少年「俺のクラスは亜人だらけ」 (109)

このSSは男「僕の生徒は亜人だらけ」の番外編です。

更新頻度は遅いですがよろしくおねがいします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1520564330

人生が変わるきっかけなんていくらでもある。

ただそれが良い方向なのか悪い方向なのか。どっちに転がるかだなんてわかりやしない。

この選べやしないきっかけを俺は運命と呼べばいいのだろうか。

誰かが言った。人間は運命の奴隷だと。選ぶ権利のない選択肢を突きつけられるのだからその通りだ。

親を殺され復讐に走る子供を見た。

金持ちに拾われ娼婦として生きる女を見た。

どれも些細なきっかけだ。少なくともこの場所では。

ただきっかけが些細だとしても結果は些細なんかじゃない。

復讐は遂げられず遺体は道端に晒された。

肉体の旬を過ぎた女は捨てられ、路頭に迷った。

理不尽に迫られ、人生を動かされる弱者の集まり。

それがこの場所。

特別保護地区と名付けられたこの場所だ。

ほんの些細なきっかけに運命を翻弄される奴らの集まり。

俺のきっかけは一つの数式と一杯の暖かいスープだった。

役立たずと呼ばれていた。

俺の名前だ。

この場所ではその日を生き延びることしか皆考えていない。

大切なのは作り方と手に入れ方。

種をまいて育てる力。

それを奪う力。

胃を満たす以外の力に価値なんてない。

そんな中でなにも生み出さない数式を解き続ける俺は確かに役立たずだ。

今日も俺はカリカリとろう石で煤けた煉瓦に数式を書き続ける。腹は減るばかりで体は不自由になるばかり。

ただ頭と心だけは満たされていく。

ガリリッ

小指の爪より短くなったろう石がついに砕け散った。

少年「………新しいの探さないとな」

グゥゥ

腹の虫が鳴いたがろう石の方が重要だ。

このまま数式に囲まれて安らかに死ぬことが俺の些細な抵抗なのだから。

カツン

石が壁に跳ね返る音がした。

建物に囲まれたこの中庭に来るものは少ない。

いや一人だけだと言ってもいい。

数に囲まれたこの不気味な場所に入ってくるのは一人だけだ。

メイド「少年」

メイド服を着た少女。俺よりも年下のくせに俺よりも立派に生きている。

なぜだか知らないがときおり俺に食糧を届けてくれる。化粧の下にうっすらと見える頬の色を見たら自分だって満足に食べれてないだろうに。

その礼として簡単な勉学を教えてやってるが、釣り合っているようには思えない。恩返しでもするべきなのだろうが俺にはその術がこれしかない。

少年「今日の勉強か? すまないがろう石がなくなっちまってな」

メイド「いえ違います」

少年「なんだ。荷物運びか? でもお前の方が力は―――」

メイド「買われました」

その言葉に俺は一言「そうか」しか返せなかった。

誰かに買われた方がこんな場所にいるよりかはマシな生活が送れるかもしれない。他の隷属婦よりは器量があるはずだ。悪いようにはならないだろう。

少年「なかなか買われなかったもんな。やっと買われたか」

なんとか軽口をはきだすもメイドの表情はぴくりとも変わりゃしない。

メイド「価値なしと判断される前に買われて良かったです」

価値なしと判断された隷属婦は娼婦に落とされる。その前に買われたことは運が良かったのだろう。

ただ隷属婦が娼婦のように扱われないとは限らないが。

女の魅力を感じないメイドの体ならそうなることはないだろうが。いやそういうのが趣味の奴もいると聞いた。

………心配しても意味がない。メイドがどうなろうと知ったこっちゃない。

自分のためにだけ生きる。それが当たり前で、ルールなのだから。

少年「まぁ、頑張れよ」

メイド「はい。今までありがとうございました」

メイドはぺこりと頭を下げて元来た道を戻って行った。

今思えば俺はメイドに家族愛を感じていたのかもしれない。

酷く寂しい痛みが、空腹よりも辛い痛みが堪えた。

少年「ろう石………探しにいくか」

メイドの姿が見えなくなってから中庭を出る。

すぐにろう石は見つかるだろう。珍しくもなく、さして欲しがられない物だから。

見つけたらすぐに中庭に戻ろう。

そして一人、数式を書き続け力尽きよう。

この日に限ってろう石は見つからなかった。

いつもならすぐに見つかるだろうに、不思議と影も見えない。

路地をさまよい続けた俺はいつの間にか特別保護地区を抜け出していた。

人権をほとんどはく奪された第二種人間である俺がここでどんな目にあっても文句は言えない。

急いで戻らなければ。

踵を返して腹立たしいことにこの場所よりは安全な特別保護地区へと戻ろうとしていた時だった。

重い車輪が転がる音と馬のいななきが聞こえた。

音をした方を向くと猛烈な勢いで走ってくる馬車。その行く先に俺がいた。

避けるべきなのだろう。避けるべきだ。避けなければ。

脳が警鐘を鳴らすが栄養不足で痩せ細った体が上手く動かない。

立ちすくんだ俺は目の前に迫る馬の毛並を観察した。

こんな死に方はしたくなかったが仕方ない。

できることなら途中の数式を解き終わりたかった―――。

ドッ

衝撃は思ったよりも軽かった。

俺の体は宙を飛び、夕焼けがひどく眩しい。

そのままゆっくりと俺の体は地面に向かって落ち―――

なかった。

「何を思ってこの私の進路を妨害した」

誰かに抱えられていた。

白髪赤目の壮年の男が俺を見る。俺はその男の腕の中にいて。

「もう一度問う。なにゆえに私の進路を妨害した」

少年「あ……あんたは?」

ベーラ「ロード家嫡男。ベーラ・ロードである!」

少年「妨害したつもりはない。よけきれなかっただけだ」

ベーラ「ふむ。その軟弱そうな体ではたしかに道理。弱者の道理はその弱者故と言える」

バカにしているつもりはないのだろうが、口調、抑揚、肩の竦め方まで偉そうだ。

ベーラ「見ればおそらく第二種の人間。なぜ巣を抜け出した」

巣? あれが巣なものか。落ち着ける場所なんてありやしない。

少年「ろう石を探しに、ここまで来た」

ベーラ「ろう石? そんなものでどうする。お絵かき遊びにでも興じるのか?」

少年「数式が途中なんだ」

ベーラ「! これは驚いたぞ。野生のままに生きると言われる醜悪な第二種が数式と言ったか!」

ベーラ「その言葉は知恵者の宝具よ。なにゆえにそれを望むか。疾く答えよ!」

少年「数学は楽しい。いつだって正しい。あの場所で正しいことなんて数式だけだ」

ベーラ「賢人を気取るか第二種よ。これは面白い。これは面白いなぁ!」

ベーラ・ロードがくつくつと笑う。ひとしきり笑うとベーラは大きく目を見開いた。

ベーラ「我に隷属せよ第二種!!」

少年「俺を買うのか?」

ベーラ「いいや、買いはしない。だが対価を求むのであれば差し出そうではないか」

そういってベーラ・ロードは俺を地面に放り投げてから両手を打ち鳴らした。

どこからともなく従者らしき人が現れ、俺にマグカップを差し出した。

ベーラ「さぁ! 受け取るがよい!!」

ばっと気取りながら片手を俺に向ける。

そのマグカップの中には湯気を立てるスープがなみなみと注がれていた。

嗅覚を通じて脳を犯す香りは空腹を耐えきれないほどに膨らませた。

気が付けば俺はそのスープを飲み干していた。

諦めていた生への欲求がよみがえる。野生のままに生きると言われてもしかたないほどに俺は欲求を抑えきれないでいた。

ベーラ「くつくつくつ。まるで犬よ!」

ベーラ「だが吸血鬼に犬が従うのは道理。さぁ契約は成立した!」

ベーラ「我に従い我のために死ねぃ!!」

この日。俺はたった一杯のスープと引き換えに吸血鬼に自分を売り渡した。

それからというもの俺は勉学のみならず運動、社交界でのマナーなど全てを叩きこまれた。

時には鞭で叩かれることもあった。まるで犬を躾けるかのように。

それでもあそこよりはマシだった。食事は出るし、何も気にせず勉強ができる。

他者にとっては地獄かもしれないが俺にとっては天国だった。

少年「ふぅ……こんなもんかな」

ろう石より簡単に、細かな字が書ける鉛筆という道具を置く。上等な紙には今日勉強したことが纏められてあった。

コンコン

ドアがノックされる。返事をする前に間髪入れずドアが開けられた。

「起きてるかしら。駄犬」

起きているも何も時刻は昼。吸血鬼にとっては深夜に等しいが俺は人間であって昼の起きていることが普通だ。

入ってきたのはベーラと同じく白髪赤目の少女。ベーラの妹のミレイア・ロードだった。

吸血鬼であるが学園と呼ばれる勉強を学ぶ施設に通っているらしく昼型の生活を送っている。

しかしどうも辛いらしく目の下にはひどいクマが見える。

少年「どう、しました。ミレイア、さま」

敬語にはまだ慣れない。目の前の少女が幼く見えるのもあるだろうが。

ミレイア「良い報せともっと良い報せを持ってきてあげたわ」

したり顔で俺を見るミレイア。こういった顔をしている時のミレイアは面倒事を持って来る時だ。

また何か面倒事をと思っているとどうやら顔にでていたらしく酷く頬を叩かれた。

ミレイア「良い報せはあんたも学園に通えることが決まったわ!」

少年「………それは、どういう」

ミレイア「そのまんまよ。お兄様があんたを学園に通わせることにしたの」

それは本当に良い報せだ。より良い環境がもらえるのなら望むことは他にない。

ミレイア「もっと良い報せはね」

ミレイアは大きく息を吸い込んで勿体ぶりながら言った。

ミレイア「あんたがこのミレイアちゃんの義弟になれるってことよ!」

絶句だった。

理解できずに口を開けて呆けているとミレイアはそれを感激のあまりに言葉もないのであると思ったらしく満足そうに息を吐いた。

どうやら学園に通わせられることによってロード家の名を背負わなければいけないらしく、形式上だけはロード家に加わることになったらしい。

奴隷としては破格の待遇ではあるがそれが結局何になるわけでもない。

ミレイア「弟は昔から姉の奴隷と言うわ。つまりあんたはミレイアちゃんの命令に絶対服従ってわけ。いいわね」ニヒヒ

これも特に変わっていない。

ミレイアは俺がこの家に来た当初から俺に無茶なことをさせてそれを楽しんでいた。いやもっとひどくなるかもしれないがまぁそれはそれでいい。

こんな我が侭な奴だがその存在に救われている部分もあるのだ。

俺が起きてる間にいるのは喋りかけても事務的にしか反応を返さない使用人とミレイアだけ。

口では高圧的だが一応配慮をしているということも知っている。

本当一応ではあるが自慢の義姉、ということになるのだろう。

ミレイア「あら、これ間違えてるじゃない。ロード家の名を背負うからにはうんたらかんたら」

少年「合ってますよ。ほら」

ミレイア「~っ! ちゃ、ちゃんと指摘できるなんて勉強はしっかりしてるみたいね! 精進なさい!」

バシンッ

少年「ぐっ」

理不尽で俺よりも頭の悪い姉だが………まぁ、自慢の姉ということにしておこう。

学園に入るのはいきなりだが次の日だった。

使用人に起こされ、いつの間にか用意されていた服に袖を通す。

少年「………忘れ物はないかな?」

忘れ物なんて当日にあるわけないがそれでも一応鞄を見てみる。

筆記用具とノートとハンカチと幾許かの金。必要なものは全てある。

準備万端である。それでは学園に向かおうと珍しく高鳴っている胸を押さえながら部屋から出―――

バンッ!

少年「うぐぁっ」

ミレイア「ミレイアちゃんが起こしに来てあげたわよ! 感謝なさいって、なんで床で寝てるの?」

少年「い、いえ。なんでも」

実際はミレイアが開け放った扉が猛烈な勢いで俺にぶつかったために倒れたのだが言い返すこともできず鼻を抑える。

ミレイア「まぁなんでもいいけど爺やが車を出すから急ぎなさい」

少年「準備はできてます」

ミレイア「そ。それじゃあ行くわよ」

黒く長い魔導車に乗り込む。使用人であればミレイアと同じ席に座ることはできないがそこはまぁ一応義弟らしくミレイアの隣(と言っても長い椅子の端だが)に座る。

ミレイアの顔をちらりと見ると新学期が始まったらしくうきうきと表情が弾んでいる。

まぁなんともよく動く口と表情筋だこと。

魔導車が走り出すとミレイアは楽しそうに足をぱたぱたと動かしていた。

ミレイア「勉強は十分かしら? ロード家の名に恥じない優等生ぶりを見せつけることね」

少年「大丈夫だ、です。今までの勉強のほうがずっと難しいですから」

実際そうだ。おそらく学園の方が優しく簡単だろう。だがそれは俺以外にも当てはまることできっと切磋琢磨していくことになるのだろう。

ミレイア「そうそう。分かってると思うけど第二種なんてことばれちゃいけないわよ。あんたはあくまでも第一種の人間でロード家の養子になった少年。いいわね」

ミレイア「とくに刻印は誤魔化しようがないから絶対に見せないこと!」

刻印。識別印と呼ばれる焼印。第二種のみに押される生まれながらの烙印。

目立つものではないが見られれば即第二種ということがバレる。俺の刻印は運よく右胸で隠しやすい場所であるが、隠しやすいと言っても暴かれやすい場所でもある。

まぁ、下着を脱がなければバレないし始めから疑りかかってくる奴もいないだろう。

注意して過ごせばいいだけ。ただそれだけだ。

ミレイア「ついたわよ。降りなさい」

魔導車から降りるとそこには巨大な建物と敷地が広がっていた。感嘆の思いに耽っていると大きいとはいえ狭い車内を器用に走って助走をつけたミレイアがドロップキックをしてきた。

ミレイア「靴が綺麗になったわね。ありがと」

そういって俺の上からぴょんと飛び降りててくてくと歩いて登校するミレイア。

………ロード家の名に恥じぬとはいったいなんなのだろうか。

入学式というものがあるらしい。道も知らない場所だが案内があったので迷うことはなかった。

案内に従って行くとこれまた巨大な建物。講堂と書かれてある。どれだけのお金があればこんな建物を建てることができるのだろうか。

見回していると生徒の数が増えてきた。どうやらもうそろそろ始まるらしい。

何をすればいいかは中に入ればわかるだろう。

少年「にしても、多いな………」

なんという人口密度の高さ。息がつまりそうだ。

それに人間なんてのは数えるほどしかいない。それも全員第一種の人間だろう。

第二種の人間は俺だけ。

前までは第二種に囲まれていたというのにな。

疎外感を覚えるものの表情には出さない。どうせここじゃあ種族なんてもんは関係ないだろう。

人間も少ないと言えど珍しいものでもない。ただ冷静にいつも通り行動していればいいだけだ。

壁に張り出されている紙に自分の名前を見つける。どうやら2組らしい。

2組の列に並び椅子に座るとざわざわとまわりの声が耳に入った。

標準語から方言らしきものまでまとまりのない言語がここにいる者が各地から集まっているということを教えてくれる。

「やぁやぁ☆ ここ座っていいかな?☆」ピコピコ

いきなり声がかけられた。その主は淡い桃色の羽を持ったハーピーだった。独特の抑揚で隣の椅子に座っていいかを求めている。

少年「構わないが」

「やたっ☆ありがと☆」ピョンピョン

少年「俺の椅子でもないから別に許可は取らなくていいだろうに」

「でも隣に知らない人が座るのが嫌な人っているじゃん☆ あ、私はオルレアンだよ☆ オルレアンちゃんって呼んでな☆」ビヨン

少年「俺は少年だ。よろしくなオルレアン」

オル「恥ずかしがんなって☆」グイングイン

少年「ところで」

さきほどからずっと気になっていたのだが、頭の上で縦横無尽に動き回るその

少年「寝癖? があるぞ」

オル「寝癖じゃねぇ★ 冠羽だ冠羽! か・ん・う!」

固まった笑顔でオルレアンは俺の背中にビンタを繰り出してきた。ミレイアの蹴りよりは痛くないがそれでも鋭い爪が痛い。

「それはアホ毛じゃないのか」

「アホ毛。萌え要素の内の一つではあるが実際に見てもそれほど萌えはしないだろう」

オル「うるせぇバカども★!!」

いきなり現れた二人をオルレアンが返す爪で切り裂く。二人の男………!?

一人は東国にあるような服を着たリザードマン。そしてもう一人、一人と呼んでいいのかわからないが服と眼鏡だけ宙に浮いていた。

しっかりと悲鳴は二人分聞こえるためにそこにいるということは分かるが

バジロウ「お、見ない顔だな! 俺はバジロウ。一流の料理人になる男だ! ん? なに変な顔をしているんだ? あぁ、こいつはノヘジ。見てわかる通り。いや見えないんだが透明人間だ」

透明人間。聞いて分かる通り透明な人間。人間とつくが人間でないことは分かるが

少年「初めてみた………」

ノヘジ「熱い視線を向けてくれるのは構わないがどうせなら美少女に見られたかったと言わざるを得ない」

バジロウ「この通りアホだ」

少年「三人は知り合いなのか?」

バジロウ「中等部からの知り合いだ」

オル「腐れ縁ってやつだな☆」

ノヘジ「どうせなら美少女と縁を育みたいものだ」

オル「ここにいるだろ☆」バリィッ

ノヘジ「けヴぃんっ!」

変な悲鳴をあげながら倒れこむ服と眼鏡、もといノヘジ。

足元からしくしくと泣き声が聞こえるのは不気味であるのでノヘジを助け起こす。

オル「美少女に向かって失礼だぞ、ぷんすこぷんすこ☆」

頬を膨らませて憤慨するオルレアン。その頭の上ではアホ毛が猛烈に動いていた。

オル「美少女だよな☆ バジロウ☆?」

バジロウ「あ、あぁ………」

バジロウの青い鱗が更に青ざめて見える。どうやら逆らわないほうがいいらしい。

オル「少年もそう思うだろ☆」

セクシーに見えないセクシーポーズをとりながらオルレアンが俺に向かって投げキッスをする。

さきほどのような惨劇にあいたくはないが………

1.オルレアンの容姿を賞賛する

2.頷いておく

3.否定する

>>17

2

ここは頷いておこう。バジロウに倣って曖昧な返事をしておく。

オル「よしっ☆」

オルレアンの好感度【2】

オルレアンは満足そうに頷いて腕を組んだ。

バジロウ「もうすぐ始まるぞ。大丈夫かノヘジ」

ノヘジ「わ、わが生涯に、悔い、あり」ガクッ

バジロウ「ノヘジィイィイイイイッ!!」

後ろから聞こえる寸劇を聞き流してオルレアンに倣って座る。雑音はしだいに静まり全員が自然と檀上に集中した。

カランカランとハイヒールの音を響かせ女性が檀上へと上がる。

背中に備えた一対の黒い羽。顔の半分を覆う面頬。着物のような服に朱色の高下駄ととにかく目を引くいでたちだった。

無機質な足音はハイヒールではなく高下駄のものだったらしい。

女性は檀上にある演台の前で止まると面頬を外し生徒を見回した。

その目は鋭く、小さい口はきりりと引き締まっており真面目で厳しそうな雰囲気を覚えた。

すうと大きく息を吸うとかなり広い講堂の端から端まで響き渡るような低く大きな声でこう言った。

「我が校の高等部へようこそ。進学した者も入学した者もいるだろうが先に居たからと言って偉いわけではない」

「切磋琢磨し、己を高みへと羽ばたかせる者こそ偉いのだ。我が校に入ったからにはそのことを肝に銘じてくれることを信じている」

「我が校では主に勉学を教える。しかし勉学は義務ではない。だからこそここへ来た諸君は義務以上に勉学に取り組んでくれることだろう」

「勉学以外にも部活動に所属することもいいだろう。部活動は諸君が経験できる唯一の社会経験であると言ってもいい。勉学をおろそかにすることは許されないが入って損はない。私は陸上部、航空部門の顧問もやっているから興味があるものは覗いてくれ」

「………話がそれてしまったな。話を戻して諸君らに与えられる自由は今まで以上のものとなる。だからこそしっかりと選択をし諸君らの自由により良いものを詰め込んでいってくれ」

「さてと、話は短い方がいいだろう。私の無駄な話で諸君らの貴重な青春を奪うわけにはいかないからな。最後に謝辞だけ言わせてもらう」

「諸君、おめでとう。知っている人は知っているだろうがこの学園の現学園長。テラス・カルラインだ」

周囲に倣って拍手をする。

学園長は面頬をつけ直し檀上の隅へと消えて行った。

オル「よし、それじゃ教室行くか☆」

少年「え、もう終わりなのか?」

オル「テラス学長の座右の銘は神速を尊ぶだからな☆ 誰かに無駄なことされるなら自分で無駄な事したほうがましってスタンスだぞ☆」

バジロウ「語弊がある気がするがおおむね間違ってないな。少年は入学組だろうから教室を案内してやるよ」

少年「それは助かる」

これだけの人数だ。いくら列になっているからと言って迷わないわけではない。他の列に紛れ込んでしまって別の教室にたどり着くということもありえる」

バジロウ達と話しながら教室へと向かう。

こんなに喋ったのは人生で初めてかもしれないとふと思った。

教室の広さはおおよそ生徒100人が満足に過ごせるほどの広さだった。黒板を中心に扇形に席が広がっている。

この規模のクラスが何十もあるのだからこの学園がどれだけ大きいのかを知れる。

バジロウ「まだ座席は決まってないみたいだな。適当に座っとくか」

ノヘジ「ふむふむ」

少年「なにやってるんだ?」

ノヘジは真剣な表情(をしていると思う)であたりを見回してメモをとっていた。

ノヘジ「素晴らしい女の子がいないかチェックしている。大切なことだろう」

少年「あぁそうか…」

会って一時間もたってないがこのノヘジという男の人となりが分かった気がする。

ノヘジ「例えば………あの女子なんかレベルが高いな」

指をさした先に居たのは巫女服を纏った女性。見える右手は包帯に巻かれているが怪我をしているのだろうか。

つややかな頭には二本の立派な角があるがなんの亜人だろうか。牛?

ノヘジ「向こうの子もレベルが高い」

次のノヘジが指をさした先にいたのはケンタウロスの女の子だった。ショートカットで活発そうな印象を受ける。

馬の部分は鹿毛でつややかに光っている。じっと見ているとこっちに気付いたらしく顔を赤く染めて顔を背けた。

ノヘジ「………くっ」

少年「どうした」

なぜかノヘジが悔しがっていた。

オル「なにバカなことしてんだ、おい★」

俺はバカなことをした覚えはないがオルレアンが怖い顔をしているのでノヘジの後ろに下がる。

オル「やっぱお前が原因か★」

ズバンとオルレアンの爪が炸裂する。ノヘジは再び変な悲鳴を上げて倒れこんだ。

傍から見れば奇行だが騒ぎにならないあたり中等部からこの調子らしい。

ノヘジ「う、裏切ったのか。少年、よ」ガクッ

少年「裏切ってねぇよ」

オル「美少女ならこのオルレアンちゃんで充分だろ☆」

再びオルレアンがセクシーに見えないセクシーポーズをとる。

ノヘジ「………青と白の縞パン!」

オル「見てんじゃねぇよ★!!」

倒れながらオルレアンのスカートの中を凝視しているであろうノヘジの顔がオルレアンの足で思いきり踏みつけられる。

あれは痛そうだ。

バジロウ「援護はできないぞノヘジ」

少年「言い訳ができないな」

そのままノヘジは寝転がったまま静かになった。

気絶したらしい。

少年「っ!」ブルル

バジロウ「どうした?」

少年「ちょっとトイレに行きたくなってな」

バジロウ「トイレはすぐそこだがもうすぐ教師が来るだろうから急げよ」

少年「あぁ」

小走りで教室から出ていく。言われた通りトイレはすぐそこにあって急な尿意は解消された。

手を洗ってハンカチでふいているとどこからか困ったような声が聞こえた。

「だ、誰か助けてほしいです。助けて欲しいのであります」

消え入るような声な助けを求める声に気付いた者は俺しかいないらしい。声を辿るとそこには前髪ぱっつんのおかっぱ少女が廊下に座り込んでいた。

少年「どうかしたか?」

「!」

声をかけるとぐるんとこっちの方を勢いよく向く。

その両目から涙が今すぐ零れそうで事情を知らない第三者には俺がこの少女を泣かせているように見えるだろう。

そうなっては敵わない。といっても声をかけた今逃げ去るわけにもいかないから早いとここのトラブルを解決してしまおう。

少年「なにか困りごとか?」

「助けてくれるのですか? 私を助けてくれるのですか?」

少年「あぁ、迷惑じゃなければだが」

「迷惑ではありませんです! 誰も助けてくれなくて困ってたのであります!」

バッと両手を広げる彼女の腕にあるのは薄い飛膜。飛ぶ系の亜人か。

少年「何に困っているんだ?」

時間に余裕があるわけじゃない。はやいところ終わらせなければ。

「眼鏡が壊れてしまいまして……」

少年「見えないのか」

「人とかは超音波で見えるのですが、文字だけはどうしようもなく。クラスがわからないのでありますぅ」

少年「クラスか………(超音波?)」

教室は規則的に並んでいるのだからなんとか案内できるだろう。

少年「どこのクラスなんだ?」

「2組ですぅ」

少年「なら同じクラスだな。ちょうどいい」

「! 本当ですか! 助かるです!」

飛びついてぎゅっと抱き着いてくる少女。服の上からじゃわからなかったが意外とメリハリついた………危ない危ないノヘジの思考に汚染されている。

少年「あー。早く行くぞ。先生が来るらしいからな」

「はいっ。あ、名乗り忘れていたです。私はリューンです。コウモリのリューンであります!」

少年「俺は少年だ。見ての通り人間だ」

リューンを連れて教室に戻るとノヘジが復活しており、俺を見て血の涙を流していた。何もないところから血が噴き出ているために非常に不気味である。

というか、透明人間でも血は赤いんだな。

リューン「助かったでありますっ」ペコッ

噴き出る血に若干怯えたリューンが俺に一礼をしてそそくさと適当な席に座る。ノヘジに絡まれる前に離れて正解だろう。

バジロウ「もうそろそろ先生が来るからな。座ったほうがいいぞ!」

少年「席はどこに座ればいいんだ?」

オル「指定はないから私と座ろうぜい☆」

バジロウ「んにゃ、少年は俺の横だよな?」

少年「俺は………」

1.オルレアンの横に座る

2.バジロウの横に座る

3.二人の間に座る

4.リューンの横に座る

>>27

4

少年「あいつの隣に座るよ」

この二人の近くにいるのは楽しいが集中が出来ない。

といっても他の知り合いといってもさっきのリューンしかいないからな。

オル「え~付き合い悪いぞ☆」

ノヘジ「もう女に手を出すとは………流石と言わざるを得ない」

バジロウ「モテ男ってのは実在したんだなぁ」

なんだか不名誉なレッテルを貼られたような気がするが気にせずにリューンの横へ行く。

リューン「うへへ、このクラスには美男美女が多くて、妄想が捗りますですよ♪」

少年「リューン、隣いいか?」

リューン「うひゃへあおぅ!?」

リューンに声をかけると素っ頓狂な声をあげ驚いていた。どうやら何かに集中していたみたいだ。

邪魔をしては悪かっただろうか。

リューン「な、なんですか。どうしましたですか?」

少年「隣座っていいか?」

リューン「あ、大丈夫ですよ。でもさっき話されてたハーピィの女の方の隣の方がいいんじゃないでしょうか」

リューン「異種族間の愛はじゅるるる、うへへ」

リューンの好感度【2】

少年「リューン?」

リューン「はっ! な、なんでもないであります!」

なんでもないなら大丈夫みたいだな。隣に座らせてもらおう。

ガラガラガラ

席に着くと同時に教室の扉が開いて赤い鱗をした派手で大柄の男が入ってきた。

男は教卓の前まで行くと、黒いファイルを教卓の上に投げ、クラス中を見回した。

おそらく教師だと思うが………見れば見るほど怪しくなってくるな。

「おう、全員そろってんな。なんだこのデンジェラスフェロモンむんむんのハイパーグレートモストハンサムな男は一体誰だって思ってる面してんな?」

アータル「見ての通り教師のアータル・オルファンだ。俺はそんじょそこらの教師の三倍はすげーからこのクラスになったからには他のクラスの三倍はすげーことしてやる」

アータル「ってことでよろしく!」

どこが見ての通りか分からないし、何が凄いのかよくわからない挨拶だったが教室中から拍手が上がったのでそれに倣う。

アータルは満足したらしくポケットから煙草を取り出すと、口に咥え火をつけた。そして一口で吸い切ると大量の紫煙を吐きだした。

今のところ教師らしき要素は一つもない。外部の者が侵入して教師を気取ってるんじゃないかとも思えてくる。

アータル「まずは学校の案内だが―――」

ふと横を見るとリューンは虚空を仰ぎながらにやにやと笑っていた。

その口からは涎が垂れているように見えるが大丈夫だろうか。

………表情を除けば容姿は良いと言っても差し支えないだろう。人間目線で見ればだが。

スタイルもさっきの事を思い出せば悪くないし………

いや何を考えてるんだ俺は、ここに来たのは勉強のためだ。恋愛のためなんかじゃない。

といっても人、衣食住が満たされれば色恋に興味が出るのも当然………

リューン「あの、少年殿? 私の顔になにかついてますか?」

少年「よだれ、垂れてるぞ」

リューン「うひゃあおぅっ」

いや、ないな。色恋は俺にはまだ早すぎるみたいだ。

アータル「―――ということで今日は終了だ。といっても帰っていいわけじゃないぜ」

アータル「分かってると思うがこの学園は広い。明日からは普通に授業が始まるが、講義が行われる教室まで案内してくれる奴はいねぇから自分で把握しとかなきゃいけねぇ。わからなくて遅刻しましたなんて言い訳にはなんねぇからな」

アータル「そのほかにも部活見学ももう始まってる。とくに決まってない奴は見学してみろ。案外楽しいことが見つかるかもしれねぇぜ」

楽しいこと、ねぇ。

あの世界に比べたら箸を転がしてもってのはないがたいてい何やっても楽しい。

この魅力的な世界で俺は一体なにをしていくのだろうか。

未来の俺はいったい――――――。

バジロウ「学園を案内してやろう!」

少年「は?」

帰り支度をしているとバジロウがいきなりそう言った。

後ろには宙飛ぶ眼鏡ことノヘジもいる。

バジロウ「俺らはもう学園の事は分かってるからな。案内してやるよ」

少年「資料で教室は把握してるから問題ない」

バジロウ「つれないこと言うなって。良くいうだろ百聞は一見にしかずってな」

ノヘジ「学園の建物は増設に次ぐ増設で入り組んでいる。資料で理解した程度じゃ遭難してしまうな」

少年「遭難って………」

所詮学園施設だ。常に誰かがいるだろうし、遭難するわけがない。

バジロウ「学園内で四日遭難した奴は見たことあるぞ」

少年「………」

ノヘジ「俺は一週間した奴を見たことがある」

………冗談、だよな?

バジロウ「ま、俺らに任せろって!」

ノヘジ「はっ、まさかすでに女性との約束を取り付けているんじゃないだろうか」

バジロウ「まじか、それなら俺らはお邪魔ってことか!」

少年「えっとだな」

1.案内してもらう

2.先約があると嘘をつく

>>31

2

男「ちょっと用事があってな」

バジロウ「なら仕方ないな。俺らは部活の見学でもすっか」

ノヘジ「チアリーディング部を見学したいものだ」

とくに用事があるわけでもないのだがとっさに嘘をついてしまった。

集団行動が苦手だったってのもある。向こうじゃ基本一人だったからな。

二人が去るのを見届けてから鞄を持つ。資料を見ながらなら一人で一通り見回れるだろう。

そう思っていたのだが―――。

少年「………迷った」

見事に迷っていた。

問題は資料にのってない小道が多かったことだ。

隠し部屋に飲み込まれたり、怪しい邪教集団から逃げていると完全に見知らぬ場所へとやってきてしまった。

バジロウ達と行動していればよかったかと今さらながら後悔する。

でも建物だ。窓で外を確認できるのならいずれ外に出れるだろう。最悪下まで行ければ窓から飛び降りるだけだ。

そう思ってないとどうしようもないほどに俺は迷っていた。

少年「………お腹がすいたな」

金は少し持っているがそれを使う場所がなければ仕方ない。

学食があるとは聞いているがそこにいくためにもまずは抜け出さなければ。

とりあえず前進あるのみだ。

そう思って踏み出した矢先

ぐにり

なにか柔らかく弾力のあるものを踏みつけてしまった。

おそるおそるそれを見ると

黒い人「」

少年「―――っ!!」

血を流した黒い人「」

少年「う、あ、あ」

少年「うわぁあああああぁああ!!」

ねちょり―――

粘度のある赤色の液が糸を引いて靴に付着する。

これは、これは、これは。

理解の前に感づいた本能が警鐘をあげる。奥歯ががたがた震え視界がぼやける。

観察してはいけない。目を逸らさなければならないはずなのに眼球は頑として動いてくれなかった。

黒い羽、黒い服、高身長、男、血だまり、包丁

否定する材料が一つもない。

これは、

した―――

ガシッ

少年「ひっ!」

死体「ァああ」

動いた、痙攣なんかじゃない。俺の足首を掴んで

少年「ああぁああああああああっ!!」

意識はいつの間にか途切れていた。

キャパシティを越えた脳が強制的に意識を落とさせたのだろう。

あれは幻覚だったのだろうか。

気付かない間に迷ったことに対してストレスをかかえていたのだろうか。

いや、それでもあれだけリアルな………

トントン トントン

肩を叩かれる。

………一体誰だろうか。

瞼を開けるとそこには。

黒い男「あー、無事であるか?」

少年「~~~~~~~~!?!?」

蜘蛛の男「だから先輩じゃ無理ですって、かえって逆効果ですよ」

大柄な男「フハハハ! 目が覚めたか小僧!」ヌッ

少年「――――!」ジタバタ

蜘蛛の男「オルキヌス先輩もです! 顔でかいんですから!」

オルキヌスと呼ばれた男「!?」ガーン

天使の女「やはり悪魔は害悪。根絶やしにしなくては」グッ

蜘蛛の男「元凶が何言ってるんですか! おとなしくしててください!」

ローブの人?「んー、口封じ薬できたヨー」

少年「ひ、こ、殺される…」

派手な女「あっ、口封じって漫画で見たことあるよ! キッスのことでしょ! 君! チューにはチューいするんだぞ!!」

黒い人「………」

天使の人「………」

顔のでかい人「………」

蜘蛛の人「………」

謎の人「………」

蜘蛛の人「………」

少年「………」

滑った人「なんかいってよぉ!!」

今日はここまでです。

空気が冷えたおかげで冷静に思考する余裕が生まれた。

目の前にいるのはおそらく悪魔、天使、鮫?の亜人、ローブを被った人?、鳥系の亜人、アルケニー。

駄目だ、半分以上は正確な種族が分からない。わかったところでなんだという話ではあるが。

全員心配そうに俺を見てることからどうやら害す気はないと思われる。演技だと言ってしまえばそれまでだが。

駄目だ、疑心暗鬼に落ちいってすべてが怪しく思えてくる。

少年「へくしゅんっ!」

寒い。春と言ってもまだ気温は低い。そんな中校舎で倒れていたのだろう。体は冷え切っていた。

鳥の人「寒いのかね? なら私が暖めてあげようか? 私の体は熱いからきっと、ほっとするよ」

蜘蛛の人「黙っててください。ダジャレが寒すぎて彼が風邪をひいてしまったらどうするんですか!」

鳥の人「がーんっ」

少年「あの」

起きてから気になっていたこと。さっきの記憶が嘘じゃないなら

少年「そっちの人。さっき死んでませんでした?」

悪魔「むっ、我のことか」

倒れていた人、血だまりに沈んでいたのはこいつだ。黒い羽、黒い服、身長。すべてが記憶と一致する。

なのに目の前のこいつはさっきまでの事が嘘だったかのようにぴんぴんしている。

天使「えぇ、さっき殺しましたよ?」

少年「やっぱり死んで………殺した?」

天使「はい。ぶすっと包丁でぐりぐりーってやりました。ぶい」

少年「………な、なぜ?」

天使「だって、ねぇ」

衝撃の告白をしている奴が恥ずかしそうに自分の髪をくるくると指で巻いて照れくさそうにこう言った。

天使「黒くてウザったいものが目の前でカサカサしてると駆除したくなるでしょう?」

何一つ共感できない犯行理由をぶちかましたこの女は「きゃっ、言っちゃった」的な恥じらいを出しつつも満足そうな顔をしている。

完全に理解できない思想。理解してはいけない思想。

今このご時世で、やりたいからやったなんて理由がまかり通るような世紀末な世界ではない。

なるほど、目の前のこいつはやばいやつなんだなと理解した体が勝手に後ずさる。

少年「た、た」

厳つい人「どうしたお前。そっちには窓しかないぞ。そうか外の空気を吸いたいのだな!」ポンッ

蜘蛛の人「なに言ってるんですか! 窓から飛び降りるつもりで―――「よくやるヨ?」うるさい人外!!」

飛び跳ねて窓枠に足をかける。外、目がくらむほどの高さ。

天使「あらあら、無謀な挑戦は青春の特権だけど、背中に翼がなければ飛ぶことは叶わないのよ?」

悪魔「自分の限界を試す姿勢! 良し!!」

厳つい人「青春は待ってはくれねぇ。止まるんじゃねぇぞ」

後ろには異常者。

どっちがマシか。もちろん空で―――

蜘蛛「あぁ! やばいっ!!」

パキンッ

飛び降りようとした足が動かなかった。恐怖でこわばったとかじゃない。ぴくりとも動かない。

いや足だけじゃない腰も、窓枠にかけた手も。

「14時38分現行犯。誘拐及び見たところ恐喝。被害者確保」

蜘蛛「あぁ、助かりましたよ! ヒョウカさ―――」

「封印凍結。対象べリア、セラフ、オルキヌス、セルリア、クレル、ヤツカ」

「―――――執行」

景色が瞬いて

―――真っ白になった。

「大丈夫ですか?」

俺を止めたもの。それは氷だったらしい。

一瞬で俺の体と窓枠をつなぎとめた氷に命を救われた俺は助けてくれた女性。

肌が白く、銀髪の秀麗皎潔然の美人だが表情と声の抑揚に乏しい彼女は風紀委員長、ヒョウカと名乗った。

差し出されたアツアツのホットミルクを啜っていると、ヒョウカは俺の横にちょんと腰かけた。

ヒョウカ「大変でしたね。新入生」

少年「はい…いったいあれはなんなんですか?」

奇人変人集団。ヒョウカによって凍らされた連中の正体は。

まさか変なカルト集団?

ヒョウカ「生徒会です」

―――生徒会?

こっちの世界の常識に乏しい俺でもわかる。生徒の代表で部活動を取り仕切ったり、生徒と学園の間の折衝を行ったりする団体。

ヒョウカ「あれが? と言いたそうな顔をしていますね。意外かもしれませんが、あれでも他の追随を許さないほどに優秀な能力を持つのです」

あくまで能力は、ですが。とその後に付け加えたことから生徒会がどのような扱いを受けているのかが分かった。

ヒョウカ「平穏な生活を送りたければ関わらない方がいい人種ではあります」

その時、ヒョウカの顔が少しだけ笑ったように見えた。

気のせいかもしれない。もしくは眉をひそめたのかもしれない。どちらにせよ変化に乏しく一瞬だったため判断のしようがなかった。

「委員長。対象の運びだし完了しました」

部屋の中から氷漬けにされた人達を運び出している人達の内の一人がこっちへやってきた。

鼻の長い仮面をつけていて、黒い翼が生えている。学園長とは隠れてる部分が逆だな。

ヒョウカ「ご苦労様。では貴方、部下に送らせましょう」

少年「いえ、そんなご迷惑なこと」

「いや、見たところ顔色が悪い。倒れたらいかんだろう。迷惑じゃなければ送らせてくれ」

声は低く、重く響くが安心感を覚える。悪い人ではないのだろうと感覚で思わせるそんな声だった。

少年「それじゃあ、よろしくお願いします」

カルラ「俺はカルラ。見ての通り鴉天狗だ。何か疑問や相談があれば遠慮なく話しかけてきてくれて構わない」

カルラ「今日は不幸だったな。生徒会に巻き込まれて」

少年「そんなに生徒会って問題を起こすんですか?」

カルラ「上二人が主に。というか副会長が会長に手をかける事件がほとんどだ」

少年「………俺、黒い人が死んでるの見たんですけど、どうなってるんですか?」

カルラ「悪魔って種族は群を抜いて生命力が高いらしい。それで説明できないような気もするがな」

あそこまで血を流して数時間後にはぴんぴんしてる。

常識じゃ説明がつかないし、生命力の問題にしても納得はいかない。

カルラにそう言ってみるが困ったような顔をして笑うだけだった。

結局、結論としては考えない方が良いのだろう、ということになった。

カルラ「寮か? 実家か?」

少年「家です」

カルラ「ふむ。では歩いていては遅くなるな」

カルラは頷くと軽々と俺の体を担ぎ上げた。

カルラ「飛んでいくぞ。場所を教えてくれ少年。どこへ帰りたい?」

ばさっと羽ばたいたかと思うと地面ははるか下。小さく遠くにロード家が見えた。

男「あ、あそこです」

カルラ「ん? もしかしてロードの家のものか?」

男「はい、一応」

カルラ「なるほど、噂になっていたロード家の養子とはお前のことだったか。ロード家なら目立つからわかりやすい」

カルラ「下を噛まぬように口を閉じていろ。怖ければ俺にしっかりしがみ付いていろ」

抱きかかえて飛ぶからには自信があるのだろうがそれでも怖いものは怖い。カルラにしがみ付くとカルラの体がかなり筋肉質だということが分かった。

カルラ「では行くぞ」

力強い羽ばたき。景色は見ないが身体に当たる風の強さでどんどんと加速していることが分かる。

その速度は朝乗った車より速いのだろう。あっという間に家へとついていた。

カルラ「では少年。困ったことがあれば風紀委員を頼るといい」バサッ

少年「ありがとうございました」ペコッ

カルラは親指を立ててにっと笑うと、翼を大きく羽ばたかせた。もの凄いスピードで空へ消えあっというまに米粒ほどの大きさになった。

しかし使用人以外いない家に入るのは気が引ける。

少年「あっ。ミレイアに帰ったこと言ってないな。どうしよう」

といってもまた歩いて学校へ行っては日がくれる。

結局叱られることを覚悟して家の前でミレイアに帰宅を待つしかないか………。

考え事をしていれば思いのほか時間は早く過ぎる。計算をしていたら飲食を忘れることはざらだ。

何も必要ない暇つぶしを持っていることはこんな時に便利だな。

さて、適当に枝が石を拾って―――

「家の前でうろちょろしている鼠がいると思ったら、貴方ですか」

少年「………ユキムラさん」

頭の後ろにヒヤリと重い感触あり。

慌てずに両手をあげるとそれは静かに下ろされた。

後ろを振り向くと銃口を二つ備えた猟銃を持った犬耳メイド服の女性。

彼女はロード家に仕えるメイド長のユキムラ。俺に対しては事務的で冷ややかな反応を取るが今のところ実害はない。まぁ、事あるごとに銃口を向けられているが撃たれたことはない。

ユキムラ「お嬢様はどこですか? なぜあなただけここにいるのですか?」

少年「色々あって………俺だけ先に帰ってきたんですよ」

ユキムラ「まっ! お嬢様を差し置いて貴方だけ帰ってくるなんて。もしお嬢様の身になにかあったらどうするつもりですか」

ユキムラ「お嬢様はプリティーながらも高貴でフェミニンな雰囲気を纏い、目の下の隈が実に蠱惑的なお方ですよ。誘拐される可能性は行きと帰りを含めて200%となってもおかしくないのですから貴方はお嬢様に変な虫がたからないようにしなければならないのではないですか? 弟なら姉を守るのは当然のことなのですよ? そこをしっかりと肝に銘じて今すぐお嬢様を世間の悪漢どもから守るために」

少年「早く帰ったのは悪かったけど、ミレイア、様がそう簡単に襲われるとは思わないんだが。ミレイア様はそんなに弱かったか?」

ユキムラ「言葉づかいがなってないのは不問にしますが襲うというものは決して物理的なものだけではありません。ズボンの下の汚らわしく粗末な(ずきゅーん)をミレイア様の前に、あぁ! ミレイア様!! ユキムラは! ユキムラは!! 今すぐ貴方様をお守りしますからねーっ!!」ズダダダダ

そういって走り去っていくユキムラ。

砂埃が舞う猛烈な勢いが遠くまでしっかりと見えた。

少年「………枝を探しに行くか」

適当な枝を探し、地面に式を書いているといつの間にか日が暮れかけていた。

遠くから聞こえる車のエンジン音。魔導車に乗れる人はそうそういない。つまりミレイアが帰ってきたのだろう。

出迎えないと怒られそうだ。玄関の前で出迎えることにしよう。

今日は色々なことがあったなぁ。良い思い出だけではなかったが。

今までと違うってことはしっかりと実感できた。

少年「しまった。結局教室がどこにあるのか把握できてないな」

まぁいい。バジロウ達が分かるだろう。

ブロロロロロロ

門を抜けてくる車が見えた。おそらく先に帰ったことを開口一番に咎められるのだろう。

いや手がでるのが先か?

どちらにせよ身構えておこう。

ガチャ

少年「おかえりなさいませ、ミレ―――」

ミレイア「どこいってたのよボンクラァ!!」ゲシッ

少年「うげぷっ」

顔面への綺麗な飛び蹴り。身構えておいても耐えれない衝撃に俺はもんどりうって倒れた。

流石吸血鬼。馬鹿みたいに怪力だ。

ミレイア「姉より早く帰るなんていい御身分だこと! しかもそれを知らせないなんて」

倒れた俺の胸の上に着地したミレイアが捲し立てる。見下されてる形になるから唾がばしばし飛んでくる。やめてほしい。

少年「ユキムラさんから聞いてないですか?」

ミレイア「ユキムラ? 聞いてない、っていうか会ってすらないけど」

どこまで行ったんだユキムラ。

ミレイア「たとえあんたは足が折れても腕がもげてもミレイアちゃんと一緒に帰ること! いいわねっ!!」

少年「そこまでいったら病院行かせてください」

ミレイア「それぐらいの気概でいろってことよ」

なんて暴君。

頬を膨らませたミレイアに背中を蹴られながら家の中へ戻る。

ユキムラがいないので迎えてくれるのは業務的なメイドたちだけ。

いたらいたでミレイアにべったりでうるさいのでいいのかもしれない。

ミレイア「はぁ、今日も疲れたわ~。お風呂入ってくるから、食事の準備すること。いいわね?」

鞄を俺に向かって投げ捨てながらミレイアがメイドたちに命ずる。

メイドたちは一言返してから各々業務に戻って行った。

そして風呂場にむかっていったミレイアの後には乱雑に脱ぎ捨てられた靴下や手袋などの衣服が点々と散らばっている。

家の中だとしてもう少し優雅さというかなんというか、立派な姉であってほしいものだ。

とりあえず風呂場につく前に下着姿まで脱ぐのは一般常識的にいかがなものか。

男「とりあえず、鞄を持ってって自習でもするかな」

ユキムラ「ミレイア様ー!! ミレイア様ー!!」

ユキムラ「ミレイ、はぁ、はぁ。ミレイア様はいずこに!!」

ユキムラ「まさかすでにお嬢様の身に危機が!? ユキムラは、ユキムラはっ!」

ユキムラ「ユキムラはいますぐお嬢様のところへ参りまする!!」ダダダダダ

「あはは、なんか面白いひとがいるよ。ねぇ見て見て、あれ面白いねっ」

「見ちゃだめだよ。常人に見えないから」

ユキムラ「はぁ、はぁ、お嬢様、お嬢様、ユキムラは、はぁはぁ、わおーんっ!!」

~次の日~

ミレイア「それじゃああんたも頑張りなさいよ」

少年「いってらっしゃい、ミレイア様」

ユキムラは早朝に帰ってきて高熱で倒れた。

そんなことはどうでもいいが今は次の日である。

ミレイアを見送ると俺は校則と法律と常識の間で自由になる。

まぁ、それらに触れるつもりはないし、つまり俺は自由ということだ。

「自由は風のようなものだよ。一見なにものにも縛られないように見えるけど、自分の意思では何もできない無力さ」

少年「誰だ!?」

誰かが通り過ぎた気がする。それに何か言ってたような。

少年「………気のせいか?」

昨日は色々あったがあれが毎日とは限らない。

昨日はついてなかっただけさ。

少年「あぁ、そうだ。今日はきっと」

グニッ

少年「………」

覚えのある感覚。

まっとうに生きていればそう知る事はない感覚。

少年「ま、まさかな」オソルオソル

その感覚がなんなのかを知るために視線をさげてみると

ベリア「良い朝だな。昨日は悪かったなしょうね―――」

少年「うぎゃあああああっ!!」

カルラ「おーらい、おーらい。すいません道を開けてくださーい」

ヒョウカ「不運でしたね」

少年「すいません。風紀委員を呼んでしまって」

ヒョウカ「麻痺しがちかもしれませんが、人が倒れているのは異常事態ですから」

たしかに異常事態ではある。

ただそれがあの生徒会長であれば日常に思えるのは不思議だ。

それだけ昨日が強烈だったってことか。

少年「………昨日が悪かっただけ、だよな」

無事連行された生徒会長は俺に接近禁止命令がだされた。

風紀委員の許可なく近寄ったり、俺に危害を加えた場合即座に凍結されるらしい。

どういう理屈なのかはわからないがヒョウカさんはとにかくすごい。

少年「やれやれ、やっと着いた。まだ始まってもないのにどっと疲れた………」ガラガラ

リューン「! 少年殿! おはようございますっ」

教室に入るととてとてと一人の少女が駆け寄ってきた。

瞳が歪んでみえるほどの瓶底眼鏡をかけているこの少女は………

少年「リューン、なのか?」

リューン「あ、もしかして眼鏡かけてたからわからなかったでありますか?」

目に見えてしょんぼり落ち込むリューン。

少年「え、えぇっとだな」

1. 似合ってるよ、その眼鏡
2. 眼鏡がないほうが可愛いな
3. すまん。誰かわからなかった

>>65

1

男「似合ってるよ、その眼鏡」

リューン「無骨でダサい眼鏡が私にはお似合いですよね………」

リューンの好感度【0】

男「そ、そういうことじゃないんだが」

リューン「うぅ、眼鏡が私のコンプレックスでありますよ…」グスンッ

どうやら間違った選択肢を選んでしまったらしい。

さらに落ち込んでしまったリューンを喜ばせる言葉を思いつけるほど俺の対人経験は豊かではなかった。

リューン「っと、お見苦しい姿を見せてしまって申し訳ありません。眼鏡のおかげで今は少年殿の顔がはっきり見えるでありますよ」

リューン「はっきり見えるともっとハンサムさんですね、なんて」エヘヘ

少年「っ!」

褒め言葉は慣れてない。自分の顔が赤くなることがはっきりわかった。

バジロウ「おう、なにやってんだお二人とも」

ノヘジ「ぐぬぬ」

蒼い鱗と赤い涙。バジロウとノヘジが赤くなってる二人の間に割り込んできた。

正直助かった。このまま子供向けの恋愛話みたいな光景を続けたくなかったから。

バジロウ「今日の放課後。よかったら遊びにいかないか?」

少年「あー、あまり遅くならないのなら」

ノヘジ「大丈夫。校内だ」

少年「なら大丈夫だ」

どうせミレイアは遅い。放課後くらいは自由に動ける時間はあるだろう。

ミレイアを待って校門で数時間待つなんて経験したくないしな。

ノヘジ「可愛い女の子を探すのが正しい放課後の過ごし方だろう」

バジロウ「こいつの話は嘘だから気にするな」

ということで放課後。

授業は初回ということもあってか聞き流しても問題ない程度の話。

興味をひかれるのは授業内容から逸脱した世間話や雑学だけ。

あとは自由に変わる雲の形。

バジロウ「なーに黄昏てるんだよ。モテ男」

少年「モテてない」

身の回りにいる女性はミレイア、オルレアン、リューンだけ。

モテてる? どこが?

ノヘジ「帰る準備はできた。カメラもばっちりだろう」

バジロウ「カメラは仕舞え。風紀委員の世話になりたくないならな」

ノヘジ「風紀委員のヒョウカ嬢は美人だろう。ぜひともお会いになりたいものだ」

バジロウ「風紀委員になるか、不良になるかだ。お前の場合は後者だろうな」

そんな二人の軽口が俺には羨ましく映る。仲がいいんだろうなと思ったから。

この二人の中に俺は入れるだろうか。

少年「そういえばオルレアンは?」

バジロウ「あいつは今日は屋台を出す日だ」

少年「屋台?」

バジロウ「あいつは学内で屋台を出してるんだ。暇そうに見えるかもしれないがああ見えても結構多忙なんだ」

それを聞いてオルレアンが多少まともに見える。屋台を出すということは俺よりはよっぽど社会貢献してるんだな。

バジロウ「見つかると強制的に手伝わされるから屋台には近づかないでおこう」

ノヘジ「ただ働きは辛いだろう」

少年「ただ働きなのか」

バジロウ「美少女の手伝いをしてるんだからただでいいだろ★とかほざく」

その光景がありありと想像できる。が、バジロウの物まね似てないな…

放課後はオルレアンに近づかないでおこう。

俺もただ働きは勘弁だ。

少年「遊ぶって言っても何をするんだ?」

バジロウ「そりゃあ部活見学の続きよ。昨日は半分もまわれなかったからな。こいつのせいで」

ノヘジ「恥ずかしい場所を隠すために人はパンツをはく。しかし今ではそのパンツも恥ずかしいものだ。ならそのパンツを隠すアンスコもまた恥ずかしいもので、ふぅ。とても興奮するだろう」

バジロウ「とか言って女子がいる部活の前からうごかねぇの」

少年「なんというか、それは………」

とても気持ち悪い。

ノヘジ「気持ち悪いと思われるとさすがに傷つくだろう」

少年「心を読むな」

バジロウ「今んとこ目をつけているのが」

ノヘジ「茶道部、陸上部、オカルト研究部、放送部、新聞部、漫才研究部ってとこだろう」

少年「………オカルト研究部? オカルトが好きなのか?」

バジロウ「いや、俺は興味なんだが」

ノヘジ「あのおっぱいの大きさはもはやオカルトの域だろう」グッ

バジロウ「とか言い出してな」

行動原理がまったくぶれないなノヘジは。

眼鏡は真面目の象徴じゃあないのか?

いや俺の周りの眼鏡は大体変な奴だった。

バジロウ「んじゃあどこいくよ」

少年「それじゃあ」

1. 茶道部

2. 陸上部

3. オカルト研究部

4. 放送部

5. 新聞部

6. 漫才研究部

>>73

今日はここまで

皆さんお久しぶりです。

待っててくださってありがとうございます。

コンコン

少年「失礼します。えっと部活見学に―――」

「あらあら、いらっしゃい~。エンプーサちゃん、見学の子がきたわよ~」

「こんなにオカルト信奉者が………。嘆かわしいな。すべてはプラズマの仕業だというのに」

ノヘジ「………ふぅ」

迎えてくれたのは体を包帯でぐるぐるまきにしたグラマラスな女性とへそが丸見えの恰好をしたスリムな女性だった。

スリムな方はオカルトを否定したように聞こえたが気のせいだろうか。それともオカルト研究部じゃない? まさかな

「オカルト研究部へようこそ~。お茶でも飲む~?」

「いい? この世のオカルトのほとんどは科学で説明できる。だからこんなところで時間をドブに捨てずに勉強した方がいい」

バジロウ「えぇと、オカルト研究部?」

ロザリア「そうよ~。私は部長のロザリアです~。こっちは副部長の」

エンプーサ「エンプーサ。一応拝み屋を生業としてるわ。オカルトを信奉するアホ共の息の根を止めることが夢」

ロザリア「えぇ~ エンプーサちゃん私を[ピーーー]つもりなの~?」

エンプーサ「死んでるじゃないの」バシッ

エンプーサがロザリアを右腕の鎌で叩くとロザリアの豊かな胸がプルンと揺れた、ついでに鎌で包帯が斬れ青白い綺麗な素肌が見えた。

ロザリア「いやぁん」

少年バジ「ごくり…っ」

ロザリア「とりあえずお茶でも飲みましょう~」

エンプーサ「こっちへ来なさい」

案内された部室の中は思いのほか片付いていた。というかオカルトっぽさはほとんどない。

ピンクを基調とした女性らしさあふれる部屋はまるで私室のようだ。

見たところロザリアの趣味だろうか。

エンプーサ「お茶を入れてくる。貴方たちはそこの死人………部長と話してるといいわ」

ロザリア「わぁい♪」

少年「えと、ありがとうございます?」

バジロウ「良い匂いがする…」ボソッ

たしかに不思議と良い匂いがする。花の匂い?

いやロザリアの匂いか。ロザリアの方から強く匂う。

ロザリア「なぁに? じっとみちゃって~ あっ、お化粧崩れてる~?」

さっき斬られた部分を慌てて抑えるロザリア。包帯だらけなのだから化粧もなにもあまりないような

エンプーサ「なるほどロザリア目当てなのね? だと思ったわ」

少年「えっ!?」

いつの間にかお茶を入れてきたエンプーサが冷めた目でこっちを見ていた。ノヘジがいたら一瞬で果てそうなほど蔑んだ目で。

バジロウ「いや、俺たちは単純に見学で。というか部長さんのこと知らなかったですし」

エンプーサ「どうかしら。私はオカルトと男は信じてないのよ」

一刀両断で斬られる。なんというかいたたまれない空気。別にそういう目的で来たわけでもないのに。

ロザリア「私目当て? よくわからないけどそれでもいいのよ~ オカルトに興味をもってくれれば~」

エンプーサ「………悪かったわ。あんたたちが下半身が方位磁針になってる思春期の男って疑っちゃった。でもそういう輩が多くてね。ごめんなさい」

少年「いえ、たしかに勘違いされるような態度ではあったし」

バジロウ「ノヘジがいたら言い訳できなかったな………」

あいつに限っては部長目当てだからな。


>>79前半までにはいたノヘジはどこに…

>>83 ノヘジがロザリアさんを見て一瞬で果てて叩きだされたシーンを書くの忘れてました………

ロザリアのほぼあられもない姿を見て一瞬で気絶したノヘジだったが、気絶してくれていて本当に助かった。

今頃ノヘジの鼻血で真っ赤に染まっているであろう廊下はあとで掃除をしておこう。

あ、部室の前が血だらけってオカルト部らしくはあるけど新入生は入ってこないだろうな。申し訳ないことをした。

エンプーサ「オカルト部に入るというなら止めはしないけどオカルトに傾倒した瞬間に私に軽蔑されることは覚悟しておきなさい」

ロザリア「え~、エンプーサちゃんって私のこと嫌いなの~」

エンプーサ「好きだと思ってたの?」

にべもない態度。冷たい目線といいオカルトが絡むとサバサバを通り越して絶対零度のような冷え切った反応だ。

そんな切り裂くような言葉に対してロザリアはどこ吹く風。悲しそうに目の下に手を当てて泣きまねをしているがその口元は笑みを崩してない。

相性がいいのだろうかこれは。

エンプーサ「お茶、冷める前に飲みなさい」

ロザリア「エンプーサちゃんの持ってくる茶葉はおいしいのよ~」

エンプーサ「そんなことないわ。適当に選んでるもの」

そういいながらどこかうれしそうな表情をしている。

すすめられたお茶に口をつけると………飲んだことのない味。

もとからお茶なんてものに縁がないし、ロード家では血のように赤い紅茶しか出なかったから飲んだことがないのも当たり前なんだが。

なんというかほのかに甘い。いや味はそれほど甘くはないのだが鼻に抜ける香りが甘い。

バジロウ「………ウーロン茶?」

同じく口をつけたバジロウが首を傾げた。

エンプーサ「メロンウーロン茶」

そりゃあ飲んだことないわけだ。

それからはそこそこ楽しく(といってもロザリアとエンプーサの会話を聞いていただけみたいなもんだが)過ごしていると気が付くと日が暮れかけていた。

少年「あ、やばいっ」ガタッ

バジロウ「うおっ、どうした?」

もうすぐ校門に迎えがくる時間。ミレイアより早くついてないと怒られるし、最悪の場合は置いていかれる。

怒られるのは慣れたものだが置いて行かれてはたまらない。

少年「もう帰らなきゃ!」

ロザリアとエンプーサのあいさつもそこそこに部室から飛び出す。

ヌルッ

少年「ぐわーっ!!」

乾ききってなかったノヘジの血を踏んで盛大に滑る俺。というかまだ血が流れ―――

ゴツンッ

バジロウ「少年ーっ!!」

ロザリア「きゃーっ。でも血だらけで素敵♪」

エンプーサ「はぁ…救急箱どこだったかしら」

ミレイア「臭い。歩いて帰りなさい」

少年「え、そんな―――」

バタン

ブーン

開口一番そう言われ、即座に置いて行かれる俺。

………マジで俺、歩いて帰るの?

あのミレイアが戻ってきてくれるわけもない。

つまり歩いて帰るしかないってことで………

少年「なんて一日だ」

「あー。どうした浮かない顔をして」

少年「今から数時間かけて家に帰らなきゃ―――」

突然かけられた声にそう返しながらその主を見る。

黒い服、黒い髪、黒い翼に、黒くて大きな角。

全身まっくろくろすけのこいつは―――

少年「うわ「待て! 叫ばないでくれ!!」

風紀委員を呼ぶために叫ぼうとしたらその男は即座に五体投地をした。その素早さにあっけにとられて口を開けたまま固まる俺。

「よし、即座に最善の行動。さすがだぞ我」

………確かに最善の行動かもしれないが、さすがといえるのだろうか。

「ところでどうした少年。浮かない顔をして困りごとか?」

五体投地のままなのでほとんど声は地面に吸収されて聞こえづらい。

しかしどうやら俺のことを心配してくれているのだろうということが分かった。

しかしこいつはあの変人集団のトップ。気を許したら何をされるかわからない。

少年「………あんたには関係ないね」

年上ではあるが気丈にいかなければまた飲み込まれてしまう。ほかのやつらはいないよな?

いざとなったら助けてくれ、ヒョウカさん。

「いいや、関係はある。我は生徒会長。生徒の悩みは我の悩みである!」

「あーつまりだ。困ったことがあったら助けるぞ?」

少年「………………」

こいつのことを信用していいのだろうか。

こんな奴でも一応生徒会長であるということは変わらない。もしかしたら、本当にもしかしたら俺を助けようとしてくれているのだろうか。

いいのか信じて。

俺は

1.信じる

2.信じない

>>89

1信じるものは救われる

少年「実は―――」

たった今起きたこと話す。男は五体投地の姿勢のまま頷きながら話を聞いていた。

少年「ということで、今から歩いて帰るんだ」

「なら話は簡単だな!」ガバッ

少年「うおっ」

男が勢いよく起き上がり、勢い余ってバク中をして着地した。

「我が送って行ってやろう!」バサッ

そういって背中の翼を大きく広げた。

つまり、つまりそういうことだ。

いやいやいや、カルラさんならともかくこんな奴に抱きかかえられて空を飛ぶ!?

冗談だろ!? 落とされたら俺は死ぬんだぞ!?

と思ったのが顔に出ていたのか男は少し悲し気な顔をした。

ぐっ、いやでも………

少年「お願い、できるか?」

「任せろ! 頼もしいことにこのベリア・ゴエティア様は万知万能であるぞ!!」

天狗であるカルラさんほどではないが十分な高度で十分な速度でベリアと名乗った男は飛んだ。

藍色の暗闇より深い黒色をした翼が空を掻き分け飛ぶ。

ベリアは何がうれしいのかクツクツと笑っている。その様子が不気味で不安で、思わず話しかけてしまう。

少年「大丈夫か? 落とすなよ?」

ベリア「笑え凡念! 我にすべて任せ安堵の彼方にて高らかに笑え!!」

何を言ってるのかはわからない。

おそらく大丈夫だといいたいのだろう。

この大げさなしゃべり方はどうにかならないものか。

しかししっかりと俺をつかんでいるし飛ぶ姿勢もぶれない。

安心しろというのも当然と思うが。

それでも俺はこいつの技能ではなくこいつ自身を疑っているのだから

………疑い続けるのもよくないのだろうか。

第一印象は最悪だったがそれでも水に流して信じて―――

簡単に信じていいのか?

俺はこの世界を簡単に信じても。

「―――いたぞ。ついたぞ」

少年「え?」

気が付くと俺は家の前まで帰っていた。

ベリア「安心感におぼれ放心していたのか? さすが我であるな」

少年「いや、ちょっと考え事をしていただけだ」

ベリア「そうか学生良く考え良く学び良く悩め! しかしその範疇を超えたら我、いや生徒会まで来るといい」

少年「なぁ」

ベリア「なんだ?」

少年「なんで、助けてくれたんだ? 下手したら風紀委員を呼ばれるかもしれないのに」

少年「こういっちゃなんだが俺はそっちにとっちゃ厄介な存在でしかないだろう」

ベリア「厄介か厄介でないか。得か損か。そんな低次元な世界に我は生きてない。助けれるか助けれないかだ」

ベリア「まぁ、この我は万知万能ゆえに助けれない者などいないがな。ふははははは!!」

………ひどく単純な考え。ばかみたいに簡単だ。

ベリア「また会おう少年!!」

月夜の中へ消えていくベリアを見送る。

しまった、礼の言葉のひとつも言ってない。おそらく向こうはそんなこと期待してないんだろうが、それでも

―――生徒会、か

少年「悪い奴らじゃないのかも―――」

ユキムラ「遅くに帰ってくる悪い子はどこでしょうか~?」カシャンッ

少年「!?」

ユキムラ「悪い子にはFIRE!! FIRE!!」パァンッ

少年「ぐわああっ!!」

やっぱりろくでもない一日だ。

【風は荒れれど、此方に在れど】

さすがに数週間もいれば基本的な学生生活には馴染んだ。

勉強して、バジロウ達とくだらない会話をして、ミレイアにどやされ、一日が終わる。

今日もそんな一日になる、はずだった。

少年「………あれ、これミレイアの教科書じゃないか? なんで俺カバンの中に。寝ぼけたミレイアが間違っていれたのか?」

俺らが使うには難しい教科書(俺はわからないわけではないが)がカバンの中に入っていた。ミレイアの私物を触ることはないから朝が弱いミレイアがなぜか間違って俺のカバンの中に入れたのだろう。

少年「ミレイアに渡しにいかなきゃな」

教科書がなくて困っていることだろう。問題はもう放課後であり、今更持って行っても遅いということだが。

それでももっていかなかったり、黙っているよりはよっぽどましだ。

一発殴られて終わりだろう。

最近ミレイアの理不尽のおかげで体が鍛えられたなぁ。もうミレイアの軽い一撃じゃあ痣もできない。

だからなんだという話だが。

オル「少年少年! 今日はオルレアンちゃんと素敵なランデヴーもとい店番をする気はないかい★」

少年「ごめん。放課後は用事ができた」

オル「ぶーっ☆ いいもんだっ、バジロウ達がいるし―――いねぇっ!★」

店番という言葉が出た瞬間に天狗も真っ青なスピードで教室から消えていきました。

そりゃあ給料もでないなんの得もない店番なんてしたくないだろうな。

もちろん俺もする気はない。

オル「へんっ、オルレアンちゃんのパートでは覚えておけよー★」

なにいってんだこいつ。

教室から出ると廊下は帰るか部活に行く生徒の流れ。

何十個も教室があるのだから混むのは当たり前だが今日はなぜかいつも以上に混んでいた。

人の流れが遅い。一体なにがあったのだろうか。

………確実になにか起きている。風紀委員の数が明らかに多い。

しかもそのいずれもが忙しそうに動き回っている。

喧嘩か乱闘かはたまた暗黒邪教部の悪神の暴走か。とにかくろくなことではなさそうだ。

さっさとミレイアに教科書を渡して安全なところへ避難しよう。安全なところがどこかは知らないが。

ヒョウカ「あ」

ひとごみからヒョウカさんがあらわれた!

しかも明らかに俺を見ている。なんだろうかいったい。

ヒョウカ「来てください」

そして有無も言わさず腕を捕まれひっぱられる。その光景は連行される犯人のようで―――

ザワザワザワ

ようで、というか確実に周りに誤解されている。周りが俺たちを避けている。しかも周りの視線は俺に集中している。

なんということだ。なにかは知らんが冤罪だ。俺は何も悪くない。

ノヘジの間違えだろう。あいつならきっと余罪はいくらでもあるはずだ。

少年「ヒョウカさん誤解です! 犯人は俺じゃなくてノヘジです!!」

ヒョウカ「何を言っているのですか?」

少年「俺は何もしてないので、冤罪ですって!」

こう主張をしないと周りの目が痛い。誤解が解かれなければ明日教室で俺はどんな顔をすればいいのだろう。

ヒョウカ「あぁ。勘違いさせてしましましたか。安心してくださいただ私はあなたに協力してもらいたいだけなので」

―――協力?

ヒョウカ「誰の手でも借りたいのです。詳しくは委員会室で話しますからついてきてください」

なんでまた俺に?

確かに借りはあるけど、風紀委員に協力できるほど優れたなにかがあるわけでもない。

とりあえず腕をつかむのはやめてもらい、珍しく焦っているヒョウカさんについて行った。

今日はここまで

おやすみなさい

学園の中央棟に風紀委員室はある。

大元の職員室やゼミ室などがあるため訪れることはあまりない。といっても売店や学食、さらには温泉があるために来る頻度も多い。

が風紀委員に連れられてくるのは違反者だけだ。ゆえにあまりこの状況で来たい場所ではない。

委員室は整然と片付けられており、掃除も行き届いている。これだけだと委員会の理想的な部屋であるが、それ以外にも違反者を閉じ込めるための檻(使用中)やヒョウカさんによって封印された生徒が保管される保管室などがあるため居心地は良いとは言えない。それに他の風紀委員がなぜか俺を見ているし。

少年「それでヒョウカさん。いったい俺に何の用なんですか?」

聞くとヒョウカさんは困ったように少しだけ眉尻を下げて俺を連れてきた理由を語った。

ヒョウカ「春になると違反者が増えるのはいつものことですが、今回は特に多く………いえ、おそらく同一犯と思われる正体不明の悪戯が多発しており風紀委員はその処理に追われているのです」

そう言ってヒョウカさんはその悪戯と思われる資料を机の上に並べた。目を通すと悪戯は水風船をぶつけるなんて幼稚なものから大人がすっぽり落ちてしまうような落とし穴や植木鉢を落下させるなど一歩間違えば大事故に繋がるようなものまである。一見やる事にはばがありすぎて同一犯のように思えないが目撃者の証言が決まって怪しい人物がいたと断言できるがどんな人物だったのかは思い出せないという共通点があった。

ヒョウカ「犯人が分からない故に対応はいつも事後的なものしかできず、いつ起こるかわからないため我々で警戒態勢を敷いてますがこの事件以外に対応ができず」

少年「できず?」

ヒョウカ「貴方に他の事件を解決してもらおうかと連れてきたのです」

少年「無理です!」

即座に反応した。迷っていればそのまま押し切られるだろうと思ったからだ。

ただの一般人でしかない俺がそんなことできるわけがない。そういうのはもっと別の人が向いているはずだ。

ヒョウカ「そう難しいことではありません。貴方でもできることなので」

少年「なんで俺なんですか。もっと他にもいるでしょう」

ヒョウカ「さっき言った通り、誰の手でもいいから借りたいのです。手は多い方が良いのです」

だからってなぜ俺の手なんだ。誰でもできることと言ったがその出来は人によって差が出る。

俺に向いているわけではないはずだ。ご立派にこなせる気はしない。スラム出身と言ってもそういうことは避けてきたんだから。

ヒョウカ「詳しいことはこの封筒の中を見てください。それでは頼みましたよ」

どうやら俺の意思なく押し切られてしまったようだ。無理やり押し付けられた封筒には氷で封印がしてあった。

風紀委員に逆らって利があるわけじゃないってことは知ってる。

だけどこんなのってあんまりじゃないか?

せめてサポートをつけてくれればいいのにと思うが風紀委員は忙しいらしく誰も助けてくれなかった。

見知った顔がいればいいんだがカルラさんは出払っているらしく、封筒と腕章を受け取ってとぼとぼと部屋から出た。

少年「………で、何をすればいいんだ」

俺にもできることと言っていた。つまり服装や喫煙の取り締まりだろう。風紀委員に逆らうものはそんなにいない。

風紀委員の腕章さえあればなんとかなるだろう。と前向きな思考に切り替える。

終わらせればいいんだ。今の俺がやらなければならないことはすぐに終わらせてミレイアに教科書を渡しに行く。それだけだ。

そうと決まったらはやく指示を確認しよう。さてどれどれ

氷の封印を剥がし封筒の中を見る。封筒の中には薄っぺらな紙が一枚入っているだけだった。

これくらいならそのまま渡してくれればいいのに。機密的な何かが理由だろうか。

少年「えっと………」

紙に目を通す。そこには顔写真付きで一人の男が載っていた。

イズナ

不良

捕縛

―――――俺一人で?

少年「嵌められたぁ!!」

封筒に入っていたのは機密のためなんかじゃない。

簡単じゃないってことを俺に知られないためだ。

信じていたのに、ヒョウカさん!

俺に関係のないことと言ってこの封筒を捨てて逃げるのは得策と思えない。

きっと公式文書の無断破棄などと言われて檻の中に入れられるのが山だ。

つまり挑戦はしたが、力叶わずが一番ベストな結果。

でもそれならどっちにしろこの不良に会いに行かなければいけないんだよなぁ。

会って話が分かる相手ならいいんだが資料には複数の舎弟がいるうえに帯刀しているときた。

なぜまぁこの学園は武器の携行が許されているのだろうか。それがなければ風紀委員ももっと楽になるのではないだろうか。

少年「………別に誰か頼れって言われてないもんな。うん」

旅は道連れ。情けないかもしれないが誰かに助力を頼もう。

しかし俺の知人は少ない。その中で頼れそうなのと言えば………

少年「俺の知り合いって少ないな」

いなかった。

ノヘジやバジロウに頼むわけにもいかない。二人に比べたらオルレアンの方がよっぽど武闘派だがあれでも女の子だ。こういうことに巻き込むわけにはいかない。

少年「打たれ強さには自信がある。うん、ミレイアに殴られ続けてきたんだから」

なんて変な自信を奮い立たせなければやってられない。

しかしこの広い学園で一体どう探せというのだろう。

足か。

情報は足で探すものなのか。

少年「無茶だろう………せめて翼でもあれ………ば?」

「おい、てめぇ! 暴れるんじゃねぇよ!! おとなしくしろおらぁ!!」

「やっちまってください兄貴ぃ!」

少年「………」ゴシゴシ

中央棟から出てすぐ、そこに目的はいた。

茶髪を後ろに流して時代錯誤の白特攻服。その背中には疾風怒濤の文字。そして身の丈に合わない長刀。

こんな奴が複数人いてたまるか。しかしどうするか。というか何やってんだ。誰かを羽交い絞めにでもしてるのか?

ゆっくりと近づいてみる。おそらくいきなり襲い掛かってくるようなことはないだろう。そう信じたい。不良でも最低限の常識はあると信じたい。

少年「!?」

猫だった。薄汚れた猫が不良と戦っていた。

「あ、兄貴! ふーきいーんっすよ!」

「んだとぉ!? げぇっ!」

どたどたばたばた。

疾風怒濤の割には泥臭い感じで逃げて行った。あっけにとられ追うこともできやしない。

「にゃーっ」

少年「………なんで猫?」

食うのか。まさか。

たしかにスラム街ではなんでも食べる奴はいた。そういう奴はたいていガラが悪かった。そうか、なるほど。

俺はスラム育ちで拾われたロード家は上流階級。ゆえに一般的な常識に触れてなかったから一般常識がないのは分かってる。だがしかし驚いたな。

不良は猫を食べるものなのか。

世界は今日も驚きで溢れている。

今日はここまで

おやすみなさい

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