【ミリマス】箱崎星梨花の投げキッス (20)

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直撃を喰らうと見事に死ぬ。いわゆるキュン死というやつだ。

箱崎星梨花の投げキッス、それは神をも殺せる殺神的な"愛らしさ"を濃縮させた兵器だった。

見ろ! 今まさに幸運にも――いや、不幸にもだ。
そのキッスを正面から受け止めた男は机に突っ伏す形で死んでいる。

自らの血溜まりに半身を浸し、正真正銘紛れもなく絶賛活動停止中。

冗談じゃない。微動だにしない。

固く閉ざされた瞼を無理やり指でこじ開ければ濁った白目がこんにちわ。

その見事なまでの死にっぷりに、
事の一部始終を間近で目撃した野々原茜も「マジか」と言うのが精一杯。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1517405561


「プロデューサーさん!? プロデューサーさん!!」

「おやぶんおやぶん起きてよ、ねえっ!?」

これはしぇけなべいべー☆ でしぇけなれいでー☆ な
新鋭アイドルユニット『アリエス』のミーティング中に起きた事件。

正確にはユニットミーティングという名の
おやつパーティ中に起こってしまった不慮の事故だ。

遡ること数分前、次回ライブの方針を決める会話の中。

電子レンジで温め直したスィートドーナッツを齧りながら、
紅茶はやっぱりアールグレイ派のカワイイ星梨花はこう言った。

「プロデューサーさん。私、今度のライブでは、セクシーに挑戦してみたいです!」

この向上心溢れる発言に、さくっと乗ったは我らがリーダー茜ちゃん。

「おっ、ナイスアイディアだね! でも茜ちゃんが本気見せちゃったら、
天地を揺るがすセクシーさで二人のファンも奪っちゃうよ~?」

ところがプロデューサーも慣れたもので、
このどや顔を添えて繰り出された戯言を一切合切スルーすると。

「星梨花がセクシー? ……うーん、正直想像がつかないなぁ」

はにかみながら訊き返した彼にエンジェル星梨花はこう言った。

「ちゃんと決めポーズも練習したんですよ? 歌の途中に、こうやって――」


そうして披露されたのである。あどけない殺人投げキッスは。

口の端にドーナッツの欠片をつけたまま両肩をキュッと縮こめると、
星梨花は空いてる右手でチュッとしてパッ。

するとどうだ! 次の瞬間には765セクシーガール筆頭である
百瀬莉緒が直伝した愛されウィンクをも併用し、

星梨花の唇より無邪気に解き放たれたハートマークがプロデューサーの胸を射抜いたのだ!


「もごっふっ!!!?」


大量の鼻血を吹き出しつつ、プロデューサーが机の上へと倒れ込む。

それは見慣れた765の日常だ。

ひょんな誘惑に大人の理性が屈服し、大切な担当アイドルたちを襲ってしまったりしないよう、

文字通り血の滲むような猛特訓――否! 大量の血を迸らせながら男が身に着けた
『プロデューサー流自制術・邪念退散血潮の形(かた)』……!


本来ならばあはんうふんなボディタッチ、及び高濃度で放出されたアイドルフェロモンを
至近距離で受けた場合のみ発動される奥義である。

だがしかし、男が急遽この技を使わざるを得なかったということは、
そうでもしなければ危なかったということはだ。

星梨花の放った投げキッスが、新曲の振り付けを確認していた北沢志保に真っ正面から見つめられ、
「ねえ、しちゃう?」された時同様に刺激的であったという証明である。


なに? わからん? 

では雨が降る中の帰社途中、偶然相合傘状態になってしまった
高坂海美の肩がそっと自らの腕に当てがわれて、

「濡れちゃうから……もっとくっついていい?」と
恥じらいながら確認された時と寸分違わぬ破壊力。

もしくは写真整理のお手伝い中、
松田亜利沙と手と手が重なり思わず見つめ合った瞬間、

意外にも互いの顔が近くにあり、相手の吐息すら感じとれる状況の中
「あっ……」と意味深に瞳を閉じられた時と同じ。

並びにそれら三つの現場をことごとく目撃された挙句、
自宅まで詰問しに来た田中琴葉に押し倒され、

「……私には、ドキドキしてくれないんですね」
なんて悲し気な表情をさせてしまった夜のように……

物言わぬ屍と化した男の肩を大神環がゆするゆする。


「おやぶん? おやぶん、おやぶん、おやぶん! ねぇねぇ早く、目ぇ開けてよぉ!」

「プロデューサーさん!? そんな、どうして、私のせいで……?」

おろろんろんと涙を流し、鼻をすすりながらあたふたしている二人の年下少女を前にして、
茜は「これは……予想外だったねー」と内心頭を抱えていた。


まさか、そんな、嘘でしょ嘘? といった心持ち。

星梨花がいくら神がかり的な愛くるしさの持ち主だったとしてもである。

たかだが投げキッス一つでくたばってしまった目の前の男の脆弱さに、
まずは一言以上もの申したいと思ってしまうそんな気持ち。

だがしかし、ここで脆弱軟弱鼻血野郎である
プロデューサーを責めたところで何一つ解決することはないのである。

それどころか、このままでは出血多量でホントのホントにぽっくりと……。

それはマズい。心配せにゃ。

茜の思考スイッチが普段の「真面目ちゃんモード」から
「超真面目ちゃんモード」に切り替わる。

なにせ差し入れの小籠包を喉に詰めて死にかけた実績を持つ男だ。

彼がこのまま「鼻血による出血死」だなんて
情けない死因でこの世とおさらばする可能性は否定できない。

おまけにもしもそうなったら、きっかけを作った星梨花がお縄につけられる未来もあり……。

例えそうはならなくても、彼女の人生に一生残る影を落とすことは必至。

それだけはダメだ。守らなくては。

リーダーとしても年上としても、自分にとることができる選択は――。


「よーしっ! 二人とも全然心配いらないよ? 幸いプロちゃんがこうなったのは
初めてのことじゃないワケだし、ここには茜ちゃんもいるし!」

茜は自分の不安も吹き飛ばすよう、つとめて明るく振る舞った。

そう! 男が大量の鼻血を出してぶっ倒れるのはこれが初めてではないのである。

……正し、今までは医療の心得も持つ豊川風花が傍に居たり、
茜自身よりも頼りになる人間が主導して事の処理にあたるのが半ば通例と化していたために
(その際、茜たちは主導するメンバーのサポートに回るのが常であった)

まさか、今、このタイミングで「お鉢が回ってこようとは」と思わぬワケでもなくはない。

だが、突如として暗闇にさし込まれた希望の光を見るように、
星梨花たちの視線が自分へと向けられているこの状況で泣き言をこぼすことなどできるものか!

……茜はおっかなびっくり男の傍まで近づくと彼の状態を確認した。


まず顔面が酷い有様である。

もともと美形とは言い難い顔立ちの彼なのだが、渇いた鼻血をはりつけたまま
にやけ面で血まみれになっているサマは一も二も無く不気味だった。

長机の上に広げられたおびただしい量の血溜まりで着ているスーツは見るも無残。

瞼を指で押し開ければ見事なまでの白目っぷり。
呼吸はしているようなのだが、意識は未だ遥か彼方。

何にせよ、このまま糸の切れた操り人形のようになってしまっているこの男を、
苦し気な恰好のまま椅子に座らせておくのはマズいハズだ……ひとまずは姿勢の安定が必要だろう。


「……ちょっと、床にでも寝かせよっか。二人とも茜ちゃんを手伝ってくれる?」

そう考えた茜は傍らの二人に声をかけた。

意識の無い人間の体は凄く重い。おまけに相手は大人の男。

茜たち三人は「よいしょ、よいしょ」と声を合わせ、
なんとかプロデューサーの体を床に寝かせようと試みたのだが。

「わわっ!?」

「ひゃっ!!」

「きゃああ!!?」

デデドンだーん! と三人は、椅子に足を取られてこんころりん。

弾き飛ばされた茜がキュートなお尻をしたたかにうつ。
環は吹っ飛び星梨花は倒れ、支えを失ったプロデューサーの体はなんと!

「あ、茜さん。プロデューサーさんが……」

歯切れも悪く、もごもごとどもる星梨花は床の上。

それもそのハズその上には、意識を失ったままのプロデューサーが
彼女を押し倒したかのようにうつ伏せで覆いかぶさっており。

瞬時に状況を理解した茜は「重たいんだね! すぐにどける!」と
星梨花に駆け寄って、下敷きになった彼女の顔を覗き込んだ。


だがしかし、星梨花は恥ずかしそうに両手で自らの顔を覆い隠すと。

「ち、違うんです! ……えっと、えぇっと」

「何が違うの星梨花ちゃん。苦しいから顔も真っ赤じゃない!」

「あ、あぅ。……茜さん。これは苦しいんじゃなくて、
さっきの拍子にプロデューサーさんの手が、手が――」

茜が「はてな?」と首を捻る。

その言葉の意味を辿るように、彼女の視線は
プロデューサーの腕の先、手首に向かって移って行き。

星梨花がその身をよじりながら、消え入りそうな声でこう応えた。


「……プロデューサーさんの、手が、わ、私のパンツの、その、中に……」

「いやいやいやいやいやいやいや! フツー、そーはならないでしょー!!?」


その反応は光より早く。「どんなラッキースケベなの!?」と続けて叫びたい気持ちをグッと堪え、

茜は「落ち着け、本気で取り乱す程のことじゃないよ。例え天文学的な確率でも、
人が生身で空を飛ぶよりかはあり得ない話じゃないもんね」と自分自身の気持ちの高ぶりを鎮め込むと。

「と、とりあえずはプロちゃんをどけちゃおっか!
星梨花ちゃんのパンツに入ってる手は、その後で引き抜いたらいいよ」

一体何が「いいよ」なのかは言ってる本人も分かっちゃない。

だが偶然の悪戯によってめくり上げられた星梨花のふんわりスカートと、
本来ならばその下に隠されていたハズのパンツが茜たちの前に曝け出されているのは事実である。


そうして未だに意識を取り戻さないプロデューサーの右手が今、
その神秘の布地の下に器用に潜り込んでいる怪奇。

「うぅ、おやぶん~。パンツの中に手を入れるなんて、そんなのただのヘンタイだぞ……」

「環ちゃん、泣きたい気持ちは茜ちゃんも分かる。もうほんっとプロちゃんが可哀想で……」

これが一歩間違えれば死に至る、そんな危険すら顧みずに鼻血に溺れた男の末路なのか?

だとすればあまりにむごい、無慈悲すぎる。

例え命は助かっても、まず間違いなく星梨花からは
一生変態をみる目つきで接される運命が待つのである。

哀れな男の未来を想像し、環と茜は悲しくってやるせなくって泣けちゃう気持ちで目を逸らした。

……己の人生を悲観して、この男が自殺の道など選ばなければよいのだが。


「う、ううん……」

そんな哀れみを向けられているなどつゆと知らず、ついに男の口から声が漏れた。

近づきつつある覚醒の時。慌てて身じろぐ星梨花だが、
彼の体を押しのけられるほどの筋肉は彼女の腕についていない。

非力な少女はただひたすら、なんとか彼の下から這い出せないかと体をよじってみるだけだ。

耳に聞こえた星梨花の苦しそうな息遣いに、我に返った茜がプロデューサーの体へ手をかける。


「ごめんね星梨花ちゃん、今助ける!」

「たまきもお手伝いするね!」

そうして環も星梨花の脇に手をさし込み、
後ろから抱え上げるようにして彼女の体を引っ張った!

「それっ!!」と掛け声は重なり一つになる。

茜に両手で突っ張られて、少女の上から何とかずらされるプロデューサー。
同時に環によってズルズルと星梨花の体も引きずられて。

「……くぅ……頭がクラクラする……」

長い眠りから覚めた男はようやくにして動き出した。

思考の靄を晴らすために、彼は床に伏せたまま自身の額をピシャリと一度軽くはたく。

するとどうだ? なにやら感じた違和感に眉をひそめるプロデューサー。

はて? 俺の右手はこんなにもサラサラしていたかな?

おまけに指先から伝わるこの感触。

例えるならそう、きめ細やかな少女の肌を撫でているかのように心地よい、
俗に"シルクのような"と形容するのにピッタリ過ぎるこの感触は――。


「……パンツ?」


自身がしっかと握りしめているパンティを見つめて彼は言った。

それから自分がどんな状況に置かれているかを確認するためゆっくりと首を動かしてみる。

まず最初に唖然とした表情の茜の姿が目に入った。次に呆然としている環の姿も発見し、
そんな彼女に羽交い絞めされるようにして座る星梨花と自分の目が合った。

おまけになんとも不思議だが、足を投げ出すようにして座る彼女のスカートは乱れたようにめくれており、
彼の目線のちょうど先には少女が女である証が惜しげもなく晒されていたのである。


……この時、室内は永遠とも思える沈黙によって完全に支配されていた。

人、これを"気まずさ"と呼ぶ。

互いが互いをけん制し、誰もが無言でいる中で、
この静寂を破ろうと初めに動いたのは最年少の環だった。

「あっ――お、おやぶん! 目がさめて、その……良かった、ね? ……うぅ」

だがしかし、彼女の言葉に普段通りの元気は無い。ここで無邪気を装って、

「あれあれみーんなどうしたのー? たまきはなんにもわかんないぞー♪ くふふー♪」

と笑い飛ばせればどれほど楽になっただろう?

悲しいかな。いくら幼い環でも、年相応の羞恥心はキチンと持ち合わせているのである。

それは隣にいる茜だって同様だ。

いくらプロデューサーが気心の置ける親しい異性だったとして、
二人が何の準備も無しに見せられるのはせいぜい下着姿までである。


しかし、あくまで事故の類であるものの星梨花はそれ以上を彼に見せてしまったのだ。

……ああ、全くやるせない。

環が力なくうなだれると、それに呼応するように星梨花の羽交い絞めも解かれ、
ようやく自由になった両手を使い、少女は真っ赤な顔のまま乱れたスカートを整えた。

「プロデューサーさん」

 震える声で名前を呼ぶ。そうして顔は背けたまま、星梨花は片手を差し出し言ったのだ。

「返して……貰えますか?」


ここで「何を?」と返すのは野暮だろう。

見られてしまったのは恥ずかしい、
けれどもそれで取り乱すのはもっと恥ずかしい。

まさに今、星梨花は大人の階段を上っていた。

その証拠に、これまで無垢なだけであった少女の周りに独特の空気が生まれている。

"余裕"と言う名の色気である。

それは星梨花が元から有り余るほどに持っていた無邪気さと適度に混ざり合い、
周囲の人間の視線を釘付けにさせるだけの強力な力を放っていた――これ即ち、"セクシー"である。

「……あ、ああ。もちろんさ星梨花、もちろんだともっ!」

プロデューサーも促されるままにパンティを返し、
今度はしっかりと隠したまま、星梨花は下着を履き直した。

ただその間、彼女が男と視線を合わせることは決して無かったが。

おまけにこの後一週間、プロデューサーが星梨花から
ハッキリとよそよそしく振る舞われた事実もあるが余談である。


――結局のところ、この日のミーティングは意図せず一人の少女のセクシーを引き出す形で終了し、
後日行われたアリエスのステージを見た者はみな口を揃えてこう言った。

「天使が女神になっていた」と。

ライブも盛況のうちに幕を閉じ、まさに災い転じて福となすを地で行く結果になったという。

===

そうそう、最後はこんな話で締めくくろう。

酒の席で上述した一連のやり取りを知った
765セクシーガール筆頭、百瀬莉緒がこういう言葉を残している。

「ねえプロデューサーくん。……私も下着、脱がされた~い♪」

本人は自身のセクシーにさらなる磨きをかけるための提案だったと言っているが、

「莉緒ちゃん、その言い方じゃただの痴女よ」

という同席していた馬場このみ嬢の有難いお言葉によって考えを改めたそうである。


お開き!

===
以上おしまい。「星梨花の投げキッスで殺される」という書き出しだけ
思いついて作った話なのでだいぶテキトー。でも楽しかった。

では、お読みいただきありがとうございました。

うらやましいような、うらやましくないような……
乙です

>>2
箱崎星梨花(13)Vo/An
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http://i.imgur.com/5X2vmDa.jpg

野々原茜(16)Da/An
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大神環(12)Da/An
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