高垣楓の晴飲雨飲 (86)

適当にダラダラ書くよ
露骨な販促注意

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1499266010

【東一本格梅酒 ナトゥラーレ】

バラエティで手酷い失敗をしてしまった。

思い出したくもない。いや、忘れたい。

そんな時は酒に限る。

高垣楓は自室のテーブルの上に鎮座している、酒瓶を見つめた。

『東一 本格梅酒 ナトゥラーレ』

You are what you buy.

楓は、どこぞの百貨店のキャッチフレーズを思い出した。

普段であれば、梅酒を好んで飲むことはない。

もっぱら辛口の日本酒か、たまに焼酎といった具合である。

甘ったるい梅酒はなんだか、一人前の立派な飲兵衛(ダメ人間)としては邪道のような気さえしていた。

にも関わらず、とっさにこれを購入したのは、

彼女が今1人だからであろうか。

気のいい友人達は、皆仕事が入ってしまっている。

楓を甘やかすなり、慰めるなり、酔いつぶれた後の介抱なり、誰かにして欲しかったが…。

時刻は午後3時。まっ昼間とは言えないが、酒を飲むには早すぎる時間。

だがしかし、楓の肝臓は24時間フル稼働。

ロシア人のATPだってなんのその。

飲みたい時に飲む。

アイドルという仕事がなかったら、朝からパジャマのままコンビニへ行って、

『鬼ころし』のパックでまず一杯やりたいとさえ思う。

楓は適当なコップに、梅酒を注いだ。

黄金色の液体が、トクットクッっと満ちていく。

まずはストレートで、一杯目をゆっくりと煽った。

「ほぅっ…」

思わず声が漏れた。

結構昔に飲んだ2Lパック千円以下の梅酒とは格が違う。

酒が苦手な者が、ごまかしで飲むような代物ではない。

初めは漬け込みに使われた米焼酎が、ふっと香る。

鼻につくような刺激はなく、舌を少しくすぐるくらい。

その後に、たおやかな梅の風味が口に広がり、

こくんと飲んだときに、上品な甘さとともに引いていく。

“香り付き(フレーバード)”のリキュールとしては

かなり上等な部類に入るだろう。

後に引かない甘みであるので、きっと味の濃い肉料理にも合う。

そう思いつくといてもたってもいられなくなり、

冷蔵庫の中を覗き込んだ。

つまみはない。

が、少ししなびた豚こま肉が入っていた。

今から店に行くのも面倒であったので、それを取り出した。

料理をするのは、かなり久しぶりであるし、得意でもない。

よって、簡単なものしか作れない。

楓は、まず豚肉に片栗粉をまぶした。

酒の席で、誰かが言っていた。

ぱさついた肉に片栗粉をまぶすと、しっとりとした口当たりになる、と。

皿を汚すのも面倒だったので、スチロールパックの中にそのまま

片栗粉をぶち込み、箸でぞんざいに混ぜた。

そして油を引いて熱したフライパンに投入。

焦げ目がついたら調味料を適当に、

醤油と酒、砂糖をおなじくらい。

そのタレが粘ってきたら、皿に移す。

照り焼きのつもりであったが、ダマがいくつかできて、

白い斑点が散っていた。

それも構わず、楓は照り焼き“もどき”を頬張った。

悪くない。

いや、適当に作ったにしては上等。

片栗粉と調味料によってできた“あん”が、豚肉から失われていた水分、

食感をうまく補っている。

火加減がよかったのか固過ぎず、ふにふにと柔らかい。

味については、酒によく合うあまっじょっぱさ。

キッチンに持ってきていた梅酒を、瓶に口をつけて、

ちゅるちゅるとすすった。

先ほどよりも梅の風味が強く感じられた。

しかしその風味は、やはり口に残らず、すっと引いていく。

それから楓は料理(のようなもの)と酒を交互に口に含み、

皿と瓶をあっという間に空にしてしまった。

「しあわせ…」

誰にともなく、楓はつぶやいた。

随分と単純な人間ですね…。

自身でそう思って、笑った。

仕事の痛みがだいぶ弱まった。

「ナトゥラーレ(そのままで)いなさーれ……ふふっ」

今度は面白いオヤジギャグを言わなきゃ、と楓は一息ついた。

『東一本格梅酒 ナトゥラーレ』は佐賀県五町田酒造の梅酒。
720mlで1000円前後。

次回はズブロッカ。このスレに書き込む。

買ってみようかな

>>15
最近は『木内梅酒500ml』が持て囃されてるけどナトゥラーレの方がコスパ高い
木内酒造はホワイトエールの方が美味しい

【ズブロッカ】

高垣楓が、うっすらと翡翠がかったボトルを抱えて自室に戻ったのは

深夜1時をまわった頃。

昨日は9月19日。アナスタシア20歳の誕生日。

ロシアでのライブを終えた楓は、

彼女にプレゼントと、このボトルを土産に持ってきた。

しかしこのŻubrówka、ズブロッカをアナスタシアに、

「ロシアのお酒ですよー」と見せるよ、彼女は苦笑いした。

あれ、と思ってラベルを見ると、Made in Polandの刻印がされていた。

楓はいたたまれなくなって、ボトルを下げた。

誕生日会で他の酒が振る舞われたが、正直味を覚えていない。

楓の表情は笑顔だったが、内心非常に気まずかった。

「アーニャちゃんがあーにゃるのも無理はない…ふふっ……」

自室に戻ると、なんだかライブ以上に疲れ切っていた。

楓の中では、疲れた身体には度数の高い酒と相場が決まっている。

数時間前散々飲んだにも関わらず、楓はズブロッカのキャップをひねった。

芳香がふっと鼻をつく。

バイソングラスという香草が入っている。

何かに似ているけれど、なんだったかしら…。

楓はショットグラスに薄緑の液体を注いだ。

まずはストレートで、ぐいっと煽った。

強い酒のはずだが舌は痺れなかった。

その代わり先ほど克明な香りが、身体を突き抜けた。

それは桜餅だった。

よもや日本から遠く離れた異国の森で、

かような香りを醸し出す草が生えていようとは。

次に楓はトワイスアップグラスに、水とズブロッカを1:1の割合で流し込んだ。

それで二度目の杯。

アルコールの刺激がより丸くなって、香りがさらにわかりやすくなった。

これは間違いなく桜餅。

楓は確信した。

先ほどの憂鬱はどこへやら、彼女は冷蔵庫や棚をまさぐって、

つまみを探した。

しかし、ズブロッカは“立ちすぎている”。

ウィスキーやブランデーよりもやわらかい香りなのに、自立心が非常に強い。

チーズやスモークサーモンとは仲良くなれない。

楓はロックグラスにズブロッカと、

富士山麓の水から作った氷とソーダ(炭酸水)を入れた。

それで一口。

香りが少し穏やかになった。

次に口に放ったのは、塩気のつよいピスタチオ。

はじめは色味で選んでいたが、これがよく調和していた。

妙齢のナッツの女王は、ポーランドの森の少女にいたく寛容であるらしい。

ピスタチオの、あのなんとも言えない風味が、桜の木にすずなりにつながっていく。

気分はさながら花見か、初夏の行楽。

だが度数が高いことに変わりはなく、朝、楓はひどい二日酔いに悩まされた。

瓶が空になるまで飲めば、さすがにこうなる。

結局その一日中、楓はトイレにて懺悔を行った。

【ズブロッカ】ポーランドのフレバードウォッカ。本当に桜餅。
キンキンに冷やしてショットグラスで飲むのがおすすめ。

ナトゥラーレに関する補足.
KALDIに売ってる栄光酒造の七折小梅がけっこう近い味

次回はシーバスリーガル12年ミズナラ

シーバスリーガル12年ミズナラじゃなくて、『シーバスリーガル ミズナラ12年』だった
すまん

【シーバスリーガル ミズナラ12年】

海外のウィスキーは味もさることながら、デザインも洗練されている。

高垣楓は、テーブルの上に厳かに鎮座しているボトルをしげしげと眺めた。

光沢のある青碧のラベリングと、琥珀色のコントラスト。

首回りの扇情的なくびれ。

ウィスキーは男性的な酒だという人がいるが、

この『シーバスリーガル ミズナラ12年』は女性的である。

もう辛抱たまらんと楓はキャップをひねった。

一杯目はショットグラスでぐい。

楓は目を見開いた。

聞くところによれば、

このウィスキーは日本原産のミズナラ樽で熟成させたのだという。

そのせいか、通常のオーク樽で寝かせたものよりも口当たりがやわらかく、

度数は高いけれども、風味はまろやかである。

それでいて物足りないということもない。

何杯でも飲めてしまう危険な酒。

「肝臓は大事にしないといかんぞう…ふふっ♪」

いけないいけないと思いつつも、楓はキッチンへ行って、

ミズナラ枡を取った。

ウィスキー用として以前購入したものだ。

度数の高い酒をストレートで飲むには大きすぎるし、

ロックやハイボールで飲むには無粋だからあまり使っていなかったが、

今が禁忌の扉を開くとき。

まず枡の香りを深く吸い込んだ。

それからウィスキーを注いで、一思いに飲み干した。

楓は、静かな森の中で燦々と陽光を浴びる大樹を幻視した。

酔いゆえか、その風景の美しさゆえか。

彼女は少しめまいを覚えた。

しばしの休憩の間、楓はつまみについて考えた。

このお方には、なにが合うのかしら。

チーズやビーフジャーキーは彼女を殺してしまう。

ナッツやクラッカーが相手では役不足。

頭がうまく回らないので、楓は糖分を摂取することにした。

冷蔵庫から、いつ買ったのか忘れてしまった板チョコを取り出す。

そしてひとかじり。

チョコも高望みすれば一枚1000円以上のものが選べる。

だけれど、楓にとってのチョコは一枚税込95円の、

赤いパッケージのミルクチョコである。

これで十分…とそう考えた楓の脳内に電撃が走った。

チョコレートを舌で舐め溶かしながら、再びウィスキーを口に含んだ。

これだ。

すぐには飲み込まず、

チョコレートが琥珀色に溶かされるまで、ゆっくりと味わった。

2人がワルツを舞っている。

プロデューサー高垣楓が手がけたペアユニットは、大成功した。

チェイサーのミネラルウォーターで口直しの後、

今度はウィスキーをぐいと飲み干した後に、チョコレートを頬張った。

訪れた幸福を、楓は青春と名付けた。

今の感動を、皆に広めずはいられなくなった。

「私たちが好きなのはうぃすきー…ふふっ…」

だが、川島瑞樹と片桐早苗が彼女の部屋にやってきた頃には、

ボトルは空になっていたのであった。

シーバスリーガル ミズナラ12年…このSSの作者が友人に恵んでもらったウィスキー。もちろん実在
ブラックニッカで満足していたバカ舌をひっくり返された

とはいえ現収入ではジョニ赤が精一杯である
無念

次回はデルスール カベルネ・ソーヴィニヨン(相場は500円前後)

こんなにも酒が飲みたくなるssは初めて読んだ

>>44,45
ありがとうございます

ちなみに脳内設定では楓さんがつまみを食べるシーンに
Goose houseの『光るなら』がBGMで流れてます

【デルスール カベルネ・ソーヴィニョン】

昼頃、チャイムが鳴った。

楓はいそいそと玄関まで向かい、荷物を受け取った。

最近なにかと悪い噂の多いネット通販であるが、

気軽に外に出れない人間にとっては心強い味方である。

必要以上に頑強な包装材をはがしていると、

楓はふと、無名時代が懐かしくなった。


生活は苦しかったが、先輩芸能人にくっついて、

居酒屋を何件もはしご(もちろんおごりで)していた。

トップアイドルとなってからは

“酒にだらしない”というレッテルを貼られないよう、

外で飲むには細心の注意を払わなければならなくなった。

それでは酒が美味しくない。

なので、宅飲みがめっきり増えた。

ダンボール箱の中身は、乾燥パスタ5kgと

『HEINZ大人むけのパスタ 』シリーズ各4袋。

シルスイキツツキの絵がラベルにプリントされた、赤ワイン。

全て食べるわけではないが、つまるところ楓のお昼ごはんである。

彼女はパスタ250gと適量の水をプラスチックの容器に入れて、レンジにかけた。

火を使うのすら億劫なほど、料理は不得手である。

「あっちいのはあっちに…ふふっ」

容器を取り出して、次に皿に注いだパスタソースを入れる。

大人向けの味…。

真昼間から酒を飲めるくらいには健全な大人である楓は、

ソースの風味に思いを馳せた。

最悪、ワインに合えばいいか。

そう考えていたら、目の前でソースが爆ぜた。

ワット数を間違えていたのと、ラップをかけわすれたのが仇になって、

レンジ内は阿鼻叫喚の地獄である。

慌てて加熱を止めて、ミトンで皿を取り出す。

それでもなお熱い。

「奈緒熱い…あちち…」

燃えてるんだろうか。

そんあ風にふざけながら、冷たいキッチン台に皿を置くと、

真っ二つに割れてソースが一面を汚した。

電子レンジでの調理ですらこの有様。

やってられっか!!

惨状から目を背けて、彼女は酒に逃げた。

グラスとつまみ各種を抱えて、ワインが待っているリビングへ。

スクリューキャップは安っぽいと言われるけれど、

楓にとっては手間が少なくて好きだった。

ワイングラスに、黒とも紫ともつかない、

妖しい液体が注ぎ込まれる。

香りなど楽しむまでもなく、かぶりつくように一杯。

南米ワインは、低価格でも風味やタンニンの渋みがしっかりしている。

口あたりはややザラザラしていて、3000円以上のワインに比べると物足りない。

楓も駆け出しの頃は安ワインを飲んで、

「もっと良い酒を飲むんだ」と意気込んだものだが、

今ではこの味がすっかり気に入ってしまっている。

肩肘張らないで、気軽に楽しめるからだ。

「台所は、後でキッチンと片付けなきゃ…ふふっ…」

葡萄の品種やワイナリー、土壌などの知識は楓にはないが、

酒を楽しむことにかけては、彼女に並ぶ者は少ない。


今日の彼女のつまみは、コンビニで2日前に買ったティラミスと、

焼き鳥の缶詰、それからチーザ(チェダーチーズ味)。

なんとも形容しがたいラインナップである。

楓はまずティラミスをごっそり半分すくって、頬張った。

ココアのほろ苦さが先立って、

そのあとにマスカルポーネと穏やかな甘さ、最後にまたコーヒーの苦さ。

上等なティラミスには、

味にしっかりと波があって、さらに、それらが調和している。

コンビニだからと言って侮れない。

もう半分を飲み込んだ後で、楓はしまったという顔をした。

普通に食べちゃった…。


ばつが悪くなって、彼女はいそいそと焼き鳥の缶詰を開けた。

濃厚なタレの香りは、かいでいるだけ胃がもたれてくる。

しかしこれくらいの方が酒には合うもの。

つまようじで鶏肉とひとかけら突いて、口に運ぶ。

二の轍を踏まないよう、今度はすぐにワインを飲んだ。

甘じょっぱいタレと、アルコール13%の穏やかな刺激が、舌をくすぐる。

それでいて、後に引かない。

味の濃い肉料理と酒は永遠の友である。

きっと地球が滅びたとしても、よその星の食卓で仲良く肩を並べていることだろう。

焼き鳥を残らず平らげた後、楓は、ふうと一息ついた。

やっと胃におさまるべきものがおさまった。

といっても量は少ないから、程なくしてチーザを開封した。

このスナック菓子は香料のせいか、

生のチーズ以上にチーズらしい匂いがする。

チーズ嫌いの人間がこの場にいたら、顔をしかめて退散することだろう。

しかし楓は匂いの強い食べ物が大好物である。

理由は言うまでもない。

穴ぼこが空いた三角形のスナックを、4枚まとめて噛み砕く。

トップアイドルの財力がなせる荒技である。

新しくグラスにワインを注いで、ぐいっと飲み干す。

しょっぱい。渋い。

一般的に悪いイメージを持たれがちなこれらの風味は、酒となると価値が一変する。

さらに組み合わせると、それは一種の芸術となる。

ワインの荒波の中で、チーズの風味がもがいている。

必死に負けまいと。

涙すら誘う、つらい情景である。

だがゆっくりと力尽きて、どこかへ流されていく。

楓は鼻をすすりながら、新たなチーザ、

今度は5枚を頬張って、嚙む前にワインを加えた。

生きたまま身体をむしばまれる、チーズの悲痛な叫び声が

舌を楽しませてくれる。

サディスティックな喜びが楓の脳を駆け巡った。

そうやってワインを楽しんで入ると、うとうと眠気がやってきた。

キッチンで慣れないことをしたせいだ。

楓はそのまま睡魔に身をゆだねた。

明日の私、頑張って。今日の私が味方だから…。

そんなことを考えながら、彼女は横になった。

だらしねぇなぁ...

とてもいいですね

【デルスール カヴェルネ・ソーヴィニョン】
…チリワイン。作者の近所では480円で売っていた。
 感動を通り越して恐怖すら感じる価格破壊である。
 
 南米のワイン全般に言えることだが、価格に対して味がしっかり
 なので葡萄の品種を覚えるのに最適

 コノスル全種類飲み比べてみてえ…

 

>>61
もともとはちゃんと料理させるつもりだったのに
なんだか楓さんが勝手に動いた

不思議な感覚

次回はバドワイザー(ビール)

ビール編書き終わったら一区切りで依頼出す

うわあ “ベ”と“ヴェ”が混ざってる…すまん

精飲に見えて読みはじめたけどBSの番組っぽい

>>68
BSではないが久住昌之原作のグルメドラマは意識してた

キャッツ対火星オクトパス。

その試合が行われるスタジアムの前に、楓はいた。

姫川友紀を待っているのである。

周りの中年男性らは、脳の認識野を300%野球に侵されている

(観戦時のみ人外じみた観察・思考能力を発揮する)ので、誰も楓に気づかない。

綺麗な人だな、と少し顔を向ける程度である。

【バドワイザー】

さて、楓がはじめての野球観戦をするにいたった理由であるが、

彼女はべつに、キャッツ教に入信したというわけではない。

炎天下、さらに観客の熱気の中で

キンキンに冷えたビールを飲むという、夢を叶えに来たのだ。

出来ればライブ中に飲みたいなあ、と彼女は考えていたのだが

そういう傲慢が許されるほど、世間は甘くない。


このように動機は極めて不純であったが、友紀はそれに不平を言うことなく

チケットを取ってくれた。

持つべきは良き友、まったくその通りである。

タクシーでやってきた友紀は、両脇にクーラーボックスを抱えていた。

楓が尋ねると、中身はビール1ケース分だという。

ビールガール/ボーイを呼ぶ手間さえ惜しいようだ。


スタジアムに入ると、内部の空気はうねっていた。

人々の体内エネルギーが生む謎の空気力学である。

試合が始まる前、まず2人で乾杯をしようと思い、楓はクーラーボックスを開けた。

見たこともないパッケージのビールが、氷水の中でくつろいでいる。

「バドワイザー、飲んだことない?」

ぷしゅっとプルタブをつまみあげて、友紀が言った。

お外”のビールかと思って背面のラベルを見ると、

原産地は日本になっていて、しかも原材料が麦芽、ホップ、それから米。

ええい考えるのが面倒だと、楓もビールを開けて口をつけた。

現在の天気は、予報に反して曇り。

楓の表情も曇った。

水っぽい。薄すぎる。

プロダクション内随一のビール通(20歳)の選択としては、腑に落ちない。

Asahiのスーパードライの方がキレがあるし、YEBISUビールの方が風味が豊か。

何故と楓は思ったが、チケット代もビール代も払っていないので、

不平を言うわけにはいかない。

試合が始まると、友紀は缶を放り出して歓声を上げた。

その時、楓の髪がふわっと巻き上がった。

会場の皆も声を上げている。

すごいなあと他人事のようにそれを眺めつつ、楓はちびちびとビールをすすった。

8回表。

1-5とキャッツは劣勢であった。

こちら側の観客席は、友紀1人をのぞいて静まり返っている。

野球のことはめっきりわからない楓であるが、なんとなく絶望を鼻で感じ取った。

「打者がくたばったーらおしまい…」

友紀に殺意の篭った視線を向けられ、楓はぷいと顔を逸らした。

そんななか、雲間から陽光が差す。

予報が正しければ、38℃の熱線がスタジアム内に降り注いだ。

じわりと、楓の白いうなじに汗が浮かんだ。

そこで彼女は、ビールの印象が変化するのを感じた。

爽やかな氷水、いや、北海に浮かぶ冷たい流氷がそのまま喉を通過しているようだ。

キャッツの選手が1,2塁に出た時、試合の流れが変わった。

観客の熱気も増幅した。

「かっとばせーっ!! かっとばせーっ!!」

友紀の声援も、ますますヒートアップした。。

楓も加速した。

がっと一息に飲み干し、次の缶へ。

彼女はさながら、落水を吸い込む大きな滝壺であった。


さらにスリーランホームラン。

会場は爆発した。スタジアム全体が轟音を立てて、足元が揺れる。

そこで発生した熱エネルギーは、美城の舞踏会もかくやと思われるほどであった。

試合は、6-5でキャッツの勝利。

汗でぐっしょりと濡れた服をぱたぱたとやりながら、友紀は息をついた。

そうだ、ビール。

彼女はそう思ってクーラーボックスをまさぐったが、

そこにあるのは無数の空き缶のみ。


同伴者は、安らかな寝息を立てていた。

バドワイザー…水代わりにガブガブ飲める

ビールが苦手な人は『水曜日のネコ』を飲め、とよく言われるが
作者は断然バドワイザー推し

国産品なので価格も350mlで200円前後と、大変お手頃
作者の近所ではなぜか瓶タイプしか売っていない…

とりあえずここで一区切り

前作

大和亜季「私の戦場」

二宮飛鳥「ダブルブラインド」

まとめサイト見てきたけどエロSSと勘違いする人が多くて草
同一人物がコメしてるのかもしれんが

SS書いた感想なんだけど
楓さんの梅酒に関してはリサーチ不足だった
公式で梅酒に関するセリフあったし

あとは自分が日本酒あんまり好きじゃないから
二次創作とは言えど楓さんに飲ませてあげられなかったのが残念

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