【モバマスSS】森久保「王子になりましたが机の下に隠れています」 (20)

どうも、森久保乃々です。
現在、机の下に隠れています。

いつもはプロデューサーの机の下に隠れていますが、今日は事務室の隣の会議室にある机の下に隠れています。
今日だけは、ちょっと、本気で見つかりたくないので……
いや、普段は見つかりたいとか、そういうわけではないんですけど……

「乃々王子~! どこに隠れているの~!」

「乃々王子、出ておいでー!」

かな子さん、凜さんに、追いかけられています。
とても怖いので、捕まりたくないんです。ええ。

鍵まで閉めたので、ここは絶対に見つからない、もりくぼのサンクチュアリです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1544616607

きっかけは、この前のライブのことでした。

うちのプロダクションの合同ライブで、かな子さんのソロ、おかしな国のおかし屋さんで、王子様の役として、もりくぼが抜擢されました。
王子様の役なんて、もりくぼにはとても無理だと思いました。もっと適任な方……もりくぼよりもかっこよくて、男らしい演技ができる……例えば、凜さんや李衣菜さん、光さんが、王子をやればいいんじゃないかと思いました。

でも、凜さんには
「乃々が王子? ピッタリじゃない、頑張りなよ」
と言われ、光さんには
「アタシは王子を守るヒーローだ! 乃々王子はアタシが守る!」
と言われました。

李衣菜さんにどうですかと聞いたら、李衣菜さんはノリノリでしたが、他のみなさんが「おかしな国の王子様はロックなの?」とか「権力者になったらロックじゃないんじゃない?」とか「ロックになるならQUEENでしょ?」とか、そんなことを囁かれ、言いくるめられ、辞退してしまいました。
王子様がロックじゃないなんて、そんなわけないと思うんですけど……

他の方からも、凜さんのような返事が返ってきました。
もりくぼに王子様が似合うだなんて、正直、お世辞にお世辞を重ねたバウムクーヘンだと思っていました。受け入れられませんでした。

そんなふわふわした気持ちのまま……いえ、もしかしたら、開き直ってやけになっていたかもしれませんが……ライブに臨みました。

結果は……とても盛り上がりました。
ライブ中には「森久保王子ー!」というコールが飛び、ライブが終わると「森久保王子が最高だった」という声をよく聞きました。
森久保王子のイラストを描く方までいたりして……とても、嬉しかったです。

どうやら、森久保の雰囲気が"おかしな国の王子様"にピッタリだった、らしいです。意外性がウケたのもあると思いますが、そっちの声のほうが大きいみたいです。
おかしな国の王子様って、へんてこなイメージがあるのですが、そう考えると、もりくぼにはぴったりだったのかもしれません。
おかしな国の王子様……ふふふ、気に入りました。

それからが、悲劇の始まりでした。

ライブが終わってから数日後、事務所でライブの感想の話をしていると、森久保王子の話題が出ました。

そのときに、褒められて、おだてられて、得意な気分になったもりくぼは、王子様の演技をしてみたのです。

かな子さんに、あの歌の中のセリフを喋りながら、実際に靴を履かせてみたり、アドリブで
「ガラス砂糖の靴は、貴方に本当にお似合いで、美しいです。まるでスポンジケーキと生クリームのよう」
みたいなことも言いました。

かな子さんは、ぽかーんとした表情をしていました。あの台詞、さすがにクサすぎましたね……と思った矢先、かな子さんがふらふらとソファーへ歩き寄り、うつ伏せで倒れて、動かなくなりました。

変なことを言ってしまって、かな子さんは大変ショックを受けたのでしょうか……なんて思っていたら、智絵里さんと杏さんの話し声が聞こえてきました。

「かな子ちゃん、自分のことをお菓子に例えた素敵な口説き文句を言われてみたい、って、前に言ってました……」
「あー……それで、乃々のあのセリフがツボに入っちゃったんだね。やるねぇ、乃々王子」

ライブの時から思っていましたが、何が人にウケるか、本当に分かりませんよね……

その流れで、凜さんからも、
「ねえ乃々、私にも同じこと、やってみてよ」
と言われました。

いや、凜さんの方がどう考えても王子様って感じで、もりくぼが凜さんにやるなんて、そんなの、むーりぃー……
なんてことを言ったら、
「そんなことないよ。さっきかな子をノックアウトしたでしょ」
と返ってきました。そんな言い方だと、もりくぼがボクサーみたいじゃないですか……そんな気は、無かったんですけど……

仕方なく、またあの歌の中のセリフを喋って、最後にアドリブで
「いつもクールでかっこいい、憧れの存在ですが……笑うと、こんなに可愛いんですね」
なんてことを言いました。

日ごろから思っていることと、今なんとなく思い浮かんだことを組み合わせただけで、シチュエーションを完全に無視していますが……凜さんは、お菓子のイメージがあんまり無いので、仕方ないですよね。
凜さんも、しばらく、ぽかーんとした表情をしていました。やっぱり、お菓子関係の口説き文句を期待していたのでしょうか。全然関係ないじゃんとか、言われそう……
なんてことを考えていたら、凜さんは、笑いながら、気を失っていました。

「シチュに合うロマンティックな台詞を期待していたところにアレは反則でしょ……さすが乃々王子」
杏さんがそんなことを言って褒めていたので、きっと、これも凜さんにウケてしまったんだと思います。

その日はそれだけで終わりました。
というより、もりくぼのお仕事の時間になって、プロデューサーに運ばれていったので、その後どうなったかは……知りません。


次の日に事務室に来てみたら、扉を開けてすぐ、かな子さんと凜さんがプロデューサーさんに何やら話しているのを見ました。
時々まゆさんがプロデューサーのお話をするのと、同じような瞳を、同じような喋り方をしていました。

もりくぼは、怖くなって、扉をゆっくり閉めて、見なかったことにして逃げました。
しかし、それが二人には見つかってしまい、咄嗟に会議室へ逃げ、机の下に隠れ、今に至ります。

凛の誤字見落としてた……次レスから直します

「凛ちゃん、あっちの部屋は全部調べたよ」
「ありがとう、かな子。こっちのトイレにもいなかったよ。ということは……」
「あとは、この会議室の中だけね。鍵がかかっているみたいだけど……話し声も聞こえないし、乃々が内側から鍵をかけてるんだね。……乃々、出ておいで」

扉の向こうから、恐ろしい会話が聞こえてきました。
もりくぼの行動、バレバレです。……いえ、会議の声が聞こえないのに鍵が閉まっていたら、怪しいに決まっていますよね。うかつでした。
でも、諦めてくれるかもしれない。そう考えて、返事をせず、じっと待ちます。

「うーん……返事も無いし、もしかしたら寝てるのかも……ちょっとプロデューサーから会議室の鍵、貰ってくるね」

鍵をかけておけば大丈夫と思ったら、会議室の鍵を借りてまで、もりくぼのことを探そうとしてくるなんて……凛さんの行動力というか、思い切り、すごすぎるんですけど……
このままでは、すぐに机の下にいるのも見つかってしまいます。絶体絶命です。

凛さんが来るまでに、どうにかする方法を考えていました。
……ひらめきました。扉のかげに隠れて、入れ違い作戦です。うまくいくかどうかは分かりませんが、見つかるのを待つよりはマシです。

凛さんの足音が聞こえました。もりくぼは、覚悟を決めます。

「かな子、どうやらここ、プロデューサーがずっと鍵を閉めてるみたい。なんでも、前に麗奈がイタズラに使ってたから、最近鍵をかけるようにしたんだって。乃々はそもそも今日プロデューサーに会ってないし……本当にどこ行っちゃったんだろう」

……え?

しばらく会議室に引き篭もっていると、プロデューサーさんの声が外から聞こえました。
「入るぞ」
すると、会議室の鍵を開けて、中にやってきました。

もりくぼは机の下から出てきて、プロデューサーを迎えました。

「かな子と凛はレッスンに行ったから、もう大丈夫だぞ。というか二人とも何か凄い形相で『乃々はどこ!?』とか『会議室に閉じ篭ってるだろうから、鍵を貸して!』とか言ってたから、つい『会議室はずっと鍵かけっぱなしだぞ』なんて嘘をついて退けたけど……これで良かったよな?」

プロデューサーさんは仏です。もりくぼが会議室にいることを悟って、最善の対応をしてくれていました。
そして、最大の脅威が去ったことを知って、胸をなで下ろしました。

「んで、あの二人以外は森久保を心配しているけど、……今日は帰るか? 確か今日はお仕事もレッスンの予定も無かったよな?」
「え、ええ……いえ、せっかく来ましたし……ちょっと寄ってきます。美鈴ちゃんも輝子ちゃんも、いますよね……?」
「ああ、めっちゃ心配してたな」
「でしたら……行きます。もし、かな子さんと凛さんが戻ってきたら……また、かくまってください」
「もちろん」

こうして、もりくぼのサンクチュアリは、元の、プロデューサーさんの机の下に戻りました。
ええ、また机の下です。いきなり戻ってこられたら……ということを考えると、やっぱり、ここが安全です。

事務室に戻ると、本当に皆さん心配していたようで、手厚く、もてなされました。
机の下に入れてもらい、そこから会話に参加していました。

もちろん"森久保王子"の話題にはなりましたが、もう歌のあの場面の再現をやろうという話にはなりませんでした。

智絵里さんが、
「私もお姫様役、やってみたかったんですが……おかしな国の魔法にかけられたくないので……」
と言ったのを皮切りに、
「アドリブで何か付け足すのは、もうやめたほうがいいかもね。乃々って的確にツボを突いちゃうからさ」
「ウチも興味はあるけど、確かに怖いな……何を言うかだけは気になるぞ」
「わ、私はそもそも、キノコの国の女王様だから……」
という反響がありました。もりくぼの作詞力が、生かされすぎたのでしょうね……と言うと、自慢みたいでイヤですけど。

もしかしたら、もう王子役なんて、やらなくてもいいのかもしれませんね。
「じゃあ、もりくぼ、もう王子やらなくて、いいですよね?」
そんなことを呟いてみました。

「いや、ハマリ役だろ」
プロデューサーさんから、すかさずツッコミが入ります。
他のみなさんも同調していました。

「王子様は王子様でも……机の下の国の王子様になりたいんですけど……」
「「そんな国ないだろ!!」」

今度はプロデューサーさんと美玲さんから同時に突っ込みが入りました。
見事なハモリに、ちょっと笑ってしまいました。


「あれ、今、乃々の声が……」
扉の方をこっそり見ると、そこには、かな子さんと凛さんが立っていました。

~~~~~~~~~~~~~~~

「やっぱり乃々ちゃん、王子様のファッション、似合うね」
「うん。思った通り」

どうやら二人が私を探していたのは、もりくぼにピッタリの王子様っぽい服を借りたので、それを着せてみたかったから、みたいでした。
それを聞いたプロデューサーさんは
「すぐに終わるなら森久保もいいだろ?」
と、もりくぼを差し出しました。

一着しか借りていないみたいで、ちょっと見たらそれでいいとのことだったので、もりくぼも承諾しました。
そこまでひどいことにならないと分かっていたら、必死に逃げたり、会議室なんかに閉じこもったり、そんなこと、しなくて良かったと思うんですけど……
「もりくぼ、逃げなくてもよかったんですね……取り越し苦労でした」
何はともあれ、二人とも割と分別があってよかったです。暴走していたように見えたのは、気のせいだったんですね。

「いや、実はレッスン中にちょっと頭が冷えて……実は、もっと王子様っぽいこと、やってもらおうかな~とか思っていたんだけど……怯えていたのもあって、考え直して」
かな子さんから、衝撃の真実が。
前言撤回です。逃げて正解でした。

かな子さんと凛さんには結局見つかってしまいましたが、何事もなくて、本当に良かったです。
そう思っているところ、もう一人、事務所にやってきたようでした。

「おや? あそこにいるのは……王子様……?」
扉の方をみると、そこには日菜子さんが立っていました。

「これが噂の森久保王子ですね……むふ……むふふ……」
そんなことを口から漏らしながら、もりくぼに、ゆっくりと近づいてきます。
もりくぼと身長は大差ないはずなのに、ものすごい威圧感を感じます。

「話に聞いていたより、素敵ですねぇ……ひょっとして、王子様、私を迎えにきてくれたんですか?」
「いいえ、王子様は私のことを迎えに来てくれたんですよ」
「ううん、乃々は私のだよ。むしろ私が迎えにきたんだよ」

いつの間にか、日菜子さん、かな子さん、凛さんで、なにやら言い合いをしています。これ、演技ですよね……? 凛さんだけ、なぜかもりくぼを名前で呼んでいるんですけど……

「やっぱり王子様なんて、むーりぃー!」
思わず、また私は、走って逃げたのでした。


おしまい

森久保には古典的なオチが似合うと思うんですけど……
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