閻魔様「ようこそいらっしゃいませ」 男「……これは何だ?」 (21)


閻魔様「では氏名、住所、生年月日、マイナンバーをお願いします」

男「あー、状況が、飲み込めない」

閻魔様「貴方は死んで、ここにいる。日本人には説明不要でしょう。聞かれたことに答えてください」

男「……もしかして、アンタ閻魔様か?」

閻魔様「この恰好見たら分かる筈です。じゃあ本人確認お願いします」

男「マイナンバーカードを作ってなかったので分からん」

閻魔様「通知カードを送付していますが、確認して頂いてないですか」

男「そうなのか。知らん」

閻魔様「常識です。まぁ分かりました。マイナンバーはなしですね。まだ義務化までの移行期間中で良かったですね。今回は不要とします」


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男「俺は死んだのか」

閻魔様「赤信号無視の直進車が運転席をエグりました。ランクルなら助かったと思われますが、軽でしたから」

男「……確かに交差点に入ってからの記憶が無いな」

閻魔様「はい。即死でした。痛くなくて良かったですね」

男「次の転生先はどこだ。ボーナスアビリティをこちらで指定できるのか」

閻魔様「え? は? なにかおっしゃりましたか? もう一度よろしいですか?」

男「クッ……何でも無い」


男(もしかして、俺、ほんとに死んだのか……?)

男(家のローンは今回の保険で何とかなるが、子どもたちが気がかりだ)


閻魔様「おや、心配事ですか」

男「……下の子なんかまだ小さいんだ。今から何とかならないのか」

閻魔様「もう仕方ないですよ」

男「仕方ないって、おい」

閻魔様「言い方が癪に障ったのなら謝ります。私にとって仕事なので私情は挟みません」

男「仕事ねぇ」

閻魔様「はい。ここでは貴方の生前の行いを振り返り、恥ずかしい思いをして頂きます」

男「ん?」

閻魔様「どうかされましたか」




男「天国か地獄かとか、そういうのを決めるんじゃないのか」

閻魔様「天国や地獄と呼ばれるものは実際には存在しません」

男「じゃあアンタはどうなるんだ」

閻魔様「では始めます」

男「なんとか言ってくれ」





閻魔様「5歳、蟻の巣穴の入り口を塞いで死に追いやった」

男「あー、やったな」

閻魔様「7歳のときに自分の意志で犬を拾った。にも関わらず、ずさんな飼育をして直後に死なせた」

男「……」

閻魔様「10歳、友達を殴った。その後はクラス全体でいじめの対象にもした。結局その子は転校した。やりすぎですねぇ」

男「ちょっといいか」

閻魔様「15歳、中学生活最後の大会、同じ部活でレギュラー争いをしていた仲間を怪我させることで見事ベンチ入りを果たした。おめでとうございます」



閻魔様「まだまだ行きますよ次は、
男「もう過ぎたことで、十分に反省していることばかりだ。これ以上はやめてくれ」


閻魔様「反省しているとのたまいながら私を睨むんですか」

男「睨んでない。言いがかりはやめてくれ」

閻魔様「せっかく死ねたんです。この機会に自分の罪と向き合うと良いですよ」

男「せっかくでは無い。そもそも天国と地獄が無いなら、この晒し上げに何の意味も無いはずだ」

閻魔様「今の貴方にとっての意味は無いかもしれませんが、決まりなんです」

男「なんの決まりだ」

閻魔様「なんのでもないですが。自然とそうなるものです」


閻魔様「理解が捗る表現をするのならこれはリザルト画面でしょうか」

男「誰のためのだ」

閻魔様「それはもちろん貴方のための、いえ、正確には『たぶん貴方のための』」

男「……理解が追いつかない。いきなり、こんなもの誰も納得出来ない」

閻魔様「もっと取り乱される方が殆どですよ。でも、そういうものなんです」


男「なんで昔のことを知っている。さっきのは誰にも話していないんだぞ」

閻魔様「貴方のすべての記録がこの台帳には記載されていますから」

男「台帳へは誰が記載してるんだ」

閻魔様「私がここへ来たら完成品が席に用意されています」

男「さっきから話が酷すぎる。ちなみに、リザルトによってなにか変わるのか」

閻魔様「先代からは変わらないと聞いています。あくまで、どこまでも自分のためのものです」

男「……よし、全く納得はしてないが少しずつ整理できてきた」

閻魔様「それは良かったです」

男「ちなみに」


男「そこ扉を開いて先へ進むとどうなる」


閻魔様「私も聞かされていません。ただ、戻ってこられた方を私は見たことがありません」

男「自分でも不思議だが、進みたくて仕方ない。戻る気には全くならない」

閻魔様「皆様そのようにおっしゃられます。きっと、肉体に縛られている状態は魂にとって苦痛だから、じゃないでしょうか」

男「つまり霊魂は存在する、と?」

閻魔様「えー、便宜上そのように表現しましたが、けっして霊魂が存在することを肯定するものではありませんのでご理解をお願いします」

男「俺に合わせて話を合わせて適当に喋ったということか」

閻魔様「個人の感想ということでひとつ」

男「部下が同じことしたら絶対に許せんな」


男「先ほど先代言っていたが、君はいつからこの仕事を?」

閻魔様「ここ3年は私の代です」

男「最初の仕事は先代を見送ることだった、とか」

閻魔様「踏み込んだ質問をしすぎです。本件と関係があるとは思いません。ノーコメントでお願いします」

男「自分が死んだことは理解した。この場のことも意味不明だがまぁ認める」

男「そのうえで最後の世間話くらい赤裸々に付き合ってくれてもいいだろ」

閻魔様「下手に出ていれば無限につけ上がりますね。私はあくまで仕事中です」

男「よく言う。意図的に捻じ曲げたとしか思えない、事実誤認の思い出ばかり語っておいて」

閻魔様「事実誤認?」

男「そうだ。拾った時点で犬は既に事故で瀕死だった。どうしようもなかった」

男「友達とは喧嘩したから殴った。決して一方的なものじゃない。殴り合いだった」

男「……着地したところに俺の足があったんだ。決して意図的にやったものじゃない」

閻魔様「随分とトーンダウンされましたが大丈夫ですか」

男「自分にとっての当たり前を説明することに戸惑ってるんだ。誰だってこうなる」

閻魔様「なるほど」


閻魔様「私に対する皆さんの態度はいくつかのパターンに分類できます」

閻魔様「涙を流して感謝する人、罵声を浴びせ去っていく人、まともに相手もしてくれない人」

閻魔様「特に最後のが良くありません。こんなに可愛い女の子を無視するのは酷いと思いませんか?」

男「閻魔がこんな適当な職業だとは思ってなかっただろうから当然の反応だろ」

閻魔様「ひ、酷い」


男「でも確かに君は、俺が誰にも話していない筈の話を知っている」

男「そこは認める必要がある」

閻魔様「賢明です。気持ちが落ち着くまでここでゆっくりして頂いて大丈夫ですよ」

男「余裕だな。だが時間的な余裕もないだろ。向こう側に呼ばれてるのが、俺にもなんとなく分かる」

閻魔様「……未練はありませんか」

男「まぁとにかく子どもたちのことが心残りだ。誰かの死を知るにはまだ早すぎる」

閻魔様「ほら、他にも奥さんとか」

男「あ」

閻魔様「『あ』って何ですか。どういうことですか」

男「そうか。アイツに何も言えなかったのか」

閻魔様「え、ほんとうに忘れていたんですか」

男「忘れていたというか、居るのが当たり前になっていたというか」

閻魔様「忘れてたんでしょ」

男「……まぁな」


閻魔様「それは良くないですよ」

男「あー、言い訳に聞こえるだろうが、なんだかアイツに関して記憶が曖昧で」

閻魔様「はぁ!?」

男「なんで君が怒る!?」

閻魔様「……奥さんに最後に言っておきたいことなんかは無いんですか」

男「なんで君に……いや、その台帳に全部載ってるんだったな」

男「今更俺の気持ちを隠したところでなんにもなりゃしないか」


男「俺のせいで困難な道を歩ませてしまうことをとにかく謝りたい」

男「あの日から、こんな俺と一緒にいることを選んでくれてありがとうと伝えたい」

男「だが、俺がいなくても子どもたちを育て上げてほしい」

男「駄目だな。色々ありすぎて纏められない。会社でこれじゃ上司にドヤされる」

閻魔様「……」


男「なんで今なんだろうな。せめてあと10年は欲しかった」

閻魔様「……こればかりは割り切るしかありません」

男「よりにもよって、俺なのか」

閻魔様「はい」

男「何でもする。蘇ることは出来ないのか」

閻魔様「すいません」

男「……まぁ、そうだよな」

閻魔様「……」

男「こんな姿見て楽しいか」

閻魔様「そんなのじゃないですよ」

男「じゃあなんでこんな適当な職業やってるんだよ。暇だからか」

閻魔様「こんな風に、自分の大切な人の最後を看取りたいからです」

男「……」

閻魔様「こう見えて私は現実世界では普通の人間です。寝てる間だけ、この仕事が出来ます」

男「君、人間なのか」

閻魔様「実はそうなんです」

男「じゃあの俺の家族へ伝言を頼んでもいいか、いや、ぜひお願いしたい」

閻魔様「出来ません」

男「頼む」

閻魔様「してしまえば私は死にます。そういうルールです」

男「……なら無理強いは出来ないか」

閻魔様「ご理解いただきありがとうございます。そして、本当にすいません」


男「そこまでするんだ。報酬とかは結構いいのか」

閻魔様「無償です」

男「……飽きたら好きな時期に辞められるとか」

閻魔様「いえ。素養のある者が文字通りの終身制で担当します」

男「看取れるとしても、あまりにも割に合わないと思うんだが。人の死を見続けるんだろう」

閻魔様「私も最初はそう思っていました。でも、気が変わって」

男「ほう?」

閻魔様「貴方の想像通り、私の最初の仕事は先代の見送りでした」

閻魔様「先代が余りにもいい顔をしていたので、つい引き受けてしまったのです」

男「あっさりだな」

閻魔様「この仕事をすれば大切な人との最後の時間を確実に過ごせる、と言われてしまいまして」

男「……」

閻魔様「ならもうやるしか無いじゃないですか」

男「報酬無しで、ルールに縛られながら人の死を見続ける対価がソレか」

閻魔様「はい」

男「怖いくらい深い愛だな」

閻魔様「普通ですよ」

男「もし俺が同じ提案をされても、同意出来る自信がない」

閻魔様「私自身の気持ちの問題ですから。配偶者に無理強いはしません」

男「そうか……。君の現実世界での旦那はきっと幸せ者だな」

閻魔様「だと良いんですけどね」


閻魔様「貴方の過去について読み上げたじゃないですか」

男「ああ」

閻魔様「実はあの台帳、書いたのは貴方自身なんです」

男「は?」

閻魔様「過去を綴るのは自分をおいて他にない。というより、他の誰にも書けないんですよ」

閻魔様「アリを殺した、犬を死なせた、友達を転校させた、レギュラーを奪ってしまった」

閻魔様「貴方自身がそう思ってしまっているから、そのような記述になる」

男「……」

閻魔様「違うと主張しながら、認めてしまっている。悲しいですね」

閻魔様「まぁアリに関しては一つ穴を塞いだくらいではなんとも無いと思いますからご安心されても」


男「だからって、今更それを言ってなんになるんだ。まだ子供だった大昔のことをチマチマと。いいかげん、趣味が悪すぎる」


閻魔様「チマチマしてますね。結局貴方は小さい頃と変わらない目線で、全ての物事を捉えてしまってるっていう警句じみた話なんですよ」

閻魔様「悲しくとも、私はそんな■■を■■■■■んですけどね」


男「あ? いまなんて?」

閻魔様「……さっきから薄々気づいてはいましたが」

閻魔様「■■■だと認識阻害が効いてしまうんですね。先代からこのようなことは聞いていませんでした」

閻魔様「こんなに■■■■■のに、気づいて貰えないだなんて」

閻魔様「役得だと思ったのですが、世の中そう都合の良い話は無いというわけですか。やれやれ」


男「さっきから言ってることが全然分からないぞ」

閻魔様「業務上の依怙贔屓は出来ないということです。私は職務の上で貴方と向き合うしか無いようです」

男「今度は聞こえた。さっきの言葉はなんだ?」

閻魔様「気にしないでください。話の続きをしましょう。いえ、させてください」

閻魔様「伝わらないとしても、言わせてください。そのために私はここに居ます」

閻魔様「貴方は自分が思っているほど悪い人間でも、冷たい人間ではないんです」

閻魔様「■はそれを知っていました。そして今日更に確固たるものに変わりました」

閻魔様「■■世界で■■と過ごす中で、■■の過■と向き合うことは不可能でした」

閻魔様「■■は■■を私と共有しなかった。そして私には知るすべが無かった」


閻魔様「今日この日、この瞬間に辿り着くまでは」


閻魔様「愚かしいことは理解しています。死後知ったところで何が出来るというのです」

閻魔様「それでも尚知りたかった。知ったうえで■■を■■たかった」

閻魔様「一瞬でも寄り添えたのなら私は納得できます。あと百年だってこの仕事をしてみせる」

閻魔様「先代も私と同じ気持ちだったんだろうな」

閻魔様「職業柄、次なんて無いのは知ってますけど」

閻魔様「私は次も絶対に■■と■■しますね。約束ですからね。絶対です」

閻魔様「■■■のことは心配しないでください。立派に■■■■■■せます」

閻魔様「それじゃ、またね」


おわり

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 03:05:35   ID: S:mAmcEz

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2 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 23:22:06   ID: S:b5tI4s

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