強盗「逃走中に自販機の中に隠れたら出られなくなっちまった」 (33)

強盗「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

強盗「ここまで来れば、もう安心なはずだ」

強盗「とりあえず、一休みするか……。お、ちょうどいいところに自販機があるじゃねえか」


≪あったか~い≫ ≪つめた~い≫


チャリンチャリン…

強盗「こんだけ走った上カイロ持っててもまだ寒いからな……温かいのを」ポチッ

強盗「ん?」ポチッポチッ

強盗「なんも出てこねえじゃねえか、この自販機!」

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ウーウー… ウーウー…


強盗「やっべ! 警察来た!」

強盗(どこかに隠れないと! ――ん!?)

ギィィ…

強盗(……この自販機、中身空なのか! どうりでなにも出てこないわけだ!)

強盗(よし、この中に隠れよう!)


バタンッ!

強盗(どうやら行ったみてえだな……)

強盗「よし、出るか」グッ

強盗「……!?」

強盗「くっ! くっ!」グッグッ…

強盗「で、出れない……!?」

強盗「やべえ……やべえぞ! どうすりゃいいんだよ!」

強盗「自販機の中に閉じ込められたなんてシャレに――」

強盗(誰か来た!)

強盗(閉じ込められるのはまずいが、隠れてるのがバレるのはもっとまずい!)

強盗(なんとかやり過ごすしかない……!)

強盗(ん? ここにある小さな隙間から、うっすら外を覗けるが――来たのは女か)

女「あら、自販機。こんな時は温かい飲み物を……」チャリンッ

女「えいっ、えいっ」ポチッポチッ

女「あらぁ……?」





強盗(いくら押しても飲み物なんか出てこねえよ!)

強盗(この自販機は空っぽ……それどころか中身は強盗なんだからな!)

女「このっ、このっ!」ポチッポチッ





強盗(いくら押しても無駄だって)

強盗(なかなか粘るな……もう諦めてとっとと帰れよなぁ)

女「うっ、うっ……」

女「うわぁ~~~~~ん!」

女「そうなんだわ! 私はやっぱり自販機にも嫌われてるんだわぁ~~~~!」





強盗「!?」ギョッ

強盗(なんだこの女!? いきなり泣き出しやがった!)

女「あの人……こっちは散々尽くしたのに、遊んでただけって……愛なんかなかったって……」

女「あんなの……ひどすぎる……」

女「うえっ、うっ、うううっ……!」

女「私……もう生きてけない……」ヒック…





強盗「……」

ボトッ

女「?」

女「下にある取り出し口から何か出てきた……」

女「これは……ホッカイロ?」

女「あったかい……あたたかいわ……」ホカホカ…

女「ありがとう……自販機さん……」





強盗(ケッ、おかげでこっちはすっかり寒くなっちまったぜ!)

強盗(ま、泣いてる女を放っておくわけにもいくまいよ)

強盗「さて、あの女はどこか行ったみたいだし……今度こそ!」グッ

強盗「くっ! ……ぐっ!」グッグッ

強盗(くそぉ~、開きそうで開かねえ! もう少しなんだろうけどなぁ……どこか引っかかって……)

強盗「!」ピクッ

強盗(やべっ、また誰か来た!)

強盗(今度の客は……おっさんか! なんか酔っぱらってやがるなぁ……)

中年男「ウイ~……」

中年男「会社リストラされて昼間から散歩しながらビール……終わってんなぁ俺……」

中年男「でもそれでいいのだぁ~!」チャリンチャリン

中年男「おーい、自販機! ビール出してくれ、ビール!」ポチッポチッ





強盗(ビールだぁ!? ナメてんじゃねえぞ!)

強盗(こっちだってすぐ自販機脱出して安全なとこまで逃げてビール飲みたいんだよ!)

強盗「……う!?」モジ…

中年男「ビール♪ ビール♪ ビールを出してちょ~らいなぁ~♪」

中年男「神様、仏様、自販機様~♪」





強盗(まずい……もよおしてきた!)モジモジ…

強盗(スーパーで店員脅して強盗してから、トイレ行くヒマなんかなかったもんなぁ)モジ…

強盗(しかもおっさんのヘタクソな歌が、余計尿意を刺激する!)モジモジ…

中年男「ビール出してよぉ~~~~~ん!」ポチポチポチポチポチ





強盗(うるせえええええっ……!)

強盗(そんなに出して欲しいなら、出してやる!)

強盗(下の方にあるこの取り出し口から……)ジョロロロロロロ…

強盗(あぁ~……ぎもぢいい……)ジョロロロロロロ…

ジョロロロロロロ…

中年男「お、黄色い液体が出てきた出てきた……」

中年男「自販機の神様、どうもありがとぉ~♪」グビグビッ

中年男「……!」

中年男「ぶはぁぁぁぁぁっ!!!」





強盗(そりゃこうなるわな)

中年男「まっず……」

中年男「自販機の神様……なんつービールを出してくれたんだ……」

中年男「おかげで俺は目が覚めたよ!」

中年男「昼間からビール飲んでる場合じゃない! 仕事探さないと!」シャキンッ

中年男「うおおおおおおおっ!」タタタタタッ





強盗(よく分からんが、俺の小便も捨てたもんじゃないんだな)

強盗(……って、また誰か来やがった! 今度は……二人組か!?)

不良「テスト勉強したかぁ?」

不良女「するわけないじゃん。アンタは~?」

不良「するわけねえだろ?」

不良女「だけど今度のテストでもオール赤点だったら、あたしら留年確定だよ?」

不良「いんじゃね? 二人揃って留年しようぜ~!」

不良女「だね~、いざとなったら中退しちゃえばいいし!」





強盗(なにが中退しちゃえばいい、だ)

強盗(お前らの学費出してる親のことも考えやがれ!)

強盗(俺でさえ高校卒業するまではわりとマトモだったんだから……)

不良「おい、こんなとこに見覚えのない自販機があるぜ」

不良女「ホントだ~? ボタン二つしかないけどなにか買う?」

不良「買うまでもねえよ。こういうのは……」





強盗(そうそう、金入れてももう小便も出せないから、さっさと失せろ!)

不良「蹴ればなにかしら出てくるもんよ!」ドカッ

不良女「やだ、ウケる~!」

不良「オラァッ! オラァッ! オリャアッ!」

ドゴッ! ドカッ! ドカァッ!

不良女「もっと強く蹴らないと~!」

不良「おう!」





グラグラ… グラグラ…

強盗(こ、このクソガキども! なに考えてやがる!)

強盗(もう怒った!)

強盗「ゴラァァァァァッ!!!」

強盗「いてえだろうが、クソガキどもォォォォォ!!!」

強盗「とっとと帰って勉強しねえと、自販機ん中閉じ込めちまうぞォォォォォ!!!」





不良女「きゃあああっ! 自販機がっ!」

不良「ひええええっ! しゃべったっ!」

不良「べ、勉強しようぜ!」

不良女「うん!」

不良&不良女「失礼しましったぁぁぁぁぁっ!!!」タタタタタタタッ

強盗(ったくぅ~……)

強盗(――ん?)





幼女「ねえねえ! さっき、じはんきさん、しゃべったよね!」

幼女「しゃべってたよね!?」

強盗(子供か……)

強盗(怒鳴りつけて追い払ってもいいが、なぜかそんな気分にもならねえ)

強盗「ああ……しゃべってたよ」





幼女「やっぱり!」

幼女「ねえねえ、じはんきさん。おうたをうたってちょうだいな!」

強盗「……」

強盗「いいよ」





幼女「わーいっ! やったーっ!」

強盗「ぞ~うさん、ぞ~うさん、お~はながながいのね♪」

強盗「もしもし亀よ、亀さんよ~♪」

強盗「真っ赤なお鼻の~、トナカイさんは~♪」





幼女「キャハハ、おもしろい! おうたおじょうず~!」パチパチパチ

母「なにやってるの!? 勝手に走り回らないの!」


幼女「あ、ママだ!」

幼女「じはんきさん、どうもありがと~!」トテトテ…





強盗「バイバイ……」

強盗「……」

強盗(ったく、なんで……歌なんか歌っちゃったんだろうな)

強盗(俺は高校出てからやることなすこと上手くいかず)

強盗(らしくもなく他人に親切したら詐欺にあうわ、ヤバイ商売に巻き込まれるわで……)

強盗(俺は、自分が社会から見捨てられたと思って、ヤケクソになって、強盗をやった……)

強盗(だけど……)

強盗(女を励ましたり、おっさんの目ぇ覚まさせたり、不良どもを叱りつけたり、歌って拍手されたり)

強盗(こんな俺でも、たまには役に立つことができるんだな……)

強盗(なんか……ちょっと嬉しいぜ。俺だってまだまだ捨てたもんじゃない)

ギィィ…

強盗「お……!?」

強盗「自販機が勝手に開いた……」

強盗「……」

強盗「そういや、この自販機って結局なんの自販機だったんだ?」

強盗「どこかに書いてないか……」キョロキョロ

強盗「お、あったあった。目立たないところにラベルが貼ってやがる。これじゃ分かんねーよ」


≪心の自販機≫


強盗「ぶはっ!」

強盗「な~るほど!」

強盗「俺は≪あったか~い≫を押したから、心があったまることができたってわけかい!」

強盗「まったく冗談みたいな話だ!」

強盗「おっと、そろそろ日が暮れる。一度決心したら、とっととやった方がいいな」

強盗「さぁ~て、自首しに行くかぁ~!」










― 終 ―

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