【ラブライブ!サンシャイン!!】花丸「占いの館」 (20)

前にpixivに書いたSSを改稿しました
時期はアニメ2期11話です。閉校祭の準備をする善子と花丸

次から始めます

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1521656399

ラブライブ地区予選の翌日、浦の星女学院の廃校が決まった。
千歌ちゃんが「まだ足掻いてない」と絞りだす傍でマルはそこまで悲しくなかった。この学校で過ごしてきた時間が短いからかなって思ったから、善子ちゃんが存続に執着していたのが意外だった。

閉校祭の話を聞いて驚いた。
浦の星にはもともと文化祭がなかったから。
閉校祭を提案したのは生徒の皆だと鞠莉ちゃんは言ってた。
マルたちは学校を守れなかったけど、浦の星の最後の「今」を精一杯輝かせたいと皆が思ってくれたのは、Aqoursの活動が何かを変えられたのかな。
そういうマル自身は先のことを考えないでいられないのだけど。

***

学校存続が破れても、Aqoursは最後まで輝くため、学校の名前を歴史に刻むため決勝大会に出ることを決めた。
でもその活動も今年いっぱいのこと。
マルを図書館から連れ出したスクールアイドル部は、この春で終わる。

Aqoursは幼稚園以来にマルと善子ちゃんを結び付けてくれた。
ここで昔の善子ちゃんを知っているのはマルだけだった。でも沼津の学校に統合されたら、善子ちゃんの中学の知り合いもたくさんいる。浦の星は1学年1クラスだったけど教室が隔たるかもしれない。
いつも一緒に図書室にいたルビィちゃんはAqoursを通じて殻を破り、学内外に友達を増やしている。
Aqoursがなくなったらマルの居場所はどこになるんだろう。

***

「ここに新たに誕生したのデース! シャイ煮プレミアムが!」

「部室で料理するのはやめていただけません?」

鞠莉ちゃんは閉校祭にシャイ煮の屋台を出すらしい。
ルビィちゃんとダイヤさん、果南ちゃんと曜ちゃんもそれぞれ二人で出し物をするんだって。

鞠莉ちゃんはひょうきんなセレブリティで、ダイヤさんとルビィちゃんはスクールアイドル好きの同士で、果南ちゃんと曜ちゃんは水に愛されたスポーツ少女で。
みんなAqoursであるまえに自分の根があって、Aqoursがなくなったらきっとそこに返っていく。
ますます自分には何もない思いがして、マルもただクラスのお手伝いをするのではいけないような、自分のしたい何かを見つけなければならないような気がした。

***

「占いの館?」

「そうよ! 堕天使ヨハネの漆黒の心眼で迷える子羊たちに導きを与えるの」

「世界観ぐちゃぐちゃずら」

善子ちゃんは堕天使だから占いをやるんだって。
マルはお寺の子だし、お経でも詠んでみようかな? ……なんて。詠めないし、誰も来なくて寂しいだけ。

むむ、誰も来なくて寂しい、か。

「ねえねえ善子ちゃん」

「だからヨハネよ」

「占いの館、善子ちゃん一人じゃ不安だからマルが手伝ってあげるずら」

一緒にいたいだけなのに、いつもの癖で皮肉が口をついて出た。

***

「はあ、はあ……」

「先が長いずらねえ」

企画の準備は取り掛かってみると大変だった。
鞠莉ちゃんに教室の使用許可を取り、使わない机を運び出すので午後の授業時間を使い切った。
浦女は生徒が少ないから余っている人手は学校全体の飾りつけに動員されて、有志企画の間で人を融通する余裕はない。
善子ちゃんはリトルデーモンを召喚すればとかなんとか文句を垂れていたけど、マルは二人きりの終わりなき作業が楽しかった。

二人で何かをするのが嬉しい。
善子ちゃんが学校に来なかった頃の、毎日家にプリントやノートを届けに行った遠回りの帰り道を思い出した。
あのときから善子ちゃんはずいぶん成長したけど、マルと善子ちゃんの関係は今も進んでいない気がした。

「次は何をするずら」

「この辺に魔法陣を描いて、遮光カーテンを引いて……」

「魔法陣ってこういうの?」

「適当にやらないで! ヨハネがこっちに半分描くから、鏡写しに描きなさい」

ここから先は霊気を込めないとと言って黒い布をまとった善子ちゃんが、教室のど真ん中に円を描きはじめる。
真剣だけどどこか滑稽な姿に微笑みながらマルもチョークを取った。

だけど、結構難しいんだな、魔法陣。
善子ちゃんに違う違うって言われて描き直す繰り返し。

「ええ~善子ちゃんと同じようにやったずらよ」

「あんたヨハネが描いてるの見てなかったわね? この線は先にこれを描いてから上から封じ込めるように引くの」

「そんなの誰も気にしないよ」

「ヨハネが困るの! 正しく結界を張らないと聖霊が降りてきてくれないんだから!」

「ずらぁ」

「ああもう! とても間に合わないじゃない! ルビィはどうしたの?」

善子ちゃんがしびれを切らすのもマルには楽しくて。

「ルビィちゃんは人気があるから引っ張りだこずら。ここは人気のない者が頑張るずらよ」

今だけは二人で作業していたいと思った。

***

果てしなく思われた設営も、魔法陣を描いて暗幕を張ったら一気にそれっぽくなった。
最終下校まで余った時間は水晶玉の下に仕込んだライトを光らせて遊んだ。
タロットカードが気になって手を伸ばしたら、「持ち主の魂と同期しているから他人が使っちゃいけないの」と強い語気で止められた。
キリリとした表情が愛おしくていつまでも見ていたいけど、何かしていないと帰宅を提案されそうで沈黙を破った。

「試しにマルのこと占ってみてよ」

「ずら丸に悩みなんてあったの。ああそうか最近食べ過ぎて太った。ごめんなさいそういうのは」

「それは善子ちゃんでしょ。もっと真面目なの。できないなら無理しなくていいけれど」

「そうならそうと言いなさい。わかったわまず貴方の陰を見抜いてあげる」

水晶を軽く撫でて覗き込んだ、涼しげな目もとにマルの視線が吸い込まれる。
瞬きに小さく揺れるまつ毛を見つめていたら、ふっとこちらを向いた。
瞳から全てを覗き見られそうなのに視線を逃れられない。

「恋の悩みかしら」

「ちっ違うずらよ。まったく当てにならないずらね善子ちゃんの占いは」

「そう? 自信あったんだけどハズレなら仕方ないわ教えて」

「……マルはこれからの自分が不安ずら」

「どういうこと?」

「Aqoursがなくなってマルは何者になるのか」

「あと一歩噛み砕いて」

「鞠莉ちゃんたちはみんな進路を決めていて、曜ちゃんは水泳部のエースで、梨子ちゃんはピアニストで、善子ちゃんは堕天使で。マルは」

「だからヨハネよ、もういいわつまり迷える子羊なんでしょう」

マルは言葉を返さなかった。
善子ちゃんはカードを切りはじめた。

***

「最初のカードを開きます。『隠者』の逆位置。そうね、自分が一人になることに恐れを抱いているとか。心当たりは?」

「ずら」

「ではその原因を。次のカードは『世界』。貴方はいま大きな節目を迎えようとしている。大きなことがひとつクライマックスを迎え、やがて終わる」

「ラブライブ決勝大会を控えてAqoursは最後の頑張りどころずら」

「確かにね。でも仕方がないことよ。時間は止まらない。それにたとえ終わってもAqoursが輝いた事実は消えない。何を恐れているの」

「マルからAqoursを取ったら何も残らないと思うから」

「そんなの皆おんなじよ。ヨハネだってAqoursに全て捧げてる」

「でも善子ちゃんは堕天使で、中二病で、人気者で。他の皆だって」

「さっき人気がないって言ったじゃない……。そういうことならずら丸だって何かあるでしょう」

「それがないという話ずら。ほら善子ちゃんだって言えない」

「それを見つけたいということかしら。次のカードを開くわ。……」

***

「……と、こんな感じかしら」

「お、おお~。意外と本格的だったずらね」

「『意外と』は余計よ。私がどれだけニコ生で人気だと思ってるの」

「いやーてっきり腋で釣ってるのかと」

「は?」

「冗談。本当にすごかったずらよ。心を手に取って読まれてるようで」

「それは光栄だわ。ねえずら丸。世間じゃ占いはバーナム効果とか言うけれど」

「バーナム効果?」

「誰にでも当てはまるような漠然としたことを言ってるのに、受け手が自分だけに当てはまることと思って解釈する現象のことよ。だけどね私はそれでいいと思ってる。というかそのためにあるのかもしれないと」

「……?」

「占いが同じ言葉を二人に与えたとするじゃない。受け手はそれぞれ自分の事情に引き付けて解釈する」

「ずら」

「そのとき、同じ言葉でも各人の心に浮かぶものは違うの。だって事情は人それぞれで違うから。そうやって受け手の物語というフィルタで変換されたときに、占いはその人だけの導きになるんだと思う」

「つまり、占い師が相談者の心を見るんじゃなくて相談者が占い師にもらった言葉で自分の心を見ると」

「占いは心を映す鏡なのよ。占い師は相手の心を読むわよ? でも自分の心はやっぱり本人がいちばんよく見えるはず。その手助けをするのが占いなの。相談者が深層心理で抱いてる想いに気付かせたり、わかっていて行動できない背中を押したり」

「今を変えるきっかけずらね」

「私は物事はなるべきようになると思う。ただそのためには正しい行動をしなきゃいけない。早まったり、逆に躊躇ったりすると運命から外れてしまう。それはずら丸、貴方もね」

***

軽い気持ちで言いだした占いは思いのほか真剣なものだった。
いつもからかっていた堕天使ヨハネちゃんの初めて見る一面だった。
1年一緒にいてもマルは善子ちゃんをあまり知らないんだと思った。
占いの館なんて誰も来ないと思っていたけど、明日は誰かにこの占いを見て欲しいと思った。
その一方で他の人に見せたくないとも思った。

終わりです

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