【バンドリ】白鷺千聖「癒されたい」 (20)


※キャラ崩壊してます


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――ファーストフード店――

奥沢美咲「どうしたんですか、藪から棒に」

白鷺千聖「たまにそういう気分になるのよ」

美咲「へぇ……珍しいですね。白鷺先輩がそんなこと言うなんて」

市ヶ谷有咲(……私としてはこの3人でテーブル囲ってる方が珍しいけどな……)

有咲(つかなんで白鷺先輩がいるんだよ……。奥沢さん、「寄り道しない?」なんて誘ってきた時になんも言ってなかったじゃん……)

美咲(……とか思ってそうだなぁ市ヶ谷さん)

美咲(すいません、白鷺先輩に誘われたなんて言ったら市ヶ谷さん来てくれなさそうだったから黙ってました。先輩とマンツーマンじゃちょっと怖かったんです)

美咲(かといってこころやはぐみを誘ったらどうなるかなんて想像もしたくなかったから、常識人なあなたを頼りました。ごめんなさい、恨むなら破天荒なこころとはぐみを恨んでください)

千聖「美咲ちゃん、有咲ちゃん、どうかしたの? なんだかお互いをチラチラ見合ってるけど」

有咲「い、いえ、なんでも……」

美咲「あー、気にしないでください」

美咲「それより、珍しいつながりで言えば白鷺先輩からあたしたちにお誘いをかけるのも珍しいですね。何かあったんですか」

千聖「……たまにはね、私も吐き出したくなることがあるのよ」

千聖「ハッキリ愚痴を言わせてもらうと芸能活動シンドイです……なんてね」

有咲「それ別のアイドルの歌じゃないですか……」

千聖「今日はそういう気分なの」

美咲「どうしてそれにあたしと市ヶ谷さんを呼んだんです?」

有咲(私は知らないうちに巻き込まれてただけだけどな)


千聖「花音」

美咲「はい?」

千聖「花音に癒されたいからよ」

有咲「はぁ……?」

美咲「それ、あたしたちと何か関係あります?」

千聖「あるわよ」

千聖「まず第一に、花音と私は親友と呼んでも足りないくらいの仲なのは周知の事実よね?」

有咲(初耳だけど……)

美咲(白鷺先輩と花音さんが仲いいのは認めますけど、あたしと花音さんの方がもっと仲いいですからね)

千聖「親友以上である私に見せてくれる花音も十分に癒される。だけどね、同じバンドの子、それと普段はあまり関りのない子に花音がどんな表情を見せるのか」

千聖「普段は見れない色んな花音。私はそれを知りたいの。それに癒されたいの」

美咲(あー、分かります分かります)

有咲(……それってここにいるの私じゃなくてもよくね?)

千聖「そして今日はここで花音がバイトをする日。あとは言わなくても分かるわよね?」

美咲「ええ、分かりました」

有咲(いや分からねーよ。白鷺先輩もおかしいけど奥沢さんも大概だよ。絶対めんどくさくなるやつじゃんこれ)

有咲(ああ……もう帰りてー……)


松原花音「お、お待たせしました、ポテトをお持ちしました」

千聖「ありがとう、花音」

美咲「こんにちは、花音さん」

花音「うん、こんにちは。えへへ、最近よく来てくれるね、千聖ちゃんと美咲ちゃん」

有咲(ああ居心地悪ぃ……仲の良い友達同士の中についうっかり紛れ込んだこの空気……)

有咲(香澄とかおたえならどうするだろうなー……多分まったくその場の空気なんか気にしねーだろうなー……)

花音「一緒に有咲ちゃんがいるのって、なんだか珍しいね」

有咲「ど、どうも……」

千聖「たまには、ね。色んな人と交流がしてみたいじゃない?」

有咲(どの口が言うんだよ。アンタ、松原先輩の色んな顔が見たいだけだろうが)

丸山彩「花音ちゃんごめーん! こっち手伝って貰っていいー!?」

花音「あ、はーいっ、今行きまーす! ごめんね、ちょっと今日忙しくて……」

千聖「いいのよ、花音。私たちのことは気にしないで」

美咲「頑張って下さいね」

花音「うん、ありがとね。それじゃあ、ゆっくりしていってね」ニコ

千聖「…………」

美咲「…………」

有咲「…………」


千聖「はぁ……あのふわふわした空気……癒される」

美咲「分かります」

千聖「なのに彩ちゃんときたら……もうちょっと1人で頑張れないのかしら?」

美咲「ですね。あのピンクの人はその辺の空気をもう少し読むべきですね」

千聖「まったくその通りね」

有咲(無茶苦茶だろそれ。なんで今日の白鷺先輩と奥沢さんはこんなにバグってんの?)

千聖「有咲ちゃんはどう?」

有咲「は、はい!? ど、どうって……何がですか?」

美咲「花音さんに癒されない?」

有咲「え、えーと……ちょっと、よく分からないかな……」

千聖「そう……なら語り甲斐があるわね」

美咲「ですね」

有咲(なんだよ語り甲斐って……どうして奥沢さんもそれに何の疑問も持たずに頷いてるんだよ……)

千聖「私ね、花音と旅行に行きたい」

美咲「へぇ、どちらまで?」

有咲(唐突すぎるだろ。なんで今日に限ってツッコミ放棄してんだよ奥沢さんは)

千聖「ロシアの星空を見に行きたいわね……極寒の中、身を寄せ合って歌でも歌いたいわ」

千聖「見上げてごらん 夜の星を……なんて」

有咲(……アイドルだけあってこんな時でも普通に歌上手いのがなんか癪だ)

千聖「でもね、やっぱりロシアは遠いわ。だから手近の北海道に行きたい」

千聖「飛行機でパッと行くのはちょっと違うから、電車で行くの。新幹線に乗って……そうね、青森まで」

千聖「東京を出て、車窓からの風景にどんどん緑が増えていく」

千聖「季節は6月がいいかしら? あまり暑すぎない日を選んで、雨が降ったら降ったでそれもいいわ。風流というものでしょう」

千聖「これからの旅に心が昂って、普段よりもはしゃいでいる花音を見ながら、新幹線は新青森駅に到着する」

千聖「そうしたら、タクシーでフェリーターミナルへ向かうの」

千聖「運転手さんに『デートですか?』なんて聞かれて顔を赤くする花音にちょっとイジワルしてるうちに、青森フェリーターミナルへ着いて……そこで気付くのよ」

千聖「うっかり時間を間違えていて、もう出港間もないって。だから2人で慌てて船に乗り込んで……」


――――――――――――


―― フェリー ――

花音「はぁ、はぁ……間に合った……。ちょっと危なかったね」

千聖「ええ……まさか出港と着港の時間を見間違えてたなんて……ごめんなさい、花音」

花音「え?」

千聖「私のせいでこんなに急がせることになって……もっとフェリーターミナルでゆっくりしたかったでしょう?」

花音「ううん、大丈夫だよ。むしろ私の方こそごめんね? 旅行の計画とか、ほとんど千聖ちゃんに任せっきりにしちゃって……」

千聖「ああ、そんなことは気にしないでいいのよ。私がやりたくてやってることだもの。それにほら、花音だって私と一緒にどこへ行きたいかって考えてくれたじゃない」

千聖「あなたとそういうことを話すのも楽しかったし、1人で旅程を練っているのも楽しかったわ」

千聖「花音は一緒にどこどこへ行きたいって話したりするの、楽しくなかったかしら?」

花音「ううん。すごく楽しかったよ」

花音「喫茶店とかで一緒に旅行雑誌を見てお話しするの、すごくワクワクしたよ」

千聖「私もそれと同じ気持ちよ。だから気にしないで」

花音「……うん、分かった。千聖ちゃんも、その、時間を間違えちゃったのとか気にしないでね?」

花音「きっとこういう失敗も旅行の醍醐味……っていうのかな? そういうのになると思うから」

千聖「ええ。ありがとう、花音。やっぱりあなたは優しいわね」

花音「う、ううん、そんなことないよ。でも、千聖ちゃんにそう言ってもらえるのはちょっと嬉しいな……えへへ」

千聖「ふふ……」

花音「あ、もう船が動き出すみたいだね。席に行こっか」

千聖「そうね。えーと、オーシャンビューシートは船首の方だから……こっちね」

――――――――――――


千聖「そんな風にね、ちょっとしたハプニングなんかもありながら、函館までフェリーで渡るの」

千聖「席はビューシート。船首の方にあって、席の前に備えられた窓から景色がよく見える」

千聖「でもね、港を出て30分もするともう海しか見えなくなるのよ、ああいう席って」

千聖「ほとんど何も変わらない景色。ただ波をかき分けて、ゆったりと、まるで動いてないみたいに船は進む」

千聖「中天を過ぎた昼下がりの陽射しが窓から差し込んできて、私たちの足元を柔く照らすの」

千聖「6月。無理を言って平日に旅程を組んだから、ビューシートに人は少ない」

千聖「静かな船室。次第に2人のささめきもなくなって、ただ穏やかな時間が流れるのを感じる」

千聖「言葉というものは人のコミュニケーションに欠かせないものだけど、果たして私と花音の間ではそれにどれほどの重要度があるのかしら」

千聖「そんなことを考えていると、隣に座る花音から小さな寝息が聞こえるの」

千聖「朝からはしゃいでいたし、きっと前日の夜もなかなか寝付けなかったんでしょうね」

千聖「それに胸がくすぐられるの感じながら、私もゆっくりと瞼を閉じる」

千聖「ある人が見ればそれはもったいないことなのかもしれない。けど、私にとってその時間はなにものにも代え難いわ」

千聖「そっと左手を花音の手に重ねて、その存在を、温もりを感じてまどろむ」

千聖「夢見心地、世俗との交差点。その間をたゆたうように船を漕ぐ」


千聖「そんな旅行を花音としたいの」

有咲(どこからツッコめばいいんだよ)

美咲「いいですね、それ」

有咲(ああもう、奥沢さんは奥沢さんでやっぱどっかおかしいし)

千聖「でしょ?」

美咲「とても癒されます」

千聖「有咲ちゃんはどう思う?」

有咲「え、えーと、まぁ……そうやってのんびりと過ごすのは癒される……んじゃないですかね、多分?」

千聖「そう……まだまだ花音の魅力を伝えきれていないみたいね。しょうがないわね、話を続けましょう」

有咲(言葉の割には嬉しそうな顔してないか……絶対松原先輩のことまだまだ話したいだけだよこの人……)

美咲「それで、フェリーで函館に着いたらどうするんですか?」

有咲(奥沢さんも先を促すなよ。もうお腹いっぱいだって私)

千聖「そうね……4時間弱の航路を終えたら、またタクシーで函館駅前に行って、まずは予約していたホテルにチェックインね」

千聖「東京を発ってから約10時間。部屋に荷物を置いて、少しゆっくりするの」

千聖「時刻は19時前。日没に合わせてホテルを出て、タクシーで函館山まで行こうかしら」

千聖「バスやロープウェイは混むし、そんな人が多い乗り物を使おうものなら私がフラ〇デーされてしまうもの。でも……ふふ、それも悪くないかもね」

有咲(おいおいアイドルだろアンタ。プロ意識の固まりだった白鷺先輩はどっか出かけてんのかよ。さっきからバグりすぎだろ)

有咲(ていうか同性の友達と旅行してるだけでフ〇イデーなんてされねーだろ普通)

有咲(その辺にツッコミ入れたいけど入れられる空気じゃねーし……奥沢さんは奥沢さんで真面目な顔して話聞いてるし……)


千聖「話が逸れたわね。それで、函館山の夜景を見に行くの」

千聖「山道は狭いから、時おり対向車線のバスやタクシーに道を譲って、私と花音を乗せた車はゆっくりと山頂へ進む」

千聖「徐々に目線が高くなっていく景色。茂った木々の隙間から見える華やかな灯り」

千聖「その中腹の時点でも十分に綺麗なのよね、ここの夜景って」

千聖「だから期待が煽られる。山頂からはどんな素晴らしい景色が見えるんだろうって」

千聖「私はそんなワクワクして楽しそうな花音を見ているだけで心が洗われるわ」

千聖「そして、函館山の頂上にタクシーは着くの」

千聖「車から降りてまず最初に目に付くのは人の多さ」

千聖「こんなに人が多い場所ではぐれてしまったら大変よね? だから……」


――――――――――――


――函館山 展望台――

花音「す、すごいいっぱい人がいるね」

千聖「ええ。やっぱり世界有数の夜景だけあるわね」

花音「うん……」

千聖「……花音? ソワソワしてるけど、どうかしたの?」

花音「あ、ううん、なんでも……なくはないんだけど……」

千聖「何かあるなら話してくれていいのよ。私たちの間に遠慮なんていらないわ」

花音「う、うん。それじゃあ、あの……はぐれちゃうと大変だから、ね?」

千聖「ええ」

花音「手、繋ぎたいなって、ちょっと思うんだ……」

千聖「……ふふ、花音とならいつだってそれくらいするわよ」

花音「ほんと? えへへ、ありがと。それじゃあ――」

千聖「でもそれだけだとはぐれてしまうかもしれないわ」

花音「え?」

千聖「それに、やっぱり標高が高いと少し冷えるわ。だから……この際だし、私と腕を組んでおきましょう」

千聖「そうすれば温かいし、はぐれる心配もなくなるわよね?」

花音「千聖ちゃん……」

千聖「花音は私と腕を組むの、お嫌かしら?」

花音「ううん、そんなことないよ」

千聖「ふふ、よかった。それじゃあ、はい」

花音「うんっ」ギュッ

花音「……えへへ、あったかいね」

千聖「ええ。これなら人混みの中に紛れても安心ね」

花音「そうだね。じゃあ、行こっか」

千聖「そうね。良い位置で景色が見られればいいんだけど……」

――――――――――――


千聖「そうして身を寄せ合った私と花音は、夜景が見えるところまで行くの」

千聖「最前列の手すりにはやっぱり人がいっぱいいて……でも、少し後ろの方からの景色もとても素晴らしいものだわ」

千聖「夜の帳が降りた街。そこかしこで煌めく灯り。その輝き1つ1つの袂に人の生活が根付いているんでしょう」

千聖「楽しくて笑っている人、悲しくて泣いている人、虚しくてぼうっとしている人」

千聖「顔も知らない誰かの生活を勝手に空想して、星座の線みたいに街の灯を結ぶ」

千聖「そうしている間に、ちょうど私たちの目の前の手すりにいた人たちが退いた」

千聖「自然と前へ足を動かす私と花音」

千聖「展望台の最前列、何も視界を遮るものがなくなった夜景」

千聖「思わず感嘆のため息が出る私と、「わぁっ」と目を輝かせる花音」

千聖「何かを話そうかと思った。何かを話したいと思った」

千聖「でも、同時に何も話したくないとも思った」

千聖「花音の声が聴きたい。だけど言葉を交わせば、この幻想的な空気がありふれた生活感に染められてしまうかもしれない」

千聖「少し迷って、結局私は何も喋らないの」

千聖「ただ、眼前の星空と街灯りを見つめ、右腕に花音の存在を感じている」

千聖「その温もり以上のものを求めるだなんてきっと罰当たりなくらい欲張りなことなんだろう」

千聖「そんなことを思って」


千聖「……はぁ、花音と旅行に行きたい。花音に癒されたい」

有咲(長々喋って結局それかよ)

美咲(分かるなー、あたしも花音さんの肩を抱きながら夜景見たいなー。でもあたしは花音さんの耳元で優しく愛を囁きたいなー)

有咲(奥沢さん、すげー真面目な顔してるけど絶対にロクなこと考えてねーだろうな)

千聖「どう、有咲ちゃん? これで分かってもらえたかしら?」

有咲「あー、えーっと……なんていうか……」

有咲(『そう言えばそんな話でしたね』なんて言ったらやっぱ怒るよな……でもただ妄想を聞かされてるだけにしか思えなかったっていうか……)

千聖「いまいちピンと来ていないみたいね……どこかに不備があったかしら」

美咲「ないと思いますよ、あたしは」

有咲(不備があんのはアンタら2人の頭だよっ、って言いてぇなー。怖いから言わないけど)

美咲「あ、もしかしてあれじゃないですか? 市ヶ谷さんって花音さんとはあんまり親交がないから……」

千聖「ああ、花音との日常から話をして普段のあの子の素晴らしさを1から教えないとダメってことかしらね。ふふ、しょうがないわね」

有咲「い、いえ、流石にそこまでして頂く訳にはいきませんので……」

有咲(どんだけ時間かかるんだよそれ。絶対今日1日で終わらないだろ)

千聖「そんな遠慮なんてしなくていいのに」

美咲「んー、じゃああれだ。花音さんじゃなくて、市ヶ谷さんの大切な人に置き換えて考えてみれば少しは分かるんじゃないかな?」

有咲「はぁ……?」

千聖「そうね。それは正確に花音の魅力とは言えないかもしれないけれど、今日のところは私の気持ちを分かってくれるだけでも十分だわ」

有咲(『今日のところは』ってなんだよ。まだ次があるみたいな言い方は止めろよな……)

美咲「それじゃあ大切な人を思い浮かべてみましょうか、市ヶ谷さん」

有咲「え、マジでやるの……?」

美咲「はい、マジです」

千聖「もちろんよ、有咲ちゃん」

有咲「えぇ……」

美咲「市ヶ谷さんの大切な人って誰だろ。やっぱりポピパの……」

千聖「……香澄ちゃん、かしらね?」

有咲「は、はぁ!? どうして香澄がここで出てくるんですか!?」

有咲「べべ、別にアイツは特別に大切な人とかそういうんじゃないし……」

有咲(それに香澄と2人っきりで旅行とか……まずアイツ、絶対に楽しみにしすぎて前日眠れなくて遅刻するだろ)


有咲(北海道まで行くんだから新幹線とフェリーの乗り継ぎに支障が出ちまうじゃねーか。ったく、そしたら前日に私の家に泊めるしかねーよな。まったくしょうがねー奴だよな、ほんと)

有咲(そんで夜遅くまで「旅行楽しみだねー! 行くとこ決まってるけど、私ここも行きたいなー。あ、でもでもこっちの観光も捨てがたいかも。ねぇねぇ有咲! 有咲はどっちがいいと思う?」なんてキラキラした目で聞いてきてお前早く寝ないと明日絶対起きれねーぞ何のために私の家に泊まってんのか分かってるのかよなんて言おうものなら「え? そっちの方が楽しいからじゃないの?」とかキョトンとした顔するんだろうなまったく本当に香澄はしょうがねーな)

有咲(で翌朝には案の定寝坊して慌ただしく準備してでもしっかりばあちゃんの朝ご飯は食べて出発してもう鬱陶しいくらいにテンション高くベタベタ引っ付いてくるんだろうな香澄は。……まぁ私もそういう時くらいはちょっとテンションも上がってるかもしれないな可能性としては。それと白鷺先輩の話だと松原先輩はフェリーで疲れて寝てたみたいだったけどどうせ香澄はずっと元気なままだろうなぁ。「見て見て、すごいよ、ずーっと海が続いてるよ!」いや見りゃ分かるってなんでそんなテンション高いんだよなんて返そうもんなら「だって有咲と一緒だし~えへへへ~」とか言うんだろうな。なんなんだよ私と一緒だからってふざけんなよまったくもう本当に仕方ないやつだなちくしょう)

有咲(香澄のことだから大人しく座席に座ってるなんてことはないだろうしきっと「甲板とかに出れないのかな? ねぇねぇ有咲、ちょっと探検しに行かない?」なんてことも言うだろうな。お前気持ちは分かるけどちょっと落ち着け。私はたまには香澄と一緒にのんびりしてたいんだよ。こうやって2人きりになるのって最近すごく少ないし私だってたまにはそういう気持ちになるんだよ察しろよ――なんて言っても察してくれないだろうな、って思いそうだけど、実際アイツはそういうところって結構鋭いんだよな。この前のテストとライブのいざこざは1000%私が悪かったし出会ってすぐの頃はおたえにばっか会いに行っててそりゃちょっと面白くはなかったけどでもなんだかんだで人の気持ちをちゃんと分かってやれる優しいやつなんだよな香澄って。だから人の悩みにはどんどん首突っ込んでくるのに自分のことになったら勝手に抱え込んで落ち込むし……いやまぁその辺りのことは私も人のことは言えないんだけど今はそういうのじゃなくて香澄のことだよ。とにかく考えなしに突っ走るようなやつに見えて実際そうだけどでもポピパで一番付き合いが長くて深いと言っても過言じゃない私からすれば香澄の人を思いやれる優しいところとかそういう良いところは眩しすぎて見えないくらいに分かってるからそれはそれでいいんだけどさ)

有咲(しっかし函館山か……確かにネットとかで見たことある夜景もすげー綺麗だったし実際に見たらものすごく綺麗なんだろうな。きっと香澄も目を輝かせるだろうよ。「上にも下にも、キラキラがいっぱいだよ有咲!」なんてな。でも私から言わせればお前の方がずっとキラキラしてるよやめろよそうやって無邪気で輝いた笑顔を見せるのは他のやつに見せたら色々勘違いさせちゃうかもだから私の前だけでしろよな、なんて思わず口から勝手に言葉が出ていきそうになるよまったくどういうつもりなんだろうな香澄のやつは。ああそうだ函館といえば五稜郭もあるな。夜景を見終わってホテルに戻ったらずっとはしゃいでた疲れが一気に出てすぐに寝そうだなアイツ。「ありさぁ……明日もたくさん遊ぼうね……えへへ、五稜郭って星みたいだしね……楽しみぃ……」なんて半分閉じかけた目で言ってきてさ、ああもう眠いなら早く寝ろっての。お前を起こす私の身にもなれっての。今日の朝はギリギリ踏みとどまったけどな、香澄の幸せそうな寝顔とかずっと見てたくなるし起こしたくなくなるんだよ。まったく出来ることなら起こさずにずっと眺めてたいっていう私の気も知らないでいいもんだよなお前は。……まぁそういうところがまたいいんだけどさ香澄は。なーんも考えてなさそうな寝顔を見てさ、なんか幸せだなって思って、でももしかしたらスペースのライブん時みたく色んなものを抱え込んでんのかもしれないんだよな。その全てを分かってあげたいなんて傲慢ちきな願いが叶うとは思わないけどでもその半分でも、4分の1でも、10分の1だっていいから私にも打ち明けて欲しいだなんて思って私もきっと眠るんだろうな。明日もいい日になりますように、なんて香澄が隣にいればそんなの当たり前のようにくるのに、殊勝に祈ったりなんかして……)


千聖「……有咲ちゃん?」

有咲「…………」

美咲「おーい、市ヶ谷さーん」

有咲「……はっ!?」

千聖「ずいぶん熱心に想像していたみたいね」

美咲「呼びかけても全然返事しなかったね。そんなに戸山さんとの旅行を考えるの楽しかったの?」

有咲「だっ、べ、別にそういうんじゃないから……! いや、そりゃ香澄との旅行なら楽しそうだなとは思ったけど、本当にそういうんじゃねーから!」

千聖「ふーん……」

美咲「へぇー……」

有咲(……なんか2人の視線が痛い。いやいやいや、私そんなにおかしなこと考えてなかったよな……あれくらい親友なら普通のことだよな……)

千聖「……なんていうか、有咲ちゃんってちょっとこう、イジワル――じゃなくて、構いたくなる性格してるわよね」

有咲「えっ」

有咲(今、明らかに『イジワル』って言ってたよな?)

千聖「ねぇ、有咲ちゃん。有咲ちゃんは香澄ちゃんとどんな旅行をしたいって考えていたの?」

有咲「え、いや、それは……」

千聖「私だけ話をして有咲ちゃんは話さないって不公平よね? 私にも教えてくれないかしら、香澄ちゃんとの旅行のプラン」

有咲「え、ええと……」

千聖「話せないの? 話せないようなほど過激なことを考えていたの? その内容が気になるわね。後学のためにも教えてもらえないかしら?」

有咲(……圧が強い!)

有咲(すごくいい笑顔なのになんか怖い!)

有咲(それにこの顔知ってる、沙綾が私をからかおうとしてる時の笑顔を何倍か凶悪にしたやつだよこれ!)


美咲「白鷺先輩、そこまでですよ」

有咲「お、奥沢さん……」

千聖「あら、私と有咲ちゃんの間に割って入って……どういうつもりかしら?」

美咲「どういうつもりもなにも、市ヶ谷さんは喋りたくないみたいですし……そんなに無理に聞き出すことでもないでしょう?」

千聖「へぇ……これが噂に聞く『彼氏面』ってやつかしら?」

有咲「か、彼氏面?」

美咲「なんですか、それ?」

千聖「ふふ、よく耳にするわよ。なんだか特定の女の子にはずいぶんと優しく、まるで彼氏みたいに接するみたいじゃない、美咲ちゃんって」

有咲「あー……」

美咲「え、『あー……』ってなにさ、市ヶ谷さん」

有咲「いや……端から見てるとりみによくそういう態度で接してるなって思って」

美咲「えぇ……そんなつもりないよ、あたし……」

千聖「つまり天然の女たらし、というやつね」

美咲「そ、その言い方はよくないですよ!」

千聖「でも今のあなたの行動はまさにそれそのものだと思うわよ? 可愛く怯える女の子を背中にかくまうだなんて」

有咲(……あれ? 今のセリフちょっとおかしくね? 普通は『怯える可愛い女の子』って言い方じゃね? いや、私は自分を可愛い女の子だなんて思ってないけどさ)

美咲「いやいやいや、こういう子って放っておけないじゃないですか。それだけですよ、あたしの行動は」

有咲「……奥沢さん、その行動は嬉しいけど多分そういうところだと思う」

美咲「うん? なにが?」

有咲「まったくの無自覚かよ……」

千聖「根っからのジゴロなのね、美咲ちゃんたら」

美咲「だ、だからそういう言い方は止めてくださいってば!」


花音「あ、あの……」

千聖「あら、どうしたの花音」ニコ

美咲「お疲れ様です、花音さん」ニコ

有咲「…………」

有咲(睨み合う、なんて表現するのは大げさだけど、それに近いような状況だった白鷺先輩と奥沢さん)

有咲(松原先輩が来た途端、2人ともすげー優しい笑顔になってやがる……)

花音「彩ちゃんがうっかり忘れてたみたいで……注文抜けで遅くなってごめんね? 千聖ちゃんのアイスコーヒー持ってきたよ」

千聖「謝る必要なんてないわよ、花音。むしろ、話をしていて喉が渇いたところだったからちょうど良かったわ」

花音「そ、そう? なら良かった。あと、これが美咲ちゃんの分のポテトとウーロン茶、それと有咲ちゃんの分の三角パイと紅茶だよ。こっちも遅くなっちゃってごめんね」

美咲「いえいえ、忙しい中わざわざ持ってきてくれてありがとうございます、花音さん」

有咲「ええと……どうも……」

花音「お話の邪魔しちゃってごめんね? それじゃあ、まだやらなきゃいけないことがあるから……」

美咲「ええ。バイト、頑張って下さいね」

千聖「忙しいなら遠慮なく彩ちゃんに仕事を振っていいのよ」

花音「う、うん、ありがと……なのかな? では、ごゆっくりどうぞ」ペコリ

千聖「…………」

美咲「…………」

有咲「…………」


千聖「はぁ……やっぱり花音は癒し系ね」

美咲「ですね。全面的に同意します」

有咲(……まぁ、私も今回は松原先輩のおかげで助かった……のかな)

千聖「ふふ、今日は花音に癒されるのが目的だったし、有咲ちゃんをからかう――じゃなくて、有咲ちゃんとたくさんお話するのはまた後日かしらね」

有咲「え」

美咲「だからさせませんって。あたしの目の届く範囲じゃやらせませんからね。白鷺先輩のいるところじゃ市ヶ谷さんを1人にしませんから」

有咲「え」

千聖「あら、じゃあ学校では人目を忍んで会おうかしらね。その方が楽しそうだし」

美咲「出来るならやってみてくださいよ。絶対にあたしが守ってみせますから」

有咲「…………」

有咲「え、なんだよこの流れ!?」


それから後、有咲にちょっかいをかけようとする千聖さんとそれを守ろうとするみーくんという変な三角関係が出来上がって、有咲の胃痛がストレスでマッハになるのはまた別の話。


おわれ


なんていうか、色々とすいませんでした。

別件ですが、
『かのちゃん先輩がドラムスティックをしょっちゅうへし折るのは「方向音痴なので……一緒に楽器屋まで買いに行ってくれませんか?」というデートに誘うための口実』
『その帰りにまだまだ一緒にいたいからわざと道に迷おうとして先導するも最短ルートで駅に着いて「ふぇぇ」ってなるかのちゃん先輩』
という妄想を誰かが形にしてくれないかなーと思う今日この頃です。


HTML化依頼だしてきます。

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