1日24時間(72)


今日も寝る。

疲れて眠る。

0時に寝る。

6時に起きる。


24時間あるけれど、6時間は布団の中。

24時間あるけれど、12時間は職場の中。

24時間あるけれど、2時間は電車の中。


残り4時間はどこかにいった。

スマホ見て、くたびれて、生きるため、どこかにいった。

自分に残るは0時間。

自分の人生は0時間。


きっとこれからも、0時間。




こんな世界に、どうして居るのか。



思えば悪い事しかない。

そうだよ。

今、ここに見える世界とは、逆転したような……




「逆さまのようなところに、行けたらいいのに。」


……


……


「……男の、人?」

「そっか。わたしにも、来たんだ」

「起きれる、かな」


「……。起きて」




聴き慣れない声。

枕のそば、右から。


よく分からない。もう少し寝かせて。

起きたら、明日になってしまう。



「ね……居るって事は、起きてるんでしょう?」

柔らかくて、くすぐったいものが、頬にツンと触れた。


男「……!?」

いや、流石におかしい。

がばりと身を起こした。
無理やり視界を開く。

覚えのない布団。
見知らぬ天井。
ホテルみたいな部屋。


「……もう。びっくりした」


呆れたように笑う女性。


ここは、アパートの自室ではなかった。
昨夜、記憶を飛ばすような事はしてない。
だからこれは……きっと夢だ。


女「おはよう」


妙な現実感を伴う感触。
布団は温かく清潔で、肌に擦れて気持ちいい。
少し頼りないマットレスに手を付き、上体を完全に起こした。

目元を拭う。
「おはよう」と言われたんだっけか。

男「……ぅ……ぁ」

挨拶を返そうとしたが、何故か口が回らなかった。
そういう夢なのかもしれない。


女「……。無理はしないで」



女「ここは、何でも出来る場所」

女「何もない所から、マジックみたいに物を出すのも」

女「キミが瞬きをする間に、左となりに動くのも」
男「っ!」

女「何でもね。出来ない事は、何でも出来る」


女「ここはきっと、逆さまの世界だから」


女「あんまりしたいとは思わないけど、キミの心を知る事だって……たぶん出来るんだよ」
男「……」

女は、じっと俺の目を見る。




女「そっか、疲れてるのね」

彼女は得心が行ったように頷くと、俺はソファに座り、サンドイッチを手に取っていた。

……は?

女「はい」

いや、待て、食べられるのか。
と思う前に目の前のサンドイッチが歯形に消えた。
瑞々しい野菜の味わいが口に広がる。


この夢……でたらめが過ぎるぞ。


女「はい、お茶もね」
男「……」

夢と思って身を任せるうちに、何が起きても楽しくなってくるのだった。


女「キミの面倒を全部見たいってわけじゃないけど」

男「……」

女「わたしが、何かをする意味が生まれてくるのは嬉しい」

この女性は、こうして夢に迷い込んだ人間を全員もてなしているんだろうか。

女「ううん。この部屋に来たのは、キミが初めて」

心を読まれた。

女「ごめんね。キミが、この世界で声が出せると気付くまでは、こうさせて?」



女「この部屋はね」

女「たぶん……外へは出れなくて」

女「違う部屋にも、人がひとりか、ふたり居るの」

出れないのに分かるものなんだろうか。

女「知りたい、って思えば分かるんだ。ここなら」

例えば……アパートで、隣の様子を想像するようにか。

女「そうね」


少し、隣の様子を想像してみた。
部屋の形はここと同じだろうか。対称だろうか。
ベッドはあるのか。
どんな人間が居るのか。

男「……」
女「分かるよね」


右から左に首を向けるかのように、それはごく自然に知る事が出来た。
部屋は同じようなもので、隣なのかよく分からないところは散らかっていて、男女は抱き合って眠っていた。

本当に可笑しな世界だ。



女「これからは、キミがわたしのパートナー」

女「……よろしくね?」

これからは。
これからも続く関係を結んだかのように彼女は告げた。

俺は彼女を見つめる事が出来る。
頷く事が出来る。

女「うん。ありがとうね」

それを以て、諸々の返答とした。


女「さて」

女「今日は何をしよっか」

名前すら知らない彼女は俺に問う。
ここなら彼女は何でも出来ると言った。

女「何がしたい?」


何がしたい、か。

……。

女「しようと思えるなら、たぶん何でも出来るよ」

……。

男「ぅ……」

……?



何も、したいという事が浮かんでこない……?



女「そっか」

人間、普通はどんな環境にあっても、少しは「休みたい」とか「眠りたい」とか「遊びたい」とか浮かんでくるものだろう。
俺は今の状態に完全に満足してるわけもないのに。

意識が明晰で、異常でないようかのように思えて、この……

女「じゃあ、わたしがしたい事に、付き合ってくれるかなぁ」

……逆さまの世界は、すごくおかしい。







女「キミの声を聴かせて」


男「ぇ……?」

瞬きをしたら、また布団の中。
清潔なシーツ。温かい寝所。

それとは別に。

女「お邪魔してます」


危機的なほど鮮明な柔らかさ。
夢から醒めるくらいの触感。


男「!……!?」

女「嫌?」

いや、というか、肌、裸。
なんで?

女「キミは……空っぽみたいな感じ」

瞬きをしたら、今まで互いに服を着ていた俺たちは同衾していた。
新手の淫夢にしても、わけがわからない。

女「たぶん、良い人なんだろうね」

腕に縋り付くいきなりの信頼に、俺は少なからず怯えていた。


女「……こわくないよ」

女の肌。
さらさらしていて、もちもちしていて、すべすべしている。
ふっくらしていて、すらっとしていて、こりっとしている。

女「ひどい事はしないから」

抱かれた腕と反対の手が、卑しく彼女の形を確かめようと彷徨う。

女「あー、どきどきしてるね?」

あ、当たり前だ。

女「初めて?」

ぐ……悪いか。


女「ううん。わたし、嬉しいよ」


もうだめだ。
ここなら触っても良いだろうと、初めて女性に色情をぶつけたのは、わき腹だった。

女「あう」

そこから何処かに手を滑らせる経験を持たず、やむなく布団で抱き合った。


女「どきどきしすぎてるねえ」

早かったか。
ごめんなさい。

女「んふふ。手は離さないんだね」

……。

女「ああ、待って。そのままで。わたし、今のこの感じ好きだから、ね?」

少し震えた手で、弱く腕を回す。

女「ぎゅっ、てして良いよ」

……。
布団に視覚を保護されて、どうにかしそうな感覚を抑えた。





女「わたしの話をしよっか」


幾分、彼女の声のトーンが落ち着いていた。
促されるように、話を聴く体勢に入る。

女「わたしが此処に来る前の話」

胸の中……というより、顎の下で呟く声。

女「細かい事とかね、そんな事話したいわけじゃないからホント雑な話なんだけど」

それでも良い。好きな事を話してくれ。



女「歩道歩いてたんだ。普通にね、大学生の時」

唇から漏れた少しの熱が、俺の肩を掠める。

女「前からトラックが来てね、横走ってったんだけど。何も気にしてなかったよ、そりゃね」




女「そしたら、目の前によくわかんない大きな袋が飛んで来たんだ」


……。
すぐに、冷えた。

この人は……。

女「あははは。生きてないかもね。たぶん生きてるとは思うけど」

女体の感触に気を取られすぎていた自分を、なんとなく恥じた。

女「顔面直撃っぽかったから、それっきりかな」



女「それを最期にして、わたしはずっと、ずぅっと此処にいた」

女「1日24時間、寝る事なく、ずっとひとりで」


24、時間?
寝る事も出来ず?


女「オモテのわたしが寝てるからだと思うんだ。植物っていうのかな。前頭葉が、ぼかーんしちゃうやつ」




女「ここはたぶん、逆さまの世界」



女「わたしが何でも出来るのは……そういう事」

女「そんな事になっちゃって、色々と困ったり悲しんだりあるけどさ。くよくよするのは結構前にやめた」

女「今キミに言いたいのはさ」



女「これから、キミの事知って」
女「仲良くして」
女「楽しくして」
女「上手くいったり、いかなかったり」
女「考えたり、相談したりして」

女「わたしがひとりで居た時間を………………キミと一緒に埋めて欲しいな、と思うのです」

……。


俺に何が出来るか。


女「あう。ぁ……」

抱き締める事。

女「や、あは……くすぐったい」

それだけじゃない筈だ。思いやる事だって出来る。
なんだか分からないが、出来る筈だ。このいじらしい人のために。

背中を撫でたり、軽く叩いたりしろ。俺。

女「……。うふふ」

結構真剣なつもりだったが。
リラックスしてるのか、からかわれてるのか、笑われた。


女「嬉しいんだよ。優男さんで」
男「……っ」


……俺が此処に居られるのが、たった6時間だけなんだったら。
自分の0時間みたいな人生の、存在してなかったような6時間でも、喜んでくれる人が居るのなら。


気持ちと、願いを自覚する。

男「ぉ。俺、さ」

女「!」

男「声、聴きたいって言ってたよな」

女「あ……!」

男「……悪い。不器用で」

女「ううん。……嬉しいっ」


声を聴いて欲しいと願った。
彼女と話したいと願った。
それを、喜んでくれた。






『なんで何も言ってくれないの?』


女「ありがとうね……願ってくれて」

男「そんな、喜ばれるような事じゃ」

女「ううん。」

ひと心地つくと、身体もリラックスしてきて、素肌で彼女と触れ合っているという事に興奮や違和感を感じなくなってきている。
もっとこうしていたいという気持ちだけが残って……



女「もっと、違う声も聴いていい……?」

じっと。
ぎゅっとしていた身体が、動き始めた。

男「……っ!?」

女「わたしが女って事、忘れちゃってましたかー。ははー」
女「えへ……嬉しかったり、嬉しくなかったり」

女「不思議なヒトを気取ってたところもあるけど、わたし、普通のオンナノコだよ……?」

女「優しさに飢えてて、温かさに渇いてた……裸のオンナノコ」

俺の腕に柔らかさを擦りつけ、腿に脚を絡め、ゆっくり、くねくねと動いて、囁いて。


女「ひとりで居る間、他の部屋の人が、色んな形で過ごしてるのを見て……わたしもいつかね、えっちな事したいなって」

女「色んな事が、逆さまになって……えっちな事も、素直にいいことだって、思えてこない……?」

折れそうに腰を外らせ、お腹をすりすりと。
言葉の端々に吐息が混じって、首元をぞわぞわと。

男「……っ……っ」
女「あは、また静かになっちゃった」
男「だって、」
女「初めてだもんね」


俺の腿に彼女の脚が乗り、重みが掛かる。

女「こういうの、気持ちよくない……?」

彼女の足先が、少し冷たい。
それが、不随意にちょんちょん動いて、温もりは柔らかい。


絡め取るようなハグ。
ハグというか、抱きつきというか。

髪の毛の先が動くたびに、頬や首元がこそばゆい。
抱きしめられた二の腕に、ふにっとした膨らみが付いては離れ。
腰と背中は女性的にゆらめき、鳥肌にも似た緊張と快感が走る。

女「色々しようとか、考えなくていいからさ」

女「素直な、キミの声を聴かせて欲しいな」

男「その……気持ち、いい」

女「ふふ。良かったー」


女「――ん。」


男「ぁっ」

肩に、小さく、熱い感触。
それが唇だと分かったのは、水音が聞こえ始めてから。

男「う……」
女「んふふふ。」

ちゅぷ、ちゅぷと。
柔らかく熱いぬめりが、細かく動いているのを感じた。


女「キミの肌は敏感だねー。よっと」
男「ん……どうしたの」
女「失礼するよー」

彼女は抱いていた腕をほどき、身体を俺の胸に預ける。
ほぼ正面から向き合うような形になって、心地良い体重で抑え付けられた。

女「じゃ、もういっかい」
男「……っ」

改めて、俺の身体に舌が這う。
さっきよりも明確に、性的な動きを隠さずに。

女「ん……れる」
男「っ、く」

同じ布団の中で、覆い被されて、ねぶられて。
ああ……肩から、首へ、どんどん、上がっていく。



女「れぇ……んっ」
男「ぁ……はぁ……」

一際大きく舌を使ったあと、彼女は上体を離す。
俺は頭がいっぱいいっぱいで、布団の中に差し込む涼しさに呆けているばかりだった。


女「きもちい?」
男「あぁ……」
女「うふ。そろそろ、こっちもかな?」

男「……っ!」

カーテンが、頬を撫ぜるように、そっと。
当然のように反り立っていた俺の分身に、柔らかい太もも。

女「あぁぁ……えっちな顔しちゃってるねえ」
男「だって、こんな……」

優しくて、もどかしくて、震えるほどに甘くて。
自慰とは比べものにならないくらい。

女「ほら、ゆっくりするから集中して。行くよ……」
男「……ぁ、ぁぁぁあぅ……」
女「あーっ、跳ねたぁ……」

少し意地悪な笑顔が見下ろしてくるのも、蜜が奥から湧き出てくる助けにしかならなくて。
脈打つたびに、先端からとぷりと溢れていく感触が恥ずかしかった。


すりっ……すりっ……

男「ぁっ、う、ああっぅ……」
女「いいねえ。乱れてきたね……どきどきするね……わたし、嬉しいな……」
男「そんな。そこまでは、っ」
女「そんな顔してるよー……太ももの上に、何か垂らしちゃってるものね……?」
男「ぅ……ごめん」
女「んーん。そうやって、反応してくれるの好きだよ……? ほら、ぬーる……ぬーる……」

声音は甘さを増して、彼女の喜びと昂りを伝えてくる。
いやらしい囁きは、花びらのように優しく降りかかり、心を乱す。
素直な気持ちが、文章の体を成さず、こぼれていく。

男「こんなに、気持ちよくてっ、」
女「ふふふ。うんうん」
男「肌、すべすべでっ、」
女「うんうん」
男「可愛くてっ……あぅっ!」
女「っ……ぅう。うれしいこと言ってくれたな~?」

細い指がしゅるっ、きゅっと絡み付いて、腰が跳ねた。


女「あはっ……おててで、ぬるぬるしてあげるね」

布団の中で、指が踊る。
馬鹿みたいに溢れ出す粘液をすくい取り、じっとりまぶす。

女「息、はあはあって。腰もびくびく。えっちだね、気持ちいいね……」
男「っく、う、っ」
女「こうやって言われるの、すき……?」
男「っ、ああっ」
女「ふふ、好きなんだぁ……いいよ、いっぱい好きになってね……」

言葉の選び方が、ずるい。
頭が、まわらない。
指がぬるぬるするたび、気持ちいい。
耳から腰から、背筋を行き来して、多幸感に包まれていく。

女「ぬちぬち、ぬるぬる、きゅっきゅっ……あは」
女「わたしもすごいどきどきしてるよ……すっごい、あっついねえ……」
女「あー。準備、始まっちゃってるかなー?」

器に、水が注がれ始める心地がした。
落ち着けないと、器から溢れてしまう水。
注がれる限り、どこかで絶対に溢れてしまう水。


女「少しずつ昇ってきてるね……じわじわ迫ってきちゃってるねぇ……」
男「……っ、あ」

彼女の手付きは、自分の右手と比べて早急ではない。
扱かずにまとわり付き、留まらずに戯れる。
ずっと楽しそうに、長く愉しませてくる。
身体に快感を与えるより、心を奪う事を目的としているような、そんな。

女「声も出して欲しいな……頭じゃなくて、心じゃなくて、カラダから声、出ちゃうよね」
男「っう、ぅぅ、ああっ!……」
女「あはっ。声もカラダも震えてる。えっち」

女「あは、えっち。えっちえっち。おててもえっち、裸もえっち、ちゃーんと見て。」
女「声、出ちゃうね? 出ちゃうね。出ちゃうね~、ほら出ちゃう? もう出ちゃう、出ちゃうねぇ……!」

彼女の言葉を聞いてたらあっという間に思考を連れてかれてしまう。連れて行かれてしまいたい。
手は変化を付けながら、優しく緩やかに、一定の強さで。
例えるなら、極上のオードブルが次々出てきて、それでもう満足してしまいそうな予感。
贅沢で危険な葛藤。


こんなの初めてだ。冗談みたいに、彼女は気持ちいい。
どこに擦れても鮮明で、どう擦れても官能的で。
しなやかな指と、掌の肉から視線が逸らせない。

女「ん、いっぱい我慢していいよ……いっぱい我慢できなくしちゃう……」

女の手って、こんなに……

女「包んで、くーちゅ、くーちゅ……」
男「っっ! あ、それっ」

腰がぞわっ!と跳ねた。確実に絶頂を意識してしまう刺激。

女「あ……やばい?」
男「やば、い」
女「うん。速くしないからね、気持ちよくなろーね……♪」
男「あ、ぁぁ、ぁぁぁぁぁ……!」

すぐにイってしまわないように、どこかでイってしまうように。
両の指がぬちゅりと絡んで這い上がる。
まるで床屋のサインポールみたいに。
青い血管に添って赤い指が絡み付き、白色が昇り詰める無限の螺旋。


女「くーちゅ……くーちゅ……♪」
男「あ、だめ、やばい、だめ、」
女「来ちゃう?」
男「ちょっとずつ、来ちゃうっ」

先端から弾けそうな緊迫感、根元から押し寄せてくる男性的衝動。

絶えず腰と背筋を通う稲妻、思考を炙り誘導してくる睦言。

甘い香りと肌の温もり、絶対に恋に落ちてしまう手淫。

女「いいよ。おいでおいで」
男「あ、だめ、のぼって、」
女「おててにおいで……?」

引き返せない決壊。
脈を連れて行く塊。
蕩ける女の殺し文句。




女「いっぱい、出してぇ……♡」


男「――っあ、」

びゅるるるるるっ!!

男「、っあ あ  あ」
女「あぁぁ…………♡」

びゅるるるっ、びゅるるっ

女「ぜんぶ、ぜんぶ、出して……♡」


亀頭を這い上がる指の感触に耐えきれず、絶頂した。
白濁は受け止められ、隙間から美しい指を染める。
卑猥に絡み、悩ましく糸を引き、ねっとりと滴る。


どぷん、どぴゅっ、びゅく、びゅく……


女「すき、すき、すきっ……♡」
男「ぁ、 ……」



……きもち いい


……もうわからない


……おれも すき



……
…………

男「――ぁ」
女「うふふ……おかえり」

何刻か意識が飛んでいた。
視界では、掌に精液を絡めた女が、あやとりのように糸を広げ微笑んでいた。
今までの人生で最も淫靡な光景だが、酷く安堵して、受け入れられたような心地になった。

男「気持ちよかった」
女「よかった。嬉しいな」

嬉しさと達成感と、色々な喜ばしい気持ちが、あらゆる淫らさを肯定した。

女「見て。キミの欲望だよ」
男「……」
女「わたしという女の子の手を、男として大好きになってくれた証」
男「それは……うん」
女「たくさんね」


女「ん、ちゅぷ」
男「!」

指についた精液をねぶる。



女「これから、手の他に」

手の、ほか。

女「わたしの色んなところ」

彼女の、色んなところ。

女「好きになってね?」

男として、好きになってしまう……のだ。



男「そんな、の」

そんな言葉だけで、この一夜で彼女そのものを好きになってしまう事なんて、あまりにも容易い事だった。



……



…………





……………………



ぴぴぴぴ。
ぴぴぴぴ。

男「……夢精もしてない」
男「なんだ……夢か」


………………………………………………





……………………


……


『なんとか言えよ』

『お前社会人なんだからそれくらい当たり前だろ』

『もういいよ』


男「……こえ、が」

男「うまく出せない」

男「なんでだろな……」

男「なんでだろうなぁ……」

時計の針がひとつになる。
今日あった事から逃げるように、俺は意識を手放した。


……

女「ここの時計の針が、全部下に向く時……オモテは0時なんだよね」

女「逆さま逆さま。うんうん」

女「……」

女「やっぱ……そわそわする」

女「起きるかな」

……




男「ぅ、んん……」

温かい布団で目を覚ます。ここは……この感覚は……

男「んっ。~~!」

整った部屋、見覚えのある人影、昨日の夢の!
何がしかとても解放された気がして、思わず伸びをする。

女「あは、おはよう。目覚め良いんだ?」

男「おはよう。また来れるだなんて、思ってなかったから」


女「よかった、ちゃんと来てくれて。これでも待ってたんだよ」

男「18時間?」

女「そうそう。いつもはなんて事ないのに、退屈しちゃいました」

男「俺はその18時間は仕事でいっぱいなんです」

女「えっ、そんなに?」

男「職場にいるのは流石に、12時間くらい。でも通勤やらメシやら家の事やらやってると、朝起きてから寝るまで自由な時間なんてさっぱり無いよ」

女「いや、流石に12時間って、えええ。普通に頑張りすぎじゃない?」

男「慣れたよ……今日は辛かったけど。よいしょ」



ベッドから降りて、玄関先の方面を見渡す。

男「洗面所借りていい? 顔洗いたい」


…………

男「お借りしましたよ」

女「借りるんじゃなくて、普通に使っていいの。ここはわたしたち以外は立ち入れない場所なんだから」

男「そうなの?」

女「そういうものみたい……他の部屋の様子から、何となくではあるんだけど」


男「……」

女「そ、共同生活」

楽しそうにからかってくる。人の心をまた読んだな。
ただ彼女にそうされるのは、何故か嫌な気はしない。

女「う~ん? この言葉、さぞ嬉しそうですねえ」

男「会ったばかりなのに。悪い人じゃないのは分かったから、もう少し落ち着かせてくれよ」

会ったばかりなのに、そう善人と信じられるものなのだろうか?
それは彼女ではなく、俺自身の、心の働きに向けられた疑問であった。

彼女が知ってか知らずか……男の警戒心なんて、情事ひとつで簡単にほどけてしまうものなのかもしれない。
オスのサガだ。


女「わかりました。それじゃ、今日は社会人な先輩をわたしが労ってあげましょう」

男「あぁ、さっきの愚痴は気を遣わせたくて言ったわけじゃないんだけどっ」

女「気なんか遣ってないよ、別に」

敬語とタメ口を織り交ぜる彼女は苦笑する。

女「昨日のこと、覚えてる?」

男「……」

女「えっち。」

男「ばっ……そりゃ思い出すだろバカ。流石に俺でも分かるよ」



男「ひとりで居た時間を、俺に埋めて欲しい……だっけか」

女「――俺に、じゃなくてキミと埋めていきたいの。仲良くして欲しいのも、仲良くなりたいのも、本気です」

男「……。こんな俺の6時間で良ければ」

女「もちろん……ありがとう」

男「何がなんだか分からないところはあるけど、これからもふたりでこうして会うんだったら、俺だって楽しくやってきたいよ」


男「でも、昨日はどうしてあんないきなり?」

女性に対して無粋だと思う自覚はあったが、純粋な疑問が勝る。

女「よその部屋ずっと見てると、仲良くなるのに、みんなけっこう時間掛かっててね」

女「でも、やっぱりスキンシップとか……えっちなこととか。そういうのしてる部屋ってすぐに打ち解けてたから」

男「……デバガメ」

女「あー。リードしてあげたのに、あんなに悦んでたのにそういうこと言うんだー」

男「ぐ。すみません」

女「いいよいいよ、それはわたしがキミにしたかったの。わたし割と色々、欲強くて、なりふり構わないくらい寂しくて……早く、仲良くなりたくて……」


24時間の孤独に晒され続けてきた彼女へ、俺から言えることはない。今から出来ることだって、彼女が教えてくれてる。

男「なら、来てくれる人なら誰でも良かったか?」

女「んなっ、ばっ、サイテー! 意地悪!」

女「――キミで良かったって思わせるくらいのことは、男の人がやってくださいよ!」

男「ははは、ごめん。期待通りになるかは分からないけど、これから楽しい6時間にしよう」


まさしくホテル備え付けらしい装いのインスタントコーヒーを2人分淹れる。椅子に腰掛ける彼女の前へ。

女「ありがとうございます」

男の俺より小さい指がカップをつまみ上げ、静かに傾ける。
俺はつい、それをじっと観察していた。

女「――んふ。思い出しちゃう?」

もう片方の手が、整った状態からぱらりと解け、俺の眼前ではらはらと舞う。

……。
速くないのに、強くないのに、あんなにも気持ち良くて、イカせようとしてこないのに、俺はあんなにも我慢できずに吹きこぼれてしまった。
あの指の一本一本が滑るたびに、粘膜と腰にどんな甘さが駆け抜けるかを知っている。

女「見てて良いよ? 思い出しても」

声のトーンが落ちて囁き気味になるのがやばい。

男「……コーヒー冷める」

女「あは……理性は基本頑張っちゃうタイプ?」

男「……たぶん」

女「そんなえっちな目しちゃうのにね。それはアレだねー、気持ち良くなりたくて我慢しちゃうやつだねー」


わたしも結構分かります、なんて言いながらコーヒーを啜る。
彼女の声にスイッチが入ると、あっという間に煽られてしまう。

コーヒーが冷める、なんて言い訳を用意したくなくて、俺のカップはすぐに空いた。

女「ふう。ごちそうさまです」

男「大したものじゃないけど」

女「それくらいの厚意が好きなんですよ、わたし」



彼女が指を鳴らす。

男「……ん?」

俺はカップを手にして座っていたのだが、ベッドにうつ伏せになっていた。何を言っているのかわからないと思うが、俺もわからない。そんな状態。

逆さまパワーか。

女「~♪」

背後に気配。

女「それでは、お疲れのキミを労っちゃいましょう」


その声は低く……彼女がオンであることを伝えてきた。


…………

男「う、ゔぁ……そこっ」

女「りょうかーい。ほいっと」

蠱惑的な雰囲気を纏った彼女が繰り広げる技は……結構しっかりしたマッサージだった。
ちょくちょく肩や腕を取られ、ゴキゴキと織り交ぜられるストレッチも実に気持ち良い。

女「お客さーん、凝ってますね~」

男「ぅ……結構、慣れてる……?」

女「高校生の頃はチア部だったんで。柔軟やら筋肉痛やらのケアはしょっちゅうだったかな」

男「そりゃ、うぐ、ありがたいっ」

女「男の人にこれするのは初めてだけどね。あ、よいしょー」

男「あだ、あばばばば!! 痛っ、きも、あっきもちいっ、いだいっ」

女「あははは、そうですよ偉大ですよー」

仕事で歪んだ四肢がはめ直され、固まった筋肉がゆっくり解されていく。
初めて聞く、実に楽しそうな彼女の声を背に丁寧な施術を甘受した。


20分も経ったころ。

男「……うぐぅ」

女「お疲れさま。どうです?」

男「……楽になったんだろうけど。動かん」

スクラップのように転がる俺が居た。
痛みによる緊張と、それが抜けたことによる解放。
歪んだ身体を直してもらって、下手に力を入れられない心地。
身体に血と熱の巡る感触と、脱力感。



女「キツかったですか?」

男「少しだけ。気持ちよかったし、身体も軽く感じる。ありがとう」

女「よかった。」

ちょっとはしゃぎすぎていた自分を落ち着けるように、彼女は胸に手を当てる。

女「動けないのは都合いいしね……あは」


都合がいい?

女「さ、まだ終わりじゃないよ。マッサージ、続けちゃうからね」

後ろで指がパチンと鳴る。



男「……」

女「うん。かわいいお尻ですね」

俺の布がない!!!!!
なんで!!?

男「またっ、あの、これ!!」

逆さまパワーを脱衣装置として常用するのはやめていただきたい。
確かにこんなことオモテじゃできないけど、けど。

女「はい……じっとして」
男「へうっ!!?」

すかさず熱い感触が太ももに垂れ落ち、身体が跳ねる。

女「――まっさーじ。」

じっとりとした、囁き。
俺は今、まな板の鯉であることを理解した。


女「観念してください……前置きが長すぎたんですよ、我ながら」

男「あの、この、熱いのって」

女「オイル……だよ」

彼女の掌が筋繊維を押し流す。
太ももをぐいぐいと押し上げる温かい感触に身を委ね、細くなった声に意識を向ける。

女「今からするのは気持ちいいマッサージ」

男「さっきも気持ちよかったけど」

女「気付かないふりしても駄目ですよ……気持ち良く、しちゃいますから」

……まだ、手つきや感触から性的なものは感じない。
本当に心地の良いマッサージ。



女「なんのために労ってると思ってるのかなー」

ご機嫌な彼女の揉み解しは続く。

女「んっ……しょ……ふ、ん」


次第に彼女の掌と、自分の肌の境目が無くなっていくような錯覚に陥る。

そういえば、さっき右脚をやってたのに、左脚をやっていて、もう右肩に来ている。
背中ってやったっけ……?


女「うふふ……」


これは……気持ちいい。
身体全体がぽかぽかして、微睡みに包まれていく……



……



男「……っぁ」

女「いま、落ちてましたね……♪」

男「きもちい……」

女「気持ちよくなって欲しいって、願いながら触ってるの」

そんなことで、ここまで……


背中一面が自分のコントロールから離れている。
身体から、心から、彼女に対する抵抗力が失われていく。

女「……そろそろかな?」

そして、突然に。


男「――ッッ!?」


触れた指がぴとっと、肌にめり込まず止まる。
そのまま背筋をすっ……と撫で上がった。

男「な、あ、なに」

制御を失って、馬鹿みたいに全身が跳ねて。

女「~♪」

指……がこそ……ばゆいっ……!

男「う、ぁっ、あッ! や、ダメ、もどしてっ」

女「あぁぁぁ……一瞬で可愛い声になっちゃうんだぁ……♪」


のしっ。

暴れる腰が、柔らかい重みで抑えつけられた。
太ももに挟まれて、遠のいてた興奮が一気に戻ってくる。

女「えへ……わたしも脱いじゃった」

男「――ッ!?」

太ももだけじゃない、胸が、吐息が、後ろから、迫ってきて……!
急激な興奮で、頭がチカチカする。

柔らかさの中で、お腹、腕、胸、指が、わけのわからない状態で身体の表面を愛撫してくる。
意味がわからないくらい、びくびく、ふるふると、わななく。

俺の頭で把握出来るのは、彼女に犯されてることだけ。

女「んんっ……」

男「あ、あ、あっ」

囁きはいつの間にか耳の傍まで。

女「感じて……?」

男「~~ッ、そ、あっ、かはっ」


女「指もね」
女「お腹も……おっぱいも……二の腕も……」
男「ぁ、ぁぁう、う、あぅ」
女「ちょっとだけ触れて、ぬるぬるするの」
女「くすぐったいね……ぞくぞくするね……」
男「ぅぅ、ぁぅ、ぁぅぁぅぁぅぅ……!」
女「わたしも気持ち良いんだよ……これ……ぞわってする……」

敏感になりすぎて身体の感覚が遠のいていく。
興奮しすぎて意識がぼんやりしていく。
身体が熱くて、涙まで出てきた。
なんだ、これ。なんだ、この感じ。

焦らされてるはずなのに、圧倒的な多幸感に包まれていく。

もう彼女になら、何をされても良い。
何でもして欲しい。
俺の全部に触れてほしい。

そう、願った。






『ちょっと触ったくらいで、そんな嫌がらなくても……』


女「あはっ……すごいえっちな顔してる……もっと見せて……」

男「も、だめ、さわって、さわってっ」


女「~~ッ♪」


……お腹に抱き付かれたあと、俺は仰向けになっていた。
どこに触れてほしいのかを、もう察してくれている。

女「触っちゃうね……」

男「ぁ……ぁ……!」

開かれた脚のあいだに滑り込む彼女と、涙目の俺。
彼女の両手が膝に置かれて、内ももを、優しく伝い、俺自身の根元まで。

……さわっ。

男「ッッあ、あ」

それはどこだろう。
袋と肌のキワと言えば良いのか。
指が何度もなぞるたび、甘い疼きが俺自身に集中する。


女「はい、ぎゅーっ……」

指先でなぞられ、痺れきった場所をなだめるように、手のへり……小指球が覆う。
手の温もりで玉が包まれ、じんわりとした熱にうっとりして……

女「……さわっ……♪」

男「――ぅ、あっ」

親指の爪が、かりっと……袋を……!

女「ね、どんな気分ですか……? 女子大生のおててにマッサージされて、抵抗できなくなって、びくびくしちゃって……」

かりかり……かりかり……

女「まだ直接触ってないのに、糸引くくらい……トロトロに濡らしちゃって……♪」

男「だって、だってこんなのぉ……!」

囁きが怒張の先端に吹きかかり、意識させられる。
ぞわぞわした感覚を抑えようとしても、腰が跳ねるのを止めようとしても、俺の身体は彼女の思うがままの反応を返してしまう。
心身共に、防御力ゼロ。


太ももの付け根をずりずり擦られ、玉の下側を手の窪でそっと支えられ、竿との繋ぎ目を親指でくすぐられ。

女「ふふ……はぁ……はぁ……んふ、はぁ、は、ん、んふぅ……あぁ……♪」

吐息が、何度も、裏筋に、かかる。
もう、これ以上、ないくらい。
期待が、先端に……


男「――ッ」
女「……♪」

彼女が身を屈める時、つい見やったものを通して目が合ってしまう。

男「~~ッ!」
女「あはっ……♪」

ぱくぱくと震え、垂れるほど蜜を溢す亀頭。
端正な顔立ちと、向けられる蕩けた瞳。
かぱっ……と、唾液の糸引く唇が開く。


女「――咥えて、ほひい?」

男「っ」

女「キミの……おちんぽ。」

男「……っ、~~~~ッッ!!」


恥も外聞もなく首を縦に振った。
早く。早く。
あの唇で、蜜溢れる先端を、ぬるぬると舐ってほしい。

女「あは……堕としちゃったぁ……♡」


女「ちゅ……ん、むっ♡」

男「ひっ、あ」

女「むぐ、んふふふ……♡」

とんでもなく鋭敏になった亀頭が、ぷっくらとした唇に吸い付かれ……呑み込まれた。
派手な動きなんて全然無くて、口に含まれているだけなのに、唇の裏側がぬっとり張り付いてきて、熱くて、我慢汁がちう……と吸われて。

触れられてた玉が、ぎゅっとせり上がったのが、お互いに、分かってしまう。
このまま、上下に、動いて、動きたい、イキたい……!


しかし。

女「ん、ふっ、んんっ」

男「ちょ、ううっ!?」

すぐ玉から手が離れたと思うと、
腕が鼠蹊部を跨ぎ、上体の重みで腰が動かないように押し込まれた。
大した力も入らない俺は、あっさり持ち上げた腰を沈められ、なけなしの力が抜け、唇の中で悶絶する。



女「ぷは……だぁめ。わたしが愛して……はぁ、キミが好きになるの」

男「すきに、なる」

女「きょうはぁ……わたしのおくち。好きになってね……♡ はむっ」

好きになって、という特徴的な懇願。
昨夜の手淫が脳裏をよぎる。
また……今度は……彼女の口淫で恋に落ちてしまうのだ。


女「ん……ちゅぅ……ちゅぅ……ちゅぷ……ちぅっ……」

男「っ、く……ぁ、………………、ふ、ぅ、っ、ぁ」

長く、静かに、緩やかに吸い付いてくる甘いフェラチオ。
刺激は無いに等しく、口内の熱さと僅かな減圧、粘膜の張り付きだけを感じる。

普段はなんてこと無かったかもしれない戯れが、マッサージで抵抗力を失った、敏感な全身を蝕む。
腰と心がじわじわ我慢できなくなっていく、緩慢で危険な快楽。


女「……ん、はぁっ……こっちも、またしてあげるね……?」

男「うっ、く……ぁ、そんなっ、あっ」

きゅうきゅうと収縮した玉に、柔らかい温かさが押し寄せてきた。
彼女は更に身を乗り出し、にゅるりと、おっぱいで玉を包み、もじもじと身を震わせる。
俺の腰もつられてガクガク飛び跳ねる。
太ももの付け根にツンと触れるものが彼女の乳首だと気付いた時、興奮で視界が掠れた。


女「はぁ……んふ……準備できたよ……♡」

男「はぁ、ぁ、はっ、ぁぁ、ぅぁ、はぁ」

目の前が白くチカチカして視野が狭窄する。
下腹まで反り返った怒張を、口元まで連れて行く指先しか目に映らない。

女「ちゅぷ…………♡」

男「ぁぁぁ……!!」

鈴口から吸い込まれ……またとろとろの口内に帰ってきてしまった。


女「ちゅ……ちゅ……ちぅっ……ちゅぷ……ちゅう……ちゅ、ちゅ……」

終わりのないオーラルセックス。
もう達するまで離してくれない気がした。

急かさない吸引が、ゆっくりと、確実に、誘い出してくる。
腕を鼠蹊部でじりじり動かされ、おっぱいでむにむに身じろぎされ、どくん、どくんと僅かな絶頂感が蓄積していく。



つつーっ……


男「っ、?」

女「んふ……」

不意に彼女の指先が、俺の下腹をなぞり始めた。
人差し指一本で、フェザータッチで。

それは今すぐに発射してしまうような刺激では無かったが、少し不可解な不意打ち。

女「ちゅぷ……んちゅ……ちゅう……」

優しい吸い付きはやめないまま、何度か、同じ軌跡を、下腹にこそばゆく描き続ける。



女「ちゅ……んふふ……?♡」

分かりませんか?と彼女は首をかしげた。


散々愛されて敏感な腰回りの肌は、彼女の指先を追うことができた。

……

男「……、……」

女「ちゅ……ちゅぷ……んふっ……」




ス、キ……?




男「――――ッッ!!!?!?」

女「……♡♡」

なぞられていた下腹が急激に熱を持ち始めた。
この世に淫紋が実在するのなら、これはきっとその一つに違いない。
彼女はぶるぶる震える腰へ、お構い無しに「スキ」を刻み続けていく。


男「――ぁ、ぁぁあぁあぁ」

今ので、器がいっぱいになった。
根元から先端まで、まっしろな快楽でパンパン。

スキ。スキ。スキ。

女「ちゅ……ちゅうっ……♡ ちゅぷ……んちゅ……♡ ちぅ……んふ……♡」

その上から、表面張力を頼りに、一滴ずつ、誘惑が垂れ落ちてくる。
決壊を今かと待ち望むように、白濁の泉に波紋を立てて。

スキ。スキ。スキ。スキ。スキ。


男「ぁ、ぁ、すき、すきっ」

心がとろけた。
一度でも釣られて口にしてしまえば、刻まれた淫紋が頭に薔薇を咲かせるのもあっという間だった。

女「……♡ ちゅう……ちゅぷっ……♡」

スキ。スキ。すき。すき。好き。好きっ、好きっ、好きっ、大好きっ、ああっ、大好き……!


女「――じゅる……れる。んふ♡」

見計ったように、口の中で粘膜がひと舐めした。




はい、どうぞ。と目が語る。




男「ぁ、ぁぁぁっ、ぁっ」


決壊した。


女「ちゅうぅぅ…………♡ んちゅっ、じゅるるるっ…………♡」


スキ。スキ。スキ。スキ。スキ。スキ。スキ。スキ。


男「ぁ、だめ、も、すき、好きっ、だめっ、好き好きっ、好きぃ、大好きぃ……!!!」


まっしろな恋心が、彼女の口で吸い上げられた。


びゅくっ……びゅううっっ!!


男「――っ、ぁっ!!」
女「――♡♡♡」


びゅるるるっ、びゅるるるっ、


女「♡……っ、んくっ♡♡」


びゅるる……びゅるる……


恋に落ちた身体の中身が、魂ごと受け止められ、飲み込まれる。
恋した女性の中に連れて行かれる感覚。たまらない安心感。
長く、長く、終わらない絶頂。

女「こくっ……こくっ……♡」


そして。

女「ん。んんっ、じゅずっ」

男「ひっ、ぁ!!?」

びゅるるる……びゅく、びゅるっ、びゅうっ……♡

女「じゅぷっ、じゅるっ、んちゅ、ぢゅるるっ、んっ、んっ、じゅううっ、じゅるるっ、じゅぷ、んふっ、えうれるれるれるれる……♡♡♡」

不意に揺れ出す彼女の頭。
固定された腰に抱き付き、俺の下肢をぎしぎし前後に揺らして、甘く吸い出す。

柔らかい舌をたっぷり塗り付け、唇を雁首に何度もぷりぷり食い込ませ、堅い肉に柔らかい肉をねちっこく絡み付かせる。
獲物に喰らい付き、毒を流して溶解させるような鮮烈な快楽。

男「ぁ、まってっ、だめっ、イってるっ、イってるからっ、だめ、うぁっ……!」
女「じゅぷっ♡ じゅぷっ♡ じゅぷっ♡ じゅぷっ♡ じゅぷっ♡ じゅぷっ♡ じゅぷっ♡ じゅぷっ♡」

あまりにも正反対の口淫。
まだ優しく精液が蕩け出ていた肉棒が、直情的な反射で震え出す。




女「じゅっぷ♡ じゅっぷ♡ じゅっぷ♡ じゅっぷ♡ じゅっぷ♡ じゅっぷ♡ じゅっぷ♡」



男「ぁぁぁだめだめだめっ、それもしゅき、しゅきぃ……!!」


びゅ、びゅるるるるっっ!!


女「~~♡♡♡ んくっ、んっ♡ んっんっんっんっ♡」

惚れた弱みか、この身体は激しい口淫にもメロメロであった。
1度目の精液と繋がったまま、緊急増産した精子工場が2度目のピークを迎えてしまった。


びゅぐっ、びゅっっ、びゅっっ、びゅっっ、


身体を揺すられるのに合わせて全身が脈打ち、腰の中央に向けて吸い上げられる。

びゅく、びゅく、びゅ、びゅ、びゅ、…………

粘膜が乱れ合う口に急所を閉ざされ、ジュルジュル、ヌルヌルとしたいやらしい快楽に震えた……



……
…………


女「ごきゅ、ごきゅっ……ぷ、ぁ……♡」

男「――ぁ」

女「んふふ……おかえり」

放心状態から戻ってくると、彼女は俺の分身を解放していた。
口の端や頬、顎まで、噴きこぼれた精液で汚れている。

男「ちょ、飲んでっ」

女「うん、そだよ。……今、ひくんってしてくれただけでも甲斐はあったかな」

男「…………」

女「わたしのおくち、たくさん……好き好き~って、叫んで、イってくれたもんね? ほら、この中で。えはぁっ……」

男「~~っ!」

女「あは……かわいい。おちんぽ、ご馳走様でした……♡」

確かに駄作な気はしてるが
いわゆる自炊、地産地消、自家発電なのでお前らもう少し付き合え



……



…………





……………………



ぴぴぴぴ。
ぴぴぴぴ。

男「……また、夢精はなしと。ちゃんと身体は軽いし」
男「夢じゃなくて……もうひとつの現実なのかな……」


………………………………………………





……………………


……


『バインダー渡す時、ちょっと触ったくらいで取り落として』

『触りたくないのこっちなんだけど。何ですかねアイツ』

『全然喋らないし、聞こえないし。あいつ辞めっかもな……』


男「……声もうまく出せないし」

男「人に触られると、悪寒がひどいし」

男「気持ち悪い……」

男「早く寝て……会いたい……」

時計の針がひとつになる前に。
今日あった事から逃げるように、俺は意識を手放した。


……

女「ベッドはよし。うん」

女「お部屋もよし。うん」

女「お風呂も……よしっ」

女「自分でもやりすぎかなって思っちゃうけど、悦んでくれるし。……わたしも楽しいし」

女「そろそろ……だよね?」

……




男「ん……」

温かい毛布のある世界に、身体が収まった。

男「! よし」

昨日とは違う部屋で目が覚めるが……直感的に、それは彼女の模様替えだと気付いた。
これから毎晩ここへ来れることへの確信を深めた俺は、喜んで起き上がった。

女「おはよう。早いね」

男「おはよう。待ち遠しくて」

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