ガヴリール「サターニャ、好きです!」 (33)

「好きです」

 なんて言葉が私の口から出てくるとは。
 放課後、校舎裏。天使と悪魔が一人ずつ。

 ドキドキが止まらない。
 あいつの顔が見られない。
 私の顔を見せたくない。

 あいつが口を開いた。

「ごめん」
「あんたのことは好きだけど……」
「そういう目では見てなかったっていうか」
「でもこれからも友達でいましょう」

 これが私の最初の失恋。


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「ガヴ、最近サターニャと喧嘩でもしてるの?」

「別に」

 あれからあいつに話しかけるのが気まずくなった。
 前までならあいつの方から話しかけてきてたのに、それもなくなった。
 あいつも私と同じなんだろう。

 ふとあいつの方に目をやると、ラフィと談笑していた。
 ふん。なんだよ。

 これ以上は見ていられない。

「どこいくの?」
「トイレ」



 あいつはラフィが好きなのかな。
 だから私じゃダメだったのかな。
 なんか、嫌だな。
 うん、嫌だ。

 あいつが誰かを好きになって
 あいつが誰かと幸せになるのは嫌だ。

 一番お前の事が好きなのは私なんだって、知ってほしい。

 だから、決めた。



「ラフィ、放課後空いてる?」

「ガヴちゃんからお誘いなんて珍しいですね」
「空いていますよ」

「ちょっと話したいことがあるんだ」

 ヴィーネには今日は一緒に帰れないって連絡をしておいた。



「なあ、ラフィはさ」
「サターニャのことが好きなの?」

「はい、好きですよ?」

「それは友達としてだけ?」
「それとも、もっと別の……」

「そうですね」
「これは友情ではなく愛情なのかもしれません」

「そっか」
「なあラフィ」

 私は好きな相手には嘘なんてつけない。
 でも、


 ──好きでない相手になら。

「私はラフィが好きだよ」

 おもむろにラフィに覆いかぶさる。
 本気で抵抗されたらこの体格差だ、すぐに押しのけられるだろう。

「えっ」
「ガヴちゃん……?」

 でもラフィは私が本気だとは思っていない。
 そりゃそうだ、私だって本気じゃない。

「んっ……」

 ラフィに唇を重ねる。
 ラフィが私を押しのけようと手に力を込める。

「んっ、んぅ……っ」

 見よう見まねの初キス。
 ラフィの身体から力が抜けていくのを感じる。
 やり方は正しかったようだ。

「ぷはっ」

「ガヴちゃん……」

 ラフィは泣きそうに
 それでいて不安そうに頬を紅潮させている。

 次の言葉を待たずに、再びラフィと唇を重ねた。

 ラフィが私に身を委ねる。
 腰に手を回し、背中へ触れる。

「はぁ、はぁ……」

 ラフィの目には涙が浮かんでいた。

「ガヴちゃんなら私……」
「……いいですよ」

 初めて聞いたラフィのそんな言葉も私の心には一切響かなかった。

 背中に回した手を、肌をなぞるように移動する。
 ラフィの豊満な胸は私の手を包み込んだ。

 もしこれが私にあったならばあいつは私を見てくれただろうか
 そんな事を考えながら私にはない女を感じさせるその部位を揉みしだいた。

「痛っ!」
「ガヴちゃ……もっと優しく……っ」

「あぁ、ごめん」

 丁寧に、丁寧に
 ラフィを気持ちよくすることだけを考えた。
 ラフィが自分から私に身を預けるように。
 ラフィが私以外のことを考えられなくなるように。

 ラフィが、あいつのことを考えなくなるように。

「んっ……はっあぁ……っ」
「がっ、ガヴちゃ……っ、そこ、もっと……ぉっ」

「はっ……んっぁ……」

 悲しいことに、快楽は私を見逃さなかった。
 好きでもない相手との行為に意味なんてないのに。

「ガヴちゃんっ……もっもう……っ」

 ラフィが私の身体を強く引き寄せた。
 体格差のせいで私の身体はほぼ自由がなくなる。

 こんな状況でも私の頭に浮かんでいるのは
 ラフィではない、私の好きなあいつの顔だった。

「んっぁあっ!」

 ラフィの身体が痙攣する。
 すぐさま全身から力が抜け、私を拘束していた両腕がほどけた。

「なあラフィ」
「私だけを見ろよ」
「そうすれば、いつだってお前を抱いてやる」
「なあ、ラフィ」
「自分に嘘をつくなよ」
「愛してる」



「ごめんなさいサターニャさん」
「本当に、ごめんなさい」

 それからラフィはあいつに近寄らなくなった。
 あいつは寂しそうな顔をしていたけれどラフィを引き留めたりはしなかった。

 やった。
これであいつはもう一人だ。
あいつの事を考えているのは私だけだ。

 だから次こそは大丈夫。
 そう思ってあいつに言ってやったんだ。

「好きです」

 あの日と全く同じ言葉。
 それでいてあの日とは全く違う心持ちだった。

 その返事は

「ごめん」
「前も言ったけどそういう目であんたを見ることが出来ないの」

 はぁ?
 私の他にお前のことを好きでいる奴なんてもういないんだぞ。
 それなのに、なんで駄目なんだよ。
 
 どうして私はあいつの好きを手に入れられないんだ。


 まだ足りないのか。

 あいつの周りの好きを全部私が奪ってやれば
 あいつの好きは私だけのものになるんじゃないのか。

 ならばやってやろうじゃないか。
 あいつの全てを奪ってやる。
 あいつには、私だけなんだ。



 チャイムが鳴って、目が覚める。
 無視をするとしばらくして勝手に戸が開く。

「こらガヴ!」

「んー」

「こんな生活いつまで続けるの!」

「私は一生こうして生きていくんだ」

 怒りながらも支度を手伝ってくれるヴィーネは悪魔にしておくには惜しい。

「まったくもう……」
「そういえばさ」
「最近サターニャ元気ないような気がしない?」
「ラフィとも全然話してないし」
「話しかけても来ないし」
「何かあったのかな」

 口を動かしながらも支度をする手は止めない。

 そっか、ヴィーネもサターニャのことを心配するんだな。
 でもサターニャを心配する気持ちはきっと私の方が上だ。

「ヴィーネ」
「学校、行きたくない」

 本当。

「こら」

「ヴィーネ」
「今日はずっと一緒に居てくれ」

「学校でも一緒にいられるでしょ」

「そうじゃないよ」
「好きだ」

「……へ?」

「私はヴィーネと一緒になりたいんだ」

 これは嘘。

「いやでも女の子同士だし……」
「や、嫌だってわけじゃないんだけど!」

 ヴィーネはまんざらでも無さそうにそう言った。

「性別なんて関係ないよ」
「私はヴィーネが好き」
「ヴィーネは私が好きじゃないの?」

「そりゃもちろん好き、だけど……」
「ほら早く着替えて学校……行かなきゃ」

「ヴィーネ」

 ラフィの時同様、唇を重ね主導権を奪う。

「んっ……」

 唇を重ねた瞬間からヴィーネは私に身を委ねてくる。
 なんだ、他人を手に入れるなんて簡単じゃないか。
 あいつにも同じことが出来れば楽なんだけどな。

「ヴィーネは、どこ触ってほしい?」
「頬?」
「唇?」
「背中?」
「胸?」

「ぁう……」
「全部、して……」

「ああ」
「ヴィーネが望むならなんだってしてやるよ」

 学校に行かない分今日は時間が余っている。
 ゆっくり、ゆっくりヴィーネを堕としていこう。

 惚けたヴィーネとは裏腹に私の思考は冴えわたっていた。

 全身をくまなく愛す。
 もうヴィーネが私以外を考えられなくなるように。
 二度とあいつのことを考えないように。

「ガヴ……ん、ガヴっ」

 真面目なヴィーネのことだ。
 自ら慰めるなんてことはしたことがないのだろう。
 ほんの少しの快楽がヴィーネにとってはあまりにも刺激的なんだ。

「愛してるよヴィーネ」
「だから私のことも愛してくれる?」
「私のことしか考えないでくれる?」

「うん……」

「ありがとう」

 自分の身体がどれだけ汚れようと
 あいつの純潔を守れているのだと思うと誇らしさが胸に溢れた。



 教室であいつが口を開くことはなくなった。
 誰もあいつに話しかけないし、あいつも誰にも話しかけない。
 私が、あいつを守っているんだと強く実感する。

「なあサターニャ」

 意味もなく声をかける。

「なっ、何!? ガヴリール!」
「勝負しようって言うなら勝負してあげてもいいわよ!」

 どこかぎこちないのは告白のせいか
 それとも人との会話が久しいからか。

「別に用はねーよ」
「勝負もしない」
「友達に話しかけちゃいけない道理はないだろ」

「友達……」
「そうよね、友達だものね!」

 安心した様子でいつもの調子に戻る。
そんなあいつと軽く談笑を交わした。

「そういえばあの天使は最近何をしているのかしら」

「あの天使?」

「ほら、あんたの後輩の」

「ああ、タプリスのことか」
「タプリスがどうかしたのか?」

「別にどうもしないけど」
「最近見ないと思って」

 周りから人が居なくなればお前の周りには私しかいなくなる。
 そうなると思っていた

 まだ、居たのか。



「天真先輩からお誘いだなんて、緊張してしまいます!」

 その日、すぐにタプリスを家に呼んだ。
 やることは決まっている。
 でも先に聞いておくことがある。

「タプリスさ」
「サターニャのことどう思ってる?」

「悪魔です!」
「天真先輩を堕落させた張本人、私の越えるべき相手です!」

 よかった。タプリスからサターニャへの好意はない。
 それでもサターニャと関わる可能性のある奴は減らしておかなければならない。
 タプリスをサターニャの心の支えにするわけにはいかない。

「なあタプリス」

「はい、なんでしょう」

「私の事はどう思ってる?」

「ふぇっ天真先輩のことですか!?」
「そそそそれはもちろん尊敬していますし」

「じゃあ好き?」

「すすすすすすす好きっ!?」
「うぅ、はい……」
「大好きです!」

 顔を赤くして、手足をじたばたさせて
 見ていて飽きない奴だ。

「そっか、よかった」

「それって……」

「私もタプリスのことが好きってことさ」

「はぅあっ!?」

 タプリスは鼻血を出して倒れた。



「う、うーん……」

「目、覚めたか」

「天真先輩……?」
「ってはぅあっ!?」

 放置するわけにもいかなかったのでタプリスが起きるまで寝かせておいた。
 少しでもタプリスをその気にさせるため膝枕をしておいた。
 足がしびれて仕方がない。

「タプリス」
「お前の気持ちを聞きたいんだ」

「天真先輩……本気、ですよね?」

「当たり前だろ」
「私は嘘なんてつかないよ」 ──好きな相手には。
「私が好きなのはお前なんだよ」 ──嘘。

「天真先輩……っ」
「嬉しい、嬉しいです!」
「こんな日がくるのをどれだけ待ち望んだことか……」

 嘘偽りないその言葉に胸が痛まないと言ったら嘘になる。
 でも私にはあいつのために他の全てを失う覚悟があるんだ。

「タプリス、いいよな?」

 タプリスに覆いかぶさる。

「ひゃ、ひゃい!」
「その、あまり満足させられないかもしれませんが……」
「よろしくお願いします!」



 あれから一年、あいつに近づく奴は私が引きはがした。
 結果としてあいつは孤立した。

「ねえガヴちゃん」
「今日もお邪魔してよろしいでしょうか」

「ねえガヴリール」
「今ちょっといいかな」

「あの、天真先輩」
「また愛していただけると……嬉しいです」

 四人との関係は今もまだ続いている。
 私に繋ぎ止めておかないといつサターニャの方へ行くかわからない。

 私は、そんな四人に適当に返事をして校舎裏へ向かう。



「やっと気づいたの」
「やっぱり私にはあんたしかいないって」
「断っておいて、おこがましいわよね」

「そんなことない」
「嬉しいよ」
「私も、サターニャのことが大好きだから」

「そう言ってくれると、凄くうれしい」
「こんなこと言うのもあれなんだけど」
「もう私にはガヴリールしか居ないみたい」

4人?
ラフィエルヴィーネタプリスとあと誰だ?

「そっか」
「私にももうサターニャしか居ないよ」

 あいつは、
 サターニャは私に全てを奪われた。
 そしてサターニャは全て失った。

 私はサターニャから全てを奪った。
 そして私はサターニャを手に入れた。

 私の最後の言葉を思い出す。
 また1つ、大切なものを失ったことに気づいた。


>>28
まち子をカットしたことで生じたミスです
正しくは3人

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