兄「なんだ、あれ……」妹「おかしのいえ?」(59)

あるところに樵の一家がおりました。
夫婦と兄妹の四人家族です。

兄はとても賢く聡明で、小さいながらもよく勉強をしていました。
妹はとても食いしん坊で、野草やキノコなどに詳しくなりました。
ちぐはぐな兄妹でしたが二人はとても仲良しでした。

しかし樵の家はとても貧しく、母親の提案により兄妹は森の奥に捨てられる事になってしまいました。
一度は小石を置いて帰り道を印して事なきを得ましたが
小石を集められなかった二度目はパンくずで代用するも小鳥に食べられてしまうのでした。

妹「おにいちゃん……おなかすいたぁ」

兄「う、うん。もう少し我慢してね」

兄(やっぱりパンくずじゃ無理があった……せめて普段から小石を集めておけば)

兄(いや、今は後悔よりも解決を目指すんだ。少なくても今日はもう家には帰りつけない)

兄(この森で一晩を越す事を考えないと……でも食べ物だってないのに)

妹「まずい~……」モグモグ

兄「ちょ、こんなところの草なんて食べるんじゃない!」

妹「これ、たべられるやつだよ?」

兄「え?」

妹「おほんにのってた。にがいけど」

兄「図鑑、ね。けど深い森に生息するのも知っているのか……」

兄「……ねえ妹、このあたりで他に食べられそうな物、分かる?」

妹「んーあのしろいおはな! あとそこのきいろいおはな。あとはー……そこのくろいキノコ」

兄「キノコも?」

妹「うん。でもこのまえたべたらとってもまずかった!」

兄(流石にキノコ生食はなんか怖いなぁ……火も起こせないし、今は花と草を食べるしかないか)

兄「……苦い」

妹「おいしくないねー」

兄(けど妹の知識が役立ったなぁ。僕も頑張らないと)

妹「……」

兄「どうかした?」

妹「いいにおい!」

兄「え?」

妹「こっち!」

兄「え、待って、いきなり走り出さない!」

妹は森の奥へと進んでいきます。
とても道とは思えない場所を。
戻ってこれない恐怖を振り払い、兄もあとを追います。

どんどんどんどん。
夜の森を進んでいきます。
不思議と転ぶ事もなく、気がづけば開けた場所に出ていました。
しかも目の前には一軒の家が建っているのです。

兄「なんだ、あれ……」

妹「おかしのいえ?」

屋根はクッキー、窓はチョコレート、柱はキャンディ。
壁は場所によって違うようで、ビスケットやパンにウエハースなどなど。
色んなところにグミやゼリービーンズが散りばめられています。
ドアはリーフパイで、マットはマシュマロ。
どれもこれもとっても美味しそうです。

妹「うー、がまんできない!」

兄「あ、こら! どう考えても怪し過ぎるし、絶対衛生的にもまずい!」

妹「おいしい!」ボリガリボリ

兄「飴はもっと味わって食べなさい!」

妹「おにいちゃんも!」

兄「い、いやそのウエハースだって風雨に野ざらしにされていたものだし……」

妹「いらないの?」

兄「……」


兄「……美味しい」サクサク

婆「どこの馬鹿だい。人ん家を食べてんのは」

妹「とってもおいしいです!」

兄「い、妹! ご、ごめんなさい! 勝手に食べてしまって!」

婆「全くどうしてくれるんだい。あーあー……柱を真ん中から噛み砕いて……」

妹「とってもおいしかったです!」

兄「妹ぉ!」

婆「これ以上食べられて家が潰れても困るんだよ。とっとと中にお入り」

兄「え、いいんですか?」

婆「こんな夜中に子供二人を追い立てても後味が悪いってもんだよ。つべこべ言わずとっととお入り!」

兄「は、はい!」

妹「わーいおうち!」

兄「あ、中は暖かいんだ」

兄(お菓子的に大丈夫なんだろうか……)

妹「わあ! ミートパイ!」

兄「い、いいんですか?」

婆「このまま家を食べられるよりかはましさね」

婆「それに、あんた達を取って食う気もないから安心をし」

兄「……」

婆「食べないんなら溶かしたマシュマロの中にぶち込んじまうよ!」

兄「地味に嫌な脅迫!」

妹「たのしそう!」

婆「食べ物を粗末にするんじゃあないよ!」

兄「えー!」

妹「おちゃもおいしいっ」

婆「ただのアップルティーだよ。おかわりが欲しけりゃ言いなね」

兄「……」モグモグ

兄(美味しい……美味しいけどこんな美味しい話があるわけがない)

婆「さて、あんた達はとんでもない事をしてくれたもんだね」

妹「んー?」モグモグ

婆「この家はね、ある目的があって建ててるもんなんだよ。それを食っちまうだなんて」

婆「お陰で色々と修繕が必要になっちまったよ」

婆「悪いがあんた達には働いてもらうからね」

兄「……売られる、という事ですか?」

婆「馬鹿な事を言うもんじゃあないよ! わたしのところできっちり働いてもらうって言ってんのさ!」

妹「おしごと?」

婆「そうさね。と言っても、暮らすのも働くのも別の場所」

婆「それをとっとと食べて片付けな。そしたら移動するからね」

妹「はーい」バクバク

兄「……分かりました」モグモグ

婆「さて、それじゃあこの魔法陣の中にお入り」

婆「わたしの家までひとっとびだよ!」パァッ


女「意外と遅かった……え、人攫いをしたんですか?」

婆「馬鹿言うんじゃないよ! 家を食べちまったから働かさせるのさ」

女「それも十分人攫いだと思いますけどね」

女「君達もこんな性悪婆さんに捕まって運の悪い。まあ諦めて勤労に勤しんでくれ」

兄「は、はあ……」

婆「今日のところはもう遅いしお休み。風呂は階段手前を右、部屋は二階突き当たり。二人で一部屋だよ!」

兄「え、えっと、ありがとうございます」

妹「わーい、おっふろ、おっふろ」

女「賑やかな子だなぁ。それにしても家を食べられたんですか?」

婆「全く、色々とやり直しだし、耐久年数もがた落ち。次の家はあんたが建てるんだよ」

女「ありゃ。お鉢が回ってきてしまった。けど……ふーん、ほー」

婆「なんだい。言いたい事があるなら言いな」

女「いえいえ別に」

妹「おにいちゃん! ベッドふかふか!」

兄「着る物もあるしベッドも二つ……本当になんなんだ」

兄「絶対罠にしか見えないけども、今すぐ脱出するには情報が足りなさ過ぎるし」ブツブツ

妹「おにいちゃんかんがえすぎー」

妹「しばふよりかたいベッドじゃないんだよ? ねよーよ」

兄「……」フカフカ

兄「……うん、寝るか」

翌朝
妹「おはよーございます!」

兄「お、おはようございます」

女「おや、お早う。昨日は遅かったし、もっとゆっくりかと思ったよ」

女「さて改めて自己紹介をしておこうか。私はあの人の弟子をしているものだ」

弟子「呼び方は……まあ君達に任せるよ」

妹「おねーちゃん!」

弟子「……。はは、可愛い妹と弟ができた。悪くないね」

兄「え、えっと」

弟子「別に構わないし、妹ちゃんのように呼んでくれていいぞ?」

兄「ね、姉さん」

弟子「……いや本当に妹と弟ができたみたいだ。凄く嬉しい」ジーン

兄(あ、普通に喜んでる。まあそれならいいか)

婆「全く朝から騒々しい子だねえ」

妹「おばあちゃん、おはよーございます!」

兄「お早うございます」

婆「はい、お早う。早速だけど今日からきっちり働いてもらうからね」

兄「……」ゴクリ

婆「といっても、慣れない内からあれこれやらしても、面倒が増えるだけさね」

婆「当面は掃除と洗濯だよ。料理は様子見て任せられそうならやらせる。いいね」

兄(めちゃくちゃ普通だ……)

妹「おっそうじ、おっそうじ~」

兄(家でも手伝いでやっていたから楽ではあるな)

兄(しかもちゃんと食事もあるし……家よりも全然いい暮らしさせてもらってる)

弟子「お、真面目にやってるね。感心感心」

弟子「あの人、口は悪いけど悪人じゃないからさ。気楽にやっていきなよ」

兄「あの……あのお婆さんは魔女、なんですか?」

弟子「そうだよ。って、特になにも聞かされていないのか……」

弟子「んーまあ、他の仕事もやるようになったら説明していくのかなぁ」

弟子「今知っていようといまいと特に差し障りもないし」

兄「?」


妹「わああピザ!」

兄「……ピザ」ゴクリ

弟子「え、適当具材だよこれ」

婆「騒いでないでとっとと食べな」

婆「二人は片付けもしておくんだよ」

妹「はーい」

兄「分かりました」

婆「……あの子達、どうだい」

弟子「家でやっていたんですかね。手際もいいですし、特に問題なさそうですよ」

婆「料理もできてくれたらいいんだけどねぇ」

弟子「うーん、それはどうなんでしょうね」

婆「たった一日で心当たりがあるんかい?」

弟子「なんとなくは、ですね。それより本業のほうを手伝わせたほうがいいんじゃないですか?」

弟子「特に兄君はまだ状況がよく分からない、という事でだいぶ気を揉んでいるようですし」

婆「まず一週間は生活に慣れさせる為にこのままにしておくよ。そのあとは……あんたが面倒をみな」

弟子「……りょーかい」

数日後
兄(ここも森の中だけど、あの森ほど木々が鬱蒼としていない)

兄(よく手入れがされている? という事は、ちゃんと管理するだけの人数が近くで住んでいるのかな)

兄(うーん、でも地図らしきものもなしに闇雲に抜けようとしてもなぁ)

兄(それに今のところは快適な生活が送れている……一時のまやかしかもしれないけど)

妹「おにいちゃん! おにいちゃん! クサイチゴ!」

兄「随分と摘んできたね……」

妹「たべる?」

兄「うん……あ、甘い」

弟子「お、二人とも。洗濯は終わったかい?」

妹「終わったー」

弟子「よしよし。今日はもう掃除も済んだだろう?」

兄「そうですね……あ、もしかして料理ですか?」

弟子「お、やる気があるかい?」

兄「……すみません。掃除や洗濯ならできるんですが、料理はあまり……」

弟子「はは、だろうね」

兄「え?」

弟子「あんなお粗末なピザを見て目を輝かせていただろう?」

弟子「貧しい生活だったんじゃないか? それこそ、料理らしい料理をする機会もないぐらい」

兄「……」

弟子「別に責めるつもりで言っているんじゃない。人には適材適所があるんだ」

弟子「料理はあの人も私も得意だからね。その分、君達には早めに別の事をさせると思う」

妹「あたらしいおしごと?」

弟子「そう。今日はまず見学ってところだね」

弟子「さ、ここが私の作業部屋だ」

妹「わーなにこれなにこれ。かれたはっぱ?」

兄「こら、勝手に触るんじゃない」

兄「……それにしても凄いですね。薬を作っているんですか?」

弟子「ご名答。まあ分かりやすい雰囲気だったかな?」

弟子「私はこれが得意なんだ。他にやれる事もやるべき事もあるが、メインは調合といったところだ」

兄「……魔女の薬、ですか」

弟子「まあそうなるね」

弟子「魔女と言っても昔ほどいい加減じゃないから、だいぶイメージが違うとは思うけども」

兄「そうなんですか?」

弟子「色々と厳しくなったんだよ。規制もあったりするし」

兄「つまりそうした監視、管理する組織もあるという事ですか?」

弟子「お。面白いところに着眼したね。全くもってそのとおりだよ」

兄「……もっと魔女は自由に行動されているのだとばかり思ってました」

弟子「その結果、招かれた悲劇とかもあるしね。なるべくしてなった、と言えるよ」

弟子「例えば歯が虫歯になる薬」

兄「もうその時点で極悪だ……」

弟子「難しさや材料の高価さもあって歯、四本まで虫歯にする薬なら無許可でも作れる」

兄「怖すぎる」

弟子「六本までならそこそこ難しい資格。八本はかなり学んでないと無理な資格。私はこれを持っている」

弟子「十本は非常に難しい。あの人はこれを持っている。MAXの十二本、有資格者は極々一握りだ」

兄「……」

兄「とりあえず、とにかく怖すぎる」

弟子「だろうね」

弟子「作るのもそうだけど売買含めた譲渡も大変でね」

弟子「まず作った時だけども効果……歯の本数と譲渡者の名前をしっかり記録しないといけないんだ」

弟子「で、その記録と薬のサンプルを協会に提出する」

兄「へえ」

弟子「しかも使う相手まで明記させられるから、別の人が同じ人に盛る場合、その分もカウントされる」

弟子「既に四本分虫歯の薬が使われていると、次の薬は要資格である五本以上の扱いというわけだ」

兄「随分細かいんですね。けれど、受け取った側が嘘ついて別の人に飲ますという事も」

弟子「うん。だから譲渡する場合に契約書を書かせるんだ。それも対悪魔用契約と同じ様式」

弟子「破ると譲渡された側は多分死ぬ。今のところそんな事は起きてないけどねー」

兄「どこまでも怖すぎる」

弟子「うん、誤って別の誰かが飲んだりしても違反だからね。使う側も命がけだよ」

兄「でもなんでそんな厳格に決められているんですか?」

弟子「○○×△国って知っているかい?」

兄「大昔にあった国で滅ぼされたんですよね」

弟子「流石、よく知っているね。実はそこの国王とある魔女が手を組んでいてね」

弟子「まあ早い話、気が合わない他国の王に全ての歯が虫歯になる薬を盛ってしまったんだよ」

兄「うわぁ」

弟子「当然、盛られた王は大激怒。その国を滅ぼすのと盛大な魔女狩りが行われたわけだ」

弟子「流石にこれはやばい、と思った当時の魔女達がルールを作って今にいたる、というお話さ」

兄「なにを思ってそんな凶悪な代物を盛ろうと思ったんでしょうね」

弟子「王もつるんだ魔女も首をはねられたそうだから、真実は闇の中だよ」

兄(それにしても……これだけ話していても、手を止める事がなかった。凄いなぁ)

兄(よく分からなかった器具、ああやって使うんだ……)

兄(計量も動きが止まる事がない……本当に得意なんだろうな)

兄(というか……)

妹「ホゲー」アキターアキター

兄(飽きてる妹が勝手に物を弄って壊さないか凄い不安)ドギドギ

弟子「妹ちゃんには退屈だったかな? まあただの見学だし、お外に遊びに行ってもいいよ」

妹「ほんと?! わーい!」

弟子「あんまり遠くには行くんじゃないよー」

妹「はーい!」

兄「す、すみません」

弟子「あの子は見るからにアウトドア派だからね」

兄「そうなんですよね。そこら辺を走り回っては、野草やらを食べているから不安で不安で」

兄「キノコも詳しいんですけど、ここは自分達がいたところと違うだろうし、手を出すなとは言っているんですが」

弟子「確かにそれは……少し不安だね。でもまあ今のところ元気にやっているしなぁ」

弟子「それにしてもそういうのは得意なのか……ふふ、君達は案外いいチームとなりそうだ」

兄「?」

弟子「おっと、もうこんな時間か。そろそろ夕飯の料理をしなくてはな」

弟子「妹ちゃんも外に行ったしお腹を空かせて帰ってくるだろう……がっつり肉にするか」

兄「お気遣い頂いてすみません……」

弟子「こら、子供がそんな遠慮をしちゃいけないよ」

弟子「そもそも妹ちゃんも兄君も体が細いんだ。もっと食べないと大きくなれないぞ」

兄「……」

兄「あの、なんでお婆さんも姉さんも僕達によくしてくれるんですか?」

兄「どう見たって、僕達の働きに待遇が見合っていない」

弟子「そりゃあそうでしょ」

兄「えっ」

弟子「詳しい経緯は知らないけども」

弟子「君達を連れてきたのはあの人のお節介だと私は思っているよ」

弟子「ま、早い話はツンデレというわけだ。あの年でだよ?」

弟子「気持ち悪いよねっ」ハハァッ

兄「あ、あの……姉、さん」

婆「……」ピクピク

弟子「おやご機嫌麗しゅう。もっと素直になられたほうがいいと思いますよ?」

婆「あんたにゃあ、タンスの角に小指をぶつける呪いでもかけてやろうかね」

弟子「おー怖い怖い」

それから一週間と少し
弟子「さて、今日から少しずつ調合を手伝ってもらうよ」

兄「は、はい!」

弟子「妹ちゃんはこれ、読んでみる?」

妹「んー? あ、おほんだ!」

兄「……薬草の図鑑、ですか」

弟子「試しのつもりだったけども、以前も図鑑には食いついていたのかな?」

兄「はい。それを元にまあ……拾い食いをしていると言いますか」

弟子「これで薬草も覚えてくれたら嬉しいんだけども。まあまだ幼いんだ。長い目で見守ろうかな」

弟子「まずは使った器具をしっかり洗うところからだ」

弟子「兄君は心配する必要はないと思うが、それでも勝手が違ったりもするだろう」

弟子「まずはやってみて直すべき点があったら、その都度説明していくよ」

兄「わ、分かりました」

兄(確か姉さんはこう洗っていた、はず)ゴシゴシ

兄「これでどうでしょうか?」

弟子「ふむふむ」

弟子「ここの部分はこれを使ってこう洗えばすぐだ。あとここ、汚れが落ちにくいから注意」

弟子「まあこうやって洗うとしっかり落ちるから、そこまで丹念にする必要はないけどね」

兄「なるほど……」

……
弟子「よし、今日はここまで」

兄「ふー……」

妹「……」

弟子「……凄い集中力だね」

兄「この分ですと薬草もしっかり覚えてくれそうです」

弟子「お、それは嬉しい話だ」

婆「おや、今日から始めているんかい」

弟子「ええ。物覚えもよくて、すぐに追い抜かれてしまいそうです」

兄「そ、そんな事ないですよ」

婆「はんっ。どこぞの誰かは本当に覚えなかったからね」

兄「ええ?!」

弟子「ふふ、隙あらばサボろうとした口だからね。何事も適当でいいんだよ」

婆「よかーないよ、この馬鹿たれ」

弟子「今日の晩御飯はなににしようかなぁ。昨日はがっつり肉だったし、今日はあっさり目にしようかなぁ」

婆「気をつけな。こいつの言うあっさり目は肉の量だ」

兄「あ、肉には違いないんですね」


弟子「さあ召し上がれ」

兄「このミネストローネ……ウィンナーの量が凄い……ポトフ?」

妹「おいしそー!」

婆「全く、あんたじゃないんだから、この子らがぶくぶく太っちまうじゃないか」

深夜
兄「……? 姉さん?」

弟子「おや兄君。見られてしまったか」

兄「こんな時間になにをしているんですか?」

弟子「ふふ、大人のお楽しみというやつだ。兄君はトイレかい?」

兄「そうですが……お酒ですか?」

弟子「美味しいぞ。と言っても流石に兄君にはまだ早いな」

弟子「でもいつか君や妹ちゃんと酒をかわしたいものだなぁ」

兄「……性格からして妹は酒豪になってそうですね」

弟子「はは、それならそれで楽しそうだ」

弟子「昔はあの人とよく呑んだものだけど、最近はめっきりだ」

兄「……そうなんですか」

弟子「ま、年が年だしね。仕方がない事だよ」

兄「やっぱり魔女ですし、数百歳とかなんですか?」

弟子「んー? あー……まあそのあたりはその内にでも説明するかな」

兄「?」

弟子「話すのなら他の事も交えてのお勉強になるんだ」

兄「ああ。そういう事でしたか」

数日後
弟子「さて、今日は珍しく座学といこうか」

妹「えー」

弟子「こらこら、やる前から諦めない」

弟子「本日は魔女についてだ。そもそもだが魔女族、と呼ばれる種族がいる」

弟子「魔力を有し、全体的に魔法に長ける種族。実際に人里離れた場所で魔法や薬の研究をしていた者も少なくない」

弟子「それが今日の魔女のイメージの元となっているんだろうね」

兄(確かにそんなイメージだ)

弟子「ただ大半の魔女族は人間に混じって生活している」

兄「えっそうなんですか?」

弟子「むしろ魔女族で、魔女をやっているのは極少数だよ」

兄「へー……」

弟子「じゃあ魔女とはなんなのか? という話だが、こちらも件の魔女族のイメージに引っ張られている感じだな」

弟子「私達みたいな生業を魔女業とし、それに従事する者を魔女と呼んでいるんだ」

弟子「だから魔女と言っても性別も種族も関係ない」

兄「……」

兄「あの、そうなるとお婆さんや姉さんは魔女族じゃない、て事ですか?」

弟子「そのとおりだ。さて、なに族だろうね」フフフ

兄(むしろ人の姿で別の種族がそんなにいる、ていう事実のが驚きなんだけどなぁ)

弟子「私達の種族についてはまた今度かな」

兄「?」

弟子「妹ちゃんはついてこれてないしね」

妹「スヤァ……」

兄「……すみません」

弟子「まあ、妹ちゃんはこうした話には向かないとは思っていたしね」

しばらく後
妹「とってきたー!」

弟子「ふむ、ふむ……うん、全部揃ってるね。偉い偉い」ナデナデ

妹「えへへー」

兄「……」

兄(僕も頑張らないと。早く調合の仕方を学んで……)

弟子「こーら。兄君、焦らない」

兄「あ、う、すみません……」

弟子「調合はね、基本を覚えて、実際にやって身につけていくものだよ」

弟子「焦ってもあとで手痛いミスをするだけだ。落ち着いて一つ一つやっていこう。暗記物とは違うんだ」

兄「……はい」

弟子「それにね。今は妹ちゃんのほうが活躍できているように見えるかもしれないけれど」

弟子「腕を磨いていけば兄君自身、採取について学んでいく事はできる」

弟子「だけど、だ」

弟子「……妹ちゃんには、まあ調合は無理だと思う」

兄「……」

兄「……確かに」

弟子「だから慌てる必要なんてないだよ」

兄「……分かりました」

婆「だいぶできるようになったじゃないか」

妹「あ、おばあちゃん!」

弟子「いやー師がいいからですかねー」

婆「これを見習わずにしっかりやるんだよ」

兄「え? あー……えー」

弟子「流石に返答に困る事を言うのはどうかと思いますよ?」

婆「だいぶできるようになったじゃないか」

妹「あ、おばあちゃん!」

弟子「いやー師がいいからですかねー」

婆「これを見習わずにしっかりやるんだよ」

兄「え? あー……えー」

弟子「流石に返答に困る事を言うのはどうかと思いますよ?」

弟子「それにしてもこっちの部屋に顔を出すなんて珍しいですね」

婆「そろそろ次の家を建てるつもりだから、それを伝えにきたんだよ」

妹「おひっこし?」

弟子「あーいや、例のおうち、だね」

兄「お菓子の家、ですか?」

婆「流石に気が早いとは思ったが、この子らにも手伝わせながら、ともなれば時間もかかる」

婆「今からしっかり考えてやってみな」

兄「そもそもなんであんな家を建てているんですか?」

弟子「あれはね、悪魔を封印しているんだよ」

妹「あくま!? あくま……が、おかしのいえ?」

兄「なんか、随分とファンシーな悪魔ですね」

弟子「暴食の悪魔でね。食料は勿論、人々の夢や希望、大切な思い出。そうしたものまで食べる凶悪な悪魔さ」

弟子「で、昔々に封じるまではいったんだけども、力を失うまで封じるにしても千年単位でかかるだろう、と」

弟子「そこで美味しそうな家を封印の上に建てて、うんと精神的に苦しめてやれ、というのが話の始まりだ」

兄「まるで陰湿な嫌がらせのうような……」

弟子「でも千年程度で力を失うだろうぐらいの効果は見られるんだ」

兄「嫌がらせ凄い」

婆「とっととくたばってくれりゃあ、あんなもの何度も作らずに済むってのにねぇ」ハァ

兄「……魔法を唱えたり、魔法陣を使ったりでできるものじゃないんですね」

弟子「半分正解かなぁ。まず建材となる食べ物をある程度用意しないといけないんだ」

妹「えーあれだけのおかしあつめたの?」

婆「できあがる家の6,7割は必要さね」

兄「結構な量だ……」

弟子「で、まず一つ目の魔法陣で家にする。次に家を囲むほどの大きな魔法陣で、防腐関係の処理をする」

兄「魔法なのに現実的だ……」

弟子「最後、悪魔の封印との繋がり……まあ封印されている空間の真上、みたいな認識を行わせる魔法陣を敷く」

兄「? 封印は移動可能なんですか?」

魔女「なに言ってんだい。あの森の殆どが封印場所だよ」

妹「ひろーい!」

兄「え、怖……そんな上にいたのか僕達……」

兄「けどそれだと悪魔の復活を狙う人物がいたら目印になってしまうのでは?」

弟子「んー直接通れるわけじゃないからねぇ。あの家の存在は知覚できるだけ、みたいな感じかな」

弟子「だからあの家のあたりを大爆発させたら封印が解けるとかないんだ」

兄「それなら安心ですけども……中々ピンポイントな作用ですね」

弟子「相当な魔女達が連日、寝る間も惜しんで編み出したものらしい」

弟子「しかし封印の家かー。まあ大体は決めてあるから、魔法陣と食材の調達のほうが大変かなぁ」

婆「へえ。珍しく先駆けてやっているんだねぇ」

弟子「そりゃあ勿論」ジュルリ

兄妹「?」

弟子「二人に手伝ってもらうとしたら魔法陣と料理かなー」

兄「え、大丈夫ですかね……」

弟子「陣はちゃんと描いたメモを渡すし、料理も簡単な工程だから大丈夫だよ」

兄「ほ……」

婆「これを機に料理を学ばせたらどうだい」

弟子「うーん。でも作るのはアレだからなぁ。あまり料理としての勉強にはならないと思いますよ」

婆「それじゃあ仕方がないね」

婆「二人とも、今日の料理番の手伝いをしな」

妹「はーい」

兄「分かりました」

兄(適材適所とは一体……)

婆「そう難しそうな顔をするんじゃあないよ。簡単な料理を教えるだけさね」

婆「わたしら二人がいない時、なにも作れないんじゃあ困るだろうに」

弟子「一緒に家を空ける事ってありますかねぇ……」

婆「あってからじゃあ遅いんだよ」

妹「なにつくるのー?」

婆「ミートパイさね」

兄「え、難しそう……」

婆「大したもんじゃあないよ」

婆「適当にひき肉と玉ネギなんか具材を刻んだものを軽く炒めて適当に味をつける」

婆「パイ生地を伸ばして型に油を引いて生地をしく。あとは炒めた具を載せて上にもう一枚パイ生地を被せ」

婆「溶いた卵の黄身を塗って釜で焼くだけさね」

兄(難しそう)

婆「先に釜の使い方を説明するよ」

婆「ここに置いてある薪を中に入れて火をつける。一食程度ならこの束で十分さね」

兄「火はどこから持ってくればいいんでしょうか?」

婆「普通に火を起こしたりもするけども、流石にそれは不安だねぇ。この赤い石が棚にあるから、これを中に投げ込みな」

婆「強い衝撃を受けると火を放つから取り扱いは気をつけるんだよ」

兄(あ、普通に魔法に関する道具だ)

婆「中が熱くなったらパイを入れてしばらく待つだけ。20分から30分もあれば焼けるだろうけども」

婆「そのあたりは様子を見ながらやりなね」

弟子「さて今日の晩御飯は二人も手伝っているわけだし」

弟子「可愛い妹と弟の手料理かぁ楽しみだなぁ」ニヨニヨ

妹「あ、おねえちゃん!」

弟子「ほほう、ミートパイかぁ」

兄「えっと、多分大丈夫だと思うんですが」

婆「なに言ってんだい。味見して平気だったんだ。しゃんとしなっ」

弟子「いただきます」パク

弟子「うん! 美味しい! いやあ毎日自分か婆さんの料理だからなぁ嬉しいなぁ」

婆「調合のほうをやらせているんだ。当面、料理当番にはさせないよ」

弟子「まーそうですよね」

婆「食事の時間とは別に小腹が空いたんなら言いなね」

弟子「だね。その時はちゃんと見ててあげるから、自分達で作ってみるといいよ」

弟子「一回だけだといざって時に作れない、とかあるし」

妹「はーい」

兄「分かりました」

兄(でも、食事の量が結構多くて、これ作るほどお腹が空く事ってない気がする……)

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