少年「俺のクラスは亜人だらけ」 (226) 【現行スレ】

このSSは男「僕の生徒は亜人だらけ」の番外編です。

更新頻度は遅いですがよろしくおねがいします。

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人生が変わるきっかけなんていくらでもある。

ただそれが良い方向なのか悪い方向なのか。どっちに転がるかだなんてわかりやしない。

この選べやしないきっかけを俺は運命と呼べばいいのだろうか。

誰かが言った。人間は運命の奴隷だと。選ぶ権利のない選択肢を突きつけられるのだからその通りだ。

親を殺され復讐に走る子供を見た。

金持ちに拾われ娼婦として生きる女を見た。

どれも些細なきっかけだ。少なくともこの場所では。

ただきっかけが些細だとしても結果は些細なんかじゃない。

復讐は遂げられず遺体は道端に晒された。

肉体の旬を過ぎた女は捨てられ、路頭に迷った。

理不尽に迫られ、人生を動かされる弱者の集まり。

それがこの場所。

特別保護地区と名付けられたこの場所だ。

ほんの些細なきっかけに運命を翻弄される奴らの集まり。

俺のきっかけは一つの数式と一杯の暖かいスープだった。

役立たずと呼ばれていた。

俺の名前だ。

この場所ではその日を生き延びることしか皆考えていない。

大切なのは作り方と手に入れ方。

種をまいて育てる力。

それを奪う力。

胃を満たす以外の力に価値なんてない。

そんな中でなにも生み出さない数式を解き続ける俺は確かに役立たずだ。

今日も俺はカリカリとろう石で煤けた煉瓦に数式を書き続ける。腹は減るばかりで体は不自由になるばかり。

ただ頭と心だけは満たされていく。

ガリリッ

小指の爪より短くなったろう石がついに砕け散った。

少年「………新しいの探さないとな」

グゥゥ

腹の虫が鳴いたがろう石の方が重要だ。

このまま数式に囲まれて安らかに死ぬことが俺の些細な抵抗なのだから。

カツン

石が壁に跳ね返る音がした。

建物に囲まれたこの中庭に来るものは少ない。

いや一人だけだと言ってもいい。

数に囲まれたこの不気味な場所に入ってくるのは一人だけだ。

メイド「少年」

メイド服を着た少女。俺よりも年下のくせに俺よりも立派に生きている。

なぜだか知らないがときおり俺に食糧を届けてくれる。化粧の下にうっすらと見える頬の色を見たら自分だって満足に食べれてないだろうに。

その礼として簡単な勉学を教えてやってるが、釣り合っているようには思えない。恩返しでもするべきなのだろうが俺にはその術がこれしかない。

少年「今日の勉強か? すまないがろう石がなくなっちまってな」

メイド「いえ違います」

少年「なんだ。荷物運びか? でもお前の方が力は―――」

メイド「買われました」

その言葉に俺は一言「そうか」しか返せなかった。

誰かに買われた方がこんな場所にいるよりかはマシな生活が送れるかもしれない。他の隷属婦よりは器量があるはずだ。悪いようにはならないだろう。

少年「なかなか買われなかったもんな。やっと買われたか」

なんとか軽口をはきだすもメイドの表情はぴくりとも変わりゃしない。

メイド「価値なしと判断される前に買われて良かったです」

価値なしと判断された隷属婦は娼婦に落とされる。その前に買われたことは運が良かったのだろう。

ただ隷属婦が娼婦のように扱われないとは限らないが。

女の魅力を感じないメイドの体ならそうなることはないだろうが。いやそういうのが趣味の奴もいると聞いた。

………心配しても意味がない。メイドがどうなろうと知ったこっちゃない。

自分のためにだけ生きる。それが当たり前で、ルールなのだから。

少年「まぁ、頑張れよ」

メイド「はい。今までありがとうございました」

メイドはぺこりと頭を下げて元来た道を戻って行った。

今思えば俺はメイドに家族愛を感じていたのかもしれない。

酷く寂しい痛みが、空腹よりも辛い痛みが堪えた。

少年「ろう石………探しにいくか」

メイドの姿が見えなくなってから中庭を出る。

すぐにろう石は見つかるだろう。珍しくもなく、さして欲しがられない物だから。

見つけたらすぐに中庭に戻ろう。

そして一人、数式を書き続け力尽きよう。

この日に限ってろう石は見つからなかった。

いつもならすぐに見つかるだろうに、不思議と影も見えない。

路地をさまよい続けた俺はいつの間にか特別保護地区を抜け出していた。

人権をほとんどはく奪された第二種人間である俺がここでどんな目にあっても文句は言えない。

急いで戻らなければ。

踵を返して腹立たしいことにこの場所よりは安全な特別保護地区へと戻ろうとしていた時だった。

重い車輪が転がる音と馬のいななきが聞こえた。

音をした方を向くと猛烈な勢いで走ってくる馬車。その行く先に俺がいた。

避けるべきなのだろう。避けるべきだ。避けなければ。

脳が警鐘を鳴らすが栄養不足で痩せ細った体が上手く動かない。

立ちすくんだ俺は目の前に迫る馬の毛並を観察した。

こんな死に方はしたくなかったが仕方ない。

できることなら途中の数式を解き終わりたかった―――。

ドッ

衝撃は思ったよりも軽かった。

俺の体は宙を飛び、夕焼けがひどく眩しい。

そのままゆっくりと俺の体は地面に向かって落ち―――

なかった。

「何を思ってこの私の進路を妨害した」

誰かに抱えられていた。

白髪赤目の壮年の男が俺を見る。俺はその男の腕の中にいて。

「もう一度問う。なにゆえに私の進路を妨害した」

少年「あ……あんたは?」

ベーラ「ロード家嫡男。ベーラ・ロードである!」

少年「妨害したつもりはない。よけきれなかっただけだ」

ベーラ「ふむ。その軟弱そうな体ではたしかに道理。弱者の道理はその弱者故と言える」

バカにしているつもりはないのだろうが、口調、抑揚、肩の竦め方まで偉そうだ。

ベーラ「見ればおそらく第二種の人間。なぜ巣を抜け出した」

巣? あれが巣なものか。落ち着ける場所なんてありやしない。

少年「ろう石を探しに、ここまで来た」

ベーラ「ろう石? そんなものでどうする。お絵かき遊びにでも興じるのか?」

少年「数式が途中なんだ」

ベーラ「! これは驚いたぞ。野生のままに生きると言われる醜悪な第二種が数式と言ったか!」

ベーラ「その言葉は知恵者の宝具よ。なにゆえにそれを望むか。疾く答えよ!」

少年「数学は楽しい。いつだって正しい。あの場所で正しいことなんて数式だけだ」

ベーラ「賢人を気取るか第二種よ。これは面白い。これは面白いなぁ!」

ベーラ・ロードがくつくつと笑う。ひとしきり笑うとベーラは大きく目を見開いた。

ベーラ「我に隷属せよ第二種!!」

少年「俺を買うのか?」

ベーラ「いいや、買いはしない。だが対価を求むのであれば差し出そうではないか」

そういってベーラ・ロードは俺を地面に放り投げてから両手を打ち鳴らした。

どこからともなく従者らしき人が現れ、俺にマグカップを差し出した。

ベーラ「さぁ! 受け取るがよい!!」

ばっと気取りながら片手を俺に向ける。

そのマグカップの中には湯気を立てるスープがなみなみと注がれていた。

嗅覚を通じて脳を犯す香りは空腹を耐えきれないほどに膨らませた。

気が付けば俺はそのスープを飲み干していた。

諦めていた生への欲求がよみがえる。野生のままに生きると言われてもしかたないほどに俺は欲求を抑えきれないでいた。

ベーラ「くつくつくつ。まるで犬よ!」

ベーラ「だが吸血鬼に犬が従うのは道理。さぁ契約は成立した!」

ベーラ「我に従い我のために死ねぃ!!」

この日。俺はたった一杯のスープと引き換えに吸血鬼に自分を売り渡した。

それからというもの俺は勉学のみならず運動、社交界でのマナーなど全てを叩きこまれた。

時には鞭で叩かれることもあった。まるで犬を躾けるかのように。

それでもあそこよりはマシだった。食事は出るし、何も気にせず勉強ができる。

他者にとっては地獄かもしれないが俺にとっては天国だった。

少年「ふぅ……こんなもんかな」

ろう石より簡単に、細かな字が書ける鉛筆という道具を置く。上等な紙には今日勉強したことが纏められてあった。

コンコン

ドアがノックされる。返事をする前に間髪入れずドアが開けられた。

「起きてるかしら。駄犬」

起きているも何も時刻は昼。吸血鬼にとっては深夜に等しいが俺は人間であって昼の起きていることが普通だ。

入ってきたのはベーラと同じく白髪赤目の少女。ベーラの妹のミレイア・ロードだった。

吸血鬼であるが学園と呼ばれる勉強を学ぶ施設に通っているらしく昼型の生活を送っている。

しかしどうも辛いらしく目の下にはひどいクマが見える。

少年「どう、しました。ミレイア、さま」

敬語にはまだ慣れない。目の前の少女が幼く見えるのもあるだろうが。

ミレイア「良い報せともっと良い報せを持ってきてあげたわ」

したり顔で俺を見るミレイア。こういった顔をしている時のミレイアは面倒事を持って来る時だ。

また何か面倒事をと思っているとどうやら顔にでていたらしく酷く頬を叩かれた。

ミレイア「良い報せはあんたも学園に通えることが決まったわ!」

少年「………それは、どういう」

ミレイア「そのまんまよ。お兄様があんたを学園に通わせることにしたの」

それは本当に良い報せだ。より良い環境がもらえるのなら望むことは他にない。

ミレイア「もっと良い報せはね」

ミレイアは大きく息を吸い込んで勿体ぶりながら言った。

ミレイア「あんたがこのミレイアちゃんの義弟になれるってことよ!」

絶句だった。

理解できずに口を開けて呆けているとミレイアはそれを感激のあまりに言葉もないのであると思ったらしく満足そうに息を吐いた。

どうやら学園に通わせられることによってロード家の名を背負わなければいけないらしく、形式上だけはロード家に加わることになったらしい。

奴隷としては破格の待遇ではあるがそれが結局何になるわけでもない。

ミレイア「弟は昔から姉の奴隷と言うわ。つまりあんたはミレイアちゃんの命令に絶対服従ってわけ。いいわね」ニヒヒ

これも特に変わっていない。

ミレイアは俺がこの家に来た当初から俺に無茶なことをさせてそれを楽しんでいた。いやもっとひどくなるかもしれないがまぁそれはそれでいい。

こんな我が侭な奴だがその存在に救われている部分もあるのだ。

俺が起きてる間にいるのは喋りかけても事務的にしか反応を返さない使用人とミレイアだけ。

口では高圧的だが一応配慮をしているということも知っている。

本当一応ではあるが自慢の義姉、ということになるのだろう。

ミレイア「あら、これ間違えてるじゃない。ロード家の名を背負うからにはうんたらかんたら」

少年「合ってますよ。ほら」

ミレイア「~っ! ちゃ、ちゃんと指摘できるなんて勉強はしっかりしてるみたいね! 精進なさい!」

バシンッ

少年「ぐっ」

理不尽で俺よりも頭の悪い姉だが………まぁ、自慢の姉ということにしておこう。

学園に入るのはいきなりだが次の日だった。

使用人に起こされ、いつの間にか用意されていた服に袖を通す。

少年「………忘れ物はないかな?」

忘れ物なんて当日にあるわけないがそれでも一応鞄を見てみる。

筆記用具とノートとハンカチと幾許かの金。必要なものは全てある。

準備万端である。それでは学園に向かおうと珍しく高鳴っている胸を押さえながら部屋から出―――

バンッ!

少年「うぐぁっ」

ミレイア「ミレイアちゃんが起こしに来てあげたわよ! 感謝なさいって、なんで床で寝てるの?」

少年「い、いえ。なんでも」

実際はミレイアが開け放った扉が猛烈な勢いで俺にぶつかったために倒れたのだが言い返すこともできず鼻を抑える。

ミレイア「まぁなんでもいいけど爺やが車を出すから急ぎなさい」

少年「準備はできてます」

ミレイア「そ。それじゃあ行くわよ」

黒く長い魔導車に乗り込む。使用人であればミレイアと同じ席に座ることはできないがそこはまぁ一応義弟らしくミレイアの隣(と言っても長い椅子の端だが)に座る。

ミレイアの顔をちらりと見ると新学期が始まったらしくうきうきと表情が弾んでいる。

まぁなんともよく動く口と表情筋だこと。

魔導車が走り出すとミレイアは楽しそうに足をぱたぱたと動かしていた。

ミレイア「勉強は十分かしら? ロード家の名に恥じない優等生ぶりを見せつけることね」

少年「大丈夫だ、です。今までの勉強のほうがずっと難しいですから」

実際そうだ。おそらく学園の方が優しく簡単だろう。だがそれは俺以外にも当てはまることできっと切磋琢磨していくことになるのだろう。

ミレイア「そうそう。分かってると思うけど第二種なんてことばれちゃいけないわよ。あんたはあくまでも第一種の人間でロード家の養子になった少年。いいわね」

ミレイア「とくに刻印は誤魔化しようがないから絶対に見せないこと!」

刻印。識別印と呼ばれる焼印。第二種のみに押される生まれながらの烙印。

目立つものではないが見られれば即第二種ということがバレる。俺の刻印は運よく右胸で隠しやすい場所であるが、隠しやすいと言っても暴かれやすい場所でもある。

まぁ、下着を脱がなければバレないし始めから疑りかかってくる奴もいないだろう。

注意して過ごせばいいだけ。ただそれだけだ。

ミレイア「ついたわよ。降りなさい」

魔導車から降りるとそこには巨大な建物と敷地が広がっていた。感嘆の思いに耽っていると大きいとはいえ狭い車内を器用に走って助走をつけたミレイアがドロップキックをしてきた。

ミレイア「靴が綺麗になったわね。ありがと」

そういって俺の上からぴょんと飛び降りててくてくと歩いて登校するミレイア。

………ロード家の名に恥じぬとはいったいなんなのだろうか。

入学式というものがあるらしい。道も知らない場所だが案内があったので迷うことはなかった。

案内に従って行くとこれまた巨大な建物。講堂と書かれてある。どれだけのお金があればこんな建物を建てることができるのだろうか。

見回していると生徒の数が増えてきた。どうやらもうそろそろ始まるらしい。

何をすればいいかは中に入ればわかるだろう。

少年「にしても、多いな………」

なんという人口密度の高さ。息がつまりそうだ。

それに人間なんてのは数えるほどしかいない。それも全員第一種の人間だろう。

第二種の人間は俺だけ。

前までは第二種に囲まれていたというのにな。

疎外感を覚えるものの表情には出さない。どうせここじゃあ種族なんてもんは関係ないだろう。

人間も少ないと言えど珍しいものでもない。ただ冷静にいつも通り行動していればいいだけだ。

壁に張り出されている紙に自分の名前を見つける。どうやら2組らしい。

2組の列に並び椅子に座るとざわざわとまわりの声が耳に入った。

標準語から方言らしきものまでまとまりのない言語がここにいる者が各地から集まっているということを教えてくれる。

「やぁやぁ☆ ここ座っていいかな?☆」ピコピコ

いきなり声がかけられた。その主は淡い桃色の羽を持ったハーピーだった。独特の抑揚で隣の椅子に座っていいかを求めている。

少年「構わないが」

「やたっ☆ありがと☆」ピョンピョン

少年「俺の椅子でもないから別に許可は取らなくていいだろうに」

「でも隣に知らない人が座るのが嫌な人っているじゃん☆ あ、私はオルレアンだよ☆ オルレアンちゃんって呼んでな☆」ビヨン

少年「俺は少年だ。よろしくなオルレアン」

オル「恥ずかしがんなって☆」グイングイン

少年「ところで」

さきほどからずっと気になっていたのだが、頭の上で縦横無尽に動き回るその

少年「寝癖? があるぞ」

オル「寝癖じゃねぇ★ 冠羽だ冠羽! か・ん・う!」

固まった笑顔でオルレアンは俺の背中にビンタを繰り出してきた。ミレイアの蹴りよりは痛くないがそれでも鋭い爪が痛い。

「それはアホ毛じゃないのか」

「アホ毛。萌え要素の内の一つではあるが実際に見てもそれほど萌えはしないだろう」

オル「うるせぇバカども★!!」

いきなり現れた二人をオルレアンが返す爪で切り裂く。二人の男………!?

一人は東国にあるような服を着たリザードマン。そしてもう一人、一人と呼んでいいのかわからないが服と眼鏡だけ宙に浮いていた。

しっかりと悲鳴は二人分聞こえるためにそこにいるということは分かるが

バジロウ「お、見ない顔だな! 俺はバジロウ。一流の料理人になる男だ! ん? なに変な顔をしているんだ? あぁ、こいつはノヘジ。見てわかる通り。いや見えないんだが透明人間だ」

透明人間。聞いて分かる通り透明な人間。人間とつくが人間でないことは分かるが

少年「初めてみた………」

ノヘジ「熱い視線を向けてくれるのは構わないがどうせなら美少女に見られたかったと言わざるを得ない」

バジロウ「この通りアホだ」

少年「三人は知り合いなのか?」

バジロウ「中等部からの知り合いだ」

オル「腐れ縁ってやつだな☆」

ノヘジ「どうせなら美少女と縁を育みたいものだ」

オル「ここにいるだろ☆」バリィッ

ノヘジ「けヴぃんっ!」

変な悲鳴をあげながら倒れこむ服と眼鏡、もといノヘジ。

足元からしくしくと泣き声が聞こえるのは不気味であるのでノヘジを助け起こす。

オル「美少女に向かって失礼だぞ、ぷんすこぷんすこ☆」

頬を膨らませて憤慨するオルレアン。その頭の上ではアホ毛が猛烈に動いていた。

オル「美少女だよな☆ バジロウ☆?」

バジロウ「あ、あぁ………」

バジロウの青い鱗が更に青ざめて見える。どうやら逆らわないほうがいいらしい。

オル「少年もそう思うだろ☆」

セクシーに見えないセクシーポーズをとりながらオルレアンが俺に向かって投げキッスをする。

さきほどのような惨劇にあいたくはないが………

1.オルレアンの容姿を賞賛する

2.頷いておく

3.否定する

>>17

2

ここは頷いておこう。バジロウに倣って曖昧な返事をしておく。

オル「よしっ☆」

オルレアンの好感度【2】

オルレアンは満足そうに頷いて腕を組んだ。

バジロウ「もうすぐ始まるぞ。大丈夫かノヘジ」

ノヘジ「わ、わが生涯に、悔い、あり」ガクッ

バジロウ「ノヘジィイィイイイイッ!!」

後ろから聞こえる寸劇を聞き流してオルレアンに倣って座る。雑音はしだいに静まり全員が自然と檀上に集中した。

カランカランとハイヒールの音を響かせ女性が檀上へと上がる。

背中に備えた一対の黒い羽。顔の半分を覆う面頬。着物のような服に朱色の高下駄ととにかく目を引くいでたちだった。

無機質な足音はハイヒールではなく高下駄のものだったらしい。

女性は檀上にある演台の前で止まると面頬を外し生徒を見回した。

その目は鋭く、小さい口はきりりと引き締まっており真面目で厳しそうな雰囲気を覚えた。

すうと大きく息を吸うとかなり広い講堂の端から端まで響き渡るような低く大きな声でこう言った。

「我が校の高等部へようこそ。進学した者も入学した者もいるだろうが先に居たからと言って偉いわけではない」

「切磋琢磨し、己を高みへと羽ばたかせる者こそ偉いのだ。我が校に入ったからにはそのことを肝に銘じてくれることを信じている」

「我が校では主に勉学を教える。しかし勉学は義務ではない。だからこそここへ来た諸君は義務以上に勉学に取り組んでくれることだろう」

「勉学以外にも部活動に所属することもいいだろう。部活動は諸君が経験できる唯一の社会経験であると言ってもいい。勉学をおろそかにすることは許されないが入って損はない。私は陸上部、航空部門の顧問もやっているから興味があるものは覗いてくれ」

「………話がそれてしまったな。話を戻して諸君らに与えられる自由は今まで以上のものとなる。だからこそしっかりと選択をし諸君らの自由により良いものを詰め込んでいってくれ」

「さてと、話は短い方がいいだろう。私の無駄な話で諸君らの貴重な青春を奪うわけにはいかないからな。最後に謝辞だけ言わせてもらう」

「諸君、おめでとう。知っている人は知っているだろうがこの学園の現学園長。テラス・カルラインだ」

周囲に倣って拍手をする。

学園長は面頬をつけ直し檀上の隅へと消えて行った。

オル「よし、それじゃ教室行くか☆」

少年「え、もう終わりなのか?」

オル「テラス学長の座右の銘は神速を尊ぶだからな☆ 誰かに無駄なことされるなら自分で無駄な事したほうがましってスタンスだぞ☆」

バジロウ「語弊がある気がするがおおむね間違ってないな。少年は入学組だろうから教室を案内してやるよ」

少年「それは助かる」

これだけの人数だ。いくら列になっているからと言って迷わないわけではない。他の列に紛れ込んでしまって別の教室にたどり着くということもありえる」

バジロウ達と話しながら教室へと向かう。

こんなに喋ったのは人生で初めてかもしれないとふと思った。

教室の広さはおおよそ生徒100人が満足に過ごせるほどの広さだった。黒板を中心に扇形に席が広がっている。

この規模のクラスが何十もあるのだからこの学園がどれだけ大きいのかを知れる。

バジロウ「まだ座席は決まってないみたいだな。適当に座っとくか」

ノヘジ「ふむふむ」

少年「なにやってるんだ?」

ノヘジは真剣な表情(をしていると思う)であたりを見回してメモをとっていた。

ノヘジ「素晴らしい女の子がいないかチェックしている。大切なことだろう」

少年「あぁそうか…」

会って一時間もたってないがこのノヘジという男の人となりが分かった気がする。

ノヘジ「例えば………あの女子なんかレベルが高いな」

指をさした先に居たのは巫女服を纏った女性。見える右手は包帯に巻かれているが怪我をしているのだろうか。

つややかな頭には二本の立派な角があるがなんの亜人だろうか。牛?

ノヘジ「向こうの子もレベルが高い」

次のノヘジが指をさした先にいたのはケンタウロスの女の子だった。ショートカットで活発そうな印象を受ける。

馬の部分は鹿毛でつややかに光っている。じっと見ているとこっちに気付いたらしく顔を赤く染めて顔を背けた。

ノヘジ「………くっ」

少年「どうした」

なぜかノヘジが悔しがっていた。

オル「なにバカなことしてんだ、おい★」

俺はバカなことをした覚えはないがオルレアンが怖い顔をしているのでノヘジの後ろに下がる。

オル「やっぱお前が原因か★」

ズバンとオルレアンの爪が炸裂する。ノヘジは再び変な悲鳴を上げて倒れこんだ。

傍から見れば奇行だが騒ぎにならないあたり中等部からこの調子らしい。

ノヘジ「う、裏切ったのか。少年、よ」ガクッ

少年「裏切ってねぇよ」

オル「美少女ならこのオルレアンちゃんで充分だろ☆」

再びオルレアンがセクシーに見えないセクシーポーズをとる。

ノヘジ「………青と白の縞パン!」

オル「見てんじゃねぇよ★!!」

倒れながらオルレアンのスカートの中を凝視しているであろうノヘジの顔がオルレアンの足で思いきり踏みつけられる。

あれは痛そうだ。

バジロウ「援護はできないぞノヘジ」

少年「言い訳ができないな」

そのままノヘジは寝転がったまま静かになった。

気絶したらしい。

少年「っ!」ブルル

バジロウ「どうした?」

少年「ちょっとトイレに行きたくなってな」

バジロウ「トイレはすぐそこだがもうすぐ教師が来るだろうから急げよ」

少年「あぁ」

小走りで教室から出ていく。言われた通りトイレはすぐそこにあって急な尿意は解消された。

手を洗ってハンカチでふいているとどこからか困ったような声が聞こえた。

「だ、誰か助けてほしいです。助けて欲しいのであります」

消え入るような声な助けを求める声に気付いた者は俺しかいないらしい。声を辿るとそこには前髪ぱっつんのおかっぱ少女が廊下に座り込んでいた。

少年「どうかしたか?」

「!」

声をかけるとぐるんとこっちの方を勢いよく向く。

その両目から涙が今すぐ零れそうで事情を知らない第三者には俺がこの少女を泣かせているように見えるだろう。

そうなっては敵わない。といっても声をかけた今逃げ去るわけにもいかないから早いとここのトラブルを解決してしまおう。

少年「なにか困りごとか?」

「助けてくれるのですか? 私を助けてくれるのですか?」

少年「あぁ、迷惑じゃなければだが」

「迷惑ではありませんです! 誰も助けてくれなくて困ってたのであります!」

バッと両手を広げる彼女の腕にあるのは薄い飛膜。飛ぶ系の亜人か。

少年「何に困っているんだ?」

時間に余裕があるわけじゃない。はやいところ終わらせなければ。

「眼鏡が壊れてしまいまして……」

少年「見えないのか」

「人とかは超音波で見えるのですが、文字だけはどうしようもなく。クラスがわからないのでありますぅ」

少年「クラスか………(超音波?)」

教室は規則的に並んでいるのだからなんとか案内できるだろう。

少年「どこのクラスなんだ?」

「2組ですぅ」

少年「なら同じクラスだな。ちょうどいい」

「! 本当ですか! 助かるです!」

飛びついてぎゅっと抱き着いてくる少女。服の上からじゃわからなかったが意外とメリハリついた………危ない危ないノヘジの思考に汚染されている。

少年「あー。早く行くぞ。先生が来るらしいからな」

「はいっ。あ、名乗り忘れていたです。私はリューンです。コウモリのリューンであります!」

少年「俺は少年だ。見ての通り人間だ」

リューンを連れて教室に戻るとノヘジが復活しており、俺を見て血の涙を流していた。何もないところから血が噴き出ているために非常に不気味である。

というか、透明人間でも血は赤いんだな。

リューン「助かったでありますっ」ペコッ

噴き出る血に若干怯えたリューンが俺に一礼をしてそそくさと適当な席に座る。ノヘジに絡まれる前に離れて正解だろう。

バジロウ「もうそろそろ先生が来るからな。座ったほうがいいぞ!」

少年「席はどこに座ればいいんだ?」

オル「指定はないから私と座ろうぜい☆」

バジロウ「んにゃ、少年は俺の横だよな?」

少年「俺は………」

1.オルレアンの横に座る

2.バジロウの横に座る

3.二人の間に座る

4.リューンの横に座る

>>27

4

少年「あいつの隣に座るよ」

この二人の近くにいるのは楽しいが集中が出来ない。

といっても他の知り合いといってもさっきのリューンしかいないからな。

オル「え~付き合い悪いぞ☆」

ノヘジ「もう女に手を出すとは………流石と言わざるを得ない」

バジロウ「モテ男ってのは実在したんだなぁ」

なんだか不名誉なレッテルを貼られたような気がするが気にせずにリューンの横へ行く。

リューン「うへへ、このクラスには美男美女が多くて、妄想が捗りますですよ♪」

少年「リューン、隣いいか?」

リューン「うひゃへあおぅ!?」

リューンに声をかけると素っ頓狂な声をあげ驚いていた。どうやら何かに集中していたみたいだ。

邪魔をしては悪かっただろうか。

リューン「な、なんですか。どうしましたですか?」

少年「隣座っていいか?」

リューン「あ、大丈夫ですよ。でもさっき話されてたハーピィの女の方の隣の方がいいんじゃないでしょうか」

リューン「異種族間の愛はじゅるるる、うへへ」

リューンの好感度【2】

少年「リューン?」

リューン「はっ! な、なんでもないであります!」

なんでもないなら大丈夫みたいだな。隣に座らせてもらおう。

ガラガラガラ

席に着くと同時に教室の扉が開いて赤い鱗をした派手で大柄の男が入ってきた。

男は教卓の前まで行くと、黒いファイルを教卓の上に投げ、クラス中を見回した。

おそらく教師だと思うが………見れば見るほど怪しくなってくるな。

「おう、全員そろってんな。なんだこのデンジェラスフェロモンむんむんのハイパーグレートモストハンサムな男は一体誰だって思ってる面してんな?」

アータル「見ての通り教師のアータル・オルファンだ。俺はそんじょそこらの教師の三倍はすげーからこのクラスになったからには他のクラスの三倍はすげーことしてやる」

アータル「ってことでよろしく!」

どこが見ての通りか分からないし、何が凄いのかよくわからない挨拶だったが教室中から拍手が上がったのでそれに倣う。

アータルは満足したらしくポケットから煙草を取り出すと、口に咥え火をつけた。そして一口で吸い切ると大量の紫煙を吐きだした。

今のところ教師らしき要素は一つもない。外部の者が侵入して教師を気取ってるんじゃないかとも思えてくる。

アータル「まずは学校の案内だが―――」

ふと横を見るとリューンは虚空を仰ぎながらにやにやと笑っていた。

その口からは涎が垂れているように見えるが大丈夫だろうか。

………表情を除けば容姿は良いと言っても差し支えないだろう。人間目線で見ればだが。

スタイルもさっきの事を思い出せば悪くないし………

いや何を考えてるんだ俺は、ここに来たのは勉強のためだ。恋愛のためなんかじゃない。

といっても人、衣食住が満たされれば色恋に興味が出るのも当然………

リューン「あの、少年殿? 私の顔になにかついてますか?」

少年「よだれ、垂れてるぞ」

リューン「うひゃあおぅっ」

いや、ないな。色恋は俺にはまだ早すぎるみたいだ。

アータル「―――ということで今日は終了だ。といっても帰っていいわけじゃないぜ」

アータル「分かってると思うがこの学園は広い。明日からは普通に授業が始まるが、講義が行われる教室まで案内してくれる奴はいねぇから自分で把握しとかなきゃいけねぇ。わからなくて遅刻しましたなんて言い訳にはなんねぇからな」

アータル「そのほかにも部活見学ももう始まってる。とくに決まってない奴は見学してみろ。案外楽しいことが見つかるかもしれねぇぜ」

楽しいこと、ねぇ。

あの世界に比べたら箸を転がしてもってのはないがたいてい何やっても楽しい。

この魅力的な世界で俺は一体なにをしていくのだろうか。

未来の俺はいったい――――――。

バジロウ「学園を案内してやろう!」

少年「は?」

帰り支度をしているとバジロウがいきなりそう言った。

後ろには宙飛ぶ眼鏡ことノヘジもいる。

バジロウ「俺らはもう学園の事は分かってるからな。案内してやるよ」

少年「資料で教室は把握してるから問題ない」

バジロウ「つれないこと言うなって。良くいうだろ百聞は一見にしかずってな」

ノヘジ「学園の建物は増設に次ぐ増設で入り組んでいる。資料で理解した程度じゃ遭難してしまうな」

少年「遭難って………」

所詮学園施設だ。常に誰かがいるだろうし、遭難するわけがない。

バジロウ「学園内で四日遭難した奴は見たことあるぞ」

少年「………」

ノヘジ「俺は一週間した奴を見たことがある」

………冗談、だよな?

バジロウ「ま、俺らに任せろって!」

ノヘジ「はっ、まさかすでに女性との約束を取り付けているんじゃないだろうか」

バジロウ「まじか、それなら俺らはお邪魔ってことか!」

少年「えっとだな」

1.案内してもらう

2.先約があると嘘をつく

>>31

2

男「ちょっと用事があってな」

バジロウ「なら仕方ないな。俺らは部活の見学でもすっか」

ノヘジ「チアリーディング部を見学したいものだ」

とくに用事があるわけでもないのだがとっさに嘘をついてしまった。

集団行動が苦手だったってのもある。向こうじゃ基本一人だったからな。

二人が去るのを見届けてから鞄を持つ。資料を見ながらなら一人で一通り見回れるだろう。

そう思っていたのだが―――。

少年「………迷った」

見事に迷っていた。

問題は資料にのってない小道が多かったことだ。

隠し部屋に飲み込まれたり、怪しい邪教集団から逃げていると完全に見知らぬ場所へとやってきてしまった。

バジロウ達と行動していればよかったかと今さらながら後悔する。

でも建物だ。窓で外を確認できるのならいずれ外に出れるだろう。最悪下まで行ければ窓から飛び降りるだけだ。

そう思ってないとどうしようもないほどに俺は迷っていた。

少年「………お腹がすいたな」

金は少し持っているがそれを使う場所がなければ仕方ない。

学食があるとは聞いているがそこにいくためにもまずは抜け出さなければ。

とりあえず前進あるのみだ。

そう思って踏み出した矢先

ぐにり

なにか柔らかく弾力のあるものを踏みつけてしまった。

おそるおそるそれを見ると

黒い人「」

少年「―――っ!!」

血を流した黒い人「」

少年「う、あ、あ」

少年「うわぁあああああぁああ!!」

ねちょり―――

粘度のある赤色の液が糸を引いて靴に付着する。

これは、これは、これは。

理解の前に感づいた本能が警鐘をあげる。奥歯ががたがた震え視界がぼやける。

観察してはいけない。目を逸らさなければならないはずなのに眼球は頑として動いてくれなかった。

黒い羽、黒い服、高身長、男、血だまり、包丁

否定する材料が一つもない。

これは、

した―――

ガシッ

少年「ひっ!」

死体「ァああ」

動いた、痙攣なんかじゃない。俺の足首を掴んで

少年「ああぁああああああああっ!!」

意識はいつの間にか途切れていた。

キャパシティを越えた脳が強制的に意識を落とさせたのだろう。

あれは幻覚だったのだろうか。

気付かない間に迷ったことに対してストレスをかかえていたのだろうか。

いや、それでもあれだけリアルな………

トントン トントン

肩を叩かれる。

………一体誰だろうか。

瞼を開けるとそこには。

黒い男「あー、無事であるか?」

少年「~~~~~~~~!?!?」

蜘蛛の男「だから先輩じゃ無理ですって、かえって逆効果ですよ」

大柄な男「フハハハ! 目が覚めたか小僧!」ヌッ

少年「――――!」ジタバタ

蜘蛛の男「オルキヌス先輩もです! 顔でかいんですから!」

オルキヌスと呼ばれた男「!?」ガーン

天使の女「やはり悪魔は害悪。根絶やしにしなくては」グッ

蜘蛛の男「元凶が何言ってるんですか! おとなしくしててください!」

ローブの人?「んー、口封じ薬できたヨー」

少年「ひ、こ、殺される…」

派手な女「あっ、口封じって漫画で見たことあるよ! キッスのことでしょ! 君! チューにはチューいするんだぞ!!」

黒い人「………」

天使の人「………」

顔のでかい人「………」

蜘蛛の人「………」

謎の人「………」

蜘蛛の人「………」

少年「………」

滑った人「なんかいってよぉ!!」

今日はここまでです。

空気が冷えたおかげで冷静に思考する余裕が生まれた。

目の前にいるのはおそらく悪魔、天使、鮫?の亜人、ローブを被った人?、鳥系の亜人、アルケニー。

駄目だ、半分以上は正確な種族が分からない。わかったところでなんだという話ではあるが。

全員心配そうに俺を見てることからどうやら害す気はないと思われる。演技だと言ってしまえばそれまでだが。

駄目だ、疑心暗鬼に落ちいってすべてが怪しく思えてくる。

少年「へくしゅんっ!」

寒い。春と言ってもまだ気温は低い。そんな中校舎で倒れていたのだろう。体は冷え切っていた。

鳥の人「寒いのかね? なら私が暖めてあげようか? 私の体は熱いからきっと、ほっとするよ」

蜘蛛の人「黙っててください。ダジャレが寒すぎて彼が風邪をひいてしまったらどうするんですか!」

鳥の人「がーんっ」

少年「あの」

起きてから気になっていたこと。さっきの記憶が嘘じゃないなら

少年「そっちの人。さっき死んでませんでした?」

悪魔「むっ、我のことか」

倒れていた人、血だまりに沈んでいたのはこいつだ。黒い羽、黒い服、身長。すべてが記憶と一致する。

なのに目の前のこいつはさっきまでの事が嘘だったかのようにぴんぴんしている。

天使「えぇ、さっき殺しましたよ?」

少年「やっぱり死んで………殺した?」

天使「はい。ぶすっと包丁でぐりぐりーってやりました。ぶい」

少年「………な、なぜ?」

天使「だって、ねぇ」

衝撃の告白をしている奴が恥ずかしそうに自分の髪をくるくると指で巻いて照れくさそうにこう言った。

天使「黒くてウザったいものが目の前でカサカサしてると駆除したくなるでしょう?」

何一つ共感できない犯行理由をぶちかましたこの女は「きゃっ、言っちゃった」的な恥じらいを出しつつも満足そうな顔をしている。

完全に理解できない思想。理解してはいけない思想。

今このご時世で、やりたいからやったなんて理由がまかり通るような世紀末な世界ではない。

なるほど、目の前のこいつはやばいやつなんだなと理解した体が勝手に後ずさる。

少年「た、た」

厳つい人「どうしたお前。そっちには窓しかないぞ。そうか外の空気を吸いたいのだな!」ポンッ

蜘蛛の人「なに言ってるんですか! 窓から飛び降りるつもりで―――「よくやるヨ?」うるさい人外!!」

飛び跳ねて窓枠に足をかける。外、目がくらむほどの高さ。

天使「あらあら、無謀な挑戦は青春の特権だけど、背中に翼がなければ飛ぶことは叶わないのよ?」

悪魔「自分の限界を試す姿勢! 良し!!」

厳つい人「青春は待ってはくれねぇ。止まるんじゃねぇぞ」

後ろには異常者。

どっちがマシか。もちろん空で―――

蜘蛛「あぁ! やばいっ!!」

パキンッ

飛び降りようとした足が動かなかった。恐怖でこわばったとかじゃない。ぴくりとも動かない。

いや足だけじゃない腰も、窓枠にかけた手も。

「14時38分現行犯。誘拐及び見たところ恐喝。被害者確保」

蜘蛛「あぁ、助かりましたよ! ヒョウカさ―――」

「封印凍結。対象べリア、セラフ、オルキヌス、セルリア、クレル、ヤツカ」

「―――――執行」

景色が瞬いて

―――真っ白になった。

「大丈夫ですか?」

俺を止めたもの。それは氷だったらしい。

一瞬で俺の体と窓枠をつなぎとめた氷に命を救われた俺は助けてくれた女性。

肌が白く、銀髪の秀麗皎潔然の美人だが表情と声の抑揚に乏しい彼女は風紀委員長、ヒョウカと名乗った。

差し出されたアツアツのホットミルクを啜っていると、ヒョウカは俺の横にちょんと腰かけた。

ヒョウカ「大変でしたね。新入生」

少年「はい…いったいあれはなんなんですか?」

奇人変人集団。ヒョウカによって凍らされた連中の正体は。

まさか変なカルト集団?

ヒョウカ「生徒会です」

―――生徒会?

こっちの世界の常識に乏しい俺でもわかる。生徒の代表で部活動を取り仕切ったり、生徒と学園の間の折衝を行ったりする団体。

ヒョウカ「あれが? と言いたそうな顔をしていますね。意外かもしれませんが、あれでも他の追随を許さないほどに優秀な能力を持つのです」

あくまで能力は、ですが。とその後に付け加えたことから生徒会がどのような扱いを受けているのかが分かった。

ヒョウカ「平穏な生活を送りたければ関わらない方がいい人種ではあります」

その時、ヒョウカの顔が少しだけ笑ったように見えた。

気のせいかもしれない。もしくは眉をひそめたのかもしれない。どちらにせよ変化に乏しく一瞬だったため判断のしようがなかった。

「委員長。対象の運びだし完了しました」

部屋の中から氷漬けにされた人達を運び出している人達の内の一人がこっちへやってきた。

鼻の長い仮面をつけていて、黒い翼が生えている。学園長とは隠れてる部分が逆だな。

ヒョウカ「ご苦労様。では貴方、部下に送らせましょう」

少年「いえ、そんなご迷惑なこと」

「いや、見たところ顔色が悪い。倒れたらいかんだろう。迷惑じゃなければ送らせてくれ」

声は低く、重く響くが安心感を覚える。悪い人ではないのだろうと感覚で思わせるそんな声だった。

少年「それじゃあ、よろしくお願いします」

カルラ「俺はカルラ。見ての通り鴉天狗だ。何か疑問や相談があれば遠慮なく話しかけてきてくれて構わない」

カルラ「今日は不幸だったな。生徒会に巻き込まれて」

少年「そんなに生徒会って問題を起こすんですか?」

カルラ「上二人が主に。というか副会長が会長に手をかける事件がほとんどだ」

少年「………俺、黒い人が死んでるの見たんですけど、どうなってるんですか?」

カルラ「悪魔って種族は群を抜いて生命力が高いらしい。それで説明できないような気もするがな」

あそこまで血を流して数時間後にはぴんぴんしてる。

常識じゃ説明がつかないし、生命力の問題にしても納得はいかない。

カルラにそう言ってみるが困ったような顔をして笑うだけだった。

結局、結論としては考えない方が良いのだろう、ということになった。

カルラ「寮か? 実家か?」

少年「家です」

カルラ「ふむ。では歩いていては遅くなるな」

カルラは頷くと軽々と俺の体を担ぎ上げた。

カルラ「飛んでいくぞ。場所を教えてくれ少年。どこへ帰りたい?」

ばさっと羽ばたいたかと思うと地面ははるか下。小さく遠くにロード家が見えた。

男「あ、あそこです」

カルラ「ん? もしかしてロードの家のものか?」

男「はい、一応」

カルラ「なるほど、噂になっていたロード家の養子とはお前のことだったか。ロード家なら目立つからわかりやすい」

カルラ「下を噛まぬように口を閉じていろ。怖ければ俺にしっかりしがみ付いていろ」

抱きかかえて飛ぶからには自信があるのだろうがそれでも怖いものは怖い。カルラにしがみ付くとカルラの体がかなり筋肉質だということが分かった。

カルラ「では行くぞ」

力強い羽ばたき。景色は見ないが身体に当たる風の強さでどんどんと加速していることが分かる。

その速度は朝乗った車より速いのだろう。あっという間に家へとついていた。

カルラ「では少年。困ったことがあれば風紀委員を頼るといい」バサッ

少年「ありがとうございました」ペコッ

カルラは親指を立ててにっと笑うと、翼を大きく羽ばたかせた。もの凄いスピードで空へ消えあっというまに米粒ほどの大きさになった。

しかし使用人以外いない家に入るのは気が引ける。

少年「あっ。ミレイアに帰ったこと言ってないな。どうしよう」

といってもまた歩いて学校へ行っては日がくれる。

結局叱られることを覚悟して家の前でミレイアに帰宅を待つしかないか………。

考え事をしていれば思いのほか時間は早く過ぎる。計算をしていたら飲食を忘れることはざらだ。

何も必要ない暇つぶしを持っていることはこんな時に便利だな。

さて、適当に枝が石を拾って―――

「家の前でうろちょろしている鼠がいると思ったら、貴方ですか」

少年「………ユキムラさん」

頭の後ろにヒヤリと重い感触あり。

慌てずに両手をあげるとそれは静かに下ろされた。

後ろを振り向くと銃口を二つ備えた猟銃を持った犬耳メイド服の女性。

彼女はロード家に仕えるメイド長のユキムラ。俺に対しては事務的で冷ややかな反応を取るが今のところ実害はない。まぁ、事あるごとに銃口を向けられているが撃たれたことはない。

ユキムラ「お嬢様はどこですか? なぜあなただけここにいるのですか?」

少年「色々あって………俺だけ先に帰ってきたんですよ」

ユキムラ「まっ! お嬢様を差し置いて貴方だけ帰ってくるなんて。もしお嬢様の身になにかあったらどうするつもりですか」

ユキムラ「お嬢様はプリティーながらも高貴でフェミニンな雰囲気を纏い、目の下の隈が実に蠱惑的なお方ですよ。誘拐される可能性は行きと帰りを含めて200%となってもおかしくないのですから貴方はお嬢様に変な虫がたからないようにしなければならないのではないですか? 弟なら姉を守るのは当然のことなのですよ? そこをしっかりと肝に銘じて今すぐお嬢様を世間の悪漢どもから守るために」

少年「早く帰ったのは悪かったけど、ミレイア、様がそう簡単に襲われるとは思わないんだが。ミレイア様はそんなに弱かったか?」

ユキムラ「言葉づかいがなってないのは不問にしますが襲うというものは決して物理的なものだけではありません。ズボンの下の汚らわしく粗末な(ずきゅーん)をミレイア様の前に、あぁ! ミレイア様!! ユキムラは! ユキムラは!! 今すぐ貴方様をお守りしますからねーっ!!」ズダダダダ

そういって走り去っていくユキムラ。

砂埃が舞う猛烈な勢いが遠くまでしっかりと見えた。

少年「………枝を探しに行くか」

適当な枝を探し、地面に式を書いているといつの間にか日が暮れかけていた。

遠くから聞こえる車のエンジン音。魔導車に乗れる人はそうそういない。つまりミレイアが帰ってきたのだろう。

出迎えないと怒られそうだ。玄関の前で出迎えることにしよう。

今日は色々なことがあったなぁ。良い思い出だけではなかったが。

今までと違うってことはしっかりと実感できた。

少年「しまった。結局教室がどこにあるのか把握できてないな」

まぁいい。バジロウ達が分かるだろう。

ブロロロロロロ

門を抜けてくる車が見えた。おそらく先に帰ったことを開口一番に咎められるのだろう。

いや手がでるのが先か?

どちらにせよ身構えておこう。

ガチャ

少年「おかえりなさいませ、ミレ―――」

ミレイア「どこいってたのよボンクラァ!!」ゲシッ

少年「うげぷっ」

顔面への綺麗な飛び蹴り。身構えておいても耐えれない衝撃に俺はもんどりうって倒れた。

流石吸血鬼。馬鹿みたいに怪力だ。

ミレイア「姉より早く帰るなんていい御身分だこと! しかもそれを知らせないなんて」

倒れた俺の胸の上に着地したミレイアが捲し立てる。見下されてる形になるから唾がばしばし飛んでくる。やめてほしい。

少年「ユキムラさんから聞いてないですか?」

ミレイア「ユキムラ? 聞いてない、っていうか会ってすらないけど」

どこまで行ったんだユキムラ。

ミレイア「たとえあんたは足が折れても腕がもげてもミレイアちゃんと一緒に帰ること! いいわねっ!!」

少年「そこまでいったら病院行かせてください」

ミレイア「それぐらいの気概でいろってことよ」

なんて暴君。

頬を膨らませたミレイアに背中を蹴られながら家の中へ戻る。

ユキムラがいないので迎えてくれるのは業務的なメイドたちだけ。

いたらいたでミレイアにべったりでうるさいのでいいのかもしれない。

ミレイア「はぁ、今日も疲れたわ~。お風呂入ってくるから、食事の準備すること。いいわね?」

鞄を俺に向かって投げ捨てながらミレイアがメイドたちに命ずる。

メイドたちは一言返してから各々業務に戻って行った。

そして風呂場にむかっていったミレイアの後には乱雑に脱ぎ捨てられた靴下や手袋などの衣服が点々と散らばっている。

家の中だとしてもう少し優雅さというかなんというか、立派な姉であってほしいものだ。

とりあえず風呂場につく前に下着姿まで脱ぐのは一般常識的にいかがなものか。

男「とりあえず、鞄を持ってって自習でもするかな」

ユキムラ「ミレイア様ー!! ミレイア様ー!!」

ユキムラ「ミレイ、はぁ、はぁ。ミレイア様はいずこに!!」

ユキムラ「まさかすでにお嬢様の身に危機が!? ユキムラは、ユキムラはっ!」

ユキムラ「ユキムラはいますぐお嬢様のところへ参りまする!!」ダダダダダ

「あはは、なんか面白いひとがいるよ。ねぇ見て見て、あれ面白いねっ」

「見ちゃだめだよ。常人に見えないから」

ユキムラ「はぁ、はぁ、お嬢様、お嬢様、ユキムラは、はぁはぁ、わおーんっ!!」

~次の日~

ミレイア「それじゃああんたも頑張りなさいよ」

少年「いってらっしゃい、ミレイア様」

ユキムラは早朝に帰ってきて高熱で倒れた。

そんなことはどうでもいいが今は次の日である。

ミレイアを見送ると俺は校則と法律と常識の間で自由になる。

まぁ、それらに触れるつもりはないし、つまり俺は自由ということだ。

「自由は風のようなものだよ。一見なにものにも縛られないように見えるけど、自分の意思では何もできない無力さ」

少年「誰だ!?」

誰かが通り過ぎた気がする。それに何か言ってたような。

少年「………気のせいか?」

昨日は色々あったがあれが毎日とは限らない。

昨日はついてなかっただけさ。

少年「あぁ、そうだ。今日はきっと」

グニッ

少年「………」

覚えのある感覚。

まっとうに生きていればそう知る事はない感覚。

少年「ま、まさかな」オソルオソル

その感覚がなんなのかを知るために視線をさげてみると

ベリア「良い朝だな。昨日は悪かったなしょうね―――」

少年「うぎゃあああああっ!!」

カルラ「おーらい、おーらい。すいません道を開けてくださーい」

ヒョウカ「不運でしたね」

少年「すいません。風紀委員を呼んでしまって」

ヒョウカ「麻痺しがちかもしれませんが、人が倒れているのは異常事態ですから」

たしかに異常事態ではある。

ただそれがあの生徒会長であれば日常に思えるのは不思議だ。

それだけ昨日が強烈だったってことか。

少年「………昨日が悪かっただけ、だよな」

無事連行された生徒会長は俺に接近禁止命令がだされた。

風紀委員の許可なく近寄ったり、俺に危害を加えた場合即座に凍結されるらしい。

どういう理屈なのかはわからないがヒョウカさんはとにかくすごい。

少年「やれやれ、やっと着いた。まだ始まってもないのにどっと疲れた………」ガラガラ

リューン「! 少年殿! おはようございますっ」

教室に入るととてとてと一人の少女が駆け寄ってきた。

瞳が歪んでみえるほどの瓶底眼鏡をかけているこの少女は………

少年「リューン、なのか?」

リューン「あ、もしかして眼鏡かけてたからわからなかったでありますか?」

目に見えてしょんぼり落ち込むリューン。

少年「え、えぇっとだな」

1. 似合ってるよ、その眼鏡
2. 眼鏡がないほうが可愛いな
3. すまん。誰かわからなかった

>>65

1

男「似合ってるよ、その眼鏡」

リューン「無骨でダサい眼鏡が私にはお似合いですよね………」

リューンの好感度【0】

男「そ、そういうことじゃないんだが」

リューン「うぅ、眼鏡が私のコンプレックスでありますよ…」グスンッ

どうやら間違った選択肢を選んでしまったらしい。

さらに落ち込んでしまったリューンを喜ばせる言葉を思いつけるほど俺の対人経験は豊かではなかった。

リューン「っと、お見苦しい姿を見せてしまって申し訳ありません。眼鏡のおかげで今は少年殿の顔がはっきり見えるでありますよ」

リューン「はっきり見えるともっとハンサムさんですね、なんて」エヘヘ

少年「っ!」

褒め言葉は慣れてない。自分の顔が赤くなることがはっきりわかった。

バジロウ「おう、なにやってんだお二人とも」

ノヘジ「ぐぬぬ」

蒼い鱗と赤い涙。バジロウとノヘジが赤くなってる二人の間に割り込んできた。

正直助かった。このまま子供向けの恋愛話みたいな光景を続けたくなかったから。

バジロウ「今日の放課後。よかったら遊びにいかないか?」

少年「あー、あまり遅くならないのなら」

ノヘジ「大丈夫。校内だ」

少年「なら大丈夫だ」

どうせミレイアは遅い。放課後くらいは自由に動ける時間はあるだろう。

ミレイアを待って校門で数時間待つなんて経験したくないしな。

ノヘジ「可愛い女の子を探すのが正しい放課後の過ごし方だろう」

バジロウ「こいつの話は嘘だから気にするな」

ということで放課後。

授業は初回ということもあってか聞き流しても問題ない程度の話。

興味をひかれるのは授業内容から逸脱した世間話や雑学だけ。

あとは自由に変わる雲の形。

バジロウ「なーに黄昏てるんだよ。モテ男」

少年「モテてない」

身の回りにいる女性はミレイア、オルレアン、リューンだけ。

モテてる? どこが?

ノヘジ「帰る準備はできた。カメラもばっちりだろう」

バジロウ「カメラは仕舞え。風紀委員の世話になりたくないならな」

ノヘジ「風紀委員のヒョウカ嬢は美人だろう。ぜひともお会いになりたいものだ」

バジロウ「風紀委員になるか、不良になるかだ。お前の場合は後者だろうな」

そんな二人の軽口が俺には羨ましく映る。仲がいいんだろうなと思ったから。

この二人の中に俺は入れるだろうか。

少年「そういえばオルレアンは?」

バジロウ「あいつは今日は屋台を出す日だ」

少年「屋台?」

バジロウ「あいつは学内で屋台を出してるんだ。暇そうに見えるかもしれないがああ見えても結構多忙なんだ」

それを聞いてオルレアンが多少まともに見える。屋台を出すということは俺よりはよっぽど社会貢献してるんだな。

バジロウ「見つかると強制的に手伝わされるから屋台には近づかないでおこう」

ノヘジ「ただ働きは辛いだろう」

少年「ただ働きなのか」

バジロウ「美少女の手伝いをしてるんだからただでいいだろ★とかほざく」

その光景がありありと想像できる。が、バジロウの物まね似てないな…

放課後はオルレアンに近づかないでおこう。

俺もただ働きは勘弁だ。

少年「遊ぶって言っても何をするんだ?」

バジロウ「そりゃあ部活見学の続きよ。昨日は半分もまわれなかったからな。こいつのせいで」

ノヘジ「恥ずかしい場所を隠すために人はパンツをはく。しかし今ではそのパンツも恥ずかしいものだ。ならそのパンツを隠すアンスコもまた恥ずかしいもので、ふぅ。とても興奮するだろう」

バジロウ「とか言って女子がいる部活の前からうごかねぇの」

少年「なんというか、それは………」

とても気持ち悪い。

ノヘジ「気持ち悪いと思われるとさすがに傷つくだろう」

少年「心を読むな」

バジロウ「今んとこ目をつけているのが」

ノヘジ「茶道部、陸上部、オカルト研究部、放送部、新聞部、漫才研究部ってとこだろう」

少年「………オカルト研究部? オカルトが好きなのか?」

バジロウ「いや、俺は興味なんだが」

ノヘジ「あのおっぱいの大きさはもはやオカルトの域だろう」グッ

バジロウ「とか言い出してな」

行動原理がまったくぶれないなノヘジは。

眼鏡は真面目の象徴じゃあないのか?

いや俺の周りの眼鏡は大体変な奴だった。

バジロウ「んじゃあどこいくよ」

少年「それじゃあ」

1. 茶道部

2. 陸上部

3. オカルト研究部

4. 放送部

5. 新聞部

6. 漫才研究部

>>73

今日はここまで

皆さんお久しぶりです。

待っててくださってありがとうございます。

コンコン

少年「失礼します。えっと部活見学に―――」

「あらあら、いらっしゃい~。エンプーサちゃん、見学の子がきたわよ~」

「こんなにオカルト信奉者が………。嘆かわしいな。すべてはプラズマの仕業だというのに」

ノヘジ「………ふぅ」

迎えてくれたのは体を包帯でぐるぐるまきにしたグラマラスな女性とへそが丸見えの恰好をしたスリムな女性だった。

スリムな方はオカルトを否定したように聞こえたが気のせいだろうか。それともオカルト研究部じゃない? まさかな

「オカルト研究部へようこそ~。お茶でも飲む~?」

「いい? この世のオカルトのほとんどは科学で説明できる。だからこんなところで時間をドブに捨てずに勉強した方がいい」

バジロウ「えぇと、オカルト研究部?」

ロザリア「そうよ~。私は部長のロザリアです~。こっちは副部長の」

エンプーサ「エンプーサ。一応拝み屋を生業としてるわ。オカルトを信奉するアホ共の息の根を止めることが夢」

ロザリア「えぇ~ エンプーサちゃん私を[ピーーー]つもりなの~?」

エンプーサ「死んでるじゃないの」バシッ

エンプーサがロザリアを右腕の鎌で叩くとロザリアの豊かな胸がプルンと揺れた、ついでに鎌で包帯が斬れ青白い綺麗な素肌が見えた。

ロザリア「いやぁん」

少年バジ「ごくり…っ」

ロザリア「とりあえずお茶でも飲みましょう~」

エンプーサ「こっちへ来なさい」

案内された部室の中は思いのほか片付いていた。というかオカルトっぽさはほとんどない。

ピンクを基調とした女性らしさあふれる部屋はまるで私室のようだ。

見たところロザリアの趣味だろうか。

エンプーサ「お茶を入れてくる。貴方たちはそこの死人………部長と話してるといいわ」

ロザリア「わぁい♪」

少年「えと、ありがとうございます?」

バジロウ「良い匂いがする…」ボソッ

たしかに不思議と良い匂いがする。花の匂い?

いやロザリアの匂いか。ロザリアの方から強く匂う。

ロザリア「なぁに? じっとみちゃって~ あっ、お化粧崩れてる~?」

さっき斬られた部分を慌てて抑えるロザリア。包帯だらけなのだから化粧もなにもあまりないような

エンプーサ「なるほどロザリア目当てなのね? だと思ったわ」

少年「えっ!?」

いつの間にかお茶を入れてきたエンプーサが冷めた目でこっちを見ていた。ノヘジがいたら一瞬で果てそうなほど蔑んだ目で。

バジロウ「いや、俺たちは単純に見学で。というか部長さんのこと知らなかったですし」

エンプーサ「どうかしら。私はオカルトと男は信じてないのよ」

一刀両断で斬られる。なんというかいたたまれない空気。別にそういう目的で来たわけでもないのに。

ロザリア「私目当て? よくわからないけどそれでもいいのよ~ オカルトに興味をもってくれれば~」

エンプーサ「………悪かったわ。あんたたちが下半身が方位磁針になってる思春期の男って疑っちゃった。でもそういう輩が多くてね。ごめんなさい」

少年「いえ、たしかに勘違いされるような態度ではあったし」

バジロウ「ノヘジがいたら言い訳できなかったな………」

あいつに限っては部長目当てだからな。


>>79前半までにはいたノヘジはどこに…

>>83 ノヘジがロザリアさんを見て一瞬で果てて叩きだされたシーンを書くの忘れてました………

ロザリアのほぼあられもない姿を見て一瞬で気絶したノヘジだったが、気絶してくれていて本当に助かった。

今頃ノヘジの鼻血で真っ赤に染まっているであろう廊下はあとで掃除をしておこう。

あ、部室の前が血だらけってオカルト部らしくはあるけど新入生は入ってこないだろうな。申し訳ないことをした。

エンプーサ「オカルト部に入るというなら止めはしないけどオカルトに傾倒した瞬間に私に軽蔑されることは覚悟しておきなさい」

ロザリア「え~、エンプーサちゃんって私のこと嫌いなの~」

エンプーサ「好きだと思ってたの?」

にべもない態度。冷たい目線といいオカルトが絡むとサバサバを通り越して絶対零度のような冷え切った反応だ。

そんな切り裂くような言葉に対してロザリアはどこ吹く風。悲しそうに目の下に手を当てて泣きまねをしているがその口元は笑みを崩してない。

相性がいいのだろうかこれは。

エンプーサ「お茶、冷める前に飲みなさい」

ロザリア「エンプーサちゃんの持ってくる茶葉はおいしいのよ~」

エンプーサ「そんなことないわ。適当に選んでるもの」

そういいながらどこかうれしそうな表情をしている。

すすめられたお茶に口をつけると………飲んだことのない味。

もとからお茶なんてものに縁がないし、ロード家では血のように赤い紅茶しか出なかったから飲んだことがないのも当たり前なんだが。

なんというかほのかに甘い。いや味はそれほど甘くはないのだが鼻に抜ける香りが甘い。

バジロウ「………ウーロン茶?」

同じく口をつけたバジロウが首を傾げた。

エンプーサ「メロンウーロン茶」

そりゃあ飲んだことないわけだ。

それからはそこそこ楽しく(といってもロザリアとエンプーサの会話を聞いていただけみたいなもんだが)過ごしていると気が付くと日が暮れかけていた。

少年「あ、やばいっ」ガタッ

バジロウ「うおっ、どうした?」

もうすぐ校門に迎えがくる時間。ミレイアより早くついてないと怒られるし、最悪の場合は置いていかれる。

怒られるのは慣れたものだが置いて行かれてはたまらない。

少年「もう帰らなきゃ!」

ロザリアとエンプーサのあいさつもそこそこに部室から飛び出す。

ヌルッ

少年「ぐわーっ!!」

乾ききってなかったノヘジの血を踏んで盛大に滑る俺。というかまだ血が流れ―――

ゴツンッ

バジロウ「少年ーっ!!」

ロザリア「きゃーっ。でも血だらけで素敵♪」

エンプーサ「はぁ…救急箱どこだったかしら」

ミレイア「臭い。歩いて帰りなさい」

少年「え、そんな―――」

バタン

ブーン

開口一番そう言われ、即座に置いて行かれる俺。

………マジで俺、歩いて帰るの?

あのミレイアが戻ってきてくれるわけもない。

つまり歩いて帰るしかないってことで………

少年「なんて一日だ」

「あー。どうした浮かない顔をして」

少年「今から数時間かけて家に帰らなきゃ―――」

突然かけられた声にそう返しながらその主を見る。

黒い服、黒い髪、黒い翼に、黒くて大きな角。

全身まっくろくろすけのこいつは―――

少年「うわ「待て! 叫ばないでくれ!!」

風紀委員を呼ぶために叫ぼうとしたらその男は即座に五体投地をした。その素早さにあっけにとられて口を開けたまま固まる俺。

「よし、即座に最善の行動。さすがだぞ我」

………確かに最善の行動かもしれないが、さすがといえるのだろうか。

「ところでどうした少年。浮かない顔をして困りごとか?」

五体投地のままなのでほとんど声は地面に吸収されて聞こえづらい。

しかしどうやら俺のことを心配してくれているのだろうということが分かった。

しかしこいつはあの変人集団のトップ。気を許したら何をされるかわからない。

少年「………あんたには関係ないね」

年上ではあるが気丈にいかなければまた飲み込まれてしまう。ほかのやつらはいないよな?

いざとなったら助けてくれ、ヒョウカさん。

「いいや、関係はある。我は生徒会長。生徒の悩みは我の悩みである!」

「あーつまりだ。困ったことがあったら助けるぞ?」

少年「………………」

こいつのことを信用していいのだろうか。

こんな奴でも一応生徒会長であるということは変わらない。もしかしたら、本当にもしかしたら俺を助けようとしてくれているのだろうか。

いいのか信じて。

俺は

1.信じる

2.信じない

>>89

1信じるものは救われる

少年「実は―――」

たった今起きたこと話す。男は五体投地の姿勢のまま頷きながら話を聞いていた。

少年「ということで、今から歩いて帰るんだ」

「なら話は簡単だな!」ガバッ

少年「うおっ」

男が勢いよく起き上がり、勢い余ってバク中をして着地した。

「我が送って行ってやろう!」バサッ

そういって背中の翼を大きく広げた。

つまり、つまりそういうことだ。

いやいやいや、カルラさんならともかくこんな奴に抱きかかえられて空を飛ぶ!?

冗談だろ!? 落とされたら俺は死ぬんだぞ!?

と思ったのが顔に出ていたのか男は少し悲し気な顔をした。

ぐっ、いやでも………

少年「お願い、できるか?」

「任せろ! 頼もしいことにこのベリア・ゴエティア様は万知万能であるぞ!!」

天狗であるカルラさんほどではないが十分な高度で十分な速度でベリアと名乗った男は飛んだ。

藍色の暗闇より深い黒色をした翼が空を掻き分け飛ぶ。

ベリアは何がうれしいのかクツクツと笑っている。その様子が不気味で不安で、思わず話しかけてしまう。

少年「大丈夫か? 落とすなよ?」

ベリア「笑え凡念! 我にすべて任せ安堵の彼方にて高らかに笑え!!」

何を言ってるのかはわからない。

おそらく大丈夫だといいたいのだろう。

この大げさなしゃべり方はどうにかならないものか。

しかししっかりと俺をつかんでいるし飛ぶ姿勢もぶれない。

安心しろというのも当然と思うが。

それでも俺はこいつの技能ではなくこいつ自身を疑っているのだから

………疑い続けるのもよくないのだろうか。

第一印象は最悪だったがそれでも水に流して信じて―――

簡単に信じていいのか?

俺はこの世界を簡単に信じても。

「―――いたぞ。ついたぞ」

少年「え?」

気が付くと俺は家の前まで帰っていた。

ベリア「安心感におぼれ放心していたのか? さすが我であるな」

少年「いや、ちょっと考え事をしていただけだ」

ベリア「そうか学生良く考え良く学び良く悩め! しかしその範疇を超えたら我、いや生徒会まで来るといい」

少年「なぁ」

ベリア「なんだ?」

少年「なんで、助けてくれたんだ? 下手したら風紀委員を呼ばれるかもしれないのに」

少年「こういっちゃなんだが俺はそっちにとっちゃ厄介な存在でしかないだろう」

ベリア「厄介か厄介でないか。得か損か。そんな低次元な世界に我は生きてない。助けれるか助けれないかだ」

ベリア「まぁ、この我は万知万能ゆえに助けれない者などいないがな。ふははははは!!」

………ひどく単純な考え。ばかみたいに簡単だ。

ベリア「また会おう少年!!」

月夜の中へ消えていくベリアを見送る。

しまった、礼の言葉のひとつも言ってない。おそらく向こうはそんなこと期待してないんだろうが、それでも

―――生徒会、か

少年「悪い奴らじゃないのかも―――」

ユキムラ「遅くに帰ってくる悪い子はどこでしょうか~?」カシャンッ

少年「!?」

ユキムラ「悪い子にはFIRE!! FIRE!!」パァンッ

少年「ぐわああっ!!」

やっぱりろくでもない一日だ。

【風は荒れれど、此方に在れど】

さすがに数週間もいれば基本的な学生生活には馴染んだ。

勉強して、バジロウ達とくだらない会話をして、ミレイアにどやされ、一日が終わる。

今日もそんな一日になる、はずだった。

少年「………あれ、これミレイアの教科書じゃないか? なんで俺カバンの中に。寝ぼけたミレイアが間違っていれたのか?」

俺らが使うには難しい教科書(俺はわからないわけではないが)がカバンの中に入っていた。ミレイアの私物を触ることはないから朝が弱いミレイアがなぜか間違って俺のカバンの中に入れたのだろう。

少年「ミレイアに渡しにいかなきゃな」

教科書がなくて困っていることだろう。問題はもう放課後であり、今更持って行っても遅いということだが。

それでももっていかなかったり、黙っているよりはよっぽどましだ。

一発殴られて終わりだろう。

最近ミレイアの理不尽のおかげで体が鍛えられたなぁ。もうミレイアの軽い一撃じゃあ痣もできない。

だからなんだという話だが。

オル「少年少年! 今日はオルレアンちゃんと素敵なランデヴーもとい店番をする気はないかい★」

少年「ごめん。放課後は用事ができた」

オル「ぶーっ☆ いいもんだっ、バジロウ達がいるし―――いねぇっ!★」

店番という言葉が出た瞬間に天狗も真っ青なスピードで教室から消えていきました。

そりゃあ給料もでないなんの得もない店番なんてしたくないだろうな。

もちろん俺もする気はない。

オル「へんっ、オルレアンちゃんのパートでは覚えておけよー★」

なにいってんだこいつ。

教室から出ると廊下は帰るか部活に行く生徒の流れ。

何十個も教室があるのだから混むのは当たり前だが今日はなぜかいつも以上に混んでいた。

人の流れが遅い。一体なにがあったのだろうか。

………確実になにか起きている。風紀委員の数が明らかに多い。

しかもそのいずれもが忙しそうに動き回っている。

喧嘩か乱闘かはたまた暗黒邪教部の悪神の暴走か。とにかくろくなことではなさそうだ。

さっさとミレイアに教科書を渡して安全なところへ避難しよう。安全なところがどこかは知らないが。

ヒョウカ「あ」

ひとごみからヒョウカさんがあらわれた!

しかも明らかに俺を見ている。なんだろうかいったい。

ヒョウカ「来てください」

そして有無も言わさず腕を捕まれひっぱられる。その光景は連行される犯人のようで―――

ザワザワザワ

ようで、というか確実に周りに誤解されている。周りが俺たちを避けている。しかも周りの視線は俺に集中している。

なんということだ。なにかは知らんが冤罪だ。俺は何も悪くない。

ノヘジの間違えだろう。あいつならきっと余罪はいくらでもあるはずだ。

少年「ヒョウカさん誤解です! 犯人は俺じゃなくてノヘジです!!」

ヒョウカ「何を言っているのですか?」

少年「俺は何もしてないので、冤罪ですって!」

こう主張をしないと周りの目が痛い。誤解が解かれなければ明日教室で俺はどんな顔をすればいいのだろう。

ヒョウカ「あぁ。勘違いさせてしましましたか。安心してくださいただ私はあなたに協力してもらいたいだけなので」

―――協力?

ヒョウカ「誰の手でも借りたいのです。詳しくは委員会室で話しますからついてきてください」

なんでまた俺に?

確かに借りはあるけど、風紀委員に協力できるほど優れたなにかがあるわけでもない。

とりあえず腕をつかむのはやめてもらい、珍しく焦っているヒョウカさんについて行った。

今日はここまで

おやすみなさい

学園の中央棟に風紀委員室はある。

大元の職員室やゼミ室などがあるため訪れることはあまりない。といっても売店や学食、さらには温泉があるために来る頻度も多い。

が風紀委員に連れられてくるのは違反者だけだ。ゆえにあまりこの状況で来たい場所ではない。

委員室は整然と片付けられており、掃除も行き届いている。これだけだと委員会の理想的な部屋であるが、それ以外にも違反者を閉じ込めるための檻(使用中)やヒョウカさんによって封印された生徒が保管される保管室などがあるため居心地は良いとは言えない。それに他の風紀委員がなぜか俺を見ているし。

少年「それでヒョウカさん。いったい俺に何の用なんですか?」

聞くとヒョウカさんは困ったように少しだけ眉尻を下げて俺を連れてきた理由を語った。

ヒョウカ「春になると違反者が増えるのはいつものことですが、今回は特に多く………いえ、おそらく同一犯と思われる正体不明の悪戯が多発しており風紀委員はその処理に追われているのです」

そう言ってヒョウカさんはその悪戯と思われる資料を机の上に並べた。目を通すと悪戯は水風船をぶつけるなんて幼稚なものから大人がすっぽり落ちてしまうような落とし穴や植木鉢を落下させるなど一歩間違えば大事故に繋がるようなものまである。一見やる事にはばがありすぎて同一犯のように思えないが目撃者の証言が決まって怪しい人物がいたと断言できるがどんな人物だったのかは思い出せないという共通点があった。

ヒョウカ「犯人が分からない故に対応はいつも事後的なものしかできず、いつ起こるかわからないため我々で警戒態勢を敷いてますがこの事件以外に対応ができず」

少年「できず?」

ヒョウカ「貴方に他の事件を解決してもらおうかと連れてきたのです」

少年「無理です!」

即座に反応した。迷っていればそのまま押し切られるだろうと思ったからだ。

ただの一般人でしかない俺がそんなことできるわけがない。そういうのはもっと別の人が向いているはずだ。

ヒョウカ「そう難しいことではありません。貴方でもできることなので」

少年「なんで俺なんですか。もっと他にもいるでしょう」

ヒョウカ「さっき言った通り、誰の手でもいいから借りたいのです。手は多い方が良いのです」

だからってなぜ俺の手なんだ。誰でもできることと言ったがその出来は人によって差が出る。

俺に向いているわけではないはずだ。ご立派にこなせる気はしない。スラム出身と言ってもそういうことは避けてきたんだから。

ヒョウカ「詳しいことはこの封筒の中を見てください。それでは頼みましたよ」

どうやら俺の意思なく押し切られてしまったようだ。無理やり押し付けられた封筒には氷で封印がしてあった。

風紀委員に逆らって利があるわけじゃないってことは知ってる。

だけどこんなのってあんまりじゃないか?

せめてサポートをつけてくれればいいのにと思うが風紀委員は忙しいらしく誰も助けてくれなかった。

見知った顔がいればいいんだがカルラさんは出払っているらしく、封筒と腕章を受け取ってとぼとぼと部屋から出た。

少年「………で、何をすればいいんだ」

俺にもできることと言っていた。つまり服装や喫煙の取り締まりだろう。風紀委員に逆らうものはそんなにいない。

風紀委員の腕章さえあればなんとかなるだろう。と前向きな思考に切り替える。

終わらせればいいんだ。今の俺がやらなければならないことはすぐに終わらせてミレイアに教科書を渡しに行く。それだけだ。

そうと決まったらはやく指示を確認しよう。さてどれどれ

氷の封印を剥がし封筒の中を見る。封筒の中には薄っぺらな紙が一枚入っているだけだった。

これくらいならそのまま渡してくれればいいのに。機密的な何かが理由だろうか。

少年「えっと………」

紙に目を通す。そこには顔写真付きで一人の男が載っていた。

イズナ

不良

捕縛

―――――俺一人で?

少年「嵌められたぁ!!」

封筒に入っていたのは機密のためなんかじゃない。

簡単じゃないってことを俺に知られないためだ。

信じていたのに、ヒョウカさん!

俺に関係のないことと言ってこの封筒を捨てて逃げるのは得策と思えない。

きっと公式文書の無断破棄などと言われて檻の中に入れられるのが山だ。

つまり挑戦はしたが、力叶わずが一番ベストな結果。

でもそれならどっちにしろこの不良に会いに行かなければいけないんだよなぁ。

会って話が分かる相手ならいいんだが資料には複数の舎弟がいるうえに帯刀しているときた。

なぜまぁこの学園は武器の携行が許されているのだろうか。それがなければ風紀委員ももっと楽になるのではないだろうか。

少年「………別に誰か頼れって言われてないもんな。うん」

旅は道連れ。情けないかもしれないが誰かに助力を頼もう。

しかし俺の知人は少ない。その中で頼れそうなのと言えば………

少年「俺の知り合いって少ないな」

いなかった。

ノヘジやバジロウに頼むわけにもいかない。二人に比べたらオルレアンの方がよっぽど武闘派だがあれでも女の子だ。こういうことに巻き込むわけにはいかない。

少年「打たれ強さには自信がある。うん、ミレイアに殴られ続けてきたんだから」

なんて変な自信を奮い立たせなければやってられない。

しかしこの広い学園で一体どう探せというのだろう。

足か。

情報は足で探すものなのか。

少年「無茶だろう………せめて翼でもあれ………ば?」

「おい、てめぇ! 暴れるんじゃねぇよ!! おとなしくしろおらぁ!!」

「やっちまってください兄貴ぃ!」

少年「………」ゴシゴシ

中央棟から出てすぐ、そこに目的はいた。

茶髪を後ろに流して時代錯誤の白特攻服。その背中には疾風怒濤の文字。そして身の丈に合わない長刀。

こんな奴が複数人いてたまるか。しかしどうするか。というか何やってんだ。誰かを羽交い絞めにでもしてるのか?

ゆっくりと近づいてみる。おそらくいきなり襲い掛かってくるようなことはないだろう。そう信じたい。不良でも最低限の常識はあると信じたい。

少年「!?」

猫だった。薄汚れた猫が不良と戦っていた。

「あ、兄貴! ふーきいーんっすよ!」

「んだとぉ!? げぇっ!」

どたどたばたばた。

疾風怒濤の割には泥臭い感じで逃げて行った。あっけにとられ追うこともできやしない。

「にゃーっ」

少年「………なんで猫?」

食うのか。まさか。

たしかにスラム街ではなんでも食べる奴はいた。そういう奴はたいていガラが悪かった。そうか、なるほど。

俺はスラム育ちで拾われたロード家は上流階級。ゆえに一般的な常識に触れてなかったから一般常識がないのは分かってる。だがしかし驚いたな。

不良は猫を食べるものなのか。

世界は今日も驚きで溢れている。

今日はここまで

おやすみなさい

猫は抵抗してたおかげで傷一つない。

ボロボロで薄汚れてはいるがおそらくこれは元からだろう。

その毛皮は艶を失い、眼の周りもやにだらけ。その姿に少し前の自分を重ねてしまい少し同情した。

いや、おそらくこの猫はこの現状を、この現実を満足しているのだろう。だってそう主張するように足元で鳴いたから。

どちらにせよ結局は俺の感情での裁量なんだがな。

男「あー、無事みたいでよかった」

「にゃおんっ」

男「……さて、どうしたもんか」

一対一ならまだ希望はあったかもしれないが相手が集団では万に一つも勝ち目がないだろう。

戦いにしろなんにしろ人海戦術こそが正道なんだ。

男「猫の手でも借りたいな」

「にゃおうん」

時間はまだまだある、焦る時間ではない。

というかそもそも俺がしなければならない義務はないはずだ。この憤りは権力社会に対する抵抗的行動を―――生まない。

俺はなんの力も持たない一般ピーポー、凡人パーポーなのだ。

長いものに巻かれる、ことなかれ主義的発想は生まれ育った中で骨の髄までしみ込んでいる。文句を飲み干し、強者にこびへつらい平穏だけを求めるんだ。

そんな考えはロード家とは到底かみ合わないものであり。だからこそ俺はミレイアがまぶしかった。

男「なんて黄昏てても無駄に時間を食うだけだし、行動あるのみだよな」

助け船を出してくれる誰かに出会うかもしれないし。

本当に猫の手でも、借りたいもんだ。

男「………あれ?」

本物の猫の手はすでにどこかへ消えていた。

さてはてどうしたものか。しつこく悩んでいると―――

「キャッ」

誰かにぶつかってしまった。完全に現実を認識してなかった俺は軽々と転倒し、衝突した相手を下から見上げることとなった。

なぜ俺が転倒したのに相手は倒れてないのだろうか。そういえばぶつかったとき何か大山的不動感覚………なんだ大山的不動感覚って。

要するにびくともしなかったように思えた。

「す、すいませんっ、すいませんっ。私なんかがいたから」

可愛らしい悲鳴の後に続いたのは矢継ぎ早に繰り出される謝罪の嵐。

一体これは何事かとごめんなさいの雨あられを掻い潜りその主を見る。

男「あ」

教室で見たことのある姿だった。クラスメートだった。

ノヘジが言ってたレベルの高い女の子。さすが牛の亜人。びくともしないのは納得だ。

「ごめんなさいごめんなさいっ」

………この子ならあの不良にも勝てるのではないか?

そんな考えが頭をよぎるがクラスメートとはいえ見ず知らずの相手にそんなことは頼めない。

というか女の子にそんなことを頼むべきではない。

男「すいません、よそ見してて。怪我はないですか?」

「は、はいっ。大丈夫です。頑丈だけがとりえなんですっ」

にしては包帯だらけだけども。

「そちらはお怪我はないでしょうか」

男「大丈夫です」

「もし後でなにかあったらご連絡ください、えっとクラスは」

男「同じクラスですよ。同じクラスの男です。第に………人間です」

「あっ、同じクラスの人間さんですね。すいません思い出せなくて」

「えっと私はリンネです。鬼のリンネです」

わぁ。

鬼というとさすがの俺でも知っている。

亜人の中でも最強と呼ばれ、絶対数が少ないながらも歴史に多く名を遺す種族。

その性質は剛健にて豪放そして粗野で自己中心的。

多くに憧れられ、多くに恐れられるその鬼と目の前の少女がどうしても同じものに思えなかった。

もし………もし本当に鬼であるならば

リンネ「あ、あのぅ、どうかされましたか? ! もしかして内蔵に損傷がっ」

男「い、いえ大丈夫ですから。えっと用事があるので失礼して」

リンネ「もし気分が悪くなったりしたら責任を取らせていただきますから!!」

男「………」

1.じゃあ責任をとってもらおうか。

2.全然平気だからきにしないでください。

>>115

1

男「じゃあ責任をとってもらおうか」

リンネ「えっ! もしかして内蔵が使い物にならなくなったんですか?」

んなわけあるか、恐ろしい。

リンネ「そ、それじゃあ私の内蔵を………差し上げます!」

いらねぇよ。

男「実は今から恐ろしい不良を捕まえるためにいくんだが」

男「あんたとぶつかったから万全の状態じゃなくなった。このままだと取り逃がしてしまうかもしれない」

男「だから手伝ってくれ」

リンネ「おおお、恐ろしい不良ですか!?」ガクブル

鬼だろ。震えるなよ。

そんな俺の口八丁の嘘にリンネはコクコクと震えながら頷く。

だましてなんだが頼りになるのだろうか。

もしかしたら鬼になりたいだけの気弱な女の子なんじゃないかとふつふつと罪悪感が湧き出てくる。

えぇいっ、それでも人間よりは強いはずだ!

気をしっかりもて、俺。

そんなこんなでリンネが仲間になった。

リンネ「え、えっと捕まえるってどうするんですか?」

リンネ「あっ、ケーキを囮にして夢中になってるところを後ろから網で捕まえるんですか?」

虫か。

男「相手は何人もいますから戦うことになるでしょうね」

リンネ「戦い、ですか。戦いはあまり好きではなくて」

リンネ「す、すいませんっ。責任をとるっていったのにこんなこと言っちゃって」

男「鬼は…戦いが好きだと聞いてましたけど」

リンネ「あ、はい。大体みんなそうです。いえ、私以外はたぶんそうです」

リンネ「私は……出来損ないですから」

男「………」

リンネ「………」

気まずい。地雷を踏んでしまったらしく、リンネの顔が曇る。

そりゃあ種族すべて同じ性格なわわけがない。あくまで傾向があるだけでおとなしい鬼がいてもおかしくはないんだ。

リンネの性格だって個人差の範疇なんだから別におかしくはない。

………そうだ。そのはずなんだ。

当然のごとく差別をしてしまったことに反省する。きっと彼女は今までずっと偏見の目に脅かされてきたんだろう。

人々がこうであれと押し付けられた鬼の影に押しつぶされて。

男「すいません」

リンネ「そ、そんなっ。私が出来損ないなのは事実ですし」

男「鬼がどうのこうじゃなくて、リンネさんはリンネさんでした。勝手な想像をリンネさんに押し付けてしまってすいません」

リンネ「………男さん」

リンネ「励ましてくれてありがとうございます。でも出来損ないの鬼ってわかってますから」

そういってリンネは寂しそうに。諦めたように笑った。

「暴れんなおらぁ!」

巨大な校舎の中を例の不良を探してクタクタになっていたときだった。

渡り廊下を渡る最中に一度聞いた怒号を耳にした。

リンネ「ふわっ、な、なにがあったんでしょうか」

男「あいつらです」

渡り廊下から見下ろすと例の不良が再び何かと格闘していた。

「まーお!!」

猫だった。

しかしなんであいつらはそう猫を追い求めてるんだ。

やっぱり食べるのか?

男「リンネさんは猫って食べますか?」

リンネ「えっ、食べませんよ。いくら鬼でも野良猫ちゃんは食べませんよぅ」

男「ですよね」

………ん?

リンネ「とにかく野良猫ちゃんを襲うのは許せませんっ。どうすればいいですか男さんっ」

男「………」

どう、すればいいんだろうな。

渡り廊下から地上まで約10メートル。

不可能ではないが飛び降りたら怪我を負う高さ。というか下手したら死ぬ。

男「ここからあそこまでの行き方わかりますか?」

リンネ「えっ、はい!」

男「なら―――」

ピョンッ

そんな軽い効果音を立て

リンネ「よ、弱いものいじめはいけませんよぉ~っ!」

リンネは渡り廊下から飛び降りた。

ドスンッ

リンネ「男さん! 男さんもはやく!!」

無茶を言うなよ。

男「俺は階段使っていきますからリンネさんは不良をお願いしますっ」

「な、なんだてめぇは!」

リンネ「ひぅっ、いいい、いじめはだめですっ、絶対!」

ガクガク震えながら人差し指を不良たちに向けるリンネ。

その姿はか弱く思えるが10メートルをちょっとの段差程度にしか思ってない女だ。

きっと大丈夫のはず。

そう願いを託し、俺はちゃんと階段を探した。

急いで下に降りるため校舎の中を走り回る。まだ多い生徒の間を抜けひたすらに校舎の中を走り回る。

しかしなんだ。この校舎は利用する生徒のことを考えているとは思えない。なぜに一階まで降りれない階段や一階を通り越して地下まで行く階段があるんだ。

そんなみょうちきりんな構造に俺は翻弄され、リンネの元へ行くのに10分近くかかってしまった。

男「リンネさんっ!」

一応心配しておく。もちろんリンネさんをだ。

さっきまで不良がいた場所には不良だったものの死屍累々

ではなく

リンネ「えへへ、かぁいいねぇ」

「んなぁ~おっ」ジタバタ

猫と戯れる(猫は全力で嫌がっているが)リンネさんの姿だった。

リンネ「あっ、男さん」

男「無事だったんですね」

リンネ「不良さんは野良猫ちゃんを置いてどこかへ行ってしまいました」

そりゃあ上空から女の子が降ってきてしかも無事だったら驚くだろうな。

それかリンネの額に生えている角を見て鬼と察したからか。

どちらにせよ、大事に至らなくてよかった。

けしかけておいてなんだが、リンネさんが傷つかなくてよかった。

………ヒョウカさんに怒られるからな。

男「あれ?」

リンネ「どうかしましたか?」

男「その猫。洗ってあげたんですか?」

姿かたちは確かにさっきの猫だ。

ただ綺麗になっている。

毛艶は良く、光を浴びて光っているし目の周りにこびりついていた目やにもなく大きな目を開けて助けてとでも言いたそうにこっちを見ている。

リンネ「いいえ? 私はなにもしてないですよ?」

男「……誰か綺麗にしてあげたのかな」

その優しさは不良にとっての食べやすさになっただけだったが。

男「リンネさんはその猫の面倒を見てあげててくれませんか? また不良に狙われたらいけないんで」

リンネ「は、はい。全身全霊で野良猫ちゃんを守り抜いてみせましゅっ」

リンネ「///」

猫もリンネさんといたほうが安全だろう。

問題は猫がリンネさんから全力で逃げ出そうとしていることだが許せ猫。お前のためなんだ。

男「それじゃあ俺はあの不良たちを探してきますんで」

リンネ「き、気を付けてください」

男「えぇ。猫のことよろしくお願いします」

とりあえず今のところの心配は解決した。

あとはあの不良たちがどんな悪事を働くのかは知らないが見つけて捕まえ………

リンネさんがいない今俺はどうすればいいんだろうな。

自分の抜けてしまった考えを後悔する。

別にリンネさんじゃなくても安全そうな場所に猫を非難させるだけでよかったのに。

しかし起きてしまったことは仕方ない。

「何やってんだおらぁ! 今隠したもんだせおらぁ! ジャンプしろやぁ!!」

男「!!」

怒号と悲鳴。

またか―――!!

男「お、お前らそこまでだ!」

遮二無二声がしたほうへ飛び出す。

えぇいっ。やらないで怒られるより、やって失敗して怒られたほうがましだ!!

アータル「あ?」

男「………え?」

そこにいたのはクラスの担任であるアータル・オルファンだった。

壁際に生徒を押し付けてる姿はどうみても担任どころか教師に見えない。

アータル「お前はロードんところの人間じゃねぇか。どうしたこんなところで」

男「もっと言うならあなたの生徒ですよ。ってなにやってるんですか? カツアゲですか?」

アータル「おぉ、こいつが煙草を持ってたからな没収してるところだよ」

「も、持ってないって」

アータル「嘘つけや俺の煙草に関する嗅覚なめんなよおらぁ!!」ドンッ

「ひぃっ」

男「も、もう少し穏便に」

アータル「ガキが煙草吸ってんじゃねぇぞおらぁ!! イキりやがっておらぁ! さっさとよこせおらぁ!!」ドンドンッ

「ひぃぃぃぃっ!!」

………この人煙草奪いたいだけじゃないよな?

「す、すいませんでしたぁぁぁ」

アータル「素直にだしゃいいんだよ。次持ってきたらただじゃおかねぇからな あん?」

「わかりましたぁぁぁ」

アータル「よし、行ってよし」

「ひぃぃぃぃっ」

アータル「ったく、なんでは俺はこんな使命感に燃えた理想の教師なんだろうな」

………なにいってんだ?

アータル「で、お前はなんでここにいるんだ?」

男「ちょっと人探しを………!」

これでも教師だ。俺よりずっと学園について詳しいはずで。

だからもしかしたら不良がいそうな場所を知ってるんじゃないか?

男「あの、ちょっと聞きたいんですけど、不良達がいそうなところって知ってますか?」

アータル「あ? 俺の前で非行は許さねぇぞ?」

男「違いますって、ちょっと用事がありまして」

アータル「あぁん!?」ズイッ

男「人探しですから! そんなに顔を近づけないでくださいよっ」

アータル「人探しねぇ………不良なんてこの学園にマカロニみたいにいるが」

アータル「集まるっつったら番長連か。まってろ地図書いてやるから」

男「あ、ありがとうございます」

………番長連ってなんだ?

アータル「ほらよっ」

そう言って手渡してきた地図は短い時間に書いただけあって簡素で粗雑。

つまりとても分かりにくい地図だった。

アータル「なんだかよくわかんねぇけど頑張れよ」

そう言って去っていく担任アータル。その背中を見て俺は

男「………わかんねぇよ。これ」

深い溜息をついた。

今日はここまで

こっちはお久しぶりですいません

少年の名前が男になってるorz

地図に書かれた下手な絵に何とか頭を捻りながら道を作り出していく。明らかにゆがんだ形の校舎を現実の校舎に当てはめ悪戦苦闘すること小一時間、俺は校舎から外れた鬱蒼と生い茂る木々の中にいた。

地図には一本道で書かれているが現実ではどうかわからない。まっすぐな校舎がゆがんでいるのだからまっすぐな線が現実では歪んでいるということも十分考えられる。

希望は地図にある最後の目印、聳え立つ大木だが………

少年「あれか」

確かに目立つ。背の高い木々の中でもなおさら高い大樹。あれを目印にすれば迷うことはないだろう。

が、如何せん距離がある。行って帰ってくる(無事帰って来られるのであればの話ではあるが)と太陽はとうに暮れているだろう。

そんなことになればまたミレイアに罵られ、ユキムラに撃ち抜かれるであろうことは簡単に想像つく。

俺だってやりたくてやってるわけじゃないのにな。

ままならないものだ。

「止まりなさい」

男「!」

声がかかる。一体どこからと見渡す前に俺の首根っこをひやりとした手で掴むやつがいた。

男「がっ、あっ」

あがけどもがけど力は緩まない。両手で首に当てられた手をはがそうと試みるが万力のごとくピクリともしない。さらにその手には硬い鱗が生えており、剥がそうとする際に手を深く切った。

痛いし、苦しい。それは思考能力をたやすく奪っていく。

「見たことない奴だ。それに我々側とも思えない」

「誰だ?」

その返事を聞きたければ手を放せ。なんとかそう言おうと思ってもうめき声と泡しかでない。

どうしようもなくただ苦しさに沈むだけ。まるで水中にいるかのような感覚にどんどんどんどん頭が痺れてくる。

死にはしないだろう、だけれどこの感覚は―――

「弱いな。風紀委員とも思えない」

意識を失う直前に手が外された。支えをなくしてそのまま膝を折って倒れ伏す。

体が勝手に酸素を求めてあえぐ。口の中に土と砂が入ってきたがそれでも呼吸を止めることはできなかった。

「ここから先は迷い込んだじゃすまない場所だ。痛い目を見たくなければ帰ったほうがいい」

少年「げほっ、けほっ」

少年「人さがし、だ」

何度か大きく深呼吸をし、やっと脳の痺れが取れる。そうすればいきなり襲い掛かってきた相手をようやく余裕をもって見ることができた。

おそらく女だ。というのは薄暗いのと肌が鱗でおおわれているたに判別がしにくいためだ。

ドラゴニュートよりもドラゴンに近い。爬虫類の怖気が走る眼が俺を見下ろしている。鬼に続いてドラゴン。なんでこうも俺よりずっと強い奴らばっかりなんだろうな。

本当にリンネと別れたことを後悔する。

「人探し?」

少年「ここに来れば会えるかもしれないって、人に聞いた」

「………誰だ?」

少年「あー」

確か名前はイズナ。かまいたちのイズナだ。

少年「…イズナってやつだ」

「イズナ………イズナか」

反応があった。ドラゴンは俺をじろりと見て小さく頷いた。

「ここにはいない」

少年「え? でもこっちに」

「あいつはこっちには来ない」

「だが心当たりはある。案内してやろうか」

少年「!」

それは確かに魅力的な提案だ。だがしかしさっきまで俺の首根っこを掴んでいた相手の言うことを鵜呑みにしてもいいものか。

おそらくこいつは番長側の人間だ。なら同じ仲間であるイズナを売るはずがない。油断させておいてなにかされるのがオチだろう。

だがもし、だがもし本当にイズナのところへ案内してくれたら?

高い絶望と低い希望を天秤にかけるほど俺は愚かじゃない。普通ならば

だけど手詰まりの今、その提案は本当に魅力的に思えた

だから俺は―――

1.言うことを信じる
2.言うことを信じない

>>135

1

信じよう。

ただでさえ今は手掛かりもなく手詰まりなのだ。だから今は蜘蛛の糸ほどの可能性でさえ希望に見える。

普段の俺ならば絶対に選択をしないだろう。リスクを冒すくらいなら、現状維持を、それすらできないのならゆったりとした衰退を望むことなかれ主義的思想を持つ俺だったら。

「どうする」

男「案内してくれると助かる」

「そうか」

ドラゴンの手が差し伸べられる。その手を握り返すとそのまま腕の力だけで立ち上がらされた。おかげで手首の間接が痛む。

しかし大きいな。ドラゴンなだけあって俺の身長よりずっと高い。並んで歩けば俺が子供に見えるくらいの身長差だ。

こいつからみたらミレイアなんて赤ちゃん程度に見えるんだろうな。

「何を見ている」

「いや、大きいなと」

「ふん。当然だ。私は人間ほど矮小ではない」

むかっ。

少し頭にきたが掴みかかることもできなければ言い換えすこともできない。

力量差も当然だが、相手からみたら事実だからな。

「ついてこい。こっちだ」

そう言ってのっしのっしと歩き出す。

ついて行くのは大変だった。あれだけ身長差があるのだ。当然歩幅も全然違う。

向こうがただゆっくりと歩いているのですら俺にとっては早足と同じなのに、向こうが早足になればもう走るしかない。

男「はぁ、はぁ」

「ふん。軟弱者め」

軟弱者で悪かったな。こちとら数か月前まで栄養失調だ。ミレイアやユキムラからの暴力で耐久力だけはついたかもしれないが体力はからきしなんだ。

息を切らしている俺を一瞥するも速度を落としてくれそうにない。

これだから不良は。これだから人のことを考えない人種は。

人のこと、あんまり言えないけどさ。それにたぶんミレイア達のほうが人のこと考えてないし。

また男になってるorz

歩いたにしても結構時間かかったんだ。その距離を走るとなるとしんどいのは当然。

学園が見えてきたときにはもう口の中が鉄の味。それに対してドラゴンは息一つ乱してない。

人生努力すればなんて言葉はよく聞くが、肉体的なものに関しては到底埋めようがないこともあるわけで

「あっ、何しに来たんですかっ」

「!」

近くで声がかかる。その声を聴いた瞬間ドラゴンは森の中へ走っていった。

ガサガサと木々が揺れる音。誰かがドラゴンを追い回す声。

少年「い、いったいなんなんだ?」

あ、ドラゴンがいないと不良のところへ行けない。

困ったな、ドラゴンを追って俺も森へ入るか? と考えていた時だった。

ガサガサ

「また逃げられてしまいましたね」

頭をかきながら誰かが森の中から出てきた。その両耳は頭上に生えた金色の三角形。

同じく金色の隠しきれないほど豊かな二本の尾を携えた男……女………どっちだ。

声も、どちらともとれるような………。

「なんですか? そのようにみられると照れてしまいますよ。なんてね」

どっちだ。

いやまぁ、どうでもいいか。

「大丈夫ですか? あのドラゴンに襲われていたように見えましたが」

少年「あー、大丈夫です。道案内してもらってただけなんで」

「道案内!? あの恐ろしいドラゴンがそんなことするわけがありませんよっ。たぶん騙されて食べられる寸前だったのでしょう。あぁ、恐ろしいっ」

芝居がかった感じでくらりと額に手を当てる性別不詳の狐。

危ない所………だったのか?

少年「あ」

狐の腕には腕章がついていた。風紀委員の。

「そんなに見ないでください。人目がないからって///」シナッ

うるせぇ。

「あは、冗談ですからそう怒らないでください」ニコッ

少年「あなたも風紀委員なんですか?」

「あぁ、はい。そうですよ。学園の規律を守るのが僕の役目。おっとこれは申し遅れました。僕はクロと申します。よくある名前ですから風紀委員のクロと覚えてくださいね」ニコッ

男「えっと、ヒョウカさんに仕事を頼まれた男です。風紀委員には所属してませんけど」

クロ「あぁ、あなたが例の」

男(例の?)

クロ「しかしあのドラゴンに道案内してもらっていたとは、どこに行きたかったんですか? 僕でよければお送りしますよ」

男「え、いいんですか?」

クロ「それもまた風紀委員の活動ですから」ニコッ

渡りに船とはこのことだ。

あのドラゴンなら懸念すべきところはあったが、この人は風紀委員だ。

心強い味方になってくれるだろう。本当にちょうどいい時に来てくれた。

クロ「なるほど、イズナを探している、ですね?」

ヒョウカさんから渡された封筒の中身をクロさんに見せる。クロさんはふむふむと頷きながらそれを読むとぱちんと指を鳴らした。

クロ「お任せくださいっ」ニコッ

おぉ、さすが風紀委員。

………だったら俺に頼まずこの人が行けばよかったんじゃ?

クロ「こっちですこっちです。ささ、どうぞ」

案内継続。

しかしクロさんはあのドラゴンと違いしっかりと歩幅を合わせてくれた。

うーん。まともで優しい人に久しぶりに会った気がする。

クロ「さ、この道をまっすぐです」

複雑な学園をするすると迷わず進んでいくクロさん。俺も何年かいればこんな風に移動することができるようになるのだろうか。

少年「ありがとうございます」

クロ「それでは、頑張ってください。では」

………助けてはくれないのか。

俺の力で何とかしないといけないみたいだが、さっきのドラゴンの件もあるし………。

少年「それでも、行かないとな」

成功にしろ失敗にしろ早く終わらせることだ。

そうしたら元通り面倒ながらも平凡な日常に戻れるはずだ。

森ほどではないが薄暗い。それに学園内でも外れのほうだから一目にもつきづらい。

確かにここならばこっそりなにかするにはもってこいの場所だな。例えば………

頭に浮かんだ恐ろしい想像をかぶりを振ってかき消す。

はは、まさかそんなことはしないだろう。

………そういえばあのドラゴンが言ってた、イヅナは番長連に行かないという言葉。

それは一匹狼だからということなのだろうか。

もしそれが番長連に出れるような存在ではないということだったら?

例えば弱い、例えばそれほど悪くない。

確かにそれならあのドラゴンの言うことも納得がいく。

それならヒョウカさんが俺に任せたのも合点がいく。

だったら俺はただ想像が作り出した影におびえる愚か者だ。

言ってはなんだがとんだ張り子の虎だったな。それにおびえる俺は差し詰めネズミってところか?

男「………!」

木がはじける火の匂い。

さすがに校内で火の匂いがするのは穏やかじゃないな。

まだ肌寒い日があるとは言え、それでも焚火をするほどじゃない。

こっそり、こっそり様子を見ながら近づいていこう。

死角にあるということは向こうからもこっちが死角になるということだ。

注意深く進みさえすれば近づくのは容易だった。話し声が聞こえる。

何やら大声をあげているようだが緊張と心音でよく聞き取れない。

俺は静かに物陰から様子を伺うと―――

男「!!」

火がはじけていた。メラメラと。

そう、火がはじけていたんだ。

イヅナ「火が強すぎるだろうが! 強火にもほどがあるだろうが!!」

鉄板の下で。

「す、すいませんっすっ。でも料理は火力だってオルレインちゃんも」

そして鉄板の上で踊る焼きそば。

なんだよこれ。

イヅナ「これじゃあソースが焦げ付いて不味くなっちまうだろうが!」

確かに気づけばソースの焦げる匂いはした。

でもまさか不良が焼きそば作ってるだなんて誰が思う。

しかも割と本格的な設備で。

「これでお客さんいっぱい来てくれるっすかね」

イヅナ「おうよっ! 俺様特性の焼きそば食っちまえばどんな奴だってイチコロよぉ!

特性!? イチコロ!? なにやら不穏な言葉が

「イヅナさんの焼きそばは美味しいっすもんねぇ~」

………そっすか。

なんか緊張してたのが馬鹿らしくなった。

実は悪い奴じゃないんじゃないかこいつら。

………! まさかあの猫を焼きそばの具にする気では。

有りうる! よくわかんないけど有りうるかもしれない!

その考えも瞬時に否定された。

「いたっ、うぅ、水が傷口にしみるっすよぅ」

イヅナ「けっあの猫。みすぼらしいから綺麗にしてやったってのに恩をあだで返しやがった」

「なんか変な女に猫捕まってたっすけど、も、もしかして食べられたんじゃ?」

イヅナ「お、おい。猫食う奴なんかいるわけねぇだろ」

「そ、そっすよね。でも鬼だったし」

イヅナ「………くっ。自分が情けねぇぜ! 鬼にビクついて猫一匹守れないんじゃよう!!」

「し、仕方ないっすよ。相手は鬼っすし。そうだ、あの猫のお墓を立てるっすよ」

イヅナ「ならなるたけ立派な奴作ってやらねぇとな。それがせめてもの弔いってやつだ」

「猫ぉ」ウルウル

ごめんリンネ。なんか猫食べてるって思われてるらしいぞ。

とりあえず見たままをヒョウカさんに説明しよう。

そうすればヒョウカさんも大目に見てくれるだろう。

そう思って踵を返したときだった。

ボキッ

少年「!!」

ベタに足元に落ちてた枝を踏み折ってしまった。大きくないとは言え、普通に聞き取ることのできる程度の音だ。

イヅナ「! 誰がそこにいやがる!!」

「お、俺見てくるっす!!」

やばい、逃げろ!!

と思った瞬間には捕まっていた。

今日は良く捕まる日だな。

イヅナ「誰だてめぇ………いや見たことある顔だな」

「あっ、猫を追ってた風紀委員っすよっ!」

イヅナ「なにぃ!? てめぇもあの猫食い女の仲間だなっ!?」

本当ごめんリンネ。

というか俺が追ってたのは猫じゃない。お前だ。

それにまだ風紀委員でもない。

色々弁解したいことはあるが

イヅナ「けっ。風紀委員上等だボケェッ! 俺は俺の正義があんだ」

イヅナ「疾風怒濤のイヅナ。弔い戦と行くぜ!」

「イヅナさんっ、構え太刀っす!」

スラリ

少年「!!?!?」

あ、やばい。

イヅナに手渡された刀は優に本人の身長を超えていた。

あんなんで切られたら一たまりもない。頭から足まで真っ二つになるのも当然と思わせるほどの迫力。

もしかしてさっきのドラゴンよりもやばいんじゃあ?

なんとか弁解して、刃を収めてもらわないと

少年「いや、俺は――――――」

べリア「そこまでだ下郎どもめ! モブはモブらしくモブのように消え失せるといい! それがモブがモブとして生まれたさだめであり宿命! 貴様らは自分がモブであることを自覚し、精々主役様を立てることに尽力し、それ以外は慎ましやかに無害な生活を送ることを心掛けよ! このモブ式目に己が血で捺印し、この式目に従うことを誓いますか? 誓いますか!? 誓ってくれますか!? 誓ってくれますよね!? ねぇ!! つーか誓え!!!!!」

―――罵詈雑言をあしらった意味不明な文句を垂れ流しながらあいつが現れた。

今日はここまで

毎度ありがとうございます

奴がいるのは校舎の屋上。

校舎と校舎の間に位置する場所にいる俺たちの行動は丸見えだっただろう。

しかしなんのためにそんなところにいたのか。訝しがる俺たちを後目に奴は逆光の中で高笑いを上げた。

べリア「今行くぞっ、まって、んぐなぁ!?」

そう叫び奴は屋上から飛び降りる。黒いマントが棚引いたかと思えば

ぐちゅっ

そのまま顔面から地面にたたきつけられ、辺り一面に血液をまき散らした。

「ひ、ひぃやぁっ! す、スプラッタっすよぉ!?」

血の匂い自体嗅ぎなれたものだが、それでも目の前に死体があるという光景は何度見ても慣れるものではない。

たとえそれがべリアだとしてもだ。その光景は否が応でも脳内で警鐘を鳴らし続ける。

というか飛べよ! 飛べるだろ!?

べリア「んぐばぁっ!」

ガバっと奴が起き上がる。その勢いでピチャっと血液が俺の顔面に付着した。温い。

「ずぉ、ゾンビっすよぉ~ 逃げるすよぉ~!!」

イヅナ「お、おいお前ら!!」

散り散りになってくイヅナの仲間たち。

そりゃそうだ。目の前で人が投身自殺を試みただけでショッキングなのに。しかもそれが元気に起き上がるんだからな。正直俺も冷静なふりして吐き気をこらえてる。さすがに顔面に血液つくと気持ち悪い。生臭いし、変に暖かい。

べリア「ふ、ふわはははっ! 我に恐れおののいたか凡人共よ! んなぁ~っはっはっは」

イヅナ「ち、ちくしょう!! 覚えてやがれ!!」

そんな三流悪役染みたセリフを吐いてイヅナも逃げていく。

正直、なんだこれ。

いったい、なんなんだこれ。

べリア「危ない所を助けてやったぞ凡念! さぁ! 我を称え! 我を崇め! 我を―――ん?」

パチパチパチとはじける音が大きくなった気がする。それになんだか暑くなったような・・・

べリア「………………これ我のせいか!?」

いつのまにか横に倒れていた火が校舎へ燃え移っていた。

少年「なんだこれ!? なんなんだよこれ!!?」

メラメラと燃える火はもう到底料理に使える火力ではない。

これじゃあキャンプファイヤーだな………じゃねぇ!

少年「み、水! 水を探せ!! もしくは水の魔法を!!」

べリア「み、水の魔法なら、我が―――」

ヒョウカ「なにを―――しているのですか?」

べリア「んなぁ!?」

びゅぉうと皮膚を切り裂く冷気が吹き付けてきた。もう火の熱さなんてものは感じない。痛いほどの冷気が制服を裾から凍らせていく。

ヒョウカ「なにを、しているのですか?」

べリア「こ、これはだな、決して我のせいでは、いや我のせいかもしれぬがその発端は」

ヒョウカ「―――問答無用。風紀委員権限にて封印凍結を実施。対象べリア」

べリア「なんで我だけ!?」

ヒョウカ「―――――執行」

景色が瞬いて

―――真っ白になった。

冷気を吹き付ければ火が消えるのは自明の理。これは燃焼四大要素のうちの一つであるマナ。対象平方センチメートル内に存在する火のマナの密度を氷―――すなわち水のマナの密度が超え、火のマナを減少させたからだ。

なんてことはどうでもいいか。

カルラ「そっちしっかり持てよっ。よし、それじゃ運ぶぞ! せーのっ」

ヒョウカ「無事、ですか?」

少年「大丈夫です」

俺はいつの日かと同じように風紀委員が凍ったべリアを運び出し、ヒョウカさんからもらった熱いホットミルクを啜っている。

火はヒョウカさんのおかげでちょっとしたボヤ程度ですみ、怪我人は一人もでなかった。

もしヒョウカさんがいなければ、なんてことを考えるとぞっとする。

本当に結局はヒョウカさんに助けてもらってばかりで。

ヒョウカ「また生徒会ですか」

男「なんで、あいつは俺のことをつけ狙うのでしょう」

ヒョウカ「………生徒会の考えることはわかりません」

男「そう、ですか」

接点があるとしたらあの日係わってしまったこと。それと家まで連れて帰ってもらったごとくらい。

あの日、ちょっとは見直したんだが―――

男「もう、生徒会に関わりたくはありませんね」

ヒョウカ「ところであの不良の件。イヅナはどうなりましたか?」

男「あぁ、それなら」

今まで見てきたことを話す。

学園内で刀を持ち歩くやつがいるのはもう今更なにも言わないが、その刀を抜いて切りかかろうとしたこと。

だけど猫を助けたり、焼きそばを作って売ろうとしたり、あまり不良の不良らしさが見えないということ。

だから俺はどうすればいいのか判断ができないこと。

ヒョウカ「そうですか」

ヒョウカ「校内での許可なき火気使用は禁止されています。今後執行対象として処罰する必要があります。ありがとうございました、少年さん」

確かにこの火事の原因はイヅナにもある。それでもその火を倒したのはべリアであるし………

ヒョウカ「どうか、しましたか?」

男「―――」

1.それはおかしい、と言う。

2.校則に則っているのだからなにも言えない。

>>154

1

少年「それって、おかしいですよ」

ヒョウカ「何が、でしょうか」

何がおかしいのか。それが整理できない。

ヒョウカさんの言うことはもっともだ。校則で決められていることに違反したから罰せられる。当然のことで、否定はできない。

でも………実際そういうのは一面だけで捉えるもんじゃないだろ。

その過程が重要で。そいつの人となりが重要で。

なんというか、その

ヒョウカ「少年さんは、私が間違っていると?」

少年「いや、間違っているわけじゃなくて、その、処罰するほどのことでは」

ヒョウカ「危うく火事になるところでした」

少年「それはあの男のせいで」

ヒョウカ「そうですか。では少年さんは私に逆らうと?」

ヒョウカさんの口から冷気が漏れる。その瞳は涼やかにこちらを睨みつけている。

口に出さないが俺を責めている。逆らう俺を責めている。

でも

少年「………はい」

ヒョウカ「………」

人を切り殺せそうなほどの目線。おそらくさっきの刀よりもよっぽど切れ味はいいのだろう。年上だけど女性で、見た目は俺よりもか弱く見えて。

だけど凍り付いて動けない。その水色の瞳にねめつけられて動けない。

すっとヒョウカさんの手が上がり、そのまま俺の頬へあてられる。

産毛が凍り付く感覚。氷を当てられたよりもずっと冷たい。

暖かさなんてない。人のぬくもりとか優しさなんてものはない。

ただの悪意すらなくすべてを凍り付かせるような理に近い感覚。

ふぅ、とヒョウカさんの口から強く息が漏れた。

ヒョウカ「少年さん」

少年「………」

返事ができない。奥歯ががたがたなって口が思うように開かないし、呂律が回る気しないし。

ヒョウカ「………合格です」

そう言ってヒョウカさんは微かにほほ笑んだ。

少年「………ぇ」

なでり、なでり

ヒョウカ「合格、と言いました」

ヒョウカさんが俺の頭を撫でていた。

さっきとは違い、柔らかさをしっかりと感じる。暖かさは感じないけどやさしさは感じた。

クロ「おー、ちゃんと合格できたんですね?」

ヒョウカ「はい。合格です」

ひょっこりとクロさんが出てきてキラキラ光る笑顔をこちらへ向けてきた。

で結局男なのか、女なのか。

少年「合格、って、なんですか?」

クロ「おめでとうございます。今日から君は風紀委員です」キランッ

ちょっと待て

少年「ちょっと待ってください。俺は風紀委員に入ろうとした覚えはないですよ!?」

クロ「ヘッドハンティングです」

少年「拒否権は!?」

ヒョウカ「嫌、なのですか?」ビュォウ

寒い! 冷気がすごい!! さっきより酷い!!!

あっ、なんだか眠くなって………

少年「わ、わわわかかかりましたたたた」

ヒョウカ「ありがとうございます」

クロ「やったぁ」

そうか、ここもあそこと一緒で

強い奴が幅を利かす場所なんだなぁ。

色々と不満もあるが、ヒョウカさんには色々とお世話になったし、お手伝いできることがあるなら喜んでしたい。

この変人だらけの学園でヒョウカさんといればなんとか過ごしていけるだろうし。

少年「それで、これが風紀委員の試験だったんですね」

ヒョウカ「はい」

クロ「脅しにも屈せず自分が思う正義を貫いたその姿勢をヒョウカさんは評価したんだよ。あ、今のは駄洒落ではないよ?」キラッ

少年「あ、あはは」

しかしなぜ俺が選ばれたのだろうか。勉学は他の人よりはできると自負しているが、風紀委員に勉強が重要であるとは思えない。

じゃあ俺が第二種だから?

そんなわけはない。俺が第二種だってバレてないはずだし

と、訝しんでいるとヒョウカさんは俺の考えを読み取ったらしく人差し指を立てこう言った。

ヒョウカ「優れた者も重要ですが自分をしっかり持って、自分を貫く人が欲しかったのです」

ヒョウカ「才あれど勇なきものは愚かであり、才あれど信なければすなわち逆賊。あなたは私の期待に応えようとして、勇気を奮い立たせ不良へと向かっていった」

ヒョウカ「手がかりを探しに番長連のところまでいってくれました」

ヒョウカ「やはりあなたは私が求めていた理想の人材でした」

ここまで手放しでほめられるとなんだか背筋がむず痒い。俺はミレイアほど傲岸不遜ではないし、そこまで勇はない。ただの弱者でしかないというのに。

ヒョウカ「それではもう一度訪ねます。風紀委員として働いてくれますね?」

男「………はいっ」

クロ「なんて感動的なんだろうね。ほら、握手握手」

クロさんがヒョウカさんの手を差し出させる。俺はその手をしっかりと握り返し

ヒョウカ「ようこそ、風紀委員へ」

男「よろしくお願いします」

ヒョウカ「それで、風紀委員になった男さんの初仕事ですが」

ヒョウカ「イヅナの処罰です」

男「………はい?」

男「え、でもこれって仕込みだったんですよね?」

クロ「違いますよ。見守ってはいましたけどイヅナを捕まえたいのは本当です」

男「だってさっき自分の信を通してって。だから俺はイヅナを捕まえなくてもいいって思って」

ヒョウカ「あなたは、私に逆らうのですか」ヒュォォゥ

男「だって、そんなに悪そうにないと思いましたし」

ヒョウカ「ですが規則は規則。処罰は必要です」

クロ「それを君にやってほしいんですよ」キラリンッ

男「えぇ!?」

ヒョウカ「それでイヅナの処罰ですが―――」

男「いやいやいや話がちが―――」

ヒョウカ「わちゃわちゃ、孤児院の子供たちと遊んで刑。です」

ヒョウカさんは眉尻一つ動かさず、そう言った。

まさか冗談? とも思ったがヒョウカさんの表情はいつもと変わらずぴくりとも動かない。

クロさんはいつも通りニコニコとしてるし、こちらも嘘とは思えない。

男「それが、処罰ですか?」

ヒョウカ「はい。彼は早弁、廊下を走る、授業をサボタージュなどの常習犯」

ヒョウカ「軽微なものであれ常習的なら話は別です。ですが素行調査により重い処罰を下すほどでないと考えました」

ヒョウカ「なので慈善活動がちょうどよいくらいと結論を下します」

男「で、その結果、えっと」

ヒョウカ「わちゃわちゃ、孤児院の子供たちと遊んで刑。です」

男「その孤児院の子供と遊ばせるのが」

ヒョウカ「わちゃわちゃ、孤児院の子供たちと遊んで刑。です」

男「………わちゃわちゃ、孤児院の子供たちと遊んで刑を行うと」

ヒョウカ「はい」

男「………」

本当に冗談じゃないんだよな!?

少年「ってことがあって風紀委員になりました」

ミレイア「ふ~ん。まぁロード家の名を汚さないように心掛けているようね。確かに上級貴族にとって優雅であり気品溢れる所作は重要。風紀が乱れることはあってはならないことね」

風呂場に向かう途中で服を脱いでるやつが何を言ってるんだ?

ユキムラ「さすがお嬢様!貴族としての心意気、このユキムラ感服いたしました」

ミレイア「お~っほっほ! 当たり前よ。この『紅目』のミレイア。生まれながらにしての貴族だもの」

ユキムラ「さすがですお嬢様!」ヤンヤヤンヤ

少年「…ごちそうさまです」

ミレイアを祭り上げるユキムラと口に手の甲を当てて高笑いするミレイア。

なんというか馬鹿らしい。

ミレイア「あら、もう部屋に戻るの?」

少年「勉強をしたいので」

ミレイア「私には及ばないまでも貴族としての心がけが見についてるみたいでちょっとは感心してあげるわ。感謝なさい」

ユキムラ「なんとお嬢様、お心の広い! ほら、感謝しなさい」

男「……ありがとうございます」

衣食住を提供してもらい、学校まで通わせてもらってる身分だけれども

やっぱりこの扱いは好きになれないな。

家族というより、なにか珍しいペットとして扱われているようで。

自室に戻って教科書を広げる。部屋の明かりはミレイアの要望からろうそくであり、勉強をするには少々暗い。

だがそれも慣れたものだ。そもそも俺にとって夜に本が読めるだけでもありがたい。

つらつらと教科書の文字を目で追っていくが脳裏に浮かぶのは今日の出来事で、教科書の内容なんてものは頭の中に入ってこない。

男「なんで俺、なんだろうな」

俺の中の蟠りだけれどやはり第二種ということは気が引ける。

生まれながらの差別環境にいて、運がよく生きながらえてる程度の命であるのに。

もちろん第二種も第一種も生物上なにも変わらないのだと知っていても優しさを向けられるだけで。期待されるだけで困惑してしまう。

みんな、俺に親しくしてくれるのは第一種だと思われているからだろう。

もし、俺が第二種だと知られてしまえばその時は………

少年「もう寝よう」

このまま考えても仕方がない。

時が、時だけがなんとかしてくれる。時だけが俺の背中を押してくれる。

今までなるようになってきた。だからこれからも。

きっと。

そう。

バジロウ「風紀委員になったぁ!?」

次の日、風紀委員になったためバジロウ達と遊ぶことはできないと言うとバジロウは驚き、ノヘジは興味深そうにメガネのブリッジに手を当てた。

ノヘジ「それはつまりあのヒョウカ先輩の蒼穹をハレーションしていると同等ということだろう」

少年「風紀を乱すと処罰するぞ」

ノヘジ「友達の頼みだ。見逃してくれ」

バジロウ「ってことは今日の放課後は忙しいのか」

少年「ヒョウカさんに呼ばれてるからな」

つい先ほど他の風紀委員からヒョウカさんが俺を呼んでいると教えられた。もちろん顔をだすつもりだったが、呼ばれるということは何かあったのだろう。

おそらく、例の処罰が。

少年「ってことで。俺はもう行かなきゃ」

バジロウ「おう、頑張れよ!」

ノヘジ「なんとか風紀委員に手心を加えてくれと頼んでくれると助かるだろう。俺はただ知的好奇心を満たしたいだけだろう」

バジロウ「それじゃあ今日の放課後は」

オル「オルレアンちゃんの手伝いにけって~い☆」

バジロウ「げっ」

ノヘジ「………神よ」

オル「おい、そのリアクションなんだ★」

イヅナ「………んだよ」

風紀委員会室に入るとイヅナが捕まっていた。

さすがの逃げ足も簀巻きになってぐるぐるに縛り上げられていては発揮できないらしいな。

クロ「捕まえたよ♪」キラリン

捕まえようと思えばすぐに捕まえれたのか。

その程度だから俺に任せたと。

いやしかし、帯刀している相手は荷が重いぞ。

イヅナ「俺がなにしたってんだよ!」

クロ「んーまぁ。一番重いので放火かな」

イヅナ「身に覚えがねぇぞ!?」

クロ「まぁまぁ。認可されていない火気の使用はあったからね」

イヅナ「………けっ。俺は権力には屈しねぇぞ!!」

簀巻きになったままジタバタ暴れるイヅナ。

そんなイヅナの耳元でクロさんが何かをささやくとイヅナはぴたりと大人しくなった。

少年「何を言ったんですか?」

クロ「んー、秘密の交渉術♪ 大丈夫Win-Winだからさ」キラーン

イヅナ「処罰を受けることに不満はねぇよ。だけどなにをされても俺は俺を曲げねぇぞ!」

クロ「んっふふ~。君に与えられる罰はこれさ! 題して!」

イヅナ「………」

クロ「ほら、少年君。題して!」

少年「え、えっと、わちゃわちゃ、孤児院の子供たちと遊んで刑。です」

イヅナ「………頭大丈夫か?」

不良に言われた!!

不良に言われた!!!

確かにわけがわかんないかもしれないが、これはあのヒョウカさんが選んだれっきとした処罰だ。いや、俺もネーミングはどうかと思うけどさ。

クロ「ということで君たち二人には今週末にこの孤児院へ行ってもらうよ」

少年「えぇっと」

手渡された地図はしっかりと書かれており、非常にわかりやすい。場所も遠くないし街中に出ることができれば歩いて行ける距離だ。

地図をイヅナに見せると、イヅナは小さく舌打ちをして頷いた。

クロ「いいかな?」

少年「わかりました」

イヅナ「やりゃいいんだろ、やりゃ」

クロ「約束だよ?」キラリンッ

しかし孤児院に俺とこの不良の二人でか。

かえって迷惑になりそうな………

クロ「あ、少年君は家が遠かったね。当日迎えを寄越すから」

少年「いいんですか?」

クロ「かまわないさ」キラランッ

クロさんの輝く笑顔を見ながら心の中でため息をつく。

なんだか不安だ。

そして当日。私服を持っていないので学生服で外にでるとユキムラに相変わらずの対応をされる。仕事を手伝わないとぼやかれても風紀委員の仕事があるのだから仕方ない。

まぁ、これでも撃たれない分マシな対応だ。孤児院に行く前に流血沙汰は避けたい。

誠心誠意誤ってこの場を潜り抜ける。口八丁で適当並べたので何を言ったのか忘れたがユキムラはじと目で小さくため息をつきながら許してくれた。小声で何か言ってたように思えたが何を言ったのかは聞き取れなかった。

外にでると天気は晴れ。遊びまわるにはちょうどいい天気。

気温もそれほど暑くなく過ごしやすいと言える絶好の日和だ。

しかし迎えとは誰なんだろうか。家を知っていると言えばカルラさんだが………

「うわっ、家大きい! さてはお前金持ちだな☆」

聞きなれた声がした。

見上げるとやはりオルレアン。この位置からだとスパッツがしっかりと見えるが言わないほうがいいのだろう。オルレアンの蹴りは普通に痛い。

というか飛ぶのだからズボンを穿けばいいのに。

オル「おっすおっす☆」

少年「なんでオルレアンが?」

オル「だって今日私の家に来るんでしょ? 迎えに来てやったぞ☆」

少年「へ? いや、そんな予定は」

オル「来るんでしょ、孤児院。私の家なんだ☆」

………へ?

オル「秘密だよ?」

今日はここまで

オルレアンが俺の肩をがっしり掴んで飛ぶ。そのままぶら下げられているために肩がかなり痛い。

しかし考えてみればこの運び方は当たり前だ。カルラさんと違ってオルレアンは両手が翼になっているのだから。

オル「見るなよっ。絶対に上を見るなよっ★」

少年「みないって」

さきほどから幾度となく注意されるこの言葉。もしオルレアンの機嫌を損ねて落とされでもしたら命に係わる。

いくらなんでもスパッツを覗き込んで死亡なんてことにはなりたくはない。

オル「それはそれで不満があるぞ★」

どっちなんだよ。見られたいのか見られたくないのか。

いや、見られたいと言われたら困るけど。

オル「さっすがロード家。良い暮らししてんだろ~★」

少年「してないよ」

オル「本当かな~」

そりゃあ管理区にいたころと比べたら天と地のような差だけれど、俺自身の生活は底辺から一般的なレベルまで上がったに過ぎない。

そりゃあ気まぐれで養子になっただけで、扱いはペットに近いんだからミレイアのような暮らしができるわけはない。

別にそのことが不満というわけではないけれど。

でも、オルレアンに比べたらいい生活をしているのかもしれない。

まさかオルレアンが孤児だったとはな。

しっかりつかまれているためじんわりと手の間隔が薄れてきたころにやっと孤児院が見えてきた。

オル「あれだよ~」

赤屋根のレンガ造りの建物。孤児院にしてはあまり大きいとは呼べない規模だった。

オルレアンはゆっくりと降下し、地面に近づくとぱっと足を放して俺を放り投げた。

少年「いてっ」

オル「めんご☆」

少年「芝生だったから平気だ」

オル「んで、じゃじゃーん。ここが本邦初公開、オルレアンちゃんの家なのだ☆ バジロウとノヘジくらいしか知らないんだから、特別だぞ」

オル「君だけに特別♪」

少年「ありがとうと言えばいいのかな?」

オル「よきに計らえ☆」

オル「でも本当に秘密だよ。君にしか教えてあげない☆」

少年「なんで俺だけ?」

オル「君も養子だし。あ、気分悪くしたらごめんね」

少年「いやかまわないさ。もう知られてることだし、姉から胸を張れと言われてるしな。それにオルレアンが気を許してくれるのならうれしい」

オル「ふっへっ、い、いきなり恥ずかしいこと言うなしっ★ はっずっ★」

ばしんばしんと背中を叩くオルレアン、ふぁさっとするが痛い痛い。

「あらあら、もしかしてあなたが?」

オル「マザー! つれてきたよ♪」

声の主を見ると大きな杖を突いた年配の女性だった。目には丸いメガネをかけ、口元には柔和な笑みを浮かべている。確かにマザー然とした女性だ。たしかにマザー然とした女性だが

少年「あー、えっと、風紀委員で人間の少年です。今日は子供たちと」

マザー「まぁまぁ、子供たちも楽しみにしてたわ。ささ、こっちへ来てちょうだい」

少年「は、はい」

…………………………………………………………でけぇ!!

加齢からか腰が曲がってきてはいるがそれでも身長が俺よりも高い。見上げて話すほどには高い。

オル「びっくりした? ねぇねぇ、びっくりした?」

少年「あ、あぁ。でも優しそうな人だな。なんというかいい人を絵で描いたらあんな感じになるんだろうなって人だ。たぶん街中で100人中98人はいい人っていうと思う」

オル「あとの二人は?」

少年「………あんな大きいおばあさんがいるかって言うと思う」

オル「確かに!」ケラケラ

オル「マザー馬鹿にすんなやっ!」バシンッ

痛い。ならなんで笑ったんだよ。情緒不安定か。

オル「もうっ。マザーは私のお母さんなんだから、ぷんすこっ★」

少年「悪かったよ。許してくれないか」

オル「ぷんすこ~っ★」バッ パパッ バーン

なんの構えだ。

ふざけているところを見る限り別に本当に怒っているわけではないようだ。

しかしオーガとかオークとかの長身の種族は老人になってもそのまま大きいみたいだ。やはりなんというか威圧感はある。あの杖なんか俺の身長と同じくらいあったし。

オル「マザーは入道だからね。日によって身長変わるけど、今日は割と小さいほうだよ☆」

少年「………本当に?」

オル「マジ☆」

うーむ、亜人ってすごいな。常識が通じない。

オル「入って入って~」ガチャッ

扉もでけぇな。硬そうな材木でできていて、ぶつかってもびくともしなさそう。

しかもいくつもドアノブがあって、身長が高い奴にも低い奴にも対応している。亜人って色々体格差とか性質差があるから住居も千差万別なんだよな。ミレイアとかは俺と変わらないサイズだから気にしてなかったけど。そういえば学園にもいろいろな工夫がしてあったな。あぁ、なるほど。そうか、だから引き戸なのか。

オル「おはいりよ!」

少年「お邪魔します。あ、そういえばイヅナ、先に来たやつはいなかったか?」

オル「先に中入ってるよ☆」

少年「そっか」

オルレアンに案内され中に入る。

中は学園の寮みたいな感じで廊下にいくつもの部屋があった。

オル「食堂にいるよ☆」

窓から見る景色は緑色が多く、自然に囲まれている。子供を育てるには理想的な環境と言えるのかもしれない。花壇もあって名前は知らないが紫色の花が風に揺られていた。

少年「でもここって学園からは結構距離あるけど、毎日通ってるのか?」

オル「んーん。平日は寮で暮らしてるぞ☆ あっ、オルレアンちゃんに会いたいからって女子寮に男が入ってきたらダメなんだからな★」

少年「入る気ないよ」

変質者になりたくない。それに一応風紀委員になった身だ。問題を起こすわけにはいかない。

オル「どうしてもオルレアンちゃんに会いたかったらオルレアンちゃんの窓ガラスに小石をぶつけて合図してね☆ オルレアンちゃんの部屋は東側3階の右から5つ目の部屋だから☆」

少年「でもガラスだから一度しか合図できないな」

オル「やさしさを持って投げろーっ★」

無茶言うな。

オル「なんて話してたら食堂だぜぃ☆」

男「? なんかいい匂いがするな」

オル「あれ? ほんとだ」

ガチャッ

イヅナ「座って待ってろガキども!」

「はよ、はよ」

「おなかすいたん」

「むぇ~」

不良がなんか作ってた。

マザー「皆さん、お兄さんの言うことを聞くのですよ」

イヅナ「もう少しでできるから待ってろ」

ジュォォォォォ

何か鍋を振るっている。

ソースが焦げる音と香り。空中を舞う米。 ごぉごぉと燃え上がる火。

不良がチャーハン作ってた。

オル「これは負けてられない戦いだよ☆」

少年「えぇ………なんでチャーハン作ってるんだ?」

イヅナ「焼き飯だ、ごらぁ!!」

怒られた。

違いってあるのか?

よくわからないがマザーに促され俺も席に着く。

同じく席についている(座ってはいないが)子供たちを見渡すと性別も種族もバラバラ。小さい子では1メートルないし、大きい子では幼い顔だが身長がすでに俺より高い。

角が生えている子もいれば、翼が生えている子もいるし、体が水のように透き通っている子だっている。

異種族がともに過ごすことはあるが、共に暮らすのは難しい。マザーもずいぶん苦労をしていることだろう。

イヅナ「おい、おいっ」

少年「え? 俺?」

イヅナ「お前も食うよな」

少年「あー。うん。食べる」

イヅナ「ちっ、待ってろ」

オル「私もー!」

イヅナ「てめぇも待ってろ!」

なんでいちいち怒鳴るんだ。不良だからか。不良だから怒鳴るのか。

そうか。

クイクイ

誰かが右袖を引っ張った。なんだと思いそっちを見ると

「あむあむ」

子供が俺の袖に食いついていた。

袖を引っ張ったのではない。食いついていたのだ。

咀嚼に合わせて額から生えている白色の触角が左右に揺れ、半透明の液が滴り落ちる。

少年「な、なにかな?」

「あむむ」

咀嚼をやめない。

次第にべとべとしてくる。感触でわかるが体が粘膜に覆われており、その下の皮膚は弾力がありぶよぶよとしている。

しかもその粘液はねっちょりとしており非常に不快だ。

少年「あ、あのぉ。お、オルレアンさぁん?」

オル「気に入られちゃったんだね~☆」

気に入ったものを食べるのか? 咀嚼範囲は徐々に広がり俺の右手すら飲み込まんとしている。何とか腕を引っこ抜こうとするが吸引力がすごく、引き抜けない。咀嚼される感覚がひどくこそばゆいがどうやら歯はないみたいだ。ならかじられないからあんし―――

ゾリリッ

少年「いってぇ!?」

皮膚をやすり掛けされたような感覚。なにか細かい鱗のようなもので皮膚を削られてる。

「あむ~」

少年「お願いだから、お願いだからたべるのやめて」

オル「食べるのはいいけど舐めちゃだめだよ~」

少年「食べるのもやめさせて!」

「あんむ」

こくりと頷き俺の右手を食む。ぞわぞわと背筋に寒気が走る。

誰か助けてくれ。

子供は焼き飯が持ってこられたのを確認してやっと俺の右手から離れた。

少年「うへぇ…」

右手が粘液まみれのべとべとである。

オル「はい、これで拭きな☆」

オルレアンから布巾を手渡され、右手を拭く。できれば手を洗いに行きたいんだが。

「いただきまーす!」

オル「うっひょー、いただきまーす☆」

イヅナ「冷める前に食えやおらぁ!」

少年「……いただきます」

諦めてスプーンを手に取りチャーハン、もとい焼き飯を口に運ぶ。

うん、美味い。

当てにならない俺の感想だけど、周りを見ると子供が焼き飯をがっついていることから俺の感想は間違ってないのだろう。

オル「まぁ、私ほどじゃないけど。褒めてやってもいいぞ☆」

イヅナ「んだおらぁ!」

オル「ほんとのはなし☆」

イヅナを挑発するオルレアン。イヅナは肩をふるふると震わせているが大丈夫だろうか。

いざとなったら俺が………俺が止めれるのか?

イヅナ「ちっ………あのオルレアンじゃしかたねぇか」

オル「あれ、君、私のこと知ってるの?」

イヅナ「あんた、有名だろ。屋台やってて」

オル「むふふ~。ちょっとは名を知られたものだからねっ☆」

イヅナ「ちっ」

どうやら暴力沙汰の事態にはならなかったようだ。

警戒を解いて焼き飯を口へ運ぶ。

「ちょーだい」

右を見るとさっきの子供。真正面から見てもだらりと下がった髪? 皮膚?で目元が見えない。その代わり大きな赤い口の中をのぞかせている。

「なくなったからちょーだい」

確かに皿の中にはもう米粒一つない。

別に腹が減っているわけじゃないから別にいいんだが。

「あーん」

こいつの口の中にスプーン突っ込みたくねぇな。

少年「全部あげるよ」

「いーのー?」

少年「いいよ。あげる」

「わぁーいー」

皿ごと子供に渡すと子供はそのままスプーンも使わず焼き飯を口の中へ流し込んだ。

オル「こらっ! 行儀が悪いでしょっ」

「んむむ、あむあむ」

オルレアンの説教なんてどこ吹く風で、口いっぱいにほおばったチャーハンを咀嚼している。乳白色のほっぺたが大きく膨らんだりしぼんだり。まるで風船のように動いていた。

オル「こらっ! レディーの食事姿をまじまじと見るんじゃありませんっ! 行儀悪いでしょっ!」

なんか俺も怒られた。

というかこれ、女だったのか

「あむ~」

マザー「ご馳走様。ありがとうねぇ、イズナさん」

イズナ「これくらい、大したことねーっすよ」

マザー「それじゃあ私は洗い物をしてくるから子供たちを見ててくださるかしら?」

イヅナ「了解っす」

意外にもマザーの前では案外大人しいイヅナ。まぁ、二つの意味で逆らおうとは思わないもんな。

マザーが全員分の食器を持っていくとイヅナがこちらをぎらりとにらんだ。

少年「えぇっと、なにかな?」

イヅナ「言っとくが俺はこんなこと好きでやってるわけじゃねぇからな。てめぇんところの副委員長が脅してくっからやってるだけで。俺は反省も後悔もしてねぇぞおらぁ!!」

と吠える。

その頭をオルレアンがぽんと叩いた。

オル「言葉遣いが悪いっ。みんながまねしたらどーすんのさ★」

イヅナ「ちっ、うっす」

「てめっこらー」キャッキャッ

「すっぞこらー」キャッキャッ

手遅れみたいだぞ。

少年「あー。こんな感じで今日は夕方まで子供たちと遊んでくれればいいらしいから」

イヅナ「わかってるよ、んなこと」

イヅナがぎろりとこっちを睨む。

好かれようとは思ってないが、ここまで敵意を向けられるとどうもな。

でも様子を見てる限り、やはりそれほど悪い奴ではなさそうだ。

言葉遣いは悪いけども、まぁ不良らしいと言えば不良らしいし。

悪くはない、それほど悪くない不良がこのイヅナの立ち位置か。

あのドラゴンが言ってた意味も分かる。

なんだ。今日は特になんの問題もなく

べっちょり

男「うぐっ」

背中がねっとりする。首筋から粘液が服の中に入ってくる。

「もっちゃり」

オル「あはは、好かれてるね~☆」

イヅナ「かかっ。ざまぁねぇな」

少年「ぬめぬめする」

「そとぉ、いこー」

少年「わ、わかったからどいてくれないかな?」

「れっごー」

少年「………」

言われた通り外に出る。

食堂にある大きな窓を開けるとそのまま外にできることができた。

子供たちも続いてぞくぞく外へ出る。わーっと広がっていく子供たちをオルレアンが慌てて追いかけていた。

外では風が心地よい。気温も暑くもなく寒くもなく、理想的ないい天気だった。

がその程度では背中の気色悪さは取り除けなかった。

いまだにあの子供は背中から降りないし、支えてないのに背中にぴったり張り付いている。

動けばずり落ちていくだろうと思ったが軽くジャンプしてもよろこぶだけだった。

少年「あー、なにがしたいんだ?」

「むっちょり」

意思疎通すらできない。

さっきまではできてたはずなのになにを聞いても背中で鳴くだけ。

諦めようかと思ったが、案外異物感が強い。それに割と重い。

少年「オルレアン。なんとかしてくれないか?」

オル「女の子にモテていーじゃない☆」

オルレアンに頼んでもそうやって一笑に付すだけで話にならない。

最後の希望とばかりにイヅナを見てみたがイヅナは俺より悲惨なことに子供たちに押しつぶされ団子みたいになっていた。

今日はここまで

なぜ大人のほうが筋肉があるはずなのに子供の体力には勝てないのだろうか。

なんてことをイヅナをもみくちゃにしている子供たちを見ながら思う。

子供といってもイヅナと似たような身長の子もいるからなおさらたちが悪い。

どうやら子供たちはイヅナの逆立ったオールバックが珍しいらしく、自慢であろう髪型は子供たちの手によって乱され、欠片もない。

今にも怒りだしそうな顔をしながら、大人しくしているあたり、子供には優しいみたいだ。

イヅナ「おい、おい人間」

少年「なに」

イヅナ「助けろ」

少年「僕だって助けてほしい」

イヅナ「………ちっ」

結局子供たちが疲れ果てるまで抵抗しないのが一番らしく、その後もイヅナは子供のおもちゃとなることを甘んじていた。

子供たちが疲れ果てやっと眠りについたあと、僕たちは食堂でぐったりとしていた。

オル「おっつおっつ☆」

少年「本当に……疲れた」

イヅナ「けっ…だらしねぇ、奴だ」
と嘯くものの俺と同様に表情には元気がない。

オル「まぁまぁ、これでも飲みな☆」

少年「ありがとう」

オルレアンから手渡されたマグカップの中には淡黄色のとろりとした液体。

口に含むと暖かくて甘かった。飲んだことない味だ。

イヅナ「これ、うめぇな」

少年「なに、これ」

オル「オルレアンちゃんが産んだ卵で作ったミルクセーキ☆」

イヅナ「ぶふっ、ぐへっ、ぐへっ」

イヅナが勢いよく噴出した。つまり対面にいる俺に吹き付けたということで、熱くはなかったがぽたぽたと頬を伝って落ちるミルクセーキ。

べたべたする。

オル「きたねーっ」

イヅナ「なんてもん飲ませやがるんだ!!」

少年「なぁ、なんか拭くもの」

オル「は? 美少女が産んだ卵だぞ★」

イヅナ「腹を下したらどうする!」

オル「くださねーよ★ 美少女は健康で清潔なんだよ★」

少年「なんか拭くもん」

べたべたする顔と机をなんとかしたいのだが、オルレアンに俺の言葉は届かないらしい。

オルレアンの産んだ卵が清潔か清潔じゃないかの論争を繰り広げており、俺の言葉が入る隙間はないようで、自分で行かざるを得ないようだ。

ここは食堂だからキッチンまで行けば顔を洗えるし、布巾ももらえるだろう。

なんか今日はやけにぬめったりべたついたりする日だな。

食堂を抜け出しすぐ隣のキッチンに入るとマザーがオーブンの前にいた。

少年「すいません。水を借りてもいいですか?」

マザー「どうしたの。そんなに濡れちゃって」

少年「色々ありまして」

マザーから許可をもらい、水道の蛇口をひねる。

頭ごと流水に突っ込むと冷えた水が心地よかった。

マザー「タオルをどうぞ」

少年「ありがとうございます」

マザーからタオルを受け取り頭を拭く。やっと人心地つけたがいまだに食堂からは言い争う声が聞こえてきた。

というか無精卵だから清潔ってどういう理屈だ。

興味ないからどうでもいいか。

マザー「もうすぐクッキーが焼けるからみんなを起こしてきてくれるかしら」

男「わかりました。あの、申し訳ないんですけどあの二人のことよろしくお願いします」

マザー「あらあら、二人とも元気ねぇ」

俺じゃ止められそうにない。その点マザーであればなんにせよ止めれそうな気がする。

ということで二人のことはマザーに任せ、俺は子供たちを起こしに向かった。

子供たちは雑魚寝でおおいおもいの寝方をしていた。無秩序なという言葉が似あう微笑ましい光景だったがマザーから言われたのだから仕方ない。俺は寝ている子供たちをゆすって起こしていった。

中にはいきなり起こされてぐずる子供もいたが、割と問題なくことは進み、すぐに目を覚ましてくれた。これもおやつができたという言葉あってのものだろう。

少年「それじゃあみんな、おやつを食べに食堂へ」

と言っていると一人の子供が俺の服の裾を掴み、引っ張ってきた。

少年「どうかした?」

「ボンボリちゃんがいない」

少年「ボンボリちゃん?」

「あの、ぬめってなってる子だよ」

少年「え?」

そういえば起こした覚えがない。見渡してみるものが姿は見えなかった。

少年「みんなは食堂に行ってって。探すから」

「ん」

子供たちを食堂へ行くように促す。子供たちは少し不安そうな顔をしていたが素直に食堂へと向かってくれた。

少年「さて」

問題のあの子だが一体どこに消えたのだろうか。

上を向いても下を向いてもいない。それにこの部屋には隠れられそうな場所はなかった。

少年「ということは他の部屋か」

この孤児院はそこそこ広い。隠れる場所なら色々あるだろう。

長い闘いになりそうだと俺は長い溜息をついた。

少年「おーい、ボンボリちゃーん。でておいでー」

廊下で大声を出してみるものの返事はない。

仕方ないので一つ一つ部屋を探してみるが、姿は見えず。それに空き部屋もあり、かなり非効率だ。

オル「話は聞いたよ☆ ボンちゃんを探索隊に加わるぜい☆」

そうやって探していると子供たちから話を聞いたらしいオルレアンも一緒に探してくれることとなった。

オル「おーい、ボンちゃ~ん、でっておいでー☆」

オルレアンが声をかけても返事はない。

そうしてあらかた部屋を探し回り、俺がとある部屋のドアノブに手をかけたとき、オルレアンが慌てた様子でドアノブにかけた手を掴んで止めた。

オル「そこは開かずの間ではいっちゃいけないんだよ」

少年「でもいるかもしれないだろ」

オル「私が探すから、そこで待ってて!」

そういうとオルレアンがドアを開けてさっと入っていった。ちらりと見えた部屋の中には本棚があると同時にきわどい女性の絵が飾られてあった。オルレアンの部屋? 違うように思えるが。

オル「はぁ、はぁ、ここにもいなかったよ」

少年「もう結構探したのにな、いったいどこへ?」

オル「ぶるるっ、ちょっと私行くところあるから」

少年「どこにいくんだ?」

オル「聞くなばかっ!」

なぜか普通に怒られた。

オルレアンは赤い顔をしてぱたぱたとどこかへ走り去っていく。

………あ、トイレか。それはデリカシーのないことをしてしまった。

そうだ、ついでに俺もトイレに―――

オル「キャーッ!!」

オルレアンの悲鳴が聞こえた。

オル「だ、だれか! 誰か来て! 助けて!!」

普段のしゃべり方ではない、本気で慌てたような叫びが聞こえる。

俺はとっさにオルレアンの声が聞こえたほうに向かって走った。

今日はここまで

少年「大丈夫か!? どうしたオルレアン!!」

オル「しょ、少年………」

オルレアンはトイレにいた。一般家庭のそれと違い、数名が同時に使用できる学園と同じ規模のもの。オルレアンはよく掃除された青いタイル敷きの床の上でへたり込んでいた。

オル「ぼ、ぼ、ボンちゃんが」

オルレアンが震えた手で個室の中を指す。俺はトイレの中に入り、その指が指すものを見た。

少年「!!」

ボンボリが倒れていた。乳白色の肌は今は薄青色となり、ぐったりしている。

呼吸はある。ただし浅い。

外傷は見当たらないからどうやら襲われたとかいうわけではないようだ。

なら、病気かなにかだ。なら急ぐ必要がある。

少年「オルレアン、ボンボリを見ててくれ」

オル「う、うん」

マザーならわかるかもしれない。もしボンボリがなにか持病を持っているのなら把握しているはずだ。とにかくなぜ倒れたかがわからないと対処ができない。

そう判断して俺は食堂に向かって走った。

木張りの廊下を全力で蹴ると、ぎぃぎぃと古びた音がする。端から見れば実に慌ただしいことだろう。だったらその音で気づいてくれ。誰か早く。

少年「マザーさん!!」

食堂の扉を開け放つ。扉が壁にぶつかって派手な音をたてたが構わない。その音に驚いたみんながこっちを見た。

俺は乱れた呼吸を押さえながら今起きていることを話すと、子供たちがざわめく。

慌ただしくなる子供たちを押さえながらマザーが立ち上がった。

少年「ボンボリちゃんにはなにか持病が?」

マザー「あります。最近は安定していたので安心していたのだけれど」

マザー「生まれつき突発性の発作があって、体内を循環する魔力の流れが乱れ、暴れることで内臓、血管、神経を圧迫するんです。でも、発作は本当に小さいころのことで」

イヅナ「おいババア! それより病院に連れてくべきなのか!? それとも寝かせとけばいいのか!?」

イヅナが勢いよく立ち上がり机を叩く。その音と倒れた椅子の音に動揺していたマザーがはっとした。

マザー「発作は治まるのを待つしかありませんが、その後の治療は病院で」

イヅナ「じゃあ病院につれてけばいいんだな?」

少年「今すぐ連絡をして」

イヅナ「それじゃあおせえだろうが! ガキはどこだ。俺が運ぶ!」

少年「病院まで!? マザーここから一番近い病院は?」

マザー「馬車で30分ほどのところに」

イヅナ「じゃあ俺が走った方が速ぇ」

イヅナ「案内しろ、風紀委員!!」

少年「! こっちだ!!」

トイレにいることを教えるとイヅナは本当に目にもとまらぬスピードで走って行った。

遅れて風が廊下に吹く。俺もそれに遅れてボンボリの元へと向かった。

少年「ボンボリは大丈夫!?」

オル「う、うんっ、あのイタチの人が抱えて」

行動が速い。ただ病院の場所を知っているのだろうか。いや、流石にわかっているから行動したのだろう。おそらく。

少年「ごめん、オルレアン。飛べるか?」

オルレアンの顔色は青く、唇も紫色。ボンボリの状態を見て強くショックを受けたみたいだ。
でもオルレアンにいってもらわないと困る。

自分の無力な人間の体が恨めしい。俺では地を駆けることも空を往くことも難しい。

オル「うん、大丈夫」

少年「心配だからオルレアンもイヅナと一緒に」

オル「わ、わかったよ。えっと、少年くん」

少年「どうした?」

オル「一人じゃ、怖いよ。ついてきて、ほしいな」

少年「………わかった」

オル「ありがとう、少年」

少年「元気出せよオルレアン。絶対無事に決まってるだろ」

オル「そう、かな。大丈夫かな?」

少年「馬車よりずっと、風よりもずっと速いやつが病院までつれてってるんだから」

オル「………ありがと、少年くん」

オル「急ぐよ。めちゃくちゃ、急ぐよ!!」

そういってオルレアンは気丈にも立ち上がり、数度翼を羽ばたかせた。

オル「あのイタチやろうになんか負けないんだからねっ☆」

いつも通りのオルレアンの笑顔にほっとする。胸をなで下ろしたのもつかの間、オルレアンは大きく翼を羽ばたかせながら飛び、その強靱なかぎ爪で俺の肩をがっちりと掴み

オル「いくよっ☆」

俺を引きずりながらトイレの窓から飛び立った。

離陸の際ににいろいろなところにぶつけた体が痛い。だがそんな弱音を言ってる暇もない。

オル「どこにいるかな?」

少年「えっと、あれか」

あたりを見渡すとすぐにイヅナの姿を見つけることができた。少しの間だというのにもう彼方にいる。

砂埃と揺れる木々がイヅナの場所と進行方向を教えてくれる。見失うことはなさそうだがあの速度。追いつけるだろうか。

少年「大丈夫か?」

オル「うんっ、頑張るからしっかり意識を保っててね! あと一生懸命だから私は下を見ないよ! それじゃ、アテンションっ☆☆☆」

加速。

加速。

加速。

一度羽ばたけば風がうねり

二度羽ばたけば空気が歪み

三度羽ばたけば身に風を纏う。

流石にカルラほどの速度はない。空気を裂き、風を貫くカラス天狗とは飛行の仕方が違うからだ。

だがしかしオルレアンの飛び方には自由があった。森という平坦でもまっすぐでもない道を行くには進行方向を何度も変えないといけない。オルレアンはそのイヅナの動きに柔軟に対応していた。

風がオルレアンを引き寄せ、導く。速度では決して勝てないその差をオルレアンは埋めてみせた。

少年「あともうちょっとだオルレアンっ!」

オル「へっへーん☆ 牛乳配達のアルバイトで鍛えたオルレアンちゃんの飛行テク、舐めんじゃねーぞ☆」

追いつけはしないがイヅナの背を捕らえる。大声をあげれば言葉が届く距離。これならば。

少年「イヅナっ!!」

イヅナ「! んだよっ!!」」

少年「病院の場所は知ってるのか!?」

イヅナ「………! どこだ!!」

少年「まじか…。俺が指示するから!!」

イヅナ「とちるんじゃねーぞ!!」

少年「そっちもな!!!」

イヅナ「はっ!! ざけんなっ!!」

イヅナの表情は見えない。だけれど今確かにイヅナは笑っていた。

確信が持てる。イヅナを信じれる。

必ずイヅナはボンボリを無事病院までつれていけると。

イヅナはボンボリを救えると。

根拠も理由もないのに、俺はそう思えた。

イヅナは本当に馬車よりも早く病院までたどり着いた。俺を抱えて飛ぶオルレアンの速度に合わせていたので、場所さえ知っておけばもっと早くたどり着けただろう。

病院の先生にボンボリを引き渡すとただ待つことしかできなくなった俺たちは後をオルレアンに任せ喫茶店で待つことにした。

少年「助かったよ。イヅナ」

イヅナ「あん? なんでお前が礼を言うんだよ」

少年「オルレアンに代わってかな。にしてもイヅナは本当は悪い奴じゃないんだろ?」

俺がそう指摘するとイヅナはオールバックを逆立たせて否定をしてきた。

だが人を救うために何十キロも走り続ける悪人はない。普通の人でもそうはいない。なら迷わず走ったイヅナは実は善人ということになる。

イヅナ「俺はいい奴なんかじゃねぇよ! 目の前で人が死んだら飯が喉を通らなくなるだろうが」

あくまで自分勝手な理由であり、人助けではないと否定するイヅナ。

でも結局人から感謝されてるのならそれは人助けになるんじゃないだろうか。

少年「なぁ、イズナ」

イズナ「んだよ」

少年「焼きそばの屋台、やりたいのか?」

イヅナ「そりゃあ金が欲しいからな」

なら普通に仕事をすればいいのに。工事現場のアルバイトとか。と思ったが口に出さないでおこう。

少年「ヒョウカさんに頼んで火気使用の許可をもらってくるよ。確約はできないが」

イヅナ「……何が目的だ?」

少年「目的なんてないって。イヅナに人助けをする理由がないのと同じだ」

イヅナ「てめ、喧嘩売ってんのか?」

少年「喧嘩は売ってない。俺じゃあ相手にもならないだろうしな」

少年「それでどうするんだ?」

イヅナ「………………ちっ」

イヅナ「じゃあ……頼むわ」

そうぶっきらぼうに言い放つイヅナの口角はいつもより上がって見えたような気がした。

すぐにそっぽを向かれたので確認はできないが、もしかすると若干距離は縮んだんじゃないだろうか。

荒れたふうな演技をして、その実なり切れないいい奴。

そう、俺はイヅナを評価した。

少年「なんでイヅナを警戒しておく必要はないと思います」

次の日、俺はヒョウカさんに昨日あったことを報告していた。

あったことを大まかに話し、詳細を書いた復命書を渡すとヒョウカさんは銀縁のメガネをかけて復命書に眼を通した。

ヒョウカ「………この火気使用の許可とは?」

少年「彼の行動は我が学園の模範といえる行動です。学生の品位を貶めるものに罰を下すのなら、称えるべき行動を起こしたものにはなにかしらの恩賞が必要だと思いますが」

ヒョウカ「なるほど、この火気使用願いがイヅナに対する表彰となると」

ヒョウカさんはフレームのブリッジを中指で抑えると少し思案した後にこくりと頷いた。

ヒョウカ「ではその通りにしましょう。イヅナに対し火気使用許可を出すので書類を作成しておいてください」

少年「はい」

すんなりと話しは通った。以前のボヤ騒ぎの原因がイヅナにあるものではないということは理解してくれているようだ。

ヒョウカ「それと」

復命書を伏せて机の上に置くとヒョウカさんは眼鏡を外しながらこっちをじっと見つめた。

ヒョウカ「我が風紀委員には中心を担う私たち1課、荒事を担うクロ率いる2課、学園外での行動を担う3課、生徒からの要望や相談に答えるナタリー率いる4課があります」

ヒョウカ「あなたの所属ですが」

ヒョウカさんの水色の瞳に自分の顔が写る。所属に希望はない。だが身体能力に自信のない俺としてはできれば4課配属であればとも思う。

どの課でも依存はない。

ヒョウカ「生徒会に所属し、同行を見張る第5課となってもらいます」

ヒョウカ「特例の一人一課となりますが、もちろんサポートはしますので安心してください」

少年「」

前言撤回で。

5課以外でお願いします。

ヒョウカ「ダメです」

そう、ヒョウカさんは冷たく俺の望みを否定した。

今日はここまで

イヅナ編はこれにて終了となります。

【幕間】

ある日のことだ。

珍しく予定の無い放課後をバジロウとノヘジと一緒にのんびり享受していた時だ。

ノヘジ「俺は………イルミだろう。もちろんおっぱい的にだ」

バジロウ「俺は………セリカだな。ベタだけど優しい女の子ってのはあこがれるぜ。少年は?」

少年「あー、俺は………」

なんて年ごろらしい会話を途切れさせたのは聞き覚えのある。いや聞きなれた癇癪だった。

バジロウ「あれはお前の姉じゃあないか?」

少年「あれ、本当だ」

中庭を一人の男の手を引きながら爆走する小さな姿は見間違えることはない。立場上俺の姉であるミレイアだった。

少年「なにやってんだか」

手を引かれている男は見たことがある。ミレイアに勉学を教えている第一種の人間だ。ただでさえ少ない人間。しかもそれが教師ならなおさら記憶に残る。

しかしなんていうか、大変だな。あのミレイアの面倒を嫌な顔一つせず見て。

俺にはできない。絶対にできない。

ノヘジ「可愛らしい姉だろう。羨ましいのだろうっ」ダンッ

少年「背の小さいちんちくりんが?」

バジロウ「まぁ、顔立ちは整ってるな。スタイルは置いといて」

少年「はー。そうかねぇ」

いまいち納得できないのはミレイアを近くで見すぎたせいだろうか。

まぁ確かに、整ってなくはないと思うが、どうもフィルターを通してみてしまうから二人と言うように美少女であるとは思えなかった。

バジロウ「行かなくていいのか? 何か困ってるみたいだが」

少年「せっかく何もない放課後なんだからわざわざミレイアに係わりたくない」

どうせつまらない問題だろう。走り去るときにデザートという単語が聞こえたし。

少年「それより話を戻そうぜ。なんだっけ」

ノヘジ「少年のタイプの女学生の話だろう」

少年「あー、はいはい。えーっと俺は」

俺がタイプの女性………そもそも女性というものをそういう対象として認識したのは最近のことだからな。ぱっと出てこない。

メイドはそういう関係ではないし身近にいる女性とは言えば

オルレアン

リューン

リンネ

ヒョウカさん

ミレイア………は違うか。

俺の身近にいる女性で気になるのは

少年「あー。あえて言うならだけど>>213かな」

リンネ

少年「リンネかな」

バジロウ「あー」

ノヘジ「確かにリンネ嬢も素晴らしいだろう。それでリンネ嬢のどこが好きなんだ?」

少年「あいつああ見えて小動物とか好きなんだよ。この前なぜか謝りながら子猫を撫でてるとこ見てなんかいいなって」

リンネ「!」

バジロウ「あ」

少年「それによく怪我してるだろ。それ見てると守ってやりたいなって。いや、リンネは鬼で俺は人間なんだから守るなんてことは無理だけども」

リンネ「///」

ノヘジ「少年よ」

少年「あといつも自信なさげな顔してるところが………ん、なんだ?」

ノヘジ「後ろをみるといいだろう」

少年「後ろ?」クルッ

リンネ「あ、あの少年さん」

少年「」

リンネ「こんな私を褒めてくれるなんてお世辞とわかっていても嬉しかったです。少年さんは優しいのですね」ニコッ

少年「あ、あぁ」

リンネ「………」プルプル

少年「いやお世辞じゃなくて。………リンネ?」

リンネ「///」ボンッ

リンネ「気を使わせてしまってすいませんーっ」ドドドドドドドドッ

少年「リンネーっ!!?」

リンネの好感度【5】

バジロウ「少年」ギュッ

少年「バジロウ………なんで俺の右手を握り締めるんだ?」

ノヘジ「少年よ」ギュッ

少年「そしてノヘジ。お前は左手か」

バジロウ「おーらい、おーらい」グイグイ

ノヘジ「オーライッ オーライッ」グイグイ

少年「いでででででで」ミシミシ

酷い目にあった。

普通に力が強いバジロウと血の涙を流すほど鬼気迫ったノヘジに左右へ引っ張られて危うく真っ二つになるところだった。

リンネになにか誤解された気がしたが、たぶん大丈夫だろう。

俺がお世辞で言ったと思ってるようだし。

バジロウ「ったく、これだから色男は」

ノヘジ「なぜだ、なぜ俺はモテないのだ」

人は内面というが、第一印象は外見だ。

外見が見えないうえに口を開けばイヤらしい話をするノヘジがモテないのは至極当然のことだろう。

勉強はできるし、真面目なところがあるんだからあぁいう話しなければ彼女くらい作れそうなもんだが。

バジロウ「ってふざけてたらもうこんな時間か」

ノヘジ「はっ! 図書館で自習をする時間だろう」

バジロウ「おらぁオルレアンに買い出し頼まれてっからもう帰るわ」

なんて調子で日が暮れればあっという間に一人になった。

迎えがくるまでまだ時間はある。

適当に歩いて時間を潰そう。まだ校舎を把握しているわけではないし。

と思っていたら。

少年「あれ、ミレイア、様」

暗い顔をして、瞳を潤ませたミレイアに出会った。

その横にはあの人間の男の姿。どうやらミレイアを慰めているらしい。

結局ミレイアのしたいことは上手くいかなかったみたいだ

ミレイア「………っ」

声をかけるとミレイアはキッとこちらを睨みつけてきたがその瞳にいつものような力はなく、どこかか弱いような印象を受けた。

ミレイア「なによ。ミレイアちゃんを笑いにきたの?」

ミレイアを笑う理由はない。今のミレイアを見て笑う趣味もない。

少年「なにがだ…ですか?」

訳が分からず聞き返すとミレイアは自嘲気味に右の口角を少し上げた。

ミレイア「ミレイアちゃんのデザートが盗まれたこと。どうせお父様に報告するんでしょう?」

聞こえてきたデザートとはそういうことか。どうやら聞こえてきたデザートという単語はミレイアのデザートが盗まれたということらしい。

デザートを盗まれたまぬけが怒り狂うなんてのはコメディ染みて実にお笑い種だ。

男「あぁ、走り回ってましたね」

だけれど笑わない。この騒動の裏にあるミレイアの苦悩を察してしまったからだ。

ミレイアの口から出てきたお父様という言葉。ロード家という名家に捕らわれ眼の下に隈を作ってまで努力をするミレイアが怯えるもの。

優秀な家族から押される出来損ないの烙印。

身内が完璧であるからゆえに恐れる自分自身の瑕。

ミレイア「………いいわよ。言いなさいよ! ミレイアちゃんは自分のものもちゃんと管理できない出来損ないだって!!」

自らが抱える恐怖をミレイアは自暴自棄気味に吐き出した。

他人ならばただの笑い話で済んだこと。

だがミレイアはそんなことですら自らの過失と捕らえて、振り回されている。

そんなミレイアを笑えるだろうか。

酷く不器用で、いじらしさすら覚えるこの姉を。

俺は笑えない。

俺は驚いていた。自分自身のミレイアに対する印象の変化に。

今まで感じていたミレイアに対する思いが吐き出された言葉によって塗り替えられていく。

いや、違う。今まで抱いていたミレイアに対する違和感が拭われていくんだ。

いままでいつも強がってばかりのミレイアの行動はどこか動物の威嚇染みたものを感じた。

俺よりずっと強く、俺よりずっと賢く、俺よりずっと高貴で、俺よりずっと傲慢なミレイアに感じていた違和感。

それはミレイアが自分の弱みを隠すために行っていた強がりだったんだ。

男「ねぇ、君」

少年「あんた、あなたはミレイア様の、先生?」

今までミレイアを慰めの表情で見ていた男が俺に話しかけてきた。その表情は悪く言えばなよなよした、情けないような、男らしくないようなものだった。

男「うん。今から甘いもの食べにいくんだけど一緒にいかないかな?」

ミレイア「私の尻拭いなんてする必要ないわよ」

男の提案をミレイアがぴしゃりと遮る。男は自らの優しさを無下に否定されておきながらも不貞腐れずにまた同じ表情のままでミレイアに提案を繰り返した。

少年「あの、何を言ってるんですかミレイア様」

俺は第二種だ。上手くかける言葉もデリカシーもない。人生経験が圧倒的に不足している野蛮人だ。だからこそミレイアの強がりを剥がす。

ミレイア「私が失態を犯した話よ。お父様に報告するには格好のネタでしょう」

自らに責任がないことすら失態と捕らえるミレイアはさぞ生きづらいことだろう。そんなこと誰も責めやしないというのに。

少年「それどう考えても盗んだ方が悪いでしょう。デザート程度まで気を遣うなんて無理ですよ。盗まれるなんて思いませんし」

俺を拾ったあの男なら高笑いして一笑に付しそうなこと。軽くバカにはするだろうがそれでも責めやしないはずだ。むしろそれを肴にワインでも飲みほしそうなのがあの男だ。愉快な話を齎したことを褒めそうなのがあの男だ。

ミレイアに現実を突きつけ否定する。ミレイアの杞憂を否定する。ミレイアは悪くないし責められることはない。逐一ミレイアの自虐を否定すると、ミレイアの瞳から睨みが薄れ徐々に徐々に潤んでくる。

ミレイア「あんた………私のこと嫌いでしょう? すぐ怒るし、わがままだし」

んなわけない。

ミレイアに対する印象はわがままで傲慢で暴力的。

だけど嫌ってなんかいない。

あの広い屋敷にいるのは俺とミレイア、あとメイドだけ。俺を拾ったあの男と、ミレイアの父親はそうそう家にいることはない。

俺を形式的に大切に扱うが雑談にすら付き合ってくれないメイド達。ミレイアを崇め、俺を敵視しているメイド長ユキムラ。

そんな中、俺を弟と呼び、ありのまま接してくれるミレイアは俺にとっての救いだったっていうのに。

嫌うわけがないだろう。本当にバカな姉だ。

少年「何言ってんだ?………何言ってるんですか。別に嫌ってないですよ」

ミレイア「ほんと……?」

ミレイアの言葉から刺が抜ける。ミレイアの表情がか弱い少女のようになり、瞳がさらに潤む。疑うような、願うような、懇願するようなその問いかけに俺は頷いた。

少年「だって義姉さんですから」

俺を守ってくれている、大切な義姉だから。

男「とりあえず、話は良い方向にいってるみたいだね。それじゃあもっと良い方向に行くために、デザート。食べにいこっか」

男が柏手を打つ。その表情はにこやかだった。なんか俺を見る目が優しくてムカつく。

ミレイア「………あんたにも、迷惑かけたわね」

男「そんなことないよ。あ、君は甘いもの大丈夫?」

嫌いじゃない。むしろ好きだ。

少年「好きっす」

男「それじゃあ決定! ほら、行くよ!!」グイッ

男が右手でミレイアの手を掴み、左手で俺の手を掴む。

ミレイア「きゃっ」

少年「うわっ」

引きずる側から引きずられる側へ。ミレイアは眼を白黒させ、何度も瞬きをした。瞼に押されて涙が一筋頬を伝う。

男「めでたしめでたし!」

そう言って男は、嬉しそうに笑った。

デザートを食べ終わり、礼を言ってミレイアの教師と別れる。

迎えが来る時間はとっくに過ぎている。1時間ほど待たせただろうか。

申し訳ないと思いながらミレイアと車まで向かうと運転手は俺だけを睨んでいた。わかってはいるけども、なぜだ。

ミレイア「はー、疲れた疲れた」

車に乗り込みながら靴をぽいぽいと投げ捨てるミレイア。俺はミレイアの靴を拾いながらそれに続いた。

乗り込んで向かい合わせになるように座席に座ると扉が閉められ、すぐに発車した。

微かに揺れを感じながら外を見ると、窓に映ったミレイアがこっちを見ていた。

少年「なんですか?」

ミレイア「………っ」

ミレイアは何も言わずにじっとこっちを見ていた。口元だけは何かを言いたそうにもごもごと動いている。

ミレイア「…えっと、あんた、私のこと好き、何でしょ」

少年「大切な義姉ですからね」

そう返すとミレイアは居心地が悪くなるらしく視線をきょろきょろと動かした。その様子が面白くて笑う。もちろん表情にはださない。

ミレイア「そ、そんなにこのミレイア様のことが好きなら………せ、精々良いように扱ってやるわ。だから、その」

ミレイア「………ありがとう」

一度剥がれた強がりを張りなおすのには時間がいるらしく、結局のところ今もまだしおらしいミレイアのままらしい。

ミレイア「ねぇ、あんた私の弟でしょ。その敬語とか苦手みたいだし、別に無理して私に敬語使わなくても、いいのよ?」

少年「でも体裁が、あるでしょう。それに敬語は、大事ですから」

ミレイア「………じゃ、二人きりのときは無理しなくていいわよ。これは命令よ、命令。あんたは弟なんだから姉の言うことは、聞きなさいよっ」

強引で不器用な優しさ。ミレイアは白い頬を紅潮させながら、早口でそうまくし立てた。

少年「……わかったよ。義姉さん」

ミレイア「ふ、ふんっ。なんか偉そうねっ。いいこと! あんたは私の弟なんだから! つまり奴隷みたいなもんでっ。う、うーっ!!」

言葉が見つからなかったミレイアが言葉の代わりにぽかぽかと俺を叩く。

いつもよりは痛くないその拳を義弟である俺は甘んじて受け止める。

俺は義弟なんだから、この強がりで意地っ張りで傲慢で不遜な義姉の言うことを奴隷よろしくはいはい聞いて行かなければならないのだろう。

まぁ、いっか。

今日はここまで

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