがとう、グサグサ」

『セキュリティチームの…貴様はリーダーと言ったな。こちらこそ助かった。便利な言葉を教えてもらった』

話を要約すると…

我々が『蛮族』と呼んでいるデジモンは、AAAが一から生み出したわけではない。

元々、類人猿型のデジモンの集団がジャングルにいたのだが…
ある日そこにゲートが開き、ニセシャッコウモンが現れた。

そしてニセシャッコウモンは、類人猿型デジモン達に餌として「砂糖」という粉を与えた。

この「砂糖」の甘味に憑りつかれた類人猿型デジモン達は、ニセシャッコウモンの指示を聞くようになった。
ニセシャッコウモンは自身を神の遣い…「天使」と名乗り、天使に従う者を「信徒」と呼ぶようになった。

そうして信徒たちに言葉を学ばせ、青銅の精錬などの原始的な科学知識を教えた。
ニセシャッコウモンは、信徒達にカースト付けをするようになった。
よりよく言語を学んだ者、よりよく神や天使を信仰する者に、優先的に砂糖を与えた。

やがてニセシャッコウモンは信徒達を統率・支配し、狩りやディノヒューモン農園への略奪をさせるようになった。

最初期の信徒達は、「砂糖」によってコントロールされていたのだが…
そのうち信徒達は、砂糖がなくともニセシャッコウモンのいうことを聞くようになった。

信徒という集団そのものに、「ニセシャッコウモンに認められる者ほど身分が高く、支配的な立場をもらえる」という上下関係が出来上がったため、
信徒のデジモン達自身が砂糖という物質的報酬を必要とせずにニセシャッコウモンに認められる行動をとり始めたのだ。

そうしておかしくなっていく類人猿型デジモンの群れを…
バブンガモンは、快く思っていなかった。
だがここで反旗を翻しても結果は目に見えているため、信徒の集団の中では表立って目立った行動はしなかった。
戦うのが嫌いなバブンガモンは、略奪には参加せずに、他の仕事をしていたそうだ。
たとえ、かつて類人猿型デジモンのリーダーだった自分が、どれだけ低いカーストに落ちることになったとしても。

そうしてバブンガモンは、ニセシャッコウモンに従う振りをしつつ、密かにスティングモン及びディノヒューモンとコンタクトをとっていたのだ。
スティングモンとディノヒューモン… ザクザクとオサオサが日本語を学んだのはその機会によるものだそうだ。

スティングモンは日本語の語彙の多さに苦労したが…
先に習得したディノヒューモンから教わり、なんとか使えるようになった。

ディノヒューモン農園にもこの言葉を広めようとしたが…
群れの多くは『敵の言葉なんて使いたくない』と言い、頑なにこの便利な言語の習得を拒んだそうだ。

クルエはその話を聞いて、こそっと聞いてきた。
「AAAの奴、砂糖なんかどうやって調達したのかな…」

カリアゲが答えた。
「砂糖も塩も見つけてるよ。砂糖の方は草原に生えるイネ科っぽい植物『サットの実』を、塩はマングローブに生える『ジョッパの実』を収穫すると作れるぞ」

「えー!フローティア島では栽培しないの?」

「ジョッパの実は栽培するぞ。海水で育つからな。ただサットの実はだめだあれ。一度砂糖を作って、コマンドラモンに舐めてもらったことがあったんだよ」

「なんて言ってたの?」

「『これはいけない。こんなものを舐めていてはダメになる。…ところで、もう一回舐めていいか』って5回くらい繰り返し言ってたぜ」

「あー危険薬物ですわこれ。そんなのを蛮族に与えるなんて…やっぱAAAってとんでもない奴だ」

「でも砂糖だぞ?」

「砂糖ならいっか!」

よくない。
…まあクルエとカリアゲの話はいいや。
スティングモンの話の続きを聞こう。

『つまり… 信徒という集団は今や我々の敵だが、唯一バブンガモンだけは信用できる』

「敵のスパイになっている可能性はないのか?」

『無い。一度それを疑ったこともあった。バブンガモンにニセの情報を本当らしく伝えて、信徒達の待ち伏せをしたが… 罠は不発だった。バブンガモンがAAA達に情報を漏らさなかったからだ』

「なるほど」

『そういうことだ。もし信徒を滅ぼすのなら、バブンガモンと…その親のプレイリモンだけは手を出さないでくれ』

「…」

『どうした』

「我々は、信徒達が集会をしているときに、そのど真ん中に大きな火球を落として一気に全滅させるつもりだ。一体一体倒していくわけではない」

『…!?そんなことができるのか!?シェイドラモンに!?』

「シェイドラモンだけでなく、オレ達セキュリティチームのデジモンの仲間の力を集めて行うんだ」

『…それでは…』

「…トータモンやカメモンが巻き込まれない範囲に落とすようにしてある。だが、そのバブンガモンという奴は、今更個別で攻撃範囲から助けることは難しい」

『トータモン?カメモン?誰だそれは』

「こいつらだ」
リーダーはそれら二種のデジモンの姿を、デジドローンのプロジェクターで投影した。

『…カチカチとノシノシか。こいつらはオサオサの大事な家族だ。助けてくれるのは助かる。だが…バブンガモンが…』

「…すまない。もう間に合わない。バブンガモン個人に伝えて『一人だけ逃げろ』と伝えたら、信徒全員に逃げろと言う可能性がある」

『…間違いなくそうするだろう。何に支配されようと、信徒たちはバブンガモンの家族だ。家族を皆殺しにすると伝えられて、怒らない者などいない』

「…」

『…』

「…許してくれるか、オレ達を」

『…バブンガモンは良い奴だった。狩ったニクをくれたこともあった。一緒に踊って歌ったこともあった』

「…」

『…だが、バブンガモン一人を助けるために、信徒全員を殺せるチャンスを捨てるわけにはいかない。やってくれ』

そう言うスティングモンの声は…
とても辛そうだった。

つづく

…さて今、蛮族もとい信徒達の集落はどうなっているか。
草木に紛れて隠れているシュリモンが隠し持っているデジドローンからの映像を見てみよう。

広場に、シャーマモンやコエモン、ジャングルモジャモン、セピックモンが集まっている。

その中には、傷付いたキンカクモンの姿もあった。
腹部には大きな傷跡が残っている。糸で傷を縫っているようだ。
…あの糸はどうやって調達したんだろう。既に糸を紡ぐ技術がこの原始的な文明にはあるのだろうか。

キンカクモンはまだ立って歩けるほど癒えていないらしく、横たわっている。

そこへ…
一体のデジモンが、瓶のような土器を持って近付いてきた。
https://i.imgur.com/TbNo2V6.jpg

これは…!?
人間の少女か!?

どことなく修道女を思わせるような出で立ちの、甘ロリータ衣装を纏った、まるで人間の少女そのものであるかのようなデジモンだ。

信徒デジモンはここまで人間に近付いたのか…!?

『ミズデス キンカクモンサマ』
この修道女デジモンには、仮称としてノワールシスタモンという名を付けておいた。

シスタモンは水瓶をキンカクモンに渡す。

『ヨロシイ ワガコヨ』
キンカクモンはそう言って水瓶を受け取り、水を飲んだ。

なんということだ…。
キンカクモンの子供はああなるのか。
うちのフローティア島にいる第一子はまだトコモンなのに。あっちの方が成長が早いな。

キンカクモンのもとへ、トコモンが一体、ぴょいんぴょいんとやってくる。

口には袋を咥えている。

トコモンはキンカクモンへ、袋を差し出した。
中身は果物のようだ。

『タスカルゾ ワガコヨ』
キンカクモンは、果物をいくつか食べたあと…
『アトハ オマエガ オタベ』
残りはトコモンへ差し出した。
トコモンは、美味しそうに果物を食べ始めた。

広場にはたくさんの信徒デジモンが集まっている。
バブンガモンの姿は見えない。

やがて、デジタルゲートからニセシャッコウモンが出てきた。

信徒デジモン達は一斉に平伏した。
『カミサマ!テンシサマアアーーー!』

ニセシャッコウモンのもとへシスタモンが駆け寄った。
『ミナノモノ!テンシサマの オイデだ!ソノミコトバを イチゴイック カミシめ アリガタく キクヨウに!』

シスタモンがそう言うと、信徒デジモン達は声を揃えてニセシャッコウモンを称えた。
『テンシサマ!シンセイナル テンシサマ! ワレラニ ヨゲンヲ サズケタマエ!』

やがて、ニセシャッコウモンが語り始めた。
『うむ。集まったな。…キンカクモン、これはお前の子か?』

声は異なるが…口調は間違いなくAAAだ。
ボイスチェンジャーを使っているのだろうか。

弱っているキンカクモンの代わりに、シスタモンが答える。
『ハイ!テンシサマ!ワタシは テンシサマのソンザイに チカヅクタメに キンカクモンサマカラ シンセイな ニクタイを サズカり ウマレて キマシた!』

『ふむ、よくやったキンカクモン!これほどまでに我々に近づくとはな!シスタモン、貴様がさらに進化すれば、ようやく我らの一員になれるやもしれんぞ』

『ハハー! アリガタき オコトバ!』
シスタモンはニセシャッコウモンに平伏す。

『第二子はいるのか?シスタモン』

『ワタシの キョウダイが コチラに!』
シスタモンがトコモンがぴょこぴょこと近寄ってきた。

『プワァ!』

『フム、幼年期の段階ではまだシスタモンの幼年期と同じか。貴様も我々に近付けるよう、修行に励むことだ』

そう言い、ニセシャッコウモンはトコモンを撫でた。 
『プワァ~!』

…あいつもデジモンを撫でたりするのか。

一旦ここまで

ジャングルモジャモンの一体が口を開いた。
『テンシサマ!バブンガモンノヤツ マタコナイ! レイハイ サボッテ コウセキサイクツ ヤッテル!バカ!ウホホ!』

『ああ…バブンガモンはまた居ないのか。無理もない、ヤツはお前達よりずっと頭が悪いのだ。礼拝だけでなく労働もサボっていたり、弱かったらヤツも制裁していたところだ』

信徒デジモン達は、それを聞いて大笑いした。

『笑えるだろう!アレがかつてお前達を導いていたのだ、あんな低能の出来損ないがな!バブンガモンを慕うんじゃないぞ。バカが伝染るからな!』

信徒デジモン達はさらに笑った。
シスタモンもクスクス笑っている。

クルエは不思議そうだ。
「…何が面白かったの?今の話の…」

リーダーが答えた。
「グサグサの話から察するに…AAAのヤツは、類人猿デジモンを品種改良して蛮族デジモンを作った。単為生殖のデジタルモンスターで品種改良を行うには…、方法はひとつ。不都合な形質を持った個体を『間引く』ことだ」

「間引き…」

優生学みたいですね。

「グサグサは信徒の中でカーストを作ったと言っていたが…、それはすなわち『被差別階級を作ること』を指す。ヤツらはAAAの命令に従い、高い知能を持つ個体を上位階級とし、AAAの命令に従わない個体を被差別階級にしたんだ」

…その結果、バブンガモンはカースト最底辺に貶められたということか。

労働力と戦闘力があるから残っているが…
それがない個体は『間引かれた』のだろう。

『さて…余談はそろそろいいだろう。先日、フーガモンやドリモゲモンをはじめとする勇敢な神官戦士達が、我々天使と共に、悪魔と戦って…命を落とした。勇敢な最期だった』

信徒デジモン達は哀しみの声をあげた。
『フーガモンサマ…ドリモゲモンサマ…』

…いや、誰が悪魔だよ。人聞きの悪い…。

『そこで寝込んでいるキンカクモンは、この戦いを生き延びた勇者だ。キンカクモンは悪魔を追い詰め、あと一歩まで追い込んだが…力及ばず倒れた』

『オォ、キンカクモンサマ…』

シスタモンは、親であるキンカクモンの痛々しい腹部の縫い後を心配そうに眺めている。

『いずれ悪魔達は、信徒のお前達を攻めにくるだろう。ブルースキン達がそうであるようにな!』

信徒デジモン達はざわめく。
『オォオォ…!アクマ!ブルースキン!コワイ!』
『テンシサマ!オタスケクダサイ!』

『ブルースキンはお前達信徒の文明を侵略し、滅ぼそうとしている!』

文脈的に、悪魔は我々を指すのか。
ブルースキンってなんだ?

リーダーが返事をした。
「…おそらくディノヒューモン農園の奴らを指す言葉だ。農園の爬虫類デジモンや昆虫デジモンは、皮膚が緑の色素や青の構造色をしていることが多い」

おお、確かに。
ブイモンもそうだ。青の構造色は、紫外線を反射するから日照りが強い屋外での長時間活動に向いている。

農作業に従事した勲章の青い肌を…
AAAは蔑称にしているのか。

カリアゲが眉を潜めた。
「いや、侵略してるのは蛮族だろ!なんで農園を侵略者呼ばわりしてんだ!」

「カリアゲ、おそらくAAAは…信徒たちが先に仕掛けたことを隠している」

「え?」

「信徒が先に仕掛け、それに対し農園が反撃したのを…『農園側からの一方的な侵略行為』として信徒デジモンへ教えているんだ」

「…は?」

「だから信徒にとって、農園への攻撃は略奪じゃない…復讐であり、制裁であり、誅罰なんだ」

「…分かり合えないのか?」

「無理だな。信徒達の言葉は農園の言葉とは違う。言葉が通じないから話し合えない。言語の壁を使って、AAAは意図的に対立構造を作っている」

「…バブンガモンとグサグサは通じあえてるんじゃ…」

「だからバブンガモンを貶めているんだろう。奴らと話せるから」

…。
私は言葉を失った。

一旦ここまで

「それじゃあ…蛮族たちは…自分から農園を襲ったつもりじゃなくって…。『農園に攻撃されてるから、防衛のために戦ってるんだ』と勘違いしてるっていうのか…?リーダー…」

「そうなるな」

「…もしかしてよ、蛮族デジモン達って…そんなに悪い奴らじゃないんじゃねえか…?あいつ等はあいつ等なりに…仲間を護るために、命を懸けて、戦ってたってことじゃ…!」

「…そういうことだ、カリアゲ」

「な、なあ、どうにかして… シューティングスターモンを撃ち込む前に、あいつらを説得できねえかなリーダー…?あいつら日本語通じるんだろ?伝えるんだ、AAAに騙されてるって!」

「どうやってだ?奴らは我々が何を言おうと悪魔の誑言と決めつけるだろう。それに信徒の社会ではAAAの言いなりになることが地位を保証する。AAAの言葉を疑う者などいない」

「そんな…!」

「言葉が通じずとも意思疎通ができる相手もいる。ベーダモンのように。だが言葉が通じても意思疎通できない相手もいる。信徒達がそうだ」

「…助けられねえってことかよ…!」

その時、パルタス氏から通信が入った。

『こちらパルタス。シューティングスターモンのチャージは完了した。合図があればいつでも撃てるぞ!』 

「パルタス!聞いてくれ!予想外のことが起こったんだ!」

『な、なんだ!?そちらのデジモンに被害が出たか、あるいは蛮族共が散らばって逃げたのか!?』

「違う、そうじゃない…蛮族デジモン達は、騙されていたんだ!AAAに!」

『…?今更どうした』

「奴らが騙されていたとしてもだ、好き好んで農園を略奪したり、悪事をしてるんなら…滅ぼされても仕方ねえって思ってた。だけど違うんだ!農園を攻撃してたのも、俺たちを攻撃してきたのも!その動機は自己防衛のためだったんだ!自分たちが被害者側だと、AAAに嘘を吹き込まれていた!あいつらそんなに悪い奴らじゃないんだよ!」

『…はぁ。それで?』

「それでって…!だから!どうにか話し合いを…!」

『それでというのは。予想外のこととはなんだ?』

「え、だから…。俺たちが蛮族なんて呼んでいた類人猿デジモン達が、実はそんなに悪行三昧の悪い奴らじゃなかったってことで…」


『…?事前に予想していた通りではないか』

「…え?」

『典型的な宗教テロ組織の思想だな。まあそんなものだろう。シューティングスターモンを撃ち込む作戦の障害になる情報はまだ何もないが…』

「…何言ってんだ?あんた」

『貴様こそ何を言っている、カリアゲ。無駄話をしている余裕はないと思うが?』

「パルタス…てめぇ…!蛮族デジモン達が、こういう考えだと分かってたのか…?分かったうえで、シューティングスターモンを撃ち込むって提案してきたのか!!」

『何を今更。蛮族デジモン達は、戦いの最中に自分たちを信徒と、AAAを天使と呼んでいた。この手の支配をされていることは、それだけで容易に読み取れることだろう?それが分かったうえで貴様たちも私の提案を呑んだんじゃないのか?』

カリアゲは、机を拳で叩いた。
「…俺だけが… 俺だけが何もわかってなかったのか…!」

震えるような声を絞り出すカリアゲに、クルエが声をかけた。
「…私も同じ気持ちだよ、カリアゲ」

「…クルエ」

「…気持ちは。分かるよ」

「…」

カリアゲ。私も気持ちは分かる。
同じことを思っていた。ただ黙っていただけだ。

「…ケン」

だけど…言葉にできなかったんじゃない。言葉に『しなかった』んだ。

「…そうだよな、そうだよな、ケン!クルエ…!」

『いい加減にしろカリアゲ!自分が正義のヒーローか何かだとでも思っているのか!』

「…!」

『貴様らは何者だ、セキュリティチーム!リーダーからは、コミックに登場するような正義の戦隊だとでも教わっているのか!?』

「…違うよ。俺たちは正義のヒーローじゃないと…。生存競争をしているんだと、聞いた…。あんたが言ってるようにだ、パルタス…」

『ならば必然!敵が勧善懲悪のコミックから出てきたようなヴィランでないことも分かるだろう!あんなフィクションは、後腐れなく制裁欲求を満たして脳内麻薬を刺激し快楽を得るためだけの低俗な娯楽にすぎない!現実にあんなサンドバッグなどいない!デジタルワールドにもだ!』

「…リーダー、悪い。俺、別の部屋で… フローティア島にいるパートナー達の面倒を見てるよ…」

「…カリアゲ」

「作戦がうまくいってさ、グサグサと仲良くなれたらよ… 俺の代わりに、ブイモンとデジタマモンを褒めてやってくれ…」

「…分かった。こっちでやっておく」

カリアゲは席を立とうとしたが…

『逃げるな!!カリアゲ!!!』

「っ…」

『己が背負う業から目を背けるな!!!それが責任というものだろうが!!』

「…わ、わかった…わかったよ…!見届ける…すべて…!」
カリアゲは震える声で、席に着いた。

画面を見ると、ニセシャッコウモンはすでに演説を始めていた。
ん?あ、あれ?もう始まってたのか。
今の騒ぎで画面をぜんぜん観てなかった。

誰か、信徒達がどういう話をされてたか聞いてましたか?

「…しまった。聞いていなかった」
リーダーが苦い顔をしていた。
私もクルエもシンも聞いていなかった。

「僕は聞いてたよ」
メガは画面を見ながらそう答えた。

め、メガ…!
ニセシャッコウモンの演説を聞いてたのか。
ということは逆に、こっちの騒ぎは聞いてなったの!?

「?だってそんなの、僕たちがフローティア島で原住民のガニモンを殺戮したことの延長線上でしょ。人の姿に擬態しているからって何が違うわけでもない」

…すごいねメガは。私ですらそう割り切れない。
人に擬態してるから殺しにくいだけ、か。

「畑を荒らす猪を撃てて、猿は撃てないハンターがいるという。人に近い獣は同情心を誘うんだってさ。くだらない。どっちも同じだろうに」

…そう割り切れるメガがいて助かるよ。
それで、ニセシャッコウモンは何を話してたの?

「メモ取りながら聞いてる。サーバーに置いてあるから読んで」

私はメガがとったメモを読んだ。

一旦ここまで

~少し時間を遡り、メガ視点~

ニセシャッコウモンが演説を始めた。
話を聞く限り、AAAはセキュリティチームのことを「悪魔」と、ディノヒューモン農園のことを「ブルースキン」と呼んでおり、
両者のことを信徒に襲い掛かる加害者、外敵であると教えているらしい。

それを聞いたカリアゲが、ショックを受けて騒ぎ始めた。蛮族デジモン達の価値基準が僕たち人間に似通っていることに気づいたらしい。
…まあ心配はいらないだろう。リーダーやケンなら、カリアゲをうまく落ち着かせられるはずだ。
その間、僕は僕がやるべきことをやる。
ニセシャッコウモンの演説内容を記録し、それを読み解けば、今後AAAがやろうとしている悪事について情報が得られるかもしれない。

あちらのことはあちらに任せて…
僕はニセシャッコウモンの演説内容を書き留めた。

『我々天使は、キンカクモンやフーガモンと共に悪魔と戦った。フーガモンやドリモゲモンは悪魔と刺し違えて倒れた…。だが敗北したわけではない!敵もまた大きな損害を負った!』

『オォ~…!』

『だが信徒達よ!危機感を持て!このまま貴様達が今よりも強くならなければ!力を増した信徒達やブルースキン達が、貴様たちが蓄えた富を奪い、貴様達の家族を貪り食いに来る!』

『アクマコワイ…!』『ブルースキンコワイ…!』

『だが絶望はするな、希望を持て信徒達よ!神は敬虔な信徒のお前たちの信仰に応えて、天使の力の一端を授けた!キンカクモンを、そしてその子孫シスタモンを見よ!我々天使の姿にどんどん近づいている。これは大いなる天使の、悪を撃ち滅ぼす力が芽生えていることを意味する!』

『オォオーーー!!』
シスタモンがちょっと照れている。

『信徒達よ!フーガモンを、ドリモゲモンを超えて強くなれ!これまで以上に力を磨き、己を鍛え上げ!そして我々「天使」に近しい存在へと進化するのだ!そうして力を合わせれば、必ず悪魔を撃ち滅ぼせる!貴様達も、その家族も!子供も!皆救われる!戦うしかないのだ!』

『カミサマー!テンシサマァァ!!』

『さて…。目指すべき将来像を共有したところで。ここにいる者達の中には、これまで私から直に啓示を受けたことのない者も大勢いることだろう。私が出来損ないのバブンガモンに代わり、お前達信徒を統べるようになってから産まれた者達の中には特にな』

…そうか。
今の世代には、既にニセシャッコウモンが蛮族を統べるようになってから産まれた個体も多くいるんだ。
かつてバブンガモンが、類人猿デジモンのリーダーだったこと自体を知らない個体も…。

そういう個体から見れば、バブンガモンは生まれた時既に被差別階級だったということになる。
かつて祖先たちを導いた先代リーダーのバブンガモンに対して、敬意も何もあるはずがない。敬意を持てるはずがない。

きっとバブンガモン派もいたのだろうが…
そういう者達は間引かれてしまったのだろう。

おそらく、初期の類人猿型デジモンは、猿やネズミに近い姿だったのだろう。
バブンガモンや、その親プレイリモン(プレーリードッグに似ているらしい)、ジャングルモジャモン、ゴリモンなど。

だが、ニセシャッコウモンは今の話から察するに、「人の姿に近づく進化をした個体」を、カースト上位に据えようとしているとうかがえる。
これは明らかに、人工的に進化を促しているアプローチだ。
人間の姿を提示し、それに近づくように進化をしろと促しているのだ。

そうして、猿型デジモンはどんどん人の姿へ近づいていったんだ。
シャーマモン、フーガモン、キンカクモン… そしてシスタモン。

いったい何の目的で、デジモンの姿を人間に近づけようとしているのかは…
まだ分からない。

『敬虔なる信徒のために、今一度!この世界の成り立ちを!そしてお前達の信仰に対する加護を!説明しよう!』

はてさて、どんな話が出てくるか…。

『考えたことはあるか?お前達が住むこの世界は…いったいいつ、どこで、どうやってできたのか。なぜデジタルモンスター達が住んでいるのか。なぜ朝があり、夜があり、火があり、水があり、土があるのか』

『ザワザワ…』

『なぜだと思う?シスタモン』

『ハイ!カミサマが!ツクッタノデス!』

『その通りだ!よく教育しているなキンカクモン。そう、この世界、デジタルワールドは神が作った。その大いなる存在に仕えるのが、我々天使だ』

AAAのやつ、自分のことを天使だという嘘を大真面目に言い張ってるのか。よくそんなことが言えたもんだ。

『神がこの世界を作ったのは、お前達信徒のためだ。水はお前たちが飲むために。土はお前達が踏みしめるために。太陽はお前達を暖めるために。夜はお前達が眠るために。そしてデジタルモンスター達は、お前達信徒が食べるために。信徒のために用意したのだ。お前たちは神の子なのだ!』

『オォ~アリガタヤアァ~!』

神の子…ねぇ。
リアルワールドで大きな勢力拡大に成功している様々な宗教の教義を切り貼りしているっぽいな。

『だが!お前達の遠い祖先は、神を裏切り、神の立場を乗っ取ろうと叛逆した。その結果、神はお前たちの祖先の罪を裁いた。だが慈悲によって、獣に似た姿に変えて生きることを許したのだ。罪を償うために』

『ソセンユルセネェェ!』『ソセンハフケイダー!』

『なぜお前達信徒は、天使の姿に近づいているのか?それはお前達が祖先から背負わされた原罪を、敬虔な信仰と働きによって、少しずつ浄化しているからだ。少しずつ罪が清められ、元の姿と知能を取り戻しているのだ』

『オォオーー!!』

『一方でブルースキン達…あれらは、お前たちの祖先から枝分かれした者の一部だ。獣の姿になっても尚、罪を清めるどころかさらに神に叛逆したため、罪を重ね… あのような醜い異形の姿になったのだ』

『ブルースキンユルセネエェ!』『ブルースキンハフケイダー!』

…類人猿型デジモンが、農園の爬虫類型デジモンと枝分かれしたのは、そんな理由じゃないと思うけど。

『信徒達よ!お前達の子孫が完全な天使の姿へと至った時!お前達の祖先が犯した罪は完全に清められるのだ!信徒達よ!それを目指し清く正しく努めよ!』

『オォー!キヨク!タダシクウウゥウ!!』

何が清く正しくだ。
サイバー犯罪者がどの口で言うんだか。

しかし…なるほど。
いくらなんでも、自分たちの祖先を被差別階級に貶めるなんて、蛮族共は随分底意地が悪いんじゃないか?と思ったけど…
『原罪』という概念を利用していたのか。

蛮族デジモン達は、生まれつき祖先が犯した罪を背負っている…ということにして。
正しい行い(サイバー犯罪への加担や、農園への略奪行為)を繰り返すことで、その罪が清められ、人格的な正しさを得ていくのだと。

それに加担しないバブンガモンは、罪が清められていない咎人であるがゆえに…
『悪人』と見なされているんだ。

そんなのに騙されるか?くだらない…と、思いがちだけど、案外ばかにできない。
リアルワールドの人間達は、これら蛮族デジモン達と同様に、罪人とみなした者に対して集団で行う私刑を、「正義」と呼ぶことがある。
実際に罪を犯したかどうかにかかわらず。

2018年、メキシコ中部のアカトランである事件が起きた。
二名の男性が飲酒運転で捕まるという、なんということもない事件だった…。当初は。

しかし、インターネットのSNS上で、彼らは「幼児の連続誘拐犯だ」「車の中に酒があったのがその証拠だ」とデマを流された。
やがてSNSのユーザー達の中では「釈放されたら何人もの幼児が犠牲になる」「だから彼らに正義の裁きを下そう」という意見が膨らんだ。

結果、二名が釈放された後、150人ものインターネットユーザーが彼らを殴り、蹴り、ガソリンをかけて燃やし…死に至らしめた。
そういう事件が、実際にあったのだ。

このように、「罪人のレッテルを貼られた者」に対しては、現代人すらも狂気の残酷性を発揮するのだ。
人間ですら、マインドコントロールによって野蛮な正義感を発揮し、理屈の通らない私刑を行うのだ。
人に近い姿へ進化している類人猿型デジモンが、同じ理屈のマインドコントロールをされるのは、不自然なことじゃない。

と、このあたりでカリアゲやケン達の一悶着が終わったらしいので…
今までとっていたメモの置き場を教えた。
落ち着いたら読んでくれるだろう。

ニセシャッコウモンがそう話していると…
一体のシャーマモンが、ぷるぷると震えだした。

『ヨクモ…フーガモンサマヲ…!アクマ!ユルセネエエエ!』

シャーマモンは光り輝き…進化した!
https://i.imgur.com/oBEoNOm.jpg

人…というよりはなんだろう。
ファンタジー作品のゴブリンとかドワーフに近い姿になった。

『おお!いいぞ、獣からさらに天使に近づいたな!お前の名は…グロットモンと命名する!』

『ハハァー!』
…こうやって進化を促しているのか、AAAは。

それからは、演説でたいしたことは言っていなかった。
戒律についてちょっと触れた程度だった。

そろそろ演説が終わる…という雰囲気を察して、僕はパルタス氏に連絡をした。

パルタスさん!
演説が終わるよ!

『わかった!シューティングスターモン、発射スタート!』

『オーケーイ!!!!』
シューティングスターモンから通信が入る。
ウィンドウに、シューティングスターモンを映すデジドローンの映像が映し出された。
既にデジタルワールドに出て、準備をしていたらしい。
密林から少し離れた森林の中だ。

『ファアイブ… フォォー… スリィーー… ツゥーー… ワァン…!』
シューティングスターモンの下部から、凄まじい風圧の空気が噴射され始める。
周囲20mほどの地面に散らばっている枯れ葉や土砂、幼年期デジモンなどが、放射状に吹き飛ばされていく。
木々がざわめき、シューティングスターモンを中心にして木々が斜めに傾いている。

『シュウゥゥッ!!!!』
シューティングスターモンの下部から、爆発的なエネルギーが放出され…
シューティングスターモンは天高く飛び上がった。



~ケン視点~

ニセシャッコウモンの演説が終わった。
ニセシャッコウモンは、デジタルゲートから出ていこうとしている。

「ケンパイセン、この映像ってシュリモンが隠し持ってるデジドローンで撮影してるんっスよね?シュリモンであの土偶っぽいやつ倒せませんか?」
シンがそう言ってきた。

気持ちは分かる…シン。
だけどあの土偶は、おそらく中にAAAのデジドローンが入ってる。

「だからこそ!破壊しといてもいいんじゃないッスか!?」

…AAAのデジドローンに、ハックモンがマーカーを付着させてるのを覚えてる?シン。
今AAAのデジドローンを破壊すれば、デジドローンを再構築して復活させるまでしばらくの間活動不能にできるけども…
それは同時に、AAAの本拠地へデジモン伝送路を繋げる貴重な布石を失うことになる。

それを失ってまで、今ここでニセシャッコウモンを破壊するメリットはない。

「…そうなんスね。AAAのやつムカつくんで、一発おみまいしてやれないッすかね」

…今からそうするんだろう。
手駒を全滅させて。

「…なるほど」

ニセシャッコウモンがちょうどデジタルゲートから出ていったあたりで…
上空から飛行機のような音が近づいてきた。

…こちらの映像でも、シューティングスターモンの影が確認できたぞ!

信徒デジモン達はざわめいて、上空の機影を観察している。

やがて、パルタス氏が号令を出した。
『やれ!シューティングスターモン!出力100%!クラスターボムも同時に放て!!』

上空のシューティングスターモンは、自身の周囲に無数のエネルギー弾を展開した。

そして…
広場の中央に、ジェット噴射しながら勢いよく落下してきた!

シューティングスターモンが、広場のど真ん中に直撃する!
凄まじい衝撃音が鳴り響き、土砂が抉れ、衝撃波と熱波が広がり…
広場に残っていた数多くの信徒デジモン達が、吹き飛ばされ、こなみじんに砕け散った。

続いて、上空に浮いていた無数のエネルギー弾が、シューティングスターモン着弾地点から放射状に飛んできた。
これは…
まるでクラスター爆弾!

信徒デジモン達は逃げているが…
次々とエネルギー弾の空爆に巻き込まれて吹き飛んでいく。

『はぁっ、はぁっ…!』
シスタモンは、よろめくキンカクモンを肩に担いで逃げている。
足元にはトコモンもおり、一緒に逃げている。

空爆の範囲は、どんどんシスタモンたちへ近づいていく。

そして、シスタモンたちに空爆が命中しそうになったとき…
キンカクモンは、シスタモンとトコモンに後ろからとびかかり…
二体に覆いかぶさった。

…シュリモンはそのタイミングで、デジタルゲートから退避し、空爆から避難した。

ゲートを潜ったシュリモンは、ビオトープで待機している。

そして1分が経過したころ、パルタス氏から通信が入った。

『シューティングスターモンによる空爆が完了した。続いて、ティンクルスターモン&ピックモンズによる残党狩り兼食料収集を開始する。シュリモン、お前も手伝え』

そう言われたので…
シュリモンはデジタルゲートから出てきた。

…信徒の住処だったジャングルは、辺り一面が焦土と化していた。
着弾地点の広場には深いクレーターができており、その周囲1kmほどが、ほぼ生物の痕跡がないほどにメチャクチャに破壊しつくされていた。

シューティングスターモンは、深さ10mほどのクレーターのど真ん中で、土砂に埋もれていた。
『アァーーーーーハラヘッタァーーーー… ブカドモヨ オレサマノタメニサッサトメシヲアツメロォーーーー…』

焼けこげた木々が根元から引っこ抜けて、散乱している。
バラバラになった信徒デジモン達の、焼けこげた肉片が散らばっている。
シューティングスターモンの激突、およびエネルギー弾は焼夷弾ではないため、直接炎を出して木々や信徒デジモン達を燃やしたわけではない。
放たれた熱エネルギーが凄まじいため、その熱波によって焼かれたのだ。

中には瀕死の状態で生き残っているデジモンもいる。
グロットモンが、全身に火傷を負いながら、地面に倒れている。
腹部に折れた木の枝が深々と突き刺さっており、飛んできた土砂で全身を貫かれているようだ。
『ヒィー… ヒィー… テンシ…サマ… ダズゲ、デ…』

そこへ、ティンクルスターモンが回転しながら飛んできて…
グロットモンの頸動脈を深々と切断した。
『ゴボッ!ガボボ… セッガグ… シンガシタ… ノニ… ゴポッ…』

ティンクルスターモンは、次々と瀕死の信徒デジモン達にとどめを刺していく。
苦痛にあえぐ絶叫や、命乞いの言葉が、ひとつひとつ消えていく。


クルエは震えながら画面を見ている。
「あ…あぁ…っ。私たちが…やったの…?これを…!う、うぷっ…!」
クルエは口を手で押さえ、駆け出すように部屋から出ていった。

シンはうつむいて何も言わない。

カリアゲは涙を流しながら、悲惨な光景を目に焼き付けている。
「くっ…うっ…!ごめんっ… ごめんっ…!」

メガはただただ驚いている。
「嘘でしょ…?単独の成熟期デジモンが、一度の攻撃行為でこんな広範囲を、ここまで徹底的に破壊しつくせるものなのか…?破壊力は間違いなく、これまで観察してしてきたレベル5を超えている…!」

リーダーは険しい表情で現場を観察している。
「攻撃力もすさまじいが、シューティングスターモン自身の耐久力も驚異的だ。あんな勢いで地面に衝突したら並のデジモンなら自身の攻撃力によって粉々に消し飛ぶだろう」

そして、信徒デジモンの住処の跡地へ…
スティングモンが飛んできた。

『シェイドラモンが、これを…。本当に滅ぼしたのか、信徒を…!素晴らしいぞ、我が子よ…』

スティングモンは、周囲をきょろきょろと見まわし、何かを探している。
シェイドラモンを探しているんだろうか…?

カリアゲが口を開いた。
「探してるのは、たぶん… バブンガモンの死体だよ」

…そうだったね。
ゴーサインを出したのはスティングモンだった。

せめて友の亡骸を葬ろうと、やってきたのだろうか。

やがて、スティングモンは何かを見つけた。

それは、地面にうつ伏せに倒れているキンカクモンだった。
焼けただれた背中に木片や、硬く尖った岩がいくつも深々と突き刺さっている。
どう見ても死んでいる。
…あれほどの破壊力の空爆を食らって、原型をとどめているあたり、キンカクモンはそうとう頑丈なデジモンだったといえるだろう。

だが、そのキンカクモンが…
ちょっと動いた。

警戒するスティングモン。

キンカクモンの下から声がした。
『ゲホ、ゲホッ…!あ、ああ… キンカクモンさま…!』
『プワァ…ッ!』

…シスタモンとトコモンだ。
親がかばったおかげで生き延びたのか。

それを見たスティングモンは、腕から鋭く長い針をシャキンと伸ばす。
『生き残りがいたか。詰めが甘いぞ、シェイドラモンよ』

スティングモンは、シスタモンにとどめを刺そうと詰め寄る。

…その時。
突如飛んできた火炎弾が、スティングモンの頭部に命中した。

『ぐあぁッ!…なんだ!』
スティングモンは、火炎弾が飛んできた方を振り向く。

そこにいたデジモンは2体だ。

一体は、シマユニモンに翼が生えたような姿をしている、天馬のようなデジモン。
https://i.imgur.com/CoZObnU.jpg

そして…
https://i.imgur.com/LRxSU4u.jpg

『スティングモン… ナンダ、コレハ…! オレノカゾクニ…ナニヲシタ!』

全身が岩のような甲殻で覆われたヒヒ型デジモン。
バブンガモンであった。

※誤記
✕→スティングモン
◯→グサグサ

『…生きていたか、バブンガモン』

『グサグサ、コレハナンダト…キイテイル!』

『セキュリティチームとやらがやったそうだ。そして、我が子がな』

『…オレノ!カゾクタチガ!!シンダノカ!!ミンナ!!!』

『生き残りもわずかにいるようだな。そいつ含めて』

スティングモンは、上半身を起こして震え、涙を流しているシスタモンと、トコモンの方へ視線を向ける。

『ひっ… ひぃぃっ…!』
『プワァ…!』

バブンガモンは激昂する。

『セキュリティチーム…ナンダ…ソイツハ!オマエノ…シリアイカ!?オマエノ!サシガネカ!グサグサ!!』

『そうだ。私と信徒達は、もともと殺しあう仲だった。お前も知っていたことだろう、バブンガモン』

『ワカッテハ…イタ!イタガ!コンナコトガ!アルカ!!!ウガァア!!』

『私は去る。そいつにとどめを刺してからだ』

スティングモンは、腕から出た長い針をシスタモンへ突き出そうとするが…
バブンガモンがそれを弾いた。

『ウガアァ!!オレノ!カゾク!!!コレイジョウ!!コロサセナイ!!!』

『バブンガモン…私は知っているぞ。信徒達はお前を見下し、虐げている。元リーダーのお前を。そんな奴ら、もう護らなくていいのではないか!』

『ドウッテコトナイ!!オレノカゾクガ!!ゲンキナラ!!オレハイインダ!!!』

『…バブンガモン。お前自身が我々の村に侵攻しなかったから目をつぶっていたが…。貴様の家族とやらに我々の村民は随分と命を奪われたぞ。私がその復讐をしたがる気持ちは分かるだろう』

『ワカッテル!!ダガ!!コレイジョウ!!!カゾク!!シナセナイ!!!』

縞々が無く、翼が生えたシマユニモンの亜種… 仮称ユニモンは、シスタモンとトコモンを自身の背に乗せた。

『タスケテクレルの…?バブンガモン…。ワタシを…?』
『サッサトイケ!シソンヨ!』

『アリガトウ…!』
ユニモンは駆け出そうとする。

そこへ…。
『行かせねえよ!!』
何者かがやってきた。
…フレイドラモンだ!

『スティングモン!あいつはオイラがやっつける!』
フレイドラモンは、シスタモンとトコモンを背負ったユニモンを追跡しようとしているようだ。

『グサグサと呼べと言っている!我が子よ!わかった、頼むぞ』
スティングモンがフレイドラモンにそう返事をすると…

バブンガモンが、フレイドラモン&スティングモンとユニモンの間に割って入った。
『ウガアァァ!!!カゾク!!!イキノコリ!!!シナセナイ!!ゼッタイニ!!!』

ユニモンは、全速力で地を駆り、走り去っていく。

『そこをどけえぇ!!』
フレイドラモンは、バブンガモンを躱してユニモンを追いかけようとする。

バブンガモンがフレイドラモンを通せんぼしようとするが…
スティングモンが、腕の張りでバブンガモンを攻撃した!
それを受け止めるバブンガモン。

『我が子シェイドラモンよ!私がバブンガモンの相手をする!お前はあれを仕留めろ!』

『ああ、わかった!』
フレイドラモンは、スティングモンのおかげでバブンガモンの通せんぼをかいくぐり…
ユニモンの追跡を始めた。

農園の二大リーダーの一人、スティングモン。
信徒の元リーダー、バブンガモン。
その二体が対峙する。

『イチドダケイウ、グサグサ。カエレ』

『断る』

『ソウカ。ナラバオワカレダ。オマエトウタッテ、オドッタコト…タノシカッタ』

『ああ。私も楽しかった。お前と酒を呑み交わす友になれたことを、私は後悔していない。さらばだ友よ!』

『オレモ、コウカイシテイナイ。イクゾ…コロシテヤル!トモヨ!』

スティングモンとバブンガモンは、激しく衝突した。

この映像をデジドローンで撮影しているシュリモンは…スティングモンとフレイドラモン、どちらのアシストをすべきだろうか?

リーダーが口を開いた。
「シュリモン!フレイドラモンと共にユニモンを追え!AAAは、人に似たデジモンを育てて何かをする気だ!その最先端であるシスタモンを、絶対に生かしてはおけない!」

『わかった!』
デジドローンの映像から察するところ、シュリモンは足をバネのようにしてびよーんと高くジャンプし、バブンガモンを飛び越えたようだ。
器用だな!パルモンが進化した成熟期のシュリモンは。

後ろで激しい衝突音が鳴るのを聞きながら…
デジドローンは、フレイドラモンと、その奥にいるユニモンの姿を捉えた。

ユニモンは、さすが走行に特化した馬の姿をしているだけあって…
スピードがとてつもなく早い!
どんどん差を離されていきそうだ。

単純なスピードでは、フレイドラモンやシュリモンを大きく超えている。
やみくもに追いかけていては追い付けないぞ…!

続く

いや、本当にスピードに差がありすぎる。
距離をどんどん離されていく。
シュリモンは手裏剣を投擲したが、射程範囲外のようだ。
フレイドラモンはシェイドラモンに変形し、粘着糸を飛ばすが、まったく届かない。

シュリモンに抱きかかえられているデジドローンの視界に映るユニモンの姿は、どんどん小さくなっていく。
このままじゃ逃げ切られる…!
どうすればいいんだ!

「あ…」
クルエが急に声を出した。
どうしたの!?

「いや…言っていいのかなコレ…」
言え!

「…ドーガモンで、AAAの声出せば止まってくれるんじゃない?」
おお!ナイスアイデア!
さすがクルエ!ろくでもないアイデアを出すことにおいてはチーム一だ!
「…あんま言いたくなかった…」

ドーガモン!頼む!
『出番ガ ネーノカト オモッタゼ イクゼ!』
ドーガモンは、AAAの声で叫んだ。

『止まれシスタモン!ユニモンを止まらせろ!そうすればこの追手共を倒せる!私を信じろ!』

さあどうなるか…!?
ユニモンは…
止まらない!!

デジドローンのスピーカー音量では小さすぎて、あの距離を蹄で地を鳴らして走っているユニモンや、それに乗っているシスタモンには聞こえてないんだ!
まさしく馬耳東風である。

くそ…もう追い付けないのか…!?

『オレたちの でばんは ねーのか?』
『ガッチモンどの 拙者たちは 平和利用デジモン 致し方ないことで ござる』

…!
ガッチモン、ナビモン!
そうか、こいつらがいた!
アプリンクしてくれるか!?

『どうしたんだ?いいけどよ』
『やるでござる!アプリンク!』

これで、現在研究室のサーバーで待機中のガッチモンとナビモンは、機能をリンクした。
「検索」と「ナビゲート」を組み合わせて、同時に行えるようになったのだ。

カリアゲが、訝しげな見ている。
「なあ…やっぱりそいつら合体しないの?アプ合体、みたいな感じでさ」

メガが無理だって言ってただろ!
こんなときにふざけたこと言ってんじゃないよ!

「うん…ん-…俺が間違ってるのか…まあいいや」

『それでどうするんでござるか?』

追い付けないなら…
待ち伏せをする!

ナビモン!
今までのユニモンの走行ルートから、これからの逃走ルートを予測してくれ!

そしてガッチモン!
ユニモンの予測逃走ルート付近から、デジタルゲートを開けそうなアクセスポイントを検索して!
『わかったでござる!フン!ルート予測!』

リーダーが頷く。
「なるほど。いくらユニモンが逃げようとも、逃げた先のアクセスポイントからデジタルゲートを開き、そこから新たな追手を出せば差を縮められる!それで誰を向かわせるんだ?」

そこなんですよ。
正直、今の我々の手持ちでは、ユニモンを止められるデジモンがいない。

力の弱いマッシュモンとチビマッシュモン達や、オタマモンでは、蹴りとばされてしまうし。
ケンキモンとその中身のクラフトモンは絶対安静の療養中だ。
トコモンにはもちろん無理。

…パルタスさん!スターモンを出せませんか!?
『スターモン!?今はキウイモン島をジオグレイモンと共に攻めている!無理だ!』

えぇ!?
前に聞いた話では、ジオグレイモン?が単体で作戦をやるんじゃないでしたっけ!?
『作戦前に予行演習で別の任務をさせたが… 戦いになると頭に血が上って無差別に破壊してしまう!単体での任務遂行は無理だ!ゆえにスターモンをつけた』

ほ、他に出せるデジモンはいませんか!?
『…いない』

出せないデジモンはいるんですか!?
『秘密だ』

…うぅ、ジャスティファイアからは戦力を呼べないか。
待ち伏せ作戦をしようにも、待ち伏せをするデジモンがいない…!

カリアゲが驚いた声を出している。
「ん!?あれ!?フローティア島を見たら…トコモンが進化してる!」

クルエがカリアゲの席のディスプレイを覗いて、いっしょに驚いた。
「ほんとだ!可愛い!」

トコモンが!?成長期に!いつの間に!!?
で、出れるか!?

「いや、ケン… 進化したトコモン、あんまフィジカル強くなさそうだから、ユニモンを止めるのは無理だと思うぞ…」
だめか!!

「んお!?ふぁ、ファンビーモンのデジタマが!?な、なんだ… トコモン!そいつをとりあえずデジタルゲートの前へ連れていけ!」

え!?何!?
今度は何が起こったの!?

「ファンビーモンのデジタマがひとりでに動いた!」
まさか…デジタマモンと同じ現象か!?

『ディープサーチ完了!もう十秒後に、ユニモンはこのアクセスポイントに来るぞ!どうする!?』

ええい、いちかばちかだ!
進化したトコモンと、ファンビーモンのデジタマを!ゲートから出してくれ!

「ケン!そういうのはやけくそっていうんじゃねえのか!?ええい、だけど他に方法がない!いけ!ええと、名前は…」
カリアゲが悩んでいる。

「悩んでる場合じゃないでしょカリアゲ!私が名前を付ける!」
「お、おお!頼むクルエ!」

デジドローンからは遠くてよく見えないが…
デジタルゲートから、なにかデジモンが出てきた。
人型のシルエットをしているようだ。

「いっけー!ティンカーモン!」

ティンカーモン…それがトコモンが進化したデジモンの名前か。
遠くて姿が見えないが、頑張れ!

ティンカーモンは…
ファンビーモンのデジタマを抱えたまま、こっちに向かって飛んできた!

…うん、ごめん。
やっぱ成長期なりたててユニモンを止めるのは無理だよね。
しかし、ファンビーモンのデジタマを持ってきてどうするんだ?

やがて、バテかけながら全力疾走しているフレイドラモンのところへ…
デジタマを抱えたティンカーモンが来た。
https://imgur.com/fusILB5.jpg

おお、人間そっくり… というか、ほぼ人間みたいだ。さすがシスタモンの姉(?)。
それに蝶のような翅が背中から生えている。
人間というか… 妖精?に近いな。

『コレを!』
ティンカーモンが抱えたデジタマは…
飛び跳ねて、フレイドラモンにぶつかった!

おお、な、何をするんだ…!?

フレイドラモンと、ぶつかったデジタマは…
同時に光り輝いた。
そして、ふたつのシルエットが混ざり合った。

やがて、シルエットから何かが飛び出てきた。
…これは…
炎の紋様が刻まれた、デジタマのような形状の物体。
『勇気のデジメンタル』が小型化したような物体だ。

なんだ?
なんでフレイドラモンが、ファンビーモンのデジタマと混ざり合ってから…
小さい勇気のデジメンタルが飛び出たんだ!?

やがて、光が止むと…

そこには、フレイドラモンでもシェイドラモンでもない姿のデジモンがいた。

https://imgur.com/kMpb3T0.jpg

…四足歩行の獣型の体型になったブイモンが、全身に黒い装甲を纏ったような姿。
額からは、イナズマの形をした刃物のツノが生えている。

な、なんだ…
何が起こった!?

獣型の形態になったブイモンは…
突然叫んだ。

『うるっせえええ!!!ファンビーモン!!!すこししずかにしろ!!!!』 

ど、どうした!?

つづく

ど、どうしたブイモン!?

『ファンビーモンのやつ、あたまのなかでうるせえんだ!はやく狩れ、仕留めろ、殺せ、食わせろって!わかってるっつーの!』

そ、そうか。

『わーったって!今追い付くから黙ってろ!うおおおお!!』

四足歩行型形態のブイモンは、全速力で走りだす。
うおお速い!フレイドラモンよりもずっと早い。
ユニモンとの距離がちょっとずつ縮まっていく…か…?

…いや!縮まらない!!
これでもまだユニモンの方が速い!!

それでもまあ、今までよりずっと速くなったな。
四肢の獣の形質を、ファンビーモンと融合したドリモゲモンのデジタマから引き出したのだろうか。
『くらえええ!!おりゃああ!』

おおっ!?
獣型形態のブイモンは、頭部のツノから放電攻撃を繰り出し、ユニモンへ浴びせた!
『ヒヒィィン!?』

電気ショックを浴びたユニモンは、一瞬体が硬直した。
すごい…電撃攻撃までできるのか!
でもなんでだ?

リーダーが画面を見ながらつぶやく。
「ドリモゲモンの頭部のツノは…もともとは放電器官だったのかもしれない。その電気をドリルに供給して回転させ、地面を掘れるように進化したのがドリモゲモンなのではないだろうか」

な、なるほど…。
現在のドリモゲモンから退化している放電能力を、先祖返りによって獲得したということか。

なら、新しい形態のブイモンの姿を…
ライドラモンと名付けよう!

ライドラモンは、二撃目の放電を浴びせようとするが…

『ダメ!ユニモンは、ワタシが!マモる!』
そう言い、シスタモンは杖を構えると…
自身とユニモンを光の膜で覆った。

ってか、ほんとにユニモンって名前で合ってたんだ。
AAAとネーミングセンスが一致したみたいで気色悪いけどまあいいや。

『くらええ!』
ライドラモンは、再度放電攻撃を放つが…
シスタモンが張った光の膜が、電撃攻撃を弾いた。

ば…バリアか!
シスタモンのやつ、戦闘能力がなさそうだと思ってたら、防護に特化していたのか。

しかし、成熟期相当のデジクロス体の放電攻撃を弾くとは、かなりの耐久性能だ。
成長期にしてはかなりやるな、あいつ…。
ティンカーモンもああいうことはできるんだろうか。

そうしていると…
突如、デジドローンが映している映像がガタついた。
『ぜはっ、ぜはっ…も、もうだめ、はしれない…』
シュリモンの声だ。

デジドローンの映像が揺れ、ライドラモンたちからどんどん引き離されていく。
どうやら全力疾走し続けていたシュリモンの体力の限界が来てバテたようだ。
シュリモンは立ち止まって、ぜぇはぁと荒い呼吸をした。

…バテはしたが、シュリモンは決してフィジカルが弱いデジモンというわけではない。
我々のサーバーのシステムが、先日の侵攻で破壊されてしまい復旧中であるため、まだシュリモンの筋肉のデータを解析したりはできていないが…
おそらくシュリモンの筋肉は、ほとんどが『白筋』だと推測される。

筋肉には、赤筋と白筋の二種類がある。
赤筋は、ミオグロビンという酸素を蓄えるタンパク質を大量に含んでいるため、長時間力を発揮するスタミナがある。
しかし血中の栄養素を分解してエネルギーを得るのが若干遅いため、瞬発力やパワーは劣る。

一方で白筋は、ミオグロビンがほぼ無いが、パルブアルブミンというたんぱく質がある。
これは血中の糖分を分解することで、瞬時に大量のエネルギーを生成できる。
だから瞬発力やパワーはあるが、スタミナが劣る。

馬などの長時間走り続けることが得意な動物は、筋肉のほとんどが赤筋だという。


シュリモンがバテるのが早かったのは…
瞬発的な戦闘能力に特化しているが故のトレードオフといえるだろう。

『まてー!』
『ヒヒィイン!』
ユニモンとライドラモンは、そのままシュリモンが抱えるデジドローンが視認できないほど遠くまで走り去っていった。

『ぜーはー…ごめん、ケン…』
…気にしないで、シュリモン。
全速力で追い付こうとはしなくていいさ。
一息ついたら、シュリモンが無理のないペースで、まっすぐ進んでみよう。

きっとライドラモンは、うまくやってくれるはずだ。

…しばらくして、シュリモンが体力を取り戻してから。
ジョギングくらいのペースで進んでいると…

何かが見えてきた。

『はぁ、はぁ…』
ブイモンとデジタマモン。
そして、大きな黒いピーナッツのような形をした物体だ。

ブイモンは地面に座って、険しい表情をしている。
デジタマモンも、地面に座っている。


…ユニモンとシスタモンの姿は、そこになかった。

『…ケン…』
お疲れ、ブイモン。

『…ちくしょう…にげられちまった、ちくしょう…!』

何があったの?

『なんぱつか、デンキをくらわせて、バリアをやぶれたんだけど… ユニモンのやつ、そらとびやがった』

空を…!?

『うちおとそうとおもったけど…とどかなかった』

…追跡失敗か…?
いや、まだだ…
ガッチモン!かつて沼でシャコモンの殻を探したように、周囲からユニモンとシスタモンを検索してくれ!

『やってみる!』

ガッチモンは、一度さっきティンカーモンが出てきたアクセスポイントにデジタルゲートを開き、そこからデジタルワールドに出たらしい。
そして、検索を行った。

『…みつからねえ』

だ、ダメか…!?

『オレのけんさく、じめんから情報をとってくるから… そらとんでるやつはみつけられねえみてーだ』

…。
逃げられた。

『わりい、ケン…。オイラ、しっぱいしちまった…』

その時。
パルタス氏から連絡が来た。

『貴様ら喜べ!上を必死に説得した結果、我がジャスティファイアの最終撃滅部隊…「天地人」の一部に出撃許可が出たぞ!』
ぱ、パルタスさん…。

『さっきのデジタルゲートで待ち伏せすればいいんだな!?』

…その地点はもう過ぎました。
シスタモンには逃げられてしまいました。

『…逃げ延びさせてしまったか。確実に仕留めておきたかったな』

…。
我々は、できることを全てやったはずだ。
ベストを尽くしたはずだ。

二足歩行のフレイドラモンでは追い付けない猛スピードのユニモンに、引き離されそうになった時…
奇跡のような出来事が起きて、ブイモンはライドラモンとなった。

四足歩行になり、飛び道具を獲得した。
この状況で最も欲しい形質を手に入れた…それは間違いない。

だが、それでも尚。
我々が起こした奇跡を…
ユニモンとシスタモンが積み重ねてきた力が、上回ったのだ。


『ジョーカーたった一枚が舞い込んだだけでは、ゲームには勝てない』…。
AAAがかつて言った言葉が、身に染みて理解できた。

『どうしよう、ケン…』

悔やんでいても仕方がない。
スティングモンとバブンガモンが戦っているであろう地点へ戻ろう。

途中にあったアクセスポイントのとこまで戻れば、そこからデジタルゲートを開いて、集落跡地まで戻れる。

『…そっか』

我々は最後の詰めに失敗した。
だが…
失敗して終わり、じゃない。
戦犯探しをして誰かに責任を押し付けて責めたり、「次は頑張ろうね」と励まし合っても仕方が無い。

我々のチームの誰かに悪気があったわけじゃないし…
今回だって最大限頑張ったのだから。

我々は研究チームだ。
研究とは、いつも失敗し、振り返り、学んで進んでいくものだ。

事が済んだら、失敗を分析し…
どうすれば良かったか。次に成功するにはどうすればいいか。
それを考えていこう。

今回は敗けたとしても…
次こそは勝つために。




…ブイモンとデジタマモン、シュリモンが、デジタルゲートを通じて集落へ戻ると…

大きな衝突音が聞こえてきた。


何か大きなものが飛んできて、地面を転がった。

それは…
『ぐっ…うっ…!』
全身の甲殻が痛々しくヒビ割れ、右腕がへし折れた、血まみれのスティングモンだった。

つづく

スティングモンが飛んできた方を見ると…

『フゥッ…フゥゥッ…!』

岩のような甲殻の隙間に、いくつもの刺し傷があるバブンガモンが立っていた。

す、スティングモン!負けたのか!?
ボロボロだぞ!大丈夫か!?

『グサグサと呼べと…言ったはずだ。私一人ならば、この結果は敗北だが…。お前達がいる。よって…私の、勝利だ』
どういうこと!?
スティングモンがそう言うと、バブンガモンは…

『オッ…ウグォォ…!』
がくっと膝をついた。
『シ、シビレル…ウゴケン…!』

こ、これは…!?
バブンガモンの動きが止まった!

『ぜぇ、ぜぇ…。私の針には、しびれさせる毒がある。信徒には、長く効かないが…』
スコピオモンから受け継いだ麻痺毒か!

『オマエ、タチ… シスタモンヲ、ドウシタ…』

…逃げられたよ。
ユニモンと一緒に飛び去って行った。

『…ソウカ。オレノヤクメ、ハタシタ。コロスナラ、コロセ』
バブンガモンは体の力を緩め…
地面に尻をついて座り込んだ。

スティングモンに殴り勝つほど強かったのか、バブンガモンは。
だが、体が麻痺しているのなら、仕留める方法はいくらでもある。
オタマモン(赤)で顔面に火炎放射を放ち、甲殻の隙間をシュリモンの手裏剣で突き刺す。
そうすれば確実に倒せる。

ど、どうする。

私がそう言うと、メガが口を開いた。
「どうするも何もないよ、ケン。とどめを刺さない理由がない」
メガ…。
「バブンガモン。君は僕たちを憎んでいるだろう、恨んでいるだろう」

『…ニクイ…。カゾクヲ、ミナゴロシニシタ、オマエタチガ。ニクイ、キライ、タオシタイ…』
バブンガモンは震えるような声で言う。

「この通りだよ、ケン。ここで見逃せば、きっとバブンガモンはAAAと共に僕らへ復讐をしようとするだろう。トドメを刺さないで放っておくメリットが何もない」
…。
「ただでさえシスタモンに逃げられたんだ。バブンガモンにまで逃げられたら不利になるだけだ。そうでしょ、ケン。とどめを刺そう」

その時。
「もう…いいだろ…」
カリアゲ…?
「もういいだろ!!!こんなこと!!!」
カリアゲが声を張り上げた。
「バブンガモン!!お前はAAA…じゃない、天使を!信奉していなかった!あいつに群れを乗っ取られて嫌だったんだろ!従いたくないんだろ!?」

『…テンシハ、ナカヨシダッタオレノカゾクタチニ、イジメヲツクッタ。アラソワセタ。ミンナ、アンマリ ナカヨシジャ、ナクナッタ』

「…なあ、みんな。シスタモンにはもう逃げられちまった…。もうバブンガモンを倒す意味なんてないだろ!?」

「…生かすメリットが何かあるの?カリアゲ」

「メリットとかそういうことじゃねえだろ!メガ!もうこんなの十分だろ!生き残ったバブンガモンまで殺して何になるんだよ!」

「ここで仕留めるメリットと、見逃すデメリットはさっき言ったはずだよ、メガ」


「…バブンガモン。家族を殺されてつらいだろ」

『アタリマエノ、コト、キクナ…ツラスギルニ、キマッテル』

「だけど今まで、オサオサやグサグサの村の住人達も、信徒デジモン達に殺されてきたんだ。おんなじことを、お前の家族たちもやってたんだよ、バブンガモン」

『…ウ、ウゥ…!』

「バブンガモン、お前はどうなんだ。グサグサを殺したくないんだろ?」

『…ウン…』

「グサグサ、お前だってバブンガモンを殺したくないだろ!」

『…降りかかる火の粉は、払わなくてはならない』

「でもお前を殺したくないって言ってるぞ」

『…ならば殺す理由はないが…』

「…ならもういいじゃねえか、バブンガモン…」

『デモ、オレハ、ダイジナカゾクノ、カタキ、トラナキャ、イケナイ…。ニクイ、オマエタチガ…』

「っ…それは…」

その時。
リーダーがマイクをONにした。
「バブンガモン。お前の家族は生きている」

『エ…』

「前に我々は天使の軍と戦った。その時、天使は信徒を、お前の家族たちを、ある島へ置き去りにしたんだ」

…そういえば、そうだった。
リーダーはドーガモンの力でAAAのデジドローンの偽物を作り、成長期蛮族たちとケンタルモンを騙して、離島へ島流しにしたんだ。
あいつら今どうなってるんだろ。

「もしも、ここですべての戦いを終わりにして…、二度と天使と組まないと誓えるのなら、そいつらと合わせてやる。残った家族と暮らせばいい」

『…イキノコリ、イルノカ』

「そうだ。だが、我々に復讐するというのなら…お前を仕留め、島流しになった信徒達も見捨てる。どうする」

『オ、オレハ、オレハ…!』

バブンガモンは混乱している。

カリアゲがマイクを握った。
「バブンガモン、お前は家族を護りたいんだろ…。戦いたいわけじゃないんだろ?」

『…ウ、ウウゥ、ゥウウ~~…!タタカイタク、ナイ…!タタカイタク、ナカッタンダ…!』
バブンガモンは、ぽろぽろと涙を流した。

パルタス氏が我々に通信してきた。
『何をやっている、リーダー』

「…こいつらにもう戦意がないなら、殺す理由はない」

『だが生かす理由もない!たとえバブンガモンに戦意が無くとも!せっかく島流しにした蛮族共の集団が生き残れば、AAAは必ずそいつらを洗脳してまた手駒にする!』

「そうならないようにバブンガモンが御すればいいだろう」

『できるわけがなかろう!こんな猿にシビリアンコントロールなど!バブンガモンがどう言おうが、あの狡猾な男はまたバブンガモンの家族を乗っ取るぞ!』

「…っ」

『恨みの滴はたった一滴残っただけでもヘドロを生み、我々に復讐をしに来る。唯一の回避策は、すべてを根絶してしまうことだ!』
パルタス氏がそう言ったとき…
クルエが口を開いた。

「いや、ひとつだけあるよ。バブンガモンの家族が、AAAに操られずに暮らしていける方法」

『なんだ?そんなものがあるわけ…』

「グサグサやディノヒューモンの村の一員になればいいじゃん」

『な…!?』

一旦ここまで

「バブンガモンだけで類人猿デジモンの群れを率いるなら、AAAに隙を狙われてまた支配されるかもしれませんけども…、でも、スティングモンやディノヒューモンみたいなしっかり者もいれば、きっと大丈夫じゃないですか?」

クルエの提案を聞いて、パルタス氏が答えた。
『クルエといったか。貴様の提案は、危険のない研究室で安全にくつろげる余所者だから言える絵空事だ。視点がマクロなままで理想だけを言い並べている。ミクロのレベルに視点が向いていない!』

「そうですか?」

『そうだ!ディノヒューモン村の民からすれば、蛮族共は兄弟や子を殺傷した集団だ。個人単位で晴れることのない恨みを抱いているに決まっている!そんな状況で和解できるのなんてマンガの中だけだ!』

「でも、バブンガモンとスティングモンは和解したがってるみたいですよ。きっと大丈夫ですよ」

『きっとだと?たとえ五分五分で和解に成功したとて、我々には何らメリットはない。だが和解に失敗すれば、せっかく滅ぼしかけたAAAの手駒が補充されかねない。得がなく損しかない賭けだ!そんなものなどやる意味がない!』

「うぅ…」

『バカな夢想などせず現実を見ろ。遊びではないんだ。失敗したときの被害は我々だけでなく守るべき市民に及ぶのだぞ。市民の安全を第一にするのが貴様らセキュリティチームではないのか!』

得なら…あります!
和解するメリットが!我々にも!

『なに…?』

今回、蛮族デジモンが集会をした直後にシューティングスターモンを撃ち込みましたが…
本当に、デジタルワールドの類人猿デジモンを、バブンガモンとシスタモン以外みな滅ぼせたとお思いですか。

『…全てではないかもしれないな』

そうです。
蛮族デジモンの集落には、被差別階級の身分のデジモン達がいた。

差別され虐げられた類人猿デジモンが、すべて虐げらながら集落に留まっていたとは考えにくい。
フーガモンのいる集落から離れたところに逃げ延び、AAAの支配から逃れた類人猿デジモンもいるはずです。

『…そうだな』

たとえ今一時、フーガモン集落を壊滅させたとしても。
AAAはそうしてフーガモン集落から散らばった類人猿デジモンを集めて、手駒を補充する可能性があります。

『ならばそいつらも滅ぼせばいいだろう!ガッチモンで探して、フレイドラモンで焼き尽くせばできるはずだ!』

暴力は恐怖を生みます。
溺れる者は藁をも掴む。
類人猿デジモンを探して虱潰しにしようとするなら、彼らは我々を恐れ、自らAAAに助けを求めるようになるのではないでしょうか。

そうすれば、AAAは生き残りの類人猿デジモンを今より容易に味方につけられるはずです。

『ならばどうするというのだ』

ガッチモンで類人猿デジモンを探すのは同じです。
しかし、生き残りの類人猿デジモンたちには、ジェノサイドの使者としてフレイドラモンを差し向けるのではなく。
対話の使者としてバブンガモンに出向いてもらいます。

そうして彼らをディノヒューモン農園の労働力として囲い込めれば、AAAの手駒が増えるのを防げます。

『…確実性がない。メリット足りえないな。やはり類人猿デジモンは滅ぼしてしまった方が安全だな』

メガが口を開く。
「パルタスさん、覚えてる?僕たちの社会には、デジモンを全て滅ぼしてしまえと言う人達がたくさんいる。クラッカーデジモンだけでなく、セキュリティデジモンや野生デジモンまでも」

『ふむ…そうだったなメガ』

「どう思う?パルタスさん」

『下らん。セキュリティデジモンはクラッカーデジモンだけでなく、一般のマルウェアの侵入を防ぐこともできる。それを滅ぼせなどと、まるで理解が足りていない』

「今のパルタスさんは、それと同じことを言ってますよ。あなたは、そして今までの僕は、無理解からくる恐怖に囚われて、怖がっていただけだ!」

『なんだと…』

メガ…!

「…どうして僕はこんな簡単なことに気付けなかったんだろう。僕は、デジタルアソートは…、元々デジモンの平和利用を目指し、人とデジモンが共存できる社会をつくっていこうとしていたのに」

『…怖がって何が悪い。市民がクラッカーの魔の手に脅かされる可能性を恐れない者に国防が務まるとでも?』

「もしも、バブンガモンとスティングモンが無事に共生できたら…、その映像を、僕達デジタルアソートのプロモーションとして利用させてもらうよ。デジタルモンスターは分かり会える存在だとアピールするためにね」

『…』

「世の中が平和で便利になることは!ジャスティファイアの望みじゃないのか!パルタス!」

『っ…』

つづく

『…我々ジャスティファイアは功利主義だ。貴様ら研究チーム共が何を思い煩おうが知ったことではない。市民にとって得かどうか。それですべてを決める』

パ、パルタスさん…。それはつまり…。

『おいバブンガモン!聞こえるか!私はパルタスだ!』

『ナ、ナンダ』

『私は貴様たちに情けなどかけん!貴様らが我々の役に立つかどうか、それですべてを決める!役に立たないならばこのまま殺してやる!』

『…ドウシロト、イウンダ』

『貴様ら蛮族共は、天使を名乗る犯罪者、AAAに操られていた!だがその一味は死んだ!お前らはどうする、AAAの部下になっていいように使われるのか!?』

『バ、バンゾク?ハンザイシャ?シラナイコトバダ』

…蛮族は信徒と同じ意味。犯罪者は、盗んだり殺したりする悪い奴らって意味だよ。

『オ、オレハ、ソンナコト、シタクナイ…シタクナインダ』

『ならば!罪滅ぼしをしろ!禊だ!これから貴様と生き残りたちは、我々セキュリティ側の軍門に下れ!そしてともにAAAが差し向けてくる刺客と戦うのだ!』

『ミソギ?グンモンニクダレ?サシムケル?シカク?ワ、ワカラナイ、コトバガ』

パルタスさん、あまり難しい言葉を使わないで…。

『難しくないだろう!AAAのヤツ、言語教育がなっとらんな。我々のデジモン達はこのくらい難なく理解できるぞ』

…パルタスさんに代わって私が言うよ、バブンガモン。
つまり、我々と共に天使の部下たちと戦ってくれるなら、天使が置き去りにした生き残りの信徒デジモンを解放できるよ、って言ったんだ。

『ソレハ… シスタモンヤ、ユニモント、タタカエトイウノカ』

あ…。
そ、そうなっちゃいますよ、パルタスさん。

『そうだ。…そうだと言っている!』

『デ、デキナイ、ソンナコト!シスタモン、キンカクモンガノコシタ コドモ! タタカエナイ!』

『ならば十数体の貴様の家族たちを見殺しにするのか!』

『ウゥ…!』

リーダーは、パルタス氏の問いかけを聞いて青ざめている。
「パルタス氏…トロッコ問題を仕掛けてきたか。シスタモンを見捨てて十数体のシャーマモンたちをとるか。十数体のシャーマモンたちを見捨ててシスタモンをとるか…!」

短いけど今回はここまで

我々がそう話していると…
スティングモンがよろめきながらやってきた。

『貴様達、さっきから勝手なことを好き勝手に言いやがって…』

グサグサ、無事だったのか。

『バブンガモンとその家族を何に利用するだのと…貴様たちが、今決めることではない。天使の味方につかなければいいだけの話だろう』

それはそうだけど…

『バブンガモン。家族とともに、私の農園に来い。私の仲間たちは信徒デジモンをとても嫌っているが…、しっかり働けば受け入れるだろう』

『ウケイレテ…クレルノカ?』

『…私やブンブンも、最初はオサオサにとって敵だった。だがオサオサは、やがて我々を受け入れた。和解し、協力しあえた』

ブンブン…モスモンか。

『信徒デジモン達が働かずに盗み食いでもしようものなら容赦なく叩き伏せる。それでよければ、こちらに来い』

『…イイノカ、グサグサ』

『無意味な質問だ』

『…ヤッパリ、オレハ…オマエニデアエテ、ヨカッタ』

『同感だ』

どうやら話はまとまったようだ。
パルタス氏が慌てた声で通話してくる。

『お、おい!スティングモン!勝手に話を終わらせるんじゃない!バブンガモン達には、私が対クラッカー用のデジモンとして従軍するように言ってる最中だぞ!』

もういいじゃないですか。
土台無理な話です。家族同士で殺しあえだなんて。

『く…。スティングモン!バブンガモン共がまたAAAに加担したら、貴様らの農園も容赦なく叩きつぶすからな!』

『私のことはグサグサと呼べと言っている。…信徒共がまた天使に加担したら、私が処刑するから安心しろ』

そうして戦いは終わった。
かつてのAAAとの戦いの最中にリーダーが島流しにしたシャーマモンやコエモンたちのいる孤島に、デジタルゲートを繋げてみた。
今どうなってるのかな…

孤島のシャーマモンやコエモン達は、まだ生き残っている個体もいたが、既に死んでいる個体や、危篤状態の個体もいた。

海に入って魚デジモンを捕えながら生き延びているようだが…
餌と飲料水が明らかに不足しているのは見て分かる。

海水を飲みすぎて体調を崩している個体が多いようだ。

なんだか、今にも共食いを始めそうな雰囲気だ。

…ケンタルモンの姿は見えないですね、リーダー。
「ケンタルモンは別の孤島に送った」

そうなんですね。
それじゃバブンガモン、この水と食料を持ってゲートを潜って。
スティングモンとディノヒューモンから預かった野菜だ。

『ワカッタ』

バブンガモンは、飲料水と食料を持って、孤島に出た。

『カゾクタチ!!天使ニウラギラレタ、カゾクタチ!タスケニキタゾ!!!』

『バ、バブンガモン!?ナンデ、ココニ!』
シャーマモンが驚いている。

『オマエタチハ、天使ニミステラレテ、オキザリニサレタ。コノママ見殺シニサレルトコロダッタ。ダガ、オサオサ農園ガ、オマエタチヲタスケタンダ』

『オサオサ農園…?』

『天使ガ「ブルースキン」ト呼ビ、オマエタチノ敵ダトフキコンダノガ、オサオサ農園ダ。オマエタチハダマサレテ戦ワサレテイタ!』

『ウ、ウソダ、ソンナ…!』

『嘘ナラナゼ天使ハ助ケニコナイ!』

『オ、オォ、ォオオォ…!』

『エラベ、オマエタチ!コノママ天使ノ言ッタコトヲ信ジツヅケルナラ、コノ島デ天使ヲ待チツヅケロ!ダガ!コレカラブルースキン達ト共ニ暮ラシテ働ク奴ハ、コレヲ食エ!』

だ、大丈夫かな…。
AAAの洗脳は大分強そうだけど。

『オ…』

シャーマモンたちの反応はいかに…!?

『…ォオオーーー!!天使ィーーー!クタバレェーーー!』
『オレタチヲミステタ天使ナンカ知ラネェーー!ブルースキント暮ラス!!』
『飯クレェェーーーー!!』

おお…。
意外なほどあっさりAAAを見限ったぞ。

「まあ、こうなるだろうな」
リーダー…
分かってたんですか?

「フーガモンや幹部たちは本気でAAAを信仰していたかもしれないが…こいつらは違う。周りがAAAを信仰していたからマネしていただけだ」

それじゃあ…
心から信仰してはいなかったと?

「結局、自分たちに飯を食わせてくれる者に従うだけだったんだ」

…そういうことだったんですね。

シャーマモンやコエモン達は、バブンガモンが差し出した野菜にかぶりついた。
『ウメエエエエエーーーー!!!』
『ヤッパリサイコーニウメエエ!!』

無中で野菜を食べるシャーマモン達を見るバブンガモン。
『コレカラハ、盗ミハダメダゾ。働イテ、一緒ニ野菜ヲツクルンダ』

『バブンガモンサマーーーー!!ブルースキン!!!バンザーーーイ!!!』

…このシャーマモン達も、かつてはバブンガモンを被差別階級として見下していたんだろうに…。
それを許して、家族として救いの手を差し伸べるバブンガモンは、器が大きいな…。




その後。
バブンガモンおよび孤島から救出された類人猿型デジモン達は、スティングモン及びバブンガモンに連れられてディノヒューモン農園にやってきた。

農園のデジモン達は、類人猿型デジモン達を睨みつけ、殴り掛かろうとしたが…
土下座して謝る類人猿型デジモン達を見て、ひとまず振り上げた拳を下したようだ。

類人猿型デジモン達は当初、農作業に従事するように指示を受けていたが…
いきなり異文化の中に溶け込むのは難しいようだ。

農園のブイモンやカメモンたちは、農作業を楽しみながらやっているが…
類人猿型デジモン達は、この反復作業に飽きて、嫌気がさしてきているようだ。

無理もない。
デジモン達の脳や、そこに根付く本能は、自分の生活に適した特性に特化した進化をする。
狩猟と略奪を生存戦略としてずっと続け、それに特化した脳を獲得した類人猿型デジモン達には、農作業は土台向いていないのだった。

中には、収穫済みの農作物を盗み食いしたシャーマモンもいたが…
その個体には、バブンガモンが鉄拳制裁を下した。

…共生は無理なのかと思われていたが…
しばらくすると、類人猿型デジモン達は、畑を狙ってやってくる害獣デジモン達を狩ったり、あるいは農園の外へ狩りに出るようになった。

草食性になった農園のデジモン達は、類人猿型デジモン達が狩猟によって仕留めたデジモンの肉を食べなかったが…
骨器や革製品などを生活に取り入れることで、今までになかった文化がもたらされたようだ。

そんなわけで…
当初の理想通りとはいかず、苦労しているようだが、それでも共生の道を模索し続けているようだ。

とりあえず、一件落着したようで何よりですねリーダー。

「ああ。シスタモンたちは取り逃がしたが…それでもAAAから蛮族という戦力は引きはがした。当分大規模な活動はできないだろう」

農園と類人猿型デジモン達の共生の様子は、メガが録画撮影を続けています。
ドキュメンタリー番組に使い、デジタルアソートのプロモーションに使うつもりなんだとか。

「俺も頼りになるチームの仲間を持ったものだな」

そういえば、何か忘れているような気がしますね。

「ん?なんだ?」

なんだっけ…
そう悩んでいると、パルタス氏から通話がかかってきた。

『貴様ら!我々にキウイモン島の蛮族掃討を任せておいて、その結果を聞こうともしないとは何事だ!』

ああ!それだ!
スターモンと…なんだっけ…なんかのデジモンを、キウイモン島の蛮族の掃討に出向いてもらってましたね。
どうなりましたか?

『ふむ。記録映像と共に伝えよう』

続く

~時は遡り、シューティングスターモン発射直後… パルタス視点~

私の名は、コードネーム「パルタス」。
独立行政法人ジャスティファイアの所長だ。

現在はある任務の最中だ。
クラッカーAAAは、その悪質な手口と技術力の高さ、そして保有するデジタルモンスターの戦力の膨大さから、国家危機級の危険犯罪者とみなされた。
これだけ強大な戦力に本拠地を攻められたバイオシミュレーション研究所はよく奴らを撃退できたものだ。

AAAの配下は、デジタルワールドに巣食って増え続けている。
これらを排除しなければ国民達の命にすら危機が及びかねない。
よって国家防衛戦力である我々ジャスティファイアが動くことになった。

AAAの配下のうち蛮族と呼ばれる類人猿型デジモンが、集会をしていると報告を受けた。
そちらにはシューティング
スターモンと、ティンクルスターモン、ピックモンズを差し向けた。
シューティングスターモンの100%の火力を叩き込めば、集落の一つや二つなど造作もなく滅ぼせるだろう。

奴ら類人猿型デジモンは、高い知能と器用な手足を持った優秀なデジモンだ。
そのため、我々はずいぶんと前に、狩りの最中の蛮族デジモン…セピックモンを拉致して捕獲した。

現在そのセピックモンは、我々のサーバーの隔離チェンバーで、両脚と左腕を切断された状態で飼育されている。
強力なデジタマをコンスタントに確保し続けたいのなら、野生デジモンを拉致してこうやって産卵機能と最低限の生存機能を残して飼育し続けるのが1番効率がいい。

そうしてセピックモンから産まれた類人猿型デジモンは、極めて強力な戦力へ育ち…、最終撃滅部隊『天地人』の一角を担うまでに成長している。

その存在はもちろん秘匿している。
国家防衛組織が自らの戦力のすべてを堂々と晒す意味などないからだ。

…余談が過ぎた。
ようは、蛮族デジモンを滅ぼすことのデメリットは皆無ということだ。
せいぜいシューティングスターモンの餌として死骸を回収し、保存食になってもらうとしよう。

さて、シューティングスターモンの発射と同時に、我々はもうひとつのミッションに取り掛かった。
キウイモン島に巣食う蛮族デジモンの掃討である。

元々、キウイモン島に蛮族デジモンがいるという情報は、クロッソ・エレクトロニクスのクロッソ氏(バイオシミュレーション研究所のスポンサー)から聞いた情報だ。

作戦に前立って偵察のために、キウイモン島のアクセスポイントへデジドローンを送り込んだことがあったが…
デジドローンの視界は完全に闇に覆われていた。

バイオシミュレーション研究所と同様、AAAもまたアクセスポイントにセキュリティを施していたのだ。
おそらく青銅製の箱でアクセスポイントを密封し、合言葉を言うと待機しているシャーマモンあたりが箱を開けるという簡素な仕組みだろう。

これはごく単純だが、極めて有効なセキュリティ手段だ。
なぜならデジドローンが出てこれる最小限の空間を確保する小さな箱の中だ。それを破壊できるデジモンをその中に繰り出せないのである。
正直、我々のデジモンではこれを突破できない。
箱の中に出せるデジモンはせいぜいピックモン数体程度。その破壊力では青銅の箱は壊せない。

とにかく戦闘力を高めるためのスパルタトレーニングで、DPを極限まで高めるという我々の方針が逆手に取られたというわけだ。

もっとも、この路線が間違っているとはつゆ程も思わない。
なぜならデジモンによるサイバー犯罪は、とどのつまり暴力で反抗デジモンを排除してしまえば解決するからだ。
故にどれだけ膨大な維持コストがかかろうと、最上位の暴力装置となる最強デジモンを保有してさえいれば、最終的には解決できるということだ。
…そのコストを捻出できる我々だからこそ取れる手といえる。

さて…このセキュリティを突破するにはどうすればいいか?

それを解決する手段は、バイオシミュレーション研究所が提供してくれた。
つくづく心強い味方だ。

私はデジドローンを使い…
ある小さな物体を青銅の箱の中へ設置した。
そして一旦、デジドローンを回収した。

1分後に、再びデジドローンをアクセスポイントに送り込むと…
箱は見事に破壊されていた。
シャーマモンやコエモン達が、せわしなく喚き立てている。

簡単なことだ。
クラフトモンの進化前の姿であるコマンドラモンは、爆弾の備蓄を生産していた。
クラフトモンに進化した今でも、その備蓄が残っている。

その限りある備蓄のひとつを譲り受けて、箱の中へ放り込んだのだ。

やはりコマンドラモンは優秀なデジモンだ。
飼育二体目にしてこれを育て上げたバイオシミュレーション研究所には敬意を表する。

さて…これでデジモンを送り込み放題となった。
来い、スターモン!ジオグレイモン!


彼らを呼ぶと、アクセスポイントにゲートが開き…
二体のデジモンが現れた。

ボクシンググローブを装着した星型のデジモンはスターモン。
そして、親のグレイモンと叔父のグラウモンの特徴を併せ持った、大きな恐竜型デジモンであるジオグレイモンだ。

あの言うことをまるで聞かなかった制御不能のアグモンが、立派に育ったものだ。
もっとも、現在でも我々の命令を直接聞こうとはしない。
スターモンに懐いているようであり、スターモン経由でしか命令を聞いてくれないのだ。

ジオグレイモンはスターモンと違ってチャットの文字を覚えようとしないため、専らスターモンはボディランゲージでコンタクトを取っている。
だから単純な命令しかできない。

強い者の言うことしか聞かないということなのだろうか。

スターモン、作戦は単純だ。
今やるべきことは、捕らえられている(かもしれない)キウイモンの確保と、蛮族デジモンの殲滅だ。

基本は現場判断に任せる。
好きに暴れろ!

『ウイイイイッス ヤルゼエエエ!ウリャアア!』

スターモンはそう言うと…
両手を上空にかざした。

すると上空から、まるで流星群のように大量の隕石が降り注ぎ…
島の各地へ次々と降り注いだ。

『マズハ アイサツガワリダゼ』
…バカ!初手で無差別攻撃をかましてどうする!
おかげで敵の警戒度が高まったぞ!あちこちで悲鳴と絶叫が聞こえてくる!
キウイモンが巻き込まれて死んだかもしれんぞ!

『エー ダッテ ヤッテミテージャネーッスカ』

…エネルギーを大量に消耗する切り札はもっと考えて使え!

『ヘーイ』

…現場判断に任せようと思ったが、先が思いやられる。
やはり私が指示を出すことにしよう。

つづく

スターモンの異様な戦闘力を見たシャーマモン達は、悲鳴を上げて逃げ出していく。
…逃がすと思うか?
ジオグレイモン!火炎放射だ!

『…』
…何をボケっとしているスターモン!おまえに言ったんだぞ!

『エ?オレッスカ?ア、ソッカ。イケェ!ジオグレイモン!!!ブッコロセエェ!!』

スターモンがそう指示を出すと…
ジオグレイモンは、口を大きく開けてシャーマモンを追いかけ…

『ヴオヴォオオオアオオオオオオオオオオオン!!!』
背筋が凍るような咆哮を上げるとともに、口から火炎放射を放った。
逃げまどうシャーマモンやコエモン達が火の海に包まれる。

『アギャアァァァアアアアアアア!!!!』
シャーマモン達は5秒ほど火の中で悶え、すぐに倒れた。
あまりの高熱を浴びたため、即死したのである。

やがて火が消えると…
『ガウゥゥ』
ジオグレイモンは、焼けたシャーマモン達を食べていった。
いいぞジオグレイモン。そうやってエネルギー補給と攻撃を同時にやるんだ。

『オレモクウゼ!ムシャムシャ…』
…野生種のスターモンはあまり肉を食べないが、我々が飼育しているスターモンは肉を好んで食うように育ててある。
エネルギー補給はその分早い。

よし!
それではローラー作戦を仕掛けるぞ。
最終撃滅部隊「天地人」が一体、天のサンダーバーモンにデジドローンを運ばせ、上空から島を監視する。
そして我々は上空映像をもとに、生き残っている島民を効率よく滅ぼしていくのだ。

『ウワアアァァ!』
『タスケテクレエエェェ!!!』
『テンシサマアアア!!!』
二体の姿を見た島民デジモン達は逃げまどう。
スターモンは、高くジャンプすると、拳にエネルギーを纏わせて…
『スターナックルゥゥ!!!』
逃げるシャーマモン達めがけて、急降下しながら特大のパンチを放った。

『ウッギャアアアァァ!!!』
衝撃派で吹き飛んだシャーマモン達。
その破壊力は榴弾砲並みだ。

『次ィ!』
スターモンは、生き残りのシャーマモンめがけて飛び掛かる。
『コ、コウサン!降参ダ!!ミノガシテクレェ!!命ダケハァァ!!!』

残念だったな。命乞いをするには遅すぎた。
貴様たちは全員私刑だよ。地獄で罪を詫びるがいい!!

『スターパンチィィ!!』
スターモンの普通のパンチ。
『ゴプォオオオ!!』
バイクにはねられたかのように吹き飛んだシャーマモンは、首の骨が折れて息絶えた。

ふん…
どいつもこいつも逃げまどってばかりか。
かかってくる気概がある者はいないのか?

『キキィーーー!オレラノカゾク!マモル!テメェーーブッコローーース!!!』
おお?やっと成熟期がでてきたぞ。
セピックモンとジャングルモジャモン共か。

ジオグレイモン、やれ。

『ジオグレイモン!ヤッチマイナァーー!』

『ガオオゴォオオーーーッ!!』
ジオグレイモンは尻尾のスイングをセピックモン達に放った。

『キキィイーーー!!』
ふむ、素早いな。
ジャングルモジャモンやセピックモン達は、素早い身のこなしでジオグレイモンの尻尾スイングを躱した。

『コンドハコッチノバンダ!キキーー!!』
ジャングルモジャモン達はジオグレイモンに向かって、武器を掲げて走り出したが…

『ヴォオオオオオオオン!!!』
ジオグレイモンが放った火炎放射がジャングルモジャモン達を焼き尽くす。

『グオギャアアアア!!!テンシサマァーーー!!!』
そうしてジャングルモジャモンやセピックモン達は焼け死んだ。

…張り合いがないな。つまらん。
これでは一方的な虐殺だ。
まあ、無事に片付くのならそれでいいが。

…む?なんだここは。
サンダーバーモンが映す上空映像に、何か牧場のようなものが見える。
策で囲われた小屋だ。…家畜小屋か?

スターモン、その小屋を調べろ!
『アイアイサー!』
スターモンは高くジャンプすると、流星のようにエネルギーを纏ったキックで小屋に突撃し…
粉々に破壊した。

バカ!!
調べろと言ったんだ!壊せとは言っていない!!

『デモブッコワシタホウガハエージャネエッスカ』
キウイモンを生きたまま確保しろと言っているだろうが!!
中にいたらどうする!

『ア、ソーッシタネ』
…同じことを何度も言わせるな!
それで?中には何がいる?キウイモンはいるか?

『ドレドレ…』
スターモンが瓦礫となった小屋を調べようとすると…
『ピピーー!!』
何か小さなデジモン達が、小屋から一目散に逃げだした。
なんだこいつらは…?

https://imgur.com/vTIaI9T.jpg

…鳥の雛のように見えるが…どこか異様だ。
まるで鶏のから揚げのような姿をしている。

昔ファストフード店にあったメニューの「とりからボール」のようだ。

…見たところ、小屋の中に成熟期デジモンの姿は(生死問わず)存在しない。
キウイモンはいないようだ、よかった。

『ピーピー!ピィピィ!』
ともあれ、この逃げまどう雛デジモン、とりからポールモン達は…
逃げ足が遅い。

親はいないのか?どこだ?
鳥型デジモンということは、キウイモンの子孫に見えるが…

『ピ…』
む?
一羽のとりからボールモンが、動きを止めた。

『ピィ!』
なんと。
とりからボールモンはデジタマを産んだ。

…このデジモン、あからさまに幼年期デジモンのようだが…
デジタマを産むのか。

なんということだ。
鳥類デジモンは元をたどれば、我々が飼育しているジオグレイモンの親、グレイモンの子孫なのだ。
あの強大無比な大恐竜の末裔が、こんなに弱弱しくなるとは。

…キウイモンではないが、まあいい。
バイオシミュレーションの要望としては、野禽デジモンが有益な家畜になりえるから捕獲しろという話だった。
キウイモンが見つからなくとも、とりからボールモン共を持ち帰れば奴らは喜ぶだろう。

スターモン!こいつらを網で捕獲しろ。
『アイアイサー!』

スターモンは、サンダーバーモンが投下した網をキャッチした。

『ツカマエテヤルゼ!ダイジョーブ トッテ食ヤシナイ トッテ食ヤシナイ』

スターモンがそうやって、そろりそろりととりからボールモンに忍び寄ると…

『オオ、ォオオ・・・!』
…ジオグレイモンの狼狽した声が聞こえた。

ジオグレイモンは、とりからボールモン達を見て、明らかに動揺している。
その眼には、恐怖、憎悪、嫌悪、悲哀、憤怒…
様々な感情が伺える。

どうした!?
どうしたんだジオグレイモン!!!

『アンギャアアア!!オアアアア!!!』

これは…まさか。
ジオグレイモンはショックを受けているのか…!?

ジオグレイモンは単純なバカではない。こいつはこいつなりに物事を考えている。
アグモンだった時代に、親のグレイモンの映像を見せてみたところ、こいつなりに自分の親か親戚であることを察したのだろう、テンションが上がっていた。

勝手な想像だが…
ジオグレイモンは、目の前の弱弱しい家畜どもが、自分と血を分けた兄弟の末裔であることを本能的に察しているのだ。

誇り高き恐獣の、暴力と破壊を極めんとする血統が…
こんな無様な姿に貶められてしまったことを察してしまい、憐れみや嫌悪感などの大量の感情がごちゃまぜになっているのだ。

『アアアァ… アアァアーーーー!!!ゴアアアアア!!!』
ジオグレイモンは凄まじい怒号を発した。
地の底まで響き渡るような、恐ろしい声だ。

『ピ…ピピ…!』
とりからボールモンたちは、ぺたんと尻もちをつき、ぶるぶると震えながら泣いている。
あまりにも恐ろしすぎて、逃げまどうことすらできないようだ。

す…スターモン!
早く回収してやれ。さすがにそいつらが哀れだ。

『アイッサー』
スターモンがそう言ってとりからボールモン達へ駆け寄る前に…

『ガアアアアアウウウーーーーーーーーーーーッ!!!』
ジオグレイモンが、これまでにないほど凄まじいエネルギーを込めた、強大無比な猛火を口から放射した。
大地を薙ぎ払う火炎放射は、牧場を一瞬で火の海に変えた。

『ピイィィイーーーーーッ!!!』
とりからボールモン達は、一匹残らず炎の海に包まれた。

つづく

家禽のとりからボールモン達は全滅してしまった。
別に滅ぼす必要性は全くなかったのだが…
覆水盆に返らず。まあとりからボールモン達を失ったところで、我々に損失は全くない。
なにか変なものを見た、という程度で流していいだろう。

だが、スターモン。
もしもジオグレイモンがキウイモンを見て同じことをしようとしたら、今度こそきちんと止めろよ。
『ウイーッス』

その後も、スターモンとジオグレイモンは派手に暴れまわり、島民デジモンを次々と仕留めていった。
だが派手に暴れまわるあまり、島民たちは大きな戦闘音が鳴っているところから距離を置いて逃げるようになった。
こうなると島民デジモンを滅ぼしきることは難しい。追い回しても逃げ隠れるのだから。

『ツカレテキタッス』
『フゥー…ッ フゥー…ッ』

スターモンとジオグレイモンは、だんだんと疲労が溜まってきている。
いかに戦いながら獲物を捕食しようとも、消化してエネルギーに変えるまでの間には時間がかかる。
筋肉に疲労も溜まってきていることだろう。
スターモン達は高いDPによって爆発的なエネルギー出力ができるものの、スタミナが長続きしないのが弱点だ。

だが、別にいい。
スターモン達のこういう特性も織り込み済みの作戦だ。
スターモン達に期待している真の任務は、島民を仕留めることそのものでなく、「キウイモン捜索」の方なのだから。

これほど派手に大きな音を立てて暴れまわれば、島民デジモン共は家禽のことなど構わずに逃げ隠れることだろう。
ゆえに、キウイモンを捜索するための障害が自分から去ってくれるのだ。

スターモン、島民デジモン共はすっかり怯えて逃げ回っているようだ。そいつらは今は追わなくていい。
隅々まで、島民以外のデジモン…キウイモンや、それ以外の家畜デジモンなどを探せ。

『ワカッタッス デモ 蛮族ドモ滅ボサナクテイーンスカ?』

それはシャンブルモンにやらせる。
貴様らが今やるべきことは、家畜デジモンがシャンブルモンの無差別攻撃の巻き添えにならないように捕獲して集めることだ。

『オッス』

その後、スターモンたちは島を隅々まで探し回った。
だがキウイモンはとうとう見つからなかった。
ここから既に移動させられていたか、既に食われていたのか、あるいは初手の隕石攻撃で押しつぶされて死んだのか。

その代わりに、別の収穫があった。
『パミ~!』
バクに似た姿をした成長期デジモン、バクモンである。それも4体。
こいつらはおそらくシマユニモンの幼体だ。

こいつらを捕獲して持ち帰れば、あの素早い走行と放電攻撃ができる便利なシマユニモンを我々が手にすることができる。
是非とも持ち帰らない手はない。

グレイモンは、バクモンたちに尻尾のスイングを放って仕留めようとしたが…
それよりも先にスターモンがバクモンたちを網で捕獲した。

…キウイモンの代わりにこいつらを持ち帰れば収穫になるだろう。
ご苦労だった、スターモン、ジオグレイモン。アクセスポイントからこちらへ帰投せよ。

『テゴタエナクテツマンネー… モットツエーヤツトタタカイタカッタゼ』
そうしてスターモンとジオグレイモンは帰投した。

今回はここまで

二体を撤収させた。よし。これでもういい。
いけ、最終撃滅部隊「天地人」が一体、地のシャンブルモンよ!

『ハーイ』

デジタルゲートからシャンブルモンが出現した。
一見すると、頭部の模様が真っ白になったマッシュモンの色違いにしか見えない姿だ。
https://digimon.net/cimages/digimon/chamblemon.jpg

こいつはバイオシミュレーション研究所から貰ったマッシュモンを鍛え上げて成熟期へ進化させたデジモンだ。
マッシュモン時代の高かった知能は低下しているが、代わりに別の能力を与えている。

…というわけでシャンブルモン。
いつものようにやれ。

『ハーイ!キャハハハハハ!!アーッヒャッヒャッヒャッヒャ』
シャンブルモンは狂ったような笑い声をあげると…
周囲に胞子をぶちまけた。

しばらくすると、島中からうめき声が聞こえ始めた。
『アアアア!!イテエエエ!イテエエヨオオオオ!!!』
『ウギギッギ!ヒッコヌイテモ!ハエテクルウウ!!!ギャアアア!!!』
『トッテクレエエエエ!!キノコ!トッテクレエエエエ!!!テンシサマアアアア!!』

シャーマモン達の悲鳴だ。



そのうち、島の海岸からイカダに乗ったシャーマモン達が出てきた。

『モウイヤダ!!ウミカラニゲルゾオオ!!』
『キノコハエタクネエエエ!!!』
『ニゲロオオオオ!!!』

どうやらあのイカダを使って島から脱出するつもりのようだ。
イカダはどんどん海へ進んでいく。

…逃がすわけがなかろう。
サンダーバーモン、やれ。

『キョオォオオォオーーーン!!!』
島の上空30mの高度を飛んでいる鳥型デジモン、サンダーバーモンは、角に電気を溜めて…
イカダに向かって放った。

『ギャオオォォ!!』
シャーマモン達は電気ショックを浴びた。
この電撃攻撃には、敵を感電死させるほどのパワーはない。
せいぜい全身が痺れて十数秒間動けなくなる程度だ。

だが、それでいい。
イカダの上で麻痺したシャーマモン達は昏倒し…
海に落下した。

麻痺して泳げないシャーマモン達は、もがくこともできず海へ沈んでいく。
あのまま溺死するだろう。

『アイツダ!』
他のイカダに乗ったセピックモンが、サンダーバーモンに気づいたようだ。

『キキーー!』
セピックモンはサンダーバーモンに向かってブーメランを投げてきたが…
さすがにこの高度だ。届くはずもない。

『コロセエエエエ!!シズメラレルゾ!オトセーー!』
イカダに乗ったコエモンやシャーマモンは、手持ちの道具や武器を手当たり次第にサンダーバーモンに向かって投げるが…
当然届かない。

『キョオォーーン!』
再びサンダーバーモンは雷鳴を発射する。

『アギャアアアア!!!』
一方的な電撃攻撃により、セピックモン達は海に沈んでいった。

『』 

やがて数時間が経つと…
何かがシャンブルモンに近づいてきた。

『アァ~…イタミ…ヤワラグ…』
『タスケテ…タスケテ…』
『イタクナクシテ…』

体中からキノコを生やしたシャーマモン達だ。

『ア゛ァ~…』
シャーマモン達は、シャンブルモンの前で寝そべった。

シャンブルモンはそれを見て大喜びした。
『アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!イタダキマス!!!アームッ!!』
シャンブルモンはシャーマモン達の体から生えたキノコを引きちぎり、それを食べた。

『ンマイ!!アヒャヒャヒャヤ!!ンマーイ!!モット!モット!!モグモグ!!』
夢中でキノコを食べているようだ。

『ア~… イタクナクナッテク…トッテ、モットトッテ…』
シャーマモンの体から、次から次へとキノコが生えていく。

やがて、シャーマモンは…
骨と皮だけになった。

『モットイルネエ!モットオイデエエ!』
シャーマモンは周囲にそう呼びかける。

すると草むらがガサガサと揺れる。
『モゾモゾ…』
数体のデジモンが出てきた。
葉っぱに擬態している幼虫型デジモン、リーフモンが6体。
島に住みついて排泄物や生ごみを食べて生きていると思わしき、ヌメモンが4体。
シャーマモンやコエモンの進化前とみられる幼年期、トコモンが5体。

全員、全身からキノコが生えている。
『オイデオイデェ~、キノコオイデェ~!』
シャンブルモンはフェロモンを放出して、キノコが生えた苗床デジモン達をおびき寄せる。
そうして苗床デジモン達は、シャンブルモンの前で横たわった。

『キノコイッパーイ!オイシイネー!ムシャムシャ!』
苗床デジモン達からキノコをちぎる度に、新しいキノコが生えてくる。
苗床デジモン達の肉体を材料にして。 

そうして2日ほど経った。
シャンブルモン自身と、上空30mを飛んでいたサンダーバーモン以外は…
島にいたすべてのデジモン達が、みんなシャンブルモンの隣でキノコの苗床になっていた。

島に住みついていた野生デジモンたち含め、全てである。
それだけでなく、樹木にもキノコがびっしりと生え、枯れている。

これがシャンブルモンの能力。
撒いた胞子を吸い込んだデジモンから、キノコが生えてくる。
そのキノコからも、どんどん胞子がばら撒かれるのだ。

キノコが生えている部分は激痛を伴う。
そのため菌床となったデジモンは、キノコを千切って苦痛を和らげようとするのだが、
その千切られたキノコも胞子を撒き続けるのである。

そうして、キノコはデジモンからデジモンへと、どんどん感染して胞子をばらまいていく。

やがてキノコに全身をむしばまれた菌床デジモンは、シャンブルモンが発するフェロモンを感じ取るようになり、
そちらに行けば苦痛が和らぐような錯覚を覚える。

シャンブルモンのところへ到達した菌床デジモンは、その強烈なフェロモンに充てられて酩酊状態となり、自ら横たわる。
そしてシャンブルモンにキノコをとってもらうと、苦痛が取り除かれ、快感が生じる。

菌床は、次々と生えてくるキノコをシャンブルモンに取り除いてもらうことしか考えられなくなり…
やがて痩せこけ、衰弱死していくのだ。

尚、シャンブルモンのフェロモンが届かない範囲ではキノコは生えてこない。
フェロモンの有効範囲はおおよそ半径10kmである。

…そう。
シャンブルモンの周囲10km以内にいるデジモンは、すべてキノコに食いつくされて死ぬのだ。

これで任務完了だ。
島にいるデジモン全ては根絶した。
蛮族デジモンは駆除完了だ。

バイオシミュレーション研究所のやつらに映像で報告するときは、サンダーバーモンとシャンブルモンの映像は全てカットする。
これらは我々の最重要機密事項であり、何者にであろうとその正体を見せるつもりがないためだ。

適当に、スターモンとジオグレイモンが蛮族を滅ぼしたように見せかけて報告しておけばよいだろう。

我々のいるリアルワールドでは、生物兵器や毒ガス兵器の使用は禁止されている。
だがデジタルワールドは現在無法地帯だ。法整備が一切進んでいない。

いずれデジモンやデジタルワールドが、多くの人々にとって身近な存在になった場合…
そこには必ずルールが必要になる。
公共の福祉を護るためのルールや、あるいは戦争法に準ずる何かが。

では、それを決める主導権を握る者はだれか?

決まっている。
「その時点で、最も力を持つ者」が、自分に都合よくルールを決める。
これは人類史上一度も崩れたことのない絶対のルールだ。

戦争法も、国際法も。
全て「力を持つ者」が決めている。

我々ジャスティファイアが何に替えても力を求めるのは、このためだ。
来るべき時に、「ルールを決める側」に立つためだ。

どこぞの余所者が都合のいいようにルールを決めてしまっては、そいつらに手綱を握られてしまい、
我々の国民を守ることができなくなるかもしれない。

だからこそ、我々は常に最強の力を維持し続ける必要がある。
…市民たちを永久に護り続けていくために。

つづく



~再び、ケン視点~

『というわけだ。映像の通り、ジオグレイモンとスターモン達がキウイモン島を制覇したぞ』
パルタス氏から、キウイモン島での戦いのダイジェストが送られてきた。
キウイモンはいなかったけど、バクモンを鹵獲したわけですね。

映像を見たクルエがムンクの叫びのような顔をしている。
「な、なんでジオグレイモンはとりからボールモン達を倒しちゃったの…!?敵には見えなかったよ!?」

『知らん!腹が減ったのではないか?食わなかったがな』

リーダーが不思議そうに見ている。
「で、この島は蛮族共の何だったんだ?」

『畜産場、兼、武器工場だな。この孤島で家畜を育てれば逃げることはないだろうからな。あとは青銅の武器もここで作っていたようだ』

しかし、この島これからどうするんですか?
一度島を制圧したとしても、またアクセスポイントからいつでも敵は侵入してこれますよね。

『ならば我々のデジモンのトレーニング場にするのがいいだろうな!敵が侵入してこようとも、たまに戦闘訓練ができると考えれば一石二鳥だ!』

カリアゲは眉間にしわを寄せている。
「変なとこで機転が利くな~この人…」


こうして、我々が観測している範囲での蛮族デジモンは、デジタルワールドから消え去った。
バブンガモン率いる生き残りの類人猿型デジモン達は、ディノヒューモン達と共に、時にうまくやり、時に喧嘩しながら、まあどうにか生きていくだろう。

だが、シスタモンとトコモンを逃がしたのが気がかりだ。
こちらの戦力が整い、デジタルアソートのハックモンが完成したならば…
可及的速やかにこちらからAAAの本拠地に出向き、敵本部壊滅を目指すべきかもしれない。

それからの様子だが…。

今回の一連の戦い…詐欺事件からAAAの侵攻、そして蛮族壊滅までを、一部脚色しつつまとめた特別番組が放送された。
人々からの反応は様々だ。
我々を称賛する声もある。
バブンガモンとスティングモンの共生を応援する声もある。
無論ポジティブな声だけではない。
「蛮族をミサイルで壊滅させたのはやりすぎだ」「蛮族がかわいそう」という非難の声もあり、研究所の電話にクレームの電話が鳴り続けることもあった。

一件向かい風のようだが、これはメガの計算のうちだ。
蛮族に対して同情心を抱く者が現れるということは、それすなわち、デジモン全体に対するマイナスイメージが払拭されたということなのだから。

人々がデジモンに対してプラスのイメージを持つことは…
デジモンの平和利用を目指すデジタルアソートにとって、何よりもの追い風だ。


パートナーデジモン達は、みんな元気にしている。
クラフトモンはしばらく寝込んだ後、無事に復活した。
サビかけているケンキモンを必死に修復し、なんとかケンキモンも動くようになった。
フルパワーが復活したケンキモンをフル稼働して、フローティア島に建築物を次々と建てている。
コマンドラモンが選んだ進化形態の姿は、当初こそ透明化や爆弾を失ったデメリットが目立ったが、今では長所をいかんなく発揮している。

クラフトモンが産んだデジタマからは、無事にボタモンが産まれ、コロモンにまで成長した。
このままコマンドラモンになるのか?あるいは異なるデジモンに育つのか。
我々は見守るばかりだ。

能力を失ったコマンドラモンの役割を補いあまるほど埋めているのがシュリモンだ。
シュリモンは草陰に隠れて隠密行動をするのがとても得意だ。
時代のセキュリティデジモンを育成するために、デジタマ採集に奔走している。

そのおかげで、前々から目を付けていたデジタマをいくつか採取することができた。
オオカミ型デジモンのガルルモンのタマゴ、フクロウ型デジモンのオウルモンのタマゴ、翼人型デジモンのイビルモンのタマゴ等だ。
どれもきっと優秀なデジモンに育つだろう。

マッシュモンは…いい意味で変わらない。
成長期のまま進化しないが、別にそれでいいと思う。これはこれで完成された性能を持っているともいえる。
世間ではキャラクターとしての人気がどんどん高まっており、着ぐるみに人が入ってショーをやったりもしている。
…つくづく変な奴がデジタルモンスターの代表格になったものだ。


ブイモンは「もっと強くなりたい」と申し出て、ジャスティファイアに行って鍛えてもらった。
毎晩「もうだめだ」「しんどい」「死ぬ」「帰りたい」と弱音を吐いている。
「もう帰ってくれば?」と何度も言ったが、その度に「でも強くなりたい」と何とか立ち直った。

やがてブイモンは成熟期のエクスブイモンになって帰ってきた。
非情に高い戦闘力をもっていて頼りになる。
デジタマモンが「もうデジクロスしないの?」という目で見てくるが…
きっとエクスブイモンの子供が生まれたら、ブイモン二世がデジタマモンとデジクロスをすることだろう。

ファンビーモンとドリモゲモンが融合してできたデジタマは、そのまま黒いピーナッツ型の物体「友情のデジメンタル」となった。
デジタマモンがこれを飲み込み、ブイモンとデジクロスすることでライドラモンになれるアイテムだ。
しかし、いかんせんライドラモンは今の我々にとってあまり活躍の場を与えられないデジモンといえる。
正直、あのまま融合デジタマから幼年期デジモンが産まれてくれた方がよかったな…と思うこともあったが。
まあ、そう言っても始まらない。うまく活かす道を模索しよう。

ティンカーモンは、見た目によらずなかなか好戦的だ。さすがは蛮族デジモンの系譜。
フローティア島のパートナーデジモン達と模擬戦をするのが好きなようだが…
今現在、成長期は格闘戦が苦手なオタマモン(赤)くらいだ。
毎回ティンカーモンに敗れるオタマモンを見ているとちょっと可哀そうになるな。

デジタルアソートも好調なようだ。
ナビゲーションの能力をもつナビモンは無事に量産化に成功した。
マッシュモン由来の分裂増殖能力によって、クローンを生成し、レンタルサービスを試験的に行っている。

ナビモンがオペレーティングシステムを務める地図アプリは、スマートフォンのバッテリー消費が非常に少ないことがユーザーに大好評だ。
加えて、ござる口調の気の利いたナビゲーションも好評である。

メガが目指した「デジタルモンスターの平和利用」のビジョンは、確実に実現しつつある。

そうしてセキュリティデジモンを育成しながら…
今日も私は、デジタルワールドの観察を続ける。

やはり野生デジモンの観察はいい。
新しい知見を得られて、セキュリティデジモン育成のヒントを得られるし…
個人的な話だが、シンプルに生態観察は楽しいのだ。

今日はイビルモンの子孫が進化した新たな翼人型デジモン、デビドラモンの観察をするつもりだ。
最近の翼人型デジモンの隆盛はすさまじく、蛮族が消え去ったニッチを埋めるかのように、群れで行動し周囲を襲撃している。
ディノヒューモン集落も彼らの攻撃を受けたが…
待ってましたとばかりに類人猿型デジモン達が戦いに行くため、なんとか撃退できているようだ。


森林エリアでは、どんどん木々が成熟期タイプのジュレイモンに置き換わっている。
恐ろしいことに、ジュレイモンは普段甘くて栄養満点な果実を実らせているのだが…
気分次第でそれをすぐに猛毒の果実に変えてしまうことができるようだ。
森へ侵入してきた邪魔なデジモンに、毒の果実を食わせて死に至らしめて、養分にしてしまう。
ジャガモンとは違った意味で、非常に恐ろしい「森の守護者」といえるだろう。

他にも、いろいろ報告したいことがある。
だが、それはまたの機会にしよう。

私は、溜まりに溜まった研究成果をこれから公聴会で発表しに行く。
腕に巻いたデジヴァイスに、ティンカーモンを入れて。

いつかまた、我々の活動の続きを聞かせることができるときが来るだろう。
願わくば、クラッカーとの戦いではなく、平和な報告ができることを祈る。






~AAA視点~
何ということだ。
フーガモンの集落と同時に、キウイモンの島まで壊滅させられるとは。
私は多くの手駒を失った。

だが、別にいい。
あの群れから本当に欲しかったものはすでに得た。
キンカクモンの子供… シスタモンと、トコモンから進化した成長期、ルクスモン。
そして天馬のユニモン。
これだけ生き残れば、私の計画は問題なく遂行できる。

仲間を失い、復讐心に燃えるシスタモンとルクスモンは、きっと強く成長するだろう。
楽しみだ。こいつらがどのように成長するのかが。

それにしても…クソ!
私の最高傑作のひとつ、アイスデビモンを失うことになるとは!
幸いにしてプラチナスカモンは生き残ったが…アイスデビモンを失った損失は非常に大きい。
生き残りのキャンドモン達を、また苦労してアイスデビモンになるよう育てなくてはならないと考えると…
やってくれたセキュリティ共に対してハラワタが煮え食りかえるような思いがする。

それでも、私の計画に必要不可欠なパーツを失ったのが、アイスデビモン一体だけで済んだのは幸運と考えるべきだろう。
また必ず育ててやる…アイスデビモンを。


…ん?
レアモンの住む鉱山から物音がするようだ。
覗きに行ってみるか。


鉱山の様子を見ると…
レアモンの住む洞窟が、デジモンの襲撃を受けている。
あれはスターモンと… グレイモンの亜種か。
なんだあいつらは、何をしに来た?

…考えるまでもない。
スターモンの隕石攻撃のクレーターは、キウイモン島に空いたものと同じ。

バイオシミュレーション研究所ではないだろうし、当然ローグ・ソフトウェアでもない。
ならば消去法でジャスティファイアと推定できる。

どれ…
少しコンタクトをとってみるか。
私はデジドローンを起動し、声を出した。

「何をしに来た?ジャスティファイア」

すると、グレイモン亜種の隣のデジドローンから反応があった。
『ふん、やはりここにいたかAAA。蛮族共を滅ぼして貴様の手駒を全て葬ったつもりでいたが、忘れていたよ。レアモンとプラチナスカモンがこの鉱山にいると報告を受けたことをな』

「ほう…?それで、そいつらを滅ぼしにきたと」

『貴様も一緒に滅ぼしてやっていいぞ』

「バカが。消えるのは貴様のほうだ!」

くっくっく。
ジャスティファイアは、この鉱山が『何なのか』を分かっていないようだな。 
陣地にうかうかと二体で攻め込んできたことを後悔するがいい…!

「いけ!集中砲火だ!」
私は山に潜んでいるデジモン達に指示を出した。

すると私の指示に従い、潜伏デジモン達は、次々と熱線を発射し、スターモンとグレイモン亜種に浴びせた。
『グワァ!!』
『ウガオオォォ!!』

流石は高DPデジモン。
この程度で死にはしないようだが… 確実にダメージは入っているな。

『ナンナンダ テメーハ!ウゼーヨ!ダリャアアア!』
スターモンは流星群を呼び出して、熱線が発射された地点へ次々と隕石を落とし始めた。
ふむ…流石ジャスティファイア。バイオなんたらのなまっちょろいセキュリティデジモン共とは戦闘能力の格が違う。

隕石を落とされた山の表面のカモフラージュが剥がれ…
内部が露になった。

『な…なんだ、これは…!?』
ジャスティファイアのデジドローンから驚いた声が聞こえる。

黒い壁に緑のワイヤーフレームが張られたような外観の建築物が、山の内部を埋め尽くしていた。
その中には、緑のワイヤーフレームでできた体の、ツチダルモンに似たシルエットのデジモン達…
私の傑作のひとつ、ワイヤーゴーレモン達がいた。

『なんだこの山は…。貴様の要塞か!AAA!』

くっくっく…知ってしまったな。
私の建設中の砦。ムゲンマウンテンの存在を。

知ったからには生かしてはおけない。
熱線照射を続けろ、ワイヤーゴーレモン!

ワイヤーゴーレモンは、スターモン達に熱線照射を浴びせ続ける。
『アヂイイイ!』『ガオオォォオ!!』

『ふん…思ったよりも強いな。少々本気を出すか。来い、最終撃滅部隊、天のサンダーバーモン…人のムシャモンよ!』

デジタルゲートが開くと…
青い鳥のデジモンと、鎧武者のようなデジモンが姿を現した。

青い鳥のデジモンは上空を飛び回り…
ワイヤーゴーレモン達に雷を落とした。

「ピガガーッ!?」
どうやらこの雷鳴に、感電死するほどのパワーはないようだ。

だが、そこへすかさず、鎧武者型デジモンが凄まじいスピードで駆け寄り…
二刀流の刀を振りかざし、ワイヤーゴーレモンの首を切断した。

二体の連携はすさまじかった。
サンダーバーモンは上空で、ワイヤーゴーレモン達の熱線照射を躱しながら、雷鳴攻撃を落としてワイヤーゴーレモン達を痺れさせる。
その隙に怒涛の勢いでかけつけてくるムシャモンが、鬼神が如き太刀筋でワイヤーゴーレモン達を一刀両断していく。

ムシャモンだけではない。
スターモンは格闘戦で、グレイモン亜種は炎のブレスと尻尾の攻撃や嚙みつきで、ワイヤーゴーレモン達を倒していく。

…これがジャスティファイアの切り札か。なるほど、凄まじい戦闘能力だ。

『今まで随分いい気になっていたな?お山の大将のクラッカー如きが。徹底的につぶしてやる、再起不能になるまでな』

「…くっくっく。だが貴様らは、攻撃が単調な分、よほど手玉に取りやすいよ。あの軟弱なセキュリティ共以上にな」

『なんだと…?』

「お前たちの出番だ。来い、レアモン、プラチナスカモン。今こそ貴様らの力を見せるときだ」

私がそう言うと…
洞窟からレアモンとプラチナスカモンが出てきた。

「げっひゃっひゃっひゃ…!」
「オゴアアアア」

『なんだ?今更そんなザコごときで何ができる』

「レアモンよ…いや…。哀れな姿になったティラノモンよ!よくぞ今日まで!私が貴様を助けたあの日から!よくぞ今日まで苦しみに耐え、生き延びてきた!」

レアモンは、私の声を聞き、ウゴォと声を返した。

「ようやく貴様の努力が報われるときだ…。鉱山の中からプラチナスカモンが掘り出したレアメタルを山ほど飲み込んだ貴様は!今日…新たな肉体を得て復活するのだ!」

私がそういうと、プラチナスカモンはレアモンの頭の上に乗った。

「げっひゃっひゃっひゃ…!あっしは準備オーケーですぜい!!」

「ふん…。ならば始めろ、プラチナスカモン!そしてティラノモン!今こそ見せる時だ!究極最強の力を!合体せよ!」

「ヒャーーーハハハハーーーー!!!合体ィィイイーーーー!!」
「オゴアアア!!」
プラチナスカモンとレアモンが吠えると…
二体の体は光り輝いた。

『何!?合体だと!?させるか…殺せ!スターモン、サンダーバーモン!!』

スターモンとサンダーバーモンは、隕石と雷鳴で、光を放つレアモン達を攻撃し続けた。
だが…無駄だ!もう遅いんだよ!!!

光が消えたそこには…
私の期待を超えて強靭になったデジモンの姿があった。

https://digimon.net/cimages/digimon/metaltyranomon.jpg

全身に機械が埋め込まれた巨大な恐竜型デジモンの姿だ。

『貴様…これは…まさかッ…!』

「そうだッ!!!到達したんだよッ!!!レベル5になぁ!!!蹴散らせ…すべてを殺せ!!!メタルティラノモン!!」

「ガオオオオァアアアアアッ!!!」

メタルティラノモンの腕に光が集まり…
スターモンに向かってレーザー光線が発射された。

レーザーは…
スターモンの頭部のど真ん中を瞬時に貫通。
スターモンは即死した。

『な…に…?貴様、この破壊力は…!スターモンッ!!』

「まずは一匹始末した。片付けてやるよ、順番にな!」

『…あれだけの出力のレーザー…冷却に時間が要るはずだ!一斉にかかれ!ジオグレイモン、ムシャモン、サンダーバーモン!!』

強力な3体のデジモン達が、一度にかかってきた。
雷鳴攻撃が、火炎のブレスが、二刀流の斬撃が、メタルティラノモンを襲う。
「ギャオオオオゥッ!!」

なるほど…流石レベル4でもトップクラスの戦闘力を持つデジモン達。
いかにこちらがレベル5と言えど無傷ではいられない。
攻撃を受けるたびに、確実にダメージが入る。

特に厄介なのがムシャモンだ。
斬撃によって、メタルティラノモンの脚のパーツを一つずつ破壊している。
このまま攻撃を受け続けたら脚をやられるな。

「だが…!甘い!レーザーだけが武器だと思ったか!やれ!」
「ガオオオオウッ!!」
メタルティラノモンは私の指示を聞き…
右腕からミサイルを放った。
標的はムシャモンだ!

「ヌウゥ!?」
ムシャモンはミサイルを躱そうとするが…
追尾式だよ!!逃げられると思うな!!

「チェエリャアア!」
いちかばちか、ムシャモンはミサイルに刀を振るった。
なんと、ミサイルは真っ二つに両断された。


…だからなんだ?
斬られようが関係ない。
ミサイルは即座に爆発した。

…爆煙の中から、ムシャモンの首が飛んでいくのが見えた。

『ムシャモン…ッ!』

「はーっはっはっは…!あとは木偶の棒と蚊トンボを落として終わりだよ!あっけなかったな!」

『…ムシャモン。貴様が作ってくれた時間…活きたぞッ!』

「なに?」

『シュウウウウーーーーティングスターーモォオーーーーンッ!!!!やれえェェーーーーーッ!!!』

「…!?」

上空を見ると…
ミサイルのような勢いで、スターモンの亜種が突っ込んできた。

『ヒィーーーーッハァーーーーーッ!!!』

シューティングスターモンと呼ばれたそのデジモンが…
メタルティラノモンに直撃し、大爆発を起こした。

極大の衝撃波が周囲を襲う。
ムゲンマウンテン表層のカモフラージュが全て一気に吹き飛んだ。

爆煙が晴れると…
深い深いクレーターの底で、メタルティラモンが倒れていた。

「ガ…グガ…!」
体のメタルパーツのいたるところが破損し、バチバチと火花をたてている。
生体部分からも大量出血が見られる。

『ゼー…ゼー…!ンダ、コイツ…!オレサマノ、100%ノ突撃ヲクラッテ…生キテ…ヤガル…!』

『ばかな…シューティングスターモンの突撃でも倒せないのか…!?』

…正直言うと、メタルティラノモンは戦闘不能だ。
信じられない。たかがレベル4デジモンの攻撃一発で、我が究極最強デジモンがねじ伏せられるなど。

だが、突撃してきたシューティングスターモンとやらもまた、エネルギーを使い果たして動けない状態にあるようだ。
どれ、こういうときは…

「ほう?少しはやるようだな。だが、甘いな…!我がメタルティラノモンが、何のために液体金属のプラチナスカモンを取り込んだか分かっていないようだな…!」

『なに!?』

「絶望を味わわせてやる…!自己再生しろ!メタルティラノモン!」

『バカな…自己再生だと!?こ、これがレベル5…!やばい、ジオグレイモン!サンダーバーモン!今のうちに撤退しろ!シューティングスターモンを連れて!』

ジャスティファイアのデジドローンがそう言うと、デジタルゲートが開いた。

だが、シューティングスターモンの爆撃の衝撃波をいくらか食らったらしいサンダーバーモンは、怪我を負って飛べないようだ。
必死になって地を這いずりながら、ゲートへ向かっていく。

ジオグレイモンとやらは、体が大きいせいか衝撃波のダメージをサンダーバーモン以上に大きく受けたようだ。

「哀れなものだな!主が指示した攻撃の巻き添えをくらうとは!」

『ジオグレイモン…頼む!逃げてくれ…!私の指示を聞いてくれ!』

「ガウ…」
ジオグレイモンは、ゆっくりと起き上がると…

「ゴオオォォオ!!」
メタルティラノモンに向かって、よたよたと歩み寄った。
く…まずい!奴にはブラフが効いていない!
ジオグレモンの攻撃力があれば…十分に、メタルティラノモンにトドメを刺される…ッ!

その時。

「うああーーーーっ!!これイジョウ、ナカマを、ヤラセは、シマせん!」

ムゲンマウンテンから、シスタモンが飛び出てきた。
https://digimon.net/cimages/digimon/sistermonblanc.jpg

シスタモンの体は光り輝き…
レベル4へ進化した。
https://digimon.net/cimages/digimon/darcmon.jpg
その姿は、四枚の黄金の翼と剣を持った、女性型の天使であった。
「おお…素晴らしいぞシスタモン。ついに…ついに完成した!『天使のデジモン』が!ゆけ!シスタモン改め…ダルクモン!」

ダルクモンは光り輝く剣を振りかざし…
ジオグレイモンの右目を突き刺した。
「アギャオオオォオーーーッ!!!」
ジオグレイモンの悲鳴が響き渡る。

「くっくっく!いいぞ!次は左目をやってやれ!!」

ジオグレイモンは、ダルクモンを腕で払いのけた
そして、こちらに背を向け…
スターモンの亡骸を拾い、ゲートの中へ去っていった。

「逃げるな!」
ダルクモンはジオグレイモンを追おうとした。
「構うな。生かせてやれダルクモン」

「なぜですか天使様!弱った今なら、あれを倒せます!」
「恐竜型デジモンを侮るな。相打ちにでもなってみろ、死んでも許さん」
「…はっ」

ダルクモンは剣を収めた。

『…次こそ貴様を倒す、AAA』

「ふん…逃走を選ぶのか。天地人といったか。また地が出ていないが?」

『ワイヤーゴーレモン共の生き残りが熱線を向けてくる状況下ではヤツを出せん。この場は痛み分けだ』

「意外に利口じゃないか、ジャスティファイア」

そうして、ジャスティファイアの戦力は去っていった。
…ひとまず撃退成功だ。

クソ…私のメタルティラノモンをここまで痛めつけてくれおって。
自己再生は確かにできるが…この傷が癒えるまで5日はかかるぞ。

…だが、とりあえず奴らは撃退した。
それだけでも良しとしよう。

できることならばシューティングスターモンとやらは消しておきたかったが。
あんな雑兵ごときとダルクモンが刺し違えでもしたら大問題だ。
別の機会に消すとしよう。

さて…
最優先でやるべきことは、アイスデビモンの新たな個体を造り上げることだ。

それが済み次第…いよいよ建造を進める。
ムゲンマウンテンに続く主要拠点、工場都市ファクトリアルタウンの建造を…!

【デジタルモンスター研究報告会 season2  完】

以上で、 デジタルモンスター研究報告会 season2は完結となります
長い間読んでいただき、ありがとうございました

よろしければ全体通しての感想や、好きなキャラ、好きなシーンなど、教えて貰えたら幸いです

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom