魔女「お眠りなさい、安らかに――」 女騎士「くっ、やめろ……!」 (312)

百合です

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魔女「ほうら、大人しく横になりなさい?」

女騎士「くぅ……! 負けん! こんなフカフカのベッドなんかに私は……」

魔女「はい、お行儀よくしましょうね~?」

女騎士「フカフカの枕になんかぁー!」

魔女「ちゃんと肩までお布団かけないと駄目よ」

女騎士「……お布団いいにおいするぅ……」

魔女「ほら、目を閉じて?」

女騎士「くっ、勝手に瞼が落ちて……!? どういうことなんだ……!」

魔女「さ、ご本を読んであげましょうねぇ」

女騎士「駄目だ、身体が……!? なんて恐ろしい魔法なんだ……。だが私は決して負けない! 魔女の思い通りになど、騎士の誇りにかけても絶対に――」

魔女「むかーしむかし、あるところに……」

女騎士「……スヤァ」

魔女「あらあら」

~都の東「蜘蛛の森」魔女の屋敷~







女騎士「熟睡してしまった……」

魔女「おめざのお茶はいかが?」

女騎士「ああ、いただこう……」

魔女「はい、……よく眠れたかしら?」

女騎士「そうだな、五日ぶりくらいに」グビー

魔女「もう……、駄目よう、ちゃんと寝ないと」

女騎士「それができれば、怪しげな魔女になど頼ったりするものか」

魔女「大変ねぇ」

女騎士「……た、他人には話すなよ。国と国の神に仕えるべき騎士が、異端の……」

魔女「おかわりいる?」

女騎士「いただこう。……異端の魔女のもとに出入りしているとなれば」グビー

魔女「一族郎党八つ裂き火あぶり?」

女騎士「あ、いや、そこまでじゃないかな……」

魔女「おかわりいる?」

女騎士「いただこう」

魔女「別にしないけどねぇ、人に話したりなんて」

女騎士「ならいいんだが……」

魔女「というか、私はただ、ベッドを貸してるだけだし」

女騎士「嘘だ! 絶対嘘だ!」

魔女「えぇ……」

女騎士「いつも不思議な魔法で眠らせるくせに! 私は! 私はそういうのはやだって言ってるのに、いっつも!」

魔女「だから、魔法なんて使ってないって言ってるじゃない……」

女騎士「嘘だぁ……、あんな簡単に眠らされるの……絶対普通じゃないもん……、絶対おかしいもん……」

魔女「もん、って」

女騎士「魔法だもん……」

魔女「……おかわりいる?」

女騎士「いただこう」

魔女「……魔法だと嫌なの?」

女騎士「それは、嫌だろう。なんか怖いし……」

魔女「じゃあ、もう来ない?」

女騎士「それは……」

魔女「……」

女騎士「ま、また世話になる、かも……。眠れないようだったら……」

魔女「嫌なんじゃないの?」

女騎士「……魔法じゃないんだよな? 本当に」

魔女「魔法じゃないけど。魔女は魔法なんて使えないし」

女騎士「なら、まぁ……」

魔女「……」

女騎士「嫌ってわけじゃ、ない……かな……」

魔女「……おかわりいる?」

女騎士「いただ……すごい飲ませてくるなお前!」

魔女「作りすぎたのよう」

女騎士「たぷたぷなんだが!?」









~翌日・都の中心部、騎士団詰所~







副団長「それでは、騎士団長の女騎士殿より、訓示をたまわる!」

女騎士「……コホン、みn――」

副団長「諸君は清聴するよう!」

女騎士「………………」

副団長「では団長殿」

女騎士「あ、うん」

女騎士「えー……、みなも知っての通り、先の大戦から5年。我らが王都はかつてない平和を享受している」

女騎士「民は増え、街は大いに賑わっている」

女騎士「それに伴い、国の矛であり盾である騎士の役目も、変わりつつある……」

女騎士「近年では、いくつもの騎士団が解散、残る騎士団も縮小を余儀なくされているが……」

女騎士「戦場ばかりが騎士の舞台ではない!」

女騎士「今の平和な世こそ、人々が心安く暮らせるよう尽力する!」

女騎士「これこそが騎士の矜持であり、我らが『銀顎のオオクワガタ』騎士団の誇りである!」

女騎士「おのおの、そのことを深く、心に留めておくように!!」




「「「「ハイ!!」」」」







~訓練所~


騎士A「団長さぁ……」

騎士B「ん?」

騎士A「今日は元気そうだったな」

騎士B「な。最近何だかキツそうだったけど」

騎士A「クマとか作ってなー」

騎士B「悪い話ばっかりだもんな、ここんとこ」

騎士A「背負いこむもんねぇ」

騎士B「背負い込むもんなぁ」

騎士A「……でも、たまーにあるよな、良さそうな日」

騎士B「たまにあるな」

騎士A「何だろうねぇ」

騎士B「何だろうなぁ」

騎士A「良さそうな日の団長さぁ……」

騎士B「ん?」

騎士A「良いよねぇ」

騎士B「……良いよなぁ」

騎士A「パァっとさぁ、花みたいでさぁ、あの顔で『がんばったな!』なんて言われた日にはさぁ! 俺はさぁ!!」

騎士B「落ち着いて。分かるけど落ち着いて。すごい分かるけど」

騎士A「毎日良さそうだといいんだけどねぇ」

騎士B「そうだなぁ」

女騎士「なーんだぁーお前たちぃー」

騎士A「あっ」

騎士B「ひっ」

女騎士「私の考えた訓練メニューじゃ、しゃべりながらでも余裕ってわけだなぁー!?」

騎士A「い、いや、そそそういうわけではぁ……」

女騎士「いいだろう! 特別に! 私が! みっちりと! 稽古をつけてやるからな!」

騎士B「あ、ぁ……」

女騎士「優秀な我らが騎士二人相手だー! これは私も手加減できんなぁー! はーはっはっは!!」

騎士A(いい笑顔だ……)

騎士B(いい笑顔だ……)









~夜・女騎士宅~


女騎士「……ふぅ」

女騎士「今日の分の作業は、これで終わりかな」

女騎士「明日の準備も済んだ……」

女騎士(今日は特にいい汗流したし)

女騎士(よく眠れそうだな……!)

女騎士「さて……、父様、母様、おやすみなさい」

女騎士「……」

女騎士「……」

女騎士「…………」

女騎士「………………」



女騎士「……」

女騎士「……」

女騎士(明日は他所の騎士団との公開演習……)

女騎士(……)

女騎士(そういえば……)

女騎士(万が一の時の、救護の手順は大丈夫だったろうか……)

女騎士「……」

女騎士(……念のため、最寄りの医療施設を調べ――……)

女騎士(いや、明日の朝、事前に連絡を入れて……)

女騎士「……」モンモン


女騎士(……演習中の補給は、ちゃんと準備していただろうか?)

女騎士(公開イベントだ、市民にも、もし何かあったら……)

女騎士「……」モンモンモン

女騎士(支度のこと、スケジュールのこと、予算のこと)

女騎士(騎士団のこれから、団員の状態は、モチベーションは――……)

女騎士「……」モンモンモンモン


女騎士「……」

女騎士「…………」



女騎士「………………」ガバッ

女騎士「……明日の準備も、再点検しておこう……」









女騎士「……」カリカリカリカリ

女騎士「……」ペラ

女騎士「……」カリカリ

女騎士(……駄目だ)

女騎士(全然眠気が来ない……)

女騎士「……」

女騎士(まあ、いいか)

女騎士(どうせやることは、山のようにあるんだ)

女騎士(そうだ、眠くなるまで去年の出納帳の整理も――……)

女騎士「…………」カリカリ

女騎士「………………」カリカリカリカリ

女騎士「……………………」










チュン

チュンチュン


女騎士「……!」ハッ

女騎士「……あれ」

女騎士(なんか、もう……)

女騎士(微妙に明るい……)

女騎士「……」

女騎士「……」ハァ

女騎士(少しだけでも……)

女騎士(眠らないと、いや、休まないとな……)

女騎士「……」

女騎士「おやすみなさい……」


チュンチュン

チュン


今日はここまでです

つづきます






~数日後~


~都の東「蜘蛛の森」魔女の屋敷~







魔女「……」

少女「……」

魔女「……」

少女「……」ジーーー

魔女「……ええと」

少女「……」

魔女「……」

魔女(……とんがり帽子、とんがり帽子)

魔女(……)ゴソゴソ

魔女(あった)

魔女「……」カブリカブリ

少女「……!」

魔女「……はい」

少女「魔女だ……!」

魔女「魔女よう」

少女「えっとね、おばあちゃんのね、あのね、腰の……、えっと、飲むやつ? 粉の?」

魔女「……ああ、あのお婆さんの。ちょっと待っててね……」

少女「……」

魔女「ええと……」ゴソゴソ

少女「……ほうきは?」

魔女「今は使わないわねぇ」ゴソゴソ

少女「………………」ガッカリ

魔女「……あった。はい、これね」

少女「ありがとー!」

魔女「どういたしまして」

少女「ばいばーい」

魔女「一人で帰れるかしら?」

少女「帰れるー!」トタタタ

魔女「気を付けてねぇ」ヒラヒラ

魔女「……ふぅ」

魔女「……」

魔女「……あ」

魔女(……そういえば……)

魔女「……1、2、3、4、5……」

魔女(……あれから、五日)

魔女「……」

魔女「そろそろ来るかしらねぇ……」

魔女「……」

魔女「シーツ、新しいの出そうかしら」

魔女「……」

魔女「……ふふっ」





~都の中心部、騎士団詰所~







副団長「それでは、騎士団長の女騎士殿より、訓示をたまわる!」

女騎士「…………」

副団長「諸君は清聴するよう!」

女騎士「…………」

副団長「……団長殿」

女騎士「……」ハッ

女騎士「コホン……、うん、うむ、えーと」

女騎士「みなの日ごろの尽力に、とても満足しー、また感謝しておりぃー、そしてー――……」


女騎士「――くれぐれも健康に注意しー――……」


女騎士「特に朝晩冷えやすい時間帯などはー――……」


女騎士「――」クドクド

女騎士「――――」クドクド



騎士A(クドクドしてる……)

騎士B(クドクドしてるけど内容はフワフワしてる……)

騎士A「良くなさそうだな」

騎士B「な」











女騎士「……うぅぅ」


女騎士(結局あの日から、ろくに眠れていない……)

女騎士(こんなに眠たいのに、ベッドに入ると眼が冴えるのだものな……)

女騎士(不思議だ……)


女騎士「不思議だなぁぁ……」

副団長「何がです」

女騎士「……や、何でもない。気にしないでくれ」

副団長「はぁ」

女騎士「……」

副団長「……」

副団長「……今日はもう、帰られた方がよろしいかと」

女騎士「む……、だがまだ、残務があって――」

副団長「私の方で、あらかた片付けましたから」

女騎士「あ。……そうだ、訓練場の整理も……」

副団長「若手がすべて済ませています」

女騎士「……夜警の」

副団長「班割りは来月分まで、全部終わらせてしまっています。貴方が」

女騎士「えーと、再来月分を……」

副団長「団長殿」

女騎士「うん」

副団長「お疲れさまでした」ペコリ

女騎士「…………はい」


女騎士「……ふぅ」

女騎士(ふがいない……。体よく追い払われてしまった……)

女騎士(だが、確かにこのままでは……、団員にも迷惑をかけてしまう)

女騎士(どうにか休息を取らなければ……)

女騎士(騎士団のためにも……!)

女騎士「……」

女騎士「……」ハァ

女騎士「……やむを得ない」

女騎士「また世話になるか……」






~王都のはずれの路地裏~


女騎士「……」コソコソ

女騎士「……」コソッ



都民A「なあ、聞いたことあるだろ、お前も」

都民B「あぁ、『東の蜘蛛の森の魔女』だろ?」


女騎士「……!」ビクッ


都民A「残酷で恐ろしい怪物らしい……」

都民B「化け物じみた姿らしい……」



女騎士「……」

女騎士「…………」

女騎士(……美人だったぞ、普通に)



都民A「身の丈3メートルで腕が8本」

都民B「正体は蜘蛛の化身で人間を食べる」



女騎士(食べ……えぇ)



都民A「あと火を吐く」

都民B「火か……」



女騎士(火かぁー…………)




――都の東は蜘蛛の森――


――獣も恐れる深い森――


――そこには魔女が住んでいる――


――怖い魔女が住んでいて――


――森に迷った子を捕まえて――


――醜い蜘蛛に変えてしまう――


――蜘蛛の森には近づくな――


――小さい子供は気をつけろ――




女騎士「……」

女騎士「……」コソコソ










カラン カラン


魔女「……あら、いらっしゃい」

女騎士「邪魔をす――……おぉ」

魔女「?」

女騎士「魔女だ……」

魔女「魔女よう」

女騎士「いや、というか、なんだ、見た目が」

魔女「?」

女騎士「あの、帽子……とんがり帽子」

魔女「あ……」

女騎士「ああ、いや、似合ってる――け――」

魔女「……」ハズシハズシ

女騎士「ど――……」

魔女「……あらあら」シマイシマイ

女騎士「……」

魔女「あらあらあら」

女騎士「……」

魔女「見なかったことにしてちょうだいねぇ」アセアセ

女騎士「……」

女騎士(照れてる……)

女騎士(普通に可愛く照れてる)

魔女「ね?」

女騎士「あ、あぁ……」

女騎士(なんか……)

女騎士(普通だよなぁ……)

女騎士「火は吐かないよなぁ……」

魔女「え? 何の話?」

今日はここまでです

つづきます

女騎士(……なんとなく、雰囲気で年上だと思っていたが)

女騎士(照れてはにかむと、まだ少女のようにも見えるし……)

女騎士(不思議だ……)

女騎士「……」フワフワ

魔女「……?」

女騎士(もしかしたら……)

女騎士(私のほうが、おねえさんなのかなぁ……)

女騎士「でも3メートルだしなぁぁ……」フワフワ

魔女「……あの、騎士さん? 大丈夫かしら? すごいフワフワしてるけど」

女騎士「……ん? あ、あぁ? 何?」ハッ

魔女「大丈夫? って言ったの。もう……、ふらふらになるまで起きてることないじゃない」

女騎士「望んでそうしてるわけじゃないし……」

魔女「クマもこんな……、うわ……え? わぁ、え……?」マジマジ

女騎士「近い近い近い近い」

~寝室~







魔女「おふろ、ちゃんと温まったかしら?」

女騎士「あぁ……」ショボショボ

魔女「あら……もうおねむ?」

女騎士「おかしい……やっぱり絶対おかしい……っ」

魔女「ふふ、まだ言ってる」

女騎士「こんなに強い眠気……、尋常ではない! いつだ!? いったいいつの間に魔法をかけた……っ!?」

魔女「魔法じゃないって言ってるのにぃ」

女騎士「だったらなぜ!? なぜこんなに眠くなるというのだ!」

魔女「寝てないからじゃないかしら」

女騎士「なーるほどなぁー!!」ウトウト

魔女「おしゃべりしてないで、ほら……横になりなさい?」

女騎士「うん……」ウトウト

魔女(前より素直ね……)

魔女「……」

魔女(それだけ眠いのかしら)

女騎士「……うぅん」モゾモゾ

魔女「ほうら、お手々かたづけて」

女騎士「シーツすべすべできもちいい……」

魔女「おろし立てですからね。ほら、目を閉じて」

女騎士「……すっかり就寝の体勢になって、完全に術中に嵌っているように見えるだろう? だが、甘いな! なぜこうして無駄口をたたき続けているか? そう、こうして口を閉じずにしゃべり続けていれば、意識を保て決して眠りに落ちることはないっ!」

魔女「ご本を読んであげましょうねぇ」

女騎士「ふふふ、私とて騎士の端くれ、いつもそうやすやすと手玉に取られると思ったら大間違いだ! さあ、今日こそ見極めてやるぞ! いったい私に何をしているのか、どうやって眠りに誘っていr――……」

魔女「むかーしむかし、あるところに、悪い魔女と良くない魔女が……」

女騎士「スヤァ」

魔女「あらあら」









女騎士「むぅぅ……」

魔女「お茶、苦すぎたかしら」

女騎士「ちょうどいい! おいしい!」グビー

魔女「あらそう……、まだ寝足りない?」

女騎士「いいや、じゅーうぶん眠れた! 快眠だった!」

魔女「ならどうして、そんな難しい顔してるのよ」

女騎士「よく眠れてしまうからだ!」

魔女「えぇ……」

女騎士「どうして普段はちっとも寝付けないのに、お前のベッドだとぐっすりなのか……!」

魔女「知らないけど……」

女騎士「やっぱり魔法……」

魔女「違うったら」

女騎士「……そうじゃなければ、他に何か理由があるはずだ」

魔女「まあねぇ」

女騎士「それを突き止めなければ、私はこの先もずっと睡眠不足のまま……っ」

魔女「考えすぎよぉ」

女騎士「だからこそ、ギリギリまで意識を保って、眠気の正体を探ろうとしたのだが……」

魔女「すぐ寝たじゃない」

女騎士「すぐ寝ちゃったんだよなぁ」

魔女「いいじゃない、よく眠れたんだったら」

女騎士「いいや、何か安眠の決定的な方法があるはずなんだ……、それを手に入れないと……」

魔女「……」

女騎士「私の騎士団は……、今が正念場なんだ。団長の私がフラフラで、だらしない状態では……」

魔女「……」

女騎士「みなに迷惑をかけてしまう……」

魔女「……」

女騎士「団のためにも、みんなのためにも……」

魔女「……頭」

女騎士「……え?」

魔女「寝癖、ついてるわ」

女騎士「えっ、うそ……? どこ? こっち? ここ?」

魔女「じっとしてて」カタン

女騎士「あっ」

魔女「……~♪」


シュッ シュ


女騎士「……」

女騎士「……」

女騎士(花の香り……)

女騎士(何かの精油だろうか……?)

女騎士(甘いような、辛いような……)

女騎士(不思議な香り……)


魔女「~♪」


女騎士(……魔女の指先と、硬い櫛の感触が)

女騎士(交互に頭を撫でて……)

女騎士(何だろう……)

女騎士(気持ちが……)

魔女「……はい、直ったわ」

女騎士「……ハッ」

魔女「はい、鏡」

女騎士「あ、あぁ……、ありがとう……」

魔女「……♪」ナデナデ

女騎士「……?」

魔女「……ねえ、騎士さん」

女騎士「ん?」

魔女「人はねぇ、夢の世界に入るのに、あんまり沢山の現実の荷物は、持ち込めないのよ」

女騎士「……へ?」

魔女「人は誰でも、夜になれば神秘の大海を渡って、幻想に満ちた夢の世界を訪れる……」

女騎士「……あの」

魔女「けれどその海を渡る小舟は、本当に、とても小さくて……、人ひとりを運ぶのがやっとなの」

女騎士「……あ、あの、ちょっと、魔女さん?」

魔女「何?」

女騎士「……メルヘンの話?」

魔女「魔術の話よ」

女騎士「まじゅ……」

魔女「人間は、みんな少なからず、不思議な力を持っていて」

女騎士「……」

魔女「知らず知らず、その力を使っていて」

女騎士「……」

魔女「たとえば、夜毎に、見たこともない異世界を訪れることができる」

女騎士「……」

魔女「眠りとは、その力を使うための、瞑想に深く入った状態のことよ」

女騎士「嘘ぉ……」

魔女「うふふ、ひとまず信じておきなさないな」

女騎士「……」

魔女「何事も、信じることが大切よ」

女騎士「……うん」

魔女「けれど、あまり現実を背負い込んでいると、その力が衰えてしまう」

女騎士「……」

魔女「だからね、騎士さん……。ベッドの中にまで、沢山の現実を持ち込んじゃ、いけないの」

女騎士「だがな……、考えまいとしても、頭が勝手に……」

魔女「何か浮かんだら、すぐに手放す。小舟に知らず上がってきた魚を、海に放してあげるみたいに」

女騎士「……」

魔女「まあ、訓練よ」

女騎士「訓練かぁ……」

魔女「……難しそう?」

女騎士「心配は残る」

魔女「心配性なのねぇ……」

女騎士「生まれつきな」

魔女「うーん……、……あっ」

女騎士「うん?」

魔女「じゃあ、ね、騎士さん。貴方にこれ、貸してあげるわ」

女騎士「これ?」

魔女「はいっ」


『3人の魔女と塔の姫』


女騎士「……童話?」

魔女「童話!」

女騎士「……」

女騎士(やっぱりメルヘンだ……)

女騎士「いや、魔女、私はこういうのはあまり――……」

魔女「うふふ、馬鹿にしたらいけないわよ。こういうお話って、意外と夢中になるんだから!」

女騎士「……」

女騎士(……こういうの好きなんだ……)

女騎士「……」

魔女「騎士さんの寝物語にも使ってるけど……、いつもさわりのところで寝ちゃうからねぇ」

女騎士「むぐ」

魔女「せっかくだから、どんなお話か、寝る前に読んでごらんなさいな」

女騎士「ううむ……まぁ、せっかくだしな……」

魔女「そうそう」

女騎士「……やっぱり、お前は不思議だなぁ……」

魔女「そう?」

女騎士「なんかさっきの話は、ちょっと、魔女っぽかった」

魔女「魔女よう……」

今日はここまでです






~翌日~


~王都・訓練所~








女騎士「……――であるからして、合同訓練いただく老騎士殿と――……」

老騎士「……」

女騎士「彼の『水晶羽のトンボ』騎士団は、国王褒章にも輝いた誉れ高い騎士の集まりであり――……」



騎士A「……今日は元気そう」

騎士B「そうな」



女騎士「……――ということだ! 諸君らは胸を借りるつもりで、訓練に臨むよう! いいな!」



「「「「ハイ!!」」」」






老騎士「ふぅむ……まぁ……」

女騎士「……」

老騎士「眠れなくなるほど、深く思い悩む。うむ、儂にもそんな頃があったのである」

女騎士「老騎士殿も、ですか」

老騎士「……特に若い時分などは、儂も悩み多き青年だったのであるな……」

女騎士「ははぁ……」

老騎士「嗚呼、恋の炎に身をやつした、今は遠き、わが青春の光――……」

女騎士「……」

老騎士「……冗談であるぞ」

女騎士「……」

老騎士「がっはっはっは」

女騎士「は、ははは、はは……」

女騎士「……それで、老騎士殿はどのようにして、眠りを妨げるものを振り払ったのでしょうか」

老騎士「はは、時が解決するに身を任せたまで」

女騎士「時、ですか……」

老騎士「いつの間にか、色々なものと、折り合いがつく」

女騎士「……」

老騎士「そういう時期が、人には必ず来るのである」

女騎士「……そういう、ものでしょうか」

老騎士「善かれ悪しかれな。望んだ形ではなくとも」

女騎士「……」

老騎士「……しかしまぁ、儂くらいの歳になれば、深く眠りすぎるのは、かえって不安になるものである」

女騎士「え? それはまた、どうして……」

老騎士「目が覚めた時、『あれ、儂さっきちょっと死んでた?』ってなって怖いのである」

女騎士「……」

老騎士「……冗談であるぞ」

女騎士「……」

老騎士「がっはっはっはっは!!!!」

女騎士「は、……あはは、ははは」

老騎士「しかし、今日はそれほど、やつれて見えないのである」

女騎士「ええ、昨日はまj――……!?」

老騎士「まじ……?」

女騎士「……ま、じ……マジでがんばって寝ましたので!」

老騎士「おお、若者言葉であるな」

女騎士「あは、ははは……」

老騎士「がはははは……。……、コホン……時に、女騎士殿」

女騎士「……? なんでしょう?」

老騎士「今のうちに、貴公の耳にも入れておこうと思うのだが……」

女騎士「……」

老騎士「……――……」ボソボソ






女騎士「な……っ、『金冠のオオカブト』騎士団が、解団……!?」

老騎士「……確かな情報である」

女騎士「そんな……、王都最大の騎士団が……」

老騎士「最近では、団内の派閥争いが、激しくなっていたそうである」

女騎士「それにしても、こんな突然とは……」

老騎士「……何か、大きな動きがあるのかも知れないのである」

女騎士「大きな?」

老騎士「……儂等も他人事ではいられないかもしれない、王都全体を覆うような、一つの流れがな……」

女騎士「……」

老騎士「はっはっは、暗い顔をなさるな! 何とかなるである! 騎士はいつでも元気でなければ!」

女騎士「そ……、そうですな! まったくその通り!」

老騎士「がっはっは!!」

女騎士「はっは……、そうだ、『オオカブト』のところで扱っていた公務は……」

老騎士「……次回の定例会で、各騎士団に割り振られるはずである……」

女騎士「……」

老騎士「……」

女騎士(……きっつ)

老騎士「きっつい……」

女騎士「声に出して言わないでください……」






~夜・女騎士宅~








女騎士「ふぅ……」

女騎士「……もう、こんな時間か」

女騎士「父様、母様、おやすみなさい」

女騎士「……」

女騎士「……」


女騎士(……まさか『オオカブト』のところが……)

女騎士(老騎士殿は、他人事ではないと言っていたが……)

女騎士(……確かに最近、騎士団を取り巻く環境は……)

女騎士(これまで以上に、厳しい……)


女騎士「……」

女騎士「……」

女騎士(……公務は増え、予算は減り……)

女騎士(……問題は増え、人員は減り……)

女騎士「……」モンモン

女騎士「……」

女騎士「……うぅ」モンモン



~~~~


魔女『ベッドの中にまで、沢山の現実を持ち込んじゃ、いけないの』


~~~~


女騎士「……」ハッ




~~~~


魔女『何か浮かんだら、すぐに手放す』


魔女『小舟に知らず上がってきた魚を、海に放すみたいに』


魔女『まあ、訓練よ』


~~~~


女騎士「……むぅ」

女騎士(……)

女騎士(……かんがえなーい、かんがえなーい……)

女騎士「……」

女騎士「……」

女騎士(……もし魔女が、すぐそこにいたら……)

女騎士(どんなふうに言うだろうか……)



~~~~


魔女『もう……ちゃんとお行儀よく寝ないと駄目よ』

魔女『はい、ちゃんとお布団かけてねぇ』

魔女『いい子にできたら、ご本を読んであげましょうね』


~~~~


女騎士「……」

女騎士(なんか……)

女騎士(人のこと赤ちゃん扱いしてなかったか、あいつ……)

女騎士「……」

女騎士「……」

女騎士(今度会ったら……)

女騎士(文句言ってやろう……)

女騎士(……ふふふ)

女騎士「……」ウトウト

女騎士「……そうだ」ウト

女騎士「……絵本」


ペラ


女騎士(……ええと)

女騎士(むかしむかし、あるところに……)

女騎士(悪い魔女と良くない魔女がいましt……)


女騎士「……スヤァ」







~朝~







チュン

チュンチュン


女騎士「……」

女騎士「……」ハッ

女騎士「……っ!?」ガバッ


チュン

チュン


女騎士「……朝」

女騎士「……」

女騎士「ね……」

女騎士「眠れた……」

女騎士「……」

女騎士「眠れたぞー!!」



カイミンダー!!

ヤッター!!!!


チュン!!

チュンチュンチュン!!

バサバサバサ…



今日はここまでです

なお、本SSはフィクションであり

作中の不眠の対策も、完全な創作です

眠れない、眠りが浅いといった症状にお悩みの方は

無理をせず、専門機関にご相談ください



ねるまえに、スマホでSSよんでると、ねむりがあさくなりますよ!!

~数日後~


~都の中心部、騎士団詰所~







女騎士「……~♪」フンフーン

副団長「……」

女騎士「おーい、装備品の確認は済んだか―!? 今日の備品当番誰だー!」

騎士A「ああっ、すみませんっ! 俺です!」

女騎士「ほら、もうすぐ警ら業務の時間だぞーっ! 急げ―!」

騎士A「はいッス!」

女騎士「がんばれー! 走れー!」

騎士A「はいっ!」タタタ

女騎士「ははは、元気で結構だ!」

副団長「……」

女騎士「う~ん……今日は私も、久しぶりに見回り行っちゃおうかな!」

副団長「……」



副団長(……団長殿)

副団長(ここのところ、元気そうなのは良いのだけど……)



女騎士「いいかな!? いいよな!!」

副団長「はぁ……」

女騎士「よし、決まりだー! はっはっはっは!!」ガシッ

副団長「えっ、いや、ちょ……」

女騎士「出発だーっ」ノッシノッシ

副団長「痛い痛いはやい、速い速いです団長殿」

副団長(元気がダダ漏れてる……)





~王都・市街~







女騎士「う~む……」

副団長「……」

女騎士「……」

副団長「……」

女騎士「何も変わりないな!」

副団長「王都の治安状況は、非常に良好な状態を保っています……」

女騎士「重畳だ!」

副団長「……」

女騎士「……」

副団長「……」

女騎士「……やることがないな!」

副団長「身も蓋もない……」

副団長「われわれの出番がないということは、それだけ平和ということです」

女騎士「そ、それはもちろん!」

副団長「それに、われわれ騎士が、日ごろから市中に目を光らせている。それだけで犯罪行為の抑止効果が望めます」

女騎士「わ、分かってるぞ。私とて当然――……」



ナンダコラー!!

ンダテメー!!



女騎士「むっ……!」

副団長「怒鳴り声が……」

女騎士「もめ事か!? ……こっちだなっ! 行くぞー!」

副団長「はぁ」

女騎士「急げ副団長ぉー!」

副団長「……やれやれ」










都民C「この野郎、人の足踏んづけといて、何だその態度は!」

都民D「手前がそんなすぐ側に突っ立ってやがったのが、悪いんじゃねぇか!」

都民C「行列なんだから仕方ねぇじゃねえだろ!」

都民D「隙間開けて並べや! ちょっと考えろ手前ぇ!」

都民C「なんだとぉ!?」

都民D「やんのかぁっ!!」


ザワザワ


女騎士「あ~、こらこら君たち。よさないか、こんな天下の往来で」

副団長「……」

都民C「あ? ……――っっ!?」

都民D「誰だぁ、アンタ! 関係ねぇやつは黙って…………」

都民C「おお、お、おい、お前……悪いことは言わないから、やめとけって……」ヒソヒソ

都民D「あぁ?」

都民C「こ、この人、女騎士様だ。『銀顎』騎士団の、団長の……」ヒソヒソ

都民D「げ――……!?!?」



女騎士「……」ニコニコ



都民D「……これはどうも~」

都民C「大変失礼しました~……」

女騎士「うむ! 行列に待たされて苛立つのは分かるが、喧嘩はいかんぞ!」

都民C「は、はい……」

都民D「すみませんです、ほんと……」

女騎士「はっはっは!」ニコニコ

都民C(笑ってる……)

都民D(笑ってるけど怖ぇ……)

都民C「……大戦中は、単騎で一個大隊を撃破したらしい……」ヒソヒソ

都民D「……敵国が、国家予算の1割をその首の懸賞金にあてたらしい……」ヒソヒソ

都民C「睨んだだけで熊と虎を倒したらしい……」ヒソヒソ

都民D「本気で剣を振ると海が割れるらしい……」ヒソヒソ



副団長「……」

副団長(尾ひれで空飛べそうなくらい、ウワサが一人歩きしてる……)



女騎士「それにしても、すごい行列だな……」

副団長「……ご存知、ありませんか?」

女騎士「うむ?」

副団長「あそこにある、有名な菓子屋の列ですよ。近頃、王都で大評判の」

女騎士「ほぉ……、知らなかったな」

副団長「王都の者なら誰でも知っているほどです。多分団長以外は」

女騎士「ならばこれで、王都で知らぬ者はいなくなったわけだな! 素晴らしいなぁ!」

副団長「……」

店員「あのぅ……」

女騎士「なんだ?」

店員「先ほどは、大変ありがとうございました」ペコリ

女騎士「はは、いやいや、大したことはしていない」

店員「いえ、本当に……。お礼に、こちらを」スッ

女騎士「ん?」

店員「うちのお店の、黄桃のケーキです。店長が、騎士様たちにお持ちしろと……」

女騎士「ははは、気づかいは無用だぞ! 騎士として、当たり前のことをしただけ――……」

店員「でも、いつもお世話になってますから!」

副団長「よろしいのでは? 市民からの支えあっての騎士団ですよ」

女騎士「ふむ……」

店員「あっ、副団長様も」スッ

副団長「恐縮です」

副団長「……そういえば、嫌いなんでしたっけ? 甘いの」

女騎士「や、嫌いじゃないけど。普段食べないだけで」

副団長「断るくらいなら、私の方でもらっちゃいますけど」

女騎士「んー……」

女騎士「……」

女騎士「…………」

女騎士「………………」

女騎士「いや、やっぱり頂こう」

店員「はいっ! これからも、王都をよろしくお願いしますねっ」

女騎士「もちろんだっ! はっはっはっは」





~都の東「蜘蛛の森」魔女の屋敷~







魔女「……」

魔女「……」

魔女「……」ポケー

魔女(……畑の棚も作った……)

魔女(……物置の床も張り直したし……)

魔女(……居間の掃除……は、今日2回したっけ)

魔女「……」

魔女「……」

魔女「……暇だわぁ」ポケー

魔女「……」

魔女(……騎士さん)

魔女「……1、2、3、4――……」

魔女「……」

魔女(……やぁね)

魔女(彼女が眠れなくて、辛い方が嬉しいの、私は?)

魔女(違うでしょうに)

魔女「……」

魔女「絵本も渡したし……、しばらくはこない、かも――……」

魔女「その方がいいのよねぇ……」

魔女「……」

魔女「……」

魔女「……!」ピクッ






~「蜘蛛の森」~







女騎士「……~♪」フンフーン

女騎士(ちょうど二人分だものな)

女騎士(菓子屋も気が利いているというか……)

女騎士(ふふふ、魔女のやつ、びっくりするかな?)

女騎士「……あ、いや」

女騎士「魔女の喜ぶ顔が見たい、とかではなく……」

女騎士「……お礼、そう、お礼だものな。感謝は大事だからな!」


女騎士「……」

女騎士(……何で言い訳してるんだ、私は……?)

女騎士「……」


女騎士「……ん」

女騎士「……」

女騎士(……右に折れた道を、そのまま進めば、魔女の屋敷……)

女騎士「……」

女騎士(けれど、左手に……)

女騎士(……よく見ると、道……? のような……)

女騎士「……」

女騎士「…………?」

女騎士(……気になる)

女騎士「……気になるな!」

女騎士「ちょっとだけ、行ってみようかな!」


ガサガサ

ガサ










ガサガサ


女騎士(……そういえば)

女騎士(前の戦争のときも、こんな森で戦ったことがあったな)

女騎士「……」ガサガサ

女騎士(……敵の影に怯えながら……)

女騎士(ふと、振り返れば)

女騎士(歩いてきた足取りも、見当たらないほど深い森……)

女騎士「……」クルッ

女騎士(……歩いてきた……足取りも)

女騎士「……」

女騎士「……」

女騎士(見当、たら、ない――……)

女騎士「……」

女騎士「……アレ?」






ガサガサ


女騎士「……むぅ」

女騎士「いかんな、こっちだったか……?」

女騎士「……」ガサガサ

女騎士「違うか」

女騎士「……」ガサゴソ

女騎士「えーと? 確かこっち……」


ガシッ


女騎士「だ……っ、れ……」

魔女「ハァッ……、はぁ――はぁ……っ」

女騎士「ま、魔女……?」

魔女「まに……、まひ、はひ……ハァ」ハァハァ

女騎士「お、落ち着け。深呼吸、深呼吸」

魔女「ハヒー……ハヒー……」

魔女「ふぅ、はぁ、はぁぁ……、よか……ったぁぁ」

女騎士「魔女……」

魔女「騎士さぁん……もう、馬鹿ぁ」

女騎士「え、なに? 何かしたか私?」

魔女「うぅぅ……っ」ウルウル

女騎士「あぁっ! すまん! 悪かったから! だから泣かないで!」

魔女「こっちはぁ……、蜘蛛の森の、一番奥深く……、人の子を拒む禁断の地……」ウルウル

女騎士「な、なんだ? ま、魔女の聖地な……?」

魔女「毒蜘蛛のね、繁殖地なの」

女騎士「ヒッ」

魔女「楽に死ぬやつ」

女騎士「ヒィッ」


今日はここまでです

アッ誤字ッ!
>>69
仕方ねぇじゃねえだろ!

仕方ねえだろ!

です
ごめんなさいです







女騎士「……」

魔女「……」

女騎士「……」テクテク

魔女「……」テクテク


ギュッ


女騎士「……」

魔女「……」

女騎士「あのう、魔女さん……?」

魔女「……何かしらぁ?」テクテク

女騎士「あの、いや、手……」

魔女「手?」


ギュッ


女騎士「つ、繋いでないと、駄目?」

魔女「駄目よ。はぐれたらどうするの」

女騎士「……むぅ、またそうやって、子ども扱いを……」

魔女「あら」

魔女「知らない道にどんどん入っていって、迷子になったのは、どこの誰かしら?」

女騎士「うぐっ……」

魔女「来た道が分からなくなったのに、ためらいもなく更に進んでいったのは、どこの誰だったかしらぁ?」

女騎士「うぅぅ……っ、わ、私です……」

魔女「小さな子どもだって、迷ったと思ったら、いったんその場に立ち止まるんじゃないかしら? 違う?」

女騎士「おっしゃる通りですぅ……」

魔女「……分かったら、ほら、もっとちゃんと手を掴んでなさい!」

女騎士「はぁい……」ギュ

魔女「まったく……」

女騎士(怒ってる……)

魔女「まったくもう……」

女騎士(怒ってらっしゃる……)

魔女「……」プンプン


~魔女の屋敷~







魔女「おい――……」

女騎士「……」

魔女「……――っしぃぃ~!」パァァ

女騎士「美味しいか」

魔女「美味しいわ! すごく美味しいわ!」ハムハム

女騎士「……」

女騎士(喜んでる……)

魔女「んん~~~♪」

女騎士(喜んでらっしゃる……)

魔女「ありがとうね、騎士さん!」

女騎士「どういたしまして」

女騎士(怒ったり、笑ったり……)

女騎士(……結構、感情が表に出やすいというか……)

女騎士(……初めて会った時は)

女騎士(物静かで、落ち着いていて――……)

女騎士(まさしく『魔女』の雰囲気、なんて思ったけど……)



女騎士「……」ジー

魔女「はぁ、おいひい……」ウットリ

女騎士(……魔女とは……?)

女騎士「……」ジー

魔女「……? 私の顔に、何かついてる?」

女騎士「あ、すまん、別に何も…………いや! ついてる! クリームすっごいついてる!」

魔女「えっ、やだぁ……」ヌグイヌグイ

女騎士「はは……」

女騎士(こういうところ見ると……)

女騎士(全然、魔女っぽくないというか)

女騎士(……あ、でも)



女騎士「そういえば、魔女」

魔女「何かしらぁ?」

女騎士「お前、魔法なんて使えないって言ってたけど……、やっぱり使えるじゃないか、魔法」

魔女「?」

女騎士「魔法だろ? 私が森で迷ってるって分かったのも、私の居場所を探り当てたのも」

魔女「あぁ、あれは……うぅん……、魔法を使った、ってわけじゃないんだけどねぇ……」

女騎士「またまた」

魔女「本当よう。しいて言うなら、『森』の魔法かしらね」

女騎士「森の?」

魔女「そう、森が魔法を使って、騎士さんの居るところを教えてくれたの」

女騎士「…………」

魔女「『メルヘンだぁ』って顔してるわね……」

女騎士「だってぇ」

魔女「本当だってば。人に、みんな不思議な、神秘的な力があるように」

女騎士「……」

魔女「森にだって、隠された神秘がある」

女騎士「……」

魔女「特にここは。『蜘蛛の森』はね」ハムハム

女騎士「むぅ……」

魔女「私は、それを信じてるし、感じてる。だから分かる」

女騎士「……それが魔女?」

魔女「それが魔女よ」

女騎士「じゃあ、お前本人は……」

魔女「ん?」

女騎士「何か、そういう、魔女らしいことはできないのか?」

魔女「ん~……」

女騎士「……」

魔女「……おいしいお茄子が作れるわ……」

女騎士「うん、あの、そういうのじゃなくて」

魔女「ん~~~~……」

女騎士「そもそも茄子、魔女らしさか……?」

魔女「……占い、とかならできるけど」

女騎士「おぉ」







魔女「……――そう。そうやって五角形にカードを並べて」

女騎士「……」

魔女「時計回りに、愛……知性……知識……」

女騎士「……」

魔女「法、力……、それぞれ対応する絵柄、これが今の貴方……」ペラリ

女騎士「……」ドキドキ

魔女「さぁ、ペンタグラムの中央に、引いたカードを置いて」

女騎士「……」スッ

魔女「このカードが……、貴方の未来を指し示――……」ペラリ

女騎士「……」ドキドキ

魔女「……」

女騎士「……?」

魔女「……」

女騎士「……な、なぁ……、結果は?」

魔女「……御守り」

女騎士「……え?」

魔女「……お、御守りも作れるのよ、私! とってもよく効くやつ!」

女騎士「あの、結果……」

魔女「せっかくだから、騎士さんにも作ってあげるわねぇ! うーんと効くのを! おっきいのを!」

女騎士「ねぇ、だからどうだったのって! ねぇって! ちょっとぉ!」







女騎士「さて……」

魔女「あ、お風呂用意するわね」イソイソ

女騎士「あ……、あぁ、いやいや、いいんだ」

魔女「……?」

女騎士「大丈夫、今日は別に、寝かせてもらうつもりじゃなくて」

魔女「あら、そうなの?」

女騎士「あぁ……、最近すこぶる、調子が良くて。十分睡眠がとれていてな」

魔女「…………それは、良かったわ」

女騎士「うん、これも魔女のおかげだ」

魔女「そんな、私は別に何も……って」

女騎士「うん?」

魔女「じゃあ、今日はどうして森に?」

女騎士「それは……、いや、何だ。世話になった、お礼に……というか」

魔女「お礼に、ケーキを?」

女騎士「あ、あぁ」

魔女「そう……」

女騎士「……」

魔女「……」

女騎士「……、そ、それと……」

魔女「それと?」

女騎士「……魔女に、会いに……」

魔女「……!」

女騎士「ふ、深い理由があってのことでは、ないんだがな! ただ、いつもすぐ寝てしまうから、たまには、と――……」

魔女「そうなのね、騎士さんは私に会いに来てくれたのねっ!」

女騎士「……め、迷惑だったろうか……」

魔女「とんでもない! とっても嬉しいわ! 美味しいケーキよりも、ずっと!」

女騎士「そ……そうか! ならば良かった!」

魔女「うふふ……、こういう風に、誰かとお喋りするの、ずっとやってみたかったのよねぇ……」

女騎士「あ……」


女騎士(……この森に)

女騎士(足を踏み入れる者は、滅多にいなくて……)


魔女「……あっ、もちろんケーキも、すごい嬉しかったし、美味しかったわよ。ホント」

女騎士「……」



女騎士(魔女は……)

女騎士(この森の、この広い屋敷で、いつもひとりで……)

女騎士(もしも……彼女が王都にいたら……)

女騎士(きっと毎日、怒ったり、笑ったり、忙しくて……)

女騎士(けれど彼女は、この森でいつも……)



女騎士「……あ、あの」

魔女「?」

女騎士「ま……また来ても、いいだろうか」

魔女「……!」

女騎士「その……ベッドを借りるのではなく……、お前と……ええと」

魔女「もちろんよ、騎士さん」

女騎士「あ……」

魔女「楽しみに待ってるわ、また来てくれるのを」ニコ

女騎士「あぁ……、また来るよ。必ず」

今日はここまでです

つづきます


~夜~






~~~~


女騎士『あぁ……、また来るよ。きっと、すぐ』


~~~~


魔女「ふふ……」

魔女「んふふ……♪」


魔女(楽しかったぁ……)

魔女(一緒にお菓子を食べて、いっぱいおしゃべりをして……)

魔女(ああいうの、久しぶりだったかも……)


魔女「……♪」


魔女(やっぱり独りぼっちよりも……)

魔女(誰かと一緒に過ごすのは、楽しいわ)


魔女「……」

魔女「……?」

魔女「……??」

魔女「あ……」


魔女(そうじゃない)

魔女(そうじゃないのね、私……)

魔女(騎士さん)

魔女(彼女が一緒だったから、きっと……)

魔女「あぁ、ふふ、ふふふ」

魔女「今度はいつ来てくれるかしら、騎士さん……」


ポフッ


魔女「ふァ……」

魔女「……おやすみなさい、騎士さん」





~数日後・王都 王府庁舎内~







役人「……」

女騎士「……」

役人「……」

女騎士「……ええと」

役人「ヒィ!」ビクー

女騎士「……ひいって」

役人「ごっ、ごめんなさい! ごめんなさい! 使えないヤツで本当ごめんなさい!」

女騎士「言ってない言ってない! まだ何も言ってないから!」

役人「ワタシ……クビでしょうか……」

女騎士「大丈夫だから! 大丈夫だからしっかりして!」






女騎士「まぁ、それじゃあ、やっぱり……」

役人「はい……、騎士団の予算の、追加計上の申請は、今回も却下されました……」

女騎士「……そうか」

役人「お役に立てず、申し訳ありませんです……」

女騎士「いや、君の責任ではないだろう。気を病まないでほしい」

役人「クビですよね……」

女騎士「大丈夫だから! というか、人の話を聞いてくれ!」

役人「……うぅ……、以前であれば、問題なく通ったはずの申請内容なのですが」

女騎士「うむぅ……、何か不備があったのだろうか……」

役人「……、あの……、ここだけの、話なのですが」

女騎士「うん?」


役人「王府の上層部は、現存の騎士団の解体を狙ってるみたいなんです……」

女騎士「えっ……」

役人「騎士団を潰して、自分たちが裁量を持つ王立軍に吸収しようと考えてるらしく……」

女騎士「うぇぇ……」

役人「中央の会議では、かなり露骨にそういった話題が出ているようです」

女騎士「それはぁー……、えぇー、そっかぁー、どうしよー……」

役人「ごめんなさい……ワタシがこんな無能でなければ、もっとお役に立てたはずなのに……」

女騎士「いやいや! 助かってるぞ! 君にはいつも世話になってるからな!」

役人「自主退職……」

女騎士「大丈夫だって! いやもう、聞いて! 本当に!」ガシッ

役人「ヒャっ」


女騎士「大丈夫だから。君には心から感謝してるよ」

役人「はっ……」ドキリ

女騎士「いつも君が、私たちのために尽力してくれているおかげで、私たちはやっていけてるんだ」

役人「は……あ……」ドキドキ

女騎士「だからこそ、もっと自分に自信を持ってほしい。なっ!」

役人「ハヒ……」

女騎士「うむ! 人間、前向きなのが何よりだぞ!」ポンポン

役人「ハァァ……」ポヤー

女騎士「はーっはっはっは」



女騎士(……とはいえ)

女騎士(中央からの支援があてにならないとなると……、台所事情はかなり苦しいな……)

女騎士(仕方あるまい……)






~王都・高級住宅街~







貴族「なるほど、それでパトロン探しを……」

女騎士「ええ、お恥ずかしい話ですが」

貴族「いや、それほどの苦境ならば、当然の行動でしょう。心中、お察しいたします」

女騎士「なにとぞ、お力添えを――……」

貴族「ぜひとも、……と言いたいところなのですが」

女騎士「……」

貴族「近頃は、私の会社に金を出す出資者どもも、色々と文句のつけ方を覚えてしまって」

女騎士「……」

貴族「回収の見込めない投資に金を出すことは、とても認められないでしょう……」

女騎士「そう、ですか……」

貴族「力になれず、申し訳ない……」

女騎士「いえ、お話を聞いてくださっただけでも、ありがたい」

貴族「戦時中であれば、じゃぶじゃぶ出せたのですけどね! お金!」

女騎士「……当時はさすがに、やりすぎだったかと」

貴族「え? よくなかったですか? 純銀のクワガタ像とか、『オオクワガタ感謝の日』イベント」

女騎士「やりすぎだったかと!」

貴族「はぁ……、またやりたいなぁ……。湯水のように金を遣いてぇ……。有り金まるごとぶちこみてぇ……」

女騎士「お、お気を確かに……」

貴族「そうだ、女騎士さん」

女騎士「はい?」

貴族「私たちの、専属になりませんか?」

女騎士「へ?」

貴族「私設騎士団というやつですよ。会社の警備や要人の警護、そういった仕事を、専任して行う騎士組織です」

女騎士「……」

女騎士(……そういえば、聞いたことがある)

女騎士(解散した騎士団の中には……)

女騎士(貴族や商社に、組織丸ごと引き受けられたところもあると……)



女騎士「……」

貴族「高名な『銀顎』騎士団が引き受けてくださるのであれば、投資家たちも首を横には振りますまい」

女騎士「……」

貴族「いかがです?」

女騎士「……勿体ないお話です。ですが……」

貴族「……」

女騎士「やはり我らは、国と国の神と……」

貴族「……」

女騎士「そして、すべての民に仕える騎士でありたい……」

貴族「……」

女騎士「この期に及んで、おこがましい話ですが……」

貴族「……いや、実に貴方らしいと思いますよ」

女騎士「……」





~夜・女騎士宅~







女騎士「ん~~~~」カリカリカリ



女騎士(任務以外の時間は、できる限り協力者探しにあてんとな!)

女騎士(残った仕事は、それが終わってから!)



女騎士「……」カリカリ

女騎士「……」カリカリカリカリ

女騎士「……ふぅ」

女騎士「よし、今日はこれくらいだな!」

女騎士「ぐわ……、もうこんな時間に……」

女騎士「……ま、ちょっとは眠れるか」


ポフ


女騎士「父様、母様、おやすみなさい」

女騎士「……」

女騎士「……それから、魔女も」

女騎士「おやすみ……」

女騎士「……」

女騎士「………………むかしむかし、あるとこr」スヤァ






~数日後~


~都の東「蜘蛛の森」魔女の屋敷~







女騎士「ふァ……」

魔女「あら」

女騎士「ぁふ……。あ、すまん……」

魔女「いや、いいのだけど……、久しぶりに眠そうね」

女騎士「……ああ、ここ最近、ちょっとな」

魔女「また、眠れなくなっちゃった?」

女騎士「いやぁ、そういうわけじゃないんだ。ただ……」

魔女「ただ?」

女騎士「忙しくてな。眠る暇もないくらいだ」ファァ

魔女「無理したら駄目よ?」

女騎士「……いや、今が私たちの瀬戸際なんだ。多少無理してでも、できる限りのことはしないと」

魔女「もう……、あまり心配させないで?」

女騎士「おっ、魔女は私のこと、心配してくれるのか! ははは!」

魔女「当たり前でしょう? 騎士さんの身体に何かあったらと思うと……、もう……」

女騎士「……」


女騎士(……な、なんだろう)

女騎士(恥ずかしいような……、こそばゆいような……)


女騎士「……きょ、極力、無理はしないようにするよ」

魔女「……はぁ。心配だわ……。ちょっと、休んでいったら?」

女騎士「ベッドでか?」

魔女「えぇ」

女騎士「むぅ……、すまんが、あまりゆっくりしていられなくてな。すぐ、行かなければならない」

魔女「そうなのぉ……。残念」

女騎士「残念なのか……」

今日はここまでです

魔女「あぁ……どうしましょう。適度な休憩とか、絶対取ってないわ、この子……」

女騎士「取ってる! 取ってるから!」

魔女「……」

女騎士「ええと……、い、今とか」

魔女「……」

女騎士「……」

魔女「やっぱり、不安ね……」

女騎士「うぅ……」

魔女「騎士さん、ちょっと寝室まで、付き合ってくれるかしらぁ?」

女騎士「や、本当、今日は……」

魔女「寝て行けってわけじゃないわよぉ。……ただ、ちょっとの時間でいいから」

女騎士「……?」

魔女「……スッキリして、リラックスできること、してあげる」

女騎士「……??」


~寝室~







魔女「さ、どうぞ」

女騎士「……あ、あぁ?」


女騎士(……ちょっとの時間……)

女騎士(スッキリして、リラックス……?)


女騎士「……?」

女騎士「……」

女騎士「……」

女騎士「……!?!?」ハッ

魔女「さあ、騎士さん……」

女騎士「まっ……! ちょ……魔女! そ、そういうのはだな!」

魔女「……?」ポフ

女騎士「ま、まだ早いというか、も、もうちょっと、私はだなぁ……!!」

魔女「どうしたの? さ、ここ、どうぞ?」ポンポン

女騎士「……?」

魔女「ど、う、ぞっ」ポンポンポンポン

女騎士「膝枕?」

魔女「ふふふ……、スッキリリラックスと言ったら、これよねぇ……!」シャキ

女騎士「耳かき棒……?」








コショコショ


魔女「……痛くなぁい?」

女騎士「あぁ……」

魔女「……こうしていれば」コショコショ

女騎士「……」

魔女「無理やりでも、横になるし」

女騎士「……」

魔女「体の力も抜かないといけないから、リラックスできるでしょう?」

女騎士「そ、そうだな……」

魔女「……~♪」

女騎士「気持ちいいよ……」

魔女「でしょ~♪」コショコショ

魔女「さ、反対側」

女騎士「はぁい……」

魔女「……」コショコショ

女騎士「……」

魔女「……」

女騎士「……」

魔女「……私」

女騎士「……」

魔女「……一生懸命、がんばってる騎士さんは、好きよ」

女騎士「……」ピク

魔女「動かないの。……でもねぇ」

女騎士「……」

魔女「……やっぱり、無理をして辛そうなところは、見たくないから……」

女騎士「……あぁ」

魔女「私にできることがあったら、何でも言ってほしいわ」

女騎士「……あぁ」

魔女「……~♪」コショコショ

女騎士「ありがとう、魔女……」






~数日後~


~都の中心部、騎士団詰所~







女騎士「えっ、じゃあ……!」

司祭「はい、今年の『王都祭』の警備は、王立軍に依頼することになりまして……」

女騎士「それは……」

司祭「各騎士団が王都中を警備するのが、この国の伝統でしたが……」

女騎士「……」

司祭「王府から、じきじきに依頼があり、教会もそれに押し切られた格好で」

女騎士「王府が……」

司祭「我々も、心苦しい限りです」

女騎士「……いえ、こればかりは仕方のない話でしょう」

司祭「お詫びに、どうか貴方と、貴方の騎士団のために、祈りを捧げさせていただけませんでしょうか?」

女騎士「い、いやいや、そこまでしていただかなくても……」

司祭「いいえ! ぜひとも! 祈らせていただきたい! 2時間弱のフルバージョンで祈らせていただきたい!!」

女騎士「本当に! 本当に結構ですから!」






女騎士(『王都祭』の任務もか……)

女騎士(王都の大きな仕事は……、どんどん王立軍に流れていくな)


女騎士「むぅぅ……」


女騎士(……いや、腐っていても仕方ない!)

女騎士(今は、私たちの出来ることを――……)


副団長「……団長殿」

女騎士「ん? あぁ……どうした」

副団長「……ハァ」

女騎士「なんだなんだ! 騎士が暗い顔をするな!」

副団長「……団員の一人から、退団届が出されています」

女騎士「え……っ」






~夜・女騎士宅~







女騎士「むぅ……」カリカリ

女騎士「……」パサッ


女騎士(……この事務処理が済んだら)

女騎士(新しい任務の提案を作って……)

女騎士(……新しい団員募集の呼びかけも準備して……)


女騎士「……」カリカリ

女騎士「むむむむむ……っ」


女騎士(魔女にはああ言ったが)

女騎士(休んでいる暇などないなっ!)


女騎士「……」カリ

女騎士「……ふぅ」パサリ


女騎士(私ががんばらなければ……)

女騎士(がんばって、がんばって……)

女騎士(守るんだ、騎士団を――……)



女騎士「……」カリカリ

女騎士「…………」カリカリカリカリ






~数日後~


~都の東「蜘蛛の森」魔女の屋敷~







魔女「……――それから、火防の護符と、魔女織の織物、蜘蛛避けのお香はたっぷりと、ね」

商人「はい! では、確かに……」

魔女「いつもどうも」

商人「いやぁ、こちらこそ! 魔女さんから仕入れた物は、いつも好評ですからな!」

魔女「それはよかったわぁ」

商人「どれをとっても、見た目も美しく、効果は天下一品!」

魔女「うふふ」

商人「おまけに当人はこんなに妖艶な――……」

魔女「あらぁ、どういう意味かしら?」

商人「あっ! いえいえ、今のは決して、下心があって言ったわけではありませんぞ! なは、なははは!」

魔女「あらあら……」


魔女(ようえん……、ヨウエン……)

魔女(本当にどういう意味かしら)

魔女(……あとで辞書を引きましょう)

商人「では、ワタクシはこれで……」

魔女「またお願いしますわ」


キィ


魔女「あら、またお客様――……」

女騎士「……魔女ぉ~……」

魔女「あ」

商人「……おや」

女騎士「……ハッ」サッ

商人「……?」

魔女「お気をつけて、商人さん」

商人「え、ええ……、それでは」

女騎士「……」コソコソ

商人「……? いや、他人の空似か……」スタスタ

女騎士「ふぅ……」

魔女「いらっしゃい、騎士さん」

女騎士「あぁ。……気づかれたかな?」

魔女「ん~……、大丈夫だと思うけど……。だって……」

女騎士「え?」

魔女「クマ、すごいし。ちょっと人相、変わっちゃってる」

女騎士「えぇ……やだぁ……、やめて本当……」

魔女「だって、ほら、見せて。ほら……うわぁ」グイー

女騎士「じっくり見るなぁぁ……」

今日はここまでです

魔女は学校とか行ってないので、知らない言葉が結構多い






コショ コショ


女騎士「……――えーと、つまり、妖しいくらい美しいって感じでだな……」

魔女「怪しいの? 私そんな不審かしら……」

女騎士「いや、そうじゃなくてだな……、なんて言うんだろう? 神秘的とか、謎めいた雰囲気とか、そういう意味で……」

魔女「あら、じゃあ私、褒められてたのね」

女騎士「んー……まぁ……」

魔女「そう……んふふ、ヨウエン、妖艶ねぇ……」

女騎士「……」


コショコショ


魔女「……はい、おしまい」

女騎士「……ちょっと、短いぞ」

魔女「ついこの間、やったばかりでしょう? あんまり掻きすぎると、痛くなっちゃうから」

女騎士「そっかぁ……」

魔女「ふふ、そのまま楽にしてていいわよ」ナデナデ

女騎士「あ……」

魔女「んふふ……」ナデナデ


女騎士「……あの商人は」

魔女「え?」

女騎士「よく来るんだ……」

魔女「そうねぇ……、お客様の中では、一番よく来るかしら。いつも私の作るもの、いっぱい買っていってくれてね」

女騎士「ふーん」

魔女「蜘蛛避けのお香も、織物も、どれも素晴らしいっ、なんて褒めてくれて……」

女騎士「ふぅーん……」

魔女「今度、織物上手にできたら、騎士さんにも見せてあげるわね」

女騎士「……」

魔女「……♪」ナデナデ

女騎士「……上機嫌だな」

魔女「あら、そう?」


女騎士「あの商人に、褒められたからだろ」

魔女「えぇ?」

女騎士「魔女さんは、妖艶だもんな―……」

魔女「あら……」ナデナデ

女騎士「……」

魔女「妬いちゃった?」

女騎士「ちが……っ」ガバ

魔女「だぁめ、じっとしてて……」ナデナデ

女騎士「……、……違うからな」ストン

魔女「クスクス……、別に褒められたくらいで、舞い上がったりしないわよ、私は」

女騎士「……」

魔女「嬉しくなるんだとしたら――……」

女騎士「……」

魔女「……ふふっ」

女騎士「なんだよぉ……」

魔女「まぁ、いいじゃない」ナデナデ

女騎士「むぅ……」

魔女「……~♪」ナデナデ


女騎士「……魔女の手、気持ちいいな……」

魔女「そう、よかったわ」

女騎士「はぁ……、ずっとこうしてたい」

魔女「いいわよう」

女騎士「よくないんだよ……」

魔女「よくないの?」

女騎士「あぁ……、行かなくちゃ。起きて、街へ行って……」

魔女「……」

女騎士「騎士団のために、私がやるべきことを、やらねば……」

魔女「……無理してるの、自分でも分かるでしょう?」

女騎士「分かるよ。でも……私は騎士だから」

魔女「……」

女騎士「騎士だから、無理を押してだって、やるべきときは、やらなければいけないんだ」

魔女「……」

女騎士「私は、騎士なんだ……。騎士としてしか、生きられないんだ……」

魔女「……」

女騎士「だから……」

魔女「……」

女騎士「私が、がんばらなければ……、がんばって、がんばって……」

魔女「……」

女騎士「がんばって守るんだ……。騎士団を。みんなの居場所を、私の居場所を」

魔女「……騎士さん」

女騎士「騎士としての、私を」

魔女「……」

女騎士「……」

魔女「……ふぅ」ナデナデ


魔女(……固い気持ちで、前を向いて)

魔女(……がんばってる人を、引き留める言葉って……)


魔女「……」ナデナデ


魔女(なかなか、浮かばないものねぇ……)









~数日後~


~王都・市街~


女騎士「……――はい、いえ、こちらこそ」

女騎士「ええ、お心遣い、感謝いたします。……では」ペコリ

女騎士「……」

女騎士「……はぁ」


女騎士(……ここも、協力を断られてしまったか)

女騎士(これで何連続か……)


女騎士「……」フラ

女騎士「…………っと」


女騎士(さすがに……)

女騎士(キツい……か……)


女騎士「……はぁ」


「……――殿、女騎士殿!」


女騎士「ん……」

老騎士「女騎士殿! おお、奇遇であるな。こんなところで」

女騎士「老騎士殿……、お元気でしたでしょうか?」

老騎士「当然である。貴公も……、と言いたいところであるが……」

女騎士「……」

老騎士「……やつれたであるな」

女騎士「……なに、かつての戦の、末期の頃に比べれば……」

老騎士「顔色だけで言えば、あの頃より悪そうであるが……、いや、淑女に向かって失礼な言い分であった。面目ない」

女騎士「ははは……」

老騎士「少し、休んでいかれませい。……折り入って、貴公に話しておきたいこともある」

女騎士「話……?」

老騎士「ううむ……、あぁ、実は……」






女騎士「……」

老騎士「……ふぅ」

女騎士「……では」

老騎士「あぁ、我が『水晶羽のトンボ』騎士団も、解散である」

女騎士「納得、いきません……」

老騎士「……であるか」

女騎士「確かに現状は厳しい! ですが、『トンボ』騎士団は規模でも、質でも、十分にやっていけるだけの力があるはずだ!」

老騎士「……」

女騎士「それなのにっ、どうして……っ!」

老騎士「おっしゃる通りであるな」

女騎士「……」

老騎士「楽な道に逃げたと、そう見られても仕方ないのである……」

女騎士「そうは、言っていません……!」

老騎士「いや、いいや……、儂自身、そのように感じている」

女騎士「……」

老騎士「……しかしな、女騎士殿……」

女騎士「……」

老騎士「儂はもう、老いすぎた……。あと何年……いや、何か月と、この世にあるかも分からぬ身だ」

女騎士「そんな……」

老騎士「……『老兵は死なず、ただ去り行くのみ』……避けられぬ死を前にして、去り時を誤れば」

女騎士「……」

老騎士「結局は、後に残された者が、苦しむことになろう……」

女騎士「……」

老騎士「……というか、儂が後釜育ててなかっただけなんであるがな」

女騎士「……老騎士殿」

老騎士「……がっはっはっは!」

老騎士「……まあ、そんなこんなでな、団員どもに相談して決めたのである」

女騎士「しかし……」

老騎士「幸い、我が団を引き取ってくれる商社がいくつか見つかってな。みな……」

女騎士「……」

老騎士「バラバラ、には……、なってしまうで、あるがな」

女騎士「……」

老騎士「……失礼」

女騎士「お察し、いたします」

老騎士「いや、なに。いずれ儂の中でも、折り合いのつく時が来るのである」

女騎士「折り合い……」

老騎士「貴公には、以前話したことがあろう……。時が解決するのに、身を任せる」

女騎士「……」

老騎士「年寄りの処世術ではなく、ひとつの真理として」

女騎士「……」

老騎士「そういうことも、あるのだ……」

女騎士「……老騎士殿」

老騎士「……そう……、善かれ、悪しかれな」






~騎士団詰所~


女騎士「……」

女騎士「……」


女騎士(まさか……、老騎士殿のところまで……)


女騎士「……」


女騎士(無理なのか……)

女騎士(やはり、もう……)

女騎士(逆らえない、あらがえない……)

女騎士(流れの中で……、騎士は……、騎士団は……)

女騎士(私は……)



女騎士「……う」

女騎士「うぅぅ……」


女騎士(……まだだ)

女騎士(まだ……やれることはあるはず)

女騎士(私が……、私ががんばらなければ、やらなければ……)


副団長「団長殿」

副団長「……団長殿?」

女騎士「……あぁ」

副団長「大丈夫ですか?」

女騎士「……、……すまんな、大丈夫だ」

副団長「……」

女騎士「何か、話だったか?」

副団長「……退団希望者が一名、来ています」

女騎士「……」フラ

副団長「団長殿っ」

女騎士「……だ」

副団長「……」

女騎士「…………大丈夫だ、通してくれ」

副団長「……」






騎士C「……」

女騎士「そぉーか、そうか! 嫁さんの実家は、糸の貿易商か!」

騎士C「は、はい……」

女騎士「ん? ということは、なんだ? お前が跡取りとかになっちゃうわけか!?」

騎士C「えぇ、まぁ……」

女騎士「はっはっはっ! それはすごい! 未来の社長殿だなっ!」

騎士C「……いやぁ」

女騎士「ん~、しかしあれだぞ、経営というやつは中々大変だぞ? お前のような無骨で無愛想な男に、果たして務まるか……」

騎士C「……」

女騎士「なんてな! お前なら心配ないさ! あっはっは――……」

騎士C「……本当は」

女騎士「ん?」

騎士C「……本当は、オレ、騎士を続けるつもりだったんです」

女騎士「……」

騎士C「けれど、向こうの家から……」

女騎士「……」

騎士C「騎士の仕事に、この先があるのかと……」

女騎士「……」

騎士C「……今の世の中、騎士の名誉が何になる、って……」

女騎士「お前……」

騎士C「……オレは」

女騎士「……」

騎士C「……なにも、言い返せなかった」

女騎士「……」

騎士C「オレ、騎士失格なんです」

女騎士「……馬鹿者」

騎士C「……」

女騎士「誰が何と言おうと、お前は立派な、我が団自慢の騎士だ」

騎士C「団長……」

女騎士「胸を張れ」






副団長「……――いかがでした」

女騎士「ああ、話は済んだぞ。副団長、彼の退役手続きを頼む」

副団長「……、……はい」

女騎士「退役金もたっぷり弾んでやれ! それから……」

副団長「……」

女騎士「それから――……」

副団長「……」

女騎士「……すまん、外してくれ」

副団長「……団長殿」

女騎士「……」

副団長「……失礼します」

女騎士「……」



パタン










女騎士「……」



――去り時を誤れば――

――結局は、後に残された者が、苦しむことになろう……――



――今の世の中、騎士の名誉が何になる、って――



女騎士「……」

女騎士「う……」



女騎士(……騎士団を、生かし続けることで……)

女騎士(色々なものにあらがって、歯向かい続けることで……)

女騎士(私は、何かを見誤ってしまって、いるのか……?)


女騎士「う、ぅ……」


女騎士(私の居場所――)

女騎士(私の騎士道――)

女騎士(私の……人生――)


女騎士「う、ぅ、ぅぅぅ……」



女騎士(もう……)

女騎士(もう、限界だ……)


女騎士「…………魔女…………」


今日はここまでです






女騎士「……」

女騎士「……」

女騎士「……」

女騎士「……」










女騎士「……」

女騎士「……」

女騎士「……」

女騎士「………………」










女騎士「……」

女騎士「……」


女騎士(……ん)

女騎士(……あれ)

女騎士(…………なんだっけ?)


女騎士「……」

女騎士「……」


女騎士(……私、何をしてたんだったっけ?)

女騎士(……えっと)










女騎士「……」

女騎士「……」


女騎士(……忘れた)

女騎士(……忘れたけど、まぁ……)

女騎士(いいや……)


女騎士「……」

女騎士「……」


女騎士(……何だか、暖かいし、柔らかいし)

女騎士(……すべすべで、いい匂いするし……)

女騎士(……ここにいれるなら、どうでも……)

女騎士(……ここに……)


女騎士「……」

女騎士「……」










女騎士「……」

女騎士「……」



女騎士(……ここ……)

女騎士(……ここは……)



女騎士「……」

女騎士「……」



女騎士(ここはどこだ?)



女騎士「……っ!?」ガバッ


魔女「あら、もう起きちゃったの?」

女騎士「えっ、えっ……?」

魔女「さっき寝付いたばかりじゃないのぉ」ヨシヨシ

女騎士「えぇぇ……?」






~都の東「蜘蛛の森」魔女の屋敷~








魔女「びっくりしたわよぉ、こんな夜更けにフラっとあらわれて……。一瞬、幽霊かと思っちゃったわ」

女騎士「……」


女騎士(……全然覚えていない……)


女騎士「無理がたたると、怖いんだな、人間て」

魔女「他人事みたいに言うんじゃないの」デコピン

女騎士「あたっ」

魔女「ふぅ……」

女騎士「……すまん」

魔女「別に、いいから。ほら……ちゃんと横になって」

女騎士「うん……。……あのさ」

魔女「ん?」

女騎士「あのさ……、私……」

魔女「いいの、何も言わないで」

女騎士「……」

魔女「いいの」

女騎士「……うん」

魔女「騎士さんが、誰よりも一生懸命だったこと、私がよく知ってるわ……」

女騎士「……」

魔女「よくがんばったわねぇ」ナデナデ

女騎士「……うん」

魔女「……もう、大丈夫だから……」

女騎士「…………うん」

魔女「……目を瞑って、休みなさい……ゆっくり……」

女騎士「……」

魔女「……」

女騎士「魔女……」

魔女「……」

女騎士「眠れないよ」

魔女「……」

女騎士「だって、もう、私……」

魔女「……」

女騎士「騎士じゃなくなっちゃう……」

魔女「……」

女騎士「騎士じゃなくなったら、私」

魔女「……」

女騎士「私は……、私って……、なんだ……?」

魔女「……」

女騎士「私は……」

魔女「……」

女騎士「……」

魔女「……怖いのね」

女騎士「……」

魔女「怖くて、寂しくて、眠れないくらい」

女騎士「……」コクン

魔女「さっき、ちょっと寝てたじゃない」

女騎士「……あれは、たぶん気絶だし」

魔女「気絶かぁー……」

女騎士「……」

魔女「……ふぅ」

女騎士「……」

魔女「じゃ、お邪魔しま――……」

女騎士「ちょっとちょっとちょっと魔女さん」

魔女「なぁに?」

女騎士「なんで入ってくるの!」

魔女「私のベッドだもの」

女騎士「そうだけども!」

魔女「添い寝」

女騎士「え」

魔女「……こうして、二人一緒なら」

女騎士「……」

魔女「ちょっとは、寂しくなくなるでしょ?」

女騎士「……」

魔女「ね……?」

女騎士「……うん」

魔女「んふふ……♪」スリスリ

女騎士「近い近い……」


女騎士(でも……)

女騎士(確かに……)

女騎士(暖かくて……、甘い香りがして……)


女騎士「……」


女騎士(抱き着いたら、きっと……とても柔らかいのだろう)

女騎士(……、……怒るかな?)

魔女「初めて、ここに来た時から」

女騎士「……え?」

魔女「騎士さん……、私のベッドでは、グッスリだったでしょう?」

女騎士「……あぁ、そうだった」

魔女「どうしてだったか、分かる……?」

女騎士「……さぁ? やっぱり魔法だったのかも……」

魔女「んふふ、違うったら」

女騎士「んー……」

魔女「きっと」

女騎士「……」

魔女「私の前では、騎士じゃない貴方でいてくれたから……」

女騎士「……」

魔女「……あ、もちろん、騎士さんは騎士さんなんだけどね」

女騎士「ややこしい」

魔女「……ただ、少しだけ、背負った重荷を下ろして」

女騎士「……」

魔女「……少しだけ、騎士の役目を忘れて」

女騎士「……」

魔女「そのままの貴方で、私と一緒にいてくれたから……」

女騎士「……」

魔女「それできっと、このベッドではいつだって、よく眠れたと思うの」

女騎士「……そうかもな」

魔女「……だからね」

女騎士「……」

魔女「ここは、貴方の居場所のひとつなの」

女騎士「……」

魔女「……騎士じゃない貴方が、安心して憩う場所」

女騎士「……」

魔女「このベッドは、この屋敷は、この森は――……」

女騎士「……」

魔女「私の傍は……」

女騎士「……」

魔女「貴方の場所よ、騎士さん」

女騎士「魔女……」

魔女「ふふっ、しゃべってばかりじゃ、騎士さんも眠れないわね」

女騎士「ねぇ……」

魔女「ん?」

女騎士「あの……、えっと……」

魔女「……いいわよ、ギュッてしても」

女騎士「……え?」

魔女「ほら」

女騎士「うん……」


ギュッ


女騎士(なんで分かったんだろう)

女騎士(魔女はやっぱり……)

女騎士(不思議だなぁ……)


魔女「人間の腕って、誰かを抱きしめるような形の造りになってるのよ」

女騎士「不思議だなぁ」

魔女「不思議でしょ?」

女騎士「あぁ……」

魔女「……」ナデナデ

女騎士「………………スヤァ」

今日はここまでです






~朝~


女騎士「……」

女騎士「……」ムクリ

女騎士「……ん~」

女騎士「――」ノビー

女騎士「……っはぁ……」

女騎士「……」


女騎士(爽快だ……)

女騎士(爽快すぎる……!)


女騎士「……こんなに軽かったのか、私の身体……!」ノビーッ

女騎士「……」

女騎士「あれ、魔女……」







女騎士「……あ、いた」

魔女「あら、おはよう、騎士さん」

女騎士「おはよう、魔女」

魔女「朝ごはん、準備してたんだけど……、時間あるかしらぁ?」

女騎士「え~っと、まだ大丈夫……。いいのか?」

魔女「うふふ、もちろん」

女騎士「美味しそうな匂いする……」

魔女「すぐできるわよ~♪」

女騎士「何作ってるんだ?」

魔女「んー、イモリの黒焼きとねえ……」

女騎士「……………………」

魔女「冗談よ、魔女ジョークよ」

女騎士「お、おう……」






女騎士「……」ムグムグ

魔女「お茶のおかわりは、いかが?」

女騎士「いただこう」

魔女「よく眠れたみたいねぇ」

女騎士「あぁ、まさしく快眠、まるで生まれ変わったみたいな気分だな!」

魔女「ふふ、よかったわ……」

女騎士「……人間って、ちゃんと睡眠取らないと駄目なんだな」

魔女「そうねぇ」

女騎士「なんでだろうな」

魔女「なんでかしらねぇ……お茶のおかわりは?」

女騎士「いただこう」






魔女「忘れ物、ない?」

女騎士「ああ……、なんか多分、身一つで来たよな、私」

魔女「そういえば、そうね……」

女騎士「うん……ごめんな、色々」

魔女「いいのよう」

女騎士「ゆうべは……、本当、助かった」

魔女「いいったら、……律儀な子ねぇ」

女騎士「お礼、言ってなかったと思うから」

魔女「そうだったかしら?」

女騎士「うん、だから……ありがとう」

魔女「どういてしまして♪」

女騎士「……それじゃ」

魔女「いってらっしゃい」

女騎士「……」

魔女「いって、らっ、しゃいっ」

女騎士「……あ、ああ! いってきますっ!」






~都の中心部、騎士団詰所~


女騎士「……――このように、騎士団は既に、如何ともし難い状況に置かれており――……」

副団長「……」

女騎士「……これ以上の団の継続は不可能であると、現実的に判断せざるを得ない……」

騎士A「……」

女騎士「……よって、団長たるこの私の責任の下……」

騎士B「……」

女騎士「騎士団の、解散を宣言する」



「「「「…………」」」」


女騎士「――といっても、しばらくは今まで通り、騎士団の任務を続けていく予定だ」

女騎士「諸君ら、団の全員が、新たな道……騎士団を離れた後の、行き先を見つけるまでは……」

女騎士「なんとか……、今の騎士団を維持していこうと思っている」


「「「「…………」」」」


女騎士「……すまないな、私がふがいないばかりに……」

女騎士「心から、みなには申し訳ないと思っている」

女騎士「……」

女騎士「……ごめん、なさい……」


騎士A「解散は……、騎士団は、いつまで保てそうなのですか」

女騎士「はっきりとは言えない……、けれど、いいとこで半年……いや、もっと短いかも」

騎士B「半年……、だったら」

女騎士「……」

騎士B「あと半年は、騎士でいていいんですよね、俺たち」

女騎士「え……」


騎士A「最後の最後まで、『クワガタ』騎士団のメンバーでいたいもんな、俺たち」

騎士B「な。最後まで、できるだけのことして、恩返ししたいもんな、この団に」


ソウダナー

ナー


女騎士「……」

騎士A「騎士団がなくなる、そのときまで」

騎士B「騎士の一員でいていいですかねぇ、俺たち」

女騎士「も、もちろんだ! だが……」

副団長「団長殿……」

女騎士「……」

副団長「みな、同じ気持ちなのですよ」

女騎士「……副団長」


副団長「団長殿がひとり、団のためにもがいて、苦しんで……」

女騎士「……」

副団長「心も身体も、ボロボロになっているとき、私たちは……、見ていることしか、できませんでした」

女騎士「……」

騎士A「言ってくれないんだもんな、団長ー」

騎士B「なー」

女騎士「え、ごめん……、本当、いや本当」

副団長「みな歯がゆくて、悔しくて……」

女騎士「……」

副団長「だから……」

女騎士「……」

副団長「みんな、貴方に報いたいと……、そう願っているのですよ」

女騎士「みんな……」



「「「「……」」」」


女騎士「みんな、ありがとう……」












~数日後~


~訓練所~


ダンッダンッ

バシッ


女騎士「よしよし! みな気合十分だな! 感心感心っ」


女騎士(あれから……)

女騎士(騎士団は、今まで以上に精力的に、活発になっている……)


騎士A「団長! 次は俺と稽古、お願いします!」

女騎士「よろしい! 手加減はしないぞ!」

騎士B「団長! その次は俺と」

女騎士「ふふふ、いい気合いだ……、ならば私も、久しぶりに本気を出させてもらうとするか」ゴゴゴ

騎士A「あっ」

騎士B「あっ」



女騎士(団員、ひとりひとりが……)

女騎士(騎士でいられる時間を、胸に刻み込もうと、しているかのように……)

女騎士(すぐ先に、終わりが見えている……)

女騎士(今この瞬間を、惜しむかのように)










~市街~


ザワザワ

ガヤガヤ


女騎士「下がれっ! みんな下がってくれ!」


ザワザワ


女騎士「ぐっ……。心配するな……、すぐ助けるからなっ……」

子犬「クゥーン……」


都民C「おぉ、あんなとこから落ちたら……ひとたまりもねぇよぉ」

都民D「うわぁ……俺もう見てられねぇ」


女騎士「っ……! もう一息……っ!」


ガシッ




女騎士(……皮肉なことだが……)

女騎士(私自身、これまでないくらい、充実した日々を送っている……)



女騎士「……――ほら、もう大丈夫だからな」

子犬「キャン! キャン!」


オォォォ

パチパチパチ


女騎士(国のために、誰かのために、些細なことでも、汗をかいて)

女騎士(これが、私の求めた騎士の道だと、実感できるような……、かけがえのない日々)


都民E「あぁぁ……ありがとうございます、ありがとうございますっ」

女騎士「いやぁ、ワンコが無事で何よりだ!」


子犬「クゥゥ……」

都民E「あら……」

女騎士「む? どこか怪我をしていただろうか?」

都民E「いえ……、この子に着せていたお洋服、ビリビリになっちゃっていて。この子のお気に入りだったから……」

女騎士「ふむ……」

都民E「私の母の手作りで……、いまはもう、亡くなってしまったのですが……」

子犬「……」シュン

女騎士「よければその服、お借りできないだろうか?」

都民E「え?」











~都の東「蜘蛛の森」魔女の屋敷~


魔女「……~♪」ヌイヌイ

女騎士「……」

魔女「~♪」ヌイヌイ


女騎士(もちろん……)

女騎士(まだ心の整理は、全然ついていない)

女騎士(時々、ふとした瞬間に)

女騎士(腹の奥に、しこりのように重たい感覚が――……)


魔女「……えい」ツン

女騎士「うわぁっ! びっくりしたぁ!」

魔女「また難しいこと、考えてたでしょ」

女騎士「う……、なんで分かるんだよ……」

魔女「ふふふ、なんでか教えてあげしょうか?」

女騎士「……うん」

魔女「実はねぇ……」

女騎士「……」

魔女「……騎士さん、すっごい顔に出る方よ」

女騎士「えぇ~……、うっそぉ」

魔女「本当に。……はい、できたわよ」

女騎士「おぉ!」

魔女「どうかしら」

女騎士「うむ! ばっちりだ! 器用なものだな……」

魔女「これくらい、アサメシ前ね」

女騎士「これならあのワンコも文句あるまい」

魔女「騎士さん、犬のことワンコって呼ぶのね……」












女騎士(穏やかに日々が過ぎていく……)

女騎士(こんな毎日の中で)

女騎士(いつかきっと、時間が解決してくれることも、あるのかもしれない……)

女騎士(……あの老騎士殿が、語ったように……)












~数日後・王都 王府庁舎内~


役人「そうでしたか……、寂しくなります、本当に……」

女騎士「あぁ……、だがまだしばらくは、君の世話になる予定だがな」

役人「そうなんですね……、でしたら私も、全力でサポートしますから!」

女騎士「ははは! ぜひ頼む! ……それで」

役人「あ、ええ、お願いしたい件というのは、実は……」

女騎士「うん」



役人「……『東の蜘蛛の森の魔女』の、探索と拘束という話でして」

女騎士「うん……うん?」



役人「あ、分かりますよ、その反応。おとぎ話じゃないの? って。思いますよね。私も思いましたもん」

女騎士「え、え、えちょっと」

役人「でも、実在する人物の話なんです! 報告では、一部の都民が接触しているとの証言が――……」

女騎士「ちょっと、ちょっと待って……」

役人「あ、はい」

女騎士「……あの……、なんで?」

役人「う~ん、王立軍の方では、手が回らないようでして……、他の騎士団にも打診してみたのですが、皆さん乗り気じゃ――」

女騎士「いや、なんで私たちがやるの、ってことじゃなくて……」

役人「あぁ」

女騎士「なんで魔女――……えっと、『東の蜘蛛の森の魔女』を、捕らえる必要があるんだ?」

役人「……女騎士さんも、ご存知かと思いますが、最近の行方不明事件……」

女騎士「……女児3名が、相次いで……、っていう、あれか?」

役人「それです」

女騎士「その事件と魔女と、どういう関係なんだ?」

役人「王立軍が、王都内をくまなく調査しましたが、3人の消息は一切掴めませんでした」

女騎士「……」

役人「あと、調査が及んでいない地域といえば、『東の蜘蛛の森』くらいでして」

女騎士「……誘拐かもしれん。だとすれば、すでに王都を出てしまっているかも……」

役人「城門警備隊は、断固として否定しています」

女騎士「だからって、その魔女の仕業だとは……!」

役人「それを調べていただきたい、というのが、今回の依頼なんです……」

女騎士「……つまり……つまり、だ」

役人「……」

女騎士「つまり、無関係かもしれん者に、縄をかけよというわけだろ? 騎士である我々が?」

役人「……あの」

女騎士「なんだ?」

役人「……な、なんか、怒ってます?」

女騎士「えなんで? なんで私怒る必要全然なくない? むしろ全然普通だしっていうか逆に冷静だと思うし実際怒ってないし?」

役人「ひぅぅぅっ!」

今日はここまでです


女騎士「だいたいさぁ、王立軍が手一杯って、そんなわけないじゃん……。ちょっとでも怪しかったら、自分たちでやるでしょ彼ら……」ブツブツ

役人「……」

女騎士「それを汚れ仕事押し付けるみたいなさぁ……、いや分かるけどね私らもね、そういう役回りなんだって分かってるんだけどね」ブツブツ

役人「……」

役人(女騎士さん……、不機嫌になると、こんな感じなんだ……)

役人「た、確かに、魔女を捕縛するといっても、大義名分はあまり立っていないと思います……」

女騎士「だったら先に、証拠なり証言なり集めるのが筋だろう……」

役人「その通りではあるんですが……、う~ん……」

女騎士「?」

役人「いえ……確かな話ではないのですが、今回の件、裏というか……違う狙いがあるようで」

女騎士「どういうことだ?」


役人「この行方不明事件……、王立軍も、国外に連れ去られた疑いが、濃厚だと見ているようでして」

女騎士「そうなの?」

役人「はい……。まぁ、相当力を入れて、探索していたようですからね。王都内にいる可能性は、まずないだろうと、言っています」

女騎士「ふぅん」

役人「ただ、もちろん国境を管理する城門警備隊は、そんなことはありえない、と」

女騎士「まあ、当然そう言うだろうな」

役人「ええ……、それで、ほら、その2つの組織って、管理局が違うじゃないですか?」

女騎士「あぁ」

役人「王立軍を管理する軍務局と……」

女騎士「……」

役人「城門警備隊を管轄する、内務局の間で、責任の擦り付け合いみたいなことが、ひっそりと起きてるんですね」

女騎士「はぁ……なんだかなぁ……」



役人「……ここからは、王立軍の方から聞いた話なんですが……」

女騎士「……」

役人「……軍務局も内務局も、自分たちの責任は認めたくない」

女騎士「うん」

役人「だけど、お互いに責任の押し付け合い、大人げない喧嘩をするのも、本当は避けたいはず」

女騎士「うん……」

役人「……もし、そんな状況で、実行犯は『森』の住人だった、となれば……?」

女騎士「……」

役人「王立軍も、城門警備隊も、自分の仕事に瑕疵はなかった、となり」

女騎士「……おい」

役人「……軍務局と内務局も、無闇ないさかいを避けられる」

女騎士「おいおいっ」


役人「……すっごく、都合の良い話になりませんか?」

女騎士「待ってくれ! そ、そんなの……っ!」ガタッ

役人「ひぁっ」

女騎士「それじゃあ何か!? 王立軍は自分たちの政治のために、魔女を捕らえて!!」

役人「あわわわ、おち、おちつ――……」

女騎士「都合よく罪を被ってもらおうというのか!? そんなことっ! 許されるとでも……っ!」ダンッ

役人「うぅぅ……」ビクン

女騎士「っ……、あ――……、いや……すまない……」

役人「おお落ち着いて……くださいぃ……」ビクビク

女騎士「あ、あぁ……悪かった。つい、カッとなって……」

役人「……うぅ、……女騎士さんの言うことも、分かります」

女騎士「……」


役人「ただ、もし本当に、『魔女』だったら……」

女騎士「……」

役人「多くの人は、女騎士さんのように、間違ってるって、怒ったりはしないと思います……」

女騎士「……」

役人「王都の人間にとって、『東の蜘蛛の森の魔女』は」

女騎士「……」

役人「半分はおとぎ話で、半分は実際の恐怖の対象ですからね……」

女騎士「……」



――怖い魔女が住んでいて――


――森に迷った子を捕まえて――


――醜い蜘蛛に変えてしまう――





女騎士「……」


女騎士(もし……)

女騎士(もし魔女が、捕まったりなんかしたら……)

女騎士(……あの子に味方なんて……)

女騎士(誰ひとり……)



役人「……あ、あのぅ」

女騎士「……ん?」

役人「やっぱり、止めておきますか?」

女騎士「む……」

役人「気乗りする話じゃないのは、よく分かりますし……」

女騎士「……」

役人「……」

女騎士「……」

役人「……」

女騎士「……いや、やる」


役人「え?」

女騎士「やらせてもらおう。どんな理由であれ、騎士はその務めを果たすべきだからな!」

役人「い、いいんですか……?」

女騎士「もちろんだとも! しかしなーいやーまいったなー」

役人「え?」

女騎士「すぐ行きたいのはなー、やまやまなんだけどなー」

役人「……あの」

女騎士「たいへんだからなー、うちの騎士団ー、いまたいへんだからなー」

役人「え、ええ……、その辺の事情は、よくわかりま――」

女騎士「準備だけでもなー、相当な日数かかるだろうなー。十日……いや2週間はかかるだろうなーたいへんだからー」

役人「そ、そこは、仕方ないということで、理解してもらえると思い――」

女騎士「そーかそーかー! じゃあお言葉に甘えて、じーっくり支度して、しーっかり任務にあたらせてもらおうかなー!」

役人「はぁ……」

女騎士「よぉうし、わるいまじょめー、くびをあらってまっていろー!」ハッハッハ

役人「……」ポカーン






~王都・市街~







女騎士「……」

女騎士「……」タッ

女騎士「……」タッタッタ…


女騎士(……魔女……)

女騎士(……魔女っ……)



女騎士「……」ダッ!










~都の東「蜘蛛の森」魔女の屋敷~







魔女「あらぁ」

女騎士「……」

魔女「あらあら……」

女騎士「……」

魔女「それはぁ……困るわねぇ」

女騎士「そんな悠長な……」

魔女「はぁ……どうしようかしら」

女騎士「……魔女」

魔女「えぇ」

女騎士「すまない……、こんな暴挙、私が止められれば……」

魔女「もう、また背負いこむ……」

女騎士「……」

魔女「貴方のせいじゃ、ないでしょう?」

女騎士「……けれど」

魔女「すまないなんて、言う必要ないのよ」ナデナデ

女騎士「……こんなときなのに、お前は……」


魔女「でも本当、どうしようかしらねぇ」

女騎士「……魔女」

魔女「ん?」

女騎士「……逃げてくれ」

魔女「……」

女騎士「この国から離れて――……いや、せめて森から離れるだけでもいい」

魔女「……」

女騎士「幸い、お前のことを知っている人は少ないし、王都に身を隠せば……」

魔女「そうねぇ……」

女騎士「そ、そうだ!」



魔女「うん?」

女騎士「う、うちに身を寄せたら、い、いいんじゃないか!?」

魔女「騎士さんの家?」

女騎士「あ、あぁ! そうすれば色々……、あの――、なんだ、私が匿ったり、そういうの、できるし……」

魔女「ん~……」

女騎士「……」

魔女「遠慮しておくわぁ」

女騎士「あ――……」

魔女「ごめんなさいね」

女騎士「……あ、あぁ……いや、こっちこそ……、急に変なこと言っちゃって」


魔女「うぅん……」

女騎士「だ、だがな……、できる限り早く、森を離れて、身を隠してくれ」

魔女「……」

女騎士「それまでは、私が何とか時間を稼ぐから……」

魔女「……」

女騎士「……お前には、無事でいてほしいんだよ……」

魔女「……」

女騎士「……」

魔女「……分かったわぁ」

女騎士「……そ、そうか!」


女騎士「この屋敷も、私が責任もって、荒らさせないし……、絶対に守るし……」

魔女「……ありがとうね、騎士さん」ニコリ

女騎士「……」


女騎士(……あぁ)

女騎士(……いつも通りに、笑ってくれるんだな、お前は……)


女騎士「……」

魔女「……」

女騎士「……あの」

魔女「……え?」

女騎士「また、会えるよな……?」

魔女「……すぐ会えるわよ」

女騎士「……」

魔女「……」

女騎士「……さよならって、言わなくていい?」

魔女「もちろん」

今日はここまでです






~2週間くらい後~


~「蜘蛛の森」入り口~


ザッザッ

ザッザッ


女騎士「……はぁ」

副団長「……」



ザッザッ

ザッザッ


女騎士「……」

副団長「……」

女騎士「……はぁ」

副団長「……」


ザッザッ

ザッザッ


女騎士「……はぁぁぁ」

副団長「……団長殿」

女騎士「うん?」

副団長「お疲れなのは、分かりますが……そう溜息ばかりつかれては」

女騎士「う……」

副団長「団の者の士気にも関わりますので」

女騎士「わ……分かってる」

副団長「……」



ザッザッ

ザッザッ


女騎士「……」


~~~~


魔女『遠慮しておくわぁ』


魔女『ごめんなさいね』


~~~~


女騎士「……はぁ」

副団長「……」


女騎士(……躊躇いもなく断られてしまった……)

女騎士(やっぱり、唐突過ぎただろうか……)

女騎士(……いや、結局は騎士など、アテになんてできない、とか――……)

女騎士(……いやいや! 魔女がそんな風に思うわけない!)

女騎士(でも、もしかしたら重すぎたかも……)

女騎士(魔女に、引かれてたら……)


女騎士「……」


女騎士(……結構)

女騎士(距離、縮まったと思ってたんだけどな……)


女騎士「……はぁぁぁ」

副団長「団長殿」

女騎士「あ、いや、うん。すまない」


ザッザッ

ザッザッ


女騎士(……魔女)

女騎士(ちゃんと逃げられただろうか……)

女騎士(……それらしい人物が捕まったという話は、聞いていないが……)



副団長「全員とまれー!」


騎士A「お」

騎士B「……」ピタッ


副団長「……では、団長殿」

女騎士「えー……この先を行くと、魔女の屋敷――……」

女騎士「……えっと、報告によると、そうらしい! そういうことらしい!」

女騎士「諸君らはあくまで、騎士らしく、紳士的に振る舞うこと!」

女騎士「魔女らしい人物が見当たらなくても――……いや、いると思うけど! いると思うから行くんだけど!」

女騎士「屋敷を荒らしたり、無道な真似は避けるように!」






騎士A「……団長、またシンドそうだな」

騎士B「な」

騎士A「なんでだろうな」

騎士B「さぁ……、魔女が怖いとか?」

騎士A「まさかぁ。そもそも魔女なんてさぁ……」

騎士B「でも、ほら、あそこ……屋敷あるじゃん」

騎士A「おっ」

騎士B「魔女の――……」

騎士A「……」

騎士B「……」

騎士A「……な、なんか、緊張してきたな」

騎士B「な」


女騎士(……魔女)

女騎士(……どこに行ったかなぁ)



女騎士「……はぁぁ」

副団長「団長殿!」

女騎士「あぁ……、ごめんって」

副団長「そうではなく! 前を……っ!」

女騎士「え?」クルッ



魔女「……」ニッコリ



副団長「人が……!」

魔女「……あらあら、こんなにお客様がたくさん……、ティーカップは足りるかしら」

女騎士「魔女っ……」

騎士A「魔女……?」

騎士B「魔女かなぁ」

副団長「違うかな……?」

騎士A「普通のお姉さんでは? 魔女って言ったら、もっとこう……」

騎士B「なぁ。もっと雰囲気とか、そういうのが……」

副団長「うーん……、……そこの方」

魔女「……ええと」

副団長「……」

魔女「……帽子、とんがり帽子……」ガサゴソ

副団長「……」

魔女「……」カブリカブリ

副団長「……」

魔女「はいっ!」

副団長「魔女……!」

騎士AB「「魔女だ……!」」

魔女「魔女よう」


女騎士「お前……どうして……」

魔女「うふふ、どうしてって、ここ、私のおうちよ?」

女騎士「逃げてって……」

魔女「はい逃げます、とは言ってないわぁ」

女騎士「『分かった』って言ったじゃん!」

魔女「『騎士さんの言い分は分かった』ってことよ。従うかどうかは別として」

女騎士「ズルじゃん!」

魔女「魔女だもの」フフン

女騎士「ズルい! ズル魔女!」

魔女「なによう」

女騎士「だってそうじゃん! 嘘つき! 嘘魔女ー!」

魔女「……クマ女」ボソッ

女騎士「あっ! お前なー! 人が気にしていることをだなーっっ!」


副団長「……あの、団長殿? いったい何を……」

女騎士「待て! 後で説明するから! ちゃんっと全部話すから、今はしばらく待て!」

副団長「は、はぁ……」


女騎士「どうして分からないんだっ」

魔女「分かってないのは、騎士さんの方よ」

女騎士「な……」

魔女「居場所を守るためだったら、ちょっと無理してでもがんばらないと……、そうじゃない?」

女騎士「……!」

魔女「それを教えてくれたのは、騎士さんよ」

女騎士「だけど……っ」

魔女「私は『東の蜘蛛の森の魔女』」

女騎士「……」

魔女「この森とともに生きて、この森で死ぬの」

女騎士「……」

魔女「『魔女』を森から動かしたかったら、力づくで――……」

女騎士「……」

魔女「やってごらんなさい?」

女騎士「お前……」


女騎士「……本気か?」

魔女「当然」

女騎士「私とて、騎士の端くれ、こうなった以上は――……」

魔女「ふふふ……」

女騎士「……第一班、抜剣」


チャッ

チャキ


副団長「……よろしいので?」

女騎士「相手に恭順の意思なしとなれば、実力行使しかあるまい」

副団長「しかし……」

女騎士「我々は騎士。国のため、務めを果たすことだけを考えろ」

副団長「……」

女騎士「魔女っ! これが最後の警告だ!」


女騎士「て、抵抗……しないで、くれ……」

魔女「怖いわね、騎士さん」

女騎士「た、頼む……」

魔女「でも、そう簡単に捕まるつもりもないのよ、私」

女騎士「……」

魔女「……」

女騎士「……っ、警告はしたぞ……」

魔女「……ふふ」

女騎士「全員前へ――……」


ザワザワザワザワッ

ガサガサガサッ



女騎士「……――っ!?」


女騎士(なんだ……!?)

女騎士(森が……)



魔女「……――の、薫風の祝福――……女神――の名の星より――……」ブツブツ

魔女「……reyug……zo――……tio――bo……かくあるべし――……」ブツブツ


ガサガサガサッ

ガサガサッ



女騎士「……これは」

副団長「団長殿……っ!?」

女騎士「うろたえるな! しっかり――……」

副団長「ち、違います! 足が……っ」

女騎士「なっ……」


女騎士(足が……)

女騎士(足が動かない……っ! まるで地面に、吸い付いてるみたいに……)


魔女「『森は網にして牙』」

魔女「『森は罠にして狩人』」

魔女「命は森より繁茂し森へと還る……」

魔女「さぁ、貴方達も……、その生気を森に捧げなさい……」


女騎士「なんだ……身体が……!」

女騎士(急に体が重く……)

女騎士(力が……抜けていく……)


ザワザワザワッ


騎士A「……うぅぅ」ガク

騎士B「……剣が、持てない……」カラン


女騎士「くぅ……っ、みんな……しっかり……」

魔女「無駄よ。今の貴方達は、蜘蛛の罠にかかった蝶も同然――……」

女騎士「魔女……っ、お前これ……」

魔女「うふふ」

女騎士「これ……魔法じゃん!」

魔女「うん」

女騎士「魔女は魔法使えないって――……」

魔女「あら、魔女は魔法なんて、使えないけど」

女騎士「……」

魔女「だけど、『私が』魔法を使えないなんて、言ってないわねぇ?」

女騎士「ズルじゃん……! もう……っ!」

魔女「言ってる場合かしら? このまま森は、貴方達の生気を吸いつくすわよ?」

女騎士「うぐ……」

魔女「ふふ……さぁ――……」




魔女「お眠りなさい、安らかに――」



女騎士「くっ、やめろ……!」



今日はここまでです

スレタイを回収しました

女騎士「くそ……っ」ザッ

魔女「驚いた……、まだ動けるのねぇ」

女騎士「こんな、もの……、完徹ウン日目のダルさに比べれば……っ」ザシッ

魔女「どこから来るの、その体力……」

女騎士「ふんっ……」ザッ

魔女「けれど、やめておきなさい。それ以上動けば、命にかかわるわ」

女騎士「……」ザッ

魔女「……い、命に、かかわるって、言ってるでしょ?」

女騎士「……」ザッ

魔女「やめ……やめてったら」

女騎士「魔女……」ザッ

魔女「お願いっ……やめてっ」

女騎士「ま――……」フラ

魔女「騎士さん!?」

女騎士「――」ドサッ

副団長「団長殿……!」

騎士A「団長っ」

魔女「きっ……!」ダッ

女騎士「……」

魔女「ああっ! あぁ……なんてこと! 騎士さん! 騎士さん!」ガシッ

女騎士「……」

魔女「あぁぁ……こんな、ごめんなさい、ごめんね……許して、お願い、目を開けて……」

女騎士「……」

魔女「だめ、お願いよ……騎士さん、騎士――……」

女騎士「スヤァ」

魔女「……」

副団長「……」

騎士B「……」

女騎士「スヤスヤ」

女騎士「……ウーン」

魔女「……」

副団長「……」

騎士AB「「……」」

女騎士「……ンヘヘヘェ」ムニャムニャ

魔女「……あの」

副団長「……」

魔女「……あ、……ふ、ふふふふっ! 今日のところは見逃してあげるわ! 大人しくお退きなさぁい!?」

副団長「……」

魔女「この騎士さんは……えーと、預からせてもらうわ! よ、よく寝てるし!」

副団長「……」

魔女「お、起こすと、かわいそうだし……」

騎士A「……」

騎士B「……」

魔女「ちゃんと、ベッドで寝かせてあげたいし……」

副団長「……」

騎士A「……」

騎士B「……」

魔女「……ねっ」

女騎士「……フガフガ」スヤスヤ






~魔女の屋敷・寝室~


女騎士「……」

魔女「……」

女騎士「……ん、ん」

魔女「あら」

女騎士「……ん~」ムクリ

魔女「騎士さん……」

女騎士「あぁ、魔女……おはよう」

魔女「大丈夫? 身体、痛いところない? 具合は? おかしいところない?」

女騎士「……いや? いたって快調だが」

魔女「そう、よかったぁ……」ホッ

女騎士「たっぷり眠れて、むしろ回復した気分だな!」ハッハッハッ

魔女「どうなってるのよ、貴方の体力……」

女騎士「他の者は?」

魔女「お帰りいただいたわ」

女騎士「そっか」

魔女「……、……ごめんなさいね、騎士さん」

女騎士「ん?」

魔女「私……騎士さんや、皆さんに酷いことしちゃって……」

女騎士「気にすることはない」

魔女「でも……」

女騎士「我らは務めを果たそうとした。お前は身を守ろうとした」

魔女「……」

女騎士「お互い、なすべきことをなしただけだろう」

魔女「……騎士さんらしいわねぇ」

女騎士「しかしまぁ、一瞬本気で殺されるかと思ってしまったがな!」ハッハッハ

魔女「あら、本気だったわよ」

女騎士「お、おう……」

魔女「本気……の、つもりだったんだけど」

女騎士「……」

魔女「『魔女』でいるためなら、どんな酷いことでも、するつもりだったけど……」

女騎士「……」

魔女「できるつもりだったんだけどねぇ……」

女騎士「うん……」

魔女「だめねぇ……、いざとなったら、怖くなっちゃって……」

女騎士「魔女は、優しいから」ナデナデ

魔女「ありがと、騎士さん……」

女騎士「いつもとは、反対だなぁ」ナデ

魔女「ふふ、そうね……。はぁ……、どうしようかしら、これから……」

女騎士「こうなった以上、おそらく王立軍も捨て置かないだろう」

魔女「……」

女騎士「人数も、武装も、我々の比ではない。今度ばかりは、流石に……」

魔女「……ふぅ」

女騎士「……なぁ、魔女」

魔女「うん?」

女騎士「決めたよ、私は」

魔女「……」

女騎士「もう、お前に森から離れろとは言わない……」

魔女「……」

女騎士「だが、私も森に残る」

魔女「騎士さん……」

女騎士「森で、お前を守るよ……」

魔女「だめよ、そんなの……」

女騎士「いつか、魔女、言ってくれただろ?」

魔女「……」

女騎士「ここは、私の居場所でもあるって」

魔女「だけど……」

女騎士「魔女の隣は、私の場所だって」

魔女「……」

女騎士「だったら、その場所を……今度こそ、守りたい」

魔女「……」

女騎士「最後の最後、ぎりぎりまで、どうか――……」

魔女「……仕方のない人ねぇ」

女騎士「魔女……」

魔女「……、……ありがと、騎士さん」


女騎士「はっはっは! 安心しろ! この剣が折れようと、我が心折れることなしと――……」

魔女「そうと決まれば、この屋敷にいるのは危険よねぇ」

女騎士「あ、うん、はい、そうですね……」

魔女「とりあえず、森の最奥部にでも、身を隠しましょうか」

女騎士「そうか……、……ん?」

魔女「どうかした?」

女騎士「んん……いや、待て。魔女、前に言ってなかったか?」

魔女「何を?」

女騎士「ほら……、『森の一番奥深くは、毒蜘蛛の繁殖地だ』って」

魔女「あぁ」

女騎士「駄目じゃん」



魔女「大丈夫よ。蜘蛛避けのお香っていうのがあってね……」

女騎士「へぇ」

魔女「うふふ、すごくよく効くのよ。これさえ焚いていれば、毒蜘蛛の巣に突っ込んでも、蜘蛛の方から逃げてくれるんだから」

女騎士「そんなに効くのか」

魔女「それはもう。素晴らしいって評判で……、私、とっても上手に作れるのよ」

女騎士「ふぅん――……」



女騎士「――」

女騎士(……あれ?)

女騎士(……どこかで聞いような……?)


女騎士「――ん?」

女騎士「んん~~?」

魔女「……どうかした?」

女騎士「なぁ……、そのお香があれば、森の奥深くでも普通に生活できる?」

魔女「まあ、まず問題ないでしょうね」

女騎士「……」

魔女「昔、私が作った小屋もあるし、水とか、食べ物さえあれば心配ないわ」

女騎士「……んん?」


~~~~


魔女『そう、森が魔法を使って、騎士さんの居るところを教えてくれたの――』


~~~~


魔女「……ねぇ、どうかした?」

女騎士「……前にさ、私が森で迷ったこと、あっただろ?」

魔女「あぁ、あったわねぇ」


女騎士「あんな感じでさ、森の奥に、誰か行こうとしたら、魔女、気づく?」

魔女「えぇ……? まぁ、だいたいは気づくと思うけど……」

女騎士「だいたい?」

魔女「いや、寝てるときとかは……。眠っていたら、さすがに気づかないわよ、私でも」

女騎士「……んんん?」

魔女「ねぇ、なんなのようさっきから」

女騎士「いや……、その……」



~~~~


役人『王立軍が、王都内をくまなく調査しましたが――』

役人『3人の消息は一切掴めませんでした――』

役人『あと、調査が及んでいない地域といえば――』

役人『『東の蜘蛛の森』くらいでして――』


~~~~




女騎士「……」

魔女「ねえねえ」



~~~~


魔女『そうねぇ……、お客様の中では、一番よく来るかしら』

魔女『いつも私の作るもの、いっぱい買っていってくれてね』

魔女『蜘蛛避けのお香も、織物も、どれも素晴らしいっ、なんて褒めてくれて――』


~~~~



――蜘蛛避けのお香も――



女騎士「……ん~~~~~?」

魔女「ねえったらぁ、もぉ~……」







~「蜘蛛の森」最深部・「毒蜘蛛の巣窟」~


~粗末な小屋~



ウッ ウゥッ グスッ

グスン… シクシク…


少女「……」グスッ


商人「ケッ、ガキはいつまでもピーピー泣きやがる……」

商人「おい! テメエらあんまりうるせェと、小屋の外に放り出すぞ!」

少女「っ」ビクッ

商人「そうなりゃ、あっという間に蜘蛛どもの餌だからな! 死にたくなきゃ、静かにしやがれッ!」

少女「……」ビクビク

商人「ハンッ、最初からそうやって、大人しくしてやがれ!」ケッケッケ



少女「……ぅ、ぅぅ……」

今日はここまでです

なんだかずいぶん長いお話になってしまいました…

もう一息ですので、しばしお付き合いください…

悪党A「……しっかし、見張りは交代制とはいえ、こんな陰気なところに籠ってたんじゃ、ガキじゃなくても泣きたくなってきますわなぁ……」

商人「まぁ、そういうな。もうしばらくの辛抱だ」

悪党B「外に出られるのも、夜中だけですしねぇ……」

商人「この森の魔女は、妙に勘が働くからな。念には念を、だ」

悪党A「抜け目ないですねぇ、旦那は」

商人「まぁな。デカい商売ほど慎重に……、石橋をたたいて、ってことよ」

悪党B「王都のガキは、高値がつきますからな」

商人「そうさ。特にそっちのガキなんか――……」

少女「……っ」ビクッ

商人「久しぶりの上玉だ。さぞ良い値が付くだろうよ」

悪党A「ヘッヘッヘッ」

悪党B「ケッケッケッケ」


少女「ぅぅ……」ブルブル


商人「都合のいい時に、ガキを攫っちまえば……」

商人「この『毒蜘蛛の巣窟』に押し込んでおけるんだから、便利なもんだ」

商人「ここなら、誰にもバレる心配がねぇ」

商人「それで、都合のいい時を見て『出荷』すりゃ……」




悪党B「アシがつくこともねぇ、ってわけですね」

商人「そういうことだ。……それで、だ。今度の『王都祭』がはじまったら、こいつらは『出荷』だ」

悪党A「ようやくですな」

商人「あぁ、祭りになれば城門の警備も手薄になる」

悪党B「そこを、祭りの大荷物に紛れて運び出せば……」

商人「誰にも気づかれずに、王都の外まで連れ出せるって寸法よ」

悪党B「さすが旦那だぁ」

悪党A「とはいえ、この仕事のたびに、毒蜘蛛と共寝、ってのも……中々、こたえますわ」

悪党B「お前はさっきから、そればっかりだな……」

商人「なに、いずれ魔女から、蜘蛛避けの香の調合法を聞き出すつもりだよ」

悪党A「なるほど、そうすりゃ……」

商人「もう魔女は用済み。いらなくなったら――……」

悪党B「消しちまいますか」

商人「……いや、あいつも『出荷』するんだよ!」

悪党A「なるほど、そいつぁいい!」ゲラゲラ

悪党B「さっすが旦那だぁ」ゲラゲラ

商人「なっはっはっは!」

「――あらあら、酷いこと言ってくれるわねぇ……」


商人「!」

悪党A「誰だっ!?」


ガチャリ キィ


魔女「……ごきげんよう、商人さん……」

商人「お前は……っ!」

魔女「人の大切な売り物を、こんなことに使うなんて……呆れた人」

悪党A「どうしてここが……っ」

魔女「あら、この小屋は私が作ったものよ? それにここは、私の森。貴方達のような……」ジト

悪党B「……っ」

魔女「悪人たちが、足を踏み入れていい場所じゃないのよ」

悪党A「チッ……」

悪党B「どうします、旦那……」

商人「……仕方ねぇ、とりあえずふん縛って――……」

魔女「そうはいかないわ!」ヒョイ


バシャッ

パシャ


商人「わっぷ……っ」ビシャッ

悪党A「冷てっ!」

悪党B「水風船……?」

魔女「……その液体はね、蜘蛛が大好きなフェロモンで作った、蜘蛛寄せの水……」

商人「な……っ!?」

魔女「たーっぷり濃くしたから、強力よ? お香よりも、ずっと……」

悪党A「うげぇっ」

商人「ば、馬鹿野郎! 落ち着――……」

魔女「そしてこれが、さっき捕まえた毒蜘蛛」ポイッ

商人「ひぃぃぃぃっ」ズザザ

悪党B「だ、旦那ぁ!?」

悪党A「うわぁぁ!」


魔女「……さぁ、行くわよ! 今のうちに……」

少女「魔女――……。で、でも、お外はくもが……」

魔女「このマントを羽織って。蜘蛛が寄り付かなくなるから」

少女「う、うん……」

魔女「さぁ、貴方達も、急いでっ……」


ドタドタ…

タッタッタ…


悪党A「あぁ、くそ! 待ちやがれ……」

商人「こ、こら! 暴れると蜘蛛が、こっちに気づく!」

悪党B「うわぁぁ……!」






商人「……」ビクビク

悪党A「……」ビクビク

悪党B「……」ビクビク

商人「……」

悪党A「……」

悪党B「……」

商人「……?」

悪党A「……?」

悪党B「……?」

商人「……??」

悪党A「……あっ」

悪党B「……どうした?」

悪党A「旦那! これ! この毒蜘蛛、偽物ですよ! 造りもんだ!」

悪党B「えっ……!?」

商人「畜生……、やられた!」バッ

悪党A「旦那!?」

商人「追うぞ! 急げ!」ダッ

悪党B「で、でも、蜘蛛寄せの水が……」

商人「馬鹿! ブラフだよ! 考えてみりゃ、ガキにも水がかかるかもしれねぇのに、そんなもの使うわけねぇ!」

悪党A「あっ……」

商人「クソ、あの野郎っ!」






ハッ ハッ……

ハァ…… ハァ……


魔女「ハッ……、ハァ……、もう、ちょっと……もうちょっとらから……、がんら……がんあって……」ゼヒーゼヒー

少女「うん……、魔女もがんばって……」タッタッタ

魔女(あと少しで……、森を抜け――……)


悪党C「おい、手前ェらどこへ行くんだあ?」ヌッ

魔女「……っ!」

少女「ひゃ……!」

魔女(あいつらの……仲間!?)

悪党D「こっちにもいるゼ」ガシッ

魔女「あぁっ……!」ヨロッ

少女「魔女……っ」

悪党C「ガキどもも、逃げようったって、そうは行かねぇぞう……」ガシッ

少女「きゃあ!」






タッタッタッ


商人「はぁ、はぁ……」

悪党A「おっ、あれは……」



魔女「離しなさい……っ、離して……!」ジタバタ

悪党C「暴れるんじゃねえよ!」

悪党D「大人しくしてロ!」

少女「うぅぅ……」ビクビク

悪党A「お前ら、来てたのか!」

悪党C「おう、昼間たまたま森に、騎士団の連中が入っていくのを見てな。何かと思って、こっそり覗きに来たんだ」

商人「勝手なことを……と言いたいところだが、これはお手柄だぜ」

悪党D「へへへ……」

商人「さて、魔女さんよ……」

魔女「……っ」グッ

商人「さっきはよくもやってくれたな……」

魔女「水遊びしただけでしょ。ムキにならないでよ」

悪党B「この……っ」

商人「まぁ、待て。……アンタには、まだまだ役に立ってもらいたかったが……」

魔女「……」

商人「こうなった以上は、もう放ってはおけねぇ……」

魔女「……」

商人「知らないフリしておけば、長生きできなのにな……、おい」

悪党A「へい。……へっへっへ」スラッ


ギラリ


魔女「……っ」

魔女(ナイフ……!)

悪党A「あそこまで馬鹿にされたんだ、落とし前はきっちり、つけてもらうぜ……」

魔女「……」


魔女(こんな……ところで……)

魔女「……」


魔女(騎士さん……!)


悪党A「死ねェッ!」

魔女「騎士さ――……!」


シュバッ

ガキンッ


悪党A「なっ……!」

商人「なぁ……っ!?」



女騎士「……――間一髪、だな」

魔女「騎士さんっ!!」

悪党D「なんだっ、てめっ――……」

女騎士「魔女を離せバカ者ーー!!」メゴッ

悪党D「ごっ……!」


バタンッ


商人「……」

悪党B「……」

魔女「……」

商人(メゴッって……)

悪党B(メゴッていった……)

魔女(メゴッっていったわね……)



女騎士「魔女っ!」

魔女「はっ、はい!」

女騎士「待ってろって言ったじゃん! 私来るまで待ってろって言ったじゃん私!」

魔女「ご、ごめんなさい……、でも私、居ても立っても……」

女騎士「ばかぁ……っ! もぉぉ……、心配をかけるなぁ……」グスン

魔女「ごめんなさいねぇ……」ヨシヨシ



商人(……なにあれ)

悪党B(……なにあれ)

悪党C「おいっ! じっとしてねぇとこのガキどもがっ!」グイッ

魔女「あっ!」

少女「ひぅ……っ」

悪党C「どうなってm

副団長「てぇーい!」バキーン

悪党D「むぉぎゃ」バタリ

副団長「『銀顎のオオクワガタ』騎士団だ! 神妙にしろ!」

商人「後ろから!! い、今後ろから!!」

悪党A「後ろから躊躇なく不意打ちを!!」

悪党B「それでも騎士かお前!!」

騎士A「悪党が言うセリフじゃないんだよなぁ」

騎士B「な。言いたいことは分かるけど」

今日はここまでです

連投失敬、>>1て前に長編安価書いてた人?

過去作聞いたり他作品の話持ち出したり…荒れるのが予見できんのかな…
バカにインターネット使わせるのほんとどうにかならんのかなっていう大きめのブーメラン投げとくわな

>>262
違う人ですね…
長編安価はやったことないです、すみません…

>>263
お気遣いいただき恐縮です、ありがとうございます…

ドスッ バスッ

ソッチイッタゾー!!

オラァー!




女騎士「本当に、怪我はないか? おかしいところはないか?」

魔女「えぇ、大丈夫よ……」

女騎士「怖かっただろ?」




ピストルダー!

ヤベェー!!

パンッ パンッ



魔女「怖かったけど……ふふ」

女騎士「……?」

魔女「不思議ね……、きっと騎士さんが助けてくれるって、分かっていた気がするわ」



イマダーイケーッ

バキンッ バンッ



女騎士「言ったろ、私がお前を守るって……」

魔女「騎士さん……」

女騎士「魔女……」

副団長「団長殿っ! 手伝ってください! ちょっと! 団長!」

騎士A「はぁ、はぁっ、大人しくしろこの野郎!」グイグイ

悪党A「いててっ、ぐぅ……チキショウ……」

騎士B「もう逃げられないからな!」ギリギリ

悪党B「くそったれ……いでで!」

商人「チッ……、こうなったら……!」

副団長「あっ、待て!」

商人「せめて魔女の野郎だけでも……!」カチャッ


女騎士「……!」ハッ

女騎士(ピストル……!?)

女騎士「魔女! 危ない!」バッ

魔女「きゃ……っ!」



パァン!!


女騎士「ぐ、ぅぅ、ぅ……」

魔女「騎士さん! 騎士さんっ!!」

商人「へ……っへへ」

女騎士「き――、か……」

商人「へ……?」

女騎士「効かーん!」ゴスンッ

商人「へげぇっ!?」


バタン


女騎士「ふぅ……」

魔女「騎士さんっ! 大丈夫!?」

女騎士「うむ! 何ともない!」

魔女「なんで何ともないのよ……」

女騎士「丁度、胸当てに当たってくれたからな。それに、これ……」スッ

魔女「あ、それ……、私のあげた御守り……」

女騎士「あぁ――、これに当たって、銃弾が止まったみたいだ」

魔女「……よかったぁ」

女騎士「っていうか、弾も止めるって……。魔法の御守りなのか……?」

魔女「まさか。銀貨が入っているのよ」

女騎士「……ふふ、私がお前を守るように……、きっと、魔女も私を守ってくれていたんだな」

魔女「き、騎士さん……!」

女騎士「魔女……!」

副団長「もう行きますよ、団長殿。団長殿ー」

騎士A「ほっといて撤収しましょうよ、撤収」

騎士B「な」











~数日後~


~王都 王府庁舎内~







役人「いやぁ、あの行方不明事件の犯人を捕まえたとあって、『銀顎』騎士団の名声はうなぎ上りですねっ!」

女騎士「いやいや……」

役人「王都は連日、その話題で持ち切りですよ! 私も仕事辞めて、ウワサの輪に加わりたいくらいです!」

女騎士「うん、辞めないで」

役人「まさに王都に『銀顎』騎士団あり! 嗚呼誉れあれオオクワガタ!」ジーン…

女騎士「はは、ちょっと大袈裟だな、君は……」

役人「なのに……」

女騎士「……」

役人「なのに……、本当に、解散しちゃうんですね……」

女騎士「ああ」

役人「惜しいですよ……、今なら後援したいってところも、引く手あまたでしょうに……」

女騎士「前々から、決めていたことだからな……。それに……」

役人「……」

女騎士「きっと、王都は変わるんだ。新しい、進歩した、もっと平和な都市に……」

役人「……」

女騎士「私たち騎士も、変わらなければいけないのだろう」

役人「……本当に、残念です」

女騎士「そういってもらえるのは、素直に嬉しいがな」

役人「女騎士さんのことだって……」

女騎士「私?」

役人「王立軍からの勧誘、どうして断っちゃったんですか」

女騎士「うーん」

役人「女騎士さんであれば、軍の要職だってより取り見取りのはず……、それなのに……」

女騎士「うん、まぁ……、しばらくは、剣から離れて……」

役人「……」

女騎士「色々と、考えてみたいと思っているんだ。これからのこととか……。色んなことを……」

役人「……そう、ですか」

女騎士「ああ。……君には本当に、世話になった」

役人「いえいえ、私なんて……、いつクビ切られてもおかしくない、ダメダメ下級役人ですけど……」

女騎士「いや、そんなこと」

役人「……でも、いつか……」

女騎士「……」

役人「いつか、女騎士さんが、また騎士として立ち上がる日があるとしたら……」

女騎士「……」

役人「……その時は、私が……、いつもみたいに、この窓口で、お待ちしていますから」

女騎士「……ああ。そのときは、また君に会いに来よう」

役人「クビになってなければ、ですけどね……」

女騎士「あの、うん、まあ、がんばって」






~騎士団詰所~







女騎士「――へぇ! それじゃ、二人とも?」

騎士A「えぇ、騎士Cのとこの商社で」

騎士B「アイツに話したら、『ちょうど人手が足りなかったところだ』って言って」

女騎士「そうかそうか! ……いやしかし、大変だぞ? あいつ跡取りらしいからな。顎でコキ使われる、なんてことに……」

騎士A「いえ、なに、そこはアレですよぉ」

騎士B「俺たちはアイツの、人に言えない秘密も、タンマリ握ってますからねぇ」

女騎士「なるほどな……、お前らも、なかなかのワルよのぉ……」

騎士A「ヘッヘッヘ」

騎士B「ヘッヘッヘ」

女騎士「ヘッヘッヘ」

騎士A「……団長」

女騎士「ん?」

騎士A「今まで本当に、ありがとうございました……」

騎士B「団長の下で、騎士としてやれて」

騎士A「この騎士団に入れて……」

騎士B「俺たち、幸せでしたよ」

騎士A「ありがとうございます」

女騎士「……お前たちは、最高の騎士だった」

騎士A「……」

騎士B「……」

女騎士「生涯忘れえぬ、最高の仲間だ」

騎士A「団長……」

騎士B「団長……」

女騎士「達者でな。またいつか会おう」

騎士AB「「はいっ!」」






女騎士「……ふぅ」

副団長「これで全員、次の行き先が決まりましたね」

女騎士「あぁ。……あ、いや、まだだぞ」

副団長「はい?」

女騎士「お前だよ。副団長、お前は、どうするんだ?」

副団長「ああ、いえ、私は永久就職ですので」

女騎士「えい――……」

副団長「……」

女騎士「……えっ」

副団長「……」ニヘラァ

副団長「……うふ、ふふふ、ふふふふ……」ニヘヘヘ

女騎士「……わぁ、そんな顔するのな、副団長」

副団長「ダーリンがぁ~」

女騎士「……だぁりん!?」

副団長「これを機に、一緒になってくれってぇ~えへへへへへへっ♪」デレデレ

女騎士「……」

副団長「毎朝、ミソスープ作ってくれって言われてぇ~」

女騎士「そ、そう……、おめでとう、色々意外だったけど」

副団長「そういうわけで、私は後のこと、決まってますけど……」

女騎士「ん?」

副団長「団長殿は、これからどうするおつもりで?」

女騎士「私か? そうだな……私は――……」

今日はここまでです

次回、最終回です






~王都・市街~


女騎士「……」テクテク


都民A「なあ、聞いたか?」

都民B「あぁ、『東の蜘蛛の森の魔女』だろ?」


女騎士「……」ピクン


都民A「例の事件、さらわれた子供たちを救い出したのは、あの魔女らしい……」

都民B「体を張って、犯人たちと闘ったらしい……」


女騎士「……」


都民A「森で困ったことがあると、こっそり助けてくれるらしい……」

都民B「よく効く薬も、作ってくれるらしい……」


女騎士「……」


都民A「そして美人」

都民B「美人か……」


女騎士「……」ウン




――都の東は蜘蛛の森――


――そこには魔女が住んでいる――


――優しい優しい蜘蛛の魔女――


――森で迷った子供がいたら――


――魔女が必ず助けてくれる――


――ならず者ども、悪党どもは――


――蜘蛛の森には近づくな――






女騎士「……~♪」テクテク










女騎士「……」テクテク

司祭「……女騎士殿」ヌッ

女騎士「うわっ! びっくりしたぁ……」

司祭「聞きましたぞ……」

女騎士「え」

司祭「例の魔女と、密かに通じていたそうではないですか……!」

女騎士「あ、いや、それはぁ~……」

司祭「私にも内緒で!」

女騎士「あ、あはは、色々と、深い事情があってですね……」


司祭「本来なら、魔女は相容れぬ異教徒……、ですが」

女騎士「……」

司祭「このたびの件、王都の民を守り、悪を挫くその清い心! 教会としても、認めぬわけにはいかないということに相成りました!」

女騎士「そ、そうでしたか……」

司祭「そうです! 我らが神は寛容を旨とする……です! から!」ズイッ

女騎士「わっ」

司祭「国が認めた、いち宗派として! 我々の神にも! ぜひ一度祈りを捧げていただきたいのです!」

女騎士「は、はぁ……」

司祭「女騎士殿からも、ぜひ伝えてください! 一度王都に参って、我らが教会に立ち寄るよう!」ズイズイ

女騎士「近い、近いです」

司祭「我々も72時間礼拝フルコースを準備してお待ちしておりますのでぇぇ!」ズイズイズイ

女騎士「長いです長いです、そして近い」











~~都の東「蜘蛛の森」魔女の屋敷~







女騎士「……――ということらしいんだけど」

魔女「えぇ……、いやよう、私、72時間なんて……」

女騎士「でしょうね」

魔女「丸4日じゃない。遠慮するわぁ」

女騎士「うん、3日だな」

魔女「あら? ひぃ、ふう、み……」カゾエカゾエ

女騎士「指を折るな指を。足りないだろ絶対」

魔女「学校のお勉強もしようかしら……」

女騎士「あはは、まあいいさ。魔女は魔女のままで」

魔女「騎士さんがそう言うなら……」

魔女「……思いの外」

女騎士「うん?」

魔女「早かったわね、騎士団、なくなっちゃうの……」

女騎士「まあな。……元々、無理を重ねて続けてきてたから……」

魔女「……」

女騎士「終わるとなってしまえば、流されるまま、こうなる巡り合わせになっていたんだろう……」

魔女「……つらい?」

女騎士「つらくない、とは、流石に言えないがな。でも……」

魔女「……」

女騎士「魔女が、私に居場所を教えてくれたからさ……」

魔女「……」

女騎士「騎士でも何者でもない私を、受け入れてくれたから」

魔女「うん……」

魔女「……――それで、いつ越してこれそうなの?」

女騎士「あぁ、一応身支度だけはしたけど……」

魔女「そう」

女騎士「……でも、本当にいいのか?」

魔女「何言ってるの。『一緒に暮らしたい』って言ったの、騎士さんじゃない」

女騎士「そ、それは……そうだけど……」

魔女「楽しみだわぁ。このおうちに、騎士さんが来てくれるなんて……」

女騎士「……誰かと暮らすなんて、色々慣れてなくて、迷惑かけたら申し訳ないけど……」

魔女「うふふ、今から謝っちゃうのねぇ」

女騎士「う……、出来る限りがんばるが……」

魔女「いいのよ、肩ひじ張って、がんばらなくたって。騎士さんは騎士さんのままで」

女騎士「……魔女」

魔女「……ねぇ、騎士さん」

女騎士「ん?」

魔女「好きよ」

女騎士「え? あっ、あ、わ――……!?」

魔女「ふふふ」

女騎士「わ、私もっ――!」






~寝室~



女騎士「んぅ……」ショボショボ

魔女「~♪」ナデ

女騎士「……そのうち、さ」

魔女「んん?」

女騎士「……おっきいベッド、買おうか」

魔女「……別にいいわよ」

女騎士「……だって、狭いだろ、魔女。……こうやって」

魔女「ん~……」

女騎士「二人で、一緒に横になると……」

魔女「私は、ちょうどいいと思うけど?」

女騎士「そっかぁ……」

魔女「ええ」

女騎士「なら、いっかぁ……」

魔女「もうちょっと、こっち来る?」

女騎士「うん……」モゾ

魔女「……ふふっ」

女騎士「魔女ー……」

魔女「なぁに?」

女騎士「手、繋いでいい……?」

魔女「ええ、いいわよ」ギュッ

女騎士「……」ギュー

魔女「甘えん坊さんかしらぁ?」

女騎士「……こう、してたらさ」

魔女「……」

女騎士「今夜は、夢でも会えそうな……気がする……」

魔女「いつでも、会えるわよ」

女騎士「……」

魔女「夢の中でも、明日の未来も、その先も……」

女騎士「……」

魔女「ここが、貴方の居場所で……」

女騎士「……」

魔女「私の居場所だから……」

女騎士「……」

魔女「だから――、ゆっくり、お眠りなさい」

女騎士「……うん……」

魔女「……」

女騎士「……おやすみなさい、父様、母様……」




女騎士「おやすみ、魔女」

魔女「おやすみなさい」




これで、このお話はおしまいです

最後までお読みいただき、ありがとうございました



~アフター~







~寝室~







魔女「ねぇ、騎士さぁん……」

女騎士「な、なんだ?」

魔女「内緒にしてたんだけど、私ねぇ……」グイッ

女騎士「ち、近い、近い……」

魔女「実は、他にも魔法、使えちゃうんだぁ……」

女騎士「そそそそうなんだぁ!」

魔女「ベッドの中で使う魔法なんだけどね! 私、とーっても上手なのよぉ! 見たい? 見たいわよね!」ギラギラ

女騎士「ま、ま、魔女さん! 待って! ちょっと!」

魔女「いいわよ見せてあげるわほーんとに素敵な魔法なの綺麗な夢を見せてあげる魔法なんだけどね!?」ギラギラギラ

女騎士「ひぇぇ!」

魔女「大丈夫――……」

女騎士「あっ……」

魔女「……さぁ、じっとしてて……」


グイッ ボフッ


女騎士「あ――……」

魔女「騎士さんは、そうやって、楽にしててくれればいいから……」

女騎士「……」

魔女「……うふふ、天井の染みでも数えててちょうだい?」

女騎士「……」

魔女「良い子ねぇ……、そうよ、そうやって力を――……」

女騎士「……」

魔女「抜いて……? 騎士さん――……?」

女騎士「スヤァ」

魔女「……………………………………」













~朝~


魔女「……」

女騎士「ごめんって」



魔女「……」

女騎士「違うんだって、あれは、ほら、あの、条件反射で」

魔女「……」

女騎士「なんていうか、あのベッドに入るともう、ああなっちゃうんだって」

魔女「……」

女騎士「……だから、その……」

魔女「……」

女騎士「……」

魔女「……」

女騎士(……怒ってる)

魔女「……」ムスー

女騎士(……怒ってらっしゃる)

女騎士「……」

魔女「……」トポトポ

女騎士(……あ、でもお茶は注いでくれるんだ)

女騎士「……」グビッ

魔女「……」

女騎士(……あっ、でもめちゃくちゃ薄い)

魔女「……無職で居候の騎士さんには、それくらいのお茶で十分じゃないかしらぁ?」

女騎士(そしてすっごい心抉ってくる!)

女騎士「……」

魔女「あっ」

女騎士「えっ」

魔女「元・騎士さんだったかしらぁ」

女騎士「あっ苦くなってきた! お茶いい塩梅に苦くなってきた!!」

女騎士「……ごめんってー」

魔女「……」

女騎士「ほんと、謝るから。なんでもします。この通り」

魔女「……なんでも?」

女騎士「ああ! 魔女が望むこと、なんでも! 騎士に二言はないぞ!」

魔女「…………じゃあ」

女騎士「お」

魔女「……お祭り」

女騎士「え?」

魔女「……お祭り、行ってみたい」

女騎士「……」

魔女「……」

女騎士「……『この森とともに生きて、この森で死ぬの』」

魔女「い、一日くらいいいじゃない! もう! なんでそんな変なことばっかり覚えてるのっ!」

女騎士「……お祭り、行ってみたいの?」

魔女「……本当は、ずっと行きたかったけど……」

女騎士「……」

魔女「……一人だと、怖いし……、楽しくなさそうだし……」

女騎士「……そっか」

魔女「……」

女騎士「……一緒に行こうな、今年は」

魔女「……いいの!?」

女騎士「ああ、一緒に色々、見て回ろう」

魔女「……!」パァァ

女騎士「……私も毎年、王都祭は警備だったし……、見る側に回るのは初めてかも……」

魔女「そうなの? じゃあ私たち、初めて同士ね!」

女騎士「ははは、そうだな」

魔女「じゃあ、じゃあ!」

女騎士「うん」

魔女「一緒にいっぱい、遊びましょうね!」

女騎士「ああ、もちろんだ」

魔女「……わぁ!」

女騎士「魔女と一緒に……」

魔女「騎士さんと一緒に!」




~(ほんとに)おわり~

お読みいただいた方、ありがとうございました

コメントくださった方、とても励みになりました。ありがとうございました

また機会があれば、またどこかで、またお会いできたら幸いです

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