黛冬優子「ふゆのプロデューサー」 (37)

あらすじ
二度寝をしたら、黛冬優子をプロデュースすることになりました。


シャイニーカラーズのアイドルが出るシンデレラガールズSSです。
冬優子W.I.N.G.未プレイで読むのは非推奨。

それでは、投下していきます。


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1 ハァトフル・フェアリイテイル・その1

283プロダクションに入社して数ヶ月。

この小さな芸能プロダクションの良いところは、出社時間に厳しくないこと。

二度寝をしてから出社をしたけれど、咎められるような時間ではない。

良いところ、2つ目。自席のカーテンを開けると日差しが入ること。

すりガラスを通した淡い陽光がデスクを照らす。

写真立てを起こすと、あの人の顔も照らされた。

「おはようございます。今日も良い天気ですよ」

鍵を開けて、デスクの引き出しから仕事用のノートパソコンを取り出す。

私の白い顔を認識して、画面が立ち上がる。

メールを確認しよう。事務所の整理整頓しかしていないのだから、仕事のメールが来るわけでもないのだけれど。

「おや……」

天井社長からメールが来ていた。朝一で来てくれ、と。

今は朝一だろうか、と思いながら、社長に会いに行くことにした。

2 ハァトフル・フェアリイテイル・その2

社長「おはよう、お前を待っていたぞ」

こう言われたが、遅刻ではなさそうだ。

P「おはようございます。お待たせして申し訳ありません」

この283プロダクションを束ねる天井社長、私をこの仕事に誘うくらいの余裕のある人物。雰囲気は……そう、ダンディというのが似合うだろう。

社長「お前には今日から、アイドルをプロデュースしてもらうと伝えていたが……」

社長「素晴らしい結果を期待させてもらう。私は甘くないぞ」

P「はい。よろしくお願い致します」

社長「よろしい。では、仕事の説明ははづきに任せて……」

ソファの裏で倒れていた七草さんを起こし、彼女から仕事の説明を受ける。

『W.I.N.G』、新人アイドルの祭典。

それが私の目標、いや、私と私のアイドルの目標。

P「それで……私のアイドルはどちらでしょうか」

3 ハァトフル・フェアリイテイル・その3

『スカウトしてこい』とは、予想外でした。

色々と回ってみましたけど……あまりピンと来る方はいらっしゃいませんね。

以前後学のために訪れたメイド喫茶の近くですが、ちょっと事務所の方針とは違います。私の目的とも。

今日はいったん引き上げましょうか……おや?

あの方……ずいぶん真剣に何かを見ている。

横顔でもわかる、まっすぐな眼。見ていると、引き込まれるような。

ピクリ、と。心臓が跳ねる音がした……気がする。

同じ眼を知っている、とてもよく。

声をかけてあげて、あの人が言った気がした。

違う、私の妄想だ。妄想だから……私の意思だ。

声をかけないといけない。

P「すみません。少しお時間を、よろしいでしょうか」

冬優子「はい、なんですかっ?」

P「そんな真剣に、何を見てらっしゃったのですか」

冬優子「わっ、真剣だなんて……ちょっと恥ずかしいです。これ、大好きなアニメのポスターなんです!」

女子小学生向けアニメのポスター。18歳くらいの彼女はメインターゲット層ではなさそうだ。

冬優子「とっても素敵なアニメなんですよ♪どの子もとっても可愛くて……」

聞いてもいないが、彼女は話はじめる。それはそれは楽しそうに。

冬優子「あ……ごめんなさい。ふゆ、ついつい夢中になってしまって……」

冬優子「そういえば、ふゆに何かご用事ですか?」

初対面の、無表情であることに評判のある、私相手でも全く物怖じしない。好きなものを語る彼女の笑顔は、何と言っても可愛らしい。

P「いいえ、こちらこそ突然申し訳ございません。用事と言いますか……」

P「私は、283プロダクションという芸能事務所でプロデューサーをしております」

P「アイドルに、興味はありませんか」

冬優子「……」

冬優子「それって、つまり……スカウトってやつですか……?」

興味はありそうですね。この方を、手放してはいけない

P「はい。あなたの、眼に、強く惹かれました」

冬優子「興味……ない……わけじゃ、ないです……」

P「それなら」

冬優子「……でも、その前にひとつ、教えてほしいことがあります」

冬優子「……本当に、ふゆがアイドルになれると思いますか?」

冬優子「アイドルって、とっても魅力的な女の子だけがなれる。きっと、そんな特別な存在だって思うんです」

冬優子「可愛くて、かっこよくて、キラキラしてて……」

冬優子「……ふゆとは正反対の女の子ばかり」

彼女が何を想定しているかわかりませんが、正反対とはどういう意味でしょう。

冬優子「……ふゆが、そんな女の子に……そんなアイドルに、なれると思いますか?」

P「なれます。なって、ください」

冬優子「……!」

冬優子「……だったら」

冬優子「ふゆ、アイドルやってみたいです!」

P「本当、ですか?」

冬優子「はい!ふゆは、黛冬優子って言います。『ふゆ』って呼んでください」

まゆずみふゆこ。彼女らしい響きの名前。私と同じで冬の生まれなのでしょうか。

冬優子「プロデューサーさん。これからふゆのこと、よろしくお願いしますっ」

笑顔が可愛い方だ。だけれど……あの眼は……。

冬優子「あの……プロデューサーさん?」

P「いえ……なんでもありません。これから、一緒に頑張りましょう」

冬優子「はい、期待に応えられるよう精いっぱい頑張ります♪」

きっと大丈夫だ。彼女となら……私だって変われる。

ひとまず、安心しました。

いきなり『スカウトしてこい』は無茶だろう……見つかってよかった。

4 サンライズ・その1

P「掃除をしたはずなのに、何か落ちて……これは、冬優子のケータイのストラップですか?」

冬優子「あっ、ありがとうございます!金具が壊れちゃったみたいですね……」

冬優子「これ、お友達にもらったものなんです。ふゆはわかんないんですけど、アニメキャラらしくて……」

マスコットキャラのようですね……。

P「珍妙なデザインですね」

冬優子「確かに、ちょっと変わった子ですけど……」

冬優子「でもでも、大事なお友達にもらった子なんです。そういわれると、ちょっと……ショックです……」

ケータイにつけてたくらいでしたものね……思い入れがあったようです。

好きなものを珍妙と言われるのは気分がよくはない。

言葉遣いには気をつけましょう、私もプロデューサーなのですから。

P「留め具をつけなおしましょうか?金属は直せませんが、紐ならできますから」

5 ワンダフル『ドリィミィ』デイズ

冬優子「わぁ、この写真も素敵……なんだが、ふゆじゃないみたい!」

冬優子はどの現場でもスタッフに好印象です。

この前も『可愛らしい子』、『いつもにこにこしてる』と褒められました。

だけれども……。

冬優子の良いところは、それだけなのだろうか。

冬優子の、一番の魅力は……。

私が黛冬優子に望むことは……。

冬優子「プロデューサーさん……?」

P「申し訳ありません。少し考え事をしていました」

P「もう挨拶は終わりましたか、冬優子」

冬優子「もう。冬優子じゃなくて『ふゆ』って呼んでくださいって言ってるのに」

P「親御さんからお預かりしている身です。そういうわけにはまいりません」

冬優子「でも、いつもお仕事のサポートありがとうございます♪」

P「ここまでは、私は冬優子が上手くやっていることを見ているだけです」

P「ところで、今日のお仕事はいかがでしたか」

P「これまで少しずつ仕事をしてきました。冬優子は、どんな仕事が楽しかったですか」

冬優子「えへへ、どのお仕事もとっても楽しいです」

P「そうですか……」

しかたない、私の方で考えてみましょうか。

冬優子「プロデューサーさん、急にどうしたんですか?もしかしてふゆ、何か失敗しちゃいましたか……?」

P「そんなことはありません。少し考え事をしていました、冬優子はどんなアイドルになるのかを」

冬優子「ふゆが、どんなアイドルに……?」

P「はい。アイドルの仕事は様々です、バラエティ、モデル、ミニライブ……」

P「冬優子の意思が一番大切だと考えています。どんな仕事が楽しかったですか?」

冬優子「わぁ、ありがとうございます♪え~っと……ふゆはぁ~……」

冬優子「……ふゆは……」

冬優子「……」

あの時と同じ眼が見えた。でも、すぐにその表情は消えてしまう。

冬優子「えへへっ、どれも楽しくって、と~っても迷っちゃいます♪」

冬優子「そうだ、プロデューサーさん。ふゆからも質問して、大丈夫ですか?」

P「構いません。どうぞ」

冬優子「プロデューサーさんは……」

冬優子「ふゆは、どんなアイドルになれると思いますか?」

きっと、私だったら言ってもらいたいことを言うことにした。

立場は違えど、どこか私達は似ているのだから。

P「冬優子が望むアイドルになりましょう」

冬優子「ふゆが望む……でも、それは……」

思ったような反応は来ず、彼女は顔をそらす。

P「どうかされましたか?」

冬優子「もし、ですよ?もし……」

冬優子「もしふゆのなりたい姿がみんなの求めているものじゃなかったら……」

冬優子「ふゆは、どうすればいいんですか?」

P「……申し訳ありません、意図がつかめません」

冬優子「……いえ!すみません、なんでもないです」

冬優子「……えへへ。なりたいアイドル、いっぱい考えてみますねっ!」

これは夢の話なのですから、本音を言って欲しいのですが……そんな風に、はにかまれたら追及もできません。

あの人の微笑みにも、よくごまかされました。最期まで、本音を言ってくれない。どんなことでも、私には宝物になるはずだったのに。

……あの人と冬優子は違いますね。

冬優子の答えを待つことにしましょう。

『W.I.N.G.』にも、夢の終わりにも、まだ早いのですから。

5 オーディション合格1

P「冬優子、合格おめでとうございます」

冬優子「プロデューサーさんっ、ふゆのこと、見てくれましたか!?」

P「はい。素晴らしかったです、想像以上でしたよ」

冬優子「えへへっ!すっごく嬉しいです!」

冬優子「審査員に褒められるのも嬉しいんですけど……ふゆ、プロデューサーさんに褒められるのが一番好きです!」

P「私でいいのですか……あまり意味はないかと、私の言葉など」

冬優子「プロデューサーさんが、いいんです!」

冬優子「だからこれからもふゆのこと、いーっぱい褒めてくださいね!」

P「そうですか……善処させていただきます」

6 セクション1(クリア)

P「冬優子、『W.I.N.G.』一次審査通過です」

冬優子「ほ、本当ですか!?わあっ……」

冬優子「まだまだ最初だってわかってるんですけど……とっても嬉しいです……!」

P「私も嬉しいです。本当におめでとうございます」

冬優子「ふふ……全部プロデューサーさんのおかげです」

冬優子「プロデューサーさんがスカウトしてくれたから、ふゆはこうして、ここにいるわけですし」

冬優子「改めて、お礼を言わせてください……ありがとうございます」

P「頭を下げる必要はありません。今までの結果は、冬優子自身の努力の成果ですから」

冬優子「そ、そんなことありませんっ。ふゆなんて、全然……!」

P「私はずっとそばで見てきました。あなたの努力だと、わかります」

P「笑顔を絶やさずに頑張れることは、並大抵のことではありません」

冬優子「……えへへ。こうして最初の審査を通過できたのも嬉しいですけど」

冬優子「プロデューサーさんがそう言ってくれるのが何よりとっても嬉しいです」

冬優子「もっともっと、みんなに楽しい気持ちを届けられるように頑張ります」

冬優子「そのためにも……これからもよろしくお願いします♪」

P「はい。冬優子が笑っていられるように、私もお手伝いします」

彼女には笑っていてほしい。笑わなくなった私のようには……ならないでしょうけれど。

7 サンライズ・その3

冬優子「あの、プロデューサーさんっ!プロデューサーさんに食べてほしくって、作りました!」

P「冬優子、どうされましたか?これは、スコーンですか」

冬優子「えへへ、あんまり自信ないんですけど……どうぞ、召し上がってください♪」

P「ありがとうございます。小腹が空いていました。いただきます」

美味しいですが……かなり甘めですね。

P「私はもっと甘くないほうが好みです。例えば、ジャムとあわせるような」

冬優子「わぁ……!プロデューサーさんは、大人の味がお好みなんですね!」

冬優子「ふゆ、また作ってきます!今度は、美味しいっていわせちゃいますよ♪」

お茶菓子作りなら私は得意なのですが、やる気があるうちは自発的にやってもらいましょう。

コーヒーでも用意しておきましょうか、粉コーヒーはせっかちな冬優子にちょうど良いでしょう。

8 脚本通りの茶番劇・その1

P「冬優子、今よいでしょうか」

冬優子「もう、冬優子じゃなくて『ふゆ』ですよ♪なんですか?プロデューサーさんっ」

P「既に説明していますが、今日の仕事は大きいです、今までと比べて」

冬優子「はい、いただいた企画書、いーっぱい読みました♪」

冬優子「ふゆも好きな雑誌の、ピンナップ……うう、緊張しちゃいます~……」

P「何より……今日のカメラマンは厳しい人です」

P「腕は間違いありません。この撮影を乗り越えて、ステップアップしましょう」

冬優子「はい!ふゆ……精いっぱい頑張りますね!」

気合は入っていますね。上手くいくと信じてみましょう。

9 脚本通りの茶番劇・その2

冬優子「こう、ですかっ?」

カメラマン「もっと自然に笑って。今のままじゃ固すぎるよ」

冬優子「す、すみません……えっと、自然に……!」

カメラマン「ダメダメ。それじゃあ、さっきと変わらないよ」

状況はよくありませんね……先ほどからOKが全く出ていません。何を力んでいるのでしょうか。

冬優子「あの、うまくできなくて、すみません……」

カメラマン「……君は笑顔を作るのは上手いよ」

カメラマン「でも、それはしょせん作り物だ。君の笑顔は本物じゃない」

冬優子「!」

カメラマン「まぁ、それでも何枚かマシなものが撮れたからね」

カメラマン「満足とは程遠いけれど、これで切り上げよう」

10 脚本通りの茶番劇・その3

冬優子「……」

P「冬優子、OKは出たのですから落ち込むことはありません。経験の浅く不慣れな時は、力みや緊張は抜けません。慣れていきましょう」

冬優子「……不慣れだから、本物の笑顔が作れないって?」

P「……冬優子?」

冬優子「何が本物の笑顔よ!んなもん知らないわよ!」

冬優子「こっちはちゃんと仕事してんのにワケわかんないこと言うなっての!」

P「気持ちはわかりますが……いつもの冬優子らしくありませんよ」

冬優子「何よ、いつものふゆって!あんたがふゆの何を知ってるの!?」

冬優子「ほんとの顔……ほんとの笑顔……それのどこがいいの!」

冬優子「ほんとのふゆを知ったらみんな嫌いになるくせに!!」

同じ眼だった。会った時と同じ、あの表情。

P「冬優子、落ち着きなさい」

冬優子「……あ……」

冬優子「……はっ、どうしたの?これがほんとのふゆ……だけど?お望みのね」

違う。これじゃない。これは偽物だ。本当の冬優子は……。

P「冬優子……私は」

冬優子「ほら、やっぱりそーゆー顔する。ほんとの顔なんて見せたら、みんなふゆを嫌いになるんだ」

冬優子「……笑っちゃうわ」

冬優子「ほら、あんたも、ふゆに幻滅したでしょ?」

幻滅はしている。今の私が考えていることを、汲み取れない冬優子に。

何も気づいていないとでも思っているのか。私は冬優子のプロデューサーなのに。

P「そうではないかと、思っていました」

冬優子「はっ……何それ、負け惜しみのつもり?」

P「冬優子はいつも何を言われても笑っているだけでした。それは、本質的には無表情であることと変わりません」

P「抑えきれない、燃え続けている気持ちを押さえつけているのではありませんか。隠せるようにずっと逃げられると思っているのですか」

冬優子「っ!」

P「ようやく、冬優子の魅力を確信しました」

P「燃え盛る気持ちを正面から叩きつける姿勢と、その眼。それが、冬優子の武器です」

冬優子「……はぁ?何それ。適当なことばっか並べないでよ!」

P「私が適当な御託を並べていると思っているのですか。はっ……ここまで物分かりが悪いとは思いませんでした。わかりました、言いましょう」

P「ウソの笑顔を張り付けたまま、本当の気持ちを永久に燻りさせるつもりですか。それでいいのですか。それでいいわけないでしょう」

冬優子「うっさい!ほんとのふゆに魅力なんてないんだから!」

冬優子「だって……こうでもしなかったら……ふゆは……」

P「待ちなさ……行ってしまいました」

追って、喝を入れましょうか……いいえ、やめましょう。

冬優子が自分の意思で決める時です。

魔法使いには既に出会っているのですから。

11 セクション2(クリア)

冬優子が『W.I.N.G.』の二次審査を通過した連絡が来ました。

しかし、冬優子は事務所に来てくれない。

電話にも出ませんし、仕方がありません。メッセージで伝えましょう。

『通過、おめでとう』

『冬優子は三次審査も通過できるはずです。私はそう信じています』

気の利いたことでも書ければいいのですが、素気ない文面になってしまいました。

『事務所で待っています』……いや。

もう一言だけ。

『冬優子に、私と同じ思いはさせたくありません』

信じています、私のように愚か者ではないことを。

今日は帰りましょう。

ノートパソコンの電源を落として、デスクにしまう。デスクのカギを全てかける。

写真立てを寝かせた。事務所の明かりから遮って、安心できるように。

P「おやすみなさい。また明日」

12 諦めたくないものはたったひとつ

今日は冬優子との打ち合わせですが……連絡は相変わらずありません。

無理にやらせてもよいことはありません。アイドルとは別の道に進むのであれば、そのためのアドバイスも考えましょう。どんな道でも、不幸にはなっては欲しくない。

冬優子「……おはよう、ございます」

P「冬優子、おはようございます。来てくれたのですね」

冬優子「仕事なんだから……当たり前でしょ」

冬優子「ま、本当はアイドルなんて辞めて、あんたからも逃げようと思ってたけどさ」

P「心変わりしたのですね、理由を聞かせてください」

冬優子「……ほんっとにデリカシーないわね、あんた。まあいいわ、特別に教えてあげる」

冬優子「……アイドルなんて、ちやほやされるためのもの……だから、それができないならもう興味ないって思った」

冬優子「でも、辞めようって考えてから、なんていうのかな……」

冬優子「胸のあたりに、ぽっかり穴が空いた気分になったの」

冬優子「それで……ずっと家で、今までやった仕事のこと、思い出してた」

冬優子「どんな小さな仕事も……全部、すごく楽しかったなって」

P「……」

冬優子「ふゆは、さ、まぁ、今まで他人からどう見えるかをずーっと意識してたわけ」

冬優子「どうやったらもっと可愛いって思ってくれるか、もっとふゆをすごいって思ってもらえるかって」

冬優子「でも、アイドルを始めてから……他人から評価されることより、仕事をするのが楽しかった」

冬優子「少しづつ仕事が大きくなっていって……ちょっとずつ成長できてるって、実感みたいのもあって」

冬優子「もしかしたら……ふゆもキラキラできるかもしれないって、期待しちゃった」

冬優子「でも、本当のふゆは……っ」

P「冬優子、無理に話すことはありません。本心を吐露することは、辛いことです」

冬優子「……うっさい。お願いだから……今は黙って聞いて」

冬優子「ふゆはね、ほんとはいい子じゃないし……」

冬優子「そんなの、隠そうとしても隠しきれるもんじゃない」

冬優子「結局あんたにもバレちゃった訳だし。じゃあいつもみたいに逃げようって」

冬優子「でも、あんたに言われた言葉を思い出して……逃げるのはやめた」

冬優子「そんで……考えた」

冬優子「ふゆはどんなアイドルになりたいのかって」

P「答えを聞いていませんでしたね、待っていました」

冬優子「あの時ちゃんと答えられなかったけど、ふゆが本当になりたかったのはね……」

冬優子「『これがふゆ』って、胸をはれるアイドル」

冬優子「だから……」

冬優子「あの……さ、プロデューサー」

P「言ってください」

冬優子「私……」

冬優子「もう一回……アイドル、やりたい……!」

冬優子は、凄いなと思う。臆病な私とは違う。もしも……私が同じように踏み出そうとしたのなら。あの人に、打ち明けていたら。そんな時に欲しい言葉は……受け止めることを示す言葉。

P「おかえりなさい」

冬優子「!……あ……」

冬優子「……ぷ、プロデューサー、ごめんなさい……」

冬優子「ごめんなさい、ひどいこと、いっぱい言って……!ぐすっ……」

P「構いませんから、泣かないでください」

冬優子「ぐすっ……ぐすっ……」

こんなに泣かせるとは想定外でした。さて……どうしましょうか。

冬優子「ふゆのこと、なんも知らないなんて……そんなこと、そんなことないのに……」

冬優子「プロデューサーは……ふゆよりちゃんと、ふゆのこと、見てくれたのに……」

いや、しばらくはこのままにしておきましょう。

下手に声をかけると、私が泣きそうなことに気づかれてしまうから。

冬優子「ほんとに、ごめんなさい。それから……」

冬優子「ありがと、プロデューサー……」

P「お礼を言うのは、私のほうです。ありがとう、冬優子……」

あの日の私が救われた気がした。

そして……冬優子はもっと多くの人を幸せにしていく。きっと、そうだと思える。

涙声を隠しきれたでしょうか……いや、それでもいいでしょう。

弱い部分も共有してこそ、パートナーなのでしょうから。

13 オーディション不合格2

冬優子「……ねぇ、今日のふゆ、何がダメだったの」

P「冬優子は良かったですよ。しかし、相手がいるものですから理想通りにはいきません」

冬優子「でもふゆはダメだったじゃない!」

冬優子「……あんたの慰めなんていらないの。大事なのは次にどうすればいいかってだけなんだから」

P「それでは、こうしましょう。帰ったら愚痴を聞きますよ、いかに落ち込んだか、いかに悔しいか、いかにあのクソ審査員は見る目がないか、話しましょう」

冬優子「へ?あんた、何言って……」

P「冬優子なら、良いことも悪いことも、自分の成長に変えられるはずです」

P「次は誰にも文句を言わせないパフォーマンスを見せられるように」

冬優子「……そうね、それも悪くないかも」

冬優子「次はぜーったい、見返してやるんだからね!」

14 セクション3(クリア)

P「冬優子、待ってくれていたのですか」

冬優子「……まあね」

P「七草さんから結果を教えていただきました。三次審査は……」

冬優子「待って!」

P「どうか、なさいましたか」

冬優子「今、心の準備するから……お願い、ちょっと待って」

冬優子「すー……はー……すー……はー……」

冬優子「……よしっ、いいわ!」

P「そんなに身構えなくても。三次審査も通過しました。冬優子、よくがんばりましたね」

冬優子「へ……」

冬優子「……ほんとに?ほんとなの?あんた、嘘とかついてないでしょうね!?」

P「本当です。誤魔化しの嘘をつくなど不誠実なだけでしょう」

冬優子「よ……よかった~~」

P「そんなに心配していたのですか?私は通るものだと思っていましたが」

冬優子「だって、今のふゆじゃ絶対通らないって思ったし……」

冬優子「だから、ダメだったって言われても泣かないようにって、覚悟してたのに……」

冬優子「ふゆ、まだ頑張っていいんだ……」

P「諦めなければ、頑張ることはできます。これからも続けていきましょう」

冬優子「……あっはは、当ったり前じゃない!」

冬優子「ふゆはこんなところで止まらないんだから!」

15 サンライズ7

冬優子「あ、メッセージ……もう」

P「冬優子、何かありましたか」

冬優子「家族がね、ふゆが載ってる雑誌を見たんだって……ちょっと恥ずかしいわね」

P「家族に見られて恥ずかしいというのは私にはわかりませんが……」

P「絶対に目に入る大きい仕事なら、どうでしょうか」

冬優子「あはは!それ、いいわね!」

冬優子「いつどこにいてもふゆが目に入る……そんな毎日にしてあげるわ!」

私の家族やあの人がいたのなら、冬優子の大きな仕事を自慢したのに残念です。

さて、ふゆが目に入る毎日へのシナリオでも考えましょうか。

まだ新人ですから、次も雑誌ですけれど。いつの日か。

16 さぁ、幕を開けましょう!・その1

冬優子「今日の雑誌の撮影……この編集部さん、前にもお世話になったところよね」

P「その通りです。スタッフもほとんど同じと聞いています」

P「つまり、撮影はあのカメラマンです」

冬優子「……そう」

P「冬優子、やれますか」

冬優子「はっ……誰に向かって言ってんの?」

冬優子「ぐう根も出ないくらい完璧なふゆを見せてあげるんだから!」

冬優子「だから……」

冬優子「えへへっ♪ちゃーんと見ててください、プロデューサーさん♪」

P「もちろんです。さぁ、行きましょうか」

17 さぁ、幕を開けましょう!・その2

冬優子「おはようございます!今日はよろしくお願いしますっ」

冬優子「わあっ!編集長さんも来てくださったんですね!えへへ、期待に応えられるよう頑張ります♪」

ここまではいつも通り。カメラマンは、いかがでしょう。

冬優子「……カメラマンさん、今日はよろしくお願いします」

カメラマン「……ああ、よろしく頼む」

私が緊張する必要はありませんね。今の冬優子であれば、心配など無用でした。

滞りなく進む撮影を眺めながら、つい口元が緩むのを自覚する。

カメラマン「……その表情!ポーズを変えていくつか撮っていくぞ!」

冬優子「はい!」

カメラマン「うん、その調子だ!」

よし。冬優子、その調子です。力みも緊張もない……張り付いたウソの笑顔じゃない。

カメラマン「次は……一番の笑顔、見せてみろ!」

冬優子「……はいっ!」

冬優子「……」

カメラマン「……なるほど。それが、本当の笑顔なんだな」

冬優子「はい……これも、ふゆのほんとの笑顔です♪」

カメラマン「……悪くないな。じゃあ、その顔でいくつか撮ろう」

よしっ……!偏屈な職人肌の人物を納得させて、良い仕事をさせた。やはり、冬優子には……。

カメラマン「撮影はここまでだ。お疲れ様」

冬優子「はい、ありがとうございました!」

カメラマン「……また仕事できることを楽しみしてるよ」

冬優子「っ……!こちらこそ、またよろしくお願いします♡」

18 さぁ、幕を開けましょう!・その3

冬優子「……よ……」

冬優子「よっしゃー!目にものを見せてやったわ!あーっはっは!」

P「はしたない。口には気を付けてください」

冬優子「何よ、本当のことでしょ?」

冬優子「あんただって『よしっ……!』って顔してたじゃない」

P「あまり表情には出ないと思っていましたが……わかりましたか」

冬優子「あははっ!もうふゆを止めるものはいないんだから!」

P「はい。私も頑張らないといけませんね」

冬優子「は?なんであんたが出てくるわけ?」

P「私は燻ったまま消えていった人間だから……わかるのです。冬優子が自身の燃えるような気持ちを表現できることは武器です」

P「そんな冬優子を見ている人は思うはずです、自分も燻った炎を燃やすことができると」

P「冬優子には、人を奮い立たせる力があります。私も、その一人です。お礼を言わせてください……ありがとうございます、冬優子」

冬優子「そ、そう?……ふゆの力、か……」

冬優子「ま、確かに?あんたはふゆのプロデューサーなんだし?もっともっと頑張ってもらわないと困るわね!」

冬優子「ふゆはこれから、ちょっとだって立ち止まってあげないんだから!」

P「ええ、前へ前へ行ってください。私も、追いかけますから」

19 サンライズ8

冬優子「プロデューサー、ちょっとこの企画書見てくれる?」

P「それは『アイドルの意外な一面大公開』の企画書ですね……気になることでもありましたか」

冬優子「意外な一面って言われても、ふゆ、何すればいいかわからないんだけど……」

P「冬優子の意外な一面ですか。そうですね……」

P「実は面倒見がいい、というのはいかがでしょうか。冬優子は人を見る力には長けていますから面倒を見るのも得意なはずです」

冬優子「な、なに言ってんのよ……!?ふゆが、そんなことあるわけないでしょ……!」

冬優子「……あんたがそういうなら、そう見えることもあるかも、しれないけど……」

猫かぶりが返って、自分勝手なイメージを与えることは彼女に黙っておきましょう。意外な一面ですから、そういう意味だと。

私が見ている、自然体の冬優子ならそんな誤解もないのですが。

20 オーディション直前6

冬優子「どうしちゃったの、ふゆ……本番前に緊張するなんて、情けないわね、ほんと……」

少し体が震えていますね……本当に緊張しているのでしょう。

P「冬優子らしくありませんよ」

冬優子「確かに、そうね、こんなのふゆらしくない」

冬優子「もっとふゆらしく、ステージやってやろうじゃない!」

P「緊張はとれましたね、全力を見せてやりましょう。冬優子らしく」

21 サンライズ9

P「冬優子、それは料理の本ですか?」

冬優子「うん。最近仕事ばっかでしてなかったからね」

冬優子「たまには新しいの作りたいな……って。何よ、変な顔して」

P「料理好きだったのですね。今度食べさせてください」

冬優子「な……っ……だ、ダメなわけじゃ、ないけど……」

冬優子「ふゆの手料理は特別なんだから、ちゃーんとわかってるんでしょうね?」

P「もちろんです。楽しみにしていますよ、手料理ほど美味しいものはこの世にありませんから」

22 セクション4(クリア)

P「冬優子、朗報です。『W.I.N.G.』出場が決まりました」

冬優子「……そう、なんだ」

冬優子「……でも、本番はこれからだし。気を引き締めなくちゃね」

P「冷静ですね。嬉しさよりも他の気持ちが強いのですか」

冬優子「うっさい!……そういうこと言わないで」

冬優子「……ほんとは、飛び跳ねたいくらい嬉しいの」

冬優子「でも、喜ぶのは『W.I.N.G.』で優勝するまでとっとくことにしたの」

冬優子「だから、本当に喜ぶのは優勝した時だけ。こんなところでなんか、喜んでやらないんだから」

P「そうですか、冬優子らしい」

冬優子「……言っとくけど、あんたもだから」

P「はい?」

冬優子「あんたも、この後『W.I.N.G.』で優勝して、好きなだけ喜ばせてあげる」

冬優子「だから今、参加できるだけでみっともなく騒がないでよね」

P「騒いでいるつもりはありませんが……わかりました」

P「しかし、気負いすぎはいけません。私や誰かのためでなく、冬優子自身のために頑張るのですよ」

冬優子「……今まで何も背負わないようにしてたんだもん。こんくらい、軽いもんよ」

P「えっ……」

冬優子「あんたを次は泣かせないで思いっきり笑わせてあげるわ……なによ、驚いたような顔して」

P「何も背負わないようにしていたのに……どうして……」

冬優子「いつも普通じゃないけど、今が一番おかしいわよ」

P「……なるほど、それが強さの秘密なのですね。勝ってください、冬優子」

23 夢の終わり

P「冬優子、これから時間はありますか。『W.I.N.G.』出場も決まりましたから、お祝いもかねて夕食にでも」

冬優子「いいけど……あんたが選ぶお店、高級というかかたっ苦しいから緊張するのよね。もっとふゆの好みにあわせて欲しいんだけど」

P「そうなのですか。お祝いだから、あのようなお店を使うものと」

冬優子「今までどんな生活してたのよ……ふゆは家族とあんなお店行ったことない」

P「それでは、四川料理を出すお店にしましょうか。以前ランチで使っていました、夫婦2人で営む小さなお店です」

冬優子「そうそう、今はそのくらいでいいの……って、ふゆが辛いもの好きなの言った?」

P「甘いもの好きそうなことを言っておいて、あまり食べていないので。もしかしたら、と。それに、本当に甘党なら甘すぎるだけのスコーンなど作りませんから」

冬優子「墓穴をほった……まぁ、いいわ。お腹すいちゃったから、早くしてよね」

P「はい。帰り支度をしますので、待っていてください」

冬優子「ねぇ、プロデューサー」

P「ノートパソコンの電源オフ……カギもよし、カーテンをしめて……冬優子、何か?」

冬優子「写真立ての、金髪美人は誰なの?学生服を着たあんたと一緒に写ってる人。10年前くらい?」

P「……」

冬優子「やっぱり……聞かないほうがよかった?」

P「いいえ。亡くなりましたが、私の大切な人です。名前は……」

冬優子「どうしたの?」

『起きて』

P「名前は……黒埼ちとせ。私の大切な……」

『魔法使いさんが来るよ、私の僕ちゃん?』

P「お嬢さまは……ここにはいないのですか……」

『起きて』

24 二度寝の朝

黒埼ちとせ「あっ、やっと起きた♪おはよう」

白雪千夜「お嬢さま……!」

ちとせ「あらあら、抱き着いてくるなんて今日は甘えん坊さんね。それと、寝坊助さん」

千夜「……」

ちとせ「よしよし……もう、平気。怖い夢だったの?」

千夜「悪い夢……だったのでしょうか」

ちとせ「優しそうな顔してたから良い夢だったとばっかり」

千夜「悪い夢ではなかったような……お嬢さま、今何時ですか」

ちとせ「7時30分くらい」

千夜「30分ほど二度寝をしていたようですね……朝食の準備を」

ちとせ「コーヒーを飲んだから平気。千夜ちゃんはお仕事に行く準備をしないと」

千夜「仕事……」

ちとせ「魔法使いさんから電話があったよ。迎えに来るって」

千夜「私に直接電話をすればいいものを。お嬢さま申し訳ありません、身支度をします」

ちとせ「うん。お仕事、がんばってね♪」

25 現場でのご挨拶

CuP「千夜ちゃん、撮影手順は大丈夫?」

千夜「問題ありません。最初の挨拶と、それからステージで1曲披露すること。リハーサルと本番で一度ずつ」

CuP「新人アイドルがステージをかけてLIVEバトル、観覧者投票で勝敗が決まる」

千夜「勝者への景品は、もう1曲披露する機会」

CuP「全国ネットのテレビですからねぇ、勝ったら知名度を上げるチャンスですよ」

千夜「お前は暑苦しいです。わかっています、そんなことは」

CuP「まぁまぁ、そう言わずに。相手は『W.I.N.G.』の優勝者。千夜ちゃんの評判をあげるチャンス、勝っちゃおうか」

千夜「……『W.I.N.G.』を優勝したのですか?」

CuP「え?資料に書いてあったと思うけど」

千夜「……そうなのですか。流石ですね」

CuP「彼女はいつもニコニコしてるし、評判も悪くないけれど、粗相のないようにね」

千夜「それは同じか……しかし、こちらから楽屋まで挨拶に行くほどでしょうか」

CuP「うちは芸能事務所としては大手だからね、ふんぞり返ってるようには見られたくないからさー。相手が誰であれ、挨拶に出向くのが得」

千夜「そうですか。弱小部署なのに、そこだけは大手気取りなのですね」

CuP「社内の状況なんて世間は知らないからねぇ。さて、準備はできた?」

千夜「いつでも構いません」

コンコン……

CuP「失礼します。346プロです、ご挨拶に参りました」

283P「どうぞ。これはご丁寧にありがとうございます」

CuP「本日はよろしくお願いします。千夜ちゃん、こちら283プロダクションのプロデューサーさん。ご挨拶を」

千夜「346プロダクションから参りました。白雪千夜と申します。本日はよろしくお願いいたします」

283P「よろしく。言葉使いが丁寧で羨ましい。冬優子も挨拶を」

冬優子「はいっ。黛冬優子です、今日はよろしくお願いしますね♪」

CuP「前評判通りの可愛らしさですね。今日はよろしくお願いします」

冬優子「可愛いだなんて……照れちゃいます。白雪さんこそ、肌が白くてお人形さんみたい!」

千夜「……」

CuP「『W.I.N.G.』を優勝された、ということで注目していました。今日は胸を借るつもりで行かせてもらいます」

283P「いえいえ、346さんから言われるなんて畏れ多いです」

冬優子「白雪千夜さん、今日は一緒に頑張りましょうね♪ふゆ、負けませんから!」

千夜「……」

CuP「白雪さん、ほら」

千夜「……バカバカしい、失望しました。仲良くしたいのですか、私と。はっ……本気で来ないなら、あなたに価値はありません」

冬優子「は……?」

千夜「ウソの笑顔などいりません。失礼します」

CuP「千夜ちゃん、待って……行ってしまいました。すみません、慇懃無礼なもので。悪い子ではないんですよ」

冬優子「……いいえ!ふゆも本番前なのに緊張感が足りませんでした。私の出来ることやりきますって、伝えてくださいっ」

CuP「そう言ってくれるとありがたいです。でも、そんなところも可愛いんですよ」

冬優子「えぇ……あっ、ふゆもそう思います!」

CuP「どちらが勝手も恨みっこなしで。今日はがんばりましょう!」

冬優子「はいっ!」

283P「ああ言われたらやるしかないな。冬優子、いけるか?」

冬優子「プロデューサー、あの子の資料かして」

283P「はい、どうかした?」

冬優子「普段はユニット組んでるのよね、名前は」

283P「ベルベットローズという2人組ユニットです。メンバーは黒埼ちとせさん」

冬優子「ふーん……そういうことなら、やってやろうじゃない。プロデューサー、お願いがあるんだけど」

283P「なに?」

冬優子「出番、先にして」

26 燃える気持ちの行方

司会「勝者は、283プロダクション、黛冬優子さんです!」

冬優子「やりましたっ!」

千夜「……負けましたか」

司会「白雪さん、残念でした。今のお気持ちを」

千夜「全力を出せる相手に恵まれて感謝します。悔いはありません、ありがとうございました」

司会「名誉ある敗者、白雪千夜さんを盛大な拍手でお送りください!」

千夜「……失礼します」

CuP「おかえり、それとお疲れ様。結果は残念だったね」

千夜「いえ……当然の結果だと思います」

CuP「あのパフォーマンスだもんなぁ。『W.I.N.G.』の時よりダンスが上手くなりすぎだよ。先攻を選ぶだけの自信も感じた。気持ちもバシバシ伝わってくるし、それに」

千夜「……ええ」

CuP「あのパフォーマンス見せられたら、こっちも全力でやるしかない。千夜ちゃん、これまでで一番だったよ」

千夜「ええ……疲れました。もう1曲はできません、負けて助かりました」

CuP「はははっ、ラッキーだったかな。楽屋に戻る?」

千夜「いいえ。ここで見ます」

CuP「わかった。タオルと飲み物持ってくるから、座ってなよ」

千夜「上着もください。気が利きませんね」

CuP「要望を言ってくれてありがたい。走ってくる」

千夜「なれたみたいですね……あなたが望むあなたに」

27 夢の後先

千夜「はい……負けてしまいました……楽しそう、ですか……そうかもしれません」

コンコン……

CuP「千夜ちゃん、今大丈夫?」

千夜「どうぞ」

CuP「黛さんが挨拶に、って。僕はちょっと外すからよろしくね、慇懃無礼だけどいい子だから」

冬優子「はいっ。346プロのプロデューサーさん、案内ありがとうございます♡」

千夜「来客です……はい、また夜に」

冬優子「……」

千夜「お待たせしました、黛さん。先ほどはご無礼を」

冬優子「別にいいから。電話していたのが、黒埼ちとせっていう人?」

千夜「そうですが……あなたには関係ないことです。素晴らしいパフォーマンスでした。これからも期待しています」

冬優子「お堅い挨拶を聞きに来たわけじゃない」

千夜「……」

冬優子「今朝、変な夢を見たわ。あんたが、私のプロデューサーになる夢。あんたも見たんでしょ?」

千夜「……ええ。見ました。不思議なこともあるものですね」

冬優子「そっちの、ふゆはどうだったの?」

千夜「猫かぶりでウジウジとしていました。本当の自分を表現できずに燻っていました。アイドルから逃げようとして、でも戻ってきた」

冬優子「……どこまで知ってるわけ?」

千夜「『W.I.N.G.』出場まで。結果は、本番前に聞きました」

冬優子「私が見たあんたは、27歳だったわ。今よりも少し太ってた。でも、やつれて見えた。肌が白いから余計に」

千夜「……」

冬優子「お嬢さまも亡くなって、ただ生きてるだけだった」

千夜「今もそうです」

冬優子「下手な嘘つくんじゃないわよ。ステージ見たわ、違うのはわかってる」

千夜「……」

冬優子「寝るのが好きなんでしょ?あんた、夢の中でも会社のデスクで昼寝してた」

千夜「机で?そんな真似はしませんよ、はしたない」

冬優子「だから、夢の話。時々寝ながら泣いてたわ。あんたは後悔してた」

千夜「……」

冬優子「怖くて、畏まった態度で本心を隠してた。でも、あんたの内面はそんなに穏やかじゃないわ。ごうごうと燃えてるのに、消せもしないで燻ってた。自分はそうなのに、ふゆにはそうなって欲しくないって言ってたわ」

千夜「……」

冬優子「でも、安心しちゃった。燻ったままじゃ、あんたもふゆもいられないの」

千夜「ええ……そう思います」

冬優子「ぜったいに、後悔するんじゃないわよ。この仕事のことも、お嬢さまのことも」

千夜「わかっています」

冬優子「ふゆのパフォーマンス、届いた?」

千夜「はい」

冬優子「あんたもわかったでしょ、ふゆの力!」

千夜「存分に。先にステージに立ってもらい……私も、頑張れました」

冬優子「ふゆは止まらないわ。あんた、追ってくるつもりはある?」

千夜「追い越しますよ、必ず」

冬優子「はっ……いい度胸じゃない!ほら、これあげるから受け取りなさい」

千夜「連絡先カードですか」

冬優子「あんた、年下でしょ。仕事とか辛いことがあったら相談に乗るから。いいわね?」

千夜「お気遣いは感謝しますが……」

冬優子「そういうのいいから。もっと厄介なの相手してるし、実は面倒見がいいのは知ってるでしょ」

千夜「……はい。ありがとう、冬優子」

冬優子「ふふっ♪これからもよろしくね、千夜ちゃん♪」

千夜「気持ち悪い」

冬優子「あんたも口には気をつけるの。じゃあね!」

千夜「……さようなら」

千夜「……」

CuP「話は終わった?仲良くなれそう?」

千夜「お前」

CuP「なに?」

千夜「私も……彼女の様になれるでしょうか」

CuP「あの猫かぶりに?やめた方がいいんじゃない?」

千夜「お前、気づいていたのですか」

CuP「僕もこの業界長いからね。可愛いし気が利くからあの子は猫かぶりでいいんですよ。ともかく、千夜ちゃんが真似するのはムリだと思う」

千夜「そう言う意味ではありません。お前はバカですか」

CuP「それじゃあ、どういう意味?」

千夜「人の心を鼓舞し……勇気を与えられるアイドルに」

CuP「そっちは頑張り次第かな。やってみる?」

千夜「……考えておきます」

CuP「今日は疲れただろうし、帰ろうか。たまには、ご飯でもごちそうしようか?僕の給料に見合うお店になるけど」

千夜「結構です。お嬢さまがお待ちですから」

CuP「わかった。車持ってくるからエントランス集合ね」

千夜「はい」

千夜「……」

千夜「私も頑張ります……あなたのように」

おしまい

あとがき

叙述トリックで夢オチ。タイトルはパチモンにしました。
21まで冬優子のセリフはほぼ写経ですが、ハートフル・フェアリーテイルの一言だけ抜きました。抜いたのは『お兄さん』です。あと、はぁと。

似たような時期に登場したのもあって、もしかして相性が良いのではと思っていた。
冬優子は千夜ちゃんに良い影響与えられるけど、逆が足らない気がするな、というのが書いてみた感想。別事務所のライバルくらいの関係性がよさげ。

7人が行く・EX2に戻ります。
更新情報は@AtarukaPで。

それでは。

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