もこっち「モテないし雨に降られる」 (34)

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!の二次創作です、よろしくおねがいします。

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~~~~


???「...」


────ザァァァァァァァ...

耳障りなほどに鳴り響くその音はガラス越しでさえも。

鼻に香るのはインクの匂い、髪の長い彼女は複合商業施設のある区画に居た。


もこっち「...めっちゃ降ってるな」ボソッ


もこっち(...たまに1人で寄り道すると、コレだ)


もこっち(どうしてこんな日に限って傘を忘れるんだ...)


もこっち(みんなと一緒に帰れば、傘に入れてもらえたかもな...)


もこっち(...とりあえず、雨が弱くなるまでこの本屋で時間潰すか)


もこっち(まぁ、立ち読みができる本屋で良かったか...なんの本を手に取ってみよう)


もこっち「...お」


もこっち(この本屋アメコミも置いてんのか)スッ


そこには洋書の翻訳本が並べられていた。

数々の名作、映画などで見知ったタイトルが並ぶ。

その中で選ばれたのは、彼女がなにも意識せずに手にしたのは。


もこっち(分厚いな...)


もこっち「...」ペラッ


もこっち(うわ、グロ系か...?)


もこっち(つーか何だこの主人公...変なマスクだな)


もこっち(...まぁ全身タイツじゃないだけ、抵抗なく見れるな)


もこっち「...」ペラッ


本人は試し読みのつもりであった。

しかし、傑作というものはとてつもない魔力秘めている。

CDのジャケ買いにも近い、わずか数ページで彼女は感じ取ってしまった。


もこっち「おぉ...」


もこっち(...コレ、かなり面白いかもしれないな)


もこっち(うおおお、久々にキたな...ゆうちゃんやガチレズさんに貸したあのマンガ以来か?)


もこっち(買ってみるか...ちょっと高いけど、小遣いはまだあるし)


もこっち「...買おう」スッ


伊達に分厚いだけはあるその値段。

学生には高めの値段を誇るがそれを厭わなかった。

だがレジにソレを置いた瞬間、彼女は1つのある思考を巡らせた。


もこっち(...あ)


もこっち(これ買わずに傘を買えば良かったかもしれん)


もこっち(...もう遅いな、店員がもうレジ打ってるし)


もこっち(衝動買いだな、財布の中すっからかんになっちまった)


もこっち(まぁいいか、作曲もできやしないのに音楽ソフト買った時に比べれば...)


もこっち(これは本だし...最低でも暇は潰せるはず...)


もこっち(あとは、これを読んで雨が止むのを待つとするか)


もこっち(読み始めであそこまで世界観に引き込まれたんだ...買って間違いではないはず...)


もこっち(...雨には降られたけど、久々にぼっちで過ごすのも悪くなかったな)


~~~~


~~~~


もこっち「...ふぅ」


彼女が座り込んだのは。

複合商業施設にありがちな休憩場所。

なにもないところにポツンと置かれた無機質なベンチ。


もこっち(平日の夕方だし、人少ねーな)


もこっち(...さて、読むか)


もこっち「...」ペラッ


──ザァァァァァァ...

眼の前にはガラス張りが。

そこから伺えるのは強めの雨たち。

その小うるさい音が彼女の読書を加速させる。


もこっち「...」ペラッ


もこっち(...この主人公、容赦ねーな)


もこっち(私もこのぐらいの思い切りが欲しいかもな)


もこっち(...でも、昔に比べれば私も度胸がついたって思える)


もこっち(以前なら人の視線が気になって、こんなところじゃ読書なんて無理だったはず)


もこっち「...」ペラッ


読書家としての血が騒ぐ。

仮に周囲から白い目で見られたとしても。

彼女はただひたすらに傑作を読み耽る、妥協などするモノか。


~~~~


~~~~


もこっち「...」ペラッ


???「...っ!?」ピクッ


長らく読み耽ることだけをしている。

そんな彼女の後ろ姿を偶然見かけたのは、監視者。

金髪で顔の作りがとてもさっぱりしているあの子。


うっちー「...」


うっちー(なんで、こんなところに黒木がっ!?)


うっちー(しかも、ベンチでなんか読んでるし...)


うっちー「...」ジー


もこっち「...」ペラッ


周囲の視線など無視、本に全ての意識を注いでいる。

話しかけられない限り彼女は俯いたまま読書を続けるだろう。

そんな静かな彼女を見せられては、出会えた興奮を抑え冷静にならざる得なかった。


もこっち「...」ペラッ


うっちー「...」


うっちー(...久々に黒木と会った気がする)


うっちー(青学時以来かな...いや、前に電車で見たけど...これは思い出したくない)


うっちー(...どうしよう、話しかけていいのかな)


~~~~


~~~~


もこっち「...ふぅ」ペラッ


もこっち(...あ、ヤベ...集中しすぎてた)


もこっち(今何時だ...って、もう1時間経ったのか)


────ザァァァァァァァァ...

時間は過ぎていったというのに。

相も変わらずの天候、弱くも強くもなっていない。

どちらにしろ傘を忘れた彼女は、未だに帰ることができない。


もこっち(...どうしよう、最悪お父さんかお母さんに迎えに来てもらおうかな)


もこっち(つってもまだ、16時だし...18時ぐらいまで様子見してみるか)


もこっち(...このアメコミもまだ、区切りのいいところじゃないしな)


もこっち「...へへ」


心の中でそのような言い訳を思いつく。

思わず笑ってしまうほど、傑作に飲まれてしまっている。

彼女は好きなことに没頭しすぎるタイプ、オタク特有の集中力の持ち主である。


もこっち「...」ペラッ











────BeHinD yOU










もこっち「...うお」


そんな時、ページをめくったらそこには。

お前の後ろだ、コミックにはそう描写されていた。

その痺れるような構成展開、この世界観に飲み込まれている彼女はつい後ろを。


もこっち「...」チラッ


うっちー「────えっ!?」ビクッ


もこっち「────おわっ!?」ビクッ


思わず声を上げてしまった。

偶然通りがかったと思われる主婦がその様子に驚いていた。

そんなこともつゆ知らず、同級生である彼女らは目を合わせたまま会話を始めた。


うっちー「...」


もこっち「...えっと」


うっちー(な、なんで急に振り向いたの...!?)


もこっち「あ、ど...どうも...内さん...へへ」


うっちー「あ、うん...く、黒木は...なにしてたの?」


もこっち(こっちのセリフだわ...なんで絵文字の奴がここに...)


もこっち「う、内さんこそ...どうしてここに?」


うっちー「...寄り道して、ここを通りかかっただけ」


もこっち「お、おぉ...」


うっちー「それで、なにしてるの?」


もこっち「...マンガ読んでたんだけど」


うっちー「...ワンピース?」


もこっち「いや、違くて...ほら、これだよ」スッ


うっちー「...」ジー


うっちー「...アメコミ?」


もこっち「え、知ってるの?」


うっちー「いや、私アメコミは映画のアベンジャーズしか知らない」


もこっち「そ、そうなんだ...」


うっちー「...」


もこっち「...」


──ザァァァァァァ...

雨の冷たい音が鳴り響く。

それに伴うのは、重苦しい空気感。

漂う沈黙が時の流れを止めたかのように。


うっちー「...帰らないの?」


もこっち「え? あぁ...傘を忘れちゃってね」


うっちー「...今日は夕方過ぎまで降るって予報だけど」


もこっち「え、そうなんだ...まぁ、マンガ読んで時間潰してるよ」


うっちー「そ、そう...」


もこっち「...」


うっちー「...」


もこっち(...いつまで居る気だ、絵文字の奴)


もこっち(何話していいかわかんねーな、青学の時は適当に目についたモノを話題にしてたけど...)


もこっち(まぁ加藤さんならともかく絵文字だし、そこまで気を使わなくていいか...って────)


────むずっ...

鼻に感じる強烈な違和感。

冬ではないにしろ、雨の日の気温というモノは。

決して侮ってはならない、それを告げるために身体が警告を促した。


もこっち「────くしゅんっ!」


うっちー「──っ!?」ピクッ


うっちー(なに今のキモいくしゃみ!?)


もこっち「──うあ...」タラッ


もこっち(やべ...鼻水が出てるかもしれん...ティッシュどこだ...)ゴソゴソ


うっちー「あ...く、黒木...ティッシュいる?」スッ


もこっち「あ、ありがとう...へへ...」


手渡されたポケットティッシュ。

安価なモノだろう、ソレは鼻をゴワゴワと包み込んだ。

ポケットに入れられたからか、人肌の温度を保つティッシュが妙に心地よかった。


うっちー「...寒くないの?」


もこっち「え? ま、まぁ...ちょっとだけ肌寒いかな?」


うっちー「...だったらさ────」


~~~~


~~~~


もこっち「...」


うっちー「...」


複合商業施設特有の雑多感が醸し出す。

人混みの最後尾あたり、2人が並ぶのは学生の列。

考えるのは同じなのか雨宿りに選ばれたこの店とは。


もこっち「...こ、混んでるね」


うっちー「そうだね」


もこっち(ウチの学校以外の学生も多いな...考えることは同じか)


うっちー「...く、黒木は...コーヒーとかよく飲むの?」


もこっち「え? あ、あんまり飲まないかな」


うっちー「...そう」


もこっち「...本当に奢りでいいの?」


香るのはコーヒーの深い趣。

先程の衝動買いの影響で彼女の財布は空に。

だからこそ先程はベンチに居た、それ故に連れ出した彼女はこう述べる。


うっちー「いいよ、連れてきたのは私だし」


もこっち(...絵文字の奴って、私によくモノくれるよな)


もこっち(あんまり仲良くないけど、貰ったからにはお礼を言うべきだな...)


もこっち「へ、へへ...あ、ありがとう」


うっちー「...!」


もこっち(...そういえば、絵文字ってどんな奴なんだろうか)


ふと過るのは彼女のことについて。

初めは無視されていたのに、どのタイミングで接してくれるようになったのか。

皆目見当がつかない、今できるのは自分の中で彼女の情報を整理することだった。


もこっち(修学旅行の時はあんまり関わらなかったよな...)


もこっち(でもいつからか、たまに何かくれるように...そんで距離感が微妙に近くなったんだよなぁ)


もこっち(どちらにしろ、私に関わってくれる理由が見えない...)


もこっち「...」ジー


うっちー「...な、なに?」


もこっち「あ、なんでもないよ...へへ...」


もこっち(...あと解るのは、髪型がゆうちゃんに似てるぐらいか)


そんなことを考えていると長蛇の列が解消されていく。

すぐそこには店員さんが、表情を崩さずに人混みを捌いている。

次の番が注文のタイミング、奢ってくれると豪語する彼女は促した。


うっちー「...なに飲むの?」


もこっち「えっと...どうしようかな」


もこっち(やっぱ奢られるのは慣れないな...高すぎず安すぎない奴を選ぼう)


もこっち(...お、あれとか良さそうだな)


~~~~


~~~~


うっちー「...席、空いてないね」


もこっち「う、うん...」


あたりを見渡してみると。

団欒している女学生たち、2人の世界に旅立ったカップル。

こんなところで勉強をしている学生、そして疲れ切ったサラリーマン。


もこっち(いろんな人が居るな、コーヒーぐらい一気飲みして私たちに席譲ってくんねーかな)


うっちー「あ、あそこ今空いた」


もこっち(...マジで一気飲みしてくれたんだろうか、って2人がけのソファか)


うっちー「座ろ?」


もこっち「おぉ...うん...」


もこっち(隣り合って座るしかないな...まぁ絵文字だしいいか、加藤さんとかだったらヤバかったな)


もこっち「よいしょっと...」スッ


うっちー「...なんでそれ頼んだの?」スッ


もこっち「え?」


テーブルに置かれた2つの飲み物。

1つはただのコーヒー、そしてもう1つは。

温かくて白い優しい飲み物、彼女はコーヒーを注文しなかった。


もこっち「いや...ちょっと気になって...」


もこっち(はちみつ豆乳がちょうどいい値段だったんだよ...)


うっちー「ふーん...」


もこっち「...」


もこっち(...さて、どうするか)


もこっち(このままだと、特に会話もすることなく過ごすことになるが...)


うっちー「...」


もこっち(流石に奢ってもらっといてずっと黙ってるのは悪いな...なんか話題でも見つけるか)


その時だった、彼女は動いた。

自分のコーヒーにミルクを入れるために。

適当に入れたと思われる白が、黒の表面を彩った。


もこっち「あ...」


うっちー「...なに?」


もこっち「いや...それ...」スッ


うっちー「...あっ」


指を向けられようやく気づけた。

その着眼点はまるで子どものような鋭さ。

大人になるにつれ、どこかに置いてきた想像力がここに。


うっちー「...ハートみたい」


もこっち「え...」


もこっち(私にはケツに見えたんだが...)


うっちー「...」ジー


もこっち(ハートを見つめてやがる...意外と少女趣味なのか?)


もこっち(もっとドライな奴だと思ったんだが...よくわからない奴だな)


もこっち(...私も飲むか、豆乳なんて久々に飲むな)


もこっち「...」スッ


もこっち(...お、意外とはちみつがたくさん入ってる)


人の内面というモノは見えない。

この飲み物と同じである、蓋を開けてみないと。

それに人によって見え方は違う、ハートがお尻に見えたり。


もこっち「あ、そうだ...コレ、一緒に読む?」


うっちー「...え?」


もこっち「面白いよ、ちょっと小難しいけど...」


もこっち(一緒に読めば、無駄に喋らなくて済むしな)


うっちー「...うん、読む」スッ


1冊の分厚い本を手に。

すると隣の少女は見やすさを得るためか。

もしくは彼女に近寄るためなのか、身を近づけてきた。


もこっち「うお...」


もこっち(...絵文字ってこんな匂いなのか...ゆりやネモ、加藤さんとはまた違うな)


うっちー「...なに?」


もこっち「い、いや...なんでも...へへへ」ペラッ


うっちー「うわ...グロ系?」


もこっち「そんなにグロくはないよ...中盤までしか読んでなかったけど」


──ペラッ...!

初めて読む彼女に合わせて。

途中まで読んでいたページを開かずに、一番最初のページを。


もこっち(...そういえば2年初めの頃、漫画雑誌を話題にして友達を作ろうとしたな)


もこっち(あの頃から考えると...まさか絵文字と一緒に同じ漫画を読むことになるとは...)


もこっち(...誰かと一緒の本を読むのなんて、ガキの頃の弟以来だな────)


~~~~


~~~~


もこっち「...」ペラッ


うっちー「...」ジー


────ザァァァァァァ...

窓際の席だからなのか。

店内の小うるさい様々な音は彼女らの耳に入らず。

聞こえるのは外の雨の、そしてコミックから想像させられる耽美的な音。


もこっち「...」スッ


うっちー「...」ジー


もこっち「...」ゴクッ


マンガに意識を向けながら手を伸ばした。

そこにはマグカップが、とても甘い白い飲み物があるはず。

だが彼女の舌が感じたのは、甘味とは程遠いほろ苦いなにかであった。


もこっち(...あれ、苦い)


うっちー「...あ」


もこっち(やべ、間違えて絵文字の飲み物飲んじまった...)


もこっち「ご、ごめん...間違えた...」


うっちー「...いいよ、黒木なら」


もこっち「...え?」


その言葉にどのようなモノが込められているのか。

やはり内笑美莉という女はわからない、想定がつかない。

少ないながらも友達と言える人々を見てきた、だが彼女のような人物は。


もこっち(...やっぱ、わからない)


もこっち(私だけなんだろうか、他の人は絵文字のことをしっかりと理解してるんだろうか)


もこっち(この女、ムズイな...ネモみたいにわかりやすければな...)


もこっち「...」


うっちー「...なに?」


もこっち「いや、なんでもないよ」


もこっち「...間違えたし、奢ってもらったし...よかったら私のも一口飲む?」


もこっち(まぁ、1つわかったのは回し飲みが苦手じゃないって事だな)


うっちー「...飲む」


もこっち「は、はいどうぞ...」


うっちー「...」スッ


────くぴっ...

可愛らしく、両手でマグカップを。

今まで彼女が飲んでいたこの飲み物を。

はちみつが多いのか、それとも別の要因が彼女の舌を淡く刺激したのか。


うっちー「...キモあまい」


もこっち「あ、やっぱりそう思う? 店員がはちみつ入れすぎたんじゃないかな」


もこっち(...キモあまいってなんだ?)


~~~~


~~~~


もこっち「...」ペラッ


うっちー「...」ジー


────ザァァァァァァ...

容赦のない雨、天気予報は大外れ。

時刻はすでに夕方を終えたというのに。

尤も、終えたのは彼女らも同じであった。


もこっち「...おぉ、終わった」


うっちー「...こんなヒーローもいるんだ、アベンジャーズと全然違う」


もこっち「そうだね、しかも見方によってはサイコにしか見えないし...」


うっちー「確かに...このヒーロー、絶対に妥協しなかったしね」


もこっち「...ただ、面白かったのは間違いない」


うっちー「...言えてる」


もこっち「...って、もうこんな時間か」


うっちー「もう2時間も経ってる...」


もこっち(熟読しすぎたな...ってか1つの飲み物だけでよく居座れたな、私たち...)


ただアメリカンコミックを読むだけ。

だが、2人は濃密な多幸感に包まれていた。

傑作を読破できたからか、それとも隣の人物と少しばかり打ち解けたからか。


うっちー「まだ、雨やんでないけど」


もこっち「うわ、マジか...どうしよう」


うっちー「...私は傘持ってるから、駅まで送ろうか?」


もこっち「...え?」


うっちー「どうするの?」


もこっち「そ、それは流石に悪いよ...」


うっちー「...でも、このままじゃ帰れないじゃん」


もこっち「...」


~~~~


~~~~


もこっち「...」


うっちー「...」


──ぱたたたたっ...ぱたっ...

女性用の小さな、花柄の傘。

ソレが2人の少女を雨から守ってくれる。

なんとも言えない防御の音が、やけに心地よかった。


もこっち(相合い傘か...ヤンキーの時以来だな)


もこっち(...本当に、絵文字の行動が読めん...昔は私のこと無視してたのに)


もこっち(今は、優しくしてくれるというか...なんでだろう)


うっちー「...く、黒木の家って駅から近いの?」


もこっち「え? あ、うん...走れば5分くらいかな...」


うっちー「なんなら、黒木の最寄り駅まで送るけど...」


もこっち「そ、それは流石に申し訳無さすぎるかな...」


うっちー「...そうだよね」


もこっち「...」


────ザァァァァァァァ...

特に仲がいい訳でもないのに。

なぜ彼女は優しくしてくれるのだろうか。

彼女はどうのように、どこを見てくれているのだろうか。


もこっち「...」


もこっち(...私と絵文字って、どういう関係なんだろうか)


もこっち(友達でいいのか...? でも仲良くなったきっかけが全然わからない...)


もこっち(ディズニー行ったときか? いや、でもその前からお菓子とかくれてたしな)


もこっち(...うーん)


うっちー「...」ジー


小難しいことを考えていると。

片方の肩を濡らしこちらを見つめている乙女が。

だが彼女は気づけない、成長した度胸故に人の視線に鈍感になっている。


もこっち「...」


もこっち(...なんだろう)


もこっち(あんまり仲良くない奴に優しくされるのって、ゾワゾワするはずなのに...)


もこっち(コイツだとそう感じない...やっぱり、私の中で友達って認識なんだろうか)


もこっち(...友達、か)


彼女には友達といえる存在が少ない。

故に初めてなのかもしれない、自分の中で友達という概念と向きあったのは。

今まで流れで表に出していなかったその喜びが、思わずこの雨の水と伴に流されてしまう。


もこっち(...あれ)


もこっち(嬉しいのか、これ...?)


もこっち(...やべ、なんか顔が勝手に────)


もこっち「...へへ」


うっちー「...!」


うっちー(なんか急に笑いだした...!?)


うっちー(キ、キモ────)


────ズキッ...!

その時、心に一撃が御見舞される。

彼女のキモいと言うワードは純度100%の悪口ではない。

だが友達ができたという感情で浮かび上がった彼女の笑顔は果たしてキモいのか。


うっちー「...」


うっちー(...別にキモくないか)


うっちー「...なんで笑ったの?」


もこっち「え...えっと...」


もこっち「わからない...友達と一緒に帰るのが嬉しかったのかも...」


うっちー「...今度、田村やまこっちとかと一緒に帰る時は私も誘って」


もこっち「...え?」


うっちー「"友達"と一緒に帰るの、嬉しいんでしょ?」


もこっち「...おぉ」


うっちー「あぁでも...田村は結構嫉妬深そうだから、いきなり私が居たら機嫌損ねそう」


もこっち「確かに...まぁそこがゆりちゃんの可愛いところなんだけどな」


うっちー「言えてる、そうだ聞いてよ、田村ってばディズニーの時に私のことを抓っ────」


顔見知り程度の彼女らの関係は進む。

既に空の雨雲はただの曇り空へと変わり果てたというのに。

2人の少女を包み込む花柄の傘は、一向に閉じる気配などなかった。


~~~~


~~~~


うっちー「...本当に、ここまででいいの?」


もこっち「大丈夫、雨も止んだみたいだし」


うっちー「そっか...じゃあ私は反対側の電車だから...」


もこっち「あ、うん...」


うっちー「...あのさ」


もこっち「ん...?」


うっちー「黒木って、絶対に妥協できないことってある?」


もこっち「へっ? さっきのアメコミの話?」


うっちー「そうだよ」


もこっち「...うーん、パッと出てくるモノはないな」


うっちー「そっか...」


もこっち「...内さんは?」


うっちー「...私にはあるよ、妥協できない事が」


彼女の瞳の奥にはなにが見えているのか。

アルマゲドンが到来しようと、彼女は絶対に妥協しない。

乙女の秘密事など、極めて解り辛く、極めてしつこいのだから。


もこっち「へぇ、どんな?」


うっちー「それは内緒、黒木には教えてやんない」


もこっち「なんだそれ...」


うっちー「ウケるでしょ」


もこっち「...へへ、そうだな」


うっちー「じゃあ、またね...また学校で」


もこっち「おぉ...じゃあな」


駅のホームというモノは残酷である。

隔てりを少しばかりなくした彼女らを簡単に引き裂く。

だが彼女らはまた会える、クラスは違えど同じ学校に通っているのだから。


もこっち「...」


もこっち(はちみつ豆乳のお礼も考えておくか...)


もこっち(それにしても、絵文字は何に対して妥協しないって言ったんだろうか)


もこっち「...あ」


エスカレーターを登りきると。

反対側のホームにはさっぱりとした彼女が。

すると気づけた、もこっちは彼女の内面をもう1つだけ知っていた。


もこっち「...」


もこっち(...そういえば、絵文字とはよく目線が合うんだよな)


もこっち(まるで、ずっと私を見てくれているような...って、そんなわけないよな)


もこっち(...手でも振ってやるか)スッ


────ひらひらっ...

絵文字のような無表情に近い彼女の顔つき。

だがもこっちにはそれが、いつもと違うように見えた。

まるでロールシャッハテストのような抽象的な表情を見ることができた。











(...絵文字の奴、今笑ったか?)



















~~おわり~~










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