【デレマス】アイドルも思春期 (23)


※アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。



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 唐突ではあるが小日向美穂は純情な少女である。純粋と言ってもいい。この荒んだ現代において珍しいほどに純という漢字の似合う、汚れを知らない少女だ。まさしく天性のアイドルである。
 アイドルは排泄なんてしない、なんて拗らせたファンが極々稀に主張することもあるが、小日向美穂であればそれも何もおかしくはないのではないか、とすら感じさせるほどである。

 ──とは言っても、である。

 彼女とて、十七歳の少女である。年頃の女の子である。つまりは年相応に教育を受けた年齢であるということであり。
 つまりは今、彼女の目の前に存在してあるものが何なのか知らないなんてことはなくて、確実に、はっきりと、間違いなく認識できているということである。
 何が置いてあるかって、それは。


(え、え、え、えっちな本!?)

 そう、いわゆるエロ本である。
 このご時世、デジタルが持て囃されアダルトコンテンツも片手で持てる携帯端末ひとつあればそれで済むと言われているようなこんな時代に、エロ本である。
 それも、なぜか事務所に。
 部屋の奥に設置された、共用のテーブルの真ん中に自己主張激しく置いてあるのだから、否が応でも目に入る。見なかった振りをしようにも目立ちすぎていてさすがに見ない振りなんてできない。

(だ、誰かの忘れ物かな? え、誰のだろう? え、え、え?)

 戸惑いつつ、ちらちらとテーブル中央を見ながら、誰のものかを考えてみる。

 とは言ってもこの部屋を使う人間は限られている。アイドルか、事務員、プロデューサー。他は少しの時間ではあるが業者の人などがメンテナンスで入ってくるくらいか。
 ……いや、いやいや。
 いくらなんでも職場にこんなものを持ってくる人なんているわけがない。

 こ、こんな……こんな……ごくり。

 なんとなく、生唾を飲み込む。
 小日向美穂は汚れなき純情無垢なアイドルである。純白の翼を持つ天使と言っても過言ではないし、大天使チエリエルと双璧をなす熾天使ミホエルということは今さら説明する必要もないほどに世界の常識ではあるけれども、しかし。

 ──天使とて、十七歳の女の子であることにはちがいない。


 年相応に、気になる。汚れなきアイドルであっても、気になるものは気になるのだから仕方がない。思春期というものは誰にだって訪れるものであり、辿るものであり、過ぎていくものである。
 たとえ彼女がアイドルであり、汚れなき少女であり、小日向美穂だとしても思春期は平等に訪れるものなのだから、えっちな本に興味を抱くのは何もおかしいことではない。
 むしろ、十七歳にして初めて目撃し、見てみたいと思うなんてこと自体が既に天然記念物染みている。大抵の思春期の青少年少女であれば、十四歳で洗礼を受けているのが世界の常識である。

(……す、少し見るくらいなら)

 いいよね。誰に確認を取ったのか、或いは自分への免罪符なのか。

 美穂は辺りを少し見渡す。人の気配はない。今、この部屋にいるのは自分だけだ。隠しカメラの可能性はさすがに美穂は考慮できていないけれど、とは言えアイドルに仕掛けるどっきりにしてはたちが悪い。
 清純正統派キュートアイドルとして売り出している小日向美穂に対して、エロ本を見たときの反応をうかがってみたなんてどっきりを仕掛けた日にはテレビ局はその日のうちに大炎上して木っ端微塵だ。
 過激派ミホニストによる壮絶な襲撃が予想される。

 すぅ、はぁ。深呼吸をして、あらためて机の上にあるエロ本に向き直る。
 今は誰もいないのだから……いや、そもそもこれを誰かが見てしまったらいけないし、ましてや子供たちの目に入ってしまったらいけない。中身を正しく確認して、まずいものだったら自分が然るべき処理をしなければいけない。その場合、一度持ち帰ることも吝かではない。
 そのあたりに捨てていくわけにはいかないし、これは仕方ないことなのだ。

 ごくり、生唾を飲み込んで。
 ページを、開いた。


「……………………う、うわわわ」

 凄い。物凄い。やばい。たいぎゃやばい。何がどう凄いのか、やばいのかを具体的に言うことは、さすがにアイドルとして、乙女として、少女として、或いは善良なる一般人として、できないけれども、とにかくやばいし、凄かった。
  まさしく未知なる世界。知っているはずの人体であるというのに、そのようなことになっているとは、そんな使い方をするとは、いやいやなにこのグロテスクな電動マッサージ機は、みたいな。
 これ以上はさすがに、と思いつつもついつい続きをめくってしまう。ホラーを誰よりも怖がる人が、しかし何故かホラー系のものを見てしまうような、そんな現象。
 怖いもの見たさとはげに恐ろしきものである。


「あわわ………ふわわ……はわわ」

 美穂は相変わらず顔を真っ赤にしながら、たまに本を遠ざけたり、目を覆ったりしながらも読むことをやめない。
 けっして官能的ではない、ただただ純情な少女が慌てているだけの変な声を出しながら、エロ本を読み耽る。
 それはもう、真剣に。
 既に美穂の意識は本の中にあり、まるで周りに意識がいっていない。

 なので──誰かが近付いてくる気配など、一切気が付くはずもなく。

「フフーン、カワイイボクがお仕事から戻りましたよ!」


「ひゃああっ!?」

「わあっ!?」

 美穂は本を机に広げた状態で、輿水幸子の入室を許してしまった。
 ま、まずい、まずすぎる。この状況、ひどくまずい。美穂は慌てるが、しかし状況は変わってくれるはずもなく、相変わらず幸子はいるし、机の上にはエロ本が広がっている。
 幸いとするなら、幸子が入ってきた入り口から机の上にあるエロ本はかろうじて美穂の身体のおかげで見えない位置にあることで、今すぐに気付かれるということはないことだろう。
 しかしそれも時間の問題でしかない。


「な、なんですか美穂さん、そんな声を出して。びっくりするじゃないですか。おや、何か読んでいるんですか?」

 なので、少しでも幸子が動けば当然、何か雑誌らしきものを広げているということは遠目でも確認できてしまうのだ。
 しかし、何を読んでいると聞かれると答えに困る。何を読んでいるというか、ナニするものを読んでいます、なんて正直に答えるわけにはもちろんいかない。
 正直に答えた日にはドン引きされてから物凄く気を遣われてしまうことが目に見える。言い触らされたりするよりもいたたまれない、優しさの拷問である。

 まあ、美穂という天使がそのような言葉を使うはずもなく、そもそもナニをする本です、なんて発想をこの場で思いつくほどに余裕もない。
 美穂の頭にあるのは、ただシンプル。
 如何にこの場を乗り切るか、だけだ。
 限りなく不可能にちがいないことを如何に可能にするか。不可能を可能にすることができる熊本女子になれるかだ。

「ね、ネクロノミコンの断章……?」

「いや、なんですかそれ……蘭子さんの日記ですか?」

 もっとまともな言い訳あるよね!?
 自分の口から出た思いもよらない言葉に思わずセルフでツッコミ。寝る前に読んでいたファンタジー小説の影響か。
 いや、確かに、蘭子の日記は少し読んでみたい気がするチョイスではあるけれども、そんな可愛いものではない。
 どちらかと言わずとも真逆の位置に存在する代物だ。


「ところで美穂さん、聞いてくださいよ」

「ストップ。ステイ。フリーズ!」

「……はい?」

 悪魔の本、もといエロ本、さらにもとい、それが置いてある机、ひいては美穂に近付いて来ようとした幸子を、思わず犬のようにその場に止める。
 律儀に止まる幸子は、しかし頭の上にクエスチョンマークを浮かべているような、怪訝な顔をしていた。
 当たり前である。いきなり、犬にするような指示で、しかも日本式の待てじゃなくて海外風に止められたら幸子でなかったとしてもわけがわからない。
 というか最後のフリーズに至ってはドーナツかじってるアメリカ警察だ。椎名法子の憧れる職業トップランカーという噂があるとかなんとか。嘘だけど。


「幸子ちゃん、そこから一歩でも動いたら……ひなたんビームを撃つよ!?」

「むしろ撃たれてみたいですねぇ」

「お、脅しじゃないんだから……!」

 自分は脅されていたのか、と思わず幸子は呆気に取られる。ひなたんビームに果たして脅しとして利用できるほどの威力があるのかどうなのか幸子は寡聞にして知らないが、さぞかし威力があるのだろう。
 撃たれた日にはきっとメロメロ間違いなし。ハートウェーブピリピリンだ。
 しかし今日の美穂さんは何かおかしいですね、と幸子は考える。いつもであれば笑顔で迎えいれて仕事の疲れを癒すように膝枕でもしてくれるところなのに、今日は近寄ることさえ許されないとは。

 ……いや、嘘だ。ただの願望だ。
 膝枕なんて、滅多にしてもらえない。


 もちろん、美穂としては望まれれば膝枕をすることはやぶさかではないだろうし、きっと困り笑顔で受け入れるのだろうが、しかし今はそれどころじゃない。
 エロ本を始末しないことには膝枕もなにもない。
 膝枕をして読み聞かせる本がエロ本だったとしたら、世紀末極まる。

 さて、と幸子は固まった状況を動かすべく、思考する。
 挙動不審ながら美穂の動きには一定の法則がある。幸子が身体を動かせば、微妙に動く。一部の角度のみを遮るように身体をずらしていることがわかる。
 机の上、つまりは本を隠している。
 何かを読んでいるということは部屋に入ってきたときにチラッと見えたが、中身までは見えなかった。ということは見られたくないものを読んでいるのか。


 それが何なのかまでは、さて見当はつかないけれども、本を隠しているということは間違いない。
 隠さないといけない、本。
 ………………………。
 幸子の14歳という思春期の脳がフルに回転して、答えを導き出すのに、そう時間がかかることではなかった。

「…………えっと、美穂さんも、その、お年頃ですからね?」

「なななな、なんのことかな!?」

 この反応が何よりも答えを教えているようなものだということに、残念ながら美穂は気付いていない。


「い、いえ、けっして引いてたりなんてしませんよ! むしろ美穂さんもそういうのに興味があるんだなって感心したくらいで!」

「そういうのってなんなのか私知らないなー! まったくわかんないなー!」

 往生際が悪いと言われようとも、素直に認めてしまうわけにはいかなかった。
 女の子として、アイドルとして、熊本女子として、エロ本を読んでいましたなどと素直に認めることはけっして許されない。ましてや幸子に、年下の女の子にエロ本を読んでいましたなんて言えるほどに美穂は図太くはなれない。
 というか、普通に恥ずかしい。
 バレたら最後、熊本に帰って二度と家から出られなくなるってくらい。 

「美穂さん、大丈夫です。誰にも言いませんから、安心してください」

「だ、だから私──え、えっちな本なんて読んでないからっ!」


「…………っ………っ!」

 一言もえっちな本なんて言ってないです、とツッコミたいところだったが、幸子はぐっと堪えた。
 それが、せめてもの情けだった。




おわり

赤面しながらえっちな本を読む女の子というロマンだけで書いた

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